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特許7518827圧電材料、圧電部材、圧電素子及び圧力センサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】圧電材料、圧電部材、圧電素子及び圧力センサ
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/853 20230101AFI20240710BHJP
   H10N 30/87 20230101ALI20240710BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20240710BHJP
   H10N 30/06 20230101ALI20240710BHJP
   H10N 30/045 20230101ALI20240710BHJP
   G01L 23/22 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
H10N30/853
H10N30/87
H10N30/30
H10N30/06
H10N30/045
G01L23/22
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021526940
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2020024226
(87)【国際公開番号】W WO2020262256
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2019121445
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】502210068
【氏名又は名称】株式会社コイケ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】武田 博明
(72)【発明者】
【氏名】鶴見 敬章
(72)【発明者】
【氏名】日下部 展
(72)【発明者】
【氏名】臼井 晴紀
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-183550(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0327340(US,A1)
【文献】国際公開第2006/077756(WO,A1)
【文献】特開2008-266507(JP,A)
【文献】大島拓人,(Ca,Ae2+)2Al2SiO7(Ae=Sr,Ba)の単結晶育成と電気的・機械的特性の評価,第37回エレクトロセラミックス研究討論会講演予稿集,Vo.37,2017年10月12日,p.76-77
【文献】日下部展,Sr置換オケルマナイト単結晶の育成と電気的・機械的特性評価,第39回電子材料研究討論会講演予稿集,2019年11月28日,Vol.39,p.142
【文献】臼井春紀,メリライト型単結晶における圧電性の発現メカニズム,日本セラミックス協会第31回秋季シンポジウム講演予稿集(CD-ROM),2018年08月27日,Vol.31,p.ROMBUNNO.2C02
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/853
H10N 30/87
H10N 30/30
H10N 30/06
H10N 30/045
G01L 23/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ca(2-x)SrMgSi(0.1≦x≦0.6)で表されるSr置換オケルマナイトからなる圧電材料。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電材料を主成分として含有する圧電部材。
【請求項3】
前記Sr置換オケルマナイトの正方晶系の結晶の単位格子の二つのa軸をX軸及びY軸とし、c軸をZ軸としたとき、(ZXt)θ(30°≦θ≦60°)の方位でカットされたものである、請求項2に記載の圧電部材。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の圧電部材と、
前記圧電部材の応力作用面と直行し、互いに対向する面に設けられた少なくとも一対の電極と、を有することを特徴とする圧電素子。
【請求項5】
ダイアフラムと、
請求項4に記載の圧電素子と、を有し、
前記圧電素子は、前記ダイアフラムを介して作用する圧力に起因する応力が前記圧電部材の応力作用面に伝達され、前記応力に起因して前記圧電部材に発生する電荷が前記電極を介して検知可能に設けられた、圧力センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電材料、圧電部材、圧電素子及び圧力センサに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子を用いたセンサやアクチュエータが様々な用途に用いられている。そして、数百℃以上の高温環境においても使用可能な圧電材料は、例えば、エンジンの燃焼圧センサ、火力発電所の高温プラントを常時監視する超音波センサ等の応用が期待されている。
【0003】
高温環境で使用可能な圧電材料に求められる特性としては、(1)相転移温度が高いこと、(2)高温でも高い電気抵抗率をもつこと、(3)圧電特性が高い温度安定性をもつこと、(4)焦電特性が小さいこと、(5)圧縮強さが高いこと、が好ましいものの、この5つの条件を満たす材料はまだ見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5966683号
【文献】特開2017-183550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
メリライト型結晶の圧電体としてゲーレナイト(CaAlSiO)が提案されてきたが(特許文献1参照)、この結晶は燃焼圧センサ材料に求められる耐高温性、焦電不活性、高い絶縁性についての要求を満たしているものの、圧電定数d14が7.0pC/Nで要求を満たすカット方位で圧縮強度が低く、高い圧縮強度を示すカット方位での圧電定数d36が1.0pC/Nと低いことが課題だった。また、メリライト型結晶の圧電体としてオケルマナイト(CaMgSi)も提案されているものの(特許文献2参照)、オケルマナイトには、80℃付近での相転移してしまうという課題があった。
【0006】
本発明の一態様は、高温環境で使用可能な圧電材料、圧電部材、圧電素子及び圧力センサを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ゲーレン石(CaAlSiO)の課題であった圧縮強度を改善するために、ゲーレン石と同じメリライト型結晶属(ABT)であるオケルマナイト(CaMgSi)に着目し、オケルマナイトの課題(80℃付近での相転移)を克服した新規の圧電単結晶を見出した。
【0008】
本発明に係る圧電材料は、Ca(2-x)SrMgSi(0.1≦x≦0.6)で表されるSr置換オケルマナイトからなる圧電材料である。上記構成によれば、オケルマナイトの相転移を防止することができ、上述した5つの条件を満たす圧電材料となる。
【0009】
本発明に係る圧電部材は、上述した圧電材料を主成分として含有する圧電部材である。
上記構成によれば、圧電部材は、上述した圧電材料を主成分として含有するため、前記した圧電材料の圧電特性によって支配されるものとなる。従って、この圧電部材は、室温から高温環境まで温度安定性に優れたものとなる。
なお、圧電部材は、上述した圧電材料以外の材料を副成分として含有してもよいし、製造上不可避の不純物を含有していてもよい。
【0010】
好ましくは、Sr置換オケルマナイトの正方晶系の結晶の単位格子の二つのa軸をX軸及びY軸とし、c軸をZ軸としたとき、(ZXt)θ(30°≦θ≦60°)の方位でカットされたものである。上記構成によれば、圧電部材は、高い圧電効果を利用することができる。
【0011】
本発明に係る圧電素子は、上述した圧電部材と、前記圧電部材の応力作用面と直行し、互いに対向する面に設けられた少なくとも一対の電極と、を有する。上記構成によれば、圧電素子は、圧電横効果によって生じた電荷を効率的に検知することができる。
【0012】
本発明に係る圧力センサは、ダイアフラムと、上述した圧電素子と、を有する。上記構成によれば、圧力センサは、前記ダイアフラムを介して作用する圧力に起因する応力が前記圧電部材の応力作用面に伝達され、前記応力に起因して前記圧電部材に発生する電荷を検知することで、圧力の測定を行う。
【発明の効果】
【0013】
本発明の圧電材料によれば、(1)相転移温度が高いこと、(2)高温でも高い電気抵抗率をもつこと、(3)圧電特性が高い温度安定性をもつこと、(4)焦電特性が小さいこと、(5)圧縮強さが高いこと、の5つの条件を満たす材料を提供できる。よって、この圧電材料を用いた、圧電部材、圧電素子及び圧力センサは、高温環境でも使用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る圧電素子の構成を示す模式図である。
図2】本実施形態に係る圧電素子に用いる圧電部材のカット方位を説明するための図である。
図3】本実施形態に係る圧電素子の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図4】本実施形態に係る圧電素子に用いられる圧電材料の結晶育成装置の構成を示す模式図である。
図5】本実施形態に係る圧力センサの構成を示す模式図であり、(a)は縦断面図、(b)は(a)のB-B線における横断面図、(c)は(a)のC-C線における横断面図である。
図6】各組成の試料についてDSC測定結果を示す図である。
図7】Ca(2-x)SrMgSi(x=0.10)の結晶の外観図である。
図8】Ca(2-x)SrMgSi(x=0.30)の結晶の外観図である。
図9】Ca(2-x)SrMgSi(x=0.10)のc軸ラウエ斑点を示す図である。
図10】Ca(2-x)SrMgSi(x=0.30)のa軸ラウエ斑点を示す図である。
図11】本実施例の圧電素子の試料について測定した圧電定数の温度依存性を示す図である。
図12】本実施例及び比較例の圧電素子の試料について測定した圧電定数の温度依存性を示す図である。
図13】本実施例及び比較例の圧電素子の試料について測定した電気抵抗率の温度依存性を示すグラフである。
図14】本実施例の圧電素子の試料の圧縮破壊強さ試験結果のワイブルプロットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について適宜図面を参照して説明する。
【0016】
[圧電材料]
本実施形態に係る圧電材料は、Ca(2-x)SrMgSi(0.1≦x≦0.6)で表される圧電材料である。すなわち、本実施形態に係る圧電材料は、オケルマナイト(CaMgSi)のCaの一部をSrで置換したSr置換オケルマナイトからなるものである。
【0017】
オケルマナイト(CaMgSi)は、d36 = 4.3と高い圧電定数をもつ一方で、オケルマナイトには80℃付近で不整合構造の発生による相転移が存在する。高温相でも圧電定数は消失しないが、この相転移温度付近では圧電定数が大きく変化してしまうため、センサ用途に使用するうえで課題となる。本発明者らは、AサイトのCaをSrに置換していくことで相転移温度を低下させ、動作温度域付近での相転移の発生を抑制することにより、前述した5つの条件(1)~(5)を満たし、有力な燃焼圧センサ用材料を見出した。
【0018】
具体的には、本実施形態に係る圧電材料は、以下の効果を奏する。
1.水晶と同程度の圧電定数を有する。
2.相転移、焦電性を示さない。
3.圧縮強度は1GPa程度と高い。
4.圧電定数の温度変化はランガテイト並に少ない。
5.チョクラルスキー法により結晶育成が可能である。
6.希少元素(ランタノイド、遷移元素)は未使用である。
【0019】
このように、本実施形態に係る圧電材料は、高い圧電定数をもち、かつ、高温でも相転移を示さず圧電定数(圧電特性)の変化量が小さく安定している。すなわち、本実施形態に係る圧電材料を用いることにより、高温環境でも使用可能な圧電素子を提供することができる。
【0020】
[圧電素子の構成]
次に、図1及び図2を参照して、本発明の第1実施形態に係る圧電素子の構成について説明する。図1に示した第1実施形態に係る圧電素子1は、圧電部材2と、電極3、4とから構成される。
【0021】
圧電素子1は、所定の結晶方位で切出された(カットされた)直方体形状の圧電部材2の互いに対向する2面に、一対の電極3及び電極4が設けられている。そして、圧電部材2に応力が作用して変形すると、圧電効果(ピエゾ効果)によって、応力、すなわち変形量に応じて圧電部材2の表面に電荷が発生する。そして、この電荷により電極3及び電極4間に電圧Eが生じる。また、電極3及び電極4間に電圧Eを印加すると、逆圧電効果(逆ピエゾ効果)によって、印加された電圧に応じて圧電部材2が変形する。
【0022】
この圧電素子1は、圧電効果を利用することで、圧力センサや超音波センサなどの各種センサに適用することができる。また、圧電素子1は、逆圧電効果を利用することで、振動子やアクチュエータなどに適用することもできる。
【0023】
また、圧電素子1を、センサとして用いる場合は、圧電部材2の表面に発生した電荷を電極3及び電極4を介して検知する。なお、ここで「電荷を検知する」とは、圧電部材2に応力が作用することで発生した電荷に起因する物理量を検出(測定)することをいうものとする。例えば、発生した電荷の電気量を検出(測定)することや、発生した電荷に基づいて電極3と電極4との間に生じた電圧を検出(測定)することである。
【0024】
また、本実施形態に係る圧電材料を圧電部材2として用いる場合は、圧電横効果(d31モード)を利用した圧電素子1を構成する。圧電横効果とは、応力が作用される方向と、応力の作用によって発生する電荷の分極方向とが直交する圧電効果である。本実施形態では、直方体形状の圧電部材2の長手方向の端面(図1において、前面又は背面)が応力作用面である。従って、応力作用方向である応力作用面の法線と直交する方向(図1において、上下方向)の圧電部材2の表面に電荷が分極して発生する。また、電極3,4は、電荷が発生する面に設けられている。
【0025】
なお、圧電横効果では、応力作用方向と直交する他の方向(図1において、左右方向)の圧電部材2の表面にも電荷が分極して発生する。このため、上下面に設けた電極3,4に代えて、又はこれに加えて、圧電部材2の側面(図1において、左右の側面)に、対向する一対の電極を設けるようにしてもよい。
【0026】
(圧電部材)
圧電部材2は、本実施形態に係る圧電材料の結晶バルク体から、所定の結晶方位でカットされた直方体形状(板状)の結晶片である。具体的には、Sr置換オケルマナイトの正方晶系の結晶の単位格子の二つのa軸をX軸及びY軸とし、c軸をZ軸としたとき、(ZXt)θ(30°≦θ≦60°)の方位でカットされたものである、
【0027】
図2は、圧電性及び劈開性を有する正方晶系結晶の一例であり、劈開性及び圧電性を有する正方晶系結晶を(ZXt)45°の方位でカットし、略直方体の形状とした圧電部材2を示す。
【0028】
正方晶系結晶の単位格子の2つのa軸をX軸及びY軸とし、c軸をZ軸とする。このとき、角度θについて(ZXt)θの方位でカットするとは、Z軸を法線とする面(Z面)と、X軸をZ軸回りにθ回転した軸(X軸)を法線とする面(X面)と、Y軸をZ軸回りにθ回転した軸(Y軸)を法線とする面(Y面)で結晶を切り出すことを言う。図2に示す圧電部材2は、θを45°とした場合の方位、すなわち、(ZXt)45°の方位でカットされている。
【0029】
一般に、劈開性及び圧電性を有する正方晶系結晶を(ZXt)θの方位でカットして成る圧電部材では、X面(X軸をZ軸回りに45°回転した軸を法線とする面)に応力が作用すると、応力の大きさに応じた量の電荷がZ面(Z軸を法線とする面)に発生する。このとき、X面に作用する応力に対するZ面に発生する電荷は、圧電定数d36及び{sin(2θ)}/2に比例する。よって、圧電部材2では、発生電荷量を最大とするため回転角度であるθを45°としている。しかしながら、θは45°に限定されることはなく、X面に作用する応力に対するZ面に発生する電荷について、30°~60°の回転角においても、θを45°とした場合と比較して85%以上の電荷量が確保できる。したがって、劈開性及び圧電性を有する正方晶系結晶を(ZXt)θの方位でカットした圧電部材のうち、θを30°~60°の範囲としたものは、圧力センサ用の圧電素子として良好に使用できる。なお、圧電定数d36は、圧電部材2に用いる正方晶系結晶に固有の値である。
【0030】
劈開性を有する正方晶系結晶においては、正方晶系結晶の単位格子のZ軸(c軸)を法線とする面に平行な任意の面が劈開面となる。したがって、圧電部材2では、Z軸を法線とする面と平行な任意の断面が劈開面となる。
【0031】
なお、前記したように圧電横効果では、応力印加軸の方向から応力が印加されると、応力印加軸と直交する他の方向であるYz面(Y軸をZ軸回りに45°回転した軸を法線とする面)にも分極した電荷が発生する。従って、この軸を法線とする面に電極を設けて圧電素子を構成することもできる。
【0032】
また、他の結晶方位のカットで切出した結晶片を圧電部材2として用いるようにしてもよい。また、圧電部材2は、直方体形状に限定されず、用途に応じて、円板状、棒状など種々の形状であってもよい。
【0033】
(電極)
電極3,4は、それぞれ、直方体形状の圧電部材2の電荷発生面に設けられる。好ましくは、電極3,4は、圧電部材2の電荷発生面である2つのZ面にそれぞれ設けられる。電極3,4としては、圧電素子1が使用される高温環境よりも高い融点を有する金属材料を用いることができる。特に800℃以上の高温環境でも使用可能な材料としては、例えば、Au、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag?Pd合金を挙げることができる。また、比較的低温で使用する場合は、Agペーストを用いることもできる。
電極3,4は、前記した材料を用いて、圧電部材2のそれぞれ表面及び裏面に、塗布法、蒸着法、メッキ法、スパッタ法などの方法で形成することができる。
【0034】
[圧電素子の製造方法]
次に、図3を参照(適宜図1及び図2参照)して、圧電素子1の製造方法について説明する。
図3に示すように、圧電素子1の製造方法は、圧電材料の結晶バルク体を作製する結晶育成工程S10と、結晶バルク体から圧電部材2を所定の結晶方位で切出す結晶切出工程S11と、切出した圧電部材2の電荷発生面となる所定の面に電極3,4を形成する電極形成工程S12とを含み、この順で行われる。
【0035】
(結晶育成工程)
まず、結晶育成工程S10において、圧電材料である結晶バルク体を作製する。結晶バルク体は、チョクラルスキー法によって棒状の単結晶として作製することができる。チョクラルスキー法は、半導体材料の作製方法として利用されており、本発明に用いられる結晶バルク体も同様の結晶育成装置を用いて作製することができる。
【0036】
ここで、図4を参照して、チョクラルスキー法による結晶育成装置の一例について説明する。図4に示すように、結晶育成装置10は、ルツボ11と、ルツボ12と、アルミナバブル13と、石英管14と、上蓋15と、下蓋16と、結晶引き上げ棒17と、ロードセル18と、ガス導入部19と、排気口20と、加熱部21と、を備えて構成されている。
【0037】
ルツボ11は、原材料を投入し、加熱部21によって加熱されて熔融した原材料の融液23を溜める容器である。ルツボ11は、例えば、融点の高い金属であるIr(イリジウム)製(融点は約2460℃)のものを用いる。
【0038】
ルツボ12は、ルツボ11及び結晶引き上げ領域を囲むように構成され、良好な保温性が得られるように一部が2重構造となっている。本実施形態では、ルツボ12は、ジルコニア(ZrO)製のものを用いる。
また、ルツボ11及びルツボ12の隙間には、アルミナバブル13が充填されている。
アルミナバブル13は、中空の球形アルミナ(Al)粒子である。アルミナバブル13を、ルツボ11とルツボ12の隙間に充填することで、Ir製のルツボ11の変形を防止するとともに、ルツボ11近傍の保温性を高めることができる。
【0039】
石英管14は、反応部であるルツボ11,12の外側を覆い、外気を遮断して反応雰囲気を保持するための容器である。石英管14の上下は、上蓋15及び下蓋16で封止されている。
【0040】
上蓋15及び下蓋16は、石英管14の、それぞれ上端及び下端に設けられ、石英管14とともに、反応雰囲気を保持するためのものである。
上蓋15には、中央に結晶引き上げ棒17を、結晶引き上げ棒17の中心軸周りに回転自在に、かつ、軸方向に移動可能に保持する軸受けを有している。また、上蓋15の一部には、反応雰囲気を制御するためのガス導入部19が設けられ、Ar(アルゴン)ガスや窒素ガスなどを供給するように構成されている。
また、下蓋16には、排気口20が設けられている。
【0041】
結晶引き上げ棒17は、先端(図では下端)に種結晶22を把持し、ルツボ11に保持されている原材料の融液23から結晶を引き上げるためのものである。結晶引き上げ棒17の上部はロードセル18に把持され、不図示のモータなどの駆動手段によって、中心軸周りに回転、及び上下方向に移動できるように構成されている。
【0042】
ロードセル18は、結晶引き上げ棒17の上部を把持し、結晶引き上げ棒17及びその下端に成長する結晶の重量を測定する荷重計である。ロードセル18によって成長した結晶の重量が所定の重量に達したところで、結晶成長を停止するように結晶育成装置10が制御される。
【0043】
ガス導入部19は、上蓋15に設けられ、反応雰囲気を制御するためのガスを石英管14の内部に導入する弁などのガスの導入制御手段である。
なお、反応雰囲気として導入されるガスとしては、不活性ないし反応性の低いArガスや窒素ガスを用いることができる。また、作製する結晶に酸素欠陥が発生するのを抑制するために、前記したガスに少量の酸素ガスを混ぜて石英管14内部に導入するようにしてもよい。
また、下蓋16には、ガス導入部か19から導入されるガス流の出口となる排気口20が、設けられている。
【0044】
加熱部21は、ルツボ11に投入された原材料を熔融させるための加熱手段である。本実施形態では、加熱部21としてRF(高周波)コイルが、石英管14のルツボ11が配置された領域の外側を取り囲むように設けられている。RFコイルに電力を供給することにより、RFコイルの内部に磁場が生じ、この磁場によって金属であるルツボ11に誘導電流が生じてルツボ11が高温に加熱されるように構成されている。これによって、ルツボ11内に保持された原材料を熔融させる。
なお、加熱部21は、高周波誘導加熱する手段に限定されず、ヒータなど他の加熱手段を用いてもよい。
【0045】
種結晶22は、融液23から結晶を引き上げる際に、結晶成長の核となるものである。
種結晶22は、成長させる結晶の単結晶であることが好ましいが、成長させる結晶と同じ組成の多結晶体を用いることもできる。また、Pt(白金)棒やIr棒などで代用することもできる。
種結晶22は、角柱形状とすることができるが、これに限定されるものではない。種結晶22の大きさは、融液23を保持するルツボ11の大きさや成長させる結晶の大きさによって適宜決めることができる。例えば、ルツボ11の大きさが、内径50mm、高さ50mmの円筒形の場合には、種結晶22の断面が3mm×3mm~5mm×5mm、長さが20~50mmの角柱形状とすることができる。
【0046】
次に、圧電材料の結晶バルク体を作製する結晶育成工程S10について説明する。結晶育成工程S10は、図4に示した結晶育成装置10を用いて行うことができる。
【0047】
まず、原材料として、粉末状の炭酸カルシウム(CaCO)等のCaを含む化合物、炭酸ストロンチウム(SrCO)等のSrを含む化合物、酸化マグネシウム(MgO)等のMgを含む化合物、及び酸化ケイ素(SiO)等のSiを含む化合物を、Ca(2-x)SrMgSi(0.1≦x≦0.6)の組成となるように、すなわちモル比で2-x:x:1:2となるように秤量して混合する。
【0048】
次に、前記した原材料の混合粉末を、ルツボ11に入れ、結晶育成装置10の中に設置する。そして、Arガス又は窒素ガスをガス導入部19から導入し、反応雰囲気を整える。このとき、少量の酸素ガスを混ぜてガス導入部19から導入するようにしてもよい。
【0049】
また、結晶引き上げ棒17の先端には、種結晶22を取り付けておく。
なお、種結晶22は、前記したように、本実施形態に係る圧電材料の単結晶が好ましいが、同じ組成の多結晶体でもよく、Pt棒やIr棒などを用いてもよい。
【0050】
次に、加熱部21のRFコイルに不図示の電源から電力を供給し、ルツボ11を高周波誘導加熱して、ルツボ11内の原材料を熔融させる。
次に、結晶引き上げ棒17を降下させ、種結晶22を原材料の融液23中に浸漬させる。そして、結晶引き上げ棒17を、所定の方向に所定の回転速度でゆっくりと回転させながら、所定の速度で上方にゆっくりと引き上げる。なお、結晶引き上げ棒17の回転速度及び引き上げ速度は、成長させる結晶の大きさに応じて適宜に設定する。
以上の操作により、本実施形態に係る圧電材料の棒状の単結晶バルク体が作製される。
【0051】
(結晶切出工程)
次に、結晶切出工程S11において、結晶育成工程S10で作製した結晶バルク体から、所定の結晶方位のカット、例えば、図2にIIで示した(ZXt)45°カットの結晶片を圧電部材2として切出す。圧電材料の切出しは、半導体ウエハの切出しに用いられるワイヤソー、ブレードソーなどを用いて行うことができる。
また、必要に応じて、切出した圧電部材2の表面を鏡面研磨するようにしてもよい。
【0052】
(電極形成工程)
次に、電極形成工程S12において、結晶切出工程S11で切出した圧電部材2の表面に電極3を、裏面に電極4を形成する。
圧電部材2への電極3,4は、粉末状の金属材料のペーストを形成面に塗布することで形成することができる。塗布後に更に焼付け処理を施すようにしてもよい。また、用途に応じて、蒸着法、メッキ法、スパッタ法などを用いて電極3,4を形成してもよい。
以上の工程により、圧電素子1が作製される。
【0053】
[圧力センサの構成]
次に、図5を参照して、本実施形態に係る圧電素子を利用した圧力センサの一例について説明する。
圧力センサ30は、図5(a)に示すように、ケース材31と、ダイアフラム32と、絶縁スリーブ33と、台座34と、圧電素子1と、アルミナ板35と、封止材36と、固定ネジ37と、電線38,39と、から構成されている。
本実施形態に係る圧力センサ30は、例えば、エンジンの燃焼室圧を測定するために燃焼室に直接取り付けられる。すなわち、圧力センサ30は、高温環境で使用可能なセンサである。そのため、圧力センサ30を構成する各部材は、数百℃以上の耐熱性を有する材料を用いて形成されている。
【0054】
圧力センサ30は、ダイアフラム32に加えられた圧力により生じた応力を、台座34を介して圧電素子1の圧電部材2に伝達し、圧電部材2に伝達された応力の大きさに応じて圧電素子1の電極3,4が設けられた電荷発生面に発生する電荷を、電線38,39に接続される電気量測定器や電圧測定器などの電荷検知手段(不図示)によって検知することで、圧力を測定するものである。
【0055】
本実施形態では、圧電素子1は、圧電横効果を利用して圧電部材7に加えられた応力(圧力)を電荷量に変換する。本実施形態に係る圧力センサ30は、この圧電素子1の電極3,4を介して検知した電荷量に基づいて、ダイアフラム32に加えられた圧力を測定するものである。
【0056】
ケース材31は、ステンレス製の円筒形のケースである。ケース材31の下端には、ダイアフラム32が設けられている。ダイアフラム32は、ステンレス製の円板状の部材であり、下面が測定対象の圧力を受ける受圧面である。ダイアフラム32の上面側にはガラス製の台座34を介して、圧電素子1が設けられている。
また、圧電素子1及び台座34と、ケース材31の内周面との間には、アルミナ製の絶縁スリーブ33が設けられている。
【0057】
本実施形態における圧電素子1は、図1に示した第1実施形態に係る圧電素子1を用いるものである。また、圧電素子1は、台座34の上面に設けられ、ダイアフラム32が受圧面に受けた圧力により生じた応力が、台座34を介して圧電部材2の応力作用面に伝達されるように構成されている。
【0058】
また、圧電素子1は、圧電横効果を利用するために、圧電部材2の側面において、電極3,4が、圧電部材2が受ける応力作用方向と直交する方向である横方向、又は横方向及び紙面に垂直方向に対向して設けられている。
なお、圧電素子1の形状は、図1に示したように、角柱形状でもよく、ケース材31の形状に合わせて、円柱形状としてもよい。また、複数の板状の圧電素子を用い、各圧電素子の同極性の電極を、対応する極性の電線38,39と電気的に接続するように構成してもよい。
【0059】
また、圧電素子1の電極3及び電極4は、それぞれ電線38及び電線39の一端と電気的に接続されている。電線38,39は、高温環境で使用可能な耐熱性を有するセラミックフェルトで被覆された電線が好ましい。また、電線38,39は、図5(a)、図5(b)及び図5(c)に示すように、アルミナ板35及び封止材36に設けられた貫通孔を貫通して、他端が封止材36の上面から露出しており、外部の電荷検知手段(不図示)に接続される。
【0060】
圧電素子1の上面側には、絶縁部材であるアルミナ板35が設けられ、更にその上部にステンレス製の封止材36が設けられている。また、ケース材31は、図6(a)に「白抜きの×印」で示した箇所で、ダイアフラム32及び封止材36と接合されている。また、ダイアフラム32と台座34の間も、中央部で接合されている。
【0061】
また、平面視で封止材36の中央部には固定ネジ37が設けられ、封止材36を貫通し、先端がアルミナ板35の厚さ方向の中ほどまでねじ込まれている。この固定ネジ37によって、ケース材31の内部に配置される各部材の位置が固定される。固定ネジ37は、例えば、Fe?Ni系合金製のものを用いることができる。
【0062】
なお、ケース材31は、円筒形に限定されず、四角柱形、多角柱形などにすることもできる。また、圧力センサ30は、例えば、ケース材31の先端部の外周にネジ山を設け、点火プラグの装着と同様の方法で、エンジン燃焼室に連通する所定の取付孔にねじ込むことで装着するように構成することもできる。
【0063】
[圧力センサの動作]
次に、引き続き図5を参照して、圧力センサ30の動作について説明する。
圧力センサ30は、エンジンの燃焼室等の圧力をダイアフラム32の下面である受圧面で受ける。ダイアフラム32が受けた圧力により生じた応力は、台座34を介して、圧電素子1の圧電部材2に伝達される。圧電部材2は、伝達された応力により変形し、圧電横効果により変形量に応じた電荷を発生する。圧電部材2で発生した正負の電荷は、電極3,4及び電線38,39を介して接続された電荷検知手段(不図示)により、発生した電荷に起因する電圧や電気量などの物理量が測定される。ダイアフラム32が受けた圧力は、測定された電圧や電気量などに基づいて求めることができる。
【実施例
【0064】
DSCによる合成組成決定
まず、各組成の試料について相転移の存在をDSC測定により調査した。
Ca(2-x)SrMgSi(x=0,0.05,0.10,0.30,0.60)の組成について粉末試料の作製を行った。原料には純度99.99%のCaCO、SrCO、MgO、SiOを用いた。
原料の秤量を行い、瑪瑙乳鉢で湿式混合し白金ルツボで1250℃にて昇温速度15℃/min、保持時間4hの条件で仮焼を行った。仮焼粉を瑪瑙乳鉢で湿式粉砕し、棒状に100MPaのCIP成形を行った。白金板で1350℃にて昇温速度15℃/min、保持時間4hの条件で焼成を行い、焼結体を低速ダイヤモンドカッターでさらに細い棒状に切り出し、COレーザーの集光による加熱で一部を溶融再結晶させた。再結晶部を瑪瑙乳鉢で湿式粉砕し、粉末XRDにより結晶相を確認したところ目的の結晶構造が得られており、異相は確認されなかった。そのため、この粉末を用いてDSC測定を行うこととした。
【0065】
作製した試料Ca(2-x)SrMgSi(x=0,0.05,0.10,0.30,0.60)について、各試料は粉砕後120℃の乾燥炉で十分に乾燥させてから測定を行った。標準試料はAl粉末を用い、それぞれアルミニウム製の容器に入れて密封した状態で測定した。測定は2回に分けて行い、1回目は各試料の傾向をつかむため室温~400℃の範囲を昇温速度20℃/minで測定し、2回目は1回目の結果をもとに候補となった試料について500℃~-60℃の範囲で液化窒素を用い20℃/minで降温し測定した。2回目でのDSC曲線を図6に示す。
この結果から、xが0.10以上で相転移のピークの鈍化が起きることが見い出され、xが0.30以上で相転移のピークが見られないことが見い出された。この結果をもとに単結晶育成を行う組成をx=0.10,0.30に決定した。
【0066】
Czochralski(Cz)法による単結晶育成
Ca(2-x)SrMgSi(x=0.10,0.30)の組成で原料調製を行った。原料にはDSC試料と同じ純度99.99%のCaCO,SrCO,MgO,SiOを用いた。原料の秤量を行い、白金板で1250℃にて昇温速度15℃/min,保持時間4h仮焼を行った。仮焼粉をボールミルで粉砕し、φ44のペレット状に100MPaで一軸加圧成形を行った。白金板で1350℃にて昇温速度15℃/min,保持時間4h焼成を行い、単結晶育成用のIrルツボに充填した。単結晶育成装置の加熱部位を利用し、Ar雰囲気下でIrルツボ内の原料を融解した。完全に融解したことを確認してから徐冷し、焼結体を追加した。これを繰り返し、Irルツボ容積の8割程度のメルトを用意した。
【0067】
作製したメルトを完全に融解した状態で1時間保持し、液面に気泡が存在しないことを目視で確認してから15rpmで回転させた種結晶を液面に接触させた。x=0.10の単結晶育成では種結晶となるSr置換オケルマナイトの単結晶を用意できなかったため、同組成の多結晶体を用いた。接触後種結晶が溶けてしまった場合は高周波発振器の出力を下げ、反対に大量のメルトが晶出した場合は出力を上げることで安定した成長を見込める出力を確認した。育成初期段階では育成結晶の太さが5mm程度となるように出力を調整し、引き上げ速度1.5mm/hで5時間程度育成した。
次に、軸の引き上げ速度を1mm/hとしてロードセルの値から推定した単結晶の直径が2mm/hで太くなるように高周波発振器の出力を調整し、直径が20mm程度となった以降は直径が一定になるように育成を行った。この直胴部の育成では直径が一定になるよう30分ごとに出力の調整を行った。
直胴部の育成はロードセルの値が不自然な変化を示すまで続け、育成終了時は引き上げ速度を1.5 mm/hに変更したうえで育成結晶の直径変化が-3mm/hとなるように出力を調整して結晶をメルトから切り離した。
【0068】
図7に育成した結晶Ca(2-x)SrMgSi(x=0.10)の外観を示す。
Ca(2-x)SrMgSi(x=0.10)については無色透明な結晶を育成できた。
x=0.10の単結晶からa軸方向に長い棒を切り出し、x=0.30の単結晶育成用種結晶とした。この組成においても同様に単結晶育成を行った。
図8に育成した結晶Ca(2-x)SrMgSi(x=0.30)の外観を示す。
Ca(2-x)SrMgSi(x=0.30)についても無色透明の結晶を育成できた。
【0069】
背面ラウエ法による結晶軸の決定と切り出し
Ca(2-x)SrMgSi(x=0.10)に関しては単結晶同士の境界が平面で構成されていたため境界面に沿ってダイヤモンドカッターを用いて切り出しを行った。切り出した単結晶をゴニオメータに固定して背面反射ラウエX線装置(Rigaku,Geiger flex)を用いて切り出した面のラウエ写真を撮影した。X線の露光時間を1分程度として、X線発生のための管電圧と管電流の設定値をそれぞれ40kV,25 mAとした。ターゲットには強度の高い連続X線が得られるようにタングステンを用いた。図9に撮影されたラウエ斑点を示す。境界面に平行ないずれの切り出し面においても斑点は4回対称性を示したことから境界面はc面であることがわかった。
Ca(2-x)SrMgSi(x=0.30)ではa軸育成した結晶の側面を4分割するような向きに平面が確認されたため、このうち1つの面に対してラウエ写真を撮影した。図10に撮影されたラウエ斑点を示す。斑点は2回対称性を示したことから当該面がa面であることがわかった。
なお、これにより、育成した結晶Ca(2-x)SrMgSi(x=0.10,0.30)は、いずれも単結晶であることも確認されたことになる。
【0070】
各試料の方位決定後、ワイヤソーによりc軸に垂直な厚さ1mmのZカット板状試料を切り出した。さらにこの試料から(ZXt)45°の圧電測定用板状試料(1×3×12mm)を圧電部材として切り出した。切り出し時に発生したチッピングを#2000の耐水研磨紙による研磨で取り除き、Auをターゲットとしたスパッタを5mA10minの条件で行い、切出した圧電部材の表面及び裏面に電極を形成した。
以上の手順により、圧電素子を作製した。
【0071】
次に、作製した圧電素子の試料について、圧電素子の特性値として室温での圧電定数d’31を測定した。圧電定数d’31の測定では、インピーダンス・アナライザ(Agilent,4294A)を用いて、共振・反共振周波数を測定し、測定された周波数をもとに圧電定数d’31を決定した。表1に得られた圧電定数を示す。
【0072】
【表1】
【0073】
この結果、Ca(2-x)SrMgSi(x=0.10,0.30)では、水晶の圧電定数d12(=2.3pCN)と同程度の値が得られ、圧電素子として十分な圧電定数であることが確認された。
【0074】
次に、試料を電気炉に入れた状態でインピーダンス測定を行い、室温から400℃の範囲で圧電定数を測定した。図11に実施例の圧電素子の試料について測定した圧電定数の温度依存性を示す。なお、図11には、Chuanying Shenら(2015)J.Appl.Phys.117,064106に示されたCaMgSiの温度依存性を併記した。
【0075】
Ca(2-x)SrMgSi(x=0.10)(図11においてCSMS010と表記)は、オケルマナイトと同様に低温側でd’31の上昇がみられ、相転移の影響が残っていると考えられる。一方Ca(2-x)SrMgSi(x=0.30(図11においてCSMS030と表記))は、d’31は線形かつその変化量が10%程度であり、温度依存性が低いことがわかる。このため、Sr置換オケルマナイトは、圧電性の面で条件を満たしたといえ、特にX=0.30以上であることが好ましい。
【0076】
次に、実施例として作製した圧電素子の試料、及び比較例として他の圧電材料を用いて作製した圧電素子の試料について、圧電素子の特性値として圧電定数dijと電気抵抗率とを、温度を変化させて測定した。
比較例に用いた圧電材料は、GaPO(リン酸ガリウム)、CTGS(CaTaGaSi14)、CTAS(CaTaAlSi14)、LTGA(LaTa0.5Ga5.5-xAl14)、LTG(LaTa0.5Ga5.514)、LGS(LaGaSiO14)、YCOB(YCaO(BO)である。
【0077】
なお、各特性値の測定には、ヒューレット・パッカード社製インピーダンス・アナライザ(HP4294A)を用いた。なお、圧電定数dijは、共振・反共振法により、各試料の電気機械結合係数(kij及びkp)を測定し、算出して求めた。また、電気抵抗率は、三端子法により測定した。dijと記載したのは、CSMS030のみd31であり、そのほかの結晶はd11で評価したためである。比較して良い理由はデバイスとして用いるための性能指数となるからである。
【0078】
図12に、実施例及び比較例として作成した圧電素子の試料について測定した圧電定数の温度依存性を示す図である。但し、図12に示したグラフは、横軸が温度(摂氏)を示し、縦軸が相対圧電定数(Relative piezoelectric constant)dij*を示す。ここで、相対圧電定数dij*とは、室温(Room Temperature)における圧電定数dijに対する相対値であり、式(1)で算出される。
d*=(各温度におけるdij)/(室温におけるdij)・・・式(1)
なお、室温とは15~35℃の範囲の温度をいうものとする。
【0079】
図12に示すように、実施例であるCa(2-x)SrMgSi(x=0.30)(図12においてCSMS030と表記)を用いた試料は、室温から高温領域に至るまで圧電定数d31の変化量が小さく、安定した圧電特性が得られることが分かる。この圧電特性の温度安定性は、温度変化の大きいランガサイト型結晶と同程度の安定性を示している。
【0080】
また、図13に示すように、本実施例の試料は、比較例と比べて高温領域においても高い電気抵抗率を示しており、高温領域においても優れた絶縁性が維持されていることが分かる。
【0081】
Ca(2-x)SrMgSi(x=0.30)の結晶バルク体から、(ZXt)45°の方位に(1×1×2.5mm)の棒状に切り出しを行った試料に対し、圧縮試験機を用いて圧縮破壊強さ測定を行った。圧縮速度は1mm/minとした。測定試料数は16個とし、室温下において測定した。図14にCa(2-x)SrMgSi(x=0.30)の圧縮破壊強さ試験結果のワイブルプロットを示す。ワイブルプロットを線形近似し、そのx切片からCa(2-x)SrMgSi(x=0.30)の圧縮強度は830MPaと示された。この値は報告されているゲーレナイト系圧電結晶(XZt)45°の4倍程度であり、ガソリンエンジン内部の圧力の10倍である300MPaという目標を大幅に超えるものである。
【0082】
以上説明したように、圧電材料としてCa(2-x)SrMgSi(0.1≦x≦0.6)で表されるSr置換オケルマナイトを用いることで、高温環境で使用可能な圧電素子を作製することができる。
また、作製された圧電素子は、圧力センサや超音波センサなどのセンサとして用いることができる。このような圧力センサは、前記したエンジンの燃焼室の燃焼圧センサとしての用途が考えられる。また、超音波センサは、例えば、火力発電所の高温プラントにおいて、ボイラー、蒸気の配管、タービンなどの外壁などに設置して、高温プラントを監視する用途が考えられる。
【0083】
なお、本発明による圧電素子の用途はこれらに限定されるものではない。Ca(2-x)SrMgSi(0.1≦x≦0.6)で表されるSr置換オケルマナイトは融点に至るまで相転移及びキュリー点を持たないため、Sr置換オケルマナイトを圧電材料として用いた圧電素子は、原理的には室温からSr置換オケルマナイトの融点未満の広い温度環境で使用可能な素子として広い用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0084】
1…圧電素子、2…圧電部材、3…電極、4…電極、10…結晶育成装置、30…圧力センサ、31…ケース材、32…ダイアフラム、33…絶縁スリーブ、34…台座、35…アルミナ板、36…封止材、37…固定ネジ、38、39…電線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14