(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】散在的セルロースナノ結晶の製造方法、セルロースナノ結晶及びその使用
(51)【国際特許分類】
C08G 18/64 20060101AFI20240710BHJP
C08L 1/04 20060101ALI20240710BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20240710BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20240710BHJP
C08G 73/00 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
C08G18/64 084
C08L1/04
H01B1/00 E
H01B1/00 H
H01B1/12 G
C08G73/00
(21)【出願番号】P 2021543189
(86)(22)【出願日】2020-01-27
(86)【国際出願番号】 EP2020051880
(87)【国際公開番号】W WO2020164893
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2023-01-27
(31)【優先権主張番号】102019103717.4
(32)【優先日】2019-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597159765
【氏名又は名称】フラウンホーファーゲゼルシャフト ツール フォルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシユング エー.フアー.
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】アブシャマラ、ハテム
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0148715(US,A1)
【文献】特開2018-055866(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0143932(US,A1)
【文献】倉本憲幸,導電性高分子ポリアニリンの基礎と応用,色材,2003年,Vol.76,No.9,Pages 352-359
【文献】ポリアニリン,ウィキペディア,2023年11月08日
【文献】佐藤俊彦,ほか3名,イソシアナート基を有する反応性セルロースの合成とアミノ酸との反応,高分子論文集,1982年,Vol.39,No.11,Pages 699-704
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G18/00- 18/87
C08G73/00- 73/26
C08L 1/00-101/14
H01B 1/00
H01B 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性被膜を有する散在的セルロースナノ結晶を製造する方法であって、前記方法が以下の工程、
- セルロースの酸化されていないグルコース単位を、イソシアネート基を有するアリール又はヘテロアリール化合物と反応させて、前記グルコース単位のC2、C3及びC6原子のうちの少なくとも1つと前記アリール又はヘテロアリール化合物との間にカルバメート結合を形成すること、
- アリール又はヘテロアリール基を含むこれらの化合物の導電性構造が形成されるように、カルバメート基を介して前記セルロースの前記グルコース単位に結合された隣接するアリール又はヘテロアリール化合物を重合すること
を含む方法。
【請求項2】
前記アリール又はヘテロアリール化合物が、フェニル基、ピロリル基、ナフチル基、アントラセニル基及び/又はフェナントレニル基を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イソシアネート基を有するアリール又はヘテロアリール化合物が、ジイソシアネート基を有するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
反応及び前記カルバメート結合の形成の後に第2のイソシアネート基を加水分解する工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記重合がラジカル重合である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記導電性被膜がポリアニリンに類似の被膜である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記セルロースのC6原子で酸化されていないグルコース単位を、イソシアネート基を有するアリール又はヘテロアリール化合物と反応させて、前記グルコース単位の前記C6原子と前記アリール又はヘテロアリール化合物との間にカルバメート結合を形成する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記グルコースと前記イソシアネート基を有するアリール又はヘテロアリール化合物の反応が、第三級アミン(TEA)を有するトルエン、アセトン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、クロロメタン又はピリジン中で行われる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
カルバメート基を介してセルロースの酸化されていないグルコース単位に結合された隣接するアリール又はヘテロアリール化合物の重合物である導電性被膜を有する散在的セルロースナノ結晶であって、これらのセルロースナノ結晶が棒状に形成されており、50nm~500nmの長さ及び/又は3nm~20nmの幅若しくは直径を有する、散在的セルロースナノ結晶。
【請求項10】
カルバメート基を介してセルロースの酸化されていないグルコース単位に結合された隣接するアリール又はヘテロアリール化合物の重合物である導電性被膜を有する散在的セルロースナノ結晶。
【請求項11】
これらのセルロースナノ結晶が棒状に形成されており、50nm~500nmの長さ及び/又は3nm~20nmの幅若しくは直径を有する、請求項10に記載のセルロースナノ結晶。
【請求項12】
生物学的に分解可能な導電性構成部材として、エアロゲルとして、印刷された電気若しくは電子回路として、付加的に製造された3次元構造体として、センサとして、コンデンサとして、ヒューズとして、バッテリとして、導電性懸濁液として、表面被膜として、紙として、コイル及び/又はナノケーブルとしての、請求項9~11のいずれか一項に記載された、又は請求項1~7のいずれか一項に記載の方法に従って製造された、導電性被膜を有するセルロースナノ結晶の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性被膜を有する散在的セルロースナノ結晶を製造する方法、個別の導電性被膜を有するセルロースナノ結晶自体、及び導電性被膜を有するセルロースナノ結晶の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品及び電気部品の使用の増加は、それに相応した生産物又は構成部材を処分する際に問題をもたらす。電子部品の量はモデルサイクル及び製造サイクルが短縮されているために絶えず増加し、環境及び/又は気候に悪影響を及ぼすので、いわゆる電子廃棄物は大量の資源を消費する。特に技術製品の急速な流通や生物学的に分解不可能な化石炭化水素系部品の使用は悪影響をもたらす。さらには電子部品又はその構成部材の作製方法のために並びにこれらの部品及び構成部材の再生利用のために、環境への悪影響が生じ得る。
【0003】
例えばエアロゲル、ヒドロゲル又は有機ゲルとして使用されるセルロースナノ結晶自体は、従来技術から既に知られている。国際公開第2011/030170号は、セルロースナノ結晶及びその製造方法並びにその使用を記載している。セルロースの利点は、それが世界中で容易に入手可能で再生可能である生物学的に分解可能な生産物であることにある。毎年1000億トンのセルロースが世界中で生産されていると推定される。
【0004】
米国特許出願公開第2016/0148715号は、コアとしてのセルロースナノ結晶及び導電性ポリマーから成る組成物を記載している。
【0005】
セルロースナノ結晶自体はセルロースから容易に製造することができ、棒状の構造を有する。セルロースナノ結晶は有利な機械的剛性及び強度を有し、大表面を利用可能にし、生物学的に分解され得る。セルロースナノ結晶は何回も表面改質に曝される場合があり、それ自体が会合して、極めて興味深い液晶構造体なり得る。セルロースナノ結晶自体は導電性のものではなく、これまでは、ポリアミンのようなポリマーから成る導電性被膜を有する柔軟紙を製造するための支持材のみに集約されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2011/030170号
【文献】米国特許出願公開第2016/0148715号
【発明の概要】
【0007】
本発明の課題は、方法と、生物学的に分解可能であり多方面で電子部品及び電気部品に使用可能な工業材料とを提供することである。
【0008】
本発明によれば、この課題は主要請求項の特徴を有する方法、独立請求項の特徴を有するセルロースナノ結晶及びその使用によりに解決される。本発明の有利な形態及び展開は従属請求項、明細書及び図に開示されている。
【0009】
導電性被膜を有する散在的セルロースナノ結晶を製造する方法は、セルロースの酸化されていないグルコース単位を、イソシアネート基を有するアリール又はヘテロアリール化合物と反応させて、グルコース単位のC2、C3及びC6原子のうちの少なくとも1つとアリール又はヘテロアリール化合物との間にカルバメート結合を形成することを設定している。続いて、アリール又はヘテロアリール基を含むこれらの化合物の導電性構造が形成されるように、カルバメート基を介してセルロースのグルコース単位に結合された隣接するアリール又はヘテロアリール化合物を重合する。それにより、散在的ナノ結晶に個別の導電性被膜を備え付け、これらの個別に導電性のセルロースナノ結晶を形成して製品にする又は製品の一部にすることができる。つまり、まずセルロースナノ結晶を準備し、それらのセルロースナノ結晶を、セルロースナノ結晶の表面での少なくとも1つのヒドロキシル基をもって、トルエンジイソシアネートの2つのイソシアネート基のうちの一方と結合させる。
【0010】
トルエンジイソシアネートの他方のイソシアネート基は加水分解されて、別のアミン基になる。続いてそのアミン基は、隣接するトルエンジイソシアネートのベンゼン環と重合される。
【0011】
アリール又はヘテロアリール化合物は、フェニル基、ピロール基、ナフチル基、アントラセニル基及び/又はフェナントレニル基を有してもよく、場合により他の基は、アリール又はヘテロアリール化合物の一部であってもよい。
【0012】
イソシアネート基を有するアリール又はヘテロアリール化合物は、特に1つのジイソシアネート基又は複数のジイソシアネート基を有し得る。アリール又はヘテロアリール化合物が1つ又は複数のジイソシアネート基を有する限り、第2のイソシアネート基の加水分解は、反応及びカルバメート結合の形成の後に行われる。
【0013】
重合はラジカル重合であり得る。導電性被膜はポリアニリンに類似の、本質的に導電性の被膜であり得る。
【0014】
イソシアネート基を有するアリール又はヘテロアリール化合物とセルロースの酸化されていないグルコース単位の反応は、好ましくはグルコース単位のC6原子とアリール又はヘテロアリール化合物との間にカルバメート結合を形成しながら行われる。
【0015】
第三級アミン(TEA)を有する、例えばトリメチルアミンを有するトルエン、アセトン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、クロロメタン又はピリジン中でのグルコースと、イソシアネート基を有するアリール又はヘテロアリール化合物の反応が行われる。
【0016】
セルロースナノ結晶は好ましくは棒形状に形成され、50nm~500nmの長さ及び/又は3nm~20nmの幅若しくは直径を有する。
【0017】
本発明は同様に、特に上記のような方法に従って得ることができる、個別の導電性被膜を有する散在的セルロースナノ結晶に関する。
【0018】
セルロースナノ結晶はセルロース分子から形成されているが、それらのセルロース分子のうちの少なくとも幾つかは、好ましくはトルエンジイソシアネート由来のイソシアネート基と結合されている。セルロース分子のヒドロキシル基は、トルエンジイソシアネートの2つのイソシアネート基のうちの一方と結合されている。その際、トルエンジイソシアネートの他方のイソシアネート基は、好ましくは加水分解されてアミン基になる。セルロース分子及びイソ基は重合されて、セルロースナノ結晶になる。その際、アミン基は重合されて導電性被膜になっており、個別に導電性のセルロース系ナノ結晶を形成する。
【0019】
好ましくは、導電性被膜を有するセルロースナノ結晶は、生物学的に分解可能な導電性構成部材として電気部品又は電子部品に使用される。代わりに又は補足として、セルロースナノ結晶はエアロゲルとして、プリント電気又は電子回路として、付加的に製造される3次元構造体として、センサとして、コンデンサとして、ヒューズとして、バッテリとして、導電性懸濁液又は分散液として、表面被膜として、紙として、コイルとして及び/又はナノケーブルとして形成されてもよい。
【0020】
上記の方法を用いて、アニリンモノマーをセルロースナノ結晶の表面上に配置し、続いて重合を実行することができる。結果として、それから製造されたセルロースナノ結晶は個別に導電性のものであり、いわゆるナノケーブルとして個別に機能し得る。それらは容易に方向付けられ、濾過され、配置され得る。これらの特徴により、使用領域及び用途は何倍にもなる。セルロースナノ結晶は懸濁液又は分散液及びナノペーパーの形態で、印刷されたスイッチプレート又は導電性3次元構造体、熱センサ等を製造するのに使用され得る。
【0021】
続いて、本発明は図面に基づいてより詳しく説明される。図面は以下のものを示す。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】従来技術によるセルロースナノ結晶とポリアニリンとの混合物の図である。
【
図2】本発明によるセルロースナノ結晶の図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、導電性ポリマー20、例えばポリアニリンの母材内部のセルロースナノ結晶10の通常の導電性混合物を示す。その際、セルロースナノ結晶10は独自には導電性のものではなく、十分な強度又は他の機械的特性を与えるための構造材料を形成する。
【0024】
図2は、本発明による導電性被膜20を個別に備えているセルロースナノ結晶10を示す。その際、被膜20はポリアニリンからは構成されておらず、個別の被膜を製造するためにトルエンジイソシアネートとの反応を利用している。
【0025】
図3では本方法が概略的に説明されている。まずセルロースナノ結晶が準備され、セルロースナノ結晶10の表面のヒドロキシル基が、トルエンジイソシアネートの2つのイソシアネート基のうちの一方と反応する。続いて他方のイソシアネート基が加水分解されて、アミン基になる。その後、そのアミン基が、隣接するトルエンジイソシアネートのベンゼン環と重合し、最後にセルロースナノ結晶の導電性被膜が存在する。その導電性被膜は、ポリアニリン自体を使用しないが、ポリアニリン被膜と同様に本質的に導電性のものである。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載した発明を付記する。
[1] 導電性被膜を有する散在的セルロースナノ結晶を製造する方法であって、前記方法が以下の工程、
- セルロースの酸化されていないグルコース単位を、イソシアネート基を有するアリール又はヘテロアリール化合物と反応させて、前記グルコース単位のC2、C3及びC6原子のうちの少なくとも1つと前記アリール又はヘテロアリール化合物との間にカルバメート結合を形成すること、
- アリール又はヘテロアリール基を含むこれらの化合物の導電性構造が形成されるように、カルバメート基を介して前記セルロースの前記グルコース単位に結合された隣接するアリール又はヘテロアリール化合物を重合すること
を含む方法。
[2] 前記アリール又はヘテロアリール化合物が、フェニル基、ピロリル基、ナフチル基、アントラセニル基及び/又はフェナントレニル基を有する、[1]に記載の方法。
[3] 前記イソシアネート基を有するアリール又はヘテロアリール化合物が、ジイソシアネート基を有するものである、[1]に記載の方法。
[4] 反応及び前記カルバメート結合の形成の後に第2のイソシアネート基を加水分解する工程を含む、[3]に記載の方法。
[5] 前記重合がラジカル重合である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 前記導電性被膜がポリアニリンに類似の被膜である、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 前記セルロースのC6原子で酸化されていないグルコース単位を、イソシアネート基を有するアリール又はヘテロアリール化合物と反応させて、前記グルコース単位の前記C6原子と前記アリール又はヘテロアリール化合物との間にカルバメート結合を形成する、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8] 前記グルコースと前記イソシアネート基を有するアリール又はヘテロアリール化合物の反応が、第三級アミン(TEA)を有するトルエン、アセトン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、クロロメタン又はピリジン中で行われる、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9] 導電性被膜を有する散在的セルロースナノ結晶であって、これらのセルロースナノ結晶が棒状に形成されており、50nm~500nmの長さ及び/又は3nm~20nmの幅若しくは直径を有する、散在的セルロースナノ結晶。
[10] [1]~[8]のいずれかに記載の方法で得られる散在的セルロースナノ結晶。
[11] これらのセルロースナノ結晶が棒状に形成されており、50nm~500nmの長さ及び/又は3nm~20nmの幅若しくは直径を有する、[10]に記載のセルロースナノ結晶。
[12] 生物学的に分解可能な導電性構成部材として、エアロゲルとして、印刷された電気若しくは電子回路として、付加的に製造された3次元構造体として、センサとして、コンデンサとして、ヒューズとして、バッテリとして、導電性懸濁液として、表面被膜として、紙として、コイル及び/又はナノケーブルとしての、[9]~[11]のいずれかに記載された、又は[1]~[7]のいずれかに記載の方法に従って製造された、導電性被膜を有するセルロースナノ結晶の使用。