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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】消音器
(51)【国際特許分類】
   F01N 1/00 20060101AFI20240710BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20240710BHJP
   F01N 1/04 20060101ALI20240710BHJP
   F01N 3/022 20060101ALI20240710BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20240710BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
F01N1/00 H ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N1/04 M
F01N3/022 C
F01N3/035 A
F01N3/24 E
F01N3/24 J
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021554065
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2020023802
(87)【国際公開番号】W WO2021079556
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2021-10-28
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2019194699
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宮入 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】古田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】桝田 昌明
【合議体】
【審判長】山本 信平
【審判官】青木 良憲
【審判官】河端 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-281034(JP,A)
【文献】特開2002-256845(JP,A)
【文献】特開2004-154768(JP,A)
【文献】特開2013-163155(JP,A)
【文献】特開2004-162702(JP,A)
【文献】特開2017-125480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 1/00
B01D 53/94
F01N 1/04
F01N 3/022
F01N 3/035
F01N 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属缶の内部にハニカム構造体を備える消音器であって、
前記ハニカム構造体が、
外周壁、及び前記外周壁の内側に設けられ、第1端面から第2端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するハニカム構造部と、
複数の前記セルの前記第1端面及び前記第2端面の少なくとも一方に設けられた目封止部と
を有し、
前記第1端面及び前記第2端面の中央領域は、前記第2端面が開口して前記第1端面に前記目封止部が設けられた前記セルと、前記第1端面が開口して前記第2端面に前記目封止部が設けられた前記セルと、が千鳥状となるように交互に配置されており、
前記中央領域の外周側に位置する外周領域において、複数の前記セルの前記第2端面の全てに前記目封止部が設けられており、
前記第1端面が前記流体の流入側であり、前記第2端面が前記流体の流出側であり、
複数の前記セルにおける有効流路方向長さが不均一であり、
複数の前記セルは、前記有効流路方向長さの最小値Lminに対する最大値Lmaxの比(Lmax/Lmin)が1.30~2.0であり、
前記消音器が、前記ハニカム構造体の前記外周壁の外周面に嵌合され、前記流体の流出側となる前記第2端面よりも軸方向外側に延伸した部分を有する筒状部材を更に備え、
前記筒状部材の前記延伸した部分の流路断面積の最大値が、前記ハニカム構造体の前記第2端面の面積の1.1倍以上である、消音器。
【請求項2】
前記第2端面の面積が、前記第2端面の前記中央領域の面積の1.1倍以上である、請求項1に記載の消音器。
【請求項3】
前記第2端面の面積が、前記第2端面の前記中央領域の面積の1.3倍以上である、請求項2に記載の消音器。
【請求項4】
前記隔壁は、コージェライト、ムライト、窒化珪素、炭化珪素及びチタン酸アルミニウムから選択される1種以上を主成分とし、気孔率が25%以上、平均細孔径が5~25μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の消音器。
【請求項5】
平均細孔径が5μm以下の表面層が前記隔壁の表面に設けられている、請求項1~4のいずれか一項に記載の消音器。
【請求項6】
前記隔壁の表面、又は前記隔壁の表面に表面層が形成されている場合には前記表面層の表面に触媒が担持されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の消音器。
【請求項7】
前記筒状部材の前記延伸した部分の流路断面積の最大値が、前記ハニカム構造体の前記第2端面の面積の1.3倍以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の消音器。
【請求項8】
前記消音器が、前記筒状部材の外周側に設けられ、前記筒状部材と前記金属缶との間に保持される繊維状吸音材を更に備える、請求項1~7のいずれか一項に記載の消音器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消音器及び消音器用ハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン、ガソリンエンジンなどの内燃機関を動力源とする自動車の排気ガスに含まれるススなどの粒子状物質(以下、「パティキュレートマター」又は「PM」ともいう)は、人体の健康に影響を与えるため、自動車の排気系には、PMを捕集するための集塵用フィルタが設けられている。また、内燃機関は、排気ガスを外部へ排出する際に排気音を発生させるとともに、吸気管に空気を吸い込む際に吸気音を発生させるため、自動車の排気系には、これらの吸排気音を低減するための消音器(以下、「マフラー」ともいう)が設けられている。さらに、排気ガスには、NOx、CO及びHCなどの有害物質が含まれているため、自動車の排気系には、これらの有害物質の量を低減するための触媒コンバータが設けられている。
【0003】
消音器としては、様々な構造のものが知られている。最も簡単な消音器の構造は単純な管を取り付けただけのものであるが、消音効果を高めるために下記の(a)~(e)のような方法や、これらを組み合わせる方法が知られている(特許文献1及び2)。
(a)消音器の流路の断面積を部分的に広くする。
(b)消音器の内部に、パンチングパイプと呼ばれる小孔が開いた管を通した二重構造を設ける。
(c)消音器の管の内壁に凹凸を設ける。
(d)消音器に障壁となる構造(バッフル)を設ける。
(e)消音器の内部空間に吸音性を有する材料又は構造物を充填する。
また、消音器の消音効果を更に高めるために、複数の消音器が排気系に設けられる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平2-22614号公報
【文献】特開平11-223119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、コンパクトな排気系への要求が高まっており、排気系に設けられる消音器、集塵用フィルタ及び触媒コンバータの設置スペースが足りなくなっている。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、消音機能が良好であるとともに、集塵用フィルタ又は触媒コンバータとしての機能も有することが可能な消音器及び消音器用ハニカム構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、集塵用フィルタ又は触媒コンバータに適用可能なハニカム構造体に対して、複数のセルの有効流路方向長さを不均一に制御することにより、集塵用フィルタ又は触媒コンバータの機能に加えて良好な消音機能が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、金属缶の内部にハニカム構造体を備える消音器であって、
前記ハニカム構造体が、
外周壁、及び前記外周壁の内側に設けられ、第1端面から第2端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するハニカム構造部と、
複数の前記セルの前記第1端面及び前記第2端面の少なくとも一方に設けられた目封止部と
を有し、
前記第1端面及び前記第2端面の中央領域は、前記第2端面が開口して前記第1端面に前記目封止部が設けられた前記セルと、前記第1端面が開口して前記第2端面に前記目封止部が設けられた前記セルと、が千鳥状となるように交互に配置されており、
前記中央領域の外周側に位置する外周領域において、複数の前記セルの前記第2端面の全てに前記目封止部が設けられており、
前記第1端面が前記流体の流入側であり、前記第2端面が前記流体の流出側であり、
複数の前記セルにおける有効流路方向長さが不均一であり、
複数の前記セルは、前記有効流路方向長さの最小値Lminに対する最大値Lmaxの比(Lmax/Lmin)が1.30~2.0であり、
前記消音器が、前記ハニカム構造体の前記外周壁の外周面に嵌合され、前記流体の流出側となる前記第2端面よりも軸方向外側に延伸した部分を有する筒状部材を更に備え、
前記筒状部材の前記延伸した部分の流路断面積の最大値が、前記ハニカム構造体の前記第2端面の面積の1.1倍以上である、消音器である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、消音機能が良好であるとともに、集塵用フィルタ又は触媒コンバータとしての機能も有することが可能な消音器及び消音器用ハニカム構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る消音器に用いられるハニカム構造体の概略図である。
図2】本発明の実施形態に係る消音器に用いられるハニカム構造体の概略図である。
図3】本発明の実施形態に係る消音器に用いられるハニカム構造体の概略図である。
図4】本発明の実施形態に係る消音器に用いられるハニカム構造体の概略図である。
図5】本発明の実施形態に係る消音器のハニカム構造体の軸方向に平行な断面図である。
図6】本発明の実施形態に係る消音器のハニカム構造体の軸方向に平行な断面図である。
図7】本発明の実施形態に係る消音器のハニカム構造体の軸方向に平行な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0012】
本発明の実施形態に係る消音器は、金属缶の内部にハニカム構造体を備える。
金属缶としては、内部にハニカム構造体を備えることが可能な構造を有するものであれば特に限定されず、当該技術分野において公知の構造を採用することができる。
ハニカム構造体は、外周壁、及び外周壁の内側に設けられ、第1端面から第2端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するハニカム構造部と、複数のセルの第1端面及び第2端面の少なくとも一方に設けられた目封止部とを有するハニカム構造体を備える。このハニカム構造体は、消音器に用いられるため、消音器用ハニカム構造体と称することができる。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る消音器に用いられるハニカム構造体の概略図である。Aは、このハニカム構造体のセルが延びる方向に平行な断面図であり、B及びCはそれぞれ、Aのハニカム構造体のセルが延びる方向に垂直な第1端面及び第2端面の端面図である。
図1のA~Cに示されるように、ハニカム構造体1は、外周壁2、及び外周壁2の内側に設けられ、第1端面3aから第2端面3bまで延びる流体の流路となる複数のセル4を区画形成する多孔質の隔壁5を有するハニカム構造部6と、複数のセル4の第1端面3a及び第2端面3bの少なくとも一方に設けられた目封止部7とを有する。なお、第1端面3aが流体の流入側であり、第2端面3bが流体の流出側である。
【0014】
目封止部7は、複数のセル4における有効流路方向長さLが不均一である。
ここで、本明細書において「有効流路方向長さL」とは、同一のセルにおいて、目封止部7を除いた流体の流路(セル4)の長さのことを意味する。
ハニカム構造体1において減衰させる吸排気音の周波数は、排気ガスとともに吸排気音が通過する流路(セル4)の長さに依存しているため、複数のセル4における有効流路方向長さLを不均一とすることにより、様々な周波数の吸排気音を減衰させることができる。そのため、このような不均一な有効流路方向長さLを有するハニカム構造体1を消音器に用いることにより、消音効果を向上させることができる。
【0015】
複数のセル4は、有効流路方向長さLの最小値Lminに対する最大値Lmaxの比(Lmax/Lmin)が、好ましくは1.25以上、より好ましくは1.30以上である。このような範囲にLmax/Lminを制御することにより、様々な周波数の吸排気音を減衰させる効果を安定して高めることができる。
なお、Lmax/Lminの上限値は、特に限定されないが、一般的に2.0以下、好ましくは1.9以下である。
【0016】
ハニカム構造体1は、図1のB及びCに示されるような、第2端面3bが開口して第1端面3aに目封止部7が設けられたセル4と、第1端面3aが開口して第2端面3bに目封止部7が設けられたセル4とが千鳥状となるように交互に配置されている形態とすることができる。このような配置にすることにより、消音機能と集塵用フィルタとしての機能とをバランス良く両立させることができる。
【0017】
上記のような構造を有するハニカム構造体1を備える消音器では、排気ガスが供給されると、ハニカム構造体1の目封止部7が設けられていない第1端面3aから排気ガスが内部に流入する。そして、排気ガスは多孔質の隔壁5を通過して目封止部7が設けられていない第2端面3bから排出される。このようにして排気ガスがハニカム構造体1の内部を通過する際に様々な周波数の吸排気音を減衰させることができる。また、排気ガスがハニカム構造体1の内部を通過する際、排気ガスに含まれるPMが隔壁5に捕捉されるため、このハニカム構造体1を集塵用フィルタとして機能させることができる。さらに、隔壁5に触媒を担持させた場合、排気ガスがハニカム構造体1の内部を通過する際に、排気ガスに含まれるNOx、CO及びHCなどの有害物質が触媒によって浄化されるため、触媒コンバータとしても機能させることができる。
【0018】
ハニカム構造体1は、第1端面3a及び第2端面3bの中央領域が千鳥状の配置を有するとともに、中央領域の外周側に位置する外周領域において、複数のセル4の第1端面3a及び第2端面3bの少なくとも一方の全てに目封止部7が設けられた構造を有していてもよい。このような構造とすることにより、排気ガスとともにハニカム構造体1の第1端面3aから入って第2端面3bを通過する吸排気音の流路の断面積が、ハニカム構造体1の第2端面3bを通過した時点で急に拡大するため、消音効果を向上させることができる。
【0019】
上記のような構造を有するハニカム構造体1の具体例(概略図)を図2~4に示す。図2~4において、Aは、ハニカム構造体1のセル4が延びる方向に平行な断面図であり、B及びCはそれぞれ、Aのハニカム構造体1のセル4が延びる方向に垂直な第1端面及び第2端面の端面図である。
【0020】
図2のA~Cで示されるハニカム構造体1は、第1端面3aの全領域及び第2端面3bの中央領域が千鳥状の配置を有するとともに、第2端面3bの中央領域の外周側に位置する外周領域における複数のセル4の全てに目封止部7が設けられている。図2のA~Cで示されるハニカム構造体1は、第1端面3aから入って第2端面3bを通過する吸排気音の流路の断面積が、第2端面3bの直前で急激に縮小し、第2端面3bの直後で急拡大する。
また、図2のA~Cで示されるハニカム構造体1は、第1端面3aの全領域が千鳥状の配置を有しているが、図3のA~Cで示されるハニカム構造体1のように、第1端面3aの中央領域が千鳥状配置を有し、第1端面3aの中央領域の外周側に位置する外周領域における複数のセル4の全てに目封止部7が設けられていない構造としてもよい。図3のA~Cで示されるハニカム構造体1は、第1端面3aから入って第2端面3bを通過する吸排気音の流路の断面積が、第2端面3bの直前で急激に縮小し、第2端面3bの直後で急拡大する。
さらに、図4のA~Cで示されるハニカム構造体1のように、第1端面3aの中央領域が千鳥状の配置を有し、第1端面3aの中央領域の外周側に位置する外周領域における複数のセル4の全てに目封止部7が設けられている構造としてもよい。図4のA~Cで示されるハニカム構造体1は、第1端面3aから入って第2端面3bを通過する吸排気音の流路の断面積が、第1端面3aを通過する時点で急激に縮小し、第2端面3bの直前で更に縮小し、第2端面3bの直後で急拡大する。
なお、上記の図において、点線は、第1端面3a及び第2端面3bにおける中央領域と外周領域との境界線であり、点線の内側が中央領域、点線の外側が外周領域を表す。したがって、本明細書において「外周領域」とは、第1端面3a及び第2端面3bを観察した場合に、外周壁2の近傍領域のことを意味し、「中央領域」とは外周領域よりも内側の領域のことを意味する。
【0021】
第1端面3a及び第2端面3bにおける中央領域の大きさは、特に限定されないが、吸排気音の流路断面積の急拡大による消音効果を十分に確保する観点から、第2端面3bの面積に応じて第2端面3bにおける中央領域の面積を決定することが好ましい。具体的には、第2端面3bの面積が、第2端面3bの中央領域の面積の1.1倍以上であることが好ましく、1.3倍以上であることが好ましい。このような面積に制御することにより、吸排気音の流路断面積の急拡大による消音効果を十分に得ることができる。
なお、第2端面3bの中央領域の面積に対する第2端面3bの面積の倍率の上限は、特に限定されないが、一般的に3.0倍以下、好ましくは2.5倍以下である。
【0022】
ハニカム構造部6の形状としては、特に限定されず、上記で例示した円柱以外に、楕円柱、四角柱又はその他の多角柱などとしてもよい。
セル4の形状としては、特に限定されず、第1端面3a及び第2端面3bの端面において、上記で例示した四角形以外に、円形、楕円形、三角形、六角形、又はその他の多角形などとしてもよい。
【0023】
ハニカム構造部6のセル密度としては、特に限定されないが、第1端面3a及び第2端面3bにおいて、好ましくは5~320セル/cm2、より好ましくは10~300セル/cm2、更に好ましくは20~250セル/cm2である。セル密度を5セル/cm2以上とすることにより、隔壁5の強度、ひいては柱状のハニカム構造部6自体の強度及び有効GSA(幾何学的表面積)を十分に確保することができる。また、セル密度を320セル/cm2以下とすることにより、圧力損失の増大を抑制することができる。
【0024】
隔壁5の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.1~1.0mm、より好ましくは0.2~0.6mmである。隔壁5の厚みを0.1mm以上とすることにより、ハニカム構造体1の機械的強度を十分なものとすることができる。また、隔壁5の厚さを1.0mm以下とすることにより、開口面積の低下によって圧力損失が大きくなることを抑制することができる。
外周壁2の厚みは、特に限定されないが、隔壁5の厚みよりも大きいことが好ましい。このような構成とすることにより、外部からの衝撃などによる破壊(例えば、ひび、割れなど)を抑制することができる。具体的には、外周壁2の厚みは、好ましくは0.3mm~10mm、より好ましくは0.5mm~5mm、更に好ましくは1mm~3mmである。
【0025】
隔壁5及び外周壁2は、セラミックスを主成分とすることが好ましい。ここで、本明細書において「セラミックスを主成分とする」とは、全成分の質量に占めるセラミックスの質量比率が50質量%以上であることをいう。セラミックスの例としては、コージェライト、ムライト、窒化珪素、炭化珪素、チタン酸アルミニウムなどが挙げられる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。このような材料を用いることにより、ハニカム構造体1の機械的強度及び耐熱性などの特性を確保することができる。
【0026】
隔壁5は、気孔率が、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは35%以上である。このような範囲の気孔率とすることにより、ハニカム構造体1の隔壁5を通過する排気ガスの流れ易さ(ろ過速度)を確保することができる。一方、隔壁5の気孔率の上限は、特に限定されないが、一般的に50%以下、好ましくは45%以下である。このような範囲の気孔率とすることにより、ハニカム構造体1の圧力損失の増大を抑制することができる。
ここで、本明細書において「気孔率」とは、JIS R1655:2003に準拠し、水銀圧入法によって測定される気孔率を意味する。
【0027】
隔壁5は、平均細孔径が、好ましくは5μm、より好ましくは7μm以上である。このような範囲の平均細孔径とすることにより、圧力損失の増大を抑えることができる。特に、粒子状物質がハニカム構造体1に堆積した場合であっても、ハニカム構造体1の圧力損失の増大を抑制することができる。また、ハニカム構造体1の平均細孔径は、好ましくは25μm以下、より好ましくは20μm以下である。このような範囲の平均細孔径とすることにより、粒子状物質の素抜けを抑制することができる。
ここで、本明細書において「平均細孔径」とは、JIS R1655:2003に準拠し、水銀圧入法によって求めた細孔分布における積算値50%での細孔径を意味する。
【0028】
隔壁5の表面には、平均細孔径が5μm以下の表面層が設けられていてもよい。このような平均細孔径の表面層を設けることにより、排気ガスが表面層を通過する際にも吸排気音の流路断面積の拡大による消音効果を得ることができる。
表面層は、隔壁5と同様にセラミックスを主成分とすることが好ましく、隔壁5に用いられるセラミックスと同種のものを用いることができる。表面層の平均細孔径は、原料であるセラミックス粉末の粒径や結合材の種類などを調整することによって制御することができる。
【0029】
隔壁5の表面、又は隔壁5の表面に表面層が形成されている場合には表面層の表面には、触媒が担持されていてもよい。触媒を担持させることにより、排気ガスに含まれるNOx、CO及びHCなどの有害物質を浄化することができるため、触媒コンバータとしての機能を得ることができる。
触媒としては、当該技術分野において公知のものを用いることができる。触媒の例としては、ガソリンエンジン排気ガス浄化用の三元触媒、ガソリンエンジン又はディーゼルエンジン排気ガス浄化用の酸化触媒、NOx選択還元用のSCR触媒などが挙げられる。具体的には、貴金属(白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、インジウム、銀、及び金)、アルミニウム、ニッケル、ジルコニウム、チタン、セリウム、コバルト、マンガン、亜鉛、銅、スズ、鉄、ニオブ、マグネシウム、ランタン、サマリウム、ビスマス、及びバリウムからなる群から選択された元素を少なくとも一種を含有するものであることが好ましい。上記元素は、金属単体、金属酸化物、又はそれ以外の金属化合物として含有されていてもよい。
【0030】
触媒(触媒金属+担持体)の担持量としては、特に限定されないが、好ましくは10~400g/Lである。また、貴金属を含む触媒を用いる場合、その担持量は、特に限定されないが、好ましくは0.1~5g/Lである。触媒(触媒金属+担持体)の担持量を10g/L以上とすることにより、触媒作用が発現し易くなる。また、触媒(触媒金属+担持体)の担持量を400g/L以下とすることにより、圧力損失及び製造コストの上昇を抑えることができる。なお、担持体とは、触媒金属が担持される担体のことである。担持体としては、アルミナ、セリア、及びジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種を含有するものを用いることができる。
【0031】
ハニカム構造体1の製造方法は、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法に準じて実施することができる。例えば、ハニカム構造体1は、次のようにして製造することができる。
まず、セラミックス粉末を含む坏土を所望の形状に押し出し、ハニカム成形体を作製する。このとき、適切な形態の口金及び治具を選択することにより、セル4の形状及び密度、隔壁5及び外周壁2の形状及び厚さなどを制御することができる。なお、セラミックス粉末としては、前述のセラミックスの粉末や、焼成後に前述のセラミックスとなる原料粉末(例えば、コージェライト化原料)などを用いることができる。また、坏土は、バインダー、造孔剤、分散剤、水、有機溶媒などを含むことができる。そして、得られたハニカム成形体を乾燥して焼成することにより、ハニカム構造部6を得ることができる。乾燥方法としては、特に限定されず、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の従来公知の乾燥方法を用いることができる。これらの中でも、ハニカム成形体全体を迅速且つ均一に乾燥することができる点で、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥とを組み合わせた乾燥方法が好ましい。
【0032】
次に、ハニカム構造部6に対して目封止を行う。なお、目封止は、ハニカム成形体を焼成する前に行ってもよい。目封止は、目封止材を充填する従来の方法に準じて行うことができる。例えば、目封止部7を形成すべきハニカム構造部6の端面(第1端面3a及び第2端面3b)のセル4に対応する箇所が開口した薄膜フィルムを貼り付ける。そして、ハニカム構造部6の端面をスラリー状の目封止材に浸漬し、薄膜フィルムで塞がれていないハニカム構造部6のセル4に目封止材を進入させることにより、目封止材が充填された目封止部7を形成することができる。
【0033】
目封止部7のセル方向長さは、ハニカム構造部6の端面を目封止材に浸漬する深さで調整することができる。すなわち、複数のセル4における有効流路方向長さLが不均一となるように目封止部7を形成するためには、2種以上の開口パターンを有する薄膜フィルムを準備し、これらの薄膜フィルムを順次使用してハニカム構造部6の端面を目封止材に浸漬する深さを変えればよい。
その他の方法としては、フィルム開口部の面積を調整することによっても、複数のセル4における有効流路方向長さLが不均一となるように目封止部7を形成することができる。例えば、フィルム開口部の面積を小さくすることにより、セル4に流れ込む目封止材の量を少なくすることができるため、目封止部7のセル方向長さが短い目封止部7を形成することができる。そのため、フィルム開口部の面積を不均一とすることにより、複数のセル4にセル方向長さが不均一な目封止部7を形成することができる。
【0034】
本発明の実施形態に係る消音器は、ハニカム構造体1に加えて筒状部材を備えることができる。このような構造を有する消音器の筒状部材の軸方向に平行な断面図を図5に示す。
図5に示されるように、消音器100は、ハニカム構造体1と、ハニカム構造体1の外周壁2の外周面に嵌合され、流体の流出側となる第2端面3bよりも軸方向外側に延伸した部分を有する筒状部材10とを備えている。このような構造とすることにより、ハニカム構造体1の第2端面3bを通過した吸排気音の流路断面積が筒状部材10の内径まで拡大するため、消音効果を向上させることができる。
【0035】
筒状部材10は、ハニカム構造体1の第2端面3bよりも軸方向外側に延伸した部分が拡径した構造を有することが好ましい。このような構造を有する消音器100のハニカム構造体1の軸方向に平行な断面図を図6に示す。
なお、本明細書において「筒状部材10の、ハニカム構造体1の第2端面3bよりも軸方向外側に延伸した部分」とは、筒状部材10の軸方向において、ハニカム構造体1の第2端面3bからハニカム構造体1の軸方向長さの1/2までの長さの部分のことを意味する。
図6に示されるように、消音器100における筒状部材10は、ハニカム構造体1の第2端面3bよりも軸方向外側に延伸した部分が拡径した構造を有する。このような構造とすることにより、ハニカム構造体1の第2端面3bを通過した吸排気音の流路断面積が更に拡大するため、消音効果をより一層向上させることができる。
【0036】
筒状部材10は、ハニカム構造体1の第2端面3bよりも軸方向外側に延伸した部分の流路断面積の最大値が、ハニカム構造体1の第2端面3bの面積の1.1倍以上であることが好ましく、1.3倍以上であることがより好ましい。このような構成とすることにより、ハニカム構造体1の第2端面3bを通過した吸排気音の流路断面積の急拡大による消音効果を安定して得ることができる。
【0037】
筒状部材10の材料としては、特に限定されないが、例えば、ステンレス、チタン合金、銅合金、アルミ合金、真鍮などを用いることができる。これらの中でも、耐久信頼性が高く、安価という理由により、ステンレスが好ましい。
【0038】
上記のような構造を有する消音器100は、当該技術分野において公知の方法に準じて製造することができる。例えば、消音器100は、ハニカム構造体1の外周壁2の外周面に筒状部材10を嵌合させることによって製造することができる。嵌合方法としては、特に限定されないが、すきま嵌め、締まり嵌め、焼き嵌めなどの嵌め合いによる固定方法の他、ろう付け、溶接、拡散接合などを用いることができる。
【0039】
本発明の実施形態に係る消音器100は、上記の金属缶、ハニカム構造体1及び筒状部材10に加えて、繊維状吸音材を更に備えることができる。このような構造を有する消音器100の筒状部材10の軸方向に平行な断面図を図7に示す。
図7に示されるように、消音器100は、筒状部材10の外周側に設けられ、筒状部材10と金属缶30との間に保持される繊維状吸音材20を備えている。
筒状部材10には小孔11が設けられており、小孔11を通じて吸排気音を繊維状吸音材20に吸収させることにより、消音効果を高めることができる。
【0040】
筒状部材10に設けられる小孔11の位置は、特に限定されないが、筒状部材10の軸方向において、ハニカム構造体1の第1端面3a及び/又は第2端面3bよりも軸方向外側に延伸した部分であることが好ましい。
筒状部材10に設けられる小孔11の形状及び大きさは、特に限定されず、使用する繊維状吸音材20の種類などに応じて適宜調整すればよい。
【0041】
繊維状吸音材20としては、特に限定されないが、例えば、グラスウール、ロックウール、スチールウール、セラミックウールなどを用いることができる。これらの中でも、消音効果の観点からグラスウールが好ましい。
【0042】
金属缶30は、筒状部材10との間に空間を形成し、空間内に収容された繊維状吸音材20を保持する。
金属缶30の形状としては、筒状部材10の外周側に設けられた繊維状吸音材20を保持することが可能な形状であれば特に限定されず、例えば、筒状とすることができる。
金属缶30の材料としては、特に限定されず、筒状部材10と同様のものを用いることができる。
【0043】
本発明の実施形態に係る消音器100は、上記の構造に加えて、当該技術分野において公知の消音構造を更に備えることができる。公知の消音構造としては、障壁となる構造(じゃま板)などが挙げられる。
【0044】
上記のような構造を有する消音器100は、当該技術分野において公知の方法に準じて製造することができる。例えば、消音器100は、ハニカム構造体1の外周壁2の外周面に嵌合させた筒状部材10の外周側に繊維状吸音材20を配置し、金属缶30内に収容することによって製造することができる。また、筒状部材10と金属缶30との間は、溶接などによって接合すればよい。
【実施例
【0045】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0046】
(実施例1:参考例
コージェライト化原料を含む坏土を押出成形機に投入して押出成形することにより円柱状のハニカム成形体を得た。次に、このハニカム成形体を乾燥させた後、所定の寸法となるように両端面を切断してハニカム乾燥体を得た。次に、開口パターンが異なる複数枚の薄膜フィルム、及びハニカム成形体と同じ成分を含む目封止材を用いて、ハニカム乾燥体の第1端面及び第2端面のセルに対してそれぞれ目封止を行った後、1400℃で焼成することによってコージェライト製のハニカム構造体を得た。第1端面のセルの目封止では、目封止材に浸漬する深さを全て同じにして行い、第2端面のセルの目封止では、目封止材に浸漬する深さを変えて行った。また、目封止は、図1のA~Cに示される構造、すなわち、第1端面のみに目封止部が設けられたセルと、第2端面のみに目封止部が設けられたセルとが交互に配置された千鳥状配置とした。
【0047】
得られたハニカム構造体は、直径118.4mm、軸方向長さ127mm、隔壁の厚み0.3mm、外周壁の厚み1mm、セル密度31セル/cm2、隔壁の気孔率48%、平均細孔径12μmであった。なお、気孔率及び平均細孔径は上述の方法で測定した。
【0048】
(実施例2)
ハニカム乾燥体の第2端面の一部のセルを目封止する際に、ハニカム乾燥体の第2端面を目封止材に浸漬する深さを大きくしたこと以外は実施例1と同様にしてハニカム構造体を得た。
【0049】
(比較例1)
目封止を行わなかったこと以外は実施例1と同様にしてハニカム構造体を得た。
(比較例2)
ハニカム乾燥体の第1端面及び第2端面のセルを目封止する際に、ハニカム乾燥体の第1端面及び第2端面を目封止材に浸漬する深さを全て同じにしたこと以外は実施例1と同様にしてハニカム構造体を得た。
【0050】
(有効流路方向長さ)
上記の実施例及び比較例で得られたハニカム構造体について、ハニカム構造体のセルが延びる方向と平行に切断した後、その断面観察を行うことによって、複数のセルにおける第1端面及び第2端面に形成された目封止部のセル方向長さ(セルが延びる方向の長さ)を測定し、有効流路方向長さを算出した。
【0051】
(消音効果試験)
上記の実施例及び比較例で得られたハニカム構造体の外周壁の外周面に筒状部材を嵌合して消音器を作製した。次に、2Lガソリンエンジンの排気系に設けられた2つのマフラーのうちの1つ目のマフラーを取り外し、その位置に上記で作製した消音器を設けた。そして、エンジン回転速度2000rpm、スロットル全開(WOT)の条件でガソリンエンジンを稼働させ、マフラー下流のテールパイプの出口において、音圧測定器を用いて音圧レベルを測定した。
上記の各評価結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示されるように、有効流路方向長さが不均一である実施例1及び2のハニカム構造体を用いた消音器は、目封止部を形成しなかった比較例1のハニカム構造体を用いた消音器及び有効流路方向長さが均一である比較例2のハニカム構造体を用いた消音器に比べて、音圧レベルが低くなった。
【0054】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、消音機能が良好であるとともに、集塵用フィルタ又は触媒コンバータとしての機能も有することが可能な消音器及び消音器用ハニカム構造体を提供することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 ハニカム構造体
2 外周壁
3a 第1端面
3b 第2端面
4 セル
5 隔壁
6 ハニカム構造部
7 目封止部
10 筒状部材
11 小孔
20 繊維状吸音材
30 金属缶
100 消音器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7