(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】部品の内部欠陥に処理を施す方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/34 20140101AFI20240710BHJP
G01N 23/18 20180101ALI20240710BHJP
【FI】
B23K26/34
G01N23/18
(21)【出願番号】P 2021561722
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 EP2020058403
(87)【国際公開番号】W WO2020212104
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-03-08
(32)【優先日】2019-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】516227272
【氏名又は名称】サフラン・エアクラフト・エンジンズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】シスタック,ヒューゴ
(72)【発明者】
【氏名】ピエット,ロマリッチ,ジャン-マリー
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-163406(JP,A)
【文献】国際公開第2019/030838(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0033559(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/34
G01N 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一材料で作られた部品(1)の内部欠陥(10)に処理を施すための方法であって、
a)前記部品の前記内部欠陥(10)を検出し位置を特定するステップと、
b)前記部品の内部に、前記欠陥を少なくとも部分的に含む少なくとも1つのターゲットボリューム(4;4’)を定義づけるステップと、
c)各ターゲットボリューム(4;4’)ごとに、前記ターゲットボリュームを、その中で集束する少なくとも2つの連続ビーム(2)によって同時に照射するステップであって、それにより処理済みの領域が得られるステップと、を含み、
各ビームによって前記ターゲットボリュームに印加されるエネルギーは、前記材料を焼結するための閾値エネルギー未満であり、各ビームによって前記ターゲットボリュームに印加されるエネルギーの合計は、変形閾値エネルギー以上であり、前記変形閾値エネルギーは、前記ターゲットボリューム内にある前記材料の選択的焼結を実現したい場合は、前記材料を焼結するための前記閾値エネルギーに対応し、あるいは、前記ターゲットボリューム内にある前記材料の選択的溶融を実現したい場合は、前記材料を溶融するための
他の閾値エネルギーに対応し、
前記部品の前記材料は、前記少なくとも2つのビームに対して半透明である、方法。
【請求項2】
ステップb)が複数のターゲットボリュームを定義づけ、ステップc)で前記ターゲットボリュームが同時に照射される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップb)が複数のターゲットボリュームを定義づけ、ステップc)で前記ターゲットボリュームが連続的に照射される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップb)が、前記欠陥(10)を完全に含んだ、前記部品内の
一つのターゲットボリューム(4)を定義づけることからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップc)の後に、最初の欠陥が消失したかどうかをチェックするように前記処理済みの領域を制御するステップをさらに含み、前記制御ステップは、新たな内部欠陥を検出することを含み、前記処理済みの領域で新たな内部欠陥が検出された場合、前記新たな内部欠陥の位置が特定され、ステップb)およびc)が繰り返される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
内部欠陥の前記検出が、非破壊技術によって実行される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップc)で、前記少なくとも2つのビームが、前記ターゲットボリュームの中で集光される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも2つのビームが、それらの集光点で集束する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップc)で、前記少なくとも2つのビームが、同じ表面エネルギーを有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも2つのビームの数が3つである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも2つのビームが、同じ性質のエネルギービームであり、レーザービーム、マイクロ波ビーム、UVビーム、およびIRビームから選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
各ターゲットボリュームが、10μm~1mmに含まれる最大寸法を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一部品の欠陥に、その修復を可能にする処理を施す方法に関する。
【背景技術】
【0002】
部品が鋳造などの標準的な方法で製造されたものであるか、粉末床での積層造形など最近の製法で製造されたものであるかを問わず、製造時、その部品の中に内部欠陥(空孔、溶融不足、亀裂など)が発生することがある。
【0003】
しかしながら、このような内部欠陥の存在は、特に航空などの特定の分野では、疲労に対する耐性を低下させ、予想よりも早く部品の障害を引き起こす可能性があるため、許容できない場合がある。したがってそのような部品は、修復されなければ、廃棄される。
【0004】
このタイプの内部欠陥の存在は、一般に、部品の非破壊検査(X線、断層撮影、マイクロトモグラフィなど)を行うことによって検出される。こういった欠陥はまた、部品の製造時に、製造中の製法の制御(プロセス制御)、例えばマイクロトモグラフィや、製造中のX線の照射、溶融浴の監視等によっても検出できる。一例としては、粉末床でのレーザー溶融では、製造中の溶融浴の観察によって、製造後に潜在的な欠陥を突きとめることが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、特に、部品の深部にあるかかる内部欠陥を修正することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のために、本発明は、一材料で作られた部品の内部欠陥に処理を施すための方法を提案し、前記方法は、
a)前記部品の前記内部欠陥を検出し位置を特定するステップと、
b)前記部品の内部に、前記欠陥を少なくとも部分的に含む少なくとも1つのターゲットボリュームを定義づけるステップと、
c)各ターゲットボリュームごとに、前記ターゲットボリュームを、その中で集束する少なくとも2つの連続ビームによって同時に照射するステップであって、それにより処理済みの領域が得られるステップと、を含み、
各ビームによって前記ターゲットボリュームに印加されるエネルギーは、前記材料を焼結するための閾値エネルギー未満であり、各ビームによって前記ターゲットボリュームに印加されるエネルギーの合計は、変形閾値エネルギー以上であり、前記変形閾値エネルギーは、前記ターゲットボリューム内にある前記材料の選択的焼結を実現したい場合は、前記材料を焼結するための前記閾値エネルギーに対応し、あるいは、前記ターゲットボリューム内にある前記材料の選択的溶融を実現したい場合は、前記材料を溶融するための前記閾値エネルギーに対応し、
前記部品の前記材料は、前記少なくとも2つのビームに対して半透明である。
【0007】
第1の代替形態によると、ステップb)が複数のターゲットボリュームを定義づけ、ステップc)で前記ターゲットボリュームが同時に照射される。
【0008】
第2の代替形態によると、ステップb)が複数のターゲットボリュームを定義づけ、ステップc)で前記ターゲットボリュームが連続的に照射される。
【0009】
一代替形態によると、ステップb)は、前記欠陥を完全に含んだ、前記部品内の一意のターゲットボリュームを定義づけることからなる。
【0010】
本発明の一実施形態によると、前記方法は、ステップc)の後に、最初の欠陥が消失したかどうかをチェックするように前記処理済みの領域を制御するステップをさらに含み、前記制御ステップは、新たな内部欠陥を検出することを含み、前記処理済みの領域で新たな内部欠陥が検出された場合、前記新たな内部欠陥の位置が特定され、ステップb)およびc)が繰り返される。
【0011】
有利には、内部欠陥の前記検出は、非破壊技術によって実行される。これは、例えば、断層撮影、マイクロトモグラフィ、またはX線などのいわゆるNDT(「非破壊検査」の略)であり得る。
【0012】
好ましくは、ステップc)で、前記少なくとも2つのビームは、前記ターゲットボリュームの中で集光される。
【0013】
好ましくは、前記少なくとも2つのビームは、それらの集光点で集束する。
【0014】
有利には、ステップc)で、前記少なくとも2つのビームは、同じ表面エネルギーを有する。
【0015】
本発明の好ましい一実施形態によると、前記少なくとも2つのビームの数は3つである。
【0016】
好ましくは、前記少なくとも2つのビームは、同じ性質のエネルギービームであり、レーザービーム、マイクロ波ビーム、UVビーム、およびIRビームから選択される。
【0017】
本発明による方法は、最大寸法が10μm~500μmに含まれ得る欠陥の処理を可能にする。好ましくは、各ターゲットボリュームは、10μm~1mmに含まれる最大寸法を有する。処理を施すべき欠陥に対してターゲットボリュームを大きくすることにより、欠陥の周囲にある領域を溶融または焼結して、その領域の材料を均質化することが可能になる。一例としては、空孔タイプの欠陥を、その欠陥を含んだそれより大きい立体領域を再溶融することによって再溶融する場合に、その再溶融を材料を追加せずに行うと、それによって、空孔を、再溶融済みの立体領域全体に広がる複数の小さい空孔に「拡散」させることが可能になる。
【0018】
本開示において、「…~…に含まれる」という表現は、限界値を含むものと理解されたい。
【0019】
本発明のおかげで、部品の立体領域内部にあるターゲットボリュームの中で三次元の溶融または焼結を実行することが可能になる。したがって、前記方法を用いると、部品の内部にあり、通常ならその部品の廃棄を招いて許容できないであろう単発の欠陥を、外部から材料を追加することなく修復、または簡単に一定限度にとどめることが可能になる。
【0020】
非限定的な例として示す以下の説明を、添付の図面を参照して読むと、本発明についてより一層理解が深まり、本発明のその他の詳細、特徴および利点が明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1a】本発明による処理方法の第1の実施形態のステップを示す図である。
【
図1b】本発明による処理方法の第1の実施形態のステップを示す図である。
【
図1c】本発明による処理方法の第1の実施形態のステップを示す図である。
【
図2a】本発明による処理方法の第2の実施形態のステップを示す図である。
【
図2b】本発明による処理方法の第2の実施形態のステップを示す図である。
【
図2c】本発明による処理方法の第2の実施形態のステップを示す図である。
【
図2d】本発明による処理方法の第2の実施形態のステップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明によると、内部欠陥に処理を施す(ここでは修復する)ことを目的とした、損傷部品のターゲットボリュームへの同時照射には、少なくとも2つのビーム、好ましくは3つのビームを使用する。
【0023】
これらのビームは連続的なものである。
【0024】
処理を施す部品は、金属材料(金属または合金)、セラミックまたはポリマー製であり得る。
【0025】
使用するビームのタイプの選択は、前記ターゲットボリューム内に、その材料を溶融または焼結させて欠陥を消失させるために蓄積しなければならないエネルギーに応じて行う。したがって、この選択は材料によって決まるが、実現したいことが材料の焼結か溶融かどうかにも依存する。実現したいことが材料の焼結の場合は、集束させた各ビームによってターゲットボリュームを同時に照射する際に、そこに蓄積されるエネルギーの合計が、焼結に必要な閾値エネルギー以上でなければならない。実現したいことが材料の溶融の場合は、ターゲットボリューム内の前記エネルギーの合計が、溶融に必要な閾値エネルギー以上でなければならない。
【0026】
また、部品の材料は、選択したビームに対して半透明である必要がある。材料によるビームの吸収が最大で60%までならば、その材料はビームに対して半透明であると見なされる(値0%は除外)。
【0027】
好ましくは、各エネルギービームは同じ性質のものが選択される。
【0028】
各ビームは、同一の供給源によって生成されても、別々の供給源によって生成されてもよく、同一の供給源のビームは、必要な数のビームに分割される。
【0029】
一例として、ニッケル合金(例えばインコネル(Inconel、登録商標)718タイプ)またはチタン合金(例えばTA6V)で作られた金属部品におけるターゲットボリュームの溶融を行うには、マイクロ波ビームが、合計出力200~400Wおよび/または単位長さ当たりのエネルギー0.01J/mm~1J/mmを実現するように使用され得る。例えば、出力200Wを実現するには、100Wビームが2つ使用され得る。これにより例えば、圧縮機ブレードを実際に製造することができる。
【0030】
エポキシ樹脂などの熱硬化性ポリマーは、防音パネルまたは動力装置カバー部品(例えば防振部品)の製造に使用されるが、こういった熱硬化性ポリマーで作られた部品のターゲットボリュームの溶融には、出力60~100Wかつ/または表面エネルギー0.001~0.05J/mm2のUVビーム、または出力20~40Wかつ/または表面エネルギー0.005~0.025J/mm2のレーザービームが使用され得る。
【0031】
材料の溶融または焼結を意図した1つまたは複数のターゲットボリュームを定義づける場所(つまり、各ターゲットボリュームの中でビームを向ける場所)を、欠陥の形状と軌跡に応じて決定できるようにするには、その欠陥の検出と位置特定が十分に高精度である必要がある。
【0032】
ここで対象となる欠陥のタイプは、最大寸法が10μm~500μm(限界値を含む)であることが好ましい。これは、例えば亀裂であり得る。したがって、±10μmの検出/位置特定の精度が求められる。この精度は、マイクロトモグラフィによって可能となる。
【0033】
有利には、ステップc)(事実上、欠陥を修復するステップである)の後に、欠陥が実際に処理かつ修復されたことをチェックできる検出ステップがさらにあってもよい。欠陥がまだ存在する場合は、その欠陥の位置を特定し、それが消失するまで、少なくとも1つのターゲットボリュームを定義づけるためのステップb)や、定義づけたターゲットボリュームを同時照射するためのステップc)等をやり直すことが可能である。
【0034】
特定の欠陥、つまり空隙で占められ、材料が不十分な欠陥には、前記方法で処理を施すのが困難な場合がある。こういった欠陥については、修復ステップを複数回行いながら(つまり、ステップb)とc)からなるシーケンスを複数回繰り返しながら)、1つまたは複数のターゲットボリュームを部品の外表面に向かって移動させる必要があり得る。したがって表面に移動させた欠陥は、材料を追加することによって修復することができる。
【0035】
本発明による方法の第1の実施形態が、
図1a~1cに示されている。
図1aに、内部欠陥10を有する欠陥部品1が、立方体で表されている。ビーム2の原点が円3で表されている。
【0036】
欠陥10が検出され、その位置が特定される。次に、その欠陥10を完全に含んだ、欠陥部品1のターゲットボリューム4を局所的に溶融または焼結するために、同じ性質をもつ3つのビーム2が使用される。したがって、この3つのビームのエネルギーの合計が、前記部品の、材料を溶融したい的確な局所領域に伝達される。これは、人工衛星での三角測量の場合と同様に、空間内の厳密なポイントを3本の直線で表現できるためである。
図1bでは、3つのビームが同時に、ターゲットボリューム4に向かって、その中で集束するように方向づけられている。ターゲットボリューム4は、内部欠陥10を含んでおり、したがって欠陥部品1を表す立方体の内側に位置している。ターゲットボリューム4に含まれる材料が、溶融状態になるまで加熱され、次に冷却されると、材料が溶融または焼結されたターゲットボリューム5が形成され、したがって修復済みの部品100(
図1c)が得られる。ここで処理が施された領域は、溶融または焼結済みの材料を含んだターゲットボリューム5である。
【0037】
本発明による方法の第2の実施形態が、
図2a~2dに示されている。
図2aでは、欠陥部品1が、
図1aよりも大きく示された内部欠陥10を含んでいる。この欠陥10の一部分を含んだ第1のターゲットボリューム4が定義づけられ、そのターゲットボリューム4に対して、3つのビーム2を同時に方向づけてその中で集束させることにより、処理が施される(
図2b)。前記欠陥の、第1のターゲットボリュームに含まれている部分は、そのターゲットボリューム4の材料が溶融または焼結されると消失して、溶融または焼結済みのターゲットボリューム5になる。次に、前記第1のターゲットボリューム4(つまり溶融または焼結済みのターゲットボリューム5)に隣接する、第2のターゲットボリューム4’が定義づけられることによって、欠陥10の残りの部分に処理が施される。前記3つのビーム2が、第2のターゲットボリューム4’の中で集束するように方向づけられる(
図2c)。処理後、前記部品の処理済みの領域は、焼結または溶融済みの材料を含んだ2つのターゲットボリューム5を含み、修復済みの部品100(
図2d)が得られる。
【0038】
当然ながら、ビーム源は、所望の領域に確実に高精度で処理を施すことができるように、互いに十分な距離をとって配設される。
【0039】
本発明の好ましい一代替形態によると、前記3つのビームはそれぞれ、ターゲットボリュームへの印加エネルギーが、ターゲットボリューム4または4’に含まれる材料の溶融または焼結に必要なエネルギーの3分の1に等しくなるように構成される。したがって、ターゲットボリュームに含まれる材料の溶融または焼結は、そのターゲットボリュームの中で3つのビームが同時に一点で交わる場合にのみ行われ、したがって、ビームが不正確に配置された場合の望ましくない溶融または焼結が防止される。
【0040】
本発明による方法は、例えば、寸法250μm×100μm×50μmの内部欠陥を含んだポリマー樹脂部品を、その欠陥に対して3つのUVビームを方向づけることで修復することに使用されている。各UVビームは、出力が30W(または合計出力90W)、集束点のビーム径が100μm、速度が2mm/sである。
【符号の説明】
【0041】
1 欠陥部品
2 ビーム
3 ビームの原点
4 第1のターゲットボリューム
4’ 第2のターゲットボリューム
5 溶融または焼結済みのターゲットボリューム
10 内部欠陥
100 修復済みの部品