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特許7518865ソイルセメントの圧縮強度評価方法およびその装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】ソイルセメントの圧縮強度評価方法およびその装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/38 20060101AFI20240710BHJP
   G01N 33/24 20060101ALI20240710BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
G01N33/38
G01N33/24 B
E02D3/12 102
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022002902
(22)【出願日】2022-01-12
(65)【公開番号】P2023102428
(43)【公開日】2023-07-25
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000228660
【氏名又は名称】日本コンクリート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】新名 正英
(72)【発明者】
【氏名】千種 信之
(72)【発明者】
【氏名】児玉 貴之
(72)【発明者】
【氏名】藤井 衛
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-102148(JP,A)
【文献】登録実用新案第3007452(JP,U)
【文献】特開2014-111879(JP,A)
【文献】特開昭58-066849(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0108456(US,A1)
【文献】新名正英 他,比抵抗探査法を利用した埋込み杭における根固め部の孔壁位置調査方法,日本建築学会技術報告集,日本建築学会,2020年10月,Vol.26, No.64,887-892,https://doi.org/10.3130/aijt.26.887
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
G01N 33/24
G01N 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系材料と土質材料と水とを混合して形成されるソイルセメントの硬化後の強度特性を推定するソイルセメントの圧縮強度評価方法であって、
ソイルセメントの圧縮強度と有効セメント水比と電気比抵抗との相関関係を求める設定ステップと、
掘削孔内に注入したセメントミルクと掘削孔内の土砂とを混合攪拌することで、有効セメント水比を取得したソイルセメントを築造する築造ステップと、
前記掘削孔内の未固結状態のソイルセメントの電気比抵抗を計測する計測ステップと、
前記有効セメント水比と前記電気比抵抗とにより、前記相関関係から前記ソイルセメントの硬化後の強度特性を推定する評価ステップと、を備え
前記評価ステップでは、圧縮強度、有効セメント水比、および、複数の管理基準値が記入されたチャートを用い、計測された前記未固結状態のソイルセメントの電気比抵抗と前記ソイルセメントの有効セメント水比とから求めた値を前記チャートに打点することで前記ソイルセメントの硬化後の圧縮強度が必要強度を満足するか否かを評価する
ことを特徴とするソイルセメントの圧縮強度評価方法。
【請求項2】
計測ステップでは、複数の電流電極と複数の電圧電極とを有する比抵抗計測手段を用い、前記電流電極に電流を流すことで前記電圧電極に印加される電圧の値を計測し、前記電流の値と前記電圧の値と前記電流電極および前記電圧電極の電極間隔とに基づいて電気比抵抗を算出する
ことを特徴とする請求項1記載のソイルセメントの圧縮強度評価方法
【請求項3】
セメント系材料と土質材料と水とを混合して形成されるソイルセメントの硬化後の強度特性を推定するソイルセメントの圧縮強度評価装置であって、
電気比抵抗を計測する比抵抗計測手段と、
この比抵抗計測手段により計測された未固結状態のソイルセメントの電気比抵抗と前記固結状態のソイルセメントの有効セメント水比とにより、予め求められたソイルセメントの圧縮強度と有効セメント水比と電気比抵抗との相関関係に基づき前記ソイルセメントの硬化後の強度特性を推定する評価手段と、を備え
前記評価手段は、前記比抵抗計測手段により計測された前記未固結状態のソイルセメントの電気比抵抗と、硬化後の前記ソイルセメントの圧縮強度と、前記未固結状態のソイルセメントの有効セメント水比とに基づいて予め設定された前記ソイルセメントの電気比抵抗の複数の管理基準値のうち前記未固結状態のソイルセメントの有効セメント水比における前記ソイルセメントの必要強度に応じた値と、の比較により、前記ソイルセメントの硬化後の圧縮強度が必要強度を満足するか否かを評価する
ことを特徴とするソイルセメントの圧縮強度評価装置
【請求項4】
比抵抗計測手段は、複数の電流電極と複数の電圧電極とを有し、前記電流電極に電流を流すことで前記電圧電極に印加される電圧の値を計測し、前記電流の値と前記電圧の値と前記電流電極および前記電圧電極の電極間隔とに基づいて電気比抵抗を算出する
ことを特徴とする請求項記載のソイルセメントの圧縮強度評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソイルセメントの硬化後の圧縮強度を評価するソイルセメントの圧縮強度評価方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば既製コンクリート杭の埋設工事に際して、上部構造物の荷重を、杭を通じて支持層の広範囲へと伝達するために、杭の最深部に根固め部を築造する。根固め部の掘削孔は、より大きな支持力を確保するために、杭の外径より一回り大きく掘削され、杭と掘削孔との空隙がソイルセメントで充填される。ソイルセメントは、掘削孔内の土砂と地上から地中に注入されたセメントミルクとを混合攪拌して形成される。
【0003】
根固め部が所定強度を満足するか否かを判断するには、杭施工時にミキシングプラントよりセメントミルクを直接採取して作製した供試体の強度を計測する方法、杭施工時の未固結試料(ソイルセメント)の採取により強度を確認する方法(例えば、特許文献1参照)、および、ソイルセメントの硬化後にボーリングマシンを用いて供試体を直接採取する方法、等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-102817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの方法は、いずれも施工から時間が経過してからの確認となるため、確認の結果、仮に不備が見つかった場合、杭の再施工が困難になる。
【0006】
また、ミキシングプラントよりセメントミルクを直接採取して作製した供試体の強度を計測する方法の場合、あくまでも杭施工時に用いた根固め部の固結強度の計測であり、原位置土とセメントミルクとの混練物であるソイルセメントの強度を確認するものではなく、根固め部の強度確認方法としての信頼性に欠ける。
【0007】
未固結試料(ソイルセメント)の採取により強度を確認する方法の場合、杭孔を掘削した後にセメントミルクを注入し、内部の土砂と混合攪拌した後のソイルセメントを、実際に施工する杭孔とは別個に形成した専用の孔から専用の採取器により採取し、一定の材齢期間(3~28日)を経て圧縮試験を行って品質を確認する。根固め部内の一部から採取するという局所的な評価であるため、全体の評価をしているとは言い難い。
【0008】
ソイルセメントの硬化後にボーリングマシンを用いて供試体を採取するコアボーリング調査の場合には、杭孔の掘削後にセメントミルクを注入し、内部の土砂と混合攪拌した後に杭を挿入し、ソイルセメントの硬化後(2~4週間後)にボーリングマシンを用いて供試体を採取し、圧縮試験を行って強度確認により品質を確認する。採取装置の設置のためにボーリング孔を設ける必要があるので、費用が嵩む。また、根固め部内の一部から採取するという局所的な評価であるため、全体の評価をしているとは言い難い。
【0009】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、ソイルセメントの硬化後の圧縮強度を未固結状態下で短時間に精度よく評価できるソイルセメントの圧縮強度評価方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載のソイルセメントの圧縮強度評価方法は、セメント系材料と土質材料と水とを混合して形成されるソイルセメントの硬化後の強度特性を推定するソイルセメントの圧縮強度評価方法であって、ソイルセメントの圧縮強度と有効セメント水比と電気比抵抗との相関関係を求める設定ステップと、掘削孔内に注入したセメントミルクと掘削孔内の土砂とを混合攪拌することで、有効セメント水比を取得したソイルセメントを築造する築造ステップと、前記掘削孔内の未固結状態のソイルセメントの電気比抵抗を計測する計測ステップと、前記有効セメント水比と前記電気比抵抗とにより、前記相関関係から前記ソイルセメントの硬化後の強度特性を推定する評価ステップと、を備え、前記評価ステップでは、圧縮強度、有効セメント水比、および、複数の管理基準値が記入されたチャートを用い、計測された前記未固結状態のソイルセメントの電気比抵抗と前記ソイルセメントの有効セメント水比とから求めた値を前記チャートに打点することで前記ソイルセメントの硬化後の圧縮強度が必要強度を満足するか否かを評価するものである。
【0011】
請求項2記載のソイルセメントの圧縮強度評価方法は、請求項1記載のソイルセメントの圧縮強度評価方法において、計測ステップでは、複数の電流電極と複数の電圧電極とを有する比抵抗計測手段を用い、前記電流電極に電流を流すことで前記電圧電極に印加される電圧の値を計測し、前記電流の値と前記電圧の値と前記電流電極および前記電圧電極の電極間隔とに基づいて電気比抵抗を算出するものである。
【0012】
求項記載のソイルセメントの圧縮強度評価装置は、セメント系材料と土質材料と水とを混合して形成されるソイルセメントの硬化後の強度特性を推定するソイルセメントの圧縮強度評価装置であって、電気比抵抗を計測する比抵抗計測手段と、この比抵抗計測手段により計測された未固結状態のソイルセメントの電気比抵抗と前記固結状態のソイルセメントの有効セメント水比とにより、予め求められたソイルセメントの圧縮強度と有効セメント水比と電気比抵抗との相関関係に基づき前記ソイルセメントの硬化後の強度特性を推定する評価手段と、を備え、前記評価手段は、前記比抵抗計測手段により計測された前記未固結状態のソイルセメントの電気比抵抗と、硬化後の前記ソイルセメントの圧縮強度と、前記未固結状態のソイルセメントの有効セメント水比とに基づいて予め設定された前記ソイルセメントの電気比抵抗の複数の管理基準値のうち前記未固結状態のソイルセメントの有効セメント水比における前記ソイルセメントの必要強度に応じた値と、の比較により、前記ソイルセメントの硬化後の圧縮強度が必要強度を満足するか否かを評価するものである。
【0013】
求項記載のソイルセメントの圧縮強度評価装置は、請求項記載のソイルセメントの圧縮強度評価装置において、比抵抗計測手段は、複数の電流電極と複数の電圧電極とを有し、前記電流電極に電流を流すことで前記電圧電極に印加される電圧の値を計測し、前記電流の値と前記電圧の値と前記電流電極および前記電圧電極の電極間隔とに基づいて電気比抵抗を算出するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ソイルセメントの硬化後の圧縮強度を未固結状態下で短時間に精度よく評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施の形態の圧縮強度評価装置を示すブロック図である。
図2】(a)は掘削装置が地中を掘削している状態を示す模式図であり、(b)は掘削装置が掘削孔から引き抜かれた状態を示す模式図であり、(c)は掘削孔に既成コンクリート杭が埋設された状態を示す模式図である。
図3】同上圧縮強度評価装置の比抵抗測定手段(電極配置)を示す模式図である。
図4】同上ソイルセメントの硬化後の圧縮強度の評価方法を示すフローチャートである。
図5】ソイルセメント調整土の圧縮強度と有効セメント水比との関係を示すチャートである。
図6】有効セメント水比40%を基点として再計算した近似直線勾配と電気比抵抗との関係を示すチャートである。
図7】複数の異なる混合比で混合した複数の根固め液をサンプルとして用いた圧縮強度、有効セメント水比、および、電気比抵抗の関係を示すチャートである。
図8】同上圧縮強度評価装置のソイルセメントの硬化後の圧縮強度を評価するための管理基準値が記入されたチャートである。
図9】本実施例の圧縮強度、有効セメント水比、および、電気比抵抗の関係を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
図1において、1は圧縮強度評価装置である。圧縮強度評価装置1は、既製杭である既製コンクリート杭2を支持するソイルセメント3の未固結(未硬化)状態での電気比抵抗に基づき、硬化後の圧縮強度を推定し評価するものである。圧縮強度評価装置1は、地中のソイルセメント3に到達できるものであれば、任意のものに適用してよいが、本実施の形態では、例えば地中を支持層まで掘削しながらセメントミルク等の根固め液を注入可能なオーガ等の掘削装置5に適用される。
【0018】
図2(a)に示されるように、掘削装置5は、地中を進行方向に向かって掘削する掘削部本体としての掘削ヘッド6と、掘削ヘッド6とともに地中を掘削可能な掘削翼7と、を有する。
【0019】
掘削翼7は、先端部が掘削ヘッド6に対して接離するように回動可能に設けられている。すなわち、掘削翼7は、基端部側が掘削ヘッド6に回動可能に軸支され、その軸支された部分を中心に先端部が回動可能である。
【0020】
そして、掘削装置5は、掘削翼7が掘削ヘッド6に接近した通常状態、および、掘削翼7が掘削ヘッド6から外側へ離間した拡大状態のいずれの状態でも地中を掘削可能である。すなわち、掘削装置5は、通常状態で掘削ヘッド6および掘削翼7にて所定深さ(支持層)まで地中を掘削することで、掘削孔8における上側掘削部10を形成する。また、支持層に達した後に拡大状態で掘削することで、掘削孔8における拡大掘削部11を形成する。拡大掘削部11の位置に根固め部12(図2(c))が形成される。
【0021】
図1に示されるように、圧縮強度評価装置1は、未硬化のソイルセメント3の電気比抵抗を計測する比抵抗計測手段(電気抵抗計測装置)15を有する。比抵抗計測手段15は、掘削装置5において、任意の位置に配置されてよいが、例えば図2(a)に示される掘削ヘッド6、あるいは、掘削ヘッド6の上部に連結されるスクリュウ、攪拌ロッド、連結ロッドのいずれかに配置される。
【0022】
図1に示される比抵抗計測手段15は、電気を利用して未硬化のソイルセメント3(図2(a))の電気比抵抗を計測可能な(電気探査可能な)任意の構成としてよいが、本実施の形態では、図3に示されるように、電流を流す1組(2つ)の電流電極16と、電圧を計測する1組(2つ)の電圧電極17と、を備える電極部18を有し、この電極部18により、ウェンナーの四電極法を用いて未硬化のソイルセメント3の電気比抵抗を計測する。
【0023】
すなわち、本実施の形態において、電流電極16および電圧電極17は、それぞれ1列で所定の間隔(電極間隔a)で等配され、1組の電流電極16の内側に1組の電圧電極17が配置されている。そして、電極部18がソイルセメント3に位置した状態にて電流電極16に所定値の電流Iを流すことで、電圧電極17にて電位差(電圧)Vを計測し、それら電流Iおよび電圧Vに基づいて、ソイルセメント3の抵抗Rを求めることができ、さらに抵抗Rの値と電極間隔aの値とに基づいて、ソイルセメント3において電極間隔aと等しい範囲の領域の電気比抵抗を求めることができる。
【0024】
電極部18における電流電極16および電圧電極17の電極間隔をaとし、電流電極16に所定値の電流Iを流すことで電圧電極17にて計測される電圧Vによって、抵抗R(Ω)=電圧V(V)/電流I(A)の式から抵抗Rが算出される。また、抵抗Rおよび電極間隔aに基づいて、電流電極16および電圧電極17から電極間隔aと等しい距離の領域における電気比抵抗ρが、ρ(Ω・m)=2πaRの式から算出される。
【0025】
この電気比抵抗ρは、地層を構成する物質の組成が同じであれば一定値となり、地層を構成する物質の組成が異なると変化する。本実施の形態では、これを、根固め部12(図2(c))に充填されるソイルセメント3の硬化後の圧縮強度を推定、評価するための手段に応用する。
【0026】
したがって、図2(a)に示されるように掘削装置5により地中を掘削し根固め液を注入し、図2(b)に示されるように土砂と根固め液とを混合撹拌してソイルセメント3を構成した後に、図1に示される比抵抗計測手段15によって電気比抵抗ρを計測する。
【0027】
比抵抗計測手段15によって計測された電気比抵抗ρは、評価手段20へと送られる。評価手段20は、例えば汎用のPC等のコンピュータに専用のソフトウェアがインストールされて構成されている。評価手段20は、比抵抗計測手段15に対し、有線接続されていてもよいし、赤外線信号、あるいはインターネット等のネットワークを介して無線接続されていてもよい。評価手段20は、好ましくはディスプレイ等の表示手段、および、数値を入力するキーボードやタッチパネルディスプレイなどの入力手段を有する。
【0028】
そして、評価手段20を用いて、硬化後のソイルセメント3(図2(a))の圧縮強度が必要強度を満足するか否かを評価する。
【0029】
この圧縮強度の評価方法について説明する。
【0030】
概略として、本実施の形態では、図4のフローチャートに示すように、硬化後のソイルセメント3に必要な圧縮強度とソイルセメント形成部の土壌の特性値に基づいて算出した有効セメント水比とに基づいて、ソイルセメント3の電気比抵抗の複数の管理基準値を設定する(設定ステップ、ステップS0)。すなわち、ソイルセメント3の圧縮強度と有効セメント水比と電気比抵抗との相関関係を求める。
【0031】
次いで、既製コンクリート杭2を定着させるために必要な深度まで掘削孔8を掘削装置5により掘削する(掘削ステップ、ステップS1)。
【0032】
さらに、掘削孔8内にセメント系材料および水を含むセメントミルクを注入し、掘削孔8内の土質材料である土砂とセメントミルクとを混合攪拌することで、掘削孔8内に有効セメント水比を取得したソイルセメント(ソイルセメント改良体)3を築造する(築造ステップ、ステップS2)。
【0033】
ソイルセメント3の築造後、比抵抗計測手段15を備える掘削装置5を掘削孔8内に進行させ、掘削孔8内の未固結状態のソイルセメント3の電気比抵抗を計測する(計測ステップ、ステップS3)。本実施の形態では、上記のように、比抵抗計測手段15の電流電極16に電流を流すことで電圧電極17に印加される電圧の値を計測し、電流の値と電圧の値と電流電極16および電圧電極17の電極間隔aとに基づいて電気比抵抗を算出する。なお、電気比抵抗の計測は、ステップS2のソイルセメント3の築造時に同時に行ってもよい。
【0034】
この後、ステップS2で取得した有効セメント水比と、ステップS3で計測した電気比抵抗と、ステップS0で設定した電気比抵抗の複数の管理基準値のうちソイルセメント3の有効セメント水比におけるソイルセメント3の必要強度に応じた値と、に基づいて、有効セメント水比と電気比抵抗との値における照合を実施し、硬化後のソイルセメント3の圧縮強度が必要強度を満足するか否かを評価し、合否を判定する(評価ステップ、ステップS4)。
【0035】
次に、上記の設定ステップのソイルセメント3の電気比抵抗の複数の管理基準値の設定について説明する。
【0036】
まず、コンクリートの圧縮強度は、セメントの化学反応の進行と密接に関係があるという考えに基づき、コンクリート1m中の水和結晶したセメント量と、初めに用いられた水量との比、すなわちセメント水比によって定まるものである。
【0037】
セメントの添加量(質量)を全有効水量(質量)で除して求めた質量比を有効セメント水比とすると、有効セメント水比と圧縮強度との間には、良好な相関関係がみられ、圧縮強度は、セメントの添加量と全有効水量とによって推定できる。
【0038】
ここで、全有効水量については、土中で形成されるソイルセメントの場合、土中に含まれる水量も圧縮強度に寄与するので、この土中水量を練り混ぜ水の添加水量に加える必要があり、また成形時には一定量のブリーディング水が発生しソイルセメントの圧縮強度には寄与しない部分が出るので、このブリーディング水を添加水量から除く。したがって、全有効水量Wは、自然水量(質量)をWw0、掘削水量(質量)をWw1、セメントミルクの練混ぜ水の質量をW、硬化時に発生するブリーディング水(練混ぜから24時間後のブリーディング水量)をWとして、
=Ww0+Ww1+W-W
により規定される。
【0039】
施工時には、セメントミルク液体中に掘削孔壁から巻き込まれる土砂の量も圧縮強度に影響を与えると考えられるので、圧縮強度と土砂を含む有効セメント水比との具体的関係を、複数種類のソイルセメント調整土と複数種類のセメントミルクとを複数の異なる混合比で混合した複数の根固め液をサンプルとして用いることで予め算出する。
【0040】
一例として、ソイルセメント調整土に、予め飽和度が100%付近になるように調整した笠岡粘土(登録商標)と珪砂7号とを用い、体積比(粘土:珪砂)で10:0、9:1、8:2、……、2:8、1:9、0:10に混合した11種類を予め用意する。
【0041】
また、セメントミルクは、一般的に採用される、水セメント比が60%、80%、100%の3種類のものを予め用意する。
【0042】
これらソイルセメント調整土とセメントミルクとを、体積比で1:1、1:2、1:3、1:4として予め混合して根固め液とする。すなわち、根固め液を計132(=11×3×4)種類用意する。
【0043】
そして、これらの根固め液において、調整土の圧縮強度と有効セメント水比との関係性を、下記の数1の式に基づき確認する。
【0044】
【数1】
【0045】
なお、当該数式において、C/Wは有効セメント水比(%)、Pcmはセメントミルクの水セメント比(%)、ρは調整土の密度(g/cm)、ωは実測含水比(%)、qcmは配合体積比におけるセメントミルクの割合(1≦qcm≦4)、ρcmはセメントミルクの密度(g/cm)を示す。
【0046】
上記のサンプルに基づくソイルセメント調整土の圧縮強度と有効セメント水比との関係を図5に示す。図5において、括弧内の数値は調整土の含水比(%)を示す。この図5に示されるように、ソイルセメント調整土の圧縮強度と有効セメント水比との近似直線(回帰直線)勾配は含水比に応じて異なり、圧縮強度が0N/mmで有効セメント水比が約40%に収束することが確認できる。
【0047】
そこで、有効セメント水比40%を基点として再計算した近似直線(回帰直線)勾配θと電気比抵抗ρとの関係を図6に示す。図6において、括弧内の数値は含水比(%)を示す。この図6に示されるように、電気比抵抗ρの増加に伴い、近似直線勾配θが減少することが確認できる。近似直線(回帰直線)勾配θと電気比抵抗ρとを直線近似することで、直線関数に表すことができ、図示される例では、θ=-12.275ρ+39.229、決定係数R=0.84である。
【0048】
これらの結果から、圧縮強度と電気比抵抗及び含水量との間には極めて高い相関性が存在していることが分かる。そこで、上記の132種類の根固め液から算出されたデータを図7に示すようにプロットすることで、例えば管理基準値として電気比抵抗ρ=0.8~3.0のラインを記入したチャート(図8)を作成する。図7において、括弧内の数値は含水比(%)を示す。このチャートは、評価手段20に予め記憶されていてもよいし、ネットワーク上のクラウドサーバ等に記憶されていて、使用時にダウンロードするようにしてもよい。
【0049】
このように、設定ステップでは、実際の複数のサンプルを用いて、ソイルセメント3の硬化後の圧縮強度と有効セメント水比との関係に、複数の管理基準値としての電気比抵抗を重ねたチャートを構成する。このチャートを用いることで、ソイルセメント3の硬化後の圧縮強度と、有効セメント水比と、電気比抵抗と、の関係を互いに関連付けることが可能になる。
【0050】
このチャートを用いた評価ステップの詳細について説明する。
【0051】
評価ステップでは、上記のチャートから、未固結状態のソイルセメント3の有効セメント水比における硬化後のソイルセメント3の必要強度に応じた電気比抵抗の管理基準値を選択し、その選択した値と、計測ステップで計測した電気比抵抗と、を比較することによって、硬化後のソイルセメント3の圧縮強度が必要強度を満足するか否かを評価する。
【0052】
具体的には、図8に示されるチャートに対し、築造ステップにおいて未固結状態のソイルセメント3の有効セメント水比の線(縦線)を重ね、複数の管理基準値のうち、その線と、必要な強度(横線)とが交差する点を通る、または、その点に最も近いものを選択し、その選択した管理基準値に対し、計測ステップで計測した電気比抵抗が上部に位置するまたは重なっていると合格、下部に位置していると不合格、と判定する。
【0053】
ここで、有効セメント水比(成形されるソイルセメント3の条件)の取得については、ソイルセメント形成部の土壌の特性値を把握し、セメントミルクの密度ρcmを把握し、ソイルセメントの配合体積比におけるセメントミルクの割合qcmを把握して、それらの値により、上記の数1の式を用いてソイルセメント3の有効セメント水比を把握する。
【0054】
ソイルセメント形成部の土壌の特性値を把握する際には、例えば施工前に実施される地盤調査報告に記載された土質状態を利用し、土質力学等で設定されている土の密度ρと含水比ωとを特性値とする。あるいは、原位置の土砂を採取し、例えばJIS A 1202(土粒子の密度試験方法)、JIS A 1203(土の含水比試験方法)に規定される試験を実施することで、土の密度ρと含水比ωとを実測する。さらに、より詳細な判定精度を得る場合には、計測深度の土砂を採取し、土砂の状態を実測することが好ましい。
【0055】
セメントミルクの密度ρcmについては、セメントミルクの練混ぜ配合の水(比重1.00)と使用するセメント(一般的な普通ポルトランドセメントの場合、比重3.16)の比率より算出する。
【0056】
セメントミルクの割合qcmについては、一般にセメントミルクに対し土砂は3割を超えることがないとされていることから、その場合、土を1とするとセメントミルクの割合は2.3となる。そのため、安全性を考慮して数値を丸めるとセメントミルクの割合qcmの最低値は2となり、これを設定する。
【0057】
一例として、ソイルセメント3として、表1に示されるように、土砂なし(セメントミルクのみ)のものと、土砂ありで地盤調査報告に記載の土質状態により土の密度ρと含水比ωとを推定したものと、原位置の土砂を採取し、試験により土の密度ρと含水比ωとを実測したものと、を用いる。数1の式から、土砂なしの場合に有効セメント水比C/Weは最大値となり、土砂ありの場合には、土砂の含水状態に応じて有効セメント水比C/Weが下がる。特に、含水比ωについては実測の方が高く、有効セメント水比C/Weが最も小さくなっている。
【0058】
【表1】
【0059】
これらをそれぞれ図8のチャートに当てはめる。図8において、線L1が土砂なし、線L2が土砂あり(密度・含水比は推定)、線L3が土砂あり(密度・含水比は実測)の有効セメント水比に対応する。それぞれの線L1~L3と、実測された電気比抵抗ρ=2.0との交点から、ソイルセメント3の硬化後の圧縮強度が推定できる。
【0060】
したがって、ソイルセメント3の必要強度が予め分かっていれば、複数の電気比抵抗の管理基準値から評価対象となる未固結状態のソイルセメント3の有効セメント水比における必要強度に応じた値を合否判定用の閾値として選択しておくことで、この値と実測した電気比抵抗との比較のみで圧縮強度が必要強度を満たしているか、容易に判定可能となる。この判定は、評価手段20によって自動的に行ってもよいし、例えば評価手段20の表示手段にチャートを表示し、そのチャートに計測ステップで計測した電気比抵抗を重ねて表示することで、判定者が目視で判定してもよい。未固結状態のソイルセメント3の電気比抵抗および有効セメント水比は、使用者が入力手段を用いて評価手段20に手動で入力してもよいし、有効セメント水比は、評価手段20あるいはクラウドサーバ等に記憶されたデータを用いてもよいし、それらデータまたは実測データから評価手段20により算出してもよい。
【0061】
このように、ソイルセメント3の圧縮強度と有効セメント水比と電気比抵抗との相関関係を予め求め、掘削孔8内に注入したセメントミルクと掘削孔8内の土砂とを混合攪拌することで、有効セメント水比を取得したソイルセメント3を築造し、掘削孔8内の未固結状態のソイルセメント3の電気比抵抗を計測するとともに、これら有効セメント水比と電気比抵抗とにより、相関関係からソイルセメント3の硬化後の強度特性を推定する。より詳細には、硬化後のソイルセメント3の圧縮強度と有効セメント水比とに基づいてソイルセメント3の電気比抵抗の複数の管理基準値を設定し、形成した掘削孔8内にセメントミルクを注入して掘削孔8内の土砂とセメントミルクとを混合することでソイルセメント3を築造し、築造された未固結状態のソイルセメント3の電気比抵抗を計測するとともに、この計測された電気比抵抗と、管理基準値のうちソイルセメント3の有効セメント水比におけるソイルセメントの必要強度に応じた値と、の比較によりソイルセメント3の硬化後の圧縮強度必要強度を満足するか否かを評価する。これにより、ソイルセメント3の硬化後の圧縮強度をソイルセメント3の未固結状態下で短時間に精度よく評価できる。つまり、未固結状態のソイルセメント3の有効セメント水比と、硬化後のソイルセメント3に必要な圧縮強度と、が予め分かっていれば、未固結状態のソイルセメント3の電気比抵抗を測定し、管理基準値と比較するだけで、ソイルセメント3の硬化後の圧縮強度を、ソイルセメント3が未固結のうちに短時間で評価できる。そのため、この評価の結果、仮に硬化後の圧縮強度が必要強度を満足しないと判定された場合であっても、ソイルセメント3の硬化前であるから再施工等が容易である。
【0062】
電気比抵抗を計測する際には、比抵抗計測手段15が、複数の電流電極16に電流を流すことで複数の電圧電極17に印加される電圧の値を計測し、電流の値と電圧の値と電流電極16および電圧電極17の電極間隔aとに基づいて電気比抵抗を算出するため、簡素な構成で電気比抵抗の計測が可能になる。しかも、複数の電流電極16と複数の電圧電極17とを有する電極部18をオーガ等の既存の掘削装置5に取り付けることにより構成できるため、専用の掘削装置を製造する必要がなく、大規模な改造も不要である。
【0063】
さらに、評価ステップでは、圧縮強度、有効セメント水比、および、複数の管理基準値が記入されたチャートを用い、計測された未固結状態のソイルセメント3の電気比抵抗とソイルセメント3の有効セメント水比とから求めた値をチャートに打点することでソイルセメント3の硬化後の圧縮強度が必要強度を満足するか否かを評価するので、目視等で容易に評価が可能になる。
【0064】
また、既知のコンクリート杭工法に容易に適用できるため、汎用性が良好であり、容易に実施できる。
【実施例
【0065】
以下、本実施例について説明する。
【0066】
本実施例では、未固結状態のソイルセメント3の電気比抵抗を用いた上記の実施の形態の圧縮強度の評価の妥当性について実験した。
【0067】
実現場から採取した未固結状態のソイルセメント3に混入する土砂として、コンクリート杭の支持層から採取した5種類(凝灰質粘土、礫混じり細砂、砂質泥岩、砂質土、砂混じり泥岩)の異なる土質試料を用意し、それらにセメントミルクを1:2および1:3の割合で混合攪拌した表2の実施例1ないし実施例10に対し、圧縮強度および電気比抵抗の測定を行い、チャートに打点した。その状態を図9のチャートに示す。
【0068】
【表2】
【0069】
図9に示されるように、有効セメント水比116.6~139.9〔%〕の範囲では、ソイルセメント3の電気比抵抗ρは2.0〔Ω・m〕を境界値として区分できる。したがって、ソイルセメント3の必要強度が15〔N/mm〕以上である場合、電気比抵抗ρ=2.0以下であれば、圧縮強度が15〔N/mm〕以下となるのは9例のうち1例のみであり、電気比抵抗ρが圧縮強度の判定指標として有効であることが確認できた。
【符号の説明】
【0070】
1 圧縮強度評価装置
3 ソイルセメント
8 掘削孔
15 比抵抗計測手段
16 電流電極
17 電圧電極
20 評価手段
a 電極間隔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9