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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】外科手術システムおよび操作装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 34/35 20160101AFI20240710BHJP
   B25J 9/22 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
A61B34/35
B25J9/22 A
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2022176326
(22)【出願日】2022-11-02
(62)【分割の表示】P 2020079005の分割
【原出願日】2020-04-28
(65)【公開番号】P2023010748
(43)【公開日】2023-01-20
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514063179
【氏名又は名称】株式会社メディカロイド
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【弁理士】
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】北辻 博明
(72)【発明者】
【氏名】東條 剛史
(72)【発明者】
【氏名】谷掛 悠祐
【審査官】北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-171457(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0000576(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0194699(US,A1)
【文献】特表2002-537884(JP,A)
【文献】特表2019-504680(JP,A)
【文献】国際公開第2019/070734(WO,A1)
【文献】欧州特許第02879608(EP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 34/30 - 34/37
B25J 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側に医療器具が取り付けられるアーム、および、前記アームを操作するために前記アームに設けられた操作部を含む医療用マニピュレータと、制御装置と、記憶装置と、を備える外科手術システムであって、
前記医療器具は、患者の体表面に挿入されたトロカールを介して前記患者の体内に挿入されて用いられ、
前記操作部は、前記アームに取り付けられた前記医療器具の移動の支点となるピボット位置を前記記憶装置に記憶させるピボット位置教示入力部を備え、
前記ピボット位置教示入力部が操作されることにより、前記制御装置は、前記医療器具の先端位置または前記先端位置から腹壁の厚さ方向に予め設定された距離だけ微調整された位置を前記ピボット位置として前記記憶装置に記憶させるように構成されている、外科手術システム。
【請求項2】
前記医療用マニピュレータは、前記アームの前記ピボット位置が前記記憶装置に記憶されたことを表示する表示部を備える、請求項1に記載の外科手術システム。
【請求項3】
前記ピボット位置教示入力部は、前記操作部の両側面に設けられている、請求項1または2に記載の外科手術システム。
【請求項4】
前記操作部は、前記ピボット位置が前記記憶装置に記憶されたことを表示するピボット位置インジケータを備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の外科手術システム。
【請求項5】
前記操作部は、前記アームによる前記医療器具の移動を操作するためのジョイスティックを備え、
前記制御装置は、前記ジョイスティックの操作に従って前記医療器具が移動するように前記アームを制御するように構成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の外科手術システム。
【請求項6】
前記医療器具は、エンドエフェクタと、前記アームに取り付けられる被駆動ユニットと、前記エンドエフェクタと前記被駆動ユニットとを接続するシャフトと、を備え、
前記操作部は、前記シャフトの長手方向に沿って前記医療器具を並進移動させるモードおよび回転移動させるモードを切り替えるモード切替部と、切り替えられた前記モードを表示するモードインジケータと、を備える、請求項1~5のいずれか1項に記載の外科手術システム。
【請求項7】
前記医療器具は、エンドエフェクタと、前記アームに取り付けられる被駆動ユニットと、前記エンドエフェクタと前記被駆動ユニットを接続するシャフトと、を備え、
前記操作部は、前記シャフトの長手方向に沿って前記医療器具の先端が移動するように前記アームを操作するためのスイッチ部を備える、請求項1~5のいずれか1項に記載の外科手術システム。
【請求項8】
前記アームは、多関節ロボットから構成されているアーム部と、前記アーム部の先端側に設けられるとともに前記医療器具が取り付けられ、前記医療器具を前記患者に挿入する方向に並進移動させる並進移動機構部と、を備え、
前記操作部は、前記並進移動機構部に設けられている、請求項1~7のいずれか1項に記載の外科手術システム。
【請求項9】
前記アームは、前記患者の体表面に挿入された前記トロカールを保持する機構を備えていない、請求項1~8のいずれか1項に記載の外科手術システム。
【請求項10】
前記医療器具として内視鏡以外の医療器具にピボット位置を設定する場合、前記内視鏡以外の医療器具の代わりにピボット位置教示器具が前記アームに取り付けられる、請求項1~9のいずれか1項に記載の外科手術システム。
【請求項11】
先端側に第1医療器具が取り付けられる第1アーム、先端側に第2医療器具が取り付けられる第2アーム、前記第1アームを操作するために前記第1アームに設けられた第1操作部、および、前記第2アームを操作するために前記第2アームに設けられた第2操作部を備える医療用マニピュレータと、制御装置と、記憶装置と、を備える外科手術システムであって、
前記第1医療器具および前記第2医療器具は、患者の体表面に挿入されたトロカールを介して前記患者の体内に挿入されて用いられ、
前記第1操作部は、前記第1アームに取り付けられた前記第1医療器具の移動の支点となる第1ピボット位置を前記記憶装置に記憶させる第1ピボット位置教示入力部を備え、
前記第2操作部は、前記第2アームに取り付けられた前記第2医療器具の移動の支点となる第2ピボット位置を前記記憶装置に記憶させる第2ピボット位置教示入力部を備え、
前記制御装置は、
前記第1ピボット位置教示入力部が操作されることにより、前記第1医療器具の先端位置または前記先端位置から腹壁の厚さ方向に予め設定された距離だけ微調整された位置を前記第1ピボット位置として前記記憶装置に記憶させ、
前記第2ピボット位置教示入力部が操作されることにより、前記第2医療器具の先端位置または前記先端位置から前記腹壁の厚さ方向に予め設定された距離だけ微調整された位置を前記第2ピボット位置として前記記憶装置に記憶させるように構成されている、外科手術システム。
【請求項12】
前記医療用マニピュレータは、
前記第1アームおよび前記第2アームが取り付けられるアームベースと、
前記アームベースを移動させるアームベース移動部と、を備える、請求項11に記載の外科手術システム。
【請求項13】
前記医療用マニピュレータは、前記第1ピボット位置および前記第2ピボット位置が前記記憶装置に記憶されたことを表示する表示部を備える、請求項11または12に記載の外科手術システム。
【請求項14】
前記第1操作部は、前記第1アームによる前記第1医療器具の移動を操作するための第1ジョイスティックを備え、
前記第2操作部は、前記第2アームによる前記第2医療器具の移動を操作するための第2ジョイスティックを備え、
前記制御装置は、前記第1ジョイスティックの操作に従って前記第1医療器具が移動するように前記第1アームを制御し、前記第2ジョイスティックの操作に従って前記第2医療器具が移動するように前記第2アームを制御するように構成されている、請求項11~13のいずれか1項に記載の外科手術システム。
【請求項15】
前記第1アームは、多関節ロボットから構成されている第1アーム部と、前記第1アーム部の先端側に設けられるとともに前記第1医療器具が取り付けられ、前記第1医療器具を前記患者に挿入する方向に並進移動させる第1並進移動機構部と、を備え、
前記第1操作部は、前記第1並進移動機構部に設けられている、請求項11~14のいずれか1項に記載の外科手術システム。
【請求項16】
前記第1および第2アームは、前記トロカールを保持する機構を備えていない、請求項11~15のいずれか1項に記載の外科手術システム。
【請求項17】
前記医療用マニピュレータは、先端側に第3医療器具が取り付けられる第3アームと、前記第3アームを操作するために前記第3アームに設けられた第3操作部と、を備え、
前記第3操作部は、前記第3アームに取り付けられた前記第3医療器具の移動の支点となる第3ピボット位置を前記記憶装置に記憶させる第3ピボット位置教示入力部を備え、
前記制御装置は、前記第3ピボット位置教示入力部が操作されることにより、前記第3医療器具の先端位置または前記先端位置から微調整された位置を前記第3ピボット位置として前記記憶装置に記憶させるように構成されている、請求項11~16のいずれか1項に記載の外科手術システム。
【請求項18】
先端側に医療器具が取り付けられるアームを含む医療用マニピュレータと、制御装置と、記憶装置と、を備える外科手術システム用の操作装置であって、
記アームを操作するために前記アームに設けられており
前記アームに取り付けられた前記医療器具の移動の支点となるピボット位置を前記記憶装置に記憶させるピボット位置教示入力部を備え、
前記医療器具は、患者の体表面に挿入されたトロカールを介して前記患者の体内に挿入されて用いられ、
前記ピボット位置教示入力部の操作により、前記制御装置は、前記医療器具の先端位置または前記先端位置から腹壁の厚さ方向に予め設定された距離だけ微調整された位置を前記ピボット位置として前記記憶装置に記憶させる、操作装置。
【請求項19】
前記操作装置は、前記アームによる前記医療器具の移動を操作するためのジョイスティックを含む、請求項18に記載の操作装置。
【請求項20】
前記医療器具は、エンドエフェクタと、前記アームに取り付けられる被駆動ユニットと、前記エンドエフェクタと前記被駆動ユニットとを接続するシャフトと、を含み、
前記シャフトの長手方向に沿って前記医療器具の先端が移動するように前記アームを操作するためのスイッチ部を含む、請求項18または19に記載の操作装置。
【請求項21】
前記ピボット位置教示入力部は、前記操作装置の両側面に設けられている、請求項18~20のいずれか1項に記載の操作装置。
【請求項22】
前記アームは、多関節ロボットから構成されているアーム部と、前記アーム部の先端側に設けられるとともに前記医療器具が取り付けられ、前記医療器具を前記患者に挿入する方向に並進移動させる並進移動機構部と、を備え、
前記操作装置は、前記並進移動機構部に設けられている、請求項18~21のいずれか1項に記載の操作装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、外科手術システムおよび操作装置に関し、特に、ピボット位置を支点としてアームに取り付けられた医療器具が移動される外科手術システムおよび操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ピボット位置を支点としてアームに取り付けられた医療器具が移動される手術支援ロボットが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、マニピュレータアームと、マニピュレータアームに取り付けられたツール(外科用の手術器具など)とを備えるロボットマニピュレータアセンブリが開示されている。また、マニピュレータアームは、マニピュレータアームに取り付けられたツールを並進移動、または、回転移動させるように構成されている。
【0004】
また、上記特許文献1のマニピュレータアームには、ツールを長手方向に沿って並進させるための器具ホルダが設けられている。また、器具ホルダの遠位部材としてカニューレが保持されている。カニューレには、器具ホルダに保持されたツールの先端が挿入される。また、上記特許文献1のロボットマニピュレータアセンブリでは、カニューレの所定の部分が枢動ポイントとして予め定められている。すなわち、上記特許文献1のロボットマニピュレータアセンブリでは、枢動ポイントが、器具ホルダに保持された状態のカニューレの所定の部分に対して平行四辺形の配置となるように機械的に定められている。そして、器具ホルダに保持されたカニューレが患者に挿入された状態で、枢動ポイントを支点として、ツールが枢動(回転移動)される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2016-516487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のようなロボットマニピュレータアセンブリでは、4本のロボットマニピュレータアセンブリのそれぞれの器具ホルダが4つのカニューレ(トロカール)をそれぞれ保持している。このため、4つの器具ホルダおよびそれらのカニューレ保持機構によって、4つのカニューレ(トロカール)が挿入された患者の体表面近傍の空間が狭くなってしまう。このため、助手の医師が患者に挿入するトロカールの配置の自由度が低くなるという問題点や、術中に助手の医師が補助作業を行う際に、器具ホルダ等の機構が作業の邪魔になるという問題点がある。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、枢動ポイント(ピボット位置)を機械的に定める場合に比べて、複数のトロカールが配置された患者の体表面近傍での作業を容易に行うことが可能な外科手術システムおよび操作装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面による外科手術システムは、先端側に医療器具が取り付けられるアーム、および、アームを操作するためにアームに設けられた操作部を含む医療用マニピュレータと、制御装置と、記憶装置と、を備える外科手術システムであって、医療器具は、患者の体表面に挿入されたトロカールを介して患者の体内に挿入されて用いられ、操作部は、アームに取り付けられた医療器具の移動の支点となるピボット位置を記憶装置に記憶させるピボット位置教示入力部を備え、ピボット位置教示入力部が操作されることにより、制御装置は、医療器具の先端位置または先端位置から腹壁の厚さ方向に予め設定された距離だけ微調整された位置をピボット位置として記憶装置に記憶させるように構成されている。
【0009】
この発明の第2の局面による外科手術システムは、先端側に第1医療器具が取り付けられる第1アーム、先端側に第2医療器具が取り付けられる第2アーム、第1アームを操作するために第1アームに設けられた第1操作部、および、第2アームを操作するために第2アームに設けられた第2操作部を備える医療用マニピュレータと、制御装置と、記憶装置と、を備える外科手術システムであって、第1医療器具および第2医療器具は、患者の体表面に挿入されたトロカールを介して患者の体内に挿入されて用いられ、第1操作部は、第1アームに取り付けられた第1医療器具の移動の支点となる第1ピボット位置を記憶装置に記憶させる第1ピボット位置教示入力部を備え、第2操作部は、第2アームに取り付けられた第2医療器具の移動の支点となる第2ピボット位置を記憶装置に記憶させる第2ピボット位置教示入力部を備え、制御装置は、第1ピボット位置教示入力部が操作されることにより、第1医療器具の先端位置または先端位置から腹壁の厚さ方向に予め設定された距離だけ微調整された位置を第1ピボット位置として記憶装置に記憶させ、第2ピボット位置教示入力部が操作されることにより、第2医療器具の先端位置または先端位置から腹壁の厚さ方向に予め設定された距離だけ微調整された位置を第2ピボット位置として記憶装置に記憶させるように構成されている。
【0010】
この発明の第3の局面による操作装置は、先端側に医療器具が取り付けられるアームを含む医療用マニピュレータと、制御装置と、記憶装置と、を備える外科手術システム用の操作装置であってアームを操作するためにアームに設けられ、アームに取り付けられた医療器具の移動の支点となるピボット位置を記憶装置に記憶させるピボット位置教示入力部を備え、医療器具は、患者の体表面に挿入されたトロカールを介して患者の体内に挿入されて用いられ、ピボット位置教示入力部の操作により、制御装置は、医療器具の先端位置または先端位置から腹壁の厚さ方向に予め設定された距離だけ微調整された位置をピボット位置として記憶装置に記憶させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記のように、枢動ポイント(ピボット位置)を機械的に定める場合に比べて、複数のトロカールが配置された患者の体表面近傍での作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態による外科手術システムの構成を示す図である。
図2】本発明の一実施形態による医療用マニピュレータの構成を示す図である。
図3】本発明の一実施形態による医療用マニピュレータのアームの構成を示す図である。
図4】本発明の一実施形態による医療用マニピュレータの操作部の構成を示す斜視図である。
図5】本発明の一実施形態による医療用マニピュレータの操作部の構成を示す側面図である。
図6】本発明の一実施形態による医療用マニピュレータの操作部を操作者が把持した状態を示す図である。
図7】内視鏡を示す図である。
図8】ピボット位置教示器具を示す図である。
図9】内視鏡の先端をトロカールの外表面と体表面とが接する位置まで移動させた状態を示す図である。
図10】本発明の一実施形態による表示部の表示画面を示す図である。
図11】アームの並進移動を説明するための図である。
図12】アームの回転移動を説明するための図である。
図13】本発明の一実施形態による医療用マニピュレータの制御部の構成を示すブロック図である。
図14】本発明の一実施形態による医療用マニピュレータの制御部の制御ブロックを示す図である。
図15】本発明の一実施形態によるピボット位置設定方法を説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1図14を参照して、本実施形態による外科手術システム100の構成について説明する。外科手術システム100は、患者P側装置である医療用マニピュレータ1と、医療用マニピュレータ1を操作するための操作者側装置である遠隔操作装置2とを備えている。医療用マニピュレータ1は医療用台車3を備えており、移動可能に構成されている。遠隔操作装置2は、医療用マニピュレータ1から離間した位置に配置されており、医療用マニピュレータ1は、遠隔操作装置2により遠隔操作されるように構成されている。術者は、医療用マニピュレータ1に所望の動作を行わせるための指令を遠隔操作装置2に入力する。遠隔操作装置2は、入力された指令を医療用マニピュレータ1に送信する。医療用マニピュレータ1は、受信した指令に基づいて動作する。また、医療用マニピュレータ1は、滅菌された滅菌野である手術室内に配置されている。なお、医療用マニピュレータ1は、特許請求の範囲の「手術支援ロボット」の一例である。
【0015】
遠隔操作装置2は、たとえば、手術室の中または手術室の外に配置されている。遠隔操作装置2は、操作用マニピュレータアーム21と、操作ペダル22と、タッチパネル23と、モニタ24と、支持アーム25と、支持バー26とを含む。操作用マニピュレータアーム21は、術者が指令を入力するための操作用のハンドルを構成する。モニタ24は、内視鏡により撮影された画像を表示するスコープ型表示装置である。支持アーム25は、モニタ24の高さを術者の顔の高さに合わせるようにモニタ24を支持する。タッチパネル23は、支持バー26に配置されている。モニタ24近傍に設けられた図示しないセンサにより術者の頭部を検知することにより医療用マニピュレータ1は遠隔操作装置2による操作が可能になる。術者は、モニタ24により患部を視認しながら、操作用マニピュレータアーム21および操作ペダル22を操作する。これにより、遠隔操作装置2に指令が入力される。遠隔操作装置2に入力された指令は、医療用マニピュレータ1に送信される。
【0016】
医療用台車3には、医療用マニピュレータ1の動作を制御する制御部31と、医療用マニピュレータ1の動作を制御するためのプログラムなどが記憶される記憶部32とが設けられている。そして、遠隔操作装置2に入力された指令に基づいて、医療用台車3の制御部31は、医療用マニピュレータ1の動作を制御する。
【0017】
また、医療用台車3には、入力装置33が設けられている。入力装置33は、主に施術前に手術の準備を行うために、ポジショナ40、アームベース50、および、複数のアーム60の移動や姿勢の変更の操作を受け付けるように構成されている。なお、ポジショナ40は、特許請求の範囲の「アームベース移動部」の一例である。
【0018】
図1および図2に示す医療用マニピュレータ1は、手術室内に配置されている。医療用マニピュレータ1は、医療用台車3と、ポジショナ40と、アームベース50と、複数のアーム60とを備えている。アームベース50は、ポジショナ40の先端に取り付けられている。アームベース50は、比較的長い棒形状(長尺形状)を有する。また、複数のアーム60は、各々のアーム60の根元部が、アームベース50に取り付けられている。複数のアーム60は、折り畳まれた姿勢(収納姿勢)をとることが可能に構成されている。アームベース50と、複数のアーム60とは、図示しない滅菌ドレープにより覆われて使用される。
【0019】
ポジショナ40は、たとえば、7軸多関節ロボットにより構成されている。また、ポジショナ40は、医療用台車3上に配置されている。ポジショナ40は、アームベース50を移動させる。具体的には、ポジショナ40は、アームベース50の位置を3次元に移動させるように構成されている。
【0020】
また、ポジショナ40は、ベース部41と、ベース部41に連結された複数のリンク部42とを含む。複数のリンク部42同士は、関節部43により連結されている。
【0021】
図1に示すように、複数のアーム60の各々の先端には、医療器具4が取り付けられている。医療器具4は、たとえば、取り換え可能なインストゥルメント、内視鏡6(図7参照)などを含む。
【0022】
図3に示すように、医療器具4としてのインストゥルメントには、アーム60のホルダ71に設けられたサーボモータM2によって駆動される被駆動ユニット4aが設けられている。また、インストゥルメントの先端には、エンドエフェクタ4bが設けられている。エンドエフェクタ4bは、関節を有する器具として、鉗子、ハサミ、グラスバー、ニードルホルダ、マイクロジセクター、ステーブルアプライヤー、タッカー、吸引洗浄ツール、スネアワイヤ、および、クリップアプライヤーなどを含む。また、エンドエフェクタ4bは、関節を有しない器具として、切断刃、焼灼プローブ、洗浄器、カテーテル、および、吸引オリフィスなどを含む。また、医療器具4は、被駆動ユニット4aとエンドエフェクタ4bとを接続するシャフト4cを含む。被駆動ユニット4aと、シャフト4cと、エンドエフェクタ4bとは、Z方向に沿って配置されている。
【0023】
次に、アーム60の構成について詳細に説明する。
【0024】
図3に示すように、アーム60は、アーム部61(ベース部62、リンク部63、関節部64)と、アーム部61の先端に設けられる並進移動機構部70とを含む。アーム60は、アーム60の根元側(アームベース50)に対して先端側を3次元に移動させるように構成されている。なお、複数のアーム60は、互いに同様の構成を有する。
【0025】
並進移動機構部70は、アーム部61の先端側に設けられるとともに医療器具4が取り付けられている。また、並進移動機構部70は、医療器具4を患者Pに挿入する方向に並進移動させる。また、並進移動機構部70は、医療器具4をアーム部61に対して相対的に並進移動させるように構成されている。具体的には、並進移動機構部70には、医療器具4を保持するホルダ71が設けられている。ホルダ71には、サーボモータM2(図13参照)が収容されている。サーボモータM2は、医療器具4の被駆動ユニット4aに設けられた回転体を回転させるように構成されている。被駆動ユニット4aの回転体が回転されることにより、エンドエフェクタ4bが動作される。
【0026】
アーム60は、アームベース50に対して着脱可能に構成されている。アーム部61および並進移動機構部70は、トロカールTを保持するための機構や器具は備えていない。その結果、複数のトロカールTが配置された患者の体表面S近傍の空間が広くなり、複数のトロカールTが配置された患者Pの体表面S近傍での作業を容易に行うことが可能になる。
【0027】
アーム部61は、7軸多関節ロボットアームから構成されている。また、アーム部61は、アーム部61をアームベース50に取り付けるためのベース部62と、ベース部62に連結された複数のリンク部63とを含む。複数のリンク部63同士は、関節部64により連結されている。
【0028】
並進移動機構部70は、ホルダ71をZ方向に沿って並進移動させることにより、ホルダ71に取り付けられた医療器具4をZ方向(シャフト4cが延びる方向)に沿って並進移動させるように構成されている。具体的には、並進移動機構部70は、アーム部61の先端に接続される基端側リンク部72と、先端側リンク部73と、基端側リンク部72と先端側リンク部73との間に設けられる連結リンク部74とを含む。また、ホルダ71は、先端側リンク部73に設けられている。
【0029】
そして、並進移動機構部70の連結リンク部74は、基端側リンク部72に対して、先端側リンク部73を、Z方向に沿って相対的に移動させる倍速機構として構成されている。また、基端側リンク部72に対して先端側リンク部73がZ方向に沿って相対的に移動されることにより、ホルダ71に設けられた医療器具4が、Z方向に沿って並進移動するように構成されている。また、アーム部61の先端は、基端側リンク部72を、Z方向に直交するY方向を軸として回動させるように基端側リンク部72に接続されている。
【0030】
また、図4に示すように、医療用マニピュレータ1は、アーム60に取り付けられ、アーム60を操作する操作部80を備えている。操作部80は、イネーブルスイッチ81と、ジョイスティック82とスイッチ部83とを含む。イネーブルスイッチ81は、ジョイスティック82およびスイッチ部83によるアーム60の移動を許可または不許可とする。また、イネーブルスイッチ81は、操作者(看護師、助手など)が操作部80を把持して押下されることによりアーム60による医療器具4の移動を許可する状態となる。
【0031】
具体的には、イネーブルスイッチ81は、操作者の指により押下される押しボタンスイッチにより構成されている。イネーブルスイッチ81が押下されることにより、サーボモータM1~M3に通電する制御(サーボモータM1~M3を駆動させる制御)を行うことが可能になる。すなわち、イネーブルスイッチ81が押下されている間のみ、アーム60を移動させる制御が可能になる。
【0032】
また、図6に示すように、ジョイスティック82は、操作者の指により倒されることにより操作されるように構成されている。また、ジョイスティック82が倒された方向および倒された角度に応じて、アーム60が移動されるように制御される。また、操作者は、ジョイスティック82の先端82aに操作者の指を当接させるとともに、指を動かすことによりジョイスティック82を倒すように操作する。また、イネーブルスイッチ81が押下されている間のみ、ジョイスティック82が操作されることによる信号の入力が受け付けられる。すなわち、イネーブルスイッチ81が押下されていない状態では、ジョイスティック82を操作してもアーム60は移動されない。
【0033】
また、イネーブルスイッチ81は、操作部80の外周面80aに設けられており、操作者が操作部80の外周面80aを把持してイネーブルスイッチ81を押下することによりアーム60による医療器具4の移動を許可する状態となるように構成されている。また、図5に示すように、イネーブルスイッチ81は、操作部80の外周面80aの両側に一対設けられている。イネーブルスイッチ81は、スイッチ部83が設けられている操作部80の外周面80aの両側に設けられている。具体的には、操作部80の断面は、略矩形形状を有しており、イネーブルスイッチ81およびスイッチ部83は、操作部80の互いに対向する面80bに各々設けられている。詳細には、操作部80は、略角柱形状を有しており、略角柱形状の操作部80の側面(長手方向に沿った面80b)に、イネーブルスイッチ81およびスイッチ部83が設けられている。そして、操作者が操作部80の外周面80aを把持して、操作部80の外周面80aの両側に設けられているイネーブルスイッチ81のうちの少なくとも一方を押下することによりアーム60の移動が許可される状態となる。
【0034】
なお、本実施形態の操作部80は、操作部80の外周面80aの両側に設けられているイネーブルスイッチ81のうちの一方のみを押下すれば、アーム60の移動が許可される状態となるように構成されている。これにより、操作部80の外周面80aの両側に設けられているイネーブルスイッチ81の両方を押下する必要がない分、操作者の負担を低減することができるとともに操作者の利便性が向上される。
【0035】
また、図4に示すように、ジョイスティック82は、操作部80の外周面80aに交差する端面80cに設けられている。そして、操作者がアーム60の移動を許可する状態となるように操作部80の外周面80aを把持してイネーブルスイッチ81を押下した状態で、操作者の指により操作可能に構成されている。たとえば、図6に示すように、操作部80の外周面80aに設けられている一対のイネーブルスイッチ81を、操作者の親指と中指などとで押下した状態で、操作部80の端面80cに設けられているジョイスティック82を、操作者の人差し指などで操作する。これにより、操作者の操作部80を把持する親指および中指と、ジョイスティック82を操作する人差し指との間隔を容易に略一定に保持することが可能になる。なお、イネーブルスイッチ81とジョイスティック82とをいずれの指で操作するのかは、上記の例に限られない。
【0036】
また、ジョイスティック82は、医療器具4の先端4d(図3参照)が所定の平面上を移動するようにアーム60による医療器具4の移動を操作するように構成されている。また、操作部80は、所定の平面に直交する医療器具4の長手方向に沿って医療器具4の先端4dが移動するようにアーム60による医療器具4の移動を操作するためのスイッチ部83を含む。医療器具4の先端4dが移動する所定の平面は、操作部80の端面80cに平行な平面(図4のX-Y平面)である。また、所定の平面に直交する医療器具4の長手方向は、図4のX-Y平面に直交するZ方向である。図4のX軸、Y軸およびZ軸によって表される座標は、ツール座標系(または、ベース座標系)と呼ばれる。また、スイッチ部83が、イネーブルスイッチ81が押下された状態(アーム60による医療器具4の移動を許可する状態)で、押下されることにより、医療器具4の長手方向に沿って医療器具4の先端4dが移動される。
【0037】
また、スイッチ部83は、医療器具4の長手方向に沿った医療器具4を患者Pに挿入する方向側に医療器具4の先端4dを移動させるスイッチ部83aと、医療器具4を患者Pに挿入する方向と反対側に医療器具4の先端4dを移動させるスイッチ部83bとを含む。スイッチ部83aとスイッチ部83bとは、共に、押しボタンスイッチから構成されている。
【0038】
また、図5に示すように、スイッチ部83は、操作部80の外周面80aの両側に設けられている。具体的には、スイッチ部83は、略角柱形状の操作部80の両側面(長手方向に沿った面80b)に各々設けられている。つまり、スイッチ部83aとスイッチ部83bとは、共に、操作部80の両側面に一対ずつ設けられている。
【0039】
また、スイッチ部83が操作されることにより、医療器具4の先端4dがピボット位置PP(図12参照)の近傍に移動するまでは、アーム部61が移動されることにより医療器具4の先端4dが並進移動され、医療器具4の先端4dがピボット位置PPの近傍に移動した後は、並進移動機構部70が移動されることにより医療器具4の先端4dが並進移動される。具体的には、スイッチ部83が操作されることにより、医療器具4の先端4dがピボット位置PPから所定の距離分移動するまでは、アーム部61が移動されることにより医療器具4の先端4dが並進移動される。そして、医療器具4の先端4dがピボット位置PPから所定の距離分移動した後は、並進移動機構部70が移動されることにより医療器具4の先端4dが並進移動される。つまり、医療器具4の先端4dがピボット位置PPから所定の距離分移動した後は、アーム部61は移動されずに並進移動機構部70のみが移動される。なお、ピボット位置PPについての説明は、後述する。
【0040】
また、本実施形態では、図4に示すように、操作部80は、アーム60に取り付けられた医療器具4の移動の支点(図12参照)となるピボット位置PPを教示するピボットボタン85を含む。ピボットボタン85は、操作部80の面80bに、イネーブルスイッチ81に隣り合うように設けられている。そして、図9に示すように、操作部80によりアーム60が操作されることにより、アーム60の先端側に取り付けられた医療器具4としての内視鏡6(図7参照)またはピボット位置教示器具7(図8参照)の先端が、患者Pの体表面Sに挿入されたトロカールTの挿入位置に対応する位置まで移動された状態で、ピボットボタン85が押下されることによりピボット位置PPが教示され、記憶部32に記憶される。なお、ピボット位置PPの教示において、ピボット位置PPは、1つの点(座標)として設定され、ピボット位置PPの教示は、医療器具4の方向を設定するものではない。なお、ピボットボタン85は、特許請求の範囲の「ピボット位置教示ボタン」の一例である。
【0041】
なお、図7に示すように、ピボット位置PPを教示する際にアーム60の先端側に取り付けられる内視鏡6は、実際に手術の際に使用される内視鏡6である。一方、図8に示すように、ピボット位置PPを教示する際にアーム60の先端側に取り付けられるピボット位置教示器具7は、実際に手術の際に使用される医療器具4(鉗子など)を模倣したダミーである。ピボット位置教示器具7は、被駆動ユニット4aを模倣した部分7aと、シャフト4cを模倣した部分7bとを含む。また、ピボット位置教示器具7(部分7b)の先端は、尖った形状を有していない。
【0042】
また、本実施形態では、図9に示すように、アーム60の先端側に取り付けられた内視鏡6またはピボット位置教示器具7の先端が、患者Pの体表面Sに挿入されたトロカールTの外表面TSと体表面Sとが接する位置まで移動された状態で、ピボットボタン85が押下されることによりピボット位置PPが教示される。すなわち、内視鏡6またはピボット位置教示器具7がトロカールTに挿入されずに、トロカールTの外表面TSの側方でかつ体表面Sの近傍に内視鏡6またはピボット位置教示器具7の先端が配置された状態で、ピボット位置PPが教示される。また、体表面Sの近傍とは、体表面Sそのものと、体表面Sの周り(体表面Sから少し体内に侵入した位置など)を含む概念である。
【0043】
また、本実施形態では、ジョイスティック82が操作されることにより、アーム60の先端側に取り付けられた内視鏡6またはピボット位置教示器具7の先端が、患者Pの体表面Sに挿入されたトロカールTの挿入位置に対応する位置まで移動されるように構成されている。具体的には、イネーブルスイッチ81が押下された状態で、ジョイスティック82およびスイッチ部83が操作されることにより、内視鏡6またはピボット位置教示器具7の先端が移動される。
【0044】
また、本実施形態では、図1に示すように、複数のアーム60のうちの一つのアーム60(たとえば、アーム60b)には内視鏡6が取り付けられ、残りのアーム60(たとえば、アーム60a、60cおよび60d)には、内視鏡6以外の医療器具4が取り付けられる。具体的には、手術において、4つのアーム60のうちの1つのアーム60に内視鏡6が取り付けられ、3つのアーム60に内視鏡6以外の医療器具4(鉗子など)が取り付けられる。そして、内視鏡6が取り付けられているアーム60に対して、内視鏡6が取り付けられた状態でピボット位置PPが教示される。また、内視鏡6以外の医療器具4が取り付けられるアーム60に対して、ピボット位置教示器具7が取り付けられた状態でピボット位置PPが教示される。なお、内視鏡6は、互いに隣り合うように配置されている4つのアーム60のうちの、中央に配置される2つのアーム60(アーム60bおよび60c)のうちのいずれかに取り付けられる。
【0045】
また、本実施形態では、図5に示すように、ピボットボタン85は、操作部80の外周面80aの両側に設けられている。具体的には、操作部80の断面は、略矩形形状を有しており、ピボットボタン85は、操作部80の互いに対向する面80bに各々設けられている。
【0046】
また、本実施形態では、図10に示すように、複数のアーム60のピボット位置PPが教示されことを表示する表示部33aが設けられている。表示部33aは、医療用台車3の入力装置33に設けられている。表示部33aは、たとえば、液晶パネルから構成されている。表示部33aには、複数のアーム60(60a、60b、60cおよび60d)に対応する番号(1、2、3および4)が表示されている。また、表示部33aには、複数のアーム60の各々に取り付けられている医療器具4の種類(内視鏡、鉗子など)が表示される。そして、ピボット位置PPが教示された場合、複数のアーム60の各々において、チェックマークCMが表示される。
【0047】
また、本実施形態では、医療用マニピュレータ1では、内視鏡6やピボット位置教示器具7の先端位置から微調整された位置がピボット位置PPとして教示されるように構成されている。たとえば、内視鏡6やピボット位置教示器具7の先端位置は体表面Sに当接した位置であるため、腹壁の厚さ方向に予め設定された距離だけ微調整された位置がピボット位置PPとして教示される。
【0048】
また、図4に示すように、操作部80の面80bには、アーム60の位置を最適化するためのアジャストメントボタン86が設けられている。内視鏡6が取り付けられたアーム60に対するピボット位置PPの教示後、アジャストメントボタン86が押下さえることにより、他のアーム60(アームベース50)の位置が最適化される。
【0049】
また、本実施形態では、図4に示すように、操作部80は、アーム60に取り付けられた医療器具4を並進移動(図11参照)させるモードと、回転移動(図12参照)させるモードとを切り替えるモード切替ボタン84を含む。操作部80において、モード切替ボタン84は、ジョイスティック82の近傍に配置されている。具体的には、操作部80の端面80cにおいて、モード切替ボタン84は、ジョイスティック82と隣り合うように設けられている。また、モード切替ボタン84は、押しボタンスイッチからなる。また、モード切替ボタン84の近傍には、モードインジケータ84aが設けられている。モードインジケータ84aは、切り替えられたモードを表示する。具体的には、モードインジケータ84aが点灯(回転移動モード)または消灯(並進移動モード)されることにより、現在のモード(並進移動モードまたは回転移動モード)が表示される。なお、モード切替ボタン84は、特許請求の範囲の「モード切替部」の一例である。また、モードインジケータ84aは、特許請求の範囲の「ピボット位置インジケータ」の一例である。
【0050】
また、本実施形態では、モードインジケータ84aは、ピボット位置PPが教示されたことを表示するピボット位置インジケータを兼ねている。具体的には、ピボット位置PPが教示された際に、モードインジケータ84aが点灯し続け、モード切替ボタン84を押下しても消灯しない。これにより、アーム60に取り付けられた医療器具4は回転移動モードのみが可能となり、教示されていることを示す。また、ピボット位置PPのリセットは、リセットしたいアーム60に取り付けら医療器具4を取り外し、ピボットボタン85を長押しする。
【0051】
図11に示すように、アーム60を並進移動させるモードでは、医療器具4の先端4dが、X-Y平面上において移動するように、アーム60が移動される。また、図12に示すように、アーム60を回転移動させるモードでは、ピボット位置PPが教示されていない時は、エンドエフェクタ4bを中心に回転移動し、ピボット位置PPが教示されている時は、ピボット位置PPを支点として医療器具4が回転移動するように、アーム60が移動される。なお、医療器具4のシャフト4cがトロカールTに挿入された状態で、医療器具4が回転移動される。
【0052】
また、図3に示すように、操作部80は、並進移動機構部70に設けられている。また、操作部80は、並進移動機構部70に取り付けられた医療器具4に隣り合うように並進移動機構部70に取り付けられている。具体的には、操作部80は、並進移動機構部70の先端側リンク部73に取り付けられている。また、操作部80は、医療器具4の被駆動ユニット4aに隣り合うように配置されている。
【0053】
また、図13に示すように、アーム60には、アーム部61の複数の関節部64に対応するように、複数のサーボモータM1と、エンコーダE1と、減速機(図示せず)とが設けられている。エンコーダE1は、サーボモータM1の回転角を検出するように構成されている。減速機は、サーボモータM1の回転を減速させてトルクを増大させるように構成されている。
【0054】
また、図13に示すように、並進移動機構部70には、医療器具4の被駆動ユニット4aに設けられた回転体を回転させるためのサーボモータM2と、医療器具4を並進移動させるためのサーボモータM3と、エンコーダE2およびエンコーダE3と、減速機(図示せず)とが設けられている。エンコーダE2およびエンコーダE3は、それぞれ、サーボモータM2およびサーボモータM3の回転角を検出するように構成されている。減速機は、サーボモータM2およびサーボモータM3の回転を減速させてトルクを増大させるように構成されている。
【0055】
また、ポジショナ40には、ポジショナ40の複数の関節部43に対応するように、複数のサーボモータM4と、エンコーダE4と、減速機(図示せず)とが設けられている。エンコーダE4は、サーボモータM4の回転角を検出するように構成されている。減速機は、サーボモータM4の回転を減速させてトルクを増大させるように構成されている。
【0056】
また、医療用台車3には、医療用台車3の複数の前輪(図示せず)の各々を駆動するサーボモータM5と、エンコーダE5と、減速機(図示せず)とが設けられている。エンコーダE5は、サーボモータM5の回転角を検出するように構成されている。減速機は、サーボモータM5の回転を減速させてトルクを増大させるように構成されている。
【0057】
医療用台車3の制御部31は、指令に基づいて複数のアーム60の移動を制御するアーム制御部31aと、指令に基づいてポジショナ40の移動および医療用台車3の前輪(図示せず)の駆動を制御するポジショナ制御部31bとを含む。アーム制御部31aには、アーム60を駆動するためのサーボモータM1を制御するためのサーボ制御部C1が電気的に接続されている。また、サーボ制御部C1には、サーボモータM1の回転角を検出するためのエンコーダE1が電気的に接続されている。
【0058】
また、アーム制御部31aには、医療器具4を駆動するためのサーボモータM2を制御するためのサーボ制御部C2が電気的に接続されている。また、サーボ制御部C2には、サーボモータM2の回転角を検出するためのエンコーダE2が電気的に接続されている。また、アーム制御部31aには、並進移動機構部70を並進移動するためのサーボモータM3を制御するためのサーボ制御部C3が電気的に接続されている。また、サーボ制御部C3には、サーボモータM3の回転角を検出するためのエンコーダE3が電気的に接続されている。
【0059】
そして、遠隔操作装置2に入力された動作指令が、アーム制御部31aに入力される。アーム制御部31aは、入力された動作指令と、エンコーダE1(E2、E3)により検出された回転角とに基づいて位置指令を生成するとともに、位置指令をサーボ制御部C1(C2、C2)に出力する。サーボ制御部C1(C2、C3)は、アーム制御部31aから入力された位置指令と、エンコーダE1(E2、E3)により検出された回転角とに基づいて、トルク指令を生成するとともに、トルク指令をサーボモータM1(M2、M3)に出力する。これにより、遠隔操作装置2に入力された動作指令に沿うように、アーム60が移動される。
【0060】
また、制御部31(アーム制御部31a)は、操作部80のジョイスティック82からの入力信号に基づいてアーム60を操作するように構成されている。具体的には、アーム制御部31aは、ジョイスティック82から入力された入力信号(動作指令)と、エンコーダE1により検出された回転角とに基づいて位置指令を生成するとともに、位置指令をサーボ制御部C1に出力する。サーボ制御部C1は、アーム制御部31aから入力された位置指令と、エンコーダE1により検出された回転角とに基づいて、トルク指令を生成するとともに、トルク指令をサーボモータM1に出力する。これにより、ジョイスティック82に入力された動作指令に沿うように、アーム60が移動される。
【0061】
制御部31(アーム制御部31a)は、操作部80のスイッチ部83からの入力信号に基づいてアーム60を操作するように構成されている。具体的には、アーム制御部31aは、スイッチ部83から入力された入力信号(動作指令)と、エンコーダE1またはE3により検出された回転角とに基づいて位置指令を生成するとともに、位置指令をサーボ制御部C1またはC3に出力する。サーボ制御部C1またはC3は、アーム制御部31aから入力された位置指令と、エンコーダE1またはE3により検出された回転角とに基づいて、トルク指令を生成するとともに、トルク指令をサーボモータM1またはM3に出力する。これにより、スイッチ部83に入力された動作指令に沿うように、アーム60が移動される。
【0062】
また、制御部31(アーム制御部31a)は、ジョイスティック82からの入力信号に上限値を設けることと、ジョイスティック82からの入力信号を平滑化することとのうちの少なくとも一方を行うことにより、アーム60の移動速度の変化を低減する制御を行うように構成されている。具体的には、制御部31は、ジョイスティック82からの入力信号に上限値を設けて、上限値を超える入力信号が入力された際には、上限値を入力信号として、アーム60の移動を制御する。また、制御部31は、ジョイスティック82からの入力信号を、たとえば、LPF(Low-pass filter)により平滑化する。なお、本実施形態では、制御部31は、ジョイスティック82からの入力信号に上限値を設けることと、ジョイスティック82からの入力信号を平滑化することとの両方を行っている。
【0063】
詳細には、制御部31(アーム制御部31a)は、下記の数式1に示す制御用の運動方程式に基づいて、アーム60の移動を制御する。
【数1】
また、制御部31(アーム制御部31a)は、図14に示す制御ブロックに基づいて、アーム60の移動を制御する。すなわち、制御部31(アーム制御部31a)は、ジョイスティック82からの入力信号F(s)に対して、速度(xの1階微分)と粘性係数cとの積を減算する。そして、減算された値に慣性係数1/mを乗算する。そして、乗算された値(=1/m(F(s)-c×速度)=加速度=xの2階微分)が、上限値を超える場合、加速度は、上限値に設定される。そして、加速度が積分されて速度(xの1階微分)が算出され、速度が積分されて位置X(s)が算出される。
【0064】
また、図13に示すように、ポジショナ制御部31bには、ポジショナ40を移動するサーボモータM4を制御するためのサーボ制御部C4が電気的に接続されている。また、サーボ制御部C4には、サーボモータM4の回転角を検出するためのエンコーダE4が電気的に接続されている。また、ポジショナ制御部31bには、医療用台車3の前輪(図示せず)を駆動するサーボモータM5を制御するためのサーボ制御部C5が電気的に接続されている。また、サーボ制御部C5には、サーボモータM5の回転角を検出するためのエンコーダE5が電気的に接続されている。
【0065】
また、入力装置33から準備位置の設定などに関する動作指令が、ポジショナ制御部31bに入力される。ポジショナ制御部31bは、入力装置33から入力された動作指令と、エンコーダE4により検出された回転角とに基づいて位置指令を生成するとともに、位置指令をサーボ制御部C4に出力する。サーボ制御部C4は、ポジショナ制御部31bから入力された位置指令と、エンコーダE4により検出された回転角とに基づいて、トルク指令を生成するとともに、トルク指令をサーボモータM4に出力する。これにより、入力装置33に入力された動作指令に沿うように、ポジショナ40が移動される。同様に、入力装置33からの動作指令に基づいて、ポジショナ制御部31bは、医療用台車3を移動させる。
【0066】
次に、医療用マニピュレータ1によるピボット位置設定方法(医療用マニピュレータ1に対するピボット位置教示方法)について説明する。なお、複数(4つ)のアーム60のうちの1つのアーム60には、内視鏡6が取り付けられ、他のアーム60には、ピボット位置教示器具7が取り付けられている。また、表示部33aには、内視鏡6が取り付けられたアーム60に対応する番号(図10では、番号2)の下方に、「内視鏡」と表示され、内視鏡6以外の医療器具4(たとえば、鉗子)が取り付けられたアーム60に対応する番号(図10では、番号1、3および4)の下方に、「鉗子」と表示される。また、患者Pの体表面Sには、トロカールTが挿入されている。
【0067】
まず、ステップS1(図15参照)において、図9に示すように、アーム60が操作部80により操作されることにより、アーム60の先端側に取り付けられた医療器具4としての内視鏡6またはピボット位置教示器具7の先端を、患者Pの体表面Sに挿入されたトロカールTの挿入位置に対応する位置まで移動させる。具体的には、まず、内視鏡6が取り付けられたアーム60が操作されることにより、内視鏡6の先端が、患者Pの体表面Sに挿入されたトロカールTの挿入位置に対応する位置まで移動される。詳細には、内視鏡6の先端が、患者Pの体表面Sに挿入されたトロカールTの外表面TSと体表面Sとが接する位置まで移動される。
【0068】
次に、ステップS2(図15参照)において、内視鏡6の先端をトロカールTの挿入位置に対応する位置まで移動させた状態で、ピボットボタン85が押下される(ピボット位置PPの教示の指示を受け付ける)。これにより、医療用マニピュレータ1が、アーム60に取り付けられた内視鏡6の移動の支点となるピボット位置PPを設定する。ここでは、トロカールTの挿入位置に対応する位置まで移動した内視鏡6の先端の位置に対して、腹壁の厚さ方向に予め設定された距離だけ微調整された位置がピボット位置PPとして設定される。
【0069】
次に、ステップS3(図15参照)において、複数のアーム60のピボット位置PPが設定されことを医療用マニピュレータ1が表示部33aに表示する。具体的には、内視鏡6が取り付けられたアーム60に対応する番号(図10では、番号2)の下方に、チェックマークCMが表示される。
【0070】
次に、ステップS4(図15参照)において、ピボット位置PPが教示されたことを医療用マニピュレータ1が操作部80のモードインジケータ84aに表示する。具体的には、内視鏡6が取り付けられたアーム60に取り付けられた操作部80のモードインジケータ84aが点灯する。なお、ステップS3とステップS4との順番は、入れ替えられていてもよい。
【0071】
このように、本実施形態では、最初に、複数のアーム60のうちの内視鏡6が取り付けられた一つのアーム60に対して医療用マニピュレータ1がピボット位置PPを設定する。その後、上記のステップS1~S5が繰り返されることにより、複数のアーム60のうちのピボット位置教示器具7が取り付けられた残りのアーム60に対して医療用マニピュレータ1がピボット位置PPを順次設定する。
【0072】
次に、医療用マニピュレータ1を用いた施術の手順について説明する。医療用マニピュレータ1を用いた施術においては、最初に、医療用台車3が操作者によって、手術室内の所定の位置に移動される。次に、操作者は、入力装置33に含まれるタッチパネルを操作することにより、アームベース50と、手術台5または患者Pとが所望の位置関係になるように、ポジショナ40を動作させることによりアームベース50を移動させる。また、患者Pの体表に配置されたトロカールT(手術器具等を体腔に挿入するための作業用チャンネル)と医療器具4とが、所定の位置関係になるようにアーム60が移動される。また、操作者によってジョイスティック82およびスイッチ部83が操作されることにより、複数のアーム60が所望の位置に移動される。そして、上記のようにピボット位置PPが設定(教示)される。そして、ポジショナ40を静止させた状態で、遠隔操作装置2からの指令に基づいて、複数のアーム60および医療器具4が動作される。これにより、医療用マニピュレータ1による施術が行われる。
【0073】
[本実施形態の効果]
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0074】
(手術支援ロボットの効果)
本実施形態では、上記のように、医療用マニピュレータ1は、操作部80によりアーム60が操作されることにより、アーム60の先端側に取り付けられた医療器具4(内視鏡6またはピボット位置教示器具7)の先端が、患者Pの体表面Sに挿入されたトロカールTの挿入位置に対応する位置まで移動された状態で、ピボットボタン85が押下されることによりピボット位置PPが教示されるように構成されている。これにより、ピボットボタン85が押下されることによりピボット位置PPが教示されるので、ピボット位置PPを教示(設定)するためにトロカールTを支持する器具などを配置する必要がない。その結果、ピボット位置PPを機械的に定める場合に比べて、複数のトロカールTが配置された患者Pの体表面S近傍での作業を容易に行うことができる。
【0075】
また、本実施形態では、上記のように、医療用マニピュレータ1は、操作部80が操作されることにより、アーム60の先端側に取り付けられた内視鏡6またはピボット位置教示器具7の先端が、患者Pの体表面Sに挿入されたトロカールTの外表面TSと体表面Sとが接する位置まで移動された状態で、ピボットボタン85が押下されることによりピボット位置PPが教示される。これにより、内視鏡6またはピボット位置教示器具7の先端がトロカールTの内部に配置されている状態でピボット位置PPを教示する場合と異なり、ピボット位置PPの教示の際に、内視鏡6またはピボット位置教示器具7の先端を視認できるので、ピボット位置PPを適切に教示することができる。
【0076】
また、本実施形態では、上記のように、アーム60は、複数設けられ、複数のアーム60のうちの一つのアーム60には内視鏡6が取り付けられ、残りの少なくとも一つのアーム60には、内視鏡6以外の医療器具4が取り付けられており、医療用マニピュレータ1は、内視鏡6が取り付けられているアーム60に対して、ピボット位置教示器具7または内視鏡6以外の医療器具4が取り付けられた状態でピボット位置PPが教示される。これにより、アーム60に実際に取り付けられる医療器具4の種類に応じてピボット位置PPが教示されるので、適切にピボット位置PPを教示することができる。
【0077】
また、本実施形態では、上記のように、医療用マニピュレータ1は、複数のアーム60が取り付けられるアームベース50と、アームベース50を移動させるポジショナ40とを備える。これにより、ポジショナ40によって、アームベース50に取り付けられた複数のアーム60を一括して所望の位置に移動させることができるので、複数のアーム60を移動させる制御を容易に行うことができる。
【0078】
また、本実施形態では、上記のように、医療用マニピュレータ1は、複数のアーム60のピボット位置PPが教示されたことを表示する表示部33aを備える。これにより、複数のアーム60に対してピボット位置PPが教示されたか否かを、操作者が表示部33aを視認することにより容易に確認することができる。
【0079】
また、本実施形態では、上記のように、ピボットボタン85は、操作部80の外周面80aの両側に設けられている。これにより、ピボットボタン85が操作部80の外周面80aの一方側にのみ設けられている場合と異なり、ピボットボタン85の操作の利便性を向上させることができる。
【0080】
また、本実施形態では、上記のように、操作部80は、ピボット位置PPが教示されたことを表示するモードインジケータ84aを含む。これにより、アーム60に対してピボット位置PPが教示されたか否かを、操作者がモードインジケータ84aを視認することにより容易に確認することができる。また、モードインジケータ84aが操作部80に設けられているので、操作者が操作部80を操作しながらアーム60に対してピボット位置PPが教示されたか否かを確認することができる。
【0081】
また、本実施形態では、上記のように、操作部80は、アーム60に取り付けられた医療器具4を並進移動させるモードと、回転移動させるモードとを切り替えるモード切替ボタン84と、切り替えられたモードを表示するモードインジケータ84aとを含み、モードインジケータ84aは、ピボット位置PPが教示されたことを表示するピボット位置インジケータを兼ねている。これにより、モードインジケータ84aとピボット位置PPが教示されたことを表示するピボット位置インジケータとを別個に設ける場合と異なり、医療用マニピュレータ1の構成を簡略化することができる。
【0082】
また、本実施形態では、上記のように、操作部80は、アーム60による医療器具4の移動を操作するためのジョイスティック82を含み、ジョイスティック82が操作されることにより、アーム60の先端側に取り付けられた医療器具4(内視鏡6またはピボット位置教示器具7)の先端が、患者Pの体表面Sに挿入されたトロカールTの挿入位置に対応する位置まで移動されるように構成されている。これにより、操作者はジョイスティック82を用いて、容易に、内視鏡6またはピボット位置教示器具7を移動させることができる。
【0083】
また、本実施形態では、上記のように、医療用マニピュレータ1は、ピボット位置PPとして患者Pの体表面Sに当接された医療器具4の先端位置に対して、腹壁の厚さ方向に予め設定された距離だけ微調整された位置がピボット位置PPとして教示されるように構成されている。これにより、患者Pの腹壁内にピボット位置PPを適切に設定することができる。
【0084】
(ピボット位置設定方法の効果)
また、本実施形態では、上記のように、ピボット位置設定方法は、内視鏡6またはピボット位置教示器具7の先端をトロカールTの挿入位置に対応する位置まで移動させた状態で、ピボットボタン85が押下される(ピボット位置PPの教示の指示を受け付ける)ことにより、医療用マニピュレータ1が、アーム60に取り付けられた医療器具4の移動の支点となるピボット位置PPを設定する工程を備える。これにより、ピボットボタン85が押下されることによりピボット位置PPが教示されるので、ピボット位置PPを教示(設定)するためにトロカールTを支持する器具などを配置する必要がない。その結果、ピボット位置PPを機械的に定める場合に比べて、複数のトロカールTが配置された患者Pの体表面S近傍での作業を容易に行うことができる。
【0085】
また、本実施形態では、上記のように、ピボット位置PPを設定する工程は、アーム60の先端側に取り付けられた内視鏡6またはピボット位置教示器具7の先端を、患者Pの体表面Sに挿入されたトロカールTの外表面TSと体表面Sとが接する位置まで移動させた状態で、ピボットボタン85が押下されることにより、医療用マニピュレータ1がピボット位置PPを設定する工程を含む。これにより、内視鏡6またはピボット位置教示器具7の先端がトロカールTの内部に配置されている状態でピボット位置PPを教示する場合と異なり、ピボット位置PPの教示の際に、内視鏡6またはピボット位置教示器具7の先端が視認できるので、ピボット位置PPを適切に教示することができる。
【0086】
また、本実施形態では、上記のように、ピボット位置PPを設定する工程は、最初に、複数のアーム60のうちの内視鏡6が取り付けられた一つのアーム60に対して医療用マニピュレータ1がピボット位置PPを設定した後に、複数のアーム60のうちの医療器具4として内視鏡6以外の医療器具4(ピボット位置教示器具7)が取り付けられた残りのアーム60に対して医療用マニピュレータ1がピボット位置PPを設定する工程を含む。これにより、先にアーム60に取り付けられた内視鏡6を基準として、後に取り付けられるピボット位置教示器具7に対するピボット位置PPを設定することができるので、内視鏡6のピボット位置PPと、ピボット位置教示器具7(医療器具4)のピボット位置PPとの相対的な位置関係を適切に設定することができる。
【0087】
また、本実施形態では、上記のように、ピボット位置設定方法は、複数のアーム60のピボット位置PPが設定されことを医療用マニピュレータ1が表示部33aに表示する工程を備える。これにより、複数のアーム60に対してピボット位置PPが教示されたか否かを、操作者が表示部33aを視認することにより容易に確認することができる。
【0088】
また、本実施形態では、上記のように、ピボット位置設定方法は、ピボット位置PPが教示されたことを医療用マニピュレータ1が操作部80のモードインジケータ84aに表示する工程を備える。これにより、アーム60に対してピボット位置PPが教示されたか否かを、操作者がモードインジケータ84aを視認することにより容易に確認することができる。また、モードインジケータ84aが操作部80に設けられているので、操作者が操作部80を操作しながらアーム60に対してピボット位置PPが教示されたか否かを確認することができる。
【0089】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0090】
たとえば、上記実施形態では、操作部80の外周面80aの両側に一対設けられているイネーブルスイッチ81のうちの片方が押下されることにより、アーム60の移動が許可される状態となる例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、操作部80の外周面80aの両側に一対設けられているイネーブルスイッチ81のうちの両方が押下されることにより、アーム60の移動が許可される状態となるように構成してもよい。
【0091】
また、上記実施形態では、イネーブルスイッチ81、スイッチ部83、および、ピボットボタン85が操作部80の外周面80aの両側に一対設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、イネーブルスイッチ81、スイッチ部83、および、ピボットボタン85が操作部80の外周面80aの片側に1つ設けられていてもよい。
【0092】
また、上記実施形態では、操作部80が並進移動機構部70に取り付けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、操作部80が、アーム部61に取り付けられていてもよい。
【0093】
また、上記実施形態では、ジョイスティック82は、平面内におけるアーム60の移動を操作するように構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、ジョイスティック82が、平面内におけるアーム60の移動の操作に加えて、平面に直交する軸に沿ってアーム60の移動を操作可能に構成されていてもよい。
【0094】
また、上記実施形態では、医療器具4の先端4dがピボット位置PPから所定の距離分移動した後は、並進移動機構部70が移動されることにより医療器具4の先端4dが並進移動される例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、医療器具4の先端4dがピボット位置PPに到達した以降は、並進移動機構部70が移動されることにより医療器具4の先端4dが並進移動されてもよい。
【0095】
また、上記実施形態では、制御部30は、ジョイスティック82からの入力信号に上限値を設けることと、ジョイスティック82からの入力信号を平滑化することとの両方を行う例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、制御部30が、ジョイスティック82からの入力信号に上限値を設けることと、ジョイスティック82からの入力信号を平滑化することとのうちのいずれか一方のみを行ってもよい。
【0096】
また、上記実施形態では、内視鏡6またはピボット位置教示器具7の先端が、トロカールTの外表面TSと体表面Sとが接する位置まで移動された状態でピボット位置PPが教示される例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、内視鏡6またはピボット位置教示器具7の先端が、トロカールTに挿入された状態でピボット位置PPが教示されてもよい。
【0097】
また、上記実施形態では、アーム60が4つ設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。アーム60の数は、3つでもよい。
【0098】
また、上記実施形態では、アーム部61およびポジショナ40が7軸多関節ロボットから構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、アーム60およびポジショナ40が7軸多関節ロボット以外の軸構成(例えば、6軸や8軸)の多関節ロボットなどから構成されていてもよい。
【0099】
また、上記実施形態では、ピボット位置PPが教示されことが表示部33aおよびモードインジケータ84aに表示される例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、ピボット位置PPが教示されことが表示部33aとモードインジケータ84aとのうちのいずれかのみに表示されてもよい。
【0100】
また、上記実施形態では、モードインジケータ84aが、ピボット位置PPが教示されことを表示するピボット位置インジケータを兼ねている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、モードインジケータ84aと、ピボット位置PPが教示されことを表示するピボット位置インジケータとを別個に設けてもよい。
【0101】
また、上記実施形態では、内視鏡6またはピボット位置教示器具7の先端位置に対して微調整された位置がピボット位置PPとして教示される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、微調整を行わない内視鏡6またはピボット位置教示器具7の先端位置をピボット位置PPとして教示するようにしてもよい。
【0102】
また、上記実施形態では、ピボット位置教示器具7を用いてピボット位置PPの教示を行ったが本発明はこれに限られない。本発明では、ピボット位置教示器具7に代えて実際に使用する鉗子を用いてピボット位置PPの教示を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0103】
1 医療用マニピュレータ(手術支援ロボット)
4 医療器具
6 内視鏡
7 ピボット位置教示器具
33a 表示部
40 ポジショナ(アームベース移動部)
50 アームベース
60 アーム
80 操作部
80a 外周面
82 ジョイスティック
84 モード切替ボタン(モード切替部)
84a モードインジケータ(ピボット位置インジケータ)
85 ピボットボタン(ピボット位置教示ボタン)
P 患者
PP ピボット位置
S (患者の)体表面
T トロカール
TS (トロカールの)外表面
図1
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