(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】予め取り出されたヒトまたは動物角膜から複数のインプラントを作製するための方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/14 20060101AFI20240710BHJP
A61F 9/01 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
A61F2/14
A61F9/01
(21)【出願番号】P 2022504166
(86)(22)【出願日】2020-07-22
(86)【国際出願番号】 EP2020070690
(87)【国際公開番号】W WO2021013892
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-06-13
(32)【優先日】2019-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】517125546
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ジャン モネ、サン テティエンヌ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE JEAN MONNET SAINT ETIENNE
【住所又は居所原語表記】MAISON DE L’UNIVERSITE 10 RUE TREFILERIE, 42100 SAINT ETIENNE, FRANCE
(73)【特許権者】
【識別番号】521022945
【氏名又は名称】マヌテク-ウエスデ
【氏名又は名称原語表記】MANUTECH-USD
(73)【特許権者】
【識別番号】305023584
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ド・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィック
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【住所又は居所原語表記】3 rue Michel Ange, 75794 PARIS CEDEX 16, France
(73)【特許権者】
【識別番号】520212233
【氏名又は名称】サントル オスピタリエル ユニヴェルシテル
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER UNIVERSITAIRE
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】ゲン、フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】テュレ、ジル
(72)【発明者】
【氏名】モクレール、シリル
(72)【発明者】
【氏名】アルブルゴル、サミー
(72)【発明者】
【氏名】エゴ、グレゴリー
【審査官】永冨 宏之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0038399(US,A1)
【文献】特表2016-512492(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047151(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/032009(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/174688(WO,A1)
【文献】米国特許第09427355(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/14
A61F 9/01
A61F 9/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め取り出されたヒトまたは動物の角膜から複数のインプラントを作製するための切り取り方法であって、当該方法が、下記工程:
・ レーザー源によって発せられるレーザービームに対して透過性の第1プレート(1)および第2プレート(2)を含む保持デバイス中に、前記角膜を配置する工程(200)であって、前記角膜を前記第1プレート(1)と前記第2プレート(2)との間に位置付け、前記角膜の前面および後面に機械的応力を適用する工程と、
・ 前記レーザービームを使用して、前記保持デバイス中に含まれる前記角膜を切り取って、切り取られた角膜を得る工程(300)であって、当該切り取る工程(300)が、気泡を生成し、前記複数のインプラントの輪郭を形成することを含む工程と、
・ 前記切り取られた角膜から各インプラントを剥離する工程(400)と、
・ 剥離された各インプラントを脱細胞化し、脱細胞化された複数のインプラントを得る工程(500)と、
・ 脱細胞化された各インプラントを凍結乾燥させ、凍結乾燥された複数のインプラントを得る工程(600)と、
・ 凍結乾燥された各インプラントを無菌化し、無菌化された複数のインプラントを得る工程(700)と、
・ 無菌化された各インプラントを包装し、包装された複数のインプラントを得る工程(800)と
を含
み、
前記工程(300)が、
・ 前記保持デバイスを、前記レーザー源によって生成されるレーザービームの光路中に位置付け、かつ、前記保持デバイスを、前記第1プレート(1)が前記第2プレート(2)よりも前記レーザー源に近くなるように、位置決めすること、
・ 前記レーザー源によって生成される前記レーザービームを、前記第1プレート(1)を通して発し、前記第1プレート(1)に最も近い前記角膜の半価層に気泡を形成すること、
・ 前記保持デバイスを回転させ、前記第2プレート(2)が前記第1プレート(1)よりも前記レーザー源に近づけること
・ 前記レーザー源によって生成されるレーザービームを、前記第2プレート(2)を通して発し、前記第2プレート(2)に最も近い前記角膜の半価層に気泡を形成すること
を特徴とするサブ工程を含む
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記インプラントが、
・ 平行面を有する円形ブレード(61)を含む少なくとも1つの強化性インプラント、および/または
・ 下記を含む少なくとも1つの充填性インプラント(62,63):
〇 円形ブレード、および前記円形ブレードの一方の面から突き出るニップル、もしくは
〇 リング形状のウォッシャー、および/または
・ 少なくとも1つの(両)凸面インプラント(64)、および/または
・ 少なくとも1つの(両)凹面インプラント(65)、および/または
・ 細胞培養支持体(66)として機能する、複数の平行面を有しかつ前記強化性インプラントの厚さ未満の厚さを有する円形ラメラを含む、少なくとも1つのインプラント
を含む、請求項1に記載の切り取り方法。
【請求項3】
前記角膜における切り取り領域を決定する工程(100)をさらに含み、前記切り取り領域が、前記切り取る工程(300)の間に気泡が形成される前記角膜の表面に対応する、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
前記決定工程(100)が、下記サブ工程:
・ 前記角膜の画像を取得すること(110)と、
・ 前記角膜の厚さおよび直径を推定すること(120)と、
・ 前記保持デバイスの設定パラメーターを決定し、前記角膜に前記機械的応力を適用すること(130)と
を含む、請求項
3に記載の切り取り方法。
【請求項5】
前記決定工程(100)が、下記サブ工程:
・ 所望のインプラントのタイプおよび当該タイプに関連するサイズを決定すること(140)と、
・ 前記所望のインプラントのタイプおよびサイズに従って作製される前記切り取り領域の位置および形状を計算すること(150)と、
・ 切り取り面を生成し、角膜組織の喪失を最小化することと
を含む、請求項
3または
4のいずれか一項に記載の切り取り方法。
【請求項6】
前記決定工程(100)が、下記サブ工程:
・ 前記切り取り面をディスプレイすること(160)であって、前記切り取り面が、前記角膜および前記切り取り領域を示す、ディスプレイすること
を含む、請求項
5に記載の切り取り方法。
【請求項7】
前記脱細胞化工程(500)が、下記サブ工程:
・ 受け取った角膜を脱細胞化流体中に浸漬することと、
・ 前記角膜を、食塩水溶液などのリンス液体でリンスすることと
を含む、請求項1から
6のいずれか一項に記載の切り取り方法。
【請求項8】
前記角膜を配置する工程が、グルタルアルデヒドなどのタンパク質結合促進性材料を前記角膜に適用することを特徴とするサブ工程(210)を含む、請求項1から
7のいずれか一項に記載の切り取り方法。
【請求項9】
眼の病変を治療するための外科的キットであって、前記キットが請求項1から
8のいずれか一項に記載の方法によって得られた少なくとも1つのインプラントを含むことを特徴とする、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトまたは動物の角膜からインプラントを作製する一般的技術分野に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、ヒトまたは動物における眼科的用途のための複数のインプラントを作製するための、角膜の切り取りを含む方法に関する。
【背景技術】
【0003】
角膜は、患者の視力の重要な要素であり、角膜は、まさに、それを通して外界からの画像が眼に入る窓である。
【0004】
患者の種々の病状、例えば、穿孔をもたらし得る感染性または免疫性の原因に由来する角膜潰瘍化、角膜を変形させる円錐角膜、特に感染後の混濁、深部角膜新生血管、または角膜内皮欠損に起因する角膜浮腫に関連する、視力の部分的もしくは完全な喪失または眼球の完全性への脅威を生じさせる、患者の角膜が損傷し得る種々の経路が存在する。
【0005】
角膜が潰瘍化し穿孔に近づくと、また角膜が不透明になり、変形し、または穿孔されると、患者は、移植片から利益を得る可能性が高い。このような移植片は、完全または部分的であってもよく、異なる形状のものであってもよい。
【0006】
また、選択された形状のレンチクル(角膜片)の形態でインプラントを挿入することによって、角膜の視度を改変すること、例えば、角膜実質内に生成されたポケット中に又は表面上皮下の角膜表面上に上記レンチクルを挿入することによって、老視または屈折異常(近視もしくは遠視)を修正することも可能である。内皮細胞における欠損を補うために、角膜の後面に、実験室で培養された内皮細胞で覆われた非常に薄い角膜ラメラを移植することも可能である(組織工学角膜内皮移植術、すなわちTEEK)。
【0007】
部分的な角膜移植は、ドナー由来の健康な角膜断片を移植し、レシピエントの病変角膜の一部を置換または増強または改変することからなる。このような角膜断片は、欠けた組織(深部潰瘍化、穿孔)を埋め、角膜(円錐角膜)を増強させ、角膜湾曲(老視、屈折異常)を改変することができ、または、内皮細胞を支える支持体(内皮移植片)として作用することができる。
【0008】
しかし、非常に低レベルの臓器提供、他方高まる角膜の必要性に起因して、角膜は世界中で不足している。だからこそ、単一のドナー角膜から実施されるインプラントの数を最適化できることは非常に有利である。
【0009】
種々の切り取り方法およびデバイスが、いくつかのインプラントをレンチクルの形態で作製するために既に提唱されている。
【0010】
US2017/319329には、特に、レンチクルを形成するためのシステムが記載され、このシステムは、第1切り取り装置および第2切り取り装置を含む。レーザー(「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation」の頭文字)を含む第1切り取り装置は、ドナー角膜を切り取り、角膜部分を形成するように構成される。より詳細には、第1切り取り装置は、角膜の前表面と後表面との間に伸びる軸に沿って、ドナー角膜を切り取るように構成される。第2切り取り装置は、角膜部分において連続する断面を形成することによって、角膜部分から複数のレンチクルを形成するように構成される。2つの連続した切り取り面間の角膜はレンチクルを形成する。次いで、各レンチクルは、それぞれの角膜インプラントを形成するために使用される。
【0011】
このタイプのデバイスの不利益は、正確な切り取り面の作製が可能でないことである。実際、角膜部分は、特にレーザー/角膜相互作用において、前-後位置ずれを受け、これは、レーザービームの焦点合わせの精度にとって有害である。
【0012】
このタイプのデバイスの別の不利益は、切り取り面の品質が深度と共に低下することである。実際、角膜における焦点面が深くなるほど、レーザービーム効率の喪失は大きくなる。さらに、このタイプのデバイスで作製することができるのは、限られた数のレンチクルのみである。
【0013】
US2019/0038399には、インプラント部位の形状に概ね一致するように設計された表面プロファイルを有する複数のインプラントを作製するための、角膜を切り取るための方法およびシステムが記載されている。この切り取り方法は、
i)吸引ノズルを含む固定システムに角膜を配置し、吸引によって角膜を固定する工程、
ii)例えば、フェムト秒レーザー源またはマイクロケラトームを使用して、角膜を切り取り、ラメラを得る工程、
iii)例えば、フェムト秒レーザー源またはマイクロケラトームを使用して、ラメラを切り取り、複数のレンチクルを得る工程、
iv)エキシマレーザー源を使用してレンチクルを成形し、複数のインプラントを得る工程、
v)先の工程を繰り返し、新たなラメラから複数のインプラントを得る工程
を含む。
【0014】
US2019/0038399に記載される解決手段の不利益は、インプラントを得るために、いくつかの切り取りおよび成形工程を要する点である。実際、吸引によって角膜を固定することは、吸引ノズルに面する角膜部分の僅かな変化を引き起こし、したがって、吸引が解除され角膜がその形状を再獲得すると、最終的な切り取り品質が変化し得る。
【0015】
US2019/0038399で提案される解決手段の別の不利益は、角膜を処理するのに多くの時間がかかることである。実際、US2019/0038399による方法は、使用可能なインプラントを得るために、各レンチクルについて、切り取る工程(フェムト秒レーザー源を使用する)および成形する工程(エキシマレーザー源を使用する)を要する。さらに、切り取られた新たなラメラそれぞれについて工程i)~iv)を実施しなければならない。
【0016】
US2019/0038399で提案される解決手段のさらに別の不利益は、得られたインプラントの保存可能期間に時間制限があり、保存が困難であり得ることである。
【0017】
本発明の1つの目的は、上述の不利益のうち少なくとも1つを克服する、予め取り出された角膜を切り取るための方法を提供することである。
【0018】
より詳細には、本発明の目的は、例えば、切り取りの際の廃棄物をできる限り減らすことおよび/または切り取られたインプラントの品質をできる限り高めることによって、複数のインプラントを作製するための角膜の切り取りを最適化するための方法を提供することである。
【発明の概要】
【0019】
この目的のために、本発明は、予め取り出されたヒトまたは動物の角膜から複数のインプラントを作製するための方法であって、当該方法が、下記工程:
・レーザー源によって発せられるレーザービームに対して透過性の第1プレートおよび第2プレートを含む保持デバイス中に、角膜を配置する工程であって、角膜を第1プレートと第2プレートとの間に位置付け、角膜の前面および後面に機械的応力を適用する工程と、
・切り取られた角膜を得るために、レーザービームを使用して、保持デバイス中に含まれる角膜を切り取る工程であって、この切り取る工程が、複数のインプラントの輪郭を形成するために、気泡を生成することを含む、切り取る工程と、
・切り取られた角膜から各インプラントを剥離する工程と、
・脱細胞化された複数のインプラントを得るために、剥離された各インプラントを脱細胞化する工程と、
・凍結乾燥された複数のインプラントを得るために、脱細胞化された各インプラントを凍結乾燥させる工程と、
・無菌化された複数のインプラントを得るために、凍結乾燥された各インプラントを無菌化すること、
・包装された複数のインプラントを得るために、無菌化された各インプラントを包装する工程と
を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0020】
本発明による切り取り方法の好ましく非限定的な態様は、以下の通りである:
・(複数の)インプラントは、
〇 平行面を有する円形ブレードを含む少なくとも1つの強化性インプラント、および/または
〇 下記を含む少なくとも1つの充填性インプラント(62,63):
■ 円形ブレード、および円形ブレードの一方の面から突き出るニップル、もしくは
■ リング形状のウォッシャー、および/または
〇 少なくとも1つの(両)凸面インプラント、および/または
〇 少なくとも1つの(両)凹面インプラント、および/または
〇 細胞培養支持体として機能する、(複数の)平行面を有しかつ強化性インプラントの厚さ未満の厚さを有する円形ラメラを含む、少なくとも1つのインプラント
を含み得る;
・保持デバイス中に角膜を配置する工程は、
〇 保持デバイスを、レーザー源によって生成されるレーザービームの光路中に位置付け、かつ、前記保持デバイスを、第1プレートが第2プレートよりもレーザー源に近くなるように位置決めすること、
〇 第1プレートに最も近い角膜の半価層に気泡を形成するために、レーザー源によって生成されるレーザービームを、第1プレートを通して発すること、
〇 第2プレートが第1プレートよりもレーザー源に近くなるように、保持デバイスを回転させること、
〇 第2プレートに最も近い角膜の半価層に気泡を形成するために、レーザー源によって生成されるレーザービームを、第2プレートを通して発すること
を特徴とするサブ工程を含み得る;
・本発明の方法はまた、角膜における切り取り領域を決定する工程を含んでいてもよく、前記切り取り領域は、前記切り取る工程の間に気泡が形成される角膜の表面に対応する;
・前記決定工程は、下記サブ工程:
〇 角膜の画像を取得することと、
〇 角膜の厚さおよび直径を推定することと、
〇 角膜に機械的応力を適用するための、保持デバイスの設定パラメーターを決定することと
を含んでいてもよい;
・前記決定工程は、下記サブ工程:
〇 所望のインプラントのタイプおよび当該タイプに関連するサイズを決定することと、
〇 所望のインプラントのタイプおよびサイズに従って作製される切り取り領域の位置および形状を計算することと、
〇 角膜組織喪失を最小化するように、切り取り面を生成することと
を含んでいてもよい;
・前記決定工程は、下記サブ工程:
〇 切り取り面をディスプレイすることであって、前記切り取り面が、角膜および切り取り領域を示す、ディスプレイすること
を含んでいてもよい;
・前記脱細胞化工程は、下記サブ工程:
〇 受け取った角膜を脱細胞化流体中に浸漬することと、
〇 角膜を、食塩水溶液などのリンス液体でリンスすることと
を含んでいてもよい;
・角膜を配置する工程は、グルタルアルデヒドなどのタンパク質結合材料を角膜に適用することを特徴とするサブ工程を含んでいてもよい。
【0021】
本発明はまた、眼の病変を治療するための外科的キットであって、上記方法によって得られた少なくとも1つのインプラントを含むことを特徴とするキットに関する。
【0022】
本発明による方法の他の特徴および利点は、添付の図面から、非限定的な例として与えられるいくつかの代替的実施形態の以下の説明からより容易に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】角膜における切り取り面を決定するための段階のサブ工程の概略図である。
【
図3】単一の角膜から切り取られた複数のインプラントの概略図である。
【
図4】角膜から切り取られた(複数の)レンチクルの上面模式図である。
【
図5】「ハット」インプラントの代替的実施形態の正面模式図である。
【
図6】保持デバイス中に角膜を配置する段階のサブ工程の概略図である。
【
図8】組み立てられた保持デバイスの断面図である。
【
図9】組み立てられた保持デバイスの代替的実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
インプラントを調製するための角膜を切り取るための方法の種々の例を、図面を参照して説明する。これらの種々の図面において、同じ要素は、同じ参照番号によって示される。
【0025】
1.
一般的ポイント
図1を参照すると、角膜6を切り取るための方法は、下記工程:
・角膜における切り取り領域の位置および形状を決定する工程100、
・角膜保持デバイス中に、予め取り出された角膜を配置する工程200、
・切り取られた角膜を得るために、レーザー源を使用して、保持デバイス中に含まれる角膜を切り取る工程300、
・切り取られた角膜から各インプラントを剥離する工程400、
・脱細胞化された(複数の)インプラントを得るために、先に剥離された各インプラントを完全に脱細胞(角膜実質細胞、樹状細胞および他の免疫細胞)化する工程500、
・凍結乾燥された(複数の)インプラントを得るために、脱細胞化された各インプラントを凍結乾燥させる工程600、
・無菌化された(複数の)インプラントを得るために、凍結乾燥された各インプラントを無菌化する工程700、
・包装された(複数の)インプラントを得るために、手術室において再水和を可能にする保護的デバイス中に包装する工程800、および無菌化された各インプラントを保存する工程
を含む。
【0026】
2.同種移植片材料または異種移植片材料を調製するための方法の各工程の詳細な説明
2.1.決定
決定工程100は、切り取る工程300において角膜が切り取られる種々の切り取り領域の位置および形状を定めるために使用される。より詳細には、決定工程100は、同一の角膜内に作製される「ピース」の数を最適化するために使用される。ここで、角膜の厚さは、ヒト角膜の場合、100μmと1800μmとの間、特に、400μmと1500μmとの間、特に、500μmと700μmとの間で変動し得ること、その直径は、ヒト角膜の場合には10mmから13mmまで、動物角膜の場合には10mmから20mmまで変動し得ることが知られている。
【0027】
各切り取り領域の形状は、使用者が作製を望むインプラントのタイプに応じて変動してよい。特に、各切り取り領域は、平面または曲面(凹面もしくは凸面)であってよく、角膜における1つ(または複数)の実質的に軸方向または横方向に沿って伸びてよい。異なる形状(平面、曲面、円筒状など)を有する切り取り領域の同一の角膜における組み合わせは、角膜組織の喪失を制限する。
【0028】
図2を参照すると、決定工程100は、下記サブ工程:
i)角膜の画像を取得すること110、
ii)角膜の厚さおよび直径を推定すること120、
iii)角膜を壊すことなく、角膜に機械的応力を適用するために、保持デバイスの設定パラメーターを決定すること130、
iv)所望のインプラントの(複数の)タイプ(形状)および当該タイプに関連する(複数の)サイズを決定すること140、
v)所望のインプラントのタイプおよびサイズに従って作製される切り取り領域の位置および形状を計算すること150、および角膜組織の喪失を最小限に抑えるように切り取り面を生成すること、
vi)使用者が切り取り領域を視認できるように、角膜組織および切り取り領域を示す切り取り面を(スクリーンなどのディスプレイ手段上に)ディスプレイすること160、
vii)切り取り面を、レーザー源を含む切り取りデバイスの制御手段に送ること
を含み得る。
【0029】
切り取られる角膜の画像を取得するサブ工程110は、角膜の光干渉断層撮影(OCT)、シャインプルーフ(可視光マッピング)、超音波生体顕微鏡(UBM)もしくは生体顕微鏡(光スリットの前またはその中)画像または単純な写真の取得からなり得る。この画像は、当業者に公知の任意の画像取得システムを使用して取得され得る。
【0030】
取得された画像(複数)から、取得された画像(複数)を処理するための手段-例えば、プロセッサーおよびメモリを含む-は、当業者に公知の画像処理技術を遂行することによって、角膜の厚さおよび直径を推定する120。角膜に適用される機械的応力が、曲面プレートを含む保持デバイスを使用して与えられる場合、処理手段はまた、角膜の前および後の湾曲を推定し得る。
【0031】
次いで、推定された厚さおよび直径は、処理手段によって使用され、保持デバイスの設定パラメーターが決定される130。特に、2018年7月17日付で出願されたFR1870835に記載される保持デバイス(詳細は後記する)の場合、処理手段は、角膜を壊すことなく、角膜に機械的応力を適用するために、保持デバイスの第1プレートと第2プレートとの間の距離を決定する。
【0032】
例えば、処理手段は、下記式:
Dプレート=E組織-デルタ
式中:
・Dプレート:第1プレートと第2プレートとの間の距離、
・E組織:角膜の推定された厚さ、
・デルタ:固定値(例えば、50μmと500μmとの間)
を実行する。
【0033】
これらの決定された設定パラメーターは、好ましくは、使用者が後続する配置する工程200において保持デバイスを調整できるように、ディスプレイ手段(例えば、スクリーン)上にディスプレイされる。
【0034】
次いで、処理手段は、所望のインプラントのタイプならびに当該タイプに関連するサイズおよび形状を決定する140。本発明の一つの実施形態において、所望のインプラントのタイプ(およびサイズ)は、入力手段(例えば、キーボード)により使用者によって入力され得る。また、インプラントの所望のタイプ(およびサイズ)は、インプラントの既定されたタイプおよび当該タイプに関連するサイズを含むデータベースから抽出され得る。この場合、処理手段は、角膜組織の喪失を最小限に抑えるように、インプラントのタイプおよびサイズを選択する。
【0035】
例えば、
図3は、角膜6から切り取られ得るインプラント種々の例61~66を示す。各インプラントは、例えば、
・(複数の)平行面を有する、厚い(例えば、100μmよりも厚いまたはそれと等しい)ブレード;ここで、このようなブレードは、角膜の生体力学の弱化を誘導する疾患である円錐角膜を治療するための強化面として使用され得る、
・病変角膜に生じた穿孔を塞ぐために使用され得る「ハット」インプラント62、ここでこのようなインプラントは、「ハット」(ボーターハットからシルクハットまでの範囲)の一般的形状を有し、
〇 大きい直径の円形(場合により曲面)ブレード、および
〇 上記円形ブレードの一方の面から突き出る、より小さい直径の円筒状(または切頂円錐状)ニップル
を含み、
上記円形ブレードは、「ハット」の輪状つばの形状を実質的に有し、円筒状ニップルは、「ボーターハット」から「シルクハット」までの範囲の、多かれ少なかれ高さを有するキャップ形状を実質的に有する、
・リング形状(場合により曲面)のまたはトロイダルウォッシャー63、ここでこのようなウォッシャーは、周辺部眼潰瘍を埋める際の使用に適している、
・両凸面(または凸面)レンズ64、ここでその直径は、例えば、2mmと9mmとの間であってよく、このようなレンズは、老視または遠視の治療のために適している、
・両凹面(または凹面)レンズ65、ここでその直径は、例えば、5mmと9mmとの間であってよく、このようなレンズは、近視の治療のために適している、
・いわゆる内皮移植片の観点から、内皮細胞の培養のための支持体を構成するために適した非常に薄い(例えば、40μmと50μmとの間)(複数の)平行面を有するラメラ66
からなり得る。
【0036】
無論、他のタイプおよび形状のインプラントもまた、本発明による方法を実施することによって、角膜6から切り取られ得る。例えば、
図4を参照すると、小さい直径(約2ミリメートル)の複数のレンチクル67を切り取ることが可能である。また、
図5に示されるように、例えば、眼の偏心穿孔を有する患者の治療のために、偏心ニップルを有する1つ(または複数)の「ハット」インプラント68(即ち、ニップルおよび円形ブレードの回転の軸が一致しない「ハット」インプラント)を切り取ることが可能である。
【0037】
インプラントの所望のタイプを決定する工程140と同時にまたはそれと連続的に、処理手段は、切り取り領域の位置および形状を計算する150。この計算工程は、当業者に公知の任意の計算技術を使用して行われ得る。
【0038】
計算工程150は、切り取り面を生成する。この切り取り面は、使用者が切り取り領域を見ること、および場合により、命令パラメーターを改変する(角膜組織の喪失を最小限に抑えるために、可能なインプラントを追加するおよび/または1つ(または複数)のインプラントの寸法を増加させる)ことができるように、ディスプレイ160され得る。
【0039】
使用者が命令パラメーターを改変する場合、先の工程iv)~vi)が繰り返される。改変しない場合、切り取り面は、レーザー源を含む切り取りデバイスを制御するための手段に送られる。
【0040】
2.2.角膜の配置
配置工程200は、レーザー源による切り取りのために適した位置で角膜が保持されることを可能にする。
【0041】
配置工程200は、角膜を保持デバイス中に導入するサブ工程220を含む。
【0042】
有利には、保持デバイスは、2018年7月17日付で出願されたFR1870835に記載されるタイプのものであり得る。
図7を参照すると、このような保持デバイス(下記セクション3においてより詳細に説明する)は、
・下記を含む要素のスタック:
〇 電磁放射線に対して透過性の第1プレート1、
〇 第1プレート1上に配置される周辺シール4であって、角膜周囲に伸びることが意図されている、周辺シール4、
〇 周辺シール4と接触した、電磁放射線に対して透過性の第2プレート2、および
・第1プレート1と第2プレート2との間に、100μmと1800μmとの間、好ましくは400μmと1500μmとの間、より好ましくは、500μmと700μmとの間に含まれる距離の間隔を空けるように、周辺シール4に対して第1プレート1および第2プレート2を押し付けることが可能な、要素のスタックを固定するためのシステム51、52
を含む。
【0043】
この場合、
図6に示されるように、角膜を、FR1870835に記載される保持デバイス中に導入するサブ工程220は、下記操作:
・第2プレート2を支持体上に配置すること221、
・角膜のためのハウジングを定めるために、周辺シール4を第2プレート2上に配置すること222、
・角膜をハウジングの中に配置すること223、
・切り取る工程の間にレーザー源によって生成されるレーザー光の伝達を完了させるために、流体(液体またはゲル)をハウジングの中に注入すること224、
・第1プレート1をシール4上に配置すること225、
・第1プレート1および第2プレート2の側端部の周囲に固定システム51~52を取り付けること226
を含む。
【0044】
次いで、保持デバイスが組み立てられる:角膜は、第1プレート1と第2プレート2との間に拘束される。より詳細には、機械的応力が、FR1870835による保持デバイスの第1プレート1および第2プレート2によって、角膜の前面および後面に適用される。
【0045】
この機械的応力は、後続する切り取る工程300の間における角膜の位置ずれのリスクを制限する。
【0046】
この機械的応力はまた、気泡(切り取る工程の間においてレーザービームによって生成される)を角膜から強制的に逃がすことによって、より良好かつより正確な切り取りがなされることを可能にする。したがって、隣接する切り取り領域間の距離を短くすることが可能となり、これにより、同一の角膜からより多くの量のインプラントを作製することが可能になる。
【0047】
さらに、角膜の2つの面に対する機械的応力の適用は、角膜の厚さを制御することが可能になる。したがって、ラメラを切り取り、次いでそれを剥離し、その後次のラメラを切り取る(切り取り、次いで剥離し、次いで切り取り、次いで剥離するなど、操作を増やす結果となる)ことを提案するUS2019/0038399に記載される解決手段とは異なり、複数回の介入を伴わずに単一の連続操作において(即ち、インプラントを剥離する工程400を実施する前に)切り取り面の全ての切り取りを行うことが可能である。
【0048】
吸引固定システムが開放されており、無菌条件下で連続的な切り取り操作を実施することができないUS2019/0038399による解決手段とは異なり、FR1870835による保持デバイス上に配置する工程200は、(角膜を)切り取る工程を無菌かつ密封された条件(閉鎖された容器)下で実施することも可能にする。
【0049】
ある特定の代替的な実施形態において、配置工程200は、グルタルアルデヒドなどのタンパク質結合促進性溶液を角膜に適用することを特徴とするサブ工程210を含み得る。
【0050】
この適用サブ工程210は、角膜の固定および架橋結合(即ち、角膜実質を構成するコラーゲン性タンパク質および/またはプロテオグリカンタンパク質の間に共有結合架橋を作り出すことによる機械的強化)を可能にし、その結果:
・角膜は、薄く透明なままである、
・角膜は、切り取る工程の間に使用されるレーザービームを適用することによって、切り取りがより容易になる、
・角膜は、より剛性となり、剥離工程が促進され、またインプラントは、切り取られた領域によって課される形状を保持する、および
・角膜は、レシピエントにおける移植後の酵素的分解に対して恒久的に耐性である。
【0051】
この適用サブ工程210はまた、特定の細菌およびウイルスに対する無菌化効果を有する。
【0052】
タンパク質結合促進性材料の適用210は、当業者に公知の任意の技術(角膜をタンパク質結合促進性流体中に浸漬する、タンパク質結合促進性流体を角膜上に適用する、など)によって行われ得る。
【0053】
2.3.切り取り
切り取る工程300は、後続するインプラントの剥離を促進するために、切り取られる領域に複数の気泡を生成する。切り取る工程は、レーザー源を含む切り取りシステムを使用して実施される。
【0054】
角膜を切り取るために、フェムト秒レーザー源(超短高出力パルスを送達する)によって生成される電磁ビームが使用され得る。
【0055】
各パルスの時点で、フェムト秒レーザー源は、ビームを生成する。このビームは、角膜6において焦点が合わされる(いわゆる「焦」点で)。気泡は、焦点で形成され、周囲の組織の非常に局所的な断裂を引き起こす。
【0056】
角膜6において切り取り面を形成するために、ビームを移動させることによって、一連の隣接する小さい気泡が、生成される。したがって、角膜を切り取る際に、切り取り領域において気泡が形成される。
【0057】
有利には、FR1870835による保持デバイスを使用する場合、切り取る工程は、レーザー源によって生成される電磁ビームを、角膜の両方の面を通して(即ち、保持デバイスの第1プレートおよび第2プレートを通して)連続的に適用することを特徴とする。実際、FR1870835による保持デバイスの第1プレートおよび第2プレートは、電磁放射線に対して透過性であるため、レーザービームを用いて両方の面から角膜に対して作用することが可能である。
【0058】
このことは、気泡を形成するのに必要なレーザービームの出力を制限することを可能にする:切り取りの半分は一方の面を介してなされ、他の半分は反対側の面を介してなされるため、レーザービームは、最大でも角膜の半分を通過するだけでよい。したがって、使用されるエネルギーはより低く、これにより、切り取る工程を実施する間における角膜の損傷リスクを制限し、切り取りの精度を増加させ、その結果、インプラントの品質を改善する。
【0059】
2.4.剥離
切り取る工程の終わりにおいて、切り取られた角膜は、インプラントが生成された複数の気泡間に伸びる組織マイクロ架橋を介して一体のままの状態で、得られる。
【0060】
剥離工程400は、種々のインプラントを互いから剥離するために、これらの組織架橋を手動で(または自動化されたデバイスを使用して)壊すことを特徴とする。この操作は、使用者によって、当業者に公知の外科的ツールを使用して、実施される。
【0061】
2.5.脱細胞化
脱細胞化工程500は、各インプラントの構造および立体構造を維持しながら、角膜実質細胞および/または内皮細胞および/または上皮細胞を各インプラントから除去する。この脱細胞化は、移植された患者における免疫反応のリスクを低減させる。当業者は、脱細胞化工程が各インプラントに対して実施されることを理解する。このことは、脱細胞化の品質を改善する。角膜全体に対する脱細胞化よりも、角膜の部分(本発明において、例えば、インプラントは薄いラメラからなり得る)に対する脱細胞化はより完全であるためである。
【0062】
したがって、脱細胞化工程500は、良好な生体適合性を有し、透明度または生体力学的品質(製造プロセスの間の取り扱いおよびこれに続く使用者である外科医による取り扱いに対する耐性)のいずれも劣化させることなく、脱細胞化されたインプラントを作製する。その実施は、化学的手段(脱細胞化に適した流体の使用)および/または機械的手段(擦る(削る)ことなど)を使用する様々な技術に基づき得る。
【0063】
例えば、本発明の一つの実施形態において、脱細胞化工程500は、下記サブ工程:
・各インプラントを脱細胞化流体(例えば、塩化ナトリウム(NaCl)、および/またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、および/またはドデシルナトリウム界面活性剤、および/またはDNase酵素が挙げられる)中に浸漬すること、さらに
・場合により、各インプラントを機械的振動に付すこと、および/または、各インプラントの表面を機械的に擦ること、
・各インプラントをリンス流体(例えば、食塩水溶液)でリンスすること、
・インプラントが依然細胞を含有している場合に、場合により、先のサブ工程を繰り返すこと
を含み得る。
【0064】
脱細胞化工程500の実施は、手動でもよく、または自動的(例えば、ロボット、例えば、連続するバス中に各インプラント(例えば、金属またはプラスチックのバスケットタイプのワイヤメッシュレセプタクル中に収容されている)を浸漬するバス・チェンジ・ロボットを使用する)でもよい。
【0065】
2.6.凍結乾燥
凍結乾燥工程600は、インプラントを脱水する。インプラントは、もはや液体媒体中で貯蔵される必要がないため、この凍結乾燥工程は、インプラントの輸送およびこれに続く保存を促進する。
【0066】
読者は、凍結乾燥が、インプラントの透明度を低減させ、インプラントを硬直させるが、施術者によって手術室において実施される再水和を経て完全に可逆的なものであることを理解するであろう。したがって、生体力学的品質(外科的取り扱いに対する耐性)は、インプラントが再水和されれば、変化しない。
【0067】
凍結乾燥工程600は、凍結乾燥機を使用して、または当業者に公知の他の任意の凍結乾燥技術を使用して、実施され得る。インプラントが凍結乾燥された後、無菌化工程に付される。
【0068】
2.7.無菌化
無菌化工程700は、凍結乾燥されたインプラント中にまたはその表面に付着し得る有害生物の数を低減させる。無菌化工程700は、凍結乾燥されたインプラントの保存可能期間をより増大させる。
【0069】
無菌化工程700は、一定期間にわたって、当業者に公知の任意の無菌化技術、例えば、照射殺菌(例えば、凍結乾燥された各インプラントを、電子ビーム照射、ガンマ線照射または紫外線照射に付す)によって実施され得る。
【0070】
2.8.包装
無菌化工程700の終わりに、各インプラントは、インプラントの無菌保存および輸送を可能にする包装材中に包装される800。包装材はまた、インプラントを外傷から保護し、インプラントが手術室で再水和されることを可能にする。
【0071】
例として、FR1870835による保持デバイスについてさらに詳細に説明する。
【0072】
3.
保持デバイス
図7~9を参照して、本発明による切り取り方法の実施において使用される保持デバイスの例を示す。
【0073】
デバイスは、
・電磁放射線に対して透過性を有する第1プレート1および第2プレート2、
・場合により、第1プレート1と第2プレート2との間に配置されるスペーサー3、
・第1プレートと第2プレートとの間に配置される周辺シール4であって、スペーサー周囲に伸びる、周辺シール4、
・プレート1、2、スペーサー3および周辺シール4を組み立てるための固定システム51~52
を含む。
【0074】
3.1.透過性プレート
各プレート1、2は、放射線源、例えば、レーザー、または角膜を治療するための当業者に公知の他の任意のタイプの放射線源によって発せられる電磁放射線に対して透過性を有する1つ(または複数)の生体適合性の無菌化可能な材料からなる。
【0075】
図7に示される実施形態において、各プレート1、2は、単一の材料、例えば、ガラス、ポリ(メチルメタクリレート)、または当業者に公知の他の任意の材料で作製される。
【0076】
特定の代替的な実施形態において、各プレート1、2は、異なる材料の層の重ね合わせから構成され得る。例えば、代替的実施形態において、各プレート1、2は、可撓性材料(例えば、シリコーンベースのもの)の2つの層:
・プレート1、2の機械的強度を増大させる剛性材料の層、および
・上記剛性材料層が破損した場合においてそのかけらの分散のリスクを制限する可撓性材料の層
の間に伸びる剛性材料(例えば、ガラス)の層から構成される。
【0077】
各プレート1、2はまた、その機械的強度を増大させるための強化部材を含んでいてもよい。強化部材は、例えば、プレート1、2の端部11、21に伸びる。強化部材は、プレート1、2中に組み込まれた剛性材料、例えば、チタン、ステンレス鋼、または当業者に公知の他の任意の生体適合性金属のロッドからなり得る。
【0078】
また、強化部材は、プレート1、2と同じ材料のものであってもよい。例えば、強化部材は、プレート1、2の中央領域の厚さよりも大きい厚さを有するプレート1、2の1つ(または複数)の周辺領域からなり得る。したがって、プレート1、2は、その機械的強度を増大するために、厚くなった領域を含んでいてもよく、電磁放射線の改善された伝達のために、薄くなった領域を含んでいてもよい。
【0079】
各プレート1、2は、実質的に平面に伸びていてもよく、または、凹面/凸面であってもよく、各プレート1、2の湾曲(または湾曲の欠如)は、意図される用途に依存する。全ての場合において、第1プレートおよび第2プレートは、互いに対して平行に伸びることが意図される。本発明において、「平行な、平面/凹面/凸面プレート」との表現は、それらの間隔がいずれの点でも一定であるプレートを意味すると理解される。したがって、第1プレートと第2プレートとの間の距離は一定であり、100μmと1800μmとの間、好ましくは400μmと1500μmとの間、より好ましくは500μmと700μmとの間に含まれる。これにより、角膜6の前面および後面が機械的に拘束され、保持デバイスにおける適所での角膜の固定を確実にする。
【0080】
図7に示される実施形態において、各プレート1、2は、形状が円形である。しかし、各プレート1、2について他の形状(正方形、矩形、三角形など)が可能であることは、当業者に明らかである。
【0081】
3.2.スペーサー
スペーサー3は、第1プレート1と第2プレート2との間に配置されることが意図される中間部分を構成する。これにより、第1プレート1と第2プレート2との間であらかじめ規定された距離が維持される。
【0082】
スペーサーはまた、デバイスの縦軸A-A’に対して垂直な面における角膜の動きを制限する。
【0083】
スペーサー3は、好ましくは、剛性である。しかし、スペーサー3は、弾性的に変形可能でもあり得る。スペーサー3は、例えば、生体適合性かつ無菌化可能な材料、特に、シリコーンベースの材料で作製される。
【0084】
スペーサー3は、1つ(または複数)の主要穴を含む。主要穴は、円形であってもよく、または他の任意の所望の形状(正方形、矩形など)を有してもよい。各主要穴の側壁は、第1プレート1および第2プレート2の内側の面と共に、角膜6を含有するためのハウジングを規定する。
【0085】
好ましくは、オリフィスの直径は、角膜6を横方向に拘束するために、角膜6の直径と実質的に等しい。
【0086】
有利には、スペーサー3はまた、1つ(または複数)の脱気区画を含み得る。こ(れら)の脱気区画は、角膜の切り取りを考慮した、電磁放射線の適用の間に角膜6において形成された気泡の貯蔵を可能にする。
【0087】
各区画は、1つ(または複数)の接続チャネルを介して1つ(または複数)の主要穴に接続され得る。こ(れら)のチャネルは、角膜6において形成された気泡の、脱気区画へのルーティング(routing)を可能にする。
【0088】
3.3.周辺シール
透過性プレート1、2が組み立てられると、周辺シール4は、デバイスの横方向の、特に、第1プレート1の端部11および第2プレート2の端部21における密封を確実にする。
【0089】
有利には、周辺シール4は、生体適合性かつ無菌化可能なエラストマー材料、例えば、シリコーンベースの材料で作製される。
【0090】
周辺シール4は、リング形状であり得る。しかし、特に、第1プレート1および第2プレート2の形状に応じて、周辺シール4が他の形状(正方形、矩形、三角形など)を有し得ることは、当業者に明らかである。
【0091】
周辺シール4の厚さおよびスペーサー3の厚さは、第1プレート1と第2プレート2との間の距離を規定し、したがって、前記プレート1、2によって角膜6に適用される機械的厚さ応力を規定する。いくつかの厚さのシール4およびスペーサー3が、角膜6の厚さに、または使用者が選択する具体的な暑さに、デバイスの厚さを適応させるために提供され得る。特に、ある実施形態において、周辺シールの(および/またはスペーサーの)厚さは、100μmと1800μmとの間、好ましくは400μmと1500μmとの間、より好ましくは500μmと700μmとの間に含まれ得る。これにより、角膜6の前面および後面の機械的応力を確実にする距離だけ離して、第1プレートと第2プレートとに間隔が空けられ、保持デバイスの適所での角膜6の固定が確実となる。
【0092】
あるいは、シール4およびスペーサー3は、第1プレート1と第2プレート2との間の異なる距離に適応する拡張可能および/または圧縮可能な材料で作製され得る。この場合、この距離の調整は、第1プレートおよび第2プレートが、100μmと1800μmとの間、好ましくは400μmと1500μmとの間、より好ましくは500μmと700μmとの間に含まれる距離だけ離れて間隔が空くように、固定システム51、52によって確実にされる。
【0093】
3.4.固定システム
固定システム51、52は、第1プレート1および第2プレート2、シール4、および場合によりスペーサー3から構成されるアセンブリを適所で保持する。固定システムは、上記アセンブリの安定性を保証し、不測の開放のリスクなしに、使用者が当該アセンブリを取り扱うことを可能にする。
【0094】
固定システム51、52は、下記を可能にするために取り外し可能である:
・角膜を切り取る前の、デバイス中への角膜6の挿入、
・角膜が切り取られた後のインプラントの回収。
【0095】
図7を参照すると、固定システムは、第1プレート1の端部11および第2プレート2の端部21を取り囲むことが意図されたフレームを含み得る。フレームは、2つの部分で構成され得、特に、フレームは、第1部分51および第2部分52を含み得る。
【0096】
各部分51、52は、例えば、デバイスの縦軸A-A’に沿って伸びる中央通り抜け管腔を含む半円筒からなる。より詳細には、各部分は、上側および下側の輪状トレイならびに側壁を含む:
・上側トレイの内側面は、第1プレート1の外側面に面することが意図される、
・下側トレイの内側面は、第2プレート2の外側面に面することが意図される、そして
・側壁の内側面は、プレート1、2の端部11、21、およびシール4の外側面に面することが意図される。
【0097】
各部分51、52の上側トレイおよび/または下側トレイは、縦方向A-A’に沿って力を適用し、シール4およびスペーサー3に対してプレート1、2を押し付けるのに役立つ留め付け要素、例えば、ネジ棒を有するネジの通過のための1つ(または複数)の穴を含み得る。この留め付け要素はまた、第1プレート1と第2プレート2との間の所望の距離(したがって、角膜6に適用される機械的応力)を調整することも可能にする。
【0098】
第1部分51および第2部分52はまた、これらの部分を一体にすることを可能にする留め付け手段(図示せず)を含んでいてもよい。
【0099】
あるいは、
図9に示されるように、固定システムは、第1および第2基本フレームを含み得る:
・第1フレームは、第1プレート1の端部11を取り囲むことが意図された第1基本部分51’および第2基本部分52’を含む、そして
・第2基本フレームは、第2プレート2の端部21を取り囲むことが意図された第1部分51”および第2部分52”を含む。
【0100】
この場合、第1および第2基本フレームは、第1プレートと第2プレートとの間の距離が、100μmと1800μmとの間、好ましくは400μmと1500μmとの間、より好ましくは500μmと700μmとの間に含まれるように、第1基本フレームと第2基本フレームとの間の間隔、したがって、第1プレート1と第2プレート2との間の間隔を調整するための複数のマイクロメートルネジ58によって一体化される。
【0101】
4.結論
角膜を切り取るための上記方法は、同一の角膜からいくつかのインプラントを切り取ることによって、ヒト/動物角膜のリサイクルを最適化する。
【0102】
この切り取り方法により、異なるタイプのインプラント:
・充填性インプラント、例えば、眼の穿孔を修復するための「ハット形状の」インプラント、または周辺潰瘍を修復するための「ウォッシャー形状の」インプラント、
・円錐角膜の構造を強化するための厚い平行面ブレード。これらの厚いブレードは、屈折矯正外科手術に対して二次的な角膜拡張症、もしくは強膜の弱化(術後網膜剥離、創傷)を強化するため、または外在化した抗緑内障バルブドレインを覆うなどのためにも使用され得る、
・老視または遠視を修正するための(両)凸面レンチクル、
・近視を修正するための(両)凹面レンチクル
を得ることが可能である。
【0103】
切り取り方法によって得られたインプラントは、免疫反応を誘発する細胞を含むことなくまず、透明度および堅牢性の特性を維持する。これらのインプラントは、室温で保存可能期間を延ばして保存され、また単純な再水和の直後に使用され得る。
【0104】
上記切り取り方法とFR1870835による保持デバイスとの組み合わせは、多くのさらなる利点を有する:
・保持デバイスの第1プレートおよび第2プレートが電磁放射線に対して透過性であるという事実は、角膜に対して両方の面から作用すること(切り取る工程の間に使用されるレーザービームが、角膜の前面を通っておよび後面を通って適用され得る)を可能にし、したがって、切り取りの間のインプラントへの損傷のリスクを制限するためにレーザービームの出力を低減させることを可能にする;
・角膜の保持は、
〇 角膜が光照射に付された場合であっても、角膜を不動のままにすること、
〇 既知の安定な拘束された位置を得ること(したがって、一方の面上で開始された切り取りを継続し、他方の面上で完了させるために、参照マークを見失うことなく、デバイスを回転させることが可能である)
を可能にする;
・第1プレートおよび第2プレートと周辺シールとの組み合わせは、無菌かつ密封された条件(閉鎖された容器)で角膜が調製されることを可能にし、その無菌性を損なうことのない角膜の取り扱いを促進する。
【0105】
さらに、両方の面により角膜を保持するためのデバイスの使用は、複数のインプラントを単一の工程で切り取ることを可能にする。これは、角膜からラメラを切り取り、ラメラを切断し、ラメラからレンチクルを切り取し、インプラントを得るためにレンチクルを成形し、新たなラメラからインプラントを得るために先の工程を繰り返すことを要するUS2019/0038399に記載される解決手段とは異なる。加えて、単一の切り取る工程を実施するための単一のフェムト秒レーザー源の使用を可能にする。これは、
・ラメラを切り取り、ラメラにおいてレンチクルを切り取るための、フェムト秒レーザー源(またはマイクロケラトームタイプ切り取りデバイス)の使用、および
・インプラントを得るための、各レンチクルを成形するためのエキシマレーザー源の使用
を要するUS2019/0038399に記載される解決手段とは異なる。
【0106】
さらに、凍結乾燥工程は、インプラントの保存可能期間を延ばし、棚でのその貯蔵を促進する。
【0107】
読者は、多くの改変が、本明細書に記載される新規な教示および利点から実質的に逸脱することなく、上に説明された発明に対してなされてよいことを理解するであろう。
【0108】
例えば、上述の説明において、決定工程は、保持デバイス中に角膜を配置する工程の前に実施されるものとされている。この決定工程が配置工程の後に実施されてもよいことは、当業者に明らかである。