(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】光学装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/28 20060101AFI20240710BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20240710BHJP
G02B 1/113 20150101ALI20240710BHJP
G02B 5/00 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
G02B5/28
G02B5/26
G02B1/113
G02B5/00 A
(21)【出願番号】P 2022538633
(86)(22)【出願日】2021-06-16
(86)【国際出願番号】 JP2021022915
(87)【国際公開番号】W WO2022019010
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2024-01-09
(31)【優先権主張番号】P 2020124457
(32)【優先日】2020-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日 令和2年11月13日 刊行物 日本光学会年次学術講演会 Optics & Photonics Japan 2020 講演予稿集、第269ページ(17aO10)、日本光学会 〔刊行物等〕 開催日 令和2年11月17日 集会名、開催場所 日本光学会年次学術講演会 Optics & Photonics Japan 2020 オンライン開催
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 翼
(72)【発明者】
【氏名】酒井 寛人
(72)【発明者】
【氏名】大林 寧
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-284561(JP,A)
【文献】特開2017-097280(JP,A)
【文献】深野 天,ガルバノミラーの位置はどこ? ~顕微鏡の視野絞りと開口絞り~,光学工房,2008年,37巻5号,303-305頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/28
G02B 5/26
G02B 1/113
G02B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集光光学素子と、
前記集光光学素子による集光途中または発散途中の光路上に配置された角度フィルタ
と、を備え、
前記角度フィルタは、第1の屈折率を有する誘電体層と、前記第1の屈折率より小さい第2の屈折率を有する誘電体層と、が交互に積層された誘電体多層膜を含
み、
前記集光光学素子と前記角度フィルタとが空間周波数フィルタを構成する、光学装置。
【請求項2】
前記光路を伝搬する光の波長における、前記誘電体多層膜への入射角に対する前記誘電体多層膜の透過率または反射率の分布は、前記透過率または前記反射率が入射角に対して単調増加または単調減少となる領域を含み、
前記領域における前記透過率または前記反射率の入射角に対する変化率の絶対値が、単位角度あたり20%以下である、請求項1に記載の光学装置。
【請求項3】
前記角度フィルタは、前記光路を伝搬する光の波長において光透過性を有する基板を更に含み、
前記基板は、前記誘電体多層膜が設けられた第1主面と、前記第1主面と対向し反射防止膜が設けられた第2主面とを有する、請求項1または2に記載の光学装置。
【請求項4】
前記角度フィルタは、前記光路を伝搬する光の波長において光透過性を有する基板を更に含み、
前記第1の屈折率は前記基板の屈折率より大きく、前記第2の屈折率は前記基板の屈折率より小さく、
前記誘電体多層膜の積層方向における前記基板側の一端に位置する誘電体層が前記第1の屈折率を有する、請求項1または2に記載の光学装置。
【請求項5】
前記角度フィルタは、前記光路を伝搬する光の波長において光透過性を有する基板を更に含み、
前記第1の屈折率は前記基板の屈折率より大きく、前記第2の屈折率は前記基板の屈折率より小さく、
前記誘電体多層膜の積層方向における前記基板側の一端に位置する誘電体層が前記第2の屈折率を有する、請求項1または2に記載の光学装置。
【請求項6】
前記集光光学素子の後段に配置されて前記集光光学素子と共に4f光学系を構成する別の集光光学素子を更に備え、
前記角度フィルタは、前記集光光学素子と前記別の集光光学素子との間の光路上に配置されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項7】
前記角度フィルタは、前記集光光学素子の光出射面上に配置される、請求項1または2に記載の光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、光学フィルタに関する技術が開示されている。この光学フィルタは、低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された誘電体多層膜からなり、入射角度が所定の角度以内の場合に入射光を透過することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空間を伝搬する光から所望の周波数成分を抽出または除去するための空間周波数フィルタとして、レンズなどの集光光学系と空間フィルタとを備えるものが知られている。この空間周波数フィルタにおいては、集光光学系の後側焦点を含むフーリエ面に、種々の開口形態を有する空間フィルタを配置し、集光光学系によってフーリエ変換された光の一部を通過させることにより、所望の周波数成分を抽出し、不要な周波数成分を除去する。
【0005】
このような構成においては、集光光学系と空間フィルタとの光軸調整を極めて高精度(例えば光の集光スポットサイズと同等程度)に行う必要がある。集光光学系の光軸と空間フィルタの光軸とが僅かでもずれると、抽出または除去する周波数成分が所望の周波数からずれてしまうからである。しかし、機械的に高精度に調整された集光光学系と空間フィルタとの相対位置は、振動及び温度といった外的要因の影響を受け易い。したがって、外的要因により周波数特性が変動するおそれがある。
【0006】
実施形態は、集光光学系とフィルタとの相対位置の変動に起因する周波数特性の変動を抑制できる光学装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態は、光学装置である。光学装置は、集光光学素子による集光途中または発散途中の光路上に配置された角度フィルタを備え、角度フィルタは、第1の屈折率を有する誘電体層と、第1の屈折率より小さい第2の屈折率を有する誘電体層と、が交互に積層された誘電体多層膜を含む。
【0008】
上記構成において、誘電体多層膜の透過率および反射率は光の入射角に応じて変化し、その特性は誘電体多層膜の層構造(各層の厚さ、積層数、及び材料)によって制御可能である。また、集光途中または発散途中の光路上に誘電体多層膜を配置すると、光路の中心からの距離に応じて光の入射角が変化する。
【0009】
具体的には、光路の中心に近いほど入射角が小さくなり、光路の中心から遠いほど入射角が大きくなる。したがって、上記の光学装置によれば、集光光学素子を通過した後の周波数空間において、所望の周波数成分を選択的に透過又は反射させることができ、空間周波数フィルタを好適に実現できる。
【0010】
また、集光光学系と誘電体多層膜との相対位置関係の変動は、上記のフィルタ作用に殆ど影響しない。したがって、上記の光学装置によれば、開口を有する空間フィルタを集光光学系の後側焦点を含むフーリエ面に配置する構成と比較して、集光光学系とフィルタとの相対位置の変動に起因する周波数特性の変動を格段に抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
実施形態によれば、集光光学系とフィルタとの相対位置の変動に起因する周波数特性の変動を抑制できる光学装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る光学装置の構成を概略的に示す図である。
【
図3】
図3は、誘電体多層膜の構成例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、誘電体多層膜の構成例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、光の波長と、
図3に示した誘電体多層膜の透過率との関係の一例を示すグラフである。
【
図6】
図6は、
図5において用いたものと同じ誘電体多層膜における、光の入射角と透過率との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、690nmを設計波長とした場合における入射角と透過率との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、光が誘電体多層膜に入射する様子を光軸方向から見た平面図である。
【
図9】
図9は、(a)
図8に示される線分上における所望の周波数-透過特性を概念的に示すグラフ、及び(b)入射角-透過特性を概念的に示すグラフである。
【
図10】
図10は、誘電体多層膜に望まれる周波数特性の一例を示すグラフである。
【
図12】
図12は、(a)光の波長と、
図4に示した誘電体多層膜の透過率との関係の一例を示すグラフ、及び(b)光の入射角と透過率との関係を示すグラフである。
【
図13】
図13は、比較例としての光学装置の構成を模式的に示す図である。
【
図14】
図14は、(a)空間フィルタの平面形状を示す図、及び(b)光学装置の透過特性を概念的に示すグラフである。
【
図15】
図15は、(a)空間フィルタの平面形状を示す図、及び(b)光学装置の透過特性を概念的に示すグラフである。
【
図16】
図16は、実施例において得られた、波長633nmにおける角度フィルタの入射角と透過率との関係を示すグラフである。
【
図17】
図17は、誘電体多層膜の波長-透過率特性を示すグラフである。
【
図18】
図18は、(a)実施例において集光光学素子を通過した直後の光を撮像して得られたデータを示す図、及び(b)角度フィルタを配置しない場合の撮像データを示す図である。
【
図20】
図20は、角度フィルタを配置した場合の光強度と、角度フィルタを配置しない場合の光強度との比を示すグラフである。
【
図21】
図21は、(a)角度フィルタを配置した場合の干渉縞のプロファイルを示すグラフ、及び(b)角度フィルタを配置しない場合の干渉縞のプロファイルを示すグラフである。
【
図22】
図22は、別の形態に係る光学装置の構成を概略的に示す図である。
【
図23】
図23は、さらに別の実施形態に係る光学装置の構成を概略的に示す図である。
【
図24】
図24は、角度フィルタの入射角-透過特性の一例を示すグラフである。
【
図25】
図25は、角度フィルタを用いた光学装置の構成の一例を示す図である。
【
図26】
図26は、(a)、(b)カメラによって取得された試料の画像の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、光学装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではない。
【0014】
図1は、一実施形態に係る光学装置1の構成を概略的に示す図である。この光学装置1は、集光光学素子2及び3と、角度フィルタ4とを備えている。
【0015】
集光光学素子2及び3は、例えば凸レンズである。集光光学素子3は、集光光学素子2の後段に配置され、集光光学素子2と共に4f光学系を構成する。すなわち、集光光学素子2及び3の光軸は互いに一致しており、集光光学素子2の焦点距離をz1、集光光学素子3の焦点距離をz2とすると、集光光学素子2と集光光学素子3との間の光学距離はz1+z2と一致する。
【0016】
光学装置1には、光源10から単一波長の光Lが入力される。光Lの波長は例えば可視域に含まれる。光Lは、光学装置1に平行光として入力される。光源10は、半導体レーザ素子といった発光部と、発光部から出力される光を平行化するコリメート光学系とを含んでもよい。光Lは、集光光学素子2によって集光されて一旦収束し、その後、発散しながら集光光学素子3に到達する。光Lは、集光光学素子3によって再び平行化されたのち、光学装置1の外部へ出力される。
【0017】
角度フィルタ4は、集光光学素子2と集光光学素子3との間の光路上に配置されている。本実施形態の角度フィルタ4は透過型のフィルタである。角度フィルタ4は、集光光学素子2を通過した後の周波数空間において、所望の周波数成分を選択的に透過させる空間周波数フィルタとして機能する。
【0018】
角度フィルタ4は、集光光学素子2による集光途中または発散途中の光路上(図示例では集光途中の光路上)に配置されている。なお、集光途中の光路とは、集光光学素子2と収束点Q(ビームウエスト)との間の光路を指し、発散途中の光路とは、収束点Qと集光光学素子3との間の光路を指す。収束点Qは、集光途中の光路、及び発散途中の光路のいずれにも含まれない。
【0019】
図2は、角度フィルタ4を示す斜視図である。
図2に示すように、角度フィルタ4は、基板5と、誘電体多層膜6と、反射防止膜7とを含んで構成されている。基板5は、互いに対向する第1主面51及び第2主面52を有する平板状の部材であって、光Lの波長に対して光透過性を有する。なお、光透過性を有するとは、対象波長の光を90%以上透過する性質をいう。
【0020】
光Lの波長が可視域に含まれる場合、基板5は、例えば合成石英またはガラス(一例ではBK-7)といった材料によって主に構成され得る。第1主面51及び第2主面52は共に平坦であり、互いに平行である。第1主面51及び第2主面52に垂直な方向は、基板5の厚さ方向と一致する。基板5の厚さ方向は、集光光学素子2及び3の光軸方向に沿っている。
【0021】
誘電体多層膜6は、第1主面51上に設けられている。
図3及び
図4は、それぞれ誘電体多層膜6の構成例を示す模式図である。
図3には、誘電体多層膜6Aが示されており、
図4には、誘電体多層膜6Bが示されている。誘電体多層膜6A及び6Bそれぞれは、誘電体層(第1誘電体層)61と誘電体層(第2誘電体層)62とが交互に積層されてなる。
【0022】
誘電体層61は、第1の屈折率n1を有する。誘電体層62は、第1の屈折率n1より小さい第2の屈折率n2を有する。第1の屈折率n1は基板5の屈折率より大きく、第2の屈折率n2は基板5の屈折率より小さい。一例では、第1の屈折率n1は1.5より大きく、第2の屈折率n2は1.5より小さい。
【0023】
図3に示される誘電体多層膜6Aでは、積層方向における基板5側の一端6aに誘電体層61が配置されている。すなわち、誘電体多層膜6Aは、基板5側から見て誘電体層61から順に積層されて成る。積層方向における基板5とは反対側の他端6bにも、誘電体層61が配置されている。誘電体多層膜6Aでは、基板5の材料として例えば合成石英が用いられる。
【0024】
図4に示される誘電体多層膜6Bでは、積層方向における基板5側の一端6aに誘電体層62が配置されている。すなわち、誘電体多層膜6Bは、基板5側から見て誘電体層62から順に積層されて成る。積層方向における基板5とは反対側の他端6bにも、誘電体層62が配置されている。誘電体多層膜6Bでは、基板5の材料として例えばBK-7が用いられる。
【0025】
誘電体層61及び62の構成材料としては、無機材料、有機材料、半導体、金属、又は空気を用いることができる。
【0026】
高屈折率層である誘電体層61を構成する無機材料としては、酸化チタン(TiO2)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、五酸化タンタル(Ta2O5)、酸化ハフニウム(HfO2)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化珪素(Si3N4)、フッ化ランタン(LaF3)、酸化インジウム(In2O3)、錫添加酸化インジウム(ITO)、アルミニウム添加酸化亜鉛(AZO)、フッ素添加酸化錫(FTO)、IGZO、及び炭素(C)からなる群に含まれる少なくとも1つの材料が用いられ得る。
【0027】
低屈折率層である誘電体層62を構成する無機材料としては、二酸化珪素(SiO2)、フッ化アルミニウム(AlF3)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化リチウム(LiF)、クリオライト(Na3AlF6)、チオライト(Na5Al3F14)、及びフッ化ナトリウム(NaF)からなる群に含まれる少なくとも1つの材料が用いられ得る。
【0028】
高屈折率層である誘電体層61を構成する有機材料としては、ポリα-ブロムアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸-2、3-ジブロムプロピル、フタル酸ジアリル、ポリメタクリル酸フェニル、ポリ安息香酸ビニル、ポリスチレン、ポリメタクリル酸ペンタクロルフェニル、ポリσ-クロルスチレン、ポリビニルナフタレン、及びポリビニルカルバゾールからなる群に含まれる少なくとも1つの材料が用いられ得る。
【0029】
低屈折率層である誘電体層62を構成する有機材料としては、CF2=CF2-CF2=CF(CF3)共重合体、ポリメタクリル酸トリフルオロエチル、ポリメタクリル酸イソブチル、ポリアクリル酸メチル、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR-39)ポリマー、ポリメタクリル酸メチル、シリコーンポリマー、セルロースアセテート、及びポリメチルメタクリレートからなる群に含まれる少なくとも1つの材料が用いられ得る。
【0030】
誘電体層61及び62を構成する半導体としては、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、砒化ガリウム(GaAs)、窒化ガリウム(GaN)、インジウムアンチモン(InSb)、インジウムリン(InP)、ガリウムリン(GaP)、窒化アルミニウム(AlN)、インジウムガリウム砒素(InGaAs)、及びインジウムガリウムリン(InGaP)からなる群に含まれる少なくとも1つの材料が用いられ得る。
【0031】
なお、誘電体層61及び62の屈折率は、半導体の組成比を変更することによって調整可能であり、半導体に添加する物質の濃度を変更することによっても調整可能である。
【0032】
誘電体層61及び62を構成する金属材料としては、アルミニウム、クロム、銅、ニッケル、チタン、金、銀、白金、及びモリブデンからなる群に含まれる少なくとも1つの材料が用いられ得る。
【0033】
誘電体層61及び62が無機材料、半導体、または金属材料によって構成されている場合、誘電体層61及び62は、例えば真空蒸着、スパッタリング、抵抗加熱蒸着、原子層堆積(Atomic Layer Deposition)、レーザアブレーション、又は化学気相成長(Chemical Vapor Deposition)といった種々の方法により形成され得る。また、誘電体層61及び62が有機材料によって構成されている場合、誘電体層61及び62は、例えばスピンコート、塗布、または印刷といった種々の方法により形成され得る。
【0034】
誘電体層61及び62の厚さは、角度フィルタ4に求められる所望の特性に応じて設定される。なお、誘電体層61及び62は、メタマテリアル構造若しくはファブリペロー構造といった、屈折率を材料固有の値から任意に変化させ得る構造を有してもよい。
【0035】
再び
図2を参照する。反射防止膜7は、第2主面52上に設けられている。反射防止膜7は、例えば誘電体多層膜を含んで構成される。反射防止膜7は、第2主面52から基板5の外部へ出射しようとする光Lの第2主面52における反射を低減する。光Lの波長が可視域に含まれる場合、反射防止膜7は、例えばTa
2O
5,Al
2O
3,MgF
2といった材料によって主に構成され得る。
【0036】
角度フィルタ4の特性及び機能について説明する。
図5は、光Lの波長と、
図3に示した誘電体多層膜6Aの透過率との関係の一例を示すグラフである。
【0037】
図5において、縦軸は透過率(単位:%)を表し、横軸は波長(単位:nm)を表す。
図5には、誘電体多層膜6Aに対する光の入射角が0°(すなわち光の入射方向が誘電体多層膜6Aの表面に垂直)である場合のグラフG11、入射角が15°である場合のグラフG12、及び入射角が40°である場合のグラフG13が示されている。この例では、設計波長を690nmとしている。
【0038】
図5に示すように、誘電体多層膜6Aは、或るカットオフ波長より長い波長域では光を透過せず、カットオフ波長より短い波長域では光を透過するローパスフィルタを構成する。但し、光の入射角によってその特性は変化し、入射角が大きくなるほどカットオフ波長が短波長側へシフトしている。このことから、或る特定の波長において、誘電体多層膜6Aの透過率が光の入射角と相関を有することがわかる。
【0039】
図6は、
図5において用いたものと同じ誘電体多層膜6Aにおける、光の入射角と透過率との関係を示すグラフである。
図6において、縦軸は透過率(単位:%)を表し、横軸は入射角(単位:度)を表す。
【0040】
図6に示すように、この例において、15°以下といった入射角が比較的小さい領域A1では、誘電体多層膜6Aの透過率は100%に漸近する。また、40°以上といった入射角が比較的大きい領域A3では、誘電体多層膜6Aの透過率は0%に漸近し、光をほぼ全て反射する。そして、これらの領域A1,A3の間の領域A2では、透過率が入射角に対して単調に減少しており、透過率が100%から0%まで連続的且つなだらかに低下している。
【0041】
領域A2における、透過率の入射角に対する変化率の絶対値は、例えば単位角度(1°)あたり20%以下である。また、透過率が80%から20%まで変化するときの角度変化量は、例えば5°以上60°以下である。なお、以下の説明において、透過率が50%となるときの角度をカットオフ角と定義する。
【0042】
図6に示されたグラフの領域A2における、透過率の入射角に対する変化率(すなわちグラフの傾き)を所望の大きさに設定するためには、誘電体層61及び62の繰り返し数を調整するとよい。誘電体層61及び62の繰り返し数が多くなるほど、透過率の入射角に対する変化率の絶対値は大きくなり、グラフの傾きは急峻になる。逆に言えば、誘電体層61及び62の繰り返し数が少なくなるほど、透過率の入射角に対する変化率の絶対値は小さくなり、グラフの傾きは緩慢になる。
【0043】
カットオフ角を所望の大きさに設定するためには、誘電体層61及び62の厚さを調整するとよい。誘電体層61及び62が厚くなるほど、カットオフ角は長波長側へ移動する。逆に言えば、誘電体層61及び62が薄くなるほど、カットオフ角は短波長側へ移動する。
【0044】
図7は、690nmを設計波長とした場合における入射角と透過率との関係を示すグラフであって、波長が690nmである場合(グラフG23)のほか、波長が670nmである場合(グラフG21)、680nmである場合(グラフG22)、700nmである場合(グラフG24)、及び710nmである場合(グラフG25)をそれぞれ示している。
図7において、縦軸は透過率(単位:%)を表し、横軸は入射角(単位:度)を表す。
【0045】
図7に示すように、波長が大きくなるほど、カットオフ角が低角度側へシフトすることがわかる。
【0046】
前述したように、
図3に示した誘電体多層膜6Aでは、積層方向における基板5側の一端6aに、高屈折率層である誘電体層61が配置されている。この場合、
図6に示したように、誘電体多層膜6Aは、カットオフ角よりも小さい入射角の光を透過し、カットオフ角よりも大きい入射角の光を反射する、ローパスフィルタとして機能する。
【0047】
図8は、光Lが誘電体多層膜6Aに入射する様子を光軸方向から見た平面図である。集光光学素子2を通過した光Lは、集光または発散されながら、誘電体多層膜6Aに入射する。したがって、光Lのうち、集光光学素子2の光軸AXを含む中央領域B1に含まれる光の入射角はカットオフ角よりも小さく、中央領域B1を囲む周辺領域B2に含まれる光の入射角はカットオフ角よりも大きい。よって、誘電体多層膜6Aは、中央領域B1に含まれる光を透過し、周辺領域B2に含まれる光を反射する。
【0048】
集光光学素子2によるフーリエ変換作用によって、中央領域B1に含まれる光の周波数(或いは回折次数)は小さく、周辺領域B2に含まれる光の周波数(或いは回折次数)は大きい。故に、この誘電体多層膜6Aは、低周波数成分を透過して高周波数成分を反射する。したがって、
図1のように角度フィルタ4を透過型フィルタとして用いる場合には、光学装置1は低周波数成分のみを選択的に抽出する周波数フィルタとして用いられることができる。
【0049】
特に、
図6の領域A2における透過率の入射角に対する変化率の絶対値が小さくなるように、誘電体層61及び62の繰り返し数を少なくすれば、高次の回折光を低減して低周波のコントラストを向上するアポダイゼーションフィルタを実現することができる。また、角度フィルタ4を反射型フィルタとして用いることも可能であり、その場合には、当該光学装置は高周波数成分のみを選択的に抽出する周波数フィルタとして用いられることができる。
【0050】
誘電体多層膜6Aを定量的に設計するためには、誘電体多層膜6Aに望まれる周波数特性を入射角特性に変換するとよい。
図9(a)は、
図8に示される線分D上における周波数-透過特性を概念的に示すグラフである。
図9(a)の横軸は、集光光学素子2のカットオフ周波数f
0と周波数成分f
xとの比f
x/f
0を表し、縦軸は透過率を表す。この周波数特性に基づき、比f
x/f
0を角度成分θ
xに変換することにより、角度特性が得られる。
【0051】
αをsinθxとし、光Lの波長をλとしたときの波数ベクトルの1成分をkx=2πα/λとすると、周波数成分fx=α/λなので、角度成分θxをsin-1(λ・fx)として表現することができる。また、カットオフ周波数f0は、集光光学素子2のレンズ開口の有効径wと焦点距離z1とからw/(λ・z1)として算出される。故に、角度成分θxは、
θx=sin-1(λ・β・f0),0<β<1
として算出される。
【0052】
図9(b)は、こうして算出される入射角-透過特性を概念的に示すグラフである。
図9(b)に示すように、この入射角-透過特性の形状は
図9(a)に示された周波数-透過特性の形状と似ており、所望の周波数特性から入射角特性を容易に算出することができる。
【0053】
図10は、誘電体多層膜6Aに望まれる周波数特性の一例を示すグラフである。例えば、この周波数特性に応じた入射角特性を設計すると
図11のようになる。ここでは、集光光学素子2,3のレンズ開口を10mmとし、集光光学素子2の焦点距離z
1を10mmとし、設計波長λを690nmとした。
【0054】
図12(a)は、
図4に示した誘電体多層膜6Bの透過率と、光Lの波長との関係の一例を示すグラフである。
図12(a)において、縦軸は透過率(単位:%)を表し、横軸は波長(単位:nm)を表す。
図12(a)には、誘電体多層膜6Bに対する光の入射角が30°である場合のグラフG31、入射角が45°である場合のグラフG32、及び入射角が60°である場合のグラフG33が示されている。この例では、設計波長を900nmとしている。
【0055】
図12(a)に示すように、誘電体多層膜6Bは、或るカットオフ波長より長い波長域では光を透過し、カットオフ波長より短い波長域では光を透過しないハイパスフィルタを構成する。但し、光の入射角によってその特性は変化し、入射角が大きくなるほどカットオフ波長が短波長側へシフトしている。このことから、或る特定の波長において、誘電体多層膜6Bの透過率が光の入射角と相関を有することがわかる。
【0056】
図12(b)は、
図12(a)において用いたものと同じ誘電体多層膜6Bにおける、光の入射角と透過率との関係を示すグラフである。
図12(b)において、縦軸は透過率(単位:%)を表し、横軸は入射角(単位:度)を表す。
【0057】
図12(b)に示すように、この例において、40°以下といった入射角が比較的小さい領域A4では、誘電体多層膜6Bの透過率は0%に漸近し、光をほぼ全て反射する。また、50°以上といった入射角が比較的大きい領域A6では、誘電体多層膜6Bの透過率は100%に漸近する。そして、これらの領域A4,A6の間の領域A5では、透過率が入射角に対して単調に増加しており、透過率が0%から100%まで連続的且つなだらかに上昇している。
【0058】
領域A5における、透過率の入射角に対する変化率の絶対値は、例えば単位角度あたり20%以下である。また、透過率が20%から80%まで変化するときの角度変化量は、例えば5°以上60°以下である。
【0059】
図12(b)に示されたグラフの領域A5における、透過率の入射角に対する変化率(すなわちグラフの傾き)を所望の大きさに設定するためには、誘電体層61及び62の繰り返し数を調整するとよい。誘電体層61及び62の繰り返し数が多くなるほど、透過率の入射角に対する変化率の絶対値は大きくなり、グラフの傾きは急峻になる。逆に言えば、誘電体層61及び62の繰り返し数が少なくなるほど、透過率の入射角に対する変化率の絶対値は小さくなり、グラフの傾きは緩慢になる。
【0060】
カットオフ角を所望の大きさに設定するためには、誘電体層61及び62の厚さを調整するとよい。誘電体層61及び62が厚くなるほど、カットオフ角は長波長側へ移動する。逆に言えば、誘電体層61及び62が薄くなるほど、カットオフ角は短波長側へ移動する。
【0061】
前述したように、
図4に示した誘電体多層膜6Bでは、積層方向における基板5側の一端6aに、低屈折率層である誘電体層62が配置されている。この場合、
図12(b)に示したように、誘電体多層膜6Bは、カットオフ角よりも小さい入射角の光を反射し、カットオフ角よりも大きい入射角の光を透過する、ハイパスフィルタとして機能する。
【0062】
すなわち、誘電体多層膜6Bは、
図8に示した中央領域B1に含まれる光を反射し、周辺領域B2に含まれる光を透過する。故に、この誘電体多層膜6Bは、低周波数成分を反射して高周波数成分を透過する。したがって、
図1のように角度フィルタ4を透過型フィルタとして用いる場合には、光学装置1は高周波数成分のみを選択的に抽出する周波数フィルタとして用いられることができる。
【0063】
特に、領域A5における透過率の入射角に対する変化率の絶対値が小さくなるように、誘電体層61及び62の繰り返し数を少なくすれば、低次の回折光を低減して高周波のコントラストを向上するアンチアポダイゼーションフィルタ(超解像フィルタ)を実現することができる。また、角度フィルタ4を反射型フィルタとして用いることも可能であり、その場合には、当該光学装置は低周波数成分のみを選択的に抽出する周波数フィルタとして用いられることができる。
【0064】
以上に説明した本実施形態の光学装置1によって得られる効果について、比較例と共に説明する。
図13は、比較例としての光学装置100の構成を模式的に示す図である。
【0065】
この光学装置100は空間周波数フィルタであって、4f光学系を構成する集光光学素子2,3と、空間フィルタ101とを備えている。空間フィルタ101は、所望の周波数を除去するための任意形状の開口102を有し、集光光学素子2の後側焦点を含むフーリエ面に配置されている。
【0066】
図14(a)は、空間フィルタ101の一例として、空間フィルタ101Aの平面形状(光軸方向から見た形状)を示す図である。この例では、集光光学素子2の光軸AXを中心とする円形の開口(アパーチャ)102が空間フィルタ101Aに形成され、開口102の周囲は遮蔽部103を構成している。
【0067】
図14(b)は、光学装置100が空間フィルタ101Aを備える場合の光学装置100の透過特性を概念的に示すグラフである。
図14(b)において、縦軸は透過率を表し、横軸は周波数を表す。図中のfcはカットオフ周波数である。
【0068】
図14(b)に示すように、光学装置100は、空間フィルタ101Aを備える場合、カットオフ周波数fcより小さい周波数の光を通過するローパスフィルタとして機能する。また、開口102と遮蔽部103との境界において光の透過率をなだらかに変化させると、アポダイゼーションフィルタが得られる。
【0069】
図15(a)は、空間フィルタ101の他の一例として、空間フィルタ101Bの平面形状を示す図である。この例では、集光光学素子2の光軸AXを中心とする円形の遮蔽部103が配置され、遮蔽部103の周囲は開口102を構成している。
【0070】
図15(b)は、光学装置100が空間フィルタ101Bを備える場合の光学装置100の透過特性を概念的に示すグラフである。
図15(b)において、縦軸は透過率を表し、横軸は周波数を表す。
【0071】
図15(b)に示すように、光学装置100は、空間フィルタ101Bを備える場合、カットオフ周波数fcより大きい周波数の光を通過するハイパスフィルタとして機能する。また、開口102と遮蔽部103との境界において光の透過率をなだらかに変化させると、アンチアポダイゼーションフィルタ(超解像フィルタ)が得られる。
【0072】
図13に示した光学装置100においては、集光光学素子2と空間フィルタ101との光軸調整を極めて高精度(例えば光の集光スポットサイズと同等程度)に行う必要がある。集光光学素子2の光軸と空間フィルタ101の光軸とが僅かでもずれると、周波数特性が変動し、抽出または除去する周波数成分が所望の周波数からずれてしまうからである。
【0073】
しかしながら、機械的に高精度に調整された集光光学素子2と空間フィルタ101との相対位置は、振動及び温度といった外的要因からの影響を受け易い。したがって、外的要因により周波数特性が変動するおそれがある。
【0074】
既に述べたように、本実施形態の誘電体多層膜6の透過率および反射率は光の入射角に応じて変化し、その特性は誘電体多層膜6の層構造(各層の厚さ、積層数、及び材料)によって制御可能である。また、集光途中または発散途中の光Lの光路上に誘電体多層膜6を配置すると、光路の中心(光軸AX)からの距離に応じて、光の入射角が変化する。したがって、本実施形態の光学装置1によれば、集光光学素子2を通過した後の周波数空間において、所望の周波数成分を選択的に透過又は反射させることができ、空間周波数フィルタを好適に実現できる。
【0075】
また、集光光学素子2と誘電体多層膜6との相対位置関係の変動は、入射角を変動させるものではなく、上記のフィルタ作用に殆ど影響しない。したがって、本実施形態の光学装置1によれば、開口102を有する空間フィルタ101を集光光学素子2の後側焦点を含むフーリエ面に配置する構成と比較して、集光光学素子2とフィルタとの相対位置の変動に起因する周波数特性の変動を、格段に抑制することができる。
【0076】
本実施形態のように、光路を伝搬する光Lの波長における、誘電体多層膜6への入射角に対する誘電体多層膜6の透過率または反射率の分布は、透過率または反射率が入射角に対して単調増加または単調減少となる領域A2,A5(
図6、及び
図12(b)を参照)を含んでもよい。そして、領域A2,A5における透過率または反射率の入射角に対する変化率の絶対値は、単位角度あたり20%以下であってもよい。
【0077】
この場合、領域A2,A5においては、透過率または反射率が入射角に対してなだらかに変化する。したがって、光学装置1を、例えばアポダイゼーションフィルタまたはアンチアポダイゼーションフィルタ(超解像フィルタ)として用いることができる。
【0078】
本実施形態のように、角度フィルタ4は、光路を伝搬する光Lの波長において光透過性を有する基板5を含んでもよい。そして、基板5は、誘電体多層膜6が設けられた第1主面51と、第1主面51と対向し反射防止膜7が設けられた第2主面52とを有してもよい。
【0079】
このように、光透過性を有する基板5を角度フィルタ4が含むことによって、薄膜状の誘電体多層膜6を好適に形成することができる。また、第2主面52において反射した光が第1主面51において再び反射すると、その光は出射光に重畳し、フィルタ特性に影響を与える。基板5の2つの主面51,52のうち誘電体多層膜6が設けられた第1主面51とは反対側の第2主面52に反射防止膜7が設けられることによって、第2主面52における反射を低減し、該反射に起因するフィルタ特性への影響を抑制することができる。
【0080】
本実施形態のように、光学装置1は、集光光学素子2の後段に配置されて集光光学素子2と共に4f光学系を構成する別の集光光学素子3を備えてもよい。そして、角度フィルタ4は、集光光学素子2と集光光学素子3との間の光路上に配置されていてもよい。この場合、所望の周波数成分のみを含む平行光を出力する透過型の空間周波数フィルタを得ることができる。
【0081】
(実施例)
【0082】
上記実施形態の角度フィルタ4を実際に作製した例について説明する。この実施例では、設計中心波長を633nmとし、誘電体多層膜の高屈折率層をTa2O5によって構成し、低屈折率層をSiO2によって構成した。
【0083】
図16は、この実施例によって得られた、波長633nmにおける角度フィルタの入射角と透過率との関係を示すグラフである。
図16に示すように、0°から25°にかけて透過率が次第に小さくなり、入射角が25°を超えると透過率は0%に漸近する。このように、入射角が0°から25°まで変化する間に透過率が100%から0%まで変化する、なだらかな入射角-透過率特性を有するローパスフィルタである角度フィルタを作製した。参考のため、この誘電体多層膜の波長-透過率特性を
図17に示す。
【0084】
図18(a)は、本実施例において集光光学素子3を通過した直後の光を撮像して得られたデータを示す図である。比較のため、角度フィルタを配置しない場合の撮像データを
図18(b)に示す。
【0085】
図19は、
図18のデータから得られた、ビームプロファイルを示すグラフである。
図19の横軸は光軸を含む断面における画素(ピクセル)座標を示し、スポットの中心の画素座標を原点としている。
図19の縦軸は光強度(任意単位)を示す。
図19のグラフG41は、作製した角度フィルタを配置した実施例を示し、グラフG42は、作製した角度フィルタを配置しない比較例を示す。
【0086】
図20は、角度フィルタを配置した場合の光強度P1と、角度フィルタを配置しない場合の光強度P2との比P1/P2を示すグラフである。
図19及び
図20を参照すると、画素値の絶対値が大きくなるにつれて(言い換えると、光軸から離れるにつれて)、入射角が次第に大きくなることにより透過率が減少することが確認できる。
【0087】
図21(a)は、角度フィルタを配置した場合の干渉縞のプロファイルを示し、
図21(b)は、角度フィルタを配置しない場合の干渉縞のプロファイルを示す。
図21(a)及び(b)を比較すると、角度フィルタを配置することにより空間周波数成分の調整が行われ、コントラストが向上することが確認できる。
【0088】
光学装置は、上述した実施形態及び構成例に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では、空間周波数フィルタに光学装置を適用したが、上記構成の光学装置は、空間周波数フィルタ以外にも、例えばレーザ光のモードクリーニングのためのスペイシャルフィルタといった、様々な用途に用いられることができる。
【0089】
また、
図22に示す光学装置1Aのように、角度フィルタ4Aを構成する誘電体多層膜6Cは、集光光学素子2の光出射面2a上に配置されてもよい。この場合でも、角度フィルタ4Aは、集光光学素子2による集光途中の光路上に配置されることになる。誘電体多層膜6Cは、例えば上述した誘電体多層膜6A,6Bのいずれかである。
【0090】
具体的には、角度フィルタ4Aの誘電体多層膜6Cは、集光光学素子2の光出射面2a上に成膜により形成されてもよい。この場合、光出射面2aは曲率を有するので、集光光学素子2の中心部においては、光Lは光出射面2aに対して垂直に出射するが、集光光学素子2の端部においては、光Lは光出射面2aに対して傾斜した方向に出射することができる。このような構成によれば、光学系がコンパクトになり、また、集光光学素子2と角度フィルタ4Aとの光軸調整等が不要になる。
【0091】
本発明の実施形態について、さらに説明する。
図23は、さらに別の実施形態に係る光学装置1Bの構成を概略的に示す図である。光学装置1Bは、光源10と、偏光子(第1偏光子)21と、ハーフミラー25と、対物レンズ22と、角度フィルタ4と、偏光子(第2偏光子)23と、チューブレンズ26と、カメラ28とを備え、反射型の偏光顕微鏡として構成されている。
【0092】
光源10は、波長λの光Lを平行光として出力する。偏光子21は、光源10と光学的に結合されており、光源10から出力された光を入力し、所定の偏光面を有する光を出力する。偏光子21の偏光面は、例えば、光源の偏光方向に対して45°の傾き角度に設定されている。
【0093】
偏光子21と、後述する偏光子23とは、好ましくはクロスニコルまたはオープンニコルの関係とされる。また、偏光子21から出力される光は、偏光子21を透過することで円偏光として、p偏光成分及びs偏光成分の強度が同一とされていることが好ましい。
【0094】
偏光子21から出力された光は、ハーフミラー25によって試料Sへと向かう所定の光路に反射される。ハーフミラー25で反射された光は、集光光学素子として機能する対物レンズ22によって集光されつつ、光学装置1Bによる観察対象となる試料Sに照射される。対物レンズ22による収束点Q(
図1参照)は、試料Sの表面上、または試料S内の所定位置に設定される。
【0095】
また、対物レンズ22と試料Sとの間には、対物レンズ22による光の集光途中の光路上に、角度フィルタ4が設置されている。角度フィルタ4は、例えば、
図2に示したように、基板5と、基板5の対物レンズ22側の主面上に設けられた誘電体多層膜6と、基板5の試料S側の主面上に設けられた反射防止膜7とを有して構成されている。
【0096】
角度フィルタ4の誘電体多層膜6は、例えば、
図4に示される誘電体多層膜6Bのように、基板5側の一端、及び基板5とは反対側の他端の両方に、低屈折率層である誘電体層62が配置されて構成される。この場合、
図12(b)に示したように、光の入射角が比較的小さい領域では、誘電体多層膜の透過率は0%に漸近し、光をほぼ全て反射する。また、角度フィルタ4における偏光方向による透過角度特性の違いについては、光学系の構成段階で必要な仕様を決定し、p偏光及びs偏光のそれぞれでの透過角度特性を決定することが好ましい。
【0097】
図24は、上記の構成を有する角度フィルタ4の入射角-透過特性の一例を示すグラフである。この例では、設計中心波長を681nmとし、誘電体多層膜の高屈折率層をTa
2O
5によって構成し、低屈折率層をSiO
2によって構成した。また、
図24において、グラフG51はp偏光に対する入射角-透過特性を示し、グラフG52はs偏光に対する入射角-透過特性を示している。
【0098】
図24に示すように、p偏光のグラフG51では、波長681nmにおいて、0°から40°までは透過率は約0%であり、40°から55°にかけて透過率が徐々に上昇し、55°より大きい角度では透過率が約100%となる。また、s偏光のグラフG52では、波長681nmにおいて、0°から50°までは透過率は約0%であり、50°から62°にかけて透過率が徐々に上昇し、62°より大きい角度では透過率が約100%となる。
【0099】
角度フィルタ4を透過した光は試料Sに到達し、その一部が試料Sで反射される。試料Sで反射された光は、角度フィルタ4及び対物レンズ22を介してハーフミラー25に到達する。また、
図24のグラフに示したように、角度フィルタ4への入射角が小さい光は、試料Sに到達せずに角度フィルタ4で反射される。このように角度フィルタ4で反射された光も同様に、対物レンズ22を介してハーフミラー25に到達する。ハーフミラー25は、試料Sからの反射光及び角度フィルタ4からの反射光を透過して、偏光子23へと出力する。
【0100】
偏光子23は、ハーフミラー25と光学的に結合されている。偏光子23の偏光面の傾き角度は、例えば45°または135°で切換可能となっている。偏光子23から出力された光は、チューブレンズ26によってカメラ28の撮像面に結像され、カメラ28によってその偏光干渉の結果の光像が撮像される。
【0101】
以上の構成において、p偏光とs偏光との位相差をΔ、角度フィルタ4及び試料Sに入力される前の光の強度をA、角度フィルタ4及び試料Sから出力された後の光の強度をI、光の強度Iのうちs偏光成分の強度をIs、光の強度Iのうちp偏光成分の強度をIp、位相をθとすると、下記式が成り立つ。
I=Is+|Ip|
スペクトル特性上、s偏光の反射が大きいと仮定すると、|Is|>|Ip|となるため、強度Iの最大値をImax、強度Iの最小値をIminとすると、
Imax=Is+Ip
Imin=Is-Ip
となる。これらに対し、-1から1までの三角関数のように処理した強度をI’とすると、
I’=2(I-Imin)/(Imax-Imin)-1
となるため、
sin(θ)=I’
θ=arcsin(I’)
により、光像における強度情報を位相情報に変換することができる。
【0102】
光学装置1Bの動作例として、例えば、光源10から出力されたp偏光またはs偏光の直線偏光の光を円偏光とするために、偏光子21を調整する。また、偏光子21及び偏光子23をクロスニコルの状態に調整する。
図24に示した特性を有する角度フィルタ4において、光の入射角度を50°とすると、p偏光成分のみが角度フィルタ4を透過する。
【0103】
この場合、試料Sにおいて位相変化が生じると、偏光子23を透過した後の光では、位相変化を受けた分だけ、p偏光成分の強度が変化する。このとき、p偏光成分とs偏光成分との強度比が変化するため、上記の光学装置1Bは、光強度をモニタすることによって偏光顕微鏡として機能する。
【0104】
上記構成の光学装置1Bによれば、偏光顕微鏡の構成において角度フィルタ4を適用することにより、偏光干渉と空間周波数制御とを組み合わせた試料Sの観察が可能となる。また、通常の偏光顕微鏡での観察対象は、偏光軸依存性をもった試料である。これに対し、上記のように角度フィルタ4を適用した構成の偏光顕微鏡によれば、偏光依存性がない等方性媒質を試料とした場合でも、その観察を行うことが可能となる。
【0105】
具体的には、上記構成によれば、角度フィルタ4からの反射光(上記の構成例ではs偏光)と、試料Sからの反射光(p偏光)とを重畳させることにより、偏光子23によって偏光干渉が可能となる。また、これにより、上記したように、等方性媒質であっても、偏光顕微鏡による観察が可能となる。
【0106】
また、角度フィルタ4を透過した光は、光の中央領域と周辺領域とで異なる強度を有する。例えば、上記したようなハイパスフィルタ型の角度フィルタで試料Sへの照射光の空間制御を行うことで、集光ビームの周辺領域における光強度を高くすることができる。このような光を試料Sに照射することで、試料Sにおける高周波数成分を取り出すことができ、例えば微分フィルタのようなエッジ抽出を目的とした試料Sの観察が可能となる。
【0107】
また、上記構成によれば、角度フィルタ4によって偏光を制御することで、試料Sに照射する光の偏光成分を選択することができる。例えば、上記のようにp偏光成分は透過、s偏光成分は反射となる角度を選択すると、p偏光成分のみについて空間周波数の制御が可能となり、s偏光成分は空間周波数制御を受けずに取り出すことができる。
【0108】
このような構成について、例えば偏光ビームスプリッタを適用することで、一方の偏光のみを試料Sに照射する構成も考えられる。しかしながら、そのような構成では、偏光干渉させる場合にはミラー等で合波させる必要があり、光学系が大きくなり、また、光学系の調整や安定性の確保が難しくなる。これに対して、上記のように角度フィルタ4を用いる構成では、安定性に優れる偏光観察を、簡易な構成で実現することができる。
【0109】
上記実施形態による角度フィルタ4は、上記した構成例に限らず、例えば、
図25の構成例に示すような光学装置1Cにおいても適用が可能である。光学装置1Cは、光源10と、角度フィルタ4と、対物レンズ22と、チューブレンズ26と、カメラ28とを備える。
【0110】
光源10から平行光として出力された光Lは、試料Sに照射され、その一部が試料Sを透過する。試料Sを透過した光は、試料Sと対物レンズ22との間に設置された角度フィルタ4に入力される。角度フィルタ4は、例えば、
図23に示した光学装置1Bにおける角度フィルタ4と同様の構成及び特性を有する。角度フィルタ4を透過した光は、対物レンズ22及びチューブレンズ26によってカメラ28の撮像面に結像され、カメラ28によってその光像が撮像される。
【0111】
このような構成において、試料Sを透過した出力光は、試料Sにおける回折、散乱等の影響を受けて、入力された平行光と比べて発散角を持った光として出力される。このような試料Sからの出力光に対して、角度フィルタ4として、上述したようなハイパスフィルタ型の角度フィルタを適用した場合、角度が小さい平行光の成分は遮断され、ある程度以上の発散角を有する光(例えば、角度45°以上の光)が角度フィルタ4を透過して、カメラ28で撮像される。
【0112】
図26(a)、(b)は、カメラ28によって取得された試料Sの画像の例を示している。
図26(a)は、角度フィルタ4が無い場合に取得される画像を示し、
図26(b)は、角度フィルタ4を適用した場合に取得される画像を示している。なお、
図26(b)については、角度フィルタを配置したことで光強度が低下するため、元画像から輝度を3倍にした画像を示している。
【0113】
このように、試料Sと対物レンズ22との間に角度フィルタ4を配置して、高周波数成分を取り出すことで、エッジが強調された試料Sの画像を取得することができる。また、
図26(b)に示す角度フィルタ有りの画像では、角度フィルタ無しの画像と比較して、例えば文字「5」の像の中にある微小なゴミや汚れの像を確認することができる。
【0114】
上記実施形態による光学装置は、集光光学素子による集光途中または発散途中の光路上に配置された角度フィルタを備え、角度フィルタは、第1の屈折率を有する誘電体層(第1誘電体層)と、第1の屈折率より小さい第2の屈折率を有する誘電体層(第2誘電体層)と、が交互に積層された誘電体多層膜を含む。
【0115】
上記の光学装置において、光路を伝搬する光の波長における、誘電体多層膜への入射角に対する誘電体多層膜の透過率または反射率の分布は、透過率または反射率が入射角に対して単調増加または単調減少となる領域を含み、前記領域における透過率または反射率の入射角に対する変化率の絶対値は、単位角度(1°)あたり20%以下である構成としてもよい。
【0116】
この場合、上記領域においては、透過率または反射率が入射角に対してなだらかに変化する。したがって、上記の光学装置を、例えばアポダイゼーションフィルタまたはアンチアポダイゼーションフィルタ(超解像フィルタ)として用いることができる。
【0117】
上記の光学装置において、角度フィルタは、光路を伝搬する光の波長において光透過性を有する基板を更に含み、基板は、誘電体多層膜が設けられた第1主面と、第1主面と対向し反射防止膜が設けられた第2主面とを有する構成としてもよい。
【0118】
このように、光透過性を有する基板を角度フィルタが更に含むことによって、誘電体多層膜を好適に形成することができる。また、第2主面において反射した光が第1主面において再び反射すると、その光は出射光に重畳し、フィルタ特性に影響を与える。基板の2つの主面のうち誘電体多層膜が設けられた第1主面とは反対側の第2主面に反射防止膜が設けられることによって、第2主面における反射を低減し、該反射に起因するフィルタ特性への影響を抑制することができる。
【0119】
上記の光学装置において、角度フィルタは、光路を伝搬する光の波長において光透過性を有する基板を更に含み、第1の屈折率は基板の屈折率より大きく、第2の屈折率は基板の屈折率より小さく、誘電体多層膜の積層方向における基板側の一端に位置する誘電体層が第1の屈折率を有する構成としてもよい。
【0120】
このように、光透過性を有する基板を角度フィルタが更に含むことによって、誘電体多層膜を好適に形成することができる。また、この場合、誘電体多層膜はローパスフィルタとして機能し、或る入射角よりも小さい入射角の光を透過し、それ以外の光を反射する。よって、集光光学系を通過した光のうち集光光学系の光軸を含む中央領域に含まれる光を透過し、中央領域を囲む周辺領域に含まれる光を反射する。
【0121】
通常、中央領域に含まれる光の周波数は低く、周辺領域に含まれる光の周波数は高い。故に、この誘電体多層膜は低周波数成分を透過して高周波数成分を反射する。したがって、この角度フィルタを透過型フィルタとして用いる場合には、当該光学装置は低周波数成分のみを選択的に抽出する周波数フィルタとして用いられることができる。また、この角度フィルタを反射型フィルタとして用いる場合には、当該光学装置は高周波数成分のみを選択的に抽出する周波数フィルタとして用いられることができる。
【0122】
上記の光学装置において、角度フィルタは、光路を伝搬する光の波長において光透過性を有する基板を更に含み、第1の屈折率は基板の屈折率より大きく、第2の屈折率は基板の屈折率より小さく、誘電体多層膜の積層方向における基板側の一端に位置する誘電体層が第2の屈折率を有する構成としてもよい。
【0123】
このように、光透過性を有する基板を角度フィルタが更に含むことによって、誘電体多層膜を好適に形成することができる。また、この場合、誘電体多層膜はハイパスフィルタとして機能し、或る入射角よりも小さい入射角の光を反射し、それ以外の光を透過する。よって、集光光学系を通過した光のうち集光光学系の光軸を含む中央領域に含まれる光を反射し、中央領域を囲む周辺領域に含まれる光を透過する。
【0124】
故に、この誘電体多層膜は低周波数成分を反射して高周波数成分を透過する。したがって、この角度フィルタを透過型フィルタとして用いる場合には、当該光学装置は高周波数成分のみを選択的に抽出する周波数フィルタとして用いられることができる。また、この角度フィルタを反射型フィルタとして用いる場合には、当該光学装置は低周波数成分のみを選択的に抽出する周波数フィルタとして用いられることができる。
【0125】
上記の光学装置は、集光光学素子の後段に配置されて集光光学素子と共に4f光学系を構成する別の集光光学素子を更に備え、角度フィルタは、集光光学素子と別の集光光学素子との間の光路上に配置されている構成としてもよい。この場合、所望の周波数成分のみを含む平行光を出力する透過型の周波数フィルタを得ることができる。
【0126】
上記の光学装置において、角度フィルタは、集光光学素子の光出射面上に配置される構成としてもよい。この場合、光学系がコンパクトになり、また、集光光学素子と角度フィルタとの光軸調整等が不要になる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
実施形態は、集光光学系とフィルタとの相対位置の変動に起因する周波数特性の変動を抑制できる光学装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0128】
1,1A…光学装置、2,3…集光光学素子、4,4A…角度フィルタ、5…基板、6,6A,6B,6C…誘電体多層膜、6a…一端、6b…他端、7…反射防止膜、10…光源、51…第1主面、52…第2主面、61,62…誘電体層、100…光学装置、101,101A,101B…空間フィルタ、102…開口、103…遮蔽部、AX…光軸、B1…中央領域、B2…周辺領域、L…光、Q…収束点、
1B、1C…光学装置、21…偏光子、22…対物レンズ、23…偏光子、25…ハーフミラー、26…チューブレンズ、28…カメラ、S…試料。