(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】導電性組成物、それを用いたシート状柔軟電極およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 1/24 20060101AFI20240710BHJP
【FI】
H01B1/24 Z
(21)【出願番号】P 2022571675
(86)(22)【出願日】2021-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2021048166
(87)【国際公開番号】W WO2022138908
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2020216870
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【氏名又は名称】東口 倫昭
(72)【発明者】
【氏名】中野 正義
(72)【発明者】
【氏名】篠塚 翼
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 直樹
(72)【発明者】
【氏名】有村 昭二
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/146254(WO,A1)
【文献】特開2009-217986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマーおよび薄片化黒鉛を有する導電性組成物であって、
該熱可塑性エラストマーの200℃下、せん断速度が60s
-1以上200s
-1以下の低せん断領域における溶融粘度は50Pa・s以上1400Pa・s以下であり、
該薄片化黒鉛の真円度は0.5以下であることを特徴とする導電性組成物。
【請求項2】
前記薄片化黒鉛の体積基準の粒度分布曲線は、一つ以上のピークと、該ピークのうちの一つを選択してメインピークとした場合に、該メインピークの小粒子径側に連続するショルダー部と、を有する請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項3】
前記粒度分布曲線において、前記メインピークのピークトップは粒子径が50μm以上300μmの範囲に存在し、前記ショルダー部の開始点および終了点の少なくとも一方は粒子径が10μm以上100μmの範囲に存在する請求項2に記載の導電性組成物。
【請求項4】
前記薄片化黒鉛の含有量は、前記熱可塑性エラストマーの100質量部に対して10質量部以上100質量部以下である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の導電性組成物。
【請求項5】
さらに、粒子径が1μm以下の導電性フィラーを有する請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の導電性組成物。
【請求項6】
前記導電性フィラーの含有量は、前記熱可塑性エラストマーの100質量部に対して5質量部以上20質量部以下である請求項5に記載の導電性組成物。
【請求項7】
さらに、脂肪族化合物およびシリコーン化合物から選ばれる一種以上の加工助剤を有する請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の導電性組成物。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の導電性組成物を用いたシート状柔軟電極。
【請求項9】
体積抵抗率は10Ω・cm以下である請求項8に記載のシート状柔軟電極。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載のシート状柔軟電極を備える静電容量センサ。
【請求項11】
請求項8または請求項9に記載のシート状柔軟電極の製造方法であって、
200℃下、せん断速度が60s
-1以上200s
-1以下の低せん断領域における溶融粘度が50Pa・s以上1400Pa・s以下である熱可塑性エラストマーと、膨張化黒鉛と、を有する原料組成物を混練りして導電性組成物を製造する混練り工程と、
該導電性組成物を射出成形または押出成形してシート状に成形する成形工程と、
を有することを特徴とするシート状柔軟電極の製造方法。
【請求項12】
混練り前の前記膨張化黒鉛の真円度は0.5以下である請求項11に記載のシート状柔軟電極の製造方法。
【請求項13】
混練り前の前記膨張化黒鉛の体積基準の粒度分布曲線において、ファーストピークのピークトップは粒子径が10μm以上の範囲に存在する請求項11または請求項12に記載のシート状柔軟電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟な静電容量センサの電極材料などに好適な導電性組成物に関し、当該導電性組成物を用いたシート状柔軟電極およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
急速なIOT(Internet of Things)化が進むなかで、介護、健康管理、トレーニングの分野では、呼吸状態や心拍数などを測定する生体情報センサの需要が高まっている。また、自動車などの車両においても、乗員の状態を検出するために、ステアリングセンサ、着座センサなどの様々なセンサが搭載されている。これらのセンサには、被検者の動きに対する追従性を高めたり、違和感を低減するという観点から、エラストマーなどの柔軟な材料が用いられる場合がある。例えば、柔軟な電極を構成できる材料として、特許文献1には、エラストマーおよび薄片状炭素材料を有する導電性膜が記載されている。特許文献1によると、黒鉛を溶剤に分散した分散液を湿式ジェットミルを用いて粉砕処理することにより、黒鉛を層間で剥離して薄片化している。また、特許文献2には、熱可塑性エラストマーおよび炭素材料を有する網目状柔軟電極が記載されている。特許文献2に記載されている網目状柔軟電極は、熱可塑性エラストマーに炭素材料を加えて混練りし、得られた導電性組成物を押出成形して製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/169627号
【文献】国際公開第2020/066121号
【文献】特許第5812313号公報
【文献】特表2015-537075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているように、黒鉛を溶剤に分散した分散液を湿式ジェットミルを用いて粉砕処理すると、黒鉛にせん断力が加わると共に、溶剤が黒鉛の層間に浸入してへき開が促進される。これにより、黒鉛が層間で剥離して、粉砕処理前よりもグラフェンの積層数が少ない薄片化黒鉛が生成される。特許文献1においては、このようにして生成された薄片化黒鉛をエラストマーに配合することにより、10-2Ω・cmレベルの非常に高い導電性を有する柔軟な導電性膜を実現している。
【0005】
しかしながら、薄片化黒鉛を製造するために用いられる、黒鉛を溶剤に分散して湿式ジェットミルなどを使用する湿式法は、高度な技術が必要であり、コストがかさむ。よって、導電性組成物の大量生産には不向きである。また、環境対策として揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制が求められているなかで、溶剤の使用量も低減していく必要がある。このため、柔軟な導電性組成物を、溶剤を使用せずに、大量生産に適した方法で製造することが望まれる。
【0006】
例えば、特許文献2によると、熱可塑性エラストマーにカーボンブラックなどの炭素材料を加えて混練りすることにより導電性組成物を製造している。しかしながら、特許文献2の表1に、導電性組成物の成形体の体積抵抗率は1.3~9.0Ω・cmと示されているように、単に熱可塑性エラストマーに炭素材料を加えて混練りするだけでは、高い導電性を得ることは難しい。本発明者が湿式法との違いを鋭意検討した結果、導電性が低下する理由として次の二点の知見を得た。第一に、混練りすると、炭素材料の薄片化よりも破壊による微細化が進行しやすいため、炭素材料が球形化しやすい。炭素材料の形状が球状に近くなると、互いの接触面積が小さくなる。第二に、炭素材料として黒鉛を使用しても、一般的な熱可塑性エラストマーは溶剤とは異なり粘度が高いため、黒鉛の層間に浸入しにくい。このため、黒鉛のへき開が促進されず薄片化が進行しにくい。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、柔軟で導電性が高く、製造が比較的容易で量産可能な導電性組成物を提供することを課題とする。また、当該導電性組成物を用いたシート状柔軟電極、およびその生産性に優れる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するため、本発明の導電性組成物は、熱可塑性エラストマーおよび薄片化黒鉛を有する導電性組成物であって、該熱可塑性エラストマーの200℃下、せん断速度が60s-1以上200s-1以下の低せん断領域における溶融粘度は50Pa・s以上1400Pa・s以下であり、該薄片化黒鉛の真円度は0.5以下であることを特徴とする。
【0009】
(2)本発明のシート状柔軟電極は、(1)の本発明の導電性組成物を用いたことを特徴とする。
【0010】
(3)本発明の静電容量センサは、(2)の本発明のシート状柔軟電極を備えることを特徴とする。
【0011】
(4)本発明のシート状柔軟電極の製造方法は、(2)の本発明のシート状柔軟電極の製造方法であって、200℃下、せん断速度が60s-1以上200s-1以下の低せん断領域における溶融粘度が50Pa・s以上1400Pa・s以下である熱可塑性エラストマーと、膨張化黒鉛と、を有する原料組成物を混練りして導電性組成物を製造する混練り工程と、該導電性組成物を射出成形または押出成形してシート状に成形する成形工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
(1)本発明の導電性組成物は、導電材として、真円度が0.5以下の薄片化黒鉛を有する。真円度は、粒子形状の球形化の度合いを示す指標である。真円度は、次式(i)により算出され、粒子が球状に近いほど1に近くなる。
真円度=(円相当径)2/(最大フェレー径)2 ・・・(i)
[式(i)において、円相当径(Da)は、粒子投影像と同じ面積(S)を持つ円の直径であり(Da=√(4S/π))、最大フェレー径は、粒子像を挟む二本の平行線の距離が最大になる径である。]
本発明において、真円度は、薄片化黒鉛の不定形性、特に角張り具合を示す指標になる。真円度が小さいほど角張っていると考えてよい。真円度が0.5以下の薄片化黒鉛は、製造過程で微細化が進んでおらず、比較的角張っている。よって、当該薄片化黒鉛を有すると、導電性組成物において薄片化黒鉛同士が線接触して接触面積が大きくなる。これにより、導通経路が形成されやすくなり、高い導電性を実現することができる。
【0013】
本発明の導電性組成物は、熱可塑性エラストマーを母材とするため、柔軟である。そして、当該熱可塑性エラストマーの200℃下、せん断速度が60s
-1以上200s
-1以下の低せん断領域における溶融粘度は、50Pa・s以上1400Pa・s以下である。この条件は、低せん断領域で溶融粘度が低いことを意味している。ここで、ポリマーの溶融粘度とせん断速度との関係について説明する。
図1に、ポリマーの溶融粘度とせん断速度との関係を模式的に示す。
図1に実線で示すように、一般に、ポリマーの溶融粘度は、せん断速度が小さくなるにつれて高くなる。これに対して、本発明の導電性組成物に使用する熱可塑性エラストマーにおいては、
図1に点線で示すように、せん断速度が小さくなっても溶融粘度が低く変わりにくい。つまり、低せん断領域において、熱可塑性エラストマーの流動性は高い。
【0014】
200℃下の低せん断領域は、導電性組成物を製造する際の混練りや成形時の条件に対応する。よって、本発明の導電性組成物に使用する熱可塑性エラストマーの粘度は、導電性組成物を製造する際の混練り時に低い。このため、原料に黒鉛を使用した場合、溶剤を使用する湿式法によらなくても熱可塑性エラストマーが黒鉛の層間に浸入しやすく、へき開が促進される。これにより、所望の薄片化黒鉛が生成される。また、熱可塑性エラストマーの粘度は、押出成形や射出成形する条件でも低い。これにより、成形加工性が向上し、品質が良い成形体を連続的に製造することができる。他方、熱可塑性エラストマーは、原料の黒鉛のへき開を促すせん断力を加えられる程度の適度な粘度を有する。
【0015】
以上より、本発明の導電性組成物は、柔軟性および導電性に優れる。また、成形加工性にも優れるため、量産性が高い。なお、ポリマーの流動性を示す指標としてメルトフローレート(MFR)があるが、この指標では、せん断速度に対する流れやすさの違いを表すことはできない。したがって、本発明においては、溶融粘度により規定している。
【0016】
ちなみに、特許文献3には、X線回折法により求められる所定の3R値が31%以上である黒鉛系炭素素材を用い、当該黒鉛系炭素素材の少なくとも一部が剥離されたグラフェンを母材に分散したグラフェン複合体が記載されている。特許文献3においては、グラフェン複合体の柔軟性、導電性については検討されていない。特許文献3に記載されているグラフェン複合体においては、原料の黒鉛系炭素素材が限定される。特許文献3には、母材として一般的な熱可塑性エラストマーが挙げられているだけであり(段落[0073])、分散されるグラフェンの形状に関する記載はない。グラフェンの粒子径は、
図11に0.5μmをピークとする粒度分布が記載されているように、非常に小さい。また、特許文献4には、グラフェン補強ポリマーマトリクス複合体の製造方法が記載されている。特許文献4においては、グラファイト微粒子を溶融熱可塑性ポリマーに分散させて、せん断力を加えることによりグラファイトを剥離している。特許文献4においても、グラフェン補強ポリマーマトリクスの柔軟性、導電性については検討されていない。特許文献4には、母材の一つとして熱可塑性エラストマーが列挙されているだけであり(段落[0036])、グラフェンについてはc軸方向の厚さが10nm未満と記載されているだけで、形状に関する記載はない。
【0017】
(2)本発明のシート状柔軟電極は、上記本発明の導電性組成物を用いる。このため、本発明のシート状柔軟電極は、柔軟で高い導電性を有する。また、押出成形や射出成形などにより、品質が良い電極を連続的に製造することができるため、量産性に優れる。
【0018】
(3)本発明の静電容量センサは、上記本発明のシート状柔軟電極を備える。このため、センサ全体を柔軟にしやすく、曲面にも装着しやすい。また、電極の導電性が高いため、検出精度が向上する。例えば、電極の隣接部材が熱可塑性エラストマー製である場合には、シート状柔軟電極と隣接部材との粘着性を利用して、接着剤などを用いることなく、両者を固定することができる。また、隣接部材が加熱により軟化する場合には、隣接部材を加熱してシート状柔軟電極に融着させることにより、両者を固定することができる。特に、隣接部材のポリマーがシート状柔軟電極の熱可塑性エラストマーと同種である場合には、それらの相溶性により強固に一体化することができる。このように、従来は隣接する層同士の固定に必要であった接着剤の使用を無くすことができると、製造工程が減り、コストの削減を図ることができる。したがって、本発明の静電容量センサを、比較的安価に構成することができる。
【0019】
(4)本発明のシート状柔軟電極の製造方法によると、まず混練り工程において、所定の溶融粘度を有する熱可塑性エラストマーと、膨張化黒鉛と、を有する導電性組成物を製造する。混練りすることにより膨張化黒鉛にせん断力が加わり、熱可塑性エラストマーが膨張化黒鉛の層間に浸入しやすいため、へき開が促進される。これにより、溶剤を使用しなくても、所望の薄片化黒鉛が生成される。そして、熱可塑性エラストマーの粘度は、押出成形や射出成形する条件でも低い。このため、次の成形工程において、導電性組成物を押出成形または射出成形することにより、容易にシート状に成形することができる。このようにして、本発明の製造方法によると、導電性が高く、薄いシート状の柔軟電極を容易に製造することができる。また、押出成形や射出成形を採用することにより、連続生産が可能になり、生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】ポリマーの溶融粘度とせん断速度との関係を示す説明図である。
【
図2】導電性組成物の原料として膨張化黒鉛を使用した場合の、混練り前後の粒度分布の模式図である。
【
図3】実施例1の原料の膨張化黒鉛の粒度分布、および製造された導電性シートに含まれる薄片化黒鉛の粒度分布を示すグラフである。
【
図4】比較例1の原料の膨張化黒鉛の粒度分布、および製造された導電性シートに含まれる薄片化黒鉛の粒度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の導電性組成物、それを用いたシート状柔軟電極およびその製造方法の実施の形態を詳細に説明する。本発明の導電性組成物、それを用いたシート状柔軟電極およびその製造方法は、以下の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0022】
<導電性組成物>
本発明の導電性組成物は、熱可塑性エラストマーおよび薄片化黒鉛を有する。本発明の導電性組成物は、熱可塑性エラストマーおよび薄片化黒鉛を有すれば、成形されていてもいなくてもよい。
【0023】
[熱可塑性エラストマー]
熱可塑性エラストマーは、本発明の導電性組成物を構成するベースポリマーであり、オレフィン系、スチレン系、ウレタン系、アクリル系、エステル系、ポリアミド系などが挙げられる。なかでも、成形加工性、柔軟性が良好であるという理由から、オレフィン系、スチレン系が好適である。オレフィン系熱可塑性エラストマーは、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンをハードセグメントとし、エチレン-プロピレンゴム(EPM、EPDM)などのゴム成分をソフトセグメントとする。スチレン系熱可塑性エラストマーは、ポリスチレンをハードセグメントとし、ポリオレフィンをソフトセグメントとする。スチレン系熱可塑性エラストマーにおいては、芳香族環によるπ-π相互作用により、薄片化黒鉛に対する親和性が高い。よって、導電性組成物の導電性を高める効果が大きいと考えられる。また、スチレン含有量が多いほど導電性が向上するが、スチレン含有量が多くなると、硬くなり、成形加工性が低下する。このため、導電性、成形加工性などを勘案すると、スチレン含有量は35質量%以下であることが望ましい。スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)などが挙げられる。
【0024】
熱可塑性エラストマーとしては、溶融粘度に関する先の条件「200℃下、せん断速度が60s-1以上200s-1以下の低せん断領域における溶融粘度が50Pa・s以上1400Pa・s以下」(以下、条件(a)と称す場合がある)を満足するものを採用する。粘度をより低くして、層間への浸入によるへき開促進効果および成形加工性を高めるという観点から、熱可塑性エラストマーの200℃下、低せん断領域における溶融粘度は、800Pa・s以下、700Pa・s以下、さらには500Pa・s以下であることが望ましい。反対に、原料の黒鉛に適度なせん断力を加えるという観点から、当該溶融粘度は、100Pa・s以上、さらには150Pa・s以上であることが望ましい。
【0025】
また、成形加工性、ロバスト性を考慮すると、熱可塑性エラストマーの溶融粘度は、低せん断領域において変わりにくい(安定している)ことが望ましい。この場合、熱可塑性エラストマーは、先の条件(a)に加えて、「200℃下、せん断速度が60s-1以上200s-1以下の低せん断領域における溶融粘度は、同温度下、せん断速度が1000s-1以上1220s-1以下の高せん断領域における溶融粘度の4倍以下である」という条件(以下、条件(b)と称す場合がある)を満足することが望ましい。条件(b)はせん断速度が小さくても溶融粘度が低く変わりにくいことを意味している。溶融粘度の比(低せん断領域の溶融粘度/高せん断領域の溶融粘度)は、3.5倍以下、さらには3.2倍以下であるとより好適である。条件(b)を満足する場合、成形速度などの条件による導電性組成物の粘度むらが少なくなり、成形加工性が向上する。また、混練り時においても、条件依存性が少ないためロバスト性がよくなる。さらに、本発明の導電性組成物を柔軟にするという観点から、熱可塑性エラストマーのタイプAデュロメータ硬さは、60以下であることが望ましい。
【0026】
熱可塑性エラストマーとしては、一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。二種類以上の熱可塑性エラストマーを併用する場合には、それらを混合した混合エラストマーが、溶融粘度に関する条件(a)、さらには条件(b)を満足すればよい。本発明の導電性組成物において、主たるポリマー成分は熱可塑性エラストマーであるが、これ以外のポリマーが含有される形態を排除するものではない。他のポリマーを配合する場合においても、熱可塑性エラストマーと同様に、溶融粘度に関する条件(a)、さらには条件(b)を満足することが望ましい。
【0027】
[薄片化黒鉛]
薄片化黒鉛の真円度は0.5以下である。真円度が小さいと不定形になり、角張りが大きく、薄片化黒鉛同士が線接触して接触面積が大きくなるため、導電性を高める効果が大きい。本発明者は黒鉛の薄片化について鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。導電性組成物の製造過程において、原料の黒鉛が破壊され、薄片化ではなく微細化されると、製造前後の黒鉛の粒子径を比較した場合に、製造後の方が小さくなる。これは、製造前後の黒鉛の粒子径の頻度分布を比較した場合に、製造後の黒鉛の粒度分布曲線のピークトップが、製造前(原料)の黒鉛の粒度分布曲線のピークトップよりも小粒子径側に移動したり、粒度分布がブロードになることで示される。これに対して、導電性組成物の製造過程において、原料の黒鉛のへき開が進み、微細化ではなく薄片化されると、製造前後の黒鉛の粒子径を比較した場合に、単に製造後の方が小さくなるという傾向とは別の傾向が現れる。以下、粒度分布を示して説明する。
図2に、導電性組成物の原料として膨張化黒鉛を使用した場合の、混練り前後の粒度分布の模式図を示す。
図2において、点線は、原料の膨張化黒鉛の粒度分布を示し、実線は、混練りを経て製造された導電性組成物における薄片化黒鉛の粒度分布を示す。
【0028】
図2に点線で示すように、原料の膨張化黒鉛の粒度分布曲線は、一つのピークを有し、粒子径aにピークトップP1が存在している。他方、膨張化黒鉛が混練りにより薄片化された場合には、
図2に実線で示すように、ピークトップP2が粒子径aよりも小径の粒子径bに移動すると共に、ピークトップP2の小粒子径側にショルダー部Sが出現している。粒度分布曲線におけるショルダー部とは、曲線の傾きが変化して曲線斜面に対して上方に膨出している区間をいう。ショルダー部は、近い粒子径のものが同じような頻度で混在する場合に生じるため、黒鉛が単に微細化されただけではない場合に出現すると考えられる。換言すると、任意のピークの小粒子径側に連続してショルダー部が出現すれば、黒鉛の薄片化が進行したと判断してよい。以上の知見に基づいて、本発明の導電性組成物は、薄片化黒鉛の体積基準の粒度分布曲線において、一つ以上のピークと、該ピークのうちの一つを選択してメインピークとした場合に、該メインピークの小粒子径側に連続するショルダー部と、を有することが望ましい。また、薄片化黒鉛の大きさを比較的大きくし、導通経路を形成しやすくして高い導電性を実現するという観点から、粒度分布曲線において、メインピークのピークトップは粒子径が50μm以上300μmの範囲に存在し、ショルダー部の開始点および終了点の少なくとも一方は粒子径が10μm以上100μmの範囲に存在することが望ましい。ここで、ショルダー部の開始点はショルダー部を区画する小粒径側の粒子径であり、終了点は大粒径側の粒子径である。前出
図2に示したショルダー部Sにおいては、開始点はS1、終了点はS2になる。
【0029】
本発明の導電性組成物は、所望の柔軟性および導電性を実現できれば、薄片化黒鉛に加えて、導電性を付与する他の材料を有してもよい。例えば、黒鉛、膨張化黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンファイバーなどの炭素材料や、銀、金、銅、白金、ニッケルなどの金属材料などが挙げられる。例えば、粒子径が1μm以下の導電性フィラーを有すると、補強効果が得られ、伸びや強度の向上に効果的である。粒子径が1μm以下の導電性フィラーとしては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェンなどが挙げられる。なかでも、カーボンブラックは、ストラクチャーを形成しているため、補強効果が高い。この場合の「粒子径」は、導電性フィラーの最大径を意味する。但し、導電性フィラーが、一次粒子が凝集してストラクチャーを形成している材料(例えばカーボンブラックなど)である場合は、一次粒子の粒子径を意味する。導電性フィラーの含有量は、柔軟性を維持するという観点から、熱可塑性エラストマーの100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であることが望ましい。
【0030】
本発明の導電性組成物においては、柔軟性および導電性を両立するという観点から、薄片化黒鉛の含有量を、熱可塑性エラストマーの100質量部に対して10質量部以上100質量部以下にすることが望ましい。導電性を考慮すると、30質量部以上、50質量部以上がより好適である。柔軟性および成形加工性を考慮すると、90質量部以下、80質量部以下がより好適である。なお、熱可塑性エラストマー以外にもポリマーを有する形態や、導電材として薄片化黒鉛以外の材料をも有する形態を考慮した場合、導電材全体の含有量を、ポリマー成分の100質量部に対して10質量部以上100質量部以下にすることが望ましい。
【0031】
[他の成分]
本発明の導電性組成物は、熱可塑性エラストマーなどのポリマー成分、および薄片化黒鉛などの導電材の他に、加工助剤、可塑剤、補強材、老化防止剤、着色剤などを含んでいてもよい。加工助剤としては、滑剤として知られる脂肪族化合物、シリコーン化合物などが挙げられる。
【0032】
[物性]
本発明の導電性組成物においては、柔軟性と導電性とのバランスを考慮して、体積抵抗率、タイプAデュロメータ硬さ、伸びなどの物性を決定すればよい。例えば、体積抵抗率は、10Ω・cm以下、2.0Ω以下、さらには1.0Ω・cm以下であると好適である。タイプAデュロメータ硬さは、92以下、さらには90以下であると好適である。伸びとしては、切断時伸びが10%以上、30%以上、さらには50%以上であると好適である。切断時伸びは、JIS K6251:2017に準じて測定すればよい。
【0033】
<シート状柔軟電極>
本発明のシート状柔軟電極は、本発明の導電性組成物を用いて製造される。本発明のシート状柔軟電極の厚さは、用途に応じて適宜決定すればよい。好適な用途としては、圧電センサ、静電容量センサなどが挙げられる。本発明のシート状柔軟電極を、センサの電極として用いる場合には、厚さを50μm以上500μm以下にするとよい。本発明のシート状柔軟電極は、一様な平面状を呈していても、開口部を有する網目形状を呈していてもよい。
【0034】
電極としての好適な導電性を有するという観点から、本発明のシート状柔軟電極の体積抵抗率は、10Ω・cm以下であることが望ましい。2.0Ω以下、さらには1.0Ω・cm以下であると好適である。また、柔軟性の観点から、本発明のシート状柔軟電極のタイプAデュロメータ硬さは、92以下、さらには90以下であると好適である。さらに、伸張性の観点から、本発明のシート状柔軟電極の切断時伸びは、10%以上、30%以上、さらには50%以上であると好適である。
【0035】
<シート状柔軟電極の製造方法>
本発明のシート状柔軟電極の製造方法は、本発明の導電性組成物を用いたシート状柔軟電極の製造方法の一つであり、混練り工程と、成形工程と、を有する。
【0036】
(1)混練り工程
本工程は、200℃下、せん断速度が60s-1以上200s-1以下の低せん断領域における溶融粘度が50Pa・s以上1400Pa・s以下である熱可塑性エラストマーと、膨張化黒鉛と、を有する原料組成物を混練りして導電性組成物を製造する工程である。
【0037】
本工程においては、所定の熱可塑性エラストマーを含むポリマー成分に、膨張化黒鉛を含む導電材、および必要に応じて加工助剤などの添加剤を加えた原料組成物を混練りして、導電性組成物を製造する。混練りは、バンバリーミキサー、ニーダー、二軸混練機、二軸押出機など、通常使用される装置を用いればよい。混練りする際の回転数については、低すぎると材料の均一性が確保できず、高すぎると膨張化黒鉛の微細化が進みやすい。よって、混練りする際には、回転数、スクリュ形状などを適宜調整するとよい。混練時の温度は、熱可塑性エラストマーの軟化点などを考慮して、例えば180~220℃程度にするとよい。
【0038】
熱可塑性エラストマーを含むポリマー成分、許容される他の成分については、本発明の導電性材料の構成材料として説明したとおりである。原料の膨張化黒鉛は、球状よりも角張っている形状の方が、そこから剥がれやすいため、混練りにより薄片化黒鉛が生成されやすいという観点から、真円度が0.5以下のものを使用するとよい。また、膨張化黒鉛の体積基準の粒度分布を測定した場合に、粒度分布曲線におけるファーストピークのピークトップは、粒子径が10μm以上の範囲に存在することが望ましい。粒子径が50μm以上の範囲に存在するとより好適である。使用する膨張化黒鉛の形状、大きさをこのように特定することにより、混練り時に加わるせん断力をへき開の促進に効果的に作用させることができると共に、熱可塑性エラストマーが層間に浸入しやすくなる。結果、膨張化黒鉛の破壊による微細化よりも薄片化を促進することができる。そして、生成された薄片化黒鉛が熱可塑性エラストマーを有する母材に分散されることにより、導電性が高いシート状柔軟電極を実現することができる。
【0039】
混練りにより薄片化黒鉛が生成されやすいという観点から、原料の膨張化黒鉛の結晶子厚さ(c軸方向の厚さ:Lc(002))は、比較的小さい方が望ましい。結晶子厚さは、例えば220Å(22nm)以上320Å(32nm)以下であることが望ましい。また、膨張化黒鉛の体積平均粒子径は、50μm以上3000μm以下、より好適には2000μm以下、1000μm以下であることが望ましい。
【0040】
シート状柔軟電極の柔軟性および導電性を両立するという観点から、膨張化黒鉛の配合量を、熱可塑性エラストマーの100質量部に対して10質量部以上100質量部以下にすることが望ましい。導電性を考慮すると、30質量部以上、50質量部以上がより好適である。柔軟性および成形加工性を考慮すると、90質量部以下、80質量部以下がより好適である。なお、熱可塑性エラストマー以外にもポリマーを有する形態や、導電材として薄片化黒鉛以外の材料をも有する形態を考慮した場合、導電材全体の含有量を、ポリマー成分の100質量部に対して10質量部以上100質量部以下にすることが望ましい。
【0041】
(2)成形工程
本工程は、前工程において製造した導電性組成物を射出成形または押出成形してシート状に成形する工程である。射出成形機、押出成形機としては、通常使用される装置を用いればよい。成形時の温度は、熱可塑性エラストマーの軟化点などを考慮して、例えば180~220℃程度にするとよい。
【0042】
本工程の後、さらに圧延工程、プレス工程などを実施してもよい。本工程の後に圧延工程、プレス工程などを連続的に行うことで、生産性がより向上する。また、本工程で得られたシート状の成形体を圧延したりプレスしたりすると、厚さをより薄く、均一にすることができる。電極の厚さを薄くすることで、柔軟性がより向上し、生体情報センサなどに用いた場合にも被検者が違和感を覚えにくい。また、網目形状の電極を製造する場合には、回転押出成形などを採用して、本工程で押し出しながら網目形状に成形してもよく、あるいは本工程でシート状に成形した後、穴あけ加工を施してもよい。
【0043】
<静電容量センサ>
本発明の静電容量センサは、本発明のシート状柔軟電極を備える。本発明の静電容量センサは、例えば、エラストマーなどを有する絶縁層と、該絶縁層に積層される本発明のシート状柔軟電極と、を備えて構成すればよい。絶縁層は、柔軟性や電極との一体化を考慮して、熱可塑性エラストマーを有することが望ましい。静電容量センサとしては、絶縁層を挟んで二つの電極を配置して、当該電極間の静電容量を検出するセンサでもよく、一方が検出電極、他方が検出電極に対するノイズを遮蔽するシールド電極であり、検出電極と検出対象物との間に生じた静電容量を検出するセンサでもよい。
【0044】
本発明の静電容量センサは、柔軟な材料から構成されるため、平面状に配置しても、部材に巻き付けて配置してもよい。例えば、車両のステアリングホイール、ドアトリム、アームレスト、コンソールボックス、インストロメントパネル、ヘッドレスト、シートなどの内装部品に配置され、人の近接、接触を検出するセンサとして好適である。また、ドライバーモニタリングシステムに用いられるセンサとしても好適である。例えば、本発明の静電容量センサを車両のシートに敷いて、着座している乗員の圧力分布や圧力変化を検出することができる。検出した圧力変化に基づいて、重心移動や姿勢の変化を推定したり、呼吸数や心拍数を測定することができる。
【実施例】
【0045】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0046】
<導電性シートの製造>
まず、所定の原料を後出の表1、表2に示す量にて配合し、ラボプラストミル(登録商標)を用いて、温度200℃、回転速度100rpmにて5分間混練りした後、押出加工して、幅150mm、厚さ500μmの導電性シートを製造した。表1に示される実施例1~13の導電性シートは本発明の導電性組成物およびシート状柔軟電極の概念に含まれる。使用した原料の詳細は次のとおりである。
【0047】
[熱可塑性エラストマー]
スチレン系エラストマー[1]:クレイトンポリマージャパン社製「クレイトン(登録商標)MD1648」、スチレン含有量20質量%。
スチレン系エラストマー[2]:クレイトンポリマージャパン社製「クレイトン(登録商標)MD6951」、スチレン含有量34質量%。
スチレン系エラストマー[3]:旭化成(株)製「タフテック(登録商標)H1221」、スチレン含有量30質量%。
オレフィン系エラストマー:エチレン-オクテン共重合体:ダウ・ケミカル社製「エンゲージ(登録商標)8137」。
【0048】
[導電材]
膨張化黒鉛[1]:富士黒鉛工業(株)製「AED-200」。
膨張化黒鉛[2]:富士黒鉛工業(株)製「AED-03」。
膨張化黒鉛[3]:富士黒鉛工業(株)製「AED-50」。
膨張化黒鉛[4]:日本黒鉛工業(株)製「EXP-P」。
膨張化黒鉛[5]:日本黒鉛工業(株)製「LEP」。
膨張化黒鉛[6]:富士黒鉛工業(株)製「FS-5」。
鱗状黒鉛:日本黒鉛工業(株)製「FB-100」。
導電性カーボンブラック:ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製「ケッチェンブラック(登録商標)EC600JD」。
【0049】
[加工助剤(滑剤)]
ステアリン酸アマイド:ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製「アーモスリップ(登録商標)HT」。
シリコーン系滑剤:EVONIK社製「TEGOMER(登録商標) P 121」。
【0050】
<熱可塑性エラストマーの溶融粘度測定>
原料の熱可塑性エラストマーの溶融粘度を、(株)東洋精機製作所製の「キャピログラフ(登録商標)1D PMD-C」(JIS K7199:1999に準拠)を用いて測定した。低せん断領域の測定は、温度200℃、せん断速度61s-1の条件で行った。高せん断領域の測定は、温度200℃、せん断速度1216s-1の条件で行った。そして、低せん断領域の溶融粘度を高せん断領域の溶融粘度で除して、溶融粘度の比を算出した(溶融粘度の比=低せん断領域の溶融粘度/高せん断領域の溶融粘度)。
【0051】
<熱可塑性エラストマーのタイプAデュロメータ硬さ測定>
原料の熱可塑性エラストマーのタイプAデュロメータ硬さを、JIS K6253-3:2012に準拠した硬度計(高分子計器(株)製「ASKER P1-A型」)を用いて測定した。測定は、厚さ1mmの試験片を3枚重ねて行い、押針と試験片とが接触した直後から15秒後の値を採用した。
【0052】
<原料の導電材の真円度、結晶子厚さおよび粒度分布測定>
(1)真円度
原料の導電材の真円度を、粒子径・粒子画像解析装置(マイクロトラック・ベル(株)製「マイクロトラックSIA」)を用いて測定した。真円度は、1000個以上の任意の数の粒子の平均値である。ここでは、「原料の導電材」として、導電性カーボンブラック以外の黒鉛を測定対象とした。測定対象は、次の(2)結晶子厚さおよび(3)粒度分布の測定においても同じである。
【0053】
(2)結晶子厚さ:Lc(002)
原料の導電材の結晶子厚さを、PANalytical社製の多目的X線回折装置「Empyrean(登録商標)」を用いて測定した。X線にはCuKα線を用い、測定した回折角度(2θ)は20~53°とした。試料は圧縮せずに静置した。結晶面(002)のピーク面積は、X線回折パターンを擬フォークト関数に基づいて波形分離して求めた(ベースライン補正範囲:約41~48°)。
【0054】
(3)粒度分布
原料の導電材の体積基準の粒度分布を、粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル(株)製「マイクロトラックMT3000IIシリーズ」)を用いて測定し、体積平均粒子径および最大頻度を示すピークのピークトップ(モード径;最頻度粒子径)を求めた。
【0055】
<導電性組成物の成形加工性>
導電性シートを製造する際に、連続して良好なシートを成形することができたか否かにより、導電性組成物の成形加工性を評価した。良好なシートを成形することができた場合を成形加工性良好(後出の表中、○印で示す)、良好なシートを成形することができなかった場合を成形加工性不良(同表中、×印で示す)と評価した。「連続して良好なシートを成形することができた場合」とは、押出方向に1m以上、実用レベルのシートを成形することができたものであり、「良好なシートを成形することができなかった場合」とは、ラボプラストミルの吐出部からシートが出なかったり、シートの端部から裂けたり、シートに穴が開いたり、シートの表面に筋、模様が入ったりした場合である。
【0056】
<導電性シートの特性>
製造した導電性シートの導電性、柔軟性および伸びを評価した。測定方法は次のとおりである。
【0057】
[導電性]
導電性シート(幅150mm、厚さ500μm)の体積抵抗率を、(株)三菱化学アナリテック製の低抵抗率計「ロレスタ(登録商標)GP」(電圧:5V、JIS K7194:1994に準拠)を用いて測定した。
【0058】
[柔軟性]
導電性シートの柔軟性を、タイプAデュロメータ硬さの値で評価した。試験片には、各々の導電性シートと同じ材料で厚さ1mmのシート状に製造したものを3枚重ねて使用し、そのタイプAデュロメータ硬さを前述した硬度計を用いて測定した。この際、押針と試験片とが接触した直後から15秒後の値を、タイプAデュロメータ硬さとして採用した。
【0059】
[伸び]
導電性シートについて、JIS K6251:2017に規定される引張試験を行い、切断時伸び(Eb)を測定した。引張試験は、ダンベル状5号形の試験片を用い、室温下、引張速度を100mm/minとして行った。
【0060】
<導電性シート中の導電材の真円度および粒度分布測定>
導電性シートを電気炉にて燃焼し、得られた灰分を、前述した粒子径・粒子画像解析装置を用いて測定することにより、導電性シートに含まれる導電性カーボンブラック以外の導電材の真円度を求めた。真円度は、1000個以上の任意の数の粒子の平均値である。また、前述した粒子径分布測定装置により灰分の粒度分布を測定し、導電性シートに含まれる導電性カーボンブラック以外の導電材の体積平均粒子径、最大頻度を示すピークのピークトップ(モード径;最頻度粒子径)、およびショルダー部の開始点を求めた。導電性シートの燃焼は、窒素雰囲気、400℃で2時間行った。
【0061】
表1、表2に、製造した導電性シートの原料および特性の測定結果などをまとめて示す。また、導電性シートに含まれる薄片化黒鉛の粒度分布の一例として、
図3に、実施例1の原料の膨張化黒鉛の粒度分布、および製造された導電性シートに含まれる薄片化黒鉛の粒度分布を示す。比較のため、
図4に、比較例1の原料の膨張化黒鉛の粒度分布、および製造された導電性シートに含まれる薄片化黒鉛の粒度分布を示す。
【表1】
【表2】
【0062】
表1に示すように、実施例1~8の導電性シートは、溶融粘度に関する先の二つの条件(a)、(b)を満足する熱可塑性エラストマーと、真円度が0.5以下の膨張化黒鉛と、を用いて製造され、真円度が0.5以下の薄片化黒鉛を有している。このため、柔軟で、切断時伸びは30%以上であり、体積抵抗率は1.0Ω・cm以下で導電性が高く、押出成形により連続してシート状に成形することができた。一例として
図3に、実施例1の導電性シートにおける薄片化黒鉛の粒度分布を示すように、実施例1~8の導電性シートにおける薄片化黒鉛の粒度分布曲線は、ピークトップが50μm以上300μmの範囲に存在するメインピークを有していた。また、実施例3の導電性シート以外は、開始点が10μm以上100μmの範囲に存在するショルダー部を有していた。実施例3の導電性シートにおいては、粒度分布曲線においてショルダー部を明確に特定することは難しかった。この理由としては、原料の膨張化黒鉛の粒子径が比較的小さいため、膨張化黒鉛と薄片化黒鉛のピークが重なったこと、粒子径分布測定装置が二次元観察であるため、薄片化したものとしていないものを明確に分けられないこと、などが考えられる。
【0063】
また、実施例9~13の導電性シートは、二種類の熱可塑性エラストマーを用いて製造されている。表2の比較例7に示すように、スチレン系エラストマー[3]の溶融粘度は高い。しかし、溶融粘度が低いオレフィン系エラストマー(実施例7参照)を加えることにより、混合後の熱可塑性エラストマーは、溶融粘度に関する条件(a)、(b)を満足する。このように、実施例9~13の導電性シートは、溶融粘度に関する先の二つの条件(a)、(b)を満足する熱可塑性エラストマーと、真円度が0.5以下の膨張化黒鉛と、を用いて製造され、真円度が0.5以下の薄片化黒鉛を有している。このため、柔軟で、体積抵抗率は1.0Ω・cm以下で導電性が高く、押出成形により連続してシート状に成形することができた。また、実施例9~13の導電性シートにおける薄片化黒鉛の粒度分布曲線は、ピークトップが50μm以上300μmの範囲に存在するメインピークを有しており、開始点が10μm以上100μmの範囲に存在するショルダー部を有していた。さらに、実施例9~13の導電性シートは、導電材として、膨張化黒鉛に加えて導電性カーボンブラックを配合して製造されている。このため、実施例1~8の導電性シートと比較して、薄片化黒鉛の含有量は少なくなり、切断時伸びが大きくなった。
【0064】
これに対して、表2に示すように、比較例1、2の導電性シートは、真円度が0.5より大きい膨張化黒鉛を用いて製造され、真円度が0.5より大きい薄片化黒鉛を有している。このため、体積抵抗率は大きくなり所望の導電性を実現することはできなかった。一例として
図4に、比較例1の導電性シートにおける薄片化黒鉛の粒度分布を示すように、比較例1、2の導電性シートにおける薄片化黒鉛の粒度分布曲線は、ピークを一つ有するものの、ショルダー部を有していなかった。
【0065】
比較例3の導電性シートは、粒子径が小さい膨張化黒鉛(ファーストピークのピークトップ:8μm)を用いて製造されているため、薄片化黒鉛の真円度を測定することができず、ショルダー部の有無も測定することはできなかった。比較例3の導電性シートによると、比較例1、2の導電性シートと比較して体積抵抗率は小さくなったが、その導電性はセンサ用の電極としては充分とはいえない。
【0066】
比較例4の導電性シートは、真円度が0.5より大きい鱗状黒鉛を用いて製造され、真円度が0.5より大きい薄片化黒鉛を有している。比較例4の導電性シートにおける薄片化黒鉛の粒度分布曲線は、ピークを一つ有するものの、ショルダー部を有していなかった。結果、比較例4の導電性シートの体積抵抗率は大幅に大きくなった。
【0067】
比較例5の導電性シートは、真円度が0.5以下の膨張化黒鉛(表2中、※1を付加して示す)と、0.5より大きい膨張化黒鉛(表2中、※2を付加して示す)と、を混合して用いて製造されている。結果、比較例2の導電性シートと比較して体積抵抗率は小さくなったが、その導電性はセンサ用の電極としては充分とはいえない。比較例5の導電性シートにおける薄片化黒鉛の粒度分布曲線は、開始点が56μmであるショルダー部を有していた。ちなみに、比較例5の導電性シートは、原料として、体積平均粒子径および粒度分布のピークトップが異なる二種類の膨張化黒鉛を混合して用いている。よって、当該ショルダー部の薄片化黒鉛を分離して真円度を測定したところ、0.54であった。この測定結果より、比較例5の導電性シートにおいては、原料の膨張化黒鉛は所望の形状に薄片化されていないことが確認された。比較例6の導電性シートは、カーボンブラックを用いて製造されている。このため、比較例6の導電性シートは薄片化黒鉛を有していない。
【0068】
比較例7の導電性シートは、溶融粘度に関する条件(a)、さらには条件(b)を満足しない熱可塑性エラストマーを用いて製造されている。このため、押出成形により連続してシート状に成形することができなかった。また、比較例7の導電性シートにおける薄片化黒鉛の粒度分布曲線は、ピークを一つ有するものの、ショルダー部を有していなかった。これは、熱可塑性エラストマーが膨張化黒鉛の層間に浸入しにくく、薄片化が進行しにくかったためと考えられる。なお、参考例1の導電性シートについては、原料の膨張化黒鉛の配合量が多かったため、押出成形により連続して厚さ500μmのシート状に成形することができず、成形加工性に劣る結果になった。