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特許7518946残留アルカリの少ないハイニッケル三元系正極材料の調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】残留アルカリの少ないハイニッケル三元系正極材料の調製方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/01 20060101AFI20240710BHJP
   C04B 35/64 20060101ALI20240710BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240710BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240710BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
C04B35/01
C04B35/64
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023068363
(22)【出願日】2023-04-19
(65)【公開番号】P2023160782
(43)【公開日】2023-11-02
【審査請求日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】202210424265.9
(32)【優先日】2022-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】523148344
【氏名又は名称】宜賓▲り▼宝新材料有限公司
【氏名又は名称原語表記】YIBIN LIBODE NEW MATERIAL CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】No. 2, East Section Xinggang Road, Cuiping District, Yibin City, 644000 Sichuan P.R. China
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】張 彬
(72)【発明者】
【氏名】范 未峰
(72)【発明者】
【氏名】程 正
(72)【発明者】
【氏名】朱 淇才
(72)【発明者】
【氏名】樊 浩杰
(72)【発明者】
【氏名】王 政強
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第114349077(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112794371(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第113328072(CN,A)
【文献】特開2018-073800(JP,A)
【文献】特表2021-516433(JP,A)
【文献】特開2022-037814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
H01M 4/00-4/62
C01G 25/00-47/00
C01G 49/10-99/00
C01D 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル含有前駆体とリチウム塩に対して予備焼結を行って予備焼結材料を得、前記予備焼結材料とドーパントに対して一次高温焼結を行うステップを含み、
前記予備焼結が-15~-2Paの微負圧条件で行われ、前記予備焼結の温度を450~550℃にし、
前記一次高温焼結は、まず-10~-0.1Paの微負圧条件で焼結し、その後、0.1~10Paの微正圧条件で焼結し、前記一次高温焼結の過程において焼結温度を700~850℃にし、
前記一次高温焼結後の材料と被覆剤に対して二次高温焼結を行うステップをさらに含み、前記二次高温焼結は、1~8Paの微正圧条件で焼結する
ことを特徴とする、残留アルカリの少ないハイニッケル三元系正極材料の調製方法。
【請求項2】
前記予備焼結が-12~-3Paの微負圧条件で行われ、前記一次高温焼結は、まず-8~-1Paの微負圧条件で焼結し、その後、1~8Paの微正圧条件で焼結する
ことを特徴とする請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
先に前記予備焼結材料に対して破砕を行い、その後、前記ドーパントと混合させて一次高温焼結を行い、焼結温度を750~800℃にし、
前記一次高温焼結の過程において、2~4℃/minの昇温速度で焼結温度まで昇温させ、焼結雰囲気における酸素ガスの体積分率を95%超にする
ことを特徴とする請求項2に記載の調製方法。
【請求項4】
前記ドーパントは、Zr含有化合物、Al含有化合物、Ti含有化合物、Sr含有化合物、Mg含有化合物、Y含有化合物およびB含有化合物から選択される少なくとも1種である
ことを特徴とする請求項3に記載の調製方法。
【請求項5】
前記予備焼結は、前駆体とリチウム塩とを、リチウム塩と前駆体とのモル比が1.03~1.07であるように混合し、予備焼結の温度を480~520℃にし、予備焼結の焼結時間を4~6hにし、前記予備焼結の過程において焼結雰囲気における酸素ガスの体積分率を95%超にし、
前記前駆体は、ニッケルコバルトマンガン前駆体である
ことを特徴とする請求項2に記載の調製方法。
【請求項6】
先に前記一次高温焼結後の材料に対して破砕を行い、その後、前記被覆剤と混合させて二次高温焼結を行い、
前記二次高温焼結は、焼結温度を200~600℃にし、焼結時間を6~10hにし、焼結雰囲気における酸素ガスの体積分率を95%超にする
ことを特徴とする請求項に記載の調製方法。
【請求項7】
前記被覆剤は、Al含有化合物、Ti含有化合物、B含有化合物、Zr含有化合物およびW含有化合物から選択される少なくとも1種である
ことを特徴とする請求項に記載の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池の技術分野に属し、具体的に、残留アルカリの少ないハイニッケル三元系正極材料、その調製方法および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、三元系材料におけるニッケルの含有量が高いほど、焼結後の残留アルカリの含有量が高くなり、これが、ハイニッケル材料が量産できない最も重要な原因の1つでもある。残留アルカリの含有量が高いと、生産環境およびプロセス制御能力に対する要求が高くなり、スラリーが吸水後にゼリー状になるので、実際の応用に困難がある。したがって、表面の残留アルカリの含有量を抑えることは、電池での三元系材料の使用にとってとても重要である。
【0003】
現在、ハイニッケル三元系材料の表面の残留アルカリを抑えるには、主に下記の手段がある。
【0004】
(1)リチウム源と混合して焼結する段階でリチウム塩の割合を下げ、焼結の過程における各パラメータを調整することにより、リチウムを結晶の内部に迅速に拡散させる。しかし、リチウム塩と前駆体とのモル比が下がると、容量の低下を招く。
【0005】
(2)材料に対して水洗を行い、そして二次焼結により表面の残留アルカリの含有量を下げる。しかし、このようにすれば一部の電気的特性を損なってしまう。工業においてよく使う方法であるが、材料の表面のリチウム不足を招いて、一部の電気的特性を損なう。、また、水洗プロセスが複雑で、ある程度の損失を招き、生産コストが高くなる。
【0006】
これに鑑みて、本発明を提案する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、製品の電気的特性に影響を与えずに残留アルカリを顕著に抑えることができるとともに、複雑なプロセスの追加が不要である、残留アルカリの少ないハイニッケル三元系正極材料の調製方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の第2の目的は、残留アルカリが少なくかつ電気的特性が比較的良好である、残留アルカリの少ないハイニッケル三元系正極材料を提供することである。
【0009】
本発明の第3の目的は、リチウムイオン電池の調製における、上記の残留アルカリの少ないハイニッケル三元系正極材料の使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記のように実現される。
【0011】
第1局面として、本発明は、残留アルカリの少ないハイニッケル三元系正極材料の調製方法を提供する。該残留アルカリの少ないハイニッケル三元系正極材料の調製方法は、ニッケル含有前駆体とリチウム塩に対して予備焼結を行って予備焼結材料を得、予備焼結材料とドーパントに対して一次高温焼結を行うステップを含み、予備焼結が-15~-2Paの微負圧条件で行われ、予備焼結の温度を450~550℃にし、一次高温焼結は、まず-10~-0.1Paの微負圧条件で焼結し、その後、0.1~10Paの微正圧条件で焼結し、一次高温焼結の過程において焼結温度を700~850℃にする。
【0012】
選択可能な実施形態において、予備焼結が-12~-3Paの微負圧条件で行われ、一次高温焼結は、まず-8~-1Paの微負圧条件で焼結し、そして1~8Paの微正圧条件で焼結する。
【0013】
好ましくは、予備焼結が-10~-5Paの微負圧条件で行われ、一次高温焼結は、まず-5~-1Paの微負圧条件で4~6h焼結し、その後、1~5Paの微正圧条件で焼結し、一次高温焼結の総焼結時間を8~12hにする。
【0014】
選択可能な実施形態において、先に予備焼結材料に対して破砕を行い、その後、ドーパントと混合させて一次高温焼結を行い、焼結温度を750~800℃にする。
【0015】
好ましくは、一次高温焼結の過程において、2~4℃/minの昇温速度で焼結温度まで昇温させ、焼結雰囲気における酸素ガスの体積分率を95%超にする。
【0016】
選択可能な実施形態において、ドーパントは、Zr含有化合物、Al含有化合物、Ti含有化合物、Sr含有化合物、Mg含有化合物、Y含有化合物およびB含有化合物から選択される少なくとも1種である。
【0017】
選択可能な実施形態において、予備焼結は、前駆体とリチウム塩とを、リチウム塩と前駆体とのモル比が1.03~1.07であるように混合し、予備焼結の温度を480~520℃にし、予備焼結の焼結時間を4~6hにし、予備焼結の過程において焼結雰囲気における酸素ガスの体積分率を95%超にし、好ましくは、前駆体は、ニッケルコバルトマンガン前駆体である。
【0018】
選択可能な実施形態において、一次高温焼結後の材料と被覆剤に対して二次高温焼結を行うステップを含み、二次高温焼結は、1~8Paの微正圧条件で焼結する。
【0019】
好ましくは、二次高温焼結の圧力を1~5Paにする。
【0020】
選択可能な実施形態において、先に一次高温焼結後の材料に対して破砕を行い、その後、被覆剤と混合させて二次高温焼結を行い、好ましくは、二次高温焼結は、焼結温度を200~600℃にし、焼結時間を6~10hにし、焼結雰囲気における酸素ガスの体積分率を95%超にする。
【0021】
選択可能な実施形態において、被覆剤は、Al含有化合物、Ti含有化合物、B含有化合物、Zr含有化合物およびW含有化合物から選択される少なくとも1種である。
【0022】
第2局面として、本発明は、残留アルカリの少ないハイニッケル三元系正極材料を提供する。該残留アルカリの少ないハイニッケル三元系正極材料は、上記の実施形態の任意の1つによる調製方法で調製される。
【0023】
第3局面として、本発明は、リチウムイオン電池の調製における、上記の実施形態による残留アルカリの少ないハイニッケル三元系正極材料の使用を提供する。
【0024】
本発明は、下記の有益な効果を有する。まず前駆体とリチウム塩に対して予備焼結を行い、その後、ドーパントと一次高温焼結を行い、予備焼結を微負圧の条件で行うことにより、リチウム塩における水と、前駆体とリチウム塩との初期反応により生成される二酸化炭素とを十分に排出することができる。一次高温焼結は、先に微負圧の条件で焼結を行うことにより、反応により生成される水および二酸化炭素を大量排出し、その後、微正圧の焼結条件を採用することにより、十分に反応させて、構造が完全である三元系材料の中間品を得る。調製できた製品における残留アルカリの値はとても小さく、材料の電気的特性が保証され、プロセスが簡単で実施が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態の目的、技術案および利点をより明瞭に説明するため、以下、本発明の実施形態における技術案を明瞭かつ完全に説明する。実施形態において、具体的な条件を明記しないことについて、従来の条件またはメーカーの推奨する条件で行うことが可能である。使用する試剤または器械の、製造メーカーが明記されていないものについて、市販の従来品を使用することが可能である。
【0026】
リチウムイオン電池用正極材料は、アルカリ性を示すものが一般的である。例えば、一般的なハイニッケル三元系正極材料の場合、ニッケルの含有量が高いほど、容量が高くなり、残留アルカリの含有量も高くなる。アルカリ性物質は、主に水酸化リチウムおよび炭酸リチウムである。これらのアルカリ性物質は、一方、吸湿しやすいので材料の均質化の効果に影響を与え、他方、高温下で電解液と反応して分解してガスを発生しやすいので、電池の安全性能に影響を与える。
【0027】
残留アルカリを抑える従来方法に存在する問題に対して、発明者らは、製品の電気的特性を保証するとともに、残留アルカリを顕著に抑えることができる、プロセスが簡単で実施が容易である案を提案する。
【0028】
本発明の実施形態は、下記のステップを含む残留アルカリの少ないハイニッケル三元系正極材料の調製方法を提供する。
【0029】
S1.予備焼結
【0030】
ニッケル含有前駆体とリチウム塩に対して予備焼結を行って予備焼結材料を得、予備焼結が-15~-2Pa(ゲージ圧力)の微負圧条件で行われ、予備焼結の温度を450~550℃にする。予備焼結の過程において炉内を微負圧条件にする制御手段を使用することにより、リチウム塩における水と、前駆体とリチウム塩との初期反応により生成される二酸化炭素とを十分に排出することができる。
【0031】
具体的に、微負圧の圧力は、-15Pa、-14Pa、-13Pa、-12Pa、-11Pa、-10Pa、-9Pa、-8Pa、-7Pa、-6Pa、-5Pa、-4Pa、-3Pa、または-2Paなどであってもよく、上記の隣接する値の間の任意の値であってもよい。
【0032】
具体的に、予備焼結の温度は、450℃、460℃、470℃、480℃、490℃、500℃、510℃、520℃、530℃、540℃、または550℃などであってもよく、上記の隣接する値の間の任意の値であってもよい。
【0033】
好ましい実施形態において、予備焼結が-12~-3Paの微負圧条件で行われ、より好ましい実施例において、予備焼結が-10~-5Paの微負圧条件で行われる。微負圧の値をコントロールすることにより、水と、生成される二酸化炭素とを十分に排出し、残留アルカリの生成を防止することができる。
【0034】
実際の操作において、予備焼結は、前駆体とリチウム塩とを、リチウム塩と前駆体とのモル比が1.03~1.07であるように混合し、予備焼結の温度を480~520℃にし、予備焼結の焼結時間を4~6hにし、そして、予備焼結の過程において焼結雰囲気における酸素ガスの体積分率を95%超にし、これによって、より十分に反応させる。
【0035】
具体的に、前駆体は、ニッケルコバルトマンガン前駆体などの常用の正極材料前駆体であり得る。リチウム塩と前駆体とのモル比は、1.03、1.04、1.05、1.06、または1.07などであってもよく、上記の隣接する値の間の任意の値であってもよい。
【0036】
具体的に、予備焼結の焼結時間は、4h、4.5h、5h、5.5h、または6hなどであってもよく、上記の隣接する値の間の任意の値であってもよい。
【0037】
S2.一次高温焼結
【0038】
予備焼結材料とドーパントに対して一次高温焼結を行い、一次高温焼結の過程において焼結温度を700~850℃にし、まず-10~-0.1Pa(ゲージ圧力)の微負圧条件で焼結し、そして0.1~10Pa(ゲージ圧力)の微正圧条件で焼結する。先に微負圧の条件で高温焼結を行うことにより、反応により生成される水および二酸化炭素を大量排出し、そして微正圧の焼結条件を採用することにより十分に反応させて、構造が完全である三元系材料の中間品を得る。
【0039】
具体的に、一次高温焼結の温度は、700℃、710℃、720℃、730℃、740℃、750℃、760℃、770℃、780℃、790℃、800℃、810℃、820℃、830℃、840℃、または850℃などであってもよく、上記の隣接する値の間の任意の値であってもよい。
【0040】
具体的に、微負圧の圧力は、-10Pa、-9Pa、-8Pa、-7Pa、-6Pa、-5Pa、-4Pa、-3Pa、-2Pa、-1Pa、または-0.1Paなどであってもよく、上記の隣接する値の間の任意の値であってもよい。微正圧の圧力は、0.1Pa、1Pa、2Pa、3Pa、4Pa、5Pa、6Pa、7Pa、8Pa、9Pa、または10Paなどであってもよく、上記の隣接する値の間の任意の値であってもよい。
【0041】
好ましい実施形態において、一次高温焼結は、まず-8~-1Paの微負圧条件で焼結し、そして1~8Paの微正圧条件で焼結する。
【0042】
より好ましい実施形態において、一次高温焼結は、まず-5~-1Paの微負圧条件で4~6h(例えば、4h、5h、または6hなど)焼結し、そして1~5Paの微正圧条件で焼結し、一次高温焼結の総焼結時間を8~12h(例えば、8h、9h、10h、11h、または12hなど)にする。さらに一次高温焼結の操作圧力および微負圧操作の時間をコントロールすることにより、反応により生成される水および二酸化炭素をより十分に排出することができ、総焼結時間を顕著に延長しない前提で、製品における残留アルカリの含有量を抑えることができる。
【0043】
好ましい実施形態において、先に予備焼結材料に対して破砕を行い、そしてドーパントと混合させて一次高温焼結を行い、焼結温度を750~800℃にする。一次高温焼結の過程において、2~4℃/minの昇温速度で焼結温度まで昇温させる。一次高温焼結の過程において焼結雰囲気における酸素ガスの体積分率を95%超にする。一次高温焼結の温度、昇温速度および雰囲気を最適化することにより、製品の電気的特性をさらに向上させることができる。
【0044】
いくつかの実施形態において、ドーパントは、Zr含有化合物、Al含有化合物、Ti含有化合物、Sr含有化合物、Mg含有化合物、Y含有化合物およびB含有化合物から選択される少なくとも1種であり、化合物は一般的な酸化物または水酸化物などである。上記に限定されず、常用のドーピング元素を使用するドーピングがいずれも本出願の保護範囲内に属する。
【0045】
S3.二次高温焼結
【0046】
一次高温焼結後の材料と被覆剤に対して二次高温焼結を行い、二次高温焼結は、1~8Pa(ゲージ圧力)の微正圧条件で焼結し、二次高温焼結により材料のサイクル性能をさらに向上させる。
【0047】
具体的に、微正圧の圧力は、1Pa、2Pa、3Pa、4Pa、5Pa、6Pa、7Pa、または8Paなどであってもよく、上記の隣接する値の間の任意の値であってもよい。好ましい実施形態において、二次高温焼結の圧力を1~5Paにし、これによって、材料により中間品を均一に被覆するように十分に反応させる。
【0048】
実際の操作において、先に一次高温焼結後の材料に対して破砕を行い、そして被覆剤と混合させて二次高温焼結を行う。破砕により、被覆の均一性を向上させ、材料のサイクル性能をさらに向上させることができる。
【0049】
さらに、二次高温焼結は、焼結温度を200~600℃にし、焼結時間を6~10hにし、焼結雰囲気における酸素ガスの体積分率を95%超にする。二次高温焼結の温度、時間および雰囲気をコントロールすることにより、最終の製品のサイクル性能の向上に寄与できる。
【0050】
具体的に、被覆剤は、Al含有化合物、Ti含有化合物、B含有化合物、Zr含有化合物およびW含有化合物から選択される少なくとも1種であり、化合物がは一般的な酸化物または水酸化物などである。上記の常用の被覆剤は、一次高温焼結後の中間品に対する被覆に適し、材料のサイクル性能を顕著に改善することができる。
【0051】
本発明の実施形態は、残留アルカリの少ないハイニッケル三元系正極材料を提供する。該残留アルカリの少ないハイニッケル三元系正極材料は、上記の調製方法で調製されるものであり、残留アルカリが少なく、電気的特性が良好であり、さらに該正極材料を使用してリチウムイオン電池を製造することができ、幅広い応用が期待できる。
【0052】
以下、実施例を参照しながら、本発明に係るハイニッケル三元系正極材料の特徴および性能に対してさらに詳細に説明する。
【0053】
実施例1
本実施例は、下記のステップを含む調製方法で残留アルカリの少ないハイニッケル三元系正極材料を調製した。
【0054】
(1)予備焼結:リチウム塩と前駆体とのモル比が1.05であるようにNi0.8Co0.1Mn0.1(OH)前駆体およびリチウム塩を取って、原材料を混合してローラーハース窯に入れて予備焼結を行い、予備焼結は、温度を500℃にし、焼結時間を5hにし、焼結雰囲気における酸素ガスの濃度を95%超にし、焼結の圧力を-8Paの微負圧にした。予備焼結により予備焼結材料を得た。
【0055】
(2)一次高温焼結:予備焼結材料に対して破砕を行い、ドーパントのZrOおよびAlを添加して混合し、Zrの添加量を2000ppmにし、Alの添加量を1000ppmにした。混合した材料をローラーハース窯に入れて焼結し、3℃/minの昇温速度で780℃まで昇温させ、10h焼結した。ここで、焼結雰囲気における酸素ガスの濃度を95%超にした。-3Paの微負圧で5h焼結したあと3Paの微正圧で焼結して三元系材料の中間品を得た。
【0056】
(3)二次高温焼結:三元系材料の中間品を破砕し、そしてBの添加量を1000ppmにするように被覆剤のHBOと混合させた。混合した材料をローラーハース窯に入れて焼結して三元系材料完成品を得た。焼結温度を260℃にし、焼結時間を8hにし、焼結雰囲気における酸素ガスの濃度を95%超にし、焼結の圧力を3Paの微正圧にした。
【0057】
実施例2
本実施例による、残留アルカリの少ないハイニッケル三元系正極材料の調製方法は、調製中の圧力のコントロールにおいて実施例1と相違している。具体的に、下記のパラメータだけにおいて実施例1と相違している。
(1)予備焼結:焼結の圧力を-12Paの微負圧にした。
(2)一次高温焼結:まず-8Paの微負圧で5h焼結し、そして1Paの微正圧で焼結して三元系材料の中間品を得た。
(3)二次高温焼結:焼結の圧力を1Paの微正圧にした。
【0058】
実施例3
本実施例による、残留アルカリの少ないハイニッケル三元系正極材料の調製方法は、調製中の圧力のコントロールにおいて実施例1と相違している。具体的に、下記のパラメータだけにおいて実施例1と相違している。
(1)予備焼結:焼結の圧力を-3Paの微負圧にした。
(2)一次高温焼結:まず-1Paの微負圧で5h焼結し、そして8Paの微正圧で焼結して三元系材料の中間品を得た。
(3)二次高温焼結:焼結の圧力を5Paの微正圧にした。
【0059】
実施例4
本実施例による、残留アルカリの少ないハイニッケル三元系正極材料の調製方法は、調製中の圧力のコントロールにおいて実施例1と相違している。具体的に、下記のパラメータだけにおいて実施例1と相違している。
(1)予備焼結:焼結の圧力を-15Paの微負圧にした。
(2)一次高温焼結:まず-10Paの微負圧で5h焼結し、そして0.1Paの微正圧で焼結して三元系材料の中間品を得た。
(3)二次高温焼結:焼結の圧力を1Paの微正圧にした。
【0060】
実施例5
本実施例による、残留アルカリの少ないハイニッケル三元系正極材料の調製方法は、調製中の圧力のコントロールにおいて実施例1と相違している。具体的に下記のパラメータだけにおいて実施例1と相違している。
(1)予備焼結:焼結の圧力を-2Paの微負圧にした。
(2)一次高温焼結:まず-0.1Paの微負圧で5h焼結し、そして10Paの微正圧で焼結して三元系材料の中間品を得た。
(3)二次高温焼結:焼結の圧力を8Paの微正圧にした。
【0061】
なお、上記の実施例は、発明者らが実施した多くの実施例から選択される例示的なものにすぎず、他のドーパント、被覆剤、使用量、温度、時間に関する実施例についてここで説明を省略する。
【0062】
比較例1
予備焼結の過程における圧力を-25Paにしたことだけにおいて実施例1と相違している。
【0063】
比較例2
予備焼結の過程における圧力を10Paにしたことだけにおいて実施例1と相違している。
【0064】
比較例3
一次高温焼結の過程における圧力を一定にして-15Paにしたことだけにおいて実施例1と相違している。
【0065】
比較例4
一次高温焼結の過程における圧力を一定にして10Paにしたことだけにおいて実施例1と相違している。
【0066】
比較例5
微負圧での焼結を行わず、一次高温焼結の過程における圧力を一定にして3Paにしたことだけにおいて実施例1と相違している。
【0067】
テスト実験例1
実施例および比較例のそれぞれにより得た正極材料の電気的特性および残留アルカリの値を測定した。測定結果は、表1に示されている。
【0068】
【表1】
【0069】
表1から分かるように、本発明の実施例による方法は、材料の電気的特性に影響を与えることなく材料の残留アルカリの値を顕著に抑えることができ、圧力に関する操作パラメータを本出願の範囲外のものにすれば、性能の低下を招く。
【0070】
上記は、本発明の好ましい実施形態にすぎず、本発明を限定するものではない。当業者にとって、本発明は各種の変更や変化を有してもよい。本発明の精神および主旨から逸脱しない限り、当業者が行った如何なる変更、均等置換、改良なども、本発明の保護範囲内に属する。