(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】酸化ビスマスナノ粒子、その分散体、樹脂複合体および製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 29/00 20060101AFI20240710BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20240710BHJP
C08F 265/00 20060101ALI20240710BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20240710BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
C01G29/00
C08F2/44 Z
C08F265/00
C08K9/04
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2023502245
(86)(22)【出願日】2022-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2022004404
(87)【国際公開番号】W WO2022181293
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2021028161
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219912
【氏名又は名称】東京インキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】戸田 明宏
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-241985(JP,A)
【文献】特開2013-216858(JP,A)
【文献】特開2000-185916(JP,A)
【文献】特表2003-512404(JP,A)
【文献】特開2016-028998(JP,A)
【文献】特開2019-210193(JP,A)
【文献】特開2018-145057(JP,A)
【文献】特開2010-285304(JP,A)
【文献】特開2004-047449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 29/00
C08F 2/44
C08F 265/00
C08K 9/04
C08L 101/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基不含有カルボン酸(a)および水酸基含有カルボン酸(b)で表面処理されて
おり、
前記水酸基不含有カルボン酸(a)が脂肪族モノカルボン酸または芳香族モノカルボン酸であり、
前記水酸基含有カルボン酸(b)が水酸基含有脂肪族モノカルボン酸である、酸化ビスマスナノ粒子(ただし、前記酸化ビスマスナノ粒子のうち、金属元素(M)の酸化物を主成分とする金属酸化物系粒子において、カルボン酸(残)基を前記金属元素(M)に対し0.01~14モル%含有し、下記(1)および/または(2)を満足することを特徴とする、金属酸化物系粒子に該当する粒子を除く)。
(1)X線回折学的に金属元素(M)の酸化物に基づく結晶性を示し、ウィルソン法を用いて求めた、結晶子の大きさをDwとするとき、1nm≦Dw≦100nmであること
(2)下記数式で算出される比表面積径をDsとするとき、1nm≦Ds≦100nmであること
Ds=6/(ρ×S)
(但し、ρ:金属酸化物系粒子の真比重、S:B.E.T.法で測定される金属酸化物系粒子の比表面積(m
2/g))
【請求項2】
前記水酸基不含有カルボン酸(a)の炭素数が3以上22以下である、請求項
1記載の酸化ビスマスナノ粒子。
【請求項3】
前記水酸基含有脂肪族モノカルボン酸がモノヒドロキシ脂肪族モノカルボン酸である、請求項
1または2記載の酸化ビスマスナノ粒子。
【請求項4】
前記水酸基含有カルボン酸(b)の炭素数が6以上22以下である、請求項1から
3のいずれかに記載の酸化ビスマスナノ粒子。
【請求項5】
当該酸化ビスマスナノ粒子の平均粒子径が1~20nmである、請求項1から
4のいずれかに記載の酸化ビスマスナノ粒子。
【請求項6】
表面処理量が当該酸化ビスマスナノ粒子全量に対して5~50質量%である、請求項1から
5のいずれかに記載の酸化ビスマスナノ粒子。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれかに記載の酸化ビスマスナノ粒子を、有機溶媒、モノマーおよび重合性オリゴマーから選ばれた少なくとも一つを含有する分散媒中に分散してなる、酸化ビスマスナノ粒子分散体。
【請求項8】
請求項1から
6のいずれかに記載の酸化ビスマスナノ粒子を、樹脂中に分散してなる樹脂複合体。
【請求項9】
水酸基不含有カルボン酸(a)、水酸基含有カルボン酸(b)およびトリフェニルビスムチン(c)を混合し加熱する工程を含み、
前記水酸基不含有カルボン酸(a)が脂肪族モノカルボン酸または芳香族モノカルボン酸であり、
前記水酸基含有カルボン酸(b)が水酸基含有脂肪族モノカルボン酸であり、
前記混合し加熱する前記工程において、前記水酸基不含有カルボン酸(a)と前記水酸基含有カルボン酸(b)の合計量100質量部に対し、前記トリフェニルビスムチン(c)が40~100質量部であり、
前記混合し加熱する前記工程の加熱温度が80~200℃であり、
前記混合し加熱する前記工程の加熱時間が1~10時間であり、
前記混合し加熱する前記工程は窒素雰囲気下で行う酸化ビスマスナノ粒子の製造方法(ただし、前記酸化ビスマスナノ粒子のうち、金属元素(M)の酸化物を主成分とする金属酸化物系粒子において、カルボン酸(残)基を前記金属元素(M)に対し0.01~14モル%含有し、下記(1)および/または(2)を満足することを特徴とする、金属酸化物系粒子に該当する粒子を除く)。
(1)X線回折学的に金属元素(M)の酸化物に基づく結晶性を示し、ウィルソン法を用いて求めた、結晶子の大きさをDwとするとき、1nm≦Dw≦100nmであること
(2)下記数式で算出される比表面積径をDsとするとき、1nm≦Ds≦100nmであること
Ds=6/(ρ×S)
(但し、ρ:金属酸化物系粒子の真比重、S:B.E.T.法で測定される金属酸化物系粒子の比表面積(m
2/g))
【請求項10】
前記水酸基含有脂肪族モノカルボン酸がモノヒドロキシ脂肪族モノカルボン酸である、請求項
9記載の酸化ビスマスナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ビスマスナノ粒子、その分散体、それを樹脂中に分散させた樹脂複合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属酸化物のナノ粒子は、光学材料、電子部品材料、磁気記録材料、触媒材料、紫外線や近赤外吸収材料など様々な材料の高機能化や高性能化に寄与するものとして注目されている。
【0003】
このうち、酸化ビスマスについては、特許文献1において、超音波イメージング又は治療装置用の音響レンズの生成に有用な新型充てんシリコーン組成物として、「シリコーン樹脂及びナノ粒子単斜アルファ相酸化ビスマスからなる充てんシリコーン組成物」が提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、光学用レンズに適した高屈折率のエネルギー硬化型樹脂組成物として、酸化ビスマスナノ粒子を含有した樹脂組成物が紹介されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-240782号公報
【文献】特開2010-241985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2では、酸化ビスマスナノ粒子を用いた実施例が記載されていないので、その分散性や凝集程度は不明であるが、特許文献1で用いられている市販の酸化ビスマスナノ粒子は凝集しているため、三本ロールによる拡散処理が必要とされている。
【0007】
従って、本発明は、ほとんど凝集せず、有機溶媒、モノマー、樹脂等への分散性に優れた酸化ビスマスナノ粒子、その分散体および樹脂複合体、並びにその酸化ビスマスナノ粒子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、水酸基を持たないカルボン酸(以下、水酸基不含有カルボン酸という。)と水酸基を有するカルボン酸(以下、水酸基含有カルボン酸という。)とで表面処理されている酸化ビスマスナノ粒子が、有機溶媒等への分散性に優れることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のものである。
(1) 水酸基不含有カルボン酸(a)および水酸基含有カルボン酸(b)で表面処理されている、酸化ビスマスナノ粒子。
(2) 前記水酸基不含有カルボン酸(a)が脂肪族モノカルボン酸または芳香族モノカルボン酸である、(1)記載の酸化ビスマスナノ粒子。
(3) 前記水酸基不含有カルボン酸(a)の炭素数が3以上22以下である、(1)または(2)記載の酸化ビスマスナノ粒子。
(4) 前記水酸基含有カルボン酸(b)が水酸基含有脂肪族モノカルボン酸である、(1)から(3)のいずれかに記載の酸化ビスマスナノ粒子。
(5) 前記水酸基含有脂肪族モノカルボン酸がモノヒドロキシ脂肪族モノカルボン酸である、(4)記載の酸化ビスマスナノ粒子。
(6) 前記水酸基含有カルボン酸(b)の炭素数が6以上22以下である、(1)から(5)のいずれかに記載の酸化ビスマスナノ粒子。
(7) 当該酸化ビスマスナノ粒子の平均粒子径が1~20nmである、(1)から(6)のいずれかに記載の酸化ビスマスナノ粒子。
(8) 表面処理量が当該酸化ビスマスナノ粒子全量に対して5~50質量%である、(1)から(7)のいずれかに記載の酸化ビスマスナノ粒子。
(9) (1)から(8)のいずれかに記載の酸化ビスマスナノ粒子を、有機溶媒、モノマーおよび重合性オリゴマーから選ばれた少なくとも一つを含有する分散媒中に分散してなる、酸化ビスマスナノ粒子分散体。
(10) (1)から(8)のいずれかに記載の酸化ビスマスナノ粒子を、樹脂中に分散してなる樹脂複合体。
(11) 水酸基不含有カルボン酸(a)、水酸基含有カルボン酸(b)およびトリフェニルビスムチン(c)を混合し加熱する工程を含む、酸化ビスマスナノ粒子の製造方法。
(12) 前記水酸基不含有カルボン酸(a)が脂肪族モノカルボン酸または芳香族モノカルボン酸である、(11)記載の酸化ビスマスナノ粒子の製造方法。
(13) 前記水酸基含有カルボン酸(b)が水酸基含有脂肪族モノカルボン酸である、(11)または12記載の酸化ビスマスナノ粒子の製造方法。
(14) 前記水酸基含有脂肪族モノカルボン酸がモノヒドロキシ脂肪族モノカルボン酸である、(13)記載の酸化ビスマスナノ粒子の製造方法。
(15) 前記混合し加熱する前記工程において、前記水酸基不含有カルボン酸(a)と前記水酸基含有カルボン酸(b)の合計量100質量部に対し、前記トリフェニルビスムチン(c)が40~100質量部である、(11)から(14)のいずれかに記載の酸化ビスマスナノ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の酸化ビスマスナノ粒子は、ほとんど凝集せず、有機溶媒、モノマー、重合性オリゴマー、樹脂等への分散性に優れている。従って、モノマーや重合性オリゴマーに分散させて重合させることによって、光学材料への適用が可能となる。また、樹脂中に分散させてそれらの樹脂に機能を付加したり、光学的または機械的物性を改良したりできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例2のXRD(上部)および結晶構造データベースからのXRD(下部)を示す図である。
【
図2】実施例2のFT-IRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更実施の形態が可能である。
【0013】
本実施形態の酸化ビスマスナノ粒子は、水酸基不含有カルボン酸(a)と水酸基含有カルボン酸(b)とで表面処理されている。
【0014】
水酸基不含有カルボン酸(a)は、分子内に1個以上のカルボン酸を有するものの、水酸基を有さない化合物である。
前記水酸基不含有カルボン酸(a)としては、脂肪族および芳香族のモノカルボン酸が挙げられる。具体的には、水酸基不含有カルボン酸(a)が脂肪族である場合、飽和、不飽和を問わず、枝分かれまたはフェニル基等の芳香族置換基を有してもよい炭素数が3から22のモノカルボン酸が挙げられる。なかでも、有機溶媒、およびモノマー等への分散性を考慮すると脂肪族モノカルボン酸が好ましい。より具体的には、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸(オクタン酸)、オクチル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ネオデカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘネイコサン酸、およびドコサン酸等の飽和モノカルボン酸;オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、および魚油を鹸化分解して得られる脂肪酸等の不飽和脂肪酸ならびにそれらの幾何異性体が例示される。なかでも、炭素数が3から22の脂肪族モノカルボン酸が好ましく、炭素数が4から15の脂肪族モノカルボン酸がより好ましく、炭素数が6から10の脂肪族モノカルボン酸がさらに好ましい。
【0015】
水酸基含有カルボン酸(b)は、分子内に1個以上のカルボン酸および1個以上の水酸基を有する化合物である。
前記水酸基含有カルボン酸(b)としては、飽和、不飽和を問わず、枝分かれまたはフェニル基等の芳香族置換基を有してもよいカルボン酸が挙げられる。なかでも、炭素数が6から22の水酸基含有脂肪族モノカルボン酸が好ましく、モノヒドロキシ脂肪族カルボン酸がより好ましい。具体的には、2-ヒドロキシデカン酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、2-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、およびリシノール酸等が例示される。
【0016】
水酸基不含有カルボン酸(a)は、酸化ビスマスナノ粒子表面に疎水性を与え、その有機溶媒等中での分散安定性に寄与する。一方、水酸基含有カルボン酸(b)は、その水酸基が、特に分散媒がカルボニル基を有する有機溶媒、モノマーまたは重合性オリゴマーである場合に、カルボニル基との水素結合により分散体の安定性に寄与するものと考えられる。
なお、本実施形態において表面処理とは、酸化ビスマス粒子表面に疎水基を形成して酸化ビスマス粒子に疎水性を付与しつつ、酸化ビスマス粒子表面に水酸基を形成して酸化ビスマス粒子に分散安定性を付与することを意図する。また、本実施形態の酸化ビスマス粒子が水酸基不含有カルボン酸(a)および水酸基含有カルボン酸(b)で表面処理されていることは、例えば、酸化ビスマス粒子のIR測定を行い、アルカンのCH伸縮とカルボキシレートアニオンのCOO-伸縮のピークが見られることにより確認できる。
【0017】
本実施形態の酸化ビスマスナノ粒子の製造方法は、水酸基不含有カルボン酸(a)、水酸基含有カルボン酸(b)およびトリフェニルビスムチン(c)を混合し加熱する工程を含む。
【0018】
具体的には、水酸基不含有カルボン酸(a)と水酸基含有カルボン酸(b)とを混合し、そこにトリフェニルビスムチン(c)を加えて加熱撹拌し、定法により精製することにより酸化ビスマスナノ粒子を得ることができる。精製方法としては、例えば、得られた反応液に貧溶媒を加えて再沈殿させ、得られた沈殿物を濾取し、乾燥する方法が挙げられる。
水酸基不含有カルボン酸(a)と水酸基含有カルボン酸(b)との混合比(質量比)は、(a):(b)=1:9~9:1が好ましく、(a):(b)=3:7~7:3がより好ましく、(a):(b)=4:6~6:4がさらに好ましく、(a):(b)=4.5:5.5~5.5:4.5がことさらに好ましい。
また、水酸基不含有カルボン酸(a)と水酸基含有カルボン酸(b)の合計量100質量部に対するトリフェニルビスムチン(c)の添加量は、40~100質量部が好ましく、50~80質量部がより好ましく、60~75質量部がさらに好ましい。
また、加熱温度は、特に限定されないが、80~200℃が好ましく、90~150℃がより好ましい。加熱温度を上記範囲内とすることで、酸化ビスマス粒子の表面を水酸基不含有カルボン酸(a)および水酸基含有カルボン酸(b)によって良好に処理することができる。また、加熱時間は、適宜調整されるが、例えば、1~10時間が好ましく、2~8時間がより好ましく、3~7時間がさらに好ましい。
【0019】
このようにして得られた酸化ビスマスナノ粒子は、粒子径が数nm~数10nmの単分散したものとなるが、その平均粒子径は1~20nmが好ましく、分散体の透明性を考慮すると1~10nmがより好ましい。
【0020】
なお、本実施形態において、酸化ビスマスナノ粒子の平均粒子径は、粉末X線回折データ(XRD)から結晶子サイズをScherrer式により求め、その値と同等とする。すなわち、当該粉末X線回折データの回折ピーク幅から算出される結晶子サイズを平均粒子径とすることができる。
【0021】
本実施形態の酸化ビスマスナノ粒子は、その表面が水酸基不含有カルボン酸(a)と水酸基含有カルボン酸(b)とで処理されているので、有機溶媒、モノマー、および樹脂等への分散性に優れる。
【0022】
これらカルボン酸による表面処理量は、得られた酸化ビスマスナノ粒子に対して、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上であり、ことさらに好ましくは30質量%以上である。一方、カルボン酸による表面処理量は、得られた酸化ビスマスナノ粒子に対して、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは47質量%以下である。
カルボン酸による表面処理量を上記下限値以上とすることにより、有機溶媒、モノマー等への分散性を良好にできる。一方、カルボン酸による表面処理量を上記下限値以上とすることにより、酸化ビスマス自身が一定量保持され、酸化ビスマスによる機能が得られやすくなる。
ここで、本実施形態の酸化ビスマスナノ粒子のカルボン酸の表面処理量は、酸化ビスマスナノ粒子を窒素雰囲気下40℃/分の速度で800℃まで昇温処理した前後における酸化ビスマスナノ粒子の質量減少率(質量%)とする。すなわち、高温処理により、酸化ビスマスナノ粒子の表面にあるカルボン酸が除去されることとなるため、当該粒子の質量減少量を測定することで、カルボン酸の表面処理量を特定することができる。
【0023】
さらに、本実施形態の酸化ビスマスナノ粒子は、その表面が疎水化され、凝集しにくいため、有機溶媒、モノマー、および樹脂等への分散性に優れている。従って、例えば超音波ホモジナイザーを用いることにより有機溶媒中に容易に均一分散させることができるばかりでなく、モノマーや重合性オリゴマーに分散させてから重合させたり、樹脂に分散させたりすることによって酸化ビスマスナノ粒子が樹脂中に微分散した樹脂複合体を得ることができる。
なお、本実施形態の酸化ビスマス分散体および樹脂複合体は、その目的に応じて酸化防止剤、離型剤、重合開始剤、染顔料、および分散剤等を含有してもよい。
【0024】
前記の有機溶媒としては、例えば、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、オクタノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類が好適に用いられ、これらの溶媒のうち1種または2種以上を用いることができる。
【0025】
前記のモノマーおよび重合性オリゴマーとしては、ラジカル重合性、縮重合性、開環重合性等のいずれであっても使用できる。例えば、ラジカル重合性のモノマーとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル系モノマー、グリシジル基、イソシアネート基、ビニルエーテル基等の反応性官能基を持つ(メタ)アクリル系モノマー、スチレン等のビニル系モノマー等、縮重合性のモノマーとしてはポリアミドやポリエステルを形成するモノマー、ポリイソシアネートとポリオールおよびポリチオールとの組み合わせ等、開環重合性のモノマーとしてはエポキシ系モノマー等が好適に使用できる。また、重合性オリゴマーとしては、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシアクリレート系オリゴマー、アクリレート系オリゴマー等が好適に使用できる。
なお、(メタ)アクリレートはアクリレートとメタクリレートの両者を示すものとして使用される。
【0026】
本実施形態の酸化ビスマスナノ粒子は、モノマーまたは重合性オリゴマーに分散させてから重合させたり、樹脂中に分散させることによって樹脂複合体を得ることができるが、分散性に優れるため透明性を要求される用途、機械的物性を向上させる用途等に好適に用いられる。
【0027】
ここで、本実施形態の酸化ビスマスナノ粒子を分散させる樹脂としては、熱可塑性樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリ(メタ)アクリレート、ポリフェニレンエーテル、ポリウレタン、ポリスチレン、環状ポリオレフィン、ポリカーボネートなどから選ばれた1種または2種以上が好ましく用いられる。
【実施例】
【0028】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の% は質量%を意味する。
【0029】
(平均粒子径の測定)
以下の実施例および比較例で得られた酸化ビスマスナノ粒子の平均粒子径は、X線回折装置(株式会社リガク製、全自動多目的X線回折装置 SmartLab)を用い、測定条件を、X線管電圧40kV、X線管電電流30mA、走査範囲2θは10.0-65.0°とし、X線回折測定の2θ=32.67°付近の(200)面による回折強度からその半価幅βを求め、以下の数1のScherrer式において、Scherrer定数Kを0.9、X線管球の波長λを1.54059として結晶子径Dを求め、その値とした。
【0030】
(数1)
D=K・λ/(β・cosθ)
【0031】
(分散性の評価)
以下の実施例および比較例で得られた酸化ビスマス粉末について、分散性を評価した。有機溶媒またはモノマー中での分散性は、具体的には、実施例および比較例で得られた各酸化ビスマスナノ粒子に10%濃度になるように、表1に示す各溶媒(種々の有機溶媒またはモノマー)を添加し、超音波洗浄器(アズワン株式会社製単周波超音波洗浄器 MCS-6)による数分の処理後、目視により観察し、透明なものを○、白濁または沈降が見られたものを×として、分散性を評価し、結果を表1に示した。
【0032】
(実施例1)
オクタン酸29.7g、リシノール酸29.7gの混合溶液にトリフェニルビスムチン40.5gを添加し、得られた混合物を窒素雰囲気下で100℃、5時間撹拌し、透明溶液を得た。得られた透明溶液を室温まで冷却後、3Lのアセトンに添加し、ポアサイズ0.2μmフィルタで濾過した。濾過により得られた白色物を60℃で一昼夜真空乾燥を行うことにより、37.6gのカルボン酸で表面処理された酸化ビスマス粉末を得た。
酸化ビスマス粉末のカルボン酸の表面処理量は、PerkinElmer社製の熱質量測定装置TGA8000により、窒素雰囲気下40℃/分の速度で800℃まで昇温した質量減少率から45.69%であった。また酸化ビスマス粉末の結晶子径はXRDより4.5nmであった。
【0033】
(実施例2)
プロピオン酸26.9g、リシノール酸26.9gの混合溶液にトリフェニルビスムチン46.3gを添加し、得られた混合物を窒素雰囲気下で100℃、5時間の撹拌し、透明溶液を得た。得られた透明溶液を室温まで冷却後、3Lのアセトンに添加し、ポアサイズ0.2μmフィルタで濾過した。濾過により得られた白色物を60℃で一昼夜真空乾燥を行うことにより、33.6gのカルボン酸で表面処理された酸化ビスマス粉末を得た。
酸化ビスマス粉末のカルボン酸の表面処理量は、PerkinElmer社製の熱質量測定装置TGA8000により、窒素雰囲気下40℃/分の速度で800℃まで昇温した質量減少率から35.48%であった。また、酸化ビスマス粉末の結晶子径はXRDより5.4nmであった。
なお、
図1の上部は、実施例2の酸化ビスマスナノ粒子のX線回折曲線(XRD)を示し、
図1の下部は、酸化ビスマスBi
2O
3の結晶構造データベースからの回折データである。
【0034】
また、実施例2で得られたカルボン酸で表面処理された酸化ビスマス粉末について、FT-IR(ブルカー赤外分光計VERTEX70)を使用して測定し、結果を
図2に示した。
図2のFT-IRスペクトルより、アルカンのCH伸縮とカルボキシレートアニオンのCOO
-伸縮のピークが確認できた。したがって、酸化ビスマス粒子の表面にはカルボン酸が反応して、カルボキシレートの状態で化学結合が形成されていることが確認され、酸化ビスマス粒子は、水酸基不含有カルボン酸(a)および水酸基含有カルボン酸(b)で表面処理されていることが示された。
さらに、参考のため、後述の比較例1の表面処理されていない酸化ビスマス(III)粉末(富士フイルム和光純薬製)についてのFT-IRスペクトルも
図2に示した。
【0035】
(比較例1)
市販の表面処理されていない酸化ビスマス(III)粉末(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた。
【0036】
【0037】
表1に、実施例1、2および比較例1の有機溶媒への分散性を示した。実施例は比較例と比べいずれも有機溶媒、モノマー等への分散性が良好なことが分かった。
【0038】
(実施例3)
・酸化ビスマス樹脂複合体の製造
実施例2の酸化ビスマスナノ粒子4.3部、ビニルトルエンモノマー8.6部、3-フェノキシベンジルアクリレート0.5部および2-アクリロイルオキシエチルサクシネート0.5部をバイアルに添加、超音波分散させ、透明になるまで混合し、混合液をえた。その後、この混合液に2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.08部をさらに加え、窒素雰囲気下、65℃のオーブンに24時間静置し、酸化ビスマスを18.97%含有する透明な酸化ビスマス含有樹脂、すなわち酸化ビスマス樹脂複合体を得た。
【0039】
この出願は、2021年2月25日に出願された日本出願特願2021-028161号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。