(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子用封止剤及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置
(51)【国際特許分類】
H10K 50/844 20230101AFI20240710BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20240710BHJP
C08F 220/18 20060101ALI20240710BHJP
C08F 20/00 20060101ALI20240710BHJP
C08F 2/38 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
H10K50/844
H10K59/10
C08F220/18
C08F20/00 510
C08F2/38
(21)【出願番号】P 2023511350
(86)(22)【出願日】2022-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2022015323
(87)【国際公開番号】W WO2022210663
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2021057695
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 麻希子
(72)【発明者】
【氏名】栗村 啓之
(72)【発明者】
【氏名】山下 幸彦
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-123577(JP,A)
【文献】国際公開第2014/084190(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/067046(WO,A1)
【文献】特開2017-186521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00 - 50/88
H10K 59/00 - 59/95
C08F 220/18
C08F 20/00
C08F 2/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性化合物と、光重合開始剤と、安定ラジカルを有する安定ラジカル型化合物と、を含有
し、
前記ラジカル重合性化合物が、フルオロ基を有する含フッ素化合物を含み、
前記ラジカル重合性化合物に占める前記含フッ素化合物の割合が、0.1質量%以上50質量%以下である、有機エレクトロルミネッセンス素子用封止剤。
【請求項2】
前記安定ラジカルがニトロキシドラジカルである、請求項1に記載の封止剤。
【請求項3】
前記安定ラジカル型化合物の含有量が、前記ラジカル重合性化合物100質量部に対して、1~15000質量ppmである、請求項1又は2に記載の封止剤。
【請求項4】
前記安定ラジカル型化合物が、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル及び4-(メタ)アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の封止剤。
【請求項5】
前記ラジカル重合性化合物が、(メタ)アクリロイル基を有する化合物を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の封止剤。
【請求項6】
前記ラジカル重合性化合物が、芳香環を有する化合物を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の封止剤。
【請求項7】
25℃における粘度が3mPa・s以上50mPa・s以下である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の封止剤。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の封止剤の硬化体を含む、封止材。
【請求項9】
有機エレクトロルミネッセンス素子と、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子を封止する、請求項
8に記載の封止材と、
を備える、有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子用封止剤及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ともいう)は、高い輝度の発光が可能な素子体として注目を集めている。しかし、有機EL素子には、酸素や水分により劣化し、発光特性が低下するという課題があった。これを解決するため、有機EL素子を封止し、劣化を防止する技術が検討されている。
【0003】
封止方法の一つとして、例えば特許文献1には、重合性化合物と重合開始剤とを含有し、25℃における粘度が5~50mPa・sであり、25℃における表面張力が15~35mN/mであり、かつ、25℃、50%RHの環境下に24時間静置した後の25℃における含水率が1000ppm以下である、有機EL素子用封止剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機EL素子用封止剤としては、熱硬化性封止剤と光硬化性封止剤とが知られている。光硬化性封止剤は、封止時に加熱を必要としないため、有機EL素子を高熱に曝すことなく封止材を形成でき、高熱による有機EL素子の変形・変質等が抑制されるという利点を有する。
【0006】
近年、電子デバイスの要求特性が高まり、例えば、有機EL素子に対するより高い信頼性を実現可能な封止材が求められている。
【0007】
しかし、従来の光硬化性封止剤には、封止材を塗布する際の塗布装置からの吐出性、及び、塗布後の塗膜の平坦性に改善の余地があった。
【0008】
そこで本発明は、塗布装置からの吐出性及び塗膜の平坦性に優れ、有機EL素子の信頼性向上に寄与する封止材を形成可能な、有機EL素子用封止剤を提供することを目的とする。また、本発明は、当該有機EL素子用封止剤から形成される封止材、及び、当該封止材を備える有機EL表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、例えば、下記<1>~<10>に関する。
<1> ラジカル重合性化合物と、光重合開始剤と、安定ラジカルを有する安定ラジカル型化合物と、を含有する、有機エレクトロルミネッセンス素子用封止剤。
<2> 前記安定ラジカルがニトロキシドラジカルである、<1>に記載の封止剤。
<3> 前記安定ラジカル型化合物の含有量が、前記ラジカル重合性化合物100質量部に対して、1~15000質量ppmである、<1>又は<2>に記載の封止剤。
<4> 前記安定ラジカル型化合物が、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル及び4-(メタ)アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルからなる群より選択される少なくとも一種を含む、<1>~<3>のいずれかに記載の封止剤。
<5> 前記ラジカル重合性化合物が、(メタ)アクリロイル基を有する化合物を含む、<1>~<4>のいずれかに記載の封止剤。
<6> 前記ラジカル重合性化合物が、芳香環を有する化合物を含む、<1>~<5>のいずれかに記載の封止剤。
<7> 前記ラジカル重合性化合物が、フルオロ基を有する化合物を含む、<1>~<6>のいずれかに記載の封止剤。
<8> 25℃における粘度が3mPa・s以上50mPa・s以下である、<1>~<7>のいずれかに記載の封止剤。
<9> <1>~<8>のいずれかに記載の封止剤の硬化体を含む、封止材。
<10> 有機エレクトロルミネッセンス素子と、 前記有機エレクトロルミネッセンス素子を封止する、<9>に記載の封止材と、を備える、有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、塗布装置からの吐出性及び塗膜の平坦性に優れ、有機EL素子の信頼性向上に寄与する封止材を形成可能な、有機EL素子用封止剤が提供される。また、本発明によれば、当該有機EL素子用封止剤から形成される封止材、及び、当該封止材を備える有機EL表示装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0012】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下を意味する。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0013】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含する。
【0014】
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
【0015】
<封止剤>
本実施形態の封止剤は、ラジカル重合性化合物と、光重合開始剤と、安定ラジカルを有する安定ラジカル型化合物と、を含有する。
【0016】
本実施形態の封止剤は、有機エレクトロルミネッセンス素子封止用である。すなわち、本実施形態の封止剤は、有機EL素子を封止して有機EL表示装置を製造するために用いられる。本実施形態の封止剤は、光重合開始剤を含むため、光硬化性封止剤である。
【0017】
本実施形態の封止剤は、塗布装置からの吐出性に優れる。具体的には、本実施形態の封止剤によれば、塗布装置からの吐出時に、吐出液の曲がり、吐出液量のばらつき等が抑制され、良好な吐出性能が維持される。これにより、本実施形態の封止剤によれば、厚みムラが顕著に少ない、平坦性に優れた塗膜を形成できる。また、本実施形態の封止剤によれば、有機EL素子の信頼性向上に寄与する封止材を形成することができる。
【0018】
本実施形態の封止剤により上記効果が奏される理由は必ずしも限定されないが、以下の理由が考えられる。
【0019】
本発明者らの知見によれば、従来の光硬化性封止剤では、塗布装置から封止剤を吐出する際に、吐出液の曲がり、吐出液量のばらつき等が生じて、これにより塗膜に厚みムラ生じ、塗膜の平坦性が低下する場合があった。この原因として、光硬化性封止剤は、封止剤の使用前(例えば保管中、運搬中、等)に意図しない重合が生じやすく、当該重合によって生じた微細なパーティクルが、塗布装置の流路を狭めて、吐出液の曲がり、吐出液量のばらつき等を生じさせると考えられる。
【0020】
本実施形態の封止剤では、安定ラジカル型化合物を含有することで、光硬化性封止剤でありながら、使用前(例えば保管中、運搬中、等)の意図しない重合、及び当該重合によるパーティクルの発生が顕著に抑制される。このため、本実施形態の封止剤では、パーティクルに起因する塗布不良が抑制されて、塗布装置からの優れた吐出性、及び、塗布後の塗膜の高い平坦性が実現される。
【0021】
また、従来の光硬化性封止剤では、光照射時に、塗膜の厚みムラ、照射量のばらつき等に起因して、光重合開始剤、光重合開始剤から生成したラジカル種、重合過程で生じるラジカル種等の反応点が硬化体中に残存する場合があった。そして、このような反応点の残存があることで、封止作業後の硬化体中で更なる重合が起こり、硬化体が硬化収縮する場合があった。通常、有機EL素子と封止材(封止剤の硬化体)との間には、膜厚1μm程度の無機保護層が設けられるが、硬化収縮が生じると無機保護膜に負荷がかかってクラックを発生しやすく、クラックからの水又は酸素の侵入によって有機EL素子の信頼性が低下する場合があった。
【0022】
本実施形態の封止剤は、安定ラジカル型化合物を含有することで、硬化体中に上述の反応点が残存しにくく、また、反応点からの更なる重合も抑制される。このため、本実施形態の封止剤によれば、反応点に起因する変質が生じ難く、硬化収縮による無機保護膜の損傷を抑制でき、有機EL素子の信頼性向上に寄与する封止材を形成できる。
【0023】
(ラジカル重合性化合物)
ラジカル重合性化合物は、後述の光重合開始剤から発生する活性種により重合可能な化合物であればよい。ラジカル重合性化合物は1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合性基を有する化合物ということができる。ラジカル重合性基としては、例えばビニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基、ビニルエーテル基、ビニルエステル基、(メタ)アクリルアミド基等が挙げられ、これらのうち、(メタ)アクリロイル基が特に好ましい。
【0025】
ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合性基(好ましくは(メタ)アクリロイル基)を2つ以上有する多官能化合物を含むことが好ましい。多官能化合物を用いることで、光硬化性がより向上する傾向がある。
【0026】
多官能化合物が有するラジカル重合性基の数は、例えば2~6であってよく、好ましくは2~4である。
【0027】
封止材としての諸特性がバランスよく得られる観点から、重合性化合物は、ラジカル重合性基(好ましくは(メタ)アクリロイル基)を2つ有する二官能化合物を含むことがより好ましい。
【0028】
ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合性基(好ましくは(メタ)アクリロイル基)を1つ有する単官能化合物を含んでいてもよい。重合速度、硬化体の物性等の調整が容易となる観点から、ラジカル重合性化合物は、多官能化合物と単官能化合物とを含むことが好ましい。なお、ラジカル重合性化合物は、単官能化合物のみを含んでいてもよい。
【0029】
ラジカル重合性化合物が多官能化合物及び単官能化合物を含む場合、重合性化合物に占める多官能化合物の割合は、例えば40質量%以上であってよく、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、一層好ましくは80質量%以上であり、85質量%以上又は90質量%以上であってもよい。また、重合性化合物に占める多官能化合物の割合は、例えば100質量%以下であってよく、好ましくは95質量%以下である。すなわち、重合性化合物に占める多官能化合物の割合は、例えば、40~100質量%、40~95質量%、50~100質量%、50~95質量%、60~100質量%、60~95質量%、70~100質量%、70~95質量%、80~100質量%、80~95質量%、85~100質量%、85~95質量%、90~100質量%、又は90~95質量%であってよい。
【0030】
多官能化合物としては、(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する多官能(メタ)アクリル化合物が好ましい。多官能(メタ)アクリル化合物の具体例としては、
ビス(1-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピル)フタレート、ビス(2-(メタ)アクリロキシエチル)ホスフェート、ビス((メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)ジエチレングリコール、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ-(3-(メタ)アクリロキシエチル)エーテル、ビスフェノールAジ-(3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピル)エーテル、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ-(3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピル)エーテル、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールビス((メタ)アクリロキシプロピオネート)、1,4-ブタンジオールビス((メタ)アクリロキシプロピオネート)、2-ブテン-1,4-ジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールエーテルジ(メタ)アクリレート、ジフェノール酸ジ-(3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピル)エーテル、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、7,7,9-トリメチル-3,13-ジオキソ-3,14-ジオキサ-5,12-ジアザヘキサデカン-1,16-ジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-エタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-エタンジオールビス((メタ)アクリロキシプロピオネート)、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-フェニレンジ(メタ)アクリレート、1-フェニル-1,2-エタンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチル-2,2-ジ(p-ヒドロキシフェニル)プロパンジ(メタ)アクリレート、1,2-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシル化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールAジ-(3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピル)エーテル、テトラクロロビスフェノールAジ-(3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピル)エーテル、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート。ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエポキシジ(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9-ヘキサデカフルオロ-1,10-デカンジアクリレート等の二官能(メタ)アクリル化合物;
1,2,4-ブタントリオールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピルトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、シリコーントリ(メタ)アクリレート、1,3,5-トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ-s-トリアジン、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,2,3-トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリメチロールプロパントリス((メタ)アクリロキシプロピオネート)、1,2,3-トリメチロールプロパントリス((メタ)アクリロキシプロピオネート)、トリス-(2-(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート等の三官能(メタ)アクリル化合物;
ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラキス((メタ)アクリロキシプロピオネート)等の四官能(メタ)アクリル化合物;
等が挙げられる。
【0031】
単官能化合物としては、(メタ)アクリロイル基を1つ有する単官能(メタ)アクリル化合物が好ましい。単官能(メタ)アクリル化合物の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート(2-HPA)、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、4-ブチルフェニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2,4,5-テトラメチルフェニル(メタ)アクリレート、4-クロロフェニル(メタ)アクリレート、フェノキシメチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタル酸、EO変性フェノール(メタ)アクリレート、EO変性クレゾール(メタ)アクリレート、EO変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、PO変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
ラジカル重合性化合物は、芳香環を有する化合物(以下、芳香環含有化合物ともいう。)を含むことが好ましい。これにより、硬化体の透湿度がより低下する傾向がある。
【0033】
ラジカル重合性化合物が芳香環含有化合物を含む場合、ラジカル重合性化合物に占める芳香環含有化合物の割合は、例えば0.1質量%以上であってよく、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.7質量%以上、更に好ましくは0.8質量%以上、一層好ましくは0.9質量%以上であり、1質量%以上であってもよい。また、ラジカル重合性化合物に占める芳香環含有化合物の割合は、例えば100質量%以下であってよく、好ましくは50質量%以下であり、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下又は15質量%以下であってもよい。すなわち、ラジカル重合性化合物に占める芳香環含有化合物の割合は、例えば、0.1~100質量%、0.1~50質量%、0.1~40質量%、0.1~30質量%、0.1~20質量%、0.1~15質量%、0.5~100質量%、0.5~50質量%、0.5~40質量%、0.5~30質量%、0.5~20質量%、0.5~15質量%、0.7~100質量%、0.7~50質量%、0.7~40質量%、0.7~30質量%、0.7~20質量%、0.7~15質量%、0.8~100質量%、0.8~50質量%、0.8~40質量%、0.8~30質量%、0.8~20質量%、0.8~15質量%、0.9~100質量%、0.9~50質量%、0.9~40質量%、0.9~30質量%、0.9~20質量%、0.9~15質量%、1~100質量%、1~50質量%、1~40質量%、1~30質量%、1~20質量%又は1~15質量%であってよい。
【0034】
芳香環含有化合物としては、例えば、
ベンジル(メタ)アクリレート、4-ブチルフェニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2,4,5-テトラメチルフェニル(メタ)アクリレート、4-クロロフェニル(メタ)アクリレート、フェノキシメチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート(2-HPA)、2-(メタ)アクリロイロキシヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタル酸、EO変性フェノール(メタ)アクリレート、EO変性クレゾール(メタ)アクリレート、EO変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、PO変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート等の芳香環を1つ有する化合物;
エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエポキシジ(メタ)アクリレート等の芳香環を2つ以上有する化合物;
等が挙げられる。
【0035】
硬化体の透湿性がより低下し、有機EL素子の信頼性がより向上する観点からは、芳香環含有化合物としては、芳香環を2つ以上有する化合物が好ましい。ラジカル重合性化合物は、芳香環含有化合物として、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート及びエトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート及びエトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種を含むことがより好ましい。
【0036】
ラジカル重合性化合物は、フルオロ基を有する化合物(以下、含フッ素化合物ともいう)を含むことが好ましい。これにより、封止剤の表面自由エネルギーが低くなって、微細な凹凸に追従しやすくなり、塗膜の平坦性がより向上する傾向がある。
【0037】
ラジカル重合性化合物が含フッ素化合物を含む場合、ラジカル重合性化合物に占める含フッ素化合物の割合は、例えば0.1質量%以上であってよく、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、0.7質量%以上、0.9質量%以上又は1質量%以上であってもよい。また、ラジカル重合性化合物に占める含フッ素化合物の割合は、例えば100質量%以下であってよく、好ましくは50質量%以下であり、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下又は5質量%以下であってもよい。すなわち、ラジカル重合性化合物に占める含フッ素化合物の割合は、例えば、0.1~100質量%、0.1~50質量%、0.1~40質量%、0.1~30質量%、0.1~20質量%、0.1~10質量%、0.1~5質量%、0.3~100質量%、0.3~50質量%、0.3~40質量%、0.3~30質量%、0.3~20質量%、0.3~10質量%、0.3~5質量%、0.5~100質量%、0.5~50質量%、0.5~40質量%、0.5~30質量%、0.5~20質量%、0.5~10質量%、0.5~5質量%、0.7~100質量%、0.7~50質量%、0.7~40質量%、0.7~30質量%、0.7~20質量%、0.7~10質量%、0.7~5質量%、0.9~100質量%、0.9~50質量%、0.9~40質量%、0.9~30質量%、0.9~20質量%、0.9~10質量%、0.9~5質量%、1~100質量%、1~50質量%、1~40質量%、1~30質量%、1~20質量%、1~10質量%又は1~5質量%であってよい。
【0038】
含フッ素化合物が有するフルオロ基の数は、例えば1以上であればよく、好ましくは2以上、より好ましくは3以上である。また、含フッ素化合物が有するフルオロ基の数は特に限定されないが、例えば40以下であってよく、好ましくは30以下である。すなわち、含フッ素化合物が有するフルオロ基の数は、例えば1~40、2~40、3~40、1~30、2~30又は3~30であってよい。
【0039】
含フッ素化合物の全量に対するフッ素原子の含有量は、例えば1質量%以上であってよく、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。このような含有量範囲を満たす含フッ素化合物によれば、上述の効果がより顕著に奏される。また、含フッ素化合物の全量に対するフッ素原子の含有量は、例えば75質量%以下であってよく、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。すなわち、含フッ素化合物の全量に対するフッ素原子の含有量は、例えば、1~75質量%、1~70質量%、1~65質量%、2~75質量%、2~70質量%、2~65質量%、5~75質量%、5~70質量%又は5~65質量%であってよい。
【0040】
含フッ素化合物が有するラジカル重合性基の数は、1以上であればよい。ガラス転移温度の低い硬化体が得られやすくなる観点からは、含フッ素化合物が有するラジカル重合性基の数は、1であってよい。また、ガラス転移温度の高い硬化体が得られやすくなる観点からは、含フッ素化合物が有するラジカル重合性基の数は、2以上であってよい。含フッ素化合物が有するラジカル重合性基の数の上限は特に限定されない。含フッ素化合物が有するラジカル重合性基の数は、例えば4以下であり、柔軟性に優れる硬化体が得られやすくなる観点からは、好ましくは3以下、より好ましくは2以下である。すなわち、含フッ素化合物が有するラジカル重合性基の数は、例えば1~4、1~3、1~2、2~4、2~3又は2であってよい。
【0041】
含フッ素化合物としては、例えば、2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9-ヘキサデカフルオロ-1,10-デカンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0042】
(光重合開始剤)
光重合開始剤は、上述のラジカル重合性化合物を重合させることが可能な開始剤であればよい。光重合開始剤は1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
光重合開始剤としては、例えば、
ベンゾフェノン及びその誘導体;
ベンジル及びその誘導体;
アントラキノン及びその誘導体;
ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール等のベンゾイン型光重合開始剤;
ジエトキシアセトフェノン、4-tert-ブチルトリクロロアセトフェノン等のアセトフェノン型光重合開始剤;
2-ジメチルアミノエチルベンゾエート;
p-ジメチルアミノエチルベンゾエート;
ジフェニルジスルフィド;
チオキサントン及びその誘導体;
カンファーキノン、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボン酸、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボキシ-2-ブロモエチルエステル、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボキシ-2-メチルエステル、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボン酸クロライド等のカンファーキノン型光重合開始剤;
2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1等のα-アミノアルキルフェノン型光重合開始剤;
ベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジエトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド型光重合開始剤;
フェニル-グリオキシリックアシッド-メチルエステル;
オキシ-フェニル-アセチックアシッド2-[2-オキソ-2-フェニル-アセトキシ-エトキシ]-エチルエステル;
オキシ-フェニル-アセチックアシッド2-[2-ヒドロキシ-エトキシ]-エチルエステル;等が挙げられる。
【0044】
光重合開始剤としては、390nm以上の可視光線のみを用いて硬化させることができ、有機EL素子にダメージを与えずに硬化可能であることから、アシルホスフィンオキサイド型光重合開始剤が好ましい。アシルホスフィンオキサイド型光重合開始剤としては、硬化体の透明性がより向上する点及び395nm以上の光のみを用いて硬化可能である点で、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイドが好ましい。2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイドとしては、IGM Resins社製「Omnirad TPO」等が挙げられる。
【0045】
光重合開始剤の含有量は、重合性化合物100質量部に対して、例えば0.05質量部以上であってよく、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上である。また、光重合開始剤の含有量は、重合性化合物100質量部に対して、例えば10質量部以下であってよく、好ましくは8質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。このような含有量であると、封止剤の十分な感度及び硬化速度を得つつ、封止材の十分な透明度を確保しやすい傾向がある。すなわち、光重合開始剤の含有量は、重合性化合物100質量部に対して、例えば、0.05~10質量部、0.05~8質量部、0.05~5質量部、0.5~10質量部、0.5~8質量部、0.5~5質量部、1~10質量部、1~8質量部、1~5質量部、2~10質量部、2~8質量部又は2~5質量部であってよい。
【0046】
(安定ラジカル型化合物)
安定ラジカル型化合物は、安定ラジカルを有する化合物である。光重合開始剤は1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
安定ラジカルとしては、ニトロキシドラジカル(NOラジカル)が好ましい。すなわち、安定ラジカル型化合物としては、ニトロキシドラジカルを有する化合物が好ましい。ニトロキシドラジカルは、ラジカル重合性化合物との相溶性及び反応性に優れるため、ラジカル種をすばやく捕捉することができる。
【0048】
有機EL表示装置の製造工程では、有機EL素子が酸素によって劣化することから、1ppm未満の低酸素濃度で管理され、有機EL素子用封止剤も低酸素濃度で使用される。ここで、ラジカル重合性化合物の重合抑制のために用いられる一般的なフェノール系酸化防止剤は、重合抑制機能を発揮する過程で酸素との反応を要する。このため、フェノール系酸化防止剤は、有機EL素子用封止剤において重合抑制機能を発揮することが難しい。これに対して、安定ラジカル(特にニトロキシドラジカル)を有する安定ラジカル型化合物は、酸素の有無に関わらずラジカル種を捕捉できるため、上述の効果を顕著に得ることができる。
【0049】
安定ラジカル型化合物としては、例えば、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル、4-(メタ)アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル等が挙げられ、硬化体中に取り込まれてアウトガスとなりにくい観点からは、4-(メタ)アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルが好ましく、4-メタクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルがより好ましい。
【0050】
安定ラジカル型化合物の含有量は、ラジカル重合性化合物100質量部に対して、例えば1質量ppm以上であってよく、好ましくは10質量ppm以上、より好ましくは50質量ppm以上、更に好ましくは100質量ppm以上である。また、安定ラジカル型化合物の含有量は、ラジカル重合性化合物100質量部に対して、例えば15000質量ppm以下であってよく、好ましくは10000質量ppm以下、より好ましくは8000質量ppm以下、更に好ましくは6000質量ppm以下である。適量の安定ラジカル型化合物を用いることで、上述の効果がより顕著に奏される。すなわち、安定ラジカル型化合物の含有量は、ラジカル重合性化合物100質量部に対して、例えば、1~15000質量ppm、1~10000質量ppm、1~8000質量ppm、1~6000質量ppm、10~15000質量ppm、10~10000質量ppm、10~8000質量ppm、10~6000質量ppm、50~15000質量ppm、50~10000質量ppm、50~8000質量ppm、50~6000質量ppm、100~15000質量ppm、100~10000質量ppm、100~8000質量ppm又は100~6000質量ppmであってよい。
【0051】
(他の成分)
本実施形態の封止剤は、上記以外の他の成分を更に含有していてもよい。他の成分としては、酸化防止剤、界面活性剤、増感剤等が挙げられる。
【0052】
他の成分の含有量は特に限定されず、ラジカル重合性化合物100質量部に対して、例えば10質量部以下であってよく、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下であり、2質量部以下又は1質量部以下であってもよい。
【0053】
本実施形態の封止剤の粘度は、好ましくは3mPa・s以上、より好ましくは5mPa・s以上である。また、本実施形態の封止剤の粘度は、好ましくは50mPa・s以下、より好ましくは30mPa・s以下である。封止剤の粘度が上記範囲であると、インクジェット法による塗布時の吐出性がより向上し、塗膜形成がより容易となる傾向がある。すなわち、本実施形態の封止剤の粘度は、例えば、3~50mPa・s、3~30mPa・s、5~50mPa・s又は5~30mPa・sであってよい。
【0054】
なお、本明細書中、封止剤の粘度は、コーンプレート型粘度計(英弘精機社製、品番:HB DV3Tなど)を用いて、25℃、250rpmの条件で測定される値を示す。
【0055】
本実施形態の封止剤の1mL中に存在する直径1μm以上のパーティクルの数をaとし、80℃で16時間加熱した後の封止剤の1mL中に存在する直径1μm以上のパーティクルの数をbとしたとき、b-aは、10以下であることが好ましい。このような封止剤によれば、パーティクルに起因する塗布不良が抑制されて、塗布装置からの優れた吐出性、及び、塗布後の塗膜の高い平坦性が実現される。
【0056】
上記aは、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下であり、0であってもよい。
【0057】
上記bは、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下であり、0であってもよい。
【0058】
本実施形態の封止剤は、1μm以上のパーティクルを含んでいてもよいが、含まない(すなわち、aが0である)ことが好ましい。なお、パーティクルとしては、ラジカル重合性化合物の重合体由来のパーティクル、塵、埃等の異物由来のパーティクル、封止剤の製造工程で使用されたモレキュラーシーブス等の脱水剤由来のパーティクル等が挙げられる。本実施形態の封止剤は、これらのパーティクルを実質的に含まない封止剤として、濾過フィルター等でパーティクルを除去したものであってよい。
【0059】
なお、本明細書中、パーティクルの数は、パーティクルカウンター(リオン社製、光散乱式液中粒子検出器、品番:KS-42B)を用いて測定される値を示す。
【0060】
本実施形態の封止剤を硬化することで、ラジカル重合性化合物の重合体及び無機微粒子を含有する硬化体を得ることができる。この硬化体は、安定ラジカル型化合物又はその反応物として、安定ラジカルを有していてよい。この硬化体は、有機EL素子用封止材として好適に用いることができる。
【0061】
本実施形態の封止剤は、光照射により硬化することができる。本実施形態の封止剤の硬化に用いられる光源は特に限定されない。光源としては、例えば、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、ハイパワーメタルハライドランプ(インジウム等を含有する)、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、キセノンエキシマランプ、キセノンフラッシュランプ、LED等が挙げられる。
【0062】
上記光源は、各々放射波長やエネルギー分布が異なる。そのため、上記光源は光重合開始剤の反応波長等により適宜選択されてよい。また、自然光(太陽光)も反応開始光源になり得る。
【0063】
光源による照射は、直接照射であってもよく、反射鏡、ファイバー等による集光照射であってもよい。また、低波長カットフィルター、熱線カットフィルター、コールドミラー等を用いた照射であってもよい。
【0064】
本実施形態の封止剤を用いて有機EL素子を封止する方法としては、例えば、下記の封止方法等が挙げられる。
【0065】
・封止方法
有機EL素子が設置された基板を準備し、当該基板の有機EL素子が設置された面の上に、封止剤を塗布し、封止剤の塗膜を形成する。次いで、塗膜に光を照射して、封止剤の硬化体からなる封止材を形成する。これにより、有機EL素子が封止材により封止される。
【0066】
封止剤の塗布には、インクジェット方式を採用することが好ましい。有機EL表示装置の製造では、複数の有機EL素子が設置された大面積の基板上に封止剤を塗布する必要がある。本実施形態の封止剤は、インクジェット方式であっても高い吐出性能を維持しつつ塗布を行うことができるため、大面積の基板上に均一に塗膜を形成できる。
【0067】
封止剤の塗膜の膜厚は、例えば1μm以上であってよく、好ましくは3μm以上である。これにより、十分な封止能を有する封止材が形成されやすくなる。また、封止剤の塗膜の膜厚は、例えば10μm以下であってよく、好ましくは9μm以下である。これにより、有機EL表示装置の小型化、製造コストの削減等が期待される。すなわち、封止剤の塗膜の膜厚は、例えば、1~10μm、1~9μm、3~10μm又は3~9μmであってよい。
【0068】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば本発明は、上記以外の様々な構成を採用できる。また、本発明は本発明の目的を達成できる範囲で上記実施形態を変形、改良等したものであってもよい。
【0069】
例えば、本発明は、有機EL素子と、有機EL素子を封止する封止材と、を備える有機EL表示装置に関するものであってよい。封止材は、上述の封止剤の硬化体を含む。この有機EL表示装置において、有機EL素子は公知の有機EL素子であってよい。また、有機EL素子及び封止材以外の構成は、公知の有機EL表示装置と同様であってよい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
実施例及び比較例では、以下の成分を使用した。
(A)ラジカル重合性化合物
(A-1)SR262(1,12-ドデカンジオールジメタクリレート、アルケマ社製)
(A-2)BPE200(エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(下記式で表される化合物(m+n=4)、新中村化学工業社製)
【化1】
(A-3)DCP(ジメチロール-トリシクロデカンジメタクリレート、新中村化学工業社製)
(A-4)LINC-162A(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9-ヘキサデカフルオロ-1,10-デカンジアクリレート、共栄社化学社製)
(A-5)FA-512AS(ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、昭和電工マテリアルズ社製)
【0072】
(B)重合開始剤
(B-1)TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド、IGM Resins社製)
【0073】
(C)安定ラジカル型化合物
(C-1)TEMPOメタクリラート(4-メタクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル、東京化成工業社製)
(C-2)TEMPO(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、東京化成工業社製)
(C-3)TEMPOL(4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル、東京化成工業社製)
【0074】
各種測定及び評価は、以下の方法で行った。結果は表1及び表2に示す。
【0075】
(パーティクル数a)
パーティクル数aは、リオン社製のパーティクルカウンターを用いて、23℃、クリーンブース(クラス10000)、イエローランプ下にて、封止剤中のパーティクル数(直径1μm以上のパーティクル数)を測定して求めた。
・光散乱式液中粒子検出器: KS-42B
・コントローラ:KE-40B1
・シリンジサンプラ:KZ-31W
【0076】
(パーティクル数b)
パーティクル数bは、250mLの遮光瓶に封止剤200mLを充填した瓶をアルミパックに入れ密閉し、80℃オーブンに16時間投入した。16時間後、オーブンから取り出して室温まで放冷したのち、パーティクル数aと同様の方法でパーティクル数(直径1μm以上のパーティクル数)を測定し、パーティクル数bを求めた。
【0077】
(溶存酸素濃度)
飯島電子工業社製の溶存酸素計、DOメーターB-506S(隔膜型ガルバニ電池式)を用いて、23℃、攪拌ありの条件で、封止剤中の溶存酸素濃度を測定した。
【0078】
(粘度)
コーンプレート型粘度計(英弘精機社製、HB DV3T、コーンプレート:CPA-40Z)を用い、25℃、250rpmの条件で、封止剤の粘度を測定した。
【0079】
(インクジェット吐出時の不良ノズルの割合)
インクジェットカートリッジに、初期(製造直後)及び80℃16時間加熱後(高温処理後)の封止剤をそれぞれ充填し、全16ノズルの吐出状態を確認し、吐出不良が生じたノズルの割合を求めた。
吐出条件は以下のように設定した。
・インクジェット装置:富士フイルム社製、DMP2850
・インクジェット条件:23℃、大気、クリーンルーム(クラス1000)、イエローランプ下
・吐出速度:6.5m/s(±0.1)
・吐出電圧:吐出速度が6.5m/s(±0.1)になるように、吐出電圧で調整。
・吐出温度:35℃
・吐出状態の観察:全16ノズルの吐出状態を確認し、5°以上の飛翔曲がり、0.5m/s以上の吐出速度の低下、及び、不吐出を、吐出不良と判断した。
【0080】
(有機EL表示装置の信頼性評価(有機EL信頼性))
・評価用の有機EL表示装置の作製
30mm角のITO電極付きガラス基板(厚さ700μm)を、アセトン及びイソプロパノールそれぞれを用いて洗浄した。その後、真空蒸着法にて以下の化合物を薄膜となるように順次蒸着し、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/Hole Blocking層/電子輸送層/電子注入層/陰極からなる2mm角の有機EL素子を有する基板を得た。各層の構成は以下の通りである。
陽極(ITO):150nm
正孔注入層(高分子HIL):60nm
正孔輸送層(α-NPD):30nm
発光層(Ir(ppy)3+CBP[6%]):30nm
Hole Blocking層(BAlq):10nm
電子輸送層(Alq3):30nm
電子注入層(LiF):0.8nm
陰極(MgAg/IZO):10nm/100nm
【0081】
次に、窒素雰囲気下にて富士フイルム社製のインクジェット装置(品番:DMP2850)を用いて、2mm×2mmの有機EL素子を覆うように封止剤を打滴し、厚み10μmの塗膜を得た。その後、窒素雰囲気下で、波長395nmの光を発光するLEDランプ(HOYA社製UV-LED LIGHT SOURCE H-4MLH200-V1)により、積算光量1,500mJ/cm2となるように、波長395nmの光を塗膜に照射した。これにより硬化膜を得た。得られた硬化膜の全体を覆うように、10mm×10mmの開口部を有するマスク(覆い)を設置し、プラズマCVD法にてSiN膜を形成した。形成されたSiN(無機物膜)の厚さは約1μmであった。これにより、有機EL素子の封止体を得た。
【0082】
得られた封止体を、30mm×30mm×25μmtの透明な基材レス両面テープを用いて、30mm×30mm×0.7mmtの無アルカリガラス(Corning社製 Eagle XG)と貼り合わせた。これにより、評価用の有機EL表示装置を作製した。
【0083】
・信頼性試験
評価用の有機EL表示装置を、85℃、85%RHの高温高湿環境下に500時間静置した。この高温高湿処理の前後で、評価用の有機EL表示装置に電流を流し、発光面を撮影した。撮影された画像(高温高湿処理前の画像及び高温高湿処理後の画像)を、イノテック社の画像解析ソフト「Quick Grain」で解析し、発光面積を求めた。そして、高温高湿処理の前後での発光面積減少率(%)を算出した。
【0084】
(実施例1~7)
表1に示す組成で各成分を混合し、封止剤を製造した。得られた封止剤について、上記の各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
(比較例1~2)
表2に示す組成で各成分を混合し、封止剤を製造した。得られた封止剤について、上記の各種測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0086】
【0087】
【0088】
表1及び表2に示すとおり、実施例1~7の封止剤は、b-aが10以下であり、インクジェット吐出時の不良ノズルの割合が、比較例の封止剤と比べて、顕著に低下した。すなわち、実施例1~7の封止剤は、塗布装置内で詰まりが発生しにくく、吐出性能を良好に維持でき、平坦性に優れる塗膜を形成できることが確認された。また、発光面積減少率の結果から、実施例1~7の封止剤で有機EL素子を封止した有機EL表示装置は、比較例の封止剤で有機EL素子を封止した有機EL表示装置と比べて、信頼性が著しく向上した。