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特許7518972金属原料を使用するCAM前駆体を製造するための代替のワンポット法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】金属原料を使用するCAM前駆体を製造するための代替のワンポット法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20240710BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240710BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
C01G53/00 A
【請求項の数】 47
(21)【出願番号】P 2023513982
(86)(22)【出願日】2021-09-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-17
(86)【国際出願番号】 CA2021051216
(87)【国際公開番号】W WO2022047585
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】63/074,025
(32)【優先日】2020-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/161,664
(32)【優先日】2021-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515256187
【氏名又は名称】ナノ ワン マテリアルズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】キャンベル,スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】ローエ,トーマス イー.
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-220353(JP,A)
【文献】特表2020-505724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/525
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素金属を多価カルボン酸と反応させて酸化物前駆体を形成すること;
ここで、該元素金属は、Li、Mn、Ni、Co、Al及びFeからなる群から選択される、と
前記酸化物前駆体を加熱してリチウム金属酸化物カソード材料を形成すること;
ここで、該加熱は、空気中で行われる、と、を含むリチウム金属酸化物カソード材料の製造方法。
【請求項2】
前記元素金属が、Li及びFeからなる群から選択される、請求項1に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項3】
前記元素金属が、Mn、Ni、Co及びAlからなる群から選択される少なくとも2つの金属を含む、請求項1に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項4】
前記元素金属が、Mn、Co及びAlからなる群から選択される少なくとも2つの金属を含む、請求項3に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項5】
元素金属を多価カルボン酸と反応させて酸化物前駆体を形成すること;
ここで、該元素金属は、Li、Mn、Ni、Co、Al及びFeからなる群から選択される、又は、ここで、該元素金属が、Mn、Co及びAlからなる群から選択される少なくとも2つの金属を含み、
該酸化物前駆体を加熱してリチウム金属酸化物カソード材料を形成すること;
さらに、元素Niを、硝酸と反応させて、硝酸ニッケルを形成すること、を含む、リチウム金属酸化物カソード材料の製造方法。
【請求項6】
前記元素ニッケルが、0.05重量%以下の硫黄を含有する、請求項5に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項7】
前記硝酸ニッケルを、前記多価カルボン酸と反応させることをさらに含む、請求項5に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項8】
前記多価カルボン酸が、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、クエン酸、乳酸、オキサロ酢酸、フマル酸及びマレイン酸からなる群から選択される、請求項1に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項9】
前記多価カルボン酸が、シュウ酸である、請求項8に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項10】
前記リチウム金属酸化物カソード材料が、次式I によって定義される、請求項1に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法
LiNixMnyCozEeO4 式I
〔式中、Eはドーパントである;x +y + z + e = 2;及び 0 ≦ e ≦ 0.2〕
【請求項11】
前記式Iが、スピネル結晶形態である、請求項10に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項12】
xもyもゼロではない、請求項10に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項13】
前記リチウム金属酸化物カソード材料が、LiNi0.5Mn1.5O4である、請求項12に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法
【請求項14】
前記リチウム金属酸化物カソード材料が、式LiNixMnyO4によって定義され、式中、0.5≦x≦0.6及び1.4≦y≦1.5である、請求項10に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項15】
0.5≦x≦0.55及び1.45≦y≦1.5である、請求項14に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法
【請求項16】
前記リチウム金属酸化物カソード材料が、Niに対するMnのモル比が3以下である、請求項10に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法
【請求項17】
前記リチウム金属酸化物カソード材料が、Niに対するMnのモル比が少なくとも2.33~3未満である、請求項16に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法
【請求項18】
前記リチウム金属酸化物カソード材料が、Niに対するMnのモル比が少なくとも2.64~3未満である、請求項17に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法
【請求項19】
前記ドーパントが、Al、Gd、Ti、Zr、Mg、Ca、Sr、Ba、Mg、Cr、Fe、Cu、Zn、V、Bi、Nb及びBからなる群から選択される、請求項10に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項20】
前記ドーパントが、Al及びGdからなる群から選択される、請求項19に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法
【請求項21】
前記リチウム金属酸化物カソード材料が、次式II
LiNiaMnbXcGdO2 式II
〔式中、Gはドーパントである;XはCo又はAlである;a + b + c+ d = 1である;0 ≦ d ≦ 0.1である〕によって定義される、請求項1に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法
【請求項22】
0.5≦a≦0.9である、請求項21に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法
【請求項23】
0.58≦a≦0.62又は0.78≦a≦0.82である、請求項22に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項24】
a = b = cである、請求項21に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法
【請求項25】
請求項1に記載の方法で作製されたリチウム金属酸化物を含む電池の製造方法
【請求項26】
元素ニッケルを硝酸と反応させて硝酸ニッケルを形成すること;
前記硝酸ニッケルを多価カルボン酸と反応させて酸化物前駆体を形成すること;、
前記酸化物前駆体を加熱してリチウム金属酸化物カソード材料を形成すること;及び、
さらに、元素金属を前記多価カルボン酸と反応させて、金属カルボン酸塩を形成すること、ここで、前記元素金属が、Mn、Co及びAlからなる群から選択される、を含む、リチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項27】
前記元素ニッケルが、0.05重量%以下の硫黄を有する、請求項26に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項28】
前記元素金属が、Mn、Co及びAlからなる群から選択される少なくとも2つの金属を含む、請求項26に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項29】
前記多価カルボン酸が、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、クエン酸、乳酸、オキサロ酢酸、フマル酸及びマレイン酸からなる群から選択される、請求項26に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項30】
前記多価カルボン酸が、シュウ酸である、請求項29に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項31】
前記リチウム金属酸化物カソード材料が、次式I
LiNixMnyCozEeO4 式 I
〔式中、Eはドーパント、x + y +z + e = 2、及び0≦e ≦ 0.2〕によって定義される、請求項26に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項32】
前記式Iが、スピネル結晶形態である請求項31に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項33】
xもyもゼロではない、請求項31に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項34】
前記リチウム金属酸化物カソード材料が、LiNi0.5Mn1.5O4である、請求項33に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法
【請求項35】
前記リチウム金属酸化物カソード材料が、式LiNixMnyO4によって定義され、式中、0.5≦x≦0.6及び1.4≦y≦1.5である、請求項31に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項36】
0.5≦x≦0.55及び1.45≦y≦1.5である、請求項35に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項37】
前記リチウム金属酸化物カソード材料が、Niに対するMnのモル比が3以下である、請求項31に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法
【請求項38】
前記リチウム金属酸化物カソード材料が、Niに対するMnのモル比が少なくとも2.33~3未満である、請求項37に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法
【請求項39】
前記リチウム金属酸化物カソード材料が、Niに対するMnのモル比が少なくとも2.64~3未満である、請求項38に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法
【請求項40】
前記ドーパントが、Al、Gd、Ti、Zr、Mg、Ca、Sr、Ba、Mg、Cr、Fe、Cu、Zn、V、Bi、Nb及びBからなる群から選択される、請求項31に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項41】
前記ドーパントが、Al及びGdからなる群から選択される、請求項40に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法
【請求項42】
前記リチウム金属酸化物カソード材料が次式II
LiNiaMnbXcGdO2 式II
〔式中、Gはドーパントである;XはCo又はAlである; a + b + c+ d = 1である、0≦d≦0.1〕によって定義される、請求項26に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法
【請求項43】
0.5≦a≦0.9である、請求項42に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法
【請求項44】
0.58≦a≦0.62又は0.78≦a≦0.82である、請求項43に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法。
【請求項45】
a = b = cである、請求項42に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法
【請求項46】
前記加熱が空気中で行われる、請求項26に記載のリチウム金属酸化物カソード材料を形成する方法
【請求項47】
請求項26に記載の方法によって製造されたリチウム金属酸化物材料を含む電池の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用のカソード活材料〔CAM(cathode active material):正極活物質ともいう〕の微細及び超微細粉末及びナノ粉末を形成する改良された方法に関する。より具体的には、本発明は、限定はしないが、リチウムイオン電池カソード(リチウムイオン電池正極ともいう)に関し及び、焼結及び焼成に有害であるプロセスステップの数を減らし、及び、材料の廃棄を最小限に抑えて、CAMsを調製する効率的な方法、に関する。
【0002】
関連出願の参照
本出願は、2020年9月3日に出願された係属中の米国仮特許出願第63/074,025号及び2021年3月16日に出願された米国仮特許出願第63/161,644号の優先権を主張する
【背景技術】
【0003】
バッテリの改良に対する需要は絶えず存在している。バッテリには、2つの主要な用途があり、一方は固定用途であり、他方は移動用途である。固定用途及び移動用途の両方において、貯蔵容量の増加、電池寿命の延長、フル充電に達する能力の迅速化及び低コスト化が望まれている。CAMとしてリチウム金属酸化物カソードを含むリチウムイオン電池は、ほとんどの用途に適した電池として非常に有利であり、適用の範囲を超えてその有利性が見出されているが、さらに、特に、リチウムイオン電池の貯蔵能力、再充電時間、コスト及び貯蔵安定性の改善が望まれている。
【0004】
岩塩結晶形態のリチウム及び遷移金属系カソードを含む、リチウムイオン電池の調製は、米国特許No.9,136,534;9,159,999及び9,478,807ならびに米国特許出願公開No.2014/0271413;2014/0272568及び2014/0272580に開示される
岩塩結晶形態を有するカソード材料は、一般式:
LiNiaMnbXcO2
〔式中、Xは、好ましくはCo又はAlであり、a + b + c = 1〕である。Xがコバルトである場合、カソード材料は、便宜上、NMCと呼ばれ、Xがアルミニウムである場合、カソード材料は、便宜上、NCAと呼ばれる。
【0005】
スピネル(spinel)結晶構造を有するカソード材料は、一般式:
LiNixMnyCozO4
〔式中、x + y + z = 2〕である。
【0006】
最近報告された進歩において、CAM(岩塩又はスピネル)は、シュウ酸中の金属炭酸塩を、Li2CO3で消化して、混合シュウ酸塩前駆体を作製することによって形成され、次に、混合シュウ酸塩前駆体を、か焼してCAMを作る。遷移金属炭酸塩の供給は、該供給網が、主に金属硫酸塩の形成に基づいているため、十分には確立されていない。
【0007】
金属炭酸塩は、典型的には金属硫酸塩から製造される。金属硫酸塩は、金属含有量が非常に低く、例えば、ニッケルに対して21wt%であり、従って、金属硫酸塩からの金属炭酸塩の形成に関連するコストは、上述のシュウ酸塩プロセスに関連するそのコスト効率を著しく下げる。金属硫酸塩の形成において、遷移金属は、元の供給源から抽出され、多くの場合、金属として精製され、その後、酸として再溶解される。従って、金属硫酸塩からの金属炭酸塩の形成は、Na2SO4廃棄物流(waste stream)を作り出し、その純度は、高い費用を要する追加の精製ステップが利用されない限り、電池製造のためのCAMの形成に使用するには、概して不十分である。
【0008】
当技術分野において、一般的な前駆体供給問題及び廃棄物流問題によっては妨げられていない、リチウムイオンカソード、特にスピネル及び岩塩結晶構造であるリチウム/マンガン/ニッケル系カソードを製造する改良された方法が望まれており、本発明は、そのような方法を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、リチウムイオン電池用のCAMを調製する改良された方法を提供することである。
【0010】
より具体的には、本発明は、金属硫酸塩を形成する必要性を排除し、従って、金属前駆体の製造を合理化するための金属硫酸塩を金属炭酸塩に変換するという必要性を排除する、CAMのための前駆体の形成の改善に関する。
【0011】
本発明の目的は、金属塩前駆体を焼成してリチウム金属酸化物カソードを形成するという、リチウム金属酸化物の金属塩前駆体を形成するための改良された方法を提供することである。
【0012】
本発明の特別な目的は、スピネル結晶構造又は好適にはNMC及びNCAから選択される岩塩構造の、遷移金属系カソードを含む、リチウムイオン電池を形成するための改善された方法を提供することである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の特別な利点は、高ニッケルCAMを形成する能力にあり、ここで、前駆体材料が、高ニッケルCAMの形成に適したコスト及び純度レベルで得ることが特に困難であったものを改良するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の実施態様は、リチウムイオンカソード材料を形成する方法において提供される。この方法は、元素金属(elemental metal)を多価カルボン酸と反応させて酸化物前駆体を形成し、この酸化物前駆体を加熱してリチウムイオンカソード材料を形成することを含む。好ましい実施態様では、元素混合物(elemental mixture)は、Ni、Mn、Co及びAlのうちの少なくとも2つを含む。
【0015】
本発明の実施態様は、リチウムイオンカソード材料を形成する方法であって以下の工程を含む:
元素ニッケルと硝酸を反応させて、硝酸ニッケルを生成する工程;
該硝酸ニッケルを多価カルボン酸と反応させて、酸化物前駆体を形成する工程;及び
該酸化物前駆体を加熱して、該リチウムイオンカソード材料を形成する工程。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、対照及び本発明の実施例のXRD走査である。
【0017】
図2図2は、対照及び本発明のサンプルについての半電池データのグラフ図である。
【0018】
図3図3は、対照及び本発明の実施例のXRD走査である。
【0019】
図4図4は、対照及び本発明の実施例のXRD走査である。
【0020】
図5図5は、対照及び本発明のサンプルの半電池データのグラフ図である。
図6図6は、対照及び本発明のサンプルの半電池データのグラフ図である。
【0021】
図7図7は、対照及び本発明の実施例のXRD走査である。
【0022】
図8図8は、対照及び本発明のサンプルについての半電池データのグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、リチウムイオン電池、特にリチウムイオン電池のCAMを調製するための改良された方法に関する。より詳細には、本発明は、リチウムイオン電池で使用するためのカソードを形成するための改善された方法に特徴をもち、ここで、該カソードは、スピネル結晶形態又は岩塩形態であり、好ましい岩塩形態は、NMC及びNCA材料である。さらに、より具体的には、本発明は、硫酸塩及び炭酸塩の形成を必要とせずに、元素金属から、直接、金属塩前駆体を形成することに関する。
【0024】
好ましい実施態様において、本発明のCAMは、
次式Iによって定義されるスピネル結晶構造:
LiNixMnyCozEwO4 式I
(式中、Eは任意のドーパントであり;及び、x + y + z + w = 2 及び w≦0. 2)(なお、wは、請求項においてeとも記載する);
又は、
次式IIによって定義される岩塩結晶構造;
LiNiaMnbXcGdO2 式II
(式中、Gは任意のドーパントであり;Xは、Co若しくはAlである;及び、ここで、a + b + c + d = 1であり、d≦0. 1である)中に、リチウム金属化合物を含む。
【0025】
好ましい実施態様において、式Iのスピネル結晶構造は、0. 5≦x≦0. 6; 1. 4≦y≦1. 5及びz≦0. 9を有する。より好ましくは、0.5≦x≦0.55、1.45≦y≦1.5、z≦0.05である。好ましい実施態様では、xもyも、ゼロではない。式Iにおいて、Mn/Ni比は、3以下、好ましくは少なくとも2.33~3未満、最も好ましくは少なくとも2. 6~3未満である。
【0026】
好ましい実施態様において、式IIの岩塩結晶構造は、0. 5≦a≦0. 9であり、より好適には、NMC622によって表される0.58≦a≦0.62又はNMC 811によって表される0.78≦a≦0.82、である高ニッケルNMCである。好ましい実施態様では、NMC 111によって表されるように、a=b=cである。用語NMC xxxは、ニッケル、マンガン及びコバルトの名目上相対比を表すために当技術分野で使用される略記である。NMC 811は、例えば、LiNi0.8Mn0.1X0.1O2を表す。
【0027】
明細書の式において、リチウムは、リチウムがアノードとカソードとの間で移動可能であるという理解をもって、化学量論的に電荷のバランスをとるように定義される。従って、任意の所与の時点で、カソードは、比較的リチウムリッチであってもよく、又は比較的リチウム枯渇であってもよい。リチウムが枯渇したカソードでは、リチウムが化学量論的バランスを下回り、放電時に、リチウムは化学量論的バランスを上回り得る。同様に、本明細書を通して列挙される配合物において、金属は、実際には完全にバランスのとれた化学量論を明確化することができないために、元素分析によって決定されるように、金属がわずかに豊富であってもわずかに枯渇していてもよいという理解と共に、電荷バランスで表される。
【0028】
ドーパントを添加して、電子伝導性及び安定性などの酸化物の特性を向上させることができる。該ドーパントは、好ましくは、一次ニッケル、マンガン、及び任意のコバルト又はアルミニウムと協働して添加される代替え的なドーパントである。該ドーパントは、好ましくは、酸化物の10モル%以下、好ましくは5モル%以下を占める。好ましいドーパントとしては、Al、Gd、Ti、Zr、Mg、Ca、Sr、Ba、Mg、Cr、Cu、Fe、Zn、V、Bi、Nb及びBが挙げられ、Al及びGdが特に好ましい。ドーパント及びコーティング材料は、所望の組成物を作製するために、必要に応じて、炭酸塩、酸化物又は金属のいずれかとして反応器に添加され得る。
【0029】
当該カソードは、本明細書でより完全に説明されるように、Li、Ni、Mn、Co、Al又はFeの塩を含む酸化物前駆体から形成される。該酸化物前駆体は、焼成して、リチウム金属酸化物としてカソード材料を形成する。該カソード材料は、必要に応じて、リン酸塩XPO4で処理され、ここでXは、電荷のバランスをとるのに必要な原子であり、Xは1価の原子、2価の原子又は3価の原子であってもよく、組み合わせが必要に応じて使用されてもよいことを理解されたい。Xは、該処理後、洗浄又は蒸発のいずれかによって容易に除去されることが特に好ましい。該リン酸塩は、金属酸化物の表面に適用され、リン酸部分は、金属酸化物の表面上にMnPO4を形成するか、又は金属酸化物の表面に結合される。当該マンガンは、好ましくは、主に+3酸化状態にあり、好ましくは、表面マンガンの10%未満が+2酸化状態にあり、それによってマンガンが、該表面でMn2+への還元に対して安定化される。反応は、Xを遊離させ、Xは洗浄又は蒸発によって除去される。好ましいリン酸塩において、Xは、NH4 +、H+、Li+、Na+、及びそれらの組み合わせから選択される。特に好ましいリン酸塩は、表面リン酸マンガンの形成後のXの除去の容易さのために、(NH4)3PO4、(NH4)2HPO4、(NH4)H2PO4、及びH3PO4を含む。焼成酸化物前駆体の天然の酸化マンガンは、添加されたマンガン若しくは他の金属とは対照的に、リン酸塩と反応されることが好ましい。従って、該添加されるリン酸塩は、Mnを相対的に含まず、より好ましくは1重量%未満のマンガンであることが好ましい。Mn+2は、リン酸塩と共に、又は酸化物の形成後に、添加されないことが好ましい。表面には、別個の相としてリン酸マンガン等の別個のリン酸マンガン相が存在しないことが好ましい。該リン酸塩は、当該金属酸化物の表面でライゲーションする(ligate:結合する)ことが好ましい。
【0030】
該酸化物前駆体は、多価カルボン酸、好ましくはシュウ酸を、元素金属粉末と反応させて、最初に硫酸塩又は炭酸塩を形成することなく、不溶性塩を形成することによって形成される。Coと多価カルボン酸との反応速度は、Niよりも速く、Mnよりも速い。該前駆体を作製するプロセスにおいて、該金属粉末は、多価カルボン酸、好ましくはシュウ酸の飽和懸濁液に添加され、H2(g)の遊離及び金属シュウ酸塩との金属塩の沈殿をもたらす。ここで、金属シュウ酸塩は、金属多価カルボン酸の例示である。格別の優位性は、好ましくはシュウ酸が、室温で完全に溶解する必要がなく、従って、反応に必要な溶媒、好ましくは、水、の量が、水の除去に必要なエネルギーを最小限に抑える極めて低いままであり得ることである。
【0031】
金属粉末と多価カルボン酸との反応中に、反応器をかき混ぜる又は揺り動かして、反応を確実に継続することができる。あるいは、該反応は、その反応速度を増加させるために、水平ビーズミル中で達成され得る。該金属粉末及び多価カルボン酸を加熱して、反応速度を高めることが好ましい。該反応は、10℃のような低温で進行するが、遅い反応速度は望ましくない。該反応は、100℃以上に加熱することができるが、水が好ましい溶媒であるため、還流系を使用しない限り、100℃を超えないことが好ましい。該水は、水とアルコールとの共沸混合物で置き換えることができ、これは乾燥コストを低減する。例示的な共沸混合物は、87.7wt%のプロパン-2-オールであり、これは80.4℃で沸騰するが、これに限定されない。
【0032】
該反応は、又、ビーズミリングプロセス(bead-milling process)を通して、直接又は部分的に、100℃を超えるまで加熱されてもよい。該反応は、ZrO2ボールを使用する水平ボールミル又はZrO2ビーズを使用するビーズミル等の反応器中で行うことができる。あるいは代替え的に、該反応が、100℃を超える温度、例えば200℃までが使用され得るように、オートクレーブ中で行われてもよい。
【0033】
Li2CO3の添加時間は、特に重要ではない。Li2CO3が、プロセスの初期に添加される場合、リチウム塩(例えば、シュウ酸リチウム)は、炭酸塩の消化によって形成され、リチウム塩は残存する。あるいは代替え的に、Li2CO3は、遷移金属反応が完了した後に添加することができる。該金属は、酸性プロトンによって酸化され、それによってH2ガスを生成し、これは、好ましくは、従来の実験室又は製造慣行と一致する方法で取り扱われる。一実施態様では、該反応器は、N2又はHe等の不活性ガス下にあってもよく、又は、容器は爆発のリスクを回避するために能動的に通気されてもよい。
【0034】
反応時間は、温度及び撹拌に依存するが、当該反応は、スラリーの色変化又はスラリーpHの安定化によって示される、完了まで継続することができる。この工程に続いて、該スラリーは、噴霧乾燥又はドラム乾燥等によって乾燥されなければならず、その後、CAMの最終製剤に応じて、空気及び/又はO2中で通常通り焼成されなければならない。
【0035】
好ましい実施態様において、該金属粉末は、最終的なCAMにおいて意図された比率で混合される。 非限定的な例として、LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2が調製される場合、金属粉末は、か焼の前に添加される1モル部のLiと共に、8モル部のNi、1モル部のMn、及び1モル部のCoを有する。当該元素金属原料の粒径は、該元素金属が同様の速度で反応するように調整することができる。非限定的な例として、粒径は、表面積の増加が反応速度の差を緩和するように、反応速度に反比例してもよい。反応速度は、Co > Mn > Niの関係に従うので、同じ関係に従う粒径差を利用することが有利であり得る。
【0036】
不純物としての、硫黄濃度は、より高い硫黄濃度が反応速度を増加させるので、ニッケルにとって特に重要である。硫黄は、電気的性能にとって望ましくなく、従って、硫黄は、典型的には回避されるべきであるか、又は検出可能な限界未満であることが、当業者に理解される。しかしながら、反応速度と電気的性能とのバランスをとるために、少量の不純物が許容され得る。ニッケル金属に対して、0.05wt%以下の硫黄不純物は、電気的性能を著しく低下させることなく、炭酸塩との反応速度を十分に増加させるのに有効であり得る。
【0037】
ニッケルの反応速度は、炭酸塩の導入前に硝酸を導入することによって高めることができる。
【0038】
特に好ましい実施態様において、Ni粉末は、最初に硝酸に溶解され、周囲温度まで冷却されて硝酸ニッケル溶液を形成する。モル量の多価カルボン酸、好ましくはシュウ酸、を水中に分散させ、撹拌しながら、硝酸ニッケル溶液を多価カルボン酸懸濁液にゆっくりと添加して、ニッケル、好ましくはシュウ酸塩、を沈殿させ、その完了は、緑色の上清溶液の不存在によって示される。次に、必要量のLi2CO3を、Mn金属粉末、Co金属粉末及びドーピング(doping)及びコーティング材料と共に、水中に分散させ、反応が完了するまで撹拌しながらNiスラリーにゆっくりと添加する。次いで、スラリーを噴霧乾燥し、通常通り焼成する。
【0039】
NiC2O4、MnC2O4、CoC2O4、ZnC2O4等の二価の金属シュウ酸塩は、非常に不溶性であるが、Li2C2O4等の一価の金属シュウ酸塩は、水中25℃で8g/100mLの溶解度で多少可溶性である。シュウ酸リチウムを溶液中に有し、混合金属シュウ酸塩沈殿物全体に均一に分散させる必要がある場合、水量をシュウ酸リチウムの溶解限度を超えて維持することが望ましい場合がある。
【0040】
多価カルボン酸は、少なくとも2つのカルボキシル基を含む。特に好ましい多価カルボン酸は、部分的には焼成中に除去されなければならない炭素の最小化に起因して、シュウ酸である。マロン酸、コハク酸、グルタル酸及びアジピン酸等の他の低分子量ジカルボン酸を使用することができる。より高い分子量のジカルボン酸は、特に、より高い溶解度を有する偶数の炭素と共に使用することができるが、追加の炭素を除去し、溶解度を低下させる必要性があるので、それらをあまり望ましくないものにする。クエン酸、乳酸、オキサロ酢酸、フマル酸、マレイン酸及び他のポリカルボン酸等の他の酸を利用することができるが、但し、それらは少なくとも少量の化学量論的過剰を達成し、十分なキレート化特性を有するのに十分な溶解度を有することを条件とする。水酸基を有する酸は、吸湿性が高いため、使用しないことが好ましい。
【0041】
乾燥粉末は、焼成システムに、バッチ式で、又はコンベヤーベルトの手段によって移すことができる。大規模生産では、この移送は、連続的であってもバッチ式であってもよい。焼成システムは、容器としてセラミックトレイ又はサガー(sagger)を利用する箱型炉、回転焼成機、並流又は向流であってもよい流動床、回転管炉、及びこれらに限定されない他の同様の機器であってもよい。
【0042】
焼成中の加熱速度及び冷却速度は、所望の最終生成物のタイプに依存する。一般に、毎分約5℃の加熱速度が好ましいが、通常の工業的加熱速度も適用可能である。
【0043】
焼成工程後に得られる最終粉末は、従来の処理において現在行われているような追加の破砕、粉砕、又は粉砕を必要としない、微細、超微細、又はナノサイズの粉末である。粒子は、比較的柔らかく、従来の処理のように焼結されない。
【0044】
最終的な焼成酸化物粉末は、好ましくは表面積、電子顕微鏡法による粒径、多孔度、元素の化学分析、及び好ましい特殊用途によって必要とされる性能試験を有することで特徴づけられる。
【0045】
噴霧乾燥された酸化物前駆体は、非常に微細でナノサイズであることが好ましい。
【0046】
噴霧粉末が、か焼器に移送されるときに出口弁が開閉するような噴霧乾燥器コレクターへの変更を実施することができる。バッチ式では、コレクター中の噴霧乾燥粉末が、トレイ又はサガー中に移され、そして、か焼器中に移動され得る。本発明を実証するために、回転焼成器又は流動床焼成器を使用することができる。焼成温度は、粉末の組成及び所望の最終相純度によって決定される。ほとんどの酸化物タイプの粉末では、焼成温度は400℃という低い温度から1000℃よりわずかに高い温度までの範囲である。焼成後、粉末は柔らかく、焼結されないので、ふるいにかけられる。焼成された酸化物は、狭い粒径分布を得るために長い粉砕時間も区分けも必要としない。
【0047】
LiM2O4スピネル酸化物は、1~5μmの好ましい結晶子サイズを有する。LiMO2岩塩酸化物は、約50~250nm、より好ましくは約150~200nmの好ましい結晶子サイズを有する。
【0048】
本発明の特別に優位な点は、酢酸塩とは対照的に、多価カルボン酸の金属キレートの形成である。酢酸塩は、酸化物前駆体のその後の焼成中に燃焼燃料として機能し、適切な燃焼のために追加の酸素が必要とされる。より低分子量の多価カルボン酸、特に低分子量のジカルボン酸、より特にシュウ酸は、追加の酸素を導入することなく、より低温で分解する。シュウ酸塩は、例えば、約300℃で、追加の酸素なしに分解し、それによって、焼成温度のより正確な制御を可能にする。このことは、焼成温度の低下を可能にし、それによって、高温で見られるような最小限の不純物相が生じる無秩序な
【化1】
スピネル結晶組織の生成を促進する。
【0049】
このプロセスは、現在利用可能な装置及び/又は本産業装置の革新を使用する大規模製造のために容易に拡張可能である。
【実施例
【0050】
代表的な電極調製:
複合電極は、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)溶媒に溶解した、導電性添加剤としての10wt%導電性カーボンブラック、結合剤としての5wt%ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を、活物質と混合することによって調製される。スラリーを、グラファイト被覆アルミニウム箔上にキャスト(cast)し、真空下で60℃にて一晩乾燥させる。1.54cm2の面積を有する電極ディスクは、4mg・cm-2の典型的な負荷(loading)を有する電極シートから切断される。
【0051】
代表的なコイン電池組立:
コイン電池は、アルゴンで満たされたグローブボックス内で組み立てられる。リチウム箔(340μM)は、半電池の対向電極及び参照電極として使用され、市販のLi4Ti5O12(LTO)複合電極は、フル電池(full-cells)の対向電極及び参照電極として使用される。 7:3(体積%)エチレンカーボネート(EC):ジエチレンカーボネート(DEC)にある1M LiPF6が電解物として使用される。電極は、半電池内のCelgard(登録商標)膜の厚さ25μmのシート1枚又は2枚と、Celgard膜フル電池のシート1枚とによって分離される。
【0052】
代表的循環プロトコル:
スピネルカソード電池(尖晶石陰極電池)は、Arbin Instrumentバッテリーテスター(モデル番号BT 2000)を用いて、25℃で種々のC率(146 mAg-1に相当する1C率)にて、
3.5V~4.9Vの電圧範囲で定電流循環される。4. 9Vで10分間の定電圧充電ステップが、1C以上の率の定電流充電ステップの最後に電池に適用される。岩塩NMC電池は、25℃で種々のC率(200 mAg-1に相当する1C率)にて、2.7V~4.35 Vの電圧範囲で定電流循環される。4.35 Vで10分間の定電圧充電ステップが、1C以上の率の定電流充電ステップの最後に電池に適用される。
【0053】
NMC811の代表例:
16.163gのLi2CO3及び84.110gのシュウ酸二水和物を、ビーカー中の250mlの脱イオン水にゆっくりと加え、混合物を撹拌しながら70℃に加熱した。19.564gのNi粉末、2.291gのMn粉末及び2.458gのCo粉末を物理的に混合した。透明な溶液が、温度よって達成されると、金属粉末混合物をビーカーに添加し、金属が反応することにつれて撹拌を続けた。
【0054】
全ての金属が、反応を終えたら、得られたスラリーをブーチベンチトップ噴霧乾燥機(Buchi benchtop spray dryer)を用いて乾燥させて、完全な前駆体粉末を製造した。前駆体を、アルミナサガー(alumina saggars)中に置き、以下の方法で酸素流中にて焼成した。周囲温度から120℃まで20分間加熱し、その温度で1時間保持する。142分で860℃に加熱し、15時間保持する。60分で550℃に冷却し、3時間で120℃に冷却する。試料を取り出し、粉砕し、325メッシュのふるいに通した後、金属化ポリマーバッグに真空包装する前に、100℃未満まで受動的に冷却する。
【0055】
X線回折(XRD)パターンは、図1に示されるように、遷移金属原料として炭酸塩を使用して作製されたNMC 811のものと一致した。図1では、遷移金属粉末を用いて直接作製されたNMC 811のXRDパターンが走査Aとして示され、炭酸塩を用いて作製されたNMC 811のXRDパターンが走査Bとして示されている。いずれの場合も、炭酸リチウムがリチウム源であった。試料の2032コインからの半電池データを図2に図示する。
【0056】
硝酸塩前駆体を用いた形成
Ni粉末を、最初に9M硝酸に溶解し、周囲温度まで冷却する。必要なシュウ酸を、水中に分散させ、撹拌しながら、硝酸ニッケル溶液をシュウ酸懸濁液にゆっくりと添加し、シュウ酸ニッケル沈殿を、緑色の上清溶液がなくなるまで進行させる。次いで、水中に分散させた、Mn、Co、金属粉末のドーピング及びコーティング材料を有する必要量のLi2CO3を、撹拌しながらシュウ酸Niスラリーにゆっくりと添加し、反応が完了するまで酸と反応させる。
【0057】
図3は、対照(青色)としての炭酸塩法及び硝酸ニッケル(赤色)の初期形成を含む本発明の方法から製造されたシュウ酸塩のX線回折図を示す。ピーク位置は、固体シュウ酸塩粉末中のLi2HC2O4及びLi2C2O4の相対的な割合に影響を及ぼす反応混合物のより低いpHによって説明され得るいくつかの例外を伴って並んでいる(align)。
【0058】
シュウ酸塩固体の焼成後、図4に示されるX線回折図に見られるように、NMC811が生成される。HNO3 -金属法(赤)及び標準炭酸塩法(青)によって生成されたNMC811によって生成されたピークのパターンは、互いに、材料が単一相を有し、NMC811であることを示す対照パターンと、位置及び強度において非常に密接に一致する。Ni:Mn:Coの目標とする8:1:1の比は、金属含有量が存在する遷移金属の総量に対して正規化されたものとして表される、表1に示される原子吸収データによってさらに裏付けられる。
【表1】
【0059】
両方の方法からのNMC811を、C/10で5サイクルのコンディショニングによって半電池コイン電池で試験し、次いで、1Cで100サイクルのサイクルにかけるか、又は一連のより高い充電速度にかけた。図5及び6は、C/10における最初の5サイクル、続く直後の1C(左)における100サイクル、ならびに最初のサイクルに対して正規化された1Cサイクルを示す。より低い充電率での最初の5サイクルは、該材料から得ることができるその最大放電容量を示す。ここで、1Cでの100サイクル後の軌道及び最終容量は、反復した積極的サイクル時の容量保持を示す。このデータは、炭酸塩法及び硝酸金属法によって製造されたNMC811の放電容量が互いに誤差の範囲内にあり、1Cでの100サイクル後の容量保持が、硝酸金属法について、標準的な炭酸塩法よりもわずかに低いことを実証する。図5及び6は、標準的な炭酸塩法及びHNO3 -金属法から製造されたNMC811を用いて作製された電池についての1Cサイクル試験レジメである。図5は、C/10での5コンディショニングサイクル及び1Cでの100サイクルを含む、完全な検査プロファイルを示す。図6は、最初の1Cサイクルの容量に対して正規化された1Cサイクル軌道(trajectory)を示す。XRDパターンは、図7に提供され、走査Aは、硝酸ニッケルプロセスで作製されたNMC 811のためのものであり、走査Bは、炭酸塩消化プロセスを使用した。図8に、2032半電池におけるカソードとしての性能をグラフで示す。
【0060】
データは、2つの方法による類似のCAMの形成を確認する。
【0061】
硝酸製剤
9.16M硝酸溶液は、145mLの濃(15.8M)硝酸を250mLのメスフラスコに入れ、250mLのマークまで希釈することにより調製する。この溶液を放冷し、再び該マークまで上げる。
【0062】
Ni消化
19.564g(0.3333mol)のBHP Ni金属粉末を、1インチの撹拌棒を有する500mLの三角フラスコに入れ、撹拌プレート上に置き、200rpmに設定する。ゆっくりと、ピペットによって、硝酸を過度に速く添加し、その後に褐色煙(NO2を示す)を発生させないように注意して、硝酸をエルレンマイヤーフラスコに添加する。添加速度が、正しければ、最初の20mLを添加した後、フューム(蒸気:fume)は透明である。Niは、30分以内に完全に溶解され、次いで、一晩撹拌されて冷却される。Ni溶液は、明るい光がそれを通して照射されるとき、透明な濃い暗緑色の溶液である。
【0063】
Ni添加
84.11gのシュウ酸二水和物(0.6672mol)と125mLの脱イオン水を、3インチの攪拌棒を備えた1Lビーカーに入れ、400rpmで攪拌する。蠕動ポンプと1/8インチの内径のシリコーンチューブを用いて、Ni溶液を、シュウ酸に40分間かけて添加する(Huiyuポンプ設定=10)。Niは、濃縮シュウ酸に添加すると、シュウ酸ニッケルとして沈殿する。反応混合物は、不透明なターコイズスラリー(turquoise slurry)である。
【0064】
Li2CO3、 Mn、Coの添加
Li2CO3 16.163g(0.4376mol)、Mn金属粉末2.291g(0.0417mol)、Co金属粉末2.458g(0.0417mol)、脱イオン水30mLを、150mLの攪拌棒付きビーカーに加え、1000rpmで攪拌してスラリーとした。蠕動ポンプと内径1/8インチのシリコーンチューブを用いて、スラリーを、反応混合物に15分かけて添加する(Huiyuポンプ設定=10)。スラリーが、ポンプ輸送を終えた後に、撹拌棒に付着した残りのCo金属は、反応混合物中に洗い流される。Li2CO3は、直ちに反応し、Co金属は、数分以内に反応し、Mn金属は、撹拌の1時間後に完全に反応し、撹拌を中断し、金属が沈降するかどうかをチェックすることによって検証することができる。その結果、青色のスラリーが得られ、これは、スラリー添加前よりもわずかに明るい色合いのターコイズ(turquoise:トルコ石様)である。次いで、反応混合物を一晩撹拌する。
【0065】
前駆体合成の終了
反応混合物を噴霧乾燥して、79.12gの微細な淡いターコイズ(light turquoise)粉末を得る。
【0066】
NMC811合成焼成
シュウ酸塩前駆体18gを、2つのアルミナサガーに入れ、次の温度プロファイルに従って、0.76L酸素/分の下において、管状炉内で焼成する: 20分間にわたって室温から120℃まで上昇させ、1時間保持し、142分間にわたって143℃から830℃まで上昇させ、15時間保持し、1時間にわたって550℃まで下降させ、次いで3時間にわたって120℃まで下降させ続ける。次いで、チューブ炉を100℃未満まで受動的に冷却し、その時点で、得られたNMC811を除去し、メノウ乳鉢及び乳棒中で粉砕し、325メッシュを通してふるい分けし、最後にアルミニウム真空バッグ中で密封し、デシケーター中に保存する。
【0067】
本発明は好ましい実施態様を参照して説明されたが、それらに限定されない。当業者は、本明細書に具体的に記載されていないが、本明細書に添付の特許請求の範囲により具体的に記載されている本発明の範囲内にある追加の実施態様及び改良を理解するのであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8