(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】人工水晶体の支持構造物
(51)【国際特許分類】
A61F 2/16 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
A61F2/16
(21)【出願番号】P 2023541016
(86)(22)【出願日】2021-01-13
(86)【国際出願番号】 KR2021000445
(87)【国際公開番号】W WO2022154136
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】523253947
【氏名又は名称】キム,テ ユネ
(73)【特許権者】
【識別番号】523253958
【氏名又は名称】キム,ソ ウン
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,テ ユネ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソ ウン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ウン チュ
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/147463(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/208746(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/086312(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0331521(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0171458(US,A1)
【文献】米国特許第6013101(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶体に代わって眼球に移植される人工水晶体を眼球内に支持してくれる支持構造物であって、
人工水晶体のレンズと同心の弧状に延びて内側に開放部が形成され、人工水晶体のレンズの枠と隣接するか、またはレンズの一側の表面の枠を支持するように配置されるフレーム;
人工水晶体が支持構造物から離脱しないように人工水晶体を支持し、互いにフレームの円周方向に離隔して配置される複数の支持部;および
フレームからフレームの径方向の外側に延びて先端が眼球の鞏膜に形成されるトンネルに挿入されて固定される複数の固定部
を含み、
人工水晶体は、レンズと、レンズからレンズの径方向の外側に延びて水晶体嚢と接触するように構成される複数のハプティックを含み、人工水晶体は、それぞれのハプティックが支持部の間に突出するようにフレームに配置されるものである、支持構造物。
【請求項2】
それぞれの支持部は、フレームから延びて人工水晶体のレンズにおいてフレームの一面と対向する前記一側表面と当接する第1部分、および第1部分の先端から延びて前記レンズの一側表面の反対側の表面と当接する第2部分からなり、支持部の第1部分と第2部分に人工水晶体のレンズの両表面の枠が当接することにより、人工水晶体が支持される、請求項1に記載の支持構造物。
【請求項3】
それぞれの支持部は、フレームから延びて人工水晶体のレンズにおいてフレームの一面と対向する前記一側表面と当接する第1部分、およびフレームから延びて前記レンズの一側表面の反対側の表面と当接する第2部分からなり、支持部の第1部分と第2部分に人工水晶体のレンズの両表面の枠が当接することにより、人工水晶体が支持される、請求項1に記載の支持構造物。
【請求項4】
フレームの一面に人工水晶体の一側表面の周りが当接し、それぞれの支持部はフレームから延びて人工水晶体の前記一側表面の反対側の表面と当接するように構成され、前記レンズの両表面の枠がフレームの一面と支持部に当接することにより、人工水晶体が支持される、請求項1に記載の支持構造物。
【請求項5】
水晶体に代わって眼球に移植される人工水晶体を眼球内に支持してくれる支持構造物であって、
人工水晶体のレンズと同心の弧状に延びて内側に開放部が形成され、人工水晶体のレンズの枠と隣接するか、またはレンズの一側表面の枠を支持するように配置されるフレーム;
人工水晶体が支持構造物から離脱しないように人工水晶体を支持し、互いにフレームの円周方向に離隔して配置される複数の支持部;および
フレームからフレームの径方向の外側に延びて先端が眼球の鞏膜に形成されるトンネルに挿入されて固定される複数の固定部
を含み、
人工水晶体は、レンズと、レンズからレンズの径方向の外側に延びて水晶体嚢と接触するように構成された複数のハプティックを含み、
それぞれの支持部は、フレームに固定される環状に形成され、
人工水晶体のハプティックがそれぞれの環に挿入されて人工水晶体が支持されるものである、支持構造物。
【請求項6】
全体として合成樹脂を射出して形成されるが、固定部はフレームより高い剛性を有するものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の支持構造物。
【請求項7】
固定部の先端側は鞏膜と同じ曲率を有し、フレームと同心の曲線で形成されるものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の支持構造物。
【請求項8】
固定部の先端には順に糸および針が結合される、請求項1~5のいずれか一項に記載の支持構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工水晶体の支持構造物に関し、具体的には、水晶体嚢に人工水晶体を挿入して安着させることなく、人工水晶体を眼球内に支持してくれる支持構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
白内障のように水晶体に異常がある眼科的疾患の治療方法として、水晶体嚢(capsular sac)の内部にある水晶体の内容物を除去し、その空間に人工で製造した人工水晶体(Artificial Eye LensまたはIntraocular Lens)を挿入する手術が主に施行されている。
【0003】
人工水晶体としては、人の水晶体に代わるレンズ、およびレンズを水晶体嚢内に支持してくれるハプティックからなるものが主に用いられている。このような人工水晶体として主に使用されるタイプのものが
図1に示されている。
【0004】
ハプティック120は、レンズ110の枠から細長く延びて先端側の水晶体嚢の内側の枠に接してレンズを支持するように構成されており、互いに対向する方向に2個または4個が形成されたものが主に用いられている。
図1には、2つのハプティックが線対称に形成されたものが示されている。
【0005】
人工水晶体を挿入する手術を施行する際には、水晶体嚢の前部の一部を円形に切開し、水晶体嚢と水晶体の内容物を分離した後に水晶体の内容物を切断および吸引して除去した後、人工水晶体を挿入するが、このような過程で損傷したり、または先天的な要因または他の疾患によって、水晶体嚢が人工水晶体を受け入れて支持できない状態になることがしばしば起こる。
【0006】
このような場合には、人工水晶体のレンズの枠やハプティックに糸を連結し、糸を鞏膜の外部に引き出して鞏膜に固定することにより、人工水晶体を眼球に固定する方法が用いられている。
【0007】
このような手術方法によれば、人工水晶体が糸によって眼球内に支持されるため、人工水晶体が元の位置に配置されないか、ねじれて配置され、人工水晶体が本来の機能を発揮できず、十分な視力が確保されない場合がしばしば発生する。
【0008】
特に、人工水晶体を固定する糸が鞏膜に縫合して固定され、糸を通って外部から眼球内に細菌が浸透して疾患を起こす場合も生じる。
【0009】
このような問題を解決する方案として、大韓民国特許公報第10-1555298号(文献1)では、「人工水晶体嚢」という名称の発明を提案している。
【0010】
文献1の発明は、水晶体嚢に代わるものとして円形の薄膜を形成し、この薄膜を固定糸で眼球内の繊体に結び結び目つけて固定する構造を提案している。
【0011】
しかし、このような構造では、人工水晶体を薄膜内に配置する作業が非常に困難で時間がかかり、結局は糸によって薄膜を眼球に固定することになるため、薄膜が眼球内の水晶体の位置に配置されず、ねじれたり位置を離脱したりするなどの問題はそのまま発生し、特に糸を繊毛体に締め付けて固定することは非常に難しい作業であり、相当な時間を要することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述の従来技術の問題を解決しようとするものであり、人工水晶体を眼球内に支持してくれる支持構造物を提供することを目的とする。
【0013】
具体的には、本発明は、人工水晶体を水晶体嚢に挿入して支えることなく、眼球に固定して支持してくれる支持構造物を提供しようとするものであり、人工水晶体のねじれや人工水晶体のレンズが元の位置から外れることがないように、人工水晶体を眼球内に支持してくれる支持構造物を提供しようとする。
【0014】
特に、本発明は、人工水晶体を眼球に固定する際に、手術が簡単に行われることができ、手術後の感染の恐れがなく、人工水晶体の挿入手術が容易に行われるようにする支持構造物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述の本発明が解決しようとする課題は、水晶体に代えて眼球に移植される人工水晶体を眼球内に支持するものである、本発明の一つの観点による支持構造物によって達成される。
【0016】
本発明の一つの観点による支持構造物は、
人工水晶体のレンズと同心の弧状に延びて内側に開放部が形成され、人工水晶体のレンズの枠と隣接するか、またはレンズの一側の表面の枠を支持するように配置されるフレーム;
人工水晶体が支持構造物から離脱しないように人工水晶体を支持し、互いにフレームの円周方向に離隔して配置される複数の支持部;および
フレームからフレームの径方向の外側に延びて先端が眼球の鞏膜に形成するトンネルに挿入されて固定される複数の固定部
を含み、
人工水晶体は、レンズと、レンズからレンズの径方向外側に延びて水晶体嚢と接触するように構成される複数のハプティックを含み、人工水晶体は、それぞれのハプティックが支持部の間に突出するようにフレームに配置される。
【0017】
このような構成の支持構造物は、角膜を切開し、角膜の切開部位を通じて眼球内に挿入される。挿入時に支持構造物のフレームは折り畳まれて挿入されてもよい。挿入された支持構造物は、虹彩の後部においてフレームが瞳孔と同心に配置されている。
【0018】
鞏膜に支持構造物の固定部の先端が挿入されて固定されるトンネルを形成し、鞏膜を介してそれぞれの固定部の先端を鞏膜のトンネルに挿入して縫合する。これにより、本発明の支持構造物は眼球内に固定される。
【0019】
角膜の切開部位を介して人工水晶体を挿入し、人工水晶体のレンズが支持部に支持されるようにして支持構造物に固定する。人工水晶体のハプティックは支持部の間に突出して配置される。このようにして、人工水晶体は、本発明の支持構造物に支持され、眼球内に移植される。
【0020】
本発明の支持構造物の構成によれば、人工水晶体は、水晶体嚢に支持されることなく眼球に移植されて固定される。
【0021】
また、本発明の支持構造物は、これを眼球に固定する別途の手段がなくても眼球に固定され、特に支持構造物の固定部が鞏膜に形成するトンネルに挿入されて固定されるので、移植手術で縫合用糸を鞏膜に貫通させて支持構造物を固定する作業が不要になるため、手術が簡単で、手術後の感染の恐れが少ない。
【0022】
また、人工水晶体を水晶体嚢に挿入しようとする手術中に水晶体嚢が損傷する場合でも、本発明の支持構造物を眼球に挿入して、既に挿入された人工水晶体を眼球に支持する施術が可能となる。
【0023】
本発明の支持構造物は、4つの実施形態を有することができる。
【0024】
第1実施形態として、本発明の支持構造物は、
それぞれの支持部は、フレームから延びて人工水晶体のレンズにおいてフレームの一面と対向する前記一側表面と当接する第1部分、および第1部分の先端から延びて前記レンズの一側表面の反対側表面と当接する第2部分からなり、支持部の第1部分と第2部分に人工水晶体のレンズの両表面の枠が当接することにより、人工水晶体が支持されるように構成することができる。
【0025】
第2実施形態として、本発明の支持構造物は、
それぞれの支持部は、フレームから延びて人工水晶体のレンズにおいてフレームの一面と対向する前記一側表面と当接する第1部分、およびフレームから延びて前記レンズの一側表面の反対側の表面と当接する第2部分からなり、支持部の第1部分と第2部分に人工水晶体のレンズの両表面の枠が当接することにより、人工水晶体が支持されることように構成することができる。
【0026】
第3実施形態として、本発明の支持構造物は、
フレームの一面に人工水晶体の前記一側表面の周りが当接し、それぞれの支持部は、フレームから延びて人工水晶体の前記一側表面の反対側の表面と当接するように構成され、前記レンズの両表面の枠がフレームの一面と支持部に当接することにより、人工水晶体が支持されるように構成することができる。
【0027】
このような本発明の支持構造物の実施形態によれば、人工水晶体のレンズは、本発明の支持構造物においてフレームと支持部によって、または支持部のみによって枠が固定されて支持されるが、支持部はフレームとは別の構成にならず、単にフレームから突出して延びる一体の部分にすることができるため、フレームと支持部を簡単な射出成形により一体に形成することができる。
【0028】
また、人工水晶体を支持構造物に支持して固定する過程は、眼球内で行われるが、本発明の前述の実施形態において、支持部は、フレームから円周方向に互いに離隔し、突出して延びるものであるため、人工水晶体のレンズの枠がフレームと支持部との間、または支持部に挿入されるようにする、簡単な作業を通じて人工水晶体が支持構造物に支持されるようにすることができる。
【0029】
従来からこれまで行われている人工水晶体の固定手術、すなわちハプティックが付着した人工水晶体を水晶体嚢に挿入して、ハプティックが広がりながら水晶体嚢に支持されるようにする手術や、水晶体嚢に代わる薄膜を糸により眼球に固定し、薄膜に人工水晶体を挿入して固定する手術は、非常に面倒で時間がかかる。
【0030】
しかし、本発明の支持構造物の構成によれば、単に眼球内に支持構造物を挿入した後、鞏膜に形成するトンネルに固定部を挿入する簡単な作業で支持構造物を眼球に固定し、眼球内に挿入される支持構造物の支持部に人工水晶体のレンズの枠を挟み込む簡単な作業で、人工水晶体が支持構造物に支持されて固定される。
【0031】
したがって、本発明では、支持構造物を挿入して眼球に固定する作業および固定された支持構造物に人工水晶体を支持する作業が、非常に簡単かつ迅速な時間で行われることができる。また、本発明では、ほぼ全ての種類の人工水晶体を支持することができ、既存に挿入されて脱球されていた人工水晶体を除去することなく、本発明の支持構造物を眼球に移植して挿入されている人工水晶体が支持されるようにすることができる。
【0032】
本発明の他の観点による支持構造物は、
人工水晶体のレンズと同心の弧状に延びて内側に開放部が形成され、人工水晶体のレンズの枠と隣接するか、またはレンズの一側表面の枠を支持するように配置されるフレーム;
人工水晶体が支持構造物から離脱しないように人工水晶体を支持し、互いにフレームの円周方向に離隔して配置される複数の支持部;および
フレームからフレームの径方向の外側に延びて先端が眼球の鞏膜に形成されるトンネルに挿入されて固定される複数の固定部
を含み、
人工水晶体は、レンズと、レンズからレンズ径方向の外側に延びて水晶体嚢と接触するように構成される複数のハプティックを含み、それぞれの支持部はフレームに固定される環状に形成され、人工水晶体のハプティックがそれぞれの環に挿入され、人工水晶体が支持されるものである。
【0033】
このような構成では、人工水晶体をなすハプティックが支持構造物の環に挿入されて固定されるため、人工水晶体の支持をよりしっかりと行うことができ、離脱が確実に防止される。
【0034】
一方、本発明の支持構造物は、全体として合成樹脂を射出して形成されることができるが、固定部はフレームに比べて高い剛性を有するように形成されることが好ましい。
【0035】
フレームが固定部に比べて低い剛性を有するように形成すると、角膜を切開し、本発明の支持構造物を角膜の切開部位を通じて挿入する作業にてフレームを折り畳んで挿入することができるため、挿入作業が容易に行われるが、固定部はフレームに比べて高い剛性を有するため、フレームと支持部を鞏膜に支持する状態の安定性が高くなる。
【0036】
本発明のさらなる特徴として、本発明の支持構造物において、
固定部の先端側は鞏膜と同じ曲率を有し、フレームと同心の曲線で形成されるように構成することができる。
【0037】
このような構成によれば、鞏膜に形成されるトンネルに挿入される固定部の先端が鞏膜の形態に整合するため、鞏膜のトンネルへの挿入が容易であり、挿入後も良好に安着することができる。
【0038】
但し、本発明の支持構造物において固定部が弾性を有する材料で形成されるため、鞏膜とは異なる曲率または直線で形成されたり、フレームと同心を成さなくても鞏膜のトンネルに挿入して安着することができる。
【0039】
本発明のさらなる特徴として、本発明の支持構造物において固定部の先端には、順番に糸および針が係合するように構成することができる。
【0040】
本発明による支持構造物を眼球に移植する手術では、固定部を鞏膜に形成した孔を通じて鞏膜を通過させ、鞏膜の外側から形成したトンネルに先端を挿入しなければならない。
【0041】
本発明のさらなる特徴によれば、固定部の先端に糸と針が結合されており、本発明の支持構造物を眼球に挿入する際に、まず固定部の先端に結合された糸と針を眼球に挿入した後、鞏膜に形成された孔を通して針を鞏膜の外側表面に突出させ、続いて支持構造物の残りの要素を眼球に挿入した後、鞏膜の外側表面から突出している針を引くと、糸が引っ張られ、糸に結合された固定部が鞏膜の孔を通って鞏膜の外側表面に固定部の先端が突出する。このようにして突出した固定部の先端を鞏膜に形成されたトンネルに挿入する際に針を用いることができる。糸と針を、使用した後に固定部の先端から取り外す。
【0042】
したがって、本発明のさらなる特徴によれば、本発明による支持構造物を鞏膜に固定する手術を非常に容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図2】本発明の第1実施例による支持構造物に人工水晶体が支持されている状態を示す平面図である。
【
図4】本発明の第1実施例による人工水晶体の支持構造物が眼球に挿入されて固定された状態を示す眼球の横断面図である。
【
図5】
図2のA-A線に沿った縦断面図であって、本発明の第1実施例による支持構造物の第1変形例の図である。
【
図6】
図2のA-A線に沿った縦断面図であって、本発明の第1実施例による支持構造物の第2変形例の図である。
【
図7】本発明の第2実施例による人工水晶体の支持構造物に人工水晶体が支持されている状態を示す平面図である。
【
図9】
図6の矢印Cから見た支持構造物の図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明を実施するための具体的な内容として、本発明の実施例による支持構造物の構成と作用について図面を参照して具体的に説明する。
【0045】
まず、
図2および
図3を参照して、第1実施例の支持構造物1の構成について説明する。
【0046】
第1実施例の支持構造物1は、人工水晶体100のレンズ110と同心の弧状に延びて内側に瞳孔の最大径より大きい直径を有する開放部11が形成され、人工水晶体の一側表面と対向するように配置されるフレーム10、人工水晶体が支持構造物1から離脱しないように人工水晶体を支持し、互いにフレーム10の円周方向に離隔して配置される4つの支持部20、フレーム10からフレーム10の径方向の外側に延びて先端が眼球の鞏膜に形成されるトンネルに挿入されて固定される複数の固定部30、固定部30の先端に一端が固定され、固定部30の先端から延びる糸40、糸40の先端に結合される針50から構成されている。
【0047】
第1実施例において、フレーム10、支持部20および固定部30は、一体で射出成形されたものであり、その材料としては、PMMA(polymethyl methacrylate)、ポリプロピレン(Polypropylene)、ポリイミド(Polyimide)、シリコーン(Silicone)、アクリル樹脂(Acrylic)などが用いられてもよい。
【0048】
フレーム10と支持部20および固定部30は、同一材料の樹脂からなってもよいが、第1実施例の支持構造物1において、フレーム10および支持部20は固定部30をなす素材よりも軟質の他の素材からなってもよく、フレーム10のみが支持部20や固定部30に比較して軟質の他の素材で構成されてもよい。
【0049】
この場合、互いに異種の素材を用いて一体で射出成形することもでき、固定部30をフレーム10と支持部20とは別個に射出成形した後に、互いに接合することもできる。
【0050】
このようにすることで、フレーム10は、他の部分に比べて低い剛性を有することになり、第1実施例の支持構造物を眼球内に挿入する際にフレーム10を折り畳んだり曲げたりして挿入しやすくなる。
【0051】
また、フレーム10と支持部20に比べて固定部30の厚さや幅を広くして全体的な断面積を増大させることにより、固定部30よりもフレームと支持部の剛性を低くすることもできる。
【0052】
フレーム10は、全体的に薄くて平坦な断面を有し、平面上で円形に延びた形態をなしている。フレーム10の内側は円形の開放部11をなしており、開放部11に人工水晶体100のレンズ110が配置される。
【0053】
フレーム10から2つの固定部30が延びている。
【0054】
それぞれの固定部30は、フレーム10と同一平面に配置されるが、フレーム10から接線方向に直線に延び、次いでフレーム10と同じ方向に曲線状に屈曲した形態で形成されている。
【0055】
固定部30でフレーム10に接する第1部分31は直線状に延び、眼球に挿入されたときに眼球内で鞏膜に向かって延びて配置される部分をなす。
【0056】
固定部30においてフレーム10と離隔して曲線に延びる第2部分32は、全体としてフレーム10と同心の弧状に形成され、その曲率半径は鞏膜の曲率半径と等しく形成される。支持構造物を眼球に移植したときに、第2部分32の先端側は鞏膜に挿入される。
【0057】
一方、第1実施例および後述する第2実施例の支持構造物において、固定部の第2部分はいずれも、鞏膜の曲率半径と同じ曲率で形成され、鞏膜に形成するトンネルに挿入しやすいようになっているが、第2部分32の曲率半径を鞏膜の曲率半径より小さく形成して、第2部分32が鞏膜のトンネルから鞏膜内側への復元力を有して密着するようにすることができる。
【0058】
2つの固定部30は、フレーム10に対して互いに対向して180度の間隔を置いて配置され、フレーム10の中心点に対して線対称に配置されている。
【0059】
支持部20は、4つ形成されており、互いに等間隔で90度の間隔をおいてフレーム10上に配置されている。
【0060】
図3の断面図を参照して説明すると、それぞれの支持部20は、フレーム10がなす平面からフレーム10の外側に傾斜して延びる第1部分21および第1部分21からフレームの内側に傾斜して延びる第2部分22からなっている。
【0061】
このような支持部の構造に応じて、人工水晶体のレンズ110の一側表面111の枠は支持部の第1部分21に支持され、反対側の表面112の枠は支持部の第2部分22によって支持されている。
【0062】
このように、それぞれの支持部20が人工水晶体のレンズ110の枠を計4箇所で両側表面を拘束して支持するため、人工水晶体100は、支持部20によってフレーム10に結合された状態を維持することになる。
【0063】
第1実施例の支持構造物1において支持部は、計4つが設けられるが、3つのみ設けられてもよく、幅が広く形成される場合であれば、2つの支持部が互いに対称に配置されて設けられてもよい。
【0064】
固定部30の第2部分32の先端には孔34が形成されており、この孔34には糸40の一側端部が結合されており、糸40の先端には針50が結合されている。糸40と針50は、固定部30の第2部分32が鞏膜に挿入されるように案内するものである。
【0065】
人工水晶体100が第1実施例の支持構造物1に支持される作用について説明する。
【0066】
人工水晶体100は、
図1に示されたものと同じであり、レンズ110とレンズの枠から延びる2つのハプティック120とを備える。
【0067】
レンズ110は、フレーム10に同心に置かれ、フレーム10と4つの支持部20によって支持構造物1に固定された状態になる。
【0068】
レンズの両側表面111、112の枠が支持部20の第1部分21および第2部分22に当接するようになる。支持部20が4つの位置でレンズ110を拘束するため、レンズ110は支持構造物1からどの方向にも離脱しないようになる。
【0069】
一方、人工水晶体のハプティック120は、支持部20の間に突出してフレーム10から外れて突出した状態に置かれる。
【0070】
人工水晶体100のハプティック120は、人の眼球の水晶体嚢に支持されるように設けられるものであるため、第1実施例の支持構造物1によって人工水晶体100を人の眼球に支持する場合、ハプティック120はいかなる機能もしないが、このような人工水晶体のハプティック120が、人工水晶体が第1実施例の支持構造物1の使用を妨げないようになる。
【0071】
図4は、実施例1の支持構造物1が眼球に移植され、ここに人工水晶体100が支持されている状態を示す。
【0072】
図4を参照して、人工水晶体を第1実施例の支持構造物1によって支持して眼球に移植した状態およびそのような状態を形成するための手術方法を説明する。
【0073】
人工水晶体100を眼球に移植するためには、まず角膜201を切開し、切開部位に器具を挿入して損傷した水晶体と水晶体嚢を吸引して除去する。
【0074】
続いて、角膜201の切開部を介して本発明の第1実施例による支持構造物1を挿入する。
【0075】
支持構造物1は、角膜201の切開部を介して挿入する際にフレーム10を折り畳んだり曲げたりして挿入し、虹彩202の後方に配置された後には、広げてフレーム10が瞳孔204と同心となるように配置する。
【0076】
第1実施例の支持構造物は、弾性が高い材料からなり、特にフレーム10は固定部30に比べて軟質または低い剛性を有するため、折り畳んで角膜201の切開部に挿入しやすく、固定部30は比較的硬質または高い剛性を有するため、支持構造物1を眼球に支持するのに有利である。
【0077】
鞏膜203には、固定部30の第2部分32が貫通して外部に出ることができる2つの孔(図示せず)を形成して置く。これらの孔を通して針50を外部に取り出す。
【0078】
支持構造物1において、フレーム10と支持部20は、虹彩202の後方に配置し、鞏膜203の外部に露出した針50を引っ張ると針に結合された糸40が引っ張られて、固定部の第2部分32の先端が鞏膜の外部に露出する。
【0079】
鞏膜203には、固定部の第2部分32の先端が挿入されるトンネル(図示せず)が予め形成されており、このトンネルに固定部30の先端を挿入する。
【0080】
必要に応じては、トンネルと固定部が貫通する鞏膜203の孔との間の鞏膜の外表面を切開して固定部の第2部分32が置かれる溝を形成し、固定部の先端32をトンネルに挿入した後、溝を縫合することができる。
【0081】
固定部30の先端が鞏膜203の外部に露出した後には、糸40と針50は固定部30から除去する。
【0082】
このような構成と作用により、第1実施例の支持構造物1と人工水晶体を眼球に挿入する手術において、非常に細くて弾性のある固定部30が鞏膜203を貫通して配置され、先端がトンネルに簡単に挿入されることができる。
【0083】
角膜201の切開部を介して人工水晶体100を挿入した後、レンズ110の枠が支持部20に嵌合され、人工水晶体100が第1実施例の支持構造物1)に固定される。
【0084】
このようにして、
図4に示すように、支持構造物1のフレーム10と支持部20は虹彩102の後方に配置され、固定部30はフレーム10から延びて、第2部分32が鞏膜203を貫通して先端がトンネルに挿入されて固定され、人工水晶体のレンズ110は支持構造物のフレーム10と同心で支持構造物1に支持されて眼球内に移植される。
【0085】
なお、以上の説明では、支持構造物1を眼球に固定した後に人工水晶体100を挿入して支持構造物1に支持されるものとして説明したが、実際の手術では他の状況が発生することがある。
【0086】
例えば、眼球から水晶体を吸引して除去し、水晶体嚢に人工水晶体を挿入して人工水晶体のハプティックが水晶体嚢に支持されるようにする手術中に、水晶体嚢が損傷し、水晶体嚢に既に挿入されて眼球内に存在する人工水晶体を支持できない状況が発生する可能性がある。また、眼球に移植されていた人工水晶体が、外傷や疾患などによって元の位置に維持されず、硝子体腔(
図4の106)内へと離脱する場合もある。
【0087】
このような場合には、第1実施例の支持構造物1を角膜201の切開部を介して挿入して先に説明したような過程を進める。
【0088】
一方、支持構造物1の支持部20が、後方、すなわち角膜201とは反対側を向くように配置することができる。すなわち、
図3に示す状態では、支持部20が前方、すなわち角膜201側に向かって配置され、フレーム10が後方側に配置されているが、これとは逆にフレーム10を前方に配置して支持部20が後方である網膜205側に向くように配置する。
【0089】
これにより、硝子体腔206から離脱している人工水晶体100を、虹彩203の後方に配置された支持構造物1の支持部20に容易に嵌め込むことができるようになる。
【0090】
ただし、第1実施例の支持構造物1を
図3に示す状態で配置しても、フレーム10の開放部11を介して硝子体腔206から離脱している人工水晶体100を支持構造物の支持部20側に移して固定することは可能である。
【0091】
図5および
図6を参照して、第1実施例の変形例について説明する。
【0092】
図5および
図6に示す変形例は、支持部20-1、20-2の構造を除いた他の構成は、第1実施例の支持構造物と同様である。
【0093】
図5に示す第1変形例の支持構造物において、支持部20-1は、フレーム10の表面から垂直に延びる第1部分23、第1部分からフレーム10の内側に延びる第2部分24からなっている。
【0094】
このような構造により、人工水晶体のレンズ110の一側表面111の枠はフレーム10の表面に支持され、他側の表面112の枠は支持部20’の第2部分24によって支持されている。
【0095】
図6に示す第2変形例の支持構造物において、支持部20-2は、フレーム10の開放部11側の端部、すなわち内側の周りから第1部分25と第2部分26が互いに反対側に傾斜して延びている。
【0096】
第1部分25と第2部分26には、それぞれ人工水晶体のレンズ110の枠の両表面が当接してレンズ110が支持部20-2に拘束されて支持される。
【0097】
このような変形例の構成においても、
図2~
図3に示す第1実施例と同様に、人工水晶体のレンズ110が支持部20-1、20-2とフレーム10によって支持構造物に拘束されて支持され、支持部20-1、20-2の配置と本数もまた第1実施例と同様に構成されてもよい。
【0098】
次に、
図7~
図9を参照して、第2実施例の支持構造物2について説明する。
【0099】
第2実施例の支持構造物2も、フレーム10、支持部20-3および固定部30を備えて構成される点では第1実施例と同様であり、ただし、固定部30の先端に糸と針が係合していない点および支持部20-3の構成において第1実施例とは異なる。
【0100】
ただし、第2実施例の支持構造物にも手術の便宜性のために糸と針が結合されてもよい。
【0101】
第2実施例の支持構造物2において支持部20-3の構成を説明する。
【0102】
第2実施例の支持構造物2には、2つの支持部20-3が設けられている。
【0103】
図9は、
図7の矢印Cから見た図であり、人工水晶体100を省略して支持構造物のみを示す。
図9を参照して説明すると、支持部20-3は、フレーム10の表面から傾斜して延びる2つの第2部分28および第2部分28の間でフレーム10の表面と平行に一定距離離隔して延びる第1部分27からなっている。
【0104】
これにより、支持部20-3の第1および第2部分27、28がフレーム10の表面と共に環29を形成し、人工水晶体100のハプティック120がそれぞれの環29に挿入され、支持構造物2の外側に突出する。
【0105】
人工水晶体100は、レンズ110の一側表面がフレーム10の表面に置かれることになり、2つのハプティック120が支持部20-3とフレーム10の表面がなす環29を通過して支持構造物2のフレーム10から突出している。
【0106】
これにより、人工水晶体100は支持構造物2に拘束して支持される。
【0107】
このような第2実施例の支持構造物2を眼球に移植し、支持構造物に人工水晶体100が支持されるようにする工程は、第1実施例と実質的に同じである。
【0108】
ただし、第2実施例の支持構造物2を眼球に移植した後に、人工水晶体100の2つのハプティック120が支持構造物の支持部20-3がなす環29に挿入されるようにしなければならない点では、第1実施例と異なる。
【0109】
人工水晶体は、2つのハプティックを有するものの他にも、4つのハプティックを有するものもある。そのような人工水晶体の場合には、2つのハプティックのみが支持部20-3の環29に挿入され、残りのハプティックはフレーム10から外部に突出するように配置される。
【0110】
一方、第2実施例では、人工水晶体のハプティック120が通過して支持される環29がフレーム10と支持部20-3とによって形成されているが、支持部を環状に形成して支持部をフレームに結合するように構成することもできる。また、環の形状は限定されないが、ハプティック120の配置と形態に関係なく、容易にハプティックが挿入されて支持されるように、フレーム10の広い幅にわたって設けることが好ましい。
【0111】
以上、本発明の実施例の構成と作用を説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載の範囲で種々の変形が可能であり、構成要素を追加することも可能であり、そのような変形された支持構造物と構成要素が追加された支持構造物は、本発明の範囲に属するものである。