(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】和服
(51)【国際特許分類】
A41B 9/00 20060101AFI20240711BHJP
A41D 1/00 20180101ALI20240711BHJP
【FI】
A41B9/00 A
A41D1/00 101C
(21)【出願番号】P 2023190415
(22)【出願日】2023-10-19
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】523420310
【氏名又は名称】田中 有里
(72)【発明者】
【氏名】田中 有里
【審査官】原田 愛子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-088406(JP,A)
【文献】特開平10-018101(JP,A)
【文献】登録実用新案第3192345(JP,U)
【文献】実開昭54-132407(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41B 9/00
A41D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
右前身頃と左前身頃とを有する前身頃と、
その前身頃の後側に設けられる後身頃と、
前記左前身頃に縫着される左衿と、
前記右前身頃に縫着される右衿とを備えており、
その右衿及び左衿が衿合わせされた状態で互いに交差する部位(以下「左右衿合わせ交差部位」という。)より上側部分であって前記右前身頃に縫着される右衿縫着上部と、その右衿縫着上部から下側に延びるとともに前記右前身頃に対して非縫着状態となって分離している右衿非縫着下部と、を有している前記右衿と、
前記左衿における前記左右衿合わせ交差部位にある部分、前記左前身頃における前記左右衿合わせ交差部位に隣接する部分、又は前記左前身頃と前記左衿との境界部分であって前記左右衿合わせ交差部位に隣接する部分の少なくとも一箇所に開口して設けられ、前記右衿非縫着下部が挿通可能となっている開口部とを備えていることを特徴とする和服。
【請求項2】
前記左右衿合わせ交差部位より上側部分であって前記左前身頃に縫着される左衿縫着上部と、その左衿縫着上部の下側に連設されるとともに前記左前身頃に非縫着状態となって分離している左衿非縫着中部と、その左衿非縫着中部の下側に連設されるとともに前記左前身頃に縫着される左衿縫着下部と、その左衿縫着下部から下側に延びるとともに前記左前身頃に対して非縫着状態となって分離している左衿非縫着下部とを、有している前記左衿と、
前記左前身頃と前記左衿との境界部分であって前記左右衿合わせ交差部位に隣接する部分における前記左前身頃と前記左衿非縫着中部との境界部分に開口して設けられる前記開口部とを備えていることを特徴とする請求項1記載の和服。
【請求項3】
前記右衿の先端部分にある右衿先と、その右衿先に取り付けられた右固定部材と、
前記左衿の先端部分にある左衿先と、その左衿先に取り付けられた左固定部材と、を有するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の和服。
【請求項4】
前記右衿の先端部分にある右衿先と、その右衿先に取り付けられた右固定部材と、
前記左衿の先端部分にある左衿先と、その左衿先に取り付けられた左固定部材と、
前記後身頃の内面における背中心に対する左右両側にそれぞれ設けられる左右一対の内固定紐とを備えていることを特徴とした請求項1または2に記載の和服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は襦袢(肌襦袢、半襦袢、長襦袢、着物下)着物、その他の和服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の襦袢や着物の和服は非特許文献1に示すように、前身頃と後身頃に衿が縫着したものである。
【0003】
近年において、襦袢や着物を総称する和服の着付けには高い知識と多大な手間が要求される作業とされる。何故なら家族や身近な人における日常的な和服の着用習慣の減少に伴い、着付けに対する知識や技術を知る機会が少ない。そのため、着付けの複雑さに手順が覚えらず、左右の衿を重ねる手順を間違えたり、着付の際に胸紐(和服とは別体の紐)を使用して、着崩れしないようにと強く締め過ぎて着物を着ていることが苦しくなってしまったり、その反対に胸紐が緩くて着付けが安定せず着崩れを起こして着づらくなったりと、折角和服を着ても着苦しさや、着づらさの経験から再び和服を着ようとする思いが半減する場合がある。
【0004】
和服を美しく着るためには特に衿周りが重要である。左右の衿を正しい手順で重ね形状を整える行為を衿合わせと言い、衿合わせには前身頃の左右の衿を正しい手順で重ね形状を整える行為と、後身頃の衿で別称衣紋(えもん)と言われる後身頃の衿の形状を整える行為がある。着装者が好む衿周りに整え快適な着心地になるように胸紐の締め加減を調整し、かつ長時間にわたって着崩れしないようにするためには、練習する時間や手間が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】清水とき著 『増補改訂やさしい和裁』2005年7月1日 第3刷 株式会社日本ヴォーグ社出版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
着装者が和服を着る際の手順は多く、着る習慣のない現代人には一回の着付けで手順や胸紐の締め加減を覚えるのは困難であるという課題がある。
【0008】
着装者が和服を着装する際に、前身頃の左右の衿合わせに専念すると後身頃の衣紋の衿合わせが思うように出来ない場合や、後身頃の衣紋の衿合わせに専念すると前身頃の左右の衿合わせが思うように出来ない場合がある。従来の和服の衿は右前身頃の下端から左右それぞれの肩山と左右それぞれの後身頃を経由して左前身頃の下端まで縫着されており、前身頃と縫着されている衿は動きが連動しているため、押さえるべき箇所や衿の前後のバランスを考慮しながらの着付けは困難であると言う課題がある。
【0009】
和服を着装すると暫くしてから衿が開いてくる、緩むまたは詰まってくると言われる現象が起こる場合があり、これは着崩れの現象の一つである。従来の着付けでは着装者が和服を羽織っただけの状態では、右衿先は着装者の右側、左衿先は着装者の左側に位置しており、着付の際右前身頃、左前身頃の手順で着装者の身体の正面で重ねると右前身頃が身体に近い内側、左前身頃が体から遠い外側の着装状態となる。左右の前身頃を重ねた後の右衿先は左脇へ、左衿先は右脇へと位置が移動する。移動させただけの状態では左右の衿は重みで羽織った状態に戻ろうとするため胸紐を身体に巻き付け固定するが、着崩れしないようにと胸紐を強く締めすぎて着苦しい思いをしたり、緩すぎて衿が動いてしまったりと胸紐の締め加減が難しいという課題がある。
【0010】
本発明は前述した課題を解決するためになされたものであり、和服の着付け手順を容易にし、着装者の好む衿周りに衿合わせをすることができ、着用中に衿周りが緩んだり詰まったりと言った着崩れすることがない和服を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するために、請求項1に記載の和服は、右前身頃と左前身頃とを有する前身頃と、その前身頃の後側に設けられる後身頃と、左前身頃に縫着される左衿と、右前身頃に縫着される右衿とを備えており、その右衿及び左衿が衿合わせされた状態で互いに交差する部位(以下「左右衿合わせ交差部位」という。)より上側部分であって右前身頃に縫着される右衿縫着上部と、その右衿縫着上部から下側に延びるとともに右前身頃に対して非縫着状態となって分離している右衿非縫着下部と、を有している右衿と、左衿における左右衿合わせ交差部位にある部分、左前身頃における左右衿合わせ交差部位に隣接する部分、又は左前身頃と左衿との境界部分であって左右衿合わせ交差部位に隣接する部分の少なくとも一箇所に開口して設けられ、右衿非縫着下部が挿通可能となっている開口部とを備えている。
本発明によれば右衿縫着上部の下側に延びるとともに右前身頃に対して非縫着状態となって分離している右衿非縫着下部を開口部に挿通可能としたため、衿の形状が安定され着装者は衿合わせを容易に整えることができる。
【0012】
請求項2に記載の和服は、請求項1において左右衿合わせ交差部位より上側部分であって左前身頃に縫着される左衿縫着上部と、その左衿縫着上部の下側に連設されるとともに左前身頃に非縫着状態となって分離している左衿非縫着中部と、その左衿非縫着中部の下側に連設されるとともに左前身頃に縫着される左衿縫着下部と、その左衿縫着下部から下側に延びるとともに左前身頃に対して非縫着状態となって分離している左衿非縫着下部とを、有している左衿と、左前身頃と左衿との境界部分であって左右衿合わせ交差部位に隣接する部分における左前身頃と左衿非縫着中部との境界部分に開口して設けられる開口部とを備えている。
本発明によれば、開口部に右衿と右衿先を挿通可能となっているため、開口部の下側に縫着される下側縫着部が右衿の動きを邪魔することで衿周りが安定し、着装者は安心して容易に衿合わせを整えることができる。
【0013】
請求項3に記載の和服は、請求項1において右衿の先端部分にある右衿先と、その右衿先に取り付けられた右固定部材と、左衿の先端部分にある左衿先と、その左衿先に取り付けられた左固定部材とを有するものである。
従来は胸紐を手にするため一度和服から手を離すが、本発明によれば、左衿先に左固定部材を右衿先に右固定部材を取り付けているため、身体や和服から手を離すことなく固定部材を手に取る事ができることで、衿の形状を安定させながら和服の装着が容易に行うことができる。
【0014】
請求項4に記載の和服は、請求項1において右衿の先端部分にある右衿先と、その右衿先に取り付けられた右固定部材と、左衿の先端部分にある左衿先と、その左衿先に取り付けられた左固定部材と、後身頃の内面における背中心に対する左右両側にそれぞれ設けられる左右一対の内固定紐とを備えている。
本発明によれば、後身頃の内面に取り付けた内固定紐を身体に巻き付けることで衣紋の動きを固定し、前身頃の衿を動かしても固定された衣紋の形状を美しく保つことができ、前身頃の衿合わせをする際に衣紋の緩みや詰まりを気にすることなく安心して整えることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、着装者が和服を身体に装着した状態において、右衿非縫着下部と右衿先とを左前身頃に設けた開口部に着装者の内側から外側へ挿通させて装着することで、左右の衿を重ねる手順を間違えないという効果がある。
左前身頃に設けた開口部とその開口部の下側で縫着されている左縫着下部があることによって右衿が自重で右脇に戻ろうとする動きを邪魔し、仮に和服から手を離したとしても衿周りの形状は安定しており着装者は安心して着装者の好む衿の形状に形成しやすい。また複数の箇所を押さえなくても衿の形状に沿って衿先へ手を動かすことで、衿先に取り付けた固定部材を手を取ることができるため、衿の形状を崩すことなく固定部材を身体に巻き付けることにより和服を容易に固定することができるという効果がある。
【0016】
さらに、後身頃に取り付けた内固定紐を身体に巻き付け、衣紋の衿合わせを行い予め着装者の好みの衿周りに衿合わせをすることで前身頃にある左右の衿との連動を押さえ、前身頃の衿合わせをする際に衣紋の緩みや詰まりを気にすることなく安心して整えることができる。安定した状態で開口部に右衿を挿通することが出来ることにより、さらにこの発明の目的とする(0010参照。)効果を得られる。
【0017】
和服の着付け手順は以下の通りとなることで手順が少なくなり覚え易いという効果がある。
1、和服を羽織る。
2、衣紋の衿合わせをし、後身頃に取り付けている内固定紐を身体に巻き付ける。
3、開口部に右衿および右衿先と右固定部材を通す。
4、左右の衿の形状を着装者の好みに整え、左右の固定部材を身体に巻き付ける。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る和服の正面図である。
【
図5】
図1の和服の着装途中の状態を示した(a)は正面図であり(b)は背面図である。
【
図6】
図1の和服の着装途中の状態を示した
図5(a)を拡大した斜視図である。
【
図7】
図1の和服の変形例を示した図であって(a)は左衿に設けた開口部を有するものであり、(b)は左前身頃に設けた開口部有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図を参照して、本発明の実施の形態に係る全体的な構成について説明する。
なお、「右側」「左側」とはそれぞれ順に着装者にとっての右手側を、着装者にとっての左手側を示す。さらに「内側」「外側」とは着装者が和服を着用した際に身体側に近い方を内側、身体側から遠い方を外側とする。以下においての説明も同じとする。
【0020】
図1、および
図2に示すように本実施形態の和服Hは前身頃1と、後身頃6と、衿2とを有している。前身頃1は着装者の前面左側を覆う左前身頃1aと、着装者の前面右側を覆う右前身頃1bとを有している。
後身頃6は左後身頃6aの右縁と右後身頃6bの左縁を縫着してできた背中心5とを有している。
左後身頃6aは左前身頃1aに対応づけられている部材であり、左後身頃6aと左前身頃1aとは左肩山9aで連続している。右後身頃6bは右前身頃1bに対応づけられている部材であり、右後身頃6bと右前身頃1bとは右肩山9bで連続している。
左後身頃6aの内面には幅3~6cmの左内固定紐7aがあり、右後身頃6bの内面には幅3~6cmの右内固定紐7bがあり、背中心5を挟んで後身頃6a・6bに左右に振り分けた状態で取り付けている。内固定紐7aは左衿2aと左肩山9aの境界線下方に内固定紐7bは右衿2bと右肩山9bの境界線下方に取り付けている。
【0021】
和服Hは左前身頃1aおよび左後身頃6aの左縁上部に縫着されている左袖4aを有している。また、和服Hは左前身頃1aおよび左後身頃6aの左縁下部が互いに縫着されており、この縫着部分は、左前身頃1aおよび左後身頃6aの左縁における左袖4aの直下から左縁下端まで、またはその左縁下端に至る途中まで縫着されている。
和服Hは右前身頃1bおよび右後身頃6bの左縁上部に縫着されている右袖4aを有している。また、和服Hは右前身頃1bおよび右後身頃6bの右縁下部が互いに縫着されており、この縫着部分は、右前身頃1bおよび右後身頃6bの左縁における右袖4bの直下から右縁下端まで、またはその左縁下端に至る途中まで縫着されている。
【0022】
図1、および
図3に示すように、衿2は背中心5の延長線上の境界線から左右に分かれて右衿2bとなって伸びている。
右衿2bは右後身頃6bの上縁左側と右肩山9bを経由している。
右衿2bの右衿縫着上部2buと前身頃1bの右縫着上部1buとは縫着されている。
右衿縫着上部2buの下側で右衿非縫着下部2bdと前身頃1bの右非縫着下部1bdとは分離している。
右衿2bはその先端部分に右衿先2bsを有している。また、この右衿先2bsは右衿非縫着下部2bdの先端部分でもある。
右衿2bの先端部分には伸縮性のある帯状の幅3~6cmの右固定部材3bを取り付けている。
【0023】
図1、および
図4に示すように、衿2は背中心5の延長線上の境界線から左右に分かれて左衿2aとなって伸びている。
左衿2aは左後身頃6aの上縁右側と左肩山9aを経由している。
左衿2aの左衿縫着上部2auと前身頃1aの左縫着上部1auとは縫着されている。
左衿縫着上部2auの下側で左衿2aの左衿非縫着中部2aeと前身頃1aの開口部8とは左前身頃1aと左衿2aの境界部分で非縫着となって開口した形状をしている。
左衿非縫着中部2aeの下側で左衿2aの左衿縫着下部2amと左前身頃1aの左縫着下部1amとは縫着されている。
左衿縫着下部2amの下側で左衿2aの左衿非縫着下部2adと左前身頃1aの左非縫着下部1adは分離している。
左衿2aはその先端部分に左衿先2asを有している。また、この左衿先2asは左衿非縫着下部2adの先端部分でもある。
左衿2bの先端部分には伸縮性のある帯状の幅3~6cmの帯状の左固定部材3aを取り付けている。
【0024】
本実施形態に係る和服の着付けの仕方とその効果を説明する。
【0025】
まず初めに、着装者は和服Hを羽織り衣紋を好みの形状に整える。
【0026】
図5(a)および
図6に示すように、次に右前身頃1b、左前身頃1aの順番で着装者の胸前で重ね、開口部8に右衿非縫着下部2bdと右固定部材3bを着装者の内側から外側へ挿通させる。すると、開口部8に挿通された右衿非縫着下部2bdの動きを左縫着下部1amおよび左衿縫着下部2amの縫着部分が邪魔するので、仮に両手で押さえていなくても衿周りの形状は安定し、和服を羽織った状態(段落0009参照。)に戻ろうとする衿2の動きが妨げられるため、着装者は心配することなく安心して衿合わせをすることができる。さらに、右衿非縫着下部2bdを開口部8に挿通させて衿合わせをする必要があるので、左右の衿2a、2bを重ねる手順を間違えることはない。また、従来の胸紐などの締め加減で起こる着崩れを心配して強く締める必要もなくなり締め加減を個々の好みに調節できるようになる。
なお、
図5(a)および
図6に示すように、右衿2bおよび左衿2aを衿合わせした状態において、右衿2bおよび左衿2aが互いに交差した部位(
図5(a)および
図6中のハッチング部分に相当する。)が、本発明に係る「左右衿合わせ交差部位」に相当している。
【0027】
ここで、
図5(a)に示すように、開口部8に右衿非縫着下部2bdと右固定部材3bを着装者の内側から外側へ挿通することで、右衿2bが左前身頃1aの外側に現れるので左衿2aと右衿2bの双方の重なりと形状を目視しながら着付けることが可能となる。左衿先2asには左固定部材3aが、右衿先2bsには右固定部材3bが縫着されていることから、左固定部材3a,右固定部材3b(以下「固定部材3a・3bという。)が手に取りやすく、着装者は衿周りを好みの形状に整え安定を保ちながら衿に沿って手を動かすことで容易に固定部材3a・3bを手に取ることができ、衿の形状を崩すことなく固定部材3a・3bを身体に巻き付けて固定することができる。
【0028】
前身頃1aの左非縫着下部1adと衿2の左衿非縫着下部2adとは分離していることで、着装の際右脇へ移動した左衿先2asは戻りにくい。
衿先2as・2bsと前身頃1a・1bとは分離していることで衿先は動かしやすくなる。従来の衿先よりも動く範囲が広がったことで着装者の好み衿の形状に作りやすくなり、固定部材3a・3bも着装者の好む位置に巻き付けやすくなり固定しやすい。
ここで
図5(a)、(b)に示すように、左衿非縫着下部2adおよび右衿非縫着下部2bdを開口部8に挿通させることで衿周りは安定するが、左右衿合わせ交差部位23で交差する2adおよび2bdはズレ動く余裕があるので、固定部材3a・3bを着装者の身体の正面から背面に回し胴に巻き付けて正面にて結ぶことで(
図5参照。)和服H全体の固定の補強となる。これらのことから衿周りの形状の安定がさらに保たれ、和服の着付けを容易にし且つ衿周りの形状を着装者が好む形状に固定することが出来、着用中に着崩れすることがない和服の着付けが可能となる。
【0029】
図7(b)に示すように、開口部888は左前身頃1aに設けた開口部を表しており、左右衿合わせ交差部位23を右衿2bが通過した状態で伸びる延長線上と交差するように切込みが伸びている状態を表している。
【0030】
本実施形態の変形例について説明する。
【0031】
以下の(1)~(6)においては、着装者の身長や体重等の体型によって和服の各部位の長さは適宜変更される。例えば、洋服でもS・M・Lとサイズがあり、そのサイズによって丈が長い短い、幅が狭い広いとあるように、本実施形態の和服Hも体型や好みに応じて各部位の長さや位置が変更する箇所を設ける。
(1).
図1において、上記実施形では左固定部材3aは左衿先2asに、右固定部材3bは右衿先2bsに縫着したが、固定部材3a・3bの位置はこれに限定されるものではなく、着装者の衿の形状の好みや身長に合わせて腹部から腸骨の間で固定部材3a・3bを手に取り易い位置や固定部材3が身体に巻き付いても不快に感じない位置に設けても良い。
(2).上記実施形態では左非縫着下部1adと左衿非縫着下部2adとは分離しているが、左非縫着下部1adと左衿非縫着下部2adの関係は必ずしも分離している状態に限定されたものではなく、非縫着部分である左非縫着下部1adと左衿非縫着下部2adとは左衿先2asまで縫着させてもよい。
させれば寸胴かつ標準的な胸囲の体型にも問題はない。近年日本人女性は標準体重よりも軽いが、胸囲が大きい体型の人もいる。このような着装者には、左非縫着下部1adと左衿非縫着下部2adとは分離している方が着やすく、着崩れしにくい。
(3).上記実施形態では固定部材3a・3bについて説明したが、衿2と前身頃1を固定するための手段は、これに限定されるものではなく以下の様に変形することができる。例えば着付の手順が安定してきたら、または固定部材3a・3bでの固定に不快を感じる場合は、固定部材3a・3bではなく面ファスナーを用いてもよい。面ファスナーを取り付ける位置は衿合わせをした状態において、腹部から腸骨の間で左衿2aと右前身頃1bが重なる部位、右衿2bと左前身頃1aが重なる部位で着装者が面ファスナーを押さえ易い位置に取り付けると良い。また、上記した面ファスナーの位置に面ファスナーに替えてスナップボタンやフックなどを取り付けてもよい。
また、固定部材3a・3bは収縮する素材でできたものを使うのが好適ではあるが、非伸縮性の素材を用いたものでもよい。
(4)後身頃6a、6bの内面に取り付けた左内固定紐7a、右内固定紐7bは和服を羽織り衣紋の形状を決めたらすぐに胸下に巻き付けて固定するとよい。
(5)本実施形態では和服や衿の部材を再利用することを考えた時に裁断された部分がない方が再利用しやすいこと考えて開口部8は
図6の位置が最適ではあるが、例えば、
図7(a)に示すように、左衿における左右衿合わせ交差部位に設けられる開口部88のようにしても良く、
図7(b)に示すように(b)左前身頃における左右衿合わせ交差部位隣接する部分に設けられる開口部888のようにしても良い。
(6)開口部88は左右衿合わせ交差部位23の範囲内で収まることが好ましいが、この左右衿合わせ交差部位23の範囲を超えて設けても良い。
【0032】
本実施形態の和服Hは、以上、説明したように着付けることで手順も少なく衿の形状が安定しやすく整えやすいことから着装者は安心して着付けることができ、着易く着崩れし難い着付けが可能となる。
【符号の説明】
1:前身頃
1a:左前身頃 1au:左縫着上部 1am:左縫着下部 1ad:左非縫着下部
1b:右前身頃 1bu:右縫着上部 1bd:右非縫着下部
2:衿
2a:左衿 2au:左衿縫着上部 2ae:左衿非縫着中部 2am:左衿縫着下部
2ad:左衿非縫着下部 2as:左衿先
2b:右衿 2bu:右衿縫着上部 2bd:右衿非縫着下部 2bs:右衿先
21:左衿に設けた開口部
22:左前身頃に設けた開口部
23:衿合わせ交差部位
3:固定部材
3a:左固定部材 3b:右固定部材
4a:左袖 4b:右袖
5:背中心
6:後身頃 6a:左後身頃 6b:右後身頃
7a:左内固定紐 7b:右内固定紐
8:開口部 88:左前身頃に設けた開口部 888:衿合わせ交差部位
9a:左肩山 9b:右肩山
H:和服 P:着装者
【要約】
【課題】和服の着付け手順を容易にし、かつ衿周りの形状を着装者の好む形に形状を整え固定することができ、着用中に衿周りが緩んだり詰まったりと言った着崩れすることがない和服を提供する。
【解決手段】本発明の和服は、左衿と右衿とを衿合わせをした状態で左衿と右衿が互いに交差した左前身頃と左衿の境界部分に開口部を設け、その開口部に右前身頃と非縫着状態となって分離している右衿先を装着者の内面から外面へ挿通可能としたことを特徴とする。
【選択図】
図6