(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】印刷処理システム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20240711BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240711BHJP
B41J 29/38 20060101ALI20240711BHJP
G06F 3/12 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
B41J2/165
B41J2/165 501
B41J2/01 401
B41J2/01 451
B41J2/01 301
B41J2/01 107
B41J29/38 350
G06F3/12 310
G06F3/12 329
G06F3/12 385
(21)【出願番号】P 2020064877
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003096
【氏名又は名称】弁理士法人第一テクニカル国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 功
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-094854(JP,A)
【文献】特開2003-300313(JP,A)
【文献】特開2006-095814(JP,A)
【文献】特開2015-178179(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0245454(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルが設けられた吐出ヘッドを備え、前記吐出ヘッドから被印刷媒体にインクを吐出して印刷を行う印刷部と、
前記吐出ヘッドへの複数態様のメンテナンス動作を実行可能なメンテナンス部と、
前記吐出ヘッドの少なくとも1つの前記ノズルにおける前記インクの吐出不良を検知する不良検知部と、
第1制御部と、
を有する印刷装置と、
第2制御部を有するサーバと、
を備え、
前記第1制御部は、
前記不良検知部により前記吐出不良が検知されたことを契機に、その吐出不良状態に係わる第1状態情報を前記サーバへ送信する第1送信処理と、
前記吐出不良の解消に関する評価指標が付与された、前記第1状態情報に対応する1つの態様の前記メンテナンス動作を、前記メンテナンス部により実行する実行処理と、
前記実行処理の実行後、前記不良検知部により検知された、吐出不良状態に係わる第2状態情報を前記サーバへ送信する第2送信処理と、
を実行し、
前記第2制御部は、
前記第1送信処理で前記印刷装置から送信された前記第1状態情報と、前記第2送信処理で前記印刷装置から送信された前記第2状態情報と、に基づき、前記1つの態様のメンテナンス動作に付与されていた前記評価指標を変更する変更処理
を実行し、
前記変更処理では、
前記第2状態情報が、前記第1状態情報に比べて前記吐出不良の解消が進んだことを示していた場合には前記評価指標を高評価側へ変化させ、
前記第2状態情報が、前記第1状態情報に比べて前記吐出不良の解消が進んだことを示していなかった場合には前記評価指標を低評価側へ変化させる、
印刷処理システムであって、
前記第2制御部は、さらに、
前記第1送信処理で前記印刷装置から送信された前記第1状態情報に基づき、対応する前記1つの態様のメンテナンス動作を決定する決定処理と、
前記決定処理で決定した前記1つの態様のメンテナンス動作を表すメンテナンス情報を、前記印刷装置へ送信するメンテナンス情報送信処理と、
を実行し、
前記第1制御部は、
前記実行処理において、前記メンテナンス情報送信処理で送信された前記メンテナンス情報に対応する前記1つの態様のメンテナンス動作を実行し、
前記第2制御部は、前記決定処理において、
前記第1状態情報に含まれる、前記吐出不良が生じたノズル数情報、及び、前記吐出不良が生じたノズル位置情報、のうち少なくとも一方と、前記吐出不良が生じた複数のノズルの分布が、前記吐出ヘッドのインク流路において前記インクの流れ方向に沿って上流側であるか下流側であるか、とに応じて、前記1つの態様のメンテナンス動作を決定する
ことを特徴とする印刷処理システム。
【請求項2】
複数のノズルが設けられた吐出ヘッドを備え、前記吐出ヘッドから被印刷媒体にインクを吐出して印刷を行う印刷部と、
前記吐出ヘッドへの複数態様のメンテナンス動作を実行可能なメンテナンス部と、
前記吐出ヘッドの少なくとも1つの前記ノズルにおける前記インクの吐出不良を検知する不良検知部と、
第1制御部と、
を有する印刷装置と、
第2制御部を有するサーバと、
を備え、
前記第1制御部は、
前記不良検知部により前記吐出不良が検知されたことを契機に、その吐出不良状態に係わる第1状態情報を前記サーバへ送信する第1送信処理と、
前記吐出不良の解消に関する評価指標が付与された、前記第1状態情報に対応する1つの態様の前記メンテナンス動作を、前記メンテナンス部により実行する実行処理と、
前記実行処理の実行後、前記不良検知部により検知された、吐出不良状態に係わる第2状態情報を前記サーバへ送信する第2送信処理と、
を実行し、
前記第2制御部は、
前記第1送信処理で前記印刷装置から送信された前記第1状態情報と、前記第2送信処理で前記印刷装置から送信された前記第2状態情報と、に基づき、前記1つの態様のメンテナンス動作に付与されていた前記評価指標を変更する変更処理
を実行し、
前記変更処理では、
前記第2状態情報が、前記第1状態情報に比べて前記吐出不良の解消が進んだことを示していた場合には前記評価指標を高評価側へ変化させ、
前記第2状態情報が、前記第1状態情報に比べて前記吐出不良の解消が進んだことを示していなかった場合には前記評価指標を低評価側へ変化させる、
印刷処理システムであって、
前記印刷部は、
前記吐出ヘッドを主走査方向に移動させる移動部を有し、前記移動部によって前記吐出ヘッドを前記主走査方向に移動させながらインクを吐出させて前記被印刷媒体に印刷を行うものであり、
前記第2制御部は、さらに、
前記第1送信処理で前記印刷装置から送信された前記第1状態情報に基づき、対応する前記1つの態様のメンテナンス動作を決定する決定処理と、
前記決定処理で決定した前記1つの態様のメンテナンス動作を表すメンテナンス情報を、前記印刷装置へ送信するメンテナンス情報送信処理と、
を実行し、
前記第1制御部は、
前記実行処理において、前記メンテナンス情報送信処理で送信された前記メンテナンス情報に対応する前記1つの態様のメンテナンス動作を実行し、
前記第2制御部は、前記決定処理において、
前記第1状態情報に含まれる、前記吐出不良が生じたノズル数情報、及び、前記吐出不良が生じたノズル位置情報、のうち少なくとも一方と、前記吐出不良が生じた複数のノズルの分布が、前記吐出ヘッドの主走査方向に連続しているか否か、
とに応じて、前記1つの態様のメンテナンス動作を決定する
ことを特徴とす
る印刷処理システム。
【請求項3】
複数のノズルが設けられた吐出ヘッドを備え、前記吐出ヘッドから被印刷媒体にインクを吐出して印刷を行う印刷部と、
前記吐出ヘッドへの複数態様のメンテナンス動作を実行可能なメンテナンス部と、
前記吐出ヘッドの少なくとも1つの前記ノズルにおける前記インクの吐出不良を検知する不良検知部と、
第1制御部と、
を有する印刷装置と、
第2制御部を有するサーバと、
を備え、
前記第1制御部は、
前記不良検知部により前記吐出不良が検知されたことを契機に、その吐出不良状態に係わる第1状態情報を前記サーバへ送信する第1送信処理と、
前記吐出不良の解消に関する評価指標が付与された、前記第1状態情報に対応する1つの態様の前記メンテナンス動作を、前記メンテナンス部により実行する実行処理と、
前記実行処理の実行後、前記不良検知部により検知された、吐出不良状態に係わる第2状態情報を前記サーバへ送信する第2送信処理と、
を実行し、
前記第2制御部は、
前記第1送信処理で前記印刷装置から送信された前記第1状態情報と、前記第2送信処理で前記印刷装置から送信された前記第2状態情報と、に基づき、前記1つの態様のメンテナンス動作に付与されていた前記評価指標を変更する変更処理
を実行し、
前記変更処理では、
前記第2状態情報が、前記第1状態情報に比べて前記吐出不良の解消が進んだことを示していた場合には前記評価指標を高評価側へ変化させ、
前記第2状態情報が、前記第1状態情報に比べて前記吐出不良の解消が進んだことを示していなかった場合には前記評価指標を低評価側へ変化させる、
印刷処理システムであって、
前記印刷装置は、
当該印刷装置の装置状態を検出する検出部をさらに有し、
前記第2制御部は、さらに、
前記第1送信処理で前記印刷装置から送信された前記第1状態情報に基づき、対応する前記1つの態様のメンテナンス動作を決定する決定処理と、
前記決定処理で決定した前記1つの態様のメンテナンス動作を表すメンテナンス情報を、前記印刷装置へ送信するメンテナンス情報送信処理と、
を実行し、
前記第1制御部は、
前記実行処理において、前記メンテナンス情報送信処理で送信された前記メンテナンス情報に対応する前記1つの態様のメンテナンス動作を実行し、
前記第1制御部は、さらに、
前記検出部により検出された前記装置状態を表す第3状態情報を前記サーバへ送信する第3送信処理を実行し、
前記決定処理では、
前記第1送信処理で前記印刷装置から送信された前記第1状態情報と、前記第3送信処理で前記印刷装置から送信された前記第3状態情報と、に基づき、対応する前記1つの態様のメンテナンス動作を決定する
ことを特徴とす
る印刷処理システム。
【請求項4】
複数のノズルが設けられた吐出ヘッドを備え、前記吐出ヘッドから被印刷媒体にインクを吐出して印刷を行う印刷部と、
前記吐出ヘッドへの複数態様のメンテナンス動作を実行可能なメンテナンス部と、
前記吐出ヘッドの少なくとも1つの前記ノズルにおける前記インクの吐出不良を検知する不良検知部と、
第1制御部と、
を有する印刷装置と、
第2制御部を有するサーバと、
を備え、
前記第1制御部は、
前記不良検知部により前記吐出不良が検知されたことを契機に、その吐出不良状態に係わる第1状態情報を前記サーバへ送信する第1送信処理と、
前記吐出不良の解消に関する評価指標が付与された、前記第1状態情報に対応する1つの態様の前記メンテナンス動作を、前記メンテナンス部により実行する実行処理と、
前記実行処理の実行後、前記不良検知部により検知された、吐出不良状態に係わる第2状態情報を前記サーバへ送信する第2送信処理と、
を実行し、
前記第2制御部は、
前記第1送信処理で前記印刷装置から送信された前記第1状態情報と、前記第2送信処理で前記印刷装置から送信された前記第2状態情報と、に基づき、前記1つの態様のメンテナンス動作に付与されていた前記評価指標を変更する変更処理
を実行し、
前記変更処理では、
前記第2状態情報が、前記第1状態情報に比べて前記吐出不良の解消が進んだことを示していた場合には前記評価指標を高評価側へ変化させ、
前記第2状態情報が、前記第1状態情報に比べて前記吐出不良の解消が進んだことを示していなかった場合には前記評価指標を低評価側へ変化させる、
印刷処理システムであって、
前記第2制御部は、さらに、
前記第1送信処理で前記印刷装置から送信された前記第1状態情報に基づき、対応する前記1つの態様のメンテナンス動作を決定する決定処理と、
前記決定処理で決定した前記1つの態様のメンテナンス動作を表すメンテナンス情報を、前記印刷装置へ送信するメンテナンス情報送信処理と、
を実行し、
前記第1制御部は、
前記実行処理において、前記メンテナンス情報送信処理で送信された前記メンテナンス情報に対応する前記1つの態様のメンテナンス動作を実行し、
前記サーバは、
メンテナンス部により実行された複数のメンテナンス動作の態様の履歴を、対応する前記第1状態情報とそれぞれ関連付けた、データベースを記憶した記憶部をさらに有し、
前記第2制御部は、さらに、
前記データベースを参照して、前記第1送信処理で前記印刷装置から送信された前記第1状態情報に適合する少なくとも1つの態様のメンテナンス動作の選定を図る選定処理を実行し、
前記決定処理では、
前記選定処理で選定された前記複数態様のメンテナンス動作のうち前記評価指標が最も高評価であるものを、前記1つの態様のメンテナンス動作に決定する
ことを特徴とす
る印刷処理システム。
【請求項5】
前記第2制御部は、
前記決定処理において、前記選定処理で選定され、前記評価指標が互いに同一である複数態様のメンテナンスがあった場合には、それら複数態様のメンテナンスのうち、前記データベースの前記履歴に基づいて、実行時期がより新しいもの、若しくは、前記インクの消費がより少ないもの、を前記1つの態様のメンテナンス動作に決定することを特徴とする
請求項4記載の印刷処理システム。
【請求項6】
前記第2制御部は、
前記変更処理において、前記第2状態情報が、前記第1状態情報の表していた前記吐出不良の消失を示していた場合には、前記評価指標を高評価側へ変化させ、
前記第2状態情報が、前記第1状態情報の表していた前記吐出不良の消失を示していなかった場合には前記評価指標を低評価側へ変化させる
ことを特徴とする
請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の印刷処理システム。
【請求項7】
前記第2制御部は、
前記決定処理において、前記ノズル数情報としての、前記吐出不良が生じたノズル数が全ノズル数に占める割合に基づき、前記1つの態様のメンテナンス動作を決定する
ことを特徴とする
請求項1又は請求項2記載の印刷処理システム。
【請求項8】
前記サーバは、
メンテナンス部により実行された複数のメンテナンス動作の態様の履歴を、対応する前記第1状態情報とそれぞれ関連付けた、データベースを記憶した記憶部をさらに有し、
前記第2制御部は、さらに、
前記データベースを参照して、前記第1送信処理で前記印刷装置から送信された前記第1状態情報に適合する少なくとも1つの態様のメンテナンス動作の選定を図る選定処理を実行し、
前記決定処理では、
前記選定処理で選定された複数態様の前記メンテナンス動作の中から、前記1つの態様のメンテナンス動作を決定する
ことを特徴とする
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の印刷処理システム。
【請求項9】
前記選定処理で、
前記第1送信処理で前記印刷装置から送信された前記第1状態情報に適合する態様の前記メンテナンス動作が選定できなかった場合には、
前記決定処理では、
予め定められた特定態様のメンテナンス動作を、前記1つの態様のメンテナンス動作に決定する
ことを特徴とする
請求項4,5,8のいずれか1項記載の印刷処理システム。
【請求項10】
前記態様は、
メンテンナンス動作の種類、動作強度、動作時間、のうち少なくとも1つを含む
ことを特徴とする請求項1乃至
請求項9のいずれか1項記載の印刷処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐出ヘッドのメンテナンス機能を有する印刷装置とサーバとを備えた印刷処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載のように、使用状況に基づいてノズルチェックの推奨時期を推定する、推定モデルを備えたメンテナンスシステムが知られている。このメンテナンスシステムでは、液体噴射ヘッドのクリーニング後における実際の使用状況の履歴に基づいて推定モデルが更新されることで、推定モデルが最適化される。これにより、推定モデルによるノズルチェックの推奨時期と、ノズル不良が実際に発生する時期との差分を小さくし、推奨時期の精度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の印刷システムでは、メンテナンスの実行後における使用履歴に応じて推定モデルを更新することにより、次回以降にメンテナンスを実行する推奨時期の精度向上を図っている。言い換えれば、メンテナンスの実行時期の評価が行われ、推定モデルの更新によってそのメンテナンス実行時期の評価向上が図られている。しかしながら、そのメンテナンス動作自体の評価は行われておらず、また、当該メンテナンス動作の実行後における吐出不良の発生状況に応じてメンテナンス動作を再評価することに関しても、特に考慮されていない。
【0005】
本発明の目的は、ノズルの吐出不良を解消するためのメンテナンス動作に評価指標を付与して評価を行い、さらにメンテナンス後の吐出不良の状況に応じて当該メンテナンス動作を再評価することで、より最適なメンテナンス動作を提唱できる印刷処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本願発明は、複数のノズルが設けられた吐出ヘッドを備え、前記吐出ヘッドから被印刷媒体にインクを吐出して印刷を行う印刷部と、前記吐出ヘッドへの複数態様のメンテナンス動作を実行可能なメンテナンス部と、前記吐出ヘッドの少なくとも1つの前記ノズルにおける前記インクの吐出不良を検知する不良検知部と、第1制御部と、を有する印刷装置と、第2制御部を有するサーバと、を備え、前記第1制御部は、前記不良検知部により前記吐出不良が検知されたことを契機に、その吐出不良状態に係わる第1状態情報を前記サーバへ送信する第1送信処理と、前記吐出不良の解消に関する評価指標が付与された、前記第1状態情報に対応する1つの態様の前記メンテナンス動作を、前記メンテナンス部により実行する実行処理と、前記実行処理の実行後、前記不良検知部により検知された、吐出不良状態に係わる第2状態情報を前記サーバへ送信する第2送信処理と、を実行し、前記第2制御部は、前記第1送信処理で前記印刷装置から送信された前記第1状態情報と、前記第2送信処理で前記印刷装置から送信された前記第2状態情報と、に基づき、前記1つの態様のメンテナンス動作に付与されていた前記評価指標を変更する変更処理を実行し、前記変更処理では、前記第2状態情報が、前記第1状態情報に比べて前記吐出不良の解消が進んだことを示していた場合には前記評価指標を高評価側へ変化させ、前記第2状態情報が、前記第1状態情報に比べて前記吐出不良の解消が進んだことを示していなかった場合には前記評価指標を低評価側へ変化させることを特徴とする。
【0007】
本願発明の印刷処理システムにおいては、印刷装置に備えられるメンテナンス部が、吐出ヘッドへの複数態様のメンテナンス動作を実行可能に構成されている。このとき、本願発明においては、複数態様のメンテナンス動作それぞれに対し、ノズルの吐出不良の解消に関する評価指標が付与され、これによって各態様の評価が行われる。そして、メンテナンス動作の実行後には、その評価指標の見直しが行われる。
【0008】
すなわち、印刷装置の不良検知部により吐出不良が検知されると、それを契機に、第1制御部が実行する第1送信処理において、その吐出不良状態に係わる第1状態情報がサーバへと送信される。その後、実行処理において、メンテナンス部により、上記第1状態情報に対応した1つの態様のメンテナンス動作が実行される。そして、このメンテナンス動作の実行後、第2送信処理において、不良検知部の検知した吐出不良状態に係わる第2状態情報がサーバへと送信される。
【0009】
上記第1送信処理及び第2送信処理に対応して、サーバでは、第2制御部により変更処理が行われ、第1状態情報及び第2状態情報に基づき、上記実行処理で実行された1つの態様のメンテナンス動作の評価指標が変更され、再評価がなされる。具体的には、メンテナンス動作前に受信した第1状態情報に比べて、メンテナンス動作後に受信した第2状態情報が、ノズルの吐出不良の解消が進んだことを示していた場合には、当該メンテナンス動作は有効であったとみなして評価指標が高評価側へ変化する。第1状態情報に比べて、第2状態情報が、ノズルの吐出不良の解消が進んだことを示していなかった場合には、当該メンテナンス動作は有効ではなかったとみなされて評価指標が低評価側へ変化する。
【0010】
本願発明によれば、このようにして、メンテナンス動作が実行された後、当該メンテナンス動作の評価指標の見直しが行われる。これにより、生じた吐出不良状態に対し有効でないメンテナンス動作態様は低い評価指標となる一方、生じた吐出不良状態に対し有効であるメンテナンス動作態様は高い評価指標となるので、より最適なメンテナンス動作を印刷装置の保有者に提唱することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ノズルの吐出不良を解消するためのメンテナンス動作に評価指標を付与して評価を行い、さらにメンテナンス後の吐出不良の状況に応じて当該メンテナンス動作を再評価することで、より最適なメンテナンス動作を提唱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態による印刷処理システムに備えられるプリンタの概略構成図である。
【
図2】印刷処理システムの電気的構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】サーバのメモリに記憶されたデータベースの一例を表す表である。
【
図4】プリンタのCPUとサーバのCPUとが協働して実行する制御手順を表すシーケンスフローである。
【
図5】プリンタのCPUとサーバのCPUとが協働して実行する制御手順を表すシーケンスフローである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。本実施形態は、顧客が料金を支払ってプリンタを使用する印刷サービスが提供される場合の、そのプリンタを備えた印刷処理システムの実施形態である。
【0014】
<プリンタの全体構成>
上記印刷処理システムに備えられる、顧客が利用するプリンタ1を、
図1により説明する。なお、このプリンタ1は、後述の
図2に示すように本実施形態の印刷処理システムにおいては複数備えられており、それら複数のプリンタ1それぞれが、例えば、上記印刷サービスを提供する複数の事業者によってそれぞれ保有される。また、それら複数のプリンタ1は互いに同一の構成である。すなわち、
図1に示すように、それぞれのプリンタ1は、キャリッジ2と、インクジェットヘッド3と、プラテン4と、搬送ローラ5,6と、フラッシングフォーム7と、パージングユニット8と、等を備えている。パージングユニット8のある側がプリンタ1の右側であり、フラッシングフォーム7のある側がプリンタ1の左側であり、搬送ローラ6のある側がプリンタ1の前側であり、搬送ローラ5のある側がプリンタ1の後側である。また、左右方向が主走査方向であり、後側から前側へ向かう方向が搬送方向である。なお、プリンタ1が印刷装置の一例である。また、キャリッジ2が移動部の一例であるとともに、印刷部の一例でもある。また、インクジェットヘッド3が吐出ヘッドの一例である。
【0015】
キャリッジ2は、図示しないベルト等を介しキャリッジモータ56(後述の
図2参照)に接続されており、キャリッジモータ56が駆動することでガイドレール11,12に沿って主走査方向に移動する。
【0016】
インクジェットヘッド3は、4本のチューブ31と接続されている。4本のチューブ31は、プリンタ1の右前端部において主走査方向に並んだ4つのインクカートリッジ32とそれぞれ接続されている。4つのインクカートリッジ32に貯留されたブラック、イエロー、シアン、マゼンタのインクがチューブ31を介してインクジェットヘッド3に供給される。
【0017】
またインクジェットヘッド3は、キャリッジ2に搭載されており、キャリッジ2がインクジェットヘッド3を主走査方向に移動させながらインクジェットヘッド3がインクを吐出することで、印刷が行われる。インクジェットヘッド3は、流路ユニット13と、アクチュエータ14と、を有する。
【0018】
流路ユニット13には、その下面であるノズル面13aに形成された複数のノズル10を含むインク流路が形成されている。複数のノズル10は、主走査方向と直交する搬送方向に配列されることによってノズル列9を形成しており、ノズル面13aには、4列のノズル列9が主走査方向に並んでいる。各ノズル列9における、複数のノズル10の搬送方向の配列は、例えばほぼ同等の並びとなっており、主走査方向に隣接する2つのノズル列9,9における複数のノズル10それぞれの位置は、主走査方向に並んでいる。
【0019】
このとき、複数のノズル10からは、右側から左側に向かって順に、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタのインクが吐出される。1つのノズル列に含まれる複数のノズル10には、対応する1色のインクが、共通の1つの上記チューブ31及び共通の1つのインク流路を介して、供給される。すなわち、1つのインクカートリッジ32からのインクは、チューブ31→インク流路→各ノズル10、の経路で供給される。この結果、1つのノズル列には、上記インクの流れ方向に沿って、インク流路において相対的に上流側に位置するノズル10と、インク流路において相対的に下流側に位置するノズル10と、が含まれる。
【0020】
アクチュエータ14は、各ノズル10内のインクに個別に吐出エネルギーを付与する機能を有する。
【0021】
プラテン4は、インクジェットヘッド3の下方に位置し、印刷時にノズル面13aと対向する。プラテン4は、主走査方向に記録用紙Pの全長にわたって延び、記録用紙Pを下方から支持する。記録用紙Pが被印刷媒体の一例である。搬送ローラ5,6は、それぞれ、搬送方向におけるプラテン4の上流側及び下流側に位置している。搬送ローラ5,6は、図示しないギヤ等を介し搬送モータ57(後述の
図2参照)に接続され、搬送モータ57の駆動により回転して記録用紙Pを搬送方向に搬送する。
【0022】
上記構成により、プリンタ1は、搬送ローラ5,6により記録用紙Pを所定距離ずつ搬送する毎に、キャリッジ2を主走査方向に移動させつつ、インクジェットヘッド3の複数のノズル10からインクを吐出させることによって、記録用紙Pに印刷を行う。
【0023】
<フラッシングフォーム>
フラッシングフォーム7は、スポンジなどインクを吸収可能なもので構成され、プラテン4よりも左側に位置している。これに対応して、プリンタ1では、後述の制御装置50の制御により、キャリッジ2を、ノズル面13aがフラッシングフォーム7と対向するフラッシング位置まで移動可能である。これにより、プリンタ1は、後述のフラッシング動作を実行可能である。
【0024】
<パージングユニット>
パージングユニット8は、キャップ21と、切換ユニット22と、吸引ポンプ23と、廃液タンク24と、を備えている。
【0025】
キャップ21は、プラテン4よりも右側に位置している。これに対応して、プリンタ1では、キャリッジ2をノズル面13aがキャップ21と対向するメンテナンス位置まで移動できるようになっている。キャップ21は、キャップ部21aと、キャップ部21aの左側に並んだキャップ部21bと、を有している。キャリッジ2を上記メンテナンス位置に位置させた状態では、最も右側のノズル列9を形成する複数のノズル10がキャップ部21aと対向し、左側3列のノズル列9を形成する複数のノズル10がキャップ部21bと対向する。
【0026】
またキャップ21は、キャップ昇降装置58(後述の
図2参照)により昇降可能、すなわち上記ノズル面13aと交差する交差方向に移動可能となっている。そして、キャリッジ2が上記メンテナンス位置に位置している状態でキャップ21を上昇させると、キャップ21がノズル面13aに密着して、複数のノズル10がキャップ21に覆われる。より詳細には、最も右側のノズル列9を形成する複数のノズル10がキャップ部21aに覆われ、左側3列のノズル列9を形成する複数のノズル10がキャップ部21bに覆われる。なお、以下、この状態を「キャッピング状態」と称することがある。またそれ以外の状態を「アンキャッピング状態」と称することがある。このように、キャップ昇降装置58は、キャップ21を、キャッピング状態とするためのキャッピング位置と、キャッピング位置よりも下方のアンキャッピング位置との間で昇降させることができる。
【0027】
なお、キャップ21は、ノズル面13aに密着して複数のノズル10を覆う構成には限られない。例えば、流路ユニット13が、ノズル10を保護するためにノズル面13aを取り囲むように配置されたフレームを有する場合に、キャップ21がこのフレームに密着することによってノズル10を覆うようになっていてもよい。
【0028】
切換ユニット22は、チューブ29a,29bを介して、キャップ部21a,21bと接続されている。また、切換ユニット22は、チューブ29cを介して吸引ポンプ23と接続されている。切換ユニット22は、キャップ部21a,21bと吸引ポンプ23との接続を切り換える。吸引ポンプ23は、チューブポンプなどであり、切換ユニット22と反対側においてチューブ29dを介し廃液タンク24と接続されている。
【0029】
なお、パージングユニット8及びフラッシングフォーム7がメンテナンス部の一例である。
【0030】
<印刷処理システム>
次に、上記プリンタ1を備えた、本実施形態の印刷処理システム100の電気的構成を
図2に示す。
図2において、印刷処理システム100は、複数の上記プリンタ1と、サーバ200と、を備える。これら複数のプリンタ1及びサーバ200は、ネットワークNTに接続されており、互いに通信可能である。
【0031】
<サーバ>
サーバ200は、メモリ210と、CPU220と、を有している。メモリ210には、後述するデータベースDBが記憶されている。なお、CPU220は第2制御部の一例であり、メモリ210は記憶部の一例である。
【0032】
<プリンタ>
プリンタ1の電気的構成について、
図2により説明する。プリンタ1の動作は、制御装置50によって制御されている。
【0033】
制御装置50は、CPU51と、ROM52と、RAM53と、EEPROM54と、特定用途向け集積回路であるASIC(application specific integrated circuit)55と、インターフェース90と、等を備える。CPU51が第1制御部の一例である。制御装置50は、これらの構成を備えることにより、キャリッジモータ56、アクチュエータ14、搬送モータ57、キャップ昇降装置58、切換ユニット22、吸引ポンプ23などの制御を行う。
【0034】
また制御装置50は、インクジェットヘッド3のノズル10の目詰まり等によるインク吐出状態を検知する、不良ノズル検出部84を備えている。不良ノズル検出部84は、インクジェットヘッド3に対向可能な位置に配置される吐出検知部64に接続されている。吐出検知部64は、例えば、インク吸収材と電気的に導通する導電材を備え、導電材を流れた電気信号が、不良ノズル検出部84にて検出可能に構成される。不良ノズル検出部84は、インクジェットヘッド3の各ノズル10から帯電されたインク滴を吐出させ、帯電されたインク滴が吸収材に着弾する際に生じる電流変化の信号を検出する。そして、この信号値が所定の閾値以下の場合に、不良ノズル検出部84は、当該ノズル10のインク吐出が規定の吐出量に達していないこと若しくは吐出されていないこと、すなわち当該ノズル10が吐出不良であることを検出することができる。なお、不良ノズル検出部84が不良検知部の一例である。
【0035】
なお、ノズル10の吐出不良の検知は、不良ノズル検出部84による上記の手法に限られない。すなわち、キャリッジモータ56及び搬送ローラ5,6を制御してインクジェットヘッド3に適宜のテストパターンを印刷させ、CCDもしくはフォトセンサー等によりそのテストパターンを走査し、どのノズル10が吐出不良となっているかを検出してもよい。
【0036】
インターフェース90は、他の装置と通信するための有線LANインターフェース又は無線インターフェースであり、上記ネットワークNTに接続されている。
【0037】
なお、
図2では、CPU51を1つだけ図示しているが、制御装置50がCPU51を複数備え、それら複数のCPU51が分担して処理を行ってもよい。また、
図2では、ASIC55を1つだけ図示しているが、制御装置50がASIC55を複数備え、それら複数のASIC55が分担して処理を行ってもよい。
【0038】
<フラッシング動作>
次に、上記メンテナンスとして実行される、フラッシング動作について説明する。
すなわち、プリンタ1は、制御装置50の制御により、キャリッジ2をフラッシング位置に位置させた状態で、アクチュエータ14を駆動して複数のノズル10からインクを吐出させることにより、ノズル10内の増粘したインクを排出させるフラッシングを行う。具体的には、以下のとおりである。
【0039】
すなわち、プリンタ1は、待機時に上記キャッピング状態とされることで、ノズル10内のインク中の水分の蒸発によるノズル10内のインクの蒸発率の上昇が抑えられている。そして、印刷が実行される際には、制御装置50はまず、キャップ昇降装置58を制御してキャップ21を降下させ、キャリッジモータ56を制御してキャリッジ2をフラッシング位置に移動させた状態で、アクチュエータ14を制御して、印刷前フラッシングを行う。なお、制御装置50がアクチュエータ14に加える電圧を高圧側又は低圧側にそれぞれ制御することで、フラッシングの強度を強める側又は弱める側に調整することができる。またアクチュエータ14の制御は、各ノズル10ごとに個別に行うことができる。印刷前フラッシングの後、制御装置50は、キャリッジモータ56を制御しキャリッジ2をノズル面13aが記録用紙Pと対向する位置で主走査方向に移動させつつ、アクチュエータを制御して、ノズル10からインクを吐出させて印刷を行う。印刷の完了後、制御装置50は、キャリッジモータ56を制御してキャリッジをメンテナンス位置まで移動させ、キャップ昇降装置58を制御してキャップ21を上昇させることにより、キャッピング状態に戻す。
【0040】
<パージング動作>
次に、上記メンテナンスとして実行される、パージングユニット8によるパージング動作について説明する。
【0041】
すなわち、プリンタ1は、上記キャッピング状態で、制御装置50の制御により、切換ユニット22でキャップ部21aと吸引ポンプ23とを接続し、吸引ポンプ23を駆動する。これにより、最も右側のノズル列9を形成する複数のノズル10から流路ユニット13内のブラックインクを排出する、ブラックインクについての吸引パージが実行される。
同様に、プリンタ1は、上記キャッピング状態で、制御装置50の制御により、切換ユニット22でキャップ部21bと吸引ポンプ23とを接続し、吸引ポンプ23を駆動させる。これにより、左側3列のノズル列9を形成する複数のノズル10から、流路ユニット13内のイエローインク、シアンインク、マゼンタインクを排出する、カラーインクについての吸引パージが実行される。上記吸引パージによって排出されたインクは、廃液タンク24に貯留される。
【0042】
なお、プリンタ1では、上記吸引パージのほかに、ノズル10の上部に設けられたエアトラップ室に侵入して溜まったエアを排出する、いわゆる排気パージを行うこともできる。この排気パージは公知の構成及び手法により行われるため、詳細な図示及び説明を省略する。
【0043】
本実施形態では、以上のように、メンテナンスとして、インクの消費を伴うパージングとフラッシングとが実行される。なお、これに限られず、他のメンテナンスを行うようにしてもよい。例えば、カートリッジからインクジェットヘッドまで到達したインクが循環路を経由してまたインクジェットヘッドに供給される、いわゆるインク循環技術が適用されるプリンタにおいては、メンテナンスとして、インクの循環速度を増大させてもよい。これによりインクの消費を伴わずにインクの増粘を解消し、インクジェットヘッドからのインクの不吐出を改善することができる。
【0044】
<メンテナンス動作の評価>
上記印刷処理システム100においては、その第1の特徴として、上記複数のプリンタ1において過去に行われたメンテナンス動作のそれぞれに対し、各態様ごとに、ノズル10の吐出不良の解消に関する評価指標が付与され、これによって各態様の評価が行われる。その履歴及び評価指標は、サーバ200のメモリ210に記憶されたデータベースDB内に格納されている。
【0045】
<データベース>
図3に、上記データベースDBの一例を示す。図示のように、この例では、レコードナンバーNo.1~23の23個のレコードが記録されている。またこのデータベースDBでは、「ノズル情報」「発生領域情報」「装置状態情報」「メンテナンス動作態様」「評価ランク」「評価ランクの更新日」の各フィールドが設けられ、各レコードごとに、対応する各フィールドの値又は内容が記録されている。
【0046】
フィールド「ノズル情報」では、インクジェットヘッド3に備えられた全ノズル10のうち、不良ノズル検出部84により吐出不良が検出されたノズル10が占める割合、若しくは、吐出不良が検出された複数のノズル10の並び状況が示されている。なお、吐出不良が検出されたノズル10が占める割合がノズル数情報の一例であり、以下適宜、この割合のことを「不吐出ノズル割合」と称する。また、吐出不良が検出された複数のノズル10の並び状況はノズル位置情報の一例である。なお、このフィールド「ノズル情報」に記載される情報を、以下適宜、単に「ノズル情報」と総称する場合がある。
この例では、No.1~4のレコードでは、吐出不良が発生したノズル10の割合が1/2以上となっている。同様に、No.5~10のレコードでは、不吐出ノズル割合が1/8以上1/2未満であり、No.11~18のレコードでは、不吐出ノズル割合が1/8未満となっている。一方No.19~22のレコードでは、吐出不良が発生したノズル10が複数あり、それら複数のノズル10が、主走査方向に連続しつつ複数のノズル列9にまたがっている状態となっている。
【0047】
フィールド「発生領域情報」では、不良ノズル検出部84により吐出不良が検出された複数のノズル10の存在する領域が、インクジェットヘッド3においてどの位置に分布するかが示されている。なお、以下適宜、その領域を単に「不吐出ノズル発生領域」と称する。この不吐出ノズル発生領域もまた、ノズル位置情報の一例である。なお、このフィールド「発生領域情報」に記載される情報を、以下適宜、単に「発生領域情報」と総称する場合がある。
この例では、No.5,6のレコードでは、不吐出ノズル発生領域は、インクジェットヘッド3において前述のインク流路に沿って概ね上流側に位置しており、No.7,8のレコードでは、概ね下流側の領域に位置している。またNo.9,10のレコードでは、不吐出ノズル発生領域は、インクジェットヘッド3において上流側にも下流側にもランダムに分布している。さらに、No.11~14のレコードでは、不吐出ノズル発生領域は、インクジェットヘッド3において前述のインク流路に沿って上流側又は下流側のみに偏って位置している。またNo.15~18のレコードでは、不吐出ノズル発生領域は、上記No.9,10と同様、インクジェットヘッド3において上流側にも下流側にもランダムに位置している。
【0048】
なお、データベースDBには、上記ノズル数情報と上記ノズル位置情報との両方が記載されていてもよいし、いずれか一方のみが記載されていてもよい。すなわち、少なくとも一方が記載され、その少なくとも一方が後述のメンテナンス動作態様の選定及び決定において参酌されれば足りる。
【0049】
フィールド「装置状態情報」では、プリンタ1内に設けた図示しない温度センサ及び湿度センサによりそれぞれ検出された温度情報及び湿度情報、が示されている。なお、温度センサは温度を検出する検出部の一例であり、湿度センサは湿度を検出する検出部の一例である。またこのフィールドには、記録用紙Pの搬送状況を検出する図示しないセンサの検出結果及び搬送モータ57の駆動制御状況等に応じて検出される、記録用紙Pの搬送異常の発生情報も示されている。上記センサ等により実現される当該搬送異常の検出機能が、搬送異常を検出する検出部の一例である。
なお、このフィールド「装置状態情報」に記載される情報を、以下適宜、単に「装置状態情報」と総称する場合がある。
【0050】
この例では、No.1,2のレコードでは、不良ノズル検出部84による前回の吐出検知の実行(詳細は後述)から最新の吐出検知の実行までの間の平均気温がY1[℃]以上であり、No.3,4のレコードでは、当該平均気温がY1[℃]未満となっている。以下適宜、この平均気温のことを単に「不吐出検知前平均気温」と称する。なお、このY1は、例えば、前述のインク流路に混入した空気隗の成長によるインクの流通阻害を考慮するために、予め設定されるしきい値である。
一方、No.11,12,15,16のレコードでは、不吐出検知前平均気温がY2[℃]以上であり、No.13,14,17,18のレコードでは、不吐出検知前平均気温がY2[℃]未満となっている。このY2は、例えば、低温環境下のインク粘度の増加によるインクの流通阻害を考慮するために、予め設定されるしきい値であり、上記Y1よりも低い値である。
またNo.19,20では、不良ノズル検出部84による吐出検知の実行の直前に、インクジェットヘッド3と記録用紙Pとの接触による記録用紙Pの搬送異常が発生している。具体的には、例えば記録用紙Pが浮いてインクジェットヘッド3のヘッド面と接触した状態で、キャリッジ2が移動していたような場合等である。これに対して、No.21,22では、そのような、吐出検知の実行直前の搬送異常は発生していない。
【0051】
フィールド「メンテナンス動作態様」では、実行されたメンテナンス動作の種類、及び、そのときの動作強度又は動作時間、が示されている。なお、「メンテナンス動作態様」にこれらすべてが含まれる必要はなく、メンテナンス動作の種類、動作強度、動作時間のうち少なくとも1つが含まれれば足りる。
この例では、No.1,2,3,8のレコードでは、パージングユニット8による上記吸引パージが比較的大きな強度で実行されている。なお、No2のレコードでは、吸引パージに加え、前述の排気パージも併せて実行されている。また、No.4,6,7,10,12,16,20,22のレコードでは、パージングユニット8による上記吸引パージが中程度の強度で実行されている。また、No.5,9,11,14,15,18,19,21のレコードでは、パージングユニット8による上記吸引パージが小程度の強度で実行されている。なお、この場合の吸引パージの上記強度の大、中、小は、この例では、上記吸引ポンプ23の駆動時間、言いかえれば吸引パージの動作時間を相対的に長くする、中程度にする、短くする、ことによって実現されている。
またこの例では、No.13,17のレコードでは、フラッシングフォーム7による上記フラッシングが実行されている。なおその際には、不良ノズル検出部84により不吐出が検知されたノズル10に係わるアクチュエータ14に対して、制御装置50により高電圧が印加されて当該ノズル10に対してのみ、強い強度のフラッシングが行われる。すなわちこの例では、フラッシングの強度の大、小が、上記制御装置50の印加する電圧の高、低によって実現されている。
【0052】
フィールド「ランク」では、各レコードにおいて実行されたメンテナンス動作態様に対しての評価指標を表すランクが示されている。すなわち、各レコードの「メンテナンス動作態様」に記載のメンテナンスそれぞれは、当該レコードの「ノズル情報」「発生領域情報」「装置状態情報」に記載された内容の1つのノズル不吐出挙動に対して行われたものである。そして当該メンテナンスが行われた後のノズル不吐出挙動の解消度合いに応じて、評価指標としてのランクが与えられる。このときのランクの値は、初期値が5となっており、上記メンテナンスが行われた後にノズル不吐出挙動の解消が進んだ場合は、高評価側への変更、すなわち加点となり、ランクが5よりも増大する。一方、上記メンテナンスが行われた後にノズル不吐出挙動の解消が進まなかった場合は、低評価側への変更、すなわち減点となり、ランクが5よりも減少する。その後さらにメンテナンスが行われた場合も、ノズル不吐出挙動の解消が進んだ場合はランクがその時点の値よりも高評価側へ、すなわち数値が増大し、ノズル不吐出挙動の解消が進まなかった場合はランクがその時点の値よりも低評価側へ、すなわち数値が減少する。
【0053】
フィールド「ランク更新日」では、各レコードの「ノズル情報」「発生領域情報」「装置状態情報」に記載されたノズル不吐出挙動に対し、「メンテナンス動作態様」に記載のメンテナンス内容が最後に実行されてランクが更新された日付が示されている。なお、当該メンテナンスが1回のみ実行された場合は、当該実行された日付が示されている。
【0054】
例えば、No.1のレコードは、上記不吐出ノズル割合が1/2以上で、不吐出検知前平均気温が上記Y1[℃]以上であった場合に、強度大の吸引パージというメンテナンス動作態様が実行された事例である。このメンテナンスが実行された最終実行日が2020年2月5日であり、その日に更新された後の現状の評価指標すなわちランクは9となっている。
一方、No.2のレコードは、上記同様、不吐出ノズル割合が1/2以上で、不吐出検知前平均気温が上記Y1[℃]以上であった場合に、強度大の吸引パージ及び排気パージという動作態様が実行された事例である。このメンテナンスが実行された最終実行日は上記No.1よりも新しい2020年2月10日であるが、更新後の評価指標は、上記No.1のレコードよりも低い、ランク8となっている。
【0055】
詳細は後述するが、本実施形態では、データベースDB中に、共通の不吐出挙動に対して互いに異なる複数のメンテナンス動作態様の履歴が別レコードとして存在した場合、その後に当該不吐出挙動が生じた場合にはより高ランクの動作態様が参照され実行される。したがって上記No.2のレコードに関しては、例えば2月9日までは不吐出ノズル割合1/2以上で不吐出検知前平均気温Y1[℃]以上では、強度大の吸引パージ及び排気パージのランクが10であり、強度大の吸引パージのランク9より高かった場合の例である。この結果、2月10日に上記の不吐出ノズル割合が1/2以上で不吐出検知前平均気温がY1[℃]以上の状況が生じたとき、強度大の吸引パージ及び排気パージが実行されたが、当該動作態様による吐出不良の解消度合いが低く、ランクが10から8に減点されている。
【0056】
なお、これらNo.1のレコードとNo.2のレコードとは、同一のプリンタ1によって実行されていてもよいし、互いに異なるプリンタ1によって実行されていてもよい。
【0057】
また例えば、No.9のレコードは、上記不吐出ノズル割合が1/8以上1/2未満で、不吐出ノズル発生領域がランダムであった場合に、強度小の吸引パージというメンテナンス動作態様が実行された事例である。このメンテナンスが実行された最終実行日が2020年1月30日であり、その日に更新された後の現状の評価指標すなわちランクは7となっている。
一方、No.10のレコードは、上記同様、不吐出ノズル割合が1/8以上1/2未満で、不吐出ノズル発生領域がランダムであった場合に、強度中の吸引パージという動作態様が実行された事例である。このメンテナンスが実行された最終実行日は上記No.9よりも新しい2020年2月11日であり、更新後の評価指標は、上記No.9のレコードよりも高い、ランク9となっている。
【0058】
この場合上記No.10のレコードに関しては、例えば2月11の時点で不吐出ノズル割合が1/8以上1/2未満で不吐出ノズル発生領域がランダムの状況で、強度中の吸引パージのランクが8であり、強度小の吸引パージのランク7より高かった場合の例である。この結果、2月11日に上記の不吐出ノズル割合が1/8以上1/2未満で不吐出ノズル発生領域がランダムの状況が生じたとき、強度中の吸引パージが実行され、当該動作態様による吐出不良の解消度合いが良好で、ランクが8から9にさらに加点されている。
【0059】
<メンテナンス実行時の制御手順>
上記のデータベースDBを参照しつつ、プリンタ1のCPU51とサーバ200のCPU220とが協働して実行する制御手順を、
図4及び
図5に示すシーケンスフローにより説明する。この制御手順は、例えば上記ROM52及び上記メモリ210に記憶された複数のプログラムに含まれるメンテナンス処理プログラムをプリンタ1のCPU51やサーバ200のCPU220が実行することにより以下のメンテナンス処理方法が実現される。なお、以下、
図4及び
図5に関する説明においては、各CPUの記述を省略し、「プリンタ1のCPU51において」「サーバ200のCPU220により」等、を単に「プリンタ1において」「サーバ200により」等で記載する。
【0060】
図4において、まずプリンタ1において、予め定められた、定期的にメンテナンスを行うべきメンテナンス時期が到来したか否かが判定される(S11)。メンテナンス時期が到来すると、メンテナンスの実行回数を表す変数Nが0に初期化された後(S13)、前述した手法により、不良ノズル検出部84により、吐出検知部64を介したノズル10の吐出検知、すなわち吐出不良の有無の検知が行われる(S15)。その後、上記不良ノズル検出部84による検知結果である、前述のノズル情報、発生領域情報、装置状態情報がサーバ200へ送信される(S17)。なお、以下適宜、これらの情報を単に「ノズル情報等」と略称する。S17で送信されるノズル情報及び発生領域情報が第1状態情報の一例であり、またS17で送信される装置状態情報が第3状態情報の一例である。そして、S17で実行する処理が第1送信処理の一例であり、第3送信処理の一例でもある。なお、S11で判定したようにメンテナンス時期の到来時にS13以降の処理を実行するのには限られず、印刷の実行が指示されたタイミング、あるいは、プリンタ1の電源がOFFからONとなったタイミング、等にS13以降の動作を実施してもよい。
【0061】
上記に対応してサーバ200では、プリンタ1から送信されたノズル情報等が受信される(S19)。その後、その受信結果に基づき、当該プリンタ1のインクジェットヘッド3の全ノズル10において不吐出が検知されない、すなわち不吐出ノズル割合が0%であるか否かが判定される(S21)。不吐出ノズル割合が0%である場合はYes判定となり、この場合はメンテナンスの必要がないことから、このシーケンスを終了する。不吐出ノズル割合が0%より大きい場合はNo判定となり、メモリ210内のデータベースDBへのアクセスが行われる。そして、上記受信結果に含まれるノズル情報等に対し適合するメンテナンス動作態様を含むレコード、言い換えれば、それらノズル情報等で表される不吐出挙動と内容が同一又は類似である不吐出挙動を含むレコード、の有無が検索される(S23)。
【0062】
その後、サーバ200においては、データベースDB内に不吐出挙動の内容が同一又は類似であるレコードが存在したか否かが判定される(S25)。そのようなレコードが存在しない場合はNo判定となり、S27に移行する。S27では、実行するメンテナンス動作の態様が、あらかじめデフォルトとして一律に設定されていた態様、例えば中程度の強度の吸引パージに決定され、後述のS33へ移行する。なおこのデフォルトとして設定されていた態様が、特定態様のメンテナンス動作の一例である。
【0063】
一方、S25において、データベースDB内に不吐出挙動の内容が同一又は類似であるレコードが存在した場合はYes判定となってS29に移行し、その同一又は類似である少なくとも1つのレコードにそれぞれ記録されているメンテナンス動作態様が選定される。
前述の例に沿うと、不吐出ノズル割合が1/2以上で不吐出検知前平均気温が上記Y1[℃]以上という不吐出挙動であった場合には、No.1のレコードの「強度大の吸引パージ」と、No.2のレコードの「強度大の吸引パージ+排気パージ」と、が選定される。同様に、不吐出ノズル割合が1/8以上1/2未満で、不吐出ノズル発生領域がランダムという不吐出挙動であった場合には、No.9のレコードの「強度小の吸引パージ」とNo.10のレコードの「強度中の吸引パージ」と、が選定される。なお、このS25で実行する処理が選定処理の一例である。
【0064】
その後、S31で、上記S29で選定されたメンテナンス動作態様のうち、この時点で前述したランクの値が最も高いものが、この場合に実行されるメンテナンス動作態様として最終的に決定される。
上記の例では、S29でNo.1のレコードの「強度大の吸引パージ」とNo.2のレコードの「強度大の吸引パージ+排気パージ」とが選定されていた場合、ランクが高いNo.1のレコードの「強度大の吸引パージ」がメンテナンス動作態様として決定される。同様に、No.9のレコードの「強度小の吸引パージ」とNo.10のレコードの「強度中の吸引パージ」とが選定されていた場合、ランクが高いNo.10のレコードの「強度中の吸引パージ」がメンテナンス動作態様として決定される。
【0065】
なお、
図3のデータベースDBのNo.15のレコードの「強度小の吸引パージ」とNo.16のレコードの「強度中の吸引パージ」のように、ランクの値が同一の複数のレコードが存在した場合は、実行された時期すなわち更新日時が新しいほうが選定される。この場合は、更新日時がより新しい、No.16のレコードの「強度中の吸引パージ」が、不吐出ノズル割合が1/8未満で不吐出ノズル発生領域がランダムで不吐出検知前平均気温がY2[℃]以上という不吐出挙動に対する、メンテナンス動作態様として決定される。
【0066】
なお、更新日時が新しいほうを選定するのに代えて、メンテナンス動作時にインクの消費がより少ないものを選定するようにしてもよい。例えば、強度小・中・大の吸引パージ及びフラッシングでインク消費量を考えた場合には、インク消費量が少ない順に、フラッシング、強度小の吸引パージ、強度中の吸引パージ、強度大の吸引パージ、の順番となる。なお、前述のS27及びこのS31で実行する処理が、決定処理の一例である。
【0067】
これらS27及びS31でのメンテナンス動作態様の決定は、前述のように、S23でのデータベースDBの検索に基づき、ノズル不吐出挙動の、各レコードの「ノズル情報」「発生領域情報」「装置状態情報」の各フィールドの内容との同一・類似性に基づき実行される。
【0068】
すなわち、データベースDBのフィールド「ノズル情報」「発生領域情報」に関して見ると、上記メンテナンス動作態様は、前述のノズル情報等に含まれる、上記ノズル数情報及び上記ノズル位置情報のうち少なくとも一方に基づき決定されることとなる。詳細には、前述したように、例えば、吐出不良が発生したノズル10の数が全体の中で占める割合、吐出不良が発生した複数のノズル10が主走査方向に連続しているか否か、不吐出ノズル発生領域がインク流路の上流側であるか下流側であるか、に応じて決定される。
データベースDBのフィールド「装置状態情報」に関して見ると、上記メンテナンス動作態様は、前述のノズル情報等に含まれる、装置状態情報に基づき決定されることとなる。
特に前述の例では、上記メンテナンス動作態様は、前述した、ノズル情報、発生領域情報、及び、装置状態情報に基づいて決定されている。
【0069】
その後、S33で、S31又はS27で決定されたメンテナンス動作態様を実行させるメンテナンス指示が、サーバ200から送信され、プリンタ1において受信される(S35)。そしてプリンタ1において、当該受信した態様のメンテナンス動作が実行される(S37)。なお、上記メンテナンス指示がメンテナンス情報の一例であり、S33で実行する処理がメンテナンス情報送信処理の一例であり、S37で実行する処理が、実行処理の一例である。そして、S39で、メンテナンスの実行回数を表す上記変数Nが1インクリメントされる。
【0070】
その後、
図5に移り、プリンタ1では、S41において上記S15と同様、吐出検知部64を介したノズル10の吐出検知が行われ、さらに上記S17と同様、検知結果であるノズル情報等がサーバ200へ送信される(S43)。S43で送信されるノズル情報等が第2状態情報の一例であり、S43で実行する処理が第2送信処理の一例である。
【0071】
上記に対応して、サーバ200では、上記S19と同様、プリンタ1から送信された上記ノズル情報等が受信される(S45)。その後、上記S21と同様、当該受信結果に基づき、当該プリンタ1の全ノズル10において不吐出が検知されず不吐出ノズル割合が0%であるか否かが判定される(S47)。不吐出ノズル割合が0%である場合はYes判定となり、S37で実行されたメンテナンス動作態様が有効であったとみなされ、S49で当該メンテナンス動作態様についての評価指標すなわちランクが加点される。これにより、このときのノズル不吐出挙動に対する当該メンテナンス動作態様について、加点された後のランクが、データベースDBに記録される。
【0072】
すなわち、前述のS25において、データベースDB内に、検知された不吐出挙動と同一内容のレコードが存在していた場合は、上記S37でそのレコードと同一のメンテナンス動作態様を実行後、当該レコードのランクが、上記加点後の値に上書き更新される。
一方、前述のS25において、データベースDB内に、検知された不吐出挙動と類似内容のレコードが存在していた場合は、上記S37でそのレコードと同一のメンテナンス動作態様を実行後、当該レコードとは別の新たなレコードがデータベースDB内に生成される。すなわち、当該新たなレコードにおいては、上記S15で検知されS17及びS19で送受信されたノズル情報等と、S37で実行されたメンテナンス動作態様と、上記加点が実行された後のランクと、が含まれることとなる。S49が終了したら、後述のS55に移行する。
【0073】
一方、S47でいずれかのノズル10で不吐出が検出され不吐出ノズル割合が0%でない場合はNo判定となり、S51に移行し、不吐出ノズル割合が50%以下であるか否かが判定される(S51)。不吐出ノズル割合が50%を超える場合はNo判定となり、S37で実行されたメンテナンス動作態様が有効ではなかったとみなされ、S53で当該メンテナンス動作態様についての評価指標すなわちランクが減点される。これにより、このときのノズル不吐出挙動に対する当該メンテナンス動作態様について、減点された後のランクが、データベースDBに記録される。
【0074】
すなわち前述の加点と同様、前述のS25において、データベースDB内に、検知された不吐出挙動と同一内容のレコードが存在していた場合は、上記S37でそのレコードと同一のメンテナンス動作態様を実行後、当該レコードのランクが、上記減点後の値に上書き更新される。
一方、前述のS25において、データベースDB内に、検知された不吐出挙動と類似内容のレコードが存在していた場合は、上記S37でそのレコードと同一のメンテナンス動作態様を実行後、当該レコードとは別の新たなレコードがデータベースDB内に生成される。すなわち、当該新たなレコードにおいては、上記S15で検知されS17及びS19で送受信されたノズル情報等と、S37で実行されたメンテナンス動作態様と、上記減点が実行された後のランクと、が含まれることとなる。S53が終了したら、後述のS55に移行する。
【0075】
一方、前述のS51で、不吐出ノズル割合が50%以下であった場合はYes判定となり、S37で実行されたメンテナンス動作態様がある程度有効であったとみなされ、S57で、当該メンテナンス動作態様についての評価指標すなわちランクが加点又は減点される。これにより、このときのノズル不吐出挙動に対する当該メンテナンス動作態様について、加点又は減点された後のランクが、データベースDBに記録される。加点又は減点後のランクのデータベースDBの記録態様については前述と同様であり、詳細な説明を省略する。なお、S57において、不吐出ノズル割合が少しでも生じていることから、加点は行わず一律に減点するようにしてもよい。S57が終了したら、後述のS55に移行する。なお、上記のS49、S53、S57で実行する処理が、変更処理の一例である。
【0076】
上記S49、又はS53、又はS57の後は、S55に移行する。S55では、上記変数Nが2となっているか否かが判定される。N=1のままであればNo判定となり、前述のS23に戻ってデータベースDBの検索が行われ、以降、同様の手順が繰り返される。N=2に達していればYes判定となり、S59においてサーバ200から評価終了通知が送信される。これに対応して、プリンタ1では、S61で当該送信された評価終了通知が受信される。これにより、このシーケンスフローを終了する。なお、この評価終了通知の送受信は必ずしも必要ではなく、省略してもよい。
【0077】
<実施形態の効果>
以上説明したように、本実施形態においては、複数態様のメンテナンス動作それぞれに対し、ノズル10の吐出不良の解消に関する評価指標であるランクが付与され、これによって各態様の評価が行われる。そして、メンテナンス動作の実行後には、そのランクの見直しが行われる。
【0078】
すなわち、プリンタ1の不良ノズル検出部84により吐出不良が検知されると、その吐出不良状態に係わるノズル情報及び発生領域情報がサーバ200へと送信される(S17)。その後、それらの情報に対応した1つの態様のメンテナンス動作が実行される(S37)。そして、このメンテナンス動作の実行後、再度不良ノズル検出部84が検知した吐出不良状態に係わるノズル情報及び発生領域情報がサーバ200へと送信される(S43)。それらS17及びS43で送信された情報に基づき、サーバ200では、実行された1つの態様のメンテナンス動作のランクが変更され、再評価がなされる(S49,S53,S57)。具体的には、メンテナンス動作前にS19で受信した情報に比べて、メンテナンス動作後にS45で受信した情報が、ノズル10の吐出不良の解消が進んだことを示していた場合には、当該メンテナンス動作は有効であったとみなしてランクが上がる(S49又はS57)。S1で受信した情報に比べてS45で受信した情報が、ノズル10の吐出不良の解消が進んだことを示していなかった場合には、当該メンテナンス動作は有効ではなかったとみなされてランクが下がる(S53又はS57)。
本実施形態によれば、このようにして、メンテナンス動作が実行された後、当該メンテナンス動作を評価するランクの見直しが行われる。これにより、生じた吐出不良状態に対し有効でないメンテナンス動作態様は低いランクとなる一方、生じた吐出不良状態に対し有効であるメンテナンス動作態様は高いランクとなるので、より最適なメンテナンス動作をプリンタ1の保有者に提唱することができる。
【0079】
なお、前述のように、S19で受信した情報に比べて、S45で受信した状態情報が、ノズル10の吐出不良が消失したことを示していた場合にランクが上がり(S49)、そうでなかった場合にはランクが下がるようにすることもできる。この場合には、実行したメンテナンス動作によってノズル10の吐出不良がなくなり、吐出機能が完全に回復したことを明確に示すことができるので、最適なメンテナンス動作をプリンタ1の保有者に確実に提唱することができる。
【0080】
また、本実施形態では特に、プリンタ1の検知に基づき吐出不良状態に係わる情報がS17でサーバ200へと送信されると、その送信された情報に対応する1つの態様のメンテナンス動作が決定される(S31)。その後S33で、当該決定されたメンテナンス動作を実行させるメンテナンス指示がプリンタ1へ送信されることで、対応する1つの態様のメンテナンス動作が実行される(S37)。これにより、検知された吐出不良状態に対し、その時点で最適であると想定されるメンテナンス動作の態様をサーバ200において決定し、その決定した態様のメンテナンス動作をプリンタ1に実行させることができる。そしてその実行後、前述したように当該実行したメンテナンス動作の評価指標の見直しが行われる(S49,S53,S57)。
以上の結果、プリンタ1の保有者に対し、最適なメンテナンス動作をさらに確実に提唱することができる。
【0081】
また、本実施形態では特に、サーバ200においてS31でメンテナンス動作態様が決定される際、前述のノズル数情報及びノズル位置情報のうち少なくとも一方に基づき、決定が行われる。これにより、吐出不良の生じたノズル10の数がどの程度であるか、吐出不良の生じたノズル10がどのような分布で存在しているか、等に基づき、きめ細かくメンテナンス動作態様を決定することができる。
【0082】
また、本実施形態では特に、サーバ200においてS31でメンテナンス動作態様が決定される際、不吐出ノズル割合に基づき、決定が行われる。これにより、吐出不良の生じたノズル10の数が全体のどの程度の割合を占めるかに応じて、高い割合の場合は低い割合の場合よりもメンテナンス動作の動作強度を大きくする、又は、動作時間を長くする等、きめ細かくメンテナンス動作態様を決定することができる。
【0083】
また、本実施形態では特に、サーバ200においてS31でメンテナンス動作態様が決定される際、吐出不良が生じた複数のノズル10の分布が、インクジェットヘッド3のインク流路の上流側か下流側かに基づき、メンテナンス動作の態様が決定される。これにより、吐出不良の生じたノズル10が下流側である場合は上流側である場合よりもメンテナンス動作の動作強度を大きくする、又は、動作時間を長くする等、きめ細かくメンテナンス動作態様を決定することができる。
【0084】
また、本実施形態では特に、サーバ200においてS31でメンテナンス動作態様が決定される際、吐出不良が生じた複数のノズル10の分布が、インクジェットヘッド3の主走査方向に連続しているか否かに基づき、メンテナンス動作の態様が決定される。これにより、主走査方向に連続している場合は、搬送時における記録用紙Pからの悪影響の可能性を想定する等により、きめ細かくメンテナンス動作態様を決定することができる。
【0085】
また、本実施形態では特に、サーバ200においてS31でメンテナンス動作態様が決定される際、装置状態情報に基づき、メンテナンス動作の態様が決定される。装置状態情報の例としては、温度、湿度、記録用紙Pの搬送異常の有無、等である。なお、温度、湿度については、所定周期で検出した複数の値に基づき平均温度、平均湿度を求める手法でもよいし、直接平均温度、平均湿度を検出する手法でもよい。本実施形態によれば、これら各種の情報に基づき、きめ細かくメンテナンス動作態様を決定することができる。
なお、上記以外の装置状態情報として、適宜の検出部により検出した紙粉、砂塵等の環境情報もある。さらには、適宜のカウンタ等によりカウントされた、カートリッジ32の使用時間及び交換回数、ノズル10がキャップで覆われないアンキャップ状態の時間、印刷ページ数、等も装置状態情報に含めることができる。
【0086】
また、本実施形態では特に、過去に実行された各態様のメンテナンス動作の履歴が、そのときの吐出不良状態に係わるノズル情報及び発生領域情報と対応付けられて、サーバ200のデータベースDB内に格納されている。
そして、新たにプリンタ1からノズル情報及び発生領域情報が送信されてきた場合には、データベースDBを参照しつつ、その情報に適合する少なくとも1つの態様のメンテナンス動作が選定される(S29)。そして、その選定されたメンテナンス動作態様の中から、1つのメンテナンス動作態様が決定される(S31)。これにより、過去に実行実績のあるメンテナンス動作態様を元に、効率よくかつ精度よくメンテナンス動作態様を決定することができる。
【0087】
また、本実施形態では特に、S29で選定された複数態様のメンテナンス動作のうち最も高評価の評価指標であるものが、最終的に実行される1つの態様のメンテナンス動作に決定される(S31)。これにより、過去に実行実績のあるメンテナンス動作態様の中から、ノズル情報及び発生領域情報に対して最も適合すると想定されるメンテナンス動作態様を決定することができる。
【0088】
また、本実施形態では特に、S29で選定された複数態様のメンテナンス動作が互いに同じ評価指標であった場合には、それらのうち、実行時期がより新しいもの、若しくは、インクの消費がより少ないものが、最終的に実行される1つの態様のメンテナンス動作に決定される。これにより、過去に実行実績のあるメンテナンス動作態様の中から、ノズル情報及び発生領域情報に対して最も適合すると想定されるメンテナンス動作態様を確実に決定することができる。
【0089】
また、本実施形態では特に、新たにプリンタ1からノズル情報及び発生領域情報が送信されたとき、その情報に適合するメンテナンス動作態様が選定できなかった場合には、予めデフォルトとして定められた特定態様のメンテナンス動作に決定される(S27)。これにより、過去に実行実績のあるメンテナンス動作態様を参照しても適合するメンテナンス動作態様が見つからなかった場合であっても、少なくとも何らかの態様のメンテナンス動作を実行することができる。
【0090】
また、本実施形態では特に、メンテナンス動作の態様に、動作の種類、動作強度、動作時間、のうち少なくとも1つが含まれる。これにより、メンテナンス動作の種類ごとに、あるいは同一種類であっても動作強度ごと若しくは動作時間ごとに、別々のメンテナンス事例として区別して取り扱い、それぞれ個別に評価指標を付与して細かく評価することができる
【0091】
<その他変形例>
なお、以上は、評価指標としてランクの値を用い、ノズル不吐出挙動の解消が進んだらランクの数値が増大し、ノズル不吐出挙動の解消が進まなかった場合は、ランクの数値が減少したが、このような数値を用いる場合に限られない。例えば評価指標として「A」「B」「C」、「上」「中」「下」、「優」「可」「劣」等の数値ではないものを用いてもよい。いずれの場合も、ノズル不吐出挙動の解消が進んだら高評価側へ変化させ、ノズル不吐出挙動の解消が進まなかった場合は、低評価側へ変化させれば足りる。
【0092】
また、以上は、プリンタ1が、印刷サービスの事業者に保有され、ユーザである顧客に使用される場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、ユーザ自身がプリンタ1を保有して使用する場合に本発明を適用してもよい。この場合も、上記同様の効果を得る。
【0093】
また、以上においては、プリンタ1の制御装置50において、1つのCPU51が含まれる構成例を示したが、CPU51は複数設けられていてもよい。また、CPU51とASIC55等のハード回路を組み合わせた構成や、ハード回路のみから構成するようにしてもよい。
【0094】
また、以上において、
図4及び
図5に示すシーケンスフローは本発明を上記フローに示す手順に限定するものではなく、発明の趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で手順の追加・削除又は順番の変更等をしてもよい。
【0095】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。
【0096】
その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0097】
1 プリンタ(印刷装置の一例)
2 キャリッジ(印刷部、移動部の一例)
3 インクジェットヘッド(吐出ヘッドの一例)
7 フラッシングフォーム(メンテンテンス部の一例)
8 パージングユニット(メンテンテンス部の一例)
51 CPU(第1制御部の一例)
84 不良ノズル検出部(不良検知部の一例)
210 メモリ(記憶部の一例)
220 CPU(第2制御部の一例)
P 記録用紙(被印刷媒体の一例)