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特許7519018冷凍機油用エステルおよびそれを含む作動流体組成物
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  • 特許-冷凍機油用エステルおよびそれを含む作動流体組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】冷凍機油用エステルおよびそれを含む作動流体組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 105/42 20060101AFI20240711BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240711BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20240711BHJP
【FI】
C10M105/42
C10N30:00 A
C10N40:30
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021516018
(86)(22)【出願日】2020-04-14
(86)【国際出願番号】 JP2020016390
(87)【国際公開番号】W WO2020218082
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2019083742
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】上田 成大
(72)【発明者】
【氏名】小田 和裕
(72)【発明者】
【氏名】川本 英貴
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-507483(JP,A)
【文献】国際公開第2013/008487(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)、成分(B)および成分(C)のエステル反応物からなる冷凍機油用エステルを製造する方法であって、
前記冷凍機油用エステルが、前記成分(A)由来の構成成分1.0モルに対して、成分(B)由来の構成成分を0.02~0.4モルの比率で含有しかつ前記成分(C)由来の構成成分を3.2~3.96モルの比率で含有し、かつ式(1)を満たしており、
前記成分(A)、前記成分(B)および前記成分(C)を、100℃以上、200℃以下の沸点および7.0(cal/cm3)1/2以上、9.5(cal/cm3)1/2以下の溶解度パラメーターを有する溶媒中でエステル化反応に供することを特徴とする、冷凍機油用エステルの製造方法。

(A) ペンタエリスリトール
(B) 炭素数4~10の直鎖状2価カルボン酸
(C) 炭素数4~10の1価カルボン酸

α ≦ ピーク群(a)/ピーク群(b) ≦ β・・・(1)
α=-10×(成分(A)由来の構成成分1.0モルに対する、成分(B)由来の構成成分のモル数)+6.5・・・(2)
β=-10×(成分(A)由来の構成成分1.0モルに対する、成分(B)由来の構成成分のモル数)+7.5・・・(3)

(式(1)において、
ピーク群(a)は、ガスクロマトグラフィーで得られた、リテンションタイムが28~40分に観測されるピーク面積の総和であり、
ピーク群(b)は、前記ガスクロマトグラフィーで得られた、リテンションタイムが40~60分に観測されるピーク面積の総和であり、
前記ガスクロマトグフィーの測定条件は以下のとおりとする。
検出機器:FID、導入口温度:400℃、検出器温度:400℃、
ガスクロマトグラフィー用カラム:長さ15m、内径0.25mm
カラムオーブン温度:測定開始からカラム温度を60℃で5分間保持した後、300℃まで10℃/minの速度で昇温し、300℃に到達後、400℃まで4℃/minの速度で昇温し、その後、400℃で16分保持する
キャリアガス:ヘリウム(線速度:55cm/sec)
サンプル注入量:1.0μL、スプリット比:100
試料調整:0.1gの上記冷凍機油用エステルを1.4gのトルエンで希釈する)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた冷媒相溶性を有する冷凍機油用エステルに関する。また、R-32冷媒を含有する冷凍機油用作動流体組成物に使用されることを特徴とする冷凍機油用エステルに関する。
【背景技術】
【0002】
ルームエアコン、パッケージエアコンなどの空調機器、家庭用冷凍冷蔵庫などの低温機器、産業用冷凍機、およびハイブリッドカー、電気自動車などのカーエアコンに代表される冷凍・空調システムにおいては、地球環境への配慮から温室効果低減を目的に、地球温暖化係数が高い冷媒から、低い冷媒へ転換が進められている。例えば、空調機器においてはR-32冷媒が汎用的に使用されるようになってきている。
【0003】
冷媒を圧縮するコンプレッサーに使用される潤滑油である冷凍機油と冷媒は、幅広い温度条件下で分離せず相溶することが望ましい。しかし、例えばR-32冷媒は冷凍機油と相溶し難いという課題があった。この課題に対しては、R-32冷媒と相溶性のある冷凍機油用エステルの開発が進められており、特許文献1では短鎖脂肪酸を使用した、ペンタエリスリトールと2-メチルプロピオン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸からなるテトラエステルが、R-32冷媒と優れた相溶性を示すことが開示されている。冷媒と冷凍機油の相溶性は、冷媒に対して冷凍機油の濃度が数十%の条件において、相溶性が最も悪くなることが多い。そのため、特許文献1では、R-32冷媒に対して冷凍機油が10質量%の条件で相溶性が良好であることが示されている。
【0004】
また、R-32冷媒を使用した冷凍・空調システムは圧力が高いことから、コンプレッサーでの吐出温度が高くなり、その結果冷凍機油の油膜が薄くなり、厳しい潤滑条件となることから、潤滑性が良好な冷凍機油が必要となる。このような課題に対しては、潤滑性を向上させる添加剤の使用、または潤滑性が良好な冷凍機油用エステルを使用する方法が挙げられる。
【0005】
例えば、潤滑性が良好な冷凍機油用エステルとして、特許文献2では、多価アルコールであるネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオールと多価カルボン酸であるアジピン酸を重縮合させたコンプレックスエステルが開示されている。多価アルコールと多価カルボン酸を重縮合させたオリゴマー構造を有するコンプレックスエステルは、分子量を高くすることで、冷媒との相溶性を低下させる一方で、厳しい潤滑条件下でも良好な潤滑性を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2012/026214号公報
【文献】WO2014/017596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、冷凍機油と相溶し難いR-32冷媒と、重縮合させることで複雑な構造を有するコンプレックスエステルとの組み合わせでは、通常、相溶性が低下する冷媒中の冷凍機油エステル濃度が高い場合よりも、濃度が低い場合において、相溶性が悪くなることが稀にあった。そのため、冷媒に対して冷凍機油の濃度が低い条件においても、優れた相溶性を有するコンプレックスエステルが望まれていた。
【0008】
本発明は上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、R-32冷媒とともに用いた場合に、優れた冷媒相溶性を達成することが可能な冷凍機油用エステル、ならびにそれを用いた冷凍機用作動流体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、特定の4価アルコール、2価カルボン酸および1価カルボン酸から構成され、かつ特定の式を満たすエステルが、R-32冷媒と優れた冷媒相溶性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のものである。
(1) 下記成分(A)、成分(B)および成分(C)のエステル反応物からなる冷凍機油用エステルを製造する方法であって、
前記冷凍機油用エステルが、前記成分(A)由来の構成成分1.0モルに対して、成分(B)由来の構成成分を0.02~0.4モルの比率で含有しかつ前記成分(C)由来の構成成分を3.2~3.96モルの比率で含有し、かつ式(1)を満たしており、
前記成分(A)、前記成分(B)および前記成分(C)を、100℃以上、200℃以下の沸点および7.0(cal/cm3)1/2以上、9.5(cal/cm3)1/2以下の溶解度パラメーターを有する溶媒中でエステル化反応に供することを特徴とする、冷凍機油用エステルの製造方法。

(A) ペンタエリスリトール
(B) 炭素数4~10の直鎖状2価カルボン酸
(C) 炭素数4~10の1価カルボン酸

α ≦ ピーク群(a)/ピーク群(b) ≦ β・・・(1)
α=-10×(成分(A)由来の構成成分1.0モルに対する、成分(B)由来の構成成分のモル数)+6.5・・・(2)
β=-10×(成分(A)由来の構成成分1.0モルに対する、成分(B)由来の構成成分のモル数)+7.5・・・(3)

(式(1)において、
ピーク群(a)は、ガスクロマトグラフィーで得られた、リテンションタイムが28~40分に観測されるピーク面積の総和であり、
ピーク群(b)は、前記ガスクロマトグラフィーで得られた、リテンションタイムが40~60分に観測されるピーク面積の総和であり、
前記ガスクロマトグフィーの測定条件は以下のとおりとする。
検出機器:FID、導入口温度:400℃、検出器温度:400℃、
ガスクロマトグラフィー用カラム:長さ15m、内径0.25mm
カラムオーブン温度:測定開始からカラム温度を60℃で5分間保持した後、300℃まで10℃/minの速度で昇温し、300℃に到達後、400℃まで4℃/minの速度で昇温し、その後、400℃で16分保持する
キャリアガス:ヘリウム(線速度:55cm/sec)
サンプル注入量:1.0μL、スプリット比:100
試料調整:0.1gの上記冷凍機油用エステルを1.4gのトルエンで希釈する)
【発明の効果】
【0011】
本発明の冷凍機油用エステルは、広範囲の混合組成において、溶解力が高くないR-32冷媒であっても良好な冷媒相溶性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】エステルのガスクロマトグラフィーによる分析結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
なお、本明細書において記号「~」を用いて規定された数値範囲は「~」の両端(上限および下限)の数値を含むものとする。例えば「2~5」は「2以上、5以下」を表す。
【0014】
本発明の冷凍機油用エステルは、ペンタエリスリトール(成分(A))と、炭素数4~10の直鎖状2価カルボン酸(成分(B))と、炭素数4~10の1価カルボン酸(成分(C))とを混合し、エステル化反応させることで得られる。
【0015】
なお、成分(A)、成分(B)および成分(C)の用語は便宜的な総称であり、各成分に属する化合物が一種類であってもよく、または各成分に属する化合物が二種類以上であってもよい。各成分に二種類以上の化合物が含まれる場合には、各成分の量は、その成分に属する二種類以上の化合物の合計量とする。
【0016】
本発明で使用される成分(A)のペンタエリスリトールとしては、工業的に入手可能なペンタエリスリトールを使用することができる。
【0017】
成分(B)は、炭素数4~10の直鎖状2価カルボン酸である。成分(B)の炭素数が4未満であると、冷媒相溶性が悪化するので、炭素数を4以上とするが、6以上が更に好ましい。また、成分(B)の炭素数が10を超えると冷媒相溶性が悪化するので10以下とするが、8以下が更に好ましい。成分(B)としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などが挙げられるが、特に好ましくはアジピン酸である。
【0018】
成分(C)は、炭素数4~10の1価カルボン酸であり、これらは直鎖状および分岐状のいずれであっても良い。成分(C)の炭素数は、4以上とすることが更に好ましく、また、8以下とすることが更に好ましい。成分(C)としては、例えばブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸などの直鎖脂肪酸、2-メチルプロピオン酸、2-メチルブタン酸、3-メチルブタン酸、3-メチルペンタン酸、4-メチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸などの分岐脂肪酸が挙げられる。これら化合物の内、1種を単独で、または2種以上を混合して用いても良い。
【0019】
成分(C)としては、(C1)炭素数4~5の直鎖または分岐脂肪酸1種または2種以上と、(C2)炭素数8~9の直鎖または分岐脂肪酸1種または2種以上とを、モル比((C1)/(C2))が1/99~99/1の範囲で混合して使用することが特に好ましい。この実施形態においては、(C1)が2-メチルプロピオン酸、(C2)が2-エチルヘキサン酸とを、モル比(C1/C2):1/99~99/1の範囲で混合して使用することがより好ましい。
モル比((C1)/(C2))は、40/60~90/10とすることが更に好ましく、60/40~75/25とすることが更に好ましい。
【0020】
本発明の冷凍機油用エステルは、成分(A)由来の構成成分1モルに対して、成分(B)由来の構成成分が0.02~0.4モル、および前記成分(C)由来の構成成分3.2~3.96モルの比率で構成された冷凍機油エステルである。
【0021】
成分(A)由来の構成成分1モルに対して、成分(B)由来の構成成分の量が0.02モル未満、または、0.4モルを超えると幅広い混合比率にわたって十分な相溶性を維持できなくなる。このため成分(B)由来の構成成分の量を0.02モル以上、0.4モル以下とするが、好ましくは0.05~0.35モルであり、より好ましくは0.1~0.3モルである。
【0022】
また、成分(C)由来の構成成分の比率は、成分(A)由来の構成成分1モルに対して、好ましくは3.3~3.9モルであり、より好ましくは3.4~3.8モルである。
【0023】
上述した各構成成分のモル比率は、ガスクロマトグラフィーにより分析して算出する。
すなわち、エステル0.1gをトルエン/メタノール(80wt%/20wt%)混合溶媒5gで希釈し、次いで28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬工業(株))を0.3g加え、60℃にて30分静置することにより、エステルを加メタノール分解する。得られたエステル分解溶液をガスクロマトグラフィーで分析し、得られた成分(A)、成分(B)成分(C1)、成分(C2)のピーク面積比をモル比へ換算することによって、算出することができる。なお、各成分単独のガスクロマトグラフィーを分析することで、エステル分解物の成分を同定することができる。
【0024】
本発明の冷凍機油用エステルは、式(1)を満たす。
α ≦ ピーク群(a)/ピーク群(b) ≦ β・・・(1)
α=-10×(成分(B)由来の構成成分のモル数)+6.5・・(2)
β=-10×(成分(B)由来の構成成分のモル数)+7.5・・(3)
ピーク群(a)、ピーク群(b)は下記条件で測定したガスクロマトグラフより算出するものである。
ピーク群(a):リテンションタイムが28~40分に観測されるピーク面積の総和
ピーク群(b):リテンションタイムが40~60分に観測されるピーク面積の総和
すなわち、図1は、エステルのガスクロマトグラフィーによる分析結果を示すチャートである。図1において、ピーク群 (a)は、リテンションタイムが28~40分に観測されるピークの面積の総和であり、ピーク群(b)は、リテンションタイムが40~60分に観測されるピークの面積の総和である。
【0025】
式(1)の値がαよりも小さくなると、冷媒との相溶性が悪化するので、α以上とするが、α+0.1以上とすることが好ましく、α+0.2以上とすることがより好ましい。また、式(1)の値がβを超える場合、冷媒との相溶性は悪化しないまでも、これ以上良好になることはなく、場合によっては十分な潤滑性が得られない虞があるので、β以下とするが、β-0.1以下とすることが好ましく、β-0.2以下とすることがより好ましい。
【0026】
式(1)の値を算出するのに際してのガスクロマトグフィーの条件は以下のようにする。
測定条件:
検出機器:FID、導入口温度:400℃、検出器温度:400℃、
カラム:アジレントテクノ社製「DB-1HT」(長さ15m、内径0.25mm)
カラムオーブン温度:測定開始からカラム温度を60℃で5分間保持した後、300℃まで10℃/minの速度で昇温し、300℃に到達後、400℃まで4℃/minの速度で昇温し、その後、400℃で16分保持する
キャリアガス:ヘリウム(線速度:55cm/sec)
サンプル注入量:1.0μL、スプリット比:100
試料調整:0.1gの上記冷凍機油用エステルを1.4gのトルエンで希釈
【0027】
エステルの製造に際しては、まず上記成分(A)、成分(B)、および成分(C)を適切な反応器に全て仕込み、常圧、窒素雰囲気にてエステル化反応を行なう。エステル化反応は、効率よく反応生成水を除去するために通常150~250℃で行ない、好ましくは、200~250℃でエステル化反応を行う。また、エステル化反応はブレンステッド酸触媒やルイス酸触媒を使用してもよい。
【0028】
さらに、エステル化反応は効率よく反応生成水を系外へ除去するため溶剤を使用する。好ましくは、沸点が100℃以上から200℃以下の溶剤である。沸点が100℃以下の溶剤では、反応系内の温度が低くなりエステル化反応の進行が遅くなる。沸点が200℃を超えると反応系内から溶剤の除去が困難となる。また式(1)を満たす観点から、好ましくは溶解度パラメーター(SP値)が、7.0~9.5(cal/cm1/2の範囲の溶剤である。例えば、p-キシレン、メチルシクロヘキサン、4-メチルー2-ペンタノンなどが挙げられる。なお、溶剤の溶解度パラメーター(SP値)はFedorの式により算出することができ、その詳細は「SP値 基礎・応用と計算方法」(山本秀樹著 情報機構社刊、2006年発行)に記載されており、この記載に基づいて求められる。
【0029】
エステル化反応後、未反応原料および溶剤を使用した場合は溶剤を減圧下で留去し、粗エステルを得る。さらに粗エステルをアルカリによる脱酸を行い、活性白土、酸性白土および合成系の吸着剤を用いた吸着処理やスチーミングなどの操作を単独または組み合わせて行うことによってエステルを得ることができる。
【0030】
本発明の冷凍機油用エステルは、単独で基油として使用することもできるし、その他の基油と混合して使用することもできる。また、公知の添加剤、例えばフェノール系の酸化防止剤、ベンゾトリアゾール、チアジアゾールまたはジチオカーバメートなどの金属不活性化剤、エポキシ化合物またはカルボジイミドなどの酸捕捉剤、リン系の極圧剤などの添加剤を目的に応じて適宜配合することができる。
【0031】
本発明の冷凍機油用エステルは、R-32(ジフルオロエタン)冷媒との相溶性が高いため、冷凍機油に対して相溶性の小さいR-32冷媒を含有する冷凍機用作動流体組成物に好適に用いることができる。
【0032】
また、R-32を含む混合冷媒も使用することができ、例えばR-407C(R-134a/R-125/R-32=52/25/23質量%)、R-410R(R-125/R-32=50/50質量%)、R-1123/R-32=40/60質量%である混合冷媒などが挙げられる。
【0033】
冷凍機油用作動流体組成物は、通常、本発明による冷凍機油用エステルとR-32冷媒との質量比(冷凍機油用エステル/非塩素系フロン冷媒)が、1/99~90/10である。冷媒の質量比がこの範囲にあれば、作動流体組成物が適度な粘性を有するので、潤滑性に優れ、かつ冷凍効率も高いものとなり好ましい。
【実施例
【0034】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0035】
(実施例1)
成分(A):ペンタエリスリトール136.2g(1.00mol)、成分(B):アジピン酸38.0g(0.26mol)、成分(C1):2-メチルプロピオン酸236.1g(2.68mol)、成分(C2):2-エチルヘキサン酸151.4g(1.05mol)、反応溶剤として4-メチルー2-ペンタノン60gを温度計、窒素導入管、攪拌機およびジムロート冷却管と容量30mLの油水分離管を取り付けた1Lの4つ口フラスコに仕込み、最後に、仕込んだアルコールの水酸基に対し、0.2mol当量のチタンイソプロポキシドを仕込んだ。
【0036】
窒素気流下、仕込んだ反応液を加熱し、230℃の温度で反応精製水が反応系外へ留出しなくなるまで反応した。その後、反応器内を200℃まで冷却し、80Torrまで減圧して未反応原料および反応溶剤を反応系外へ留去し粗エステルを得た。
【0037】
粗エステルを85℃まで冷却した後、酸価から算出される水酸化カリウム量の1.5当量をイオン交換水で希釈して10%の水溶液を作成し、それを反応液に加えて1時間撹拌した。撹拌を止めた後、30分静置して下層に分離した水層を除去した。次に、反応液に対しての20質量%のイオン交換水を加えて85℃で10分撹拌して、15分静置した後、分離した水層を除去する操作を水層のpHが7から8になるまで繰り返した。その後、100℃、30Torrで1時間撹拌することで脱水した。最後に、反応液に対して2質量%の活性白土を加え、80℃、30Torrの条件で1時間撹拌し、1ミクロンのフィルターを用いてろ過して吸着剤を除去することで、実施例1の化合物を得た。
【0038】
(実施例2)
成分(A):ペンタエリスリトール136.2g(1.00mol)、成分(B):アジピン酸20.5g(0.14mol)、成分(C1):2-メチルプロピオン酸210.6g(2.39mol)、成分(C2):2-エチルヘキサン酸225.0g(1.56mol)、反応溶剤としてp-キシレン60gを温度計、窒素導入管、攪拌機およびジムロート冷却管と容量30mLの油水分離管を取り付けた1Lの4つ口フラスコに仕込み、最後に、仕込んだアルコールの水酸基に対し、0.2mol当量のチタンイソプロポキシドを仕込んだ。以降の工程は実施例1と同様にして行い、実施例2の化合物を得た。
【0039】
(実施例3)
成分(A):ペンタエリスリトール136.2g(1.00mol)、成分(B):アジピン酸17.5g(0.12mol)、成分(C1):n-ペンタン酸195.1g(1.91mol)、成分(C2):3,5,5-トリメチルヘキサン酸332.2g(2.10mol)、温度計、窒素導入管、攪拌機およびジムロート冷却管と容量30mLの油水分離管を取り付けた1Lの4つ口フラスコに仕込み、最後に、仕込んだアルコールの水酸基に対し、0.2mol当量のチタンイソプロポキシドを仕込んだ。以降の工程は実施例1と同様にして行い、実施例3の化合物を得た。
【0040】
(実施例4)
成分(A):ペンタエリスリトール136.2g(1.00mol)、成分(B):アジピン酸58.5g(0.4mol)、成分(C1):2-メチルプロピオン酸227.3g(2.58mol)、成分(C2):2-エチルヘキサン酸131.2g(0.91mol)、反応溶剤として4-メチルー2-ペンタノン60gを温度計、窒素導入管、攪拌機およびジムロート冷却管と容量30mLの油水分離管を取り付けた1Lの4つ口フラスコに仕込み、最後に、仕込んだアルコールの水酸基に対し、0.2mol当量のチタンイソプロポキシドを仕込んだ。以降の工程は実施例1と同様にして行い、実施例4の化合物を得た。
【0041】
(実施例5)
成分(A):ペンタエリスリトール136.2g(1.00mol)、成分(B):アジピン酸58.5g(0.4mol)、成分(C):2-メチルプロピオン酸313.6g(3.56mol)、反応溶剤としてp-キシレン60gを温度計、窒素導入管、攪拌機およびジムロート冷却管と容量30mLの油水分離管を取り付けた1Lの4つ口フラスコに仕込み、最後に、仕込んだアルコールの水酸基に対し、0.2mol当量のチタンイソプロポキシドを仕込んだ。以降の工程は実施例1と同様にして行い、実施例5の化合物を得た。
【0042】
(比較例1)
成分(A):ペンタエリスリトール136.2g(1.00mol)、成分(B):アジピン酸35.1g(0.24mol)、成分(C1):2-メチルプロピオン酸254.6g(2.89mol)、成分(C2):2-エチルヘキサン酸151.4g(1.05mol)を温度計、窒素導入管、攪拌機およびジムロート冷却管と容量30mLの油水分離管を取り付けた1Lの4つ口フラスコに仕込み、最後に、仕込んだアルコールの水酸基に対し、0.2mol当量のチタンイソプロポキシドを仕込んだ。
【0043】
窒素気流下、仕込んだ反応液を加熱し、150℃まで加温し、この温度を48時間維持した。その後220℃まで加温し24時間反応させて。その後、1ミクロンのフィルターを用いてろ過することで、比較例1の化合物を得た。
【0044】
(比較例2)
成分(A):ペンタエリスリトール136.2g(1.00mol)、成分(B):アジピン酸71.6g(0.49mol)、成分(C1):2-メチルプロピオン酸289.8g(3.29mol)、成分(C2):2-エチルヘキサン酸24.5g(0.17mol)、温度計、窒素導入管、攪拌機およびジムロート冷却管と容量30mLの油水分離管を取り付けた1Lの4つ口フラスコに仕込み、最後に、仕込んだアルコールの水酸基に対し、0.2mol当量のチタンイソプロポキシドを仕込んだ。以降の工程は実施例1と同様にして行い、比較例2の化合物を得た。
【0045】
(式(1)の値の算出)
下記に記載の条件にてピーク群(a)、ピーク群(b)の値を算出した。
測定条件は以下の通りである。
ガスクロマトグラフィー:島津者製「GC-2014」
検出機器:FID、導入口温度:400℃、検出器温度:400℃、
カラム:アジレントテクノ社製「DB-1HT」(長さ15m、内径0.25mm)
カラムオーブン温度:測定開始からカラム温度を60℃で5分間保持した後、300℃まで10℃/minの速度で昇温し、300℃に到達後、400℃まで4℃/minの速度で昇温し、その後、400℃で16分保持
キャリアガス:ヘリウム(線速度:55cm/sec)
サンプル注入量:1.0μL、スプリット比:100
試料調整:0.1gの上記冷凍機油用エステルを1.4gのトルエンで希釈した。
(αおよびβの算出)
成分(B)由来の構成成分のモル比から、式(2)および式(3)に基づき、それぞれ算出した。
【0046】
(相溶性試験(1))
JIS K-2211に準拠し、R-32冷媒とエステルの質量比が80:20となる条件で、上記実施例1~3、比較例1、2の試料を調整し、低温領域での2層分離温度を測定した。二層分離温度が-50℃以下を「◎」、-50~-30℃未満の範囲内を「○」、-30℃以上を「×」と評価した。
【0047】
(相溶性試験(2))
JIS K-2211に準拠し、R-32冷媒と各実施例および比較例のエステルの質量比が95:5となる条件で各試料を調整し、低温領域での2層分離温度を測定した。二層分離温度が-35℃以下を「◎」、-35~-25℃未満範囲内を「○」、-25℃以上を「×」と評価した。
【0048】
表1に、実施例1~5、表2に比較例1、2の式(1)および相溶性試験の結果を示す。
【0049】
【表1】

【表2】
【0050】
実施例1~5に示すように、本発明によれば、冷媒と良好な冷媒相溶性を示し、幅広い冷凍空調機器のコンプレッサーに好適に用いることが可能な冷凍機油用エステルを得ることが出来る。
【0051】
式(1)より算出される値が範囲外である比較例1では、冷媒に対する油濃度が5%の条件における冷媒相溶性が劣っていた。
また、式(1)より算出される値が範囲外であり、成分(B)の構成比率が範囲外である比較例2では、冷媒に対する油濃度20%、5%の両条件で冷媒相溶性が劣っていた。
図1