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特許7519027車載レーダの特性評価方法、これに用いる確率モデルの作成方法及び確率モデル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】車載レーダの特性評価方法、これに用いる確率モデルの作成方法及び確率モデル
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/40 20060101AFI20240711BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20240711BHJP
【FI】
G01S7/40 152
G01S13/931
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020157092
(22)【出願日】2020-09-18
(65)【公開番号】P2022050904
(43)【公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080768
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100166327
【弁理士】
【氏名又は名称】舟瀬 芳孝
(74)【代理人】
【識別番号】100106644
【弁理士】
【氏名又は名称】戸塚 清貴
(72)【発明者】
【氏名】寺島 将太
(72)【発明者】
【氏名】奥木 友和
(72)【発明者】
【氏名】山田 秀行
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-507385(JP,A)
【文献】特開2017-021026(JP,A)
【文献】国際公開第2019/172103(WO,A1)
【文献】特開2007-240275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知波がアンテナから送信された時期と該送信された検知波が物体で反射されて該アンテナで受信される時期までの遅延時間に基づいて該物体までの距離を取得するようにした車載レーダの特性評価方法であって、
あらかじめシミュレーションによって、仮想反射物体と所定範囲で多数箇所に渡って位置変更が行われる仮想アンテナとの間での多数の検知素波の往復時間となる多数の遅延時間を取得し、
取得された前記多数の遅延時間に基づいて、相違する遅延時間毎にその取得個数と対応づけて記憶したデータからなる確率モデルを用意し、
検証対象となる車載レーダの遅延時間に応じた距離算出の計算式に対して、前記確率モデルに記憶されている遅延時間の中から選択された遅延時間を代入して、該検証対象となる車載レーダでの検出距離を取得する、
ことを特徴とする車載レーダの特性評価方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記確率モデルに記憶されている最小遅延時間を示す下限値と最大遅延時間を示す上限値とが選択されて、前記検証対象となる車載レーダの遅延時間に応じた距離算出の計算式に対して前記下限値と前記上限値とを代入して、該下限値に対応した最小距離と該上限値に対応した最大距離とを取得する、
ことを特徴とする車載レーダの特性評価方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記仮想アンテナと前記仮想反射物体との位置関係を前後方向としたとき、前記所定範囲が、前記仮想アンテナの前後方向、左右方向、上下方向のいずれか1つの範囲、任意の2つの組み合わせからなる範囲、あるいは全ての組み合わせからなる範囲とされている、ことを特徴とする車載レーダの特性評価方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において,
前記確率モデルが、前記仮想反射物体の形状、該仮想反射物体の前記仮想アンテナに対する方位、該仮想反射物体の向き、前記仮想アンテナと該仮想反射物体との離間距離、の少なくとも1つを変更したものに対応させて多数作成されている、ことを特徴とする車載レーダの特性評価方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において,
前記仮想反射物体が車両に対応した形状を有する仮想車両とされ、
前記確率モデルが、前記仮想車両の形状の相違、該仮想車両の前記仮想アンテナに対する方位、該仮想車両の向き、前記仮想アンテナから該仮想車両との離間距離の少なくとも1つを変更したものに対応させて多数作成されている、
ことを特徴とする車載レーダの特性評価方法。
【請求項6】
車載レーダの特性評価に用いるための確率モデルをシミュレーションによって作成する方法であって、
仮想アンテナからの検知素波を所定位置に設定される仮想反射物体に対してスキャンさせるように順次送信して、個々の検知素波毎に、該仮想アンテナによる該検知素波の送信から受信までの遅延時間を取得する第1ステップと、
前記仮想アンテナの位置を所定範囲で多数箇所に渡って位置変更して、該位置変更する毎に、前記第1ステップでの処理を行って前記遅延時間を取得する第2ステップと、
前記第2ステップでの処理によって前記所定範囲で変更される位置の全てについて前記遅延時間が取得された後に、該取得された多数の遅延時間に基づいて、相違する遅延時間毎にその取得個数と対応づけて記憶したデータからなる確率モデルを作成する、
ことを特徴とする車載レーダの特性評価に用いる確率モデルの作成方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記所定範囲が、前記仮想アンテナの前後方向、左右方向、上下方向のいずれか1つの範囲、任意の2つの組み合わせからなる範囲、あるいは全ての組み合わせからなる範囲とされている、ことを特徴とする車載レーダの特性評価に用いる確率モデルの作成方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7において、
前記仮想反射物体が車両に対応した形状を有する仮想車両とされ、
前記確率モデルが、前記仮想車両の形状の相違、該仮想車両の前記仮想アンテナに対する方位、該仮想車両の向き、前記仮想アンテナから該仮想車両との離間距離の少なくとも1つを変更したものに対応させて多数作成されている、
ことを特徴とする車載レーダの特性評価に用いる確率モデルの作成方法。
【請求項9】
シミュレーションによって作成された車載レーダの特性評価に用いるための確率モデルであって、
仮想反射物体と所定範囲で多数箇所に渡って位置変更が行われる仮想アンテナとの間での多数の検知素波の往復時間となる多数の遅延時間に基づいて、相違する遅延時間毎にその取得個数と対応づけて記憶したデータとされている、
ことを特徴とする車載レーダの特性評価に用いる確率モデル
【請求項10】
請求項9において、
前記仮想反射物体が、車両に対応した形状を有する仮想車両とされ、
前記所定範囲が、前記仮想アンテナの前後方向、左右方向、上下方向のいずれか1つの範囲、任意の2つの組み合わせからなる範囲、あるいは全ての組み合わせからなる範囲とされており、
前記確率モデルが、前記仮想車両の形状の相違、該仮想車両の前記仮想アンテナに対する方位、該仮想車両の向き、前記仮想アンテナと該仮想車両との離間距離の少なくとも1つを変更したものに対応させて多数種とされている、
ことを特徴とする車載レーダの特性評価に用いる確率モデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載レーダの特性評価方法、これに用いる確率モデルの作成方法及び確率モデルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近の車両では、例えば自動ブレーキ制御、追従式定速走行制御、ヘッドランプの照射範囲制御等、種々の車載機器での制御のためにレーダを搭載することが一般的となっている。
【0003】
特許文献1には、前方障害物の速度と前方障害物までの距離とを検出するレーダ装置を、シミュレーションによってテストするテスト装置が開示されている。特許文献2には、レーダ装置における方位の検出精度劣化を防止する技術が開示されている。特許文献3には、機械式学習モデルを利用して、レーダによって前方障害物が車両であることを識別できるようにしたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-21026号公報
【文献】特開2018-194391号公報
【文献】特開2020-16597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車載レーダは、マルチパスの影響により受信信号が大きく変動するため、検出距離に変動を生じることがある。例えば、自車両から前方車両までの距離を、自車両に搭載した車載レーダで検出する場合、車載レーダのアンテナ位置が左右方向、前後方向あるいは上下方向にわずかに動くと検出距離が大きく変動することがある。
【0006】
上記アンテナ位置のわずかな動きに対応して、車載レーダでの検出距離がどのように変動するのかを検証すること(車載レーダの特性評価を行うこと)が望まれる。この検証のために、実際の車載レーダと検出対象物とを用いて、車載レーダのアンテナ位置を所定範囲で多数(例えば3000箇所)変更しつつ、検出対象物までの検出距離を多数取得することが考えられている。しかしながら、このような実験による検証は、多大な労力と時間とを要することになる。特に、検証を、レーダ方式が相違する毎に行うことや、検出対象物の形状、方位や向きさらには距離等を相違させた多数の組み合わせのそれぞれについて、アンテナ位置を上記所定範囲内で多数変更して実験を行うことは、最終的に検証終了までに多大の時間と労力を必要としていた。
【0007】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その第1の目的は、車載レーダの特性評価を簡単かつ迅速に行えることができ、しかもレーダ方式の相違にかかわらず適用できる汎用性の高い車載レーダの特性評価方法を提供することにある。
【0008】
本発明の第2の目的は、車載レーダの特性評価に用いるための確率モデルを作成する方法を提供することにある。
【0009】
本発明の第3の目的は、車載レーダの特性評価に用いるための確率モデルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にあっては、基本的に、アンテナ位置と検出対象物のある1点との間を電波や光からなる検知素波で往復させた場合の遅延時間は、レーダ方式の相違にかかわらず一定であり、しかもいずれのレーダ方式であっても遅延時間を変数として距離計算している、ということに着目してなされたものである。
【0011】
より、具体的には、あらかじめシミュレーションによって、仮想反射物体とマルチパスを考慮して所定範囲で多数箇所に渡って位置変更が行われる仮想アンテナとの間での多数の検知素波の往復時間となる多数の遅延時間を取得する。取得された多数の遅延時間に基づいて、相違する遅延時間毎にその取得個数と対応づけたデータからなる確率モデルを用意し、この確率モデルを用いて、計算のみによって検証対象となる車載レーダにおける特性評価のための検出距離を取得できるようにしてある。確率モデルは、アンテナ位置の多数の位置変更を加味しつつ多数の検知素波毎に取得された多くの遅延時間についての分布状況を、相違する遅延時間毎の取得個数として統計的に示すものとなる。そして、確率モデルに記憶されている遅延時間の中から選択された遅延時間を、検証対象となる車載レーダの距離計算式に代入することにより、検証対象となる車載レーダについての特性評価用の距離を取得することができる。
【0012】
前記第1の目的を達成するため、本発明にあっては次のような解決手法を採択してある。
【0013】
検知波がアンテナから送信された時期と該送信された検知波が物体で反射されて該アンテナで受信される時期までの遅延時間に基づいて該物体までの距離を取得するようにした車載レーダの特性評価方法であって、
あらかじめシミュレーションによって、仮想反射物体と所定範囲で多数箇所に渡って位置変更が行われる仮想アンテナとの間での多数の検知素波の往復時間となる多数の遅延時間を取得し、
取得された前記多数の遅延時間に基づいて、相違する遅延時間毎にその取得個数と対応づけて記憶したデータからなる確率モデルを用意し、
検証対象となる車載レーダの遅延時間に応じた距離算出の計算式に対して、前記確率モデルに記憶されている遅延時間の中から選択された遅延時間を代入して、該検証対象となる車載レーダでの検出距離を取得する、
ようにしてある。
【0014】
上記解決手法によれば、確率モデルを利用することにより、多大な労力や時間を要する実験を行うことなく、検証対象となる車載レーダについてマルチパスを考慮した特性評価用の検出距離を簡単かつ迅速に取得することができる。また、車載レーダの方式の相違や内部モデルの相違にかかわらず共通に使用できるものとなり、汎用性の高いものとなる。
【0015】
上記解決手法を前提として、以下のような好ましい態様を採択することができる。
【0016】
前記確率モデルに記憶されている最小遅延時間を示す下限値と最大遅延時間を示す上限値とが選択されて、前記検証対象となる車載レーダの遅延時間に応じた距離算出の計算式に対して前記下限値と前記上限値とを代入して、該下限値に対応した最小距離と該上限値に対応した最大距離とを取得する、ようにすることができる。この場合、検証対象となる車載レーダでのアンテナ位置の変動に応じた最大検出距離と最小検出距離とを取得して、距離検出の最大変動幅を知ることができる。
【0017】
前記仮想アンテナと前記仮想反射物体との位置関係を前後方向としたとき、前記所定範囲が、前記仮想アンテナの前後方向、左右方向、上下方向のいずれか1つの範囲、任意の2つの組み合わせからなる範囲、あるいは全ての組み合わせからなる範囲とされている、ようにすることができる。この場合、アンテナ位置を車載レーダが搭載される車両の動き方向に対応させて、特性評価を行うことができる。
【0018】
前記確率モデルが、前記仮想反射物体の形状、該仮想反射物体の前記仮想アンテナに対する方位、該仮想反射物体の向き、前記仮想アンテナと該仮想反射物体との離間距離、の少なくとも1つを変更したものに対応させて多数作成されている、ようにすることができる。この場合、アンテナ位置と検出対象物との種々の相対位置関係に対応させて、特性評価を行うことができる。
【0019】
前記仮想反射物体が車両に対応した形状を有する仮想車両とされ、
前記確率モデルが、前記仮想車両の形状の相違、該仮想車両の前記仮想アンテナに対する方位、該仮想車両の向き、前記仮想アンテナから該仮想車両との離間距離の少なくとも1つを変更したものに対応させて多数作成されている、
ようにすることができる。この場合、距離検出の対象物が車両である場合での特性評価を行うことができる。
【0020】
前記第2の目的を達成するため、本発明にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、
車載レーダの特性評価に用いるための確率モデルをシミュレーションによって作成する方法であって、
仮想アンテナからの検知素波を所定位置に設定される仮想反射物体に対してスキャンさせるように順次送信して、個々の検知素波毎に、該仮想アンテナによる該検知素波の送信から受信までの遅延時間を取得する第1ステップと、
前記仮想アンテナの位置を所定範囲で多数箇所に渡って位置変更して、該位置変更する毎に、前記第1ステップでの処理を行って前記遅延時間を取得する第2ステップと、
前記第2ステップでの処理によって前記所定範囲で変更される位置の全てについて前記遅延時間が取得された後に、該取得された多数の遅延時間に基づいて、相違する遅延時間毎にその取得個数と対応づけて記憶したデータからなる確率モデルを作成する、
ようにしてある。上記解決手法によれば、車載レーダの特性評価に用いる確率モデルの具体的な作成方法が提供される。
【0021】
上記解決手法を前提として次のような好ましい態様を採択することができる。
【0022】
前記所定範囲が、前記仮想アンテナの前後方向、左右方向、上下方向のいずれか1つの範囲、任意の2つの組み合わせからなる範囲、あるいは全ての組み合わせからなる範囲とされている、ようにすることができる。この場合、アンテナ位置を車載レーダが搭載される車両の動き方向に対応させて位置変更した確率モデルを作成することができる。
【0023】
前記仮想反射物体が車両に対応した形状を有する仮想車両とされ、
前記確率モデルが、前記仮想車両の形状の相違、該仮想車両の前記仮想アンテナに対する方位、該仮想車両の向き、前記仮想アンテナから該仮想車両との離間距離の少なくとも1つを変更したものに対応させて多数作成されている、
ようにすることができる。この場合、アンテナ位置と検出対象となる車両との間での種々の相対位置関係に対応させた確率モデルを作成することができる。
【0024】
前記第3の目的を達成するため、本発明にあっては次のような解決手法を採択してある。
【0025】
シミュレーションによって作成された車載レーダの特性評価に用いるための確率モデルであって、
仮想反射物体と所定範囲で多数箇所に渡って位置変更が行われる仮想アンテナとの間での多数の検知素波の往復時間となる多数の遅延時間に基づいて、相違する遅延時間毎にその取得個数と対応づけて記憶したデータとされている、
ようにすることができる。上記解決手法によれば、車載レーダの特性評価に用いる確率モデルが提供される。
【0026】
上記解決手法を前提として、次のような好ましい態様を採択することができる。
【0027】
前記仮想反射物体が、車両に対応した形状を有する仮想車両とされ、
前記所定範囲が、前記仮想アンテナの前後方向、左右方向、上下方向のいずれか1つの範囲、任意の2つの組み合わせからなる範囲、あるいは全ての組み合わせからなる範囲とされており、
前記確率モデルが、前記仮想車両の形状の相違、該仮想車両の前記仮想アンテナに対する方位、該仮想車両の向き、前記仮想アンテナと該仮想車両との離間距離の少なくとも1つを変更したものに対応させて多数種とされている、
ようにすることができる。この場合、確率モデルとして、アンテナ位置を車載レーダが搭載される車両の動き方向に対応し、アンテナ位置と検出対象物としての車両の種々の相対位置関係に対応した確率モデルとすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、車載レーダの特性評価を簡単かつ迅速に行えることができ、しかもレーダ方式の相違にかかわらず適用できる汎用性の高い車載レーダの特性評価方法を提供できる。また、本発明によれば、車載レーダの特性評価に用いる確率モデルの作成方法および確率モデルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】自車両に搭載したレーダによって前方車両までの距離を検出している状況を示す図。
図2】検知素波を用いてシミュレーションを行っている状況と、仮想アンテナ位置が変更される所定範囲を示す図。
図3】所定範囲内の多数位置で取得された遅延時間に応じた距離の例を示す図。
図4】確率モデルの一例を示す図。
図5】確率モデルを得るための制御例を示すフローチャート。
図6】確率モデルを用いて検証対象となる車載レーダの特性を得るためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0030】
まず、図1を参照しつつ、車載レーダによる距離検出の一例を簡単に説明する。この図1において、自車両がV1で示され、その前方車両が符号V2で示される。自車両V1の前端で車幅方向中央位置には、車載レーダのアンテナ1が設置されている。アンテナ1から送信(照射)される検知波が前方車両V2で反射されて、アンテナ1で受信される。このアンテナ1での検知波の送信から受信までの遅延時間を、車載レーダに設定されている所定の計算式に代入することにより、前方車両V2までの距離が算出される。上記遅延時間が同じであれば、レーダ方式やその内部モデルの相違にかかわらず、算出される距離は同じである。
【0031】
上述した車載レーダの特性評価に際しては、実施形態では、同じ位置にある対象物に対する検出距離の最小値(最小距離)と最大値(最大距離)とを得ることによって行うようにしてある。そして、実際の車載レーダについて実験的に上記最小距離と最大距離とを得ることなく、シミュレーションで得られた確率モデルを利用して、計算のみによって最小距離と最大距離とが取得できるようにしてある。
【0032】
次に、図2図4を参照しつつ、上記確率モデルを得るためのシミュレーションについて説明する。
【0033】
まず、図2には、シミュレーション上において設定されるアンテナFA(図1のアンテナ1に対応)と、仮想反射物体としての仮想車両FVとが示される。仮想車両FVはある一定位置に維持される。
【0034】
仮想アンテナFAは、所定範囲P内でもって多数の位置変更が行われ。図2に示す形態では、所定範囲Pは、原点位置(図1におけるアンテナ1の位置に対応)を中心としてX軸方向となる前後方向とY軸方向となる左右方向の水平方向に延びる2次元の平面内で位置変更を行うようにしてある。X軸方向は、図1におけるアンテナ1を通る自車両V1の前後方向に対応している。Y軸方向は、図1におけるアンテナ1を通る自車両V1の左右方向(車幅方向)に対応している。
【0035】
所定範囲Pは、原点位置を中心に前方および後方に略25cm程度の長さで、かつ原点位置を中心に左方および右方に略25cm程度の長さとされた略50cm四方の大きさに設定されている。X軸方向の略50cmの範囲は、加減速等による車両の前後方向の変位を想定したものとなっている。また、Y軸方向の略50cmの範囲は、車両が同じ走行レーン内で左右に25cm程度移動することを想定したものとなっている。
【0036】
所定範囲P内においてで位置変更される箇所は、所定単位毎に縦横の格子状に設定された極めて多数の箇所(例えば3000カ所程度)とされる。特に検証対象となる車載レーダがミリ波レーダのときは、その半波長の単位でもって位置変更するのが好ましい。
【0037】
図2においては、仮想アンテナFAが所定範囲Pの中心となる原点位置に位置している状態が示される。シミュレーションに際しては、原点位置にある仮想アンテナFAから、仮想車両FBに向けて検知素波(1本の検知波)が送信される。送信された検知素波が仮想車両FVから反射されて、仮想アンテナFAで受信される。この検知素波の送信から受信までに要した時間が遅延時間となる。
【0038】
シミュレーションに用いる検知素波は、干渉等のノイズの影響を受けにくい光線としてある。より具体的には、実施形態では、シミュレーションは、電波を光に見たてて、光の主要な伝搬経路を解析するレイトレース法によって行うようにした。
【0039】
仮想アンテナFAからは、少しずつ角度を代えて順次検知素波が送信されて、仮想車両FVのスキャンが行われる。仮想車両FVへ照射される検知素波のうち、もっとも左端の検知素波が符号β1で示され、もっとも右端の検知素波符号β2で示される。検知素波は、この検知素波β1とβ2との間で多数有し、その一部が図3中破線で示される。各検知素波毎に遅延時間がそれぞれ取得される。そして、取得された遅延時間とその数とが対応づけられて記憶され、この記憶されたデータが確率モデルとされる。なお、実施形態では、確率モデル作成のために用いられる遅延時間は、受信強度があらかじめ設定された所定値以上である場合に限定してあるが、取得される全ての遅延時間を用いて確率モデルを作成することもできる。
【0040】
原点位置において仮想車両FVのスキャンが終了した後は、仮想アンテナFAの位置が変更されて、上述した場合と同様に、多数の検知素波毎に遅延時間が取得されて、この遅延時間とその数とが対応づけられて記憶される。このようにして、仮想アンテナFAを所定範囲P内に設定された全ての位置でもって移動させて、全ての位置で取得された多くの遅延時間について、例えばある単位時間毎に段階分けしてその数が集計される。この集計に基づいて、相違する遅延時間毎にその取得個数とが対応づけられたデータからなる確率モデルが作成される。
【0041】
図3は、所定範囲Pの全ての位置について、取得された遅延時間(に対応した距離)の一例を模式的に示すものである。狭い所定範囲P内で仮想アンテナFAの位置を変更しただけでも、取得される遅延時間に大きな差を生じることが理解される。
【0042】
取得された多数の遅延時間に基づいて、相違する遅延時間毎にその取得個数を対応づけて記憶したデータが、確率モデルとして図4に示される。図4に示す確率モデルにおいては、遅延時間を所定の単位時間毎に段階的に区分けしたものとされているが、連続可変式なものとすることもできる。図4に示す確率モデルにおいて、最小遅延時間が下限値(最小遅延時間)とされ、最大遅延時間が上限値(最大遅延時間)とされる。なお、図4の確率モデルは、原点位置にある仮想アンテナFAと仮想車両FVとの最短距離を10mに設定したときのものである。
【0043】
ここで、上記最小遅延時間と最大遅延時間とがある一定の時間となるように収束するまで、所定範囲P内で極めて多数箇所について仮想アンテナFAの位置を変更することが要求される。仮想アンテナFAの位置変更箇所数(以下「標本数」と称する)がどの程度必要なのかを、標本数を種々変更して、それぞれについて最小遅延時間と最大遅延時間とを取得した。
【0044】
まず、標本数を5(原点位置+4隅の合計5箇所)としたときは、最小遅延時間に対応した最小距離は9.81m、最大遅延時間に対応した最大距離は13.75mであった。この5カ所の位置を含むようにして標本数を増大させた際に、取得された最小遅延時間に対応した最小距離と最大遅延時間に対応した最大距離とは次のとおりであった。
【0045】
標本数が100のときは、最小距離は9.74m、最大距離は14.50mであった。
【0046】
標本数が121のときは、最小距離は9.60m、最大距離は14.50mであった。
【0047】
標本数が441および2601のときは、それぞれ、最小距離は9.60m、最大距離は14.50mであった。
【0048】
上記の検証結果から、ある一定の時間に収束する最小遅延時間(最小距離)と最大遅延時間(最大距離)とを取得するには、仮想アンテナFAの標本数が121以上であればよい、ということが知得された。従来は、標本数を3000程度にする必要あるという認識であったが、実際には、それよりも1/10以下の極めて少ない標本数で十分である。標本数を十分に低減して、シミュレーションをより高速に行うことが可能になる。標本数を少なくすることと安定性(確実性)とを共に満足させるために、標本数を200~500とするのが好ましく、300~400とするのがより好ましい。
【0049】
ちなみに、実際の車載レーダを用いて、所定範囲Pと同様に設定された実際の所定範囲内でその標本数を3000として最小距離と最大距離とを取得する実験を行った。この実験の結果、取得された最小距離は9.60m、最大距離は14.50mであり、標本数を121以上とした場合のシミュレーションの結果と合致することが確認された。
【0050】
確率モデルは、仮想車両FVの方位(例えば5度~10度単位で変更)、仮想車両FVの向き(例えば5度~10度単位で360度の全周あるいは180度の半周囲)、仮想アンテナFAと仮想車両FVとの離間距離(例えば0.1m~0.5m単位での変更)、仮想車両FVの形状(大きさを含む形状の相違で、例えば乗用車、SUV、トラック、バス等の相違)という各種のパラメータ毎に作成される。シミュレーションにおいては、あらかじめプログラムを組んでおくことにより、上記各パラメータの組み合わせに応じた確率モデルを自動的に順次取得することが可能である。
【0051】
作成される確率モデルの数は、方位の変化数をN1、向きの変化数をN2、離間距離の変化数をN3、形状の変化数をN4、とすると、N1×N2×N3×N4となる。仮想アンテナFAと仮想車両FVとの「ある相対関係」に合致する確率モデルが存在しない場合は、上記「ある相対関係」に近似する複数の確率モデルを用いた補間によって、「ある相対関係」についての確率モデルを設定すればよい。
【0052】
実際の車載レーダについて、その特性を評価する検証を行う際には、あらかじめ取得されている確率モデルを用いた計算のみよって行うことができる(実際の実験は不要)。すなわち、確率モデルのうち、図4に示す下限値(最小遅延時間)と上限値(最大遅延時間)を、検証対象となる実際の車載レーダの距離計式に代入すればよいだけである。計算により得られた最小距離と最大距離とを確認して、車載レーダの特性が評価されることになる。このように、遅延時間の代入という手法によって、実際の車載レーダの特性評価を極めて短時間のうちに行うことができる。
【0053】
なお、検証のために選択される確率モデル中の遅延時間は、下限値と上限値とに限定されるものではない。例えば、取得個数のもっとも多い遅延時間を選択すれば、車載レーダによって検出される距離としてもっとも可能性の高い距離を知ることができる。また、確率モデルにおける全ての遅延時間を、車載レーダの距離計算式に代入して取得された計算距離を、確率モデルにおける遅延時間の取得個数と共に出力することにより、検出距離がどのような傾向で出現するのかを知ることもできる。
【0054】
車載レーダは、例えばパルスレーダやFMCWレーダ(周波数変調連続波レーダ)等、その方式や内部モデルの相違にかかわらず、検知素波毎の遅延時間は共通であることから、確率モデルは、車載レーダの方式の相違や内部モデルの相違にかかわらず共通に使用できるものとなり、汎用性の高いものとなる。
【0055】
次に、図5のフローチャートを参照しつつ、前述したシミュレーションを行うコンピュータによって確率モデルを作成する手順について説明する。図5のフローチャートは、図4に示す仮想アンテナFAと仮想車両FVとの相対位置関係をある一定の位置関係とし、かつ仮想車両FVをある形状(例えば4ドアのセダン型乗用車)に設定した1つのシミュレーション条件に対応したものである。また、仮想アンテナFAの所定範囲P内での変更順序はあらかじめ設定されている(例えば1番目は原点位置に設定)。なお、以下の説明でQはステップを示す。
【0056】
まず、Q1において、1番目の仮想アンテナFAの位置が設定される。この後Q2において、シミュレーションが実行される。すなわち、仮想アンテナFAから仮想車両FVに向けて1本ずつ検知素波が照射(送信)されて、照射された検知素波が仮想アンテナFAで受信されるまでの遅延時間が取得、記憶される。
【0057】
検知素波によって仮想車両FVのスキャンが終了すると、Q3に移行される。Q3では、取得された全ての検知素波毎の遅延時間とその数が記憶される。
【0058】
Q3の後、Q4において、仮想アンテナFAの所定範囲P内での位置選択が全て行われたか否かが判別される。当初はこの判別でNOとなり、Q5に移行される。Q5では、仮想アンテナFAの次の位置が選択される(位置変更される)。このQ5の後、Q2へ移行される。
【0059】
仮想アンテナFAの位置選択が全ての位置(実施形態では121箇所以上で、121カ所に近い位置数)について行われると、Q4の判別でYESとなる。Q4の判別でYESのときは、Q6において、取得された遅延時間とその数とにもとづいて、図4に示すような確率モデルが作成される。この後、Q7において、Q6で作成された確率モデルと、今回行われたシミュレーション条件とが対応づけられて記憶される。この記憶されるシミュレーション条件としては、仮想車両FVの方位、向き、原点位置にある仮想アンテナFAからの離間距離、仮想車両の形状とされ、この他、仮想アンテナFAの位置変更の標本数と変更箇所、さらに設定された所定範囲Pをも含めることができる。
【0060】
図5に示す制御は、シミュレーション条件を変更して多数回行われることになる。
【0061】
図6は、確率モデルを用いて、実際の車載レーダの特性評価を検証するための制御例を示す。まず、Q11において、検証対象となる車載レーダが選択される。このQ11の処理は、選択された車載レーダの遅延時間に基づく距離計算式の選択となる。
【0062】
Q11の後、Q12において、検証したい条件に対応した確率モデルが選択される。検証したい条件は複数あるのが通常であることから、確率モデルが複数選択される。選択された複数の確率モデルは、順番付けが行われる。
【0063】
Q12の後、Q13において、選択された複数の確率モデルの中から1番目の確率モデルが選択される。この後、Q14において、選択された確率モデルに記憶されている遅延時間の下限値を車載レーダの距離計算式に代入して、下限距離(最小距離)が算出される。次いで、Q15において、選択された確率モデルに記憶されている遅延時間の上限値を車載レーダの距離計算式に代入して、上限距離(最大距離)が算出される。
【0064】
Q15の後、Q16において、算出された下限距離と上限距離とが、現在選択されている確率モデル(のシミュレーション条件)と対応させて記憶される。この後、Q17において、Q16で記憶された内容が出力される(画面表示および/またはプリントアウト)
Q17の後、Q18において、全ての確率モデルが選択されたか否かが判別される。当初は、このQ18の判別でNOとなり、Q19へ移行される。Q19では、次の確率モデルが選択された後、Q14に移行される。
【0065】
Q12で選択された複数の確率モデルの全てについてQ14~Q17の処理が行われたときは、Q18の判別でYESとなり、制御が終了される。
【0066】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能である。例えば、シミュレーション対象となる仮想反射物体は、仮想車両FVに限らず、人間、二輪車等、適宜のものを選択できる。遅延時間を検出するアンテナ位置からの方向は、前方に限らず、後方、側方等、適宜の方向とすることができる。所定範囲Pとしては、前後方向、左右方向に加えて、上下方向を含めるようにしてもよい(車載レーダを搭載した車両の上下方向の動きに対応で、この場合は、所定範囲Pが前後方向、左右方向、上下方向の3次元のボックス状に設定される)。所定範囲Pは、前後方向、左右方向、上下方向のうち、任意の1つの範囲、任意の2つの組み合わせの範囲としてもよい。確率モデルに示す遅延時間は、その取得個数があらかじめ設定された所定値よりも小さい場合は、確率モデルから除外することもできる。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、車載レーダの特性評価を行うために適用して効果的である。
【符号の説明】
【0068】
V1:自車両
V2:前方車両
FA:仮想アンテナ
FV:仮想車両(仮想反射物体)
P:所定範囲
β1:検知素波
β2:検知素波
図1
図2
図3
図4
図5
図6