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  • 特許-車載レーダ装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】車載レーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20240711BHJP
   G01S 7/41 20060101ALI20240711BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20240711BHJP
   G01S 13/08 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
G08G1/16 C
G01S7/41
G01S13/931
G01S13/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020160394
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2022053645
(43)【公開日】2022-04-06
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080768
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100166327
【弁理士】
【氏名又は名称】舟瀬 芳孝
(74)【代理人】
【識別番号】100106644
【弁理士】
【氏名又は名称】戸塚 清貴
(72)【発明者】
【氏名】寺島 将太
(72)【発明者】
【氏名】奥木 友和
(72)【発明者】
【氏名】山田 秀行
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-223634(JP,A)
【文献】特開平08-124081(JP,A)
【文献】特開2004-191131(JP,A)
【文献】特開2017-174016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
G01C 21/00-21/36
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G01S 7/41
G01S 13/931
G01S 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前方に向けて送信された検知波が自車両の前方に存在する物体からの反射波として受信されるまでの遅延時間に基づいて該物体までの距離を取得するようにした車載レーダ装置であって、
検知波の受信状況を取得する受信状況取得手段と、
前記受信状況取得手段で取得された受信状況に基づいて、第1強受信波の受信から所定時間内に、第2強受信波が受信されると共に該第2強受信波から遅れて第3強受信波が受信されているときに、前記物体が1台の自動車であると判定する判定手段と、
を備えている、
ことを特徴とする車載レーダ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記判定手段は、前記第1強受信波が受信された時点と前記第2強受信波が受信された時点との間の時間差に基づいて、自動車の大きさを判別する、ことを特徴とする車載レーダ装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記第1強受信波が、自車両と同方向に走行している前方の自動車の後面からの反射波の受信波に対応し、
前記第2強受信波が、自車両と同方向に走行している前方の自動車のサイドミラーからの反射波の受信波に対応し、
前記第3強受信波が、自車両と同方向に走行している前方の自動車の前方での回折による回折波の受信波に対応している、
ことを特徴とする車載レーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前方の物体が自動車であることを判定できるようにした車載レーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近の車両では、例えば自動ブレーキ制御、追従式定速走行制御、ヘッドランプの照射範囲制御等、種々の車載機器での制御のためにレーダを搭載することが一般的となっている。
【0003】
前方障害物を検出するための車載レーダは、通常はもっぱら前方障害物までの距離を検出するものであり、前方障害物がどのような物体であるのかの識別(例えば車両であるのか、歩行者であるのか等の識別)は車載カメラを利用して行うのが一般的である。
【0004】
一方、特許文献1には、機械学習モデルを利用して、レーダによって前方障害物が車両であることを検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-16597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車載カメラは、夜間等の周囲環境が暗い環境下では識別能力が大幅に減少することになる。そして、暗い環境下での識別能力を高めるには、例えば赤外線カメラ等の高価なカメラを使用する必要にせまられることになる。
【0007】
この一方、車載レーダは、周囲環境が暗い夜間等においても検知性能にすぐれている。したがって、車載レーダによって自動車の識別を行えるようにすることは極めて好ましいものとなる。
【0008】
車載レーダによって車両の識別を行う特許文献1に記載のものは、機械学習モデルを利用することから、学習に多大な時間を要すると共に、制御系の負担も大きいものとなる。
【0009】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、機械学習モデルを利用することなく、極めて簡単に前方物体が自動車であることの判定を行えるようにした車載レーダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にあっては、基本的に、自車両の前方に存在する前方物体が自車両と同方向に走行する自動車(先行自動車)であるときには、自車両の車載レーダで受信される受信波が特有の受信状況を示す、という知見に基づいてなされたものである。
【0011】
すなわち、自動車は、左右一対のサイドミラーを有することと、大きな表面積を有する車体(特に左右一対の側面部)を有している。そして、自車両の前方に自車両と同方向に走行する自動車が存在する場合は、自車両の車載レーダが受信する受信波として、順次第1強受信波と第2強受信波とが受信され、さらに遅れて第3強受信波も受信されることになる。本発明では、このような受信状況を分析することにより、前方物体が自動車であるか否かを判定するようにしてある。
【0012】
具体的には、本発明にあっては次のような解決手法を採択してある。
【0013】
自車両の前方に向けて送信された検知波が自車両の前方に存在する物体からの反射波として受信されるまでの遅延時間に基づいて該物体までの距離を取得するようにした車載レーダ装置であって、
検知波の受信状況を取得する受信状況取得手段と、
前記受信状況取得手段で取得された受信状況に基づいて、第1強受信波の受信から所定時間内に、第2強受信波が受信されると共に該第2強受信波から遅れて第3強受信波が受信されているときに、前記物体が1台の自動車であると判定する判定手段と、
を備えている、
ようにしてある。上記解決手法によれば、機械学習モデルを利用することなく、極めて簡単に前方物体が1台の自動車であるか否かを判定することができる。また、前方物体が1台の自動車であるか否かをより確実に(精度良く)判定することができる。
【0014】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、次のとおりである。
【0015】
【0016】
前記判定手段は、前記第1強受信波が受信された時点と前記第2強受信波が受信された時点との間の時間差に基づいて、自動車の大きさを判別する、ようにすることができる。この場合、自動車の大きさを簡単に判定することができる。
【0017】
【0018】
前記第1強受信波が、自車両と同方向に走行している前方の自動車の後面からの反射波の受信波に対応し、
前記第2強受信波が、自車両と同方向に走行している前方の自動車のサイドミラーからの反射波の受信波に対応し、
前記第3強受信波が、自車両と同方向に走行している前方の自動車の前方での回折による回折波の受信波に対応している、
ようにすることができる。この場合、第1強受信波~第3強受信波がどのようなものであるのかが具体的に特定される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、機械学習モデルを利用することなく、極めて簡単に前方物体が自動車であることの判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】自車両に搭載したレーダからの検知波を前方の自動車に向けて照射している状況を示す図。
図2】前方に自動車が存在することに基づいて強受信波となる第1強反射~第3強反射が生じる状態を示す図。
図3】前方に自動車が存在する場合での受信波の受信状況を示す図。
図4】本発明の制御例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1において、自車両がV1で示される。自車両V1には、車載レーダが搭載されていて、そのアンテナが符号1で示され、そのコントローラ(制御ユニット)が符号Uで示される。また、自車両V1の前方に存在して自車両V1と同方向に走行している前方車両(図1では自動車)が符号V2で示される。
【0022】
アンテナ1から送信(照射)される検知波が前方車両V2で反射されて、アンテナ1で受信される。このアンテナ1での検知波の送信から受信までの遅延時間を、車載レーダに設定されている所定の計算式に代入することにより、前方車両V2までの距離が算出される。上記遅延時間が同じであれば、レーダ方式やその内部モデルの相違にかかわらず、算出される距離は同じである。
【0023】
自車両V1に搭載された車載レーダ(のコントローラU)は、前方物体が自動車であるか否かの判定を行うようになっている。この判定は、受信波を分析して、前方物体が自動車である場合に生じる特有の受信状況であるか否かをみることによって行われる。
【0024】
図2は、前方車両V2が自動車でありかつ自車両V1と同方向に走行している状況において、自車両V1のアンテナ1から前方へ照射された検知波が、前方車両V2で反射されてアンテナ1へどのように戻ってくるのかを模式的に示すものである。
【0025】
前方車両V2は、自動車であることから、左右一対のサイドミラー21を有すると共に、大きな表面積を有する車体(特に側面部)を有している。前方車両V2から戻ってきてアンテナ1で受信される受信波としては、第1強反射に基づく第1強受信波、第2強反射に基づく第2強受信波、第3強反射に基づく第3強受信波の3種類が存在する、ということが検証の結果確認された。
【0026】
第1強反射は、前記車両V2の後面での反射となり、第1強受信波として受信される。
【0027】
第2強反射は、サイドミラー21での反射となるが、直線的にアンテナ1へ戻るのではなく、前方車両V2の車体(特に側面部)に沿うようにしてアンテナ1へ戻るものであり、第2強受信波として受信される。
【0028】
第3強反射は、前方車両V2の前方での回折で、自車両V1に向けて直線的に戻るものではなく、前方車両V2の車体(特に側面部)に沿うようにしてアンテナ1へ戻るものであり、第3強受信波として受信される。
【0029】
ちなみに、オートバイや自転車においても左右一対のサイドミラーを有するが、大きな表面積を有する車体を有しないことから、第2強反射および第3強反射は発生しない、ということが確認された。
【0030】
図3は、検知波が送信されてから受信されるまでの間の遅延時間と、受信波の受信強度との関係を示すタイムチャートである。遅延時間は、距離に対応したものとなり、遅延時間が大きいほど距離が大きくなる。すなわち、遅延時間は検知波の往復時間となるので、遅延時間の半分の時間に対して検知波の伝播速度を乗算することにより、距離が算出される。
【0031】
この図3において、第1強反射に対応した第1強受信波が符号α1で示され、第2強反射に対応した第2強受信波が符号α2で示され、第3強反射に対応した第3強受信波が符号α3で示される。
【0032】
図3中、t4は、閾値としての所定時間である。所定時間t4は、市販されている大型自動車(例えばトラックやバス)の前後方向長さよりも若干大きい長さに対応した時間として設定されている。具体的には、所定時間t4は、距離にして20m程度の距離に対応するように設定されているが、実際に走行(市販)されている大型自動車の最大の長さに対応した距離となるように時間t4を設定すればよい。
【0033】
また、T1~T3は、それぞれ時間差を示す。時間差T1は、第1強受信波α1の検出時点と第3強受信波α3の検出時点との時間差である。時間差T2は、第1強受信波α1の検出時点と第2強受信波α2の検出時点との時間差である。時間差T3は、第2強受信波α2の検出時点と第3強受信波α3の検出時点との時間差を示す。T1=T2+T3である。
【0034】
時間差T2は、前方車両V2における後面からサイドミラー21までの距離を示す値として考えることができる。したがって、この時間差T2の大きさをみることによって、前方車両V2の大きさ(前後方向長さ)を推定することが可能となる。例えば、時間差T2に対応する距離に応じて、例えば小型車、中型車、大型車に区別することが可能である。なお、時間差T2が小さ過ぎるとき、あるいは大き過ぎるときは、前方車両V2が自動車ではない可能性が高いものとなる。
【0035】
次に、図4に示すフローチャートを参照しつつ。車載レーダのコントローラUによって前方物体が自動車であるか否かを判定するための制御例について説明する。図4に示す制御例では、所定時間となる閾値t4の他に、自動車の大きさを判定するために、閾値としての複数の時間t1~t3が設定されている。t1<t2<t3<t4である。時間t1は、距離にして1.5m程度の距離に対応している。t2は、距離にして4m程度の距離に対応している。t3は、距離にして7m程度の距離に対応している。
【0036】
以上のことを前提として、まず、Q1において、検知波が受信される。この後、Q2において、受信状況が分析される(図3に示すようなタイムチャートの作成に相当)。
【0037】
Q2の後、Q3において、第1強反射~第3強反射に対応した第1~第3強受信波α1~α3が受信されているか否かが判別される。なお、強受信波は、所定値以上の受信レベルのものとされる。Q3の判別でYESのときは、Q4において、第1強受信波α1が検出された時点と第3強受信波α3が検出された時点との間の時間差T1が、所定時間t4よりも小さいか否かが判別される。
【0038】
上記Q4の判別でYESのときは、前方物体が自動車であると判定されるときである。この後は、Q5~Q9の処理によって、自動車の大きさ(前後方向長さ)が判定される。すなわち、Q5において、第1強受信波α1の検出時点と第2強受信波α2の検出時点との時間差T2が、t1以上でt2未満であるか否かが判別される。このQ5の判別でYESのときは、前方物体が小型の自動車であると判定される。
【0039】
上記Q5の判別でNOのときは、Q7において、上記T2が、t2以上でt3未満であるか否かが判別される。このQ7の判別でYESのときは、Q8において、前方物体は中型の自動車であると判定される。上記Q7の判別でNOのときは、Q9において、前方物体は大型の自動車であると判定される。
【0040】
上記Q6、Q8、Q9での判定結果は、例えば、自車両V1の運転者から目視されや易い位置に設定されたディスプレイ2(図1参照)に表示される。自車両V1の運転者は、ディスプレイ2に表示された表示内容を見て、前方自動車の追い越し等に注意を払うことができる。
【0041】
前記Q3の判別でNOのとき、あるいはQ4の判別でNOのときは、そのまま終了される(前方物体が自動車であるという判定は行われない)。
【0042】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能である。例えば、自動車であると判定された際に、その大きさの区別を2種類あるいは4種類以上で行うこともでき、また、大きさの判定を行わないようにすることもできる。第1強受信波α1と第2強受信波αとに基づいて自動車であるか否かの判定を行うようにしてもよい(第3強受信波α3は無視)。すなわち、所定時間t4内に、第1強受信波α1と第2強受信波α2とが検出されたときに、前方物体が自動車であると判定することができる。
【0043】
図4に示す制御例では、先に第1強受信波α1~第3強受信波α3の存在を確認した後、3つの強受信波α1~α3が所定時間t4内に検出されたか否かを判別するようにししている。これとは逆に、第1強受信波α1が受信された時点を開始時点として、これから所定時間t4内に第2強受信波α2と第3強受信波α3とが検出されたか否かを確認するようにしてもよい。自動車の大きさ判定は、第1強受信波α1の検出時点から第3強受信波α3が検出されるまでの時間差に基づいて決定することも可能である。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、前方物体が自動車であるか否かの判定を車載レーダによって行うことができる。
【符号の説明】
【0045】
V1:自車両
V2:前方車両
1:アンテナ(自車両)
U:コントローラ(自車両)
2:ディスプレイ(自車両)
21:サイドミラー(前方車両)
図1
図2
図3
図4