(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】酵母エキス菌体残渣を含む乳代替組成物
(51)【国際特許分類】
A23C 11/10 20210101AFI20240711BHJP
A23L 11/60 20210101ALI20240711BHJP
A23L 11/65 20210101ALI20240711BHJP
A23L 31/15 20160101ALI20240711BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240711BHJP
【FI】
A23C11/10
A23L31/15
A23L5/00 J
(21)【出願番号】P 2023119306
(22)【出願日】2023-07-21
【審査請求日】2023-07-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000055
【氏名又は名称】アサヒグループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】乙志 昇
(72)【発明者】
【氏名】加藤 祐樹
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-135934(JP,A)
【文献】特開2007-252239(JP,A)
【文献】特開2018-078863(JP,A)
【文献】特開2022-074430(JP,A)
【文献】特開2005-245438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 11/10
A23L 31/15
A23L 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母エキス菌体残渣を含む乳代替組成物であって、該残渣が含有する遊離のグルタミン酸の総量が、該残渣の乾燥質量に対して、0.5質量%未満である、組成物。
【請求項2】
該残渣が含有する遊離のアミノ酸の総量が、該残渣の乾燥質量に対して、1質量%未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
該残渣が含有するリン酸の総量が、該残渣の乾燥質量に対して、0.1質量%未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
該残渣が、酵母の熱水抽出後の水不溶性画分である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
該残渣が含有する可溶性固形分が、該残渣の乾燥質量に対して、5質量%未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物を含む乳代替組成物であって、該分解物が含有する遊離のグルタミン酸の総量が、該分解物の乾燥質量に対して、0.4質量%未満である、組成物。
【請求項7】
該分解物が含有する遊離のアミノ酸の総量が、該分解物の乾燥質量に対して、1質量%未満である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
該分解物が含有するリン酸の総量が、該分解物の乾燥質量に対して、0.20質量%未満である、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物を含む乳代替組成物であって、該残渣が含有する可溶性固形分が、該残渣の乾燥質量に対して、5質量%未満である、請求項6に記載の組成物。
【請求項10】
細胞壁溶解酵素が、グルカナーゼである、請求項6に記載の組成物。
【請求項11】
細胞壁溶解酵素が、β-1,3、β-1,4、及び/又はβ-1,6活性を有するグルカナーゼである、請求項6に記載の組成物。
【請求項12】
細胞壁溶解酵素が、ストレプトマイセス由来のグルカナーゼである、請求項6に記載の組成物。
【請求項13】
細胞壁溶解酵素が、プロテアーゼ活性を有さないグルカナーゼである、請求項6に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1~
13のいずれかに記載の組成物を含む乳代替飲食品。
【請求項15】
さらに0.1~30質量%の油脂を含む、請求項
14に記載の乳代替飲食品。
【請求項16】
酵母エキス菌体残渣を含む乳代替組成物において、該残渣が含有する遊離のグルタミン酸の総量を、該残渣の乾燥質量に対して、0.5質量%未満に減少させることを含む、乳代替組成物の香味改善方法。
【請求項17】
酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物を含む乳代替組成物において、該分解物が含有する遊離のグルタミン酸の総量を、該分解物の乾燥質量に対して、0.4質量%未満に減少させることを含む、乳代替組成物の香味改善方法。
【請求項18】
酵母エキス菌体残渣の乳代替組成物としての使用であって、該残渣が含有する遊離のグルタミン酸の総量が、該残渣の乾燥質量に対して、0.5質量%未満である、使用。
【請求項19】
酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物の乳代替組成物としての使用であって、該分解物が含有する遊離のグルタミン酸の総量が、該分解物の乾燥質量に対して、0.4質量%未満である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母エキス菌体残渣又はその細胞壁溶解酵素分解物を含む乳代替組成物であって、該残渣又は該分解物が含有する遊離のアミノ酸(特に、グルタミン酸)の総量が所定量未満であることを特徴とする組成物、該組成物を含む乳代替飲食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、乳由来のアレルゲンの回避のため、ダイエット志向や健康志向による低脂肪又は無脂肪食品への需要の増大、あるいはビーガン食への需要の増大などから、乳原料に替えて、オーツ麦、大豆、アーモンドなどの植物由来の乳様代替物を用いた食品への注目が一層高まっている。しかしながら、これらの植物由来の乳様代替物は、通常、牛乳よりも高価であり、またアレルギー物質を含む食品として知られている。
【0003】
そのような植物由来の乳様代替物の他に、酵母素材由来の乳様代替物も報告されている。例えば、本出願人は酵母エキス製造後の残渣(酵母エキス菌体残渣)の細胞壁溶解酵素分解物を含む、酵母細胞壁分解物含有組成物の、乳様代替物としての使用を報告している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、酵母素材由来の乳様代替物は特徴的な香味(旨味、酸味)を有する。そのため、タンパク質補給を目的として、酵母素材由来の乳様代替物を5%程度の濃度で使用すると、強い香味によって直接飲用には適さないとの課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、酵母エキス菌体残渣又はその細胞壁溶解酵素分解物を含む乳代替組成物において、該残渣又は該分解物が含有する遊離のアミノ酸(特に、グルタミン酸)や有機酸(特に、リン酸)等の総量を所定量未満とすることで、特徴的な香味が低減され、乳代替組成物として直接飲用に供することができるようになることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
よって、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 酵母エキス菌体残渣を含む乳代替組成物であって、該残渣が含有する遊離のグルタミン酸の総量が、該残渣の乾燥質量に対して、0.5質量%未満である、組成物。
[2] 該残渣が含有する遊離のアミノ酸の総量が、該残渣の乾燥質量に対して、1質量%未満である、[1]に記載の組成物。
[3] 該残渣が含有するリン酸の総量が、該残渣の乾燥質量に対して、0.1質量%未満である、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4] 該残渣が、酵母の熱水抽出後の水不溶性画分である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の組成物。
[5] 該残渣が含有する可溶性固形分が、該残渣の乾燥質量に対して、5質量%未満である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の組成物。
[6] 酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物を含む乳代替組成物であって、該分解物が含有する遊離のグルタミン酸の総量が、該分解物の乾燥質量に対して、0.4質量%未満である、組成物。
[7] 該分解物が含有する遊離のアミノ酸の総量が、該分解物の乾燥質量に対して、1質量%未満である、[6]に記載の組成物。
[8] 該分解物が含有するリン酸の総量が、該分解物の乾燥質量に対して、0.20質量%未満である、[6]又は[7]に記載の組成物。
[9] 酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物を含む乳代替組成物であって、該残渣が含有する可溶性固形分が、該残渣の乾燥質量に対して、5質量%未満である、[6]~[8]のいずれか一項に記載の組成物。
[10] 該分解物が、以下:
(a)酵母エキス菌体残渣を、40~60℃、1~24時間、細胞壁溶解酵素で処理すること、及び
(b)(a)で得られた処理物を回収すること
を含む方法により得られたものである、[6]~[9]のいずれか一項に記載の組成物。
[11] 細胞壁溶解酵素が、グルカナーゼである、[6]~[10]のいずれか一項に記載の組成物。
[12] 細胞壁溶解酵素が、β-1,3、β-1,4、及び/又はβ-1,6活性を有するグルカナーゼである、[6]~[11]のいずれか一項に記載の組成物。
[13] 細胞壁溶解酵素が、ストレプトマイセス由来のグルカナーゼである、[6]~[12]のいずれか一項に記載の組成物。
[14] 細胞壁溶解酵素が、プロテアーゼ活性を有さないグルカナーゼである、[6]~[13]のいずれか一項に記載の組成物。
[15] [1]~[14]のいずれかに記載の組成物を含む乳代替飲食品。
[16] さらに0.1~30質量%の油脂を含む、[15]に記載の乳代替飲食品。
[17] 酵母エキス菌体残渣を含む乳代替組成物において、該残渣が含有する遊離のグルタミン酸の総量を、該残渣の乾燥質量に対して、0.5質量%未満に減少させることを含む、乳代替組成物の香味改善方法。
[18] 酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物を含む乳代替組成物において、該分解物が含有する遊離のグルタミン酸の総量を、該分解物の乾燥質量に対して、0.4質量%未満に減少させることを含む、乳代替組成物の香味改善方法。
[19] 酵母エキス菌体残渣の乳代替組成物としての使用であって、該残渣が含有する遊離のグルタミン酸の総量が、該残渣の乾燥質量に対して、0.5質量%未満である、使用。
[20] 酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物の乳代替組成物としての使用であって、該分解物が含有する遊離のグルタミン酸の総量が、該分解物の乾燥質量に対して、0.4質量%未満である、使用。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、安価で入手の容易な酵母エキス菌体残渣を原料として、乳代替組成物を提供することができる。本発明の組成物は、酵母エキス菌体残渣又はその細胞壁溶解酵素分解物が含有する遊離のアミノ酸(特に、グルタミン酸)や有機酸(特に、リン酸)等の総量を特定量未満に制御することで、酵母特有の特徴的な香味(特に旨味、酸味)が顕著に低減されるため、乳代替組成物として従来品よりも高濃度で種々の飲食品に配合することができる。したがって、本発明の組成物により、酵母由来のタンパク質、食物繊維、その他の栄養素等の摂取をより容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】試験例1において処方物1及び2に対する専門パネラー5名の官能評価の結果(平均値)を示したレーダーチャートである。
【
図2】試験例2において処方物3及び4に対する専門パネラー5名の官能評価の結果(平均値)を示したレーダーチャートである。
【
図3】試験例2において処方物5及び6に対する専門パネラー5名の官能評価の結果(平均値)を示したレーダーチャートである。
【
図4】試験例2において処方物7及び8に対する専門パネラー5名の官能評価の結果(平均値)を示したレーダーチャートである。
【
図5】試験例2において処方物9及び10に対する専門パネラー5名の官能評価の結果(平均値)を示したレーダーチャートである。
【
図6】試験例2において処方物11及び12に対する専門パネラー5名の官能評価の結果(平均値)を示したレーダーチャートである。
【
図7】試験例5において酵母エキス菌体残渣(比較例1、3-4、及び実施例1、3の組成物)に対する専門パネラー5名の官能評価の結果(平均値)を示したレーダーチャートである。
【
図8】試験例5において細胞壁溶解酵素分解物(比較例2、5-6、及び実施例2、4の組成物)に対する専門パネラー5名の官能評価の結果(平均値)を示したレーダーチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施態様では、酵母エキス菌体残渣を含む乳代替組成物であって、好ましくは、該残渣が含有する遊離のグルタミン酸の総量が、該残渣の乾燥質量に対して0.5質量%未満である、組成物を提供する。
【0011】
本発明において「乳代替組成物」とは、ヒトが飲食する乳(典型的には、牛乳)の替わりに使用し得る組成物を意味する。ヒトが飲食する乳とは、水分、タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルなどの栄養素と独特の乳風味を有した哺乳類の乳腺から分泌される白濁した液体であり、乳代替組成物はこれらの特徴の一つまたは複数を有して飲食される液体を意味する。乳代替組成物としては、一般的には大豆、アーモンド、オート麦、コメ、ココナッツなどの植物性原料から製造され、植物由来のタンパク質や脂質を含み、乳にはほとんど含まれない食物繊維を含むものもある。これら植物原料から製造されたもの単体で使用する場合もあれば、複数混合して使用することもあり、また動物由来の乳と混合して使う場合もある。本発明の乳代替組成物はまた、このような公知の植物性原料から製造された乳代替組成物の替わりに使用し得る。
【0012】
本明細書中で用いられる「酵母エキス菌体残渣」とは、酵母の細胞壁を含むものであって、酵母を抽出処理に付した後に得られる酵母菌体の残渣(不溶性画分)である限り特段限定されるものではない。具体的には、自己消化処理(プロテアーゼ処理)、熱水処理、酸処理、アルカリ処理、及び/又は、機械的破砕処理等の公知の抽出処理を酵母に対して行い、遠心分離等により分離した上清(水可溶性画分(酵母エキス))を除いた後に、残渣として生じる酵母菌体を意味する。酵母エキス菌体残渣は、好ましくは、酵母の熱水抽出後の酵母菌体の残渣(水不溶性画分)である。本発明に係る酵母エキス菌体残渣(水不溶性画分)は、好ましくは、可溶性固形分がその乾燥質量に対して5質量%未満である。可溶性固形分の可溶性とは、水に可溶性であることを意味し、可溶性固形分は、酵母エキス菌体残渣の乾燥質量に占める割合(質量%)として算出される。本発明に係る酵母エキス菌体残渣が含有する可溶性固形分の含有量は、例えば、後述の試験例4に記載の方法に従い測定できる。
また本明細書中で用いられる「酵母エキス菌体残渣の乾燥質量」とは、酵母エキス菌体残渣を公知の方法で乾燥させた後の酵母エキス菌体残渣の質量を意味する。乾燥方法としては特に制限なく公知の乾燥方法を用いることができ、常温加熱乾燥器、真空乾燥器、スプレードライ、凍結乾燥などを用いることができる。例えば、常温加熱乾燥器で105℃にて5時間乾燥させて試料を乾燥し、その残分を量ることで得られる。
【0013】
酵母エキス菌体残渣は、タンパク質、脂質、灰分、食物繊維などから構成される。タンパク質の含有率は、酵母エキス菌体残渣の乾燥質量に対して例えば20質量%から60質量%である。脂質の含有率は、酵母エキス菌体残渣の乾燥質量に対して例えば1質量%から10質量%である。灰分の含有率は、酵母エキス菌体残渣の乾燥質量に対して例えば0質量%から10質量%である。食物繊維の含有率は、酵母エキス菌体残渣の乾燥質量に対して例えば10質量%から60質量%である。一般的な栄養成分の他にも酵母エキス菌体残渣には、β-グルカンやα-マンナンといった生理機能が報告される成分も含まれている。β-グルカンは、D-グルコースがβ-1,3結合及びβ-1,6結合により重合した多糖類であり、人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分のため食物繊維として分類される。α-マンナンは、D-マンノースがα1,6-結合、α1,2-結合、又はα1,3-結合により重合した多糖類であり、人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分のため食物繊維として分類される。β-グルカンの含有率は、酵母エキス菌体残渣の乾燥質量に対して例えば10質量%から40質量%である。α-マンナンの含有率は、酵母エキス菌体残渣の乾燥質量に対して例えば10質量%から40質量%である。各成分の含有量は、公知の分析法により測定することができる。タンパク質の含有量は、例えば、ケルダール法により窒素量として測定し、該窒素量に6.25の換算係数を乗じて求めることができる。脂質の含有量は、例えば、酸分解法で定量することができる。灰分の含有量は、直接灰化法に定量することができる。食物繊維の含有量は、例えば、プロスキー法(酵素-重量法)によって、または高速液体クロマトグラフ法(酵素-HPLC法)によって定量することができる。α-マンナンの含有量は、例えば、マンナンを加水分解して生成するマンノースを定量することで測定することができる。β-グルカンの含有量は、例えば、(1-3),(1-4)-β-グルカン測定キット(Megazyme 社製)を用いて測定することができる。
【0014】
このようにして得られた酵母菌体の残渣(水不溶性画分)において、遊離のアミノ酸(特に、グルタミン酸)や有機酸の総量が後述の所定量以上である場合、必要に応じて適切な精製・洗浄操作を行うことにより、遊離のアミノ酸(特に、グルタミン酸)や有機酸の総量が後述の所定量未満である、本発明に係る酵母エキス菌体残渣を得ることができる。そのような精製・洗浄操作としては、例えば、抽出処理や分離処理の繰り返しや、洗浄水の増量等が挙げられる。
【0015】
酵母としては、食品分野に適用しうるものである限り特段限定されるものではないが、例えば、ビール製造用の酵母、パン製造用の酵母、清酒製造用の酵母等が挙げられる。或いは、酵母としては、これらに限定されるものではないが、例えば、サッカロミセス、サッカロミコデス、ロドトルラ、エンドミコプシス、ネマトスポラ、プレタノミセス、キャンディダ、トルロプシス等の属に属するものが挙げられる。中でも、サッカロミセス・セレビシエ、サッカロミセス・パストリアヌス、及び、サッカロミセス・バヤヌスであることが好ましい。これらは単独であっても、2種類以上の組み合わせであってもよい。
【0016】
本発明に係る酵母エキス菌体残渣は、遊離のグルタミン酸の総量が所定量未満に低減されたものであることを特徴とする。具体的に、本発明に係る酵母エキス菌体残渣が含有する遊離のグルタミン酸の総量は、該残渣の乾燥質量に対して、0.5質量%未満であり、好ましくは0.4質量%未満であり、より好ましくは0.3質量%未満である。グルタミン酸は酸性アミノ酸であり酸味に寄与し、そのナトリウム塩は強い旨味を持つことが知られているが、本発明者らは酵母エキス菌体残渣においてその含有量を0.5質量%未満に制御することにより、酵母特有の特徴的な香味が顕著に低減されることを見出した。
【0017】
また、本発明に係る酵母エキス菌体残渣は、遊離のグルタミン酸のみならず、遊離のアミノ酸の総量が所定量未満に低減されたものであるのが好ましい。具体的に、本発明に係る酵母エキス菌体残渣が含有する遊離のアミノ酸の総量が、該残渣の乾燥質量に対して、1質量%未満であるのが好ましく、0.8質量%未満であるのがより好ましく、0.5質量%未満であるのがさらに好ましい。
【0018】
なお本発明において、「遊離のアミノ酸の総量」とは、後述の実施例においてUPLC分析(ラベル化法)によって測定したように、ヒスチジン(His)、アスパラギン(Asn)、セリン(Ser)、グルタミン(Gln)、アルギニン(Arg)、グリシン(Gly)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、トレオニン(Thr)、アラニン(Ala)、γ-アミノ酪酸(GABA)、プロリン(Pro)、システイン(Cys)、リシン(Lys)、チロシン(Tyr)、メチオニン(Met)、バリン(Val)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、フェニルアラニン(Phe)、及びトリプトファン(Trp)の各量の合計を意味し、例えば、後述の実施例に記載のように、UPLC分析(ラベル化法)によって得られた各測定値より算出することができる。なお遊離アミノ酸は、L-体、D-体、DL-体のいずれであってもよいが、好ましくはL-体である。
【0019】
またアミノ酸は、苦味、甘味などにも関与していることが知られている。したがって、本発明に係る酵母エキス菌体残渣は、苦味、及び/又は甘味を呈することが知られている遊離のアミノ酸の総量もまた、所定量未満に低減されたものであることが好ましい。したがって、例えば、本発明に係る酵母エキス菌体残渣においては、苦味を呈することが知られている遊離のアミノ酸であるフェニルアラニン、チロシン、アルギニン、イソロイシン、ロイシン、バリン、メチオニン、及びリジンの総量が、該残渣の乾燥質量に対して、0.07質量%未満であるのが好ましく、0.05質量%未満であるのがより好ましく、0.03質量%未満であるのがさらに好ましい。また甘味を呈することが知られている遊離のアミノ酸であるアラニン及びプロリンの総量が、該残渣の乾燥質量に対して、0.2質量%未満であるのが好ましく、0.1質量%未満であるのがより好ましく、0.05質量%未満であるのがさらに好ましい。本発明に係る酵母エキス菌体残渣において、遊離のアミノ酸の総量や、苦味や甘味を呈することが知られている遊離のアミノ酸の総量を制御することにより、酵母特有の特徴的な香味のさらなる低減が期待できる。
【0020】
本発明に係る酵母エキス菌体残渣はまた、有機酸の総量が所定量未満に低減されたものであるのが好ましい。具体的に、本発明に係る酵母エキス菌体残渣が含有する有機酸は、典型的には、リン酸、クエン酸であり、リン酸の含有量は、該残渣の乾燥質量に対して、0.1質量%未満であるのが好ましく、0.05質量%未満であるのがより好ましい。またクエン酸の含有量は、該残渣の乾燥質量に対して、0.03質量%未満であるのが好ましく、0.02質量%未満であるのがより好ましい。本発明に係る酵母エキス菌体残渣において、有機酸の総量を制御することにより、酵母特有の特徴的な香味のさらなる低減が期待できる。
【0021】
本発明の酵母エキス菌体残渣を含む乳代替組成物は、適切な媒質(好ましくは、水)中に、酵母エキス菌体残渣を適宜な濃度、例えば約0.001~約30質量%、好ましくは約5~約20質量%含む白濁した液体又はペーストの形態であってよい。あるいは、本発明の乳代替組成物は、酵母エキス菌体残渣(水不溶性画分)自体であってもよく、好ましくは可溶性固形分が5質量%未満の粉末の形態であってもよい。本発明の組成物を利用することにより、酵母由来のタンパク質や食物繊維といった栄養素を摂取できる。
【0022】
本発明の別の実施態様では、酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物を含む乳代替組成物であって、好ましくは、該分解物が含有する遊離のグルタミン酸の総量が、該分解物の乾燥質量に対して0.4質量%未満である、組成物を提供する。なお「酵母エキス菌体残渣」、「乳代替組成物」とは、上記のとおりである。
また本明細書中で用いられる「酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物の乾燥質量」とは、酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物を公知の方法で乾燥させた後の酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物の質量を意味する。乾燥方法としては特に制限なく公知の乾燥方法を用いることができ、常温加熱乾燥器、真空乾燥器、スプレードライ、凍結乾燥などを用いることができる。例えば、常温加熱乾燥器で105℃にて5時間乾燥させて試料を乾燥し、その残分を量ることで得られる。
【0023】
本発明に係る細胞壁溶解酵素分解物は、遊離のグルタミン酸の総量が所定量未満に低減されたものであることを特徴とする。具体的に、本発明に係る細胞壁溶解酵素分解物が含有する遊離のグルタミン酸の総量は、該分解物の乾燥質量に対して、0.4質量%未満であり、好ましくは0.3質量%未満であり、より好ましくは0.1質量%未満である。
【0024】
また、本発明に係る細胞壁溶解酵素分解物は、遊離のグルタミン酸のみならず、遊離のアミノ酸の総量が所定量未満に低減されたものであるのが好ましい。具体的に、本発明に係る細胞壁溶解酵素分解物が含有する遊離のアミノ酸の総量が、該分解物の乾燥質量に対して、1質量%未満であるのが好ましく、0.5質量%未満であるのがより好ましく、0.3質量%未満であるのがさらに好ましい。
【0025】
また本発明に係る細胞壁溶解酵素分解物においては、苦味を呈することが知られている遊離のアミノ酸であるフェニルアラニン、チロシン、アルギニン、イソロイシン、ロイシン、バリン、メチオニン、及びリジンの総量が、該分解物の乾燥質量に対して、0.1質量%未満であるのが好ましく、0.07質量%未満であるのがより好ましく、0.05質量%未満であるのがさらに好ましい。また甘味を呈することが知られている遊離のアミノ酸であるアラニン及びプロリンの総量が、該分解物の乾燥質量に対して、0.2質量%未満であるのが好ましく、0.1質量%未満であるのがより好ましく、0.05質量%未満であるのがさらに好ましい。本発明に係る細胞壁溶解酵素分解物において、遊離のアミノ酸の総量や、苦味や甘味を呈することが知られている遊離のアミノ酸の総量を制御することにより、酵母特有の特徴的な香味のさらなる低減が期待できる。
【0026】
本発明に係る細胞壁溶解酵素分解物はまた、有機酸の総量が所定量未満に低減されたものであるのが好ましい。具体的に、本発明に係る細胞壁溶解酵素分解物が含有する有機酸は、典型的には、リン酸、クエン酸であり、リン酸の含有量は、該分解物の乾燥質量に対して、0.20質量%未満であるのが好ましく、0.15質量%未満であるのがより好ましく、0.10質量%未満がさらに好ましい。またクエン酸の含有量は、該分解物の乾燥質量に対して、0.02質量%未満であるのが好ましく、0.01質量%未満であるのがより好ましい。本発明に係る細胞壁溶解酵素分解物において、有機酸の総量を制御することにより、酵母特有の特徴的な香味のさらなる低減が期待できる。
【0027】
本明細書中で用いられる「細胞壁溶解酵素」とは、酵母の細胞壁の一部又は全部を分解することが可能な酵素、又は酵素の組み合わせを意味する。細胞壁溶解酵素は、エンド活性を有するものが好ましく、エンド活性のみを有するものがより好ましい。細胞壁溶解酵素としては、プロテアーゼ活性が低いか、ほとんどないか、又は全くない(即ち、プロテアーゼ活性を有さない)ものが好ましい。或いは、細胞壁溶解酵素としてプロテアーゼ活性を有するものを用いる場合、又はプロテアーゼ活性を有する酵素が共存している場合は、プロテアーゼ活性が抑えられる条件(例えば、pH、温度等)下で用いることが好ましい。
【0028】
細胞壁溶解酵素は、例えば、天然物由来のものであってもよいし、市販されているものであってもよいし、遺伝子組み換え技術等を用いた方法により得たものであってもよい。
【0029】
細胞壁溶解酵素としては、これらに限定されるものではないが、例えば、グルカナーゼ、マンナナーゼ等が挙げられる。グルカナーゼ(好ましくは、エンド活性を有する(好ましくはエンド活性のみを有する)、及び/又はプロテアーゼ活性を有さないグルカナーゼ)は、例えば、β-1,3、β-1,4、及び/又はβ-1,6活性を有するグルカナーゼであり、好ましくはストレプトマイセス属又はタラロマイセス属由来のグルカナーゼであり、より好ましくはストレプトマイセス属由来のグルカナーゼであり、更に好ましくは、ストレプトマイセス由来であり、かつβ-1,3、β-1,4、及び/又はβ-1,6活性を有するグルカナーゼであり、より更に好ましくは、ストレプトマイセス由来であり、β-1,3、β-1,4、及び/又はβ-1,6活性を有し、かつエンド活性を有する(好ましくはエンド活性のみを有する)グルカナーゼであり、なお更に好ましくは、ストレプトマイセス由来であり、β-1,3、β-1,4、及び/又はβ-1,6活性を有し、エンド活性を有し、かつプロテアーゼ活性を有さないグルカナーゼ(例えば、ナガセ産業(株)製のデナチームGEL1/R等)であり、なお更に好ましくは、ストレプトマイセス由来であり、β-1,3、β-1,4、及び/又はβ-1,6活性を有し、エンド活性のみを有し、かつプロテアーゼ活性を有さないグルカナーゼである。
【0030】
本発明の一実施態様では、細胞壁溶解酵素が、グルカナーゼである。
【0031】
本発明の一実施態様では、細胞壁溶解酵素が、β-1,3、β-1,4、及び/又はβ-1,6活性を有するグルカナーゼである。
【0032】
本発明の一実施態様では、細胞壁溶解酵素が、ストレプトマイセス由来のグルカナーゼである。
【0033】
本発明の好ましい一実施態様では、細胞壁溶解酵素が、ストレプトマイセス由来であり、かつβ-1,3、β-1,4、及び/又はβ-1,6活性を有するグルカナーゼである。
【0034】
本発明の一実施態様では、細胞壁溶解酵素が、エンド活性を有する(好ましくは、エンド活性のみを有する)グルカナーゼである。
【0035】
本発明の好ましい一実施態様では、細胞壁溶解酵素が、ストレプトマイセス由来であり、β-1,3、β-1,4、及び/又はβ-1,6活性を有し、かつエンド活性を有する(好ましくは、エンド活性のみを有する)グルカナーゼである。
【0036】
本発明の一実施態様では、細胞壁溶解酵素が、プロテアーゼ活性を有さないグルカナーゼである。
【0037】
本発明の好ましい一実施態様では、細胞壁溶解酵素が、ストレプトマイセス由来であり、β-1,3、β-1,4、及び/又はβ-1,6活性を有し、エンド活性を有し(好ましくは、エンド活性のみを有し)、かつプロテアーゼ活性を有さないグルカナーゼである。
【0038】
本明細書中で用いられる「細胞壁溶解酵素分解物」とは、酵母エキス菌体残渣を細胞壁溶解酵素で分解することにより得られるもの、具体的には、酵母エキス菌体残渣に含まれる酵母細胞壁を細胞壁溶解酵素で分解することにより得られるものを意味する。
【0039】
酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物は、タンパク質、脂質、灰分、食物繊維などから構成される。タンパク質の含有率は、酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物の乾燥質量に対して例えば20質量%から60質量%である。脂質の含有率は、酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物の乾燥質量に対して例えば1質量%から10質量%である。灰分の含有率は、酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物の乾燥質量に対して例えば0質量%から10質量%である。食物繊維の含有率は、酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物の乾燥質量に対して例えば10質量%から60質量%である。一般的な栄養成分の他にも酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物には、β-グルカンやα-マンナンといった生理機能が報告される成分も含まれている。β-グルカンは、D-グルコースがβ-1,3結合及びβ-1,6結合により重合した多糖類であり、人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分のため食物繊維として分類される。α-マンナンは、D-マンノースがα1,6-結合、α1,2-結合、又はα1,3-結合により重合した多糖類であり、人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分のため食物繊維として分類される。β-グルカンの含有率は、細胞壁溶解酵素に含まれるグルカナーゼのエキソ活性によって分解されて変動するが、酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物の乾燥質量に対して例えば0質量%から40質量%である。α-マンナンの含有率は、酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物の乾燥質量に対して例えば10質量%から40質量%である。各成分の含有量は、上記のとおり、公知の分析法により測定することができる。
【0040】
「細胞壁溶解酵素分解物」を得る方法としては、これらに限定されるものではないが、例えば、当業者に公知の方法、実施例に記載の方法、若しくは以下:
(a)酵母エキス菌体残渣を細胞壁溶解酵素で処理すること、及び
(b)(a)で得られた処理物を回収すること
を含む方法、又はこれらに類似する方法が挙げられる。
【0041】
本発明の別の実施態様では、
前記分解物が、以下:
(a)酵母エキス菌体残渣を、約40~約60℃、約1~約24時間、細胞壁溶解酵素(好ましくは、グルカナーゼ)で処理すること、及び
(b)(a)で得られた処理物を回収すること
を含む方法により得られたものである。
【0042】
上記(a)における「酵母エキス菌体残渣」は、上述のとおりであり、好ましくは、酵母の熱水抽出後の酵母菌体の残渣(水不溶性画分)であり、好ましくは、可溶性固形分がその乾燥質量に対して5質量%未満である、酵母エキス菌体残渣が用いられる。
【0043】
上記(a)における「細胞壁溶解酵素」は、上述のとおりであり、好ましくは、グルカナーゼである。
【0044】
上記(a)における「処理」は、細胞壁溶解酵素が酵母エキス菌体残渣に含まれる酵母細胞壁を分解することができる条件であれば特段限定されるものではなく、酵母細胞壁の由来、細胞壁溶解酵素の種類及び/又はその量、所望する特性等に応じて適宜変更することができる。該処理は、通常は、所望の溶媒(例えば、水)中で行われる。例えば、酵母エキス菌体残渣を溶媒(例えば、水)中に懸濁させた懸濁液を用いて行われる。該懸濁液は、必要に応じて、殺菌処理(例えば、加熱滅菌、濾過滅菌等)に付してもよい。酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素での処理は、例えば、0超~約100℃未満(好ましくは約10~約70℃、より好ましくは約25~約65℃、更に好ましくは約40~約60℃)、約0.5~約120時間(好ましくは約0.5~約60時間、より好ましくは約1~約24時間、更に好ましくは約3時間~約24時間、より更に好ましくは約12~約24時間)、pH約1~約12(好ましくは約2~約10、より好ましくは約3~約8、更に好ましくは約4~約6)で実施することができる。
上記処理の後、細胞壁溶解酵素は、必要に応じて、高温処理、酸又はアルカリ処理等により、失活させてもよい。
【0045】
上記(b)における、(a)で得られた処理物は、残渣(不溶性画分)を含めたその全体をそのまま「酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物」として用いてもよいし、必要に応じて、更に精製(例えば、HPLC、限外濾過等)、濃縮(例えば、風乾、減圧濾過等)、殺菌(例えば、加熱滅菌、濾過滅菌等)、乾燥(例えば、風乾、加熱、減圧、スプレードライ、フリーズドライ等)等を実施して得たものを「酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物」として用いてもよい。なお、これら工程における条件は、当業者が適宜調整しうる。
【0046】
上記(b)における、(a)で得られた処理物は、残渣(不溶性画分)を含めたその全体をそのまま、本発明の乳代替組成物として用いてもよい。あるいは本発明の酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物を含む乳代替組成物は、適切な媒質(好ましくは、水)中に、該分解物を適宜な濃度、例えば乾燥質量基準で約0.001~約30質量%、好ましくは約5~約20質量%含む白濁した液体又はペーストの形態であってよい。あるいは、本発明の乳代替組成物は、該分解物自体であってもよく、本発明の組成物を利用することにより、酵母由来のタンパク質や食物繊維といった栄養素を摂取できる。
【0047】
上記で述べた酵母エキス菌体残渣又はその細胞壁溶解酵素分解物は、乳(牛乳)を含む飲食品に、乳に替えて使用することができる。例えば、本発明の「乳代替組成物」は、飲食品等の中に配合してもよいし、調理前、調理中及び/若しくは調理後の飲食品と混合してもよい。
【0048】
本発明の一実施態様では、本発明の酵母エキス菌体残渣又はその細胞壁溶解酵素分解物と、油脂及び/又は糖質とを含む、乳代替飲食品を提供する。本発明の乳代替飲食品における酵母エキス菌体残渣又はその細胞壁溶解酵素分解物の配合量は、飲食品の形態によって異なるため特に限定されないが、乳代替飲食品の質量に対して、酵母エキス菌体残渣又はその細胞壁溶解酵素分解物の乾燥質量として概ね1~30質量%とすることができる。本発明の乳代替飲食品は、酵母ミルク(Yeast based milk)として飲用に供してもよく、また乳代替品として調理時に使用してもよい。本発明の乳代替飲食品は、タンパク質を主成分とし適度に油脂を含み乳様の外観を呈する酵母を主原料とした新しい乳代替飲食品となる。原料に動物由来原料を使わなければ、動物性食品の摂取を避けるベジタリアンやビーガン向けの飲食品となる。原料に微生物を用いて生産した油脂を用いた場合、動物も植物も使用しない新しい乳代替飲食品となる。
酵母ミルクとして飲用に供する際の酵母エキス菌体残渣又はその細胞壁溶解酵素分解物の配合量は特に限定されないが、酵母ミルクの質量に対して、酵母エキス菌体残渣又はその細胞壁溶解酵素分解物の乾燥質量として概ね1~30質量%、好ましくは2~20質量%、さらに好ましくは5~10質量%とすることができる。酵母ミルクにおける酵母エキス菌体残渣又はその細胞壁溶解酵素分解物は、より多く配合するとより多くの酵母由来のタンパク質、食物繊維、その他の栄養素等の摂取を効率的に行える。一方、配合量が増えると酵母ミルクの粘性が高まるが、酵母エキス菌体残渣又はその細胞壁溶解酵素分解物の配合量が上記の範囲であれば、酵母ミルクとしての好ましい口当たりを保ちつつ、酵母由来のタンパク質、食物繊維、その他の栄養素等の摂取を効率的に行うことができる飲料にすることができる。
乳代替品として調理時に使用される際は、例えば、グラタン、菓子等の食品で使用されうる。
【0049】
本明細書中で用いられる「油脂」としては、これらに限定されるものではないが、植物油脂、動物油脂、加工油脂、例えば、食用サフラワー油、食用ぶどう油、食用大豆油、食用ひまわり油、食用とうもろこし油、食用綿実油、ごま油、食用なたね油、食用こめ油、食用落花生油、食用オリーブ油、食用パーム油、食用パームオレイン、食用パームステアリン、食用パーム核油、食用やし油、食用調合油、香味食用油、牛脂、豚脂、鶏油、魚油、乳脂、水素添加油脂、酵母などの微生物によって生産された油脂などが挙げられる。
【0050】
本発明の乳代替飲食品に含まれる油脂の量は、飲食品の形態によって異なるため特に限定されないが、乳代替飲食品の質量に対して、概ね0.1~30質量%である。
酵母ミルクとして飲用に供する際の油脂の量は、酵母ミルクの質量に対して、概ね0.1~30質量%であり、好ましくは1~10質量%、より好ましくは2~5質量%とすることができる。酵母ミルクにおいて、油脂はより多く配合するとよりコクや満足感、飲み口のなめらかさが得られる。一方、配合量が増えすぎると、酵母ミルクとしての飲みやすさの低下や、摂取するエネルギーが増えすぎるといった好ましくない影響もあるが、油脂の配合量が上記の範囲であれば、酵母ミルクにコクや満足感、飲み口のなめらかさを付与しつつ、飲みやすく、適度なエネルギー摂取を行うことができる飲料にすることができる。
酵母ミルクとして飲用に供する際には、酵母エキス菌体残渣又はその細胞壁溶解酵素分解物及び油脂に加えて、適切な媒質(好ましくは、水)を配合することができる。酵母ミルクにおける媒質(好ましくは、水)の配合量は、酵母ミルクの質量に対して、概ね30~97質量%であり、好ましくは40~95質量%、より好ましくは45~93質量%とすることができる。酵母ミルクにおいて、媒質(好ましくは、水)の配合量が上記の範囲であれば、酵母エキス菌体残渣又はその細胞壁溶解酵素分解物及び油脂が媒質に均質に分散した口当たりの良い飲料にすることができる。
【0051】
本明細書中で用いられる「糖質」とは、例えば、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類、オリゴ糖、多糖類、でん粉分解物、還元でん粉分解物等が挙げられ、これらは、単独であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。糖質としては、これらに限定されるものではないが、例えば、ケトトリオース、アルドトリオース、エリトルロース、リブロース、キシルロース、リキソース、デオキシリボース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、フコース、フクロース、ラムノース、セドヘプツロース、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ツラノース、セロビオース、ラフィノース、マルトトリオース、アカルボース、スタキオース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖、グリコーゲン、デンプン、セルロース、デキストリン、コーンシロップ、粉飴、グルカン等が挙げられ、これらは、単独であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0052】
本発明の乳代替飲食品は、これらに限定されるものではないが、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、pH調整剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、界面活性剤、香料等の添加剤を更に含むことができる。これら添加剤は、例えば公知のものを使用することができるし、その使用量等は、目的に応じて当業者が適宜調整しうる。
【0053】
或いは、本発明の「乳代替組成物」を適用しうるか又は含む飲食品としては、これらに限定されるものではないが、例えば、乳(例えば、牛乳、豆乳、アーモンドミルク、オールミルク、ココナッツミルクなど)又は粉乳を含んでいるか又は含む予定のある、飲料や食品であり、例えば、スープ、ドレッシング類、半固体状ドレッシング、マヨネーズ、菓子類、チョコレート、マーガリン、ファットスプレッド、アイスクリーム、ラクトアイス、アイスミルク、生クリーム、パン、レトルト食品、エキス調味料、油脂加工品、油脂調製品、チーズ、チーズフード、プロセスチーズ、プリンその他の加工食品等が挙げられる。
【0054】
本発明の「乳代替組成物」の適用量は、本発明の目的を達成することができる限り特段限定されるものではない。飲食品等又はこれらを加工したものの全量に対して、酵母エキス菌体残渣又はその細胞壁溶解酵素分解物(乾燥質量)として、例えば、約0.001~約30質量%であることができ、約0.01~約20質量%であることが好ましく、約0.1~約15質量%であることがより好ましい。
【0055】
本発明の別の実施態様では、酵母エキス菌体残渣を含む乳代替組成物において、該残渣が含有する遊離のグルタミン酸の総量を、該残渣の乾燥質量に対して、0.5質量%未満に減少させることを含む、乳代替組成物の香味改善方法を提供する。
本発明の別の実施態様では、酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物を含む乳代替組成物において、該分解物が含有する遊離のグルタミン酸の総量を、該分解物の乾燥質量に対して、0.4質量%未満に減少させることを含む、乳代替組成物の香味改善方法を提供する。
本発明の別の実施態様では、酵母エキス菌体残渣の乳代替組成物としての使用であって、該残渣が含有する遊離のグルタミン酸の総量が、該残渣の乾燥質量に対して、0.5質量%未満である、使用を提供する。
本発明の別の実施態様では、酵母エキス菌体残渣の細胞壁溶解酵素分解物の乳代替組成物としての使用であって、該分解物が含有する遊離のグルタミン酸の総量が、該分解物の乾燥質量に対して、0.4質量%未満である、使用を提供する。
これら本発明の実施態様については、上述の酵母エキス菌体残渣又はその細胞壁溶解酵素分解物を含む乳代替組成物の実施態様についてした説明を同様に適用することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、これら実施例は、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0057】
[比較例1]
乾燥酵母(アサヒグループ食品(株)製、ハイパーイーストHG-DY)を熱水抽出し、ノズル式連続遠心分離機で酵母エキスと分離して得た重液(不溶性画分)を125℃、40秒の条件で殺菌し、スプレードライして酵母エキス菌体残渣を比較例1の組成物として得た。
【0058】
[比較例2]
比較例1で得られた酵母エキス菌体残渣を脱イオン水に懸濁したスラリー(固形分16%)をオートクレーブにて殺菌(121℃、20分)し、50℃、pH5.3の条件下で酵母エキス菌体残渣の乾燥質量に対して0.2質量%のグルカナーゼ(ナガセ産業(株)製、デナチームGEL1/R)を加え、50℃、18時間処理した。その後、処理物を約80℃に加熱してグルカナーゼを失活させ、減圧濃縮機を用いて処理物を30質量%の濃度になるまで減圧濃縮し、スプレードライをすることで、細胞壁溶解酵素分解物を比較例2の組成物として得た。
【0059】
これら比較例1、2の組成物は、特許文献1の実施例1に従って調製した。
【0060】
[実施例1]
比較例1で得られた酵母エキス菌体残渣を水で懸濁したスラリー(固形分16%)を調製した。ノズル式連続遠心分離機を3台直列に配して加水しながら固液分離を行ない、可溶性成分を除去した重液を得た。得られた重液を125℃、40秒の条件で殺菌し、スプレードライによって酵母エキス菌体残渣を実施例1の組成物として得た。
【0061】
[実施例2]
実施例1と同様にして調製した殺菌後重液を50℃、pH5.3の条件に調整し、乾燥質量に対して0.2質量%のグルカナーゼ(ナガセ産業(株)製、デナチームGEL1/R)を加え、50℃、18時間処理した。処理物を125℃、40秒の条件で処理して殺菌と同時にグルカナーゼを失活し、スプレードライによって、細胞壁溶解酵素分解物を実施例2の組成物として得た。
【0062】
[試験例1]
表1に示した組成に従って原料を混合し、均一機(ホモゲナイザーLAB1000、(株)エスエムテー:20MPa・2回)で乳化し、オートクレーブにて殺菌(121℃、20分)した乳代替組成物の処方物1および処方物2を得た。処方物1、処方物2ともに常温で一定期間(3日間)以上、白濁した乳化状態の乳様の外観を保つことを確認した。なお処方物1は、特許文献1の処方物23と同様に調製したものである。
【0063】
【0064】
[処方物1及び処方物2の官能評価]
処方物1及び処方物2について、以下の様に官能評価を行なった。4℃に冷却した各処方物を専門パネラー5名で官能評価を行なった。「旨味」、「酸味」、「乳様な風味」及び「嗜好性」の評価項目について、処方物1を対照で0点として、下記評価基準に基づき、試験試料の香味の強弱を評価した。なお、「旨味」及び「酸味」は、負の値であること(対照と比較して弱いこと)が好ましく、「乳様な風味」及び「嗜好性」は正の値であることが好ましいと考えられる。また、ここで「乳様な風味」は、飲み込んだ後のほのかな甘い香り、まろやかさ、異味異臭のなさ、プレーンさから、総合的に動物の乳に近いかを評価した。
【0065】
[評価基準]
-3点:とても弱い
-2点:弱い
-1点:やや弱い
0点:対照
+1点:やや強い
+2点:強い
+3点:とても強い
【0066】
[結果]
評価結果を平均値として、
図1に示した。この結果、試験例1で得られた処方物2は、処方物1と比べて「旨味」及び「酸味」が低減されており、「乳様な風味」及び「嗜好性」が増加していた。処方物2は処方物1と比べて明らかに乳代替組成物として好ましい官能特性を示すことがわかった。
【0067】
[試験例2]
表2に示した組成に従って原料を混合して処方物3および処方物4を得た。さらに、原料混合後、均一機(ホモゲナイザーLAB1000、(株)エスエムテー:20MPa・2回)で乳化し、オートクレーブにて殺菌(121℃、20分)を行ない、酵母素材と油脂を異なる比率で含む乳代替組成物の処方物5~12を得た。処方物5~12はどれも常温で一定期間(3日間)以上、白濁した乳化状態の乳様の外観を保つことを確認した。
【0068】
【0069】
[処方物3から処方物12の官能評価]
得られた処方物3~12について、以下の様に官能評価を行なった。4℃に冷却した各処方物を専門パネラー5名で官能評価を行なった。処方物3は処方物4と、処方物5は処方物6と、処方物7は処方物8と、処方物9は処方物10と、処方物11は処方物12との比較を行ない、それぞれ処方物3、処方物5、処方物7、処方物9、処方物11を対照とした。「旨味」、「酸味」、「乳様な風味」及び「嗜好性」の評価項目について、対照を0点として、上記評価基準に基づき、試験試料の香味の強弱を評価した。
【0070】
[結果]
専門パネラー5名の評価結果を平均値として、
図2~
図6に示した。この結果、処方物4は、処方物3と比べて「旨味」及び「酸味」が低減されており、「乳様な風味」及び「嗜好性」が増加しており、乳代替組成物として好ましい官能特性を示した。処方物6は処方物5と比べて、処方物8は処方物7と比べて、処方物10は処方物9と比べて、処方物12は処方物11と比べて同様に「旨味」及び「酸味」が低減されており、「乳様な風味」及び「嗜好性」が増加しており、乳代替組成物として好ましい官能特性を示した。実施例2の組成物は幅広い濃度範囲(5%から20%まで)と幅広い油脂の濃度範囲(0%から30%まで)で、比較例2の組成物よりも好ましい香味を示した。
【0071】
[比較例3-4、実施例3]
比較例1で得られた酵母エキス菌体残渣を水で懸濁し、スラリー(固形分16%)を調製した。遠心分離機(AvantiJ-26XP、ベックマン・コールター(株)製)で5000×g、5分間処理して固液分離を行ない、上清を除去した。上清と同量の水を加えて懸濁後に再び遠心分離機で固液分離を行なう操作をもう一度実施し、不溶性画分を回収した。得られた不溶性画分を121℃、20分の条件で殺菌し、凍結乾燥して実施例3の酵母エキス菌体残渣を得た。実施例3において、一度目の固液分離後に加えた水量を減量した以外は同様にして、洗浄度合いが異なる酵母エキス菌体残渣を比較例3-4の組成物として得た。
【0072】
[比較例5-6、実施例4]
次に、比較例3-4、実施例3において、殺菌した後の不溶性画分をスラリー(固形分16%)、50℃、pH5.3の条件に調製し、乾燥質量に対して0.2質量%のグルカナーゼ(ナガセ産業(株)製、デナチームGEL1/R)を加え、50℃、18時間処理した。その後、処理物を121℃、20分の条件で処理して殺菌と同時にグルカナーゼを失活し、凍結乾燥によって、洗浄度合いの異なる細胞壁溶解酵素分解物を比較例5-6、及び実施例4の組成物として得た。
【0073】
[試験例3]
得られた実施例1-4、比較例1-6の各組成物について、遊離アミノ酸含有量、リン酸とクエン酸含有量を測定した。
【0074】
[遊離アミノ酸分析]
遊離アミノ酸含有量は、Acquity UPLC分析装置(ウォーターズ社製、米国)を用いて、アキュタグウルトラ(AccQ-Tag Ultra)ラベル化法により測定した。検量線は、アミノ酸混合標準液H型(富士フイルム和光純薬(株)製)、L-アスパラギン一水和物(富士フイルム和光純薬(株)製)、L(+)-グルタミン(富士フイルム和光純薬(株)製)、L-トリプトファン(富士フイルム和光純薬(株)製)、γ-アミノ酪酸(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製)を用いて作成した。該方法により、試料中の遊離のアミノ酸を選択的に定量し、その含有量(質量%)を算出した。なお総遊離アミノ酸とは、酵母エキス菌体残渣又は細胞壁溶解酵素分解物の乾燥質量当たりの各遊離アミノ酸含有量の総和を意味する。酵母エキス菌体残渣(比較例1、3-4、及び実施例1、3)の乾燥質量当たりの有機酸含有量(質量%)を表3に示す。同様に細胞壁溶解酵素分解物(比較例2、5-6、及び実施例2、4)の乾燥質量当たりの有機酸含有量(質量%)を表4に示す。
【0075】
【0076】
[有機酸分析]
有機酸含有量は、Prominence HPLC有機酸分析システム(株式会社島津製作所社製、日本)を用いて測定した。実施例及び比較例の各組成物を脱イオン水で5質量%懸濁液に調製し、遠心して得られた上清を孔径0.45μmのフィルターで濾過したものを測定用試料溶液として分析した。分析対象としてリン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸、ピログルタミン酸、ギ酸を測定し、ごく低濃度だった有機酸は除いて、リン酸、クエン酸を定量した。得られた測定値から算出した、酵母エキス菌体残渣(比較例1、3-4、及び実施例1、3)の乾燥質量当たりの有機酸含有量(質量%)を表5に示す。同様に細胞壁溶解酵素分解物(比較例2、5-6、及び実施例2、4)の乾燥質量当たりの有機酸含有量(質量%)を表6に示す。
【0077】
【0078】
[試験例4]
得られた酵母エキス菌体残渣(比較例1、3-4、及び実施例1、3)の各組成物について、可溶性固形分率を測定した。
【0079】
[含有する可溶性固形分率の測定]
酵母エキス菌体残渣に含まれる水に可溶性である固形分が、該残渣の固形分に占める割合(質量%)は、実施例及び比較例の各組成物を脱イオン水で10質量%懸濁液に調製して、下記式(1)により算出した。
【0080】
【0081】
前記式(1)において、「固形分濃度A」は、Xgの対象試料を105℃にて5時間乾燥させて得られた乾燥物の質量%を示し、「固形分濃度B」は、Xgの対象試料を5,000×gにて5分間遠心分離し、得られた上清を105℃にて5時間乾燥させて得られた乾燥物の質量%を表7に示す。
【0082】
【0083】
[試験例5]
[酵母エキス菌体残渣の官能評価]
比較例1、3-4、及び実施例1、3で得られた各組成物について、以下の様に官能評価を行なった。まず、各素材を常温の水に5質量%になるよう添加し、よく攪拌した後に、専門パネラー5名で官能評価を行なった。「旨味」、「酸味」、「乳様な風味」及び「嗜好性」の評価項目について、比較例1の組成物を対照で0点として、下記評価基準に基づき、各試料の香味の強弱を評価した。
【0084】
官能評価結果を平均値として、
図7に示した。比較例1の組成物と比べて、比較例3及び4の組成物でも「旨味」及び「酸味」の低減と、「乳様な風味」及び「嗜好性」の増加の傾向が認められた。一方、実施例1及び3の組成物では、「旨味」及び「酸味」が評点-2以下にまで低減されており、「乳様な風味」及び「嗜好性」が評点+2以上に増しており、特に好ましい官能特性を示した。
上記表3の遊離アミノ酸分析に示すように、比較例3、4、及び実施例1、3の組成物の遊離アミノ酸含量は、製造方法における洗浄度合いを反映して比較例1の組成物よりも低減されていた。特に好ましい官能特性を示した実施例1及び3の組成物では、総遊離アミノ酸が0.48質量%以下、苦味を呈することが知られている遊離アミノ酸であるフェニルアラニン、チロシン、アルギニン、イソロイシン、ロイシン、バリン、メチオニン、リジンの和が0.04質量%以下、酸味及び旨味を呈するグルタミン酸が0.29質量%以下であった。さらに実施例1、3の組成物では、甘味を呈するアラニンとプロリンはそれぞれ0.05質量%以下であった。
また上記表5の有機酸分析に示すように、特に好ましい官能特性を示した実施例1及び3の組成物のリン酸、クエン酸はそれぞれ0.046質量%以下、0.011質量%以下であった。また上記表7の可溶性固形分率に示すように、特に好ましい官能特性を示した実施例1及び3の組成物に含まれる水に可溶性である固形分はそれぞれ3.52質量%、4.57質量%であり、水に可溶な香味を呈する成分が比較例よりも少ないことが示された。これらの結果から、酵母エキス菌体残渣から一定以上まで呈味性成分を除去したことで好ましい官能特性を示す素材が得られることが示された。
【0085】
[細胞壁溶解酵素分解物の官能評価]
比較例2、5-6、及び実施例2、4で得られた各組成物について、以下の様に官能評価を行なった。まず、各素材を、常温の水に5質量%になるよう添加し、よく攪拌した後に、専門パネラー5名で官能評価を行なった。「旨味」、「酸味」、「乳様な風味」及び「嗜好性」の評価項目について、比較例2の組成物を対照で0点として、下記評価基準に基づき、各試料の香味の強弱を評価した。
【0086】
官能評価結果を平均値として、
図8に示した。比較例2の組成物と比べて、比較例5-6の組成物でも「旨味」及び「酸味」の低減、「乳様な風味」及び「嗜好性」の増加の傾向が認められた。一方、実施例2及び4の組成物では、「旨味」及び「酸味」が評点-2以下にまで低減されており、「乳様な風味」及び「嗜好性」が評点+2以上に増しており、特に好ましい官能特性を示した。
上記表4の遊離アミノ酸分析に示すように、比較例5-6、及び実施例2、4の組成物の遊離アミノ酸含量は、製造方法における洗浄度合いを反映して比較例2の組成物よりも低減されていた。特に実施例2及び4の組成物では、総遊離アミノ酸が0.45質量%以下、苦味を呈することが知られている遊離アミノ酸であるフェニルアラニン、チロシン、アルギニン、イソロイシン、ロイシン、バリン、メチオニン、リジンの和が0.06質量%以下、酸味及び旨味を呈するグルタミン酸が0.24質量%以下であった。さらに実施例2及び4の組成物では、甘味を呈するアラニンとプロリンはそれぞれ0.05質量%以下であった。
また上記表6の有機酸分析に示すように、特に好ましい官能特性を示した実施例2及び4の組成物のリン酸は0.109質量%以下、クエン酸は0質量%であった。これらの結果から、一定以上まで呈味性成分を除去した酵母エキス菌体残渣を原料として、グルカナーゼ処理後に得られる素材は、好ましい官能特性が得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の組成物は、酵母エキス菌体残渣又はその細胞壁溶解酵素分解物が含有する遊離のアミノ酸(特に、グルタミン酸)や有機酸(特に、リン酸)等の総量を特定量未満に制御することで、酵母特有の特徴的な香味(例えば、旨味、酸味等)が顕著に低減されるため、乳代替組成物として従来品よりも高濃度で種々の飲食品に配合することができる。したがって本発明の組成物は、様々な形態の飲食品として提供され、該飲食品を介して酵母由来のタンパク質、食物繊維、その他の栄養素等の摂取をより容易に行うことができる。
【要約】
【課題】 酵母素材由来の特徴的な香味(旨味、酸味)を低減し、タンパク質補給を目的とした乳代替組成物を提供すること。
【解決手段】 酵母エキス菌体残渣又はその細胞壁溶解酵素分解物を含む乳代替組成物であって、該残渣又は該分解物が含有する遊離のアミノ酸(特に、グルタミン酸)の総量が所定量未満であることを特徴とする組成物、該組成物を含む乳代替飲食品を提供する。本発明の組成物は、酵母特有の特徴的な香味が顕著に低減されるため、乳代替組成物として従来品よりも高濃度で種々の飲食品に配合することができる。
【選択図】
図1