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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】移動体システム、基地局装置、移動体
(51)【国際特許分類】
   H04W 72/0453 20230101AFI20240711BHJP
   H04W 16/28 20090101ALI20240711BHJP
   H04W 88/02 20090101ALI20240711BHJP
【FI】
H04W72/0453
H04W16/28
H04W88/02 140
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020029641
(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公開番号】P2021136507
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-02-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、総務省、電波資源拡大のための研究開発、5.7GHz帯における高効率周波数利用技術の研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(73)【特許権者】
【識別番号】314012087
【氏名又は名称】株式会社光電製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】阪口 啓
(72)【発明者】
【氏名】高久 淑考
(72)【発明者】
【氏名】今田 舜也
【審査官】松▲崎▼ 祐季
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-259116(JP,A)
【文献】特開2015-165688(JP,A)
【文献】特開2018-016203(JP,A)
【文献】今田舜也、高久淑考、荒木純道、ユ タオ、タン ザ カン、阪口啓(東工大)、茂木智弘、矢島武(光電製作所),5.7GHz帯を想定したマルチドローン全二重通信の提案,信学技報,2020年03月,インターネット<https://ken.ieice.org/ken/paper/2020030451WN/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局装置と、
前記基地局装置と通信可能であるとともに移動可能である第1移動体と、
前記基地局装置と通信可能であるとともに移動可能である第2移動体とを備え、
前記基地局装置から前記第1移動体への第1制御信号の送信には第1周波数が使用され、前記第1移動体から前記基地局装置への第1データ信号の送信には前記第1周波数とは異なる第2周波数が使用され、
前記基地局装置から前記第2移動体への第2制御信号の送信には前記第2周波数が使用され、前記第2移動体から前記基地局装置への第2データ信号の送信には前記第1周波数が使用され、
前記第1移動体と前記第2移動体とは、前記第1移動体と前記第2移動体が受信する制御信号のSINRが所定の値以上となる前記第1移動体と前記第2移動体間の最低離隔距離以上離れることを特徴とする移動体システム。
【請求項2】
前記所定の値は5dBである請求項1に記載の移動体システム。
【請求項3】
基地局装置は、前記第1制御信号の送信と前記第1データ信号の受信とのために前記第1移動体にアンテナ指向性を向け、前記第2制御信号の送信と前記第2データ信号の受信とのために前記第2移動体にアンテナ指向性を向け、
前記第1移動体は、前記基地局装置にアンテナ指向性を向け、
前記第2移動体は、前記基地局装置にアンテナ指向性を向けることを特徴とする請求項1または2に記載の移動体システム。
【請求項4】
移動可能である第1移動体と通信可能な第1通信部と、
移動可能である第2移動体と通信可能な第2通信部と、
前記第1移動体への第1制御信号の送信に第1周波数を使用し、前記第1移動体からの第1データ信号の受信に前記第1周波数とは異なる第2周波数を使用するように前記第1通信部を制御するとともに、前記第2移動体への第2制御信号の送信に前記第2周波数を使用し、前記第2移動体からの第2データ信号の受信に前記第1周波数を使用するように前記第2通信部を制御する制御部とを備え、
前記第1移動体と前記第2移動体とは、前記第1移動体と前記第2移動体が受信する制御信号のSINRが所定の値以上となる前記第1移動体と前記第2移動体間の最低離隔距離以上離れることを特徴とする基地局装置。
【請求項5】
基地局装置から移動可能な他の移動体への第1制御信号の送信には第1周波数が使用され、前記他の移動体から前記基地局装置への第1データ信号の送信には前記第1周波数とは異なる第2周波数が使用されており、前記基地局装置と通信可能であるとともに、移動可能である移動体であって、
前記基地局装置からの第2制御信号を受信するとともに、前記基地局装置に第2データ信号を送信する通信部と、
前記第2制御信号の受信に前記第2周波数を使用し、前記第2データ信号の送信に前記第1周波数を使用するように前記通信部を制御する制御部とを備え、
前記他の移動体と本移動体とは、前記他の移動体と前記本移動体が受信する制御信号のSINRが所定の値以上となる前記他の移動体と前記本移動体間の最低離隔距離以上離れることを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体技術に関し、特に複数の移動体と基地局装置との間において通信する移動体システム、基地局装置、移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の端末装置と基地局装置との間において通信する場合、各端末装置に対して異なった周波数と異なった時間との少なくとも1つが割り当てられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第18/230246号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ドローン等の移動体に端末装置を搭載することによって、移動体と基地局装置との間において通信が実行可能である。基地局装置から移動体に送信する制御信号により移動局の動作が制御され、移動体から基地局装置に送信するデータ信号により移動体において撮像した映像が伝送される。制御信号とデータ信号との干渉を抑制するためには、例えば制御信号とデータ信号とに対して異なった周波数を割り当てる必要がある。しかしながら、1つの基地局装置に複数の移動体を接続する場合、必要となる周波数の数が増加する。一方、使用可能な周波数の数は限られているので、1つの基地局装置に接続する移動体の数を多くするためには周波数の利用効率の向上が求められる。また、移動体は移動するので、移動体の構成は簡易である方が好ましい。
【0005】
本開示はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、移動体の構成を簡易にしながら通信に使用する周波数の利用効率を向上する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の移動体システムは、基地局装置と、基地局装置と通信可能であるとともに移動可能である第1移動体と、基地局装置と通信可能であるとともに移動可能である第2移動体とを備える。基地局装置から第1移動体への第1制御信号の送信には第1周波数が使用され、第1移動体から基地局装置への第1データ信号の送信には第1周波数とは異なる第2周波数が使用され、基地局装置から第2移動体への第2制御信号の送信には第2周波数が使用され、第2移動体から基地局装置への第2データ信号の送信には第1周波数が使用され、第1移動体と第2移動体とは、第1移動体と第2移動体が受信する制御信号のSINRが所定の値以上となる第1移動体と第2移動体間の最低離隔距離以上離れる。
【0007】
本発明の別の態様は、基地局装置である。この装置は、移動可能である第1移動体と通信可能な第1通信部と、移動可能である第2移動体と通信可能な第2通信部と、第1移動体への第1制御信号の送信に第1周波数を使用し、第1移動体からの第1データ信号の受信に第1周波数とは異なる第2周波数を使用するように第1通信部を制御するとともに、第2移動体への第2制御信号の送信に第2周波数を使用し、第2移動体からの第2データ信号の受信に第1周波数を使用するように第2通信部を制御する制御部とを備える。第1移動体と第2移動体とは、第1移動体と第2移動体が受信する制御信号のSINRが所定の値以上となる第1移動体と第2移動体間の最低離隔距離以上離れる。
【0008】
本発明のさらに別の態様は、移動体である。この移動体は、基地局装置から移動可能な他の移動体への第1制御信号の送信には第1周波数が使用され、他の移動体から基地局装置への第1データ信号の送信には第1周波数とは異なる第2周波数が使用されており、基地局装置と通信可能であるとともに、移動可能である移動体であって、基地局装置からの第2制御信号を受信するとともに、基地局装置に第2データ信号を送信する通信部と、第2制御信号の受信に第2周波数を使用し、第2データ信号の送信に第1周波数を使用するように通信部を制御する制御部とを備える。他の移動体と本移動体とは、他の移動体と本移動体が受信する制御信号のSINRが所定の値以上となる他の移動体と本移動体間の最低離隔距離以上離れる。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システム、コンピュータプログラム、またはコンピュータプログラムを記録した記録媒体などの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のある態様によれば、移動体の構成を簡易にしながら通信に使用する周波数の利用効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施例に係る移動体システムの構成を示す図である。
図2図2(a)-(b)は、図1の移動体システムの比較対象となる移動体システムの構成を示す図である。
図3図2(a)の移動体システムにおける基地局装置と移動体との距離とSINRとの関係を示す図である。
図4図4(a)-(b)は、図1の移動体システムの構成を示す図である。
図5図4(a)の第2移動体の構成を示す図である。
図6図4(a)の基地局装置の構成を示す図である。
図7図4(a)の移動体システムの構成を示す図である。
図8図4(a)の移動体システムに対するシミュレーション計算の諸元を示す図である。
図9図9(a)-(b)は、第1のシミュレーション計算例を示す図である。
図10図10(a)-(b)は、第2のシミュレーション計算例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施例を具体的に説明する前に、本実施例の概要を説明する。近年、先進国を中心とする少子高齢化社会における労働力不足あるいは人件費高騰問題の対策手段として、ロボットあるいはドローンを用いた無人化の促進と低コスト化が注目を集めている。その中でもドローンは、非常に高い柔軟性あるいは機動性を有しているので、物資運送や農業、3次元測量、インフラ点検、災害調査のような多種のアプリケーションに利用可能である。そのため、2040年における商用ドローン市場は130兆円規模にまで到達すると予想されている。多種にわたるドローンのアプリケーションの中で、イベント会場における警備、鉄塔あるいは橋などのインフラ設備点検、台風あるいは地震などの自然災害の影響を受けた被災地の災害調査に対してドローンを活用した映像伝送が着目されている。
【0013】
従来、災害調査では災害状況を把握するために空からの現地調査として主にヘリコプターが活用されてきたが、機体の大きさによる制限と、飛行までの時間とコストの両面で多大な労力が発生してしまう。結果として、柔軟な災害調査システムの構築が非常に困難である。より柔軟な災害調査システムを構築するために、空間を自由自在に飛行可能である飛行のための労力が小さい小型な無人移動体であるドローンを展開することが期待されている。ドローンを活用した災害調査として、陸上自衛隊が大規模な土砂崩れが起きた北海道地震で安否不明者を捜索するために上空から現場の状況を撮影した事例が報告されている。
【0014】
災害調査では火山などでの利用を想定し長距離の映像伝送が求められる。現状ドローンを活用した長距離映像伝送では720pの解像度が限界であり、破損個所や被災者の特定をより正確に行うために高精細映像4Kをリアルタイムで伝送することも求められる。高精細映像4Kを活用した高効率な災害調査を行うためには複数台のドローンを飛行させることが不可欠であるが、同一エリア内で複数台のドローンを飛行させることを想定した災害調査システムは現在考えられていない。つまり、現在の災害調査システムではドローン同士の電波干渉などが全く考慮されておらず、高信頼なドローン災害調査システムを新たに設計する必要がある。
【0015】
一方、ドローンなどのロボット用無線として割り当てられている2.4GHz帯、5.7GHz帯では使用可能な周波数が限られている。また、2.4GHz帯では無線LAN(Local Area Network)などの様々な無線システムが緻密に利用されている。そのため、同一エリア内で周波数を有効に活用する必要がある。周波数利用効率を向上させる技術として全二重通信が注目されている。全二重通信は、同一周波数を用いて同時に送受信を実行するので、周波数利用効率を2倍に向上可能である。しかしながら、自身の送信信号がノイズとして受信信号に加わるので、干渉が非常に大きくなってしまう。また、ドローンに搭載するアンテナの小型化を図るために送受共用アンテナを使用する場合、送信信号が受信側に回路内で直接漏れ込むので、ドローンにおいて全二重通信を実行することは困難である。
【0016】
これに対応するため、本実施例では、複数台ドローンを使用する状況下において、周波数利用効率を向上させる全二重通信を応用し、ドローン間の干渉を考慮したマルチドローン全二重通信を実行する。前提として、例えば、5.7GHz帯には、10MHzの帯域幅のチャネルが「10」配置されている。マルチドローン全二重通信とは、第1ドローンと第2ドローンを使用する場合に、基地局装置から第1ドローンへの下り方向の制御信号に周波数f1を使用し、第1ドローンから基地局装置への上り方向のデータ信号に周波数f2を使用する。ここで、周波数f1と周波数f2とは例えば50MHz離隔される。これにより、第1ドローンにおける制御信号へのデータ信号の漏れ込みが軽減される。また、基地局装置から第2ドローンへの下り方向の制御信号に周波数f2を使用し、第2ドローンから基地局装置への上り方向のデータ信号に周波数f1を使用する。このような周波数の割当によって、システム全体として周波数利用効率が向上する。
【0017】
このようなマルチドローン全二重通信では、第1ドローンからのデータ信号が、第2ドローンにおいて受信すべき制御信号に対して干渉を与える可能性がある。本実施例では、第1ドローンと第2ドローンに指向性アンテナを搭載し、ドローンの距離やアンテナパターンを考慮した配置を行い、空間多重することで干渉が除去される。また、ドローンに搭載するアンテナのビーム幅が広い場合、干渉エリアが大きくなるが、アンテナの利得を高めることで干渉エリアが狭められる。
【0018】
以下、本発明を好適な実施例をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施例は、発明を限定するものではなく例示であって、実施例に記述されるすべての特徴やその組合せは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0019】
図1は、移動体システム1000の構成を示す。移動体システム1000は、移動体100と総称される第1移動体100aから第10移動体100j、基地局装置200を含む。移動体100は、例えばドローンである。移動体100は、移動可能であるとともに、映像を撮像可能である。また、移動体100は、基地局装置200との間で無線通信を実行可能であり、基地局装置200から制御信号を受信するとともに、基地局装置200にデータ信号を送信する。制御信号には、撮像部と通信部と移動体100の動作、例えばデータ信号に使用する周波数の情報が含まれており、移動体100は、制御信号に含まれた情報によってデータ信号に使用する周波数を制御する。また、データ信号には映像が含まれる。基地局装置200は、複数の移動体100とのそれぞれとの間で無線通信を実行する。基地局装置200には、各移動体100に対する制御信号を生成するとともに、各移動体100からのデータ信号に含まれた映像を再生するコンピュータが接続されていてもよいが、ここでは省略する。
【0020】
このような移動体システム1000には、台風あるいは地震などの自然災害の影響を受けた被災地の状況確認、山岳地帯で遭難者の捜索への使用が想定される。図示のごとく、複数台の移動体100を使用して映像を取得することにより、捜索エリアの状況把握が迅速になされる。これまでのシステムは1台の移動体のみを制御することを前提としているので、広範囲の状況把握に要する時間が長くなっていた。そのため、複数台の移動体100を同時に制御することが求められる。これには、有限の無線リソースを効率よく運用する必要性が求められる。
【0021】
移動体システム1000は、5.7GHz帯を使用して基地局装置200から5km離れた地点から、4Kリアルタイム映像伝送、低遅延(100ms以下)、10台の移動体100の同時制御を達成することを目標とする。例えば、4Kリアルタイム映像伝送を達成するために必要なデータレートは40Mbpsであり、基地局装置200からの制御信号を受信するために必要なデータレートは200kbpsと設定される。つまり、10台の移動体100に対して上りデータ信号40Mbps×10台、下り制御信号200kbps×拡散利得100×10台が10MHz×10の周波数帯で収容される。ここで、下り制御信号の伝送の安定性を確保するためにスペクトラム拡散が使用される。
【0022】
これまでのシステムでは、移動体と基地局装置の双方にダイポールアンテナが搭載されているので、双方間の距離が離れると通信に必要なSINR(Signal-to-Interference Noise Ratio)が確保できなくなる。そのため、データ信号と制御信号のそれぞれに必要なデータレートが確保されなくなる。これに対応するために、移動体と基地局装置の双方に指向性アンテナを搭載することが望ましい。
【0023】
図2(a)-(b)は、移動体システム1000の比較対象となる移動体システム90の構成を示す。図2(a)の移動体システム90は、移動体10と総称される第1移動体10a、第2移動体10b、基地局装置20を含む。移動体システム90に含まれる移動体10の数は「2」に限定されない。移動体システム90では、周波数利用効率を向上させるための技術として全二重通信が使用される。全二重通信とは、上り方向と下り方向の信号の送受信に同一周波数を使用する技術である。例えば、基地局装置20から第1移動体10aへの下り方向の第1制御信号30aに第1周波数が使用され、第1移動体10aから基地局装置20への上り方向の第1データ信号32aにも第1周波数が使用される。基地局装置20から第2移動体10bへの下り方向の第2制御信号30bに第2周波数が使用され、第2移動体10bから基地局装置20への上り方向の第2データ信号32bにも第2周波数が使用される。第1周波数と第2周波数とは互いに異なった周波数であり、移動体10毎に1つの周波数が使用される。移動体10毎に1つの周波数を使用することによって、周波数利用効率が拡大する。
【0024】
図2(b)は、移動体システム90におけるチャネル配置を示す。図示のごとく、チャネルch1からチャネルch10が周波数分割多重される。1つのチャネルの帯域幅は前述のごとく10MHzである。第1周波数は、チャネルch1からチャネルch10のいずれかのキャリアの周波数を示し、第2周波数は、第1周波数を使用するチャネル以外のチャネルのキャリアの周波数を示す。図2(a)に戻る。
【0025】
全二重通信を用いた場合、受信した制御信号が、自身が送信するデータ信号に埋もれてしまう自己干渉が発生してしまう。例えば、第1移動体10aでは、受信した第1制御信号30aが第1データ信号32aに埋もれてしまう。第2移動体10bにおいても同様である。一般的に自己干渉電力は所望信号より遥かに大きいので、自己干渉を取り除くためにはアナログ干渉キャンセラと、デジタル干渉キャンセラが必要である。
【0026】
図3は、移動体システム90における基地局装置20と移動体10との距離とSINRとの関係を示す。横軸が基地局装置20と移動体10との距離を示し、縦軸がSINRを示す。また、移動体10において制御信号30を受信した場合にデータレート200kbpsを達成するのに必要なSINR「5dB」も示される。つまり、移動体10における制御信号30のSINRが5dBを超える場合に当該制御信号30が移動体10に受信される。例えば、5km離れた地点のSINRは「-60dB」であり、SINR「5dB」を達成するためには、移動体10において65dBの干渉をキャンセルしなければならない。一方、移動体10はバッテリ駆動であるので、干渉キャンセラを使用できない。そのため、移動体システム90のような全二重通信の実用化は現実的ではない。
【0027】
図4(a)-(b)は、移動体システム1000の構成を示す。図4(a)は、図1のうちの第1移動体100aと第2移動体100bと基地局装置200を示す。本実施例では、マルチドローン全二重通信を提案する。マルチドローン全二重通信は異なる移動体100のデータ信号と制御信号に同一周波数を割り当てることで同一エリア内での同時制御を可能とする多重方式である。これは、2台の移動体100で同一周波数を片方の制御信号に、もう一方をデータ信号に割り当てて空間多重することによって周波数利用効率の向上および複数台同時制御を可能にすることといえる。例えば、基地局装置200から第1移動体100aへの下り方向の第1制御信号300aに第1周波数が使用され、第1移動体100aから基地局装置200への上り方向の第1データ信号302aに第2周波数が使用される。基地局装置200から第2移動体100bへの下り方向の第2制御信号300bに第2周波数が使用され、第2移動体100bから基地局装置200への上り方向の第2データ信号302bに第1周波数が使用される。
【0028】
このような構成において、基地局装置200からの第2制御信号300bの送信タイミングと、第1移動体100aからの第1データ信号302aの送信タイミングが重なる状況が発生しうる。第2制御信号300bと第1データ信号302aはいずれも第2周波数であるので、このような状況において、第2移動体100bにおいて干渉が発生する。その結果、第2移動体100bにおける第2制御信号300bの受信品質が低下する。
【0029】
このような干渉の影響を低減するために、基地局装置200、第1移動体100a、第2移動体100bには指向性アンテナが搭載される。具体的に説明すると、基地局装置200は、第1制御信号300aの送信と第1データ信号302aの受信とのために第1移動体100aにアンテナ指向性を向け、第2制御信号300bの送信と第2データ信号302bの受信とのために第2移動体100bにアンテナ指向性を向ける。また、第1移動体100aは基地局装置200にアンテナ指向性を向け、第2移動体100bは基地局装置200にアンテナ指向性を向ける。ここで、第1移動体100aと第2移動体100bは軽量化のために送受共用アンテナを搭載する。送受共用アンテナを搭載させるために、第1移動体100aと第2移動体100bはサーキュレータを搭載する。基地局装置200も送受共用アンテナを搭載してもよい。さらに、第1移動体100aと第2移動体100bとが所定の距離以上離れることによって、干渉の影響が低減される。
【0030】
しかしながら、送受共用アンテナとサーキュレータを採用した場合、第2移動体100bにおいて第2データ信号302bが第2制御信号300bに漏れ込んでしまい回路内での干渉が発生する。この干渉の影響を低減するために、第1周波数と第2周波数との間隔が離される。図4(b)は、移動体システム1000におけるチャネル配置を示す。これは図2(b)と同一である。例えば、第1周波数がチャネルcH1のキャリアの周波数であり、第2周波数がチャネルcH6のキャリアの周波数である。つまり、第1周波数と第2周波数は50MHz離隔させることによって内部干渉の影響が低減される。
【0031】
図5は、第2移動体100bの構成を示す。第2移動体100bは、通信部110、制御部120、撮像部130を含む。通信部110は、送信部140、送信フィルタ142、送信用局部発振器144、送信用ミキサ146、サーキュレータ148、アンテナ150、受信用局部発振器152、受信用ミキサ154、受信フィルタ156、受信部158を含む。第1移動体100aの構成も同一である。
【0032】
撮像部130は、映像を撮像し、撮像した映像を制御部120に出力する。映像には、例えば、被災地の状況等、基地局装置200が含まれる。送信部140は、送信すべき第2データ信号302bを変調し、変調した第2データ信号302bを送信フィルタ142に出力する。前述のごとく、第2データ信号302bには、撮像部130からの映像が含まれる。送信フィルタ142は、送信部140からの第2データ信号302bをフィルタリングする。送信用局部発振器144は、第1周波数に対応した局部発振信号を送信用ミキサ146に出力する。送信用ミキサ146は、送信フィルタ142からの第2データ信号302bと送信用局部発振器144からの局部発振信号をもとに、第2周波数の第2データ信号302bを生成してサーキュレータ148に出力する。サーキュレータ148は、送信用ミキサ146からの第2データ信号302bをアンテナ150に出力して、アンテナ150は第2データ信号302bを送信する。
【0033】
アンテナ150は、第2制御信号300bを受信してサーキュレータ148に出力する。サーキュレータ148は、アンテナ150からの第2制御信号300bを受信用ミキサ154に出力する。ここで、サーキュレータ148では、送信用ミキサ146からの第2データ信号302bの一部が漏洩して受信用ミキサ154に出力される。受信用局部発振器152は、第2周波数に対応した局部発振信号を受信用ミキサ154に出力する。受信用ミキサ154は、サーキュレータ148からの第2制御信号300bと第2データ信号302bと、受信用局部発振器152からの局部発振信号をもとに、第2制御信号300bと第2データ信号302bの周波数を変換する。受信用ミキサ154は、周波数を変換した第2制御信号300bと第2データ信号302bを受信フィルタ156に出力する。
【0034】
受信フィルタ156は、第2制御信号300bの帯域を通過させ、第2データ信号302bの帯域を阻止するような周波数特性を有しており、受信用ミキサ154から受けつけた第2制御信号300bと第2データ信号302bのうち、第2制御信号300bを受信部158に出力する。ここで、第2データ信号302bによる第2制御信号300bへの内部干渉を抑圧するために、第1周波数と第2周波数とは50MHz以上離される。受信部158は、受信フィルタ156からの第2制御信号300bを復調し、復調した第2制御信号300bを制御部120に出力する。第2制御信号300bには第2移動体100bに対する指示が含まれている。制御部120は、指示をもとに、通信部110、制御部120、第2移動体100bの動作を制御する。このような構成において、送信用ミキサ146と受信用ミキサ154はヘテロダイン構成に限定されず、直交変復調器であってもよい。
【0035】
このように通信部110は、基地局装置200からの第2制御信号300bを受信するとともに、基地局装置200に第2データ信号302bを送信する。また、アンテナ150は、送受信共用アンテナとして構成されており、軽量化される。さらに、サーキュレータ148と送信用局部発振器144、受信用局部発振器152を組み合わせることによって、送信用あるいは受信用の周波数の切替が可能になっている。これは、アダプティブチャネル切替が可能であることに相当する。その際、送信用局部発振器144における周波数の設定と、受信用局部発振器152における周波数の設定は制御部120によりなされる。つまり、制御部120は、第2制御信号300bの受信に第2周波数を使用し、第2データ信号302bの送信に第1周波数を使用するように通信部110を制御する。
【0036】
前述のごとく、第2移動体100bは、第1移動体100aとの間の干渉を抑制するために、アンテナ150の指向性制御を実行する。これは、第2移動体100bの回転機構を利用した機械式の制御により実現される。また、RF帯での指向性合成のような電子式の制御がなされてもよい。制御部120は、撮像部130からの映像をもとに、第2移動体100bから基地局装置200への相対的な方向を推定する。また、制御部120は、推定した方向を向くように第2移動体100bの回転機構を制御する。方向の推定および回転機構の制御には公知の技術が使用されればよい。
【0037】
図6は、基地局装置200の構成を示す。基地局装置200は、通信部210、制御部220、撮像部230を含み、通信部210は第1通信部212、第2通信部214、局部発振器270と総称される第1局部発振器270a、第2局部発振器270b、アナログキャンセラ272と総称される第1アナログキャンセラ272a、第2アナログキャンセラ272b、デジタルキャンセラ274と総称される第1デジタルキャンセラ274a、第2デジタルキャンセラ274bを含む。
【0038】
第1通信部212は、第1送信部240a、第1D/A260a、第1送信フィルタ242a、第1送信用ミキサ246a、第1サーキュレータ248a、第1アンテナ250a、第1加算部262a、第1受信用ミキサ254a、第1受信フィルタ256a、第1A/D264a、第1加算部266a、第1受信部258aを含む。第2通信部214は、第2送信部240b、第2D/A260b、第2送信フィルタ242b、第2送信用ミキサ246b、第2サーキュレータ248b、第2アンテナ250b、第2加算部262b、第2受信用ミキサ254b、第2受信フィルタ256b、第2A/D264b、第2加算部266b、第2受信部258bを含む。
【0039】
第1送信部240a、第2送信部240bは送信部240と総称され、第1D/A260a、第2D/A260bはD/A260と総称され、第1送信フィルタ242a、第2送信フィルタ242bは送信フィルタ242と総称される。第1送信用ミキサ246a、第2送信用ミキサ246bは送信用ミキサ246と総称され、第1サーキュレータ248a、第2サーキュレータ248bはサーキュレータ248と総称される。第1アンテナ250a、第2アンテナ250bは、アンテナ250と総称され、第1加算部262a、第2加算部262bは加算部262と総称される。第1受信用ミキサ254a、第2受信用ミキサ254bは受信用ミキサ254と総称され、第1受信フィルタ256a、第2受信フィルタ256bは受信フィルタ256と総称され、第1A/D264a、第2A/D264bはA/D264と総称される。第1加算部266a、第2加算部266bは加算部266と総称され、第1受信部258a、第2受信部258bは受信部258と総称される。
【0040】
第1通信部212は、移動可能である第1移動体100aと通信するために使用され、第2通信部214は、移動可能である第2移動体100bと通信するために使用される。ここでは、図4のように第1移動体100aと第2移動体100bを通信対象としているので、第1通信部212、第2通信部214が含まれるが、通信部の数は、通信対象とする移動体100の数とされればよい。
【0041】
第1送信部240aは、送信すべき第1制御信号300aを変調し、変調した第1制御信号300aを第1D/A260aと第2デジタルキャンセラ274bに出力する。第1D/A260aは、第1送信部240aからの第1制御信号300aをデジタル-アナログ変換して、アナログに変換した第1制御信号300aを第1送信フィルタ242aに出力する。第1送信フィルタ242aは、第1D/A260aからの第1制御信号300aをフィルタリングする。第1局部発振器270aは、第1周波数に対応した局部発振信号を第1送信用ミキサ246aと第2受信用ミキサ254bに出力する。第1送信用ミキサ246aは、第1送信フィルタ242aからの第1制御信号300aと第1局部発振器270aからの局部発振信号をもとに、第1周波数の第1制御信号300aを生成して第1サーキュレータ248aに出力する。第1サーキュレータ248aは、第1送信用ミキサ246aからの第1制御信号300aを第1アンテナ250aに出力して、第1アンテナ250aは第1制御信号300aを送信する。
【0042】
第1アンテナ250aは、第1データ信号302aを受信して第1サーキュレータ248aに出力する。第1サーキュレータ248aは、第1アンテナ250aからの第1データ信号302aを第1加算部262aに出力する。ここで、第1サーキュレータ248aでは、第1送信用ミキサ246aからの第1制御信号300aの一部が漏洩して第1加算部262aに出力される。第1加算部262aは、第1サーキュレータ248aからの第1データ信号302aと第1制御信号300aと、第1アナログキャンセラ272aからの干渉信号とをもとに、第1データ信号302aと第1制御信号300aから干渉信号を除去し、その結果を第1受信用ミキサ254aに出力する。干渉信号は第2制御信号300bに相当する。第2局部発振器270bは、第2周波数に対応した局部発振信号を第2受信用ミキサ254bと第2送信用ミキサ246bに出力する。第2受信用ミキサ254bは、第1加算部262aからの第1データ信号302aと第1制御信号300aと、第2局部発振器270bからの局部発振信号をもとに、第1データ信号302aと第1制御信号300aの周波数を変換する。第2受信用ミキサ254bは、周波数を変換した第1データ信号302aと第1制御信号300aを第1受信フィルタ256aに出力する。
【0043】
第1受信フィルタ256aは、第1データ信号302aの帯域を通過させ、第1制御信号300aの帯域を阻止するような周波数特性を有しており、第2受信用ミキサ254bから受けつけた第1データ信号302aと第1制御信号300aのうち、第1データ信号302aを第1A/D264aに出力する。第1A/D264aは、第1受信フィルタ256aからの第1データ信号302aをアナログ-デジタル変換して、デジタルに変換した第1データ信号302aを第1加算部266aに出力する。第1加算部266aは、第1A/D264aからの第1データ信号302aと、第1デジタルキャンセラ274aからの干渉信号とをもとに、第1データ信号302aから干渉信号を除去し、その結果を第1受信部258aに出力する。ここでも干渉信号は第2制御信号300bに相当する。第1受信部258aは、第1加算部266aからの第1データ信号302aを復調し、復調した第1データ信号302aを出力する。第1データ信号302aには第1移動体100aにおいて撮像された映像が含まれている。
【0044】
第2通信部214は、第1通信部212と同様の処理を実行するので、ここでは説明を実行する。第1アナログキャンセラ272aは、アナログ信号におけるキャンセラであり、第2送信用ミキサ246bから出力される第2制御信号300bをもとに干渉信号を生成して第1加算部262aに出力する。第2アナログキャンセラ272bは、アナログ信号におけるキャンセラであり、第1送信用ミキサ246aから送信される第1制御信号300aをもとに干渉信号を生成して第2加算部262bに出力する。第1デジタルキャンセラ274aは、デジタル信号におけるキャンセラであり、第2送信部240bから出力される第2制御信号300bをもとに干渉信号を生成して第1加算部266aに出力する。第2デジタルキャンセラ274bは、デジタル信号におけるキャンセラであり、第1送信部240aから送信される第1制御信号300aをもとに干渉信号を生成して第2加算部266bに出力する。アナログキャンセラ272およびデジタルキャンセラ274における干渉信号の生成には公知の技術が使用されればよいので、ここでは説明を省略する。公知の技術の一例は、猿渡俊介、渡辺尚、「全二重無線通信の実用化に向けた課題と可能性」、電子情報通信学会学会誌、Vol.101,No.4,pp.387-393,2018に開示されている。
【0045】
ここで、アンテナ250は、送受信共用アンテナとして構成されているが、送受信分離アンテナとして構成されてもよい。さらに、サーキュレータ248と第1局部発振器270aと第2局部発振器270bを組み合わせることによって、送信用あるいは受信用の周波数の切替が可能になっている。これは、アダプティブチャネル切替が可能であることに相当する。その際、第1局部発振器270aにおける周波数の設定と、第2局部発振器270bにおける周波数の設定は制御部220によりなされる。つまり、制御部220は、第1移動体100aへの第1制御信号300aの送信に第1周波数を使用し、第1移動体100aからの第1データ信号302aの受信に第2周波数を使用するように第1通信部212を制御する。また、通信部210は、第2移動体100bへの第2制御信号300bの送信に第2周波数を使用し、第2移動体100bからの第2データ信号302bの受信に第1周波数を使用するように第2通信部214を制御する。
【0046】
前述のごとく、基地局装置200は、第1移動体100aと第2移動体100bとの間の干渉を抑制するために、各アンテナ250の指向性制御を実行する。アンテナ250の指向性制御には、RF帯での指向性合成のような電子式の制御がなされてもよい。また、アンテナ250の指向性制御として、アンテナ250が複数のアンテナを含んでいる場合に、各アンテナに対する信号強度および位相が制御されてもよい。その際、撮像部130は、第1移動体100aと第2移動体100bとを撮像し、制御部220は、撮像部230からの映像をもとに、基地局装置200から第1移動体100aへの相対的な方向と、基地局装置200から第2移動体100bへの相対的な方向とを推定する。また、制御部120は、基地局装置200から第1移動体100aへの相対的な方向をもとに、第1通信部212における各アンテナに対するウエイトを取得し、ウエイトを第1通信部212に設定する。さらに、制御部120は、基地局装置200から第2移動体100bへの相対的な方向をもとに、第2通信部214における各アンテナに対するウエイトを取得し、ウエイトを第2通信部214に設定する。
【0047】
さらに、第1移動体100aと第2移動体100bとの間の干渉の増加を抑制するために、第1移動体100aと第2移動体とが所定の距離以上離れるような制御がコンピュータ(図示せず)によりなされる。例えば、第1制御信号300aと第2制御信号300bに含まれる飛行の方向の指示は、第1移動体100aと第2移動体とが所定の距離よりも近づかないように生成される。また、第1移動体100aと第2移動体とが所定の距離よりも近づく場合に、第1周波数と第2周波数とを使用する第1移動体100aと第2移動体100bとの組合せを変更する。
【0048】
ここでは、図7を使用しながらマルチドローン全二重通信の数学的表現を説明する。図7は、移動体システム1000の構成を示す。図7は、図4(a)と同様に示される。マルチドローン全二重通信では、同一周波数を制御信号300とデータ信号302に割り当てているので、互いに近接した場合においても第1制御信号300aと第2制御信号300bの間で混信は発生しない。しかしながら、1つの移動体100から送信されるデータ信号302が、別の移動体100において受信されるデータ信号302に干渉を与える場合がある。この干渉は、前述のごとく、移動体100に指向性アンテナを使用することによって、空間多重が実行されると抑制される。また、送受共用アンテナとサーキュレータ148を使用することで発生する内部干渉は、制御信号300とデータ信号302と間のチャネルを50MHz離隔させ、受信フィルタ156を使用することによって抑制される。
【0049】
第1移動体100aが受信する第1制御信号300aに対するSINRは次のように示される。
【数1】
ここでGSSはスペクトル逆拡散時に得られる拡散利得であり、第1制御信号300aの受信電力Pは次のように示される。
【数2】
距離dは基地局装置200と第1移動体100a間の距離を示しており、PtBSは基地局装置200の送信電力、GBS_mainおよびGdrone_mainはそれぞれ基地局装置200と第1移動体100aに搭載しているアンテナのメインローブゲインを示す。また内部干渉Iinsideは次のように示される。
【数3】
【0050】
ここで、Gfilterは第1データ信号302aから50MHz離れた位置におけるフィルタゲインを示す。またアンテナ150の終端における電力反射量Prefとサーキュレータ148による電力漏れ込みPleakは第1データ信号302aのベースバンドから50MHz離れた位置における送信電力をPt50MHzとすると次のように示される。
【数4】
leakの係数kはサーキュレータ148の特性で決められる。また、Γはアンテナ150の反射係数である。
【0051】
また、第2移動体100bの第2データ信号302bからの干渉信号電力は次のように示される。
【数5】
距離dは第1移動体100aと第2移動体100b間の距離を示しており、Ptdrone2は第2移動体100bの送信電力、Gdrone2_sideおよびGdrone1_sideはそれぞれ第2移動体100bと第1移動体100aに搭載しているアンテナ150の互いに向かい合っているサイドローブゲインを示す。
【0052】
以下では、シミュレーション結果をもとにして、マルチドローン全二重通信を行う際に基地局装置200から5km離れた地点における多重可能位置関係を説明する。つまり、他の移動体100からの干渉が存在する環境下においても基地局装置200からの制御信号300が移動体100側で正しく受信可能かどうかを計算する。その際、制御信号300のリンクが確立されているか否かの判定は、要求データレート200kbpsを達成するのに必要なSINRの値である5dBを受信側の移動体100において確保できているか否かを基準とする。また、本シミュレーションでは基地局装置200と移動体100の指向性アンテナパターンにはsinc関数が使用されており、移動体100と基地局装置200のアンテナパターンの最大値は互いに向き合っているものとする。さらに、本シミュレーションでは、基地局装置200から5km離れた地点においても地面反射や建物等による散乱波が存在しない完全なLoS(Line of Sight)環境を仮定する。図8は、移動体システム1000に対するシミュレーション計算の諸元を示す。このような諸元をもとに、2つの移動体100を直線上に配置した場合と円周上に配置した場合の2パターンにおける最低離隔距離が算出される。また、移動体100の受信アンテナゲインを変化させたときにどのように多重可能距離が変化するかも算出される。
【0053】
移動体100における制御信号300の受信電力は、基地局装置200から離れるほど減衰する。また、移動体100における制御信号300は、別の移動体100からのデータ信号302による干渉を受ける。その際、2台の移動体100には同様のチャネル割当がなされているので、基地局装置200からの距離が離れている方の移動体100が干渉の影響を大きく受ける。図9(a)-(b)は、第1のシミュレーション計算例を示す。図9(a)は、2つの移動体100を直線上に配置したモデルを示す。このような配置において、2台の移動体100のみを考えたマルチドローン全二重通信モデルにおける干渉量が最大となる。図示のごとく、基地局装置200から5km離れた位置に第1移動体100aが配置され、干渉元となる第2移動体100bが第1移動体100aよりも基地局装置200の近くに配置される。また、第1移動体100aのメインローブと第2移動体100bのバックローブが向き合っているワーストケースが想定される。このような状況において、第1移動体100aから第2移動体100bをどの程度離せば第1移動体100aにおける干渉の影響を無視できるかが計算される。
【0054】
図9(b)は、直線上に2つの移動体100を配置した場合における第1移動体100aと第2移動体100bとの間の距離rに対するSINR特性を示す。SINRが5dBとなる距離が最低離隔距離である。受信アンテナゲインが15dBiであれば最低離隔距離は「59.0m」であり、受信アンテナゲインが10dBiであれば最低離隔距離「108m」であり、受信アンテナゲインが5dBiであれば最低離隔距離「181m」である。つまり、移動体100に搭載している受信アンテナゲインが高いほど、最低離隔距離が小さくなる。
【0055】
図10(a)-(b)は、第2のシミュレーション計算例を示す。図10(a)は、2つの移動体100を円周上に配置したモデルを示す。円周は基地局装置200から5kmの位置に形成される。ここで、2つの移動体100に搭載している指向性アンテナパターンはサイドローブ同士が向き合っていると仮定し、第1移動体100aから第2移動体100bをどの程度離せば第1移動体100aにおける干渉の影響を無視できるかが計算される。
【0056】
図10(b)は、円周上に2つの移動体100を配置した場合における第1移動体100aと第2移動体100bとの間の距離rθに対するSINR特性を示す。SINRが5dBとなる距離が最低離隔距離である。受信アンテナゲインが15dBiであれば最低離隔距離は「6.37m」であり、受信アンテナゲインが10dBiであれば最低離隔距離「14.9m」であり、受信アンテナゲインが5dBiであれば最低離隔距離「38.4m」である。つまり、移動体100に搭載している受信アンテナゲインが高いほど、最低離隔距離が小さくなる。これは移動体10のアンテナゲインが高くなり、ビームが絞られるため互いに向かい合っているサイドローブの利得が小さくなることに起因している。前述の所定の距離は、図9(b)、図10(b)に示される最低離隔距離をもとに設定される。例えば、特定の受信アンテナゲインにおける最低離隔距離の最大が所定の距離として設定される。
【0057】
本実施例によれば、基地局装置から第1移動体への第1制御信号の送信には第1周波数が使用され、第1移動体から基地局装置への第1データ信号の送信には第2周波数が使用され、基地局装置から第2移動体への第2制御信号の送信には第2周波数が使用され、第2移動体から基地局装置への第2データ信号の送信には第1周波数が使用されるので、移動体における干渉キャンセラの搭載を不要にできる。また、移動体における干渉キャンセラの搭載が不要になるので、移動体の構成を簡易にできる。また、基地局装置から第1移動体への第1制御信号の送信には第1周波数が使用され、第1移動体から基地局装置への第1データ信号の送信には第2周波数が使用され、基地局装置から第2移動体への第2制御信号の送信には第2周波数が使用され、第2移動体から基地局装置への第2データ信号の送信には第1周波数が使用されるので、使用する周波数の数の増加を抑制できる。また、使用する周波数の数の増加が抑制されるので、通信に使用する周波数の利用効率を向上できる。
【0058】
また、第1移動体と第2移動体とは所定の距離以上離れるので、干渉の影響を低減できる。また、基地局装置は、第1移動体と第2移動体とのそれぞれにアンテナ指向性を向け、第1移動体は、基地局装置にアンテナ指向性を向け、第2移動体は、基地局装置にアンテナ指向性を向けるので、空間多重を実行できる。また、空間多重が実行されるので、干渉の影響を低減できる。また、2つのチャネルを2つの移動体で共有するので、複数台同時制御および周波数利用効率の向上を実現できる。
【0059】
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0060】
10 移動体、 20 基地局装置、 30 制御信号、 32 データ信号、 90 移動体システム、 100 移動体、 110 通信部、 120 制御部、 130 撮像部、 140 送信部、 142 送信フィルタ、 144 送信用局部発振器、 146 送信用ミキサ、 148 サーキュレータ、 150 アンテナ、 152 受信用局部発振器、 154 受信用ミキサ、 156 受信フィルタ、 158 受信部、 200 基地局装置、 210 通信部、 212 第1通信部、 214 第2通信部、 220 制御部、 230 撮像部、 240 送信部、 242 送信フィルタ、 246 送信用ミキサ、 248 サーキュレータ、 250 アンテナ、 254 受信用ミキサ、 256 受信フィルタ、 258 受信部、 260 D/A、 262 加算部、 264 A/D、 266 加算部、 270 局部発振器、 272 アナログキャンセラ、 274 デジタルキャンセラ、 300 制御信号、 302 データ信号、 1000 移動体システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10