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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】製紙スラッジの脱水方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/147 20190101AFI20240711BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20240711BHJP
   D21H 17/01 20060101ALI20240711BHJP
   C08F 20/34 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C02F11/147 ZAB
B01D21/01 107A
D21H17/01
C08F20/34
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020124862
(22)【出願日】2020-07-22
(65)【公開番号】P2022021369
(43)【公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000142148
【氏名又は名称】ハイモ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】米倉 温
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-166104(JP,A)
【文献】特開2015-150534(JP,A)
【文献】特開2015-051428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00- 11/20
B01D 21/01
C02F 1/52- 1/56
D21
C08C 19/00- 19/44
C08F 6/00-246/00
301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
M-アルカリ度が1000mg/L以上であり、粗浮遊物が20質量%以下(対スラッジ固形分)である製紙スラッジに、下記一般式(1)で表されるカチオン性単量体として、2-アミノエチルアクリレート、2-アミノエチルメタクリレート、3-アミノプロピルアクリレート、3-アミノプロピルメタクリレートの有機酸及び無機酸の塩から選択される一種以上を含有する単量体あるいは単量体混合物を乳化重合して得た油中水型エマルジョンからなる一級アミノ基含有重合体であり、該一級アミノ基含有重合体の25℃における、0.2質量%水溶液粘度をAQV、0.5質量%の4質量%食塩水溶液中粘度をSLVとすると、AQVとSLVの比が、
10≦AQV/SLV<30であり、SLVが5~70mPa・sの範囲である一級アミノ基含有重合体を添加し脱水処理することを特徴とする製紙スラッジの脱水方法。
一般式(1)
は水素またはメチル基、Aは酸素原子またはNH、Bは炭素数2~3のアルキレン基またはアルコキシレン基、Xは陰イオンをそれぞれ表わす。
【請求項2】
前記一級アミノ基含有重合体が、前記一般式(1)で表されるカチオン性単量体70~100モル%を含有する単量体混合物を乳化重合して得た油中水型エマルジョンであることを特徴とする請求項1に記載の製紙スラッジの脱水方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙スラッジの脱水方法に関するものであり、詳しくは、製紙スラッジに凝集処理剤として油中水型エマルジョンからなる特定の構造、物性を有する一級アミノ基含有重合体を添加する製紙スラッジの脱水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙工場から発生する製紙スラッジを脱水する場合、凝集処理剤としてポリアクリルアミド(PAM)系水溶性高分子が汎用されている。下水から沈降させた初沈生汚泥、活性汚泥槽からの流出水から沈降させた余剰汚泥あるいは混合生汚泥等に比べて、製紙スラッジを脱水する場合の脱水機は、繊維質を多く含むためスクリュープレス型脱水機あるいはロータリープレス型脱水機が適用されることが多い。スクリュープレス型脱水機は、濾過面が0.5~3mm程度のパンチングメタルであることから、形成する凝集フロックは他の脱水機に比べ大きく且つ強い圧搾力に耐える強度のフロックが必要となる。又、ロータリープレス型脱水機も圧搾脱水方式であるため強度なフロックが必要となる。
そこで、製紙スラッジに適用するPAM系水溶性高分子として種々提案されている。例えば、特許文献1では、無機凝集剤を添加した後、(A)カチオン単量体単位と(B)アニオン単量体単位との合計が13~60モル%、(C)その他の単量体単位が40~87モル%であって且つ前記(A)カチオン単量体単位と(B)アニオン単量体単位とのモル比が0.03<(B)/(A)<0.8である両性PAMを添加する脱水処理方法が提案されている。
特許文献2では、特定の単量体組成を有する単量体と複数のビニル基を有する単量体からなる単量体混合物を重合した架橋性イオン性PAMからなる処理剤を製紙スラッジに添加する脱水方法が提案されている。
特許文献3では、特定の構造を有するカチオン性単量体、非イオン性単量体、及びアニオン性単量体1~8モル%からなる単量体混合物を重合した特定の物性を有する両性PAMを製紙スラッジに添加する方法が開示されている。
しかし、製紙スラッジは余剰汚泥と混合される場合もあり、その性状は不安定であり、これらPAM系水溶性高分子の効果も不安定である。
一方、凝集処理剤として、ポリビニルアミン系水溶性高分子やポリアミジン系水溶性高分子は特異的に脱水ケーキ含水率が低下する場合がありPAM系水溶性高分子とは使い分けが重要なことが知られている。この現象はPAM系水溶性高分子中の三級アミノ基や四級アンモニウム塩と、ポリビニルアミン系水溶性高分子やポリアミジン系水溶性高分子中の一級あるいは二級アミノ基との違いに起因することが示唆される。特にポリアミジン系水溶性高分子はカチオン度が高く特異的な構造から、繊維分の少ない所謂難脱水性汚泥に優れた効果を発揮することが知られている。
そこで、特許文献4では、アミジン系水溶性高分子水溶液に、水に対し非混和性の炭化水素系溶剤と油溶性乳化剤を添加し攪拌することにより調製したアミジン系水溶性高分子エマルジョンを製紙スラッジに添加する脱水方法が開示されている。しかし、これらアミジン系水溶性高分子では一定の効果を得るには添加率が増加する傾向にあり効果も製紙スラッジ性状により限定的である。
特許文献5には、一級アミノ基含有重合体エマルジョン型凝集剤が開示、製紙スラッジへの適用が記載されている。しかし、製紙スラッジ性状の変動に適用できる一級アミノ基含有重合体の組成、物性が最適化されている訳ではない。
そこで、製紙スラッジ性状の変動においても安定して脱水効率の高い凝集処理剤の開発が要望されている。
【0003】
【文献】特開2001-071000号公報
【文献】特開2004-025094号公報
【文献】特開2017-006877号公報
【文献】特開2004-059750号公報
【文献】特開2002-166104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、製紙工場から発生する製紙スラッジに対して凝集処理剤を添加し、効率が良い脱水処理を可能とする製紙スラッジの脱水方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明者は、鋭意検討した結果、以下に述べる発明に達した。即ち、製紙スラッジに油中水型エマルジョンからなる特定の構造、組成を有する一級アミノ基含有重合体を添加する製紙スラッジの脱水方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明における凝集処理剤は製紙スラッジの脱水処理に有効であり、従来の凝集処理剤を添加するよりも優れた脱水処理効果が達成できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明における一級アミノ基含有重合体は、下記一般式(1)で表されるカチオン性単量体を必須として含有する単量体混合物を重合して得られる一級アミノ基含有重合体である。一般式(1)で表わされるカチオン性単量体の例としては、2-アミノエチルアクリレート、2-アミノエチルメタクリレート、3-アミノプロピルアクリレート、3-アミノプロピルメタクリレート等の有機酸や無機酸の塩が挙げられる。これらの単量体は、通常、無機あるいは有機の酸塩の形でのみ存在が可能であり、硫酸塩、塩酸塩、リン酸塩、シュウ酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、メチルホスホン酸、フェニルホスホン酸塩等が挙げられる。これらのうち、硫酸塩、塩酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩が好ましい。好ましいのは、2-アミノエチルアクリレート塩酸塩、2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩、2-アミノエチルアクリレート硫酸塩、2-アミノエチルメタクリレート硫酸塩、2-アミノエチルアクリレートメタンスルホン酸塩、2-アミノエチルメタクリレートメタンスルホン酸塩、2-アミノエチルアクリレートパラトルエンスルホン酸塩、2-アミノエチルメタクリレートパラトルエンスルホン酸塩である。
一般式(1)
は水素又はメチル基、Aは酸素原子又はNH、Bは炭素数2~3のアルキレン基又はアルコキシレン基、Xは陰イオンをそれぞれ表わす。
【0008】
一般式(1)で表されるカチオン性単量体は、単独で重合しても良く、他の単量体と共重合しても良い。例えば、非イオン性単量体の(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジメチルアクリルアミド、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等が挙げられ、非イオン性の単量体のうちから一種又は二種以上と組み合わせ共重合することも可能である。最も好ましい非イオン性単量体の例としては、アクリルアミドである。又、アニオン性単量体のビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミド2-メチルプロパンスルホン酸、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸あるいはマレイン酸等とも共重合可能である。更に三級アミノ基や四級アンモニウム基含有単量体とも共重合可能である。三級アミノ基含有単量体の例としては、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルやジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等である。又、四級アンモニウム基単量体の例としては、前記三級アミノ基含有単量体の塩化メチルや塩化ベンジルによる四級化物である(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ2-ヒドロキシプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物等が挙げられる。更にジアリルジメチルアンモニウム塩化物等とも共重合可能である。これら四級アンモニウム基含有単量体と非イオン性単量体と本発明で使用する一般式(1)で表されるカチオン性単量体からなる三元共重合体も使用可能である。
【0009】
これら一級アミノ基含有重合体中の一般式(1)で表わされる一級アミノ基含有単量体のモル%としては、本発明における凝集処理剤の効果を最大限に発揮するには、好ましくは70~100モル%、より好ましくは80~100モル%である。両性の場合、アニオン性単量体のモル%としては、1~20モル%である。
【0010】
一級アミノ基含有重合体の製造は油中水型エマルジョン重合法により製造する。例えば、先ず、一般式(1)で表わされるカチオン性単量体、あるいは共重合する場合は、共重合する単量体を共存させた水溶液を調製し、pHを2.0~6.0に調節した後、窒素置換により反応系の酸素を除去し常法の油中水型エマルジョン重合法により製造する。ラジカル重合性開始剤を添加することによって重合を開始させ、重合体を製造することができる。そのため重合濃度としては、5~60質量%の範囲での実施が可能であり、好ましくは20~50質量%で行うのが適当である。又、反応の温度としては、10~100℃の範囲で行うことができる。
【0011】
重合の機構としては、ラジカル重合開始剤を使用した一般的なラジカル重合によって重合体を生成することができる。即ち開始剤としては、アゾ系、過酸化物系、レドックス系いずれでも重合することが可能である。油溶性アゾ系開始剤の例としては、2、2’-アゾビスイソブチロニトリル、1、1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2、2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2、2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)等が挙げられ、水混溶性溶剤に溶解し添加する。水溶性アゾ系開始剤の例としては、2、2’-アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物、2、2’-アゾビス〔2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン〕二塩化水素化物、4、4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)等が挙げられる。又、レドックス系の例としては、ペルオキシ二硫酸アンモニウムあるいはカリウムと亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、トリメチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等との組み合わせが挙げられる。更に過酸化物の例としては、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、過酸化水素、ベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、オクタノイルペルオキサイド、サクシニックペルオキサイド、t-ブチルペルオキシ2-エチルヘキサノエート等を挙げることができる。これらの中で特に好ましい開始剤としては、水溶性のアゾ系開始剤である2、2’-アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物、2、2’-アゾビス〔2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン〕二塩化水素化物等である。
【0012】
重合時に構造改質剤、すなわち高分子を構造変性する架橋性単量体を使用しても良い。この架橋性単量体は、単量体総量に対し質量で0.5~200ppmの範囲で存在させる。架橋性単量体の例としては、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリアリルアミン、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸トリエチレングリコール、ジメタクリル酸テトラエチレングリコール、ジメタクリル酸-1,3-ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、N-ビニル(メタ)アクリルアミド、N-メチルアリルアクリルアミド、アクリル酸グリシジル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、アクロレイン、グリオキザール、ビニルトリメトキシシランなどがあるが、この場合の架橋剤としては、水溶性ポリビニル化合物がより好ましく、最も好ましいのはN,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミドである。又、ギ酸ナトリウム、イソプロピルアルコール、メタリルスルホン酸ナトリウム等の連鎖移動剤を併用することも架橋性を調節する手法として効果的である。添加率としては、単量体総量に対し0.001~1.0質量%、好ましくは0.01~0.1質量%存在させる。
【0013】
本発明における一級アミノ基含有重合体の重量平均分子量は、100万~600万であり、100万以下では凝集性能が不足し、600万より高くなると溶液粘度が高くなり過ぎ分散性が低下するので好ましくはない。200万~600万がより好ましく、250万~600万が更に好ましい。4質量%食塩水中に高分子濃度が0.5質量%になるように完全溶解したときの25℃において回転粘度計にて測定した塩水溶液粘度(SLV)は、5mPa・s以上、70mPa・s以下の範囲である。8mPa・s以上、70mPa・s以下が好ましく、10mPa・s以上、70mPa・s以下が更に好ましい。
【0014】
本発明における一級アミノ基含有重合体は、25℃における0.2質量%水溶液粘度をAQV、水溶性高分子の0.5質量%の4質量%食塩水溶液中粘度をSLVとすると、両方の比であるAQV/SLVが、10以上が好ましい。この数値は架橋の度合いを表すのに使用することができる。分岐が進行した場合や架橋型のイオン性水溶性高分子は、分子内で架橋しているために、水中においても分子が広がり難い性質を有し、直鎖型高分子に較べれば水中での広がりは小さいはずであるが、架橋度が増加するに従い、B型粘度計(回転粘度計の一種)に測定した場合の粘度は大きくなる。この原因はB型粘度計のローター(測定時の回転子)と溶液との摩擦かあるいは絡み合いによるものと推定されるが正確には不明である。一方、架橋型のイオン性水溶性高分子の塩水中の粘度は、架橋度が増加するに従い低下していく。架橋によって分子が収縮しているので、塩水の多量のイオンによってその影響をより大きく受けるものと考えられる。従ってこれらの理由によって二つの粘度測定値の比、AQV/SLVは、架橋度が高くなるに従い大きくなる(架橋がさらに進み水不溶性になった場合は、この関係は成り立たない)。本発明における凝集処理剤では、この値は10以上、30未満の範囲が好ましい。直鎖型水溶性高分子では、この値が10未満、架橋度が高い水溶性高分子では30以上を示す傾向にある。尚、AQVは、B型粘度計において2号ローター、30rpm(25℃)、SLVは、1号ローター、60rpm(25℃)で測定した値である。B型粘度計としては東京計器製B8M等が使用される。
【0015】
製紙スラッジの特徴としては、M-アルカリ度とアニオン量が他の汚泥に比べて低いことが挙げられる。M-アルカリ度は200~800mg/L程度、アニオン量は2.0~4.0meq/L程度である。これに対して一般汚泥ではM-アルカリ度は1000~6000mg/L程度、アニオン量は5.0~10.0meq/L程度である。これらの値が低いとアニオン性のコロイド物質の含有量、有機分が少なく、繊維質の不安定な懸濁物質が多く存在する。そのため製紙スラッジを脱水する場合の脱水機は、スクリュープレス型脱水機あるいはロータリープレス型脱水機が適用されることが多い。スクリュープレス型脱水機は、スクリューによってスラッジを押し出していくため、その過程でスラッジに圧搾力が掛かり、形成するフロックは強固なものが要求される。ロータリープレスでも同様に圧搾脱水方式であるため強固なフロックが要求される。しかし、近年、製紙スラッジは特に再生紙系において余剰汚泥や製紙原料中に雑誌、チラシ、板紙等の古紙の配合比率が増加傾向にあり、特に余剰汚泥は有機分が多く繊維分が少ないため濃縮性が低下する難脱水性の汚泥であるため、M-アルカリ度とアニオン量が一般汚泥に近づくこともあり、従来の凝集処理剤で処理するには製紙スラッジの性状が不安定な状態となっている。尚、汚泥の各種測定値は、定法(下水試験方法)に基づく測定による。
【0016】
本発明における一級アミノ基含有重合体は、この様に製紙スラッジの性状が不安定であっても安定した効果を発揮することができる。汚泥の腐敗・発酵の指標として使用される、M-アルカリ度が1000mg/L以上であると、一般的に凝集処理剤の効果が不良となるが、本発明における一級アミノ基含有重合体は、M-アルカリ度が1000mg/L以上でも効果を発揮する。特に繊維分含有量が少ない製紙スラッジに有効である。製紙スラッジ中の繊維分含有量として粗浮遊物が指標とできる。この値が低いと製紙スラッジ中の繊維分が少ないことになる。粗浮遊物が20質量%以下(対スラッジ固形分)であると一般的に使用されるポリアクリルアミド系水溶性高分子やアミジン系水溶性高分子に対する本発明における一級アミノ基含有重合体の効果を発揮しやすいので好ましい。18質量%以下(対スラッジ固形分)が更に好ましい。
尚、粗浮遊物は下記の測定方法に従い測定したものである。
(製紙スラッジ中の粗浮遊物の測定方法)
(1)汚泥100mLをビーカー500mLにはかり取り、水を加えて200mLとする。
(2)これを標準ふるい(呼び寸法0.075mm)の中央部に静かに移し水洗する。
(3)この残渣を濾紙6種(あらかじめ乾燥して、その質量(Xmg)をはかってあるもの)の上に移して濾過する。
(4)この濾紙をあらかじめ乾燥して質量をはかってある蒸発皿に移し、105℃で2時間加熱乾燥した後デシケーター中で室温まで放冷し、その質量(Ymg)をはかる。
(5)この濾紙をのせた蒸発皿を磁性のふたで覆い、電気炉に入れて600℃で1時間灰化し、デシケーター中で放冷した後、その質量(Zmg)をはかり、次式によって、汚泥中の粗浮遊物の濃度(質量%)を算出する。
製紙スラッジ中の粗浮遊物(質量%)=(Y-X-Z)×1/1000
【0017】
PAM系水溶性高分子凝集剤中の四級アンモニウム塩含有アクリル系高分子では、製紙スラッジ溶液中では、懸濁物質中の対イオンの存在によりカチオン性基が中和され、高分子鎖がランダムコイル状となり汚泥粒子との接触が不良となり効果が低下する。一方、本発明における一級アミノ基含有重合体が有する一級アミンは水素結合力が高く親水性微粒子への吸着性が高い。更に高カチオン性、分子量の調節、高分子の構造を最適化することにより製紙スラッジに対しても効率が良い脱水処理効果が可能となったと推測される。
【0018】
本発明における一級アミノ基含有重合体は水に溶解して添加対象物に添加する。一級アミノ基含有重合体を溶解する水は、蒸留水、イオン交換水、水道水、工業用水等が使用できる。これらが混合されていても差し支えない。本発明における一級アミノ基含有重合体を0.01~1.0質量%に溶解して対象物に添加する。更に水で二次希釈、三時希釈しても差し支えない。
【0019】
本発明における一級アミノ基含有重合体は、製紙工場から発生した製紙スラッジに対して有効である。製紙スラッジの種類としては、上質印刷用紙、中質印刷用紙、グラビア印刷用紙、PPC用紙、塗工原紙、微塗工紙、包装用紙等何れでも適用可能であるが、近年、余剰汚泥や雑誌、チラシ、板紙等の古紙の配合割合が増加する傾向にある再生紙系において効果を発揮しやすい。又、製紙スラッジと他の有機性汚泥(いわゆる生汚泥、余剰汚泥、混合生汚泥、消化汚泥、凝沈・浮上汚泥及びこれらの混合物)と混合しても差し支えない。
【0020】
又、本発明における一級アミノ基含有重合体は、鉄塩、アルミニウム塩等の無機凝集剤と併用しても良く、単独で使用しても優れたケーキ含水率低減効果を発揮する。汚泥に対する添加率は、汚泥液量に対し1~1000質量%である。
【0021】
本発明における一級アミノ基含有重合体を適用する脱水機の種類は、製紙スラッジで主に使用されるスクリュープレスあるいはロータリープレスであるが、デカンター、ベルトプレス等に適用しても差し支えない。
【実施例
【0022】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0023】
本発明における一級アミノ基含有重合体として、油中水型エマルジョン重合の常法により試料A及び試料Bを調製した。これらの組成、物性を表1に示す。又、凝集処理剤として汎用されているポリアクリルアミド系高分子試料1~7、ポリアミジン系水溶性高分子試料8、ポリビニルアミン系水溶性高分子試料9を調製、用意した。これらの組成、物性を表2に示す。
【0024】
(表1)
形態:EM;油中水型エマルジョン
0.2質量%水溶液粘度(mPa・s);0.2質量%高分子水溶液をB型粘度計により測定(25℃)。
0.5質量%塩水溶液粘度(mPa・s);0.5質量%高分子水溶液に4質量%塩化ナトリウムを添加、完全溶解後にB型粘度計により測定(25℃)。
AQV;0.2質量%水溶液粘度(mPa・s)
SLV;0.5質量%塩水溶液粘度(mPa・s)
AQV/SLV;無次元
【0025】
(表2)
DMQ;アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物
AAM;アクリルアミド、AAC;アクリル酸
形態:EM;油中水型エマルジョン、P;粉末
0.2質量%水溶液粘度(mPa・s);0.2質量%高分子水溶液をB型粘度計により測定(25℃)。
0.5質量%塩水溶液粘度(mPa・s);0.5質量%高分子水溶液に4質量%塩化ナトリウムを添加、完全溶解後にB型粘度計により測定(25℃)。
AQV;0.2質量%水溶液粘度(mPa・s)
SLV;0.5質量%塩水溶液粘度(mPa・s)
AQV/SLV;無次元
【0026】
(実施例1)製紙工場から発生した製紙スラッジ(pH6.2、SS分2960mg/L、電気伝導度288mS/m、VSS64.6質量%、VTS61.3質量%、M-アルカリ度120mg/L、アニオン量2.2meq/L、粗浮遊物2.7質量%/SS)を用い、脱水試験を実施した。製紙スラッジ200mLをポリビーカーに採取し、前記表1の試料A 0.2質量%水溶解液を対汚泥液量50ppm添加、CST測定装置において撹拌回転数500rpmで60秒撹拌後、ナイロン製濾布(#202)により濾過し、60秒後の濾液量を測定した。測定後、60秒間濾過した汚泥をプレス圧4Kg/cmで60秒間脱水し、ケーキ含水率(105℃で20hr乾燥)を測定した。結果を表3に示す。
【0027】
(比較例1~7)実施例1と同じ製紙スラッジを用い前記表2の凝集処理剤試料を用い同様な汚泥脱水試験を実施した。結果を表3に示す。
【0028】
(表3)
【0029】
(実施例2)製紙工場から発生した製紙スラッジ(pH6.1、SS分28750mg/L、電気伝導度341mS/m、VSS70.4質量%、VTS69.3質量%、M-アルカリ度1175mg/L、アニオン量3.2meq/L、粗浮遊物17.3質量%/SS)を用い、脱水試験を実施した。製紙スラッジ200mLをポリビーカーに採取し、前記表1の試料A 0.2質量%水溶解液を対汚泥液量300ppm添加、ポリビーカー移し替え20回攪拌後、ナイロン製濾布(#202)により濾過し、60秒後の濾液量を測定した。測定後、60秒間濾過した汚泥をプレス圧4Kg/cmで60秒間脱水し、ケーキ含水率(105℃で20hr乾燥)を測定した。結果を表4に示す。
【0030】
(比較例8~12)実施例2と同じ製紙スラッジを用い前記表2の凝集処理剤試料を用い同様な汚泥脱水試験を実施した。これらの結果を表4に示す。
【0031】
(表4)
【0032】
(実施例3)製紙工場から発生した製紙スラッジ(pH6.4、SS分9500mg/L、電気伝導度132mS/m、VSS89.5質量%、VTS81.6質量%、M-アルカリ度179mg/L、アニオン量3.6meq/L、粗浮遊物1.5質量%/SS)を用い、脱水試験を実施した。製紙スラッジ200mLをポリビーカーに採取し、ポリ硫酸第二鉄を対汚泥液量120ppm添加、スパチュラで50回攪拌、硫酸バンド対汚泥液量120ppm添加、スパチュラで50回攪拌後、前記表1の試料A 0.2質量%水溶解液を対汚泥液量110ppmあるいは150ppm添加、ポリビーカー移し替え20回攪拌後、ナイロン製濾布(T-1179L)により濾過し、60秒後の濾液量を測定した。測定後、60秒間濾過した汚泥をプレス圧3Kg/cmで60秒間脱水し、ケーキ含水率(105℃で20hr乾燥)を測定した。結果を表5に示す。
【0033】
(比較例13~15)実施例3と同じ製紙スラッジを用い前記表2の凝集処理剤試料を用い同様な汚泥脱水試験を実施した。これらの結果を表5に示す。
【0034】
(表5)
【0035】
本発明における一級アミノ基含有重合体添加した実施例では、ケーキ含水率が低下を示し製紙スラッジに対して、本発明における一級アミノ基含有重合体の効果が確認できた。尚、試料Bについても同様な試験を実施し試料Aと同様な効果が得られた。