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特許7519063有害物質を含む塗装材の飛散防止装置、防止方法、およびその防止足場
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  • 特許-有害物質を含む塗装材の飛散防止装置、防止方法、およびその防止足場 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】有害物質を含む塗装材の飛散防止装置、防止方法、およびその防止足場
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
E04G23/02 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020128011
(22)【出願日】2020-07-29
(65)【公開番号】P2022025278
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】513155448
【氏名又は名称】日本トリート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166051
【弁理士】
【氏名又は名称】駒津 啓佑
(72)【発明者】
【氏名】臼井 淳一郎
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-109304(JP,A)
【文献】特開2015-004223(JP,A)
【文献】特開2000-336939(JP,A)
【文献】特開平07-234059(JP,A)
【文献】特開2005-126950(JP,A)
【文献】特開2008-308914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02,23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物に塗装された有害物質を含む塗装材を剥離手段で研削して剥離する作業区域の内側で研削した前記塗装材の粉塵の飛散を防止する有害物質を含む塗装材の飛散防止装置において、
前記建造物における高さ方向、幅方向、および奥行き方向で前記作業区域を囲うようにして配置され、圧縮装置から供給された帯状の圧縮空気が、前記建造物の上方から下方に向けられて排出される帯状排出口と、
前記帯状排出口から排出された圧縮空気によって移動した前記粉塵を含む前記作業区域内の空気を吸引して浄化する吸引手段と、
を備えることを特徴とする有害物質を含む塗装材の飛散防止装置。
【請求項2】
前記帯状排出口は、
前記作業区域に設置された足場に、所定の間隔をおいて設置されること、
を特徴とする請求項1記載の有害物質を含む塗装材の飛散防止装置。
【請求項3】
前記所定の間隔は、
前記帯状の圧縮空気が連続する位置に設置される間隔であること、
を特徴とする請求項2記載の有害物質を含む塗装材の飛散防止装置。
【請求項4】
前記所定の間隔で設置された前記帯状排出口は、
前記帯状の圧縮空気が連続する風量および風速で設定されること、
を特徴とする請求項2記載の有害物質を含む塗装材の飛散防止装置。
【請求項5】
前記帯状排出口による排出方向の先端は、
鉛直下方向よりも前記建造物に向けられること、
を特徴とする請求項1記載の有害物質を含む塗装材の飛散防止装置。
【請求項6】
前記圧縮装置から供給された圧縮空気を前記剥離手段を扱う作業者に向けて、涼風として排出される涼風排出口、
を備えることを特徴とする請求項1記載の有害物質を含む塗装材の飛散防止装置。
【請求項7】
建造物に塗装された有害物質を含む塗装材を剥離手段で研削して剥離する作業区域の内側で研削した前記塗装材の粉塵の飛散を防止する有害物質を含む塗装材の飛散防止方法において、
前記建造物における高さ方向、幅方向、および奥行き方向で前記作業区域を囲うようにして配置され、圧縮装置から供給された帯状の圧縮空気が、前記建造物の上方から下方に向けられて帯状排出口から排出される工程と、
前記帯状排出口から排出された圧縮空気によって移動した前記粉塵を含む前記作業区域内の空気を吸引手段が吸引して浄化する工程と、
を備えることを特徴とする有害物質を含む塗装材の飛散防止方法。
【請求項8】
建造物に塗装された有害物質を含む塗装材を剥離手段で研削して剥離する作業区域の内側で研削した前記塗装材の粉塵の飛散を防止する有害物質を含む塗装材の飛散防止足場において、
前記建造物における高さ方向、幅方向、および奥行き方向で前記作業区域を囲うようにして配置され、圧縮装置から供給された帯状の圧縮空気が、前記建造物の上方から下方に向けられて排出される帯状排出口と、
前記帯状排出口から排出された圧縮空気によって移動した前記粉塵を含む前記作業区域内の空気を吸引して浄化する吸引手段と、
を備えることを特徴とする有害物質を含む塗装材の飛散防止足場。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害物質を含む塗装材の飛散防止装置、有害物質を含む塗装材の飛散防止方法、および有害物質を含む塗装材の飛散防止足場に関し、特に建造物に塗装された有害物質を含む塗装材を剥離手段で研削して剥離する作業区域内で研削した前記塗装材の粉塵の飛散を防止する有害物質を含む塗装材の飛散防止装置、有害物質を含む塗装材の飛散防止方法、および有害物質を含む塗装材の飛散防止足場に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から建造物の資材にはアスベストが使われてきた。一般にアスベストと呼ばれる石綿は、天然にできた極めて細い鉱物繊維であり、耐久性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などの特性を備えており、1960年頃から1990年頃にかけて建設資材、摩擦材、シール材、断熱材など様々な用途に大量に使用されていた。
【0003】
しかし、極めて細い鉱物繊維のアスベストが粉塵となって気道から吸入されると、胸膜や気管支に障害を起こし、やがて肺ガンや中皮腫などのガンを発生させてしまう発ガン性が問題となっている。このため、現在では、アスベストの製造や使用が完全に禁止されている。
【0004】
アスベストは、現在では製造や使用が完全に禁止されているものの、長年にわたって建設資材など大量に使用されてきた。長年にわたって一般的な住宅から学校などの公共施設まで、多様な建造物に幅広く使用されていた。このため、現存する多くの建物にも、アスベストを含有する建設資材が残っている。
【0005】
このように建設資材に多く使用されてきたアスベストは、露出したアスベストが粉塵となって飛散するだけではない。たとえば地震などの災害時に建造物が倒壊すると、建設資材に使用されたアスベストが大量に飛散する恐れもある。このため、アスベストを含有した建設資材を除去する対策が行われている。
【0006】
ところで、このアスベストは、建設資材、摩擦材、シール材、断熱材だけでなく、仕上塗装材や下地調整塗装材にも用いられていた。しかし、これらの塗装材ではアスベストの添加量が少なく、セメントや合成樹脂などで固着させて使用するため、アスベストが飛散することは少ないと考えられていた。
【0007】
たとえば、アスベストを含む塗装材が使用された建造物を解体する場合、アスベストを含まない建造物と同じように解体してしまうと、アスベストが飛散してしまう危険性がある。
【0008】
また、このアスベストを含む塗装材による塗膜を破断することなく建造物を解体することは非常に困難である。さらに、アスベストを含有した外壁だと知らずに壁を破断してしまうと、アスベストが飛散してしまう危険性がある。
【0009】
アスベストを含んだ塗装材が飛散する可能性は建造物の解体だけでなく、アスベストを含む塗装材が使用された建造物の塗り替え塗装を行う場合に、塗装材の剥離処理を間違えるとアスベストが飛散してしまう危険性もある。
【0010】
そこで、建造物の解体や、建造物の内外装材などの除去を行う際には、アスベストの粉塵などの有害物質が作業区域外に飛散してしまうことを防止する方法が行われている。たとえば、塗装材の除去作業を行う作業区域をプラスチックなどの隔離シートで囲い、作業区域内部を負圧状態に維持した負圧作業区域内で塗装材の除去作業をする方法が開発されている(たとえば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2008-308914公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のような負圧作業区域では、内部の温度が上昇するため負圧作業区域内を冷却する手段が設けられているが、冷却する手段によっては塗装材を研磨するためのグラインダーなどの機械類に不具合が生じる問題があった。
【0013】
具体的な負圧作業区域内を冷却する手段としては、負圧作業区域内を冷却する冷却装置を設置する手段が挙げられる。しかし、冷却装置などで負圧作業区域内を冷却し過ぎると、負圧作業区域内で使用する機械類に不具合が生じる場合がある。
【0014】
より具体的には、冷却装置により負圧作業区域内が冷却されると、負圧作業区域内の空気が冷えることで飽和水蒸気量が低下し、空気中の水分が水滴となって現れる結露が生じる。この結露が負圧作業区域内で使用する機械類の内部で発生してしまうと、電気回路が短絡する恐れがある。電気回路が短絡してしまうと、機械が動作しなくなる、又は機械が故障する原因となるなどの問題が生じる。
【0015】
また、他の負圧作業区域内を冷却する手段のとして、負圧作業区域内に水分を噴霧する手段が挙げられる。
負圧作業区域内に水分が噴霧されることで、霧状の水分が蒸発する際に、気化熱によって空気の温度が奪われるため、負圧作業区域内の冷却効果が見込まれる。
【0016】
しかし、この冷却手段も水分を空気中に噴霧するため、噴霧した水分が負圧作業区域内で使用する機械類の内部に入り込んでしまうと、電気回路が短絡する恐れがある。電気回路が短絡してしまうと、機械が動作しなくなる、又は機械が故障する原因となるなどの問題が生じる。
【0017】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、研削作業中に生じる有害物質の飛散を防止でき、作業に使用される機械を短絡させることなく、作業環境を向上させる有害物質飛散防止装置、有害物質飛散防止方法、および有害物質飛散防止足場を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明では上記問題を解決するために、建造物に塗装された有害物質を含む塗装材を剥離手段で研削して剥離する作業区域の内側で研削した前記塗装材の粉塵の飛散を防止する有害物質を含む塗装材の飛散防止装置において、前記作業区域の周囲側面を前記建造物の上方から下方に、前記建造物の壁面に沿って帯状に圧縮装置から供給された圧縮空気が排出される帯状排出口と、前記帯状排出口から排出された圧縮空気によって移動した前記粉塵を含む前記作業区域内の空気を吸引して浄化する吸引手段とを備えることを特徴とする有害物質を含む塗装材の飛散防止装置が提供される。
【0019】
これにより、作業区域の周囲側面を建造物の上方から下方に、建造物の壁面に沿って帯状に圧縮装置から供給された圧縮空気が帯状排出口から排出され、帯状排出口から排出された圧縮空気によって移動した粉塵を含む作業区域内の空気を吸引手段が吸引して浄化する。
【0020】
また、本発明では、建造物に塗装された有害物質を含む塗装材を剥離手段で研削して剥離する作業区域の内側で研削した前記塗装材の粉塵の飛散を防止する有害物質を含む塗装材の飛散防止方法において、前記作業区域の周囲側面を前記建造物の上方から下方に、前記建造物の壁面に沿って帯状に圧縮装置から供給された圧縮空気が帯状排出口から排出される工程と、前記帯状排出口から排出された圧縮空気によって移動した前記粉塵を含む前記作業区域内の空気を吸引手段が吸引して浄化する工程とを備えることを特徴とする有害物質を含む塗装材の飛散防止方法が提供される。
【0021】
これにより、作業区域の周囲側面を建造物の上方から下方に、建造物の壁面に沿って帯状に圧縮装置から供給された圧縮空気が帯状排出口から排出され、帯状排出口から排出された圧縮空気によって移動した粉塵を含む作業区域内の空気を吸引手段が吸引して浄化する。
【0022】
また、本発明では、建造物に塗装された有害物質を含む塗装材を剥離手段で研削して剥離する作業区域の内側で研削した前記塗装材の粉塵の飛散を防止する有害物質を含む塗装材の飛散防止足場において、前記作業区域の周囲側面を前記建造物の上方から下方に、前記建造物の壁面に沿って帯状に圧縮装置から供給された圧縮空気が排出される帯状排出口と、前記帯状排出口から排出された圧縮空気によって移動した前記粉塵を含む前記作業区域内の空気を吸引して浄化する吸引手段とを備えることを特徴とする有害物質を含む塗装材の飛散防止足場が提供される。
【0023】
これにより、作業区域の周囲側面を建造物の上方から下方に、建造物の壁面に沿って帯状に圧縮装置から供給された圧縮空気が帯状排出口から排出され、帯状排出口から排出された圧縮空気によって移動した粉塵を含む作業区域内の空気を吸引手段が吸引して浄化する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の有害物質を含む塗装材の飛散防止装置、有害物質を含む塗装材の飛散防止方法、および有害物質を含む塗装材の飛散防止足場によれば、作業区域の周囲側面を建造物の上方から下方に、建造物の壁面に沿って帯状に圧縮装置から供給された圧縮空気が帯状排出口から排出され、帯状排出口から排出された圧縮空気によって移動した粉塵を含む作業区域内の空気を吸引手段が吸引して浄化するので、養生シートなどで密閉しなくても塗装材の粉塵の飛散を防止することができる。これにより、作業区域の温度上昇が抑制されるため、作業区域内の作業環境を向上させることができる。
【0025】
さらに、作業区域の温度上昇が抑制されるため、作業区域内を冷却する手段が必要なくなる。すなわち、冷却する手段により作業区域内で水分が生じることがない。このため、作業に使用される剥離手段などの電気機械が短絡することがない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本実施の形態に係る有害物質飛散防止装置を示す断面図である。
図2】足場に設置される排出口を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係る有害物質飛散防止装置を示す断面図である。
本実施の形態の有害物質飛散防止装置100は、建造物200が備える壁面210に塗装された有害物質を含む塗装材220を作業者400が研削して除去する除去作業により、壁面210から剥離した際に生じる粉塵が周囲への飛散を防止するものである。有害物質の例としてはアスベストが挙げられる。
【0028】
図1に示すように、建造物200の周面には、一般に建設工事において、高所で作業を行う人間の足がかりのために、仮に組立てた構造物である足場300が組み立てられている。
【0029】
この足場300に作業者400がのることで、建造物200の任意の高さの壁面210に塗装された有害物質を含む塗装材220を研削して除去を行う除去作業を行うことができる。なお、本実施の形態では、建造物200の周面に組み立てられた足場300を含んだ内側を作業区域と称して以下を説明する。
【0030】
有害物質飛散防止装置100は、圧送機本体110、足場300の複数の所望の位置に設置される排出口120、圧送機本体110と排出口120とをつなぐ配送管130、吸引装置140、および養生シート150を備えている。
【0031】
圧送機本体110は、たとえば建造物200に隣接した地面などの安定した場所に設置され、空気を圧縮するための空気圧縮装置である。また圧送機本体110は、配送管130を介して排出口120に接続されており、ここでは図示しない電源装置により供給された電力により、配送管130を介して圧縮した空気を排出口120まで届けるためのものである。
【0032】
配送管130は、圧送機本体110と足場300の所望の位置に設置された排出口120とを接続して、圧送機本体110から圧送された対象物を排出口120まで届けるためのものである。
【0033】
たとえば配送管130は、あらかじめ足場300と共に固定された金属などの剛性を備えた剛性配送パイプが挙げられる。足場300を組み立てると共に配送管130も連結され、配送管130の先端で、かつ足場300の所望の位置に設置された排出口120まで連結される。
【0034】
この剛性配送パイプは、足場300を組み立てた際に、配送管130が連結されるように、あらかじめ所望の形状で足場300を形成しておくことで、作業性がよくなり、足場を組み立てると同時に容易に有害物質飛散防止装置100を設置することができる。
【0035】
また配送管130は、ゴムやビニールなどの可撓性を備えた可撓性配送パイプであってもよく、この場合組み立てられた足場300に任意の経路で、配送管130を配管することができる。これにより既存の足場300に有害物質飛散防止装置100を容易に組み入れることができる。
【0036】
排出口120は、圧送機本体110から配送管130を通じて圧送された圧縮空気を排出するためのものであり、足場300の所望の位置に設置される。
具体的には、排出口120は、設置された足場300の外側周面、つまり作業区域の最外側面に設置され、建造物200が備える壁面210に沿って鉛直下方向に向けて、壁面210の幅方向に平行な帯状の圧縮空気を排出する帯状排出口である。
【0037】
なお、排出口120は、足場300の所望の位置に複数設置することもでき、この場合、配送管130は、任意の位置で圧送機本体110から配送管130までを複数に分岐させることができる。
【0038】
排出口120から排出された圧縮空気は、足場300の外側周面で建造物200が備える壁面210に沿って鉛直下方向に向けて、壁面210の幅方向に平行な帯状に排出される。このため、排出された圧縮空気の動きによって、除去作業により壁面210から剥離された塗装材220の粉塵も鉛直下方向に移動する。
【0039】
たとえば、作業区域内で飛散した塗装材220の粉塵が、作業区域を超えて作業区域外に出ようとしたとき、排出口120から排出された圧縮空気の流れによって、塗装材220の粉塵は鉛直下方向に移動する。
【0040】
このように、排出口120が排出した帯状の圧縮空気の流れによって塗装材220の粉塵が鉛直下方向に落下するため、作業区域から外側に塗装材220の粉塵が飛散拡大することを防止することができる。
【0041】
排出口120から排出される圧縮空気の量や速度は任意に設定することができる。1つ排出口120から排出された帯状の圧縮の空気が、次に下に設置された排出口120まで届くように、排出口120から排出される圧縮空気の量や速度、又は排出口120の設置場所が設定される。これにより、排出口120から排出される帯状の圧縮空気が連続するため、作業区域から外側に塗装材220の粉塵が飛散拡大することを防止することができる。なお、排出口120から排出される圧縮空気の量や速度は、塗装材220の粉塵を鉛直下方向に落下させる十分な風量および風速を有している。
【0042】
また排出口120は、上記の鉛直下方向に帯状の圧縮空気を排出する帯状排出口であるだけでなく、これに加えて作業者400に向けた涼風として圧縮空気を排出する涼風排出口であることもできる。
【0043】
排出された涼風である圧縮空気が作業者400に向けられることで、作業者400の周辺に存在する温かい空気が、通常温度の空気と入れ替わる。これにより、作業者400は快適に作業を行うことができる。
【0044】
吸引装置140は、排出口120が排出した圧縮空気や重力によって上部から落下してきた塗装材220の粉塵を吸引するためのものである。
具体的には、吸引装置140は、ここでは図示しない電源装置により供給された電力により塗装材220の粉塵を集塵して無害な空気を排出するためのバキューム装置であって、建造物200に隣接した地面などの安定した場所に設置される。
【0045】
たとえば吸引装置140は、吸引口、フィルター、電動モーター、および排気口を備えている。吸引口は、吸引装置140に外気を取り込むためのものである。フィルターは、吸引装置140に取り込まれた空気を清浄化するためのものである。排気口は、フィルターによって正常化された空気を吐出するためのものであり、サイレンサー機能を備えている。また、これらの内部機器は排気管によって接続されて構成されている。また、吸引口と排気口とは後述する養生シート150で作業区域の内側と外側とが仕切られている。
【0046】
具体的な例として、吸引装置140では、電動モーターが駆動することで、ルーツブロワーが回転し、吸引口および排気管を通じて装置本体内部に吸引された気体が排気口を通じて外気に排出されることで、吸引口に吸引力を発生させている。
この吸引力により、建造物200の壁面210に隣接した底部付近で、上部から落下してきた塗装材220の粉塵を含んだ空気を吸引することができる。
【0047】
なお、吸引装置140の吸引能力は、装置本体内部で回転させるルーツブロワーの数量や大きさによって変化する。またルーツブロワーによる吸引は装置本体内の真空圧を高くすることができる。このため、塗装材220の粉塵や、効率よく塗装材220の粉塵を吸引することができる。
また、吸引力が高いため、吸引装置140の吸引口を吸引ホースなどで連結、分岐させて、足場300の所望の位置で塗装材220の粉塵を吸引するようにしてもよい。
【0048】
また、吸引装置140よりも吸引側の前方に、あらかじめ塗装材220の粉塵を集塵するための集塵装置を設置することもできる。
さらに、吸引装置140と集塵装置との間に集塵装置が集塵したあとの空気を、さらに浄化するための空気清浄装置を設けるようにしてもよい。
【0049】
集塵装置は、たとえばバグフィルターと呼ばれる微細な粉塵や煤塵、微細な有害物質などを除去する集塵フィルターを着脱自在に内蔵したレシーバータンクである。集塵装置は、集塵フィルターと、集塵フィルターを内部に格納する集塵タンク本体と、集塵タンク本体の内側に設置されて集められた粉塵をためる集塵袋とを備えている。
【0050】
集塵装置は後方に吸引装置140又は空気清浄装置に吸引ホースなどで接続され、吸引装置140の吸引力によって、建造物200の壁面210に隣接した底部付近の空気を吸引することで、塗装材220の粉塵を吸引し、集塵フィルターによって集塵される。
【0051】
空気清浄装置は、たとえばHEPA(High Efficiency Particulate Air Filter)フィルターと呼ばれる空気中からゴミ、塵埃などを取り除くことで清浄空気にするHEPAフィルターを着脱自在に内蔵した装置であって、HEPAフィルターと、HEPAフィルターを内部に格納する装置本体とを備えている。
【0052】
集塵装置は前方に集塵装置、後方に吸引装置140が吸引ホースなどで接続され、吸引装置140の吸引力によって、建造物200の壁面210に隣接した底部付近の空気が集塵装置に吸引され、集塵装置が集塵したあとの空気を、さらに清浄化する。
【0053】
このように、吸引装置140よりも吸引側の前方に、集塵装置や空気清浄装置を設置することで、吸引装置140が外気に排出する空気を、よりキレイな空気にすることができる。また吸引動作のある吸引装置140への負担を軽減することができる。
【0054】
養生シート150は、地面に一番近い場所に設置された排出口120が排出した圧縮空気によって地面に反射した空気により、塗装材220の粉塵が作業区域から外部に飛散することを防止するためのものである。
【0055】
具体的には、養生シート150は、足場300の最下階の周面で、作業区域の下面を覆うように養生シート151が設置される。
養生シート151の一部にあけられた開口部に、吸引装置140が開口部を密閉するように差し込まれ、養生シート151によって作業区域と外気とを仕切られている。
【0056】
これらの養生シート150により、排出口120が排出した圧縮空気によって鉛直下方向に落下した塗装材220の粉塵が、作業区域から外部に漏出することを防止することができる。
【0057】
また、外部から水分が作業区域内に浸入することを防止するための養生シート150として、足場300の最上部に養生シート152が設けられ、養生シート152は、建造物200と足場300の外側面との間を覆うように設けられる。
【0058】
この養生シート152を設置することで、雨天時に降雨した雨が作業区域内に浸入することを防止することができる。これにより、雨天時にでも除去作業を効率よく行うことができる。
【0059】
また、養生シート152を設置することで、排出口120が排出した圧縮空気が、作業者400などにあたって反射することで、塗装材220の粉塵が、作業区域から外部に漏出することを防止することができる。
【0060】
通常、建造物200が備える壁面210に塗装されたアスベストのような有害物質を含む塗装材220を作業者400が研削して除去を行う除去作業は、建造物200の上部から行い、除去作業が終了するにつれて建造物200の下部に向かって処理を進めていく。
【0061】
このとき養生シート152を、作業を行う最上部の正面に設置することで、外部から侵入する雨や、排出口120が排出した圧縮空気によって塗装材220の粉塵が、作業区域から外部に漏出することを防止することができる。
【0062】
次に、本実施の形態の有害物質飛散防止装置100を用いて、作業者400が有害物質を含有する塗装材220の除去する作業の手順を説明する。
まず、ここでは図示しない機械操作担当の作業者が、圧送機本体110および吸引装置140を駆動させる。これにより、作業区域内では排出口120を介して圧縮空気が排出され、落下した塗装材220の粉塵を吸引装置140が吸引して作業区域外に排気する。
【0063】
この状態で、塗装材220の剥離作業を行う作業者400が、剥離装置などを使用して研削し、塗装材220を剥離する。この作業により発生した塗装材220の粉塵は作業者400の周囲に飛散する。
【0064】
作業者400の周囲に飛散した塗装材220の粉塵は、排出口120が排出した圧縮空気により、鉛直下方向に落下していく。
鉛直下方向に落下した塗装材220の粉塵は、やがて吸引装置140の吸引力により、吸引装置140に吸引されて、浄化された空気が作業区域外に排気される。これにより、研削作業中に生じる有害物質の飛散を防止することができる。
【0065】
以上のように、排出口120が排出した圧縮空気により、塗装材220の粉塵は鉛直下方向に落下していくため、区画された作業区域内で塗装材220の粉塵が飛散することがない。
【0066】
また、養生シート150などで作業区域を完全に覆うことがないので、作業環境が外気と同一環境となる。このため、作業区域内で温度上昇が起こらない。このため、作業者400は快適な環境で作業を行うことができる。さらに熱中症や脱水症状を防止することができる。
【0067】
本実施の形態では、建造物200が備える壁面210に沿って鉛直下方向に向けて、排出口120が壁面210の幅方向に平行な帯状の圧縮空気を排出する例で説明した。この他に、圧縮空気は鉛直下方向にだけ排出されるだけでなく、排出方向の先端を鉛直下方向よりも建造物200に向けて排出することもできる。
【0068】
これにより、排出口120が排出する圧縮空気は、建造物200における壁面210の方向に傾斜した向きで排出されるので、作業区域を超えて研削作業中に生じる有害物質が飛散することがない。
【0069】
また、排出口120は、ここでは図示しない建造物200の天面部に設けることもできる。建造物200の天面部に設けられた排出口120は、地面方向に向かって向けられて圧縮空気が拡散するように排出される。
【0070】
このため建造物200の天面部に設けられた排出口120が地面方向に向かって圧縮空気を排出することで、研削作業中に生じる有害物質が地面方向に移動する。また足場300の外側周面に設けられた排出口120が圧縮空気を排出することで、有害物質が作業区域外に飛散することがない。
【0071】
図2は、足場に設置される排出口を示す正面図である。
図2に示すように、排出口120は、足場300の所望の位置に設置されて帯状の圧縮空気を排出する。
【0072】
具体的に排出口120は、作業者400の作業の邪魔にならないように、たとえば組み立てられた足場300が備える上階の踏板310の下側面に固定するとよい。
【0073】
また排出口120は、足場300に所定の間隔をあけて設置される。排出口120が設置される間隔は、排出口120から排出される圧縮空気の量や速度によって調節するとよい。
【0074】
たとえば一方の排出口120が、上階の踏板310の下側面に固定され、排出口120から排出される圧縮空気が下階の踏板310まで十分に届く場合には、他方の排出口120が、下階の踏板310の下側面に固定する。
【0075】
これにより、一方の排出口120から排出される帯状の圧縮空気が、他方の排出口120から排出される帯状の圧縮空気と連続するため、作業区域から外側に塗装材220の粉塵が飛散拡大することを防止することができる。
【符号の説明】
【0076】
100 有害物質飛散防止装置
110 圧送機本体
120 排出口
130 配送管
140 吸引装置
150、151、152 養生シート
200 建造物
210 壁面
220 塗装材
300 足場
310 踏板
400 作業者
図1
図2