IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 五洋紙工株式会社の特許一覧

特許7519064筆記性スクリーン用樹脂組成物およびそれを用いた筆記性スクリーンおよびその製造方法
<>
  • 特許-筆記性スクリーン用樹脂組成物およびそれを用いた筆記性スクリーンおよびその製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】筆記性スクリーン用樹脂組成物およびそれを用いた筆記性スクリーンおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B43L 1/04 20060101AFI20240711BHJP
   B43L 1/10 20060101ALI20240711BHJP
   C08F 299/02 20060101ALI20240711BHJP
   G03B 21/60 20140101ALI20240711BHJP
【FI】
B43L1/04 M
B43L1/10
C08F299/02
G03B21/60
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019010330
(22)【出願日】2019-01-24
(65)【公開番号】P2020116839
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-12-02
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000166649
【氏名又は名称】五洋紙工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】野村 京平
(72)【発明者】
【氏名】中塚 宗
【合議体】
【審判長】殿川 雅也
【審判官】藤本 義仁
【審判官】山本 一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-52043(JP,A)
【文献】特開2005-42373(JP,A)
【文献】特開2013-235149(JP,A)
【文献】特開2013-78847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43L 1/04,1/10
C08F299/02
G03B 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層の上に樹脂層を有する筆記性スクリーンであって、該樹脂層が筆記性スクリーン用樹脂組成物の硬化物で構成されており、
該筆記性スクリーン用樹脂組成物が、紫外線硬化性樹脂および無溶剤型反応性シリコーンを含有し、該無溶剤型反応性シリコーンの含有量が該紫外線硬化性樹脂100重量部に対して0.5~10重量部であり、
該樹脂層の算術平均粗さRaが0.5~0.8μmであり、
該樹脂層の隣接凹凸平均間隔Smが40~80μmである、筆記性スクリーン。
【請求項2】
前記紫外線硬化性樹脂が、エポキシ変性アクリレート系樹脂、ウレタン変性アクリレート系樹脂またはシリコーン変性アクリレート系樹脂である、請求項1に記載の筆記性スクリーン。
【請求項3】
前記紫外線硬化性樹脂がウレタン変性アクリレート系樹脂である、請求項2に記載の筆記性スクリーン。
【請求項4】
前記無溶剤型反応性シリコーンの含有量が、前記紫外線硬化性樹脂100重量部に対して1~8重量部である、請求項1から3のいずれかに記載の筆記性スクリーン。
【請求項5】
前記無溶剤型反応性シリコーンが、アクリル酸基またはメタクリル酸基で変性したポリシロキサンである、請求項1から4のいずれかに記載の筆記性スクリーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記性スクリーン用樹脂組成物およびそれを用いた筆記性スクリーンおよびその製造方法に関し、より詳細には、映写投影性とマーカーによる筆記後の消去性との両立が向上した筆記性スクリーン用樹脂組成物およびそれを用いた筆記性スクリーンおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピューター、タブレット端末、スマートフォンなどの情報機械装置または通信機械装置に接続したプロジェクターから発せられた文字、写真、図形などを映写する投影用スクリーンの機能を有するとともに、ホワイトボード用マーカーなどによる書込みとホワイトボードイレーサーによるその消去とが可能なスクリーンが知られている。このようなスクリーンは、筆記性スクリーンとも呼ばれている。
【0003】
従来の投影用スクリーンでは、表面素材のエンボス加工や微細粒子の練りこみなどによってスクリーンの表面に凹凸を設け、プロジェクターからの投影光を乱反射させることにより、ホットスポットと呼ばれる光のギラツキを抑え、映像視野角の拡大が図られている。
【0004】
これに対し、使用時のホットスポットやギラツキのない、筆記性、消去性、さらに長期使用による耐擦傷性などバランスの取れた筆記性スクリーンは未だ満足し得るものは見出されていない。
【0005】
例えば、特許文献1には、ポリエチレンテレフタレート樹脂製フィルムの表面に紫外線硬化性樹脂を塗布・硬化させて、硬化塗膜表面にエンボス加工を施し、算術平均粗さ1.5~3.0μm、平均山間隔50~280μm程度の凹凸を設けたスクリーンが提案されている。特許文献1のスクリーンは、ホワイトボード用マーカーで書いた文字などの消去性を改善することが目的とされている。
【0006】
特許文献2には、基材の上に微細粒子を含む樹脂層を設け、筆記かつ投影面における算術平均粗さRa1(カットオフ値0.8mm、触針先端半径2.5μmにおけるJIS B0601(2001)に準拠する表面の算術平均粗さ)が0.1~3.0μmであり、当該筆記かつ投影面におけるRa2(カットオフ値0.08mm、触針先端半径2.5μmにおけるJIS B0601(2001)に準拠する表面の算術平均粗さ)が0.05~0.20μmである筆記性スクリーンが記載されている。特許文献2のスクリーンは、筆記性および消去性の改善に加え、ホットスポットおよびギラ付きの改善を目的としている。
【0007】
特許文献3には、熱可塑性樹脂製の基材上に平均粒子径2~12μmの微粒子を含ませた紫外線硬化性樹脂を塗布・硬化させることにより作製した映写用スクリーンが記載されている。この特許文献3はまた、この紫外線硬化性樹脂にフッ素系またはシリコーン系化合物を添加することによって硬化表面のグロス(60度表面光沢)が3~38程度となり、ホットスポットおよび消去性が改善することを記載している。
【0008】
しかし、特許文献1~3に記載のスクリーンはいずれも、各特許文献が目的とする相応の改善効果が期待できるものの、ホワイトボード用マーカーやホワイトボードイレーサーを用いる際の書込み性および消去性に関する筆記機能と、ホットスポットおよびギラ付きの防止または低減に関する投影機能とを未だバランス良く改善し得るものであるとは言い難い。このため、筆記性スクリーンのさらなる開発が所望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第01/032440号
【文献】国際公開第2013/137099号
【文献】特開2018-54809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、ホワイトボード用マーカーやホワイトボードイレーサーを用いる際の書込み性および消去性に関する筆記機能と、ホットスポットおよびギラ付きの防止または低減に関する投影機能とをバランス良く向上させ得る、筆記性スクリーン用樹脂組成物およびそれを用いた筆記性スクリーンおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、紫外線硬化性樹脂および無溶剤型反応性シリコーンを含有し、該無溶剤型反応性シリコーンの含有量が該紫外線硬化性樹脂100重量部に対して0.5~10重量部である、筆記性スクリーン用樹脂組成物である。
1つの実施形態では、上記紫外線硬化性樹脂は、エポキシ変性アクリレート系樹脂、ウレタン変性アクリレート系樹脂またはシリコーン変性アクリレート系樹脂である。
さらなる実施形態では、上記紫外線硬化性樹脂はウレタン変性アクリレート系樹脂である。
【0012】
1つの実施形態では、上記無溶剤型反応性シリコーンの含有量は、上記紫外線硬化性樹脂100重量部に対して1~8重量部である。
【0013】
1つの実施形態では、上記無溶剤型反応性シリコーンは、アクリル酸基またはメタクリル酸基で変性したポリシロキサンである。
【0014】
本発明はまた、基材層の上に樹脂層を有する筆記性スクリーンであって、該樹脂層が上記筆記性スクリーン用樹脂組成物の硬化物で構成されている、筆記性スクリーンである。
【0015】
1つの実施形態では、上記樹脂層の算術平均粗さRaは0.3~0.8μmである。
【0016】
1つの実施形態では、上記樹脂層の隣接凹凸平均間隔Smは40~80μmである。
【0017】
本発明は、筆記性スクリーンの製造方法であって、
基材層の上に、上記筆記スクリーン用樹脂組成物を配置する工程、および
該基材層上に配置された樹脂組成物に紫外線を照射する工程、
を含む、方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ホワイトボード用マーカーやホワイトボードイレーサーによる書込み性および消去性と、ホットスポットおよびギラ付きの防止または低減とを両立させることができる。本発明の筆記性スクリーンはまた、スクリーン表面(樹脂層側の表面)が良好な強度を有することにより、上記マーカーやイレーサーに対する耐擦傷性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の筆記性スクリーンの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳述する。
【0021】
(筆記性スクリーン樹脂組成物)
本発明の筆記性スクリーン樹脂組成物は、紫外線硬化性樹脂および無溶剤型反応性シリコーンを含有する。
【0022】
本発明における紫外線硬化性樹脂は、光(特に紫外線)の照射によって重合反応を生じ固化する性質を有するモノマーおよびオリゴマーであり、例えば、光の照射によって不飽和二重結合のラジカル重合を引き起こす性質を有するもの(アクリレート型の紫外線硬化性樹脂)、光照射によってカチオン重合を引き起こす性質を有するもの(エポキシ型の紫外線硬化性樹脂)が挙げられる。このような紫外線硬化性樹脂の具体的な例としては、エポキシ変性アクリレート系、ウレタン変性アクリレート系、シリコーン変性アクリレート系、およびエポキシ系、ならびにそれらのフッ素変性オリゴマー、またはモノマー、あるいは公知の光重合開始剤を含有する樹脂が挙げられる。
【0023】
紫外線硬化性樹脂としては、例えば、日本合成化学株式会社製紫外線硬化性樹脂「紫光(登録商標)」シリーズ(例えば、UV-1700B、UV-7510B、UV-7640B、UV-7605B)などが挙げられる。
【0024】
無溶剤型反応性シリコーンは、当該シリコーンを構成する珪素原子の一部に反応性官能基が導入されたシリコーンオイルであり、上記紫外線硬化性樹脂と一緒に組み合わせることにより、当該樹脂が紫外線によって硬化する際に併せてシリコーンオイルの特性を付与し得る材料である。このような無溶剤型反応性シリコーンには、例えば、ポリシロキサンを構成する分子の片方の末端に反応性官能基が付与したもの(片末端型反応性シリコーン)、およびポリシロキサンを構成する分子の側鎖に反応性官能基が付与したもの(側鎖型反応性シリコーン)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。片末端型反応性シリコーンは、例えば樹脂(紫外線硬化性樹脂)に対してグラフト共重合が可能であり、樹脂表面に撥水性や滑り性を付与することができる。側鎖型反応性シリコーンは、例えば樹脂(紫外線硬化性樹脂)に対してランダム共重合が可能であり、樹脂表面に撥水性や滑り性を付与することができる。
【0025】
上記片末端型反応性シリコーンおよび/または側鎖型反応性シリコーンを構成する反応性官能基の例としては、アミノ基、ジアミノ基、エポキシ基、脂環式エポキシ基、カルビノール基、メルカプト基、カルボキシル基、ジオール基、アクリル基、およびメタクリル基、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。得られるスクリーンに良好な筆記機能(例えば、ホワイトボード用マーカーまたはホワイトボードイレーサーによる書込み性および消去性)を提供することができるという点から、無溶剤型反応性シリコーンは、アクリル酸基またはメタクリル酸基で変性したポリシロキサンであることが好ましく、ポリシロキサン分子の片側末端をアクリル酸基またはメタクリル酸基で変性した、片末端型反応性のポリシロキサン(片末端型反応性シリコーン)であることがより好ましい。
【0026】
無溶剤型反応性シリコーンは、例えば、信越シリコーン株式会社より「信越シリコーンオイルX-22-174」シリーズで市販されており、特に信越シリコーンオイルX-22-174BXが好ましい。
【0027】
本発明の樹脂組成物における無溶剤型反応性シリコーンの含有量は、上記紫外線硬化性樹脂100重量部に対して0.5重量部~10重量部であり、好ましくは1重量部~8重量部である。無溶剤型反応性シリコーンの含有量が0.5重量部を下回ると、得られたスクリーンにおいてボードイレーサーによる消去性および/または滑り性が低下する場合がある。無溶剤型反応性シリコーンの含有量が10重量部を上回ると、上記紫外線硬化樹脂に配合する際の分散性が低下し、均質な樹脂組成物を得ることが困難となる場合がある。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、得られるスクリーンの筆記機能および投影機能の両方を一層向上させるために、微粒子が添加されていてもよい。このような微粒子の例としては、有機系材料(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂などの熱可塑性樹脂)、および無機系材料(例えば、ガラス、シリカ、アルミナ、チタン化合物、ジルコニウム化合物)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。微粒子の平均粒子径および含有量は特に限定されず、当業者にて適切な平均粒子径および量が選択され得る。
【0029】
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて他の添加剤を含有していてもよい。このような他の添加剤の例としては、酸化防止剤(例えば、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、および/またはリン系酸化防止剤);帯電防止剤(例えば、アニオン系活性剤、カチオン系活性剤、非イオン系活性剤、および/または両性活性剤);滑剤(例えば、炭化水素系滑剤、脂肪酸系滑剤、高級アルコール系滑剤、脂肪酸アミド系滑剤、金属石ケン系滑剤、および/またはエステル系滑剤);および難燃剤(例えば、有機系難燃剤および/または無機系難燃剤);ならびにそれらの組み合わせ;が挙げられる。本発明において含有され得る上記他の添加剤の含有量は、特に限定されず、当業者によって任意の量が選択され得る。
【0030】
(筆記性スクリーン)
本発明の筆記性スクリーンは基材層の上に樹脂層を有する。
【0031】
図1は、本発明の筆記性スクリーンの一例を示す概略断面図である。図1のスクリーン100において、樹脂層120は、基材層110の一方の面上に配置されている。図1において、樹脂層120は基材層110に対して直接接触するように配置されているが、本発明はこのような実施形態にのみ限定されない。例えば、樹脂層120と基材層110との間には、後述するような材料を用いて粘着層が設けられていてもよい。
【0032】
基材層を構成する材料としては、例えば、紙(例えば、板紙、洋紙、和紙)、合成紙、布帛(例えば、織布、編布、不織布)、および合成樹脂製のシートまたはフィルム、ならびにこれらの積層体が挙げられる。スクリーンを構成するものであるとの点から、基材層の少なくとも片面(すなわち、上記図1において基材層110を構成する面のうち、樹脂層120が配置される側の面)は白色を呈していることが好ましい。
【0033】
本発明においては、耐久性や平面性等が良好であるとの理由から、基材層を構成する材料のうち合成樹脂製のシートまたはフィルムが好ましい。さらに、合成樹脂製シートあるいはフィルムは、強度、寸法安定性、耐熱性などが良好であるとの理由から、白色ポリエステル樹脂製シートまたはフィルムであることが好ましく、白色2軸延伸ポリエステルフィルムであることがより好ましい。このような白色2軸延伸ポリエステルフィルムとしては、例えば、三菱ケミカル株式会社製ダイアホイルW400J、東レ株式会社製ルミラーE28G、帝人フィルムソリューション株式会社製テイジン(登録商標)テトロン(登録商標)フィルムU292W、東洋紡株式会社製クリスパーK2323などが市販されている。
【0034】
本発明の筆記性スクリーンにおける基材層の厚みは必ずしも限定されないが、例えば、25μm~250μm、より好ましくは75μm~200μmである。基材層の厚みが25μmを下回ると、得られるスクリーンに十分な強度を付与することができず、使用の際(例えば、ボードイレーサーによる文字の消去の際)に破損し易くなるおそれがある。基材層の厚みが250μmを上回ると、所望される筆記機能および投影機能の改善には変化がなく、むしろ得られるスクリーン自体の自重が重くなるおそれがある。
【0035】
一方、本発明において、樹脂層を構成する材料は上記本発明の筆記性スクリーン用樹脂組成物の硬化物から構成されている。当該硬化物は、本発明の筆記性スクリーン用樹脂組成物を光(例えば紫外線)の照射によって硬化させたものである。樹脂層は、樹脂組成物内に含まれる無用剤型反応性シリコーンによってその表面に適切な撥水性や滑り性が付与されている。
【0036】
本発明の筆記性スクリーンにおいて、樹脂層の表面(特に図1に示す樹脂層120のうち、基材層110と接する面と反対側の面)は、所定の算術平均粗さRaの値を有していることが好ましい。この算術平均粗さRaは、JIS B0601(2001)に準拠して測定される。本発明の筆記性スクリーンにおいて、樹脂層の算術平均粗さRaは好ましくは0.3μm~0.8μmであり、より好ましくは0.5μm~0.7μmである。樹脂層の算術平均粗さRaが0.3μmを下回ると、得られるスクリーンについてホットスポットやギラ付きを生じ、防眩性が悪化する場合がある。樹脂層の算術平均粗さRaが0.8μmを上回ると、ボードイレーサーによる消去性が低下する場合がある。
【0037】
本発明の筆記性スクリーンにおいて、樹脂層の表面(特に図1に示す樹脂層120のうち、基材層110と接する面と反対側の面)は、所定の隣接凸部平均間隔(表面粗さ、山谷平均間隔とも言う)Smの値を有していることが好ましい。この隣接凸部平均間隔Sm、JIS B0601(2001)に準拠して測定される。本発明の筆記性スクリーンにおいて、樹脂層の隣接凸部平均間隔Smは好ましくは40μm~80μmであり、より好ましくは50μm~70μmである。樹脂層の隣接凸部平均間隔Smが40μmを下回ると、ボードイレーサーによる消去性が低下する場合がある。樹脂層の隣接凸部平均間隔Smが80μmを上回ると、防眩性が悪化する場合がある。
【0038】
本発明の筆記性スクリーンにおける樹脂層の厚みは必ずしも限定されないが、例えば、2μm~50μm、より好ましくは5μm~20μmである。樹脂層の厚みが2μmを下回ると、塗工の均一性を保つ(すなわち、基材層上に樹脂層をほぼ均一な厚みで配置する)ことが難しくなる場合がある。樹脂層の厚みが50μmを上回ると、得られるスクリーンがカールを起こす場合がある。
【0039】
本発明の筆記性スクリーンにおいて、基材層と樹脂層との間に粘着層が配置される場合、粘着層を構成する材料は、特に限定されず、当該分野における公知の材料が採用され得る。粘着層の厚みもまた特に限定されず、当業者によって適切な厚みが選択され得る。
【0040】
本発明の筆記性スクリーンは、基材層の他方の面、すなわち、樹脂層と接触する面と反対側の面に、例えば接着剤層を介してマグネットシートのような他の層が設けられていてもよい。本発明の筆記性スクリーンに当該マグネットシートが設けられている場合、黒板、金属製パーテションなどの所定の場所に本発明の筆記性スクリーンを簡単に設置し、かつ取り外しを行うことができる。このようなマグネットシートは市販されている。
【0041】
本発明の筆記性スクリーンは、例えば、以下のようにして製造される。
【0042】
まず、基材層の上に、上記本発明の筆記性スクリーン用樹脂組成物が配置される。
【0043】
具体的には、基材層を構成する材料の一方の面上に、上記紫外線硬化性樹脂および無溶剤型反応性シリコーンを含む上記筆記性スクリーン用樹脂組成物が例えば均一な混合物の形態で付与される。基材層への筆記性スクリーン用樹脂組成物の付与は、当該分野において公知の手段を用いて、例えば塗布または散布することにより行われる。
【0044】
基材層への筆記性スクリーン用樹脂組成物の配置が行われた後、筆記性スクリーン用樹脂組成物が配置された面には、得られるスクリーン表面においてプロジェクターから発せられる投影光を乱反射させることにより、ホットスポットの発生を防止するために、所定の凹凸や物理的形状を付与するためにシボ加工が行われてもよい。このシボ加工には当該分野において公知の手段が用いられ得る。
【0045】
これにより、基材層上に本発明の筆記性スクリーン用樹脂組成物が配置される。
【0046】
本発明においては、次いで、基材層上に配置された樹脂組成物に紫外線が照射される。
【0047】
紫外線の照射は、当該分野において公知の手段、例えば、UV光源を備える紫外線装置を用いて行われる。本発明において使用され得るUV光源の種類としては、例えば、水銀ランプ、メタルハライドランプ、高効率メタルハライドランプ、ハイパワーメタルハライドランプなどのランプ;およびLEDライト;が挙げられる。本発明において、照射される紫外線は、好ましくは254nmおよび/または365nmの発光波長を含み、照射時間は使用するUV光源の種類や出力によって変動するため、必ずしも限定されない。紫外線の照射によって、基材層上で、筆記性スクリーン用樹脂組成物は硬化物として樹脂層を形成する。
【0048】
このようにして、本発明の筆記性スクリーンが製造される。
【0049】
本発明の筆記性スクリーンは、例えば市販のホワイトボード用マーカーを用いて樹脂層上に自由に書き込みを行うことができる。また、市販のホワイトボードイレーサーを用いれば、当該書込みされた文字や図形を容易に消去することができる。加えて、本発明の筆記性スクリーンは、プロジェクターから発せされる光を、ホットスポットやギラ付きを防止または低減して樹脂層上に投影することができる。このように、本発明の筆記性スクリーンは、筆記機能および投影機能の両方に優れ、従来のスクリーンと比較して両機能がバランス良く向上されている。
【0050】
本発明の筆記性スクリーンは、例えば、オフィス、学校または教育施設、図書館、病院、貸会議室、展示会会場、劇場、コンサートホール、商業施設、空港、役所などの種々の施設において有用である。
【実施例
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
(スクリーンの評価)
以下の実施例および比較例で作製または入手したスクリーンに対し、以下の評価項目についての評価を行った。
【0053】
(1)筆記性
実施例および比較例で作製または入手したスクリーンについて、スクリーン表面にホワイトボード用マーカーで約10cmの長さの直線を引くことにより、筆記のし易さを5人のパネラーによって確認し、その後、パネラー全員で協議して、以下の基準で判定を行った:
「○」・・・マーカーが途切れることなく滑らかに直線を引くことができた。
「△」・・・マーカーが途切れることなく直線を引くことができたが、幾分ザラ付きを感じた。
「×」・・・マーカーの滑りが悪くて直線が途切れ、引き直しが必要であった。
【0054】
(2)消去性
実施例および比較例で作製または入手したスクリーンの表面(樹脂層側の表面)に市販のホワイトボード用マーカーで、約10cmの長さの5本の直線を引き、約25℃の室内で5分間放置した。その後、この5本の直線を市販のホワイトボードイレーサーで擦って、マーカーで付けたインクの消し易さを5人のパネラーによって確認し、その後、パネラー全員で協議して、以下の基準で判定を行った:
「○」・・・力を入れず数回擦ることでインクを完全に消し去ることができた。
「△」・・・力を入れず数回擦るとインクの消し残しがあったが、さらに擦ることで消し去ることができた。
「×」・・・力を入れず擦ってもインクを消し去ることができず、力を入れて繰り返し擦ることでようやく消し去ることができた。
【0055】
(3)表面滑性
実施例および比較例で作製または入手したスクリーンの表面(樹脂層側の表面)に硬質PVCメラミンフォーム(5×5×5cm;発泡体)で約10cmの長さの5本の直線を引いた際のスクリーン表面上の当該発泡体の滑りの良さを5人のパネラーによって確認し、その後、パネラー全員で協議して、以下の基準で判定を行った:
「○」・・・上記発泡体を滑らかに動かすことができた。
「△」・・・上記発泡体の滑りに幾分ザラ付きを感じた。
「×」・・・上記発泡体の滑りにかなりのザラ付きを感じた。
【0056】
(4)汚れ残り性
10cm×10cmにカットしたスクリーンサンプルを樹脂層が上方を向くように平面に置き、スクリーン表面(樹脂層側の表面)に市販のホワイトボード用マーカーで任意の線を引き、直後にパネラーがホワイトボードイレーサーで往復で5回軽く擦って消去を行い、汚れが残ってもそのままマーカーの線引きと消去を20回繰り返し、スクリーン表面の汚れの残り状況を目視で評価した。汚れが濃く残るものを1点、汚れが全く残らないものを5点として、5等級(1点~5点)で判別した。これを5人のパネラーによって行い、各パネラーの採点を集計し、平均値を算出した。
【0057】
(5)表面光沢度(グロス;60度鏡面光沢度)
実施例および比較例で作製または入手したスクリーンについて、JIS Z8741(1997)に準拠してスクリーン表面(樹脂層側の表面)の表面光沢度(60度鏡面光沢度)を測定した。
【0058】
(6)算術平均粗さ(Ra)
実施例および比較例で作製または入手したスクリーンについて、スクリーン表面(樹脂層側の表面)における算術平均粗さ(Ra)をJIS B0601(2001)に準拠して測定した。
【0059】
(7)隣接凹凸平均間隔(Sm)
実施例および比較例で作製または入手したスクリーンについて、スクリーン表面(樹脂層側の表面)における隣接凹凸平均間隔(Sm)をJIS B0601(2001)に準拠して測定した。
【0060】
(8)ホットスポット
実施例および比較例で作製または入手したスクリーンについて、スクリーン表面(樹脂層側の表面)に、単焦点プロジェクター(パナソニック株式会社製VX425NXGA)で白色光を照射し、ホットスポットの有無を5人のパネラーによって目視で確認し、その後、パネラー全員で協議して、以下の基準で判定を行った:
「○」・・・ホットスポットが観察されなかった。
「△」・・・ホットスポットが僅かに観察されたが、実用性には耐え得ると判断した。
「×」・・・ホットスポットが観察され、実用性に耐え得ないと判断した。
【0061】
(9)ギラ付き
実施例および比較例で作製または入手したスクリーンについて、スクリーン表面(樹脂層側の表面)に、単焦点プロジェクター(パナソニック株式会社製VX425NXGA)で白色光を照射し、ギラ付きの有無を5人のパネラーによって目視で確認し、その後、パネラー全員で協議して、以下の基準で判定を行った:
「○」・・・ギラ付きが観察されなかった。
「△」・・・ギラ付きが僅かに観察されたが、実用性には耐え得ると判断した。
「×」・・・ギラ付きが観察され、実用性に耐え得ないと判断した。
【0062】
(実施例1)
紫外線硬化性樹脂(日本合成株式会社製紫光(登録商標)UV-7510B)100重量部に、無溶剤型反応性シリコーン(信越化学工業株式会社製X-22-174BX)1重量部を添加して樹脂組成物(E1)を得た。次いで、基材層として、厚さ125μmの両面易接着性(アンカーコート処理済)の白色2軸延伸ポリエチレンテレフタレート製フィルム(東レ株式会社製ルミラーE28G)に、この樹脂組成物(E1)を塗布し、市販のシボ付シート(A)を当てて圧力0.3MPaでプレスし、紫外線を照射(照射条件:1700mJ/cm)し、シボ付きシートを剥離して、白色2軸延伸ポリエチレンテレフタレート製フィルム上に厚さ10μmの塗膜(樹脂層)を形成してスクリーン(ES1)を作製した。なお、この樹脂層の算術平均粗さRaは0.3μmであった。得られたスクリーン(ES1)の評価結果を表1に示す。
【0063】
(実施例2~4)
基材層として、厚さ125μmの両面易接着性(アンカーコート処理済)の白色2軸延伸ポリエチレンテレフタレート製フィルム(三菱ケミカル株式会社製ダイアホイルW400J)を用い、かつ市販のシボ付きシート(B)~(D)のいずれかを用いて付加工を施した樹脂層の算術平均粗さRaがそれぞれ表1に示すものとなるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、当該基材層上に樹脂組成物(E1)を塗布し、実施例1と同様にしてスクリーン(ES2)~(ES4)を作製した。得られたスクリーン(ES2)~(ES4)の評価結果を表1に示す。
【0064】
(比較例1)
無溶剤型反応性シリコーンを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にしてスクリーン(CS1)を作製した。得られたスクリーン(CS1)の評価結果を表1に示す。
【0065】
(比較例2)
無溶剤型反応性シリコーンの代わりに、無溶剤型非反応性シリコーン(信越化学工業株式会社製非反応性KF640)1重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物の作製を試みた。シリコーンの分散性が悪く、均質な樹脂組成物を得ることができなかったが、当該樹脂組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にしてスクリーン(CS2)を作製した。得られたスクリーン(CS2)の評価結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示すように、実施例1~4で得られたスクリーン(ES1)、(ES2)、(ES3)および(ES4)は、スクリーンの評価項目のほとんど全てにおいて、比較例1および2のスクリーン(CS1)および(CS2)と同等またはより優れており、筆記性スクリーンとして総合的に優れていたものであったことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、例えば事務機製造分野、樹脂成形分野等において有用である。
【符号の説明】
【0069】
100 筆記性スクリーン
110 基材層
120 樹脂層
図1