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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】防虫ネット
(51)【国際特許分類】
   A01M 29/34 20110101AFI20240711BHJP
   A01N 37/02 20060101ALI20240711BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20240711BHJP
   A01G 13/02 20060101ALI20240711BHJP
   A01G 13/10 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
A01M29/34
A01N37/02
A01P17/00
A01G13/02 D
A01G13/10 A
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020060261
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021153561
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100168631
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 康匡
(72)【発明者】
【氏名】有本 裕
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-016737(JP,A)
【文献】再公表特許第2006/028170(JP,A1)
【文献】特開平08-119812(JP,A)
【文献】特開2010-013761(JP,A)
【文献】特開2013-144692(JP,A)
【文献】特開2005-151862(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0049742(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00-99/00
A01G 11/00-15/00
A01N 1/00-65/48
A01P 1/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記からなる群から選択される少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルを付着させてなる、防虫ネット:
グリセリンカプリレート、ジグリセリンカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、及びトリグリセリンモノ・ジカプリレートら選択される、構成脂肪酸としてカプリン酸及び/又はカプリル酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、
グリセリンジアセトモノラウレート及びジグリセリンラウレートから選択される、構成脂肪酸としてラウリン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、並びに
グリセリントリオレエート、ジグリセリンモノ・ジオレエート、及びデカグリセリンオレエートら選択される、構成脂肪酸としてオレイン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル。
【請求項2】
前記グリセリン脂肪酸エステルが、
グリセリンジアセトモノラウレート及びジグリセリンラウレートから選択される、構成脂肪酸としてラウリン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、並びに
グリセリンカプリレート、ジグリセリンカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、及びトリグリセリンモノ・ジカプリレートら選択される、構成脂肪酸としてカプリン酸及び/又はカプリル酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、
からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1記載の防虫ネット。
【請求項3】
前記グリセリン脂肪酸エステルが、グリセリンジアセトモノラウレート及びジグリセリンラウレートから選択される、構成脂肪酸としてラウリン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルである、請求項1又は2に記載の防虫ネット。
【請求項4】
前記グリセリン脂肪酸エステルが、グリセリンジアセトモノラウレートである、請求項に記載の防虫ネット。
【請求項5】
前記グリセリン脂肪酸エステルが、グリセリンカプリレート、ジグリセリンカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、及びトリグリセリンモノ・ジカプリレートら選択される、構成脂肪酸としてカプリン酸及び/又はカプリル酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルである、請求項1又は2に記載の防虫ネット。
【請求項6】
前記グリセリン脂肪酸エステルが、グリセリンモノカプリレート、グリセリントリカプリレート、ジグリセリンモノカプリレート、ジグリセリンジカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、及びグリセリンジアセトモノカプレートから選択される、構成脂肪酸としてカプリン酸及び/又はカプリル酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルである、請求項に記載の防虫ネット。
【請求項7】
前記グリセリン脂肪酸エステルがグリセリンモノカプリレートである、請求項に記載の防虫ネット。
【請求項8】
前記グリセリン脂肪酸エステルが、グリセリントリオレエート、ジグリセリンモノ・ジオレエート、及びデカグリセリンオレエートから選択される、構成脂肪酸としてオレイン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルである、請求項1に記載の防虫ネット。
【請求項9】
ポリオキシアルキレン系ノニオン界面活性剤が付着していない、請求項1~8のいずれか1項に記載の防虫ネット。
【請求項10】
下記からなる群から選択される少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルを付着させてなる防虫ネットであって、且つ、ポリオキシアルキレン系ノニオン界面活性剤が付着していない、前記防虫ネット
グリセリンカプリレート、ジグリセリンカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、トリグリセリンモノ・ジカプリレート、及びトリグリセリンモノ・ジカプレートから選択される、構成脂肪酸としてカプリン酸及び/又はカプリル酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、
グリセリンジアセトモノラウレート及びジグリセリンラウレートから選択される、構成脂肪酸としてラウリン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、並びに
グリセリントリオレエート、ジグリセリンモノ・ジオレエート、デカグリセリンオレエート及びグリセリンジアセトモノオレエートから選択される、構成脂肪酸としてオレイン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル。
【請求項11】
0.5~5mmの目合いを有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の防虫ネット。
【請求項12】
下記からなる群から選択される少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルを含む、防虫ネットに適用して植物を害虫から保護するための組成物。
グリセリンカプリレート、ジグリセリンカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、及びトリグリセリンモノ・ジカプリレートら選択される、構成脂肪酸としてカプリン酸及び/又はカプリル酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、
グリセリンジアセトモノラウレート及びジグリセリンラウレートから選択される、構成脂肪酸としてラウリン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、並びに
グリセリントリオレエート、ジグリセリンモノ・ジオレエート、及びデカグリセリンオレエートら選択される、構成脂肪酸としてオレイン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル。
【請求項13】
下記からなる群から選択される少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルを含む組成物をネットに適用する工程を含む、防虫ネットの製造方法。
グリセリンカプリレート、ジグリセリンカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、及びトリグリセリンモノ・ジカプリレートら選択される、構成脂肪酸としてカプリン酸及び/又はカプリル酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、
グリセリンジアセトモノラウレート及びジグリセリンラウレートから選択される、構成脂肪酸としてラウリン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、並びに
グリセリントリオレエート、ジグリセリンモノ・ジオレエート、及びデカグリセリンオレエートら選択される、構成脂肪酸としてオレイン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル。
【請求項14】
前記組成物は、ポリオキシアルキレン系ノニオン界面活性剤を含まない、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
下記からなる群から選択される少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルを含む組成物をネットに適用する工程を含む、防虫ネットの製造方法であって、前記組成物は、ポリオキシアルキレン系ノニオン界面活性剤を含まない、前記製造方法
グリセリンカプリレート、ジグリセリンカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、トリグリセリンモノ・ジカプリレート、及びトリグリセリンモノ・ジカプレートから選択される、構成脂肪酸としてカプリン酸及び/又はカプリル酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、
グリセリンジアセトモノラウレート及びジグリセリンラウレートから選択される、構成脂肪酸としてラウリン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、並びに
グリセリントリオレエート、ジグリセリンモノ・ジオレエート、デカグリセリンオレエート及びグリセリンジアセトモノオレエートから選択される、構成脂肪酸としてオレイン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル。
【請求項16】
前記組成物は、エタノール及び水から選択される少なくとも1種の溶媒を更に含む、請求項13~15のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
請求項1~11のいずれか1項に記載の防虫ネットを植物の周囲に設置する工程を含む、前記植物を害虫から保護する方法。
【請求項18】
請求項12に記載の組成物を防虫ネットに適用することを含む、植物を害虫から保護する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防虫ネットに関し、特には害虫が通過可能な大きさの目合いの防虫ネットであっても、その侵入を防止できる防虫ネットに関する。
【背景技術】
【0002】
作物や観賞植物などの植物の生育のためには温暖な気候が求められることが多く、温暖な気候による病害虫の発生、特にウイルス病を媒介する害虫の発生が大きな問題となっている。そのため、ビニールハウス内などの植物の生育する領域に害虫が侵入するのを防止する技術が開発されている。
【0003】
これまで知られている害虫侵入防止技術としては、紫外線除去フィルム、光反射シート、黄色粘着シートによる誘殺などの技術がある。これらの技術は害虫の侵入量を30~70%程度減少させる効果がある。しかし、侵入防止効果が環境要因の影響を受け、安定性を欠く。また、上記以外に、防虫ネットを用いた害虫侵入防止技術も知られているが、防虫ネットの目合いよりも小さなサイズの害虫には有効に作用しないという問題がある。
この問題を解決すべく、目合いのより小さな防虫ネットが開発されているが、例えばタバココナジラミ(体長約1.0mm、体幅0.4mm)などのように、非常に小さなサイズの害虫の侵入を防止するためには、目合い0.4mm未満の非常に目の細かい防虫ネットが必要となり、製造コストが大きくなってしまうという問題がある。また、このように目合いの小さな防虫ネットは通気性が悪く、ビニールハウス内の温度上昇をもたらすため、害虫の発生を誘発しやすく、温度管理が困難になり、農業者の作業環境が悪化するという問題もある。
【0004】
そこで、従来用いられてきた1mm程度の目合いの防虫ネットに、エトフェンプロックスなどの殺虫剤を染みこませる方法が提案されている(特許文献1及び2)。しかしながら、この方法では、タバココナジラミをはじめ薬剤抵抗性を獲得した微小害虫には薬剤の効果が低いため、ほとんど利用されていない。
【0005】
他方、非特許文献1には、マシン油乳剤を防虫ネットに噴霧してタバココナジラミの侵入を防止することが記載されている。特許文献3には、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどを有効成分として含む、有翅害虫忌避剤が開示されている。特許文献4には、サンクリスタル(サンケイ化学(株)製)、まくぴか(石原バイオサイエンス(株)製)などの油脂類及び/又は界面活性剤を0.8mm目の防虫ネットに散布して、防虫ネット内へのコナジラミの侵入を防ぐことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-163950
【文献】国特開2003-299434
【文献】WO2006/028170
【文献】特開2011-16737
【非特許文献】
【0007】
【文献】目合い1mmの防虫ネットへのマシン油乳剤噴霧によるタバココナジラミの侵入防止 九病虫研会報 59:64-71 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1で用いられているマシン油乳剤は鉱物油を主成分とするため、水産動植物に悪影響を及ぼすリスクがあり、河川や池に流入しないように注意を要するなど、使用が制限されてしまう問題がある。
【0009】
特許文献3の忌避剤は、防虫ネットに用いることを開示しておらず、その効果が不明である。また、忌避剤は、作物に直接散布し、散布した部位に害虫が付着すること或いは付着し続けることを防ぐことを目的とするのに対し、防虫ネットは網と網の間に空洞部分を有し、当該空洞部分には薬剤を含ませることができないため、網目よりもサイズの小さい害虫の当該空洞部分への侵入を忌避効果のみにより抑えることは難しい。実際、本発明者は、特許文献3において優れた忌避効果を示す化合物として教示されたソルビタンラウレート、ショ糖脂肪酸エステル(ラウレート)及びヤシ油を用いて防虫ネットを製造し、害虫侵入防止効果を調べたが、その効果は無処理の場合と変わらないかそれ以下であり、忌避剤として優れた化合物が必ずしも防虫ネットに用いた場合に優れた効果を発揮するものではないことを確認している(本明細書の試験2及び3参照)。
【0010】
特許文献4の試験は、集めたコナジラミを餌となる植物も与えないまま狭いガラス管内に閉じ込めており、コナジラミは強い混乱状態/ストレス状態に置かれている。このように強い混乱状態/ストレス状態のコナジラミを用いても、自然環境下のコナジラミに対する薬剤の効果を正確に評価することは困難である。実際、本発明者は、特許文献4において優れた効果を示すものとして教示されたサンクリスタル乳剤及びまくぴかを用いて防虫ネットを製造し、害虫にとって混乱/ストレスのより少ない環境下で害虫侵入抑制効果を試験し、その効果が十分ではないことを確認している(本明細書の試験1参照)。
【0011】
このように、環境に与える影響が小さく、害虫の侵入防止効果に優れた防虫ネットは見出されていない。
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、環境に与える影響が小さく、害虫の侵入防止効果に優れた防虫ネットを提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定のグリセリン脂肪酸エステルを防虫ネットのネット部分(網目部分)に付着させることにより、環境に与える影響が小さく、害虫侵入防止効果に優れた防虫ネットが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
〔1〕 下記からなる群から選択される少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルを付着させてなる、防虫ネット:
グリセリンカプリレート、ジグリセリンカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、トリグリセリンモノ・ジカプリレート、及びトリグリセリンモノ・ジカプレートから選択される、構成脂肪酸としてカプリン酸及び/又はカプリル酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、
グリセリンジアセトモノラウレート及びジグリセリンラウレートから選択される、構成脂肪酸としてラウリン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、並びに
グリセリントリオレエート、ジグリセリンモノ・ジオレエート、デカグリセリンオレエート及びグリセリンジアセトモノオレエートから選択される、構成脂肪酸としてオレイン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル。
〔2〕 0.5~5mmの目合いを有する、〔1〕に記載の防虫ネット。
〔3〕 前記グリセリン脂肪酸エステルが、
グリセリンジアセトモノラウレート及びジグリセリンラウレートから選択される、構成脂肪酸としてラウリン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、並びに
グリセリンカプリレート、ジグリセリンカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、トリグリセリンモノ・ジカプリレート、及びトリグリセリンモノ・ジカプレートから選択される、構成脂肪酸としてカプリン酸及び/又はカプリル酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、
からなる群から選択される少なくとも1種である、〔1〕又は〔2〕に記載の防虫ネット。
〔4〕 前記グリセリン脂肪酸エステルが、グリセリンジアセトモノラウレート及びジグリセリンラウレートから選択される、構成脂肪酸としてラウリン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルである、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の防虫ネット。
〔5〕 前記グリセリン脂肪酸エステルが、グリセリンジアセトモノラウレートである、〔4〕に記載の防虫ネット。
〔6〕 前記グリセリン脂肪酸エステルが、グリセリンカプリレート、ジグリセリンカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、トリグリセリンモノ・ジカプリレート、及びトリグリセリンモノ・ジカプレートから選択される、構成脂肪酸としてカプリン酸及び/又はカプリル酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルである、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の防虫ネット。
〔7〕 前記グリセリン脂肪酸エステルが、グリセリンモノカプリレート、グリセリントリカプリレート、ジグリセリンモノカプリレート、ジグリセリンジカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレートから選択される、構成脂肪酸としてカプリン酸及び/又はカプリル酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルである、〔6〕に記載の防虫ネット。
〔8〕 前記グリセリン脂肪酸エステルがグリセリンモノカプリレートである、〔7〕に記載の防虫ネット。
〔9〕 ポリオキシアルキレン系ノニオン界面活性剤が付着していない、〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の防虫ネット。
〔10〕 下記からなる群から選択される少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルを含む、防虫ネットに適用して植物を害虫から保護するための組成物。
グリセリンカプリレート、ジグリセリンカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、トリグリセリンモノ・ジカプリレート、及びトリグリセリンモノ・ジカプレートから選択される、構成脂肪酸としてカプリン酸及び/又はカプリル酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、
グリセリンジアセトモノラウレート及びジグリセリンラウレートから選択される、構成脂肪酸としてラウリン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、並びに
グリセリントリオレエート、ジグリセリンモノ・ジオレエート、デカグリセリンオレエート及びグリセリンジアセトモノオレエートから選択される、構成脂肪酸としてオレイン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル。
〔11〕 下記からなる群から選択される少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルを含む組成物をネットに適用する工程を含む、防虫ネットの製造方法。
グリセリンカプリレート、ジグリセリンカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、トリグリセリンモノ・ジカプリレート、及びトリグリセリンモノ・ジカプレートから選択される、構成脂肪酸としてカプリン酸及び/又はカプリル酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、
グリセリンジアセトモノラウレート及びジグリセリンラウレートから選択される、構成脂肪酸としてラウリン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、並びに
グリセリントリオレエート、ジグリセリンモノ・ジオレエート、デカグリセリンオレエート及びグリセリンジアセトモノオレエートから選択される、構成脂肪酸としてオレイン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル。
〔12〕 前記組成物は、エタノール及び水から選択される少なくとも1種の溶媒を更に含む、〔11〕に記載の製造方法。
〔13〕 前記組成物は、ポリオキシアルキレン系ノニオン界面活性剤を含まない、〔11〕又は〔12〕に記載の製造方法。
〔14〕 〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載の防虫ネットを植物の周囲に設置する工程を含む、前記植物を害虫から保護する方法。
〔15〕 〔10〕に記載の組成物を防虫ネットに適用することを含む、植物を害虫から保護する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、環境に与える影響が小さく、害虫の侵入防止効果に優れた防虫ネットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<<防虫ネット>>
本発明の第1の態様は、下記からなる群から選択される少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルを付着させてなる、防虫ネットである。
グリセリンカプリレート、ジグリセリンカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、トリグリセリンモノ・ジカプリレート、及びトリグリセリンモノ・ジカプレートから選択される、構成脂肪酸としてカプリン酸及び/又はカプリル酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、
グリセリンジアセトモノラウレート及びジグリセリンラウレートから選択される、構成脂肪酸としてラウリン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、並びに
グリセリントリオレエート、ジグリセリンモノ・ジオレエート、デカグリセリンオレエート及びグリセリンジアセトモノオレエートから選択される、構成脂肪酸としてオレイン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル。
【0016】
(グリセリン脂肪酸エステル)
本発明の防虫ネットには、下記(A)~(C)からなる群から選択される少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルが付着している。
(A) グリセリンカプリレート、ジグリセリンカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、トリグリセリンモノ・ジカプリレート、及びトリグリセリンモノ・ジカプレートから選択される、構成脂肪酸としてカプリン酸及び/又はカプリル酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、
(B) グリセリンジアセトモノラウレート及びジグリセリンラウレートから選択される、構成脂肪酸としてラウリン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、並びに
(C) グリセリントリオレエート、ジグリセリンモノ・ジオレエート、デカグリセリンオレエート及びグリセリンジアセトモノオレエートから選択される、構成脂肪酸としてオレイン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル。
【0017】
本発明のグリセリン脂肪酸エステルは、鉱物油(石油からプラスチックやその他工業製品を作ったあとに大量に出る廃油)ではなく、植物由来の脂肪酸とグリセリンから合成された合成油である。従って、本発明の防虫ネットは環境に与える影響が小さいという利点を有する。
【0018】
本明細書及び特許請求の範囲において、例えば、グリセリンカプリレートは、モノグリセリンとモノカプリル酸、ジカプリル酸又はトリカプリル酸とのエステル化合物、或いはそれらの混合物を意味する。従って、例えばグリセリンジアセトモノカプリレートのように構成脂肪酸としてカプリレート以外の脂肪酸を含むものは、グリセリンカプリレートには含まれない。同様のことが、ジグリセリンカプリレート、ジグリセリンラウレート、デカグリセリンオレエートなどにも当てはまる。
本明細書及び特許請求の範囲において、例えば、トリグリセリンモノ・ジカプリレートという場合は、トリグリセリンモノカプリレートとトリグリセリンジカプリレートの混合物をいう。
【0019】
上記(A)の構成脂肪酸としてカプリン酸及び/又はカプリル酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンカプリレート、ジグリセリンカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、トリグリセリンモノ・ジカプリレート、及びトリグリセリンモノ・ジカプレートが好ましく、グリセリンカプリレート、ジグリセリンカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレートがより好ましく、グリセリンモノカプリレート、グリセリンジカプリレート、グリセリントリカプリレート、ジグリセリンモノカプリレート、ジグリセリンジカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレートがさらにより好ましく、グリセリンモノカプリレート、グリセリントリカプリレート、ジグリセリンモノカプリレート、ジグリセリンジカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレートがさらにより好ましく、グリセリンモノカプリレート、ジグリセリンモノカプリレート、ジグリセリンジカプリレートがさらにより好ましく、グリセリンモノカプリレートが特に好ましい。(A)のグリセリン脂肪酸エステルは1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記(B)の構成脂肪酸としてラウリン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルとしては、ジグリセリンモノラウレート、グリセリンジアセトモノラウレート及びジグリセリンジラウレートが好ましく、グリセリンジアセトモノラウレートがより好ましい。(B)のグリセリン脂肪酸エステルは1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記(C)の構成脂肪酸としてオレイン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリントリオレエート、ジグリセリンモノ・ジオレエート、デカグリセリンオレエート及びグリセリンジアセトモノオレエートが好ましく、グリセリントリオレエート、デカグリセリンオレエートがより好ましく、デカグリセリンオレエートがさらにより好ましい。(C)のグリセリン脂肪酸エステルは1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、グリセリン脂肪酸エステルとしては、上記(A)~(C)の中でも、上記(A)のグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。
【0020】
本発明の防虫ネットは、上記から選択される少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルが、防虫ネットに付着している全グリセリン脂肪酸エステルの50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらにより好ましく、80質量%以上であることがさらにより好ましく、90質量%以上であることがさらにより好ましく、95質量%以上であることがさらにより好ましく、上記から選択される1種以上のグリセリン脂肪酸エステルが防虫ネットに付着している全グリセリン脂肪酸エステルの100質量%であってもよい。
本発明の防虫ネットは、上記グリセリン脂肪酸エステルを付着させることにより、防虫ネットの目合いよりもサイズの小さい害虫であってもその侵入を効果的に防止することができる。従って、植物の周囲に防虫ネットを設けることにより、植物を害虫から保護することができる。
【0021】
グリセリン脂肪酸エステルは、防虫ネットを構成するネット(ネット部分ともいう)の表面のみに付着していてもよく、ネットの表面だけでなくネットの内部にも含まれていてもよいが、少なくともネットの表面に付着していることが好ましく、ネットの表面及び内部に含まれていることがより好ましい。
また、グリセリン脂肪酸エステルは、防虫ネットを構成するネットの一部の表面に付着していてもよく、ネットの表面全体に付着していてもよいが、表面全体に付着していることが好ましい。
グリセリン脂肪酸エステルをネットに付着させる方法としては、グリセリン脂肪酸エステルを希釈剤(溶媒)に加えた溶液又は懸濁液を、ネットに適用する方法が挙げられる。ネットに適用する方法としては、スプレー散布、塗布、浸漬が挙げられるが、安価且つ均一に適用できる観点からスプレー散布が好ましい。希釈剤としては、植物に薬害を出さず、かつ有効成分の効果を減ずることなく溶解するものであれば特に制限はないが、常温でも揮発し得る希釈剤であることが好ましい。希釈剤としては、水、エタノール、イソプロパノールなどが挙げられる。これらの中でも、水、エタノールが好ましい。なお、水を用いる場合には、グリセリン脂肪酸エステルと混合しない場合があるため、後述の界面活性剤を用いることが好ましい。ネットに散布後、希釈剤は揮発し、グリセリン脂肪酸エステル(及び界面活性剤)がネット表面及び/又はネット内部に残ることとなる。
或いは、グリセリン脂肪酸エステルが常温で液体の場合には、希釈剤で希釈することなく、グリセリン脂肪酸エステルにネットを浸漬させてもよい。或いはグリセリン脂肪酸エステルを加熱溶融させて液体状にした後、希釈剤で希釈することなく、グリセリン脂肪酸エステルにネットを浸漬させてもよい。
【0022】
ネットに付着しているグリセリン脂肪酸エステルの量に特に制限はないが、ネットのいずれか一方の面の面積(網目部分の面積及び網目内の空間の面積を含む)10cm2あたり1mg~2g、すなわち1mg~2g/10cm2が好ましく、5mg~1g/10cm2がより好ましく、20mg~0.5g/10cm2がさらにより好ましい。当該範囲であれば、作物への害虫の侵入を十分防止することができる。
(ネット)
本発明の防虫ネットを構成するネットの素材は、グリセリン脂肪酸エステルを含む溶液/懸濁液が付着できる素材である限り特に制限はないが、グリセリン脂肪酸エステルを含む溶液/懸濁液が浸み込みやすいものが好ましい。ネット素材としては、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、綿、麻などが挙げられる。
【0023】
(ネットの目合い)
目合いは、防虫ネットを構成するネットの網目のサイズであり、例えば0.8mmの目合いを有するネットは、0.8mm×0.8mmの網目を有することになる。
防虫ネットを構成するネットの目合いは、対象とする害虫のサイズに応じて決めればよいが、0.5~5mmの目合いを有することが好ましい。ネットの目合いは、0.5~4mmであることがより好ましく、0.6~3.5mmであることがさらにより好ましく、0.8~3mmであることがさらにより好ましい。ネットの目合いを上記範囲内にすることにより、本発明の害虫侵入防止効果を十分発揮でき、十分な通気性も確保することができる。
また、害虫侵入防止効果に重きを置けば、ネットの目合いは、0.5~2.0mmであることが好ましく、0.5~1.0mmであることがより好ましく、0.5~0.8mmであることがさらにより好ましい。
【0024】
本発明の防虫ネットはネットのみからなっていてもよく、ネット以外の構成要素を含んでいてもよい。ネット以外の構成要素としては、例えば、アルミ蒸着テープなどの銀色テープ、補助糸が挙げられる。
ネットの色に特に制限はなく、白色、赤色、青色などを採用することができる。
【0025】
(その他の成分)
本発明の防虫ネットは、グリセリン脂肪酸エステル以外の成分が(防虫ネットを構成するネットに)付着していてもよく、付着していなくてもよい。その他の成分としては、界面活性剤などが挙げられる。界面活性剤を用いると、希釈剤として水を用いた場合でも、ネットに散布する前にグリセリン脂肪酸エステルが水に均一に溶解、懸濁、あるいは乳化することができる。従って、グリセリン脂肪酸エステルをネットに均一に付着させやすくなる。界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(T-20)等、ポリオキシエチレンキャスターオイル(水添)、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどが挙げられる。
本発明の防虫ネットは、界面活性剤が付着していない方が付着している場合よりも害虫の侵入を防止できる傾向にある。従って、本発明の防虫ネットは、界面活性剤が付着していても付着していなくてもよいが、付着していない方が好ましい。また、ポリオキシアルキレン系ノニオン界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレン(5)モノドデシルエーテルやポリオキシエチレンフェニルエーテルなど)が付着していないことが好ましい。また、本発明の防虫ネットには、大豆油が付着していないことが好ましく、鉱油(マシン油など)が付着していないことが好ましい。
【0026】
<<組成物>>
本発明の第2の態様は、下記からなる群から選択される少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルを含む、防虫ネットに適用して植物を害虫から保護するための組成物である。
グリセリンカプリレート、ジグリセリンカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、トリグリセリンモノ・ジカプリレート、及びトリグリセリンモノ・ジカプレートから選択される、構成脂肪酸としてカプリン酸及び/又はカプリル酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、
グリセリンジアセトモノラウレート及びジグリセリンラウレートから選択される、構成脂肪酸としてラウリン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、並びに
グリセリントリオレエート、ジグリセリンモノ・ジオレエート、デカグリセリンオレエート及びグリセリンジアセトモノオレエートから選択される、構成脂肪酸としてオレイン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル。
【0027】
本発明の組成物は、第1の態様の防虫ネットを製造するために用いることができる。
グリセリン脂肪酸エステル、防虫ネットの目合いなどは、例えば第1の態様で挙げたものを用いることができる。植物及び害虫としては、下記第3の態様に記載したものを挙げることができる。また、組成物を防虫ネットに適用する方法としては、上記第1の態様中のグリセリン脂肪酸エステルをネットに付着させる方法と同様のものを挙げることができる。
【0028】
本発明の組成物は、上記から選択される少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルが、組成物中に含まれる全グリセリン脂肪酸エステルの50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらにより好ましく、80質量%以上であることがさらにより好ましく、90質量%以上であることがさらにより好ましく、95質量%以上であることがさらにより好ましく、上記から選択される1種以上のグリセリン脂肪酸エステルが組成物中に含まれる全グリセリン脂肪酸エステルの100質量%であってもよい。
【0029】
本発明の組成物は、上記のグリセリン脂肪酸エステルのみから構成されていてもよく、上記のグリセリン脂肪酸エステル以外の成分を含んでいてもよい。グリセリン脂肪酸エステル以外の成分としては、水、エタノール、イソプロパノールなどの溶媒が挙げられる。また、第1の態様でその他の成分として例示したものを含んでいてもよい。
組成物中に含まれるグリセリン脂肪酸エステルの量としては特に制限はないが、グリセリン脂肪酸エステル:溶媒の質量比が100:0~0.0001:99.9999であることが好ましく、50:50~:0.0001:99.9999であることがより好ましく、30:70~0.0001:99.9999であることがさらにより好ましく、10:90~0.001:99.999であることがさらにより好ましい。
また、グリセリン脂肪酸エステル:溶媒の質量比は、1:0~1:1000であってもよく、1:1~1:1000であってもよく、1:1~1:800であってもよく、1:1~1:500であってもよく、1:1~1:300であってもよく、1:1~1:100であってもよく、1:1~1:50であってもよく、1:1~1:20であってもよく、1:1~1:10であってもよい。
【0030】
また、本発明は、下記からなる群から選択される少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルの、防虫ネットに適用して植物を害虫から保護するための使用であってもよい。
グリセリンカプリレート、ジグリセリンカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、トリグリセリンモノ・ジカプリレート、及びトリグリセリンモノ・ジカプレートから選択される、構成脂肪酸としてカプリン酸及び/又はカプリル酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、
グリセリンジアセトモノラウレート及びジグリセリンラウレートから選択される、構成脂肪酸としてラウリン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、並びに
グリセリントリオレエート、ジグリセリンモノ・ジオレエート、デカグリセリンオレエート及びグリセリンジアセトモノオレエートから選択される、構成脂肪酸としてオレイン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル。
グリセリン脂肪酸エステル、防虫ネット、適用方法、植物、害虫などとしては、第1~第6の態様に記載されたものを用いることができる。
【0031】
<<保護方法1>>
本発明の防虫ネットは、植物の周囲に設置することにより、前記植物を害虫から保護することができる。従って、本発明の第3の態様は、上記第1の態様の防虫ネットを植物の周囲に設置する工程を含む、前記植物を害虫から保護する方法である。本発明の方法により、害虫が防虫ネットを通り抜けて植物に付着するのを防ぐことができる。
【0032】
防虫ネットを植物の周囲に設置する方法としては、(i)防虫ネットで植物の周囲を覆う(例えば、植物の周囲に蚊帳状に防虫ネットを設置して囲む)、(ii)植物を育てるためのビニールハウスの側窓部、天窓部、換気口等を塞ぐように防虫ネットを設置する、(iii)ビニールハウスの出入口に暖簾状または簾状に防虫ネットを設置する、(iv)畝間についたて状またはカーテン状に防虫ネットを設置する、などが挙げられる。これらの中でも、防虫ネットで植物の周囲を覆うことが好ましい。
【0033】
(植物)
植物としては、作物(野菜類、果樹類)や観賞植物が挙げられる。これらの中でも、作物(野菜類、果樹類)が好ましく、キュウリ、トマト、ナス、ピーマンが特に好ましい。
【0034】
(害虫)
本発明の防虫ネットにより侵入を防ぐことのできる害虫に特に制限はないが、本発明の防虫ネットは、防虫ネットの通過できるサイズの害虫に対して有効に作用し、その侵入を防ぐことができる。対象となる害虫としては、タバココナジラミ、オンシツコナジラミ等のコナジラミ類;ミナミキイロアザミウマ、ミカンキイロアザミウマ、ヒラズハナアザミウマ、チャノキイロアザミウマ等のアザミウマ類;モモアカアブラムシ、ワタアブラムシ、ジャガイモヒゲナガアブラムシ、ダイコンアブラムシ、ネギアブラムシ、ナシアブラムシ等のアブラムシ類;ツマグロヨコバイ、イナヅマヨコバイ、チャノミドリヒメヨコバイ、トビイロウンカ、セジロウンカ、ヒメトビウンカ等のウンカ・ヨコバイ類;ナミハダニ、カンザワハダニ、ニセナミハダニ、リンゴハダニ、ミカンハダニ等のハダニ類、チャノホコリダニ、スジブトホコリダニ、シクラメンホコリダニ等のホコリダニ類、トマトサビダニ、ミカンサビダニなどのサビダニ類などが挙げられる。これらの中でも、本発明の防虫ネットは、コナジラミ類に対して有効に作用し、タバココナジラミに対してより有効に作用する。
コナジラミ類、例えばタバココナジラミは、体長約1.0mm、体幅0.4mmで、トマト黄化葉巻病を媒介する。従って、タバココナジラミの侵入を防止するには、通常0.4mm未満の目合いの防虫ネットが必要になる。しかしながら、本発明の防虫ネットは、特定のグリセリン脂肪酸エステルを含むことにより、0.4mm以上の目合いであっても、タバココナジラミの侵入を顕著に防止することができる。
【0035】
<<保護方法2>>
本発明の防虫ネットは、第2の態様の組成物を防虫ネットに適用することにより、植物を害虫から保護することができる。従って、本発明の第4の態様は、上記第2の態様の組成物を防虫ネットに適用する工程を含む、前記植物を害虫から保護する方法である。
植物、害虫としては、第3の態様の中で記載したものを挙げることができる。また、組成物を防虫ネットに適用する方法としては、上記第1の態様中のグリセリン脂肪酸エステルをネットに付着させる方法と同様のものを挙げることができる。
本発明の方法は、防虫ネットを植物の周囲に設置する工程を更に含んでいてもよい。防虫ネットを植物の周囲に設置する工程は、組成物を防虫ネットに適用する前に行ってもよく、組成物を防虫ネットに適用した後に行ってもよい。
防虫ネットを植物の周囲に設置する方法としては、上記第3の態様で述べた方法を挙げることができる。
本発明の方法により、害虫が防虫ネットを通り抜けて植物に付着するのを防ぐことができる。
【0036】
<<製造方法1>>
本発明の防虫ネットは、例えば、下記の方法により製造することができる。
本発明の第5の態様は、下記からなる群から選択される少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルを含む組成物をネットに適用する工程を含む、防虫ネットの製造方法である。
グリセリンカプリレート、ジグリセリンカプリレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、トリグリセリンモノ・ジカプリレート、及びトリグリセリンモノ・ジカプレートから選択される、構成脂肪酸としてカプリン酸及び/又はカプリル酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、
グリセリンジアセトモノラウレート及びジグリセリンラウレートから選択される、構成脂肪酸としてラウリン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、並びに
グリセリントリオレエート、ジグリセリンモノ・ジオレエート、デカグリセリンオレエート及びグリセリンジアセトモノオレエートから選択される、構成脂肪酸としてオレイン酸を含む少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル。
【0037】
(グリセリン脂肪酸エステルを含む組成物)
グリセリン脂肪酸エステルを含む組成物は、グリセリン脂肪酸エステルを含む。グリセリン脂肪酸エステルとしては、上記第1の態様で挙げたものを用いることができる。組成物は、グリセリン脂肪酸エステルのみからなっていてもよく、グリセリン脂肪酸エステル以外の成分を含んでいてもよいが、少なくとも1種の溶媒を含むことが好ましい。
溶媒としては、エタノール、水、イソプロパノールなどが挙げられる。これらの中でも、エタノール、水が好ましく、エタノールがより好ましい。
【0038】
組成物中のグリセリン脂肪酸エステルと溶媒の割合に特に制限はないが、グリセリン脂肪酸エステル:溶媒の質量比が100:0~0.0001:99.9999であることが好ましく、50:50~:0.0001:99.9999であることがより好ましく、30:70~0.0001:99.9999であることがさらにより好ましく、10:90~0.001:99.999であることがさらにより好ましい。
また、グリセリン脂肪酸エステル:溶媒の質量比は、1:0~1:1000であってもよく、1:1~1:1000であってもよく、1:1~1:800であってもよく、1:1~1:500であってもよく、1:1~1:300であってもよく、1:1~1:100であってもよく、1:1~1:50であってもよく、1:1~1:20であってもよく、1:1~1:10であってもよい。
【0039】
ネットに散布するグリセリン脂肪酸エステルを含む組成物の濃度に特に制限はないが、5ml/m2~1L/m2の量で散布することが好ましく、20ml/m2~500ml/m2の量で散布することがより好ましく、40ml/m2~200ml/m2の量で散布することがさらにより好ましい。なお、ネット1m2は、ネットの網目部分だけでなく網目内の空間部分も含めた面積が1m2ということである。
【0040】
グリセリン脂肪酸エステルを含む組成物は、上記以外の成分を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。その他の成分としては、界面活性剤などが挙げられる。界面活性剤を含んでいると、希釈剤として水を用いた場合でも、ネットに散布する前にグリセリン脂肪酸エステルが水に均一に溶解、懸濁、あるいは乳化することができる。従って、グリセリン脂肪酸エステルをネットに均一に付着させやすくなる。界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(T-20)等、ポリオキシエチレンキャスターオイル(水添)、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどが挙げられる。
本発明の防虫ネットは、界面活性剤が付着していない方が付着している場合よりも害虫の侵入を防止できる傾向にある。従って、本発明の組成物は、界面活性剤を含んでいても含んでいなくてもよいが、含んでいない方が好ましい。また、ポリオキシアルキレン系ノニオン界面活性剤を含まないことが好ましい。また、グリセリン脂肪酸エステルを含む組成物は、大豆油を含まないことが好ましく、鉱油(マシン油など)を含まないことが好ましい。
【0041】
本発明の製造方法は、グリセリン脂肪酸エステルを含む組成物をネットに散布する前に、グリセリン脂肪酸エステルを溶媒と混合して混合液を得ることが好ましい。溶媒としては、水、エタノール、イソプロパノールなどが挙げられる。これらの中でも、水、エタノールが好ましく、エタノールがより好ましい。また、グリセリン脂肪酸エステルをエタノールと混合して混合液を得た後、当該混合液を水で希釈してもよく、希釈しなくてもよいが、水で希釈することが好ましい。
【0042】
グリセリン脂肪酸エステルを含む組成物を防虫ネットのネットに適用する方法としては、上記第1の態様で述べた方法を挙げることができる。グリセリン脂肪酸エステルを含む組成物を防虫ネットのネットに適用した後、ネットを乾燥させる工程を有していてもよい。
【0043】
<<製造方法2>>
本発明の防虫ネットは、例えば上記第2の態様の組成物を防虫ネットに適用することにより製造することができる。従って、本発明の第6の態様は、上記組成物を防虫ネットに適用する工程を含む、防虫ネットの製造方法である。
組成物を防虫ネットに適用する方法としては、上記第1の態様中のグリセリン脂肪酸エステルをネットに付着させる方法と同様のものを挙げることができる。
【実施例
【0044】
次に本発明に係わる試験例を記載するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0045】
<試験1>
(実施例1)
グリセリンモノカプリレート(商品名:M-100、理研ビタミン(株)社製)と99%エタノールとを2:8の質量比となるように常温(約25℃)で混合して、実施例1の防虫ネット用処理剤を調製した。
(比較例1~2)
サンクリスタル乳剤(サンケイ化学株式会社製)、まくぴか(石原バイオサイエンス株式会社製)を、それぞれ比較例1、2の処理剤として用いた。なお、サンクリスタル乳剤の製品安全データシートによると、サンクリスタル乳剤は、脂肪酸グリセリド(デカノイルオクタノイルグリセロール)を有効成分とする製品である。まくぴかの安全データシートによると、まくぴかはポリエーテル変性シリコーンオイルからなる製品である。
【0046】
(試験方法)
実施例1の処理剤、比較例1の処理剤又は比較例2の処理剤を1g/50mLとなるように水に溶解し、目合い0.8mmの白色の網(ネット)に噴霧散布した。空調温室に1日置いた後、処理剤で処理したネットを飼育箱の窓に張った。飼育箱の中にキュウリ苗を入れ、その飼育箱を1.8m×0.9m×0.6mのアミ室の中に置き、コナジラミのついたキュウリ苗をアミ室に入れ、根元を切り、徐々に乾燥するようにし、アミ室の中に閉じ込めた。2日後に飼育箱の中のキュウリに付いたコナジラミ数を数えた。
1回目の試験後、アミに付いたコナジラミをブラシで取り除き、再度セットして合計3回の侵入試験を行った。
その結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
(結果)
試験1の結果、特許文献4において優れた効果を示すものとして教示されたサンクリスタル乳剤及びまくぴかを付着させた防虫ネットは、害虫侵入防止効果が十分ではないことが分かった。他方、本発明の防虫ネットは、キュウリに付着したコナジラミ数が顕著に少なく、優れた害虫侵入防止効果を発揮することが分かった。
サンクリスタル乳剤やまくぴかを用いた試験に関し、特許文献4の試験ではコナジラミの通過個体数が少なかったにもかかわらず、本試験の試験では通過個体数(キュウリ付着個体数)が多かった。その理由として、特許文献4の実施例では、コナジラミを狭いガラス管内に閉じ込めたため、コナジラミが混乱し、正確な挙動を試験できていなかったことが考えられる。また、特許文献4の実施例では餌が設置されておらず、コナジラミが防虫ネットを通過しようとする動機付けに欠ける緩和な試験になっている。これらの結果、通過個体数が少なかったのではないかと考えられる。他方、本発明の試験方法では、コナジラミの餌が設置されており、コナジラミが防虫ネットを通過しようとする強い動機付けを有する。従って、より現実の環境に近い試験であるといえる。また、コナジラミを狭いガラス管内に閉じ込めていないため、混乱も生じにくい。その結果、防虫ネットに対するコナジラミのより正確な挙動が試験できたものと考えられる。
サンクリスタル乳剤やまくぴかを用いた場合に対する実施例1のグリセリンモノカプリレートで処理した防虫ネットによるコナジラミの優れた侵入阻止効果は、特許文献4の開示からは予測できないものであった。
【0049】
<試験2>
下記の各供試薬液(原体)に浸漬した1mm目合の防虫ネットを張った飼育箱と薬液処理をしていない防虫ネットを張った飼育箱のそれぞれにキュウリ苗を入れ、コナジラミが外部に逃げないように密閉された大きな部屋の中に設置した。その後、当該部屋の中であって飼育箱の外にタバココナジラミの生育しているポット植えキュウリを入れた。その後、タバココナジラミの生育しているポット植えキュウリ茎を切断した。茎の切断により、キュウリ苗を徐々に乾燥させることにより、当該キュウリ苗上で生育していたタバココナジラミが飼育箱内の乾燥していないキュウリ苗を目指して移動する。
タバココナジラミの生育しているポット植えキュウリを部屋内に置いてから3日後に、飼育箱内のキュウリに定着したコナジラミの数を調べ、無処理の場合のコナジラミ数を100としたときの各実施例におけるコナジラミ数を侵入率(定着率)として算出した。
なお、各供試サンプルは希釈せず、原液のままネットを浸漬させた。なお、OL-100、ヤシ油およびM-100については、常温では固体であるため、60℃に加熱して溶融した後、これらの油に飼育箱に張り付ける前のネットを浸漬させた。浸漬後は余分な薬液を自然落下で除いた後、飼育箱にセットし、実験に用いた。
その結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
なお、実施例3のアクターLO-1は、構成脂肪酸としてオレイン酸を多く含むハイオレインキャノーラ油を原料とし、当該原料に含まれるリノール酸やリノレン酸をオレイン酸に変えることでオレイン酸含量を更に高めた合成油(植物由来の脂肪酸とグリセリンから合成された合成油)である(不飽和脂肪酸の合計は約93%程度)。構成脂肪酸としてオレイン酸がほとんどを占めるため、ここではグリセリントリオレエートと呼ぶ。
【0052】
(結果)
試験2の結果、実験に用いた供試サンプル(原体)のうち、グリセリンモノカプリレートやグリセリントリオレエートで処理した場合には、コナジラミは防虫ネットを通過しなかった(実施例2、3)。それに対し、ヤシ油とグリセリンモノオレエートではコナジラミは処理した防虫ネットを通過してしまった(比較例3、4)。この結果から、防虫ネットに処理をすることによりコナジラミが通過できなくなるグリセリン脂肪酸エステルと、防虫ネットに処理をしてもコナジラミが通過できるグリセリン脂肪酸エステルとがあることが判った。この結果も、特許文献4の開示からは予測できないものであった。
次に、グリセリンモノカプリレートと同様に、防虫ネットに処理することによりコナジラミが通過できなくなるグリセリン脂肪酸エステルを探索した。
【0053】
<試験3>
(実施例4)
グリセリンモノカプリレート(商品名:ポエムM-100、理研ビタミン(株)社製)と99%エタノールとを2:8の質量比となるように常温(約25℃)で混合して、実施例4の防虫ネット用処理剤を調製した。
(実施例5~16)
グリセリンモノカプリレートをそれぞれ下記の化合物に変更した以外は実施例4と同様の方法により、実施例5~16の防虫ネット用処理剤を調製した。なお、下記において、エステル化率が50%とは平均エステル化率が50%であることを意味する。
実施例5:グリセリントリカプリレート(商品名:アクターM-2、理研ビタミン(株)社製)
実施例6:グリセリンジアセトモノカプリレート(商品名:BIOCIZER、理研ビタミン(株)社製)
実施例7:ジグリセリンモノ・ジカプリレート(エステル化率50%)
実施例8:グリセリンジアセトモノカプリレート/カプレート(※)(商品名:リケマールPL-019、理研ビタミン(株)社製)
(※)グリセリンジアセトモノカプリレートとグリセリンジアセトモノカプレートの混合物(前者:後者=50:50(質量比))
実施例9:グリセリンジアセトモノカプレート
実施例10:トリグリセリンモノ・ジカプリレート(エステル化率50%)(理研ビタミン(株)社製)
実施例11:トリグリセリンモノ・ジカプレート(エステル化率50%)(理研ビタミン(株) 社製)
実施例12:グリセリンジアセトモノラウレート(商品名:リケマールPL-004、理研ビタミン(株)社製)
実施例13:ジグリセリンモノ・ジラウレート(エステル化率30%)(商品名:リケマールL-71-D、理研ビタミン(株)社製)
実施例14:グリセリントリオレエート
実施例15:デカグリセリンオレエート(エステル化率100%)(商品名:ポエムJ-0381、理研ビタミン(株)社製)
実施例16:グリセリンジアセトモノオレエート
【0054】
(比較例5~11)
グリセリンモノカプリレートをそれぞれ下記の化合物に変更した以外は実施例4と同様の方法により、比較例5~11の防虫ネット用処理剤を調製した。
比較例5:ジグリセリンテトラカプリレート(理研ビタミン(株)社製)
比較例6:グリセリンモノカプレート(商品名:ポエムM-200、理研ビタミン(株)社製)
比較例7:ジグリセリンモノ・ジカプレート(エステル化率50%)(理研ビタミン(株)社製)
比較例8:ソルビタンラウレート
比較例9:ショ糖脂肪酸エステル(カプリレート)
比較例10:ショ糖脂肪酸エステル(ラウレート)
比較例11:ショ糖脂肪酸エステル(カプレート)
【0055】
(試験方法)
実施例4~16、比較例5~11の各処理剤1gを水100mLに溶解し、防虫ネット(白色、目合いは0.8mm)に噴霧散布した。風乾後、処理剤で処理した防虫ネットを飼育箱の窓に張り、中にキュウリ苗を入れた。対照(コントロール)として無処理の防虫ネットを張った飼育箱を用いた。
4個の飼育箱を密閉された部屋の中に設置した。その後、部屋の中であって且つ飼育箱の外にタバココナジラミの生育しているポット植えのキュウリ苗、あるいはキャベツ苗を入れた。夕方、暗くなってからキュウリあるいはキャベツの茎を切り、徐々に乾燥させた。乾燥により、タバココナジラミが宿主から飛び立ち、防虫ネットの網目を通過して飼育箱の中のキュウリに定着し始めた。
翌日、夕方にそれぞれの飼育箱内に侵入した(すなわち、防虫ネットを通過した)コナジラミの数を計測した。各実施例又は比較例の場合に飼育箱内に侵入したコナジラミの数と無処理(コントロール)の場合に飼育箱内に侵入したコナジラミの数とを比較し、下記式によりコントロールに対するコナジラミ侵入率を算出した。
【0056】
コントロールに対するコナジラミ侵入率
=各実施例又は比較例の場合に飼育箱内に侵入したコナジラミの数/無処理(コントロール)の場合に飼育箱内に侵入したコナジラミの数×100
その結果を表3に示す。
なお、実施例4~16、比較例5~11の各処理剤について、複数回に渡って同様の試験を行ったものについては、各回の結果を第1回、第2回、第3回、第4回にそれぞれ記載した。表中、「-」は、試験を行っていないことを意味する。
【0057】
【表3】
【0058】
(結果)
試験3の結果、特許文献3において優れた忌避効果を示すものとして教示されたソルビタンラウレートやショ糖脂肪酸エステルを付着させた防虫ネットは、無処理の場合と同程度又はそれよりも悪いコナジラミ侵入率を示し、害虫侵入防止効果を奏さないことが分かった。他方、本発明の防虫ネットは、無処理の場合に対してコナジラミ侵入率が顕著に低く、優れた害虫侵入防止効果を発揮することが分かった。
従って、本発明の防虫ネットによるコナジラミの優れた侵入阻止効果は、特許文献4だけではなく特許文献3の開示からも予測できないものであった。
【0059】
<試験4>
次に、助剤の要否を検討するため、助剤を含まない処理剤(実施例17)と助剤を含む処理剤(実施例18~19)とを下記のとおり用意し、各処理剤を用いた場合のコントロールに対するコナジラミ侵入率を比較した。
【0060】
(実施例17)
グリセリンモノカプリレート(商品名:M-100、理研ビタミン(株)社製)と99%エタノールとを2:8の質量比となるように常温(約25℃)で混合して、実施例17の防虫ネット用処理剤を調製した。
【0061】
(実施例18)
グリセリンモノカプリレート(商品名:ポエムM-100、理研ビタミン(株)社製)と助剤A(グリセリンモノカプリレート:助剤A=8:2(質量比))と99%エタノールを、グリセリンモノカプリレートと助剤Aの合計:エタノール=2:8の質量比となるように常温(約25℃)で混合して、実施例18の防虫ネット用処理剤を調製した。
助剤A:ポリオキシエチレン(5)モノドデシルエーテル(商品名:B-205、理研ビタミン(株)社製)
【0062】
(実施例19)
グリセリンモノカプリレート(商品名:ポエムM-100、理研ビタミン(株)社製)と助剤B(グリセリンモノカプリレート:助剤B=8:2(質量比))と99%エタノールを、グリセリンモノカプリレートと助剤Bの合計:エタノール=2:8の質量比となるように常温(約25℃)で混合して、実施例19の防虫ネット用処理剤を調製した。
助剤B:ジグリセリンモノオレエート(商品名:DO-100、理研ビタミン(株)社製):ポリオキシエチレンフェニルエーテル+ドデシルベンゼンスルホネート(商品名:355H、東邦化学(株)社製):ダイズ油=1:1:1(質量比)の混合物
【0063】
(試験方法)
実施例17~19の各処理剤の0.5gを蒸留水50mLに懸濁し、防虫ネット(0.8mm又は3mm目合い)に噴霧散布し、風乾後、処理剤で処理した防虫ネットと無処理の防虫ネット(0.8mm又は3mm目合い)をキュウリ苗に入れた飼育箱の一面に張った。その後、飼育箱4個をコナジラミが外部に逃げないように密閉された大きな部屋の中に設置し、当該部屋の中であって且つ飼育箱の外にコナジラミの付いたキュウリ苗を置き、根部を切断して乾燥させ、コナジラミを飛び立たせた。実験は25℃の空調温室で行い、それぞれの飼育箱内のキュウリ箱の飛来数を数えた。
目合い0.8mmの防虫網を用いた場合の結果を表4に示し、目合い3mmの防虫網を用いた場合の結果を表5に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
(結果)
試験4の結果、本発明の防虫ネットは、助剤を有していても助剤を有していなくても効果を奏するものの、助剤を含む場合よりも、助剤を含まない方が、コナジラミ侵入率をより低減できることが分かった。また、本発明の防虫ネットは、目合い0.8mmの場合も目合い3mmの場合も無処理の場合に比べて顕著にコナジラミの侵入を防止できることが分かった。
【0067】
<試験5>
下記の各供試薬液(原体)に浸漬した1mm目合の防虫ネットを張った飼育箱と薬液処理をしていない防虫ネットを張った飼育箱のそれぞれにキュウリ苗を入れ、コナジラミが外部に逃げないように密閉された大きな部屋の中に設置した。その後、当該部屋の中であって飼育箱の外にタバココナジラミの生育しているポット植えキュウリを入れた。その後、タバココナジラミの生育しているポット植えキュウリ茎を切断した。茎の切断によりキュウリ苗が徐々に乾燥し、これによりタバココナジラミが飛散して飼育箱内のキュウリ苗を目指して移動するものと思われた。
各供試サンプルは希釈せず、原体のままの供試サンプルにネットを浸漬させた。浸漬後は余分な薬液を自然落下で除いた後、飼育箱にセットし、実験に用いた。
タバココナジラミの生育しているポット植えキュウリを部屋内に置いてから3日後に、飼育箱内に侵入したコナジラミの数を調べ、無処理の場合のコナジラミ数を100としたときの各実施例におけるコナジラミ数を侵入率(定着率)として算出した。その結果を表6に示す。
【0068】
【表6】
【0069】
(結果)
試験5の結果、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノカプレート、グリセリントリオレエート、ジグリセリンモノ・ジラウレートの原液を用いた場合に、コナジラミのネット内への侵入を防ぐことができることを再度確認した。また、ジグリセリンモノ・ジオレエートで処理した場合も同様に、コナジラミのネット内への侵入を防ぐことできることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、害虫の侵入を防止する効果に優れた防虫ネットを提供することができる。したがって、本発明の防虫ネットは産業上極めて有用である。