(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】半導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20240711BHJP
C30B 25/18 20060101ALI20240711BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C30B25/18
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2020081130
(22)【出願日】2020-05-01
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成塚 重弥
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-515860(JP,A)
【文献】特表2018-535536(JP,A)
【文献】特開2018-168029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C30B 25/18
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を覆う複数のマスク層の各々を前記基板上の異なる位置に形成するマスク層形成工程と、
少なくとも前記基板の表面にグラフェン層を積層するグラフェン層積層工程と、
前記基板の表面に積層された前記グラフェン層の表面に半導体結晶を結晶成長させる結晶成長工程と、
を備え、
隣合う前記マスク層の間には、直線状の開口部が形成されている半導体の製造方法。
【請求項2】
基板を覆う複数のマスク層の各々を前記基板上の異なる位置に形成するマスク層形成工程と、
少なくとも前記基板の表面にグラフェン層を積層するグラフェン層積層工程と、
前記基板の表面に積層された前記グラフェン層の表面に半導体結晶を結晶成長させる結晶成長工程と、
を備え、
前記グラフェン層積層工程は、前記マスク層形成工程の後に実行され、前記グラフェン層が、前記マスク層の表面、及び前記基板の表面に積層される半導体の製造方法。
【請求項3】
基板を覆う複数のマスク層の各々を前記基板上の異なる位置に形成するマスク層形成工程と、
少なくとも前記基板の表面にグラフェン層を積層するグラフェン層積層工程と、
前記基板の表面に積層された前記グラフェン層の表面に半導体結晶を結晶成長させる結晶成長工程と、
を備え、
前記グラフェン層は、複数の前記マスク層の間の前記基板の表面を覆うように積層され、
前記マスク層は、複数の前記マスク層の間の前記グラフェン層よりも層数が多いグラフェンである半導体の製造方法。
【請求項4】
前記グラフェン層は、少なくとも単層のグラフェンである請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の半導体の製造方法。
【請求項5】
前記グラフェン層積層工程は、前記マスク層形成工程の前に実行され、前記マスク層が前記グラフェン層の表面に形成され、
前記マスク層は、前記グラフェン層の表面に前記半導体結晶を結晶成長させる際、自身の表面に前記半導体結晶が結晶成長することを抑制する請求項1又は請求項1を引用する請求項4に記載の半導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は従来の単結晶薄膜の形成方法を開示している。この単結晶薄膜の形成方法は、先ず、単結晶基板上に非晶質薄膜を形成する。そして、エッチングによって非晶質薄膜に線状の開口部(チャンネル部)を形成し、単結晶基板の表面を露出させる。そして、減圧した状態で、分子ビームを単結晶基板の表面に対して40°以下の入射角度で開口部に入射させ、開口部の露出した単結晶基板の表面に単結晶薄膜を成長させる。このように、限定した領域(開口部)に結晶を成長させて、転位密度を抑えた結晶を得る方法をマイクロチャンネルエピタキシー法という。特に、分子ビームを開口部の露出した単結晶基板の表面に対して所定の角度よりも低い角度で入射させ、開口部の露出した単結晶基板の表面に単結晶薄膜を成長させる手法を低角入射マイクロチャンネルエピタキシー(LAIMCE)という。ここで、限定した領域(開口部)に結晶を成長させることを選択成長という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の単結晶薄膜の形成方法は、開口部に位置する単結晶基板に転位が生じている場合、開口部に形成される縦方向単結晶薄膜に、この転位が伝播することになる。縦方向単結晶薄膜に伝播した転位を貫通転位という。開口部における縦方向単結晶薄膜への単結晶基板が有する転位の伝播を抑えることによって、より品質の良好な半導体を製造することが期待できる。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、品質の良好な半導体を製造することができる半導体の製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の半導体の製造方法は、
基板を覆う複数のマスク層の各々を前記基板上の異なる位置に形成するマスク層形成工程と、
少なくとも前記基板の表面にグラフェン層を積層するグラフェン層積層工程と、
前記基板の表面に積層された前記グラフェン層の表面に半導体結晶を結晶成長させる結晶成長工程とを備える。
【0007】
この半導体の製造方法は、グラフェン層によって、グラフェン層が積層された位置における基板の転位や欠陥をグラフェン層の表面に成長する半導体結晶に伝播することを抑えつつグラフェン層の表面に結晶成長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1の半導体の製造方法を示す概略図である。
【
図2】開口部において成長核が成長する様子を示す概略図である。
【
図3】実施例2の半導体の製造方法を示す概略図である。
【
図4】実施例3の半導体の製造方法を示す概略図である。
【
図5】実施例4の半導体の製造方法を示す概略図である。
【
図6】実施例5の1つ目及び2つ目の半導体の製造方法を示す概略図である。
【
図7】実施例5の3つ目の半導体の製造方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0010】
本発明の半導体の製造方法において、グラフェン層は、少なくとも単層であってもよい。この構成によれば、グラフェン層が単層であるため、基板の原子配列の情報がグラフェン層の表面側に伝わり易い。このため、グラフェン層の表面に結晶成長する半導体結晶に基板の結晶格子の周期等の情報を良好に伝え易い。
【0011】
本発明の半導体の製造方法において、グラフェン層積層工程は、マスク層形成工程の前に実行され、マスク層がグラフェン層の表面に形成され、マスク層は、グラフェン層の表面に半導体結晶を結晶成長させる際、自身の表面に半導体結晶が結晶成長することを抑制してもよい。これによって、グラフェン層の表面に半導体結晶を結晶成長させる際、半導体結晶が結晶成長する領域をマスク層によって調整することができる。
【0012】
本発明の半導体の製造方法において、グラフェン層積層工程は、マスク層形成工程の後に実行され、グラフェン層が、マスク層の表面、及び基板の表面に積層されてもよい。これによって、グラフェン層の表面に成長した半導体結晶を基板から剥離する際に、半導体結晶からマスク層が剥離し易くなる。つまり、半導体結晶のみを剥離し易くなる。
【0013】
本発明の半導体の製造方法において、グラフェン層は、複数のマスク層の間の基板の表面を覆うように積層されてもよい。これによって、基板の表面に半導体結晶を直接結晶成長することを防止し、半導体結晶に基板の転位や欠陥が伝播することを確実に防止できる。
【0014】
本発明の半導体の製造方法において、マスク層は、複数のマスク層の間のグラフェン層よりも層数が多いグラフェンでもよい。この構成によれば、マスク層とグラフェン層とが同じ材質であるため、基板にマスク層とグラフェン層とを形成する手順を簡単なものにし易い。
【0015】
実施例1の半導体の製造方法について
図1(a)から
図1(f)、及び
図2(a)から
図2(d)を参照しつつ説明する。
【0016】
<実施例1>
先ず、CVD法(化学気相成長)を用いて触媒金属である薄い板状のCu(銅)(以下、銅箔50ともいう)の表面にグラフェン層31を成長させる(
図1(a)参照。)。具体的には、キャリアガスとして、H
2(水素)50sccmと、N
2(窒素)500sccmと、が混合した混合ガスを反応管に流しながら、炭素原料のアルコールの温度を-1℃に保持し、N
2(窒素)10sccmでバブリングして供給した。反応管内では、銅箔50を1000℃に保持し、銅箔50の表面にグラフェン層31を成長させる。成長時間は30分間である。グラフェン層31は単層のグラフェンである。
【0017】
次に、銅箔50の表面に形成されたグラフェン層31を銅箔50の表面から基板30の表面に転写する。基板30は、MOCVDを用い、例えば(0001)面を表面にしたサファイア基板30A上にGaN(窒化ガリウム)からなるGaN層30Bを2μm結晶成長した構造を有している。先ず、銅箔50の表面に形成されたグラフェン層31の表面にスピンコート法を用い、図示しないポリメタクリル酸メチル樹脂(以下、PMMAともいう)を塗布する。次に、グラフェン層31の表面にPMMAを塗布した銅箔50を塩化第二鉄溶液に浸す。このとき、銅箔50を下側にして塩化第二鉄溶液に浸す。こうして、銅箔50が塩化第二鉄溶液に溶解し、PMMA及びグラフェン層31はエッチング溶液に溶解せず塩化第二鉄溶液の表面に浮かぶ。
【0018】
次に、PMMA及びグラフェン層31を純水におよそ30分間、希塩酸におよそ30分間、さらに純水に10分間浮かべる。PMMA及びグラフェン層31は、スライドガラス等を用いてすくい上げるように持ち上げて純水や希塩酸の表面に移す。グラフェン層31はPMMAの下側に位置している。PMMA及びグラフェン層31に付着した塩化第二鉄は、希塩酸によって溶解して除去される。PMMA及びグラフェン層31に付着した希塩酸は、純水により洗浄される。
【0019】
[グラフェン層積層工程]
次に、基板30の表面にグラフェン層31を積層するグラフェン層積層工程を実行する。具体的には、基板30を用いてPMMA及びグラフェン層31を純水からすくい上げる。そして、PMMA及びグラフェン層31を基板30の表面に載置する。このとき、基板30のGaN層30B表面にグラフェン層31の下面が当接する。そして、PMMA及びグラフェン層31と、基板30と、を所定温度で所定時間の乾燥処理を施す。こうして、水分等を蒸発させることによってグラフェン層31と、基板30と、の密着性を向上させる。そして、PMMA及びグラフェン層31と、基板30と、をアセトン溶液に浸してPMMAを除去する。そして、グラフェン層31と、基板30と、に所定温度で所定時間の乾燥処理を施しアセトンを除去する。こうして、基板30の表面にグラフェン層31を転写してグラフェン層積層工程を終了する(
図1(b)参照。)。
【0020】
[マスク層形成工程]
次に、複数のマスク層32の各々を基板30上の異なる位置に形成するマスク層形成工程を実行する。具体的には、表面にグラフェン層31が転写された基板30にSiO2(2酸化ケイ素)からなるマスク層32を形成する。具体的には、被膜を形成する材料であるOCD(製品名、東京応化工業(株)製)を基板30のグラフェン層31の表面にスピンコートする。そして、100℃で10分間プリベークを施し、引き続き400℃にて30分間大気中で加熱するとOCDが固化する。こうして、グラフェン層31の表面にSiO2(2酸化ケイ素)によって形成されたマスク層32が積層して形成される。つまり、グラフェン層積層工程がマスク層形成工程の前に実行されることによって、マスク層32がグラフェン層31の表面に形成されるのである。
【0021】
次に、マスク層32を所定の外形に形成する。具体的には、フォトリソグラフィ等を用いて、マスク層32の表面に周期500μm、開口幅3μmのレジストパターン(図示せず)を形成する。そして、バッファードフッ酸を用いて、レジストパターンが形成されていない領域のマスク層32を除去する。これにより、マスク層32に開口する開口部32A(チャンネル部)を形成する。開口部32Aは、
図1(c)において、紙面の手前奥方向に直線状をなしている。そして、レジストパターンを剥離液等で除去する。こうして、縞状に形成され、開口部32Aを有した選択成長用のマスク層32を形成しマスク層形成工程を終了する。マスク層32に形成された開口部32Aには、グラフェン層31の表面が露出している(
図1(c)参照)。
図1(c)には、開口部32Aが1つしか示されていないが、実際には、複数の開口部32Aが500μmの間隔を設けて形成されている。
【0022】
[結晶成長工程]
次に、基板30の表面に積層されたグラフェン層31の表面にGaN層33Aを結晶成長させる結晶成長工程を実行する。具体的には、基板30に転写されたグラフェン層31の表面、及びマスク層32の表面にGaN層33を積層して結晶成長させる。GaN層33の結晶成長は、開口部32AにおけるGaN層33Aの縦方向の結晶成長(
図1(d))と、開口部32Aに結晶成長したGaN層33AからGaN層33Bの横方向への結晶成長(
図1(f))と、の2段階の工程によって成り立つ。
【0023】
[開口部における縦方向の結晶成長について]
図1(e)は、開口部32Aが形成されたマスク層32を上方から見た平面図である。開口部32AにおけるGaN層33Aの縦方向の結晶成長は、
図1(e)に示すように、開口部32Aの長手方向の端部にGaNによって形成された成長核33Cを発生させ、成長核33Cを開口部32Aの長手方向(すなわち、横方向)に沿って成長させることによって、開口部32A全体を覆うようにGaN層33Aの結晶成長を行う。これにより、開口部32Aでは1つの成長核33CからGaN層33A全体が形成される。つまり、成長核33Cの成長過程において隣合う他の成長核との結合が生じない。
【0024】
仮に、隣合う他の成長核との結合が生じる場合、往々にして成長核同士の結合界面において新たな転位や欠陥が生成する。また、開口部32Aには、予めGaN層30Bの表面を覆うように、グラフェン層31が配置されている。このため、仮に開口部32Aに位置するGaN層30Bに転位や欠陥が生じていても、グラフェン層31によってGaN層30Bの転位や欠陥がGaN層33Aへ伝播することが抑制されつつGaN層33Aの結晶成長が進行する(
図1(d)参照。)。その結果、開口部32Aに結晶成長するGaN層33Aの転位密度は、従来のマイクロチャンネルエピタキシー法による結晶成長に比べ大きく低減する。このように、基板30の表面に転写されたグラフェン層31の表面に結晶を成長させる方法を、以下、リモートエピタキシーともいう。
【0025】
[リモートエピタキシーにおける欠陥を跨いだ成長核の成長について]
リモートエピタキシーにおいて、一つの成長核33Cが成長する成長過程では、成長核33Cに転位が発生することを抑制し得る。例えば、
図2(a)に示すように、欠陥Dにおいて、横方向に結晶格子の周期がずれている基板30に積層されたグラフェン層31の表面にリモートエピタキシーによって成長核33Cを結晶成長させる。ここで、横方向に結晶格子の周期がずれているとは、欠陥Dよりも左側の結晶格子の周期と、欠陥Dよりも右側の結晶格子の周期とが、相対的に左右方向にずれていることを指す。成長核33Cの成長過程では、成長核33Cの側面に新たな原子が結合することによって、グラフェン層31の表面に沿うようにして成長核33Cが結晶成長して大きくなる。成長核33Cの側面に新たな原子を結合させる手法として、低角入射マイクロチャンネルエピタキシー(以下、単にLAIMCEともいう)を採用することが考えられる。
【0026】
従来のエピタキシャル成長(すなわち、グラフェン層を有しない結晶成長)では、基板30と、成長核33Cの原子と、が結合を作ることになる。このため、従来のエピタキシャル成長では、成長核33Cが結晶成長を続けて欠陥Dを跨ぐ際、基板30の結晶格子の周期のずれが成長核33Cに伝播してしまう。しかし、リモートエピタキシーでは、基板30と成長核33Cとの結合がグラフェン層31によって遮られた状態で成長核33Cが結晶成長する。リモートエピタキシーでは、基板30と、成長核33Cと、は結合を作らない。このため、基板30の欠陥Dが存在する場所も欠陥Dに影響されることなく問題なく乗り越えて、成長核33Cは横方向に結晶成長することができる。これにより、基板30が有する転位や欠陥に影響されず、転位や欠陥が生じることなく一つの成長核33Cが結晶成長することができる。
【0027】
基板と成長核との結合がグラフェン層によって遮られた状態であるとはいえ、成長核には、成長核が存在する位置における基板の結晶格子の周期がグラフェン層を介して伝達し得る。このため、欠陥Dの左右に一つずつ成長核が生じた場合、各成長核には、各成長核が生じた位置における基板の結晶格子の周期がグラフェン層を介して伝達する。このため、各成長核は、原子配列の位相の整合性が互いに異なるものになる。これによって、各成長核が結晶成長して互いに結合する場合、その界面には欠陥が発生することになる。
【0028】
次に、
図2(c)に示すように、欠陥Dを挟んで左側と右側との各々結晶格子の周期が相対的に上下方向にずれた基板30において、欠陥Dを成長核33Cが乗り越えて結晶成長する場合について考察する。欠陥Dの左側における基板30に位置するグラフェン層31の表面に成長核33Cが形成され、成長核33Cが欠陥Dを乗り越えて欠陥Dの右側に向けて結晶成長する場合も、成長核33Cの結晶成長は横方向の結晶成長となる。
【0029】
グラフェン層31を介して基板30から伝達される基板30の結晶情報(結晶格子の周期、転位、及び欠陥)は、成長核33Cの側面に結合する原子の位置を変位させるほど強くない。よって、成長核33Cの結晶格子の周期を引き継ぐ形で成長核33Cは横方向に結晶成長を続ける。成長核33Cは、
図2(d)に示すように、欠陥Dの左側と右側とにおいて、その厚みが変化することによって、欠陥Dを挟んで上下方向にずれた結晶格子の周期のずれを吸収する。これによって、成長核33Cには、基板30における欠陥や転位が伝播しない。
【0030】
以上の考察から、グラフェン層31に覆われた開口部32Aにおいて、一つの成長核33Cを横方向に結晶成長させて、開口部32A全体を覆うことによって、転位をほとんど発生させることなく開口部32AにGaN層33Aを結晶成長させ得ることがわかる。
【0031】
[マスク層の表面における横方向の結晶成長について]
次に、開口部32AのGaN層33AからGaN層33Bを横方向に結晶成長させる。GaN層33Bの横方向の結晶成長は、LAIMCEによって行う。マスク層32は、グラフェン層31の表面にGaN層33Aを結晶成長させる際、自身の表面にGaN層33Aが結晶成長することを抑制する機能を有する。さらに、マスク層32は、基板30の転位や欠陥がGaN層33Bに伝達することを抑制する機能を有する。このため、マスク層32の表面における横方向の結晶成長において、GaN層33Bは、新たな転位や欠陥が発生することなく結晶成長する。したがって、リモートエピタキシーによって開口部32Aに結晶成長した、貫通転位をほとんど有さないGaN層33Aと、GaN層33Aから横方向に結晶成長したGaN層33Bと、を組み合わせることによって、大幅な転位の低減が達成された半導体結晶であるGaN層33を得ることができる。
【0032】
LAIMCEでは、基板30の温度860℃で原料(TMG(トリメチルガリウム)、及びアンモニア)を基板30に対し低角度で供給し、開口部32AのGaN層33Aから横方向に結晶成長を行う。結晶成長時間は10時間である。こうして、結晶成長工程を終了する。
【0033】
こうして横方向に結晶成長したGaN層33Bをカソードルミネッセンス測定によって測定した結果、ほぼ無転位に横方向に結晶成長していることが確かめられた。カソードルミネッセンス測定における測定結果は図示しない。開口部32AにおけるGaN層33Aにおける転位密度も、基板30のGaN層30Bの転位密度(5×108cm-2)に比べ、一桁以上低下していることが分かった。こうして、開口部32Aに露出したGaN層30Bの表面にグラフェン層31を積層した構成を用いてリモートエピタキシーを行うことによって品質の良好なGaN層33を結晶成長させ得ることが分かった。
【0034】
上記のように構成された実施例1によれば、以下の効果を奏する。
【0035】
実施例1の半導体の製造方法は、複数のマスク層32の各々を基板30上の異なる位置に形成するマスク層形成工程と、基板30の表面にグラフェン層31を積層するグラフェン層積層工程と、基板30の表面に積層されたグラフェン層31の表面にGaN層33Aを結晶成長させる結晶成長工程とを備える。この半導体の製造方法は、グラフェン層31によって、グラフェン層31が積層された位置における基板30の転位や欠陥をグラフェン層31の表面に成長するGaN層33Aに伝播することを抑えつつグラフェン層31の表面に結晶成長させることができる。
【0036】
実施例1の半導体の製造方法において、グラフェン層31は、単層である。この構成によれば、グラフェン層31が単層であるため、基板30の原子配列の情報がグラフェン層31の表面側に伝わり易い。このため、グラフェン層31の表面に結晶成長するGaN層33Aに基板30の原子配列の情報を良好に伝え易い。
【0037】
実施例1の半導体の製造方法において、グラフェン層積層工程は、マスク層形成工程の前に実行され、マスク層32が、グラフェン層31の表面に形成され、マスク層32は、グラフェン層31の表面にGaN層33Aを結晶成長させる際、自身の表面にGaN層33Aが結晶成長することを抑制する。これによって、グラフェン層31の表面にGaN層33Aを結晶成長させる際、半導体結晶が結晶成長する領域をマスク層32によって調整することができる。
【0038】
<実施例2>
次に、実施例2に係る半導体の製造方法について
図3(a)から
図3(d)を参照しつつ説明する。実施例2に係る半導体の製造方法は、グラフェン層131を開口部32Aのみに設ける点が実施例1と異なる。実施例1と同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0039】
先ず、マスク層形成工程を実行し、GaN層30Bの表面に、開口部32Aが形成されたマスク層32を積層する(
図3(a)参照。)。具体的には、基板30の表面にOCDをスピンコートによって塗布する。OCDを固化する条件は実施例1と同様である。こうして、GaN層30Bの表面にSiO
2(2酸化ケイ素)によって形成されたマスク層32が積層して形成される。
【0040】
次に、フォトリソグラフィ等を用いて、マスク層32の表面に周期500μm、開口幅3μmのレジストパターンを形成する。そして、バッファードフッ酸を用いて、レジストパターンが形成されていない領域のマスク層32を除去する。これにより、マスク層32に開口する開口部32Aを形成する。そして、レジストパターンを剥離液等で除去する。こうして、縞状に形成され、開口部32Aを有した選択成長用のマスク層32を形成し、マスク層形成工程を終了する。
【0041】
次に、グラフェン層積層工程を実行し、開口部32Aにグラフェン層131を選択成長して形成する。つまり、グラフェン層積層工程は、マスク層形成工程の後に実行される。グラフェン層131は、マスク層32の開口部32A(すなわちGaN層30Bの表面が露出している領域)に、減圧CVD装置を用いて成長させる。減圧CVDでは、キャリアガスとしてH
2(水素)100sccmと、N
2(窒素)899sccmと、が混合した混合ガスを反応管に流しながら、炭素原料としての3-ヘキシンをマイナス12℃に保持し、N
2(窒素)を1sccmでバブリングして反応管に供給する。反応管内では基板30を900℃で保持し、120分間グラフェン層131を成長させる。こうして、開口部32Aのみに単層のグラフェンからなるグラフェン層131を形成させてグラフェン層積層工程を終了する(
図3(b)参照。)。グラフェン層131は、複数のマスク層32の間の基板30の表面を覆うように積層されている。
【0042】
次に、結晶成長工程を実行し、リモートエピタキシーを行い開口部32AにGaN層33Aを結晶成長させる。具体的には、開口部32Aの長手方向の端部にGaNによって形成された成長核33Cを発生させ、この成長核33Cを開口部32Aの長手方向(すなわち、横方向であり、紙面の手前奥方向)に沿って成長させることによって、開口部32Aの全体を覆うようにGaN層33Aの結晶成長を行う。これにより、開口部32Aでは1つの成長核33CからGaN層33A全体が形成される。開口部32Aには、予めGaN層30Bの表面を覆うようにグラフェン層131が積層されているので、リモートエピタキシーによって結晶成長が進行する。その結果、開口部32Aに結晶成長するGaN層33Aの転位密度は、従来のマイクロチャンネルエピタキシー法による結晶成長に比べ大きく低減する。なぜなら、リモートエピタキシーは、一つの成長核33Cを横方向に結晶成長させることによって他の成長核との結合を抑制すると共に、GaN層30Bが有する転位や欠陥のGaN層33Aへの伝播を抑制し得るためである。つまり、一つの成長核33Cを結晶成長させて、開口部32A全体にGaN層33Aを形成することによって、転位をほとんど発生させることなしにGaN層33Aを形成することができるのである。
【0043】
次に、横方向の結晶成長はLAIMCEによって行う(
図3(d)参照。)。LAIMCEにおける基板温度、成長原料、結晶成長時間は実施例1と同様である。こうして、結晶成長工程を終了する。
【0044】
こうしてLAIMCEによってGaN層33Aから横方向に結晶成長したGaN層33Bをカソードルミネッセンス測定によって測定した結果、ほぼ無転位の横方向の結晶成長領域が得られていることが確かめられた。開口部32Aに結晶成長したGaN層33Aにおける転位密度も、基板30のGaN層30Bの転位密度(5×108cm-2)に比べ、一桁以上低下していることが分かった。こうして、実施例2の半導体の製造方法によって、開口部32Aに露出したGaN層30Bの表面にグラフェン層31を積層した構成を用いてリモートエピタキシーを行うことによっても品質の良好なGaN層33を結晶成長させ得ることが分かった。
【0045】
上記のように構成された実施例2によれば、以下の効果を奏する。
【0046】
実施例2の半導体の製造方法において、グラフェン層131は、複数のマスク層32の間の基板30の表面を覆うように積層される。これによって、基板30の表面にGaN層33Aを直接結晶成長することを防止し、GaN層33Aに基板30の転位や欠陥が伝播することを確実に防止できる。
【0047】
<実施例3>
次に、実施例3に係る半導体の製造方法について
図4(a)から
図4(f)を参照しつつ説明する。実施例3に係る半導体の製造方法は、開口部232A(チャンネル部)を有したマスク層232の形成方法、グラフェン層231を開口部232Aに形成する形成方法等が実施例1及び実施例2と異なる。実施例1と同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0048】
先ず、グラフェン層積層工程を実行する。具体的には、転写及び直接成長(析出成長)のいずれかの手法を用い、Si(ケイ素)で形成された基板230の表面にグラフェン層231を積層して形成する(
図4(a)参照。)。グラフェン層231は単層のグラフェンである。こうしてグラフェン層積層工程を終了する。
【0049】
次に、マスク層形成工程を実行する。先ず、グラフェン層231の表面に保護層70を積層する。具体的には、グラフェン層231の表面にOCDをスピンコートによって塗布する。こうして、グラフェン層231の表面にSiO2(2酸化ケイ素)によって形成された保護層70が積層して形成される。保護層70は、グラフェン層231のパターニング化、及び熱酸化時のグラフェン層231を保護する保護膜として機能する。
【0050】
次に、フォトリソグラフィ等を用いて、保護層70の表面に、例えば、周期200μm、開口幅3μmのレジストパターンを形成する。そして、バッファードフッ酸を用いて、保護層70をパターニングすることによって、保護パターン層70Aを形成する(
図4(b)参照。)。保護パターン層70Aは、後述する開口部232Aを覆うようにグラフェン層231を形成するために用いられる。
【0051】
そして、保護パターン層70Aの表面、及び露出したグラフェン層231の表面に水蒸気を供給し、基板230の表面を熱酸化させる。これによって、保護パターン層70Aの左右両側には、Si(ケイ素)で形成された基板230の表面のSi(ケイ素)が酸化してSiO
2(2酸化ケイ素)に変化してマスク層232が形成される。基板230の表面を熱酸化させるために、水を80℃に加熱し、N
2(窒素)でバブリングしながら80°に加熱した水から生じる水蒸気を反応管に供給する。基板230は1000℃で加熱する。熱酸化時間は1時間程度である。保護パターン層70Aの左右両側に位置する露出したグラフェン層231は熱酸化の初期の段階で水蒸気によってエッチングされ除去される(
図4(c)参照。)。その後、保護パターン層70Aの左右両側に位置する露出した基板230の表面が熱酸化されてSiO
2(2酸化ケイ素)に変化することによって、保護パターン層70Aに覆われたグラフェン層231の両側の領域にマスク層232が形成される。水蒸気によってエッチングされずに残されたグラフェン層231によって覆われた基板230の領域は熱酸化されない。
【0052】
次に、保護パターン層70Aのみをリソグラフィーを用いてエッチング除去することによって、リモートエピタキシー、及びLAIMCEに使用可能なウエファを得ることができる(
図4(e)参照。)。こうして、マスク層形成工程を終了する。
【0053】
グラフェン層231の下方における基板230の領域は、熱酸化されなかった基板230であり、開口部232Aである。よって、このウエファをSi(ケイ素)のエピタキシーに用いれば、基板230と結晶成長する結晶が同じ物質であるホモエピタキシーのリモートエピタキシー、すなわちホモリモートエピタキシーを行うことができる。一方、実施例1、2と同様に、このウエファを基板230と異なるGaN等の材料のエピタキシー(結晶成長)に用いれば、基板と結晶成長する結晶が異なる物質であるヘテロエピタキシーのリモートエピタキシー、すなわち、ヘテロリモートエピタキシーを行うことができる。
【0054】
次に、このウエファを用いてGaNのヘテロリモートエピタキシー(すなわち、結晶成長工程)を行う場合について説明する。開口部232Aのリモートエピタキシーにおいて、例えば、開口部232Aの長手方向の端部に成長核を発生させ、この成長核を開口部232Aの長手方向(すなわち、横方向であり、紙面の手前奥方向)に沿って成長させることによって、開口部232A全体を覆うようにGaN層33Aの結晶成長を行う。この際、基板230がGaNである場合に比べて成長核が発生し難い。このため、供給するGa原料を少し増やしたり、V族-III族比を大きくしたり、成長温度を下げたりする等し、成長核が発生し易い条件を選択して結晶成長を開始する。
【0055】
一旦結晶成長が開始すれば、ホモエピタキシーの場合と、ヘテロエピタキシーの場合と、でリモートエピタキシーの成長条件が大きく異なるわけではない。しかし、良好な結晶成長を維持するためには、僅かに低い成長温度に設定するなりして、基板230からの結晶情報を拾いやすい条件で結晶成長を継続する。これにより、開口部232Aでは、1個の成長核からGaN層33A全体が形成される。つまり、成長核の成長過程において隣合う成長核が結合することがないため、隣合う成長核との結合界面において新たな転位や欠陥が生成する心配はない。
【0056】
また、開口部232Aに露出した基板230の表面には、予めグラフェン層231が積層されている。このため、グラフェン層231の表面においては、リモートエピタキシーによって結晶成長が進行する。その結果、開口部232Aに結晶成長したGaN層33Aの転位密度は、従来のヘテロエピタキシャル成長(すなわち、グラフェン層を有しないヘテロエピタキシャル成長)による結晶成長に比べ大きく低減する。リモートエピタキシーにおいては、一つの成長核33Cを横方向に結晶成長させることによって他の成長核との結合を抑制すると共に、GaN層30Bが有する転位や欠陥の伝播を抑制し得る。よって、一つの成長核33Cを結晶成長させて、開口部232A全体にGaN層33Aを形成することによって、転位をほとんど発生させることなしにGaN層33Aを形成することができる。
【0057】
次に、横方向の結晶成長はLAIMCEによって行う(
図4(f)参照。)。LAIMCEにおける基板温度、成長原料、結晶成長時間は実施例1、2と同様である。こうして、結晶成長工程を終了する。
【0058】
こうしてLAIMCEによってGaN層33Aから横方向に結晶成長したGaN層33Bをカソードルミネッセンス測定によって測定した結果、ほぼ無転位の横方向の結晶成長領域が得られていることが確かめられた。開口部232AのGaN層33Aにおける転位密度は、5×108cm-2であり、ヘテロエピタキシャル成長としては良好な値が得られた。この結果から、実施例3の半導体の製造方法(すなわち、開口部232A及びグラフェン層231を形成してリモートエピタキシーを実行すること)によって、品質の良好なGaN層33を結晶成長させ得ることが分かった。
【0059】
<実施例4>
次に、実施例4に係る半導体の製造方法について
図5(a)から
図5(d)を参照しつつ説明する。実施例4に係る半導体の製造方法は、開口部32A及びマスク層32を覆うようにグラフェン層331を積層する点等が実施例1から実施例3と異なる。
【0060】
先ず、チャンネルとして使用する開口部32Aが形成されたマスク層32をフォトリソグラフィによって基板230上に形成するマスク層形成工程を実行する(
図5(a)参照。)。具体的には、マスク層32は、OCD等を用いることによって基板230の表面全体に形成される。そして、フォトリソグラフィによって、マスク層32の表面にレジストパターンを形成し、バッファードフッ酸を用いて、レジストパターンが形成されていない領域のマスク層32を除去して開口部32Aを形成する。こうして、マスク層形成工程を終了する。
【0061】
次に、転写等の手法を用いてマスク層32、及び開口部32Aの表面をグラフェン層331で覆うグラフェン層積層工程を実行する(
図5(b)参照。)。グラフェン層331は単層のグラフェンである。つまり、グラフェン層積層工程は、マスク層形成工程の後に実行され、グラフェン層331が、マスク層32の表面、及び基板230の表面に積層される。こうして、リモートエピタキシー、及びLAIMCEに使用可能なウエファを得ることができる。グラフェン層331は、マスク層32、及び開口部32Aを覆っている。つまり、開口部32Aにグラフェン層331が存在する。したがって、開口部32Aにおいてリモートエピタキシーを行うことができる。
【0062】
ここで、マスク層32は、非結晶質である。これにより、マスク層32は、グラフェン層331の有無に関わらず自身の下側に位置する基板230の結晶情報が自身の表面側に結晶成長するGaN層33Bに伝達することを抑制する。したがって、マスク層32の表面ではリモートエピタキシーは行われない。したがって、このように作製したウエファを用いて本発明を実施すること、すなわち、開口部32Aにおけるリモートエピタキシーを行うこと、及びその後マスク層32の表面における横方向の結晶成長を行うことによって転位や欠陥が抑えられたGaN層33を結晶成長することが可能である。
【0063】
上記のように構成された実施例4によれば、以下の効果を奏する。
【0064】
実施例4の半導体の製造方法において、グラフェン層積層工程は、マスク層形成工程の後に実行され、グラフェン層331が、マスク層32の表面、及び基板230の表面に積層される。これによって、グラフェン層331の表面に成長したGaN層33を基板230から剥離する際に、GaN層33からマスク層32が剥離し易くなる。つまり、GaN層33のみを剥離し易くなる。
【0065】
<実施例5>
次に、実施例5に係る半導体の製造方法について
図6(a)から
図6(f)、及び
図7(a)から
図7(c)を参照しつつ説明する。実施例5に係る半導体の製造方法は、マスク層432として複数のグラフェンが積層された多層グラフェン層435を用いる点が実施例1から実施例4と異なる。上記実施例と同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0066】
実施例4では、マスク層32の表面にグラフェン層331が存在しても基板230の結晶情報(結晶格子の周期、転位、及び欠陥等)がGaN層33Bに伝達しないことが分かった。このことから、グラフェン層331自体をマスク層32として使用し得ることが考えらえる。そこで、マスク層として、複数のグラフェンが積層された多層グラフェン層を利用し得ることが予想される。
【0067】
図6(a)に示すように、開口部432A(チャンネル部)においては単層のグラフェンからなるグラフェン層431を用い、マスク層432においてはグラフェンが複数積層された多層グラフェン層435を使用すれば良い。つまり、マスク層432は、複数積層されたグラフェンである。ここで、開口部432Aにおけるグラフェン層431は単層に限らず、リモートエピタキシーを行う結晶の材料に応じて二層や三層のグラフェン層としてもよい。これにより、開口部432Aでは、主としてGaN層30Bの結晶格子の周期などの結晶情報がグラフェン層431を通してGaN層33Aに伝達されてリモートエピタキシーを行うことができる。
【0068】
一方、多層グラフェン層435によって形成されたマスク層432においては、GaN層30Bの結晶情報がGaN層33Bへ伝達されることなく、GaN層30Bの結晶情報が伝播することを抑制する層として機能する。このサンプルは、マスク層432を形成する多層グラフェン層435、及び開口部432Aにおける単層のグラフェン層431(もしくは二層や三層のグラフェン層)の2つの異なる層数のグラフェン層によってGaN層30Bの表面を覆う層を構成している。以下、このような構造を有する層をダブルグラフェンマスクと呼ぶことにする。ダブルグラフェンマスクを作製するための方法は、以下に示すように複数種類存在する。
【0069】
[1つ目の方法]
先ず、転写や析出成長等の手法を用い、多層グラフェン層439をGaN層30Bの表面に形成して、パターニングする(
図6(b)参照。)。具体的には、GaN層30Bの表面に多層グラフェン層439を積層して形成する。次に、多層グラフェン層439の表面にレジストパターンを形成した後、露出した多層グラフェン層439を酸素プラズマ処理によってエッチングして除去する。これによって多層グラフェン層439に開口437が形成される。そして、CVDや転写等の手法を用い、単層のグラフェン層436によって、多層グラフェン層439、及び開口437を覆う。こうして、1つ目の方法を用いてダブルグラフェンマスクM1を形成することができる(
図6(c)参照。)。ダブルグラフェンマスクM1は、多層グラフェン層439にグラフェン層436が積層された部分がマスク層432であり、GaN層30Bの表面を覆うグラフェン層436がグラフェン層431である。グラフェン層436によって覆われた開口437が開口部432Aである。
【0070】
[2つ目の方法]
先ず、転写及び直接成長(析出成長)のいずれかの手法を用い、GaN層30Bの表面に単層のグラフェン層231を積層して形成する(
図6(d)参照。)。次に、析出成長等の手法を用い、グラフェン層231の表面に開口437が形成された多層グラフェン層439を積層する。析出成長では、グラフェン層231の表面に電子ビーム蒸着装置を用いて、アモルファスカーボン層、Ni(ニッケル)触媒層、W(タングステン)キャップ層の順に蒸着して積層構造を形成する。このように作製したサンプルを、例えば、900℃で30分間、赤外線ランプアニール装置を用いて熱処理する。これによって、グラフェン層231の表面に多層グラフェン層439が生じる。その後、希王水を用いてNi(ニッケル)触媒層をエッチング除去するとグラフェン層231上に多層グラフェン層439が残留する。
【0071】
開口437を形成するには、以上の過程において、W(タングステン)キャップ層の蒸着前に、Ni(ニッケル)触媒層上の開口437を形成する領域にレジストでパターンを形成する。その後、電子ビーム蒸着装置を用い、Ni(ニッケル)触媒層とレジストパターンとの表面にW(タングステン)キャップ層を蒸着する。これにより、リフトオフを行うことが可能となる。リフトオフでは、レジストパターンがアセトン等によって溶解除去される際に、レジストパターンとともにレジストパターン上に蒸着されたW(タングステン)キャップ層も除去される。その結果、レジストパターンを形成しなかった部分のW(タングステン)キャップ層(すなわち、Ni(ニッケル)触媒層の上に直接的に蒸着されたW(タングステン)キャップ層)だけが残留する。この場合、リフトオフを用いることによって、マスク層432を形成する領域のみにW(タングステン)キャップ層を残す。こうしてW(タングステン)キャップ層のパターンを形成したサンプルに対して赤外線ランプアニール装置を用いた熱処理を行うと、W(タングステン)キャップ層がある領域において、Ni(ニッケル)触媒層とグラフェン層231との界面に多層グラフェン層439が生じる。その後、Ni(ニッケル)触媒層等を希王水によりエッチング除去すると、開口437に単層のグラフェン層231が存在し、マスク層432に多層グラフェン層439が存在するダブルグラフェンマスクM2を形成することができる。
【0072】
こうして、2つ目の方法を用いてダブルグラフェンマスクM2を形成することができる(
図6(e)参照。)。ダブルグラフェンマスクM2は、グラフェン層231に多層グラフェン層439が積層された部分がマスク層432であり、表面が露出したグラフェン層231がグラフェン層431である。開口437は開口部432Aである。このように基板30の表面にダブルグラフェンマスクM1,M2を形成することによって、
図6(f)に示すように、開口部432Aのリモートエピタキシー、及び開口部432Aに結晶成長したGaN層33Aから横方向にGaN層33Bが結晶成長することができる。
【0073】
[3つ目の方法]
図7(a)に示すように、Ni(ニッケル)箔90の表面に、開口部に相当する領域(すなわち、紙面の手前奥方向に延びる直線状の領域)のみにAu(金)及びCu(銅)のいずれかの薄膜91を蒸着した構造を持つ基板92の表面にCVDの手法を用いてグラフェン層531を成長させる。すると、Ni(ニッケル)箔90の表面には多層のグラフェン層が成長する条件であっても、薄膜91の表面では、炭素原料の溶解度が低くなる。このため、薄膜91の表面には、単層のグラフェン層(もしくは二層や三層のグラフェン層)が成長する。よって、このような構造を持つ基板92を用いれば、
図7(b)に示すように、一回のCVD成長によってダブルグラフェンマスクM3を作製することができる。そして、このように作製したダブルグラフェンマスクM3を基板30の表面に転写する(
図7(c)参照。)。ダブルグラフェンマスクM3は、Ni(ニッケル)箔90の表面に形成された多層のグラフェン層がマスク層432であり、薄膜91の表面に形成された単層のグラフェン層がグラフェン層431である。開口部432Aは、Ni(ニッケル)箔90の表面に形成された多層のグラフェン層同士の間の部分である。これにより、リモートエピタキシー、及びLAIMCEに使用可能なウエファを作製することができる。
【0074】
上記のように構成された実施例5によれば、以下の効果を奏する。
【0075】
実施例5の半導体の製造方法において、マスク層432は、複数のマスク層432の間のグラフェン層431よりも層数が多いグラフェンである。この構成によれば、マスク層432とグラフェン層431とが同じ材質であるため、基板30にマスク層432とグラフェン層431とを形成する手順を簡単なものにし易い。
【0076】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例1から5に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1から5では、基板本体に(0001)面を表面にしたサファイアを用いているが、これに限らず、他の面を表面にしたサファイア基板、SiC(炭化ケイ素)、ZnO(酸化亜鉛)、Si(ケイ素)、及びGaN等を用いても良い。
(2)マスク層としてSiO2(2酸化ケイ素)を積層する代わりにAlO(酸化アルミニウム)やSiN(窒化ケイ素)等リモートエピタキシーを妨げる材料を積層しても良い。
(3)実施例1から5では、グラフェン層は単層のグラフェンである。これに限らず、結晶成長する材質に応じてグラフェン層のグラフェンの層数を適宜変更してもよい。つまり、グラフェン層は少なくとも単層であればよい。
【符号の説明】
【0077】
30,230…基板
31,131,231,331,431…グラフェン層
32,232,432…マスク層
33A…GaN層(半導体結晶)