(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】情報処理システム
(51)【国際特許分類】
G16H 50/20 20180101AFI20240711BHJP
G16H 10/60 20180101ALI20240711BHJP
G06F 40/117 20200101ALI20240711BHJP
G06F 40/279 20200101ALI20240711BHJP
G06F 16/33 20190101ALI20240711BHJP
【FI】
G16H50/20
G16H10/60
G06F40/117
G06F40/279
G06F16/33
(21)【出願番号】P 2020095901
(22)【出願日】2020-06-02
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】517384914
【氏名又は名称】TXP Medical株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100205084
【氏名又は名称】吉浦 洋一
(72)【発明者】
【氏名】原 湖楠
(72)【発明者】
【氏名】吉原 良哉
【審査官】松尾 真人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-087006(JP,A)
【文献】特開2016-151827(JP,A)
【文献】特開2019-133540(JP,A)
【文献】特開2015-018466(JP,A)
【文献】野原 康伸 ,Phenotypingと標識再捕獲法を用いた間質性肺炎発症率のベイズ推定,一般社団法人人工知能学会 研究会 AIMED:医用人工知能研究会 SIG-AIMED-007 [online] ,一般社団法人人工知能学会,2019年03月05日,Internet<URL:https://jsai.ixsq.nii.ac.jp/ej/?action=repository_uri&item_id=9804&file_id=1&file_no=1>
【文献】相澤 彰子,レコード同定問題に関する研究の課題と現状,電子情報通信学会論文誌 (J88-D-I) 第3号,社団法人電子情報通信学会,2005年03月01日,第J88-D-I巻, 第3号,pp.576~589
【文献】中村 祐貴,ソフトウェア再利用に向けた共通ゴール判別手法の提案,コンピュータソフトウェア,一般社団法人日本ソフトウェア科学会,2014年04月24日,第31巻, 第2号,pp.67~83
【文献】香川 璃奈,疾患横断的なe-phenotyping手法開発を目的とした各疾患の特徴の検討,第37回医療情報学連合大会(第18回日本医療情報学会学術大会)論文集 [CD-ROM] 医療情報学 第37巻 Suppl.,日本医療情報学会,2017年11月01日,pp.754~759
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
G06F 16/00-16/958
G06F 40/10-40/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子カルテのデータ,レセプトのデータ,検査データのうちいずれか一以上のデータを用いてフェノタイプに基づく解析処理の実行により分類された少なくとも,分類された疾患のある患者,疾患のない患者,疾患の疑いがある患者のうち,選択を受け付けた前記疾患の疑いがある患者を表示するレビュー処理部,を有しており,
前記レビュー処理部は,
前記疾患の疑いがある患者の選択を受け付けた後,前記患者の電子カルテのデータ,レセプトのデータ,検査データのうちいずれか一以上のデータを所定の記憶部から抽出し,
前記選択を受け付けた患者の情報として,前記フェノタイプに基づく解析処理の際にどの説明変数を重要視したかを示す指標を表示させ,
前記患者が前記疾患であるか否かの入力を受け付ける,
ことを特徴とする情報処理システム。
【請求項2】
前記情報処理システムは,
患者の電子カルテのデータ,レセプトのデータ,検査データのうちいずれか一以上のデータを用いて,フェノタイプに基づく解析処理を実行することで,少なくとも,疾患のある患者,疾患のない患者,疾患の疑いがある患者に分類する解析処理部,を有しており,
前記解析処理部は,
患者の電子カルテのデータ,レセプトのデータ,検査データのうちいずれか一以上のデータを用いて,フェノタイプに基づく解析処理を実行することで,前記患者ごとのスコアを算出し,
閾値を用いた条件を充足するスコアの患者を,前記疾患の疑いがある患者として分類し,
前記レビュー処理部は,
前記疾患の疑いがある患者の電子カルテのデータ,レセプトのデータ,検査データのうちいずれか一以上のデータを表示することで,レビューを行う操作者により,前記疾患の疑いがある患者が前記疾患の患者であるか否かを受け付ける,
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理システム。
【請求項3】
前記情報処理システムは,
前記患者の電子カルテにおける自由記載欄のデータについて構造化処理を実行する構造化処理部,を有しており,
前記解析処理部は,
前記自由記載欄のデータを構造化したデータを用いて,前記解析処理を実行する,
ことを特徴とする
請求項2に記載の情報処理システム。
【請求項4】
前記情報処理システムは,
前記自由記載欄のデータを構造化したデータ,レセプトのデータ,検査データのうち複数を,あらかじめ定められたフォーマットにしたがって構造化する結合処理部,を有しており,
前記解析処理部は,
前記結合処理部で構造化したデータに対して,前記解析処理を実行する,
ことを特徴とする請求項3に記載の情報処理システム。
【請求項5】
コンピュータを,
電子カルテのデータ,レセプトのデータ,検査データのうちいずれか一以上のデータを用いてフェノタイプに基づく解析処理の実行により分類された少なくとも,分類された疾患のある患者,疾患のない患者,疾患の疑いがある患者のうち,選択を受け付けた前記疾患の疑いがある患者を表示するレビュー処理部,として機能させる情報処理プログラムであって,
前記レビュー処理部は,
前記疾患の疑いがある患者の選択を受け付けた後,前記患者の電子カルテのデータ,レセプトのデータ,検査データのうちいずれか一以上のデータを所定の記憶部から抽出し,
前記選択を受け付けた患者の情報として,前記フェノタイプに基づく解析処理の際にどの説明変数を重要視したかを示す指標を表示させ,
前記患者が前記疾患であるか否かの入力を受け付ける,
ことを特徴とする情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,研究を支援するための情報処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医師などの医療従事者が医学研究を行う場合,自らの臨床経験に基づいて研究テーマを設定することが多い。そのため,まずは自らが所属する医療機関などの施設で保有している臨床データから,その研究テーマに適切な患者を抽出し,その患者の電子カルテの自由記載欄におけるデータ,たとえば自由記載欄におけるテキストデータ(文字,数字,記号などのデータ)),検査データ,レセプト(診療報酬明細書)のデータなどを参照しながら,研究を進める。
【0003】
医学研究においては,とくに,ある疾患に罹患した患者とその疾患に罹患していない患者との比較研究,どのような要因によりある疾患に罹患するか,を検討することが多い。そのため,当該医療従事者が所属する施設で保有する臨床データの中から,研究目的となる疾患に罹患している患者を特定することは重要である。
【0004】
電子カルテに記載された臨床データを,医学研究などに用いる際の支援システムの一例を下記特許文献1に示す。
【0005】
そして医学研究では,従来,遺伝子の構成に関するジェノタイプ(Genotype:遺伝型)に着目した研究が多かった。しかし近年では,ジェノタイプのみに着目するのではなく,ジェノタイプと環境要因とによって規定されるフェノタイプ(Phenotype:表現型,病態)に着目した研究が注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電子カルテやレセプトは,医師法に準拠する診療録記載の担保や診療報酬請求が目的のため,医学研究の目的では記載されていない。そのため,フェノタイプに着目した医学研究を行う場合,電子カルテやレセプトのデータを,一つずつレビューして,研究目的となる疾患に罹患している患者であるかを判断しなければならない。
【0008】
患者が研究目的となる疾患に罹患しているかを判断するためには,医学の専門的知識が必要となるので,当該施設に属する医師1名または複数名が電子カルテやレセプトのレビュー作業に携わる。しかし,レビュー作業に携わる医師は,日常の臨床業務に加えてレビュー作業を行うことが多い。そして一人の患者をレビューする場合にも,時系列に沿って,大量のテキストデータをはじめとする各種のデータを詳細に読み込まなければならない。
【0009】
たとえば心筋梗塞に関する研究を行うため,救急車で来院したある患者が心筋梗塞に罹患しているかを電子カルテからレビューする作業を行うとする。
【0010】
心筋梗塞か否かを判断する要素としては,症状(痛みの程度や持続時間),リスクファクターなどの病歴情報(電子カルテの自由記載欄にテキストデータとして記載される),時系列の血液検査・心電図検査・心臓超音波検査・心臓カテーテル検査(発症当初は血液検査,心電図検査で異常が現れないことも多い)などの検査結果などがあるが,通常,電子カルテでは,これらすべての結果を同時に一画面では閲覧することができないので,一つ一つ目的となるページを電子カルテから開いて確認しなければならない。
【0011】
症状を確認するためには,当該患者の電子カルテから自由記載欄の一覧を開き,そこから救急車で来院した日を検索し,症状として記載されている内容を確認する。また,場合によっては,過去の受診歴やお薬手帳に記載された情報で,リスクファクターや常用薬の情報を確認する。
【0012】
血液検査の結果を確認するためには,血液検査結果の一覧を開き,そこから救急車で来院した日および前後の日を検索して心筋梗塞の診断にかかわる項目(トロポニンTやCKMBなど)の検査結果を時系列的に確認する。
【0013】
心電図検査の結果を確認するためには,心電図検査結果の一覧を開き,そこから救急車で来院した日および前後の日を検索して心筋梗塞の診断にかかわる項目(ST上昇や異常Q波など)の検査結果を時系列的に確認する。
【0014】
心臓超音波検査の結果を確認するためには,心臓超音波検査結果の一覧を開き,そこから救急車で来院した日を検索して心筋梗塞の診断にかかわる項目(心臓の動きが悪くないかなど)の検査結果を確認する。
【0015】
心臓カテーテル検査の結果を確認するためには,心臓カテーテル検査結果の一覧を開き,そこから救急車で来院した日を検索して心筋梗塞の診断にかかわる項目(冠動脈の狭窄など)の検査結果確認する。
【0016】
一人の患者について,これらの作業を行われなければならないため,電子カルテのレビュー作業の工数は多い。そのため,レビュー作業に携わる医師の作業負担はきわめて重い。
【0017】
電子カルテ等のレビュー作業を外部に業務委託することも考えられるが,患者の臨床情報はハイレベルな個人情報(いわゆる個人情報保護法における要配慮個人情報)で目的外での閲覧のハードルが高いため,簡単に外部に業務委託をすることもできない。また仮に業務委託できたとしても,その作業を行うのは医師あるいは医師と同程度の医学の専門的知識を有している者であるため,その作業に要する金銭的負担が大きくなる。
【0018】
以上のように,フェノタイプに着目した医学研究を行う場合には,電子カルテのレビュー作業などの負担が極めて大きいが,従来は,医師の人手によらなければならなかった。そこで,このレビュー作業の負担を軽減することが求められているが,従来,そのようなものはなかった。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは,上記課題に鑑み,医学研究における電子カルテのレビュー作業を軽減することを可能とする情報処理システムを発明した。
【0020】
第1の発明は,電子カルテのデータ,レセプトのデータ,検査データのうちいずれか一以上のデータを用いてフェノタイプに基づく解析処理の実行により分類された少なくとも,分類された疾患のある患者,疾患のない患者,疾患の疑いがある患者のうち,選択を受け付けた前記疾患の疑いがある患者を表示するレビュー処理部,を有しており,前記レビュー処理部は,前記疾患の疑いがある患者の選択を受け付けた後,前記患者の電子カルテのデータ,レセプトのデータ,検査データのうちいずれか一以上のデータを所定の記憶部から抽出し,前記選択を受け付けた患者の情報として,前記フェノタイプに基づく解析処理の際にどの説明変数を重要視したかを示す指標を表示させ,前記患者が前記疾患であるか否かの入力を受け付ける,情報処理システムである。
【0021】
本発明の処理を実行することで,レビューを行う医師などの操作者は,疾患の疑いがある患者についてのレビューを容易に行うことができ,その作業時間を減らすことができる。
解析処理においてはさまざまな方法を用いることができるが,たとえば深層学習や機械学習を用いた場合,その解析がブラックボックス化されてしまう。そのため,当該患者がなぜそのように特定されたのかが不明となることも多い。そこで,解析の際にどの説明変数を重要視したかを示す指標を表示させることで,レビューを行う医師などの操作者は,解析処理において重要視された指標も確認した上でレビューを行うことができるので,レビュー作業の迅速化を図ることができる。
【0025】
上述の発明において,前記情報処理システムは,患者の電子カルテのデータ,レセプトのデータ,検査データのうちいずれか一以上のデータを用いて,フェノタイプに基づく解析処理を実行することで,少なくとも,疾患のある患者,疾患のない患者,疾患の疑いがある患者に分類する解析処理部,を有しており,前記解析処理部は,患者の電子カルテのデータ,レセプトのデータ,検査データのうちいずれか一以上のデータを用いて,フェノタイプに基づく解析処理を実行することで,前記患者ごとのスコアを算出し,閾値を用いた条件を充足するスコアの患者を,前記疾患の疑いがある患者として分類し,前記レビュー処理部は,前記疾患の疑いがある患者の電子カルテのデータ,レセプトのデータ,検査データのうちいずれか一以上のデータを表示することで,レビューを行う操作者により,前記疾患の疑いがある患者が前記疾患の患者であるか否かを受け付ける,情報処理システムのように構成することができる。
【0026】
本発明のように構成することで,疾患の疑いがある患者についてのレビューを行えばよくなるので,レビューを行う対象を減らすことができる。
たとえば,出願人が本発明の情報処理システムを用いて,1671件の外来受診患者の中から脳実質出血の疾患である患者のレビュー作業を行ったところ,脳実質出血である(陽性)と本発明の情報処理システムが特定した患者が34件,脳実質出血ではない(陰性)と特定した患者が1600件,脳実質出血の疑いがあると特定した患者が37件であった。すなわち,医師による人力でのレビュー作業を行う患者数を37件(全体の2%)と大幅に減らすことができると推定された。
ある疾患の疑いのある患者を特定するためには,本発明のような処理を用いることが好ましい。
【0027】
上述の発明において,前記情報処理システムは,前記患者の電子カルテにおける自由記載欄のデータについて構造化処理を実行する構造化処理部,を有しており,前記解析処理部は,前記自由記載欄のデータを構造化したデータを用いて,前記解析処理を実行する,情報処理システムのように構成することができる。
【0028】
ある疾患の患者を電子カルテのデータなどからコンピュータで特定する際に障害となっていたのは,電子カルテには,臨床病名(臨床診断名),既往歴情報,ほかの医療機関の処方薬剤などの情報が特定可能なように記載されていないという点である。すなわち電子カルテには,そもそもこれらの情報を入力する欄が設けられていないことが多く,電子カルテの自由記載欄に,各医師が自由にこれらの情報を各自の表現形態で記載しており,また,入力する医師によって情報の過不足もあった。そのため,その患者の実際の臨床状態に関しては,ほかの医師が電子カルテを見てもすぐには判断できないことも多いため,コンピュータなどで当該患者の臨床病名の特定は容易ではなかった。
【0029】
しかし,本発明のように,患者の電子カルテの自由記載欄を構造化する技術を組み合わせることで,自由記載欄に記載された患者の臨床病名を,コンピュータで容易に特定可能とすることができる。そのため,本発明を用いることで,ある疾患の疑いのある患者をコンピュータを用いて,高い精度で特定することができるようになる。
【0030】
上述の発明において,前記情報処理システムは,前記自由記載欄のデータを構造化したデータ,レセプトのデータ,検査データのうち複数を,あらかじめ定められたフォーマットにしたがって構造化する結合処理部,を有しており,前記解析処理部は,前記結合処理部で構造化したデータに対して,前記解析処理を実行する,情報処理システムのように構成することができる。
【0031】
自由記載欄のデータを構造化したデータ,レセプトのデータ,検査データなどを構造化する(結合する)ことでも,本発明の処理を実行することができる。
【0039】
第1の発明は,本発明のプログラムをコンピュータに読み込ませて実行することで,実現することができる。すなわち,コンピュータを,電子カルテのデータ,レセプトのデータ,検査データのうちいずれか一以上のデータを用いてフェノタイプに基づく解析処理の実行により分類された少なくとも,分類された疾患のある患者,疾患のない患者,疾患の疑いがある患者のうち,選択を受け付けた前記疾患の疑いがある患者を表示するレビュー処理部,として機能させる情報処理プログラムであって,前記レビュー処理部は,前記疾患の疑いがある患者の選択を受け付けた後,前記患者の電子カルテのデータ,レセプトのデータ,検査データのうちいずれか一以上のデータを所定の記憶部から抽出し,前記選択を受け付けた患者の情報として,前記フェノタイプに基づく解析処理の際にどの説明変数を重要視したかを示す指標を表示させ,前記患者が前記疾患であるか否かの入力を受け付ける,情報処理プログラムのように構成することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明の情報処理システムを用いることで,医学研究における電子カルテやレセプトなどのレビュー作業を大幅に軽減することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】本発明の情報処理システムの全体の処理機能の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図2】本発明の情報処理システムが機能するコンピュータのハードウェア構成の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図3】本発明の情報処理システムの全体処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】電子カルテの自由記載欄に入力されたテキストデータと,それに対する構造化処理の結果,得られた構造化データの一例を示す図である。
【
図5】病名についての表記揺らぎ辞書の一例を示す図である。
【
図6】薬剤名についての表記揺らぎ辞書の一例を示す図である。
【
図8】結合処理部で各データを結合するためのフォーマットの一例を示す図である。
【
図10】解析処理部での解析処理の出力結果の画面の一例を示す図である。
【
図11】陽性の疑いがある患者を抽出した画面の一例を示す図である。
【
図12】患者の情報を表示する画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の情報処理システム1の全体の処理機能の一例を
図1のブロック図に示す。また本発明の情報処理システム1を実現するコンピュータのハードウェア構成の一例を
図2に示す。
【0044】
本発明の情報処理システム1は,本発明の処理を実行するコンピュータ(スマートフォンやタブレット型コンピュータなどの可搬型通信端末を含む)であり,主に,医療機関や研究機関(大学,研究所など)などで利用されるコンピュータシステムであることが好ましいが,それに限定するものではない。
【0045】
情報処理システム1で用いるコンピュータは,プログラムの演算処理を実行するCPUなどの演算装置70と,情報を記憶するRAMやハードディスクなどの記憶装置71と,ディスプレイ(画面)などの表示装置72と,キーボードやポインティングデバイス(マウスやテンキーなど)などの入力装置73と,演算装置70の処理結果や記憶装置71に記憶する情報をインターネットやLANなどのネットワークを介して送受信する通信装置74とを有している。コンピュータ上で実現する各機能(各手段)は,その処理を実行する手段(プログラムやモジュールなど)が演算装置70に読み込まれることでその処理が実行される。各機能は,記憶装置71に記憶した情報をその処理において使用する場合には,該当する情報を当該記憶装置71から読み出し,読み出した情報を適宜,演算装置70における処理に用いる。また,
図1の情報処理システム1は一台のコンピュータで実現される場合を示したが,複数のコンピュータに,その機能が分散配置されていてもよい。コンピュータには,サーバやパーソナルコンピュータ,ワークステーションなど各種の情報処理装置が含まれる。また,いわゆるクラウド形式であってもよい。
【0046】
コンピュータがタッチパネルディスプレイを備えている場合には,表示装置72と入力装置73とが一体的に構成されていてもよい。タッチパネルディスプレイは,たとえばタブレット型コンピュータやスマートフォンなどの可搬型通信端末などで利用されることが多いが,それに限定するものではない。タッチパネルディスプレイは,そのディスプレイ上で,直接,所定の入力デバイス(タッチパネル用のペンなど)や指などによって入力を行える点で,表示装置72と入力装置73の機能が一体化した装置である。
【0047】
本発明における各手段は,その機能が論理的に区別されているのみであって,物理上あるいは事実上は同一の領域を為していてもよい。また,本発明で説明する処理は一例に過ぎず,その処理プロセスを適宜,変更することが可能である。
【0048】
また,情報処理システム1は,医療機関や研究機関などで利用するほかのコンピュータシステム,たとえば電子カルテシステム,レセプトシステムなどに搭載され,その一部として実現されていてもよい。
【0049】
情報処理システム1は,対象データ記憶部20と構造化処理部21と結合処理部22と解析処理部23とレビュー処理部24とを有する。
【0050】
対象データ記憶部20は,後述する解析処理部23で解析対象とするデータを記憶する。対象データ記憶部20には,たとえば電子カルテデータ記憶部201,レセプトデータ記憶部202,検査データ記憶部203などが含まれていてよいが,それらに限定するものではない。
【0051】
電子カルテデータ記憶部201は,患者の電子カルテのデータを記憶する。好ましくは電子カルテの医師の自由記載欄に関するデータも記憶している。また電子カルテのほか,看護師が記録する看護記録のデータを記憶していてもよい。電子カルテデータ記憶部201には,後述する構造化処理部21において電子カルテの意思の自由記載欄を構造化したデータを,当該患者の電子カルテのデータ,好ましくは自由記載欄のデータに対応づけて記憶していてもよい。
【0052】
レセプトデータ記憶部202は,レセプト(診療報酬)のデータを記憶する。
【0053】
検査データ記憶部203は,患者の各種検査のデータを記憶する。検査データとしては,たとえば血液検査,心電図検査,超音波検査,カテーテル検査などの各種の検査結果が含まれる。またレントゲン検査,CT検査,MRI検査などの画像データが記憶されていてもよい。
【0054】
構造化処理部21は,対象データ記憶部20に記憶するデータのうち,構造化されていないデータを構造化する。
【0055】
たとえば電子カルテデータ記憶部201に記憶する電子カルテに記録されるデータとしては,大別して,「自由記載欄」のデータと「オーダリング」のデータとがある。「自由記載欄」のデータとは,医師が患者を診察した際のデータであって,一般的には患者から聴取した主訴,現病歴,既往歴,内服薬などのほか,臨床病名,所見,経過などのデータが含まれる。主訴とは患者による症状の訴えであり,現病歴とは,主訴がいつからどのように始まり,どのような経過をとってきたのか,などを示すデータであり,主訴に付随するデータである。既往歴とは患者の過去の病歴であり,内服薬は患者が日頃から服用している薬剤を示すデータである。また臨床病名とは,医師が患者の病状に対して最適と想起して自由記載欄に記録した病名または患者の病名を正確に反映した病名である。所見とは,患者を診療した医師による見解を示すデータであり,経過とは患者に対してどのような実施処置や処方をしたかを示すデータである。
【0056】
電子カルテに記録される「オーダリング」のデータとは,保険病名,医師が看護師や薬剤師などに対して行う,患者に対する処置や検査,処方する薬剤などの指示内容のデータであり,いわゆるレセプトのデータと同じ意義を有するデータである。この患者に対する処置や検査が実施処置であり,処方する薬剤のデータが実施処方である。そして保険病名とは,保険診療を行うために,患者に対して便宜的に付した病名である。保険病名は,必ずしも臨床病名とは一致しておらず,かけ離れていることも多い。そのため,保険病名だけからではその患者の実際の病名(臨床病名)は,医師であっても正確に特定できないことが多い。
【0057】
このように電子カルテには臨床的に重要な情報を含む「自由記載欄」のデータと,保険請求の観点から重要な「オーダリング」のデータとがあるが,「自由記載欄」のデータは医師の自由入力によって記録されるため,そのデータは構造化されていない。たとえばテキスト入力によって,自由な文章などが自由な表現形態などによって入力される。
【0058】
構造化処理部21は,対象データ記憶部20に記憶するデータ,たとえば電子カルテの「自由記載欄」に記録されたテキストデータについて,係り受け解析,文脈解析などの自然言語解析処理や,辞書情報(図示せず)などを参照して,自由入力されたテキストデータを構造化し,構造化データとする。構造化データは,当該患者の電子カルテの自由記載欄に対応づけて電子カルテデータ記憶部201に記憶させてもよい。構造化処理部21におけるテキストデータの構造化処理にはさまざまな技術を用いることができ,その限定はない。
【0059】
また構造化処理部21は,辞書情報を参照して,表記揺らぎ処理を実行してもよい。表記揺らぎ処理とは,同一の事象に対して複数の表記がある場合,それを標準的な表記に統一する処理である。
【0060】
自然言語解析処理に用いるコンピュータシステムとしては,たとえばマイクロソフト社が提供するMircosoft AzureのLUIS(Language Understanding)を用いることができるが,それに限定するものではない。
【0061】
テキストデータの構造化とは,自由入力されたテキストデータに基づいて,あらかじめ定められた情報種別ごとにその内容を標準化された形にすることである。たとえばテーブル形式で保持される。テキストデータを構造化する一つの処理としては,次のような処理がある。
【0062】
電子カルテデータ記憶部201の電子カルテの「自由記載欄」に記録されたテキストデータに基づいて,文,文節,段落などの所定のテキストデータの単位に付与されたタグを,辞書情報の参照や,文脈解析などの自然言語解析処理を用いて,標準化タグ付きのテキストデータ(情報種別ごとのテキストデータの分類)に分割をする。それぞれの情報種別で抽出すべき対象データが,医学用語の辞書を記憶した医学用語辞書で定められているので,それぞれの情報種別のテキストデータにおいて,辞書情報の医学用語辞書を参照して,あらかじめ定められた抽出すべき対象データを抽出する。そして,抽出した対象データの前後所定範囲内,たとえば前後15文字以内に「関連性の高い情報」(以下,「関連データ」という)があるか探索し,ある場合にはそれらを後述する症状や病名に対する陽性陰性表現や付加情報(備考欄)として抽出し,対応づけて構造化データとして標準化したテーブルに格納する。
【0063】
たとえば,情報種別として「現病歴」,「既往歴」,「内服薬」,「身体所見」,「来院後経過」などがあり,それらに対応する対象データとして,情報種別「現病歴」には「症状」,情報種別「既往歴」には既往歴としての「病名」,情報種別「内服薬」には「薬剤名」,情報種別「来院後経過」には診断名としての「病名」などがある。そして情報種別の対象データごとに,どのような関連データを抽出するかをあらかじめ対応づけて記憶している。なお,関連データについては任意に設定することができ,たとえば上述のLUISを用いて,自動的に,情報種別の対象データごとに,関連データを抽出してもよい。そして,情報種別ごとにテーブルが生成され,このテーブルには,対象データと関連データとが格納される。たとえば情報種別「現病歴」のテーブルには,「症状」とそれに対する陽性陰性表現が対応づけて格納される。どのような情報種別を設けるか,その情報種別に対して対象データ,関連データをどのように設定するかは,任意に設定することができるが,一般的な医師,看護師の記録ではある程度統一された情報種別セットが存在する。
【0064】
構造化処理部21において以上のような処理を行うことで,自由記載欄などに入力されたテキストデータについて,構造化することができる。なお,自由記載欄を構造化する処理については上述の処理に限定するものではない。
【0065】
構造化処理部21は,電子カルテデータ記憶部201の電子カルテの「自由記載欄」のテキストデータにおいて,辞書情報における医学用語辞書の医学用語の参照,辞書情報のタグパターンの辞書に記憶する情報種別を示すタグの参照,「自由記載欄」に入力されたテキストデータに対する文脈解析などの自然言語解析処理によって情報種別があることを検出すると,その情報種別に対応するテーブル,たとえば情報種別「現病歴」のテーブル,情報種別「既往歴」のテーブル,情報種別「内服薬」のテーブル,情報種別「身体所見」のテーブル,情報種別「来院後経過」のテーブルがすでに生成されているか否かを判定する。そして,検出した情報種別に対応するテーブルが生成されていない場合には,そのテーブルを生成する。また情報種別のテキストデータごとに自然言語解析処理や,辞書情報における医学用語辞書を参照して対象データを抽出し,対象データに基づいて関連データを探索し,抽出する。そして,生成した情報種別のテーブルに対象データと関連データとを振り分けて格納する。
【0066】
一方,検出した情報種別に対応するテーブルがすでにある場合には,情報種別のテキストデータごとに自然言語解析処理や,辞書情報における医学用語辞書を参照して対象データを抽出し,対象データに基づいて関連データを探索して抽出する。そして,検出した情報種別に対応するテーブルに,抽出した対象データと関連データとを振り分けて格納する。情報種別に対応するテーブルの有無は,情報種別とテーブルとの対応関係をあらかじめ設定しておき,その対応関係に基づいて,テーブルが生成されているか否かを判定することができる。
【0067】
検出した対象データや関連データについて,辞書情報を参照し,その対象データや関連データが症状名,病名,薬剤名を示す表現の有無を判定し,これらのいずれかである場合には,辞書情報で一致する文字列を特定し,検出した対象データや関連データを,辞書情報であらかじめ定めた標準的な表記や標準的なコードを追加または変更し,その表記を統一する処理を実行してもよい。
【0068】
たとえば情報種別「現病歴」のテキストデータに対して自然言語解析処理技術を用いて対象データとして「頭が痛い」を検出した場合,辞書情報を参照し,標準的な症状名として「頭痛」に変更するとともに,その陽性陰性表現として「+」であることを判定し,情報種別「現病歴」のテーブルに「頭痛」,「+」を対応づけて格納する。同様に,情報種別「内服薬」のテキストデータに対して自然言語解析処理技術を用いて対象データとして「アスピリン」,「スタチン」を検出した場合,辞書情報を参照し,標準的な薬剤名として「バイアスピリン」,「スタチン」とし,またそれらのコード(薬効分類コード)を追加して,情報種別「内服薬」のテーブルに対応づけて格納する。
【0069】
構造化処理部21は,上述のように「自由記載欄」に記録されたテキストデータから抽出した各情報種別における対象データや関連データを標準的な表記に変更し,またコードを追加して,それぞれの情報種別のテーブルに振り分けて格納する。
【0070】
たとえば電子カルテの自由記載欄に,
図4(a)のようにテキストデータが入力された場合には,構造化処理部21は,情報種別を示すタグとして「S:」で情報種別「現病歴」を,「内服:」で情報種別「内服薬」を,「O:」で情報種別「身体所見」を,「A/P:」で情報種別「来院後経過」を検出する。また,「心筋梗塞でカテーテル治療後。」のテキストデータに対する文脈解析により,情報種別「既往歴」を検出する。そして検出した情報種別から次の情報種別までの間のテキストデータを,最初に検出した情報種別のテキストデータとして切り出す(物理的に切り出すほか,処理対象として特定する場合も含む)。すなわち,「S:」の検出によって情報種別「現病歴」を検出し,「心筋梗塞でカテーテル治療後。」のテキストデータに対する文脈解析により,情報種別「既往歴」を検出する。そして,情報種別「現病歴」と情報種別「既往歴」との間にあるテキストデータを,情報種別「現病歴」に対応するテキストデータとして分割をする。情報種別ごとにテキストデータを切り出した状態を模式的に示すのが
図4(b)である。
【0071】
分割した情報種別「現病歴」に対応するテキストデータから自然言語解析処理や辞書情報における医学用語辞書を参照して,対象データを抽出する。対象データは情報種別ごとに対応づけられているので,たとえば情報種別「現病歴」における対象データ「症状」を抽出する。この際に,具体的なテキストデータとして「症状」が含まれているか否かではなく,「症状」に相当する医学用語があるかを,辞書情報における医学用語辞書を参照して抽出する。そして抽出した対象データ「症状」から所定範囲内にある陽性陰性表現を抽出する。そして,抽出した「症状」に陽性陰性表現を対応づけてテーブルに格納する。
【0072】
このように分割した情報種別ごとに対象データを振り分けて,構造化情報としてテーブルに格納することで,
図4(c)のように情報種別ごとのテーブルができる。
【0073】
構造化処理部21における処理は,上述の処理に限定されるのではなく,さまざまな自然言語解析処理によって実現できる。たとえば,中間層が多数の層からなるニューラルネットワークの各層のニューロン間の重み付け係数が最適化された学習モデルを参照して機械学習を実行する深層学習(ディープラーニング)による自然言語解析処理を用いてもよい。この場合,学習モデルに対して,電子カルテデータ記憶部201の電子カルテの「自由記載欄」に記録されたテキストデータを入力し,その出力値として構造化データを出力してもよい。学習モデルとしては,電子カルテの「自由記載欄」のテキストデータを入力値とし,それに対する構造化データを正解データとして与えたものを用いることができる。
【0074】
また深層学習や機械学習を用いたAI(人工知能)あるいはそれらを用いないAIにより自然言語解析処理を実行してもよい。またSVM(support vector machine)などの機械学習であってもよい。
【0075】
上述の辞書情報は,症状名,病名,薬剤名などの表記の揺らぎを判定するための表記揺らぎ辞書,否定表現や曖昧表現などのパターンテーブルの辞書,電子カルテや看護記録などの情報処理システム1の目的に応じた,頻出する略語や特異的なタグパターンの辞書(たとえば「主訴:」,「A/P」など),医学用語などの医学用語辞書などを記憶する。医学用語辞書には,対象データとする医学用語,対象データとした医学用語に対応する関連データを抽出する条件や表現,表記を記憶していてもよい。
【0076】
とくに,構造化処理部21は,辞書情報における医学用語辞書を参照することで,構造化データとする対象データを抽出する。医学用語辞書は,標準的な医学用語を記憶する辞書であり,さらに,その周囲の関連性の高いテキストデータを抽出するので,構造化して抽出されるデータには,たとえば医療機関のスタッフ同士の情報共有目的での患者属性情報などの,明らかに非医学的情報記載が含まれないこととなる。
【0077】
症状名,病名,薬剤名についての表記揺らぎ辞書としては,たとえば症状名,病名,薬剤名に対する標準表記,コード,表記パターンを記憶する。
図5では,病名についての表記揺らぎ辞書の一例を示しており,標準病名,ICDコード(国際標準コード),病名変換コード(国内汎用カルテコード),表記パターンを対応づけて記憶している場合を示している。また,
図6では,薬剤名についての表記揺らぎ辞書の一例を示しており,標準薬剤名,一般名,薬効分類コード,表記パターンを対応づけて記憶している場合を示している。
【0078】
辞書情報は,上記に限定するものではなく,テキストデータに基づいて構造化処理を実行するために必要な辞書を適宜備えればよい。
【0079】
構造化処理部21で構造化したデータの一例を
図7に示す。構造化されたデータは,テーブル形式で記憶されていることが好ましいが,それに限定するものではない。またデータベースで記憶していてもよいし,それ以外の記憶形式であってもよい。
図7(a)は標準症状名とその有無を示す構造化データであり,
図7(b)は標準化既往歴名とそれに対応する情報(備考)を示す構造化データであり,
図7(c)は標準化情報薬名とそれに対応する薬効分類コードを示す構造化データであり,
図7(d)は標準化診断名とそれに対応する情報(備考)を示す構造化データである。
【0080】
結合処理部22は,対象データ記憶部20に記憶する各データを,解析処理部23で解析するのに適するように,あらかじめ定めたフォーマットにしたがって各データを結合する。たとえば電子カルテデータ記憶部201の電子カルテのデータ,レセプトデータ記憶部202のレセプトのデータ,検索データ記憶部の検査データなどを結合し,後述する解析処理部23での解析用に結合する。電子カルテのデータを結合する際には,電子カルテの「自由記載欄」のデータをそのまま用いるのではなく,構造化処理部21で構造化した構造化データを用いてレセプトデータ,検査データと結合することが好ましい。結合処理部22で各データを結合するためのフォーマットの一例を
図8に示す。
【0081】
結合処理部22は,
図8の結合用のフォーマットにしたがって,1行のデータにつき,「自由記載欄」のテキストデータを構造化したデータを含む電子カルテのデータ,レセプトのデータ,検査データなどをそれぞれ構造化したデータとして結合する。
【0082】
解析処理部23は,電子カルテに含まれるデータ,レセプトのデータ,検査データなどのうち,いずれか一以上を用いて,解析処理,特にフェノタイプに基づく解析処理を実行する。解析対象とする電子カルテに含まれるデータとしては,電子カルテに含まれるあらゆるデータのうち,テキストのうち,テキストデータであると好ましい。また,解析処理部23は,さらに好ましくは,結合処理部22で構造化したデータについて,フェノタイプに基づく解析処理を実行する。フェノタイプに基づく解析処理はさまざまな方法があり,研究対象の疾患に対応したアルゴリズムを用いることができる。フェノタイプに基づく解析処理として公知のアルゴリズムを用いてもよい。
【0083】
解析処理部23はアルゴリズムに基づく処理を実行するのではなく,たとえば,中間層が多数の層からなるニューラルネットワークの各層のニューロン間の重み付け係数が最適化された学習モデルを参照して機械学習を実行する深層学習(ディープラーニング)によるフェノタイプに基づく解析処理を実行してもよい。この場合,学習モデルに対して,結合処理部22で構造化したデータを入力値とし,その入力データに基づく疾患およびそのスコアを出力値として出力する。このスコアは,解析対象の疾患である尤度や信頼度などを示す指標である。また,Shapley additive explanations(SHAP)などの深層学習や機械学習の解釈性を担保する技術に基づいて,解析処理部23がどの説明変数を重要視したかを表示するための指標値を出力してもよい。これによって,ブラックボックス化しやすい深層学習や機械学習における学習モデルの使用性を高めることができる。また,この値を後述するレビュー処理部24においても出力することで,特定の疾患の疑いがあることを判定した判定理由を,レビューを行う医師などの操作者に知らせることができる。なお,学習モデルとしては,解析処理部23で構造化したデータを入力値とし,それに対して医師が判定した疾患を正解データとして与えたものを用いることができる。
【0084】
また深層学習や機械学習を用いたAI(人工知能)あるいはそれらを用いないAIによりフェノタイプの解析処理を実行してもよい。またSVM(support vector machine)などの機械学習であってもよい。
【0085】
解析処理部23における解析処理は,たとえば情報処理システム1において,操作者が所定の研究対象の疾患を指定すると,あらかじめ記憶している当該疾患に対応したフェノタイプに基づく解析処理のアルゴリズムなどを特定し,結合処理部22で構造化したデータについて,解析処理を実行する。そして,解析処理の結果,当該疾患である患者,レビューを行う必要がある患者(当該疾患の可能性がある患者),当該疾患ではない患者に分類する。この分類は,たとえば解析処理部23が,各患者について当該疾患の可能性を示すスコアを出力し,出力したスコアが上限閾値以上であれば当該疾患である患者,出力したスコアが下限閾値未満であれば当該疾患ではない患者,出力したスコアが下限閾値以上上限閾値未満であればレビューを行う必要がある患者と分類する。上限閾値,下限閾値についてはあらかじめ定められていてもよいし,操作者が適宜,調整できてもよい。操作者が閾値を調整する場合,解析対象の疾患である尤度や信頼度が十分に高いと考えられるスコアを上限閾値として設定する。また,解析対象の疾患ではない尤度や信頼度が十分に高いと考えられるスコアを下限閾値として設定する。
【0086】
なお,レビューを行う必要がある患者を分類するため,出力したスコアが下限閾値以上上限閾値未満である場合としたが,閾値を用いたほかの条件を充足したスコアである患者を,レビューを行う必要がある患者として分類してもよい。
【0087】
なお解析処理部23は,結合処理部22で構造化したデータではなく,電子カルテデータ記憶部201に記憶する電子カルテのデータ,あるいは電子カルテの自由記載欄のデータを構造化したデータ,レセプトデータ記憶部202に記憶するレセプトのデータ,検査データ記憶部203に記憶する検査データに対して解析処理を行ってもよい。
【0088】
レビュー処理部24は,解析処理部23においてレビューを行う必要があると判定した患者について,レビューの処理を行う。すなわち,レビューを行う患者の選択操作を受け付けると,当該患者の電子カルテのデータを電子カルテデータ記憶部201から,レセプトのデータをレセプトデータ記憶部202から,検査データを検査データ記憶部203から特定して表示する。そして,医師などの操作者による,当該疾患であるか否かのレビュー結果の入力を受け付ける。この際に,受け付けたレビュー結果を解析処理部23に渡し,解析処理部23の学習データとして再活用するように構成してもよい。
【0089】
なお,本発明の情報処理システム1の各手段は,電子カルテシステムの一機能として組み込んでもよい。電子カルテシステムの一機能として組み込むことで,情報処理システム1の解析処理部23における解析処理の結果を,操作者である医師などにフィードバックすることができる。また,電子カルテのデータ,レセプトのデータ,検査データにシームレスにアクセスすることもできる。
【0090】
つぎに本発明の情報処理システム1の処理プロセスの一例を
図3のフローチャートを用いて説明する。
【0091】
構造化処理部21は,あらかじめ電子カルテデータ記憶部201に記憶する電子カルテの自由記載欄のデータについて,構造化処理を実行しておく(S100)。この処理は,所定のタイミング,あるいは本発明の処理の際に実行してもよい。
【0092】
そしてレビューを行う医師などの操作者は,所定の画面(
図9)から,対象とする疾患,たとえば「心筋梗塞」の入力を行う。
【0093】
図9に示す画面100では,疾患名の入力欄110,対象件数の表示欄111,解析結果の患者ごとの表示欄112,解析結果の総数等の表示欄120,上限閾値の調整欄121,下限閾値の調整欄122とが設けられている。対象件数の表示欄111には,解析対象とした患者の件数を電子カルテのデータなどから特定し表示する。患者ごとの表示欄112は,患者ごとに,解析結果処理部において対象となる疾患の患者か(陽性),対象となる疾患の患者ではないか(陰性),陽性の疑いがあるか(疑い)をリスト化して表示する欄である。解析結果の総数等の表示欄120では陽性と判定した患者の総数,陰性と判定した患者の総数,疑いがあると判定した患者の総数,それぞれの患者における検索対象疾患の症例数,検索対象以外の疾患の症例数などを表形式で表示する。上限閾値の調整欄121は解析処理部23におけるスコアの上限閾値をスライドバー形式で調整可能としている。下限閾値の調整欄122は解析処理部23におけるスコアの下限閾値をスライドバー形式で調整可能としている。スライドバーを右方向にスライドさせることで,上限閾値および下限閾値の数値が大きくなり,左方向にスライドさせることで,上限閾値および下限閾値の数値が小さくなる。上限閾値が大きくなると解析処理部23で判定したスコアとの比較において陽性と判定されにくくなるとともに,偽陽性の数が減少する。上限閾値が小さくなると解析処理部23で判定したスコアとの比較において陽性と判定されやすくなるとともに,偽陽性の数が増加する。また,下限閾値が大きくなると解析処理部23で判定したスコアとの比較において陰性と判定されやすくなるとともに,偽陰性の数が増加する。下限閾値が小さくなると解析処理部23で判定したスコアとの比較において陰性と判定されにくくなるとともに,偽陰性の数が減少する。解析処理部23で疑いがあると判定した患者の総数(多ければ多いほどレビュー作業の負荷が大きくなる)と,偽陽性,偽陰性と判定されてしまう患者の総数(多ければ多いほど疾患を同定する精度が低下する)はトレードオフの関係にある。そのため,操作者はトレードオフの関係を考慮した上で,自らの目的にとって最適と思われる上限閾値,下限閾値を設定すればよい。なお,画面は一例であり,ほかの表示形態であってもよい。
【0094】
疾患名の入力欄110に,対象となる疾患の名称「心筋梗塞」の入力を受け付けると,結合処理部22は,対象データ記憶部20に記憶するデータのうち,たとえば電子カルテデータ記憶部201に記憶する電子カルテのデータ,レセプトデータ記憶部202のレセプトのデータ,検査データ記憶部203に記憶する検査データを結合する。この際に,電子カルテのデータのうち自由記載欄の構造化したデータを用いて結合するとよい。
【0095】
そして解析処理部23は,「自由記載欄」のテキストデータを構造化したデータを含む電子カルテのデータ,レセプトのデータ,検査データなどをそれぞれ構造化したデータに対して,「心筋梗塞」に対応するフェノタイプに基づく解析処理のアルゴリズムなどを特定し,解析処理を実行する(S120)。
【0096】
解析処理部23は,結合処理部22で結合した構造化したデータに対して,フェノタイプに基づくアルゴリズムを用いて解析処理を実行することで,各患者が対象とする疾患「心筋梗塞」であるか否かを示すスコアを出力する。そして,そのスコアと上限閾値,下限閾値とを用いて,当該疾患である患者,レビューを行う必要がある患者,当該疾患ではない患者に分類し,出力する(S130)。この分類の際に,各患者がどの分類に付されたか,フラグを付して記憶しておくとよい。この際の出力結果の画面の一例を
図10に示す。
【0097】
そして画面100での出力結果に対して,操作者である医師が所定の操作を行い,レビューを行う必要がある患者のレビューを行う(S140)。
【0098】
図10に示す画面100では,対象とした患者数が5500件であり,そのうち,解析処理部23が陽性と判定した患者数(上限閾値より大きいスコアであった患者数)が2人,陰性と判定した患者数(下限閾値より小さいスコアであった患者数)が5000人,陽性の疑いがありレビューが必要と判定した患者数(下限閾値と上限閾値の間のスコアであった患者数)が498人であった場合を示している。また,患者ごとの表示欄112は,好ましくはスコアによってソートされて表示されるので,陽性であった患者2人が最上位に表示され,以下,スコア順に表示されている。そのため,3番目から500番目までの患者が「疑い」にマークが付されてスコア順に表示されている。
【0099】
ここで,たとえば患者ごとの表示欄112の「疑い」の選択を受け付けると,レビュー処理部24は,解析処理部23において,陽性の疑いがありレビューが必要と判定した患者の情報を抽出して,
図11に示す画面200のように表示をする。
【0100】
図11に示す画面200では,解析処理部23で出力した患者ごとのスコアが下限閾値と上限閾値との間にある患者を,疑い患者表示欄210に,患者のスコアの順にソートをして表示をしている。なお,画面は一例であり,ほかの表示形態であってもよい。
【0101】
図10の画面100における患者ごとの表示欄112の患者名,
図11の画面200における疑い患者表示欄210の患者名の選択を受け付けると,レビュー処理部24は,電子カルデータ記憶部に記憶する当該患者の電子カルテのデータ,レセプトデータ記憶部202に記憶する当該患者のレセプトのデータ,検査データ記憶部203に記憶する当該患者の検査データを抽出し,
図12に示す画面300のように表示をする。なお,この際に,結合処理部22で結合した構造化したデータから当該患者の各データを抽出してもよい。
【0102】
図12に示す画面300では,患者の基本情報の表示欄301,電子カルテ,検査結果の詳細を確認するためのボタン302,判定理由の表示欄303がある。患者の基本情報の表示欄301では,選択された患者の属性情報などを電子カルテのデータから抽出し,表示をする。また,電子カルテの自由記載欄のデータに基づいて構造化したデータから臨床病名を抽出し,表示する。また,解析処理部23での解析結果を予測内容として表示する。またボタン302の選択を受け付けることで,レビュー処理部24は,電子カルデータ記憶部に記憶する当該患者の電子カルテのデータ,検査データ記憶部203に記憶する当該患者の検査データを抽出し,表示させる。また,判定理由の表示欄303は,解析処理部23で判定したフェノタイプに基づく解析処理のアルゴリズムにより,陽性の疑いがあると判例するに至った説明変数の数値,たとえばSHAPを表示している。
【0103】
このように,解析処理部23における出力結果において,レビューを行う必要がある各患者についてレビューを行うことで,患者ごとに心筋梗塞であるか否かの結果を入力し,レビュー処理部24でその入力を受け付ける(S150)。そして,レビューを行う必要がある患者のフラグについて,当該疾患である患者のフラグまたは当該疾患ではない患者のフラグに変更して記憶してもよい。またレビュー済みであることを示すフラグ,あるいはレビューによって疾患である/疾患ではないと判定したことを示すフラグを付してもよい。
【0104】
このようにフラグを付することによって,入力した疾患「心筋梗塞」の患者を容易に特定し,その患者の電子カルテのデータ,レセプトのデータ,検査データなどを一括して抽出できるようにすることもできる。
【0105】
なお,本明細書では,医学研究の場合で説明したが,本発明の情報処理システム1は医学研究の用途に限られることはなく,対象データ記憶部20に構造化していないデータを構造化処理部21で構造化した上で解析処理を実行して,レビュー対象を絞り込む場合にも用いることができる。たとえば獣医学の研究,農作物の研究などにも適用可能である。また,これらについては,とくにフェノタイプに基づく解析処理を行うことも有効である。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の情報処理システム1を用いることで,医学研究における電子カルテやレセプトなどのレビュー作業を軽減することを可能とする。
【符号の説明】
【0107】
1:情報処理システム
20:対象データ記憶部
21:構造化処理部
22:結合処理部
23:解析処理部
24:レビュー処理部
70:演算装置
71:記憶装置
72:表示装置
73:入力装置
74:通信装置
100:画面
11:疾患名の入力欄
111:対象件数の表示欄
112:解析結果の患者ごとの表示欄
120:解析結果の総数等の表示欄
121:上限閾値の調整欄
122:下限閾値の調整欄
201:電子カルテデータ記憶部
202:レセプトデータ記憶部
203:検査データ記憶部
200:画面
210:疑い表示欄
300:画面
301:患者の基本情報の表示欄
302:ボタン
303:判定理由の表示欄