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特許7519093積層フィルム、積層フィルムの製造方法、フィルム付き物品の製造方法、及び樹脂組成物
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  • 特許-積層フィルム、積層フィルムの製造方法、フィルム付き物品の製造方法、及び樹脂組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】積層フィルム、積層フィルムの製造方法、フィルム付き物品の製造方法、及び樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20240711BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240711BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20240711BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20240711BHJP
   C08G 18/62 20060101ALI20240711BHJP
   C08G 18/40 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
B32B27/00 L
B32B27/00 101
B32B27/30 A
B32B27/40
B32B7/06
C08G18/62 016
C08G18/40
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020207899
(22)【出願日】2020-12-15
(65)【公開番号】P2022094807
(43)【公開日】2022-06-27
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】392007566
【氏名又は名称】ナトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】北村 侑也
(72)【発明者】
【氏名】久田 亮
(72)【発明者】
【氏名】小野 晋
(72)【発明者】
【氏名】泉 晋也
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 泰洋
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/221490(WO,A1)
【文献】特開2019-156962(JP,A)
【文献】国際公開第2018/062074(WO,A1)
【文献】特開2019-130889(JP,A)
【文献】特開2012-107101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08G 18/00-18/87
71/00-71/04
C09D 1/00-10/00
101/00-201/10
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型フィルムと、前記離型フィルムの第1主面に剥離可能に接着された本体フィルムとを備え、
前記本体フィルムは、前記離型フィルムに接着されたポリウレタン樹脂層を備え、前記ポリウレタン樹脂層の表面に対して、機能性成分からなる機能層を形成して用いられる加工用フィルムであり、
前記ポリウレタン樹脂層は、(A)ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂及び(B)ポリオールの少なくとも一方と、(C)多官能イソシアネートと、(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物とを含有する樹脂組成物の熱硬化物であり、
前記(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物は、ポリジアルキルシロキサン構造と、前記ポリジアルキルシロキサン構造に結合するポリエステル鎖、及びポリエーテル鎖からなる群より選択される変性構造とを有する化合物であり、
前記ポリウレタン樹脂層は、周波数1.0Hz、温度-120~250℃の範囲で動的粘弾性測定して得られる損失正接のピークトップ温度が-80℃以上であり、
前記(B)ポリオールは、水酸基価が80~600mgKOH/gである積層フィルム。
【請求項2】
離型フィルムと、前記離型フィルムの第1主面に剥離可能に接着された本体フィルムとを備え、
前記本体フィルムは、前記離型フィルムに接着されたポリウレタン樹脂層と、前記ポリウレタン樹脂層における前記離型フィルムと反対側の表面に対して形成された機能性成分からなる機能層とを備え、
前記ポリウレタン樹脂層は、(A)ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂及び(B)ポリオールの少なくとも一方と、(C)多官能イソシアネートと、(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物とを含有する樹脂組成物の熱硬化物であり、
前記(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物は、ポリジアルキルシロキサン構造と、前記ポリジアルキルシロキサン構造に結合するポリエステル鎖、及びポリエーテル鎖からなる群より選択される変性構造とを有する化合物であり、
前記ポリウレタン樹脂層は、周波数1.0Hz、温度-120~250℃の範囲で動的粘弾性測定して得られる損失正接のピークトップ温度が-80℃以上であり、
前記(B)ポリオールは、水酸基価が80~600mgKOH/gである積層フィルム。
【請求項3】
前記ポリウレタン樹脂層は、前記ピークトップ温度が90℃以下である請求項1又は請求項2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記離型フィルムは、前記第1主面の表面自由エネルギーが20~50mN/mである請求項1~3のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記離型フィルムの前記第1主面は、離型剤による離型処理が施された表面である請求項4に記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記離型剤は、非シリコーン系離型剤である請求項5に記載の積層フィルム。
【請求項7】
請求項2に記載の積層フィルムの製造方法であって、
前記離型フィルムの第1主面に前記ポリウレタン樹脂層を形成するポリウレタン樹脂層形成工程と、
前記ポリウレタン樹脂層の表面に機能性成分からなる機能層を形成する機能層形成工程とを有し、
前記ポリウレタン樹脂層形成工程は、(A)ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂及び(B)ポリオールの少なくとも一方と、(C)多官能イソシアネートと、(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物とを含有する樹脂組成物を熱硬化させることにより前記ポリウレタン樹脂層を形成する工程であり、
前記(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物は、ポリジアルキルシロキサン構造と、前記ポリジアルキルシロキサン構造に結合するポリエステル鎖、及びポリエーテル鎖からなる群より選択される変性構造とを有する化合物であり、
前記ポリウレタン樹脂層は、周波数1.0Hz、温度-120~250℃の範囲で動的粘弾性測定して得られる損失正接のピークトップ温度が-80℃以上であることを特徴とする積層フィルムの製造方法。
【請求項8】
フィルム付き物品の製造方法であって、
請求項1に記載の積層フィルムの前記ポリウレタン樹脂層の表面に機能性成分からなる機能層を積層する積層工程と、
前記機能層が積層された前記積層フィルムを物品に貼り付ける前又は貼り付けた後に前記積層フィルムから前記離型フィルムを剥離する剥離工程とを有することを特徴とするフィルム付き物品の製造方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の積層フィルムの前記ポリウレタン樹脂層の原料として用いられる樹脂組成物であって、
(A)ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂及び(B)ポリオールの少なくとも一方と、(C)多官能イソシアネートと、(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物とを含有し、
前記(A)ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂は、ガラス転移温度が-75~100℃であり、水酸基価が20~150mgKOH/gであり、
前記(B)ポリオールは、ポリラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール及びポリエーテルポリオールからなる群より選択されるポリオールであり、数平均分子量が100~3000であり、1分子中にヒドロキシ基を2以上有するものであり、
前記(C)多官能イソシアネートは、1分子中にイソシアネート基を2以上有するものであり、
前記(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物は、ポリジアルキルシロキサン構造と、前記ポリジアルキルシロキサン構造に結合するポリエステル鎖、及びポリエーテル鎖からなる群より選択される変性構造とを有する化合物であることを特徴とする樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルム、積層フィルムの製造方法、フィルム付き物品の製造方法、及び樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物品の表面保護や装飾のために、物品に塗料を直接塗工することに代わる手段として、保護フィルムや加飾フィルム等のフィルムを物品の表面に貼り合わせる方法が用いられている。上記フィルムが用いられる物品としては、例えば、パーソナルコンピュータ、スマートホン、生活用品として使用されるプラスチック製品、自動車の内装部材及び外装品が挙げられる。上記フィルムの具体例として、自動車やバイクの車体の塗装面に貼り付けて意匠性を付与するカーラッピングフィルムや、車体の塗装面を飛び石や汚れから保護するペイントプロテクションフィルムなどといった積層フィルムが市場に供給されている。
【0003】
上記フィルムは、物品に貼り合わせて使用されるため、物品の立体形状に応じた形状追従性が求められるとともに、物品を保護するための機能が要求される。例えば、特許文献1には、耐擦傷性及び耐汚染性を有するフィルムとして、開環ラクトン基等を有するビニル化合物による水酸基含有共重合体及びポリイソシアネートを含有する組成物の架橋物である熱硬化型のポリウレタン樹脂からなるフィルムが開示されている。特許文献1のフィルムは、フィルム表面に外圧が掛かったときは直ちに弾性変形し、容易には破壊に至らず、外圧が取り払われた後は、その変形が塑性変形として残留せずに復元する擦傷復元性を有している。
【0004】
また、特許文献1のフィルムは、熱可塑性樹脂フィルムからなる離型フィルムの主面に上記組成物を塗工し、加熱により架橋した後に離型フィルムを剥離することにより得られる基材レスのフィルムである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-197377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、物品の保護と同時に高い意匠性が求められ、フィルムの少なくとも一方側にはグラビア印刷やインクジェット印刷等による緻密な加飾層が必要とされている。また、物品と貼り合せるためには接着層が必要となる。特許文献1のフィルムに加飾層や接着層等の機能層を設ける場合、離型フィルムの主面に上記組成物の熱硬化物からなるポリウレタン樹脂層を形成した後、そのポリウレタン樹脂層の表面に機能層を形成する方法が考えられる。
【0007】
離型フィルムと、ポリウレタン樹脂層と、機能層とが順に積層された積層フィルムとした場合、ポリウレタン樹脂層には、離型フィルムに対しては剥離可能な低い接着性を有しつつ、機能層に対しては剥離が生じないように高い接着性を有することが求められる。一方、熱硬化型のポリウレタンからなるポリウレタン樹脂層は、離型フィルムに対する接着性が高い性質を有している。特に、擦傷復元性を有する熱硬化型のポリウレタン樹脂層の多くは、動的粘弾性測定して得られる損失正接のピークトップ温度が低く柔軟であるため、離型フィルムに対する接着性が高い性質がより顕著である。そのため、従来は、熱硬化型のポリウレタン樹脂層の高い接着性に合わせて、離型フィルムとして、接着性の低い材料からなるフィルムや接着性を低下させる離型処理が施されたフィルムなどの接着性の低い離型フィルムを選択することが行われている。しかしながら、この場合には、使用可能な離型フィルムの種類が限定されてしまい、離型フィルムの選択の自由度が著しく低下する。
【0008】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、一方側の表面に設けられる離型フィルムに対しては、剥離可能な接着性を有しつつ、他方側の表面に設けられる機能層に対しては、形成等の際に容易に剥がれない接着性を有する熱硬化型のポリウレタン樹脂層を備える積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する積層フィルムは、離型フィルムと、前記離型フィルムの第1主面に剥離可能に接着された本体フィルムとを備え、前記本体フィルムは、前記離型フィルムに接着されたポリウレタン樹脂層を備え、前記ポリウレタン樹脂層の表面に対して、機能性成分からなる機能層を形成して用いられる加工用フィルムであり、前記ポリウレタン樹脂層は、(A)ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂及び(B)ポリオールの少なくとも一方と、(C)多官能イソシアネートと、(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物とを含有する樹脂組成物の熱硬化物であり、前記(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物は、ポリジアルキルシロキサン構造と、前記ポリジアルキルシロキサン構造に結合するポリエステル鎖、及びポリエーテル鎖からなる群より選択される変性構造とを有する化合物であり、前記ポリウレタン樹脂層は、周波数1.0Hz、温度-120~250℃の範囲で動的粘弾性測定して得られる損失正接のピークトップ温度が-80℃以上である。
【0010】
上記課題を解決する積層フィルムは、離型フィルムと、前記離型フィルムの第1主面に剥離可能に接着された本体フィルムとを備え、前記本体フィルムは、前記離型フィルムに接着されたポリウレタン樹脂層と、前記ポリウレタン樹脂層における前記離型フィルムと反対側の表面に対して形成された機能性成分からなる機能層とを備え、前記ポリウレタン樹脂層は、(A)ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂及び(B)ポリオールの少なくとも一方と、(C)多官能イソシアネートと、(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物とを含有する樹脂組成物の熱硬化物であり、前記(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物は、ポリジアルキルシロキサン構造と、前記ポリジアルキルシロキサン構造に結合するポリエステル鎖、及びポリエーテル鎖からなる群より選択される変性構造とを有する化合物であり、前記ポリウレタン樹脂層は、周波数1.0Hz、温度-120~250℃の範囲で動的粘弾性測定して得られる損失正接のピークトップ温度が-80℃以上である。
【0011】
上記積層フィルムにおいて、前記ポリウレタン樹脂層は、前記ピークトップ温度が90℃以下である。
上記積層フィルムにおいて、前記離型フィルムは、前記第1主面の表面自由エネルギーが20~50mN/mであることが好ましい。
【0012】
上記積層フィルムにおいて、前記離型フィルムの前記第1主面は、離型剤による離型処理が施された表面であることが好ましい。
上記積層フィルムにおいて、前記離型剤は、非シリコーン系離型剤であることが好ましい。
【0013】
上記課題を解決する積層フィルムの製造方法は、前記離型フィルムの第1主面に前記ポリウレタン樹脂層を形成するポリウレタン樹脂層形成工程と、前記ポリウレタン樹脂層の表面に機能性成分からなる機能層を形成する機能層形成工程とを有し、前記ポリウレタン樹脂層形成工程は、(A)ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂及び(B)ポリオールの少なくとも一方と、(C)多官能イソシアネートと、(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物とを含有する樹脂組成物を熱硬化させることにより前記ポリウレタン樹脂層を形成する工程であり、前記(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物は、ポリジアルキルシロキサン構造と、前記ポリジアルキルシロキサン構造に結合するポリエステル鎖、及びポリエーテル鎖からなる群より選択される変性構造とを有する化合物であり、前記ポリウレタン樹脂層は、周波数1.0Hz、温度-120~250℃の範囲で動的粘弾性測定して得られる損失正接のピークトップ温度が-80℃以上である。
【0014】
上記課題を解決するフィルム付き物品の製造方法は、上記積層フィルムの前記ポリウレタン樹脂層の表面に機能性成分からなる機能層を積層する積層工程と、前記機能層が積層された前記積層フィルムを物品に貼り付ける前又は貼り付けた後に前記積層フィルムから前記離型フィルムを剥離する剥離工程とを有する。
【0015】
上記課題を解決する樹脂組成物は、上記積層フィルムの前記ポリウレタン樹脂層の原料として用いられる樹脂組成物であって、(A)ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂及び(B)ポリオールの少なくとも一方と、(C)多官能イソシアネートと、(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物とを含有し、前記(A)ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂は、ガラス転移温度が-75~120℃であり、水酸基価が20~150mgKOH/gであり、前記(B)ポリオールは、ポリラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール及びポリエーテルポリオールからなる群より選択されるポリオールであり、数平均分子量が100~3000であり、1分子中にヒドロキシ基を2以上有するものであり、前記(C)多官能イソシアネートは、1分子中にイソシアネート基を2以上有するものであり、前記(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物は、ポリジアルキルシロキサン構造と、前記ポリジアルキルシロキサン構造に結合するポリエステル鎖、及びポリエーテル鎖からなる群より選択される変性構造とを有する化合物である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、一方側の表面に設けられる離型フィルムに対しては、剥離可能な接着性を有しつつ、他方側の表面に設けられる機能層に対しては、容易に剥がれない接着性を有する熱硬化型のポリウレタン樹脂層を備える積層フィルムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】積層フィルムの説明図。
図2】(a)~(c)は、積層フィルムの製造方法の説明図。
図3】積層フィルムの使用方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」の意である。
【0019】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態の積層フィルムFは、第1主面10aを有する離型フィルム10と、離型フィルム10の第1主面10aに剥離可能に接着された本体フィルム20とを備えている。
【0021】
積層フィルムFは、物品の表面に貼り付けることにより、例えば、物品の表面を保護するプロテクションフィルム、物品の表面を装飾する加飾フィルムとして用いられる。
[離型フィルム]
離型フィルム10は、本体フィルム20を支持するフィルムであり、物品の表面に貼り付ける際に剥離される。
【0022】
離型フィルム10は、特に限定されるものではないが、第1主面10aの表面自由エネルギーが20~50mN/mに調整されたフィルムであることが好ましい。この場合、第1主面10aの表面自由エネルギーの範囲の上限としては、好ましくは45mN/m以下が挙げられる。第1主面10aの表面自由エネルギーの範囲の下限としては、好ましくは25mN/m以上、より好ましくは、30mN/m以上が挙げられる。
【0023】
第1主面10aの表面自由エネルギーが20mN/m以上である場合には、離型フィルム10の第1主面10aに本体フィルム20を塗工により形成した場合に、形成された本体フィルム20にレベリング不良やハジキなどの外観不良が生じ難くなる。第1主面10aの表面自由エネルギーが50mN/m以下である場合には、本体フィルム20から離型フィルム10を剥離する際の本体フィルム20の破断や剥離不良を抑制できる。
【0024】
上記表面自由エネルギーは、Owens and Wendt法(J.Appl.Polym.Sci.,13,1741(1969).)に従って求めることができる。具体的には、離型フィルム10の第1主面10aに対し、表面自由エネルギーが既知の液体を滴下し、PCA-11(協和界面科学社製)を用いて25℃での静的接触角を測定し、Owens and Wendt解析に基づく計算式より、表面自由エネルギーを算出する。
【0025】
上記静的接触角は、25℃で、試験液体を離型フィルム10の第1主面10a上に滴下して、着滴から測定までの待ち時間を5秒として、JIS-R3257に記載してある「静滴法」に準拠したθ/2法で測定する。
【0026】
試験液体は、水及びジヨードメタンを使用する。水及びジヨードメタンの表面自由エネルギー値は、以下のとおりである。
水:γ =21.8mN/m、γ =51.0mN/m、
ジヨードメタン:γ =50.8mN/m、γ =0mN/m
Owens and Wendt解析とは、以下の数式(1)~(3)に基づいて、表面自由エネルギーの分散成分を形成することを意図する。
【0027】
数式(1):1+cosθ=2[(γ ・γ )/γ 1/2+2[(γ ・γ )/γ 1/2
数式(2):γ=γ +γ p
数式(3):γ=γ +γ p
θは、それぞれの試験液体での接触角、γ とγ はそれぞれ離型フィルム10と試験液体との表面自由エネルギーの分散成分、γ とγ はそれぞれ離型フィルム10と試験液体との表面自由エネルギーの極性成分である。
【0028】
これらの数値を上記数式(1)~(3)に導入し、各試験液体を用いた接触角の数値を上記式に導入することにより、表面自由エネルギーのγを算出することができる。
離型フィルム10の材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂、ポリイミド樹脂、天然繊維や合成繊維などの繊維状の原料からなる紙が挙げられる。
【0029】
離型処理に用いる離型剤11としては、シリコーン系離型剤、及び非シリコーン系離型剤を用いることができる。非シリコーン系離型剤としては、例えば、フッ素系離型剤、アクリル系離型剤、ビニル系離型剤、アルキド系離型剤、メラミン系離型剤、長鎖アルキル基を有するアクリル系離型剤が挙げられる。離型剤11は、1種単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。なお、離型フィルム10の材質の選択のみで第1主面10aの表面自由エネルギーを上記範囲に調整できる場合には、離型処理を省略してもよい。
【0030】
[本体フィルム]
本体フィルム20は、離型フィルム10の第1主面10aに接着されているポリウレタン樹脂層21と、ポリウレタン樹脂層21の表面に接着されている機能層22とを備えている。本実施形態においては、機能層22は、ポリウレタン樹脂層21における離型フィルム10と反対側の表面に接着されている。
【0031】
(ポリウレタン樹脂層)
ポリウレタン樹脂層21は、(A)ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂及び(B)ポリオールの少なくとも一方と、(C)多官能イソシアネートと、(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物とを含有する樹脂組成物の熱硬化物である。ポリウレタン樹脂層21は、対象となる物品の表面を保護するための保護層であり、好ましくは、対象となる物品の表面に対して、耐候性や擦傷復元性等の機能を付与することのできる柔軟性に優れた保護層である。擦傷復元性とは、ポリウレタン樹脂層21に小さな傷が生じたとしてもその傷が埋まるように元の形状に自然回復する機能を意味する。なお、ポリウレタン樹脂層21は、擦傷復元性を有さないポリウレタン樹脂層であってもよい。
【0032】
ポリウレタン樹脂層21は、周波数1.0Hz、温度-120~250℃の範囲で動的粘弾性測定して得られる損失正接(tanδ)のピークトップ温度(以下、単に上記ピークトップ温度と記載する。)が後述する特定の温度範囲に設定されている。なお、上記温度範囲内に損失正接のピークが複数存在する場合には、ピークトップの値が最も高いピークのピークトップ温度を上記ピークトップ温度として扱う。
【0033】
上記ピークトップ温度は、-80℃以上であり、好ましくは-60℃以上であり、より好ましくは-45℃以上であり、更に好ましくは-35℃以上である。上記ピークトップ温度の上限は、例えば、120℃である。
【0034】
また、擦傷復元性を有する柔軟なポリウレタン樹脂層21とする場合、上記ピークトップ温度は、100℃以下であり、好ましくは90℃以下であり、より好ましくは70℃以下であり、更に好ましくは65℃以下であり、一層好ましくは55℃以下である。
【0035】
なお、ポリウレタン樹脂層21の上記ピークトップ温度は、例えば、上記樹脂組成物に含まれる各成分の割合を調整すること、各成分の水酸基価を調整することによって制御できる。例えば、(A)ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度を調整して、ガラス転移温度を高くした場合には、ポリウレタン樹脂層21の上記ピークトップ温度が上昇し、ガラス転移温度を低くした場合には、ポリウレタン樹脂層21の上記ピークトップ温度が低下する傾向がある。
【0036】
ポリウレタン樹脂層21の厚みは、例えば、5~500μm、好ましくは5~300μm、より好ましくは10~240μm、更に好ましくは20~160μmが挙げられる。
以下、ポリウレタン樹脂層21を形成するための上記樹脂組成物の詳細について説明する。
【0037】
<A成分:ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂>
上記樹脂組成物に含有されるA成分は、(メタ)アクリロイル基含有モノマーに由来する構成単位を含む高分子であって、ヒドロキシ基を有する高分子を意味する。(メタ)アクリロイル基含有モノマーは、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルであり、具体的には、下記式(1)で表される構造のモノマーである。
【0038】
【化1】
式(1)において、Rは水素原子又はメチル基を表し、R'は、水素原子又は置換されていてもよい有機基を表す。
【0039】
A成分におけるヒドロキシル基が結合している位置としては、側鎖、主鎖、末端等、いずれであってもよい。合成が容易であること、水酸基価の調整が容易であること、A成分中に均一にヒドロキシル基を存在させやすいこと等の理由により、ヒドロキシル基の結合位置が少なくともA成分の側鎖であること、つまり、A成分が上記式(1)のR'の有機基にヒドロキシル基が置換したモノマー由来の構成単位を有していることが好ましい。
【0040】
A成分は、その構成単位として、ポリラクトン、ポリカーボネート、ポリエステル及びポリエーテルからなる群より選択される構造(以下において、「(a1)構造」とも記載する。)を有する(メタ)アクリロイル基含有モノマー由来の構成単位を含むことが好ましい。
【0041】
・(a1)構造を有する構成単位
A成分に含まれる(a1)ポリラクトン、ポリカーボネート、ポリエステル及びポリエーテルからなる群より選択される構造は、A成分に柔軟性を付与する柔軟構造である。A成分が(a1)構造を含むことによって、ポリウレタン樹脂層21の優れた擦傷復元性を得ることができる。A成分には、(a1)構造として、ポリラクトン、ポリカーボネート、ポリエステル及びポリエーテルのうちの1種を含有してもよいし、2種以上を含有してもよい。これらの(a1)構造の中でも、好ましくは、ポリラクトン、ポリカーボネート、及びポリエステルが挙げられ、より好ましくはポリラクトン、ポリカーボネートが挙げられ、更に好ましくはポリラクトンが挙げられる。
【0042】
ポリラクトンの構造としては下記式(2)で表される構造が挙げられ、ポリカーボネートの構造としては下記式(3)で表される構造が挙げられ、ポリエステルの構造としては下記式(4)で表される構造が挙げられ、ポリエーテルの構造としては下記式(5)で表される構造が挙げられる。
【0043】
【化2】
式(2)~式(3)において、Xは、直鎖又は分岐アルキレン基、好ましくは直鎖アルキレン基であり、その炭素数は、好ましくは3~7、より好ましくは4~6で、更に好ましくは5である。また、nは1以上の整数であり、好ましくは1~10、より好ましくは2~8、更に好ましくは2~5である。
【0044】
式(4)において、X及びXは、同一又は異なっていてよい直鎖又は分岐アルキレン基、芳香族を含む有機基から選ばれ、好ましくは直鎖アルキレン基であり、直鎖又は分岐アルキレン基の炭素数は、好ましくは3~7、より好ましくは4~6で、更に好ましくは5である。また、nは1以上の整数であり、好ましくは1~10、より好ましくは2~8、更に好ましくは2~5である。
【0045】
式(5)において、X及びXは、同一又は異なっていてよい直鎖又は分岐アルキレン基(好ましくは直鎖アルキレン基)であり、その炭素数は、好ましくは2~7、より好ましくは2~5、更に好ましくは2~4、特に好ましくは2である。また、lとmとの和は、好ましくは1~20、より好ましくは2~10、更に好ましくは2~8、一層好ましくは2~5である。
【0046】
式(2)~式(5)に示す構造のうち、式(2)に示すポリラクトン、式(3)に示すポリカーボネート、及び式(5)に示すポリエーテルは、当該構造が末端水酸基を構成でき、本発明の効果をより一層好ましく得る点で好ましい。これらの場合、A成分の合成に使用される(メタ)アクリロイル基含有モノマーは、式(1)におけるR’が、下記式(2a)、式(3a)、及び(5a)に示す、末端水酸基を含有するポリラクトン、ポリカーボネート、及びポリエーテルでそれぞれ構成される。
【0047】
【化3】
式(2a)において、Xは、式(2)で述べた通りである。また、Xは、直鎖又は分岐アルキレン基(好ましくは直鎖アルキレン基)であり、その炭素数は、好ましくは2~7、より好ましくは2~5、更に好ましくは2~4、特に好ましくは2である。更に、nは、式(2)で述べた通りである。式(3a)において、Xは、式(3)で述べた通りである。また、Xは、直鎖又は分岐アルキレン基(好ましくは直鎖アルキレン基)であり、その炭素数は、好ましくは2~7、より好ましくは2~5、更に好ましくは2~4である。更に、nは、式(3)で述べた通りである。式(5a)において、XとX及びlとmは、式(5)で述べた通りである。
【0048】
式(2a)に示す柔軟構造を含有する(メタ)アクリロイル基含有モノマーの市販品としては、例えば、株式会社ダイセル製のプラクセルFシリーズ(ポリカプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート)等、好ましくは、プラクセルFA2D(ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレート;カプロラクトン2モル付加物)、プラクセルFA5(ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレート;カプロラクトン5モル付加物)、プラクセルFM2D(ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチルメタクリレート;カプロラクトン2モル付加物)、プラクセルFM5(ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチルメタクリレート;カプロラクトン5モル付加物)等が挙げられる。式(3a)に示す柔軟構造及び水酸基を含有する(メタ)アクリロイル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸(3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-プロポキシカルボニルオキシ)-アルキルエステルとメタクリル酸2-ヒドロキシエチルエステルとの混合物の市販品として、株式会社ダイセル製のプラクセルHEMAC1等が挙げられる。式(5a)に示す柔軟構造及び水酸基を含有する(メタ)アクリロイル基含有モノマーの市販品としては、例えば、日油株式会社製の、ブレンマーPE-90、200、350、350G、1000、500、800(ポリエチレングリコールモノメタクリレート)、ブレンマー50E-300(ポリエチレングリコール-プロピレングリコール-モノメタクリレート)、ブレンマー55PET-800(ポリエチレングリコール-テトラメチレングリコール-モノメタクリレート)、ブレンマー10PPB-500B(プロピレングリコール-ポリブチレングリコール-モノメタクリレート)、ブレンマーAE-90U、200、400(ポリエチレングリコールモノアクリレート)、ブレンマーAP-400、550、800(ポリプロピレングリコールモノアクリレート)等が挙げられる。
【0049】
A成分の合成において、これらの(a1)構造を有するモノマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(a1)構造の鎖長は特に限定されるものではなく、例えば、鎖長が長い構造(上記式(2)~(5)におけるnが、例えば4以上、好ましくは5以上)であってもよいし、鎖長が短い構造(上記式(2)~(5)におけるnが、例えば3以下、好ましくは2以下)であってもよい。また、A成分は、(a1)構造として、異なる鎖長を有する構造が組み合わされて含んでいてもよい。なお、(a1)構造は、その柔軟性によってポリウレタン樹脂層21に優れた擦傷復元性を付与するため、鎖長がより長い(上記式(2)~(5)におけるnが、例えば4以上、好ましくは5以上)ほどより優れた擦傷復元性を発揮する傾向にある。
【0050】
A成分100質量部当たりの(a1)構造を有する構成単位量(総量)としては特に限定されないが、例えば10~60質量部が挙げられる。更に、より一層好ましい擦傷復元性を得る観点から、上記構成単位量の範囲の下限としては、好ましくは15質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは25質量部以上、一層好ましくは30質量部以上が挙げられる。また、上記構成単位量の範囲の上限としては、好ましくは50質量部以下、より好ましくは45質量部以下、一層好ましくは40質量部以下が挙げられる。
【0051】
・他の構成単位
A成分は、上記(a1)構造を有する構成単位以外の、水酸基を有する(メタ)アクリロイル基含有モノマー由来の構成単位、水酸基を有しない(メタ)アクリロイル基含有モノマー由来の構成単位、及び(メタ)アクリロイル基含有モノマー以外のモノマー由来の構成単位の少なくともいずれかを含んでもよい。
【0052】
水酸基を有する(メタ)アクリロイル基含有モノマー由来の構成単位としては、例えば、上記式(1)におけるR'が炭素数1~6のヒドロキシアルキル基であるモノマー由来の構成単位が挙げられる。炭素数1~6のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、及びヒドロキシブチル基等が挙げられ、より好ましくは、ヒドロキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基、3-ヒドロキシ-n-プロピル基、及び4-ヒドロキシ-n-ブチル基等のヒドロキシ鎖状アルキル基が挙げられ、更に好ましくは、2-ヒドロキシエチル基及び4-ヒドロキシ-n-ブチル基が挙げられる。
【0053】
A成分は、これらのモノマー由来構成単位の、1種又は複数種を含むことができる。
A成分が、上記(a1)構造を有する構成単位以外の、水酸基を有する(メタ)アクリロイル基含有モノマー由来の構成単位を含む場合、A成分100質量部当たりの当該構成単位量としては、A成分が満たすべき水酸基価に応じて適宜設定することができるが、例えば、3~35質量部、好ましくは5~25質量部、より好ましくは5~15質量部が挙げられる。
【0054】
水酸基を含有しない(メタ)アクリロイル基含有モノマーとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。A成分が水酸基を含有しない(メタ)アクリロイル基含有モノマー由来の構成単位を有する場合、A成分は、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルのいずれか一方又は両方に由来の構成単位を含むことができ、好ましくは、両方に由来の構成単位を含む。
【0055】
A成分は、アクリル酸由来の構成単位及びメタアクリル酸由来の構成単位のいずれか一方又は両方に由来の構成単位を含むことができる。
A成分が(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む場合、A成分100質量部当たりの(メタ)アクリル酸由来の構成単位量としては、例えば0.3~3.0質量部、好ましくは0.3~1.5質量部、より好ましくは0.6~1.2質量部が挙げられる。
【0056】
(メタ)アクリル酸エステルは、式(1)におけるR'が一価のアルキル基、単環又は多環のシクロアルキル基、アリール基、又はアラルキル基であるモノマーである。一価のアルキル基としては、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは3~8、さらに好ましくは4~8の直鎖または分枝アルキル基が挙げられ、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、tert-アミル基、ヘキシル基、2-ヘキシル基、3-ヘキシル基、ヘプチル基、2-ヘプチル基、3-ヘプチル基、イソヘプチル基、tert-ヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、tert-オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基が挙げられる。
【0057】
単環及び多環(例えば、二環、三環、四環、五環、六環等の架橋又は縮合環)のシクロアルキル基の炭素数としては、例えば3~20、好ましくは4~15、より好ましくは5~12、さらに好ましくは6~9が挙げられる。単環式構造の具体例としては、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、シクロウンデカン、シクロドデカン等のシクロアルカンが挙げられる。多環式構造の具体例としては、ノルボルナン、イソボルナン、ビシクロウンデカン、デカヒドロナフタレン(デカリン)等の二環式アルカン;ジシクロペンタニル、キュバン、バスケタン、ハウサン、アダマンタン等の二環以上の多環式炭化水素が挙げられる。
【0058】
単環または多環のシクロアルキル基を有する(メタ)アクリロイル基含有モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸と単環又は多環のシクロアルキル基を有するアルコールとのエステル、つまり、上記式(1)におけるR’が上記脂環式構造の一価基であるものが挙げられる。より具体的には、(メタ)アクリル酸シクロプロピル、(メタ)アクリル酸シクロブチル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘプチル、(メタ)アクリル酸シクロオクチル、(メタ)アクリル酸シクロノニル、(メタ)アクリル酸シクロデシル、(メタ)アクリル酸シクロウンデシル、(メタ)アクリル酸シクロドデシル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸ノルボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ビシクロウンデシル、(メタ)アクリル酸デカヒドロナフチル、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アダマンチル等が挙げられる。
【0059】
単環または多環のシクロアルキル基を有する(メタ)アクリロイル基含有モノマーの市販品としては、日油株式会社製のブレンマーCHMA、昭和電工マテリアルズ社製のFA-513AS、FA-513M、共栄社化学社製ライトエステルIB-X、ライトアクリレートIB-XA、大阪有機化学工業社製MADA、MADMA等が挙げられる。
【0060】
A成分は、これらのモノマー由来構成単位の、1種又は複数種、好ましくは複数種を含むことができる。
A成分が(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含む場合、A成分100質量部当たりの(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位の総量としては、例えば2~95質量部、好ましくは2~85質量部、より好ましくは2~75質量部、一層好ましくは2~60質量部が挙げられる。
【0061】
また、A成分が(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含む場合、A成分100質量部当たりの(メタ)アクリル酸モノマー及び(メタ)アクリル酸エステルモノマーの総使用量としては、例えば2~98質量部、好ましくは2~88質量部、より好ましくは2~78質量部が挙げられる。
【0062】
(メタ)アクリロイル基含有モノマー以外のモノマーとしては、具体的にはエチレン性不飽和モノマーであり、より具体的には、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニル系モノマー;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸モノマー等;スチレン等の芳香族モノマー等が挙げられ、これらの中でも、硬化膜の変色を回避する観点から、好ましくは上記ビニル系モノマー、上記不飽和カルボン酸モノマーが挙げられる。
【0063】
A成分は、これらのモノマー由来構成単位の、1種又は複数種を含むことができる。
A成分に由来する効果を十分に得る観点では、A成分は、(メタ)アクリロイル基含有モノマー以外のモノマー由来の構成単位を含まないことが好ましいが、含む場合は、A成分100質量部当たりの(メタ)アクリロイル基含有モノマー以外のモノマー由来の構成単位量としては、例えば20質量部未満、好ましくは10質量部未満、より好ましくは1質量部未満が挙げられる。
【0064】
A成分の合成は、(a1)構造を有する構成単位を与えるモノマーの代わりに(a1)構造を有しない(メタ)アクリル系モノマーを用い、公知の重合方法によって、(a1)構造を有しない(メタ)アクリル系樹脂を一旦合成した後、(a1)構造を有しない(メタ)アクリル系樹脂を、(a1)構造を有する化合物で変性することで得ることもできる。
【0065】
重合方法としては、通常、ラジカル重合が挙げられる。また、重合方式としては、溶液重合、懸濁重合、及び乳化重合等の公知の重合方式のいずれであってもよい。これらの重合方式の中でも、重合の精密な制御等の観点から、溶液重合を用いることが好ましい。
【0066】
ラジカル重合の重合開始剤としては、公知のものを用いることができる。例えば2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)(ACHN)、ジメチル-2,2'-アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4'-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)(ACVA)、1,1'-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、2,2'-アゾビス(2-メチルブチルアミド)、2,2'-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2-メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2'-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2'-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2-シアノ-2-プロピルアゾホルムアミド、2,2'-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2'-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)等のアゾ系開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシオクタノエート、ジイソブチルパーオキサイド、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシピバレート、デカノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、およびt-ブチルパーオキシベンゾエート等の過酸化物系開始剤、過酸化水素と鉄(II)塩、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウム等の、酸化剤と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が挙げられる。これらの重合開始剤は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0067】
これらの重合開始剤の中でも、好ましくはアゾ系開始剤が挙げられ、より好ましくは2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)(ACHN)が挙げられる。
【0068】
重合開始剤の使用量としては、特に限定されないが、例えば、重合するモノマーの総量100質量部当たり、0.001~10質量部、好ましくは0.01~8質量部、より好ましくは0.1~6質量部、更に好ましくは0.5~5質量部が挙げられる。
【0069】
また、重合反応に際しては、適宜、公知の連鎖移動剤、重合禁止剤、分子量調整剤などを用いてもよい。さらに、重合反応は、1段階で行ってもよいし、2段階以上で行ってもよい。重合反応の温度としては特に限定されないが、例えば50℃~250℃、好ましくは60℃~150℃、より好ましくは70~130℃が挙げられる。
【0070】
・A成分の分子量
A成分の分子量は、A成分の水酸基価、及び擦傷復元性等に応じて適宜設定することができる。具体的には、A成分の数平均分子量(Mn)としては、例えば1000~15000、好ましくは3000~10000、より好ましくは4000~6000が挙げられる。また、A成分の重量平均分子量(Mw)としては、例えば10000~60000、好ましくは15000~40000、より好ましくは20000~35000が挙げられる。また、A成分の多分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)としては、例えば1~8、好ましくは1.5~7.5、より好ましくは2~7、さらに好ましくは3.5~6.5が挙げられる。
【0071】
A成分の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、重合反応時間、反応温度、重合開始剤の使用量などの条件により調節することができる。なお、数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン換算で測定される値である。
【0072】
・A成分のガラス転移温度
A成分のガラス転移温度としては特に限定されないが、例えば、-75~120℃である。擦傷復元性を有する柔軟なポリウレタン樹脂層21とする場合、A成分のガラス転移温度は、例えば、-75~100℃であり、好ましくは-60~70℃、より好ましくは-50~55℃が挙げられる。
【0073】
A成分のガラス転移温度は、Foxの式として知られている以下の数式に基づいて求めることができる。
1/Tg=(W/Tg)+(W/Tg)+(W/Tg)+…+(W/Tg
上記式中、Tgは、A成分のガラス転移温度(K)を表し、W、W、W…Wは、A成分に用いられるモノマーそれぞれの質量分率を表し、Tg、Tg、Tg…Tgは、それぞれのモノマーの質量分率に対応するモノマーから得られる単独重合体のガラス転移温度(K)を表す。なお、上記数式によれば、上記ガラス転移温度が判明しているモノマー情報のみを用いてガラス転移温度を求めることができる。
【0074】
<B成分:ポリオール>
上記樹脂組成物に含有されるB成分としてのポリオールは、A成分に該当する化合物を除いて、1分子中にヒドロキシ基を2以上有する化合物である。ポリオールとしては、例えば、ヒドロキシ基を、好ましくは2~6個、より好ましくは2~4個含む化合物が挙げられる。
【0075】
B成分の好ましい例としては、ポリラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールが挙げられる。これらの成分は、より適度に柔軟でより好ましい弾力性を有している。B成分としては、ポリラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールの中から1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
ポリラクトンポリオールは、一分子中に、ラクトンの開環構造および2以上のヒドロキシ基を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、以下の式(6a)~式(6c)のいずれかに示されるポリオールが挙げられる。
【0077】
【化4】
式(6a)において、Rは、2価の有機基を表す。2価の有機基としては、-CH-、-C-等の直鎖アルキレン基、-CH-C(CH-CH-等の分岐アルキレン基、-C-O-C-等のエーテル含有基、等が挙げられる。また、Xは、それぞれ同じ又は異なっていてよい直鎖又は分岐のアルキレン基、好ましくは直鎖アルキレン基を表す。当該アルキレン基の炭素数は、好ましくは3~7、より好ましくは4~6、更に好ましくは5である。更に、m及びnは、それぞれ、1以上の整数、好ましくは2~20の整数を表し、mとnとの和が好ましくは4~35である。
【0078】
式(6b)において、Rは、3価の有機基を表す。3価の有機基としては、直鎖又は分岐アルカンから水素原子を3つ取り除いた構造等が挙げられる。また、Xは、それぞれ同じ又は異なっていてよい直鎖又は分岐のアルキレン基、好ましくは直鎖アルキレン基を表す。当該アルキレン基の炭素数は、好ましくは3~7、より好ましくは4~6、更に好ましくは5である。更に、l、m及びnは、それぞれ、1以上の整数、好ましくは2~20の整数を表し、l、m及びnの和が好ましくは3~40である。
【0079】
式(6c)において、Rは、4価の有機基を表す。4価の有機基としては、直鎖又は分岐アルカンから水素原子を4つ取り除いた構造等が挙げられる。また、Xは、それぞれ同じ又は異なっていてよい直鎖又は分岐のアルキレン基、好ましくは直鎖アルキレン基である。当該アルキレン基の炭素数は、好ましくは3~7、より好ましくは4~6、更に好ましくは5である。更に、k、l、m及びnは、それぞれ、1以上の整数、好ましくは2~20の整数を表し、k、l、m及びnの和が好ましくは4~50である。
【0080】
これらのポリラクトンポリオールは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
式(6a)~(6c)に示すポリラクトンポリオールの市販品としては、例えば、株式会社ダイセル製の、プラクセル200シリーズ(ポリカプロラクトンジオール)、プラクセル300シリーズ(ポリカプロラクトントリオール)、プラクセル400シリーズ(ポリカプロラクトンテトラオール)等が挙げられる。
【0081】
ポリカーボネートポリオールは、一分子中に、-O-(C=O)-O-で表されるカーボネート基と2以上(好ましくは2)のヒドロキシ基とを有する化合物であれば、特に限定されない。ポリカーボネートポリオールは、1種以上のポリオール原料(多価アルコール)と、炭酸エステルやホスゲン(好ましくは炭酸エステル)とを反応させることにより得ることができる。ポリオール原料としては、脂肪族ポリオール、脂環族ポリオール、芳香族ポリオール等が挙げられ、好ましくは脂肪族ポリオールが挙げられ、より好ましくは、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1、6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール等の、炭素数2~10の直鎖又は分岐ジオールが挙げられる。炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の脂肪族炭酸エステル、ジフェニルカーボネート等の芳香族炭酸エステル、エチレンカーボネート等の環状炭酸エステルが挙げられ、好ましくは脂肪族炭酸エステルが挙げられ、より好ましくはジメチルカーボネートが挙げられる。
【0082】
ポリカーボネートポリオールの市販品としては、旭化成株式会社製のデュラノールシリーズ(ポリカーボネートジオール)、宇部興産株式会社製のETERNACOLL UMシリーズ(1,4-シクロヘキサンジメタノール及び1,6-ヘキサンジオールを原料とするポリカーボネート)、クラレ株式会社製のクラレポリオールCシリーズ(3-メチル-1,5-ペンタンジオール及び1、6-ヘキサンジオールをポリオール原料とするポリカーボネート)等が挙げられる。
【0083】
ポリエステルポリオールは、一分子中に、エステル基(-COO-又は-OCO-)と2以上(好ましくは2)のヒドロキシ基とを有する化合物であれば特に限定されない。ポリエステルポリオールは、1種以上のポリオール原料(多価アルコール)と、ポリカルボン酸又はそのエステル、無水物、ハライド等のエステル形成性化合物との反応により得ることができる。ポリオール原料としては、上記のポリカーボネートポリオールの原料と同様のポリオール原料が挙げられる。ポリカルボン酸又はそのエステル、無水物、ハライド等のエステル形成性化合物としては、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、トリカルボン酸等の多価カルボン酸、これら多価カルボン酸の酸無水物、ハライド、低級エステル化合物等が挙げられ、より好ましくは、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0084】
これらのポリエステルポリオールは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリエステルポリオールの市販品としては、クラレ株式会社製のクラレポリオールPシリーズ(3-メチル-1,5-ペンタンジオールと、アジピン酸、テレフタル酸、イソフタル酸及びセバシン酸からなる群より選択される1種以上のジカルボン酸を原料とするポリエステルポリオール)、クラレポリオールFシリーズ(3-メチル-1,5-ペンタンジオール及び1,9-ノナンジオールとアジピン酸とを原料とする3官能ポリエステルポリオール)等が挙げられる。
【0085】
ポリエーテルポリオールは、一分子中に、エーテル結合(-O-)と2以上(好ましくは2)のヒドロキシ基とを有する化合物であれば特に限定されない。例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位とを有するランダム共重合体又はブロック共重合体、エチレンオキシド単位とブチレンオキシド単位とを有するランダム共重合体又はブロック共重合体等が挙げられる。
【0086】
これらのポリエーテルポリオールは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリエーテルポリオールの市販品としては、三菱ケミカル製のPTMGシリーズ(ポリテトラメチレンエーテルグリコール)が挙げられる。
【0087】
・B成分の分子量
ポリオールの数平均分子量としては、上述のB成分の水酸基価に基づいて適宜設定することができる。具体的には、ポリオールの数平均分子量としては、例えば100~3000、好ましくは300~2000、より好ましくは500~1500が挙げられる。なお、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン換算で測定される値である。
【0088】
<A成分及びB成分の水酸基価及び含有量>
・A成分及びB成分の水酸基価
A成分の水酸基価は、例えば、20~150mgKOH/gである。当該水酸基価が20mgKOH/g以上であることにより、ポリウレタン樹脂層21における架橋密度が不足することが抑制されて十分な塗膜強度が得られやすくなる。また、当該水酸基が150mgKOH/g以下であることにより、ポリウレタン樹脂層21における架橋密度が過剰となることが抑制されて柔軟性が得られやすくなる。
【0089】
B成分の水酸基価は、例えば、50~600mgKOH/gである。また、B成分の水酸基価は、80~450mgKOH/gであることが好ましく、120~320mgKOH/gであることがより好ましい。
【0090】
A成分及びB成分の両方を含有する場合、A成分及びB成分の総水酸基価(つまり、A成分とB成分との均一な混合物の水酸基価)は、例えば、50~350mgKOH/gである。
【0091】
本明細書において「水酸基価」とは、JIS K 0070「化学製品の酸価,けん化価,エステル価,よう素価,水酸基価及び不けん化物の試験方法」の、「7.1 中和滴定法」に規定された方法に準じて求められる値である。なお、水酸基価の算出に際しては、酸価の値も必要であるが、酸価の値についても、同JIS規格の「3.1 中和滴定法」に規定された方法に準じて求められる。
【0092】
・A成分及びB成分の含有量
A成分及びB成分の両方を含有する場合のA成分及びB成分の含有量は、上記の数平均分子量及び水酸基価に基づいて適宜決定すればよい。例えば、A成分100質量部当たりのB成分の含有量は、10~350質量部であり、好ましくは20~300質量部であり、より好ましくは50~200質量部である。
【0093】
<C成分:多官能イソシアネート>
C成分は、A成分の水酸基及びB成分の水酸基のいずれか一方又は両方と反応することでウレタン結合を形成し、ポリウレタン樹脂層21を硬化させる。
【0094】
C成分としては、多官能イソシアネート化合物、及びイソシアネート基を有するモノマーが共重合した(メタ)アクリル系樹脂が挙げられ、これらのいずれか又は両方を組み合わせて用いることができる。
【0095】
多官能イソシアネート化合物は、1分子中に2以上、好ましくは2~6個、より好ましくは2~4個のイソシアネート基(脱離性基で保護されたイソシアネート基を含む。以下において同様。)を含有する化合物である。
【0096】
多官能イソシアネート化合物の具体例としては、リジンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びトリメチルヘキサンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン-2,4-(又は2,6)-ジイソシアネート、4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)及び1,3-(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の環状脂肪族ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;リジントリイソシアネート等の3官能以上のイソシアネートが挙げられる。これらの多官能イソシアネート化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
C成分は、上記のイソシアネート化合物の多量体(ポリイソシアネート)であることがより好ましい。ポリイソシアネートとしては、イソシアヌレート変性体[例えば、IPDI(イソホロンジイソシアネート)イソシアヌレート、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)イソシアヌレート等];アダクト変性体[例えば、TDI(トリレンジイソシアネート)のトリメチロールプロパン付加物、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)のトリメチロールプロパン付加物、キシリレンジイソシアネート(XDI)のトリメチロールプロパン付加物等、IPDI(イソホロンジイソシアネート)のトリメチロールプロパン付加物等];ビウレット変性体[例えば、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)ビウレット等];アロファネート変性体[例えば、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)のアロファネート等];イソシアネート残基を有するプレポリマー体[例えば、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)とポリオールから得られる低重合体等]等が挙げられる。これらのポリイソシアネートは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
上記のポリイソシアネート化合物の市販品としては、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレートとして、旭化成株式会社製のデュラネートTPA-100、同TKA-100、バイエル社製のデスモデュールN3300、BASF社製のバソナートHI-100、東ソー株式会社製のコロネートHX等が挙げられ;イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレートとして、Evonik社製のVestanat T1890、Covestro社製のDesmodurZ4470BA等が挙げられ;キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレートとして、三井化学株式会社製のタケネートD-131N等が挙げられ;ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクトとして、旭化成株式会社製のデュラネートP301-75E等が挙げられ;イソホロンジイソシアネートのアダクトとして、三井化学株式会社製のタケネートD-140N等が挙げられ;ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレットとして、旭化成株式会社製のデュラネート24A-100,同22A-75PX、バイエル社製のデスモデュールN75,同N3200、BASF社製のバソナートHB-100、Vencorex社製のトロネートHDB等が挙げられ;ヘキサメチレンジイソシアネートのアロファネートとして、旭化成株式会社製のデュラネートA201H、三井化学株式会社製のタケネートD-178NL等が挙げられ;ヘキサメチレンイソシアネートのプレポリマー体として、旭化成株式会社製のデュラネートD101,同D201等が挙げられる。
【0099】
これらのイソシアネート化合物の中でも、好ましくはイソシアヌレート変性体、アダクト変性体、アロファネート変性体、プレポリマー体が挙げられ、より好ましくはヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート、キシリレンジイソシアネートのイソシアヌレート、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト、ヘキサメチレンジイソシアネートのアロファネート、ヘキサメチレンジイソシアネートのプレポリマー体が挙げられ、さらに好ましくはヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレートが挙げられる。
【0100】
イソシアネート基を有するモノマーが共重合した(メタ)アクリル系樹脂は、イソシアネート基(脱離性基で保護されたイソシアネート基を含む。以下において同様。)を有するモノマー由来の構成単位を1分子中に2以上有する(メタ)アクリル系樹脂である。イソシアネート基を有するモノマーが共重合した(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリルモノマーとイソシアネート基を有するモノマーとを公知の方法により共重合させることで得ることができる。
【0101】
イソシアネート基を有するモノマーとしては、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、[(メタ)アクリロイルオキシアルキルオキシ]エチルイソシアネート等が挙げられ、好ましくは2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0102】
上記のイソシアネート基を有するモノマーの市販品としては、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートとして、昭和電工社製のカレンズMOI、カレンズAOIが挙げられ;[(メタ)アクリロイルオキシアルキルオキシ]エチルイソシアネートとして、昭和電工社製のカレンズMOI-EGが挙げられる。
【0103】
C成分は、ブロックイソシアネートであってもよい。特に、本発明のコーティング剤組成物が一液型の形態である場合、保存性(経時安定性)の観点からC成分としてブロックイソシアネートを含むことが好ましい。
【0104】
ブロックイソシアネートは、上記のイソシアネート化合物のイソシアネート基の一部又は全部が脱離基により保護された化合物である。脱離基(保護基)を構成するためのブロック剤としては、公知のブロック剤が挙げられ、例えば、フェノール系、アルコール系、活性メチレン系、メルカプタン系、酸アミド系、ラクタム系、酸イミド系、イミダゾール系、ピラゾール系、尿素系、オキシム系、アミン系化合物等が挙げられる。より具体的には、ブロック剤としては、フェノール、クレゾール、エチルフェノール等のフェノール系化合物;プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール等のアルコール系化合物;マロン酸ジメチル、アセチルアセトン等の活性メチレン系化合物;ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン系化合物;アセトアニリド、酢酸アミド等の酸アミド系化合物;ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム等のラクタム系化合物;コハク酸イミド、マレイン酸イミド等の酸イミド系化合物;3,5-ジメチルピラゾール、4-ニトロ-3,5-ジメチルピラゾール、4-ベンジル-3,5-ジメチルピラゾール等のピラゾール系化合物;アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトオキシム等のオキシム系化合物;ジフェニルアニリン、アニリン、エチレンイミン等のアミン系化合物が挙げられる。
【0105】
C成分が有するイソシアネート基の量は、C成分全体に対するイソシアネート基(-NCO)の質量の割合で表現することができる。C成分に対するイソシアネート基の質量の割合(NCO%)としては、好ましくは5~50%、より好ましくは8~30%、さらに好ましくは12~25%、一層好ましくは16~23%が挙げられる。
【0106】
A成分及びB成分の水酸基の総数に対するC成分のイソシアネート基(ブロックイソシアネート基を含む)の数の当量比(以下において、「イソシアネートインデックス」とも記載する。)としては、例えば、0.5~1.6、好ましくは0.6~1.4、より好ましくは0.8~1.3、更に好ましくは1.0~1.3、特に好ましくは1.05~1.25が挙げられる。
【0107】
<D成分:変性ポリジアルキルシロキサン化合物>
D成分は、ポリジアルキルシロキサン構造と、ポリジアルキルシロキサン構造に結合する変性構造とを有する変性ポリジアルキルシロキサン化合物である。D成分は、ポリウレタン樹脂層21の離型フィルム10及び機能層22に対する接着性を調整するための成分である。
【0108】
D成分としては、変性構造が結合したポリジアルキルシロキサン構造を主鎖にもつ変性ポリジアルキルシロキサン化合物、及び変性構造が結合したポリジアルキルシロキサン構造を側鎖にもつ変性ポリジアルキルシロキサン化合物が挙げられ、これらのいずれか又は両方を組み合わせて用いることができる。
【0109】
ポリジアルキルシロキサン構造の各アルキル基は、例えば、それぞれ独立して、炭素数1~5のアルキル基である。ポリジアルキルシロキサン構造の具体例としては、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリメチルエチルシロキサンが挙げられる。
【0110】
ポリジアルキルシロキサン構造に結合される変性構造は、ポリエステル鎖、及びポリエーテル鎖からなる群より選択される少なくとも1種である。変性ポリジアルキルシロキサン化合物は、変性構造として、少なくともポリエーテル鎖を含むことが好ましい。
【0111】
ポリエステル鎖は、主鎖にエステル結合を有する構造であれば特に限定されない。主鎖にエステル結合を有する構造は、例えば、多価カルボン酸と多価アルコールとが脱水縮合してなる構造である。上記多価カルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、アジピン酸が挙げられる。上記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンが挙げられる。主鎖にエステル結合を有する構造としては、例えば、下記式(7)で示される構造が挙げられる。
【0112】
【化5】
式(7)において、R,R,Rはそれぞれ独立した有機基を表し、例えば、上記多価カルボン酸又は上記多価アルコールに由来する有機基である。mは、1~1000の整数を表す。nは、1~1000の整数を表す。
【0113】
ポリエーテル鎖としては、例えば、ポリ(エチレンオキサイド)鎖、ポリ(プロピレンオキサイド)鎖、ポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)鎖等の炭素数2~5のアルキレン基を有するポリ(アルキレンオキサイド)鎖が挙げられる。
【0114】
ポリジアルキルシロキサン構造を主鎖にもつ変性ポリジアルキルシロキサン化合物における変性構造の結合位置は特に限定されるものではなく、ポリジアルキルシロキサン構造がなす鎖状構造の末端であってもよいし、鎖中であってもよい。また、ポリジアルキルシロキサン構造における変性構造の結合数は特に限定されるものではなく、1個以上であればよい。
【0115】
変性構造がポリエーテル鎖である変性ポリジアルキルシロキサン化合物としては、例えば、ポリエーテル変性ポリジアルキルシロキサンが挙げられる。ポリエーテル変性ポリジアルキルシロキサンは、例えば、メチルハイドロジェンポリシロキサンとポリオキシエチレンモノアリルエーテルを白金系触媒存在下で付加反応することによって得られる。
【0116】
メチルハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、下記式(8)で示される平均組成式のランダム共重合体が挙げられる。下記式(8)において、mは、0~1000の整数、nは、0~1000の整数、好ましくは0~50の整数、m+nは、5~1000の整数、好ましくは10~100の整数を表す。
【0117】
【化6】
ポリオキシエチレンモノアリルエーテルとしては、例えば、下記式(9)で示される平均組成式の化合物が挙げられる。下記式(9)において、nは、3~100の整数、好ましくは3~50の整数を表す。
【0118】
CH=C(CH)CHCH-O-(CHCHO)n-CH (9)
D成分の含有量としては、A成分及びB成分の合計100質量部当たり、例えば、0.01~10質量部、好ましくは0.05~5質量部、より好ましくは0.1~2質量部が挙げられる。
【0119】
ポリジアルキルシロキサン構造を主鎖にもつ変性ポリジアルキルシロキサン化合物の市販品としては、例えば、ビックケミー社製のBYK-300、BYK-302、BYK-306、BYK-307、BYK-310、BYK-313、BYK-315N、BYK-320、BYK-325N、BYK-326、BYK-327、BYK-330、BYK-331、BYK-333、BYK-342、BYK-370、BYK-375、BYK-377、BYK-378、BYK-3455、BYK-3456、BYK-3760、信越化学工業株式会社製のKF-1005、X-22-4952、X-22-4272、KF-6123、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-644、KF-6020、KF-6204、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017、X-22-2516、KF-6004等が挙げられる。
【0120】
変性構造が結合したポリジアルキルシロキサン構造を側鎖にもつ変性ポリジアルキルシロキサン化合物としては、例えば、変性構造が結合したポリジアルキルシロキサン構造を有するモノマーが共重合した(メタ)アクリル系樹脂が挙げられる。
【0121】
変性構造が結合したポリジアルキルシロキサン構造を有するモノマーが共重合した(メタ)アクリル系樹脂は、変性構造が結合したポリジアルキルシロキサン構造を有するモノマー由来の構成単位を1分子中に1以上有する(メタ)アクリル系樹脂である。上記(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリルモノマーと変性構造が結合したポリジアルキルシロキサン構造を有するモノマーとを公知の方法により共重合させることで得ることができる。
【0122】
変性構造が結合したポリジアルキルシロキサン構造を有するモノマーの市販品としては、例えば、JNC株式会社製のメタクリル基含有モノマーである、サイラプレーンFM-0711(分子量1000)、サイラプレーンFM-0721(分子量5000)、サイラプレーンFM-0725(分子量10000)、及びサイラプレーンTM-0701T(分子量423)が挙げられる。
【0123】
変性構造が結合したポリジアルキルシロキサン構造を有するモノマーが共重合した(メタ)アクリル系樹脂における変性構造の結合位置は特に限定されるものではなく、また、ポリジアルキルシロキサン構造における変性構造の結合数は特に限定されるものではなく、1個以上であればよい。
【0124】
変性構造が結合したポリジアルキルシロキサン構造を有するモノマーが共重合した(メタ)アクリル系樹脂の市販品としては、例えば、ビックケミー社製のBYK-3550、BYK-3565、BYK-3566が挙げられる。
【0125】
なお、ポリウレタン樹脂層21の表面にD成分が固定されて機能層22に対する接着性が低下することを抑制する観点から、D成分は、上記樹脂組成物に含有されるD成分以外の成分に対して反応性を有さないものであることが好ましい。
【0126】
D成分の含有量としては、A成分及びB成分の合計100質量部当たり、例えば、0.01~10質量部、好ましくは0.05~5質量部、より好ましくは0.1~2質量部が挙げられる。
【0127】
<他成分>
上記樹脂組成物は、他の成分を必要に応じて更に含むことができる。他の成分としては、活性エネルギー線硬化樹脂、光開始剤、硬化促進剤(硬化触媒等)、界面活性剤、紫外線吸収剤、光安定剤、分散剤、造膜助剤、消泡剤、粘性調整剤、意匠性を高めるための成分(例えば、顔料、艶消し剤等)等が挙げられる。これらの他の成分は1種単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0128】
<溶剤>
上記樹脂組成物は、上述の成分が、溶剤に溶解又は分散していてもよい。溶剤としては、有機溶剤が挙げられる。有機溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール(2-メチル-2-プロパノール)、tert-アミルアルコール、ダイアセトンアルコール等のアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤等が挙げられ、これらの中でも、多官能イソシアネート化合物と反応しにくい点で、好ましくは芳香族炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。
【0129】
溶剤の含有量としては特に限定されないが、上記樹脂組成物の固形分(不揮発成分)濃度が、例えば5~99質量%、好ましくは10~70質量%、より好ましくは20~60質量%、更に好ましくは30~50質量%となるような量が挙げられる。
【0130】
<樹脂組成物の形態>
上記樹脂組成物は、D成分の存在下、A成分及びB成分の少なくとも一方とC成分とをウレタン反応させることによって、ポリウレタン樹脂層21を硬化物として得るものである。このため、上記樹脂組成物は、ウレタン反応が制御される形態に適宜調製される。上記樹脂組成物の具体的な形態としては、一液型及び二液型のいずれであってもよい。
【0131】
<樹脂組成物の硬化方法(ポリウレタン樹脂層形成工程)>
図2(a)及び図2(b)に示すように、上記樹脂組成物は、離型フィルム10の第1主面10aに塗布された後、適切な方法で乾燥及び硬化させることによってポリウレタン樹脂層21を形成する。
【0132】
上記樹脂組成物の塗布方法としては特に限定されず、バーコーター、スプレーコーター、エアーナイフコーター、キスロールコーター、メタリングバーコーター、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、ディップコーター、ダイコーター等の公知の塗工装置を用いて塗布することができる。
【0133】
上記樹脂組成物の乾燥の方法としては特に限定されず、公知のフィルム塗工の乾燥技術を適宜適用することができる。
硬化の条件としては、離型フィルム10の熱耐性等を考慮して適宜設定することができる。温度条件としては、例えば、30~240℃、好ましくは40~180℃、より好ましくは50~160℃、更に好ましくは60~140℃が挙げられる。時間条件としては、例えば、30秒~80時間、好ましくは1分~24時間が挙げられる。また、硬化においては、上記温度条件のより高温域で短時間の焼き付けと、上記温度条件のより低温域で長時間の焼き付けとを組み合わせることもできる。硬化の方法としては、上記の硬化条件を実現できる方法であれば特に限定されず、例えば、熱風に晒す方法、公知のコーティングマシンの乾燥炉(ドライヤー)を用いる方法等が挙げられる。
【0134】
(機能層)
機能層22は、ポリウレタン樹脂層21の表面に形成される層であって、本体フィルム20に対して、ポリウレタン樹脂層21による保護機能に加えて、更なる機能を付与するための層である。
【0135】
機能層22としては、例えば、意匠性を付与する加飾層、接着性を付与する接着層、反射を低減する反射防止層、抗菌・抗ウイルス性を付与する抗菌・抗ウイルス層、及び帯電防止性を付与する帯電防止層が挙げられる。機能層22としての加飾層、接着層、反射防止層、帯電防止層は特に限定されるものではなく、物品の表面に貼り付けて用いられるフィルムに含有される公知の層を適用できる。
【0136】
機能層22は、例えば、加飾層の場合には顔料やインク、接着層の場合には接着剤、帯電防止層の場合には帯電防止剤といった機能層22の種類に応じた機能性成分を含有する。顔料、インク、接着剤、帯電防止剤等の各種機能性成分は、特に限定されるものではなく、物品の表面に貼り付けて用いられるフィルムに含有される公知の成分を適用できる。
【0137】
機能層22の厚みは、例えば、0.1~200μmである。なお、機能層22の厚みは、機能層22の種類に応じて適宜、設定することが好ましい。例えば、加飾層である場合の機能層22の厚みは、0.1~20μmであることが好ましく、0.5~10μmであることがより好ましい。接着層である場合の機能層22の厚みは、0.5~150μmであることが好ましく、1~80μmであることがより好ましい。
【0138】
図2(b)及び図2(c)に示すように、機能層22は、上記のポリウレタン樹脂層形成工程により形成されたポリウレタン樹脂層21の表面に、機能層の種類に応じた機能性成分を含む液状の機能層組成物を塗布した後、乾燥及び硬化させることにより形成される(機能層形成工程)。機能層組成物は、例えば、顔料やインク等の機能性成分と、樹脂成分とを含有する組成物である。機能層組成物に含有される樹脂成分としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、セルロース系樹脂、フェノール系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、塩素化ゴムなどが挙げられる。また、ポリウレタン樹脂層21を構成するポリウレタン樹脂と同じ樹脂を上記樹脂成分としてもよい。
【0139】
なお、機能層組成物は、D成分と相溶するものであることが好ましい。この場合には、ポリウレタン樹脂層21の表面に機能層22を形成する際に、ポリウレタン樹脂層21に含まれるD成分が機能層22に拡散しやすくなる。
【0140】
機能層組成物の塗布方法及び乾燥の方法は、上記樹脂組成物に関する方法と同様である。また、機能層22は、その他の方法、例えば、ポリウレタン樹脂層21の表面に、予め機能層組成物を用いて成膜された層を積層して接着することにより形成してもよい。
【0141】
(積層フィルムの使用方法)
積層フィルムFは、物品の表面の保護や物品の表面に対する装飾の付加等を目的として、物品の表面に貼り付けて用いられる。積層フィルムFの貼り付け対象となる物品としては、例えば、車両、家電製品、携帯端末、パソコン、家具、化粧品容器、スポーツ用品、食器などが挙げられる。車両における貼り付け部位の具体例としては、車両の外装パネル及び外装/内装部品等の三次元成形品の表面が挙げられ、より具体的には、ボンネット、ライト枠、グリル、バンパー、スカート、ルーフ、フェンダー、ドア、ハンドル、ステップ、ミラー、トランク蓋、ナンバープレート、ホイール、マフラー、ドアトリム、インスツルメントパネル、カップホルダ、オーディオ部品、コンソールボックス、シフトレバーグリップ、及びこれらを構成する周辺部品の表面が挙げられる。
【0142】
図3に、積層フィルムFの使用方法の一例を示す。まず、積層フィルムFの機能層22の側の面を物品30に向け、物品30の表面との間に隙間なく積層フィルムFを貼り付ける(貼り付け工程)。その後、物品30に貼り付けられた積層フィルムFから離型フィルム10を剥離する(剥離工程)ことにより、物品30の表面に本体フィルム20が貼り付けられたフィルム付き物品31が得られる。なお、ポリウレタン樹脂層21は柔軟性に優れているため、物品30の表面が三次元形状であっても、その三次元形状に合わせて容易に変形させることができる。
【0143】
積層フィルムFの本体フィルム20を物品30に貼り付ける方法は、上記の方法に限定されるものではない。例えば、積層フィルムFを物品30に貼り付ける前に、積層フィルムFから離型フィルム10を剥離する、すなわち、貼り付け工程の前に剥離工程を行ってもよい。また、真空成形法、オーバーレイ成形法、ホットスタンプ法、水圧転写法等の上記以外のアウトモールド成形法に積層フィルムFを適用してもよい。また、物品30の成形と同時に積層フィルムFの本体フィルム20を物品30の表面に貼り付けるインモールド成形法、例えば、フィルムインモールド加飾法、インモールドラベリング法に積層フィルムFを適用してもよい。
【0144】
次に、本実施形態の効果について記載する。
(1)積層フィルムFは、離型フィルム10と、離型フィルム10の第1主面10aに剥離可能に接着された本体フィルム20とを備えている。本体フィルム20は、離型フィルム10に接着されたポリウレタン樹脂層21と、ポリウレタン樹脂層21における離型フィルム10と反対側の表面に形成された機能性成分からなる機能層22とを備えている。ポリウレタン樹脂層21は、(A)ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂と及び(B)ポリオールの少なくとも一方と、(C)多官能イソシアネートと、(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物とを含有する樹脂組成物の熱硬化物であり、上記ピークトップ温度が-80℃以上である。
【0145】
上記構成によれば、擦傷復元性を有するポリウレタン樹脂層21に(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物を含有させている。これにより、一方側の表面に設けられる離型フィルム10に対しては、剥離可能な接着性を有しつつ、他方側の表面に設けられる機能層22に対しては、形成等の際に容易に剥がれない接着性を有するポリウレタン樹脂層21を得ることができる。その結果、接着性の低い材料からなるフィルムや接着性を低下させる離型処理が表面に施されたフィルムなどの接着性の低い離型フィルム以外のフィルムを使用することも可能になり、離型フィルムの選択の自由度の低下を抑制できる。
【0146】
ポリウレタン樹脂層21に(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物を含有させることにより、ポリウレタン樹脂層21を塗工により形成する際に、レベリング不良やハジキなどの外観不良が生じ難くなる。これにより、表面の外観の優れたポリウレタン樹脂層21を形成できる。
【0147】
上記の(1)の効果が得られるメカニズムは、以下のように推測できる。
離型フィルム10にポリウレタン樹脂層21を形成する際に、離型フィルム10とポリウレタン樹脂層21の界面に(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物が配向して被膜を形成する。この皮膜が離型フィルム10とポリウレタン樹脂層21との過度な接着を阻害することにより、離型フィルム10に対して剥離可能な接着性を有するポリウレタン樹脂層21になると考えられる。
【0148】
一方、ポリウレタン樹脂層21に機能層22を形成する際には、(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物がポリウレタン樹脂層21と機能層22との界面に留まらず機能層22内に拡散するため、(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物がポリウレタン樹脂層21と機能層22との接着を阻害しないと考えられる。
【0149】
(2)ポリウレタン樹脂層21は、上記ピークトップ温度が90℃以下である。
上記構成によれば、ポリウレタン樹脂層21は、擦傷復元性を有する柔軟性に優れた保護層として機能する。柔軟なポリウレタン樹脂層21は、離型フィルム10に対する接着性が特に高い性質を有していることから、(D)変性ポリジアルキルシロキサン化合物を含有させることによる上記(1)の効果がより顕著に得られる。
【0150】
(3)樹脂組成物は、(A)ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂と及び(B)ポリオールの両方を含有することが好ましい。
上記構成によれば、硬化時に架橋密度が低い部分と架橋密度が高い部分とが形成されることにより、粗密化された架橋構造を有するポリウレタン樹脂層21が得られる。これにより、ポリウレタン樹脂層21に程良い粘り強さが付加され、ポリウレタン樹脂層21の擦傷復元性が格段に向上する。
【0151】
(4)離型フィルム10は、第1主面10aの表面自由エネルギーが20~50mN/mであることが好ましい。
上記構成によれば、上記(1)に記載した、ポリウレタン樹脂層21塗工により形成する際のレベリング不良やハジキなどの外観不良が生じ難くなる効果がより顕著に得られる。また、本体フィルム20から離型フィルム10を剥離する際の本体フィルム20の破断や剥離不良を抑制する効果が得られる。
【0152】
(5)離型フィルム10の第1主面10aは、離型剤11による離型処理が施された表面である。
上記構成によれば、離型フィルム10の第1主面10aの表面自由エネルギーを特定範囲に容易に調整できる。
【0153】
(6)離型剤11は、非シリコーン系離型剤が好ましい。
離型フィルム10の第1主面10aに離型剤11による離型処理が施されている場合、離型フィルム10の第1主面10aに上記樹脂組成物を塗布してポリウレタン樹脂層21を形成する際に、離型剤11が離型フィルム10側からポリウレタン樹脂層21に移行することがある。このとき、離型剤11が、表面自由エネルギーの低いシリコーン含有化合物であるシリコーン系離型剤であると、ポリウレタン樹脂層21における離型フィルム10側の表面のみならず、離型フィルム10と反対側の表面の表面自由エネルギーも大きく低下してしまう。そのため、ポリウレタン樹脂層21における離型フィルム10と反対側の表面に機能層22を形成する際にハジキや密着不良を引き起こすという問題が生じることがある。離型剤11として、非シリコーン系離型剤を用いた場合には、こうした問題を低減することができる。
【0154】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
本体フィルム20は、機能層22におけるポリウレタン樹脂層21と反対側の表面に、1又は2以上のその他の層を備えるものであってもよい。例えば、本体フィルム20は、ポリウレタン樹脂層21側から順に、ポリウレタン樹脂層21、加飾層、接着層が積層された3層構造であってもよい。この場合、ポリウレタン樹脂層21に接着されている加飾層が機能層22となり、機能層22に接着されている接着層がその他の層となる。
【0155】
積層フィルムFは、本体フィルム20の両面に離型フィルム10が接着された構成であってもよい。この場合、本体フィルム20の両面に同じ離型フィルム10を接着させてもよいし、それぞれ異なる離型フィルム10を接着させてもよい。また、本体フィルム20の両面に離型フィルム10が接着されている積層フィルムFは、ポリウレタン樹脂層21に接着している離型フィルム10を剥がした後、露出したポリウレタン樹脂層21の表面に対して、反射防止層などの機能層22を更に形成して用いることも可能である。
【0156】
積層フィルムFは、機能層22が省略された構成(図2(b)に示す状態)であって、ポリウレタン樹脂層21における離型フィルム10と反対側の表面に対して、又はポリウレタン樹脂層21の両面側に離型フィルム10が貼り付けられている場合の一方の離型フィルム10を剥がした後のポリウレタン樹脂層21の表面に対して、後から、反射防止層などの機能層22を形成して用いられる加工用フィルムであってもよい。この場合、ポリウレタン樹脂層21における機能層22が形成される表面のぬれ張力は、例えば、30~65mN/mであることが好ましい。
【0157】
上記(6)欄に記載した、離型フィルム10の離型剤11に起因して、機能層22を形成する際にハジキや密着不良を引き起こす問題は、ポリウレタン樹脂層21における離型フィルム10が接着していた表面に対して機能層22を形成する場合にも同様に生じる。そのため、ポリウレタン樹脂層21の両面側に離型フィルム10が貼り付けられている場合、ポリウレタン樹脂層21における機能層22が形成される表面に貼り付けられている離型フィルム10についても、離型処理に用いる離型剤11は、非シリコーン系離型剤が好ましい。
【実施例
【0158】
以下に実施例及び比較例を挙げ、上記実施形態をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
(A成分の調製)
温度計、サーモスタット、撹拌装置、還流冷却器及び滴下装置を備えた4つ口フラスコを準備した。このフラスコに、メチルエチルケトン100質量部を仕込み、79℃まで撹拌しながら加温した。次いで、表6に示す比率(単位は質量部)の(メタ)アクリルモノマー類と、重合開始剤として2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(株式会社日本ファインケム製ABN-E)2質量部とを均一に混ぜた混合液を、滴下ロートより2時間かけて上記フラスコに連続滴下した。(メタ)アクリルモノマー類としては、表1に示すモノマーを表5~7に示す比率(単位は質量部)で混合したものを用いた。
【0159】
滴下終了後、さらに79℃で3時間撹拌し、残留するモノマーを反応させた。その後、加熱を止めて室温まで冷却し、(A)成分であるヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル系樹脂を含む組成物(固形分比率50質量%)を得た。
【0160】
試験に用いた(メタ)アクリルモノマーの詳細は、表1に示すとおりである。
【0161】
【表1】
(D成分の合成)
D成分である変性ポリジアルキルシロキサン化合物D1~D3として、ポリエーテル変性ポリジアルキルシロキサンを合成した。ポリエーテル変性ポリジアルキルシロキサンは、メチルハイドロジェンポリシロキサンとポリオキシエチレンモノアリルエーテルを白金系触媒存在下で付加反応させることにより合成した。また、比較用として、D成分に該当しないその他の変性ポリジアルキルシロキサンであるアルキル変性ポリジアルキルシロキサンE-1及びアラルキル変性ポリジアルキルシロキサンE-2を合成した。
【0162】
メチルハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記のメチルハイドロジェンポリシロキサンS-1~S3を用いた。
S-1:上記式(8)におけるm=8,n=8のメチルハイドロジェンポリシロキサン
S-2:上記式(8)におけるm=12,n=4のメチルハイドロジェンポリシロキサン
S-3:上記式(8)におけるm=4,n=12のメチルハイドロジェンポリシロキサン
ポリオキシエチレンモノアリルエーテルとしては、下記の平均組成式で示されるポリオキシエチレンモノアリルエーテルO-1~O-2を用いた。ポリオキシエチレンモノアリルエーテルO-1~O-2は、公知の合成方法により合成したものを用いた。
【0163】
O-1:CH=C(CH)CHCH-O-(CHCHO)-CH
O-2:CH=C(CH)CHCH-O-(CHCHO)22-CH
<合成例1>
還流冷却管、攪拌装置および滴下漏斗を取付けた4つ口フラスコに、ポリオキシエチレンモノアリルエーテルO-1(119質量部)、イソプロパノール(100質量部)、白金含有量1%の塩化白金酸のイソプロパノール溶液(0.2質量部)、酢酸ナトリウムの1%メタノール溶液(3質量部)を加え、窒素気流下で溶媒の還流条件まで昇温した。次に、滴下漏斗からメチルハイドロジェンポリシロキサンS-1(37質量部)を1時間かけて滴下し、その後、3時間攪拌した。冷却後、ろ過助剤を用いてろ過した。次に、120℃、10Torrの状態に1時間保ち、溶媒及びその他の低沸点分を完全に除去することにより、変性ポリジアルキルシロキサン化合物D-1を得た。
【0164】
<合成例2>
ポリオキシエチレンモノアリルエーテルO-1(119質量部)をポリオキシエチレンモノアリルエーテルO-2(128.2質量部)に変更した点、及びメチルハイドロジェンポリシロキサンS-1(37質量部)をメチルハイドロジェンポリシロキサンS-2(38.7質量部)に変更した点を除いて、合成例1と同様にして、変性ポリジアルキルシロキサン化合物D-2を得た。
【0165】
<合成例3>
ポリオキシエチレンモノアリルエーテルO-1(119質量部)をポリオキシエチレンモノアリルエーテルO-1(89.4質量部)及び1-オクテン(20.1質量部)に変更した点、並びに、メチルハイドロジェンポリシロキサンS-1(37質量部)をメチルハイドロジェンポリシロキサンS-3(35.4質量部)に変更した点を除いて、合成例1と同様にして、変性ポリジアルキルシロキサン化合物D-3を得た。
【0166】
<合成例4>
ポリオキシエチレンモノアリルエーテルO-1(119質量部)を1-オクテン(26.9質量部)に変更した点を除いて、合成例1と同様にして、アルキル変性ポリジアルキルシロキサンE-1を得た。
【0167】
<合成例5>
ポリオキシエチレンモノアリルエーテルO-1(119質量部)をα-メチルスチレン(28.3質量部)に変更した点を除いて、合成例1と同様にして、アラルキル変性ポリジアルキルシロキサンE-2を得た。
【0168】
(樹脂組成物の調製)
組成物A1及びB成分であるポリオールの一方又は両方と、C成分である多官能イソシアネートと、D成分である変性ポリジアルキルシロキサン化合物のいずれかと、を表6~9に示す比率(単位は質量部)にて混合し、更にメチルエチルケトンを加え、固形分比率65質量%の樹脂組成物を得た。なお、D成分としては、合成した変性ポリジアルキルシロキサン化合物D-1~D-3及び市販品を用いた。また、比較例1~3においては、D成分である変性ポリジアルキルシロキサン化合物を非含有とし、比較例1~2においては、その他の変性ポリジアルキルシロキサンを混合した。
【0169】
試験に用いたポリオール、多官能イソシアネート、変性ポリジアルキルシロキサン化合物、及びその他の変性ポリジアルキルシロキサンの詳細は、表2~4に示すとおりである。なお、表3の「NCO%」欄の数値は、固形分の合計を100%とした場合の含有割合を示す数値であり、括弧内の数値は、固形分及び溶剤の合計を100%とした場合の含有割合を示す数値である。
【0170】
【表2】
【0171】
【表3】
【0172】
【表4】
(ポリウレタン樹脂層の形成)
上記で調製した樹脂組成物を、各種の離型フィルムの表面の第1主面に、硬化膜の厚みが表6~9に記載の値となるようにバーコーターにて塗装し、室温で1分間静置した。その後、温風乾燥機で、140℃で2分間加熱乾燥させた後、40℃の乾燥機に72時間放置した。これによって、任意の厚みのポリウレタン樹脂層を形成した。これにより、離型フィルムの表面にポリウレタン樹脂層が接着された実施例及び比較例の積層フィルムを得た。試験に用いた離型フィルムの詳細は、表5に示すとおりである。
【0173】
【表5】
<ポリウレタン樹脂層のガラス転移温度の測定>
実施例及び比較例の積層フィルムから離型フィルムから剥離して得られたポリウレタン樹脂層を、幅5mm、長さ50mmの試験片に切り分けた。この試験片を用いて、以下の条件で損失正接(tanδ)のピークトップ温度の測定を行った。その結果を表6~9に示す。
【0174】
装置:動的粘弾性測定装置RSA-G2(TA Instruments社製)
測定モード:非共振強制振動法
昇温速度 :5.0℃/min
測定間隔 :12/min
周波数 :1.0Hz
治具間距離:20mm
温度範囲 :-120~250℃
(実施例及び比較例の評価)
得られた実施例及び比較例の積層フィルムについて、下記の評価を行った。
【0175】
<ポリウレタン樹脂層の外観の評価>
形成されたポリウレタン樹脂層の表面を目視で観察し、以下の基準に基づいて外観を評価した。その結果を表6~9に示す。
【0176】
◎:レベリング不良、ハジキなどの外観不良がない。
○:レベリング不良、ハジキなどの外観不良がほとんどない。
△:部分的にレベリング不良、ハジキなどの外観不良がみられる。
【0177】
×:全体的にレベリング不良、ハジキなどの外観不良がみられる、又はレベリング不良、ハジキなどにより樹脂層を形成できない。
<ポリウレタン樹脂層の擦傷復元性>
温度25℃、相対湿度60%RHの雰囲気下、真鍮ブラシ(木柄真鍮ブラシ3行)を、実施例及び比較例の積層フィルムのポリウレタン樹脂層の表面に当て、500g荷重で10往復させて擦り傷をつけた。その後、相対湿度60%RH、温度25℃の第1条件で1時間放置し、ポリウレタン樹脂層の表面に入った傷が復元するまでの時間を測定した。1時間後、傷が復元しなかった場合には、相対湿度60%RH、温度80℃の第2条件に変更して1時間放置し、傷が復元するまでの時間を更に測定した。そして、下記の基準によりポリウレタン樹脂層の擦傷復元性を評価した。その結果を表6~8に示す。
【0178】
◎:第1条件で1分未満に傷が修復する。
○:第1条件で1分以上10分未満に傷が修復する。
□:第1条件で10分以上1時間未満に傷が修復する。
【0179】
△:第2条件に変更して1時間以内に傷が修復する。
×:第2条件に変更して1時間以内に傷が修復しない。
<ポリウレタン樹脂層のぬれ張力の測定>
JIS K6768に準じた方法にて、ぬれ張力試験用混合液(関東化学株式会社製)を用いてポリウレタン樹脂層の表面のぬれ張力を測定した。その結果を表6~9に示す。
【0180】
<離型フィルムとポリウレタン樹脂層との間の剥離強度の測定>
実施例及び比較例の積層フィルムを試験片とし、精密万能試験機(株式会社島津製作所製オートグラフAGS-X)を使用して、JIS Z0237に準じた方法にて、引張速度300mm/分、剥離角度180度の条件で、剥離強度(mN/25mm)を測定した。得られた測定値のうち、剥離距離20mm~70mmの剥離力の平均値を剥離強度とした。また、下記の基準により剥離強度を評価した。それらの結果を表6~9に示す。
【0181】
◎:1200mN/25mm以下。
○:1200mN/25mmを超え、2400mN/25mm以下。
□:2400mN/25mmを超え、3000mN/25mm以下。
【0182】
△:3000mN/25mmを超え、4000mN/25mm以下。
×:4000mN/25mmを超える。
<機能層の形成外観の評価>
実施例及び比較例の積層フィルムのポリウレタン樹脂層の表面に、不揮発分が28%となるように有機溶剤で希釈し、その液表面張力が19.0mN/mであるポリウレタン系グラビアインキを乾燥後の膜厚が1~2μmとなるようにバーコーターにて塗装し、乾燥機により80℃で10分間乾燥させることにより、ポリウレタン樹脂層の表面に機能層(加飾層)を形成した。形成された機能層の表面を目視で観察し、以下の基準に基づいて外観を評価した。その結果を表6~8に示す。なお、ポリウレタン系グラビアインキの液表面張力の測定は、表面張力計(協和界面化学製DY-300)を用いてWilhelmy法にて行った。
【0183】
◎:レベリング不良、ハジキなどの外観不良がない。
○:レベリング不良、ハジキなどの外観不良がほとんどない。
△:部分的にレベリング不良、ハジキなどの外観不良がみられる。
【0184】
×:全体的にレベリング不良、ハジキなどの外観不良がみられる、又はレベリング不良、ハジキなどにより樹脂層を形成できない。
<ポリウレタン樹脂層と機能層との間の接着性の評価>
上記の機能層の形成外観の評価にて形成された機能層について、JIS K5600に準じた方法で、付着性試験(クロスカット法)を行い、以下の基準に基づいて接着性を評価した。その結果を表6~8に示す。なお、試験にはセロハンテープ(ニチバン株式会社製セロテープ(登録商標)CT405AP)を使用した。
【0185】
◎:剥離なし。
○:剥離箇所が全体の5%未満。
□:剥離箇所が全体の10%未満。
【0186】
△:剥離箇所が全体の20%未満。
×:剥離箇所が全体の20%以上。
【0187】
【表6】
【0188】
【表7】
【0189】
【表8】
【0190】
【表9】
表6~9に示すように、ポリウレタン樹脂層に、D成分である変性ポリジアルキルシロキサン化合物を含有させた各実施例は、擦傷復元性の評価を除いた全ての評価が「◎」~「△」であった。一方、D成分に代えて、アルキル変性ポリジアルキルシロキサンE-1を用いた比較例1及びアラルキル変性ポリジアルキルシロキサンE-2を用いた比較例2は、機能層の外観の評価、及びポリウレタン樹脂層と機能層との間の接着性の評価が「×」であった。また、D成分及びその他の変性ポリジアルキルシロキサンのいずれも含有しない比較例3は、ポリウレタン樹脂層の外観の評価、及びポリウレタン樹脂層と離型フィルムとの間の剥離強度の評価が「×」であった。
【0191】
これらの結果から、ポリウレタン樹脂層に、D成分である変性ポリジアルキルシロキサン化合物を含有させることにより、機能層に対するポリウレタン樹脂層の高い接着性を確保しつつ、離型フィルムに対するポリウレタン樹脂層の接着性を低下させる効果が得られることが分かる。そして、その効果は、特定の変性ポリジアルキルシロキサン化合物特有の効果であることが分かる。
【0192】
また、ポリウレタン樹脂層の上記ピークトップ温度が-80℃よりも低い比較例4は、ポリウレタン樹脂層と離型フィルムとの間の剥離強度の評価が「×」であった。この結果から、ポリウレタン樹脂層と離型フィルムとの間の剥離強度を低下させるためには、ポリウレタン樹脂層の上記ピークトップ温度が-80℃以上である必要があることが分かる。
【0193】
また、ポリウレタン樹脂層の上記ピークトップ温度が90℃を超える実施例21は、擦傷復元性の評価が「×」であり、擦傷復元性が得られなかった。一方、上記ピークトップ温度が90℃以下である他の実施例は、擦傷復元性の評価が「△」~「◎」であり、擦傷復元性が得られた。
【0194】
また、実施例53~58の結果から、離型剤による離型処理が施された離型フィルムを用いた場合には、ポリウレタン樹脂層と離型フィルムとの間の剥離強度が低下し、剥離性が向上することが分かる。特に、離型剤が非シリコーン系離型剤である場合には、ポリウレタン樹脂層と機能層との間の接着性を低下させることなく、ポリウレタン樹脂層と離型フィルムとの間の剥離性が向上する。
【0195】
なお、詳細は省略するが、実施例11,15について、機能層として、アクリル系粘着剤を含む接着層を形成した試験を行ったところ、この場合にも、機能層に対するポリウレタン樹脂層の高い接着性を確保しつつ、離型フィルムに対するポリウレタン樹脂層の接着性を低下させる効果が得られた。
【0196】
また、詳細は省略するが、実施例11について、ポリウレタン樹脂層の離型フィルムと反対側の表面に第2の離型フィルムを張り付けた積層フィルムを用意し、この積層フィルムから第2の離型フィルムを剥離して露出したポリウレタン樹脂層の表面に機能層としての加飾層又は接着層を形成した試験を行った。その結果、この場合にも、機能層に対するポリウレタン樹脂層の高い接着性が得られた。
【符号の説明】
【0197】
F…積層フィルム
10…離型フィルム
10a…第1主面
11…離型剤
20…本体フィルム
21…ポリウレタン樹脂層
22…機能層
30…物品
31…フィルム付き物品
図1
図2
図3