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特許7519103ディスプレイ装置用電気泳動分散液中における化学物質の光学活性化
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】ディスプレイ装置用電気泳動分散液中における化学物質の光学活性化
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/167 20190101AFI20240711BHJP
【FI】
G02F1/167
【請求項の数】 36
(21)【出願番号】P 2021524299
(86)(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(86)【国際出願番号】 IB2019058306
(87)【国際公開番号】W WO2020095127
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】62/755,746
(32)【優先日】2018-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/755,767
(32)【優先日】2018-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521189330
【氏名又は名称】ハリオン ディスプレイズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(72)【発明者】
【氏名】ライアン フィリップ マルヒェフカ
(72)【発明者】
【氏名】マシュー トーマス ラブリザ
(72)【発明者】
【氏名】インジュラ カーン
【審査官】植田 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-227795(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0210455(US,A1)
【文献】国際公開第2011/058725(WO,A1)
【文献】特開2008-241806(JP,A)
【文献】特開2013-235263(JP,A)
【文献】特表2018-505261(JP,A)
【文献】特開2015-18097(JP,A)
【文献】特公昭59-36247(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/165-1/1685
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気泳動ディスプレイに用いる電気泳動分散液であって、
前記電気泳動分散液は、
第1の化学物質と、
第2の化学物質と、を含み、
前記第1の化学物質および前記第2の化学物質は、前記電気泳動分散液を通過する電磁界の変化に応じて、分離状態と光学活性状態との間で切り替わるように可逆的に相互作用するように誘導され、当該電気泳動分散液の光学特性を変化させ
前記第1の化学物質は活性化可能互変異性体であり、前記第2の化学物質は当該活性化可能互変異性体の安定剤であり、前記光学活性状態は、当該活性化可能互変異性体が当該安定剤によって安定化された状態を含む
電気泳動分散液。
【請求項2】
前記光学活性状態は、前記第1の化学物質および前記第2の化学物質が近接して相互作用することによる、当該第1の化学物質および当該第2の化学物質のうち少なくとも1つの可逆的な化学的または立体配座的変化によって得られる、
請求項1に記載の電気泳動分散液。
【請求項3】
前記光学特性は、前記電気泳動分散液が示す吸収スペクトルである、
請求項1または2に記載の電気泳動分散液。
【請求項4】
前記安定剤は、前記活性化可能互変異性体のプロトン移動性水素と水素結合するピリジン環を含む、
請求項に記載の電気泳動分散液。
【請求項5】
前記第1の化学物質は、前記電気泳動分散液中に分散した第1の帯電移動キャリアに付着され、
前記第2の化学物質は、前記電気泳動分散液中に分散した第2の帯電移動キャリアに付着され、前記第1の帯電移動キャリアと当該第2の帯電移動キャリアとは互いに逆の電荷を有し、
前記電気泳動分散液を通過する前記電磁界の変化によって前記第1の帯電移動キャリアおよび前記第2の帯電移動キャリアが分離されることにより、前記第1の化学物質および前記第2の化学物質が前記分離状態となる、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の電気泳動分散液。
【請求項6】
前記第1の帯電移動キャリアは、
前記第1の化学物質が付着されるポリマーのコロナと、
前記第1の帯電移動キャリアに正味電荷を付与する帯電コアと、を有する、
請求項に記載の電気泳動分散液。
【請求項7】
前記ポリマーのコロナは、親水性部分と疎水性部分とを有するブロックコポリマーを含み、当該親水性部分は前記第1の化学物質によって官能化されて当該第1の化学物質を当該親水性部分に付着させ、当該疎水性部分は当該コロナ内の他のブロックコポリマーと架橋する、
請求項に記載の電気泳動分散液。
【請求項8】
前記帯電コアは、当該帯電コアの内部に安定性を付与する疎水性モノマーと、化学物質と結合するブロックコポリマーと、当該帯電コアの重合を開始させるラジカル開始剤と、対イオンが除去され前記正味電荷に寄与するイオン性界面活性剤と、を含む、
請求項またはに記載の電気泳動分散液。
【請求項9】
前記第1の化学物質および前記第2の化学物質の一方は、前記電気泳動分散液中に分散した帯電移動キャリアに付着され、当該第1の化学物質および当該第2の化学物質の他方は、当該電気泳動分散液を収容するピクセルチャンバの内壁に付着される、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の電気泳動分散液。
【請求項10】
前記帯電移動キャリアは、
前記第1の化学物質および前記第2の化学物質の前記一方が付着されるポリマーのコロナと、
前記帯電移動キャリアに正味電荷を付与する帯電コアと、を有する、
請求項に記載の電気泳動分散液。
【請求項11】
前記ポリマーのコロナは、親水性部分と疎水性部分とを有するブロックコポリマーを含み、当該親水性部分は前記第1の化学物質および前記第2の化学物質の前記一方によって官能化されて当該第1の化学物質および当該第2の化学物質の当該一方を当該親水性部分に付着させ、当該疎水性部分は当該コロナ内の他のブロックコポリマーと架橋する、
請求項10に記載の電気泳動分散液。
【請求項12】
前記帯電コアは、当該帯電コアの内部に安定性を付与する疎水性モノマーと、化学物質と結合するブロックコポリマーと、当該帯電コアの重合を開始させるラジカル開始剤と、対イオンが除去され前記正味電荷に寄与するイオン性界面活性剤と、を含む、
請求項10または11に記載の電気泳動分散液。
【請求項13】
第1の化学物質および第2の化学物質を含む電気泳動分散液を収容すると共に当該電気泳動分散液の光学特性を伝達するピクセルチャンバを含むディスプレイと、
前記ピクセルチャンバを通過する電磁界を変化させて前記第1の化学物質および前記第2の化学物質の相互作用により分離状態と光学活性状態との間で可逆的に切り替わるように誘導し、前記電気泳動分散液の光学特性を変化させる電極と、
前記電極を制御し前記電磁界を変化させて、前記ディスプレイが表示する画像に対応する光学特性を前記ピクセルチャンバが伝達するようにする制御部と、
を含み、
前記第1の化学物質は活性化可能互変異性体であり、前記第2の化学物質は当該活性化可能互変異性体の安定剤であり、前記光学活性状態は、当該活性化可能互変異性体が当該安定剤によって安定化された状態を含む、
電気泳動ディスプレイ装置。
【請求項14】
前記光学活性状態は、前記第1の化学物質および前記第2の化学物質が近接して相互作用することによる、当該第1の化学物質および当該第2の化学物質のうち少なくとも1つの可逆的な化学的または立体配座的変化によって得られる、
請求項13に記載の電気泳動ディスプレイ装置。
【請求項15】
前記光学特性は、前記電気泳動分散液が示す吸収スペクトルである、
請求項13または14に記載の電気泳動ディスプレイ装置。
【請求項16】
前記安定剤は、前記活性化可能互変異性体のプロトン移動性水素と水素結合するピリジン環を含む、
請求項13に記載の電気泳動ディスプレイ装置。
【請求項17】
前記第1の化学物質は、前記電気泳動分散液中に分散した第1の帯電移動キャリアに付着され、
前記第2の化学物質は、前記電気泳動分散液中に分散した第2の帯電移動キャリアに付着され、前記第1の帯電移動キャリアと当該第2の帯電移動キャリアとは互いに逆の電荷を有し、
前記電気泳動分散液の変化によって前記第1の帯電移動キャリアおよび前記第2の帯電移動キャリアが分離されることにより、前記第1の化学物質および前記第2の化学物質が前記分離状態となる、
請求項13乃至16のいずれか1項に記載の電気泳動ディスプレイ装置。
【請求項18】
前記第1の帯電移動キャリアは、
前記第1の化学物質が付着されるポリマーのコロナと、
前記第1の帯電移動キャリアに正味電荷を付与する帯電コアと、を有する、
請求項17に記載の電気泳動ディスプレイ装置。
【請求項19】
前記ポリマーのコロナは、親水性部分と疎水性部分とを有するブロックコポリマーを含み、当該親水性部分は前記第1の化学物質によって官能化されて当該第1の化学物質を当該親水性部分に付着させ、当該疎水性部分は当該コロナ内の他のブロックコポリマーと架橋する、
請求項18に記載の電気泳動ディスプレイ装置。
【請求項20】
前記帯電コアは、当該帯電コアの内部に安定性を付与する疎水性モノマーと、化学物質と結合するブロックコポリマーと、当該帯電コアの重合を開始させるラジカル開始剤と、対イオンが除去され前記正味電荷に寄与するイオン性界面活性剤と、を含む、
請求項18または19に記載の電気泳動ディスプレイ装置。
【請求項21】
前記第1の化学物質および前記第2の化学物質の一方は、前記電気泳動分散液中に分散した帯電移動キャリアに付着され、当該第1の化学物質および当該第2の化学物質の他方は、前記ピクセルチャンバの内壁に付着される、
請求項13乃至16のいずれか1項に記載の電気泳動ディスプレイ装置。
【請求項22】
前記帯電移動キャリアは、
前記第1の化学物質および前記第2の化学物質の前記一方が付着されるポリマーのコロナと、
前記帯電移動キャリアに正味電荷を付与する帯電コアと、を有する、
請求項21に記載の電気泳動ディスプレイ装置。
【請求項23】
前記ポリマーのコロナは、親水性部分と疎水性部分とを有するブロックコポリマーを含み、当該親水性部分は前記第1の化学物質および前記第2の化学物質の前記一方によって官能化されて当該第1の化学物質および当該第2の化学物質の当該一方を当該親水性部分に付着させ、当該疎水性部分は当該コロナ内の他のブロックコポリマーと架橋する、
請求項22に記載の電気泳動ディスプレイ装置。
【請求項24】
前記帯電コアは、当該帯電コアの内部に安定性を付与する疎水性モノマーと、化学物質と結合するブロックコポリマーと、当該帯電コアの重合を開始させるラジカル開始剤と、対イオンが除去され前記正味電荷に寄与するイオン性界面活性剤と、を含む、
請求項22または23に記載の電気泳動ディスプレイ装置。
【請求項25】
前記ピクセルチャンバは、前記電気泳動ディスプレイ装置の視線方向に直交して積層された複数の水平ピクセル層を含む、
請求項13乃至24のいずれか1項に記載の電気泳動ディスプレイ装置。
【請求項26】
前記ピクセルチャンバは、前記電気泳動ディスプレイ装置の視線方向と平行に互いに隣り合って配置された複数の垂直ピクセルチャンバを含む、
請求項13乃至24のいずれか1項に記載の電気泳動ディスプレイ装置。
【請求項27】
電気泳動ディスプレイ装置を動作させるための方法であって、
前記電気泳動ディスプレイ装置に表示される画像を表す画像データを取得することと、
電磁界によって誘導された際に第1の光学特性を示して分離状態を取り、電磁界によって誘導された際に第2の光学特性を示して光学活性状態を取る成分化学物質を収容するピクセルチャンバを制御する前記電気泳動ディスプレイ装置のピクセル電極に対する電圧のマッピングを生成することと、
前記ピクセル電極に前記電圧のマッピングを適用して、前記成分化学物質に前記分離状態または前記光学活性状態を取らせることと、
を含み、
前記成分化学物質は第1の成分化学物質および第2の成分化学物質を含み、
前記第1の成分化学物質および前記第2の成分化学物質の相互作用により、前記分離状態と前記光学活性状態との間で可逆的に切り替わるように誘導されており、
前記第1の成分化学物質は活性化可能互変異性体であり、前記第2の成分化学物質は当該活性化可能互変異性体の安定剤であり、前記光学活性状態は、当該活性化可能互変異性体が当該安定剤によって安定化された状態を含む
方法。
【請求項28】
コンピュータ装置のプロセッサに、
電気泳動ディスプレイ装置に表示される画像を表す画像データを取得することと、
電磁界によって誘導された際に第1の光学特性を示して分離状態を取り、電磁界によって誘導された際に第2の光学特性を示して光学活性状態を取る成分化学物質を収容するピクセルチャンバを制御する前記電気泳動ディスプレイ装置のピクセル電極に対する電圧のマッピングを生成することと、
前記ピクセル電極に前記電圧のマッピングを適用して、前記成分化学物質に前記分離状態または前記光学活性状態を取らせることと、
を実行させるための命令を含み、
前記成分化学物質は第1の成分化学物質および第2の成分化学物質を含み、
前記第1の成分化学物質および前記第2の成分化学物質の相互作用により、前記分離状態と前記光学活性状態との間で可逆的に切り替わるように誘導されており、
前記第1の成分化学物質は活性化可能互変異性体であり、前記第2の成分化学物質は当該活性化可能互変異性体の安定剤であり、前記光学活性状態は、当該活性化可能互変異性体が当該安定剤によって安定化された状態を含む、
非一時的機械可読記憶媒体。
【請求項29】
電気泳動ディスプレイに用いる電気泳動分散液を生成するための方法であって、
帯電ポリマーコアを作製することと、
ポリマーコロナまたは当該ポリマーコロナの前駆体を作製することと、
電磁界によって誘導された際に第1の光学特性を示して分離状態を取り、電磁界によって誘導された際に第2の光学特性を示して光学活性状態を取る成分化学物質を前記ポリマーコロナまたは当該ポリマーコロナの前駆体に埋め込むことと、
を含み、
前記成分化学物質は第1の成分化学物質および第2の成分化学物質を含み、
前記第1の成分化学物質および前記第2の成分化学物質の相互作用により、前記分離状態と前記光学活性状態との間で可逆的に切り替わるように誘導されており、
前記第1の成分化学物質は活性化可能互変異性体であり、前記第2の成分化学物質は当該活性化可能互変異性体の安定剤であり、前記光学活性状態は、当該活性化可能互変異性体が当該安定剤によって安定化された状態を含む、
方法。
【請求項30】
前記ポリマーコロナまたは当該ポリマーコロナの前駆体を作製することは、当該ポリマーコロナを前記帯電ポリマーコアの周囲に作製することを含み、
前記成分化学物質を前記ポリマーコロナまたは当該ポリマーコロナの前駆体に埋め込むことは、当該成分化学物質を当該ポリマーコロナに埋め込むことを含む、
請求項29に記載の方法。
【請求項31】
電気泳動ディスプレイに用いる電気泳動分散液を生成するための方法であって、
両親媒性ブロックコポリマーと、疎水性モノマーと、イオン性界面活性剤と、ラジカル開始剤とを疎水性相中で混合することと、
前記疎水性相を親水性相と混合し、当該親水性相中に懸濁した疎水性液滴と当該疎水性液滴の周囲に融合したイオン性界面活性剤とを含むナノエマルションを形成することと、
前記ラジカル開始剤を活性化させて前記両親媒性ブロックコポリマーの疎水性ブロックと前記疎水性モノマーとを架橋することにより、前記イオン性界面活性剤によって電荷が付与されるポリマーコロナを有するポリマー粒子を形成することと、
前記ナノエマルションを親油性対イオンと混合し、前記ポリマー粒子の前記電荷を中和することと、
前記ポリマー粒子の前記ポリマーコロナを官能化して、当該ポリマー粒子の前記両親媒性ブロックコポリマーの親水性ブロックに化学物質を結合することにより前記電気泳動分散液の第1の部分を形成することと、を含み、当該化学物質は、当該電気泳動分散液を通過する電磁界の変化に応じて、当該電気泳動分散液の第2の部分における相補的成分化学物質と相互作用するように誘導され、当該電気泳動分散液の光学特性を変化させる、
方法。
【請求項32】
前記ラジカル開始剤は光開始剤であり、当該開始剤を活性化させることは、前記ナノエマルションを紫外線に曝露することを含む、
請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記ラジカル開始剤は熱開始剤であり、当該開始剤を活性化させることは、前記ナノエマルションを加熱することを含む、
請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記疎水性相を前記親水性相と混合する前に、当該疎水性相に共溶媒を添加して当該親水性相との混合を改善することをさらに含む、
請求項31乃至33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記ポリマーコロナを前記化学物質で官能化する前に、前記ナノエマルションの透析、溶媒交換、および乾燥材の添加のうち1つまたは複数を行うことにより当該ナノエマルションから過剰な水を除去することをさらに含む、
請求項31乃至34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記電気泳動分散液の前記第1の部分を、当該電気泳動分散液の前記第2の部分と混合することをさらに含む、
請求項31乃至35のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本願は、米国特許仮出願番号第62/755,767号(2018年11月5日出願)および米国特許仮出願番号第62/755,746号(2018年11月5日出願)に対する優先権を主張する。これらの仮出願の全内容を参照により本明細書に援用する。
【0002】
本開示は、ディスプレイ装置、とくに電気泳動ディスプレイ装置(electrophoretic display devices)に関する。
【背景技術】
【0003】
ディスプレイ装置は、加法混色系(additive colour system)または減法混色系(subtractive colour system)に基づいて動作することができる。加法混色系は、電磁スペクトルの異なる帯域、一般的には、電磁スペクトルの赤色、緑色、青色可視光部分をそれぞれ反射する異なる染料の組み合わせを用いる。減法混色系は、電磁スペクトルの異なる帯域、ここでも一般的には、電磁スペクトルの赤色、緑色、青色可視光部分をそれぞれ吸収する異なる染料(それぞれ、シアン、マゼンタ、イエローの染料となる)の組み合わせを用いる。いずれの混色系の場合も、各ピクセルにおける染料の使用度合いを異ならせることで、画像や動画を表示することができる。
【0004】
加法混色系の一例として、液晶ディスプレイが挙げられる。液晶ディスプレイは、互いに隣接した赤、緑、青のサブピクセルのカラーフィルタを用いる。当該ディスプレイは、液晶セルを用いて、カラーフィルタを通過する光量を異ならせる。サブピクセルを通過する光量を制御することで、画像を生成することができる。しかしながら、液晶ディスプレイは、各カラーフィルタにおいて、他の2色のカラーフィルタであれば透過する波長がすべて吸収されるため、利用可能な全光量のかなりの部分、平均で約67%が失われてしまうという欠点がある。十分な明るさの光源がないと、液晶ディスプレイが表示する画像は一般的に、色のコントラストが低い薄暗い画像となってしまう。これは特に屋外の照明条件で顕著であるが、一般的な屋内の照明条件でも起こり得る。
【0005】
減法混色系の一例として、エレクトロウェッティングディスプレイ(electrowetting display)が挙げられる。エレクトロウェッティングディスプレイは、シアン、マゼンタ、またはイエローの油滴を含むピクセルの層を重ね合わせたカラーフィルタを用いる。油滴は、一つの小さな油滴へと融合してピクセルの隅に移動させて、光をほとんど吸収しないように制御したり、油滴を広がらせてピクセルの一部またはすべてを覆うようにし、より多くの光を吸収するように制御したりすることができる。最終的に各層を通過した光は、幅広い色を表すことができる。しかしながら、エレクトロウェッティングディスプレイは、油の流体物性によりピクセルの一部が常に油に覆われるため、これによりディスプレイからの光が減じられ、ディスプレイの全体的な明るさが低下してしまうという欠点がある。
【0006】
ディスプレイ装置の他の種類として、エレクトロクロミックディスプレイ(electrochromic display)がある。エレクトロクロミックディスプレイでは、電流を印加して物質の酸化状態を変化させ、当該物質を一の色状態から他の色状態へと変化させる。エレクトロクロミックディスプレイ装置は、液晶ディスプレイやエレクトロウェッティングディスプレイと同様の光損失は通常発生しないが、応答速度が遅く、またピクセルの色を変化させるのに大量の電力を消費するというデメリットがある。さらに、副反応(side reactions)によりディスプレイの寿命が短くなるというデメリットもある。
【発明の概要】
【0007】
本明細書の一態様によれば、電気泳動ディスプレイに用いる電気泳動分散液が提供される。電気泳動分散液は、第1の化学物質および第2の化学物質を含む。第1の化学物質および第2の化学物質は、電気泳動分散液を通過する電磁界の変化に応じて、分離状態と光学活性状態との間で切り替わるように可逆的に相互作用するように誘導され、電気泳動分散液の光学特性を変化させる。
【0008】
本明細書の他の態様によれば、電気泳動ディスプレイ装置が提供される。電気泳動ディスプレイ装置は、電気泳動分散液を収容すると共に電気泳動分散液の光学特性を伝達するピクセルチャンバを含むディスプレイを含む。電気泳動分散液は、第1の化学物質および第2の化学物質を含む。電気泳動ディスプレイ装置はさらに、ピクセルチャンバを通過する電磁界を変化させて第1の化学物質および第2の化学物質を分離状態と光学活性状態との間で可逆的に切り替わるように誘導し、電気泳動分散液の光学特性を変化させる電極を含む。電気泳動ディスプレイ装置はさらに、電極を制御し電磁界を変化させて、ディスプレイが表示する画像に対応する光学特性をピクセルチャンバが伝達するようにする制御部を含む。
【0009】
本明細書のさらに他の態様によれば、電気泳動ディスプレイ装置を動作させるための方法が提供される。方法は、電気泳動ディスプレイ装置に表示される画像を表す画像データを取得することを含む。方法はさらに、電磁界によって誘導された際に第1の光学特性を示して分離状態を取り、電磁界によって誘導された際に第2の光学特性を示して活性状態を取る成分化学物質を収容するピクセルチャンバを制御する電気泳動ディスプレイ装置のピクセル電極に対する電圧のマッピングを生成することを含む。方法はさらに、ピクセル電極に電圧のマッピングを適用して、成分化学物質に分離状態または活性状態を取らせることを含む。
【0010】
本明細書のさらに他の態様によれば、コンピュータ装置のプロセッサに電気泳動ディスプレイ装置を動作させるための命令を含む非一時的機械可読記憶媒体が提供される。命令はプロセッサに、電気泳動ディスプレイ装置に表示される画像を表す画像データを取得することと、電磁界によって誘導された際に第1の光学特性を示して分離状態を取り、電磁界によって誘導された際に第2の光学特性を示して活性状態を取る成分化学物質を収容するピクセルチャンバを制御する電気泳動ディスプレイ装置のピクセル電極に対する電圧のマッピングを生成することと、ピクセル電極に電圧のマッピングを適用して、成分化学物質に分離状態または活性状態を取らせることと、を実行させる。
【0011】
本明細書のさらに他の態様によれば、電気泳動ディスプレイに用いる電気泳動分散液を生成するための方法が提供される。方法は、帯電ポリマーコアを作製することと、ポリマーコロナまたはポリマーコロナの前駆体を作製することと、成分化学物質をポリマーコロナまたはポリマーコロナの前駆体に埋め込むことと、を含む。成分化学物質は、電磁界によって誘導された際に第1の光学特性を示して分離状態を取り、電磁界によって誘導された際に第2の光学特性を示して活性状態を取る。
【0012】
本明細書のさらに他の態様によれば、電気泳動ディスプレイに用いる電気泳動分散液を生成するための方法が提供される。方法は、両親媒性ブロックコポリマーと、疎水性モノマーと、イオン性界面活性剤と、ラジカル開始剤とを疎水性相中で混合することを含む。方法はさらに、疎水性相を親水性相と混合し、親水性相中に懸濁した疎水性液滴と疎水性液滴の周囲に融合したイオン性界面活性剤とを含むナノエマルションを形成することを含む。方法はさらに、ラジカル開始剤を活性化させて両親媒性ブロックコポリマーの疎水性ブロックと疎水性モノマーとを架橋することにより、イオン性界面活性剤によって電荷が付与されるポリマーコロナを有するポリマー粒子を形成することを含む。方法はさらに、ナノエマルションを親油性対イオンと混合し、ポリマー粒子の電荷を中和することを含む。方法はさらに、ポリマー粒子のポリマーコロナを官能化して、ポリマー粒子の両親媒性ブロックコポリマーの親水性ブロックに化学物質を結合することにより電気泳動分散液の第1の部分を形成することを含む。化学物質は、電気泳動分散液を通過する電磁界の変化に応じて、電気泳動分散液の第2の部分における相補的成分化学物質と相互作用するように誘導され、電気泳動分散液の光学特性を変化させる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
以下、図面を参照しながら、実施形態について説明する。なお、これらの実施形態は例示であり、本開示を限定するものではない。
【0014】
図1】電気泳動ディスプレイ用の電気泳動分散液の一例を示す模式図である。
図2】2つの化学物質が相互作用して光学活性状態を形成するスキームの一例を示す化学反応式である。ここで、光学活性状態は、電荷移動錯体である。
図3】2つの化学物質が相互作用して光学活性状態を形成するスキームの一例を示す化学反応式である。ここで、光学活性状態は、2つの化学物質の一方が特定の互変異性形態である。
図4】化学物質の相互作用により光学活性状態が形成されることによる吸収スペクトルの変化を表す吸収スペクトル曲線の一例を示す波長吸収プロット図である。
図5図2のスキームに基づく化学物質の相互作用により光学活性状態が形成されることによる吸収スペクトルの変化を表す吸収スペクトル曲線の一例を示す波長吸収プロット図である。
図6図3のスキームに基づく化学物質の相互作用により光学活性状態が形成されることによる吸収スペクトルの変化を表す吸収スペクトル曲線の一例を示す波長吸収プロット図である。
図7】ポリマー鎖に付着した化学物質の一例を示す化学構造式である。
図8】ポリマー鎖に付着した化学物質の他の一例を示す化学構造式である。
図9】(A)は、テトラシアノキノジメタンに基づく受容体の一例を示す化学構造式である。(B)は、テトラチアフルバレンに基づく電子供与体の一例を示す化学構造式である。
図10図9(A)の電子受容体および図9(B)の電子供与体により形成される電荷移動錯体の一例を示す化学構造式である。
図11】(A)は、第1の互変異性形態における活性化可能互変異性体を示す化学構造式である。ここで、第1の互変異性形態は、無色の吸収スペクトルを示す。(B)は、第2の互変異性形態における図11(A)の活性化可能互変異性体を示す化学構造式である。ここで、第2の互変異性形態は、可視吸収スペクトルを示す。
図12図11(A)および(B)の活性化可能互変異性体を安定化させ、図11(B)の互変異性形態を取らせることが可能な安定剤の一例を示す化学構造式である。
図13図12の安定剤により、図11(B)の互変異性形態で安定化した図11(A)および(B)の活性化可能互変異性体を示す化学構造式である。
図14】成分化学物質が付着したポリマーコロナを有し互いに逆に帯電した移動キャリアを収容する電気泳動分散液の一例を示す模式図である。これらの帯電移動キャリアが近接することで、成分化学物質が光学活性状態を形成することができる。
図15図14の電気泳動分散液の模式図であり、互いに逆に帯電した移動キャリアが近接することでポリマーコロナが重なり合い、成分化学物質の相互作用が可能になった状態を示す図である。
図16図14の電気泳動分散液が例示的なピクセルチャンバ内に配置された状態を示す模式図である。
図17】電気泳動分散液および図16のピクセルチャンバを示す模式図であり、互いに逆に帯電した移動キャリアが電磁界の印加によって分離された状態を示す図である。
図18】互いに逆に帯電した例示的な移動キャリアを電気泳動分散液中に含む例示的なピクセルチャンバの断面構造を示す模式図である。電極に電圧を印加し、ピクセルチャンバを通過する電磁界を変化させることで、互いに逆に帯電した移動キャリアが分離される。
図19-1】図18のピクセルチャンバを示す模式図であり、電圧が取り除かれることで、互いに逆に帯電した例示的な移動キャリアが引き寄せ合い、近接可能になった状態を示す図である。
図19-2】(A)は、反射型ディスプレイに組み込まれたピクセルチャンバの一例を模式図である。(B)は、サイドライト付き反射型ディスプレイに組み込まれたピクセルチャンバの一例を示す模式図である。(C)は、バックライト付き透過型ディスプレイに組み込まれたピクセルチャンバの一例を示す模式図である。
図20】電気泳動分散液を電極から分離するための誘電体バリアを備える、ピクセルチャンバの他の一例の断面構造を示す模式図である。
図21A】垂直ピクセルチャンバアレイの一例の断面構造を示す模式図である。
図21B】水平ピクセルチャンバアレイの一例の断面構造を示す模式図である。
図21C】複数のピクセルチャンバを有するマルチカラーピクセルユニットの一例を示す模式図である。
図22A】電気泳動ディスプレイ装置を動作させるための方法の一例を示すフローチャートである。
図22B】電気泳動ディスプレイ装置を制御するための命令を含む非一時的機械可読記憶媒体の一例を示す模式図である。
図23】ピクセルチャンバ内に配置される電気泳動分散液の他の一例を示す模式図である。当該ピクセルチャンバは、成分化学物質を含むポリマーコロナを有する帯電移動キャリアと、相補的成分化学物質を担持するポリマーコロナで修飾された内壁とを有する。
図24】電気泳動分散液を示す模式図であり、帯電移動キャリアが内壁に引き寄せられることで、相補的成分化学物質の相互作用が可能になった状態を示す図である。
図25】電気泳動分散液を含んだ複数の円筒状ボイドを有するピクセルチャンバの一例の断面構造を示す模式図である。
図26A】電気泳動ディスプレイに使用される電気泳動分散液を生成するための方法の一例を示すフローチャートである。
図26B】電気泳動ディスプレイに使用される電気泳動分散液を生成するための方法の他の一例を示すフローチャートである。
図26C図26Bの方法に基づく電気泳動分散液の生成工程の一例を示す模式図である。
図26D】電気泳動ディスプレイに使用される電気泳動分散液を生成するための方法のさらに他の一例を示すフローチャートである。
図26E図26Dの方法に基づく電気泳動分散液の生成工程の一例を示す模式図である。
図27】(A)は、電気泳動ディスプレイ装置の一例を示す模式図である。(B)は、電気泳動ディスプレイ装置の他の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
電気泳動ディスプレイは、ピクセルチャンバ(pixel chamber)に収容された懸濁液中で粒子を移動させることにより画像を生成する。粒子は帯電されるため、懸濁液を通過する電磁界の変化に応じて移動することができる。また、粒子は特定の吸収スペクトル(absorption spectra)を示す。粒子がピクセルチャンバ内の適切な位置にある場合、ピクセルチャンバ自体によって当該吸収スペクトルが透過または反射されることで、画像を生成することができる。例えば、粒子がピクセルチャンバの透明な前面側(forward-facing side)を覆うように位置している場合にのみ、ピクセルチャンバは、その内部に収容した粒子グループの吸収スペクトルを透過または反射するようにすることができる。粒子がピクセルチャンバの前面側を覆っていない場合、当該前面側を占める他の懸濁液成分の吸収スペクトル等、異なる吸収スペクトルがピクセルチャンバによって透過または反射される。したがって、電気泳動ディスプレイのピクセルは、対応するピクセルチャンバ内の粒子の移動によって変化させることができる。電磁界に応じて移動可能な帯電粒子を含む懸濁液を、電気泳動分散液(electrophoretic dispersion)と呼ぶことができる。
【0016】
このような従来の電気泳動ディスプレイは、帯電粒子が電気泳動分散液中を移動して適切な位置に到達するまでの速度の制約が存在する。こうした制約は、ディスプレイ装置のリフレッシュレートや動画表示能力の制限につながる。また、このような従来の電気泳動ディスプレイは、粒子がその吸収スペクトルを発揮するために使用されていない場合であっても、懸濁液中のいずれかの箇所に残留するという制約が存在する。これら使用されていない粒子が残留することによって、ディスプレイの明るさが全体的に失われてしまう。こうしたリフレッシュレートや明るさに対する制約は、反射型液晶ディスプレイ、エレクトロウェッティングディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイなど他のディスプレイ技術にも共通している。
【0017】
これらの制約は、ピクセルチャンバの色やその他の光学特性を、視線内外への化学物質の全体的な移動(bulk movement)に依存しない態様で制御可能な機構を採用した場合および、懸濁液中で使用されていない化学物質が残留することを回避可能な場合、電気泳動ディスプレイにおいて回避できる場合がある。
【0018】
この機構は、2つの化学物質(chemical entities)を用いることを含むことができる。当該化学物質を可逆的に相互作用するように誘導することで、当該化学物質が収容されるピクセルチャンバが示す光学特性に変化をもたらす光学活性状態(optically active state)を得ることができる。第1の化学物質および第2の化学物質は、互いに十分に離間した際の分離状態(separated state)と、互いに十分に近接した際の光学活性状態とに切り替わることができる。これらの化学物質は、電磁界の変化に応じて共に移動したり、離れたりすることで、分離状態と光学活性状態とに切り替わることができる。このように相互作用する化学物質は、成分化学物質(component chemical entities)と呼んでもよいし、相補的化学物質(complementary chemical entities)と呼んでもよい。
【0019】
このような電気泳動分散液は、電気泳動ディスプレイ装置のカラーフィルタに組み込むことができる。電気泳動ディスプレイ装置は、高リフレッシュレートや低消費電力に加え、高い透過率や彩度を得ることが可能である。電気泳動ディスプレイ装置は、反射型ディスプレイまたは透過型ディスプレイを含むことができる。反射型ディスプレイは、エッジライトまたはサイドライトを備えることができる。あるいは、アクティブ型照明は搭載されていなくてもよく、入射光の反射を照明として用いてもよい。電気泳動ディスプレイ装置は透過型ディスプレイを含んでもよく、透過型ディスプレイはバックライトを備えてもよい。
【0020】
上記の光学特性変化機構(optical property-changing mechanism)は化学物質の移動を伴うが、ピクセルチャンバの一端から他端までの粒子の移動を伴う機構に比べて、短い距離の化学物質の移動によって光学特性の変化を得ることができる。さらに、固定された光学特性を有する粒子の移動ではなく、化学物質の相互作用によって光学活性状態が生成されるため、望ましくない光学特性を有する非使用の粒子が電気泳動分散液中に残存することがない。むしろ、電気泳動分散液は、化学物質が光学活性状態にない場合は、無色(colourless)状態を取ることができる。光学活性状態にない場合に無色状態を取ることで、明るさを大きく失うことなく光をピクセルチャンバに通過させることができる。したがって、カラーフィルタに対する色の寄与が各々異なるピクセルチャンバの層を互いに積層することで、他のディスプレイ技術に比べて明るさの損失が大幅に低減されたフルカラーディスプレイを得ることができる。
【0021】
図1は、電気泳動ディスプレイに用いる一例としての電気泳動分散液100を示す模式図である。電気泳動分散液100は、第1の化学物質102および第2の化学物質104を含む。
【0022】
第1の化学物質102および第2の化学物質104は、電気泳動分散液100を通過する電磁界106の変化に応じて、分離状態103と光学活性状態105とに可逆的に切り替わるように誘導することができ、これにより、電気泳動分散液100の光学特性を変化させることができる。すなわち、分離状態103の第1の化学物質102および第2の化学物質104は、電気泳動分散液100に対して第1の光学特性を付与し、光学活性状態105の第1の化学物質102および第2の化学物質104は、電気泳動分散液100に対して、第1の光学特性と異なる第2の光学特性を付与する。
【0023】
電磁界106の変化は、電磁界106を実質的に生成すること、電磁界106を実質的に消滅させること、電磁界106の強度を上げること、または電磁界106の強度を下げることを含むことができる。すなわち、いくつかの例では、電磁界106の生成または消滅に応じて、化学物質102、104の実質的にすべてが分離状態103と光学活性状態105との間で切り替わるという点で、電磁界106の変化を二元的なものとすることができる。また、他の例では、電磁界106の強度の増減に応じて、化学物質102、104のある割合が分離状態103から光学活性状態105へ、あるいは光学活性状態105から分離状態103へと変化するという点で、電磁界106の変化を連続的なものとすることができる。
【0024】
化学物質102、104を分離状態103と光学活性状態105との間で切り替えることにより変化する光学特性として、電気泳動分散液100が示す吸収スペクトルを含むことができる。すなわち、電気泳動分散液100は、化学物質102、104(またはそのかなりの割合)が分離状態103にあるときには、第1の色、彩度、またはその他の光学特性を示し、化学物質102、104(またはそのかなりの割合)が光学活性状態105にあるときには第2の色、彩度、またはその他の光学特性を示すことができる。したがって、電磁界106を印加したり調整したりすることによって、電気泳動ディスプレイが表示する画像の色、彩度、または他の光学特性を変化させることができる。
【0025】
分離状態103に関連付けられた光学特性が得られる程度に第1および第2の化学物質102、104を電気泳動分散液100中で十分に離間させることで、分離状態103を得ることができる。また、第1および第2の化学物質102、104を近接させることにより、化学物質102、104の少なくとも一方に可逆的な化学的または立体配座的(conformational)変化を引き起こすことにより、光学活性状態105を得ることができる。近接状態にある化学物質102、104は、互いの間で分子内力(intramolecular forces)を受けることができる。例えば、第1の化学物質102を電子受容体(electron acceptor)、第2の化学物質104を電子供与体(electron donor)とすることができ、光学活性状態105は、光学活性電荷移動錯体(optically active charge transfer complex)の状態とすることができる。当該状態は、化学物質102、104のいずれの割合の和(proportional sum)とも異なる吸収スペクトルを示す。他の例として、第1の化学物質102を活性化可能互変異性体(activatable tautomer)、第2の化学物質104を当該活性化可能互変異性体の安定剤(stabilizer)とすることができ、光学活性状態105は、当該活性化可能互変異性体が光学活性状態で安定化した状態とすることができる。この例において、「活性化可能」とは、当該活性化可能互変異性体が可視スペクトル内の吸収スペクトルを示すことができる一方で、安定剤に誘発されることで可視スペクトル外の吸収スペクトルを示すことができるという点で、「変異可能(mutable)」であることを意味することができる。したがって、活性化可能互変異性体は、「変異可能」互変異性体と呼ぶこともできる。
【0026】
図2は、平衡状態のセット(set of equilibrium states)の一例を示す化学反応式である。この例においては、2つの化学物質、すなわち電子受容体(A)と電子供与体(B)が相互作用して、電気泳動分散液中に光学活性電荷移動錯体(C)を形成する。
【0027】
分離状態202において、化学物質AおよびBは、互いに直接相互作用できない距離にて分離される。会合(associating)状態204において、化学物質AおよびBは十分に近接し、分子間相互作用(ファンデルワールス力、双極子-双極子相互作用、四重極相互作用、π相互作用、水素結合、イオン相互作用等)を介して相互作用が可能となる。光学活性状態206において、化学物質AおよびBは光学活性電荷移動錯体(C)を形成する。ここで、平衡定数K assocおよびK complexはそれぞれ、化学物質AとBの会合の平衡定数および化学物質AとBの錯化(complexation)の平衡定数を表す。光学活性状態206は、電気泳動分散液の電磁的条件下で化学物質AおよびBが錯体Cを形成する安定状態である。
【0028】
会合状態204において、多くの分子間相互作用が弱いことに(少なくとも部分的に)起因して、分離状態202と会合状態204とが平衡に達する。この平衡は、化学物質AとBの相互作用の強さと、物理的に十分近接して会合状態を形成した化学物質AとBの組の数とに依存する。
【0029】
分離状態202から会合状態204への遷移、および会合状態204から光学活性状態206への遷移は可逆的なプロセスであり、3つの状態の各々が平衡に達する。さらに、分離状態202から光学活性状態206への全体的な遷移も可逆的なプロセスである。化学物質AおよびBが物理的に十分に分離している場合、会合の平衡定数K assocが小さくなるため、この平衡が左に大きく移動する。一方、化学物質AおよびBが近接すると、平衡が光学活性状態206側に移動する。
【0030】
光学活性状態206は、分離状態202にある成分化学物質AおよびBのスペクトルのいずれの割合の和とも異なる吸収スペルトルを有する。その結果、会合の平衡定数K assocと錯化の平衡定数K complexが十分に高い場合、成分化学物質A、Bを選択的に近接および/または分離することで、電気泳動分散液のかなりの割合の吸収スペクトルを顕著に変化させることができる。
【0031】
平衡は主に、互いに近接して会合する成分化学物質AおよびBの数を変化させることで操作することができる。当該変化により、K assocが効果的に変化する。K assocとK complexが高いと光学活性状態206を生成しやすいが、K平衡定数の値が約10を超えることは、光学活性状態206および会合状態204から分離状態202への解離(dissociation)を阻害する可能性があるため、望ましくない。なお、式の右から左方向への解離をある程度許容することは、プロセスの可逆性を確保するために重要である。そのため、K assocとK complexの値は、0.01~10の範囲が好ましく、1~10の範囲がより好ましく、10~10の範囲が最も好ましい。
【0032】
吸収スペクトルを変化させるために化学物質AおよびBが選択される用途において、電子受容体(A)は、比較的電子が不足(electron-deficient)し、高いイオン化ポテンシャルを有し、かつ可視スペクトル外に最長吸収波長を持つHOMO-LUMOバンドギャップを有する分子とすることができる。さらに、電子供与体(B)は、低いイオン化ポテンシャルを有し、かつ可視スペクトル外に最長吸収波長を持つHOMO-LUMOバンドギャップを有する分子とすることができる。
【0033】
図3は、平衡状態のセットの他の一例を示す化学反応式である。この例においては、2つの化学物質、すなわち活性化可能互変異性体(D)と当該活性化可能互変異性体の安定剤(E)が相互作用して、電気泳動分散液中に当該活性化可能互変異性体の光学活性形態(F)を形成する。
【0034】
この例において、活性化可能互変異性体は、第2の形態Fよりも第1の形態Dがエネルギー優位性(energetic preference)を有する。形態Dは、形態Fとは異なる吸収スペクトルを有する。形態Dがこの変異可能化学物質の優勢形態(predominant form)であってよいが、形態Fもまた、動力学的および熱力学的に、室温付近またはそれより高い温度で起こり得るため、平衡定数K act,unassocで表される溶液中で自然に生じる。この平衡定数は、1以下と定義される。そうでない場合は、形態Dと形態Fがスキーム内で単に役割を交換することになる。
【0035】
このスキームにおける安定剤である化学物質Eは、エネルギー優位性のある形態Dを安定化させる(この場合、不活性化を行う(deactivating)と表現できる)か、または、活性化可能互変異性体との相互作用により、形態Fを安定化させる(この場合、活性化を行う(activating)と表現できる)ことができる。
【0036】
このスキームには、不活性非会合状態(inactive unassociated state)302が存在する。当該状態においては、活性化可能互変異性体は、光学的に不活性な形態となる。不活性非会合状態302は、活性化可能互変異性体と安定剤Eが物理的に十分離間している場合において最も好ましい状態である。ただし、活性化可能互変異性体と安定剤Eが物理的に分離している場合であっても、活性化可能互変異性体が光学不活性形態Dから光学活性形態Fに自発的に遷移した場合は、活性非会合状態(active unassociated state)304が生じることがある。一般的に活性非会合状態304は、平衡定数K act,unassocが1以下と定義されることから、不活性非会合状態302に比べて好ましくない。活性化可能互変異性体と安定剤Eが十分に近接し、分子間力による相互作用が可能になると、平衡定数K assoc,inactおよびK assoc,actの大きさが大幅に増加し、平衡が不活性会合状態(inactive associated state)306および光学活性状態308の方向に移動する。光学活性状態308は、「相互作用」状態と呼ぶこともできる。要するに、D+EおよびF+Eで示される状態(それぞれ状態302および状態304)を非会合状態と呼ぶ。この状態においては、2つの化学物質は、互いの分子間相互作用が両者の挙動に与える影響が無視できる程度まで、十分に分離される。逆に、D…EおよびF…Eで示される状態(それぞれ状態306および状態308)を、会合状態と呼ぶ。この状態においては、化学物質の組の分子間力が無視できない程度に大きく、両者の挙動に影響を与える。活性化可能互変異性体が形態Dの状態を不活性状態と呼び、活性化可能互変異性体が形態Fの状態を活性状態と呼ぶ。
【0037】
F…Eで示される光学活性状態308は、他の状態における成分化学物質D、E、Fのスペクトルのいずれの割合の和とも異なる吸収スペクトルを有する。したがって、化学物質DとEおよび/または化学物質FとEを光学活性状態F…Eに遷移させることで、電気泳動分散液の吸収スペクトルを変化させることができる。
【0038】
安定剤Eは、活性化可能互変異性体の一の形態に対して、他の形態よりも強い相互作用を形成する。そのため、当該一の形態を安定化させる。K act,unassocが1以下であることから、ほとんどの場合、形態Fを安定化させることが好ましく、形態Fによって電気泳動分散液の吸収スペクトルを最も大きく変化させることができる。ただし、K act,unassocが1に近い場合、形態Dおよび形態F間の平衡は、安定剤Eの存在によっていずれの方向にも移動することができ、この場合も電気泳動分散液の吸収スペクトルに顕著な変化を生じさせる。
【0039】
安定剤Eは、水素結合、π相互作用、双極子-双極子相互作用等、2つの化学物質の全電子エネルギー(total electronic energy)を低下させる引力相互作用(attractive interaction)によって、変異可能化学物質を安定化させることができる。安定剤Eは、変異可能化学物質の両形態とも好適に相互作用できるが、一方の形態に対して他方の形態よりも好適に相互作用する。すなわち、安定剤Eが活性化を行う場合、K assoc,act>K assoc,inactであり、K act,assoc>K act,unassocである。安定剤Eが不活性化を行う場合は、これの逆となる。つまり、安定剤Eが活性化を行う場合、安定剤Eと形態Fとの会合は、安定剤Eと形態Dとの会合よりも大きくなり、かつ、形態Dから形態Fへの活性化は、形態Dが安定剤Eと会合していない場合よりも会合している場合により好適となる。安定剤Eが不活性化を行う場合は、これの逆となる。K act,unassocは1より小さいが、これによってK act,assocが制限されることはなく、K act,assocは1より大きくてもよいし、1以下でもよい。安定剤Eが活性化を行っているか不活性化を行っているかにかかわらず、これらの不等式が破られることはない。
【0040】
本明細書において、光学活性状態という用語は、2つの成分化学物質が近接して相互作用することで、両者が分離している場合とは異なる光学特性が得られる状態を意味する。光学活性状態が光学不活性状態と吸収スペクトルの点で異なる場合(成分化学物質の相互作用により、可視色変化(visible colour change)を生じさせる実施態様など)、光学活性状態という用語は、光学活性状態が可視スペクトル内にピークを有する吸収スペクトルと関連付けられているか否かにかかわらず、2つの成分化学物質によって示される状態を意味するものとして用いることができる。すなわち、光学活性状態は、可視スペクトル外にピークを有する吸収スペクトルと関連付けられてもよい。
【0041】
図4は、電気泳動分散液中の成分化学物質の吸収スペクトル曲線の3つの例を示す波長吸収プロット図である。なお、図示のスペクトル曲線は例示に過ぎず、本明細書に記載の化学物質の実際の電子吸収スペクトルを反映することを意図したものではなく、本明細書に記載のスキームの概念を例示するためのものである。
【0042】
図中の点線は、第1の化学物質(図2の物質Aまたは図3の物質D等)の吸収スペクトルの一例を示している。鎖線は、第2の化学物質(図2の物質Bまたは図3の物質E等)の吸収スペクトルの一例を示している。一点鎖線は、光学活性状態の化学物質(図2の錯体Cまたは図3の活性結合状態F…E等)の吸収スペクトルの一例を示している。
【0043】
3つの成分化学物質はそれぞれ異なる吸収スペクトルを有する。各々、スペクトルのUV部分に強い吸収ピークを持つが、その中心波長はそれぞれ異なる。このスペクトルのUV部分におけるピークについては、図5および6においてさらに説明する。
【0044】
一点鎖線で表される光学活性状態の化学物質の特徴として、スペクトルの可視部分にも吸収ピークを持つ。当該ピークを、活性帯域(active band)402として示す。なお、活性帯域402はスペクトルの可視部分に必ずしもある必要はなく、装置の機能にとって重要な波長をカバーすることがその意図である。人間が見ることを目的とした電気泳動ディスプレイ装置の場合は、活性帯域402はスペクトルの可視部分に存在する。そのため、光学活性状態の化学物質が存在しない場合、電気泳動分散液は無色の状態となる。そして、光学活性状態の化学物質がかなりの割合で存在する場合、電気泳動分散液は活性帯域402の補色(complementary colour)を呈する(この例ではマゼンタ)。ただし、他の用途では、活性帯域402がスペクトルの他の部分に存在することも考えられる。活性帯域402は、光学活性状態の化学物質の吸収特性が他の2つの成分化学物質の吸収特性と大きく異なる波長における1つまたは複数の領域をカバーするものであればよい。
【0045】
図5は、図2の化学反応式に記載の化学物質の電気泳動分散液中における吸収スペクトルを表す、吸収スペクトル曲線の2つの例を示す波長吸収プロット図である。なお、図示のスペクトル曲線は例示に過ぎず、本明細書に記載の化学物質の実際の電子吸収スペクトルを反映することを意図したものではなく、本明細書に記載のスキームの概念を例示するためのものである。図中の点線は、分離状態の化学物質AおよびBの吸収スペクトルを表す。実線は、化学物質AおよびBが錯体Cを形成する光学活性状態206の吸収スペクトルを表す。
【0046】
化学物質AおよびBが分離している場合、光学活性状態206は形成されないため、電気泳動分散液の吸収スペクトルは活性帯域502に実質的に吸収を有しない。しかし、成分化学物質が結合して光学活性状態206を形成すると、電気泳動分散液は活性帯域402にて光を吸収する。結合して光学活性状態206を形成する成分化学物質AおよびBの数が多いほど、活性帯域502における吸収が強くなる。光学活性状態206が形成される際、化学物質AおよびBは錯体Cを形成するために消費される。このことは、実線で示す吸収強度が約280nm~360nmの波長で低下していることに表れている。これらの波長は、主に化学物質AおよびBに対応する波長である。
【0047】
図6は、図3の化学反応式に記載の化学物質の電気泳動分散液中における吸収スペクトルを表す、吸収スペクトル曲線の2つの例を示す波長吸収プロット図である。なお、図示のスペクトル曲線は例示に過ぎず、本明細書に記載の化学物質の実際の電子吸収スペクトルを反映することを意図したものではなく、本明細書に記載のスキームの概念を例示するためのものである。図中の点線は、分離状態の化学物質DおよびEの吸収スペクトルを表す。実線は、活性化可能互変異性体が安定剤Eによって形態Fで安定化された光学活性状態308の吸収スペクトルを表す。
【0048】
化学物質が分離している場合、活性化可能互変異性体の光学不活性形態が光学活性形態に対して大きく優位となるため、電気泳動分散液の吸収スペクトルは活性帯域602において非常に弱い吸収しか示さない。しかし、成分化学物質が結合して光学活性状態308を形成すると、電気泳動分散液は活性帯域602にてより多くの光を吸収する。結合する成分化学物質DおよびEの数が多いほど、活性帯域602における吸収が強くなる。化学物質Fが形成される際、安定剤Eは消費されないが、活性化可能互変異性体Dの不活性形態は消費される。このことは、実線で示す吸収強度が約280nm~360nmの波長で低下していることに表れている。これらの波長は、主に化学物質Dに対応する波長である。
【0049】
図7は、リンカー単位(linking unit)(R)およびスペーサー単位(spacing unit)(R)を有するポリマー鎖702に付着(attach)した成分化学物質(X)の一例を示す化学構造式である。成分化学物質Xが機能性ポリマー鎖702に付着することにより、多くの当該成分化学物質Xが小さな空間に圧縮され、(電磁界の変化に応じて移動するとき等に)1つの集合(collection)として移動することが可能になる。成分化学物質Xは、図2の化学物質A、B、図3の化学物質D、E、Fのいずれであってもよい。したがって、これら化学物質のいずれであっても、ポリマー鎖702に付着し、電気泳動分散液中における当該化学物質の移動性(motility)を得ることができる。
【0050】
は、化学物質Xをポリマーの主鎖(backbone)に連結するリンカー単位である。Rの例としては、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、スチレン誘導体等、置換可能な連結ポリマー(substitutable linked polymers)を形成可能なモノマーが挙げられ、好ましくは、分散媒への溶解性を付与するものがよい。Rは、化学物質X間にある程度の距離を確保し、立体障害(steric effects)を低減するためのスペーサー単位である。Rの例としては、同じく、連結ポリマーを形成可能なモノマーが挙げられるが、必ずしも置換可能である必要はない。いくつかの例では、化学物質Xがポリマー鎖702に沿って等間隔に配置されるよう、RおよびRのいずれも各繰り返し単位において同一とすることができる。また、他の例では、連続する成分化学物質X間の距離が変動するよう、Rおよび/またはRは、ある繰り返し単位とその次の繰り返し単位との間で異なっていてもよい。また、さらに他の例では、RまたはRの分岐の一部は、いずれの成分化学物質とも連結していなくてもよい。成分化学物質Xは、他の成分化学物質Xと必ずしもグループ化されている必要はないが、成分化学物質Xを互いに近接してグループ化された集合とすることで、光学活性状態の形成をよりうまく制御し得る。
【0051】
図8は、スペーサー単位(R)を有するポリマー鎖802の主鎖に組み込まれた化学物質(Y)の一例を示す化学構造式である。成分化学物質Yは、ポリマー鎖802に少なくとも二箇所で付着する。成分化学物質Yが機能性ポリマー鎖802に付着することにより、多くの当該成分化学物質Yが小さな空間に圧縮され、(電磁界の変化に応じて移動するとき等に)1つの集合として移動することが可能になる。成分化学物質Yは、図2の化学物質A、B、図3の化学物質D、E、Fのいずれであってもよい。したがって、これら化学物質のいずれであっても、ポリマー鎖802に付着し、電気泳動分散液中における当該化学物質の移動性を得ることができる。
【0052】
は、ここでも、化学物質Y間にある程度の距離を確保し、立体障害を低減するためのスペーサー単位である。いくつかの例では、化学物質Yがポリマー鎖802に沿って等間隔に配置されるよう、Rは各繰り返し単位において同一とすることができる。また、他の例では、連続する成分化学物質Y間の距離が変動するよう、Rは、ある繰り返し単位とその次の繰り返し単位との間で異なっていてもよい。成分化学物質Yは、他の成分化学物質Yと必ずしもグループ化されている必要はないが、成分化学物質Yを互いに近接してグループ化された集合とすることで、光学活性状態の形成をよりうまく制御し得る。
【0053】
図9(A)は、芳香族電子受容体(aromatic electron acceptor)であるテトラシアノキノジメタン(TCNQ)の誘導体である、一例としての電子受容体902を示す化学構造図である。図に例示する電子受容体は、図2の電子受容体(A)として動作することができる。図9(B)は、芳香族電子供与体(aromatic electron donor)であるテトラチアフルバレン(TTF)の誘導体である、一例としての電子供与体904を示す化学構造図である。TTFの誘導形(derived form)は、本明細書に記載のポリマーコロナに結合可能なように変化(modify)される。図に例示する電子供与体は、図2の電子供与体(B)として動作することができる。同様に、TCNQの誘導形も、本明細書に記載のポリマーコロナに結合可能なように変化される。図10は、電子供与体904および電子受容体902によって形成された供与体-受容体錯体の一例を示す化学構造図である。
【0054】
各成分化学物質の電子エネルギーレベルが、各成分化学物質の電子特性を与える。TTFの例では、電子エネルギーレベル、特に最高占有分子軌道(HOMO)が、多くの有機分子に比べて非常に高いエネルギーとなる。TCNQの例では、ニトリル基が電子密度(electron density)を分子の中央から引き離すため、HOMOと最低非占有分子軌道(LUMO)の両方とも、多くの有機分子に比べて低いエネルギーとなる。これはつまり、TTFの例のHOMOとTCNQの例のLUMOとのエネルギー差は、いずれかの分子におけるHOMOとTCNQとのエネルギー差よりも小さいことを意味する。このエネルギー差にほぼ対応するエネルギーを有する光子は、図10に示すように2つの分子軌道が大きく重なるように分子が十分に近接した場合、TTFの例のHOMOからTCNQの例のLUMOに電子を励起するポテンシャルを有する。したがって、電子供与体904と電子受容体902が互いに近接した場合、これらの分子が分離しているときには現れない、電荷移動帯(charge transfer band)と呼ばれる追加の吸収帯が錯体の吸収スペクトルに現れる。この追加の吸収帯が、電気泳動分散液のかなりの割合に現れることで、電気泳動分散液の色が変化する。
【0055】
電子供与体904に関して、R1基~R4基のうち少なくとも1つは、化学物質をポリマー主鎖に付着するように選択することができ(例えば図7または8を参照)、残りの基は、所望に応じて、当該化学物質に対して適切な吸収スペクトルを付与する、電気泳動分散液中での溶解性を付与する、または当該化学物質のエネルギーレベルを変更するように選択される。さらに、R1基~R4基は、芳香族電荷移動錯体(aromatic charge transfer complex)の形成を妨げないように選択することができる。いくつかの例では、R1~R4のうち1つは、炭素数4~8の長さのアルキル鎖に付着されるエステル基とすることができる。当該アルキル鎖は、機能性ポリマー鎖にエーテル基を介して連結される。そして、R1~R4のうち残りの3つはすべて水素である。他の例では、R1~R4のうち1つは、炭素数4~8の長さのアルキル鎖に付着されるエーテル基を介して結合される炭素数1~4の長さの短炭素鎖である。当該アルキル鎖は、機能性ポリマー鎖にエーテル基を介して接続される。そして、R1~R4のうち残りの3つはすべて水素である。
【0056】
電子受容体902に関して、TCNQ自体の場合は、TCNQから誘導された電子受容体902の場合と同様に、強い電子吸引性基(electron withdrawing group)であるニトリル基によって中央の芳香環(central aromatic ring)が包囲される。このニトリル基によって、分子が電子受容体として機能することができる。R5~R8は、芳香族電荷移動錯体の形成を立体的に妨げないように、かつ電荷移動帯のエネルギーを調整すべく化学物質のエネルギーレベルを変更するように選択することができる。また、R5~R8は、電子受容体902の吸収を制御し、かつ電気泳動分散液中での溶解性を付与するように選択することができる。いくつかの例では、R5~R8のうち1つは、炭素数4~8の長さのアルキル鎖に付着されるエステル基とすることができる。当該アルキル鎖は、機能性ポリマー鎖にエーテル基を介して連結される。そして、R5~R8のうち残りの3つはすべて水素である。
【0057】
図10は、図2の光学活性状態206に対応する芳香族電荷移動錯体1002における電子供与体904および電子受容体902を示している。芳香族電荷移動錯体1002は、π相互作用によって安定化される。芳香族電荷移動錯体におけるπ相互作用は、部分的には、分子の平面に対する四極子モーメントによるものである。すなわち、電子供与体904の平面中央が負の静電ポテンシャルを有し、電子受容体902の平面中央が正の静電ポテンシャルを有することにより、この2つの分子が互いに引き寄せ合う。これにより、当該組が安定化され、電荷移動帯の形成が促進される。化学物質を安定化させるこのπ相互作用を、図中破線で示す。この相互作用は、図1に示した錯体Cを形成する相互作用スキームに対応する。芳香族電荷移動錯体1002(錯体C)は、電子供与体904および電子受容体902とは異なる電子特性を有する新たな化学物質である。
【0058】
図11(A)は、活性化可能互変異性体の一例としての互変異性形態1102を示す化学構造式である。図11(B)は、図11(A)の活性化可能互変異性体の他の一例としての互変異性形態1104を示す化学構造式である。この例示的な活性化可能互変異性体の系統名は、4-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]-2-[(1E)-2-(4-ニトロフェニル)エテニル]-2H,3H-フロ[3,4-b]フラン-3-オンである。また、この例示的な活性化可能互変異性体は、置換された2H,3H-フロ[3,4-b]フラン-3-オンと呼ぶこともできる。互変異性形態1102は、可視光スペクトルにおいて無色であり、互変異性形態1104は、可視光スペクトルにおいて吸収極大(absorption maximum)を有する。互変異性形態1102および1104はそれぞれ、図3の互変異性形態DおよびFとして動作することができる。
【0059】
活性化可能互変異性体は、室温において互変異性形態1102および1104の間で容易に相互変換(interconvert)することができる。これは特に、水、酸性部分(カルボン酸等)、塩基性部分(ピリジン等)等の触媒が存在する場合に顕著である。この相互変換は、プロトン移動性(prototropic)水素1105が、活性化可能互変異性体にケト型(keto form)を与える不活性形態1102の炭素と、活性化可能互変異性体にエノール型(enol form)を与える活性形態1104の酸素との間で移動し、炭素または酸素に付着することにより生じる。この種の互変異性を、ケト-エノール互変異性と呼ぶ。ただし、ケト-エノール互変異性は、吸収スペクトルに所望の変化を生じさせるために使用可能な互変異性の種類の一例に過ぎず、他の種類の互変異性も考えられる。
【0060】
上記図3にK act,unassocで示した2つの形態の濃度比は、温度、溶媒、図11(B)に示した形態1104に付着したプロトン移動性水素1105付近にあるフェニル環上の置換基の選択等、多くの要因によって決定される。これらの要因のうち特定の選択においては、平衡定数が実質的に1未満となり得るが、この場合、不活性形態と活性形態とのエネルギー差が大きくなりすぎ、活性形態が検出可能な量で存在できなくなる可能性がある。エネルギー差が大きくなるほどエネルギー差を克服することが難しくなり、互変異性のプロセスが遅くなる可能性があるため、これは一般的に望ましくない。2つの互変異性形態1102および1104は、溶媒中で約4.4kcal/molのエネルギー差がある。したがって、いずれの形態も溶液中に存在することができるが、光学活性形態1104へと安定化されない限り、通常は光学不活性形態1102の方がはるかに多い量で存在する。
【0061】
また、活性化可能互変異性体の置換基は、分子の不活性形態および活性形態の電子吸収スペクトルが電気泳動装置のカラーフィルタの基準に適合するように選択してもよい。
【0062】
いくつかの例では、R9基は、活性化可能互変異性体と機能性ポリマー(図7の機能性ポリマー702等)とを連結するエーテル基が選択される。そうした例では、活性化可能互変異性体は、可視光スペクトルにおいて略透明である不活性形態と、可視光スペクトルにおいてマゼンタの色を呈する活性形態との間で変化可能になる。これらの選択と共に、テトラヒドロフランを電気泳動分散液の溶媒として用いることで、K act,unassocは約0.0005と確定された。他の例では、R9基は活性化可能互変異性体とポリマー鎖とを連結するアルキル、置換されたアルキル、ハロゲン、アルコキシ、またはエステルとしてもよい。
【0063】
いくつかの例では、活性化可能互変異性体はソルバトクロミック(solvatochromic)であってもよい。これにより、溶媒極性(solvent polarity)を用いて吸収スペクトルを調節することができる。したがって、活性化可能互変異性体の置換基を選択するもう1つの基準は、選択した溶媒に対して化学物質を可溶化させることである。例えば、例示した活性化可能互変異性体はソルバトクロミックであり、そのため、溶媒極性を用いて吸収スペクトルをある程度調節することができる。
【0064】
図12は、図11(A)および(B)の活性化可能互変異性体を安定化させて、図11(B)の互変異性形態1104の光学活性状態を得ることが可能な一例としての安定剤1202を示す化学構造図である。図13は、活性化可能互変異性体の光学活性状態の一例を示す化学構造図である。安定剤1202は、図3の安定剤Eとして動作することができる。また、安定剤1202は、光学不活性形態1102よりも光学活性形態1104との間での分子間相互作用の方が強いという観点から、活性化可能互変異性体と適合するように選択される。これにより、これら2つの分子からなる系の総エネルギーが低減され、その結果、当該系が低エネルギー構成になりやすくなる。このように、安定剤1202は活性化可能互変異性体を光学活性形態1104で安定化させる。
【0065】
図示の安定剤1202は、アルキル置換ピリジンを含む活性化安定剤(activating stabilizer)の一例である。安定剤1202は、中心炭素原子の混成(hybridization)を変化させることで、光学不活性形態1102の活性化可能互変異性体と相互作用する。安定剤1202は、光学活性互変異性形態1104と水素結合可能であり、当該光学活性形態1104とπ-π相互作用も可能であるが、光学不活性互変異性形態1102とは水素結合できず、それよりも実質的に弱い相互作用であるπ-π相互作用を行う。2つの分子間の分子間相互作用が強くなるほど、これら2つの分子からなる系の総エネルギーが低減され、その結果、当該系が低エネルギー構成になりやすくなる。このようにして、安定剤1202は活性化可能互変異性体を光学活性形態1104で安定化させる。
【0066】
安定剤1202のR10基は、安定剤1202がポリマー鎖(図7のポリマー鎖702等)に付着できるように選択することができる。この付着は、例えばエーテル連結によって実現することができる。
【0067】
また、選択した溶媒への可溶性を促進するために、追加の置換基を安定剤1202に付加してもよい。これらの置換基は、光学活性形態1104の形成を立体的に妨げないように選択する必要がある。また、置換基は、安定剤1202の吸収スペクトルが、電気泳動分散液が組み込まれた電気泳動ディスプレイ装置の機能を実質的に妨げないように選択してもよい。また、追加の置換基は、活性化可能互変異性体の不活性形態1102との相互作用が最小限になるように選択してもよい。活性化可能互変異性体を含む電気泳動分散液に安定剤1202が存在する場合、図3に示すK act,assocは約25と確定された。これは、光学活性形態1104側に大きく傾いている。
【0068】
図13は、安定剤1202と活性化可能互変異性体の光学活性形態1104との間で形成された錯体を示す図であり、図3の光学活性状態308に対応する。安定剤1202は、活性化可能互変異性体のプロトン移動性(prototropic)水素1105と水素結合するピリジン環を含む。プロトン移動性水素1105と、安定剤1202のピリジン環の窒素との水素結合を、図中破線で示す。安定剤1202のピリジン環と、活性化可能互変異性体のフェニル環とのπ相互作用を、図中斜線で示す。なお、図中いずれの相互作用も正確な縮尺ではない。
【0069】
なお、この例では水素結合とπ相互作用により、変異可能化学物質の活性形態1104を安定化させているが、他の安定剤と活性化可能互変異性体の組においては他の分子間相互作用も同様に用いることができる場合がある。
【0070】
図14は、一例として、電気泳動分散液1406の懸濁液中に分散した互いに逆に帯電した移動キャリア(oppositely charged mobile carriers)1402-1および1402-2を示す図である。帯電移動キャリア1402-1は、2つの化学物質の一方を担持するポリマーコロナ(corona of polymers)1404-1で修飾(adorn)された帯電コア(charged core)1403-1を有する。他方の帯電移動キャリア1402-2は、2つの化学物質の他方を担持するポリマーコロナ1404-2で修飾された帯電コア1403-2を有する。言い換えると、電気泳動分散液において、一の種類の成分化学物質が、一の電荷を有する帯電移動キャリア1402-1に付着または接合(graft)し、他の種類の成分化学物質が、反対の電荷を有する帯電移動キャリア1402-2に付着または接合する。各ポリマーコロナ1404のポリマーは、例えば帯電したポリマーコア1403の表面上の化学官能基に接合するなどして、当該表面から延伸している。帯電したポリマーコア1403、ポリマーコロナ1404、および化学物質を含む各帯電移動キャリア1402を、以下では単に粒子と呼ぶ場合がある。
【0071】
電気泳動分散液1406の懸濁液は、ポリマーコロナ1404に対して良好な溶媒となるように選択することができる。これは、ポリマーコロナ1404が、帯電したポリマーコア1403の表面付近にコイル状に存在することなく液中に自由に延伸できるようになる。
【0072】
互いに逆に帯電した移動キャリア1402が近接していない場合、光学活性状態は形成されないか、形成されたとしても実質的に少量に過ぎない。互いに逆に帯電した移動キャリア1402が近接して成分化学物質の相互作用が可能になると、光学活性状態が形成される。これにより、吸収スペクトルを変化させること等により、電気泳動装置のカラーフィルタに用いる電気泳動分散液の光学特性を変化させる。2つの化学物質が相互作用して電気泳動分散液の光学特性を変化させるに際し、図2または3に記載のスキーム等、本明細書に記載のいずれのスキームを用いてもよい。
【0073】
各帯電移動キャリア1402が外部印加電界の影響下になり場合、各帯電移動キャリア1402は互いに引き合う静電力を受ける。この静電気により、互いに逆に帯電した移動キャリア1402が引き合い、図15に示すように、光学活性状態の化学物質の形成がより良好に行われる。一方、十分に強い外部印加電界の影響にある場合、互いに逆に帯電した移動キャリア1402は、当該電界により印加された互いに逆方向の静電力により分離することができる。この方向は、帯電移動キャリア1402の電荷と、外部印加電界の方向とに依存する。
【0074】
ポリマーコロナ1404のポリマーは、親水性部分と疎水性部分とを有するブロックコポリマーを含んでもよい。親水性部分は、水に溶解しやすいように、かつ成分化学物質で官能化できるように選択することができる。また、親水性部分は、水より極性が低い溶媒中に配置された際に帯電状態を維持しにくいように選択してもよい。この特性は、電荷を持たない化学的部分(chemical moiety)との官能化等の処理によって得ることができる。例えば、カルボン酸とアルコールを結合して、正味電荷を持たないエステルを生成することができる。疎水性部分は、無極性溶媒、特に油性モノマーに溶解するように選択することができる。また、疎水性部分は、ポリマー同士の架橋や、他の疎水性分子との架橋に用いることができる官能基を有するように選択してもよい。ブロックコポリマーは、界面活性剤として機能することができる。ブロック長は、水中油エマルション(oil-in-water emulsion)を安定化させるのに適したコポリマーとなるように選択することができる。
【0075】
帯電ポリマーコア1403は、疎水性モノマーと、ポリマーコロナ1404で用いたような種類のブロックコポリマーと、光開始剤や熱開始剤等の疎水性ラジカル開始剤と、イオン性および非イオン性共界面活性剤(cosurfactant)とを含むことができる。帯電ポリマーコア1403は、帯電移動キャリア1402の電荷の大部分を含む領域である。したがって、この領域は、粒子を取り囲む電界を生成すると共に、粒子が他の電界に反応することを可能とする領域である。この領域の電荷は、対イオンが除去(strip)されたイオン性界面活性剤により与えられる。このイオン性界面活性剤は、帯電コア領域の表面に組み込まれ、当該帯電コア領域の内部に架橋される。
【0076】
疎水性モノマーは、粒子の内部の大部分(bulk)を形成することができ、かつ、帯電移動キャリア1402を取り囲む溶媒に溶けにくいように重合することができる。
【0077】
疎水性モノマーの材料は、他の2つのモノマー、他の3つのモノマー、他の4つのモノマー、または他の5つ以上のモノマーに結合可能なモノマーを含むことができる。また、2より大きい重合官能性(polymerisation functionalities)を有するモノマーを組み込むことができる。なぜならこれらのモノマーは、複数のポリマー鎖を架橋し、帯電移動キャリア1402の内部安定性を高めることができるからである。
【0078】
ラジカル開始剤は、帯電移動キャリア1402の生成における重合プロセスを開始するために用いることができる。
【0079】
ブロックコポリマーは、ナノエマルションの一次界面活性剤(primary surfactant)として作用することができる。また、ブロックコポリマーは、成分化学物質を結合する位置として機能すると共に、さらに、帯電粒子の内部の架橋を促進する。内部安定性のため、ブロックコポリマーは、2より大きい重合官能性を有することが好ましい。
【0080】
非イオン性共界面活性剤を用いた場合、ナノエマルション粒子の表面をより弾性化し、粒子の内部と外部との間の表面張力を低減することにより、帯電移動キャリア1402の生成のためのナノエマルション形成を促進することができる。
【0081】
イオン性界面活性剤はごく少量で存在してよく、帯電した官能基を粒子の表面上に配置する機能を果たす。イオン性界面活性剤は、オレイルトリメチルアンモニウムブロミドやウンデセニルトリメチルアンモニウムブロミド等の第四級アンモニウム系陽イオン界面活性剤等の陽イオン界面活性剤(cationic surfactant)とすることができる。また、イオン性界面活性剤は、オレイル硫酸ナトリウムや銀オメガウンデセニル硫酸塩(silver omega undecenyl sulfate)等の硫酸塩系陰イオン界面活性剤等の陰イオン界面活性剤(anionic surfactant)とすることができる。例示したこれらの界面活性剤は、オレイル疎水性テール(oleyl hydrophobic tail)を用いる。テールの長さはオレイル鎖の長さと異なっていてもよいが、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合が存在する疎水性鎖を有することが好ましい。
【0082】
また、イオン性界面活性剤は、後工程で除去しやすいよう溶液から沈殿する塩が、対イオンによって形成されるように選択することができる。塩を形成するイオン性界面活性剤の例としては、ウンデセニルトリメチルアンモニウムブロミドや銀オメガウンデセニル硫酸塩が挙げられる。他の好適な塩の例としては、ヨウ化銀やテトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等が挙げられる。両方の成分が+1または-1の基本電荷(fundamental charge)を持った状態の塩が好ましい。この場合、界面活性剤は水溶性を維持し、対イオンは水中で解離することがあるが、対イオン同士の組み合わせは水に不溶である。さらに、界面活性剤および対イオンは、ある程度の塩基性条件(basic conditions)に対して非反応性であることが好ましい。
【0083】
粒子当たりのイオン性界面活性剤の数は低く維持することができ、そのため、粒子当たりの電荷数は小さくなる。各粒子は、約1~50個の過剰基本電荷(excess fundamental charge)、好ましくは、4~10個の基本電荷の正味電荷を有することができる。粒子の電荷分布は狭いことが好ましく、分散液中の粒子の大半の正味電荷が、同じ極性を有する他の粒子に対して、平均正味電荷の50%未満の値で異なるようにすることが好ましい。粒子の電荷分布が狭い場合、電界に対する粒子の挙動は、粒子当たりの平均電荷数によって決定される。粒子当たりの平均正味電荷が大きい場合、粒子は外部印加電界に対してより強く反応する。したがって、電気泳動分散液の応答時間が速くなる。なお、応答時間は、新たな遮蔽平衡(screening equilibrium)に達するまでの時間として定義される。ただし、粒子当たりの平均正味電荷が大きくなると、粒子当たりの平均正味電荷が小さい粒子に比べて、被遮蔽領域(screened region)を形成するのに必要な粒子の数が減少する。この電気泳動分散液を用いる実際の装置は、粒子当たりの平均正味電荷に比例した電圧を印加する必要がある。このような装置の消費電力は電圧の二乗に比例する場合があるため、低消費電力が求められる用途においては、粒子当たりの平均正味電荷を小さくすることも好ましい。
【0084】
また、粒子のサイズも関係する。したがって、約20nm~200nmの平均サイズを有する粒子を生成することが好ましく、かつ粒子の大半が当該平均サイズから±60%以内のサイズであることが好ましい。また、粒子のサイズ分布も狭いことが好ましく、粒子の大半が、平均径から約±60%以内の径を有することが好ましく、平均径から約±30%以内の径を有することが最も好ましい。粒子が大きいほど、表面積が大きくなることにより、より多くの成分化学物質を担持でき、色変化の強度を高めることができる。しかし、粒子が大きいほど、同じ電荷を有しサイズがより小さい粒子に比べて、電気泳動移動度(electrophoretic mobility)が低下する。そして、ほとんどの用途において、より迅速な状態変化のために電気泳動移動度は高い方が好ましい。帯電ポリマーコア1403の表面から延伸し、ポリマーコロナ1404を構成するポリマー鎖の長さは、約2nm~50nmとすることができる。ポリマー鎖が長いほど、粒子がより多くの成分化学物質を担持できるようになると共に、より多くの成分化学物質が、他の粒子の成分化学物質と相互作用できるようになる。この両方により色変化の強度を高めることができるが、やはり粒子に対する抵抗(drag)が増加し、粒子の電気泳動移動度が低下することになる。
【0085】
粒子の帯電ポリマーコア1403は、その周囲の懸濁液と略同様の屈折率を有することができる。このようにすることで、これらから散乱して電気泳動分散液の透明度を低下させる光の量を減らすことができる。なお、電気泳動分散液はほとんどの用途においてできるだけ透明であることが好ましい。さらに、溶媒と屈折率が一致していない粒子同士は、互いにより強いファンデルワールス引力を受けるが、これは粒子の正味電荷と関係がなく、分散液の安定性を低下させる可能性がある。したがって、十分に屈折率を一致させることが好ましい。コアと懸濁液の屈折率の差は、約0.1単位より小さいことが好ましく、約0.01単位より小さいことが最も好ましい。
【0086】
懸濁液の屈折率は、他のほとんどの有機液体よりも高いことが好ましく、これにより、固相基板との屈折率のコントラストを最小限にすることができる。このようにするのは、屈折率が一致しない界面は、意図しない光の反射や散乱を生じさせる可能性があるためである。さらに、光波は高屈折率媒質によって案内される。これにより、光が電気泳動分散液中を通過する時間が長くなり、したがって、電気泳動分散液によって吸収される光の量が多くなる。
【0087】
このように、第1の化学物質は、電気泳動分散液1406に分散した第1の帯電移動キャリア1402-1に付着し、第2の化学物質は、電気泳動分散液1406に分散した第2の帯電移動キャリア1402-2に付着する。第1および第2の帯電移動キャリア1402は互いに逆の電荷を有する。そして、電気泳動分散液を通過する電磁界の変化によって第1および第2の帯電移動キャリア1402が分離され、第1および第2の化学物質が分離状態となる。
【0088】
図15は、2つの例示的な帯電移動キャリア1402が近接した状態を示す模式図である。ここで、ポリマーコロナ1404内に位置する多数の成分化学物質が近接している。そして、相互作用することで光学活性状態を形成することができる。このような相互作用は特に、ポリマーコロナ1404が重なり合う領域であるコロナ重複領域1502で発生する可能性が高い。
【0089】
帯電移動キャリア1402、ひいては成分化学物質が近接していない場合、会合平衡定数(例えば、図2および3のK assoc、K assoc,inact、K assoc,act)は、成分化学物質が離間距離にあるため物理的に互いに会合できないことから、実質的にゼロに近くなる。しかし、帯電移動キャリア1402が近接すると、会合可能な程に近接した成分化学物質の濃度が急激に高まり、図2および3のどちらのスキームにおいても平衡が右側に移動する。これは、会合平衡定数の実効的な増加に相当する。この効果は実際には成分化学物質の局所濃度の変化によるものだが、会合定数の変化がこうした局所濃度の変化ではなく、成分化学物質同士の会合の可能性を反映したものであると考慮することが有用である。
【0090】
成分化学物質は、(例えば図7に示したような)ポリマー鎖上のペンダント基であってもよいし、(例えば図8に示したような)ポリマー主鎖の一部でもよい。成分化学物質が付着したポリマー鎖は、それ自体が、互いに逆に帯電した移動キャリア1402の表面に大量に付着している。
【0091】
帯電移動キャリア1402は、電気泳動分散液1406の懸濁液中に懸濁される。電気泳動分散液1406の懸濁液は、帯電移動キャリア1402と同様の屈折率を有することが好ましく、屈折率の差は約0.1単位以内であることが好ましく、約0.01単位以内であることが最も好ましい。電気泳動分散液1406の懸濁液は、所望の色変化の彩度を得る上で現実的な程度に少ない数の帯電移動キャリア1402を含むことができる。
【0092】
移動電荷(mobile charge)の約90%以上が帯電移動キャリア1402内に位置していることが好ましく、約99%超が帯電移動キャリア1402内に位置していることが最も好ましい。これにより、帯電移動キャリア1402を近接させて電気泳動装置のカラーフィルタを切り替えるのに必要な電圧を下げることができる。
【0093】
図16は、互いに逆に帯電した2つの例示的な移動キャリア1402が、2つの固定面(fixed surfaces)1602の間で電気泳動分散液1406の懸濁液中に懸濁された状態を示す図である。これらの粒子は、図14のように、ポリマーコロナ1404によって修飾されている。さらに、ポリマーコロナ1404が重なり合った図15のように、成分化学物質が近接することにより、平衡が光学活性状態を形成する方向に移動する。これが主に発生する領域を、図中ではコロナ重複領域1502として示す。図16に示すように、これは弱い印加電磁界1604しか存在しないという前提に基づいており、この場合、帯電移動キャリア1402は依然として相互静電引力によって集合し、近接状態を維持することができる。
【0094】
図17は、2つの固定面1602の間に位置する2つの帯電移動キャリア1402に対する、印加電磁界1604の影響の一例を示す図である。なお、図では2つの帯電移動キャリア1402しか示していないが、ほとんどのピクセルチャンバにおいては、これよりはるかに多い数の帯電移動キャリア1402が電気泳動分散液1406の懸濁液中に懸濁される。電界の強さがゼロから上昇するにつれて、帯電移動キャリアの組またはグループの一部が分離されて、重なり合うポリマーコロナ1404の数が減少し、したがって、近接して会合する成分化学物質の数が減少し、これにより、光学活性化学物質の形成可能数が減少する。帯電移動キャリア1402は、印加電磁界1604を実質的に打ち消す対向する誘導電界1702が電荷分離(charge separation)によって生じる時点まで、分離される。この時点において、接触する粒子の数は略一定となる。印加電界が最大必要強度まで上昇すると、互いに逆に帯電した移動キャリアのすべてが分離される。そして、すべての相補的化学物質が分離され、光学活性状態の化学物質がバックグラウンド濃度(background concentration)に達する。当該濃度は、図2のスキームの場合は実質的にゼロに近く、図3のスキームの場合はK act,unassocの値に依存する。
【0095】
誘導電界1702が印加電界を部分的にまたは実質的に打ち消すように作用する際、この変位(displacement)の効果は次のようなものである。すなわち、電気泳動分散液1406中であって、正および負に帯電した変位される移動キャリア1402間の領域において、印加電磁界1604の大きさがその元々の大きさよりも低下する。この領域を、被遮蔽領域(screened region)と呼ぶことができる。そして、対向する電界を生じさせる帯電移動キャリア1402を、遮蔽粒子(screening particle)と呼ぶことができる。また、被遮蔽領域の形成に実質的に寄与しないで、被遮蔽領域内に位置する帯電移動キャリア1402を、被遮蔽粒子(screened particle)と呼ぶ。印加電磁界1604が実質的に打ち消されると、被遮蔽領域に残る電界は主に、被遮粒子と当該領域内の被遮蔽粒子の熱運動からのみ影響を受ける。そして、この電界は、方向と大きさが急速に変化し、かつ被遮蔽領域内の場所によって異なる。被遮蔽領域内の時間平均正味電界(time averaged net electric field)は、実質的にゼロに近い。その結果、当該領域内の被遮蔽粒子は実質的な電界を受けず、自由に互いに引き合い続けることができる。これにより、これらの粒子における成分化学物質が、光学活性状態の化学物質を形成することができる。印加電磁界1604の強度を上げると、被遮蔽領域を維持するのに必要な帯電粒子の数が増加する。したがって、被遮蔽粒子の数が減少する。その結果、交じり合う(intermingling)ポリマーコロナ1404を依然として有する帯電粒子の数が減少すると共に、光学活性状態の化学物質の形成数が減少する。これにより、電気泳動分散液1406の吸収スペクトルが変化する。同様に、印加電磁界1604の強度を下げると、被遮蔽領域を維持するのに必要な帯電移動キャリア1402の数が減少する。そして、光学活性状態の化学物質の数が増加することができる。
【0096】
また、この被遮蔽領域は、電気泳動分散液1406を収容しその色を制御する装置を構築する際に、電気泳動分散液1406に関して考慮される可能性のある側面を明らかにしている。すなわち、被遮蔽領域が大きくなるほど、その内部の粒子全てを分離させるのに必要な印加電磁界1604が大きくなる。あるいは、存在している必要のある粒子の数が減少する。一定の電界強度を超えると、電気泳動分散液1406の周囲またはその内部の物質が分解(break down)し、伝導性チャネル(conductive channel)を形成して装置に損傷を与える可能性がある。したがって、印加電磁界1604に応じて帯電粒子が移動可能なチャネルは狭いことが好ましい。もっとも、チャネルは印加電磁界1604に直交する方向に延伸することができる。複数のチャネルを印加電磁界1604の方向に連続して配置してもよく、等価電界強度(equivalent electric field strength)を用いることで、ガウスの法則を系に適用した場合に見られるように、さらに多くの粒子を同時に移動させることができる。
【0097】
電界を適切な形状(right geometry)内に印加することで、2つの別個の状態を実現することができる。すなわち、分離された成分化学物質と光学活性状態の化学物質との間で系が平衡に達し、光学活性状態の化学物質に有利な方向に最大限シフトするように、成分化学物質の分離に用いられる力が存在しない第1状態と、分離された成分化学物質と光学活性状態の化学物質との間の平衡がこれとは異なり、最小数の光学活性状態の化学物質が有利となる平衡に達するように、成分化学物質を分離させるために装置が印加可能な最大の力が印加された第2状態とを得ることができる。装置が第1状態と第2状態との間で切り替わった際にその色変化が観察者に視認できるように、またはセンサで検出可能なように、ほとんどの用途においては、装置の表面積中の十分大きな部分にわたって光学活性化学物質が形成される必要があると考えらえる。加えて、装置が第1状態と第2状態との間で切り替わった際にその色変化が観察者に視認できるように、またはセンサで検出可能なように、十分な数の光学活性化学物質が第1状態において形成される必要があり、かつ十分な数の光学活性化学物質が第2状態において成分化学物質へと分離される必要がある。これらの目的の両方を達成するための方法は、第1状態と第2状態との切り替えに用いられる機構に応じて決まる。
【0098】
印加される電界の強度は、帯電移動キャリア1402を分離するのに必要な強さでさえあればよい。その値を超えても、接触する粒子の数に変化はなく、したがって装置の色に実質的に影響を与えないためである。印加電磁界1604は、いずれの方向を向いていてもよく、帯電移動キャリア1402を上述したように分離することができる。
【0099】
一般的に、光学活性状態の形成機会を最大限に確保するため、より多量の帯電移動キャリア1402が懸濁液中に存在することが好ましい。帯電移動キャリア1402は帯電しているため、所与の印加電界強度によって、粒子の一部の面密度(areal density)のみが一度に分離することができる。なぜなら、上述した通り、帯電移動キャリア1402は、電荷分離によって生じる誘導電界1702が印加電磁界1604を打ち消すところまで分離し、実質的に、帯電移動キャリアの分離されていない組を当該印加電界から遮蔽するためである。この被遮蔽領域は、その内部に小さな正味電界しか有さず、こうした電界は遮蔽効果を与える帯電移動キャリアの熱運動によって方向と強さが変化しやすい。したがって、当該領域内の帯電移動キャリアは、短時間しか持続せず無視できる程度の正味力(net force)しか受けない。このため、印加電界の影響下で帯電移動キャリア1402が自由に移動可能な空間を、帯電移動キャリア1402の径の約2~50倍に維持することが好ましい。これは、印加電界の影響下で帯電移動キャリアがピクセルチャンバの壁面に沿って並び始める際に、被遮蔽領域内で接触したまま残る帯電移動キャリア1402の数が少なくなるように、当該領域を小さく維持するためである。もう1つの選択肢としては、印加電界を打ち消すためにより多くの帯電移動キャリア1402をピクセルチャンバの壁面に向けて分離することが必要となるように、印加電界強度を大幅に高くする方法がある。しかしこの方法は通常、装置における誘電体が印加電界下で分解し始める時点まで作用してしまい、この時点になると、系が不可逆的に劣化するおそれがある。これは望ましくない結果である。また、高強度の印加電界は一般的に、わずかな距離だけ離間された電極(これにより、電極間の空間は制限される)の間で電圧降下を行うか、または電圧降下の程度を非常に高くすることにより生成される。しかしこれにより、一般的な装置の消費電力は使用電圧の二乗に比例して増加する傾向にあることから、消費電力が一部の用途では許容できないほどに高い電力レベルまで増加するおそれがある。したがって、印加電界の最大必要強度を下げるために、帯電移動キャリア1402が移動可能な空間の領域を小さく維持することが好ましい。
【0100】
図18は、電気泳動装置のカラーフィルタに用いる電気泳動分散液を収容する一例としてのピクセルチャンバ1800の断面図である。ピクセルチャンバ1800は2つの電極1802、すなわち別々の電圧源に接続された駆動電極1802-1と参照電極1802-2を有する。これらの電極1802は、電気泳動分散液1406の懸濁液および正と負に帯電した移動キャリア1402-1、1402-2で満たされたピクセルチャンバによって分離されている。電極間で印加電圧に差異が生じると、電極1802間の空間にわたって印加電磁界1604が発生する。これが、帯電移動キャリア1402を分離可能な印加電界となる。帯電移動キャリアを分離すると、当該印加電磁界1604を部分的にまたは実質的に打ち消す逆方向の誘導電界1702がピクセルチャンバ内に発生する。
【0101】
図示の電極1802はいずれの導電性材料により構成されていてもよいが、導体の選択によっては、装置の可視面(viewing plane)に対して電極1802が取ることが可能な向きが制限される場合がある。例えば、装置の機能にとって重要な光の波長(一般的には可視スペクトル)を電極1802が略透過する場合、光はどの方向からも通過できるため、電極1802はいずれの方向に位置していてもよい。これに対して、導体が透明でない場合は、入射光の大部分が電極1802に吸収または反射されることなく層を通過できるように、電極1802はその最薄方向が装置の視野角(viewing angle)に対して略直交する方向を向いている必要がある。なお、電極1802の両方が同じ導体で構成されている必要はない。
【0102】
多くの流体は、本構成のような電極1802の表面に接触した際に電気分解する可能性がある。このため、当該電極1802が印加可能な電圧が制限される場合があり、ひいては、本構成におけるカラーフィルタ装置が実現可能な総色変化(total colour change)が制限される場合がある。
【0103】
ピクセルチャンバ1800はさらに、電気泳動分散液1406の懸濁液および帯電移動キャリア1402をシールすると共に、外部の気体や液体のピクセルチャンバ内への侵入を防ぐための封止材(encapsulation material)1804の領域を2つ有する。これらの封止材1804の領域は、ほとんどの場合電気絶縁性とすることができるが、電極同士の短絡が発生しない構成である限り、導電性部分を有していてもよい。封止材1804は、電気泳動分散液1406の懸濁液および帯電移動キャリア1402との屈折率の差が約0.2単位以内となるように選択されることが好ましく、約0.05単位以内となるように選択されることが最も好ましい。また、封止材1804は、装置の機能を妨げないように、光学活性状態により生成される活性帯域の周囲において低いまたは最小の吸収を有するように選択される。封止材1804は、すべての可視光、または装置の機能にとって重要などの波長も略透過することが好ましい。
【0104】
図19は、無視できる程度の電圧差がピクセルチャンバ1800にわたって印加された状態を示す図である。この状態では、帯電移動キャリア1402同士が、互いに逆に帯電した粒子間の相互静電引力によって引き寄せ合い、互いに接触することで、本明細書に記載のスキームに基づく光学活性状態の形成を促進する。したがって、無視できる程度の電圧差が印加された状態では、カラーフィルタは活性帯域の光に対して部分的にまたは実質的に不透明になる。ピクセルチャンバ内の帯電移動キャリア1402は熱運動し、逆に帯電した帯電移動キャリア1402との間で一定の平均回数の相互作用を行い、活性帯域を生成する。
【0105】
図19(A)は、反射型ディスプレイに組み込まれた一例としてのピクセルチャンバ1800Aを示す模式図である。ピクセルチャンバ1800Aは図18および19のピクセルチャンバ1800と同様のため、ピクセルチャンバ1800Aの詳細な説明については、図18および19のピクセルチャンバ1800の説明を参照可能である。また、ピクセルチャンバ1800Aは、電気泳動分散液1406を封止する封止材1804に加えて、ピクセルチャンバ1800Aへの入射光およびピクセルチャンバ1800Aからの反射光を伝達するディスプレイパネル1806を有する。ピクセルチャンバ1800Aはさらに、電気泳動分散液1406を通過した入射光を反射する反射層1808を有している。この反射光は、ピクセルチャンバ1800Aを出て観察者に向かう。この反射光の光学特性は、電気泳動分散液1406中の成分化学物質の影響を受ける。
【0106】
図19(B)は、サイドライト付き反射型ディスプレイに組み込まれた一例としてのピクセルチャンバ1800Bを示す模式図である。ピクセルチャンバ1800Bは図19(A)のピクセルチャンバ1800Aと同様のため、ピクセルチャンバ1800Bの詳細な説明については、図19(A)のピクセルチャンバ1800Aの説明を参照可能である。また、ピクセルチャンバ1800Bは、ディスプレイパネル1806および反射層1808に加えて、ピクセルチャンバ1800Bを側方から照らすサイドライト1810を有している。サイドライト1810から出射した光は電気泳動分散液1406を通過し、反射層1808で反射して、ピクセルチャンバ1800Bを出て観察者に向かう。サイドライド1810は、照明条件が悪い時にピクセルチャンバ1800Bに追加の照明を与えることができる。反射光の光学特性は、電気泳動分散液1406中の成分化学物質の影響を受ける。ディスプレイパネル1806の表面にわたって均一な照度を得るために、光学フィルムを用いてもよい。
【0107】
図19Cは、バックライト付き透過型ディスプレイに組み込まれた一例としてのピクセルチャンバ1800Cを示す模式図である。ピクセルチャンバ1800Cは図19(A)のピクセルチャンバ1800Aと同様のため、ピクセルチャンバ1800Cの詳細な説明については、図19(A)のピクセルチャンバ1800Aの説明を参照可能である。ただしピクセルチャンバ1800Cは、反射層1808の代わりに、ピクセルチャンバ1800Cをディスプレイパネル1806とは反対側から照らすバックライト1812を有している。バックライト1812から出射した光は電気泳動分散液1406を通過し、ピクセルチャンバ1800Cを出て観察者に向かう。バックライト1812から出射した光の光学特性は、電気泳動分散液1406中の成分化学物質の影響を受ける。
【0108】
図20は、他の一例としてのピクセルチャンバ2000を示す図である。ピクセルチャンバ2000はピクセルチャンバ1800に類似しているが、電極1802と電気泳動分散液1406の懸濁液との直接の接触を防止する2つの誘電体バリア2002をその構造に有する。ほとんどの場合、誘電体バリア2002を構成する材料は、装置の機能にとって重要な光(通常は可視光)の波長を略透過することが好ましい。これにより、これらの波長の光がカラーフィルタ装置を通過する際に誘電体バリア2002から受ける影響を小さくできる。誘電体バリア2002を構成する材料も、帯電移動キャリア1402および懸濁液と同様の屈折率を有している必要があり、その差は約0.1単位以内であり、0.01単位以内であることが好ましい。さらに、誘電体バリア2002を構成する材料の誘電率が大きくなるほど、誘電体バリア2002内の電圧降下が小さくなるが、これは一般に好ましいことである。誘電体バリア2002の屈折率は、懸濁液の屈折率よりも最大約0.1単位まで小さくすることができる。これにより、光学活性化学物質との相互作用の可能性がない誘電体バリア2002に対して、光学活性化学物質との相互作用の可能性がある懸濁液中に光を集中させるように図ることができる。
【0109】
図21Aは、一例としてのピクセルチャンバアレイ2100を示す図である。アレイ2100における各ピクセルチャンバは、ピクセルチャンバ1800と同様のものとすることができ、また、連続したピクセルチャンバの両端に電極1802が配置されている。アレイ2100は、視線方向(viewing direction)に対して平行に隣接して配列された垂直ピクセルチャンバを有する。これらの垂直ピクセルチャンバをトレンチボイド(trench void)2104と呼ぶことができる。各トレンチボイド2104は、誘電体フィンバリア2106によって他のトレンチボイド2104と分離されている。また、各トレンチボイド2104は、電気泳動分散液1406の懸濁液および帯電移動キャリア1402が充填されている。アレイ2100を見るための視線方向を、図中では眼球の絵で表している。アレイ2100は、電気泳動ディスプレイのカラーフィルタの層を含むことができる。
【0110】
このアレイ2100の繰り返し構造は、電極1802によってブロックされる光の量を減らしつつ、これらの連続した2つの電極間に配置可能な帯電移動キャリア1402の数を増やせるというメリットがある。加えて、この構成によれば装置を駆動させるための電流を低減できる。これは、複数のトレンチボイド2104が平行移動する帯電移動キャリア1402を収容しており、ガウスの法則により、電極1802上の電荷密度と、誘電体フィンバリア2106に沿って並ぶ帯電移動キャリア1402の電荷密度とが一致するためである。したがって、消費電流(current draw)を増加することなく、追加のトレンチボイド2104を追加することができる。ただし、電極1802同士が追加の空間によって分離されており、一定の電圧差の場合、印加電界の強度は電極1802間の距離の逆数に比例することから、印加電磁界1604の強度を維持するための電圧が増加する。さらに、トレンチボイド2104を誘電体フィンバリア2106で分離することにより、帯電移動キャリア1402の凝集(clumping)やその他の空間的差異(spatial disparities)を低減すると共に、電磁界の変化によって活性状態と不活性状態との間で切り替わるように誘導された際に帯電移動キャリア1402が溶液中を移動する距離を低減するように図ることができる。これにより、活性状態と不活性状態との間での遷移を生じさせるのに必要な消費電流を低減することができる。
【0111】
アレイ2100の構成部分のサイズおよびアスペクト比は主に、用いられる製造工程および材料によって決まるが、好適な範囲を以下に示す。活性帯域において約10,000L/mol・cmのモル吸光係数(molar extinction coefficients)を有する染料物質(dye entities)の場合、アレイ2100の垂直方向の厚さを約300μmとすることで、分離状態と光学活性状態とのコントラスト比を合理的なものにすることができる。またこの寸法は、モル吸光係数の逆数で低下することができる。低コントラスト比が求められる場合は厚さをより薄くしてよく、高コントラスト比についてはその逆となる。
【0112】
誘電体フィンバリア2106の水平方向幅は、トレンチボイド2104の幅と略同じにしてもよく、トレンチボイド2104と10倍以上幅が異なっていてもよい。しかし、機械的安定性を考慮し、また達成可能なコントラスト比を最大化するため、これらの幅は約100nm~約10μmの範囲とすることができる。多くの用途においては、トレンチボイド2104の周期性が約50μm未満(この値になると、人間の目で見たときにカラーフィルタを横切る別々の線として区別される可能性がある)となるように、これらの幅が約25μm未満であることが望ましい。
【0113】
帯電移動キャリア1402の電荷は、装置を駆動させるのに必要な電圧を下げるために低く維持することが可能であるが、装置の反応時間は粒子の電荷および使用電圧に反比例するため、最適点に近づくことができる。
【0114】
2つの連続する電極間のトレンチボイド2104の数は、図21Aに示した4個に限らず、1個でもよいし、約100個でもよい。連続する電極1802間のトレンチボイド2104の数が増えるほど、装置の透過率が増加するが、装置を駆動させるのに必要な電圧も伴って増加する。
【0115】
電極1802の幅は合理的に製造可能な範囲でできるだけ薄くすることが好ましいが、約50nm~約10μmとすることができる。なお、電極が薄いほど、透過率が高まる。
【0116】
帯電移動キャリア1402の粒子サイズは、粒子が小さいほど表面積対体積比(surface area-to-volume ratio)が大きくなるという点で、相互作用可能な相補的化学物質の数に影響する。しかし、帯電移動キャリア1402が小さすぎると、完全に分離された状態において粒子の面電荷密度(areal charge density)が極めて高い印加電界を必要するが、先述の通りこれは好ましくない。また、サイズは粒子の電気泳動移動度に影響し、粒子が小さいほど移動度が高まり、装置がより迅速に色状態を切り替えることができるようになる。しかし、粒子が小さすぎると、それぞれの電荷が互いに非常に強く引き寄せ合うため、装置の反応時間が低下する。したがって、ここでもまた、材料の選択および電圧要件に応じて、最適な値に近づけることができる。誘電体フィンバリア2106の誘電率が大きくなるほど、印加電界がトレンチボイド2104内により集中する。誘電率は3より大きいことが好ましいが、材料の選択に応じてより大きい誘電率が達成可能である。
【0117】
封止層2108および基板層2110Aを構成する材料は、装置の機能にとって重要な光の波長(最も一般的には400nm~700nm)を略透過するように選択される。
【0118】
図21Bは、他の一例としてのピクセルチャンバアレイ2150を示す図である。アレイ2150は図21Aのアレイ2100と同様であり、本明細書で説明した、電気泳動分散液1406を収容するピクセルチャンバ2152と電極2154とを有する。ただし、アレイ2150は、水平方向のピクセル層として互いに積層され配列された2層の水平ピクセルチャンバ2152を有する。アレイ2150は、電気泳動ディスプレイ装置のカラーフィルタに同じように組み込むことができる。
【0119】
視線方向は、紙面上方から下方に、透明駆動電極2154-2から透明参照電極2154-1へと向かう方向となる。したがって、電極2154は電磁界1204を垂直に印加する。ただし、透明駆動電極2154-2および透明参照電極2154-1のうちどちらが上部でどちらが底部に位置しているかは重要ではない。この例では、透明電極2154は、インジウムスズ酸化物の薄膜等の透明導電膜や、銀ナノワイヤーの層により構成される。
【0120】
複数のピクセルチャンバ2152の層を互いに積層して、アレイ2150により得られるカラーフィルタ層のコントラストを向上することができる。また、視線方向から反対側の電極2154-1は不透明な材料、特に反射材料とすることもできる。この場合、カラーフィルタ層は変色ミラー(colour changing mirror)の様相を呈することになる。
【0121】
シート状の誘電体バリア2156をピクセルチャンバ2152の層間に配置することができる。これらのシート状の誘電体バリア2156は、等間隔に保つためにスペーサービーズ(spacer beads)を使用してもよい。スペーサービーズは、単分散粒子(monodisperse particles)状のいずれの誘電体でもよい。さらに、ピクセルチャンバ2152の層は、シーリング材(sealant material)2110Bによってカラーフィルタ内に収容されていてもよい。
【0122】
図21Cは、一例としてのマルチカラーピクセルユニット2180を示す模式図である。マルチカラーピクセルユニット2180は、第1のピクセルチャンバ2182A、第2のピクセルチャンバ2182B、および第3のピクセルチャンバ2182Cを有する。各ピクセルチャンバは視線方向にそって積層されている。また、ピクセルチャンバ2182A、2182B、2182Cの各々は図18および19のピクセルチャンバ1800と同様のため、ピクセルチャンバ2182A、2182B、2182Cの各々の詳細な説明については、図18および19のピクセルチャンバ1800の説明を参照可能である。ただし、ピクセルチャンバ2182A、2182B、2182Cは、それぞれ異なる電気泳動分散液1406A、1406B、1406Cを有する。各電気泳動分散液は、電磁界の影響により相互作用が誘導されて各々異なる吸収スペクトルを示すことが可能な、各々異なる組み合わせの成分化学物質を有している。例えば、図示するように、第1のピクセルチャンバ2182A内の成分化学物質はシアンを呈するように誘導することができ、第2のピクセルチャンバ2182B内の成分化学物質はマゼンタを呈するように誘導することができ、第3のピクセルチャンバ2182C内の成分化学物質はイエローを呈するように誘導することができる。なお、これらの異なる色の層の順番は例示に過ぎない。
【0123】
マルチカラーピクセルユニット2180は、これらのピクセルチャンバの積層体の両端にそれぞれディスプレイパネル1806と反射層1808とを有している。さらに、ピクセルチャンバ2182A、2182B、2182Cの各々は独立して取り扱い可能な電極を有している。これにより、各電気泳動分散液1406A、1406B、1406Cを実質的に分離された電磁界にそれぞれ独立して曝露することができ、各分散液中の成分化学物質を、本明細書に記載の光学不活性状態と光学活性状態との間で変化するようにそれぞれ独立して誘導することができる。このように、電極1802-1Aおよび1802-2Aを制御して電気泳動分散液1406Aを通過する電磁界を変化させることができ、電極1802-1Bおよび1802-2Bを制御して電気泳動分散液1406Bを通過する電磁界を変化させることができ、電極1802-1Cおよび1802-2Cを制御して電気泳動分散液1406Cを通過する電磁界を変化させることができる。
【0124】
このため、マルチカラーピクセルユニット2180は、幅広い色、色相、彩度でカラー画像や動画を表示するためのディスプレイに用いることができる。なお、他の例として、マルチカラーピクセルユニットは2層のピクセルチャンバや、4層以上のピクセルチャンバを有していてもよい。
【0125】
図22Aは、電気泳動ディスプレイ装置を動作させるための一例としての方法2200を示すフローチャートである。方法2200における1つまたは複数のブロックは、コンピュータ装置の1つまたは複数のプロセッサにより実行可能な非一時的機械可読記憶媒体に記憶された命令として実現することができる。コンピュータ装置は、本明細書に記載の電気泳動ディスプレイを含んでもよい。この例において、方法2200は、カラーフィルタを備える電気泳動ディスプレイ装置にて実行されるものとして説明する。ここで、当該カラーフィルタは、当該ディスプレイ装置のピクセルに対応する複数のピクセルチャンバを有し、当該ピクセルチャンバは電気泳動分散液を収容し、当該電気泳動分散液は、本明細書に記載するような、電磁界の影響下で相互作用が誘導され、ピクセルチャンバが示す光学特性を変化させるよう状態の切り替えが可能な化学物質を含む。
【0126】
ブロック2202にて、方法2200が開始される。方法2200は、ディスプレイ装置が表示する画像に対応する画像フレームの更新またはリフレッシュ時に開始することができる。
【0127】
ブロック2204にて、電気泳動ディスプレイ装置が表示する画像を表す画像データが取得される。画像データにおいて、ディスプレイ装置が表示する画像が、当該ディスプレイ装置の1つまたは複数の画素にマッピングされている。すなわち、取得した画像データは、電気泳動ディスプレイ装置の少なくとも1つの画素に対応している。画像データは、ディスプレイ装置のピクセルが示す光学特性に関する命令を含む。例えば、画像データは、ディスプレイ装置の各ピクセルの色および/または彩度やその他の光学特性に関する命令を含むことができる。他の例として、画像データは、ディスプレイ装置のピクセルに対応するピクセルチャンバに結合された電極に印加され、画像の表示を実現するための電圧に関する命令を含むことができる。画像データは、電極に結合されたディスプレイドライバにて取得することができる。
【0128】
ブロック2206にて、電気泳動ディスプレイ装置のピクセル電極に対する電圧のマッピング(mapping of voltages)が生成される。本明細書に記載の通り、ピクセル電極は、電磁界に誘導された際に第1の光学特性を示して分離状態を取り、電磁界に誘導された際に第2の光学特性を示して活性状態を取る成分化学物質を含むピクセルチャンバを制御する。すなわち、ピクセル電極は、ディスプレイ装置のピクセルに対応するピクセルチャンバに結合されている。電圧は、参照電極に対して駆動電極に印加することができる。
【0129】
ブロック2208にて、電圧マッピングがピクセル電極に適用され、成分化学物質が分離状態または活性状態を取る。電圧マッピングは、1つまたは複数のピクセル電極に適用することができる。すなわち、電圧は、ディスプレイ装置のピクセルに対応するピクセルチャンバに結合された少なくとも1つのピクセル電極に印加される。電圧を印加すると、1つまたは複数のピクセルチャンバを通過する電磁界が調整される。電圧の印加により、電磁界を実質的に生成してもよく、電磁界を実質的に消滅させてもよく、電磁界の強度を上げてもよく、電磁界の強度を下げてもよい。
【0130】
さらに、電磁界の調整の結果、1つまたは複数のピクセルチャンバ内の化学物質の状態が切り替わる。化学物質の状態は、本明細書に記載の分離状態から光学活性状態へ、またはその逆へと切り替わることができる。このように、電磁界を調整することにより、化学物質を分離させて分離状態としたり、化学物質を近接させて光学活性状態としたりすることができる。
【0131】
さらに、化学物質の状態を変化させることにより、1つまたは複数のピクセルチャンバが画像データに対応する光学特性を示す。これにより、ディスプレイの1つまたは複数のピクセルの光学特性(色、コントラスト、彩度等)を変化させることができる。例えば、図2または3のスキームに基づく活性帯域の吸収スペクトル強度が変化する結果、ピクセルの色が変化することができる。このように、電圧を印加することにより、ピクセルチャンバを通過する電磁界が調整され、当該ピクセルチャンバ内の化学物質の状態が切り替わり、当該ピクセルチャンバが画像データに対応する光学特性を示すようになる。
【0132】
ブロック2214にて、この方法が終了する。なお、画像や動画をディスプレイ装置に表示する上で必要な場合、方法2200のいずれのブロックも繰り返し行ってよい。
【0133】
図22Bは、電気泳動ディスプレイ装置を制御するための命令を含む一例としての非一時的機械可読記憶媒体2200Bを示す模式図である。当該命令は、コンピュータ装置の1つまたは複数のプロセッサにより実行することができる。当該コンピュータ装置は、本明細書に記載の電気泳動ディスプレイを含んでもよい。
【0134】
記憶媒体2200Bは、電気泳動ディスプレイ装置に表示される画像を表す画像データを取得するための画像データ取得命令2204Bを含む。
【0135】
記憶媒体2200Bはさらに、電気泳動ディスプレイ装置のピクセル電極に対する電圧マッピングを生成するための電圧マッピング生成命令2206Bを含む。ピクセル電極は、本明細書に記載の、電磁界に誘導された際に第1の光学特性を示して分離状態を取り、電磁界に誘導された際に第2の光学特性を示して活性状態を取る成分化学物質を含むピクセルチャンバを制御するためのものである。
【0136】
記憶媒体2200Bはさらに、電圧マッピングをピクセル電極に適用して成分化学物質を分離状態または活性状態にするための電圧マッピング適用命令2208Bを含む。
【0137】
このようにして、本明細書に記載するように、電気泳動装置を制御して画像や動画を表示させることができる。
【0138】
図23は、一例としてのピクセルチャンバ2300に収容された一例としての電気泳動分散液1406中に配置された一例としての帯電移動キャリア1402-1を示す図である。帯電移動キャリア1402-1は、2つの化学物質のうち一方を担持するポリマーコロナ1404-1によって修飾されている。ピクセルチャンバ2300は、2つの化学物質のうち他方を担持するポリマーコロナ1404-2によって修飾された一方の内壁1602-2を有している。これらの2つの化学物質が相互作用して、本明細書に記載するように電気泳動分散液の光学特性を変化させることができる。帯電移動キャリア1402-1は、電磁界1604の影響を受けて、ピクセルチャンバ2300内におけるポリマーコロナ1404-2によって修飾された内壁1602-2に対向する側に引っ張られる。あるいは、一部の例では、電磁界1604を印加することにより、帯電移動キャリア1402-1をポリマーコロナ1404-2と反対側の他方の内壁1602-1に向けて引っ張ってもよい。
【0139】
帯電粒子からの電荷を相殺するために、対イオンが電気泳動分散液1406中に存在してもよい。この対イオンは、移動帯電粒子1402-1の表面に付着しないように、電気泳動分散液1406への溶解性が高いことが好ましい。対イオンが移動帯電粒子1402-1の表面に付着すると、実質的に非帯電の粒子になる可能性がある。常磁性粒子(paramagnetic particles)によっても同様の機構を得ることができる。この場合、電磁界1604に代わり不均一な磁界によって帯電移動キャリア1402-1を移動させる。図24は、電磁界1604の影響を受けて、帯電移動キャリア1402-1がポリマーコロナ1404-2によって修飾された内壁1602-2に引っ張られた状態を示す図である。この状態においては、相補的成分化学物質同士がコロナの重複領域1502において近接し、相互作用が可能になる。
【0140】
このように、第1および第2の化学物質の一方が、電気泳動分散液1406中に分散した帯電移動キャリア1402-1に付着され、第1および第2の化学物質の他方が、電気泳動分散液を収容したピクセルチャンバ2300の内壁1602-2に付着される。
【0141】
図25は、複数の円筒状ボイド(cylindrical voids)2502を有する一例としてのピクセルチャンバ2500を示す図である。円筒状ボイド2502は、本明細書に記載の、相互作用によりピクセルチャンバ2500の光学特性を変化させることが可能な化学物質を含んだ電気泳動分散液を収容している。円筒状ボイド2502は、誘電体バリア2504によって分離されている。誘電体バリア2504は、ハニカム誘電体バリア(honeycomb dielectric barrier)または誘電体フォームバリア(dielectric foam barrier)とすることができる。
【0142】
ピクセルチャンバ2500は、円筒状ボイド2502の軸方向寸法と平行に紙面奥側に延びる寸法を有する電極1802を有する。電極1802の向きは、電極1802の材料が透明であるか否かに依存することができる。電極1802が透明でない場合、図25の水平方向の短辺寸法が装置の面内(in the plane)にある必要がある。一方、電極1802が透明な場合、電極1802の向きに対する制約はない。円筒状ボイド2502の軸方向寸法は、電極1802の短辺寸法に直交している。また、円筒状ボイド2502の軸方向寸法は、装置の面内にあってもよいし、面外(out of plane)にあってもよい。なお、図では充填密度を高めるため円筒状ボイド2502が六方充填配列(hexagonal packing arrangement)されているが、円筒状ボイド2502の他の配列も考えられる。
【0143】
図26Aは、電気泳動ディスプレイに用いる電気泳動分散液を生成するための一例としての方法2650を示すフローチャートである。この方法2650は、本明細書に記載の相互作用する化学物質を含む帯電移動キャリアを形成可能な方法の1つである。なお、方法2650は、以下で詳述する通り、図とまったく同じ手順で行う必要はない。
【0144】
概略を述べると、ブロック2652にて帯電ポリマーコアが作製され、ブロック2654でポリマーコロナまたはポリマーコロナの前駆体が作製され、ブロック2656にて、ポリマーコロナまたはポリマーコロナの前駆体に成分化学物質が埋め込まれる(embed)。本明細書に記載の通り、ブロック2656にてポリマーコロナに埋め込まれる成分化学物質はそれぞれ、電磁界に誘導された際に第1の光学特性を示して分離状態を取り、電磁界に誘導された際に第2の光学特性を示して活性状態を取る。
【0145】
図に例示した順番のように、ブロック2654の前にブロック2652を実行する方法2650の場合、当該方法を「コアファースト(core-first)」法と呼ぶことができる。後述するように、図26Dにそうした「コアファースト」法の一例を示す。「コアファースト」法の場合、方法2650の実行順はブロック2652→2654→2656の順、またはブロック2652→2656→2654の順とすることができる。すなわち、成分化学物質は、ポリマーコロナの形成の前または後に埋め込むことができる。いくつかの例では、成分化学物質はポリマーコロナに埋め込むことができる。他の例では、成分化学物質は、ポリマーコロナの作製前に、ポリマーコロナの前駆体に埋め込むことができる。
【0146】
ブロック2652の前にブロック2654を実行する方法2650の場合、当該方法を「アームファースト(arm-first)」法と呼ぶことができる。後述するように、図26Bにそうした「アームファースト」法の一例を示す。「アームファースト」法の場合、方法2650の実行順はブロック2654→2652→2656の順、またはブロック2654→2656→2652の順となる。すなわち、成分化学物質は、帯電ポリマーコアの形成の前または後に埋め込むことができる。また、いくつかの例では、成分化学物質はポリマーコロナに埋め込むことができる。
【0147】
ブロック2652および2654の前にブロック2656を実行する方法2650の場合、当該方法を「コンポーネントファースト(component-first)」法と呼ぶことができる。「コンポーネントファースト」法の場合、方法2650の実行順はブロック2656→2652→2654の順、またはブロック2656→2654→2652の順となる。すなわち、帯電ポリマーコアとポリマーコロナの前駆体はどちらの順番で形成してもよい。このような例の場合、ポリマーコロナの前駆体を予備官能化モノマー(pre-functionalized monomer)と呼ぶことができ、これは後に帯電ポリマーコアの周囲のポリマーコロナへと形成される。
【0148】
図26Bは、電気泳動ディスプレイに用いる電気泳動分散液を生成するための他の一例としての方法2600を示すフローチャートである。この方法2600は、本明細書に記載の相互作用する化学物質を含む帯電移動キャリアを形成可能な方法の1つである。具体的には、方法2600は、図26Aの方法2650をアームファースト法として実行した場合の一例である。図26Cは、方法2600に基づく電気泳動分散液の形成工程の一例を示す図である。
【0149】
まず、ブロック2602にて、複数の成分が疎水性相2602B(図26C参照)へと混合(combine)される。これらの成分は、疎水性部分と親水性部分とを含む両親媒性ブロックコポリマー(amphiphilic block copolymer)と、イオン性共界面活性剤と、紫外線に感応する光開始剤や温度に感応する熱開始剤等のラジカル開始剤と、疎水性モノマーとを有する。また、この混合物(combination)はさらに非イオン性共界面活性剤を任意に含んでもよい。
【0150】
両親媒性ブロックコポリマーは、親水性ブロックが後工程で成分化学物質で官能化できるように選択することができる。親水性ブロックに適したポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、または、アルコールやカルボン酸等の反応性官能基を有するその他の水溶性ポリマーが挙げられる。
【0151】
ブロックコポリマーの疎水性ブロックは、高い重合官能性を有するように選択することができ、特にフリーラジカルによって開始されるモノマーとの架橋を行うものを選択することができる。疎水性ブロックに適したポリマーとしては、ポリブタジエン、ポリイソプレンや、二重結合またはチオールを有するその他の疎水性ポリマーや、2つの有機分子の架橋に使用可能なその他の官能基が挙げられる。
【0152】
ブロックコポリマーは、成分化学物質の相互作用による電気泳動分散液の光学特性の所望の変化を妨げないように、可視スペクトルにおいて実質的に無色であることが好ましい。ブロックコポリマーは、水中油界面活性剤(oil-in-water surfactant)として機能できるよう、約8~約16の疎水性親油性バランス(HLB)を有することができる。
【0153】
非イオン性共界面活性剤は、後工程で形成されるエマルションの表面張力の低減を図るため、ブロックコポリマーよりも小さい分子となるように選択することができる。また、非イオン性共界面活性剤は、約8~約16のHLBを有するように選択することができる。非イオン性共界面活性剤は、好ましくは、系における他の有機分子(隣接する炭素間の二重結合等)との架橋に使用可能な少なくとも1つの官能基を有している必要があり、かつ、無色であることが好ましい。好適な非イオン性共界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレン(10)オレイルエーテルが挙げられる。
【0154】
イオン性共界面活性剤は、後工程で形成されるエマルション粒子に電荷を付与するのに用いられる。イオン性共界面活性剤は、組成(formulation)中に少量だけ使用されるためその色はあまり重要とはならないが、やはり無色の分子であることが好ましく、また、好ましくは、系における他の有機分子(隣接する炭素間の二重結合等)との架橋に使用可能な少なくとも1つの官能基を有している必要がある。正に帯電したコアを形成するためには、イオン性共界面活性剤は陽イオン界面活性剤(例えばオレイルトリメチルアンモニウムブロミド)である。負に帯電した粒子のためには、イオン性共界面活性剤は陰イオン界面活性剤(オレイル硫酸ナトリウム等)である。
【0155】
ラジカル開始剤は、紫外線を吸収するとフリーラジカル種を生成する油溶性分子である光開始剤とすることができる。開始反応の生成物(products)は、ガス状でなく、かつ無色であることが好ましい。光開始剤の好適な例としては、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノンが挙げられる。ラジカル光開始剤は、アゾビスイソブチロニトリル等の熱開始剤でもよい。また、架橋反応を開始させるその他の試薬(reagents)も考えられる。
【0156】
疎水性モノマーは、ラジカル種と接触した際に付近のモノマーや架橋可能部位(crosslinkable sites)と重合可能な油溶性分子である。このモノマーは、極めて低いまたは無視できる程度の水溶性を有していることが好ましい。このモノマーの重合により形成されるポリマーは、帯電粒子の懸濁に用いられる前述の懸濁液と略同様の屈折率を有する必要がある。
【0157】
これらの成分は1つの容器に投入され、十分に混合される。ただし、これらの成分が均質な溶液(homogeneous solution)を形成する必要はない。ブロックコポリマーは、その分子量(molecular weight)および組成に応じて、混合物の約10~60質量%を構成することができ、非イオン性共界面活性剤は、その分子量およびブロックコポリマーの分子量に応じて、また帯電粒子の所望の特性に応じて、混合物の約0~10質量%を構成する必要がある。また、イオン性界面活性剤は、帯電粒子の所望の電荷およびサイズに応じて、ブロックコポリマーの1/40~1/500のモル分率で存在する必要がある。また、ラジカル開始剤は、混合物の約1~10質量%を構成する必要があり、疎水性モノマーは、当該質量の残りを構成する必要がある。なお、実際の割合は帯電粒子の所望の特性に応じて決まる。
【0158】
任意のブロック2604にて、共溶媒(cosolvent)を疎水性相2602Bに添加して、親水性相2606B(図26C参照)と混合するための種溶液(seed solution)2604Bを生成してもよい。共溶媒は、混合物のすべての成分に対して良好な溶媒である必要があり、かつ水と混和性(miscible)である。共溶媒の選択は混合物の成分に依存するが、テトラヒドロフラン、アセトン、エタノール等の溶媒であればこれらの基準を満たす場合が多い。また、一部の実施形態では共溶媒を優先的に除去する必要があるため、共溶媒は水よりも揮発性が高いことが好ましい。形成された種溶液2604Bは、疎水性相2602Bよりも実質的に低い粘性を有することができる。必要な共溶媒の量は、ブロックコポリマーの分子量や、粘度を十分下げるために必要な量など、多くの要因に依存することができる。現実的な程度にできるだけ少ない溶媒を用いることが好ましい。あるいは、疎水性相2602Bを親水性相2606Bに直接添加してもよい。
【0159】
ブロック2606にて、種溶液2604Bと親水性相2606Bが混合される(図26C参照)。この混合は、かき混ぜ(agitation)または撹拌(stirring)を伴ってもよい。界面活性剤が水不溶性成分の周囲で融合し、ナノエマルションを形成する。ナノエマルションは、水と共溶媒とに包囲された疎水性液滴からなる。共溶媒が油相から水相に拡散するにつれて、共溶媒はコポリマーが球状に配列されるまでの時間を長くする。形成されたナノエマルションは、約20nm~200nmのサイズ範囲のほぼ単分散の水中油滴(oil droplets in water)からなる。これらの油滴はしたがって、前駆体粒子2612Bを形成することができる。
【0160】
ブロック2608にて、ナノエマルションが刺激2608B(図26C参照)に曝露される。刺激2608Bの例としては、光開始剤にラジカル種を生成させるのに適した波長の紫外線を照射することや、熱開始剤を活性化させるのに十分なだけナノエマルションを加熱することや、ラジカル開始剤を活性化させるその他の刺激が挙げられる。これにより、ナノエマルション液滴の成分が架橋し始め、ポリマーナノ粒子(polymeric nanoparticles)2610B(図26C参照)が形成される。架橋度を大きくするため、この工程は数時間続けてよく、さらに、全粒子を均等に曝露させ凝集(aggregation)を防止するため、絶えず緩やかに混合することが必要な場合がある。架橋によって、ポリマーナノ粒子2610Bは溶解、経時変化または解離プロセスに耐性を持つことができる。また、ポリマーナノ粒子2610Bは、ポリマーナノ粒子2610Bが用いられる電気泳動分散液の懸濁液と略同様の屈折率を有することができる。また、ポリマーナノ粒子2610Bは、後工程にて成分化学物質で官能化可能なポリマーコロナを有する。したがって、ポリマーナノ粒子2610Bは、化学物質のための帯電移動キャリア(図14の帯電移動キャリア1402等)の前駆体と見なすことができる。また、ポリマーナノ粒子2610Bは、後工程にて粒子に電荷を付与するのに使用可能ないくつかのイオン性官能基を、その表面に有することができる。
【0161】
ブロック2620にて、ナノエマルションが親油性の対イオンまたは対イオンのペアと混合される。ナノエマルションは、対イオンの余剰分と混合されてもよい。対イオンは、ポリマーナノ粒子の溶液に油溶性であってもよい。対イオンのペアを用いる場合、当該ペアは、後工程で除去しやすいよう、固体として沈殿するように選択することができる。正に帯電したコアを有する帯電移動キャリアを生成するためには、テトラフェニルホウ酸ナトリウムの添加が適している。この場合、陽イオン界面活性剤の対イオンは、競合(competition)によりテトラフェニルホウ酸イオンで置換されることが意図される。負の粒子の場合、陰イオン界面活性剤の対イオンをテトラフェニルホスホニウムイオンで置換することを意図して、テトラフェニルホスホニウムブロミドを添加することができる。
【0162】
任意のブロック2622にて、ナノエマルションから過剰な水が除去される。超純水で透析することにより、添加された化合物の余剰分および、水相に自由に溶解してどの粒子とも架橋しない界面活性剤を除去することができる。また、溶媒交換(solvent exchange)を行って、後工程における更なる化学反応の妨げとなる可能性がある水を系から除去してもよい。使用される溶媒は多くの場合、極性非プロトン性溶媒(polar aprotic solvent)とすることができるが、一般的には次工程の性質に依存する。硫酸カルシウム等の乾燥剤を用いてもよい。あるいは、ナノエマルション中のポリマーコロナを直接官能化させてもよい。さらに、ポリマーコロナを、ブロックコポリマーの重合の前、またはブロックコポリマーの重合の後に官能化させてもよい。
【0163】
ブロック2624にて、ポリマーナノ粒子2610Bのポリマーコロナが化学物質で官能化される。成分化学物質で官能化されるポリマーナノ粒子は、本明細書に記載の帯電移動キャリア(図14の帯電移動キャリア1402等)と同様のものとすることができる。正に帯電した粒子に対しては、負に帯電した粒子とは異なる成分化学物質が結合される。一例として、ポリマーナノ粒子2610Bへの成分化学物質の付着は、成分化学物質上の水酸基と、粒子のポリマーコロナを構成する両親媒性ブロックコポリマーの親水性ブロック上のカルボン酸とのカップリング反応(coupling reaction)によって実現することができる。同様の方法で、ポリマーコロナの荷電基(charged group)が粒子の電荷に影響を及ぼすことを防止するため、小分子をポリマーコロナに結合させてもよい。これは、電気泳動分散液の懸濁液中におけるポリマーコロナ上の官能基のイオン化度に依存する。
【0164】
任意のブロック2626にて、第1の化学物質を有する正に帯電した移動キャリアを含んだ溶液(第1の部分)と、第2の化学物質を有する負に帯電した移動キャリアを含んだ溶液(第2の部分)とを混合して、本明細書に記載の電気泳動分散液(図14の電気泳動分散液1406等)を生成する。あるいは、電気泳動分散液の単一の部分を保存し、後に他の部分と混合してもよい。
【0165】
混合に続き、得られた混合物に対して任意で追加の調整(condition)を行ってもよい。例えば、先に添加された対イオンを除去するため、混合物を透析してもよい。対イオン除去の他の例として、使用するイオン性界面活性剤が溶液に沈殿する塩を形成する場合(陰イオン界面活性剤が銀オメガウンデセニル硫酸塩であり、陽イオン界面活性剤がウンデセニルトリメチルアンモニウムブロミドである場合等)、沈殿した塩をろ過や遠心分離等の他のプロセスで除去してもよい。追加の調整の他の例として、追加の溶媒交換を行って溶媒を変更してもよい。
【0166】
転相法(phase inversion method)や超音波処理(ultrasonication)等、ポリマーナノ粒子2610Bと同様のポリマーナノ粒子を形成する他の方法も考えられる。転相法の場合、疎水性相2602Bと冷却された親水性相2606Bとを混合する前に、疎水性相2602Bの加熱を行うことが考えられる。超音波法の場合、大振幅・高周波の音波を用いて、疎水性相2602Bと親水性相2606Bとの混合物に懸濁した界面活性剤および油滴をより細かい粒子へと分解することが考えられる。転相法に加えて、方法2600(この方法を、自然発生ナノエマルション(spontaneous nanoemulsion)法と呼ぶことができる)も、実質的に単分散のサイズを有する粒子を形成できるため、粒度分布がより大きくなる可能性がある他の方法よりも好ましい。
【0167】
以下、図26Bの方法2600を実行することにより得られる電気泳動分散液の組成(formulation)例について説明する。この組成例では、リビング重合機構(living polymerization mechanism)によって、グリセロールモノメタクリレート(水溶性モノマー)とグリシジルメタクリレート(官能化可能モノマー)が、約35単位の鎖長を有するように重合される。この例では、ICAR(Initiators for Continuous Activator Regeneration)原子移動ラジカル重合法(ICAR-ATRP)として知られる方法が選択されるが、選択した方法に試薬が適合する限り、可逆的付加開裂連鎖移動重合法(RAFT)やニトロキシド媒介重合法(NMP)など、他のリビング重合法を用いてもよい。この例では、AIBNや過酸化ベンゾイル等のフリーラジカル開始剤によって活性剤種(activator species)の還元(reduction)が行われる。使用される活性剤種(金属触媒とも呼ばれる)は、ビピリジン等の二座リガンド(bidentate ligand)またはTPMA、Me6Tren、PMDETA等の三座リガンド(tridentate ligand)を有する臭化銅(II)錯体である。フリーラジカルがゆっくり継続的に生成されることにより、ハロゲン基の移動によって銅(II)種が銅(I)種に変換される。この反応は、65℃~70℃の温度で、溶媒無し(バルク)で行われるか、単一の溶媒中で行われるか、または、メタノール、DMFおよびアニソールを組み合わせた溶媒中で行われる。反応の最後に、成長するポリグリセロールモノメタクリレート鎖をブロモ基でキャップオフ(cap off)する。ブロモ基は、鎖末端でのモノマー追加を継続するよう再開始(re-initiate)することが可能である。ポリマーの単離(isolation)は、ベンゼン、トルエン、DCM等の油性非溶媒(oily non solvent)中で実現することができる。沈殿したポリマーは、50℃で真空乾燥され、白色固体(white solid)として回収される。ARGET(Activators ReGenerated by Electron Transfer)原子移動ラジカル重合法(ARGET-ATRP)により、得られた沈殿物をメタノール、DMFおよびアニソールの混合物に溶解し、ブドウ糖、スズ(II)エチルヘキサノエート、アスコルビン酸等の還元剤、前述の触媒リガンド錯体(catalyst-ligand complex)、およびメタクリル酸ブチルを添加することにより、ポリグリセロールモノメタクリレートのアームが、メタクリル酸ブチルの20単位分延長される。この反応は、重合率に応じて、60℃~70℃で3~5時間行われる。他のポリマー鎖延長法を用いてもよく、どれを選択するかは、ポリマーの第1ブロックを生成するのにどの方法を用いたかによって異なる。
【0168】
ポリマーは、必要に応じて単離および精製(purify)される。このポリマーに、共溶媒(例えば、1,4-ジオキサン、水不溶性モノマー(好ましくは、コポリマーの疎水性ブロックに用いられたとの同一のモノマー)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)等の油溶性架橋剤、ラジカル種と反応して結合を形成可能な少なくとも1つの基を有するオレイル硫酸ナトリウム等の荷電界面活性剤、および、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン等の油溶性ラジカル光開始剤)が添加される。エマルションの形成を促進するため、その他の非イオン性界面活性剤を添加してもよい。これは速やかに脱イオン水に混合され、ブロックコポリマーを主要界面活性剤として用いたナノエマルションが形成される。このエマルションは、光開始剤にラジカルを生成させるのに適した波長の紫外線に曝露され、エマルション液滴のコアが、液滴同士を架橋し始めて固体粒子になる。ブロックコポリマーの末端における残りの重合性基は、コポリマーを架橋してマトリックスにする機能を果たす。帯電界面活性剤内の二重結合またはその他の反応基も同様の機能を果たす。ブロックコポリマー界面活性剤の帯電界面活性剤に対する比率は、各粒子が最終的に非常に少ない正味電荷を持つように大きくされる(この例では4000:1)。
【0169】
次に、粒子を極性非プロトン性溶媒(酢酸エチル等)に対して透析することにより精製し、回転蒸発(rotary evaporation)により濃縮した。そして、適切な成分化学物質を粒子に添加し、一夜反応させた。その後、粒子を再び透析し、余剰分を除去した。
【0170】
次に、一の電荷および成分化学物質を有する粒子をその相補体(complements)と混合し、必要に応じて対イオンを除去するための精製を行う。
【0171】
図26Dは、電気泳動ディスプレイに用いる電気泳動分散液を生成するための一例としての方法2670を示すフローチャートである。この方法2670は、本明細書に記載の相互作用する化学物質を含む帯電移動キャリアを形成可能な方法の1つである。具体的には、方法2670は、図26Aの方法2650をコアファースト法として実行した場合の一例である。図26Eは、方法2670による電気泳動分散液の形成工程の一例を示す図である。
【0172】
ブロック2672にて、コア粒子を成長させる(図26Eの2602D参照)。コア粒子は、コアの表面に電荷を付与する荷電制御剤(界面活性剤、専用の荷電開始剤(charged initiator)やその他の荷電制御剤等)によって成長させることができる。
【0173】
ブロック2674にて、ポリマーコロナを成長させるために、コア粒子の表面が官能化される(図26Eの2604D参照)。コア粒子は、その表面に高密度の官能基を有するように形成することができる。官能基は、表面から重合反応(好ましくは、RAFT、ATRP、NMP等のリビング重合の形態)を開始させるのに直接用いることも、重合開始剤(polymerization initiator)へと変化させることもできる。
【0174】
ブロック2676にて、コア粒子の表面からポリマーコロナが成長する(図26Eの2606D参照)。ポリマーコロナは、本明細書に記載の技術に従って成長させることができる。
【0175】
ブロック2678にて、ポリマーコロナが成分化学物質で官能化される(図26Eの2608D参照)。ポリマーコロナは、本明細書に記載の技術に従って官能化させることができる。
【0176】
帯電コアの表面から成長するポリマーは、成分化学物質をすでに含むモノマーを含んでいてもよいし(すなわち、「事前官能化(pre-functionalization)」)、ポリマーコロナの重合化後に成分化学物質を付着させるのに使用可能な官能基を有するモノマーを含んでいてもよい(すなわち、「事後官能化(post -functionalization)」)。分散媒への溶解性を高めるため、追加のモノマーをコロナに含ませてもよい。また、事前官能化と事後官能化の両方を組み合わせてもよい。また、必要に応じて精製を行ってもよい。
【0177】
以下、図26Dの方法2670を実行することにより得られる電気泳動分散液の組成例について説明する。この組成例では、コア架橋ポリマー粒子(core crosslinked polymeric particles)の生成にエマルション重合系(emulsion polymerization system)が用いられた。コア架橋ポリマー粒子は後に、ATRPを用いて親水性ブラシで延長される。モノマーの添加は、バッチ式(batch)、セミバッチ式(semi-batch)または現場シード形成(in-situ seeded)のいずれかの成長方式(growth formats)によって行われた。これらのシステムはそれぞれ、最終的な粒子サイズおよび粒子の表面機能に対する制御レベルを異ならせることができる。メタクリル酸ブチルおよびエチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)の架橋コア(crosslinked core)を、水溶性熱活性化フリーラジカル開始剤(負に帯電した粒子に対しては過硫酸カリウム等、正に帯電した粒子に対しては2,2'-アゾビス-[2-(1,3-ジメチル-4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-3-イウム-2-イル)]プロパントリフラート等)を用いて合成した。非帯電の他の開始剤を用いてもよいが、その場合、帯電界面活性剤またはその他の電荷付与成分を添加する必要がある。コアモノマーを、ポリソルベート(Tween 20、Tween 80)等の非イオン性界面活性剤により油相液滴内で安定化させ、成長する界面活性剤ミセル(growing surfactant micelles)内で重合した。ミセル内において、モノマーの移動は濃度勾配(concentration gradient)によって制御された。熱開始を最適化するため、反応は55℃~65℃の温度で行った。粒子サイズは60nm未満、10nm超となるように制御した。サイズ分析は、DLSにより行った。
【0178】
バッチ式のコアファースト法の場合、コアモノマーと同時にヒドロキシプロピルメタクリレートを添加し、粒子表面上に部分的なヒドロキシル官能基を得た。
【0179】
セミバッチ式およ現場シード形成式のコアファースト法の場合、ヒドロキシプロピルメタクリレートを粒子/シード形成の後に添加し、粒子表面上に高密度のヒドロキシル官能基を得た。
【0180】
次に、粒子を水およびモノマー含有媒質から徐々に透析し、極性非プロトン性溶媒(テトラヒドロフラン等)に対して透析した。この工程において水を除去する方法の他の例として、凍結乾燥(lyophilization)が挙げられる。その後、ヒドロキシル官能基と反応してエステル結合を形成するα-ブロモイソブチリルブロミドを用いて、粒子表面上のヒドロキシル官能基を第三級ブロモ官能基(tertiary bromo functionality)へと変化させた。
【0181】
そして、得られた粒子を、表面開始(surface-initiated)原子移動ラジカル重合法(SI-ATRP)のための結合可能なマクロ開始剤(tetherable macro-initiator)として用いて、疎水性コア粒子から延伸する水溶性ポリ(グリセロールモノメタクリレート-co-グリシジルメタクリレート)ブラシを生成した。
【0182】
SI-ATRPは、THF、アニソール、メタノールまたはそれらの組み合わせからなる溶媒系中で活性剤種を還元するために、AIBN等の二次フリーラジカル発生剤(secondary free radical generator)を用いて、前述のICAR重合法と同様の方法で行った。
【0183】
次に、粒子を極性非プロトン性溶媒(酢酸エチル等)に対して透析することにより精製し、回転蒸発により濃縮した。そして、適切な成分化学物質を粒子に添加し、一夜反応させた。その後、粒子を再び透析し、化学物質の余剰分を除去した。
【0184】
次に、一の電荷および成分化学物質を有する粒子をその相補体と混合し、必要に応じて対イオンを除去するための精製を行う。
【0185】
図27(A)は、一例としての電気泳動ディスプレイ装置2700を示す図である。電気泳動ディスプレイ装置2700は、ディスプレイ2720を有する。ディスプレイ2720は、電気泳動分散液を収容し当該電気泳動分散液の光学特性を伝達するピクセルチャンバ2722を有する。電気泳動分散液は、本明細書に記載の、相互作用するように誘導することができる第1の化学物質および第2の化学物質を含む。ピクセルチャンバ2722は、本明細書に記載のカラーフィルタの一部とすることができる。ここで、当該カラーフィルタは、ディスプレイ2720のピクセルに対応する複数のピクセルチャンバを有し、当該ピクセルチャンバは、成分化学物質を電気泳動分散液中に含む。ディスプレイ2720のピクセルは空間コントラスト(spatial contrast)を形成し、また、時間と共に変化して画像や動画を表示することができる。
【0186】
電気泳動ディスプレイ装置2700はさらに、ピクセルチャンバ2722を通過する電磁界を変化させて第1および第2の化学物質を分離状態と光学活性状態との間で可逆的に切り替わるように誘導することで電気泳動分散液の光学特性を変化させるための電極2724を有している。
【0187】
電気泳動ディスプレイ装置2700はさらに、電極2724を制御して電磁界を変化させ、ディスプレイ2720が表示する画像に対応する光学特性をピクセルチャンバが伝達するようにするための制御部2730を有している。
【0188】
ディスプレイ2720は、単層のカラーフィルタを有していてもよいし、複層のカラーフィルタを有していてもよい。単層のカラーフィルタを有する場合、ディスプレイ2720は単色(monochromic)ディスプレイとして動作することができる。2層のカラーフィルタを有する場合、ディスプレイ2720は多色(polychromatic)ディスプレイとして動作することができる。図21Cのマルチカラーピクセルユニット2180に従って、2層以上のカラーフィルタを設けてもよい。2層以上のカラーフィルタを有する場合、カラーフィルタの異なる層が、それぞれ異なる色変化を起こす異なる電気泳動分散液を収容することができる。したがって、各カラーフィルタを通過する光の組み合わせにより、幅広い色を表示することができる。例えば、3層のカラーフィルタの場合、一の層が透明とシアンとの間で切り替わる化学物質を含む電気泳動分散液を収容し、他の層が透明とマゼンタとの間で切り替わる化学物質を含む電気泳動分散液を収容し、さらに他の層が透明とイエローとの間で切り替わる化学物質を含む電気泳動分散液を収容することができる。これらの色変化は、本明細書に記載のいずれのスキームによって実現してもよい。このように、カラーフィルタの複数の層を互いに積層してフルカラーディスプレイを構成することができる。なお、これらのカラーフィルタの層を、各カラーフィルタ層を通過した光を反射する高反射層の上に積層してもよい。
【0189】
図27(B)は、他の一例としての電気泳動ディスプレイ装置2702を示す図である。電気泳動ディスプレイ装置2702は電気泳動ディスプレイ装置2700と同様のものとすることができ、したがって、ピクセルチャンバおよび電極(不図示)を有するディスプレイ2720と、制御部(不図示)とを有することができる。
【0190】
電気泳動ディスプレイ装置2702はさらに、本体2708と、ディスプレイ2720上の情報とインタラクションする1つまたは複数のインタラクティブ制御部2706とを有することができる。また、電気泳動ディスプレイ装置2702は、当該装置を通常の腕時計と同じようにユーザの手首に装着するためのバンド2710と留め具2712とを有することができる。電気泳動ディスプレイを装置2702は、スマートウォッチと呼ぶこともできる。本明細書に記載の電気泳動ディスプレイをスマートウォッチに組み込むことは、屋外環境等の高輝度環境において特に有用となり得る。
【0191】
このように、高リフレッシュレートおよび低消費電力に加えて、高彩度および高透過率を実現することが可能な電気泳動ディスプレイ装置を提供することができる。ピクセルの光学特性の変化を、固定された光学特性を持つ粒子の全体的な移動ではなく、化学物質の可逆的な相互作用によって実現する。このように、化学物質の相互作用を用いて、ディスプレイ装置における画像や動画を生成することができる。
【0192】
上記の各種実施形態における特徴および態様を組み合わせて、本開示の範囲内でさらなる実施形態を構成することができる。また、特許請求の範囲は、上記の実施形態に限定されず、全体としての記述に沿う最も広い解釈が与えられるべきである。
図1
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図5
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図19-1】
図19-2】
図20
図21A
図21B
図21C
図22A
図22B
図23
図24
図25
図26A
図26B
図26C
図26D
図26E
図27