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特許7519105スイッチトリラクタンスモータおよびその制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】スイッチトリラクタンスモータおよびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/08 20160101AFI20240711BHJP
   H02K 19/10 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
H02P25/08
H02K19/10 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021551713
(86)(22)【出願日】2020-10-09
(86)【国際出願番号】 JP2020038264
(87)【国際公開番号】W WO2021070926
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2019187814
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構「超スマート社会実現のカギを握る革新的半導体技術を基盤としたエネルギーイノベーションの創出に関する研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 武恒
(72)【発明者】
【氏名】クチュク ファット
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-97379(JP,A)
【文献】特開2016-163514(JP,A)
【文献】特開2011-172481(JP,A)
【文献】特開平2-205307(JP,A)
【文献】特開2018-93109(JP,A)
【文献】特開2007-282323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/08
H02K 19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のロータ突極を有するロータ、複数のステータ突極を有するステータ、前記複数のステータ突極のうち各相のステータ突極に巻回された各相の駆動巻線、およびステータヨークに配置され、電流磁界により磁力が変化する永久磁石を含むモータ本体と、
前記ロータを回転駆動させるために前記各相の駆動巻線に駆動電流を出力する駆動回路と、
前記各相の駆動巻線への前記駆動電流の印加時間よりも短時間のパルス電流を、前記駆動電流に重畳して出力することにより前記永久磁石の磁力を変化させるパルス電流出力回路とを備える、スイッチトリラクタンスモータ。
【請求項2】
前記永久磁石は、互いに隣接する第1相用のステータ突極と第2相用のステータ突極との中間位置に設けられ、
前記パルス電流出力回路は、第3相用のステータ突極といずれかのロータ突極とが整列位置にあるときに、前記第3相用の駆動巻線に前記パルス電流を出力する、請求項1に記載のスイッチトリラクタンスモータ。
【請求項3】
前記永久磁石は、互いに隣接する第1相用のステータ突極と第2相用のステータ突極との中間位置に設けられ、
前記パルス電流出力回路は、前記第1相用のステータ突極といずれかのロータ突極とが整列位置にあるときに、前記第1相用の駆動巻線に前記パルス電流を出力する、請求項1に記載のスイッチトリラクタンスモータ。
【請求項4】
前記駆動回路は、前記第1相用の駆動巻線、前記第2相用の駆動巻線、第3相用の駆動巻線の順に前記駆動電流を出力し、
前記パルス電流出力回路は、前記第1相用の駆動巻線に前記パルス電流を出力した後で、前記第2相用のスータ突極といずれかのロータ突極とが整列位置になったときに、前記第2相用の駆動巻線に前記パルス電流を出力する、請求項3に記載のスイッチトリラクタンスモータ。
【請求項5】
前記パルス電流の印加時間は、電気的時定数よりも大きく機械的時定数よりも小さく、
前記電気的時定数は、前記モータ本体の各相の平均インダクタンスを前記各相の駆動巻線の抵抗値で除算することによって得られ、
前記機械的時定数は、前記ロータの慣性モーメントを前記ロータの制動係数で除算することによって得られる、請求項1~4のいずれか1項に記載のスイッチトリラクタンスモータ。
【請求項6】
前記永久磁石は、アルニコ磁石または鉄・クロム・コバルト磁石である、請求項1~5のいずれか1項に記載のスイッチトリラクタンスモータ。
【請求項7】
スイッチトリラクタンスモータの制御方法であって、
前記スイッチトリラクタンスモータは、複数のロータ突極を有するロータ、複数のステータ突極を有するステータ、前記複数のステータ突極のうち各相のステータ突極に巻回された各相の駆動巻線、およびステータヨークに配置された永久磁石を含み、
前記制御方法は、
前記ロータを回転駆動させるために前記各相の駆動巻線に駆動電流を出力するステップと、
第1相用のステータ突極といずれかのロータ突極とが整列位置にあるときに、前記第1相用の駆動巻線に、前記各相の駆動巻線への前記駆動電流の印加時間よりも短時間のパルス電流を出力するステップとを備える、スイッチトリラクタンスモータの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、スイッチトリラクタンスモータおよびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチトリラクタンスモータの力率および効率の改善を図るために、ステータ突極に設けられた駆動巻線の他に、ステータヨークに永久磁石を設ける手法が知られている。
【0003】
たとえば、特許文献1(特開2018-174649号公報)に開示された手法によれば、永久磁石は、励磁手段としての機能し、ステータ突極に磁路を介して磁力を印加する。ロータ突極を吸引するステータ突極の切り替えは、永久磁石による磁束に駆動巻線の電流による磁束を加算および減算することによって行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-174649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記文献のスイッチトリラクタンスモータでは、回転速度および負荷トルクがそれぞれある決められた値の場合には、その値に応じた磁力の永久磁石を選択することで力率および効率を向上させることが可能と考えられる。しかしながら、回転速度および負荷トルクの値がそれぞれ広い範囲で変化する場合にどのように力率および効率を最適化すべきかについて、明らかにされていない。
【0006】
通常、モータに用いられる磁石はネオジウム磁石である。ネオジウム磁石の保持力は高いために、通常の使用状態ではその磁力はほとんど変化しない。したがって、上記の構成のスイッチトリラクタンスモータにネオジウム磁石を適用した場合には、狭い動作範囲でしかモータの力率および効率を最適化できない。
【0007】
本開示は上記の問題点を考慮してなされたものである。本開示の目的は、広い回転速度の範囲および広い負荷トルクの範囲に対して最適な力率および効率で運転可能なスイッチトリラクタンスモータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態によるスイッチトリラクタンスモータは、モータ本体と、駆動回路と、パルス電流出力回路とを備える。モータ本体は、複数のロータ突極を有するロータ、複数のステータ突極と永久磁石とを有するステータ、および各相のステータ突極に巻回された各相の駆動巻線を含む。駆動回路は、ロータを回転駆動させるために各相の駆動巻線に駆動電流を出力する。パルス電流出力回路は、いずれか1つの相の駆動巻線に、各相の駆動巻線への駆動電流の印加時間よりも短時間のパルス電流を出力する。
【発明の効果】
【0009】
上記の実施形態によれば、パルス電流の印加によって永久磁石の残留磁束密度を変化させることができるので、広い回転速度の範囲および広い負荷トルクの範囲に対して最適な力率および効率で運転可能なスイッチトリラクタンスモータを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態によるスイッチトリラクタンスモータの構成の一例を示すブロック図である。
図2図1のモータ本体を対称面で切断した場合の断面斜視図である。
図3】各種磁石のB-H曲線を示す図である。
図4】各半導体スイッチング素子の開閉タイミングおよびパルス電流出力回路の出力タイミングを示すタイミング図である。
図5】負荷トルク、モータ速度、各相の印加電流、およびモータトルクの時間変化を示した図である。
図6図5の例において、永久磁石の磁化状態の変化をB-H図上に示した図である。
図7】他のシミュレーション例において、各相の印加電流、永久磁石の磁束密度、モータトルクの時間変化を示す図である。
図8】第2の実施形態によるスイッチトリラクタンスモータの構成の一例を示すブロック図である。
図9】図のスイッチトリラクタンスモータにおいて、各半導体スイッチング素子の開閉タイミングおよびパルス電流出力回路の出力タイミングを示すタイミング図である。
図10】ステータに設けられた永久磁石への着磁について説明するための図である。
図11】他の実施形態における負荷トルク、モータトルク、および各相の印加電流の時間変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、各実施形態について図面を参照して詳しく説明する。以下では、6極のステータと4極のロータとを有する、いわゆる6-4構造のスイッチトリラクタンスモータを例に挙げて説明する。しかし、本開示の技術はこの構造以外のスイッチトリラクタンスモータにも適用可能である。なお、以下の説明において、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない場合がある。
【0012】
<第1の実施形態>
[装置構成]
図1は、第1の実施形態によるスイッチトリラクタンスモータの構成の一例を示すブロック図である。図2は、図1のモータ本体を対称面で切断した場合の断面斜視図である。以下、図1および図2を参照して、本実施形態のスイッチトリラクタンスモータ10の構成例について説明する。
【0013】
スイッチトリラクタンスモータ10は、モータ本体30と、駆動回路20と、制御回路50とを備える。駆動回路20は、モータ本体30を駆動するための励磁電流を出力する。制御回路50は、駆動回路20の動作を制御する。
【0014】
(モータ本体)
図1および図2に示すように、モータ本体30は、回転軸の回りを回転するロータ35と、ロータ35を囲むように配置されたステータ31と、駆動巻線38(38a,38b,38c)とを含む。
【0015】
いわゆる6-4構造の場合、ロータ35は、90度ごとにステータ31に向かって突出する4個のロータ突極36を備える。ステータ31は、環状のステータヨーク33と、60度ごとにステータヨーク33からロータ35に向かって突出する6個のステータ突極32とを備える。対向する1対のステータ突極32に、対応する相の駆動巻線38(A相巻線38a、B相巻線38b、またはC相巻線38c)が巻回される。
【0016】
さらに、モータ本体30は、ステータヨーク33に設けられた1対の永久磁石40,41を備える。図1および図2の場合、永久磁石40,41は、A相用のステータ突極32から90度離れた位置、すなわち、互いに隣接するB相用のステータ突極32とC相用のステータ突極32との中間位置に設けられる。永久磁石40,41の各々は、ステータヨーク33の第1部分と第2部分との間に挟まれるように配置される。したがって、ステータヨーク33内の磁路は、永久磁石40,41を通過する。
【0017】
永久磁石40,41として、アルニコ(AlNiCo)磁石および鉄・クロム・コバルト磁石などの磁石が好適に用いられる。これらの磁石の残留磁束密度はネオジウム磁石の残留磁束密度と同程度であるが、保持力がネオジウム磁石の保持力の1/10程度以下である。したがって、外部磁界を変化させることによって磁力を容易に変化させることができる。
【0018】
図3は、各種磁石のB-H曲線を示す図である。図3の横軸は外部磁界Hc(単位:kA/m)を示し、縦軸は磁束密度Br(単位:T)を示す。図3では、ネオジウム(NdFeB)磁石、サマリウムコバルト(SmCo)磁石、およびアルニコ(AlNiCo)磁石のB-H曲線の一例が示されている。
【0019】
図3に示すように、アルニコ磁石は、ネオジウム磁石およびサマリウムコバルト磁石のような希土類磁石と同程度の強い磁力を有する。アルニコ磁石の最大磁束密度は、0.5~1.2T程度であり、ネオジウム磁石と同程度である。一方、アルニコ磁石の保持力は、50~150KA/m程度であり、希土類磁石の保持力の1/10程度以下である。
【0020】
図3には示していないが、鉄・クロム・コバルト磁石の最大磁束密度は、0.5~1.2T程度であり、アルニコ磁石と同程度である。また、鉄・クロム・コバルト磁石の保持力は、30~70KA/m程度であり、アルニコ磁石と同程度であるか若干小さい。
【0021】
本実施形態のスイッチトリラクタンスモータ10のモータ本体30では、永久磁石40,41として、アルニコ磁石および鉄・クロム・コバルト磁石のような鋳造磁石が用いられる。これによって、希土類磁石と同程度の強い磁力を有しながらも、駆動巻線38に印加したパルス電流によってその磁力を変化させることができる。
【0022】
(駆動回路)
再び図1および図2を参照して、駆動回路20は、非対称ハーフブリッジコンバータである。駆動回路20は、直流電源22から出力された直流電圧Vを、モータ本体30を駆動するための三相のパルス電圧に変換する。
【0023】
駆動回路20は、自己消弧型の半導体スイッチング素子S1~S6と、ダイオードD1~D6と、スイッチSW1とを含む。図1では、半導体スイッチング素子S1~S6の一例として、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)が用いられる。以下、これらの接続関係について説明する。スイッチSW1についても、自己消弧型の半導体スイッチング素子を用いることができる。
【0024】
半導体スイッチング素子S1は、A相巻線38aの一端に接続された接続ノード(node)N1と直流電源22の正側ノードNPとの間に接続される。半導体スイッチング素子S2は、A相巻線38aの他端に接続された接続ノードN2と直流電源22の負側ノードNNとの間に接続される。ダイオードD1は、接続ノードN2と直流電源22の正側ノードNPとの間に逆バイアス方向に接続される。ダイオードD2は、接続ノードN1と直流電源22の負側ノードNNとの間に逆バイアス方向に接続される。
【0025】
同様に、半導体スイッチング素子S3は、B相巻線38bの一端に接続された接続ノードN3と直流電源22の正側ノードNPとの間に接続される。半導体スイッチング素子S4は、B相巻線38bの他端に接続された接続ノードN4と直流電源22の負側ノードNNとの間に接続される。ダイオードD3は、接続ノードN4と直流電源22の正側ノードNPとの間に逆バイアス方向に接続される。ダイオードD4は、接続ノードN3と直流電源22の負側ノードNNとの間に逆バイアス方向に接続される。
【0026】
同様に、半導体スイッチング素子S5は、C相巻線38cの一端に接続された接続ノードN5と直流電源22の正側ノードNPとの間に接続される。半導体スイッチング素子S6は、C相巻線38cの他端に接続された接続ノードN6と直流電源22の負側ノードNNとの間に接続される。ダイオードD5は、接続ノードN6と直流電源22の正側ノードNPとの間に逆バイアス方向に接続される。ダイオードD6は、接続ノードN5と直流電源22の負側ノードNNとの間に逆バイアス方向に接続される。
【0027】
駆動回路20は、さらに、パルス電流出力回路21を含む。パルス電流出力回路21は、外部磁界によって永久磁石40,41の磁化状態を変化させるために、ロータ35が回転駆動しない程度の短時間の間、ステータ31に巻回された巻線にパルス電流を印加する。本実施形態では、パルス電流を印加するための特別な巻線を設けるのではなく、駆動巻線38のうち少なくとも1相の巻線にパルス電流が印加される。
【0028】
パルス電流出力回路21は、図1の場合には、A相用の接続ノードN1,N2の間に接続される。この場合、スイッチSW1は、接続ノードN1とダイオードD2のカソードとの間、または接続ノードN2とダイオードD1のアノードとの間に接続される。ロータ35を駆動するための駆動電流をA相巻線38aに流す場合、スイッチSW1はオン状態に制御される。一方、パルス電流出力回路21からパルス電流をA相巻線38aに流す場合、スイッチSW1および半導体スイッチング素子S1,S2はいずれもオフ状態に制御される。
【0029】
具体的に、パルス電流出力回路21は、接続ノードN1に接続された出力端子T1と、接続ノードN2に接続された出力端子T2とを有する。出力端子T1が正側かつ出力端子T2が負側の極性でパルス電流を出力する場合、A相巻線38aには、ロータ35を駆動する駆動電流と同方向の電流が流れる。一方、出力端子T1が負側かつ出力端子T2が正側の極性でパルス電流を出力する場合、A相巻線38aには駆動電流と逆方向の電流が流れる。
【0030】
永久磁石40,41の磁力の大きさは、パルス電流出力回路21から印加されるパルス電流の大きさ及び印加時間によって調整できる。パルス電流を印加する時間及びそのタイミングの詳細については後述する。
【0031】
(制御回路)
制御回路50は、半導体スイッチング素子S1~S6の開閉状態を制御するためにゲート制御信号を出力する。制御回路50は、さらにスイッチSW1の開閉状態を制御する。さらに、制御回路50は、パルス電流出力回路21から出力されるパルス電流の大きさ及びタイミングを制御する。また、制御回路50は、パルス電流出力回路21からパルス電流を出力しないときには、出力端子T1および出力端子T2をハイインピーダンス状態または開放状態にするように、パルス電流出力回路21を制御する。もしくは、制御回路50は、パルス電流出力回路21からパルス電流を出力しないときには、パルス電流出力回路21またはその出力ドライバへの電源電圧の供給をオフにしてもよい。
【0032】
図1の例では、制御回路50は、コンピュータをベースに構成される。すなわち、制御回路50は、CPU(Central Processing Unit)51、メモリ52、およびインタフェース(I/F)回路53を含む。制御回路50は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)などの回路をベースに構成されていてもよい。
【0033】
具体的に図1の場合、CPU51は、制御プログラムに従って命令を実行することにより、半導体スイッチング素子S1~S6、パルス電流出力回路21、およびスイッチSW1を制御する。メモリ52は、CPU51の主記憶として動作するRAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)、ならびに上記の制御ブログラムを格納するための不揮発性メモリおよび補助記憶装置などを含む。インタフェース回路53は、ドライブ回路などを含み、ゲート制御信号を半導体スイッチング素子S1~S6のゲート端子に出力する。さらに、インタフェース回路53は、パルス電流出力回路21およびスイッチSW1を制御するための制御信号を出力する。
【0034】
[動作方法]
次に、上記の構成のスイッチトリラクタンスモータ10の動作について説明する。まず、ロータ35の回転駆動自体は、従来と同様の方法を用いて行われる。
【0035】
たとえば、制御回路50がA相用の半導体スイッチング素子S1,S2を両方ともオン状態に制御した場合、A相巻線38aに電力が供給され、A相用のステータ突極32の磁化および消磁が実現される。同時に、永久磁石40,41の磁化状態も変化する。
【0036】
制御回路50は、A相巻線38aに電力供給が不要なときは、半導体スイッチング素子S1,S2のいずれかをオフ状態に制御する。たとえば、半導体スイッチング素子S1をオフ状態に制御した場合、A相巻線38aに蓄えられた磁気エネルギーによって、半導体スイッチング素子S2とダイオードD2とを介して電流が環流する。逆に、半導体スイッチング素子S2をオフ状態に制御した場合、A相巻線38aに蓄えられた磁気エネルギーによって、半導体スイッチング素子S1とダイオードD1と介して電流が環流する。いずれの場合も、直流電源22からの電力供給はない。
【0037】
制御回路50が半導体スイッチング素子S1,S2を両方ともオフ状態に制御した場合、ダイオードD1,D2を介して電流が流れる。これにより、A相巻線38aに蓄えられた磁気エネルギーが直流電源22に戻される。A相巻線38aの両端には電力供給時と逆極性の電圧が印加され、巻線電流は次第に減少する。
【0038】
図1において、ロータ35を反時計回り方向に回転駆動させる場合には、制御回路50は駆動回路20に、A相巻線38a、B相巻線38b、C相巻線38cの順に電力を供給させる。これによって、電気角で120度ごとに磁束方向が変化する電磁界が生成される。ロータ35を時計回り方向に回転駆動させる場合には、制御回路50は駆動回路20に、A相巻線38a、C相巻線38c、B相巻線38bの順に電力を供給させる。
【0039】
具体的に図1では、A相用のステータ突極32とロータ突極36とが整列位置にある場合が示されている。ロータ35を反時計回り方向に回転駆動させる場合には、制御回路50は、このタイミングでA相巻線38aに電力を供給している状態からB相巻線38bに電力を供給している状態に制御を切り替える。逆に、ロータ35を時計回り方向に回転駆動させる場合には、制御回路50は、このタイミングでA相巻線38aに電力を供給している状態からC相巻線38cに電力を供給している状態に制御を切り替える。
【0040】
なお、図1の例において、ロータ35を反時計回りに回転させ、最初にA相巻線38aに駆動電流を印加する場合のロータ35の初期位置について説明する。この場合、ロータ35のいずれかのロータ突極36は、初期位置としてA相用のステータ突極32とB相用のステータ突極32との間に位置しなければならない。たとえば、ロータ35のいずれかのロータ突極36は、A相用のステータ突極32から40~45度の位置に配置される。ロータ35を時計回りに回転させ、最初にA相巻線38aに駆動電流を印加する場合、ロータ35のいずれかのロータ突極36は、初期位置としてA相用のステータ突極32とC相用のステータ突極32との間に位置しなければならない。
【0041】
次に、パルス電流出力回路21の動作について説明する。パルス電流出力回路21は、永久磁石40,41の配置位置に応じて定まる特定相のステータ突極32といずれかのロータ突極36とが整列位置にあるときに、少なくとも当該特定相のステータ突極32に巻回された駆動巻線38にパルス電流を供給する。
【0042】
具体的に、図1および図2に示す例では、永久磁石40,41は、ステータヨーク33のうち、互いに隣接するB相用のステータ突極32とC相用のステータ突極32との中間位置に設けられている。すなわち、一対の永久磁石40,41は、A相用のステータ突極32に対して対称位置に設けられている。この場合、A相用のステータ突極32といずれかのロータ突極36とが整列位置にあるとき、半導体スイッチング素子S1,S2をオフにした状態でパルス電流出力回路21からA相巻線38aにパルス電流を供給する。この結果、図1に示すようにA相用のステータ突極32、ロータ35、ステータヨーク33、および永久磁石40,41を介した磁気回路が形成されるので、効率良く永久磁石40,41の磁力を増加または減少させることができる。
【0043】
ここで、駆動電流と同方向にパルス電流を注入すると永久磁石40,41の磁力は増加し、駆動電流と逆方向にパルス電流を注入すると永久磁石40,41の磁力は減少する。具体的に図1に示す例において、パルス電流出力回路21の出力端子T1および出力端子T2をハイインピーダンス状態または開放状態にし、スイッチSW1をオン状態にする。この状態で、半導体スイッチング素子S1,S2を両方ともオン状態にすることによってA相巻線38aに駆動電流を印加すると、図1の矢印で示す方向に磁束MFが生じる。この場合、図1に示すように永久磁石40,41の各々において磁束MFの上流側がS極に磁化され、磁束MFの下流側がN極に磁化される。
【0044】
次に、半導体スイッチング素子S1,S2を両方ともオフ状態にして、スイッチSW1をオフ状態にする。この状態で、出力端子T1を正側かつ出力端子T2を負側の極性でパルス電流出力回路21からパルス電流を出力すると、駆動電流と同方向にパルス電流が流れる。この結果、図1の場合と同方向の磁束が生じるので、永久磁石40,41の着磁量を増加させることができる。逆に、半導体スイッチング素子S1,S2およびスイッチSW1をいずれもオフ状態にして、出力端子T1を負側かつ出力端子T2を正側の極性でパルス電流出力回路21からパルス電流を出力すると、駆動電流と逆方向にパルス電流が流れる。この結果、図1の場合と逆方向の磁束が生じるので、永久磁石40,41の着磁量を減少させることができる。
【0045】
なお、パルス電流を印加するタイミングが上記と異なると、トルクリップルの発生によってロータ35に振動を引き起こす可能性があり、結果としてモータの安定した動作を妨げる可能性がある。
【0046】
ロータ35の通常の駆動状態では、永久磁石40,41による磁界に駆動巻線38の電流磁界が重畳される(磁力向上効果)。上記のようにパルス電流を利用して永久磁石40,41の磁力を変化させることにより、磁気回路に生成された磁束MFを大きく変化させることができる。この結果、モータの出力トルクを負荷トルクの変動に応じた適切な値に変更または調整可能になる。
【0047】
パルス電流出力回路21からの電流パルスの印加時間は、ロータ35が回転しない程度の短い時間に設定する必要がある。したがって、パルス印加時間Tは、電気的時定数τよりも十分に長いが、機械的時定数τよりも十分に短く設定する必要がある。パルス印加時間Tが電気的時定数τよりも十分に長くないと、A相巻線38aにパルス電流を注入することができない。また、パルス印加時間Tが機械的時定数τよりも十分に短くないと、モータ出力に大きなトルクリップルが発生したり、ロータ35に振動を引き起こしたりする可能性があり、モータの安定した動作を妨げる。
【0048】
ここで、電気的時定数τは、次式(1)に示すように、モータ本体30の各相の平均インダクタンスLと各相の駆動巻線38の抵抗値Rとを用いて、
τ=L/R …(1)
で与えられる。
【0049】
機械的時定数τは、次式(2)に示すように、ロータ35の慣性モーメントJと制動係数Bとを用いて、
τ=J/B …(2)
で与えられる。
【0050】
したがって、パルス印加時間Tは、
τ≪T≪τ …(3)
を満たす必要がある。
【0051】
表1は、機械的時定数τおよび電気的時定数τの具体的設計例を示す。パルス印加時間Tは、例えば、電気的時定数τの10倍よりも大きくかつ機械的時定数τの10分の1よりも小さい値(表1の例では約0.5秒~2秒)に設定される。
【0052】
【表1】
【0053】
[スイッチングタイミングの具体例]
以下、図1および図4を参照して、駆動回路20を構成する各半導体スイッチング素子S1~S6およびパルス電流出力回路21の制御の具体例について説明する。パルス電流出力回路21の出力端子T1の極性を正とし、出力端子T2の極性を負とする。この場合、スイッチSW1は常時オン状態でよい。
【0054】
図4は、各半導体スイッチング素子の開閉タイミングおよびパルス電流出力回路の出力タイミングを示すタイミング図である。図4の時刻t1において、制御回路50は、半導体スイッチング素子S1,S2をオン状態に切り替える。これよって、A相巻線38aに駆動電流が印加される。
【0055】
次の時刻t2において、制御回路50は、半導体スイッチング素子S1,S2をオフ状態に切り替えるとともに、半導体スイッチング素子S3,S4をオン状態に切り替える。これによって、A相巻線38aへの駆動電流の印加が終了し、B相巻線38bへの駆動電流の印加が開始される。時刻t2において、A相巻線38aとロータ35のいずれかロータ突極36とがほぼ整列位置にある。この整列位置にある時刻t2から時刻t3までの間、制御回路50からの指令に従って、パルス電流出力回路21はA相巻線38aにパルス電流を出力する。この結果、駆動電流の残留電流に重畳されてパルス電流がA相巻線38aに流れることにより、永久磁石40,41の磁化が調整される。具体的に、駆動電流の残留電流と同方向にパルス電流を流すと永久磁石40,41の着磁量が増加し、駆動電流の残留電流と逆方向にパルス電流を流すと永久磁石40,41の着磁量が減少する。なお、A相巻線38aへのパルス電流の注入時には、制御回路50は、半導体スイッチング素子S1,S2をオフ状態に制御し、かつスイッチSWをオフ状態に制御する。このとき、半導体スイッチング素子S3,S4をオン状態に制御してもよいし、オフ状態に制御してもよい。
【0056】
次の時刻t4において、制御回路50は、半導体スイッチング素子S3,S4をオフ状態に切り替えるとともに、半導体スイッチング素子S5,S6をオン状態に切り替える。これによって、B相巻線38bへの駆動電流の印加が終了し、C相巻線38cへの駆動電流の印加が開始される。
【0057】
その後、同様に、時刻t5においてC相巻線38cからA相巻線38aに駆動電流の印加先が切り替えられる。時刻6において、A相巻線38aからB相巻線38bに駆動電流の印加先が切り替えられる。時刻t7において、B相巻線38bからC相巻線38cに駆動電流の印加先が切り替えられる。時刻t8において、C相巻線38cからA相巻線38aに駆動電流の印加先が切り替えられる。時刻t9において、A相巻線38aからB相巻線38bに駆動電流の印加先が切り替えられる。
【0058】
時刻t9から時刻t10の間において、時刻t2から時刻t3までの間と同様に、制御回路50の指令に従って、パルス電流出力回路21はA相巻線38aにパルス電流を出力する。この結果、駆動電流の残留電流に重畳されてパルス電流がA相巻線38aに流れることにより、永久磁石40,41の磁化が調整される。その後、時刻t11において、B相巻線38bからC相巻線38cに駆動電流の印加先が切り替えられる。
【0059】
[シミュレーション例1]
以下、数値シミュレーションによる結果について説明する。まず、図1の永久磁石40,41を十分に磁化した状態で、パルス電流出力回路21を動作させない場合の結果について説明する。永久磁石40,41としてアルニコ磁石を用いた。
【0060】
永久磁石40,41を設けない場合と比較すると、出力は、1200rpmの回転速度の場合において約600Wから約1200Wに増加した。効率は、約80%から約90%に増加した。力率は、1200rpmの回転速度の場合において0.35から0.55に増加した。永久磁石40,41を設けることによって、出力、効率、および力率のいずれも増加することが確認できた。
【0061】
[シミュレーション例2]
次に、パルス電流出力回路21からパルス電流を駆動巻線38に印加した場合の数値シミュレーションの結果について、図5および図6を参照して説明する。永久磁石40,41としてアルニコ磁石を用いた。アルニコ磁石の残留磁束密度は初期状態では0としている。
【0062】
図5は、負荷トルク、モータ速度、各相の印加電流、およびモータトルクの時間変化を示した図である。図6は、図5の例において、永久磁石の磁化状態の変化をB-H図上に示した図である。図5において、半導体スイッチング素子S1~S6の切り替えタイミングおよびパルス電流出力回路21のパルス電流の出力タイミングをそれぞれ表す時刻t1~t11は、図4の時刻t1~t11にそれぞれ対応している。
【0063】
図5に示すように、時刻t2および時刻t9で負荷トルクが増加するために、それに応じてモータの出力トルクの平均値を増加させる。このために、時刻t2から時刻t3までの間と時刻t9から時刻t10までの間とにおいて、パルス電流出力回路21からパルス電流がA相巻線38aに出力される。これによって、永久磁石40,41の残留磁束密度を増加させる。
【0064】
なお、図5および図6の例では、別のパルス電流出力回路(図1に不図示)からB相巻線38bにも、同じタイミングでパルス電流が印加される。ただし、A相用のステータ突極32といずれかのロータ突極36とが整列状態にあるので、永久磁石40,41の磁力の変化は主としてA相巻線38aへのパルス電流の注入によって生じる。B相巻線38bへの電流注入は、永久磁石40,41の磁力変化に対するサポートにすぎない。
【0065】
図6に示すように、時刻t2から時刻t3までの最初のパルス電流の注入によって、永久磁石の磁化状態は、状態ST1,ST2,ST3の順に変化する。時刻t9から時刻t10までの次のパルス電流の注入によって、永久磁石の磁化状態は、さらに、状態ST4,ST5,ST6の順に変化する。このように、A相巻線38aおよびB相巻線38bへのパルス電流の注入によって、永久磁石40,41の磁力を変化させることができる。
【0066】
上記の例では、負荷トルクに比べて、モータの平均トルクが大きくなっている。具体的に、負荷トルクが2、5、8[Nm]と増加するのに対して、モータの平均トルクは2.11、6.31、8.43[Nm]のように変化する。この結果から、負荷トルクを増加させるときにモータトルクが増加できるか否かがモータの性能である点から、今回、パルス電流を印加することで、負荷トルクの増加に応じてモータトルクが約10~20%増加しているのがわかる。よって、パルス幅を所定値以上印加することで、モータトルクが向上し、更に効率向上が図れる。
【0067】
なお、上記の場合、負荷トルクとモータの平均トルクとのエネルギー差によってモータ速度が増加している。パルス電流出力回路21から出力されるパルス電流の大きさを調整することによってモータトルクの平均値を負荷トルクに一致するようにすれば、モータ速度がほとんど変化しないように制御することも可能である。
【0068】
[シミュレーション例3]
次に、シミュレーション例2の場合と同様に、パルス電流出力回路21からパルス電流を駆動巻線38に印加した場合の数値シミュレーションの結果について、図7を参照して説明する。各相の駆動電流の大きさを10Aとし、モータの回転速度を500[rpm]とした。また、永久磁石40,41としてアルニコ磁石を用いた。
【0069】
図7は、他のシミュレーション例において、各相の印加電流、永久磁石の磁束密度、モータトルクの時間変化を示す図である。図7において、時刻t20,t21,t22,t23の各々の時刻付近においてパルス電流出力回路21からパルス電流が出力される。
【0070】
具体的に、時刻t20付近および時刻t21付近において、パルス電流出力回路21は、A相巻線38aに駆動電流の方向と同方向にパルス電流を印加する。これによって、永久磁石40,41の磁束密度の平均値が順に増加し、モータトルクの平均値も順に増加する。
【0071】
次の時刻t22付近において、パルス電流出力回路21はA相巻線38aに駆動電流の方向と同方向にパルス電流を印加し、同時に別のパルス電流出力回路(図1に不図示)がC相巻線38cに駆動電流の方向と同方向にパルス電流を印加する。これにより、永久磁石の40,41の磁束密度の平均値がさらに増加し、モータトルクの平均値もさらに増加する。
【0072】
その次の時刻t23付近において、パルス電流出力回路21はA相巻線38aに駆動電流の方向と逆方向にパルス電流を印加する。これにより、永久磁石40,41の磁束密度の平均値は減少し、モータトルクの平均値も減少する。このように、パルス電流出力回路21から駆動電流の方向と逆方向にパルス電流を駆動巻線38に印加することによって、永久磁石40,41の磁束密度を減少させることができ、その結果、モータトルクを減少させることができる。
【0073】
[第1の実施形態の効果]
以上のとおり、第1の実施形態のスイッチトリラクタンスモータによれば、アルニコ磁石または鉄・クロム・コバルト磁石など、保持力の小さい永久磁石がステータヨークに設けられる。そして、永久磁石の配置位置に応じて定まる特定相のステータ突極32といずれかのロータ突極36とが整列位置にあるタイミングで、少なくとも当該特定相の駆動巻線38にパルス電流が印加される。このパルス電流の印加時間は、各相の駆動電流の印加時間よりも短く、ロータ35が回転しない程度の時間に制限される。パルス電流の大きさは駆動電流の大きさよりも大きい。このパルス電流の印加によって、永久磁石の残留磁束密度を変化させることができるので、モータの出力および効率の向上が可能になる。
【0074】
<第2の実施形態>
第2の実施形態のスイッチトリラクタンスモータ10は、第1の実施形態と同じ永久磁石40,41の配置を有しているが、パルス電流をA相以外の相の駆動巻線38に印加する点で第1の実施形態の場合と異なる。以下、図8図10を参照して詳しく説明する。
【0075】
[装置構成]
図8は、第2の実施形態によるスイッチトリラクタンスモータの構成の一例を示すブロック図である。
【0076】
図8に示すスイッチトリラクタンスモータ10の駆動回路20Bは、A相用のパルス電流出力回路21およびスイッチSW1に代えて、B相用のパルス電流出力回路21BおよびスイッチSW2と、C相用のパルス電流出力回路21CおよびスイッチSW3とが設けられている点で、図1のスイッチトリラクタンスモータ10と異なる。なお、共通のパルス電流出力回路21の出力先が切り替えられるように構成されていてもよい。
【0077】
具体的に、B相用のパルス電流出力回路21Bは、接続ノードN3に接続された出力端子T1Bと、接続ノードN4に接続された出力端子T2Bとを有する。スイッチSW2は、接続ノードN3とダイオードD4のカソードとの間、または接続ノードN4とダイオードD3のアノードとの間に接続される。
【0078】
パルス電流出力回路21Bは、スイッチSW2および半導体スイッチング素子S3,S4がいずれもオフ状態に制御された状態で、B相巻線38bにパルス電流を出力する。出力端子T1Bが正側かつ出力端子T2Bが負側の極性でパルス電流出力回路21Bからパルス電流が出力された場合には、B相巻線38bに駆動電流と同方向にパルス電流が印加される。一方、出力端子T1Bが負側かつ出力端子T2Bが正側の極性でパルス電流出力回路21Bからパルス電流が出力された場合には、B相巻線38bに駆動電流と逆方向にパルス電流が印加される。
【0079】
C相用のパルス電流出力回路21Cは、接続ノードN5に接続された出力端子T1Cと、接続ノードN6に接続された出力端子T2Cとを有する。スイッチSW3は、接続ノードN5とダイオードD6のカソードとの間、または接続ノードN6とダイオードD5のアノードとの間に接続される。
【0080】
パルス電流出力回路21Cは、スイッチSW3および半導体スイッチング素子S5,S6がいずれもオフ状態に制御された状態で、C相巻線38cにパルス電流を出力する。出力端子T1Cが正側かつ出力端子T2Cが負側の極性でパルス電流出力回路21Cからパルス電流が出力された場合には、C相巻線38cに駆動電流と同方向にパルス電流が印加される。一方、出力端子T1Cが負側かつ出力端子T2Cが正側の極性でパルス電流出力回路21Cからパルス電流が出力された場合には、C相巻線38cに駆動電流と逆方向にパルス電流が印加される。
【0081】
制御回路50は、半導体スイッチング素子S1~S6、ならびに上記のスイッチSW2,SW3およびパルス電流出力回路21B,21Cを制御するための制御信号を出力する。図8のその他の点は図1の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。なお、モータ本体30に示されている磁束MFに関しては、図10を参照して後述する。
【0082】
[各半導体スイッチング素子の開閉タイミングおよびパルス電流の出力タイミング]
図9は、図のスイッチトリラクタンスモータにおいて、各半導体スイッチング素子の開閉タイミングおよびパルス電流出力回路の出力タイミングを示すタイミング図である。
【0083】
図9のタイミング図において駆動電流の印加タイミングは、図4のタイミング図の場合と同様である。すなわち、時刻t30から時刻t31の間で半導体スイッチング素子S1,S2がオン状態に制御されることにより、A相巻線38aに駆動電流が印加される。その次の時刻t31から時刻t32の間で半導体スイッチング素子S3,S4がオン状態に制御されることにより、B相巻線38bに駆動電流が印加される。その次の時刻t32から時刻t34の間で半導体スイッチング素子S5,S6がオン状態に制御されることにより、C相巻線38cに駆動電流が印加される。以下同様に、時刻t34から時刻t40の間で駆動電流が印加される駆動巻線38の相は、A相、B相、C相の順に順次切り替わる。
【0084】
パルス電流出力回路21Bは、B相巻線38bとロータ35のいずれかのロータ突極36とがほぼ整列位置にある時刻t32から時刻t33の間、および時刻t40からt41の間に、パルス電流をB相巻線38bに印加する。B相巻線38bへのパルス電流の印加時には、スイッチSW2および半導体スイッチング素子S3,S4いずれもオフ状態に制御される。図9では、駆動電流と同方向にパルス電流がB相巻線38bに印加されている。
【0085】
パルス電流出力回路21Cは、C相巻線38cとロータ35のいずれかのロータ突極36とがほぼ整列位置にある時刻34から時刻t35の間に、パルス電流をC相巻線38cに印加する。C相巻線38cへのパルス電流の印加時には、スイッチSW3および半導体スイッチング素子S5,S6はいずれもオフ状態に制御される。図9では、駆動電流と同方向にパルス電流がC相巻線38cに出力されている。
【0086】
図9に示すように、永久磁石40,41の着磁の均一性を向上させるために、B相巻線38bへのパルス電流の印加後、続けて同一の電流値でC相巻線38cにパルス電流を印加するのが望ましい。いずれのパルス電流の印加の場合も永久磁石40,41に生じる磁束MFの方向は同一である。なお、駆動電流をA相、C相、B相の順に印加する場合には、C相巻線38cへのパルス電流の印加後、続けて同一の電流値でB相巻線38bにパルス電流が印加される。
【0087】
[永久磁石への着磁について]
図10は、ステータに設けられた永久磁石への着磁について説明するための図である。図10の(A)は参考図として第1の実施形態の場合の磁束分布を示し、図10の(B)は図9の時刻t32から時刻t33の場合の磁束分布を示し、図10の(C)は図9の時刻t34から時刻t35の場合の磁束分布を示す。
【0088】
図10の(A)に示すように、第1の実施形態の場合には、A相巻線38aとロータ35のいずれかのロータ突極とがほぼ整列位置にあるときに、A相巻線38aにパルス電流が印加される。この場合、永久磁石40,41を通る磁束MFの経路と並列に、B相用のステータ突極、ロータ突極、およびC相用のステータ突極を通る磁束MFの迂回経路が生じ得る。ロータ突極が幅広に設計されている場合には、迂回経路を通る磁束MFの割合が大きくなるために、永久磁石40,41への着磁効率が低くなってしまうという問題がある。
【0089】
図10の(B)に示すように、B相巻線38bとロータ35のいずれかのロータ突極とがほぼ整列位置にあるときに、B相巻線38bにパルス電流が印加される。この場合、永久磁石40,41を通る磁束MFの経路と、ロータ突極を通る磁束MFの迂回経路とは並列にならない。同様に、図10の(C)に示すように、C相巻線38cとロータ35のいずれかのロータ突極とがほぼ整列位置にあるときに、C相巻線38cにパルス電流が印加される。この場合、永久磁石40,41を通る磁束MFの経路と、ロータ突極を通る磁束MFの迂回経路とは並列にならない。
【0090】
したがって、B相用のステータ突極とC相用のステータ突極との間に永久磁石40,41が設けられている場合には、B相巻線38bおよびC相巻線38cのいずれにパルス電流を印加しても、磁束MFの迂回に起因した着磁効率の低下は生じない。B相巻線38bおよびC相巻線38cの一方のみにパルス電流を印加してもよいが、着磁の均一性を改善するためには、B相巻線38bおよびC相巻線38cの一方にパルス電流を印加した場合には、続けて同じ電流値でかつ永久磁石40,41に同一方向の磁束MFが生じるような極性で他方の駆動巻線38にパルス電流を印加した方が望ましい。
【0091】
[第2の実施形態の効果]
以上のとおり、第2の実施形態のスイッチトリラクタンスモータによれば、第1の実施形態の効果に加えて、磁束の迂回経路に起因した永久磁石の着磁効率の低下を防止できる。
【0092】
<その他の実施形態>
以下、図11を参照して、スイッチトリラクタンスモータの他の制御例について説明する。図11は、他の実施形態における負荷トルク、モータトルク、および各相の印加電流の時間変化を示した図である。
【0093】
図11(A)に示すように負荷トルクは10[Nm]で一定である。この負荷トルクと図11(B)に示すモータトルクとが一致するように、トルク制御方式によって図11(C)に示す各相の電流が制御される。図11(B)に示すようにモータ出力には大きなトルクリップルが発生していない。
【0094】
<各実施形態の変形例>
上記の6-4構造のモータ本体に代えて、12極のステータと8極のロータとから構成される、いわゆる12-8構造のモータ本体を用いて構わない。この場合も、各永久磁石は、互いに隣接するB相用のステータ突極32とC相用のステータ突極32との中間の位置のステータヨーク33に設けられる。この場合には、合計4個の永久磁石が設けられることになる。パルス電流出力回路21からのパルス電流の出力タイミングは、第1および第2の実施形態で説明した6-4構造の場合と同様である。より一般的に、ステータ突極およびロータ突極の数を増やす場合には、永久磁石は、一方向の磁束流が利用可能なステータヨーク内で、環状のステータヨークの直径方向に対向する位置に配置され、合計の個数が偶数個であれば、任意の位置に配置可能である。
【0095】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0096】
10 スイッチトリラクタンスモータ、20 駆動回路、21 パルス電流出力回路、22 直流電源、30 モータ本体、31 ステータ、32 ステータ突極、33 ステータヨーク、35 ロータ、36 ロータ突極、38 駆動巻線、38a A相巻線、38b B相巻線、38c C相巻線、40,41 永久磁石、50 制御回路、D1~D6 ダイオード、Hc 外部磁界、N1~N6 接続ノード、NN 負側ノード、NP 正側ノード、S1~S6 半導体スイッチング素子、SW1 スイッチ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11