(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】ケイ素含有物質を含む送達システム
(51)【国際特許分類】
A61K 47/04 20060101AFI20240711BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240711BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240711BHJP
A61K 47/52 20170101ALI20240711BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20240711BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240711BHJP
A61K 38/13 20060101ALI20240711BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20240711BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20240711BHJP
A61K 31/522 20060101ALI20240711BHJP
A61P 17/10 20060101ALI20240711BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240711BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20240711BHJP
A61K 8/25 20060101ALI20240711BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20240711BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20240711BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20240711BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20240711BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240711BHJP
B82Y 5/00 20110101ALI20240711BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240711BHJP
【FI】
A61K47/04
A61K47/24
A61K47/18
A61K47/52
A61K47/44
A61K45/00
A61K38/13
A61K38/02
A61K31/713
A61K31/522
A61P17/10
A61P17/00
A61P17/16
A61K8/25
A61K8/55
A61K8/44
A61K8/49
A61K8/64
A61Q19/00
B82Y5/00
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2021557824
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(86)【国際出願番号】 GB2020050849
(87)【国際公開番号】W WO2020193995
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-03-23
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512021597
【氏名又は名称】エスアイエスエイエフ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SISAF LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】サフィー-シーベルト,ローハイ スザンナ
(72)【発明者】
【氏名】トラビ-ポーア,ナスルーラ
(72)【発明者】
【氏名】アハメド,ムフタール
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-500323(JP,A)
【文献】特表2018-519347(JP,A)
【文献】国際公開第2017/181115(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104127886(CN,A)
【文献】特表2013-543010(JP,A)
【文献】特表2013-537540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
B82Y
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素ナノ粒子を含む組成物からの生物活性剤又は医薬剤の制御された結合及び放出を促進する方法であって、前記ケイ素ナノ粒子は少なくとも50重量%のケイ素を含み、前記方法は、前記ケイ素ナノ粒子の表面を少なくとも1つの脂質で処理するステップ、及び前記ケイ素ナノ粒子の表面を少なくとも1つのアミノ酸で処理するステップを含み、脂質のケイ素に対する比は1:1~15:1である、方法。
【請求項2】
前記脂質のケイ素に対する比は1:1~8:3である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アミノ酸のケイ素に対する比は0.05:1~2:
1であり、及び/又は、前記脂質の前記生物活性剤若しくは医薬剤に対する比は1:1~15:
1である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ケイ素ナノ粒子は20~100nmの平均直径を有し、及び/又は、前記ケイ素ナノ粒子は多孔性である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記脂質はホスファチジルコリンであり、前記アミノ酸はアルギニンである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、処理した前記ケイ素ナノ粒子に医薬剤又は生物活性剤をロードするステップを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記医薬剤若しくは生物活性剤は、シクロスポリンA若しくは抗加齢リポペプチドであり、又は、前記医薬剤若しくは生物活性剤は、核
酸であり、又は、前記医薬剤若しくは生物活性剤は、前記ケイ素ナノ粒子と会合したペプチド若しくはポリペプチドであり、脂質の、ケイ素ナノ粒子と会合したAPIに対する比は、15:1~1:1である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記方法は、前記ケイ素ナノ粒子の表面を油で処理するステップを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの脂質は、ホスファチジルコリン、水素化ホスファチジルコリン、ホスファチジルコリン誘導体、ジデカノイルホスファチジルコリン、ミリストイル(mirystoil)ホスファチジルコリン、レシチン、ホスファチジルエタノールアミン、ステアリルアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、若しくはそれらの組合せから選択され、及び/又は、前記少なくとも1つのアミノ酸は、アスパラギン酸、グルタミン酸、チロシン、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン、スレオニン、アスパラギン、アルギニン、若しくはグルタミンから選択される、請求項1
~4および6~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ケイ素ナノ粒子、少なくとも1つの脂質、及び少なくとも1つのアミノ酸を含み、脂質のケイ素に対する比は1:1~15:
1であり、前記ケイ素ナノ粒子は少なくとも50重量%のケイ素を含む、医薬剤又は生物活性剤の制御された放出のための組成物。
【請求項11】
アミノ酸のケイ素に対する比は0.1:1~2:
1であり、及び/又は、前記脂質はホスファチジルコリンであり、前記アミノ酸はアルギニンであり、及び/又は、前記ケイ素ナノ粒子は20~100nmの平均直径を有し、及び/又は、前記ケイ素ナノ粒子は多孔性である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
処理した前記ケイ素ナノ粒子に医薬剤又は生物活性剤をロードし、任意で、前記医薬剤又は生物活性剤は、アニオン性分子、カチオン性分子、シクロスポリンA、又は抗加齢リポペプチドである、請求項10又は11に記載の組成物。
【請求項13】
油をさらに含み、及び/又は、化粧料に使用するための、若しくは瘢痕、ざ瘡、若しくは皮膚乾燥の処置に使用するための、請求項10~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記少なくとも1つの脂質は、ホスファチジルコリン、水素化ホスファチジルコリン、ホスファチジルコリン誘導体、ジデカノイルホスファチジルコリン、ミリストイル(mirystoil)ホスファチジルコリン、レシチン、ホスファチジルエタノールアミン、ステアリルアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、若しくはそれらの組合せから選択され、及び/又は、前記少なくとも1つのアミノ酸は、アスパラギン酸、グルタミン酸、チロシン、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン、スレオニン、アスパラギン、アルギニン、若しくはグルタミンから選択される、請求項10
、12および13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
前記脂質の前記医薬剤又は生物活性剤に対する比は1:1~15:
1である、請求項10~14のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料、スキンケア、及び医薬品のための送達剤に関する。より具体的に、しかし排他的ではなく、この発明は、放出制御剤としてのケイ素ナノ粒子の使用に関する。また、本発明は関連する組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
所望の標的部位に活性成分を有効に送達するための改善方法は依然として、化粧品産業、スキンケア産業、及び医薬品産業の目標である。
【0003】
放出制御性又は徐放性の方法で医薬活性成分を送達する多数の方法が開発されている。しかしながら、活性成分を送達して放出する機能を行った時点での担体物質の終末については、これまでほとんど注意が払われていなかった。本発明は、放出制御性及び/又は徐放性の方法であるが、ケイ素系担体物質が投与後に生物学的に有益な物質に変換されるものでもある、医薬活性成分の送達のための新たな種類の送達システムを提供しようとするものである。
【0004】
活性剤の局所送達は、大部分の生物学的化合物の安定性不良なこと、並びに、活性薬剤が分子の大きさのため皮膚層の深くに浸透不可能なこと、という課題により特有の問題を提示している。また、活性剤の送達は、疎水性、及び患者の健康上の懸念につながり得る局所用製剤の不十分な生体適合性の課題にも直面している。
【0005】
より広い範囲の活性成分を局所送達させるため、多数の調査では、制御可能な方法において角質層バリアを一時的に破壊して、薬剤が十分かつ予測可能な量で透過でき、ひいては治療レベルに達するための戦略の開発に焦点が置かれている。イオン導入法や超音波などのいくつかの技術は皮膚吸収のエンハンサーとして調査されてきているが、ほとんどの試みは、より多くの量の薬剤を皮膚に透過させるように角質層と可逆的に相互作用し得る非毒性の化学浸透エンハンサーを特定することに集中している。バリアを破壊する初期の試みでは単一の溶媒又は溶媒混合物、界面活性剤、及び脂肪酸を用いていた。これらの物質は皮膚における分子の浸透を高めることができるが、多くの場合、刺激又は炎症反応の誘発などの望ましくない副作用と関連する。
【0006】
また、送達システムの使用も研究されている。通常用いられる送達システムは、皮膚に擦り込んで標的領域に即時に接触させることができるローション剤、クリーム剤、及びゲル剤などの比較的粘性のある流体を含む。これらのビヒクルは、化粧料化合物及び医薬化合物の双方に適切に用いられている。しかしながら一般的には、そうしたビヒクルは、皮膚に留まる時間が比較的短いことから、長期間にわたる活性化合物の送達には適切でない。
【0007】
他のビヒクルは、放出制御性の局所送達システムを形成するため用いられている。特に、通常用いられる局所送達システムはリポソームなどの脂質系担体を利用している。しかしながら、これらの担体システムには、中核部が安定しないこと、及び疎水性化合物のロード容量の制限などの多数の難点がある。また、そうした担体は、皮膚細胞のリン脂質小胞に対しあまりにも大きい又は破壊的である物質の送達には適切ではない。また、リポソームは作製に費用がかかり、有効期間が短く、一部の用途では使用直前に調製する必要がある。
【0008】
また、植物抽出物、剥離性の酵素、RNA等の不安定な活性剤、特に親水性活性剤を安定化し、そうした薬剤を皮膚又は他の身体表面に活性形態で送達することができる一方で、ビヒクルへの製剤化に適する、局所塗布可能な活性剤の送達システムの改善が未だ引き続き必要とされている。
【0009】
(ケイ素)
ケイ素は植物及び動物に必須の微量元素である。ケイ素には、哺乳動物の結合組織の基質に見られるタンパク質-グリコサミノグリカン複合体の成分としての構造的役割、並びに成長及び骨形成(ケイ素は骨の石灰化プロセスを支える)における代謝的役割がある。つまり、ケイ素は、骨及び結合組織の正常な発達に必須である。また、ケイ素は、コラーゲン及びエラスチンプロモーターとして作用し、身体内での抗酸化プロセスに関与して、皮膚の健康に重要な役割を果たすことが知られている。ケイ素はグリコサミノグリカンの生成に関与し、ケイ素依存性酵素によって自然の組織構築プロセスの利益を増大させる。
【0010】
医療用途では、ケイ素はマイクロ粒子又はナノ粒子として作製でき、これは、局所適用、経口摂取、注射、又はインプラントなどの多様な経路を介した投与を容易にする。また、生分解性のケイ素系粒子が薬剤標的化に用いられている。
【0011】
(送達システムの一部としてのケイ素)
ケイ素元素(Si)は水性環境に溶解してケイ酸を形成し、これは、一般式が[SiOx(OH)4-2x]nで、O、H、及びSi元素のオキソ酸化合物のファミリーを表す。
【0012】
このプロセスの第1反応は、オルトケイ酸の形成をもたらす。
ケイ素+2H2O+O2→Si(OH)4
【0013】
オルトケイ酸(OSA)は、モノケイ酸とも呼ばれ、最も単純なシリカの可溶形態である。OSAは、9.8のPka1を有する弱酸性分子であり、OSAの濃度が非晶質相の溶解限度より低い(2mMより低い)とき、室温の水中で安定する。OSAは、二量体化して[(HO)3Si-O-Si(OH)3]を形成することができ、これは、多くの場合、ケイ素濃度レベルが2mMよりはるかに低くてもOSA溶液に存在する。
二量体化:2Si(OH)4→(HO)3Si-O-Si(OH)3+H2O
【0014】
OSAは、2mMを超える濃度において著しく縮合反応して、溶液中のOSAの濃度を低下させる。OSAの縮合反応により、線状又は単環状のトリマー及びテトラマーからプリズム状のオクタマー及びデカマーまでの範囲の、小オリゴマーを形成する。
線状ポリケイ酸:nSi(OH)4→HO-[Si(OH)2-O]n-H+(n-1)H2O
単環状ポリケイ酸:nSi(OH)4→-[Si(OH)2-O]n-+nH2O
プリズム状ポリケイ酸:2nSi(OH)4→-[Si2(OH)2-O3]n-+3nH2O
【0015】
2mMを超える濃度において、小オリゴマーは、最終的に凝集して非晶質「ポリケイ酸」(ポリSA)沈殿物のゲル又は凝集塊を形成する小コロイド種を形成するための核となる。シリカ[SiO2]は、完全なOSA重縮合の終点に相当し、その溶解性、ゆえに生物学的利用能、生分解性、及び安全性を低下させる。
Si(OH)4←→SiO2+2H2O
【0016】
シリカの形成は可逆的なプロセスであるので、シリカからOSAへの逆反応は理論上可能である。しかしながら、これは、上述の反応が高い塩基性条件(13を超えるpH値)及び高温度を要求することから、生理的条件下において熱力学的に好ましくない。
【0017】
OSA重合反応は酸性及び塩基性条件で触媒され、その機序を以下に示す。
塩基性触媒作用機序
Si(OH)4+HO-→(HO)3Si-O-+H2O
(HO)3Si-O-+Si(OH)4→(HO)3Si-O-Si(OH)3+HO-
酸性触媒作用機序
Si(OH)4+H3O+→(HO)3Si-OH2
++H2O
(HO)3Si-OH2
++Si(OH)4→(HO)3Si-O-Si(OH)3+H3O+
【0018】
OSAの二量体化は、溶液中でのケイ酸分子とケイ酸のプロトン化又は脱プロトン化形態との縮合反応によって起こる。縮合速度はpH約3で最小となる一方、該速度は約3より高い又は低いpH値で増加する。二量体化速度は、pH4よりもpH6において100倍速くなる。OSAのpHとpKa1が同一である(=9.8)とき、中性OSA種及びOSAの脱プロトン化形態の濃度が溶液中で同じになって、さらなる二量体化事象が発生可能となるので、重合速度は最大に達する。
【0019】
水における全体的なケイ素種の溶解性は溶液のpHに影響を受け、OSA及びそのオリゴマーは、アルカリ性溶液において、特に8を超えるpHで、種々の可溶ケイ酸塩に解離する。ケイ酸オリゴマーはOSAより強い酸であるので、OSAより優先的に解離する。OSAオリゴマーの酸性度がより高いこと及びその解離傾向により、OSAがより大きいオリゴマー/ポリマーを形成することによるケイ素含有種の溶解性低下が相殺される。9を超えるpHで、可溶ポリSAが多く形成されることは、より大きな分子がOSAに解離する速度が増加するため、pHの増大によるケイ酸の溶解性増加に対応する。実際に、ケイ酸塩の溶解性は7~7.5のpHで最小に低下する。
【0020】
つまり、医薬及び生物活性剤の送達システムとしての用途におけるケイ素系製剤の必要条件は、(a)ケイ素含有物質の水溶性及び(b)生体分子に対するその後の反応性である。
【0021】
ケイ素の水溶性は、ケイ素骨格に対する遊離シラノール(Si-OH)官能基の比率によって決まる。ケイ酸塩の複雑性が高まるということは、ケイ素に対するシラノール基の比率を低下させ、より小さい類似体と比較して溶解性及び反応性の低い、大きな高分子をもたらすということを意味する。つまり、そうした製剤の有効性は、ケイ素が分解して、最も生物学的に活性で、ゆえに有益な種類のケイ酸であるOSAを形成する能力によって決まる。製剤によって生成されるケイ酸の種類は、溶解が起こる媒体におけるこの化合物の結果としての総濃度、及び該媒体のpHによって多くは決定される。ゆえに、インビボにおけるOSAの放出制御を確実にするため、ケイ酸濃度を厳密に制御する必要がある。
【0022】
OSAは、ケイ素系製剤から生成されるとき、溶液中において唯一の重要な種であり、ダイゴマー及びポリマーにOSAを著しく縮合するため局所的にしきい値濃度(2mM)に達することなく、徐々に且つ緩やかに放出することができる。より高い濃度において、OSA重合は、添加剤、又は製剤化方法、又はケイ素物質の化学的若しくは物理的修飾によってなどで改善することができる。
【0023】
OSAのpHに関連する安定性は、局所の水性環境を適度に酸性のpH値(すなわち5~6)に保持するように、生体適合性バッファーシステム(例えば、ホスフェート、シトレート、アスコルベートなど)を添加することによって改善し得る。いずれにせよ、インビボのpHを生理学的に調節して、変えるべきではない。
【0024】
さらに実行可能な代替形態として、粒子径及び表面化学作用による溶解速度の調整を、インビボでの使用の前に行うことができる。ケイ素粒子の溶解を緩やかにするため、適切な厚さの酸化物層を提供して、溶解プロファイルを遅延させることができる。遅延は、酸化物層の溶解に必要とされる時間から得られる。酸化物層の厚さは、ケイ素中心部が水に接触可能になる前の遅延期間の長さを決定する。
【0025】
ケイ素表面の操作は慎重に考慮する必要がある。これは、薬剤分子がケイ素表面に結合することが表面エネルギーに大きく依存するためである。表面のヒドロキシル化により、表面接触角を小さくし、極性分子の結合を支えることとなる。あるいは、表面酸化物の成長により、表面接触角を大きくし、疎水性分子の結合を支えることとなる。ゆえに、薬剤ロードレベル及び溶解速度に対する制御をするため、寸法及び表面化学作用を合わせた方策を考慮する必要がある。
【0026】
いくつかの研究において、有益な化合物の送達ビヒクルとしてのケイ素系物質のマイクロ粒子の使用可能性を考慮しているが、そうした担体システム分解に続く、高レベル且つ制御レベルのケイ素分解生成物、特に生物活性形態OSAの生成は、未だ得ることが困難である。これまでに提案されたケイ素系薬剤送達システムでは、制御された方法でOSAを生成及び放出せず、ケイ酸がOSA形態に保たれる程度は、そうした製剤ではこれまでに測定されなかった。多くの製剤が急速に分解して、OSAの高濃度を生成するので、これがポリケイ酸形成をもたらし得る。
【0027】
ケイ酸塩及びケイ素系製剤はいくつかの用途で担体システムとして用いられているが、重合は未だ主な安全性の課題である。多孔性、マイクロシリカ、ナノシリカ、又は二酸化ケイ素粒子であろうと、ケイ素のあらゆる形態を用いる、これまでに公開された送達システムは、粒子が分解してケイ酸を形成しながら、溶解するとされている。しかしながら、既知のケイ素系送達システムの主な問題は、OSAの生成及び放出が制御されないので、OSA重合をもたらすということである。沈殿したケイ素の粒径分布は均一でなく、ケイ酸塩構造は凝集塊及び凝集体からなる。ケイ素又はケイ酸塩の一次粒子は水素結合によって互いに結合し、一次凝集体を形成して、これがさらなる段階において、二次的凝集塊の空間構造を形成するように結合する。この未修飾ケイ素における均一性が欠如していること及び粒子径が大きくなることは、粒子が活性化合物の放出時にケイ酸塩粒子又はポリケイ酸の形態でまだ身体内にある場合、重大な安全上の課題となり得る。
【0028】
代替形態は、インビボでケイ素がOSAに分解することを確実にするような安定化OSAの使用である。安定化OSAを含むスキンケア、化粧料、医薬、及び機能性化粧料組成物は当該技術分野で知られているが、薬剤送達システムとしての使用に適切ではない。したがって、ケイ素含有担体物質が確実にOSAに分解して、OSAの重合が抑止される、ケイ素系送達システムが未だ必要とされている。
【0029】
また、ケイ素及びその誘導体は、薬剤又は生物活性担体として創薬に用いられている。しかしながら、そうした担体は、さらなる修飾なしにはロードした薬剤の放出を制御することができない。これは、この固体物質が開放孔基質を含み、コーティングなしには用量ダンピング及び活性物の早期放出の問題が生じることに起因する。
【0030】
特許文献1は、ポリペプチドへの複合体形成によって安定化させた固体形態における生物学的に同化可能なオルトケイ酸を含む複合体について記載している。そうした複合体は、ポリペプチドの水溶液の存在下で、テトラアルコシキシランなどのヒドロケイ酸の前駆物質を加水分解し、その後水を蒸発させて固体複合体を形成することによって調製している。特許文献1に記載の適切なポリペプチド安定剤は、オルトケイ酸を安定化させることができ、タンパク質の加水分解物、コラーゲンの加水分解物を含んでいる。そうした複合体は、中性及び生理学的なpHレベルで安定となる生物学的に同化可能な形態でOSAを送達できるが、治療活性剤などの他の有益な化合物を送達可能なシステムを提供しない。
【0031】
特許文献2はOSAの安定化形態及び安定化したOSAを含む生物学的な製剤について記載している。特に、特許文献2はOSAのシラノール基と複合体を形成する遊離電子対を有する窒素原子を含む安定化剤を用いた安定化について記載している。記載される適切な安定化剤は、四級アンモニウム化合物、例えばテトラアルキル化合物であり、各アルキル基は例えば1~5個の炭素原子を含み、特にメチル基及びエチル基を含み、並びにトリアルキルヒドロキシアルキル化合物であり、ヒドロキシ基は好ましくはメタノール又はエタノールである。例えばコリン塩酸塩の形態のコリン、また、胃における吸収を高め、さらなる安定性を与えるプロリン及びセリンなどのアミノ酸は、特に適切であると記載される。安定化したOSAは、OSAが生成時に安定化剤と複合体形成するように、安定化剤の存在下で水中においてケイ素含有化合物を加水分解することによって調製する。特許文献3は同様に、四級アンモニウム化合物、アミノ酸、又はアミノ酸源から選択した安定化剤の存在下でケイ酸化合物がOSAに加水分解したケイ酸含有成形体を調製する方法を公開している。
【0032】
本発明者らは、ケイ素含有ナノ粒子を含む組成物の分解におけるOSAの制御された放出を促進する方法を開発しており、特許文献4が参照される。この方法は、インビボにおけるケイ素の生体利用可能OSAへの分解を安定化することに成功したことが証明されている。また、本発明者らは、ケイ素含有ナノ粒子を含む組成物の分解における、OSA及び医薬又は生物活性剤の両方の制御された放出を促進する方法を開発しており、特許文献5が参照される。
【0033】
特許文献4及び特許文献5に示す研究は、シリカ粒子分解を制御するための脂質の使用、及びOSA濃度の制御を提供しているが、本発明は、1つ以上のアミノ酸と組み合わせた所定のレベルで提供した脂質でケイ素粒子を処理することにより、医薬又は生物活性剤などの化合物と結合する能力がはるかに改善した粒子をもたらすという発見に基づいている。活性剤の効果的な結合と、ケイ素含有粒子が制御された速度で加水分解されるときのその結果としての放出との組合せが、使用される脂質、及び任意でケイ素粒子を処理するための他の化合物を慎重に選択することによって得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0034】
【文献】豪州特許第774668号
【文献】米国特許第5,922,360号
【文献】国際公開第2004/016551号
【文献】国際公開第2011/012867号
【文献】欧州特許第2459156号
【発明の概要】
【0035】
本発明の第1の態様において、ケイ素ナノ粒子を含む組成物からの活性な医薬又は化粧剤の結合及び放出を制御する方法を提供し、ケイ素ナノ粒子は少なくとも50重量%のケイ素を含み、該方法はケイ素ナノ粒子表面を少なくとも1つの脂質及び少なくとも1つのアミノ酸で処理するステップを含み、脂質のケイ素に対する比は1:1~15:1である。
【0036】
有利には、ケイ素ナノ粒子表面を脂質で処理することによって、ケイ素ナノ粒子が生体利用可能なOSA分解生成物に加水分解するように、ケイ素の加水分解速度を制御することができる。本発明者らは、ケイ素ナノ粒子表面を少なくとも1つの脂質で処理することがまた、ケイ素ナノ粒子によって輸送される医薬又は生物活性剤を安定化し、標的部位における放出速度を制御するということを見いだした。
【0037】
上述の方法は、ナノ粒子表面を少なくとも1つのアミノ酸で処理するステップをさらに含む。有利には、ナノ粒子表面へのアミノ酸の添加は、経時で、ケイ素ナノ粒子によって輸送される医薬又は生物活性剤の放出速度に影響することが認められた。
【0038】
本発明の第2の態様において、本発明の第1の態様において調製したケイ素ナノ粒子と、1つ以上のさらなる成分とを含む組成物を提供する。
【0039】
本発明の第3の態様において、薬物として使用するための、本発明の第1の態様において調製したケイ素ナノ粒子、及び本発明の第2の態様における組成物を提供する。
【0040】
本発明の第4の態様において、医学的状態を処置する方法を提供し、該方法は、有効用量の1つ以上の活性医薬成分(API)を、それらを必要とする対象に投与するステップを含み、APIは、本発明の第2の態様の実施形態における医薬組成物として投与される。
【0041】
本発明の第5の態様において、美容上の利益を対象に与える方法を提供し、該方法は、本発明の第2の態様の実施形態における医薬組成物を該対象に投与するステップを含む。
【0042】
自明のことではあるが、本発明の1つの態様に関して記載した特徴は本発明の他の態様に組み込むことができる、ということが理解される。例えば、本発明の方法は、本発明の装置に関して記載した任意の特徴を組み込むことができ、その逆もまた同様である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】
図1は、油を含む組成物、及びフランツセル実験を用いた皮膚浸透速度のグラフを示す。
【
図2-10】
図2~
図10は、以下の表のとおりの種々の試料のゼータ電位分布を示す。
【表1】
【
図11】
図11は、製剤1~5に対して(F1~F5と表示)ロードした(各バーのペアの1番目)及びsiRNAをロードした(各バーのペアの2番目)もののゼータ電位を比較するグラフである。差の統計分析をt検定によってGraphPadソフトウェアを用いて行った。
【
図12】
図12は、siGlow緑色蛍光性タグをロードした製剤2~5(F2~F5と表示)をトランスフェクトしたHCE-s細胞の蛍光顕微鏡写真を示す。細胞核を、DAPI(青色、第1欄)及びFAM(緑色、第2欄)で染色し、24時間後にイメージを取得した。
【
図13】
図13は、
図12に対するコントロールである。これは、ロードしていない製剤2~5(F2~F5と表示)をトランスフェクトしたHCE-s細胞の蛍光顕微鏡写真を示す。細胞核を、DAPI(青色、第1欄)及びFAM(緑色、第2欄)で染色し、24時間後にイメージを取得した。
【
図14】
図14は、正のリポフェクタミンコントロールと共に、siRNAロード製剤(3つのうち第1のバーに非特異的NSC4ロード、3つのうち中央のバーに特異的LUC2Pロード、又は3つのうちの最後のバーに空の製剤)で処理したHCE-S細胞を用いてデュアルルシフェラーゼアッセイから得た相対ルシフェラーゼ活性を示す。処理の72時間後に測定を行った。y軸は、NSC4コントロールのパーセンテージとして表されるウミシイタケルシフェラーゼに対するホタルルシフェラーゼ比を示す。非特異的NSC4コントロールと比較したとき、ノックダウンの統計的有意性をアスタリスク、**p<0.01、***p<0.001によって示す。
【
図15】
図15は、2つの異なる比(75μgSi:200μg脂質、及び150μgSi:200μg脂質)でホスファチジルコリン(PC)、ステアリルアミン(SA)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、及びレシチンをロードしたケイ素ナノ粒子のゼータ電位の比較を示す。試料間の統計的有意差(一元配置分散分析、その後のテューキーのポストホックによって分析)を以下の表に示す。
【
図16】
図16は、種々のアルギニン含有量を有するホスファチジルコリン(PC)処理ケイ素ナノ粒子において測定したゼータ電位の比較を示す。
【表2】
【
図17】
図17は、種々のアルギニン含有量を有するステアリルアミン(SA)処理ケイ素ナノ粒子において測定したゼータ電位の比較を示す。
【
図18】
図18は、種々のアルギニン含有量を有するホスファチジルエタノールアミン(PE)処理ケイ素ナノ粒子において測定したゼータ電位の比較を示す。
【
図19】
図19は、種々のアルギニン含有量を有するレシチン処理ケイ素ナノ粒子において測定したゼータ電位の比較を示す。
図16~
図19において、アスタリスクは、分散分析、その後のテューキーのポストホックによって評価した、コントロール(アルギニンなし)試料に対するアルギニンを含む試料の差の統計的有意性(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)を示す。
【
図20-23】
図20~
図23は、siRNAをロードした後の処理製剤1~38(F01~F38と表示)のゼータ電位の変化を示す。同じ量のsiRNAを各試料に添加し、混合して、少なくとも1時間室温でインキュベートしてから、測定を行った。統計分析を、t検定によってGraphPadソフトウェアを用いて行い、アスタリスクは、非ロード試料とsiRNAロード試料との差の統計的有意性(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)を示す。
図20はホスファチジルコリン(PC)で処理した製剤のデータを示し、
図21はホスファチジルエタノールアミン(PE)で処理した製剤のデータを示し、
図22はステアリルアミン(SA)で処理した製剤のデータを示し、
図23はレシチンで処理した製剤のデータを示す。
【
図24】
図24は、siGlo(緑色蛍光性タグで標識、第2欄)をロードした製剤11、12、14、15、17、又は18(F11、F12、F14、F15、F17、F18)をトランスフェクトしたHCE-S細胞の蛍光評価を示す。細胞核を、DAPI(青色、第1欄)で染色する。イメージを処理の24時間後に取得した。
【
図25】
図25は、コントロールのための非ロード製剤11、12、14、15、17、又は18(F11、F12、F14、F15、F17、F18)をトランスフェクトしたHCE-S細胞の蛍光評価を示す。細胞核を、DAPI(青色、第1欄)で染色する。イメージを処理の24時間後に取得した。
【
図26】
図26は、正のリポフェクタミンコントロールと共に、製剤11、12、14、15、17、又は18(非特異的NSC4ロード(3つの各群のうちの第1のバー)、特異的LUC2Pロード(各群のうちの第2のバー)、又は空の製剤(各群のうちの第3のバー)で処理したHCE-S細胞を用いてデュアルルシフェラーゼアッセイから得た相対ルシフェラーゼ活性を示す。処理の72時間後に測定を行った。y軸は、NSC4コントロールのパーセンテージとして表されるウミシイタケルシフェラーゼに対するホタルルシフェラーゼ比を示す(表7)。非特異的NSC4コントロールと比較したとき、ノックダウンの統計的有意性をアスタリスク、*p<0.05、**p<0.01によって示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
(定義)
本開示において、化合物の誘導体は、実質的に同じ構造を有するが、1つ以上の置換を有する化合物とすることができる。例えば、1つ以上の化学基を、付加する、欠失させる、又は他の基に置換することができる。特定の好ましい実施形態において、誘導体は、それが由来する化合物の医薬又は化粧料活性の少なくとも一部、例えば、それが由来する化合物の活性の少なくとも90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、又は10%を保持する。一部の実施形態において、誘導体は、それが由来する化合物と比較して医薬又は化粧料活性の増大を示し得る。
【0045】
例えば、ペプチドの場合では、ペプチド誘導体は、1つ以上のアミノ酸残基を付加した、欠失させた、又は他のアミノ酸残基に置換したペプチドを包含することができる。置換の場合、置換は、非保存置換又は保存置換、好ましくは保存置換とすることができる。
【0046】
本発明の第1の態様において、ケイ素ナノ粒子を含む組成物からの活性医薬剤(APIとも称され、例えばAPIは疎水性APIとすることができ、APIは、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、特にシクロスポリンA、若しくはその誘導体とすることができる)又は活性化粧剤(ACIとも称され、例えばACIは、抗加齢剤、例えば抗加齢リポペプチド、若しくはその誘導体とすることができる)の結合及び放出を制御する方法を提供し、ケイ素ナノ粒子は少なくとも50重量%のケイ素を含み、該方法はナノ粒子表面を少なくとも1つの脂質(例えば、1つ以上のリン脂質及び/又は1つ以上のさらなる荷電脂質、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ステアリルアミン、レシチン、及びそれらのいずれかの誘導体の1つ以上)並びに少なくとも1つのアミノ酸(例えば、1つ以上のカチオン性アミノ酸、又は例えばアルギニン及びグリシンの1つ以上など、アミノ酸の1つ以上がカチオン性であるアミノ酸の組合せ)で処理するステップを含み、脂質のケイ素に対する比は1:1~15:1である。
【0047】
(ケイ素ナノ粒子)
本発明のすべての態様において、組成物はケイ素ナノ粒子を含む。ケイ素ナノ粒子は、5~400nm、例えば20~400nm、例えば50~350nm、例えば80~310nm、例えば100~250nm、例えば120~240nm、例えば150~220nm、例えば約200nmの公称径を有する。ケイ素ナノ粒子は、純ケイ素又は加水分解可能なケイ素含有物質のいずれかから作製される。ケイ素ナノ粒子は好ましくは多孔性である。上記で示す公称径は平均径を指し得、ケイ素ナノ粒子試料における総粒子の少なくとも90%は特定した寸法範囲内にあるとすることができる。ケイ素ナノ粒子は、純ケイ素又は加水分解可能なケイ素含有物質のいずれかから作製される。ケイ素ナノ粒子は、粒子をフッ化水素酸(HF)/エタノール混合物に接触させて、電流を印加するなどの標準的な技術によって多孔性に作製することができる。孔の密度及びその寸法を、HF濃度及び電流密度及び露出時間を変えることによって制御し、走査電子顕微鏡法及び/又は窒素吸着脱着容積等温測定によってモニタリングすることができる。
【0048】
ケイ素ナノ粒子は、純ケイ素又は他の加水分解可能なケイ素含有物質とすることができる。ケイ素ナノ粒子が純ケイ素ではない場合、少なくとも50重量%のケイ素を含むケイ素ナノ粒子は、好ましくは少なくとも60、70、80、90、又は95%のケイ素を含み、好ましくは同じ寸法の純ケイ素粒子における加水分解速度の少なくとも10%の加水分解速度(例えば、室温のPBSバッファーにおいて)を示す。ケイ素含有物質の加水分解のアッセイは、例えば国際公開第2011/001456号など、当該技術分野で広く知られている。50重量%の元素ケイ素を含まないシリカ(SiO2)ナノ粒子は、ケイ素ナノ粒子の定義に該当しないということが理解される。シリカナノ粒子は加水分解可能でもなく、これはシリカの加水分解がインビボに存在する条件下で熱力学的に好ましくないためである。
【0049】
本発明のすべての態様におけるナノ粒子は好ましくは多孔性である。例えば、その多孔性により、同等の寸法を有する非孔性物質の表面積に対して、その表面積が少なくとも1.5、2、2.5、3、3.5、又は4倍増加し得る。一部の実施形態において、その総面積は、好ましくは、その多孔性のため、対応する非孔性粒子の表面積に対して、少なくとも50%又は少なくとも100%増加する。多くの場合、多孔性ケイ素ナノ粒子は、実際に、その多孔性のため総表面積がはるかに大きく増加することとなる。
【0050】
好ましくは、ケイ素ナノ粒子は、20~300nm、例えば20~290nm、20~280nm、例えば20~270nm、20~260nm、20~250nm、20~240nm、20~230nm、20~220nm、20~210nm、特に20~200nmの平均径を有する。有利には、この寸法のケイ素ナノ粒子は、pilosebaceous ostra又は汗管(孔)を阻害するには小さいが、その小さな寸法により、粒子が、表面薬剤リザーバーのみとして作用するのではなく、毛包の底部まで能動的に浸透することができるので、局所皮膚送達に好適である(例えば、活性な医薬又は化粧剤が局所皮膚送達において疎水性薬剤、例えばシクロスポリンA若しくはその誘導体などの疎水性ペプチド若しくはリポペプチド、又は抗加齢リポペプチド若しくはその誘導体であるとき)。
【0051】
(脂質)
本発明のすべての態様において、ケイ素ナノ粒子は、少なくとも1つの脂質(例えば、1つ以上のリン脂質及び/又は1つ以上のさらなる荷電脂質、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ステアリルアミン、レシチン、及びそれらのいずれかの誘導体の1つ以上)で表面処理される。ケイ素ナノ粒子を脂質で表面処理することは、活性剤(例えば、活性剤は疎水性活性剤とすることができ、活性剤は、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、特にシクロスポリンA、若しくはその誘導体、あるいは抗加齢剤、例えば抗加齢リポペプチド、若しくはその誘導体とすることができる)の放出速度の制御を支援するということが分かっている。活性な医薬又は化粧剤(例えば、免疫抑制剤、例えばシクロスポリンA、若しくはその誘導体、又は抗加齢剤、例えば抗加齢リポペプチド、若しくはその誘導体)の特性を条件として、ナノ粒子表面を処理するために使用する脂質の種類(例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ステアリルアミン、レシチン、及びそれらのいずれかの誘導体の1つ以上)は、その放出速度に影響を及ぼす。
【0052】
(ケイ素対脂質の比)
脂質(例えば、1つ以上のリン脂質及び/又はさらに荷電脂質、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ステアリルアミン、レシチン、及びそれらのいずれかの誘導体の1つ以上)のケイ素に対する比は、1:1~15:1、例えば1:1~13:1、1:1~12:1、1:1~11:1、1:1~10:1、1:1~9:1、1:1~8:1、1:1~13:1、2:1~12:1、2:1~11:1、2:1~10:1、2:1~9:1、2:1~8:1、例えば1:1~7:1、2:1~7:1、3:1~8:1、4:1~5:1である。好ましくは、脂質のケイ素に対する比は、1:1~3:1、より好ましくは1:1~8:3である。有利には、この脂質のケイ素に対する比は、ケイ素ナノ粒子によって輸送される医薬又は生物活性剤(例えば、疎水性薬剤、薬剤は、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、特にシクロスポリンA、若しくはその誘導体、あるいは抗加齢剤、例えば抗加齢リポペプチド、若しくはその誘導体とすることができる)の放出を制御し、安定化させることができるとともに、ケイ素の生体利用可能な分解生成物であるOSAの放出を制御することができる多重膜小胞システムを提供する。
【0053】
有利には、脂質化合物(例えば、1つ以上のリン脂質及び/又はさらに荷電脂質、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ステアリルアミン、レシチン、及びそれらのいずれかの誘導体の1つ以上)は、ケイ素ナノ粒子の表面電荷に著しい作用をもたらすことができる。ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、及びレシチンで処理したケイ素ナノ粒子は、ゼータ電位分析を行ったとき(-60~-20mVの範囲、Si:脂質の比は1:1~1:3の範囲)、負の表面電荷を示す。ステアリルアミンで処理したケイ素ナノ粒子表面は、グリシン及びヒスチジンと比較したとき、正のゼータ電位(0~40mVの範囲、ケイ素:脂質の比は1:1~1:3の範囲)を示す。
【0054】
本発明の第1の態様の方法において、脂質のケイ素に対する比は1:1~15:1である。一実施形態において、本発明の第1の態様の方法は、ケイ素ナノ粒子表面を、コーティングしたナノ粒子の総重量に基づく少なくとも30重量%、典型的に少なくとも50重量%の脂質で処理することを含む。1:1~8:3、例えば1:1、1.5:1、2:1、又は2.5:1などの、1:1~3:1の脂質対ケイ素のモル比は、特に有利であることが分かっている。
【0055】
特定の実施形態において、本発明の第1の態様の方法は、ケイ素ナノ粒子表面を、コーティングしたナノ粒子の総重量に基づく少なくとも5重量%のリン脂質(例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、及びそれらのいずれかの誘導体の1つ以上)、例えば少なくとも20重量%、典型的に少なくとも30重量%、及び特に少なくとも50重量%のリン脂質で処理することを含む。1:1~8:3、例えば1:1、1.5:1、2:1、又は2.5:1などの、1:1~3:1の脂質対ケイ素のモル比又は重量比は、特に有利であることが分かっている。
【0056】
一実施形態において、リン脂質(例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、及びそれらのいずれかの誘導体の1つ以上)は、500~1000の範囲の数平均分子量を有する。特に適切なリン脂質はグリセロリン脂質である。特に適切なリン脂質は、ホスファチジルコリン(PC)又は水素化ホスファチジルコリンなど、極性頭部基が四級アンモニウム部分と連結したものである。リン脂質の種類は、製剤の特性に依存して選択することができ、中性又は負電荷脂質は非プロトン性製剤に好ましい一方、正電荷及び短CH3鎖の脂質はプロトン性製剤に好ましい。好ましくは、側鎖は、ポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールの鎖などの、炭素原子が15以上の脂肪族側鎖、又はエーテル単位が6以上反復するエーテル側鎖である。
【0057】
製剤から薬剤を即時放出することが必要とされる本発明の特定の実施形態において、ケイ素ナノ粒子表面は、ホスファチジルコリン及び他のホスファチジルコリン誘導体、例えばジデカノイルホスファチジルコリン又はミリストイル(mirystoil)ホスファチジルコリンで処置することができる。これは、対象の医薬又は生物活性剤がカチオン性物質である場合、特に有利である。
【0058】
好ましくは、脂質は、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、レシチン、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ステアリルアミン(SA)、及びホスファチジルコリン(PC)、又はそれらの任意の組合せからなる群より選択される。最も好ましくは、脂質はホスファチジルコリンを含む。好ましくは、ホスファチジルコリンは、1:1~3:1、最も有利には1:1~2:1のケイ素に対する重量比で存在する。
【0059】
長時間の薬剤放出を必要とする他の実施形態において、ケイ素ナノ粒子表面をレシチンで処理することにより、薬剤を高パーセンテージで放出することができ得る。
【0060】
活性な医薬剤(API)又は化粧剤(ACI)がアニオン性である、例えば短鎖干渉RNA又はメッセンジャーRNAである、さらなる実施形態において、ケイ素ナノ粒子表面はホスファチジルコリン(PC)及び/又はレシチンで処理することができる。
【0061】
(脂質対API/ACIの比)
好ましくは、脂質(例えば、1つ以上のリン脂質及び/又は他の荷電脂質、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ステアリルアミン、レシチン、及びそれらのいずれかの誘導体の1つ以上)のAPI/ACI(例えば、疎水性API又はACI、APIは、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、特にシクロスポリンA、若しくはその誘導体とすることができ、又はACIは抗加齢剤、例えば抗加齢リポペプチド、若しくはその誘導体とすることができる)に対する比は、1:0.1~15:1、例えば1:1~13:1、1:1~12:1、1:1~11:1、1:1~10:1、1:1~9:1、1:1~8:1、1:1~13:1、2:1~12:1、2:1~11:1、2:1~10:1、2:1~9:1、2:1~8:1、例えば1:1~7:1、1:1~6:1、特に1:1~4:1、及び1:1~2:1である。最も好ましくは、脂質のAPI/ACIに対する比は、1:1~4:1、好ましくは1:1~3:1である。有利には、この脂質のAPI/ACIに対する比は、特にAPI/ACIがリポペプチド(例えば、抗加齢剤、例えば抗加齢リポペプチド、若しくはその誘導体)である場合、ケイ素ナノ粒子に会合するAPIの2次及び3次特殊構造を制御することができる構造化多重膜小胞システム、又は自己組織化挙動を示すことができるAPIを提供する。あるいは、特定した比は、ケイ素ナノ粒子表面に吸着した、脂質(例えば、1つ以上のリン脂質及び/又はさらなる荷電脂質、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ステアリルアミン、レシチン、及びそれらのいずれかの誘導体の1つ以上)とAPI/ACI(例えば、疎水性API又はACI、APIは、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、特にシクロスポリンA、若しくはその誘導体とすることができ、ACIは抗加齢剤、例えば抗加齢リポペプチド、若しくはその誘導体とすることができる)との互いの相互作用を安定化するために簡便に使用することができる。この比は、実際に、ケイ素ナノ粒子によって輸送される医薬又は生物活性剤の放出及び安定化にさらなる制御作用をもたらし、ケイ素の生体利用可能な分解生成物であるOSAの放出を制御することができる。
【0062】
(アミノ酸)
本発明のすべての態様において、脂質処理ケイ素ナノ粒子(例えば、1つ以上のリン脂質及び/又は他の荷電脂質、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ステアリルアミン、レシチン、及びそれらのいずれかの誘導体の1つ以上で処理したケイ素ナノ粒子)は、さらにアミノ酸(アルギニン及びグリシンの1つ以上など)で処理される。最も広義では、「アミノ酸」という用語は、アミン(-NH2)及びカルボキシル(-COOH)の官能基を含む、任意の人工又は自然起源の有機化合物を包含する。これは、α、β、γ、及びδアミノ酸を含む。これは、任意のキラル配置のアミノ酸を含む。一部の実施形態において、これは、好ましくは自然起源のαアミノ酸(アルギニン及びグリシンの1つ以上など)である。これは、タンパク質を構成するアミノ酸又はタンパク質を構成しないアミノ酸(カルニチン、レボチロキシン、ヒドロキシプロリン、オルニチン、又はシトルリンなど)とすることができる。特に好ましい実施形態において、これは、アルギニン、ヒスチジン、又はグリシン、又はアルギニン及びグリシンの混合物、最も好ましくはアルギニン及びグリシンの1つ以上である。
【0063】
したがって、本発明における医薬又は化粧料に適合する好ましい組成物は、表面処理ナノ粒子(例えば、1つ以上のリン脂質及び/又は他の荷電脂質、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ステアリルアミン、レシチン、及びそれらのいずれかの誘導体の1つ以上で処理したナノ粒子)が活性な医薬又は化粧剤(「API」、例えば疎水性API、APIは、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、例えばシクロスポリンA、若しくはその誘導体とすることができ、及び「ACI」、例えば疎水性ACI、ACIは抗加齢剤、例えば抗加齢リポペプチド、若しくはその誘導体とすることができる)並びにアミノ酸(好ましくは、アルギニン、グリシン、ヒスチジン、及びそれらの混合物から選択され、最も好ましくはアルギニン及びグリシンの両方、及び一部の実施形態においてアルギニン)と会合するようになる。
【0064】
好ましい実施形態において、本発明のすべての態様の製品において存在する、少なくとも80重量%、例えば少なくとも90重量%のAPI(例えば、疎水性API、APIは、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、例えばシクロスポリンA、若しくはその誘導体とすることができる)又はACI(例えば疎水性ACI、ACIは抗加齢剤、例えば抗加齢リポペプチド、若しくはその誘導体とすることができる)は、表面処理ナノ粒子(例えば、脂質が、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ステアリルアミン、レシチン、及びそれらのいずれかの誘導体の1つ以上から選択され、アミノ酸が、アルギニン及びグリシンの1つ以上から選択される、表面処理ナノ粒子)と会合する。
【0065】
API又はACI(例えば、疎水性API又はACI、例えばシクロスポリンA)と脂質処理ケイ素ナノ粒子(例えば、1つ以上のリン脂質及び/又は他の荷電脂質、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ステアリルアミン、レシチン、及びそれらのいずれかの誘導体の1つ以上から選択される脂質で処理したケイ素ナノ粒子)との間の分子会合は、有利には、表面処理ケイ素ナノ粒子が分解するとAPI又はACIが生体利用可能となるということを確実にする。組成物の分解速度は、ケイ素ナノ粒子の加水分解によって決定される。この速度が制御可能であるので、API又はACIが生体利用可能になる速度もまた、用量ダンピングしないように、及び/又はナノ粒子が皮膚表面から離れた位置に向かうとき(例えば基底位置)にのみ放出を確実にするように、制御することができる。
【0066】
脂質処理ケイ素ナノ粒子をアミノ酸(例えば、1つ以上のカチオン性アミノ酸、又はグリシン及びアルギニンの1つ以上など、アミノ酸の1つ以上がカチオン性であるアミノ酸の組合せの1つ以上)で処理することが、ケイ素ナノ粒子にロードした医薬又は生物活性剤に有益な安定化作用をもたらすことが分かっている。特に、脂質処理ケイ素ナノ粒子(例えば、1つ以上のリン脂質及び/又は他の荷電脂質、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ステアリルアミン、レシチン、及びそれらのいずれかの誘導体の1つ以上で処理したナノ粒子)をアミノ酸(例えば、1つ以上のカチオン性アミノ酸、又はアルギニン及びグリシンの1つ以上など、その1つ以上がカチオン性であり得るアミノ酸の組合せの1つ以上)で処理することは、生物学的液体中の医薬又は生物活性剤を安定化させることが示されている。
【0067】
本発明のすべての態様の特定の実施形態において、脂質処理ケイ素ナノ粒子(例えば、1つ以上のリン脂質及び/又は他の荷電脂質、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ステアリルアミン、レシチン、及びそれらのいずれかの誘導体の1つ以上で処理したナノ粒子)は、さらにアルギニンで処理される。API(例えば、疎水性API、例えば疎水性ペプチド、例えばシクロスポリンA、又はその誘導体)をロードしたケイ素ナノ粒子をアルギニンで表面処理することにより、生物学的液体における、より良好なAPI安定性を示した。
【0068】
(アミノ酸のケイ素に対する比)
好ましくは、アミノ酸(例えば、1つ以上のカチオン性アミノ酸、又は例えばアルギニン及びグリシンの1つ以上など、アミノ酸の1つ以上がカチオン性である1つ以上のアミノ酸の組合せ)のケイ素に対する比は、0.05:1~2:1、例えば0.05:1~1.8:1、0.05:1~1.6:1、0.05:1~1.4:1、0.05:1~1.2:1、0.05:1~1:1、0.05:1~0.9:1、0.05:1~0.8:1、0.05:1~0.6:1、0.05:1~0.5:1、0.05:1~0.4:1、0.05:1~0.3:1、0.05:1~0.2:1、好ましくは0.2:1~0.8:1、特に0.3:1~0.7:1である。有利には、このアミノ酸のケイ素に対する比は、さらに、脂質処理ケイ素ナノ粒子(例えば、1つ以上のリン脂質及び/又は他の荷電脂質、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ステアリルアミン、レシチン、及びそれらのいずれかの誘導体の1つ以上で処理したナノ粒子)によって輸送される医薬又は生物活性剤の放出速度に影響を及ぼし、該医薬又は生物活性剤を安定化させる。
【0069】
本発明のすべての態様の他の実施形態において、ケイ素ナノ粒子は、脂質(例えば、1つ以上のリン脂質及び/又は他の荷電脂質、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ステアリルアミン、レシチン、及びそれらのいずれかの誘導体の1つ以上)並びにアミノ酸(例えば、1つ以上のカチオン性アミノ酸、又は例えばアルギニン及びグリシンの1つ以上など、アミノ酸の1つ以上がカチオン性である1つ以上のアミノ酸の組合せ)で処理される。アミノ酸は任意のアミノ酸とすることができる。好ましくは、アミノ酸はアルギニン又はグリシン又はグリシンとアルギニンとの組合せである。脂質は、任意の脂質(例えば、1つ以上のリン脂質及び/又は他の荷電脂質、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ステアリルアミン、レシチン、及びそれらのいずれかの誘導体の1つ以上)とすることができる。好ましくは、脂質は、リン脂質であり、より好ましくはPC又は水素化PCである。好ましくは、アミノ酸のケイ素に対する比は、0.05:1~0.4:1、例えば0.08:1~0.35:1、特に0.09:1~0.32:1である。一部の実施形態において、アミノ酸は、アルギニンとグリシンとの組合せであり、Arg:Glyの比は、1:0.6~3:1、例えば1:0.8~2.5:1、例えば1:1~2:1である。
【0070】
本発明のすべての態様の他の実施形態において、脂質処理ケイ素ナノ粒子はアルギニンで処理される。脂質は、任意の脂質(例えば、1つ以上のリン脂質及び/又は他の荷電脂質、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ステアリルアミン、レシチン、及びそれらのいずれかの誘導体の1つ以上)とすることができる。好ましくは、脂質は、PC又は水素化PCなどのリン脂質である。好ましくは、アルギニンのケイ素に対する比は、0.05:1~0.4:1、例えば0.08:1~0.35:1、特に0.09:1~0.32:1である。有利には、そうした比は、高速度のAPI(例えば、疎水性API、APIは、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、例えばシクロスポリンA、又はその誘導体とすることができる)及びACI(例えば、抗加齢剤、例えば抗加齢リポペプチド、又はその誘導体)放出が得られることが分かっている。
【0071】
一部の実施形態において好ましい、PC及びアルギニンを含む製剤において、ケイ素のPCに対する比は1:1~3:1であり、ケイ素のアルギニンに対する比は4:1~8:1である。
【0072】
0.2:1(Arg:Si)より低い比で存在するアルギニンは、APIの放出向上に有効でない。いずれにしても、そうした少量でも、アルギニンは、APIの安定性(例えば、疎水性APIの安定性、APIは、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、例えばシクロスポリンA、又はその誘導体とすることができる)に寄与する。さらに、少量でのアルギニンの存在により、放出OSAの安定性がさらに向上する。より多い量のアルギニンを用いると、過剰なアミノ酸が、一時的なペプチドの可溶凝集塊の形成に寄与する。これは、特に、ペプチドが荷電及び極性アミノ酸(例えばアルギニン)によって形成される場合に当てはまる。そうしたペプチド凝集塊の形成の作用は、放出活性剤量の低下となる。同様に、そうしたペプチドの形成はまた、OSAの放出を阻害する。
【0073】
本発明のすべての態様の特定の実施形態において、脂質処理ナノ粒子(例えば、1つ以上のリン脂質及び/又は他の荷電脂質、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ステアリルアミン、レシチン、及びそれらのいずれかの誘導体の1つ以上で処理したナノ粒子)は、さらにヒスチジンで処理される。有利には、APIの安定性(例えば、疎水性APIの安定性、APIは、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、例えばシクロスポリンA、又はその誘導体とすることができる)の向上が、任意の種類の脂質と組み合わせて用いたとき、ヒスチジンについて観察される。これは、得られた組成物における、pH5.12~pH7.12の範囲のより良好なバッファー作用に起因し得る。好ましくは、ヒスチジンのケイ素に対する比は、0.05:1~0.4:1、例えば0.08:1~0.5:1、特に0.35:1~0.45:1である。
【0074】
有利には、この比は、高速度のAPI放出(例えば、疎水性API、例えばシクロスポリン、例えばシクロスポリンA、又はその誘導体について)を可能にする。好ましくは、ヒスチジンと組み合わせて用いる脂質は、PC、水素化PC、又はレシチンである。
【0075】
本発明のすべての態様の特定の実施形態において、脂質処理ナノ粒子(例えば、1つ以上のリン脂質及び/又は他の荷電脂質、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ステアリルアミン、レシチン、及びそれらのいずれかの誘導体の1つ以上で処理したナノ粒子)は、さらにグリシンで処理される。有利には、グリシンは、動物又はヒト細胞内におけるケイ素ナノ粒子の細胞質透過を容易にする。グリシンのケイ素に対する高比率は、API放出(例えば、疎水性API、例えばシクロスポリン、例えばシクロスポリンA、又はその誘導体の放出)の速度を高めた。
【0076】
本発明のすべての態様の他の実施形態において、ケイ素ナノ粒子は、水素化PC及びグリシンで表面処理される。有利には、そうした組成物により、API放出(例えば、疎水性API、例えばシクロスポリン、例えばシクロスポリンA、又はその誘導体の放出)が経時でプラトーに達することができる。特に、薬剤の制御された放出を、12時間にわたって観察した。
【0077】
本発明の第2の態様の一部の実施形態において、経時における長時間の薬剤放出のための送達システムとして使用するための、少なくとも1つの脂質(例えば、1つ以上のリン脂質及び/又は他の荷電脂質、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ステアリルアミン、レシチン、及びそれらのいずれかの誘導体の1つ以上)並びに少なくとも1つのアミノ酸で表面処理されたケイ素ナノ粒子を含む、組成物を提供する。
【0078】
(油)
本発明のすべての態様の特定の実施形態において、組成物は少なくとも1つの油をさらに含む。有利には、本発明の組成物に油を含むことは、臭いのマスキングの有益な作用を有し、API(例えば、APIが疎水性APIであるときであって、APIは免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、例えばシクロスポリンA、若しくはその誘導体とすることができる)又はACI(例えば、ACIが抗加齢剤、例えば抗加齢リポペプチド、若しくはその誘導体であるとき)の皮膚透過/浸透速度の向上が、油/水の界面における溶解不良による沈殿を克服することができる両親媒性界面の形成と共に、観察される。
【0079】
好ましい実施形態において、油は、リモネン、ヤシ油、オレガノ油、ゴマ油、又はそれらの組合せから選択される。
【0080】
特定の実施形態において、油は、リモネン、ヤシ油、又はそれらの組合せから選択される。有利には、そうした油の使用は、魚油(例えばオメガ3魚油)などの臭いのマスキングに有効であることが示されている。
【0081】
特定の実施形態において、油は、リモネン、オレガノ油、ゴマ油、又はそれらの組合せから選択される。好ましくは、組成物は、オレガノ油及びゴマ油を含む。有利には、これらの油は、魚ワクチンを提供するためにAPIのロード、輸送、及び送達を容易にすることが示されている。
【0082】
特定の実施形態において、ケイ素ナノ粒子:オレガノ油:ゴマ油の比は、1.6:4.5:3.8である。
【0083】
本発明のすべての態様の他の実施形態において、油はリモネンである。有利には、組成物にリモネンを含むことにより、油成分を添加しないケイ素ナノ粒子と比較して、ケイ素ナノ粒子にロードしたAPI(例えば、APIが疎水性APIであるときであって、APIは免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、例えばシクロスポリンA、若しくはその誘導体とすることができる)又はACI(例えば、疎水性ACI、ACIは抗加齢剤、例えば抗加齢リポペプチド、若しくはその誘導体とすることができる)の皮膚透過速度を向上させることが示されている。特に、油をさらに含む本発明の第2の態様の実施形態は、APIロードケイ素ナノ粒子の油中水分散不良を克服するため、ナノ粒子の両親媒性特性を向上させることが分かっている。これは、API又はACIが疎水性ペプチド又はリポペプチドであるとき(例えば、APIが疎水性ペプチド、例えばシクロスポリンA、若しくはその誘導体であるとき、又はACIがリポペプチド、例えば抗加齢リポポリペプチド、若しくはその誘導体であるとき)、特に当てはまる。
【0084】
本発明の特定の実施形態において(例えば、APIが疎水性APIであるとき)、少なくとも1つの油は、1000重量%~10重量%、例えば500重量%~50重量%、特に250重量%~80重量%で組成物に存在する。
表3は、試料1の調製、20mgのAPIを含むケイ素ナノ粒子のプロトコルに用いる物質の重量及び比を示す。
【表3】
【0085】
(他の成分)
本発明のすべての態様の特定の実施形態において、組成物は、ケイ素ナノ粒子に荷電API又はACI(例えば、荷電リポペプチド又はその誘導体)をロードすることをさらに含む。本発明のすべての態様の特定の実施形態において、ケイ素ナノ粒子に、カチオン性API又はACIをロードする。本発明のすべての実施形態の他の態様において、ケイ素ナノ粒子に、アニオン性API又はACIをロードする。
【0086】
本発明の組成物は、好ましくは、1つ以上の活性医薬成分(例えば、疎水性API、APIは、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、例えばシクロスポリンA、又はその誘導体とすることができる)をさらに含む。例えば、各APIは、総組成物の0.1重量%、0.5重量%、1重量%、2重量%、4重量%、6重量%、8重量%、又は10重量%以下で存在させることができる。
【0087】
APIは、好ましくは、ケイ素ナノ粒子に会合して位置する。
【0088】
APIは、有利には、疎水性とする、例えば疎水性ペプチド又は疎水性リポポリペプチドとすることができる。例えば、APIは、シクロスポリンA又はその誘導体などの疎水性ペプチドとすることができる。
【0089】
特定の実施形態において、APIは、以下から選択することができる。
・非ステロイド性抗炎症剤、例えば、アセクロフェナク、ジクロフェナク、セレコキシブ、サリチル酸コリン及びサリチル酸マグネシウム、イブプロフェン、ナプロキセン、ピロキシカムなどだがこれらに限定されない(NSAIDカテゴリ)
・抗炎症剤及び免疫抑制剤、例えば、シクロスポリン、例えばシクロスポリンA又はその誘導体、ヒドロコルチゾン及び関連誘導体、並びに副腎皮質ステロイド、例えばプレドニゾン及びデキサメタゾン、並びにステロイドなどだがこれらに限定されない
・鎮痛剤及び解熱剤、例えば、アセトアミノフェン及びアセチルサリチル酸などだがこれらに限定されない
・抗真菌活性剤、例えば、遊離塩及び関連塩、例えば硝酸塩としてのグリセオフルビン、ミコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、オキシコナゾール、エコナゾール、ビホナゾールなどだがこれらに限定されない(抗真菌カテゴリ)
・抗ウイルス剤及び抗寄生虫剤、例えば、アシクロビル、ガンシクロビル、バラシクロビル、メトロニダゾール、及びチニダゾール、アンホテリシンなどだがこれらに限定されない(抗ウイルス/抗寄生体カテゴリ)
・抗生物質、例えば、ゲンタマイシン、ニスタチン、クリンダマイシンなどだがこれらに限定されない
・抗がん剤及び/又は抗がん療法のアジュバント、例えば、タキソール、メトトレキサート、クルクミン、アロエエモジンなどだがこれらに限定されない
・麻酔剤(液体剤形)
・非脱分極性筋弛緩剤
・オピオイド鎮痛剤
・カンナビノイド及びベンゾジアゼピン
・抗てんかん剤
・ペプチド及び/又はアミノ酸
・ホルモン
・mRNA
・siRNA
・他の核酸
【0090】
他の実施形態において、本発明の組成物は、好ましくは、1つ以上の活性化粧料成分(ACI、例えば抗加齢剤、例えば抗加齢リポペプチド、又はその誘導体)をさらに含み、例えば、各ACIは、総組成物の0.1重量%、0.5重量%、1重量%、2重量%、4重量%、6重量%、8重量%、又は10重量%以下で存在させることができる。
【0091】
ACI(例えば抗加齢剤、例えば抗加齢リポペプチド、又はその誘導体)は、好ましくは、ケイ素ナノ粒子に会合して位置する。特定の実施形態において、本発明の第2の態様の組成物は、実質的にケイ素ナノ粒子に会合して位置するAPI及びACIの両方をさらに含む。
【0092】
ACIは疎水性とすることができる。有利には、ACIは、1つ以上の疎水性部分及び/又は親水性部分を含むことができる。
【0093】
ACIはペプチド又はリポペプチドとすることができる。ACIが、抗加齢リポペプチドなどのリポペプチドである場合、ペプチド部分は親水性であり得る一方、脂質部分は疎水性である。例えば、ACIが抗加齢リポペプチドであるとき、ACIは、N末端で脂質付加した5merペプチドとすることができる。
【0094】
特定の実施形態において、ACIは、以下から選択することができる。
・グリチルリジン酸(甘草抽出物としても知られる)、皮膚用製品のためのコウジ酸又はより一般的な美白剤
・抗酸化剤(例えば植物抽出物、例えばLupinus albus抽出物)及びビタミン
・ペプチド
・銅ペプチド(銅イオンを含む又は含まない、6-アミノ-2-[[2-[(2-アミノアセチル)アミノ]-3-(1H-イミダゾール-5-イル)プロパノイル]アミノ]ヘキサン酸)
・α-ヒドロキシ酸
・β-ヒドロキシ酸
・ヒドロキノン
・レチノール
・L-アスコルビン酸
・ヒアルロン酸
・抗加齢剤(例えば、抗加齢リポペプチド)
【0095】
本発明の組成物を単独で投与することが可能であるが、組成物は医薬又は化粧料組成物に存在させることが好ましい。
【0096】
したがって、本発明の第2の態様は、本発明の組成物、及び1つ以上のさらなる成分を提供する。このさらなる成分は、通常、1つ以上の賦形剤を含むが、任意で1つ以上のさらなる活性剤を含むこともできる。
【0097】
本発明における組成物は、経口、非経口(皮下、皮内、筋肉内、静脈内、及び関節内を含む)、吸入(様々な種類の定量加圧式エアロゾル、ネブライザー、又は吹送器によって生成し得る微粒子ダスト又はミストを含む)、直腸及び局所(皮膚、経皮、経粘膜、経口腔、舌下、及び眼内を含む)投与に適するものを含むが、最も適切な経路は、例えば受容者の状態及び障害によって決まり得る。
【0098】
組成物は、単位投与剤形で簡便に提供することができ、製剤分野で周知の方法のいずれかによって調製することができる。すべての方法は、活性成分を、1つ以上の副成分を構成する担体に会合させるステップを含む。一般に、組成物は、ケイ素ナノ粒子を、液体若しくは微粉固体の担体と又はその両方と、均一にかつ密に会合させ、次に、必要な場合は、製品を所望の剤形に成形することにより調製される。
【0099】
経口投与に適切な本発明の組成物は、それぞれが所定量の活性成分を含有する、カプセル剤、カシェ剤、若しくは錠剤などの個別の単位として、散剤若しくは顆粒剤として、水性若しくは非水性液体中の液剤若しくは懸濁剤として、又は水中油型液状乳剤若しくは油中水型液状乳剤として提供することができる。また、活性成分は、ボーラス、舐剤、又は泥膏剤としても提供することができる。種々の薬学的に許容される担体及びその製剤化は、標準的な製剤専門書、例えばE.W.MartinによるRemington´s Pharmaceutical Sciencesに記載されている。また、Wang,Y.J.及びHanson,M.A.のJournal of Parenteral Science and Technology、Technical Report No.10、Supp.42:2S、1988が参照され、その内容が言及によって本明細書に援用される。
【0100】
錠剤は、任意で1つ以上の副成分とともに、圧縮又は成形によって作製することができる。圧縮錠剤は、任意で結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、潤滑界面活性剤、又は散剤と混合した粉末又は顆粒などの流動形態の活性成分を、適切な機械で圧縮することにより、調製することができる。成形錠剤は、不活性液体希釈剤で湿らせた粉末化合物の混合物を、適切な機械で成形することにより作製することができる。錠剤は、任意でコーティングする又は割線を入れることができ、その活性成分を緩やかに放出又は制御して放出するように製剤化することができる。
【0101】
例示の経口投与のための組成物は、例えば、かさを与える微結晶セルロース、懸濁化剤としてのアルギン酸又はアルギン酸ナトリウム、粘性エンハンサーとしてのメチルセルロース、及び当該技術分野で既知のものなどの甘味剤又は着香剤を含有可能な懸濁剤、並びに、例えば、微結晶セルロース、リン酸水素カルシウム、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、及び/又はラクトース、及び/又は、当該技術分野で既知のものなどの他の賦形剤、結合剤、エクステンダー、崩壊剤、希釈剤、及び潤滑剤を含有可能な即時放出錠剤を含む。成形錠剤、圧縮錠剤、又は凍結乾燥錠剤は、使用し得る例示の剤形である。例示の組成物は、マンニトール、ラクトース、スクロース、及び/又はシクロデキストリンなどの即時溶解希釈剤と共に本化合物を製剤化するものを含む。また、セルロース(Avicel)又はポリエチレングリコール(PEG)などの高分子量賦形剤も、そうした製剤に含むことができる。また、そうした製剤は、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(SCMC)、無水マレイン酸コポリマー(例えばGantrez)などの粘膜付着を支援する賦形剤、及びポリアクリルコポリマー(例えばCarbopol934)などの放出を制御する薬剤を含むことができる。また、製造及び使用をしやすくするため、潤滑剤、潤滑促進剤、香料、着色剤、及び安定剤を添加することができる。
【0102】
非経口投与のための組成物は、抗酸化剤、バッファー、静菌剤、及び、組成物を対象の受容者の血液と等張にする溶質を含み得る水性及び非水性の滅菌注射液、並びに、懸濁化剤及び増粘剤を含み得る水性及び非水性の滅菌懸濁液を含む。組成物は、単位用量又は複数用量用容器にて、例えば、密封アンプル及びバイアルにて、提供することができ、使用直前に滅菌液体担体、例えば生理食塩水又は注射用水の添加のみを必要とする凍結乾燥(凍結乾燥(lyophilised))状態で保管することができる。例示の非経口投与のための組成物は、本発明の組成物の注射用懸濁液を含み、これは、例えば、マンニトール、1,3-ブタンジオール、水、リンゲル液、生理食塩液などの適切な非毒性の非経口許容希釈剤若しくは溶媒、又は、合成モノグリセリド若しくはジグリセリド、及びオレイン酸を含む脂肪酸、若しくはクレマフォール(cremaphor)を含む他の適切な分散剤若しくは湿潤剤及び懸濁化剤をさらに含むことができる。水性担体は、例えば、約3.0~約8.0のpH、好ましくは約3.5~約7.4のpH、例えば3.5~6.0、例えば3.0~約5.0のpHにおける等張バッファー液とすることができる。有用なバッファーは、クエン酸ナトリウム-クエン酸及びリン酸ナトリウム-リン酸、及び酢酸ナトリウム/酢酸バッファーを含む。組成物は、好ましくは、酸化剤、及び任意の活性成分に有害であることが知られる他の化合物を含まない。含有可能な賦形剤は、例えば、ヒト血清アルブミン又は血漿製剤などのタンパク質である。所望する場合、組成物はまた、湿潤剤又は乳化剤、保存剤、及びpH緩衝剤など、例えば酢酸ナトリウム又はソルビタンモノラウレートなどの少量の非毒性補助物質を含むことができる。
【0103】
例示の経鼻噴霧又は吸入投与のための組成物は、生理食塩水中の液剤を含み、これは、例えば、ベンジルアルコール若しくは他の適切な保存剤、生物学的利用能を高めるための吸収促進剤、及び/又は当該技術分野で既知のものなどの他の可溶剤若しくは分散剤を含むことができる。簡便に、経鼻噴霧又は吸入投与のための組成物において、本発明の組成物は適切な粉末吸入器で送達することができる。そうした吸入器に使用する、例えばゼラチンなどのカプセル及びカートリッジを、化合物の粉末混合物、及び適切な粉末基材、例えばラクトース又はデンプンを含有するように製剤化することができる。
【0104】
経直腸投与のための組成物は、カカオバター、合成グリセリドエステル、又はポリエチレングリコールなどの通常の担体と共に滞留浣腸剤又は坐剤として提供することができる。そうした担体は、典型的に、通常の温度で固体であるが、直腸腔において液化及び/又は溶解して薬剤を放出する。
【0105】
本発明の組成物は局所投与に適し得る。例えば、本発明の組成物は皮膚への局所投与に適し得る。本発明の組成物は、疎水性のAPIを含むとき、経局所で投与することができる。本発明の組成物は、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、例えばシクロスポリンA又はその誘導体を含むとき、経局所で投与することができる。本発明の組成物は、抗加齢剤、例えば、抗加齢リポペプチド又はその誘導体であるACIを含むとき、経局所で投与することができる。
【0106】
口内への、例えば経口腔又は舌下の局所投与のための組成物は、スクロース及びアカシア又はトラガントなどの着香基剤中に活性成分を含むトローチ剤(lozenge)、並びにゼラチン及びグリセリン又はスクロース及びアカシアなどの基剤中に活性成分を含むトローチ(pastille)を含む。例示の局所投与のための組成物は、Plastibase(ポリエチレンと共にゲル状にした鉱物油)などの局所用担体を含む。
【0107】
一部の実施形態において、本発明の医薬組成物は、APIの単一の有効用量又は適切なその一部分を含む単位投与量組成物である。
【0108】
特に上記で述べた成分に加えて、本発明の組成物は、対象の組成物の種類に関して当該技術分野で従来用いられる他の薬剤を含むことができ、例えば経口投与に適切なものは着香剤を含むことができるということが理解される必要がある。
【0109】
また、本発明の組成物は、持続性放出システムとして適切に投与することができる。本発明の持続性放出システムの適切な例は、例えばフィルム若しくはマイクロカプセルなどの成形品の形態の半透過性ポリマーマトリックスなどの適切な高分子物質、例えば許容される油中の乳剤などの適切な疎水性物質、又はイオン交換樹脂、及び例えばわずかに可溶性の塩などの本発明の化合物のわずかに可溶性の誘導体、を含む。持続性放出システムは、経口、経直腸、非経口、大槽内、腟内、腹腔内、経局所に、例えば、散剤、軟膏剤、ゲル剤、点眼剤、若しくは経皮パッチとして、経口腔、舌下に、又は経口若しくは経鼻噴霧剤として、投与することができる。
【0110】
APIの治療有効量又はACIの美容有効量は、単一のパルス用量、ボーラス用量、又は、1日のうち、1週間のうち、若しくは1か月のうちに経時で投与するパルス用量として投与することができる。
【0111】
多数の好ましい実施形態において、本発明の組成物は、局所用クリーム剤又はゲル剤であり、例えば、本発明の組成物を懸濁させたクリーム基剤を含み、皮膚又は他の身体表面への局所投与に適する、医薬的に適合する又は化粧料的に適合するクリーム剤又はゲル剤を含むことができる。例えば、API又はACIが疎水性API又はACI、例えばシクロスポリンA若しくはその誘導体、又は抗加齢リポポリペプチド若しくはその誘導体であるとき、本発明の組成物は、局所用クリーム剤又はゲル剤に存在させることができる。
【0112】
医学的又は化粧料的に適合するクリーム剤はクリーム基剤を含む。クリーム基剤は、典型的に油中水型又は水中油型の乳剤である。好ましくは、クリーム基剤は、油相に脂質、ステロール、及び軟化剤の混合物を含む水中油型乳剤である。例えば、API又はACIが、シクロスポリンA若しくはその誘導体、又は抗加齢リポポリペプチド若しくはその誘導体であるとき、本発明の組成物は、クリーム基剤を含む、医薬的又は化粧料的に適合するクリーム剤に存在させることができる。
【0113】
医薬的又は化粧料的に適合するゲル剤は、ゲルの液相に分散させた本発明の組成物を含む。ゲル剤は、好ましくは、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、又はアガロース、メチルセルロース、ヒアルロナン、エラスチン様ポリペプチド、カルボマー(ポリアクリル酸)、ゼラチン、又はコラーゲンなどの架橋結合ポリマーを含むヒドロゲル剤(コロイドゲル剤)である。例えば、API又はACIが、シクロスポリンA若しくはその誘導体、又は抗加齢リポポリペプチド若しくはその誘導体であるとき、本発明の組成物は、医薬的又は化粧料的に適合するゲル剤の液相に分散させることができる。
【0114】
本発明の組成物は、バッキング層及び粘着フィルムを含む粘着パッチの形態とすることができ、該粘着フィルムは本発明の組成物又は本発明の組成物を含むクリーム剤若しくはゲル剤を含む。例えば、API又はACIが、シクロスポリンA若しくはその誘導体、又は抗加齢リポポリペプチド若しくはその誘導体であるとき、本発明の組成物は、そうした粘着パッチの形態とすることができる。
【0115】
本発明におけるパッチは、典型的に経皮パッチであり、織物、ポリマー、又は紙であり得るとともにパッチを外部環境から保護するバッキング層、任意で膜、例えばフルオロウラシルがバッキング層を通って移動することを防ぐポリマー膜、及び粘着剤からなる。本発明の組成物は、粘着層に若しくはパッチのリザーバーに供給することができる、又はゲル剤が、パッチ製品内のリザーバーとして機能することができる(いわゆる「モノリシック」デバイス)。
【0116】
パッチは、最終ユーザーが不注意に又は不適切に使用する可能性を少なくすることによって対象の正しい投与量を確保にすることに有用であり得る。さらに、パッチは、処置する領域を限定し、他の領域に意図せず広がらないようにする。
【0117】
本発明の第3の態様において、薬物として使用するための、本発明の組成物を提供する。
【0118】
任意で、薬物は、本発明の組成物に含まれるAPI(例えば、疎水性API、APIは、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、例えばシクロスポリンA、又はその誘導体とすることができる)を必要とする対象の処置に使用することができる。
【0119】
例えば、本発明の組成物が抗炎症剤を含む場合、薬物は、炎症、傷害、又は疼痛の処置又は予防に使用するためのものとすることができる。
【0120】
本発明の組成物が免疫抑制剤(例えばシクロスポリンA又はその誘導体)を含む場合、薬物は、乾癬、アトピー性皮膚炎、過敏症、アレルギー、移植臓器拒絶、季節性鼻アレルギー、ペットアレルギー、アレルギー性鼻炎又はじん麻疹、特に乾癬又はアトピー性皮膚炎の処置又は予防に使用するためのものとすることができる。
【0121】
本発明の組成物が鎮痛剤又は解熱剤を含む場合、薬物は、疼痛又は熱を処置又は予防するために使用できる。
【0122】
本発明の組成物が抗真菌剤を含む場合、薬物は、真菌感染症、カンジダ症、クリプトコッカス髄膜炎、足白癬、股部白癬又は真菌性爪感染症を処置又は予防するために使用できる。
【0123】
本発明の組成物が抗ウイルス化合物を含む場合、薬物は、ウイルス感染症を処置又は予防するために使用できる。
【0124】
本発明の組成物が抗寄生虫化合物を含む場合、薬物は、寄生虫感染症又は寄生を処置又は予防するために使用できる。
【0125】
本発明の組成物が抗生剤などの抗菌化合物を含む場合、薬物は、細菌感染症を処置又は予防するために使用できる。
【0126】
本発明の組成物が抗腫瘍化合物を含む場合、薬物は、がんなどの腫瘍病態を処置又は予防するために使用できる、特に、本発明の製品を経局所で塗布することができる皮膚又は他の身体表面のがんを処置するために使用できる。
【0127】
本発明の組成物が麻酔剤を含む場合、薬物は、対象の麻酔状態を誘導又は持続させるために使用できる。
【0128】
本発明の組成物が筋弛緩剤を含む場合、薬物は、例えば、痙縮によって特徴づけられる病態である、痙性病態の処置として、又は外科的処置前の薬物として使用するため、対象に筋弛緩をもたらすために使用できる。
【0129】
本発明の組成物が降圧剤を含む場合、薬物は、高血圧を処置又は予防するために使用できる。
【0130】
本発明の組成物が抗不安剤を含む場合、薬物は、不安を処置又は予防するために使用できる。
【0131】
本発明の組成物がホルモンを含む場合、薬物は、閉経期障害、又は糖尿病、成長障害、性腺機能低下症、甲状腺障害、又は骨粗しょう症などのホルモン欠損に起因する病態を処置又は予防するために使用できる。
【0132】
本発明の組成物が避妊剤を含む場合、薬物は、妊娠を予防するために使用できる。
【0133】
本発明の組成物が抗うつ剤を含む場合、薬物は、うつ状態を処置又は予防するために使用できる。
【0134】
本発明の組成物が抗てんかん剤を含む場合、薬物は、てんかんを処置又は予防するために使用できる。
【0135】
本発明の組成物が睡眠剤(somnulant)を含む場合、薬物は、不眠を処置又は予防するために使用できる。
【0136】
本発明の組成物が制吐剤を含む場合、薬物は、悪心及び/又は嘔吐を処置又は予防するために使用できる。
【0137】
本発明の組成物が抗精神病化合物を含む場合、薬物は、精神病を処置又は予防するために使用できる。
【0138】
本発明の組成物が殺精子化合物を含む場合、薬物は、任意でバリア避妊具と組み合わせて殺精子剤として使用できる。
【0139】
本発明の組成物が勃起不全(ED)治療薬を含む場合、薬物は、勃起不全及び/又は男性インポテンツを処置又は予防するために使用できる。
【0140】
本発明の組成物が眼潤滑剤を含む場合、薬物は、ドライアイ病態を処置又は予防するために使用できる。
【0141】
本発明の組成物が緩下剤を含む場合、薬物は、便秘を処置又は予防するために使用できる。
【0142】
本発明の組成物が胆汁酸捕捉剤又は腸膨張性薬剤又はセロトニン作動剤を含む場合、薬物は、下痢を処置又は予防するために使用できる。
【0143】
本発明の組成物が食欲抑制剤を含む場合、薬物は、肥満を処置又は予防するために使用できる。
【0144】
本発明の第4の態様において、医学的状態を処置する方法を提供し、該方法は、有効用量の1つ以上の活性医薬成分(API、例えば1つ以上の疎水性API、例えばシクロスポリンA又はその誘導体)を、それらを必要とする対象に投与するステップを含み、APIは、本発明の第2の態様の実施形態における医薬組成物として投与される。
【0145】
本発明の第4の態様の特定の好ましい実施形態において、医学的状態は、本発明の第4の態様に関して上述した医学的状態の1つであり、APIは、任意で、特定の病態を処置又は予防するという文脈で状住した医薬活性剤の1つである(例えば、シクロスポリンA又はその誘導体)。
【0146】
本発明の第5の態様において、美容上の利益を対象に与える方法を提供し、該方法は、本発明の第1の態様において調製した組成物、又は本発明の第2の態様における組成物を該対象に投与するステップを含む。
【0147】
好ましい実施形態において、組成物は、1つ以上のACI、例えば本明細書に列挙したACIの1つ以上、例えば疎水性ACIであって、ACIは抗加齢剤、例えば抗加齢リポペプチド又はその誘導体とすることができるもの、を含む。
【0148】
本発明の第5の態様における方法は、任意で、皮膚水和作用、皮膚軟化、皮膚老化発生軽減、加齢性皮膚斑点発生軽減、皮膚の色むらの軽減、皮膚美白、隆起又は瘢痕の軽減、皮膚発赤の軽減、皮膚表面において毛細血管が現れることの軽減から選択される美容上の利益を与えることができる。そうした方法は、好ましくは、局所用組成物(例えば、抗加齢剤を含む組成物、例えば抗加齢リポペプチド又はその誘導体を含む組成物)を皮膚に投与することに関与する。
【0149】
また、本発明の第5の態様の方法は、髪、爪、及びまつ毛に美容上の利益を与える方法を含む。そうした方法は、任意で、それぞれシャンプー若しくはヘアコンディショナー若しくはトニック、ネイルエナメル若しくはクリーム、又はマスカラである組成物を対象に投与することに関与し得る。
【0150】
前述の記載において、既知の、明白な、又は予測可能な同等物を有する構成物又は構成要素が記載される場合、そうした同等物は個々に示されているかのように本明細書に組み込まれる。正確な本発明の範囲を決定するために、任意のそうした同等物を含むように解釈する必要がある請求項を参照する必要がある。また、好ましい、有利である、又は有用であるなどとして記載される本発明の構成物及び特徴は任意的であり、独立請求項の範囲を限定するものではないということが読み手には理解される。さらに、そうした任意的な構成物又は特徴は、本発明の一部の実施形態において利益があり得るが、望ましくないことがあり、ゆえに他の実施形態において包含されないということが理解される。
【0151】
(ケイ素ナノ粒子の調製)
本発明に関するケイ素ナノ粒子は、当該技術分野で従来用いられている技術によって、例えば、ミリングプロセスによって又は粒子径を小さくする他の既知の技術によって、簡便に調製することができる。ケイ素含有ナノ粒子を、ケイ酸ナトリウム粒子、コロイダルシリカ、又はシリコンウエハー材料から作製した。マクロ又はミクロスケールの粒子を、ボールミル、遊星型ボールミル、プラズマ若しくはレーザーアブレーション法、又は他の寸法を小さくする機構において粉砕する。得られた粒子を空気分級してナノ粒子を回収することができる。また、ナノ粒子作製にプラズマ法及びレーザーアブレーションを使用することも可能である。
【0152】
多孔性粒子を、本明細書に記載の方法を含む、当該技術分野で従来用いられる方法によって作製することができる。
【0153】
(クリーム剤及びゲル剤の調製)
クリーム剤及びゲル剤を、単にクリーム基剤又はゲル基剤に本発明のシリコーンナノ粒子を分散(すなわち混合)させることで製剤化することができる。例えば、ケイ素ナノ粒子を、医薬用クリーム基剤へとかく拌することができる。ゲル剤について、粉末を、粉末形態のゲルマトリックスへとかく拌して、その後ゲルを水和させることができる、又は予め水和させたゲルへとかく拌することができる。
【0154】
(パッチの調製)
パッチを、任意の適切な方法によって製剤化することができ、例えば、粘膜付着性親水性ゲルを含むパッチを製造することができ、該ゲルは、分散させた本発明のケイ素ナノ粒子と共に作製し、該ゲルは、任意で、水を徐々に蒸発させることで乾燥させ、必要な粘着特性を有するフィルムとすることができる。
【0155】
(ケイ素ナノ粒子調製の例)
表4は、例のプロトコルに使用した物質の重量及び比を示す。
【表4】
【0156】
(方法)
その1:ケイ素ナノ粒子のロード
A.カフェイン原液の調製
1.10mgのカフェインを秤量し、内容物を試験管において10mlの蒸留水に溶解し、必要に応じて超音波処理する。
2.透明な溶液は1mg/mLのカフェインである。
B.水素化ホスファチジルコリン原液(PC)の調製
1.10mgのPCを10mLのエタノールに溶解する。最終濃度は1mg/mLのホスファチジルコリンである。
C.グリシンの原液の調製(Gly200)
1.10mgのアルギニンを10mLの蒸留水に溶解し、必要に応じて超音波処理する。最終濃度は1mg/mLのアルギニンである。
D.ケイ素ナノ粒子の懸濁原液
1.8mLのSi-NP原液を試験管に移す。Si-NPろ過粒子の濃度は1mg/mLと同等である。
E.バッファーpH7.4
1.リン酸緩衝食塩液の1タブレット(Sigma Aldrich)をビーカーに移し、200mLの蒸留水に溶解する。最終溶液はpH7.4のPBSである。
【0157】
その2:試料の調製及び分析
A.ナノ粒子にカフェインをロード、-試料PC1の調製(カフェイン+Si-NP+PC4+Gly100)
1.1mLのPC溶液(B)を小さい丸底フラスコに移す。
2.回転式蒸発システムを用いて溶媒を蒸発させて、PCフィルムを形成する。
3.別の試験管において、1mlのカフェイン溶液(A)を2mlのろ過Si-NP(D)及び200μLのグリシン溶液(C)と混合し、その後溶液をゆっくりとかく拌する。
4.上述のSi-NP-カフェイン溶液の混合物を用いて、PCフィルムを再水和する。
5.0.5mlの蒸留水を用いてフラスコ壁を洗浄する。
6.ボルテックスを用いて、当該成分を数分間混合する。
7.冷蔵庫に2時間保管して、その後冷凍庫に2~3時間移動させる。
8.一晩乾燥させるため、試験管を凍結乾燥システムと接続する。
9.乾燥粉末は、2:1の比でカフェインをロードしたケイ素ナノ粒子である。
【0158】
(他の実施例)
(フランツセル研究)
他の実施例において、半固体製剤からのAPIの放出を試験するインビトロの方法として、フランツセル研究を用いる。APIを、本発明のケイ素ナノ粒子なしで製剤化したとき、試料の99%を超えるものが失われ、フランツセル研究において検出しなかった。APIを、
図1に示すような製剤F1、F2、F6、F2、及びF5について上述の表に示す内容に従って製剤化するとき、APIは、コントロールと対照的に(バーA及びB、図に現れていない)、製剤F1、F2、F5、及びF6では、処置した組織及びフランツセルのアクセプターコンパートメントの両方でAPIの検出をもたらした。
【0159】
(ホスファチジルコリンを配合した、シクロスポリンAロードケイ素ナノ粒子)
またさらなる実施例において、APIのシクロスポリンA(CyA)を、本発明のケイ素ナノ粒子(SiNP)及び脂質のホスファチジルコリン(PC)と共に製剤化した。以下の表6に示すように、脂質のケイ素に対する及び脂質のAPIに対する様々な比を使用した。
【0160】
平均粒子径及びゼータ電位を、Malvernゼータサイザー(Malvern Instrument Ltd.,Malvern,UK)を用いて、CyA、PC3-CyA、及びPC3-CyA-Siについて記録した。すべての群をボルテックスにかけて、脱イオン水中の均質な懸濁液を得て(1mg/ml)、その後、分析するため1:10の希釈度で水によって希釈した。CyA、SiNP(30nm)、CyAロード前のSiNP、及びCyAロードSiNPに対して、FT-IR分析を行った。
【0161】
ゼータ電位分析(表5を参照)は、CyAロードSiNPが-17.8mVのゼータ電位を有することを示した。対応する非ロードSiNPは、-22.2mVの表面電荷を有することを示した。CyA単独、非ロードSiNP、及びCyAロードSiNPのゼータ電位が同様であるとき、この結果は、CyAがSiNP内に正常に包埋され、したがって表面電荷に寄与していないことを示唆する。さらに、それぞれの脂質製剤のゼータ電位は-30mVより高く、これらの脂質製剤が水性条件で安定であることを示す。
【0162】
動的光散乱測定により、空のSiNP(377.9nm)からCyAロードSiNP(1334nm)への、有意な直径の増加が明らかになった。この直径の増加は、SiNPにCyAを正常にロードしていることを示す。
【表5】
【0163】
CyAは親油性ペプチドであり、CyAをPC-Siナノ粒子にロードする場合、CyAの凝集を同時に少なくしながら、脂質(PC)二重層内にロードされるようになるということが予想される。CyAの凝集を示し得る、CyAβシート構造の程度を測定するため、FT-IR分析を用いた。遊離CyA(ロード前)のFT-IR分析は1624cm-1のピークを示し、これはβシート構造を示す。遊離CyAの濃度が増加すると信号の増加が観察され、これは、CyA凝集が濃度依存性であることを示唆する。CyAロードPC(SiNPなし)のFT-IRスペクトルにより、PC含有量が増加するとβシート構造の減少を示し、これは、PC含有量が増加するとPC二重層内のCyAロードが増加することを示唆する。また、同様のパターンが、PCを配合したCyAロードSiNPにおいて観察され、CyAがロードしたナノ粒子のPC脂質二重層内にロードされることを示す。
【0164】
ケイ素ナノ粒子からのCyAの回収を試験するため、1時間にわたってメタノール及び音波処理を用いて表5の製剤を消化するための方法を開発した。各凍結乾燥製剤をメタノールに懸濁して、0.05mg/mlの理論上のCyA濃度を得た。音波処理を30分間行ってから、HPLCによって分析した。結果を表6に示す。
【表6】
【0165】
表6に示すように、APIの回収はプラトーに達し、その後、脂質のケイ素ナノ粒子に対する質量比が十分に高いとき低下する。つまり、本発明者らは、APIの回収が脂質のケイ素ナノ粒子に対する比に依存することを見いだした。しかしながら、この比が増加すると、API回収が単に増加するわけではない。そうではなく、APIの送達における脂質のケイ素ナノ粒子に対する比の最適な範囲(及び脂質のAPIに対する比の対応する最適な範囲)が存在する。粒子は、臨床において安全なオルトケイ酸(OSA)放出プロファイルを有することがさらに分かった。
【0166】
シクロスポリン(CyA)は、中等症から重症の乾癬及びアトピー性皮膚炎を処置する標準療法と考えられている。これらの病態を処置するため、CyAを経局所で投与することが好ましいと考えられる。しかしながら、多くの物理化学的問題がCyAに関連付けられている。この薬剤は、高分子量(1202Da)、高疎水性(LogP ca.3)、低水溶性(2~6μg/ml)、及び構造的脆弱性を有している。この分子が角質層を超えられず、CyAの皮膚への浸透が不十分となるため、CyAの局所送達は限定的である。
【0167】
CyAを制御して持続させるように取り込んで放出することが示された本発明の新たな送達システムは、CyAの局所送達を容易にすることができる。本発明のものなどのリポソーム送達システムは、毛穴を通って皮膚に浸透可能であるので、局所の薬剤送達のための有望な担体と考えられている。本発明の送達システムを用いるCyAの局所送達は、角質層内に薬剤を堆積させ、乾癬病変部位への薬剤送達を可能にすると考えられる。さらに、SiNP自体によって放出されるオルトケイ酸は、乾癬性炎症によって損なわれた皮膚線維芽細胞の回復を支援すると考えられる。
【0168】
(ホスファチジルコリンを配合した、リポペプチドロードケイ素ナノ粒子)
さらなる実施例において、N末端で脂質付加した5merのペプチドをAPIとして選択し、本発明のケイ素ナノ粒子(SiNP)及び脂質のホスファチジルコリン(PC)と共に製剤化した。このAPIは、親水性頭部基(ペプチドを含む)及び疎水性尾部基(脂質鎖を含む)を含むリポペプチドである。
【0169】
以下の表8に示すように、脂質のケイ素に対する(及び脂質のAPIに対する)様々な比を使用した。
【0170】
動的光散乱法を行って、APIあり及びなしで、ナノ粒子の全体の寸法を測定した。ナノ粒子寸法の変化は、APIがロードされたか否かを示し得る。同様に、表面電荷又はゼータ電位(ZP)の変化は、APIがロードされたかどうかを示し得る。Malvernゼータサイザー(Malvern Instrument Ltd.,Malvern,UK)を用いて、これらの測定を行った。結果を表7に示す。
【0171】
空のPC-Si(APIなしのナノ粒子)において、負のゼータ電位を観察した。一方で、正のゼータ電位が、PC-API-Si(APIをロードしたナノ粒子)において報告された。APIによる、この表面電荷の増加は、APIがPC二重層に取り込まれたことを示す。API(リポペプチドである)の脂質鎖がPC脂質二重層に取り込まれる一方、ペプチド頭部基がナノ粒子表面に現れることが認められる。2つのリジン残基を含むこの頭部基が正荷電されており、APIロードナノ粒子に正のゼータ電位値をもたらす。さらに、同時にナノ粒子の寸法が増加することにより、ナノ粒子にAPIを正常にロードしていることを示す。
【表7】
【0172】
APIの回収の試験に用いられるプロトコルは、上述のCyAの回収の試験に用いられるものに対応する。API回収の結果を表8に示す。
【表8】
【0173】
表8に示すように、APIの回収はプラトーに達し、その後、脂質のケイ素ナノ粒子に対する質量比が十分に高いとき低下する。このように、APIの送達における脂質のケイ素ナノ粒子に対する比の最適な範囲が存在する。
【0174】
リポペプチドは、典型的に、抗シワ製剤においてコラーゲン生成を高めるために使用される。しかしながら、リポペプチドの局所塗布は、APIが角質層を超えて十分に送達されないため問題になることが分かっている。APIの皮膚への浸透を高めるため、毛穴を介して皮膚に浸透する本発明のナノ粒子を用いて、リポペプチドを送達することができる。