(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】医薬組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 41/00 20200101AFI20240711BHJP
A61K 31/69 20060101ALI20240711BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240711BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
A61K41/00
A61K31/69
A61K9/08
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2021570543
(86)(22)【出願日】2020-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2020034391
(87)【国際公開番号】W WO2021049599
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2019165835
(32)【優先日】2019-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507288132
【氏名又は名称】ステラファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】井口 佳哉
(72)【発明者】
【氏名】交久瀬 善三
(72)【発明者】
【氏名】中嶌 秀紀
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-51766(JP,A)
【文献】特開2008-100925(JP,A)
【文献】米国特許第5935944(US,A)
【文献】Molecules,2019年02月,Vol. 24, Article No. 794,pp. 1-18
【文献】RADIOISOTOPES,2015年,Vol. 64,pp. 115-121
【文献】J Radiat Res,2014年,Vol. 55,pp. 146-153
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p-ボロノフェニルアラニンを含有する液状組成物を含み、
前記液状組成物が、包材に収容され、
以下の(条件I)又は(条件II):
(条件I)前記液状組成物が実質的に酸化防止剤を含まず、前記液状組成物の溶存酸素濃度が3.5ppm以下である;
(条件II)前記液状組成物が酸化防止剤を含み、前記液状組成物の溶存酸素濃度が3.0ppm以下である;
を満たす、医薬組成物。
【請求項2】
前記液状組成物が、0.75質量%以下のチロシンをさらに含む、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記医薬組成物を40℃/75%RHで2週間保管した後の前記液状組成物に含まれるチロシンの含有量が、
(条件I)においては、0.40質量%以下であり、
(条件II)においては、1.20質量%以下である、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記酸化防止剤が、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、α-トコフェロール、アスコルビン酸、アスコルビン酸パルミテート、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、モノチオグリセロール、メタ重亜硫酸カリウム、プロピオン酸、没食子酸プロピル、アスコルビン酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム及びチオ硫酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記包材が、袋状包材である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記包材の素材が、熱可塑性樹脂を含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、テフロン樹脂(登録商標)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む、
請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記包材が、輸液バッグである、
請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
p-ボロノフェニルアラニンを含有する液状組成物を含み、包材に収容された、医薬組成物の製造方法であって、
p-ボロノフェニルアラニンを含有する液状組成物を包材に収容する工程I、及び、
前記包材に収容された液状組成物を、不活性ガス雰囲気下で加熱滅菌する工程II
を含む、製造方法。
【請求項10】
前記液状組成物が、酸化防止剤を含む、
請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記酸化防止剤が、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、α-トコフェロール、アスコルビン酸、アスコルビン酸パルミテート、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、モノチオグリセロール、メタ重亜硫酸カリウム、プロピオン酸、没食子酸プロピル、アスコルビン酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム及びチオ硫酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、
請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記包材が、袋状包材である、
請求項9~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記包材の素材が、熱可塑性樹脂を含む、
請求項9~12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む、
請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記包材が、輸液バッグである、
請求項9~14のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記工程Iが、不活性ガス雰囲気下で行われる、
請求項9~15のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性アイソトープを利用したガンの治療方法として、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)がある。ホウ素中性子捕捉療法は、ホウ素10同位体(10B;以下、10Bとも記載する)を含むホウ素化合物をガン細胞に取り込ませ、低エネルギーの中性子線(例えば、熱中性子)を照射して、ガン細胞内で起こる核反応により局所的にガン細胞を破壊する治療方法である。この治療方法では、10Bを含むホウ素化合物をガン組織の細胞に選択的に蓄積させることができるホウ素化合物、例えば、p-ボロノフェニルアラニン(以下、BPAとも記載する)が用いられる。
【0003】
BPAの生体への投与方法としては、BPAを含む液状組成物を注射する方法が用いられる。BPAは溶解性が低いため、BPAを含む液状組成物を均質にする製剤方法が検討されている。例えば、特許文献1には、優れた溶解性と安定性を有するBPAを含有する液状組成物として、BPAとソルビトールとを含有する液状の組成物であって、ソルビトールの含有割合が、BPAの含有量に対して、モル比で、0.9から2までの範囲である、組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
注射剤等としてのBPAを含む液状組成物は、投与する直前に調製してもよいが、効率的に患者への投与を行うために、予め調製したBPAを含む液状組成物を包材に収容した態様、すなわち、輸液バッグ等として流通、保管されることが考えられる。このとき、予め調製したBPAを含む液状組成物には、患者へ投与されるまでの間、液状組成物中のBPA等の成分を安定に保つことが求められる。
【0006】
また、輸液バッグを製造する際には、滅菌のために加熱処理が行われる。このとき、熱によって液状組成物中のBPAが変化しやすく、問題となっている。
【0007】
そこで、本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、滅菌等による加熱や長期保存に対してBPA等の成分が安定に保たれる医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、所定の製造方法は滅菌時の加熱に対してBPAを含む液状組成物中の成分の変化を抑え、また、長期保存安定性に優れるBPAの医薬組成物を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。また、本発明者らは、BPAを含む液状組成物における溶存酸素量を制御することにより、長期保存安定性に優れる製剤とすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
p-ボロノフェニルアラニンを含有する液状組成物を含み、
前記液状組成物が、包材に収容され、
以下の(条件I)又は(条件II):
(条件I)前記液状組成物が実質的に酸化防止剤を含まず、前記液状組成物の溶存酸素濃度が3.5ppm以下である;
(条件II)前記液状組成物が酸化防止剤を含み、前記液状組成物の溶存酸素濃度が3.0ppm以下である;
を満たす、医薬組成物。
[2]
前記液状組成物が、0.75質量%以下のチロシンをさらに含む、
[1]に記載の医薬組成物。
[3]
前記医薬組成物を40℃/75%RHで2週間保管した後の前記液状組成物に含まれるチロシンの含有量が、
(条件I)において、0.40質量%以下であり、
(条件II)において、1.20質量%以下である、
[1]又は[2]に記載の医薬組成物。
[4]
前記酸化防止剤が、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、α-トコフェロール、アスコルビン酸、アスコルビン酸パルミテート、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、モノチオグリセロール、メタ重亜硫酸カリウム、プロピオン酸、没食子酸プロピル、アスコルビン酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム及びチオ硫酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、
[1]~[3]のいずれかに記載の医薬組成物。
[5]
前記包材が、袋状包材である、
[1]~[4]のいずれかに記載の医薬組成物。
[6]
前記包材の素材が、熱可塑性樹脂を含む、
[1]~[5]のいずれかに記載の医薬組成物。
[7]
前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、テフロン樹脂(登録商標)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む、
[6]に記載の医薬組成物。
[8]
前記包材が、輸液バッグである、
[1]~[7]のいずれかに記載の医薬組成物。
[9]
p-ボロノフェニルアラニンを含有する液状組成物を含み、包材に収容された、医薬組成物の製造方法であって、
p-ボロノフェニルアラニンを含有する液状組成物を包材に収容する工程I、及び、
前記包材に収容された液状組成物を、不活性ガス雰囲気下で加熱滅菌する工程II
を含む、製造方法。
[10]
前記液状組成物が、酸化防止剤を含む、
[9]に記載の製造方法。
[11]
前記酸化防止剤が、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、α-トコフェロール、アスコルビン酸、アスコルビン酸パルミテート、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、モノチオグリセロール、メタ重亜硫酸カリウム、プロピオン酸、没食子酸プロピル、アスコルビン酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム及びチオ硫酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、
[10]に記載の製造方法。
[12]
前記包材が、袋状包材である、
[9]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13]
前記包材の素材が、熱可塑性樹脂を含む、
[9]~[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14]
前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む、
[13]に記載の製造方法。
[15]
前記包材が、輸液バッグである、
[9]~[14]のいずれかに記載の製造方法。
[16]
前記工程Iが、不活性ガス雰囲気下で行われる、
[9]~[15]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、BPAを含有する液状組成物が包材に収容された医薬組成物を、長期間安定に保管することが可能である。また、本発明によれば、BPAを含有する液状組成物の変性を抑制することができ、長期間安定に保管することが可能な医薬組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は実施例1及び2、並びに比較例1の医薬組成物の写真を示す。
【
図2】
図2は実施例3及び4、並びに比較例2の医薬組成物の写真を示す。
【
図3】
図3は実施例5及び6、並びに比較例3の医薬組成物の写真を示す。
【
図4】
図4は実施例7及び8、並びに比較例4の医薬組成物の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
本発明の医薬組成物は、p-ボロノフェニルアラニンを含有する液状組成物を含み、前記液状組成物が包材に収容された、医薬組成物である。ここで、本発明の医薬組成物は、p-ボロノフェニルアラニンを含有する液状組成物と、前記液状組成物を収容する包材とを備えるキット又は医薬製剤と換言することもできる。本明細書におけるキット又は医薬製剤とは、対象に投与する液状組成物と、それを収容する包材とを少なくとも備える一式を指す。
また、本発明の医薬組成物は、以下の(条件I)又は(条件II)を満たす。
(条件I)前記液状組成物が実質的に酸化防止剤を含まず、前記液状組成物の溶存酸素濃度が3.5ppm以下である;
(条件II)前記液状組成物が酸化防止剤を含み、前記液状組成物の溶存酸素濃度が3.0ppm以下である;
【0014】
また、本発明は、p-ボロノフェニルアラニンを含有する液状組成物を含み、包材に収容された、医薬組成物の製造方法に関する。
本発明の製造方法は、
p-ボロノフェニルアラニンを含有する液状組成物を包材に収容する工程I、及び、
前記包材に収容された液状組成物を、不活性ガス雰囲気下で加熱滅菌する工程II
を含む。
【0015】
本発明者らは、BPAを含む液状組成物を長期に保管することで液の着色が起こり、液状組成物の変化が生じるという知見を得た。また、本発明者らは、BPAを含む液状組成物の保管中、液状組成物中に溶存酸素が存在している場合に、当該液状組成物が変化を起こし、BPAの安定性が保たれないという知見を得た。具体的には、溶存酸素が多いほど、液状組成物中のBPAがチロシン等へ変化していることが明らかとなった。
これらの知見に対し本発明者らが鋭意検討した結果、BPAを含む液状組成物中の溶存酸素濃度を所定の濃度に制御することにより液状組成物の変化を抑制することができ、長期保管した際の液の着色を防ぎ、また、BPAの変化を抑制できることを見出した。
また、溶存酸素濃度を低く抑えることは、BPAを含む液状組成物が収容されたキットを不活性ガス雰囲気下で加熱滅菌することにより達成されることを見出した。
【0016】
BPAは、フェニルアラニンやチロシンといったアミノ酸の類縁体であり、LAT1等のアミノ酸トランスポーターを介して、ガン細胞に取り込まれる。アミノ酸トランスポーターは、そもそも天然型のアミノ酸を取り込むはたらきを有するものであるから、非天然型のアミノ酸であるBPAと天然型のアミノ酸との取り込みが競合した場合、天然型のアミノ酸のほうが、ガン細胞への取り込みが起きやすい。すなわち、医薬組成物中のチロシンの含有量を抑制することにより、BPAをガン細胞へ効率的に取り込ませることができる。
また、本発明の医薬組成物の着色は、当該組成物中の成分の変化により引き起こされるものであり、薬力を維持するために医薬組成物中の成分の変化を抑制することが望まれる。
本発明の医薬組成物は、長期間保管されたとしてもBPAからのチロシンの生成及び着色を抑えられることから、薬力を維持することができる。同様に、本発明の製造方法は、加熱滅菌工程における加熱によるBPAの分解が抑えられ、溶存酸素濃度を低下させることもできることから、得られる医薬組成物の薬力を維持することができる。
【0017】
<医薬組成物>
本発明の医薬組成物は、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に用いることができる。本発明の医薬組成物は、点鼻剤、口腔用剤、膣用剤、座剤、注射剤等の剤形をとりうる。すなわち、本発明の医薬組成物は、液剤等による経口投与、又は、動脈注射(動注)、静脈注射(静注)、筋肉注射(筋注)等の注射剤、坐剤、経皮用製剤等による非経口投与のいずれの形態であってもよい。静注には、カテーテル等を用いて中心静脈への投与する態様も含む。また、非経口投与には、組織への直接投与、例えば、ガン組織への投与も含まれる。
その非経口投与としては、例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、皮下、組織内、鼻腔内、皮内、脳内、直腸内、膣内、腹腔内投与等が挙げられる。中では、注射剤であることが好ましく、点滴注入であることがより好ましい。
【0018】
BNCTの対象疾患としては、特に限定されないが、例えば、固形ガン、上皮細胞から発生するガン(上皮性腫瘍)が挙げられる。具体的には、メラノーマ等を含む皮膚ガン、肺ガン、乳ガン、胃ガン、大腸ガン、子宮ガン、卵巣ガン、頭頸部のガン(喉頭ガン、咽頭ガン、舌ガン等)等が挙げられる。また、対象疾患としては、非上皮性細胞から発生する肉腫であってもよく、当該肉腫としては、例えば、骨肉腫、難骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、繊維肉腫、脂肪肉腫、血液肉腫等が挙げられる。さらに、対象疾患としては、神経膠腫、中枢神経系原発悪性リンパ腫、髄膜腫、下垂体腺腫、神経鞘腫、頭蓋咽頭腫等の脳腫瘍が挙げられる。BNCTは、初発、単発ガン、個別臓器に広がったガン、転移性ガン、難治性ガンを対象とすることができる。
【0019】
(BPAを含有する液状組成物)
本発明におけるBPAを含有する液状組成物とは、少なくともBPAを含有する液状の組成物であれば特に制限されない。本発明における液状組成物は、BPA及び溶媒を含む。液状組成物は、BPAの懸濁液であっても、溶液であっても、コロイド溶液であってもよいが、好ましくは溶液である。液状組成物は、当該組成物中で均質に溶解していることが好ましい。
【0020】
本発明におけるBPAは、p-ボロノフェニルアラニンであり、L体、D体、又はL体とD体の両方を含むラセミ体であってもよい。BPAとしては、L体を含むことが好ましい。本発明におけるBPAは、ホウ素10同位体(10B)を含むことが好ましい。具体的には、本発明におけるBPAは、BPAのボロン酸部分のホウ素が10Bである化合物を含むことが好ましい。ここで、本発明に使用されるBPA中、BPAのボロン酸部分におけるホウ素が10Bである化合物の割合は、BPA全量に対し、通常50質量%以上であればよく、好ましくは75質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは85質量%以上であり、よりさらに好ましくは90質量%以上であり、さらにより好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは99質量%以上である。上記割合の上限は、通常100質量%である。
BPAは、市販品を使用することができ、公知の方法(例えば、H. R. Synder, A. J. Reedy, W. M. J. Lennarz, J. Am. Chem. Soc., 1958, 80, 835: C. Malan, C. Morin, SYNLETT, 1996, 167:米国特許第5157149号:特開2000-212185号公報:及び特許第2979139号)で合成して使用することもできる。
【0021】
本発明における液状組成物に含まれる溶媒としては、水、アルコール等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、好ましくは水である。溶媒として用いる水としては、例えば、注射用水、生理食塩水、リンゲル液等の水性溶剤を用いてもよい。また、溶媒としては、オリーブ油、ゴマ油、綿実油、トウモロコシ油等の植物油、プロピレングリコール等の油性溶剤等を含んでいてもよい。
【0022】
本発明における液状組成物中のBPAの含有量は、配合する成分の種類により適宜決定すればよいが、通常2.0W/V%以上8.0W/V%以下である。BPAの含有量が2.0W/V%以上であることにより、治療の際に患者に負担なく投与することができる傾向にある。BPAの含有量が8.0W/V%以下であることにより、液状組成物を溶液の状態で安定に維持でき、また、浸透圧比を注射剤として適した範囲に制御できる傾向にある。
【0023】
本発明における液状組成物は、BPAを液状組成物中で均質に溶解させ、液状組成物の安定性を高める観点から、ソルビトールを含むことが好ましい。ソルビトールは、BPAの溶解補助剤となる。ソルビトールとしては、現在医薬品への使用が認可されており、安全性が確認されているD-ソルビトールが好ましく用いられるが、これに限定されない。ソルビトールとしては、D体に加えて、L体又はL体とD体との混合体を用いることもできる。
【0024】
溶解補助剤としては、ソルビトールに加え、例えば、フルクトース(D体に加えて、L体又はL体とD体との混合体を用いることもできる)、キシリトール(D体に加えて、L体又はL体とD体との混合体を用いることもできる)、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、マンニトール(D体に加えて、L体又はL体とD体との混合体を用いることもできる)、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等も好適に用いることができる。
【0025】
本発明における液状組成物に使用される溶解補助剤の含有量は、他の添加剤の配合量により適宜調整すればよいが、BPAの量に対して、モル比で、0.9以上2以下の範囲であることが好ましく、1.1以上1.5以下の範囲であることがより好ましい。溶解補助剤の含有量をBPAの量に対してモル比で0.9以上とすることにより、溶解性に対するpHの許容幅を広くすることができ、BPAが体内で析出することを抑制できる傾向にある。溶解補助剤の含有量をBPAの量に対してモル比で2以下とすることにより、浸透圧比を小さくすることができ、また、溶解補助剤として十分にはたらく傾向にある。
【0026】
本発明における液状組成物のpHは、生体へ投与した際の安全性の観点から、中性付近のpHであることが好ましい。具体的には、pHは、6.5以上8.0以下の範囲であることが好ましく、7.4以上7.8以下であることがより好ましい。pHは、製剤分野で使用される適当なpH調整剤(塩酸、炭酸水素ナトリウム等)、緩衝剤等により制御することができる。
【0027】
本発明における液状組成物の浸透圧比は、特に限定されないが、生理食塩水対比で、1以上2以下の範囲内にあることが好ましく、1.1以上1.5以下の範囲内にあることがより好ましい。浸透圧比を1以上2以下の範囲内にすることにより、医薬組成物を注射剤として生体に投与したとき、痛みの軽減や投与時間の短縮ができる傾向にある。
【0028】
本発明における液状組成物中には、その生体内外での安定性を図るため、適宜、生体に含まれていてもよい各種金属イオンが含まれていてもよい。金属イオンとしては、ナトリウムイオンが好適に挙げられる。金属イオンの濃度は、特に限定されないが、通常130mEq/L以上160mEq/L以下の範囲である。金属イオンの濃度を130mEq/L以上160mEq/L以下の範囲とすることにより、体液のNaイオン濃度範囲に近くすることができ、細胞内液と細胞外液との電解質バランスを保つことができる傾向にある。
【0029】
本発明の医薬組成物は、上述したように、(条件I)又は(条件II)を満たす。
【0030】
(条件I)
(条件I)は、前記液状組成物が実質的に酸化防止剤を含まず、前記液状組成物の溶存酸素濃度が3.5ppm以下であるという条件である。
ここで「液状組成物が実質的に酸化防止剤を含まない」とは、酸化防止剤を、液状組成物中に添加しているものではないものの、ごく微量含まれているような場合があってもよい状態であることを意味し、酸化防止剤の成分濃度が、液状組成物中0.001W/V%未満であってよく、好ましくは0W/V%である。
【0031】
(条件I)における溶存酸素濃度は3.5ppm以下である。(条件I)における溶存酸素濃度が3.5ppm以下であることにより、本発明の医薬組成物を長期保管した際に、着色を抑え、また、BPAが分解してチロシンが生成することを抑制できる。(条件I)における溶存酸素濃度は、好ましくは3.0ppm以下であり、より好ましくは2.8ppm以下である。
(条件I)における溶存酸素濃度の下限は0ppmであることが理想であるが、十分に着色とチロシンの生成を抑制できることから、0ppm超過であってもよく、1.0ppm以上であってもよく、1.5ppm以上であってもよい。
【0032】
(条件II)
(条件II)は、前記液状組成物が酸化防止剤を含み、前記液状組成物の溶存酸素濃度が3.0ppm以下であるという条件である。
ここで液状組成物の酸化防止剤の成分濃度は、液状組成物中0.001W/V%以上0.600W/V%以下であることが好ましく、0.005W/V%以上0.100W/V%以下であることがより好ましい。
【0033】
(条件II)における溶存酸素濃度は3.0ppm以下である。(条件II)における溶存酸素濃度が3.0ppm以下であることにより、本発明の医薬組成物を長期保管した際に、着色を抑え、また、BPAが分解してチロシンが生成することを抑制できる。(条件II)における溶存酸素濃度は、好ましくは2.8ppm以下であり、より好ましくは2.5ppm以下である。
(条件II)における溶存酸素濃度の下限は0ppmであることが理想であるが、十分に着色とチロシンの生成を抑制できることから、0ppm超過であってもよく、0.5ppm以上であってもよく、1.0ppm以上であってもよい。
【0034】
本発明の医薬組成物における溶存酸素濃度は、医薬組成物の製造時、液状組成物を包材に充填し包材を封止する、液状組成物の収容工程において不活性ガス雰囲気下で行う方法、具体的には;収容工程により得られたキットを加熱滅菌する工程において不活性ガス雰囲下で行う方法;等によって、上述した所定の値に制御することができる。溶存酸素濃度は、具体的には、後述する医薬組成物の製造方法によって制御することができる。
【0035】
本発明の医薬組成物における溶存酸素濃度は、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0036】
上述したように、本発明の医薬組成物は加熱滅菌が施され、このときBPAが分解してチロシンが生成することがあり、薬効を低下される恐れがある。本発明の医薬組成物の液状組成物は、(条件I)においても、(条件II)においても、0.75質量%以下のチロシンを含んでいてもよく、0.60質量%以下のチロシンを含んでいてもよく、0.50質量%以下のチロシンを含んでいてもよい。
また、本発明の医薬組成物の液状組成物におけるチロシンの含有量は、(条件I)における液状組成物において、0.25質量%以下であることが好ましく、(条件II)における液状組成物において、0.56質量%以下であることが好ましい。(条件I)においても、あるいは(条件II)においてもチロシンの含有量を上記の範囲にすることにより、本発明の医薬組成物を長期保管した際に、着色を抑え、また、BPAが分解してさらにチロシンが生成することを抑制できる傾向にある。
【0037】
本発明の医薬組成物は、長期保管条件に相当する、40℃/75%RHで2週間保管した後において、液状組成物中のチロシンの含有量が、(条件I)において、0.40質量%以下であることが好ましく、(条件II)において、1.20質量%以下であることが好ましい。また、上記した液状組成物が0.75質量%以下、0.60質量%以下、あるいは0.50質量%以下のチロシンをさらに含む医薬組成物は、40℃/75%RHで2週間保管した後において、液状組成物中のチロシンの含有量が上記範囲であることが好ましい。
40℃/75%RHで2週間保管した後の医薬組成物におけるチロシンの含有量は長期安定性の指標の一つにでき、上記の範囲であることにより、医薬組成物が安定に保管されたことが示される傾向にある。
【0038】
本発明の医薬組成物の液状組成物におけるチロシンの含有量は、(条件I)の液状組成物について、40℃/75%RHで保管する前(保管を開始する時点)において0.25質量%以下であり、40℃/75%RHで2週間保管した後において0.40質量%以下であることが好ましい。
本発明の医薬組成物の液状組成物におけるチロシンの含有量は、(条件II)の液状組成物について、40℃/75%RHで保管する前(保管を開始する時点)において0.56質量%以下であり、40℃/75%RHで2週間保管した後において1.20質量%以下であることが好ましい。
【0039】
本発明の医薬組成物におけるチロシンの含有量は、医薬組成物の製造時、液状組成物を包材に充填し包材を封止する、液状組成物の収容工程において不活性ガス雰囲気下で行う方法;収容工程により得られたキットを加熱滅菌する工程において不活性ガス雰囲下で行う方法;等によって、上述した所定の値に制御することができる。
【0040】
本発明の医薬組成物におけるチロシンの含有量は、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0041】
本発明における液状組成物には、必要に応じて、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液等の緩衝剤を含んでいてもよい。これらの緩衝剤は、製剤の安定化や刺激性の低下に寄与する傾向にある。
【0042】
本発明における液状組成物には、通常、製剤の技術分野で用いられる他の成分を、必要に応じて含有させることができる。他の成分として、通常、液体、特に水性の組成物に用いられる添加剤、例えば、塩化ベンザルコニウム、ソルビン酸カリウム、塩酸クロロヘキシジン等の保存剤;エデト酸Na等の安定化剤;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の増粘剤;塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、ショ糖、ブドウ糖等の等張化剤;ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の界面活性剤;塩酸、水酸化ナトリウム等のpH調整剤;等が挙げられる。
また、他の成分としては、液状製剤に通常用いられる、酸化防止剤、懸濁化剤、無痛化剤、防腐剤、着色剤、甘味剤、吸着剤、ゲル化剤等が挙げられる。
【0043】
酸化防止剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、α-トコフェロール、アスコルビン酸、アスコルビン酸パルミテート、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、モノチオグリセロール、メタ重亜硫酸カリウム、プロピオン酸、没食子酸プロピル、アスコルビン酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム及びチオ硫酸ナトリウム等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウムが好ましい。
【0044】
(包材)
本発明の医薬組成物では、BPAを含有する液状組成物が包材に収容されている。ここでBPAを含有する液状組成物が包材に収容されているとは、包材中にBPAを含有する液状組成物を含み、封止されている状態を指す。本発明における包材は、熱可塑性樹脂製であることが好ましい。包材の素材に熱可塑性樹脂を含むことにより、後述する医薬組成物の製造時に不活性ガス雰囲気下での加熱滅菌によって、容易に液状組成物の溶存酸素濃度を低下させることができる。これは不活性ガス雰囲気下で包材を通じて不活性ガス分子が透過し、包材内の液状組成物中の酸素分子が不活性ガス分子へ置き換えられるためであると考えられる。
包材は、単一の層により構成された単層体であってもよく、2以上の層により構成された積層体であってもよい。
包材は、バッグ、ソフトバッグ、容器、パッケージ(包装体)、包又は袋であってよい。
【0045】
包材の素材として用いられる熱可塑性樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ポリエチレン樹脂(PEとも記載する。高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンを含む)、ポリプロピレン樹脂(PPとも記載する)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVCとも記載する)、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂(PSとも記載する)、ポリ酢酸ビニル樹脂(PVAcとも記載する)、ポリウレタン樹脂(PUR)、テフロン樹脂(登録商標)のようなポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は単独で含んでいてもよく、2種以上の混合であってもよい。
上記の熱可塑性樹脂の中でも好ましくは、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂である。
【0046】
包材の膜厚は、特に制限されないが、通常0.001mm以上1mm以下の範囲であり、好ましくは0.010mm以上1mm以下であり、より好ましくは0.100mm以上1mm以下である。膜厚が0.001mm以上1mm以下であることにより、包材の内容物である液状組成物を安全に保護することができる。
【0047】
包材の酸素透過度は、特に制限されないが、通常0cm3/(m2・24h・atm)超過10,000cm3/(m2・24h・atm)以下の範囲であり、好ましくは0cm3/(m2・24h・atm)超過1,000cm3/(m2・24h・atm)以下であり、より好ましくは100cm3/(m2・24h・atm)以上1,000cm3/(m2・24h・atm)以下である。酸素透過度が0cm3/(m2・24h・atm)超過であることにより、医薬組成物の製造時における加熱滅菌の工程において、液状組成物の溶存酸素を系外(包材内の外)に除くことができ、溶存酸素濃度を低下させられる傾向にある。また、酸素透過度が10,000cm3/(m2・24h・atm)以下であることにより、医薬組成物を保管中に外部からの酸素が包材内に透過することを防ぐことができる傾向にある。
【0048】
包材の形状は、製剤の投与形態等に応じて適宜選択すればよく、例えば、袋状、箱状、ボトル状等の形状であればよい。これらの中でも包材の形状としては、袋状が好ましい。また、包材は、具体的に、輸液バッグ、プレフィルドシリンジ用の包材であってもよい。これらの中でも、包材は、輸液バッグ用であることが好ましい。
【0049】
<医薬組成物の製造方法>
本発明の製造方法は、上述したように、BPAを含有する液状組成物を含み、包材に収容された、医薬組成物の製造方法であって、BPAを含有する液状組成物を包材に収容する工程I、及び、前記包材に収容された液状組成物を、不活性ガス雰囲気下で加熱滅菌する工程IIを含む。
【0050】
上記工程Iにおける、BPAを含有する液状組成物は、自ら調製することにより、又は、市販品として入手することにより、準備することができる。BPAを含有する液状組成物を調製する場合、溶媒にBPAを加え、必要に応じて、ソルビトール等の溶解補助剤や酸化防止剤等の添加剤を添加することにより調製することができる。
例えば、BPAを含有する液状組成物が所定のpH、例えばpH6.5以上8.0以下を有する場合、BPAを含有する液状組成物の製造方法としては、水酸化ナトリウム等のpH調整剤、水、及びBPA及び/又はBPAの薬学的に許容される塩を加えた後、必要に応じてソルビトール等の溶解補助剤や酸化防止剤等の添加剤を添加し、さらに必要に応じて塩酸等によりpHを調整する方法が挙げられる。
BPAの薬学的に許容される塩としては、例えば、有機酸との塩、無機酸との塩、有機塩基との塩、無機塩基との塩が挙げられる。
有機酸との塩としては、例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩等が挙げられる。
無機酸との塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等が挙げられる。
有機塩基との塩としては、例えば、トリエタノールアミンとの塩等が挙げられる。
無機塩基との塩としては、例えば、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等が挙げられる。
【0051】
上記工程Iにおいては、BPAを含有する液状組成物を包材に充填し、その後包材を封止することにより当該液状組成物を包材に収容する。このとき、包材内は、すべて液状組成物で満たされていてもよく、系内に液状組成物とともに一部に空乏部が存在していてもよい。
【0052】
上記工程Iは、本発明の医薬組成物における液状組成物の溶存酸素量をより低下させるために、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。工程Iを不活性ガス雰囲気下で行う方法としては、液状組成物の調製時、及び/又は液状組成物を包材に封止するまでの間、不活性ガスをバブリングする方法等が挙げられる。
【0053】
上記工程IIにて、工程Iにて得られた包材に収容された液状組成物の加熱滅菌を行う。工程IIは、不活性ガス雰囲気下で加熱滅菌がされる。不活性ガス雰囲気下で加熱滅菌は、例えば、後述するように、オートクレーブ装置内等の、工程Iにて得られた包材に収容された液状組成物を配置して加熱滅菌を行う系の中を不活性ガスで満たして加熱滅菌してもよい。加熱滅菌を行う系の中を不活性ガスで満たして加熱滅菌する方法においては、包材に収容された液状組成物は包材を介して外の系と隔たれているが、例えばオートクレーブ装置内を不活性ガスで満たし加熱滅菌することで、不活性ガスが包材を透過し包材内の酸素が不活性ガス分子に置換され、包材内の溶存酸素は包材外に放出されることで、溶存酸素量が低下すると考えられる。
【0054】
加熱滅菌時の温度は、適宜調整すればよいが、十分に滅菌を行う観点から、95℃以上140℃以下の範囲であることが好ましく、100℃以上130℃以下の範囲であることが好ましく、105℃以上125℃以下の範囲であることが好ましい。
【0055】
加熱滅菌時の圧力は、適宜調整すればよいが、十分に滅菌を行う観点から、通常1気圧超過2気圧以下の範囲であることが好ましい。
【0056】
加熱滅菌の時間は、適宜調整すればよいが、十分に滅菌を行う観点から、1分以上60分以下であることが好ましく、5分以上60分以下であることがより好ましく、5分以上30分以下であることがさらに好ましい。
【0057】
本発明の製造方法における不活性ガスとしては、ヘリウム、窒素、アルゴン等が挙げられる。
【0058】
工程IIにおける、不活性ガス雰囲気下での加熱滅菌は、オートクレーブによって行うことができる。工程IIにおける加熱滅菌は、対象物と高圧水蒸気とを接触させる方法を好適に用いることができる。対象物と高圧水蒸気とを接触させる方法としては、具体的には、間接加熱法(加熱滅菌を行う系内に熱水を導入し、熱水を対象物にスプレー又はシャワーすると同時に高圧水蒸気を発生させる方法)、スチームインジェクション法(加熱滅菌を行う系内に高圧水蒸気を導入する方法)等が挙げられる。
【0059】
対象物と高圧水蒸気とを接触させる加熱滅菌は、市販のオートクレーブ装置を用いればよい。オートクレーブ装置としては、例えば、日阪製作所製の滅菌装置を使用することができる。滅菌装置としては、日阪製作所製のRCSシリーズ又はGPSシリーズを用いることができ、加熱滅菌に供する対象物(包材に収容された液状組成物)の数や、加熱滅菌の規模等に応じて適宜、装置の大きさ(RCS-40~260/10~120又はGPS-40~260/10~120)を選択すればよい。また、装置の熱水スプレー式(SP型)又は熱水シャワー式(SW型)も適宜選択すればよい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明につき、実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0061】
<添加剤>
酸化防止剤は、以下の2種を用いた。
ピロ亜硫酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬社製)
亜硫酸水素ナトリウム(富士フィルム和光純薬社製)
【0062】
<包材>
包材は、以下の4種類を用いた。それぞれの包材は、バッグ状であり、大きさは以下の表1のとおりであった。
【0063】
【0064】
[実施例1~22、比較例1~11]
(液状組成物の調製工程)
あらかじめ水酸化ナトリウム162.2gを溶かした水22LにL-BPAを780.0g、D-ソルビトール819.0gを加え、溶解した。室温で1mol/L塩酸を加え、pHを7.6に調整し、水を加えて25Lにし、液状組成物を作製した。
また、調製の際に、酸化防止剤として、ピロ亜硫酸ナトリウム5.0g又は亜硫酸水素ナトリウム5.0gを添加した液状組成物を作製した。
(充填工程)
上記表1の包材に、上述とおり調製した薬液を、窒素バブリングを行って又は窒素バブリングを行わずに、95mL毎充填して包材に封をして、液状組成物を含むバッグを得た。
(滅菌工程)
上記バッグの滅菌を行った。滅菌の工程は、日阪製作所製熱水スプレー式滅菌装置(RCS-120/20RSPXG)を用いて、間接加熱法によって行った。滅菌は、112℃又は117℃にて、20分行った。
【0065】
<安定性評価>
安定性評価は、主に、ICHガイドラインに基づく医薬品苛酷安定性試験の標準的な条件として、以下の機種や条件を用いて行った。具体的には、保存試験は、40℃/75%RHで、装置:LH21-13M(ナガノサイエンス製)にて、2週間保管した。
【0066】
(溶存酸素濃度)
滅菌工程の前後で液状組成物中の溶存酸素濃度を測定した。
具体的には、キット中の液状組成物を30mL採取し、装置:OM-71(堀場製作所社製)を用いて、溶存酸素濃度(ppm)を計測した。
【0067】
(チロシン量)
滅菌工程後のキット及び滅菌工程後のキットを40℃/75%RHで保管した後、チロシン量を測定した。具体的には、キット中の液状組成物を1mL採取し、希釈して100mLとした試料中のチロシン量を高速液体クロマトグラフ(NexeraX2シリーズ、島津製作所製)、で計測した。
HPLCによる測定条件は、以下のとおりであった。
使用カラム:Mightysil RP-18GP (5μm、4.6×150mm)関東化学製
移動相:0.05mol/L リン酸二水素ナトリウム試液(pH2.5)/メタノール(95:5)
希釈液:0.05mol/L リン酸二水素ナトリウム試液(pH2.0)
カラム温度:40℃付近の一定温度
流速:約0.8mL/分
注入量:10μL
検出波長:223nm
【0068】
(着色)
輸液バッグを目視して、着色の有無を確認した。
【0069】
包材の種類、添加剤の有無及び種類、雰囲気の条件を変え、実施例及び比較例の医薬組成物を得た。実施例及び比較例の条件、並びに、実施例及び比較例により得られた医薬組成物の特性、評価結果を表2及び表3に示した。
【0070】
【0071】