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特許7519109プラスチックトレイ用再生材を製造する方法およびプラスチックトレイ用再生材
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  • 特許-プラスチックトレイ用再生材を製造する方法およびプラスチックトレイ用再生材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】プラスチックトレイ用再生材を製造する方法およびプラスチックトレイ用再生材
(51)【国際特許分類】
   B29B 17/02 20060101AFI20240711BHJP
   C08J 11/06 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
B29B17/02 ZAB
C08J11/06 CES
C08J11/06 CFD
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022020613
(22)【出願日】2022-02-14
(65)【公開番号】P2023117835
(43)【公開日】2023-08-24
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】594128522
【氏名又は名称】ウツミリサイクルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】内海 正顯
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-509249(JP,A)
【文献】特開2020-090656(JP,A)
【文献】特開2002-137224(JP,A)
【文献】特表2013-517160(JP,A)
【文献】特開平09-089768(JP,A)
【文献】特開平10-146828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B17/00-17/04
C08J11/00-11/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックトレイのポストコンシューマ材料からプラスチックトレイ用再生材を製造する方法であって、
除染工程(A)および成分分離工程(B)を備え
前記除染工程(A)が、下記の処理(A1)および(A2)を有し、
前記処理(A1)が、下記の処理(a1)~(a3)を有し、
前記処理(a1)が、分光分析で得られたスペクトルに基づいて前記ポストコンシューマ材料を、ポリエチレンテレフタレートからなるものおよびポリプロピレンからなるものと、その他の成分からなるものと、に選別するものであるプラスチックトレイ用再生材の製造方法。
(A1)洗浄処理
(A2)汚染物質除去処理
(a1)分光分析による材料選別処理
(a2)液体洗浄処理
(a3)摩擦洗浄処理
【請求項2】
前記処理(A2)の前に、風力選別を行ってポリエチレンテレフタレートからなるものおよびポリプロピレンからなるもの以外を除去する請求項1記載のプラスチックトレイ用再生材の製造方法。
【請求項3】
前記理(A2)が、加熱処理を有する請求項1または2記載のプラスチックトレイ用再生材の製造方法。
【請求項4】
前記加熱処理が、赤外線加熱処理、真空加熱処理、窒素気流加熱処理からなる群から選ばれた少なくとも一つを有する請求項3記載のプラスチックトレイ用再生材の製造方法。
【請求項5】
前記成分分離工程(B)が、下記の処理(B1)を有する請求項1~4のいずれか一項に記載のプラスチックトレイ用再生材の製造方法。
(B1)分光分析による材料選別処理
【請求項6】
前記成分分離工程(B)が、下記の処理(B2)を有する請求項1~5のいずれか一項に記載のプラスチックトレイ用再生材の製造方法。
(B2)比重差を利用する材料選別処理
【請求項7】
前記プラスチックトレイのポストコンシューマ材料がポリエチレンテレフタレートおよびポリプロピレンを含むものであり、前記成分ごとの分離がポリエチレンテレフタレートとポリプロピレンとそれ以外のプラスチックとに分離するものであって、ポリエチレンテレフタレートとして分離されたプラスチックトレイ用再生材におけるポリプロピレンの含有量が10質量%以下であり、ポリプロピレンとして分離されたプラスチックトレイ用再生材におけるポリエチレンテレフタレートの含有量が10質量%以下である請求項1~6のいずれか一項に記載のプラスチックトレイ用再生材の製造方法。
【請求項8】
さらに、(C)色選別工程を備える請求項1~7のいずれか一項に記載のプラスチックトレイ用再生材の製造方法。
【請求項9】
前記色選別工程(C)が、対象物を少なくとも非着色品と着色品とに分離する工程を有するものである請求項8記載のプラスチックトレイ用再生材の製造方法。
【請求項10】
プラスチックトレイのポストコンシューマ材料から得られたプラスチックトレイ用再生材であって、前記プラスチックトレイ用再生材の主成分がリプロピレンであり、前記リプロピレンがプラスチックトレイ用再生材の90質量%以上含有されており、
代理汚染試験による代理汚染物質の残留量がプラスチックトレイ用再生材質量の320ppb以下および/または代理汚染試験による代理汚染物質の溶出量がプラスチックトレイ用再生材質量の10ppb以下であるプラスチックトレイ用再生材。
【請求項11】
前記プラスチックトレイ用再生材の形状が、フレークまたはペレットである請求項10記載のプラスチックトレイ用再生材。
【請求項12】
前記代理汚染試験による代理汚染物質として、以下のグループ(I)~(VI)の、各グループから選択される少なくとも一種の物質を用いる請求項10または11記載のプラスチックトレイ用再生材。
(I)クロロホルム、クロロベンゼン、トリクロロエタン、ジエチルケトン。
(II)トルエン。
(III)ベンゾフェノン、サリチル酸メチル。
(VI)テトラコサン、ステアリン酸メチル、フェニルシクロヘキサン、1-フェニルデカン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックトレイのポストコンシューマ材料からプラスチックトレイ用途に用いることが可能な再生材を製造する方法、および安全性が担保され、付加価値の高いプラスチックトレイ用再生材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、SDGsに代表される「循環型社会の実現」という考え方が主流となり、食品容器等についてもリサイクル化が進められている。例えば、飲料用に用いられるプラスチックボトルはポリエチレンテレフタレート(PET)を主成分とするものが主流であり、一旦市場に出回ったものの回収が比較的容易であることから、回収したプラスチックボトル(プラスチックボトルのポストコンシューマ材料)から、再度、プラスチックボトルを製造するという取り組みが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これに対し、国内におけるプラスチックトレイの消費は年間約80万tあるが、回収作業が煩雑であるとともに、再利用に供するコストが高くつくため、ごくわずかな例外を除いて回収および再利用されていない現状にある。
【0004】
すなわち、プラスチックボトルのほとんどがPETを材料とするのに対し、プラスチックトレイの材料はPETをはじめ、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリラクティックアシッド(PLA)、これらの複合等多様である。このため、これらを効率的に材料別に選別することが困難であり、プラスチックトレイのリサイクルが進まない一因になっている。
【0005】
しかし、今後、拡大生産者責任制度(EPR)の考え方が主流になると予測され、また、市場のマインドもエコノミーよりもエコロジーを優先する考え方が浸透してきていることから、プラスチックボトルだけでなく、プラスチックトレイに関してもポストコンシューマ材料からプラスチックトレイを製造することが強く望まれると考えられる。
【0006】
一方で、一旦市場に出回ったプラスチックトレイは、どのような経緯を経ているかわからないため、たとえ元の用途が食品用のプラスチックトレイであっても、そのポストコンシューマ材料を用いたプラスチックトレイについては、人体に対する安全性が保障されるものではないという問題もある。この問題に対し、現状では、ポストコンシューマ材料を用いたプラスチックトレイの表面に、新品のプラスチックフィルム(バージンフィルム)を貼ることで直接食品にポストコンシューマ材料からなるプラスチックトレイが接しないようにして安全性を担保することが行われている。しかし、この方法では、消費者に安心感を提供することはできるが、国が定める安全基準を明確に適合させることが困難である。また、バージンフィルムを貼る工程が新たに増えて製造ラインが煩雑になり、そのフィルムの材料分のコストが増加するという新たな問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2017/183048号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、一旦市場に出回ったプラスチックトレイ(プラスチックトレイのポストコンシューマ材料)から、人体に対する安全性が担保され、純度の高い成分からなるプラスチックトレイ用再生材を製造することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は、下記の[1]~[16]をその要旨とする。
[1] プラスチックトレイのポストコンシューマ材料からプラスチックトレイ用再生材を製造する方法であって、下記の(A)および(B)を備えるプラスチックトレイ用再生材の製造方法。
(A)除染工程
(B)成分分離工程
[2] 前記除染工程(A)が、下記の処理(A1)および(A2)を有する[1]のプラスチックトレイ用再生材の製造方法。
(A1)洗浄処理
(A2)汚染物質除去処理
[3] 前記洗浄処理(A1)が、下記の処理(a1)~(a3)を有する[2]のプラスチックトレイ用再生材の製造方法。
(a1)分光分析による材料選別処理
(a2)液体洗浄処理
(a3)摩擦洗浄処理
[4] 前記分光分析による材料選別処理(a1)が、分光分析で得られたスペクトルに基づいて前記ポストコンシューマ材料を、ポリエチレンテレフタレートおよび/またはポリプロピレンなるものと、その他の成分からなるものに選別するものである[3]のプラスチックトレイ用再生材の製造方法。
[5] 前記汚染物質除去処理(A2)が、加熱処理を有する[2]のプラスチックトレイ用再生材の製造方法。
[6] 前記加熱処理が、赤外線加熱処理、真空加熱処理、窒素気流加熱処理からなる群から選ばれた少なくとも一つを有する[5]のプラスチックトレイ用再生材の製造方法。
[7] 前記成分分離工程(B)が、下記の処理(B1)を有する[1]~[6]のいずれかのプラスチックトレイ用再生材の製造方法。
(B1)分光分析による材料選別処理
[8] 前記成分分離工程(B)が、下記の処理(B2)を有する[1]~[7]のいずれかのプラスチックトレイ用再生材の製造方法。
(B2)比重差を利用する材料選別処理
[9] 前記プラスチックトレイのポストコンシューマ材料がポリエチレンテレフタレートまたはポリプロピレンを含むものであり、前記成分ごとの分離がポリエチレンテレフタレートとポリプロピレンとそれ以外のプラスチックとに分離するものであって、ポリエチレンテレフタレートとして分離されたプラスチックトレイ用再生材におけるポリプロピレンの含有量が10質量%以下であり、ポリプロピレンとして分離されたプラスチックトレイ用再生材におけるポリエチレンテレフタレートの含有量が10質量%以下である[1]~[8]のいずれかのプラスチックトレイ用再生材の製造方法。
[10] さらに、(C)色選別工程を備える[1]~[9]のいずれかのプラスチックトレイ用再生材の製造方法。
[11] 前記色選別工程(C)が、対象物を少なくとも非着色品と着色品とに分離する工程を有するものである[10]のプラスチックトレイ用再生材の製造方法。
[12] プラスチックトレイのポストコンシューマ材料から得られたプラスチックトレイ用再生材であって、前記プラスチックトレイ用再生材の主成分がポリエチレンテレフタレートまたはポリプロピレンであり、前記ポリエチレンテレフタレートまたはポリプロピレンがプラスチックトレイ用再生材の90質量%以上含有されるプラスチックトレイ用再生材。
[13] 前記プラスチックトレイ用再生材の形状が、フレークまたはペレットである[12]のプラスチックトレイ用再生材。
[14] ポリエチレンテレフタレートを主成分とするプラスチックトレイ用再生材であって、代理汚染試験による代理汚染物質の残留量がプラスチックトレイ用再生材質量の220ppb以下および/または代理汚染試験による代理汚染物質の溶出量がプラスチックトレイ用再生材質量の10ppb以下である[12]または[13]のプラスチックトレイ用再生材。
[15] ポリプロピレンを主成分とするプラスチックトレイ用再生材であって、代理汚染試験による代理汚染物質の残留量がプラスチックトレイ用再生材質量の320ppb以下および/または代理汚染試験による代理汚染物質の溶出量がプラスチックトレイ用再生材質量の10ppb以下である[12]または[13]のプラスチックトレイ用再生材。
[16] 前記代理汚染試験による代理汚染物質として、以下のグループ(I)~(VI)の、各グループから選択される少なくとも一種の物質を用いる[14]または[15]のプラスチックトレイ用再生材。
(I)クロロホルム、クロロベンゼン、トリクロロエタン、ジエチルケトン。
(II)トルエン。
(III)ベンゾフェノン、サリチル酸メチル。
(VI)テトラコサン、ステアリン酸メチル、フェニルシクロヘキサン、1-フェニルデカン。
【0010】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、除染工程(A)および成分分離工程(B)を備える方法により、安全性が担保され、成分の純度が高いプラスチックトレイ用再生材を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0011】
本発明のプラスチックトレイ用再生材の製造方法によると、プラスチックトレイのポストコンシューマ材料を、安全性を担保し、成分の純度を高めて、例えば、元の用途である食品用のプラスチックトレイに用いることが可能なプラスチックトレイ用再生材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施の形態であるプラスチックトレイ用再生材の製造方法を示したフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
なお、本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意とともに、「好ましくはXより大きい」または「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「Xおよび/またはY(X,Yは任意の構成)」とは、XおよびYの少なくとも一方を意味するものであって、Xのみ、Yのみ、XおよびY、の3通りを意味するものである。
そして、本発明において、「X以上」(Xは任意の数字)または「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」または「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
さらに、本発明において、「主成分」とは、その材料の特性に大きな影響を与える成分の意味であり、その成分の含有量は、通常、材料全体の50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上であり、その成分のみからなる(100質量%)であってもよい。
【0014】
以下、本発明の一実施の形態のであるプラスチックトレイ用再生材の製造方法について説明する。
【0015】
本発明のプラスチックトレイ用再生材は、プラスチックトレイのポストコンシューマ材料から得られるものである。上記プラスチックトレイのポストコンシューマ材料とは、一旦市場に出され、使用後に消費者から回収されるものを意味するものであり、例えば、スーパーマーケット等の量販店や自治体、学校等で回収された食品用トレイがあげられる。また、これらが圧縮梱包(ベイル化)されたもの等も含まれる。
【0016】
プラスチックトレイのポストコンシューマ材料(以下、単に「プラスチックトレイ」とすることがある)の形状は、用いる用途(商品)に応じて様々である。また、プラスチック材料の本来の色(透明、ナチュラル色)だけでなく、材料に顔料等を練りこんで、黒、白、緑等の様々な色に着色されたものがある。さらに、このようなプラスチックトレイは、用途に応じてシールやラベル等が貼付されたり、その表面に文字や図柄等が印刷されたりすることもある。
【0017】
また、プラスチックトレイとしては、用途に応じて異なる材料からなるものが出回っており、その内訳としては、PETを主成分とするものが最も多く、ついでPS、PPを主成分とするものの順に多くなっている。これら以外にもPVC、PLA等を主成分とする様々なものが存在する。しかし、後述するとおり、本発明は、プラスチックトレイ用再生材の材料として、PETまたはPPを主成分とするものに着目してなされたものである。
【0018】
本発明のプラスチックトレイ用再生材は、例えば、図1にそのフロー図を示すように、以下の工程を経由させることにより製造することができる。すなわち、まず、プラスチックトレイに対して、除染工程(A)を行う。上記除染工程(A)を経由させることにより、主成分がPETまたはPPであるプラスチックトレイに人体に対して悪影響を及ぼす汚染物質が付着した場合であっても、その汚染物質を除去することができる。ついで、成分分離工程(B)を経由させることにより、成分別(主成分がPETまたはPPの2種類)に分離することができる。
【0019】
プラスチックトレイ用再生材として、PETまたはPPを主成分とするものに限定するのは、それら以外の材料、例えば、PS(PSP,OPS、HIPSを含む)、PLA、PVC等では、本発明の構成の一つである除染工程(A)を経由させたとしても汚染物質の除去が不十分となり、国が定める代理汚染試験をクリアするものが得られないか、材料自体の劣化が生じて、元の用途である食品用のプラスチックトレイに用いることが困難であるためである。
以下に各工程を説明する。
【0020】
<除染工程(A)>
上記除染工程(A)は、プラスチックトレイの表面に付着する汚染物質等を洗浄する洗浄処理(A1)と、上記プラスチックトレイの内部に浸透している汚染物質を除去する汚染物質除去処理(A2)とを有していることが好ましい。上記洗浄処理(A1)および汚染物質除去処理(A2)の両方を有すると、プラスチックトレイに性質の異なる複数の汚染物質が付着していたとしても、これらの汚染物質全般を除去することが可能となる。
【0021】
[洗浄処理(A1)]
上記洗浄処理(A1)は、プラスチックトレイの表面に付着する汚染物質を洗浄する処理であり、とりわけ汚染物質のうち揮発性の低いものの除去を目的として行うものである。
この洗浄処理(A1)は、プラスチックトレイの主成分がPETおよびPP以外のものを除去する「分光分析による材料選別処理(a1)」と、油分や表面に付着したラベル等を除去する「液体洗浄処理(a2)」と、油分や表面に付着したラベル等をより確実に除去する「摩擦洗浄処理(a3)」を有していることが好ましい。
【0022】
(分光分析による材料選別処理(a1))
上記分光分析による材料選別処理(a1)は、主成分が異なる複数のプラスチックトレイが混在している、回収されたプラスチックトレイから、PETまたはPPを主成分とするもののみを選別し、その他の成分を主成分とするものを除去する処理である。すなわち、この分光分析による材料選別処理(a1)は、後の汚染物質除去処理(A2)において、表面だけでなく内部にまで浸透した汚染物質をより確実に、より効率よく除去できるとの観点から、その選別して取り出す対象として結晶性プラスチックを選択し、なかでも品質の維持と汚染物質の削除を両立できる点、後記の分別作業が容易になる点から、結晶性プラスチックであるPETおよびPPを選別対象とするものである。
【0023】
上記分光分析による材料選別処理(a1)は、分光分析で得られた物質のスペクトルに基づき成分を選別するものであり、このような方法としては、例えば、ラマン分光法、近赤外線分光法等があげられる。なかでも、より高速に成分を選別できる点で、近赤外線分光法、ラマン分光法が好ましく用いられ、とりわけ、100kg/時間以上の供給機能を有する選別機を用いて行うことが好ましい。この分光分析による材料選別処理(a1)は、通常、プラスチックトレイの形状のまま、またはこれが圧縮された形状のものに対して行われる。この材料選別処理(a1)により、PETおよびPP以外を主成分とするプラスチックトレイ、例えば、後の処理(汚染物質除去処理(A2))に耐えられないPS、PVC等の非結晶性プラスチック、およびPLA等の生分解性プラスチックを主成分とするプラスチックトレイが除去される。
【0024】
材料選別を分光分析によって行うのは、以下の理由による。すなわち、上記PSは、PSP(発泡PS/白色トレイ)、OPS(延伸PS/透明トレイ)、HIPS(ゴムを添加したPS/透明トレイ)の大きく3つに分類できる。これらのうちOPSはPETと、外観は似通っているため、外観観察によって主成分となる材料を判断することは困難である。また、PET,OPS、PLA,PVCは、いずれも真比重が1.0以上であり水に沈むため、PETとそれ以外のものとを浮遊選別で分別することができない。HIPSは添加するゴム材の比率により真比重が変動する。これらのことから、回収されたプラスチックトレイを、外観観察や浮遊選別で精度高く選別することは困難である。なお、上記透明トレイには、透過性を有するもの全般が含まれ、いわゆる半透明トレイも含まれる。
【0025】
なお、上記分光分析による材料選別処理(a1)を行う前に、ベイル化されたものは開梱して個々が重ならないようにほぐし、これらを、例えば、トロンメル(回転ふるい)を用いて、回収されたプラスチックトレイに混入している肉眼で見えるような大きさのゴミや、土砂等の除去を行ったり、回転するドラムのなかでシャワー洗浄を行って、プラスチックトレイの表面に付着した汚れの除去を行ったりすることが好ましい。これらの除去を行うことにより、上記分光分析による材料選別処理(a1)の選別精度を高めることができる。
【0026】
このようにして選別された、PETまたはPPを主成分とするプラスチックトレイは、均一的な洗浄性を確保するため、通常、湿式粉砕(水を掛けながら粉砕)され、プラスチックトレイのフレーク(以下、単に「フレーク」とする場合がある)とされる。湿式粉砕を行うことにより、粉砕時の粉塵の回収が容易となるとともに、粉砕と水洗浄とを同時に行うことができるため、より清浄性を高めることができる。
上記フレークは、通常、表面に付着した水を除去した後、つぎの液体洗浄処理(a2)に送られる。このとき、上記フレークを、例えば、遠心力を利用する脱水機にかけることで、水とともに汚れを除去することができる。
【0027】
上記フレークの大きさは、互いに同程度となるように粉砕することが好ましい。例えば、上記フレークを所定の孔径を通過させたパス品とし、上記フレークの径を所定の範囲内のものに設定することが好ましい。上記孔径の径は、例えば、直径30mm以下にすることが好ましく、20mm以下とすることがより好ましく、10mm以下とすることがさらに好ましい。すなわち、上記フレークの最大径を30mm以下にすることが好ましく、20mm以下とすることがより好ましく、10mm以下とすることがさらに好ましい。
【0028】
(液体洗浄処理(a2))
上記液体洗浄処理(a2)は、上記分光分析による材料選別処理(a1)によって選別されたPETを主成分とするフレークと、PPを主成分とするフレークとが混在した状態のものを、例えば、洗浄液を用いてさらに洗浄し、上記フレークに残存するラベルや印刷、油分等を除去する処理である。このような処理は、例えば、Hot Washing Machine(RX2100A_S-00、boretech社)等のホットアルカリ洗浄装置を用いて、上記洗浄液に浸漬させたフレークを洗浄液ごと撹拌することで行うことができる。
上記洗浄液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ性洗浄液が好ましく用いられ、とりわけ0.3質量%以上の濃度の水酸化ナトリウム水溶液が好ましく、より好ましくは1~3質量%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液である。また、上記洗浄は、40℃以上の温度(洗浄液温度)で行うことが好ましく、より好ましくは80~100℃の温度で行うことである。上記液体洗浄処理(a2)は、3分間以上行うことが好ましく、15分間以上行うことがより好ましい。
【0029】
(摩擦洗浄処理(a3))
上記摩擦洗浄処理(a3)は、上記液体洗浄処理(a2)を経由した後に、フレーク同士が互いに擦り合わされるように撹拌し、上記液体洗浄処理(a2)後に残存するラベルや印刷、油分等を除去する処理である。このような処理は、例えば、Turbowasher(MCJ1000A―00、Boretech社)等の摩擦洗浄装置を用いて、上記洗浄液に浸漬させたフレークを撹拌することで行うことができる。
【0030】
上記摩擦洗浄処理(a3)後のフレークは、通常、Horizontal Dryer(TS800D_S-00、boretech社)等の脱水装置を用いて脱水され、インキ、墨、糊等を洗浄液等とともに除去されることが好ましい。そして、脱水後のフレークは、そのまま次の工程に送られてもよいが、例えば、風力選別等を行って、この段階でもフレーク内に残存するラベル等の軽量異物の除去を行うことが好ましい。
【0031】
上記風力選別は、通常、脱水後のフレークに風を吹き付けることによって、その風力を利用して、かさ比重の比較的軽い異物をフレークから除去するものであり、特に、ラベル粉砕物等の、軽量異物の除去に有用である。
【0032】
すなわち、上記風力選別は、例えば、脱水後のフレークを振動フィーダー等で定量に送り込み、シロッコファン、アスピレーター等によって強い空気流の中を通過させて、かさ比重の軽いものと、かさ比重の重いものとを分離する等によって行うものである。すなわち、かさ比重の重いPETおよびPPのフレークはそのまま落下させ、かさ比重の比較的軽いラベルあるいはフィルム系異物を吹き飛ばすことにより、軽量異物を除去することができる。
【0033】
[汚染物質除去処理(A2)]
上記汚染物質除去処理(A2)は、上記洗浄処理(A1)を経由したフレークに対して加熱処理を行い、その熱によって、上記フレークの内部に浸透している汚染物質の除去を行うものである。すなわち、上記フレークは、プラスチックトレイに由来するフレーク以外の異物の混入が極めて少なく、外部に付着している汚染物質があったとしても除去が図られている。これに対して所定の加熱処理を行うことにより、回収されたプラスチックトレイに汚染物質が付着していたとしても、物理化学的な性質を問わず汚染物質を除去することができる。
【0034】
上記内部に浸透している汚染物質としては、主に有機溶媒があげられ、具体的には農薬、殺虫剤に含まれる様々な化学物質、工業薬品類、例えば、クロロホルム、クロロベンゼン、トリクロロエタン、ジエチルケトン、トルエン等があげられる。
【0035】
上記加熱処理としては、例えば、赤外線加熱処理、真空加熱処理、窒素気流加熱処理等があげられる。上記真空加熱処理としては、例えば、真空下0.1~100mbrにおいて、好ましくは130℃以上、より好ましくは160℃以上の加熱を30分間以上行うことがあげられる。上記窒素気流加熱処理としては、例えば、ほぼ大気圧(1013mbr±5%)に調整した窒素気流下において、好ましくは窒素気流温度を130℃以上、より好ましくは160℃以上の加熱を行うことがあげられる。
【0036】
なかでも、上記粉砕物内部までの加熱が容易である点で赤外線加熱処理が好ましく、とりわけ波長が0.7~3μmの赤外線(近赤外線)を用いることが、短時間で各粉砕物内部まで均一性の高い加熱を行うことができるため好ましく、0.78~2.5μmの波長を用いることがより好ましく、0.7~1.5μmの波長を用いることがさらに好ましい。上記近赤外線を用いた加熱は大気圧下で行うことができるため、特別に強度を高くした装置が不要であるという利点も有する。上記加熱温度は130~210℃の範囲に設定することが好ましく、150~180℃の範囲に設定することがより好ましい。また、上記加熱処理は0.3~3時間行うことが好ましく、0.4~0.8時間行うことがより好ましい。
【0037】
上記汚染物質除去処理(A2)を経由したフレークは、PETまたはPPを主成分とするものであるため、加熱処理による劣化ダメージを受けにくくなっており、しかも汚染物質が内部に浸透していたとしてもその除去が図られている。このため、上記フレークは品質が高く、汚染物質を有していない安全性の高いものとなる。
【0038】
上記汚染物質除去処理(A2)を経由したフレークが安全性の高いものであることは、例えば、後述の「代理汚染試験」を行うことによって裏付けることができる。
すなわち、上記フレークは、後述の「代理汚染試験」に供した場合において、代理汚染物質の残留量および溶出量が所定値以下になっている。
<成分分離工程(B)>
上記除染工程(A)とともに用いられる成分分離工程(B)は、PETを主成分とする再生材またはPPを主成分とする再生材を得るために、それぞれの純度を高めるために行うものであり、分光分析による材料選別処理(B1)と、比重差を利用する材料選別処理(B2)とを有していることが好ましい。上記分光分析による材料選別処理(B1)と、比重差を利用する材料選別処理(B2)の両方を有していると、より厳密にPETを主成分とする再生材またはPPを主成分とする再生材における、それぞれの純度をより一層高めることができる。
【0039】
[分光分析による材料選別処理(B1)]
上記(A)工程を経由したフレークは、すでにPETおよびPP以外のプラスチックからなるものが除去され、さらに有機溶媒等の汚染物質が付着していたとしても人体に悪影響を与えないレベルにまで十分に除去されているが、さらに、この処理を経由されることによって、フレークに混入している異物をより確実に除去することができる。なお、この処理(B1)は任意の処理であり、例えば、上記除染工程(A)でPETおよびPP以外の異物が完全に除去されている場合等には、この処理を設ける必要はない。
【0040】
上記分光分析による材料選別処理(B1)としては、例えば、分光分析で得られた物質のスペクトルに基づき成分を選別する方法によって分別するものがあげられる。上記分光分析としては、例えば、ラマン分光法、近赤外線分光法等があげられる。なかでも、各種プラスチックをより高い精度で選別できる点で、ラマン分光法が好ましく用いられる。一方、より簡便であるとの点からは近赤外線分光法も好ましく用いられる。
【0041】
[比重差を利用する材料選別処理(B2)]
上記(B1)を経由したフレークは、PETフレークか、PPフレークのいずれかである。上記(B2)は、このフレークをPETフレークまたはPPフレークのいずれかに分離する処理である。
すなわち、PETの比重は1.38であり、PPの比重は0.9であり、両者の比重は大きく異なっている。このため、両者の選別は、比重差を利用して行うことができる。このような選別方法としては、例えば、浮遊選別があげられる。
【0042】
上記浮遊選別は、比重の軽いPPは水に浮き、比重の重いPETは水に沈むという性質を利用して選別を行うものである。例えば、内部に水を収容する水槽を準備し、上記水槽に流水を導入し、上記水槽の一端側から上記フレークを投入して水と接することにより、所定時間経過後に上記水槽の他方側から浮遊するPPフレークを回収し、水槽内に沈んだPETフレークを回収することで、フレークの水洗浄と比重差による選別を同時に行うことができる。
【0043】
上記浮遊選別において、より確実な選別を行う点から、フレークと水とが接する時間は3分間以上に設定することが好ましく、5~20分間の範囲に設定することがより好ましい。上記浮遊選別が行われたフレークは、通常、それぞれ脱水され、フレークの状態のプラスチックトレイ用再生材とされたり、さらに価値を高めるために次の工程に送られたりする。
【0044】
このように、除染工程(A)および成分分離工程(B)を経由することにより、プラスチックトレイのポストコンシューマ材料を用いたものであっても、品質を保ちながら、人体に対する安全性が担保され、しかも、PETまたはPPの成分ごとに高い純度で分離された、付加価値の高いプラスチックトレイ用再生材を製造することができる。
【0045】
<色選別工程(C)>
上記で得られたプラスチックトレイ用再生材(フレーク)は、このまま、プラスチックトレイの製造に用いたり、これを加熱溶融してペレットに形成したりしてもよいが、付加価値をより高めるために、色ごとに分離することが好ましい。
一方で、プラスチックトレイには用途に応じて多様な色のものが存在している。このため、正確に色ごとに分離することは困難である。そこで、色選別における手間と得られる再生材の質とのバランスに優れる点から、上記プラスチックトレイ用再生材(フレーク)を少なくとも非着色品(例えば、ナチュラル色、無色透明等)と、着色品の2つに分離することが好ましい。上記着色品には、練りこみ着色品の他、印刷品も含まれる。
【0046】
上記色選別工程(C)は、例えば、上記得られたプラスチックトレイ用再生材(フレーク)をベルトコンベアの上に載せて搬送する間に、その上方に設置したカメラにより対象物であるフレークを撮影し、その撮影データから設定された基準に基づいて対象物(フレーク)の色を識別する。そして、その識別結果に基づいて、例えば、色別に風の吹き出し量および方向を異なるように設定し、飛ばされる向きおよび距離を変えることにより、設定された色別に対象物(フレーク)を選別することができる。上記カメラとしては、通常、色の選別が可能なものであればどのようなものであってもよいが、例えば、撮像素子としてCCDセンサー、CMOSセンサーを備えるカメラを用いることが好ましく、なかでもCCDセンサーを備えるカメラがより好ましい。
【0047】
上記工程(A)~(C)を経由させることにより、成分別および色別に選別された、より付加価値の高いプラスチックトレイ用再生材を得ることができる。これらは、さらに価値を高めるために加熱溶融を行って各々ペレットに形成してもよい。
【0048】
このように、本発明によって得られたプラスチックトレイ用再生材は、プラスチックトレイのポストコンシューマ材料を材料とするにも関わらず、人体に悪影響を与える物質が極力排除されており、安全性に優れている。このため、食品用トレイに用いる場合であっても、従来のように、表面をバージンフィルムで被覆して食品と直に接しないようにする必要がなくなり、製造コストを低減することができる。また、成分および色ごとに高い純度で選別されているため、再生材として使い勝手がよい。
【0049】
また、本発明によって得られたプラスチックトレイ用再生材は、プラスチックトレイのポストコンシューマ材料以外のものをほとんど含有しないため、ポストコンシューマ材料のリサイクル率を高めることができる。すなわち、本発明によって得られたプラスチックトレイ用再生材を用いて製造されるプラスチックトレイは循環型社会を実現する一助となる。
【0050】
そして、本発明によって得られるプラスチックトレイ用再生材は、PETまたはPPに分離されており、通常、それぞれの純度が90質量%以上である。PETとして分離されたプラスチックトレイ用再生材におけるPPの含有量が10質量%以下であり、PPとして分離されたプラスチックトレイ用再生材におけるPETの含有量が10質量%以下であると、リサイクル率をさらに高めることができる。
【0051】
さらに、本発明によって得られたプラスチックトレイ用再生材の形状が、フレークである場合には低コスト化を実現できる傾向がみられ、ペレットである場合には溶融状態を均一にしやすく成形不良の発生を抑制できる傾向がみられる。
【0052】
また、PETを主成分とするプラスチックトレイ用再生材であって、代理汚染試験による代理汚染物質の残留量がプラスチックトレイ用再生材質量の220ppb以下および/または代理汚染試験による代理汚染物質の溶出量がプラスチックトレイ用再生材質量の10ppb以下であるものは、人体への安全性をより明確に示すことができる。
【0053】
そして、PPを主成分とするプラスチックトレイ用再生材であって、代理汚染試験による代理汚染物質の残留量がプラスチックトレイ用再生材質量の320ppb以下および/または代理汚染試験による代理汚染物質の溶出量がプラスチックトレイ用再生材質量の10ppb以下であるものは、上記PETを主成分とするものと同様に、人体への安全性をより明確に示すことができる。
【0054】
なかでも、代理汚染試験による代理汚染物質として、以下のグループ(I)~(VI)の、各グループから選択される少なくとも一種の物質を用いるものは、より確実な指標を得ることができ、安全性の判断が容易となる。
(I)クロロホルム、クロロベンゼン、トリクロロエタン、ジエチルケトン。
(II)トルエン。
(III)ベンゾフェノン、サリチル酸メチル。
(VI)テトラコサン、ステアリン酸メチル、フェニルシクロヘキサン、1-フェニルデカン。
【0055】
上記代理汚染試験は、通常、厚生労働省が作成した「食品用器具及び容器包装における再生プラスチック材料の使用に関する指針(ガイドライン)」に準じて行うことができる。
【実施例
【0056】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
<実施例1>
まず、PETからなる青色のプラスチックトレイ(新品)を粉砕し、直径20mmの孔を通過したフレークを10kgと、PPからなる黄色のボトルキャップ(新品)を粉砕し、直径20mmの孔を通過した粉砕物を10kgとを準備し、これらを均一になるように混合して、20kgの2種の成分(PETとPP)および2種の色(青色、黄色)の混合フレークを準備した。
【0058】
上記混合フレーク20kgに対し、下記の代理汚染物質による汚染を行って、疑似的にプラスチックトレイのポストコンシューマ材料を作製し、これを後記の工程を経由させて、プラスチックトレイ用再生材を製造した。
【0059】
上記代理汚染物質を用いた確認試験(以下「代理汚染試験」とすることがある)は、選択された代理汚染物質で意図的に汚染させたものをプラスチックトレイのポストコンシューマ材料として用い、このポストコンシューマ材料から得たプラスチックトレイ用再生材に含有される上記代理汚染物質の量を測定するものである。
【0060】
そして、その代理汚染物質の量が人体に無害であると考えられる値より下回ることを示すことで、仮に、材料となるポストコンシューマ材料に汚染物質が付着していた場合であっても、得られたプラスチックトレイ用再生材の安全性(食品への汚染物質の移行量が十分に低いこと)を担保するものである。
【0061】
[代理汚染物質による汚染]
代理汚染試験に用いる代理汚染物質として、クロロベンゼン、トルエン、ベンゾフェノン、フェニルシクロヘキサンを選択した。上記クロロベンゼンは揮発性の極性物質であり、上記トルエンは揮発性の非極性物質であり、上記ベンゾフェノンは不揮発性の極性物質であり、上記フェニルシクロヘキサンは不揮発性の非極性物質である。すなわち、上記代理汚染物質には、代表する各物理化学的性質を有する化学物質が選択されている。
【0062】
ついで、ステンレス鋼(SUS)製容器内にポリエチレン製の袋を入れ、その中に準備した混合粉砕物を投入し、その上へ予め混合しておいた上記代理汚染物質4種を上記混合粉砕物の質量に対して、それぞれ以下の量を滴下した。そして、ポリエチレン製の袋とSUS製容器を密閉し、期間中は1日3回撹拌し、40℃の温度下で2週間静置して上記混合粉砕物に上記代理汚染物質を下記の濃度となるよう含浸させた。
クロロベンゼン 1500ppm
トルエン 1000ppm
ベンゾフェノン 150ppm
フェニルシクロヘキサン 500ppm
【0063】
このようにして得られた代理汚染物質によって汚染された混合フレークを、疑似的に作製したプラスチックトレイのポストコンシューマ材料(以下「試料」とすることがある)とした。そして、この試料に対して下記の工程を順に実施した。
【0064】
<除染工程(A)>
まず、洗浄処理(A1)を行った。すなわち、先に記載したとおり、まず、上記試料を分光分析による材料選別処理(a1)を行って、その主成分がPETおよびPP以外のものを除去する。ついで、下記に示す条件で、液体洗浄処理(a2)および摩擦洗浄処理(a3)を行い、通常、ポストコンシューマ材料の表面に付着する油分やラベル等の除去を行った。
【0065】
・分光分析による材料選別処理(a1)の条件
使用装置 :NA1―OBXX―CCBA(ペレンク社)
照明 :ハロゲン
Shoot :flat
排出gate位置:高
原料密度 :0.313gr/CC
Feed速度 :1.504kg/H
【0066】
・液体洗浄処理(a2)の条件
使用装置:Hot Washing Machine(RX2100A_S-00、boretech社)
洗浄液 :2%の苛性ソーダ水溶液
温度 :60℃以上
サイズ :φ2100*5600 with load cells
【0067】
・摩擦洗浄処理(a3)の条件
使用装置:Turbowasher(MCJ1000A-00、Boretech社)
サイズ :φ1000*2300
【0068】
上記試料はPETまたはPPを主成分とするものであるため、これらの処理によって除去される試料はなかった。また、上記試料は新品を疑似的にポストコンシューマ材料として作製したものであるため、これらの処理によって除去される油分やラベルは見当たらなかった。しかし、上記試料にPETおよびPP以外のものが混入していた場合は、この処理によって除去される。上記試料に油分やラベル等が付着していた場合も同様である。
【0069】
上記摩擦洗浄処理(a3)後の試料を以下の条件で脱水し、風力選別して、この段階でもラベル、シール等の軽量異物の除去を行った。上記試料はPETまたはPPを主成分とするものであるため、これらの処理によって除去される試料はなかった。しかし、上記試料にPETおよびPP以外のものが混入していた場合は、この処理によって除去される。
【0070】
・脱水の条件
使用装置:Horizontal Dryer(TS800D_S-00、boretech社)
・風力選別の条件
使用装置:Label Aspirator(φ800、boretech社)
【0071】
[汚染物質除去処理(A2)]
上記洗浄処理(A1)を経由した試料(フレーク)は、仮に、PETまたはPPを主成分とするプラスチックトレイに由来するフレーク以外の異物の混入があったとしても、その混入が極めて少ないものとなっている。上記試料に対して下記のとおり加熱処理を行って、上記フレークの内部に浸透している汚染物質の除去を行った。
【0072】
すなわち、上記得られた試料を、スクリューコンベアが内蔵され、一端側から投入した試料を他端側から取り出す間に加熱が可能な除染装置(近赤外線装置)に投入した。このとき、上記加熱は近赤外線(波長:1.65~1.70μm)を用いて、大気圧下で加熱(160℃、0.5時間)とした。これにより、上記試料に含浸している揮発性の代理汚染物質(クロロベンゼン、トルエン)が外部に排出され、上記試料から除去することができた。
【0073】
<成分分離工程(B)>
上記除染工程(A)を経由した試料に対し、以下のとおりに分光分析による材料選別処理(B1)および比重差を利用する材料選別処理(B2)を行い、これらを成分別に厳密に分離した。
【0074】
[分光分析による材料選別処理(B1)]
上記試料を下記の条件で分光法に基づく選別処理を行い、PETまたはPPであるか、または、PETおよびPP以外の成分であるかの選別を行った。すなわち、コンベアベルトで運ばれる上記試料に、近赤外レーザー光等を照射し、上記試料により散乱される光を測定し、そのスペクトルに基づいて各試料の成分を識別する。上記試料は、除染工程(A)を経由しているため、似たようなスペクトルを有するもの同士であっても精度高く識別することができる。PETおよびPP以外の成分であると識別された試料は、圧搾空気の噴射によってライン外に分離される。このとき、より精度高い分離を行うため、上記圧搾空気は上から下に向かう方向に噴射した。
・分光分析による材料選別処理(B1)の条件
使用装置 :NA1―OBXX―CCBA(ペレンク社)
照明 :ハロゲン
波長 :1.65~1.70μm
Shoo :flat
排出gate位置:高
原料密度 :0.313gr/CC
Feed速度 :1.504kg/H
【0075】
[比重差を利用する材料選別処理(B2)]
上記試料は、すでにPETまたはPPからなるもののみに選別されているが、この処理(B2)では、この試料をPETまたはPPの成分ごとに分離する。すなわち、内部に水が収容された水槽に、上記試料を上記水槽の一端側から流水とともに投入し、他端側から浮遊する試料(PP)を回収するとともに、上記水槽に沈殿する試料(PET)を回収することで両者を選別し、分離した。
【0076】
このようにして選別された試料は、PETとして選別されたものにおけるPETの含有率が99.5質量%であり、PPとして選別されたものにおけるPPの含有率が97.50質量%であり、極めて精度高く分離できていた。すなわち、本発明の製造方法によって得られる再生材は、成分の純度が高く高品質となる。
【0077】
上記得られたプラスチックトレイ用再生材の安全性を確認するため、上記除染工程(A)および成分分離工程(B)を経由して得られた再生材(フレーク)に対し、以下の条件で代理汚染試験を行った。
【0078】
<代理汚染試験:代理汚染物質の残留量測定>
代理汚染物質の残留量は、以下の測定条件でガスクロマトグラフィー分析を行い、得られたピーク面積から検量線を作成して算出した。その結果、PETまたはPPに選別された再生材のいずれにおいても、上記代理汚染物質の合計含有量(残留量)はPETにおいてはプラスチックトレイ用再生材質量の220ppb以下、PPにおいては320ppm以下であった。
(測定条件)
・装置 ヘッドスペースサンプラ- HP7694
ガスクロマトグラフィー/質量分析計(GC/MS) HP6890
・ヘッドスペースサンプラ-操作条件
加熱温度 : オーブン125℃
サンプルループ : 130℃
トランスファーライン: 135℃
加熱時間: 45分間
注入時間: 0.5分間
ヘッドスペース導入量: 1mL
・GC/MS測定条件
カラム DB-VRX(30mx内径0.25mm、膜厚1.4μm J&W Scientific社)
カラム温度: 40℃(4分間)→昇温20℃/分で240℃
注入温度: 250℃
インレット温度: 280℃
キャリア―ガス: He、130kPa(0.5分間)→50kPa
イオン化電圧 : 70eV イオン加速電圧
・測定法
試料(粉砕物)1.0gを10mLバイアル瓶に入れて密封後、ヘッドスペースサンプラ/GC/MSで測定をした。
【0079】
また、代理汚染物質の溶出量についても、上記指針(食品用器具及び容器包装における再生プラスチック材料の使用に関する指針)に準じて測定を行い、いずれの再生材においても上記代理汚染物質の溶出量がプラスチックトレイ用再生材質量の10ppb以下であることを確認した。
【0080】
つぎに、色選別工程(C)を経由させたものの有効性を判断するため、以下のとおり実施例2、3を作製した。
【0081】
<実施例2>
上記実施例1で成分別に分離されたPETフレーク(青色)に対し、新品のPETからなるトレイを粉砕して直径20mmの孔を通過したフレーク(透明・非着色、疑似汚染なし)を同量添加して混合し、青色と透明(非着色)の2色が混在する色混在試料(実施例2)を作製した。
【0082】
<実施例3>
上記実施例1で成分別に分離されたPPフレーク(黄色)に対し、新品のPPからなるトレイを粉砕して直径20mmの孔を通過したフレーク(透明・非着色、疑似汚染なし)を同量添加して混合し、黄色と透明(非着色)の2色が混在する色混在試料(実施例3)を作製した。
【0083】
そして、実施例2および実施例3の各色混在試料に対し、それぞれCCDカメラを利用して色(実施例2:青色または透明(非着色)、実施例3:黄色または透明(非着色))の選別を行った。この選別において異なる色に分類されるものはほとんどなく、その色選別精度はいずれも99%以上であった。実際に市場から回収されるポストコンシューマ材料には、多数の色が混在しているため、この色選別工程(C)を経由させることにより、使い勝手のよいプラスチックトレイ用再生材を得ることができることが示された。
【0084】
上記色選別工程(C)を経由した試料(フレーク)に対し、ペレット製造装置を用いて所定の粒径のペレットを製造した。これにより、均一性が担保され、質が高く使い勝手のよいプラスチックトレイ用再生材が得られた。
【0085】
なお、実施例1において、除染工程(A)として、分光分析による材料選別処理(a1)と汚染物質除去処理(A2)と行い、成分分離工程(B)として、分光分析による材料選別処理(B1)と比重差を利用する材料選別処理(B2)のみを行ったものを作製した。その結果、このものは、代理汚染試験による代理汚染物質の残留量がPETにおいてはプラスチックトレイ用再生材質量の220ppb以下、PPにおいては320ppb以下および/または代理汚染試験による代理汚染物質の溶出量がいずれもプラスチックトレイ用再生材質量の10ppb以下である、安全性の高いものであった。ただし、成分の純度においては実施例1よりやや低くなっていたが、異なる成分の混入は10質量%以下に抑えられていた。
【0086】
このように、本発明の製造方法により得られたプラスチックトレイ用再生材は、プラスチックトレイのポストコンシューマ材料から得られるにも関わらず、安全性が十分に担保され、しかも成分の純度が高く、品質がよいものである。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、プラスチックトレイのポストコンシューマ材料から、安全性の高いプラスチックトレイ用再生材を製造することに利用できることから、食品包装用途にも幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0088】
A 除染工程
B 成分分離工程
図1