(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20240711BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20240711BHJP
H01M 4/1393 20100101ALI20240711BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240711BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240711BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240711BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20240711BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20240711BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20240711BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20240711BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/133
H01M4/1393
H01M4/587
H01M4/66 A
H01M10/052
H01M10/0566
H01M50/403 C
H01M50/449
H01M50/451
(21)【出願番号】P 2022522133
(86)(22)【出願日】2020-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2020018957
(87)【国際公開番号】W WO2021229680
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】522369728
【氏名又は名称】TeraWatt Technology株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】井本 浩
(72)【発明者】
【氏名】緒方 健
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-537226(JP,A)
【文献】特表2019-537231(JP,A)
【文献】国際公開第2019/087709(WO,A1)
【文献】特開2017-135110(JP,A)
【文献】特開2017-188299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/058
H01M 10/052
H01M 10/0566
H01M 4/13 - 1399
H01M 4/587
H01M 4/66
H01M 50/403
H01M 50/449
H01M 50/451
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
負極活物質を有さず、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなる負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、
前記セパレータと前記負極との間に配置された
、リチウムと合金形成し得る金属を含有するカーボン層と、
を備え、
0.1Cの電流で0V CCCV充電、3.0V CC放電を行って測定される前記カーボン層の放電容量が
、0.1Cの電流で4.2VCC充電、3.0V CC放電を行って測定される前記正極の放電容量の22%以下である、
電池。
【請求項2】
正極と、
負極活物質を有さず、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなる負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、
前記セパレータと前記負極との間に配置されたカーボン層と、
を備え、
0.1Cの電流で0V CCCV充電、3.0V CC放電を行って測定される前記カーボン層の放電容量が
、0.1Cの電流で4.2VCC充電、3.0V CC放電を行って測定される前記正極の放電容量の
5%以上22%以下である、
電池。
【請求項3】
正極と、
負極活物質を有さず、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなる負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、
前記セパレータと前記負極との間に配置されたカーボン層と、
を備え、
0.1Cの電流で0V CCCV充電、3.0V CC放電を行って測定される前記カーボン層の放電容量が
、0.1Cの電流で4.2VCC充電、3.0V CC放電を行って測定される前記正極の放電容量の22%以下であ
り、
前記セパレータは、セパレータ基材と、前記セパレータ基材の片面又は両面を被覆するセパレータ被覆層とを有する、
電池。
【請求項4】
前記セパレータ及び前記カーボン層を浸漬させる電解液をさらに有する、請求項1
~3のいずれか1項に記載の電池。
【請求項5】
前記電池は、リチウム金属が前記負極の表面に析出し、及び、その析出したリチウムが溶解することによって充放電が行われるリチウム2次電池である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の電池。
【請求項6】
互いに対向して配置されるセパレータ及び負極
の対向面
のうち前記セパレータ上にカーボン層を形成する工程と、
前記負極、前記セパレータ、及び正極を重ねて積層体を形成する工程と、
を備え、
0.1Cの電流で0V CCCV充電、3.0V CC放電を行って測定される前記カーボン層
の放電容量が、0.1Cの電流で4.2VCC充電、3.0V CC放電を行って測定される前記正極の放電容量の22%以下
であり、
前記負極は、負極活物質を有さず、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなる、
電池の製造方法。
【請求項7】
互いに対向して配置されるセパレータ及び負極の
双方の対向面にカーボン層を形成する工程と、
前記負極、前記セパレータ、及び正極を重ねて積層体を形成する工程と、
を備え、
0.1Cの電流で0V CCCV充電、3.0V CC放電を行って測定される前記カーボン層
の放電容量が、0.1Cの電流で4.2VCC充電、3.0V CC放電を行って測定される前記正極の放電容量の22%以下
であり、
前記負極は、負極活物質を有さず、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなる、
電池の製造方法。
【請求項8】
互いに対向して配置されるセパレータ及び負極の少なくとも一方の対向面に
、リチウムと合金形成し得る金属を含有するカーボン層を形成する工程と、
前記負極、前記セパレータ、及び正極を重ねて積層体を形成する工程と、
を備え、
0.1Cの電流で0V CCCV充電、3.0V CC放電を行って測定される前記カーボン層
の放電容量が、0.1Cの電流で4.2VCC充電、3.0V CC放電を行って測定される前記正極の放電容量の22%以下
であり、
前記負極は、負極活物質を有さず、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなる、
電池の製造方法。
【請求項9】
互いに対向して配置されるセパレータ及び負極の少なくとも一方の対向面にカーボン層を形成する工程と、
前記負極、前記セパレータ、及び正極を重ねて積層体を形成する工程と、
を備え、
0.1Cの電流で0V CCCV充電、3.0V CC放電を行って測定される前記カーボン層
の放電容量が、0.1Cの電流で4.2VCC充電、3.0V CC放電を行って測定される前記正極の放電容量の
5%以上22%以下
であり、
前記負極は、負極活物質を有さず、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなる、
電池の製造方法。
【請求項10】
前記セパレータ上に前記カーボン層を形成する工程は、
基材に前記カーボン層を形成する工程と、
前記基材の前記カーボン層をセパレータに転写する工程と、
を有する、請求項
6に記載の電池の製造方法。
【請求項11】
前記基材の前記カーボン層をセパレータに転写する工程は、
前記基材の前記カーボン層と前記セパレータとを接着層を介して接着させる工程と、
前記基材を剥離する工程と、
を有する請求項
10に記載の電池の製造方法。
【請求項12】
前記積層体を形成する工程の後に、前記積層体に電解液を注入する工程をさらに有する、請求項
6~
11のいずれか1項に記載の電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光又は風力等の自然エネルギーを電気エネルギーに変換する技術が注目されている。これに伴い、多くの電気エネルギーを蓄えることができ、かつ安全性が高い蓄電デバイスとして、様々な電池が開発されている。
【0003】
その中でも、正極及び負極の間を金属イオンが移動することで充放電を行う2次電池は、高電圧及び高エネルギー密度を示すことが知られており、典型的には、リチウムイオン2次電池が知られている。典型的なリチウムイオン2次電池としては、正極及び負極にリチウムを保持することのできる活物質を導入し、正極活物質及び負極活物質の間でのリチウムイオンの授受によって充放電をおこなうものが挙げられる。また、負極に活物質を用いない2次電池として、負極表面上にリチウム金属を析出させることでリチウムを保持するリチウム金属2次電池が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、室温で少なくとも1Cのレートでの放電時に、1000Wh/Lを越える体積エネルギー密度及び/又は350Wh/kgを越える質量エネルギー密度を有する、高エネルギー密度、高出力リチウム金属アノード2次電池が開示されている。特許文献1は、そのようなリチウム金属アノード2次電池を実現するため、極薄リチウム金属アノードを用いることを開示している。
【0005】
また、特許文献2には、正極、負極、これらの間に介在された分離膜及び電解質を含むリチウム2次電池において、前記負極は、負極集電体上に金属粒子が形成され、充電によって前記正極から移動され、負極内の負極集電体上にリチウム金属を形成する、リチウム2次電池が開示されている。特許文献2は、そのようなリチウム2次電池は、リチウム金属の反応性による問題と、組み立ての過程で発生する問題点を解決し、性能及び寿命が向上されたリチウム二次電池を提供することができることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2019-517722号公報
【文献】特表2019-537226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが、上記特許文献に記載のものを始めとする従来の電池を詳細に検討したところ、エネルギー密度及びサイクル特性の少なくともいずれかが十分でないことがわかった。
【0008】
例えば、正極活物質及び負極活物質の間での金属イオンの授受によって充放電をおこなう典型的な2次電池は、エネルギー密度が十分でない。また、上記特許文献に記載されているような、負極表面上にリチウム金属を析出させることでリチウムを保持するリチウム金属2次電池は、充放電を繰り返すことにより負極表面上にデンドライトが形成されやすく、負極からの電位が印可されない不活性化したリチウムが堆積し、容量低下が生じやすい。その結果、サイクル特性が十分でない。
【0009】
また、リチウム金属2次電池において、リチウム金属析出時の離散的な成長を抑制するために、電池に大きな物理的圧力をかけて負極とセパレータとの界面を高圧に保つ方法も開発されている。しかしながら、そのような高圧の印加には大きな機械的機構が必要であるため、電池全体としては、重量及び体積が大きくなり、エネルギー密度が低下する。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、サイクル初期のエネルギー密度及びサイクル特性に優れる電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態に係る電池は、正極と、負極活物質を有しない負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、前記セパレータと前記負極との間に配置されたカーボン層と、を備え、前記カーボン層の容量が前記正極の容量の22%以下である。
【0012】
本発明の一実施形態に係る電池によれば、負極表面に析出した析出金属層に対して負極及びカーボンを通じて電位が印加されることから、析出金属層の均一な形成及び溶解が可能となる。このため負極表面上へのデンドライトの形成が抑制され、サイクル特性の向上に寄与する。
一方、カーボン層にドープはできるが脱ドープできないいわゆる不可逆なキャリア金属が存在するため、多すぎるカーボン層はエネルギー密度の低下の原因となる。本発明では、カーボン層の容量を正極の容量の22%以下とすることにより、初期エネルギー密度の低下が抑制される。
【0013】
好ましくは、前記セパレータ及び前記カーボン層を浸漬させる電解液をさらに有していてもよい。この電解液は、電荷キャリアとなる金属イオンの導電経路として作用することから、電池の内部抵抗が低下し、エネルギー密度及びサイクル特性の向上に寄与する。
【0014】
前記カーボン層は、リチウムと合金形成し得る金属を含有していてもよい。この金属は、充放電によるリチウムの授受を補助する作用を備えることから、エネルギー密度及びサイクル特性の向上に寄与する。
【0015】
前記カーボン層の容量が前記正極の容量の5%以上である。これにより、負極表面に形成された析出金属層に対してカーボン側から十分な電位を印加することができ、デンドライトの抑制に寄与する。
【0016】
前記セパレータは、セパレータ基材と、前記セパレータ基材の片面又は両面を被覆するセパレータ被覆層とを有していてもよい。セパレータ被覆層の材料を選定することにより、電荷キャリアとなる金属イオンを通過させつつ、セパレータと正極又はカーボン層との接着性が向上される。
【0017】
前記電池は、リチウム金属が前記負極の表面に析出し、及び、その析出したリチウムが溶解することによって充放電が行われるリチウム2次電池であることが好ましい。本発明は、特にそのようなリチウム2次電池において、サイクル初期のエネルギー密度及びサイクル特性の向上効果を発揮する。
【0018】
本発明の一実施形態に係る電池の製造方法は、互いに対向して配置されるセパレータ及び負極の少なくとも一方の対向面にカーボン層を形成する工程と、前記負極、前記セパレータ、及び正極を重ねて積層体を形成する工程と、を備え、前記カーボン層を形成する工程において、前記正極の容量の22%以下の容量の前記カーボン層を形成するものである。上記構成により、サイクル初期のエネルギー密度及びサイクル特性に優れる電池が製造される。
【0019】
例えば、前記カーボン層を形成する工程において、前記セパレータ上に前記カーボン層を形成する。この場合、前記セパレータ上に前記カーボン層を形成する工程は、基材に前記カーボン層を形成する工程と、前記基材の前記カーボン層をセパレータに転写する工程と、を有することが好ましい。このように、基材に一度カーボン層を形成した後に、基材のカーボン層をセパレータに転写することにより、セパレータに均一な厚さのカーボン層が形成される。
前記基材の前記カーボン層をセパレータに転写する工程は、前記基材の前記カーボン層と前記セパレータとを接着層を介して接着させる工程と、前記基材を剥離する工程と、を有することが好ましい。これにより、セパレータに確実に接着したカーボン層が形成される。
【0020】
例えば、前記カーボン層を形成する工程において、前記負極上に前記カーボン層を形成してもよい。あるいは、例えば、前記カーボン層を形成する工程において、互いに対向して配置されるセパレータ及び負極の双方の対向面にカーボン層を形成してもよい。
【0021】
前記カーボン層を形成する工程において、リチウムと合金形成し得る金属を含有するカーボン層を形成してもよい。この金属は、充放電によるリチウムの授受を補助する作用を備えることから、エネルギー密度及びサイクル特性に優れた電池が製造される。
【0022】
前記積層体を形成する工程の後に、前記積層体に電解液を注入する工程をさらに有してもよい。この電解液は、電荷キャリアとなる金属イオンの導電経路として作用することから、電池の内部抵抗が低下し、エネルギー密度及びサイクル特性に優れた電池が製造される。
【0023】
前記カーボン層を形成する工程において、前記正極の容量の5%以上の容量をもつ前記カーボン層を形成することが好ましい。これにより、負極表面に析出した析出金属層に対してカーボン側から十分な電位を印加することができ、デンドライトの抑制に寄与するカーボン層が形成される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、サイクル初期のエネルギー密度及びサイクル特性に優れる電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】第1実施形態に係る電池の充放電サイクルの一時点における概略図である。
【
図3】第1実施形態に係る電池の製造工程を示すフローチャートである。
【
図4】第1実施形態に係る電池の製造工程における工程断面図である。
【
図5】第1実施形態に係る電池の製造工程における工程断面図である。
【
図6】第1実施形態に係る電池の製造工程における工程断面図である。
【
図7】第1実施形態に係る電池の製造工程における工程断面図である。
【
図8】第1実施形態に係る電池の製造工程における工程断面図である。
【
図9】第1実施形態に係る電池の製造工程における工程断面図である。
【
図10】第1実施形態に係る電池の製造工程における工程断面図である。
【
図11】第1実施形態に係る電池の製造工程における工程断面図である。
【
図12】第1実施形態に係る電池の製造工程における工程断面図である。
【
図14】第2実施形態に係る電池の充放電サイクルの一時点における概略図である。
【
図15】第2実施形態に係る電池の製造工程を示すフローチャートである。
【
図16】第2実施形態に係る電池の製造工程における工程断面図である。
【
図18】第3実施形態に係る電池の充放電サイクルの一時点における概略図である。
【
図19】第3実施形態に係る電池の製造工程を示すフローチャートである。
【
図20】第3実施形態に係る電池の製造工程における工程断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0027】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る電池の概略図である。
図1に示すように、第1実施形態に係る電池1は、正極10と、負極活物質を有しない負極30と、正極10と負極30との間に配置されたセパレータ20と、セパレータ20と負極30との間に配置されたカーボン層41と、を備える。
【0028】
(正極)
正極10は、正極集電体11と、正極集電体11上に形成された正極活物質層12とを有する。
【0029】
正極集電体11は、電池において電荷キャリアとなる金属イオンと反応しない導電体であれば特に限定されない。電荷キャリアとなる金属がリチウムの場合には、正極集電体として、例えば、アルミニウムが用いられる。
【0030】
正極活物質層12は、金属イオンを正極に保持するための物質であり、金属イオンのホスト物質となる。正極活物質層12は、電池1の安定性及び出力電圧を高める観点から設けられている。
【0031】
正極活物質層12は、正極活物質を含み、正極活物質の材料としては、特に限定されないが、例えば、金属酸化物及び金属リン酸塩が挙げられる。上記金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化コバルト系化合物、酸化マンガン系化合物、及び酸化ニッケル系化合物等が挙げられる。上記金属リン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、リン酸鉄系化合物、及びリン酸コバルト系化合物が挙げられる。金属イオンがリチウムイオンである場合、正極活物質としては、例えば、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA,LiNiCoAlO2)、リチウムニッケルコバルトマグネシウム酸化物(LiNiCoMnO2、NCMと称される。なお、元素比の違いによりNCM622、NCM523、NCM811等と表記されることもある。)、コバルト酸リチウム(LCO,LiCoO2)、リン酸鉄リチウム(LFP,LiFePO4)が挙げられる。上記のような正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0032】
正極活物質層12は、バインダを含んでいてもよい。バインダとしては、例えば、フッ素系バインダ、水系バインダ、イミド系バインダが用いられる。このようなバインダとしては、例えば、ポリビニリデンフロライド(PvDF)、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースの合材(SBR-CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(Li-PAA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、アラミドなどが用いられる。
【0033】
正極活物質層12は、導電助剤を含んでいてもよい。導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノファイバー(VGCF)、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)が挙げられる。
【0034】
正極活物質層12の単位面積当たりの重量は、例えば、10-40mg/cm2である。正極活物質層12の厚さは、例えば、30~150μmである。正極活物質層12の密度は、例えば、2.5~4.5g/mlである。正極活物質層12の面積容量は、例えば、1.0~10.0mAh/cm2である。
【0035】
(負極)
負極30は、負極活物質を有せず、負極集電体により構成される。負極活物質を有する負極を備える電池は、その負極活物質の存在に起因して、エネルギー密度を高めることが困難である。一方、本実施形態の電池1は負極活物質を有しない負極30を備えるため、そのような問題が生じない。すなわち、本実施形態の電池1は、金属が負極30の表面に析出し、及び、その析出した金属が溶解することによって充放電が行われるため、エネルギー密度が高い。
【0036】
「負極活物質」とは、電池において電荷キャリアとなる金属イオンに対応する金属(以下、「キャリア金属」という。)を負極に保持するための物質を意味し、キャリア金属のホスト物質と換言してもよい。そのような保持の機構としては、特に限定されないが、例えば、インターカレーション、合金化、及び金属クラスターの吸蔵等が挙げられる。「負極活物質」の層の容量は、通常、正極の容量と同じ容量となるように設定される。カーボン層は従来負極活物質層としても用いられているが、本実施形態では、カーボン層の容量が正極の容量の22%以下であり、従来の負極活物質としてのカーボンとはその作用効果が全く異なるものである。
【0037】
負極活物質としては、上記保持機構を備える限りにおいて特に限定されないが、例えば、炭素系物質、金属酸化物、及び金属又は合金等が挙げられる。上記炭素系物質としては、特に限定されないが、例えば、グラフェン、グラファイト、ハードカーボン、メソポーラスカーボン、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーン等が挙げられる。上記金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化チタン系化合物、酸化スズ系化合物、及び酸化コバルト系化合物等が挙げられる。上記金属又は合金としては、キャリア金属と合金化可能なものであれば特に限定されないが、例えば、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アルミニウム、ガリウム、及びこれらを含む合金が挙げられる。
【0038】
負極30としては、負極活物質を有さず、集電体として用いることができるものであれば特に限定されないが、例えば、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、その他Liと反応しない金属、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものが挙げられる。なお、負極12にSUSを用いる場合、SUSの種類としては従来公知の種々のものを用いることができる。上記のような負極材料は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。なお、「Liと反応しない金属」とは、電池1の動作条件においてリチウムイオン又はリチウム金属と反応して合金化することがない金属を意味する。
【0039】
負極30は、好ましくはリチウムを含有しない電極である。そのような態様によれば、製造の際に可燃性の高いリチウム金属を用いなくてよいため、電池1は、一層安全性及び生産性に優れるものとなる。同様の観点及び負極30の安定性向上の観点から、その中でも、負極30は、より好ましくは、Cu、Ni、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものである。同様の観点から、負極30は、更に好ましくは、Cu、Ni、又はこれらからなる合金からなるものであり、特に好ましくはCu、又はNiからなるものである。
【0040】
(セパレータ)
セパレータ20は、正極10と負極30を隔離して短絡を防ぎつつ、正極10と負極30との間の電荷キャリアとなる金属イオンのイオン伝導性を確保する部材であり、金属イオンと反応しない部材により構成される。また、電解液を用いる場合には、セパレータ20は当該電解液を保持する役割も担う。セパレータ20を構成するセパレータ基材21は、上記役割を担う限りにおいて限定はないが、例えば、多孔質のポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、又はこれらの積層構造により構成される。
【0041】
セパレータ20は、セパレータ基材21と、セパレータ基材21の表面を被覆するセパレータ被覆層22とを有することが好ましい。本実施形態では、セパレータ被覆層22は、セパレータ基材21の両面を被覆しているが、片面のみを被覆していてもよい。セパレータ被覆層22は、電荷キャリアとなる金属イオンと反応せずにイオン伝導性を確保しつつ、セパレータ基材21を上下に隣接する層(
図1では、カーボン層41及び正極活物質層12)に強固に接着させるものである。セパレータ被覆層22は、上記バインダにシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム等の無機粒子を添加させてもよい。
【0042】
(カーボン層)
カーボン層41は、負極表面上の析出金属層に電位を印加してデンドライトの形成を抑制するために設けられる。カーボン層41は、電解液等の周囲の構成要素と反応せずに、導電性を有することから、負極表面上に形成された析出金属層に電位を印加する材料として好適である。これにより、サイクル特性の向上に寄与する。カーボン層41は、負極30及びセパレータ20の間に介在している。第1実施形態では、カーボン層41は、負極30よりもセパレータ20に強固に接着している。
【0043】
カーボン層41の容量は、正極の容量の22%以下に設定される。カーボン層自体もリチウムのドープ脱ドープにより容量に寄与することができるが、カーボン層にドープはできるが脱ドープできない、いわゆる不可逆なリチウムも存在するため、多すぎるカーボン層はエネルギー密度の低下の原因となるからである。本実施形態では、カーボン層の容量を正極の容量の22%以下とすることにより、初期エネルギー密度の低下が抑制される。ここで容量とは、放電容量を意味する。正極の容量は、主として、正極活物質層12の容量で定まる。カーボン層41は、ハードカーボン、グラファイト等のカーボン材料を含む。
【0044】
カーボン層41は、カーボン材料を分散させるバインダを含んでいてもよい。バインダとしては、例えば、ポリビニリデンフロライド(PvDF)、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースの合材(SBR-CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(Li-PAA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、アラミドなどが用いられる。
【0045】
カーボン層41は、導電助剤を含んでいてもよい。導電助剤としては、例えば、カーボンナノファイバー(VGCF)、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)が挙げられる。
【0046】
カーボン層41の単位面積当たりの重量は、例えば、0.01-15mg/cm2である。カーボン層41の厚さは、例えば、0.1~50μmである。カーボン層41の密度は、例えば、0.1~2.0g/mlである。カーボン層41の面積容量は、例えば、0.01~3.0mAh/cm2である。
【0047】
(電解液)
電池1は、電解液を有していてもよい。電解液は、セパレータ20及びカーボン層41に浸漬させる。この電解液は、電解質を溶媒に溶解させて作った、イオン伝導性を有する溶液であり、リチウムイオンの導電経路として作用する。このため、電解液を有することにより、電池1の内部抵抗が低下し、エネルギー密度及びサイクル特性を向上できる。
【0048】
電解質としては、好ましくはリチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、特に限定されないが、LiPF6、LiBF4、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、LiClO4、リチウムビスオキサラートボラート(LiBOB)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)が挙げられる。電池1のサイクル特性が一層優れるようになる観点から、リチウム塩としては、LiFSIが好ましい。なお、上記のリチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0049】
溶媒としては、特に限定されないが、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、ジエチルカーボネート(DEC)、γ-ブチロラクトン(GBL)、1,3-ジオキソラン(DOL)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)が挙げられる。
【0050】
本明細書において、「負極の表面にデンドライトが形成されることを抑制する」とは、電池の充放電又はその繰り返しにより負極の表面に形成されるキャリア金属の析出物が、デンドライト状になることを抑制することを意味する。換言すれば、電池の充放電又はその繰り返しにより負極の表面に形成されるキャリア金属の析出物が、非デンドライト状に成長することを誘導することを意味する。ここで、「非デンドライト状」とは、特に限定されないが、典型的にはプレート状、谷状、又は丘状である。
【0051】
(電池の使用)
図2は、第1実施形態に係る電池の充放電サイクルの一時点における概略図である。本実施形態に係る電池では、充電中に負極30上にリチウム金属が析出して析出金属層50が形成され、放電中に負極30上から析出金属層50が溶解していく。本実施形態に係る電池では、カーボン層41はセパレータ20に強固に接着していることから、析出金属層50は、負極30とセパレータ41との間に形成される。
【0052】
本実施形態では、負極30及びカーボン層41を通じて負極30の表面に析出形成された析出金属層50の両側から均一な電位を印加することができることから、均一な析出金属層50の析出及び効率的な溶解が可能となる。このため、本実施形態では、デンドライト状に析出金属層50が成長することを抑制でき、かつ、溶解されない不活性な析出金属層50が残存することを抑制することができることから、サイクル特性を向上させることができる。
一方、カーボン層41自体もリチウムのドープ脱ドープにより容量に寄与することができるが、カーボン層41にドープはできるが脱ドープできない、いわゆる不可逆なリチウムも存在するため、多すぎるカーボン層41はエネルギー密度の低下の原因となる。本実施形態では、カーボン層41の容量を正極の容量の22%以下とすることにより、初期エネルギー密度の低下を抑制することができる。
【0053】
(電池の製造方法)
次に、
図3に示すフローチャート及び
図4~
図12に示す工程断面図を参照して、第1実施形態に係る電池の製造方法について説明する。
【0054】
まず正極10を準備する(ステップST11)。正極10は例えば以下のようにして製造する。上述した正極活物質、バインダ、及び必要に応じて導電助剤を混合し、正極混合物を得る。バインダと正極活物質の配合比は、例えば、20:80~1:99である。正極混合物に導電助剤を含める場合、その含有量は、混合物全体の重量を基準として、例えば、0.1~5質量%である。得られる正極混合物を、例えば5μm以上1mm以下の金属箔(例えば、Al箔)からなる正極集電体11の片面に塗布し、プレス成型して正極活物質層12を形成する。得られる成型体を、打ち抜き加工により、所定のサイズに打ち抜き、正極10を得る(
図4)。正極10を準備した後に、正極10の放電容量A(mAh/cm
2)を測定する(ステップST12)。
【0055】
また、負極20を準備する(ステップST21)。当該工程では、例えば1μm以上1mm以下の金属箔(例えば、電解Cu箔)を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄した後に所定の大きさに打ち抜き、更に、エタノールで超音波洗浄した後、乾燥させることにより負極20を得る。
【0056】
本実施形態では、正極10、負極20との積層前にカーボン層41を備えるセパレータ20を形成する。まず、
図5,6に示すように、セパレータとは別個の基材40にカーボン層41を形成する(ステップST31)。カーボン層41は例えば以下のようにして製造する。上述したカーボン材料、バインダ、及び必要に応じて導電助剤を混合し、カーボン混合物を得る。バインダとカーボンの混合比は、例えば、20:80~1:99である。カーボン混合物に導電助剤を含める場合、その含有量は、混合物全体の重量を基準として、例えば0.1~10質量%である。得られるカーボン混合物を、例えば5μm以上1mm以下の金属箔(例えば、Cu箔)からなる基材40の片面に塗布し、プレス成型してカーボン層41を形成する。カーボン層41を形成した後に、カーボン層41の放電容量B(mAh/cm
2)を測定する(ステップST32)。
【0057】
一方、
図7に示すようにセパレータ20を準備する(ステップST33)。当該工程では、セパレータ基材21の一方面に上述したバインダ溶液を塗布し、乾燥して一方面上にセパレータ被覆層22を形成した後に、セパレータ基材21の他方面上にバインダ溶液をさらに塗布し、乾燥して他方面上にセパレータ被覆層22を形成する。これら被覆層は同時に形成してもよい。
【0058】
次に、
図8に示すように、セパレータ20上に接着層23を形成する(ステップST34)。接着層23の形成では、例えば、セパレータ20上にジメチルカーボネート(DMC)を塗布する。
【0059】
次に、基材40上のカーボン層41をセパレータ20に転写する(ステップST35)。当該工程では、まず、セパレータ20上の接着層23と基材40上のカーボン層41とが対向するようにセパレータ20及び基材40を重ね、その外側からヒートプレート61,62を用いて加熱しながらプレスする。プレスの条件及び加熱条件は、用いる接着層23の材料や量にもよるが、例えば、80~100℃、3~7MPa、10~30秒程度である。
【0060】
プレス後(
図10)、接着層23を乾燥させて冷却させた後に、基材40を剥離する。これにより、
図11に示すように、セパレータ20の片面に強固に接着したカーボン層41が形成される。
【0061】
次に、
図12に示すように、以上のようにして得られた正極10、セパレータ20、及び負極30を、この順に、カーボン層41が負極30に対向するように積層する(ステップST40)。
【0062】
次に、正極10及び負極30に、それぞれ金属端子(例えば、Al、Ni等)を接合した後、ラミネートの外装体に挿入する。接合方法としては、従来公知の方法を用いればよく、例えば超音波溶接を用いてもよい。次いで、上記の外装体に電解液を注入し(ステップST50)、外装体を封止することにより、電池が製造される(
図1)。
【0063】
本実施形態に係る電池の製造方法によれば、基材40に予め均一な厚さのカーボン層41を形成しておき、これをセパレータ20に転写することにより、均一な厚さであってかつセパレータ20に強固に接着したカーボン層41を形成することができる。また、製造されるカーボン層41の容量を容易に制御することができる。これにより、充電中に析出形成される析出金属層50を負極30とセパレータ20の間の空間内に制御できることから、負極30及びセパレータ20を通じて析出金属層50の両面から電位を均一にできる電池を製造することができる。この結果、サイクル初期のエネルギー密度及びサイクル特性に優れる電池を製造できる。
【0064】
[第2実施形態]
図13は、第2実施形態に係る電池の概略図である。第2実施形態に係る電池は、互いに対向して配置されるセパレータ20及び負極30の双方の対向面にカーボン層41,42が形成されている点で第1実施形態と異なり、セパレータ20に接着したカーボン層41に加えて、負極30に接着したセパレータ42を備える。第2実施形態では、カーボン層41,42の合計容量が、正極の容量の22%以下に設定される。
【0065】
(電池の使用)
図14は、第2実施形態に係る電池の充放電サイクルの一時点における概略図である。本実施形態に係る電池では、充電中に負極30上にリチウム金属が析出して析出金属層50が形成され、放電中に負極30上から析出金属層50が溶解していくが、この析出金属層が、カーボン層41とカーボン層42の間に形成される。
【0066】
本実施形態では、セパレータ20及び負極30に形成された2つのカーボン層41,42を通じて析出金属層50の両側から均一な電位が与えられることから、均一な析出金属層50の析出及び効率的な溶解が可能となる。このため、第2実施形態では、第1実施形態と同様にデンドライト状に析出金属層50が成長することを抑制でき、かつ、溶解されない不活性な析出金属層50が残存することを抑制することができることから、サイクル特性を向上させることができる。また、カーボン層41,42の合計の容量を正極の容量の22%以下とすることにより、初期エネルギー密度の低下を抑制することができる。
【0067】
(電池の製造方法)
次に、
図15に示すフローチャートを参照して、第2実施形態に係る電池の製造方法について説明する。第2実施形態では、第1実施形態と比べて、負極30にカーボン層42を形成する工程と(ステップST22)、負極30に形成されたカーボン層42の容量を測定する工程が追加される。
【0068】
負極30上のカーボン層42は例えば以下のようにして製造する。上述したカーボン材料、バインダ、及び必要に応じて導電助剤を混合し、カーボン混合物を得る。バインダとカーボンの混合比は、例えば、20:80~1:99である。カーボン混合物に導電助剤を含める場合、その含有量は、混合物全体の重量を基準として、例えば0.1~10質量%である。得られるカーボン混合物を、例えば5μm以上1mm以下の金属箔(例えば、Cu箔)からなる負極30の片面に塗布し、プレス成型してカーボン層42を形成する。カーボン層42を形成した後に、カーボン層42の放電容量(mAh/cm2)を測定する(ステップST23)。第2実施形態では、カーボン層41,42の合計の容量B(mAh/cm2)が、正極の容量Aの22%以下となるように制御される。
【0069】
次に、
図16に示すように、正極10、セパレータ20、及び負極30を、この順に、カーボン層41が負極30に対向するように積層し(ステップST40)、第1実施形態と同様にして電解液を注入し(ステップST50)、外装体を封止することにより、電池が製造される(
図13)。
【0070】
第2実施形態に係る電池の製造方法によれば、セパレータ20,30にそれぞれ強固に接着したカーボン層41,42を形成でき、かつ、製造されるカーボン層41,42の合計容量を容易に制御することができる。これにより、充電中に析出形成される析出金属層50を2つのカーボン層41,42の間の空間内に制御できることから、カーボン層41,42を通じて析出金属層50の両面から電位を均一にできる電池を製造することができる。この結果、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、サイクル初期のエネルギー密度及びサイクル特性に優れる電池を製造できる。
【0071】
[第3実施形態]
図17は、第3実施形態に係る電池の概略図である。第3実施形態に係る電池は、セパレータ20と負極30との間に配置されるカーボン層42が、セパレータ20よりも負極30に強く接着している点で、第1実施形態と異なる。第3実施形態では、カーボン層42の容量が、正極の容量の22%以下に設定される。
【0072】
(電池の使用)
図18は、第3実施形態に係る電池の充放電サイクルの一時点における概略図である。本実施形態に係る電池では、充電中に負極30上にリチウム金属が析出して析出金属層50が形成され、放電中に負極30上から析出金属層50が溶解していくが、この析出金属層が、カーボン層42とセパレータ20との間の空間に形成される。
【0073】
本実施形態では、負極30に形成されたカーボン層42を通じて析出金属層50の一方側から電位が与えられることから、均一な析出金属層50の析出及び効率的な溶解が可能となる。第3実施形態では、析出金属層50の両面から均一な電位に保持できる第1,2実施形態と比べるとその効果は劣るものの、カーボン層がない構造と比べれば、デンドライト状に析出金属層50が成長することを抑制でき、かつ、溶解されない不活性な析出金属層50が残存することを抑制することができる。この結果、初期エネルギー密度及びサイクル特性に優れた電池となる。詳細は不明であるが第3実施形態では、リチウム金属が析出する基材が銅箔ではなくカーボン層となり、表面性の違いが何らかの効果を及ぼしているものと推測される。
【0074】
(電池の製造方法)
次に、
図19に示すフローチャートを参照して、第3実施形態に係る電池の製造方法について説明する。第3実施形態では、第1実施形態と比べて、セパレータ20にカーボン層41を形成するための工程(ステップ31,32,34)がなく、その代わりに、第2実施形態と同様に、負極30にカーボン層42を形成する工程と(ステップST22)、負極30に形成されたカーボン層42の容量を測定する工程が追加される。
【0075】
第3実施形態に係る電池の製造方法によれば、負極30に接着したカーボン層42を形成でき、かつ、製造されるカーボン層42の合計容量を容易に制御することができる。これにより、カーボン層42を通じて析出金属層50の電位を均一にできる電池を製造することができる。この結果、第3実施形態によれば、析出金属層50の両面から電位を均一にできる第1,2実施形態よりも劣るものの、サイクル初期のエネルギー密度及びサイクル特性に優れる電池を製造できる。
【0076】
上記本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその本実施形態のみに限定する趣旨ではなく、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な変形が可能である。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0078】
[実施例1]
(正極)
正極活物質としてNCM622(LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2)、バインダとしてPVdF、導電助剤、溶剤としてN-メチル-ピロリドン(NMP)を混合、スラリーを作成して、正極集電体11であるアルミ箔上に塗布、乾燥、プレスした。対極をリチウム金属とするテストセルを作成し、0.1C相当の電流で4.2VCC充電、3.0V CC放電を行い、放電容量A(mAh/cm2)を求めた。
【0079】
(セパレータ)
カーボンとしてカーボンブラック、バインダとしてPVdF、溶剤としてNMPを混合、スラリーを作成して基材40としての銅箔上にコートし、乾燥、プレスした。得られた電極を用いてリチウム金属を対極とするテストセルを作成し、リチウム電池負極としての放電容量を予め求めた。つまり0.1C相当の電流で0V CCCV充電(カーボンへのリチウムのドープ)、3.0V CC放電(同脱ドープ)を行い、放電容量(リチウム脱ドープ時の容量)B(mAh/cm2)を求めた。一方、PVdFとAl2O3混合物で表面コートされたセパレータ20を入手し、このセパレータにDMC(ジメチルカーボネート)を滴下し、カーボンコートした銅箔をコート面がセパレータ20に対向するように重ね、90℃20秒間ヒートプレスした。ヒートプレスされた積層物を冷却後、銅箔部分のみを剥離させると、カーボン層41がPVdFとAl2O3混合物層と融着したセパレータ20が得られた。
【0080】
(負極及び電解液)
負極として、銅箔を用いた。また、電解液として、DME(ジメトキシエタン)に4M LiFSIを溶解させた電解液を用いた。
【0081】
正極、セパレータ、負極各1枚からなるアルミラミネートを外装材とするセルを作成し、電解液を注液後、封止しサイクル評価に用いた。セパレータはカーボン層を負極側に対向させて積層しセルを作成した。
以上のように、実施例1では、第1実施形態に対応する構造の電池を作製した。
【0082】
[実施例2~5]
実施例2~5では、カーボンコート層の組成ないし容量を実施例1と異ならせた以外は、実施例1と同様にして電池を製造した。
【0083】
[実施例6~7]
実施例6,7では、セパレータ20上だけでなく負極30上にもカーボン層を形成した点を除いて、実施例1と同様に電池を製造した。すなわち、実施例6,7は、第2実施形態に対応する構造の実施例である。
【0084】
[実施例8]
実施例8では、セパレータ20上にはカーボン層を形成せずに負極30上にのみカーボン層を形成した点を除いて、実施例1と同様に電池を製造した。すなわち、実施例6,7は、第3実施形態に対応する構造の実施例である。
【0085】
[比較例1]
比較例1では、カーボン層を形成しなかった点を除いて、実施例1と同様に電池を製造した。
【0086】
[比較例2~3]
比較例2~3では、カーボンコート層の組成ないし容量を実施例1と異ならせた以外は、実施例1と同様に電池を製造した。
【0087】
[比較例4]
比較例4では、カーボンコート層の組成ないし容量を実施例6,7と異ならせた以外は、実施例6,7と同様に電池を製造した。
【0088】
[エネルギー密度及びサイクル特性の評価]
以下のようにして、各実施例及び比較例で作製した電池のエネルギー密度及びサイクル特性を評価した。
【0089】
具体的には、扁平なセルを両面から金属板でクリップで挟み込み、充放電サイクルを行った。充電は、電流0.1C相当の電流で4.2VCC充電し、放電は、電流0.1C相当の電流で3.0VCC放電することにより、温度25℃の環境で充放電のサイクル試験を実施した。その際の初期の容量を実施例1の電池を基準100として表1に比較した。また、30サイクル後の電池の容量維持率を表1に比較した。
【0090】
【0091】
表1において、「形態」は、その実施例が対応する実施形態の番号を示す。
また、表1において、「CB」はカーボンブラック(イメリス社製 Super C45)を示し、「GR」は黒鉛(栄炭社製 LT-AC-1)を示し、「Si」は平均粒径100nmのシリコン粉末試薬を示す。
【0092】
表1に示すように、実施例1-8によれば、比較例1-4に比べて優れた初回放電容量の比率及び30サイクルの容量維持率が得られ、具体的には、初回放電容量の比率を90以上、30サイクルの容量維持率を75%以上を両立することができる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の電池は、エネルギー密度が高く、サイクル特性に優れるため、様々な用途に用いられる蓄電デバイスとして、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0094】
1,2,3…電池、10…正極、11…正極集電体、12…正極活物質層、20…セパレータ、21…セパレータ基材、22…セパレータ被覆層、30…負極、41,42…カーボン層、50…析出金属層。