(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】吸湿剤及び吸湿剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/28 20060101AFI20240711BHJP
C01F 11/04 20060101ALI20240711BHJP
B01J 20/06 20060101ALI20240711BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20240711BHJP
C01F 11/02 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
B01D53/28
C01F11/04
B01J20/06 B
B01J20/30
C01F11/02 B
(21)【出願番号】P 2023208263
(22)【出願日】2023-12-11
【審査請求日】2023-12-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000160407
【氏名又は名称】吉澤石灰工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【氏名又は名称】玉城 信一
(72)【発明者】
【氏名】中茎 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】岡村 達也
(72)【発明者】
【氏名】斎川 明
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/150426(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/106878(WO,A1)
【文献】特開2013-141656(JP,A)
【文献】特開平09-268013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/02、11/04
B01D 53/26-53/28、
53/02-53/12
B01J 20/00-20/28、
20/30-20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化カルシウムを主成分とし、水酸化カルシウムを含有する複合粒子の吸湿剤であって、
該複合粒子中の酸化カルシウムと水酸化カルシウムの質量割合(酸化カルシウム/水酸化カルシウム)が2.0以上であり、
前記複合粒子中の前記酸化カルシウムの質量割合とBET比表面積(m
2/g)との積で表される有効比表面積が16m
2/g以上であ
り
二酸化炭素吸着量(μmol/g)をBET比表面積(m
2
/g)で割って得られる塩基度が、22μmol/m
2
以下である吸湿剤。
【請求項2】
前記吸湿剤中の前記酸化カルシウムの含有割合が60質量%以上である請求項
1に記載の吸湿剤。
【請求項3】
前記BET比表面積が10~30m
2/gである請求項1又は2に記載の吸湿剤。
【請求項4】
体積基準の累積粒度分布における50%粒子径(d50)が0.5~5μmであり、体積基準の累積粒度分布における97%粒子径(d97)が2~10μmである請求項1又は2に記載の吸湿剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子デバイス及び真空断熱材等に用いる吸湿剤及び吸湿剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro Luminescence)デバイスや太陽電池等の電子デバイスを水分から保護するためにポリマー組成物層を用いて電子デバイスを封止することが行われている。電子デバイスの封止に適した樹脂組成物層としては吸湿性フィラーを含有するものが知られており、この吸湿性フィラーとして酸化カルシウムが使用されている。この酸化カルシウムの特性として、吸湿により劣化するデバイスを保護するために高い吸水特性を有すること、及び、電子機器の小型化や薄膜化に伴い微粉であることが要求される。
【0003】
例えば、特許文献1では、気密封止容器中に、有機発光材料層を含む積層体と、該積層体とは別に二酸化炭素の化学的収着剤を収容して含む有機エレクトロルミネッセンス素子が開示されている。この化学的収着剤として、吸湿剤(乾燥剤)としてのCaOと二酸化炭素の化学的収着剤としてのCa(OH)2を混合したものが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1には当該化学的収着剤がどの程度の吸湿性を有するかについての評価はなく、その実用性は不明である。
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、良好な吸湿特性を発揮し得る吸湿剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは、酸化カルシウムを主成分とし、水酸化カルシウムを含有する複合粒子を吸湿剤とし、この複合粒子の組成及び有効比表面積を特定の範囲とすることで、上記課題を解決できることを見出し本発明に想到した。すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0007】
[1] 酸化カルシウムを主成分とし、水酸化カルシウムを含有する複合粒子の吸湿剤であって、該複合粒子中の酸化カルシウムと水酸化カルシウムの質量割合(酸化カルシウム/水酸化カルシウム)が2.0以上であり、前記複合粒子中の前記酸化カルシウムの質量割合とBET比表面積(m2/g)との積で表される有効比表面積が16m2/g以上である吸湿剤。
[2] 二酸化炭素吸着量(μmol/g)をBET比表面積(m2/g)で割って得られる塩基度が、22μmol/m2以下である[1]に記載の吸湿剤。
[3] 前記吸湿剤中の前記酸化カルシウムの含有割合が60質量%以上である[1]又は[2]に記載の吸湿剤。
[4] 前記BET比表面積が10~30m2/gである[1]~[3]のいずれか1つに記載の吸湿剤。
[5] 体積基準の累積粒度分布における50%粒子径(d50)が0.5~5μmであり、体積基準の累積粒度分布における97%粒子径(d97)が2~10μmである[1]~[4]のいずれか1つに記載の吸湿剤。
[6] [1]~[5]のいずれか1つに記載の吸湿剤の製造方法であって、筒状の回転炉を使用し、水酸化カルシウムを含む原料を600~1000℃で焼成する焼成工程を含み、前記筒状炉心管内部の軸方向の断面積に対する前記原料が占有する面積割合が3~10%である吸湿剤の製造方法。
[7] 前記焼成工程の後に、粉砕又は分級して粒度調整を行う粒度調整工程を含む[6]に記載の吸湿剤の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、良好な吸湿特性を発揮し得る吸湿剤を提供することができる。特に、電子デバイスに使用することによって、電子デバイスの長寿命化、高性能化が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】水酸化カルシウム含有割合と塩基度との関係を示す図である。
【
図2】有効比表面積と2時間後質量増加率との関係を示す図である。
【
図3】塩基度と2時間後質量増加率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態(本実施形態)について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0011】
[吸湿剤]
本実施形態に係る吸湿剤は、酸化カルシウムを主成分とし、水酸化カルシウムを含有する複合粒子であって、その複合粒子中の酸化カルシウムと水酸化カルシウムの質量割合(酸化カルシウム/水酸化カルシウム)が2.0以上となっている。当該質量割合が2.0未満であると、吸湿特性が低下してしまう。当該質量割合は2.0~122.0ことが好ましく、4.0~33.0であることがより好ましい。
【0012】
複合粒子中の酸化カルシウムと水酸化カルシウムの質量割合(含有割合)を上記の範囲とするには、例えば、後述する焼成条件、特に焼成温度や供給量(滞留時間)等を適宜変化させればよい。
【0013】
複合粒子中の酸化カルシウムの質量割合とBET比表面積(m2/g)との積で表される有効比表面積は16m2/g以上である。
ここで、有効比表面積は下記式で求められる。水分の吸湿に関与するのは酸化カルシウムであるから、吸湿特性を評価する上で重要なファクターとなる。
式: 吸湿剤のBET比表面積(m2/g)×吸湿剤中の酸化カルシウムの割合
有効比表面積が16m2/g未満であると、吸湿特性が低下してしまう。有効比表面積は16~19m2/gであることが好ましく、18~19m2/gであることがより好ましい。有効比表面積を上記の範囲とするには、例えば、後述する原料である水酸化カルシウムの比表面積や、焼成条件、特に焼成温度や供給量(滞留時間)等を適宜変化させればよい。
【0014】
本実施形態に係る吸湿剤は、二酸化炭素吸着量(μmol/g)をBET比表面積(m2/g)で割って得られる塩基度は22μmol/m2以下であることが好ましく、0~20μmol/m2であることがより好ましく、1~15μmol/m2であることがさらに好ましい。塩基度を上記の範囲とするには、例えば、後述する焼成条件、特に焼成温度や供給量(滞留時間)等を適宜変化させればよい。
【0015】
ここで、二酸化炭素吸着量の測定方法を以下に示す。
装置は、ガス流通と昇温を行いながら、ガスの吸着及び脱離過程を認識し、ガスの脱離量を測定できる装置ならば、特段の制限は無い。具体的な装置として、マイクロトラック・ベル株式会社製の触媒分析装置(BEL-CAT―BASIC)及び四重極型質量分析計(BEL-Mass)が挙げられる。これらの類似機種、旧型機種または後継機種でも良い。測定条件は、下記表のとおりである。
【0016】
【0017】
上記表中の工程1の前処理は省略しても、差し支えない。工程1の前処理及び工程2の前処理の昇温における初期温度は30℃ではなく、通常生活できる室温でも良い。工程7の保持では、質量分析計の安定待ちであって、保持時間は制限されない。
【0018】
また、上記方法で測定された、1g試料あたりの二酸化炭素吸着量(μmol/g)をBET比表面積(m2/g)で割った値が、塩基度(μmol/m2)である。
【0019】
本実施形態に係る吸湿剤中の酸化カルシウムの含有割合は60質量%以上であることが好ましく、80~100質量%であることがより好ましく、89~98質量%であることがさらに好ましい。含有割合が60質量%以上であることで酸化カルシウム/水酸化カルシウムを2.0以上にすることができる。
【0020】
本実施形態に係る吸湿剤のBET比表面積は10~30m2/gであることが好ましく、19~30m2/gであることがより好ましく、20~25m2/gであることがさらに好ましい。BET比表面積が10~30m2/gであることで所望の有効比表面積とすることができる。
【0021】
本実施形態に係る吸湿剤においては、体積基準の累積粒度分布における50%粒子径(d50)が0.3~15μmであることが好ましく、0.5~5μmであることがより好ましい。また、体積基準の累積粒度分布における97%粒子径(d97)は1~260μmであることが好ましく、2~10μmであることがより好ましい。
特に、d50が0.5~5μmであることで、シート等に加工する場合に、白すじや白つぶが生じにくく、外観や性能が良好に保つことができる。また、BET比表面積が大きくなりすぎることで酸化カルシウムと水との反応性が上がることを防ぎ、粉砕や分級工程で空気中の水分を吸湿して酸化カルシウムの含有割合が低下を抑制することができる。
【0022】
d50は、1~5μmであることがより好ましく、1~3μmであることがさらに好ましい。d97は、2~9μmであることがより好ましく、3~7μmであることがさらに好ましい。
【0023】
粒度分布を上記の範囲とするには、例えば、後述する、粉砕や分級工程を設ければよい。
なお、当該粒度分布はレーザー回折式粒度分布測定装置により測定することができる。また、屈折率は装置条件によって異なるが、1.80-0.50iとするのが望ましい。
【0024】
本実施形態に係る吸湿剤は、酸化カルシウムと水酸化カルシウムとから実質的に構成されているが、不純物として、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化鉄等が存在し得る。酸化カルシウムと水酸化カルシウムの合計含有量は、92質量%以上であることが好ましく、94質量%以上であることがより好ましい。
【0025】
以上のような吸湿剤は、例えば、有機ELデバイスや太陽電池等の電子デバイスを水分から保護するための樹脂組成物への添加剤等に好適である。
【0026】
[吸湿剤の製造方法]
本実施形態に係る吸湿剤の製造方法は、筒状の回転炉を使用し、水酸化カルシウムを含む原料を600~1000℃で焼成する焼成工程を含む。
【0027】
筒状の回転炉とは、例えば、特許第4052930号公報や特許第6074540号公報に記載されたような回転炉を使用することができる。ただし、回転炉はこれらに限定されるものではない。筒状の回転炉を使用することで、粉体材料を均一に熱処理することができる。水酸化カルシウムの1時間あたりの供給数量は、回転炉の大きさや焼成能力に応じて、適宜調整すれば良い。
【0028】
焼成温度は600~1000℃とする。600℃未満になると水酸化カルシウムの熱分解が進行せず、酸化カルシウム生成割合が少なくなるためである。1000℃を超えると酸化カルシウムのBET比表面積が小さくなるためである。焼成温度は、700~1000℃であることが好ましく、800~1000℃であることがより好ましい。
【0029】
原料としては、水酸化カルシウムを用いる。水酸化カルシウムの品質としては、日本工業規格(JIS)R9001に記載される一号消石灰相当の品質が望ましく、特号消石灰相当の品質がより望ましい。品質における酸化カルシウム純度が低いということは、炭酸カルシウムやその他不純物が多いことを意味する。水酸化カルシウム中に炭酸カルシウム含有割合が多ければ、焼成工程において炭酸カルシウムの熱分解がなされず、焼成物中の酸化カルシウム純度が低下するためである。
【0030】
水酸化カルシウムの最大粒子径では1mm以下が好ましく、0.6mm以下がより好ましく、0.15mm以下がより好ましい。1mmを超える粒子の場合、焼成後に得られる酸化カルシウムの粒子径も1mmを超えることになる。酸化カルシウム吸湿剤として粉末が要望される場合、任意の粉砕工程を要し、製造コスト高になる。
【0031】
水酸化カルシウムのBET比表面積は、大きければ大きいほど良い。その中で、10m2/g以上が好ましく、15m2/g以上がより好ましい。10m2/g未満の水酸化カルシウムを原料にした場合、焼成で得られる酸化カルシウムのBET比表面積が小さくなり吸湿特性が低下する。
【0032】
水酸化カルシウムの滞留時間は、5~10分間が好ましい。滞留時間は、炉心管の傾き、及び炉心管の回転数で、適宜設定できる。炉心管の傾きが、大きければ大きいほど、原料の流れる速度が速くなり、滞留時間は短くなる。通常0.5度から2.0度の範囲で良い。炉心管の回転数は、増加するほど、焼成原料の移動速度が上がるため、滞留時間は短くなる。滞留時間が5分以上であると、酸化カルシウムの生成割合を良好にし、優れた吸湿特性を得ることができる。一方、10分以下とすることで、酸化カルシウムの生成割合が増やしながら、BET比表面積が小さくなりすぎるのを防いで、吸湿特性を良好にすることができる。
【0033】
本実施形態においては、焼成工程において、筒状炉心管内部の軸方向の断面積に対する原料が占有する面積割合を3~10%とする。筒状炉心管内部の断面積に対する水酸化カルシウムが占有する面積は、吸湿特性をより高めた酸化カルシウムを製造するのに重要な因子である。
【0034】
面積割合が3%以上であると、水酸化カルシウムに過剰な熱量が加わらずに、酸化カルシウムの生成割合は増やしながら、BET比表面積が小さくなるのを防ぐことができる。また、10%以下であると、水酸化カルシウムを熱分解するための熱量が少なくならず、酸化カルシウム生成割合が良好にすることができる。いずれにしても、優れた吸湿特性とすることができる。
【0035】
原料の専有面積の算出方法は、次のとおりである。まず、原料の供給数量(kg/min.)と供給した時間(min.)により、炉内に供給された原料質量が分かる。原料のかさ密度(kg/m3)を測定すれば、炉内に滞留している原料の体積V1(m3)が計算される。炉内の直径と長さにより、炉内の容積V2(m3)が分かる。原料は均等に炉内底に滞留していると仮定すると、V1/V2は、原料が占有している面積S1/炉心管内部の断面積S2と等しくなる。
【0036】
焼成条件によっては、焼成が進みBET比表面積が小さくなる場合がある。この場合、酸化カルシウムの含有割合が高くても、有効比表面積が低下してしまうため、重量増加率が小さく、目標の吸湿特性が得られないことがある。このような場合は、粉砕、分級工程を追加することで、粒子径をより細かくしBET比表面積を大きくする手法が有効である。また、目的とする用途により、適切な粒子径を要求される場合の処理としても有効である。
【0037】
焼成炉によって得られる焼成物等の化学分析は、日本工業規格JIS R 9011(石灰の試験方法)に準拠する。さらに、詳細な含有割合は次のとおり算出される。
【0038】
(含有割合の計算)
下記表に、工業用特号消石灰及び工業用特号生石灰(JIS R 9001)の分析値例を示す。この値を用いて、計算方法を示す。
【0039】
【0040】
1)結合水(100g当たりのmol)の算出
Ig.Loss(強熱減量)は、熱分解で生じるCO2ガス及び水酸化カルシウムの結合水であると仮定する。Ig.Loss(質量%)からCO2(質量%)を引くと、結合水(質量%)が算出される。結合水(質量%)を水の分子量(18g/mol)で割ると、水酸基(100g当たりのmol)が得られる(下記表)。
2)CO2(100g当たりのmol)の算出
CO2は、焼成物中に含まれる炭酸カルシウムのCO2と仮定する。CO2(質量%)をCO2の分子量(44g/mol)で割ると、CO2(100g当たりのmol)が得られる(下記表)。
3)CaO(100g当たりのmol)の算出
CaO(質量%)をCaOの式量(56g/mol)で割ると、CaO(100g当たりのmol)が得られる(下記表)。
4)酸化カルシウム(質量%)の算出
CaO(100g当たりのmol)から、結合水(100g当たりのmol)とCO2(100g当たりのmol)を引くと、焼成物中に含まれる、酸化カルシウムの(100g当たりのmol)が得られる。
5)水酸化カルシウム(質量%)の算出
結合水(100g当たりのmol)に、水酸化カルシウムの式量(74g/mol)をかけると、水酸化カルシウムの質量%が得られる。
6)炭酸カルシウム(質量%)の算出
CO2(100g当たりのmol)に、炭酸カルシウムの式量(100g/mol)をかけると、炭酸カルシウム(CaCO3)の質量%が得られる。
【0041】
【0042】
焼成工程の後には、焼成後の原料を粉砕又は分級して粒度調整を行う粒度調整工程を含むことが好ましい。当該工程を含むことで所望の粒度とすることができる。
【0043】
粉砕の方法は特に限定されないが、ジェットミル、ローラーミル、ハンマーミル、ピンミル、回転ミル、振動ミル、遊星ミル、アトライター、ビーズミル等の乾式の粉砕装置を使用することが出来る。特に微細で且つシャープな粒度分布をもった粉体がえられることから、ジェットミルが好ましい。
ジェットミルの粉砕条件としては、窒素やアルゴンなどの不活性ガスや、エアドライヤーを通して含有水分を極力減らした圧縮エアーを用い、ガス中の水分による劣化を減らすことが好ましい。また、粉砕圧力を、0.5~1.5MPaとすることが好ましく、0.3~0.9MPaとすることがより好ましい。
【0044】
分級の方法は、篩や空気分級機(慣性力型分級機、自由渦型分級機、半自由渦遠心式、強制渦型遠心分級機など)を用いて行うことができる。微細で且つ空シャープな粒度分布をもった粉体がえられることから空気分級機、特に半自由渦遠心式、強制渦型遠心分級機が望ましい。粉砕機と同様に、窒素やアルゴンなどの不活性ガスや、エアドライヤーを通して含有水分を極力減らした圧縮エアーを用いることが好ましい。
【0045】
必要に応じ、粉砕工程および分級工程を組み合わせてもよい。粉砕工程後に更に粗粒分をカットするために分級工程を行うか、または分級工程により粗粒分をカット後に、粉砕工程を行う。
工程が増えることで、空気と接触する機会が増加するため、空気中の水分により吸湿する可能性が高くなる。さらに、粒子径が細かくなるためBET比表面積が上がり、酸化カルシウムと水との反応性が高くなる。いずれにしても、酸化カルシウムの含有割合が低下し、有効比表面積が低下する可能性があるため、適宜選択する。
【0046】
粉砕や分級工程に先立ち、必要に応じて、有機系あるいは無機系の薬剤により表面処理を行ってもよい。表面処理により酸化カルシウムの空気中の水分との吸湿を抑えると共に、粉砕機や分級機への付着を低減することが可能となる。
【実施例】
【0047】
次に、実験例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
最初に、塩基度が何の因子で増減するのかを考察した。水酸化カルシウム含有割合と塩基度に関連性があると考え、水酸化カルシウムと塩基度との関係を調べた。工業用特号消石灰と本願発明で製造した酸化カルシウムを任意の割合で混合し、水酸化カルシウムの含有割合が異なる測定試料を作製した。作製した試料について、既述の条件で二酸化炭素吸着量を測定した。
【0049】
下記表及び
図1に水酸化カルシウム含有割合と二酸化炭素吸着量、BET比表面積および塩基度との関係を示す。水酸化カルシウム含有割合と二酸化炭素吸着量との間には正の相関がある。従って、水酸化カルシウムの含有割合が高いと二酸化炭素吸着量は高くなる。従って、塩基度が高いと吸湿特性は低くなることが想定される。
本検討により、水酸化カルシウムの含有割合と二酸化炭素吸着量との関係を明らかにした。
【0050】
【0051】
(吸湿性の評価)
直径50mm、高さ15mmのステンレスシャーレ(予め、質量を測定しておく)に、試料0.6gを入れた。それを温度24℃、相対湿度55%の恒温恒湿装置内に入れ、2時間後の全体質量を測定する。質量増加率は、次式のとおり計算した。
吸湿量(g)=(2時間後の全体質量,(g))-(初期の全体質量,(g))
質量増加率(%)=吸湿量(g)×100%/試料質量(g)
【0052】
(酸化カルシウムを主成分とする吸湿剤の製造)
原料として、表1に示した工業用特号消石灰を使用した。かさ密度は0.4g/cm3である。回転炉を使用し、原料である水酸化カルシウムの焼成温度、供給数量及び充填割合を適宜設定し、含有割合の異なる酸化カルシウムを主成分とする吸湿剤を製造した(表5)。炉心管回転数は24rpm、炉心角度は1.5度である。
【0053】
【0054】
下記表6に得られた焼成物の分析値を示す。
【0055】
【0056】
表6の分析値を基に、既述の計算方法で、含有割合を計算した。下記表7に、含有割合の計算結果を示す。
【0057】
【0058】
下記表8に有効比表面積、吸湿による質量増加率、二酸化炭素吸着量、及び塩基度を示す。
図2に有効比表面積と質量増加率との関係を、
図3に有効比表面積が16m
2/g以上で層別した時の塩基度と質量増加率との関係を表す。
【0059】
【0060】
(実施例及び比較例の説明)
比較例1及び2では、焼成温度が550℃と低いため、消石灰の熱分解が進行せず、酸化カルシウムの生成割合が少なかった。そのため、吸湿による質量増加率は小さかった。有効比表面積は、16m2/g未満で、塩基度は22μmol/m2を超えていた。
【0061】
実施例1~6では、質量増加率が21%以上となり、先行技術の吸湿特性を超える吸湿剤が得られた。有効比表面積は16m2/以上であり、塩基度は22μmol/m2以下である。
【0062】
比較例3では、充填割合が2%である。この場合、熱量が多くかかり、消石灰の熱分解は進行するものの、BET比表面積が小さくなった。ゆえに、有効比表面積が小さくなり、質量増加率も低下したと推察される。また、比較例4では充填割合が15%である。この場合、熱量が不足し消石灰の熱分解が進まず、水酸化カルシウムの含有割合が大きくなっている。その結果、有効比表面積が下がり、質量増加率も低下したと推察される。
【0063】
本発明では、先行技術では明らかではなかった塩基度の増減に影響を与える因子として、水酸化カルシウム含有割合を突き止めた。さらに、酸化カルシウム含有割合とBET比表面積から導かれる有効比表面積と吸湿特性との関係を明らかにした。有効比表面積、酸化カルシウムと水酸化カルシウムの含有割合、及び塩基度を一定の範囲に制御することで、先行技術の吸湿特性を超える酸化カルシウムを主成分とする吸湿剤とその製造方法を確立した。
【0064】
実施例6、比較例3、実施例7で得られた酸化カルシウムの粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置で測定して結果を下記表に示す。これらの酸化カルシウム粉末を用いて、粉砕、分級工程を行った。
【0065】
【0066】
実施例11,13,14および比較例6はジェットミルで粉砕を行い、実施例12,15は渦型遠心分級機により分級を行った。また、比較例5は粉砕工程後に分級工程を行った。
【0067】
粉砕工程を行った実施例11,13および比較例5は、冷凍式と吸着式のドライヤを通して、露点温度を-40℃にしたエアーを用いた。実施例14は4Nの窒素ガスを、比較例6はコンプレッサーエアをそのまま使用した。ともに粉砕圧力は0.85MPaとし、粉砕物はサイクロンで回収した。
【0068】
実施例13は比較例3の酸化カルシウムを粉砕することで、有効比表面積を19.2m2/gに、重量増加率を24%に上げることができた。一方、比較例5は粉砕工程と分級工程を組み合わせることで、d50が0.8μm、d97が2.7μmと最も細かい酸化カルシウム粉末が得られたが、空気中の水分を吸湿したため、水酸化カルシウム含有割合が37.8%に上昇し、有効比表面積が13.6m2/gに低下した。
比較例6はエアー中の水分の除去が不十分であったため、水酸化カルシウム含有割合が37.8%上昇し、有効比表面積が11.9m2/gに低下した。
【0069】
分級工程を行った、実施例12および比較例5は既述のドライヤを通したエアーを、実施例15は4Nの窒素ガスを循環させた。原料供給速度および吸引風量はすべて一定とし、ローターの回転数を比較例5は4,000rpmに、実施例12と実施例15は3,000rpmに変えて分級を行った。
実施例12および実施例15は、水酸化カルシウムの含有割合、有効比表面積、塩基度に関して請求項の記載範囲純を維持したまま、微細な酸化カルシウム粉末を得ることができた。
【0070】
【0071】
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上より、高吸湿性の酸化カルシウムを主成分とする吸湿剤は、有機ELデバイスや太陽電池などの電子デバイスに使用すること、さらなる高性能デバイスの創出が期待される。
【要約】
【課題】良好な吸湿特性を発揮し得る吸湿剤を提供する。
【解決手段】酸化カルシウムを主成分とし、水酸化カルシウムを含有する複合粒子の吸湿剤であって、該複合粒子中の酸化カルシウムと水酸化カルシウムの質量割合(酸化カルシウム/水酸化カルシウム)が2.0以上であり、前記複合粒子中の前記酸化カルシウムの質量割合とBET比表面積(m2/g)との積で表される有効比表面積が16m2/g以上である吸湿剤である。
【選択図】なし