(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】把持装置
(51)【国際特許分類】
B23B 31/117 20060101AFI20240711BHJP
B23B 31/26 20060101ALI20240711BHJP
B23B 31/40 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
B23B31/117 610A
B23B31/26
B23B31/40
(21)【出願番号】P 2023526471
(86)(22)【出願日】2021-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2021044929
(87)【国際公開番号】W WO2023105630
(87)【国際公開日】2023-06-15
【審査請求日】2023-04-29
(73)【特許権者】
【識別番号】398002259
【氏名又は名称】有限会社沖田工業技術開発
(74)【代理人】
【識別番号】110003373
【氏名又は名称】弁理士法人石黒国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沖田 良成
(72)【発明者】
【氏名】沖田 良道
(72)【発明者】
【氏名】沖田 豊己
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0021276(US,A1)
【文献】国際公開第2021/111171(WO,A1)
【文献】特開平06-205775(JP,A)
【文献】国際公開第2009/054185(WO,A1)
【文献】中国実用新案第204182957(CN,U)
【文献】実開昭53-009078(JP,U)
【文献】特開2002-036012(JP,A)
【文献】特開平02-256406(JP,A)
【文献】特開2008-023608(JP,A)
【文献】特開平09-066461(JP,A)
【文献】米国特許第05320364(US,A)
【文献】特開2011-167773(JP,A)
【文献】特開昭49-052377(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/00-31/42
B23Q 3/12- 3/14
F16B 2/00- 2/26
F16B 7/00- 7/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の駆動源で発生した駆動力により対象物を把持する把持装置において、
コイルスプリングであって、前記駆動力により縮径することで、前記対象物の外側表面に、自身の内周が当接して前記対象物を把持する把持スプリングと、
前記駆動力を前記把持スプリングに伝達する伝達部とを備え、
この伝達部は、
前記把持スプリングの外周に当接しており、前記駆動力を、前記把持スプリングの径方向の内周側を指向するように、前記把持スプリングの外周に及ぼすことで前記把持スプリングを縮径させ、
前記把持スプリングは、
断面が矩形の角線材をらせん状に巻いたものであり、角線材の1つの側面が内周をなすように設けられ、前記対象物を把持するときには、前記駆動力を自身の外周に受けて縮径することで、内周をなす側面が、前記対象物の外側表面に当接することを特徴とする把持装置。
【請求項2】
請求項1に記載の把持装置において、
前記駆動力は、前記駆動源から前記伝達部に、前記把持スプリングの軸方向を指向する力として入力され、前記伝達部で、前記把持スプリングの径方向を指向するように変換されて前記把持スプリングに作用し、
前記伝達部は、
それぞれ、前記把持スプリングの外周に当接する当接部を具備し、前記把持スプリングの外周側で前記把持スプリングの周方向に離れて配置され、前記駆動力を受けることで、内周側に駆動されて前記把持スプリングを縮径させる複数の出力体と、
それぞれ前記周方向に隣り合う出力体を接続し、この隣り合う出力体が内周側に変位することにより撓むとともに、撓むことにより蓄えた弾性力によって、前記隣り合う出力体を外周側に付勢する複数の接続部とを有することを特徴とする把持装置。
【請求項3】
請求項1に記載の把持装置において、
前記駆動力は、前記駆動源から前記伝達部に、前記把持スプリングの軸方向を指向する力として入力され、前記伝達部で、前記把持スプリングの径方向を指向するように変換されて前記把持スプリングに作用し、
前記伝達部は、
それぞれ、前記把持スプリングの外周に当接する当接部、および、前記駆動力が印加される被印加面を具備し、前記把持スプリングの外周側で前記把持スプリングの周方向に離れて配置され、前記駆動力を前記被印加面で受けることで、内周側に駆動されて前記把持スプリングを縮径させる複数の出力体と、
前記被印加面に接触する印加面を具備し、前記印加面から前記出力体に前記駆動力を印加する印加体とを有し、
前記被印加面および前記印加面は、前記軸方向および前記径方向に対して傾斜する平面であり、それぞれの出力体と前記印加体とは、前記被印加面および前記印加面が互いに摺接するように組み付けられ、
前記駆動力により前記印加体が前記軸方向に駆動されると、前記被印加面は、前記印加面に摺接しつつ内周側に移動しながら、前記駆動力の印加を受けることを特徴とする把持装置。
【請求項4】
請求項1に記載の把持装置において、
前記駆動力は、前記駆動源から前記伝達部に、前記把持スプリングの軸方向を指向する力として入力され、前記伝達部で、前記把持スプリングの径方向を指向するように変換されて前記把持スプリングに作用し、
前記伝達部は、
それぞれ、前記把持スプリングの外周に当接する当接部を具備し、
前記把持スプリングの外周側で前記把持スプリングの周方向に離れて配置され、内周側に駆動されて前記把持スプリングを縮径させる複数の出力体と、
前記出力体の内、前記軸方向に離れた2つの部位で内周側に駆動される時期を異ならせる片側遅延部とを有することを特徴とする把持装置。
【請求項5】
請求項2ないし請求項4の内のいずれか1つに記載の把持装置において、
前記当接部は、前記軸方向に垂直な断面において内周側に凸の曲線孤である筒面を有し、
この筒面が前記把持スプリングの外周に当接することを特徴とする把持装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の内のいずれか1つに記載の把持装置において、
前記把持スプリングは、
コイルスプリングであって、縮径することで、前記対象物の外側表面に自身の内周が当接する内周側スプリングと、
コイルスプリングであって、前記駆動力により縮径することで、前記内周側スプリングの外周に自身の内周が当接する外周側スプリングとを具備し、
前記内周側スプリングと前記外周側スプリングとは、巻き線の方向が互いに逆であることを特徴とする把持装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6の内のいずれか1つに記載の把持装置において、
前記把持スプリングのコイル同士の軸方向の隙間に配置され、前記把持スプリングの縮径により内周側に押し出されて前記対象物の外側表面に当接するゴム部を備えることを特徴とする把持装置。
【請求項8】
所定の駆動源で発生した駆動力により対象物を把持する把持装置において、
コイルスプリングであって、前記駆動源で発生した駆動力により拡径することで、前記対象物が有する空洞の内周面に、自身の外周が密着して前記対象物を把持する把持スプリングと、
前記駆動力を、前記把持スプリングの軸方向および径方向の両方に対して傾斜する斜面同士の摺接により、前記径方向の外周側を指向するように変換して、前記把持スプリングの内周に及ぼすことで前記把持スプリングを拡径させる伝達部とを備え、
前記把持スプリングの外周側は、
前記把持スプリングの中心軸の周囲にらせん状かつ円筒状に伸びており、それぞれのコイルの一巻きが軸方向に幅を有しており、
前記対象物を把持するときには、前記内周面に密着し、
前記把持スプリングの内周側は、
前記把持スプリングの中心軸の周囲にらせん状かつ円筒状または円錐状に伸びており、
前記把持スプリングの拡径時には前記駆動力により、前記伝達部に含まれる部分から、前記径方向の外周側に向かって押され、
前記対象物を把持するときには、前記駆動力により、前記伝達部に含まれる部分に密着されることを特徴とする把持装置。
【請求項9】
請求項8に記載の把持装置において、
前記駆動力は、前記駆動源から前記伝達部に、前記把持スプリングの軸方向を指向する力として入力され、前記伝達部で、前記把持スプリングの径方向を指向するように変換されて前記把持スプリングに作用し、
前記伝達部は、
それぞれ、前記把持スプリングの内周に当接する当接部、および、前記駆動力が印加される被印加面を具備し、前記把持スプリングの内周側で前記把持スプリングの周方向に離れて配置され、前記駆動力を前記被印加面で受けることで、外周側に駆動されて前記把持スプリングを拡径させる複数の出力体と、
前記被印加面に接触する印加面を具備し、前記印加面から前記出力体に前記駆動力を印加する印加体とを有し、
前記被印加面および前記印加面は、前記斜面をなしており、それぞれの出力体と前記印加体とは、前記被印加面および前記印加面が互いに摺接するように組み付けられ、
前記駆動力により前記印加体が前記軸方向に駆動されると、前記被印加面は、前記印加面に摺接しつつ外周側に移動しながら、前記駆動力の印加を受けることを特徴とする把持装置。
【請求項10】
請求項8に記載の把持装置において、
前記駆動力は、前記駆動源から前記伝達部に、前記把持スプリングの軸方向を指向する力として入力され、前記伝達部で、前記把持スプリングの径方向を指向するように変換されて前記把持スプリングに作用し、
前記伝達部は、
それぞれ、前記把持スプリングの内周に当接する当接部を具備し、前記把持スプリングの内周側で前記把持スプリングの周方向に離れて配置され、外周側に駆動されて前記把持スプリングを拡径させる複数の出力体と、
前記出力体の内、前記軸方向に離れた2つの部位が外周側に駆動される時期を異ならせる片側遅延部とを有することを特徴とする把持装置。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載の把持装置において、
前記当接部は、前記軸方向に垂直な断面において外周側に凸の曲線孤である筒面を有し、
この筒面が前記把持スプリングの内周に当接することを特徴とする把持装置。
【請求項12】
請求項8に記載の把持装置において、
前記伝達部は、
それぞれ、前記把持スプリングの軸方向の一方側、他方側から、前記把持スプリングに前記駆動力を印加して前記把持スプリングを前記軸方向に挟み込むことにより、前記把持スプリングを外周側に拡径させる第1、第2クランプと、
前記第1、第2クランプがそれぞれ前記軸方向の一方側、他方側から前記駆動力を前記把持スプリングに印加し始める時期を異ならせる片側遅延部とを有することを特徴とする把持装置。
【請求項13】
請求項8ないし請求項12の内のいずれか1つに記載の把持装置において、
前記把持スプリングは、
コイルスプリングであって、拡径することで、前記対象物が有する空洞の内周面に自身の外周が密着する外周側スプリングと、
コイルスプリングであって、前記駆動力により拡径することで、前記外周側スプリングの内周に自身の外周が当接する内周側スプリングとを具備し、
前記外周側スプリングと前記内周側スプリングとは、巻き線の方向が互いに逆であることを特徴とする把持装置。
【請求項14】
請求項8ないし請求項13の内のいずれか1つに記載の把持装置おいて、
前記把持スプリングのコイル同士の軸方向の隙間に配置され、前記把持スプリングの拡径により外周側に押し出されて前記対象物が有する空洞の内周面に密着するゴム部を備えることを特徴とする把持装置。
【請求項15】
請求項4または請求項10に記載の把持装置において、
前記駆動源は電動モータであり、
前記片側遅延部は、
前記把持スプリングと同軸であり、前記電動モータの出力により回転駆動される第1ねじと、
この第1ねじと螺合する第2ねじと、
前記第1ねじと同軸、かつ、前記第1ねじとは逆向きにねじ山が切られ、前記電動モータの出力により回転駆動される第3ねじと、
この第3ねじと螺合する第4ねじとを有し、
前記第1ねじの回転開始により、前記出力体では、前記軸方向に離れた2つの部位の内、一方の部位が径方向に駆動され、
前記第3ねじの回転開始により、前記出力体では、他方の部位が径方向に駆動されることを特徴とする把持装置。
【請求項16】
請求項12に記載の把持装置において、
前記駆動源は電動モータであり、
前記片側遅延部は、
前記把持スプリングと同軸であり、前記電動モータの出力により回転駆動される第1ねじと、
この第1ねじと螺合する第2ねじと、
前記第1ねじと同軸、かつ、前記第1ねじとは逆向きにねじ山が切られ、前記電動モータの出力により回転駆動される第3ねじと、
この第3ねじと螺合する第4ねじとを有し、
前記第1ねじの回転開始により、前記第1クランプが前記把持スプリングの軸方向の一方側に前記駆動力を印加し始め、
前記第3ねじの回転開始により、前記第2クランプが前記把持スプリングの軸方向の他方側に前記駆動力を印加し始めることを特徴とする把持装置。
【請求項17】
請求項15または請求項16に記載の把持装置において、
前記電動モータは、前記対象物を前記把持スプリングにより把持した状態で回転させることができることを特徴とする把持装置
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象物を把持する把持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、所定の駆動源で発生した駆動力により対象物を把持する把持装置が周知である。この周知の把持装置は、対象物を把持する把持部、および、駆動力を把持部に伝達して対象物を把持させる伝達部を備え、工作機械等の分野において利用されている。
ところで、把持部は、例えば、特許文献1、2に示すような態様であり、汎用性に乏しい。
【0003】
すなわち、特許文献1、2に例示される一般的な把持部は、円筒状の筒部に、周方向に関して、例えば、等角度間隔で軸方向に沿うスリットを、複数、設けた「スリ割り構造」である。そして、スリ割り構造の筒部、つまり、スリットを設けることで形成されるそれぞれの爪に力を及ぼして各爪を内周側、または、外周側に曲げることで対象物に対し把持力を及ぼす。
このため、1つの把持部により把持して精度よく加工することができる対象物の寸法範囲が極めて狭く、異なる対象物ごとに把持部を設ける必要がある。
【0004】
すなわち、スリ割り構造を利用する把持部によれば、予め定まった特定寸法の対象物しか、把持して精度よく加工することができず、この特定寸法からごく僅かに寸法がずれるだけで精度よく加工することができなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-100857号公報
【文献】特開2018-20420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本開示は、把持装置に関し、精度よく加工することができる対象物の寸法範囲を拡大することを課題とし、特定寸法に近似する近似寸法の対象物でも把持して精度よく加工することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様の把持装置は、所定の駆動源で発生した駆動力により対象物を把持するものであり、以下の把持スプリングおよび伝達部を備える。すなわち、把持スプリングは、コイルスプリングであって、駆動力により縮径することで、対象物の外側表面に、自身の内周が当接して対象物を把持する。また、伝達部は、駆動力を把持スプリングに伝達する。
そして、伝達部は、把持スプリングの外周に当接しており、駆動力を、把持スプリングの径方向の内周側を指向するように、把持スプリングの外周に及ぼすことで把持スプリングを縮径させる。
また、把持スプリングは、断面が矩形の角線材をらせん状に巻いたものであり、角線材の1つの側面が内周をなすように設けられ、対象物を把持するときには、駆動力を自身の外周に受けて縮径することで、内周をなす側面が、対象物の外側表面に当接する。
【0008】
また、本開示の第2の態様によれば、把持スプリングは、コイルスプリングであって、駆動源で発生した駆動力により拡径することで、対象物が有する空洞の内周面に、自身の外周が密着して対象物を把持する。
そして、伝達部は、駆動力を、把持スプリングの軸方向および径方向の両方に対して傾斜する斜面同士の摺接により、径方向の外周側を指向するように変換して、把持スプリングの内周に及ぼすことで把持スプリングを拡径させる。
また、把持スプリングの外周側は、把持スプリングの中心軸の周囲にらせん状かつ円筒状に伸びており、それぞれのコイルの一巻きが軸方向に幅を有しており、対象物を把持するときには、内周面に密着する。
さらに、把持スプリングの内周側は、把持スプリングの中心軸の周囲にらせん状かつ円筒状または円錐状に伸びており、把持スプリングの拡径時には駆動力により、伝達部に含まれる部分から、径方向の外周側に向かって押され、対象物を把持するときには、駆動力により、伝達部に含まれる部分に密着される。
【0012】
以上により、把持装置に関し、精度よく加工することができる対象物の寸法範囲を拡大する、という課題を解決することができ、特定寸法に近似する近似寸法の対象物でも把持して精度よく加工することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】把持装置に関し、周方向に垂直な断面を含む斜視図である(実施例1)。
【
図2】加圧リングおよび斜面リングの斜視図である(実施例1)。
【
図3】加圧リングおよび斜面リングの斜視図である(実施例1)。
【
図4】斜面リングおよび出力体の斜視図である(実施例1)。
【
図6】把持スプリング、出力体および接続部の斜視図である(実施例1)。
【
図8】出力体、接続部およびガイド体の斜視図である(実施例1)。
【
図9】把持装置の要部を示す断面図である(実施例2)。
【
図10】把持装置に関し、周方向に垂直な断面を含む斜視図である(実施例3)。
【
図11】斜面スプリングの斜視図である(実施例3)。
【
図12】斜面スプリング、緩衝スプリング、出力体および接続部の斜視図である(実施例3)。
【
図13】把持スプリングを、軸方向に平行な切断面で切断した断面を含む斜視図である(実施例4)。
【
図14】把持スプリングおよびゴム部の一部の断面と出力体の一部を示す部分拡大図である(実施例5)。
【
図16】第1ピストンが有する特異な形状の穴を、
図15のXVI-XVI断面により示す説明図である(実施例6)。
【
図17】把持装置の要部を示す部分断面図である(実施例7)。
【
図18】出力体の当接部と把持スプリングとの当接状態を、
図17のXVIII―XVIII断面により示す説明図である(実施例7)。
【
図20】把持装置の一端部の断面図である(実施例8)。
【
図21】把持装置の他端部の断面図である(実施例8)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示を実施するための形態を以下の実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0015】
〔実施例1の構成〕
実施例1の把持装置1は、例えば、油圧ポンプのような駆動源(図示せず。)で発生した駆動力により対象物を把持するものであり、例えば、切削加工を行う工作機械に用いられる。
以下、把持装置1の構成を、
図1~
図8を用いて説明する。
【0016】
把持装置1は、以下に詳述する把持スプリング2および伝達部3を備える。
まず、把持スプリング2は、コイルスプリングであって、駆動力により縮径することで、対象物の外側表面に、自身の内周が当接して対象物を把持する。つまり、実施例1の把持装置1は、把持スプリング2により、対象物の外側を把持する外径チャック型である。
【0017】
より具体的には、把持スプリング2として採用されるコイルスプリングは、例えば、断面が矩形の角線材をらせん状に巻いたものであり、断面の矩形の1辺が内周をなすように、つまり、角線材の1つの側面が内周をなすように設けられている。そして、対象物を把持するときには、内周をなす側面が、対象物の外側表面に当接する。
【0018】
次に、伝達部3は、駆動力を把持スプリング2に伝達する部分である。そして、伝達部3において、駆動力は、所定の駆動源から、把持スプリング2の軸方向を指向する力として入力され、把持スプリング2の径方向を指向するように変換されて把持スプリング2に作用する。
より具体的には、伝達部3は、例えば、以下のような2つの加圧リング5A、5B、4つの斜面リング6A1、6A2、6B1、6B2、複数の出力体7、および、複数の接続部8を有する。
【0019】
加圧リング5Aは、円筒状に設けられて把持スプリング2の軸方向一方側で、把持スプリング2と同軸に組み付けられており、所定の駆動源から伝わった駆動力により軸方向他方側に駆動されて斜面リング6A1、6A2を駆動する。また、加圧リング5Bは、円筒状に設けられて把持スプリング2の軸方向他方側で、把持スプリング2と同軸に組み付けられており、所定の駆動源から伝わった駆動力により軸方向一方側に駆動されて斜面リング6B1、6B2を駆動する。
【0020】
ここで、加圧リング5Aの軸方向他端側の端面、および、加圧リング5Bの軸方向一端側の端面は、それぞれ、軸方向に垂直な円環状の平坦面10A、10Bである(
図2、
図3等参照。)。そして、平坦面10A、10Bは、それぞれ、斜面リング6A1、6A2に設けた平坦面11A、斜面リング6B1、6B2に設けた平坦面11Bと面接触している。
【0021】
そして、加圧リング5Aは、平坦面10A、11A間の面接触により、斜面リング6A1、6A2に駆動力を伝達して、斜面リング6A1、6A2を駆動する。同様に、加圧リング5Bは、平坦面10B、11B間の面接触により、斜面リング6B1、6B2に駆動力を伝達して、斜面リング6B1、6B2を駆動する。
なお、加圧リング5Aの軸方向の一方側には鍔5aが設けられている。
【0022】
また、斜面リング6A1、6A2、6B1、6B2は、全て半円環状に設けられており、自身の軸方向の片側に斜面が設けられている。具体的には、斜面リング6A1、6A2、6B1、6B2の片側の部分は、外周面が片側ほど縮径する円錐面であり、内周面が片側ほど拡径する円錐面である。また、自身の周方向に垂直な断面で視ると、片側に鋭角状に突出している。
【0023】
そして、斜面リング6A1、6A2は、把持スプリング2の軸方向一方側で、1つの環を形成するように、かつ、円錐面を有する片側の部分が軸方向他方側に位置するように組み付けられている。また、斜面リング6A1、6A2は、後記するように、加圧リング5Aにより、軸方向の他方側、かつ、径方向の内周側に駆動される。
【0024】
同様に、斜面リング6B1、6B2は、把持スプリング2の軸方向他方側で、1つの環を形成するように、かつ、円錐面を有する片側の部分が軸方向一方側に位置するように組み付けられており、後記するように、加圧リング5Bにより、軸方向の一方側、かつ、径方向の内周側に駆動される。
【0025】
ここで、斜面リング6A1の周方向の両端は、それぞれ平坦面6A1a、6A1bであり、斜面リング6A2の周方向の両端も、それぞれ平坦面6A2a、6A2bである(
図2、
図3等参照。)。
【0026】
そして、斜面リング6A1の周方向の一端側の平坦面6A1aと、斜面リング6A2の周方向の他端側の平坦面6A2bとが周方向に向かい合っている。また、斜面リング6A1の周方向の他端側の平坦面6A1bと、斜面リング6A2の周方向の一端側の平坦面6A2aとが周方向に向かい合っている。
なお、把持スプリング2の中心軸は、斜面リング6A1、6A2により形成される環の中心を通る。
【0027】
また、斜面リング6A1、6A2の軸方向一端側の端面は、軸方向に垂直な円環状の平坦面11Aであり、上記した加圧リング5Aの平坦面10Aと面接触している。
さらに、斜面リング6A1、6A2の外周側の円錐面は、後記する支持リング12に設けた規制面12Aに接触する被規制面13Aである(
図2~
図5等参照。)。
【0028】
同様に、斜面リング6B1、6B2の周方向の両端は、それぞれ平坦面6B1a、6B1bであり、斜面リング6B2の周方向の両端も、それぞれ平坦面6B2a、6B2bである(
図2、
図3等参照。)。
【0029】
そして、斜面リング6B1の周方向の一端側の平坦面6B1aと、斜面リング6B2の周方向の他端側の平坦面6B2bとが周方向に向かい合っている。また、斜面リング6B1の周方向の他端側の平坦面6B1bと、斜面リング6B2の周方向の一端側の平坦面6B2aとが周方向に向かい合っている。
なお、把持スプリング2の中心軸は、斜面リング6B1、6B2により形成される環の中心を通る。
【0030】
また、斜面リング6B1、6B2の軸方向他端側の端面は、軸方向に垂直な円環状の平坦面11Bであり、上記した加圧リング5Bの平坦面10Bと面接触している。
さらに、斜面リング6B1、6B2の外周側の円錐面は、後記する支持リング12に設けた規制面12Bに接触する被規制面13Bである(
図2~
図5等参照。)。
【0031】
ここで、支持リング12とは、斜面リング6A1、6A2、6B1、6B2の外周側への移動を規制するものであって略円筒形状に設けられており、内周側に規制面12A、12Bが設けられている。規制面12Aは、上記のように斜面リング6A1、6A2の外周側の円錐面が接触する面であり、軸方向一方側ほど径大となる円錐面として設けられている。
【0032】
同様に、規制面12Bは、上記のように斜面リング6B1、6B2の外周側の円錐面が接触する面であり、軸方向他方側ほど径大となる円錐面として設けられている。なお、支持リング12は、円筒形の基準リング14の内周に収まっており、支持リング12の外周径は、基準リング14の内周径と一致している(
図1等参照。)。
【0033】
また、斜面リング6A1、6A2の内周側の円錐面は、後記するように出力体7に設けた被印加面16Aに当接する印加面17Aをなす。同様に、斜面リング6B1、6B2の内周側の円錐面は、出力体7に設けた被印加面16Bに当接する印加面17Bをなす(
図2~
図4、
図6等参照。)。
このため、斜面リング6A1、6A2は、印加面17Aから出力体7に駆動力を印加する印加体として機能する。また、斜面リング6B1、6B2は、印加面17Bから出力体7に駆動力を印加する印加体として機能する。
【0034】
複数の出力体7は、それぞれ、把持スプリング2の外周に当接する当接部18を具備し、把持スプリング2の外周側で周方向に離れて配置され、駆動力を径方向に受けることで、内周側に駆動されて把持スプリング2を縮径させる。また、それぞれの出力体7は、印加面17Aから駆動力を印加される被印加面16A、印加面17Bから駆動力を印加される被印加面16Bを有する。
ここで、当接部18は、出力体7の内、内周側の部分であり、次の筒面18aを有する。すなわち、筒面18aは、軸方向に垂直な断面において内周側に凸の曲線孤である。そして、筒面18aが把持スプリング2の外周に当接する。
【0035】
また、被印加面16A、16Bは、それぞれ、出力体7の外周側で軸方向の一方側、他方側の両側2か所に設けられ、一方側の被印加面16Aは、軸方向他方側ほど外周側にせり出すように傾斜しており、他方側の被印加面16Bは、軸方向一方側ほど外周側にせり出すように傾斜している。また、被印加面16A、16Bは、軸方向に垂直な断面が、軸方向のどの位置においても半円形である。そして、このような被印加面16A、16Bが、それぞれ印加面17A、17Bに線状に当接している。
【0036】
また、全ての出力体7は、略円筒状に設けられたガイド体19にガイドされている(
図7、
図8等参照)。具体的には、ガイド体19には、それぞれの出力体7が通るガイド孔19aが設けられており、ガイド孔19aは、ガイド体19の中心軸の周囲に等角度間隔で設けられている。
【0037】
また、出力体7は、被印加面16A、16Bがガイド体19の外周側に突き出るように組み付けられ、それぞれのガイド孔19aは、出力体7が径方向に進退することができるように設けられている。また、把持スプリング2は、ガイド体19と同軸に、ガイド体19の内周に収容されている。そして、駆動力が被印加面16A、16Bに印加されると、当接部18がガイド孔19aからガイド体19の内周に突き出て把持スプリング2を縮径させる。
【0038】
複数の接続部8は、それぞれ周方向に隣り合う出力体7を接続し、隣り合う出力体7が内周側に変位することにより撓むとともに、撓むことにより蓄えた弾性力によって、隣り合う出力体7を外周側に付勢する。また、複数の接続部8は、出力体7同士を軸方向一方側に偏った位置で接続するもの、出力体7同士を軸方向他方側に偏った位置で接続するものが、交互に現れる。
【0039】
つまり、出力体7a、7b、7cが周方向に並んでいるとすると(
図6等参照。)、例えば、出力体7a、7b間は、軸方向一方側に偏った位置で接続され、出力体7b、7c間は、軸方向他方側に偏った位置で接続されている。
なお、接続部8は、ガイド体19の外周側で出力体7同士を接続する。つまり、接続部8は、ガイド体19の外周側に配置されるように設けられている。
【0040】
〔実施例1の動作〕
実施例1の把持装置1の動作を説明する。
加圧リング5A、5Bそれぞれに軸方向他方側、一方側に向かって駆動力が加えられると、加圧リング5A、5Bが、それぞれ軸方向他方側、一方側に駆動される。これにより、それぞれ平坦面10A、11A間、平坦面10B、11B間で駆動力が伝達され、これに伴い、斜面リング6A1、6A2が軸方向他方側、かつ、内周側に駆動され、斜面リング6B1、6B2が軸方向一方側、かつ、内周側に駆動される。
【0041】
また、加圧リング5Aと斜面リング6A1、6A2との間、および、加圧リング5Bと斜面リング6B1、6B2との間の駆動力伝達に伴い、印加面17A、17Bは、それぞれ軸方向他方側、一方側、かつ、内周側に移動する。また、平坦面11Aは、平坦面10Aに摺接しながら内周側に縮径し、平坦面11Bは、平坦面10Bに摺接しながら内周側に縮径する。
【0042】
さらに、斜面リング6A1の軸方向の他方端と斜面リング6B1の軸方向の一方端との距離、および、斜面リング6A2の軸方向の他方端と斜面リング6B2の軸方向の一方端との距離が狭くなる。また、平坦面6A1a、6A2b間の隙間、平坦面6A1b、6A2a間の隙間、平坦面6B1a、6B2b間の隙間、および、平坦面6B1b、6B2a間の隙間が狭くなる。
【0043】
なお、平坦面6A1a、6A2b間の隙間、平坦面6A1b、6A2a間の隙間は、平坦面11Aの縮径時の径、つまり、斜面リング6A1、6A2により形成される環の縮径時の径に応じて設定されている。
同様に、平坦面6B1a、6B2b間の隙間、平坦面6B1b、6B2a間の隙間は、平坦面11Bの縮径時の径、つまり、斜面リング6B1、6B2により形成される環の縮径時の径に応じて設定されている。
【0044】
また、斜面リング6A1、6A2、6B1、6B2が駆動される間、被規制面13Aは規制面12Aに摺接しながら軸方向他方側、かつ、内周側に移動し、被規制面13Bは規制面12Bに摺接しながら軸方向一方側、かつ、内周側に移動する。
【0045】
さらに、斜面リング6A1、6A2、6B1、6B2が内周側に駆動されると、印加面17A、被印加面16A間、および、印加面17B、被印加面16B間で駆動力が伝達される。これに伴い、全ての出力体7が内周側に駆動され、把持スプリング2が内周側に縮径して対象物を把持する。
【0046】
なお、斜面リング6A1、6A2、6B1、6B2と出力体7との間の駆動力伝達に伴い、被印加面16A、16Bは、印加面17A、17Bに摺接しつつ内周側に移動する。また、接続部8が撓み、出力体7を外周側に付勢するようになる。
そして、このような状態で、把持装置1全体が、例えば、図示しない電動モータにより回転駆動され、対象物が、例えば切削加工される。
【0047】
その後、切削加工が終了して加圧リング5A、5Bへの駆動力の入力が停止されると、接続部8の付勢力により、出力体7が外周側に移動し、把持スプリング2が外周側に拡径して対象物の把持を解除する。また、斜面リング6A1、6A2は、出力体7に付勢されて外周側、かつ、軸方向一方側へ移動し、斜面リング6B1、6B2は、出力体7に付勢されて外周側、かつ、軸方向他方側へ移動する。
【0048】
これにより、斜面リング6A1の軸方向の他方端と斜面リング6B1の軸方向の一方端との距離、および、斜面リング6A2の軸方向の他方端と斜面リング6B2の軸方向の一方端との距離が広くなる。また、平坦面6A1a、6A2b間の隙間、平坦面6A1b、6A2a間の隙間、平坦面6B1a、6B2b間の隙間、および、平坦面6B1b、6B2a間の隙間が広くなる。
【0049】
さらに、平坦面11A、11Bは拡径し、加圧リング5Aは、斜面リング6A1、6A2により軸方向一方側に付勢されて移動し、加圧リング5Bは、斜面リング6B1、6B2により軸方向他方側に付勢されて移動する。
【0050】
〔実施例1の効果〕
実施例1の把持装置1は、所定の駆動源で発生した駆動力により対象物を把持するものであり、以下の把持スプリング2を備える。すなわち、把持スプリング2は、コイルスプリングであって、駆動力により縮径することで、対象物の外側表面に、自身の内周が当接して対象物を把持する。
これにより、把持部として、上記のような把持スプリング2を採用することで、1つの把持部により把持して精度よく加工することができる対象物の寸法範囲を拡大する、という課題を解決して、特定寸法に近似する近似寸法の対象物でも把持して精度よく加工することができる。
【0051】
すなわち、従来のスリ割り構造の把持部は、対象物の外周の複数個所に離散して爪を接触させて対象物を把持する。このため、例えば、1つの把持部により、特定の外周径を有する対象物を把持して精度よく加工することができても、同じ把持部により、外周径が異なる対象物を把持して加工した場合、安定して把持することができず、加工精度が低下したり、加工不能になったりする。
【0052】
これに対し、把持装置1によれば、把持スプリング2は、コイルスプリングなので、対象物の外周において、従来のスリ割り構造の把持部よりも広い領域に自身の内周を弾性変形させて接触させることができる。これにより、把持スプリング2によれば、スリ割り構造の把持部よりも安定して対象物を把持することができ、さらに、特定寸法の対象物以外に、近似寸法の対象物でも安定して把持することができる。このため、把持部として、上記のような把持スプリング2を採用することで、1つの把持部により把持して精度よく加工することができる対象物の寸法範囲を拡大する、という課題を解決することができる。つまり、特定寸法に近似する近似寸法の対象物でも把持して精度よく加工することができる。
【0053】
また、例えば、把持装置1により円管状の対象物を保持して内周径を拡径する切削加工を行う場合に、仕上がり時の加工精度を高めることができる。
すなわち、従来のスリ割り構造の把持部により対象物を把持して上記と同様の切削加工を行う場合、各爪が対象物の外周面に周方向に離れて複数ヶ所で接触しており、爪が接触している部位の周辺において、対象物は、部分的に偏って弾性変形しており、内周側に突き出ている。このため、このような状態で切削加工した後に、把持部による把持を解除すると、加工前に内周側に突き出ていた部分が、逆に外周側に窪んでしまい、把持解除前に比べて加工精度が下がる。
【0054】
一方、把持スプリング2はコイルスプリングであり、内周径を縮径することで、従来のスリ割り構造の把持部よりも広い領域で対象物の外周面に接触する。これにより、対象物は、従来の把持部で把持された場合よりも、全周において、より均一に保持された状態で切削加工される。このため、把持解除後の加工精度の低下が抑えられるので、仕上がり時の加工精度を高めることができる。
【0055】
また、実施例1の把持装置1は、駆動力を把持スプリング2に伝達する伝達部3を備える。そして、駆動力は、所定の駆動源から伝達部3に、把持スプリング2の軸方向を指向する力として入力され、伝達部3で、把持スプリング2の径方向を指向するように変換されて把持スプリング2に作用する。また、伝達部3は、次の複数の出力体7、および、複数の接続部8を有する。
【0056】
まず、複数の出力体7は、それぞれ、把持スプリング2の外周に当接する当接部18を具備し、把持スプリング2の外周側で把持スプリング2の周方向に離れて配置され、駆動力を受けることで、内周側に駆動されて把持スプリング2を縮径させる。次に、複数の接続部8は、それぞれ周方向に隣り合う出力体7を接続し、隣り合う出力体7が内周側に変位することにより撓むとともに、撓むことにより蓄えた弾性力によって、隣り合う出力体7を外周側に付勢する。
【0057】
これにより、出力体7に加えられる駆動力が低減すると、接続部8の弾性力により、出力体7は、外周側に移動することができる。このため、駆動力を低減させることで、出力体7を外周側に移動させることができるとともに、把持スプリング2による対象物の把持を解除することができる。
【0058】
さらに、実施例1の把持装置1によれば、当接部18は、次の筒面18aを有する。すなわち、筒面18aは、軸方向に垂直な断面において内周側に凸の曲線孤である。そして、筒面18aが把持スプリング2の外周に当接する。
これにより、高い精度を必要とする把持スプリング2や当接部18の劣化を抑制することができるので、把持装置1の寿命を延ばすことができる。
【0059】
〔実施例2の構成〕
実施例2の把持装置1の構成を、実施例1の把持装置1と異なる点を中心に説明する。
実施例2の把持装置1によれば、被印加面16A、16Bおよび印加面17A、17Bは、両方とも平面である(
図9等参照。)。
より具体的には、それぞれの出力体7において、被印加面16Aは、軸方向他方側ほど外周側にせり出すように傾斜している平面であり、被印加面16Bは、軸方向一方側ほど外周側にせり出すように傾斜している平面である。
【0060】
また、斜面リング6A1、6A2の軸方向他方側の内周側の円錐面には、出力体7が配置される角度の方位に溝が設けられており、溝の底面が印加面17Aである。すなわち、斜面リング6A1、6A2の溝の底面は、軸方向他方側ほど外周側に後退するように傾斜している平面であり、底面の傾斜は、被印加面16Aの傾斜と同じである。
【0061】
同様に、斜面リング6B1、6B2の軸方向一方側の内周側の円錐面にも、出力体7が配置される角度の方位に溝が設けられており、溝の底面が印加面17Bである。つまり、斜面リング6B1、6B2の溝の底面は、軸方向一方側ほど外周側に後退するように傾斜している平面であり、底面の傾斜は、被印加面16Bの傾斜と同じである。
【0062】
そして、斜面リング6A1、6A2が軸方向他方側に駆動されると、被印加面16Aは、印加面17Aに摺接しつつ内周側に移動しながら、駆動力の印加を受ける。同様に、斜面リング6B1、6B2が軸方向一方側に駆動されると、被印加面16Bは、印加面17Bに摺接しつつ内周側に移動しながら、駆動力の印加を受ける。
【0063】
〔実施例2の効果〕
実施例2の把持装置1によれば、被印加面16A、印加面17Aは、両方とも平面であり、互いに面接触している。そして、斜面リング6A1、6A2が軸方向他方側、かつ、内周側に駆動されると、被印加面16Aは、印加面17Aに摺接しつつ内周側に移動しながら、駆動力の印加を受ける。
【0064】
同様に、被印加面16B、印加面17Bは、両方とも平面であり、互いに面接触している。そして、斜面リング6B1、6B2が軸方向一方側、かつ、内周側に駆動されると、被印加面16Bは、印加面17Bに摺接しつつ内周側に移動しながら、駆動力の印加を受ける。
これにより、伝達部3において、駆動力の伝達に関わる部品の劣化を抑制することができるので、把持装置1の寿命を延ばすことができる。
【0065】
〔実施例3〕
実施例3の把持装置1の構成を、実施例1の把持装置1と異なる点を中心に説明する(
図10~
図12参照。)。
実施例3の把持装置1によれば、伝達部3は、次のような斜面スプリング21を有し、斜面スプリング21の外周面に被印加面16A、16Bが設けられ、それぞれ印加面17A、17Bから駆動力を受ける。また、出力体7には被印加面16A、16Bが設けられていない。
【0066】
斜面スプリング21は、出力体7の外周側で把持スプリング2と同軸に組み入れられるコイルスプリングであって、複数の環の外周により構成される外周面に、被印加面16A、16Bが設けられている。そして、斜面スプリング21は、被印加面16A、16Bに駆動力を受けることにより、内周側に駆動されて縮径する。
【0067】
ここで、斜面スプリング21の外周面は、軸方向の中央付近が外周側に膨らむように設けられており、軸方向一方側、他方側の部分は、それぞれの端に向かってテーパ状に縮径している。そして、外周面の内、軸方向一方側に向かってテーパ状に縮径している部分が、被印加面16Aであり、軸方向他方側に向かってテーパ状に縮径している部分が、被印加面16Bである。
【0068】
さらに、出力体7は、斜面スプリング21の内周側に配置され、把持スプリング2の周方向に離れて配置されてガイド体19によりガイドされている。そして、出力体7は、斜面スプリング21の縮径に応じて、内周側に駆動されて把持スプリング2を縮径させる。
これにより、被印加面16A、16Bを設ける加工コストに関し、出力体7に設ける場合よりも安価にすることができる。
【0069】
また、斜面スプリング21と出力体7との間には、次の緩衝スプリング22が組み入れられている。すなわち、緩衝スプリング22は、斜面スプリング21と出力体7との間に挟まって把持スプリング2と同軸に組み入れられるコイルスプリングであって、斜面スプリング21と出力体7との接触を防止する。
【0070】
また、緩衝スプリング22は、斜面スプリング21の縮径に伴い、自身も縮径して複数の出力体7を内周側に駆動する。
これにより、斜面スプリング21や出力体7の劣化を抑制することができる。また、緩衝スプリング22には、安価なコイルスプリングを採用することができるので、緩衝スプリング22を更新することで把持装置1の寿命を安価に伸ばすことができる。
【0071】
〔実施例4〕
実施例4の把持装置1によれば、把持スプリング2は、次の内周側スプリング2A、および、外周側スプリング2Bを有する(
図13参照。)。
内周側スプリング2Aは、コイルスプリングであって、縮径することで、対象物の外側表面に自身の内周が当接するものである。また、外周側スプリング2Bは、内周側スプリング2Aと同軸に組み付けられたコイルスプリングであって、駆動力により縮径することで、内周側スプリング2Aの外周に自身の内周が当接するものである。そして、内周側スプリング2Aと外周側スプリング2Bとは、巻き線の方向が互いに逆である。
【0072】
まず、把持スプリング2を、内周側、外周側スプリング2A、2Bの内外2重構造にすることで、把持スプリング2の縮径幅を拡大することができる。また、内周側、外周側スプリング2A、2Bの巻き線の方向を互いに逆にすることで、内周側、外周側スプリング2A、2B相互の引っ掛かりを防止することができる。
【0073】
〔実施例5〕
実施例5の把持装置1は、次のゴム部25を備える(
図14参照。)。すなわち、ゴム部25は、把持スプリング2のコイル同士の軸方向の隙間に配置され、把持スプリング2の縮径により内周側に押し出されて対象物の外側表面に当接するものであり、例えば、次のように設けられている。すなわち、ゴム部25は、例えば、把持スプリング2の内周の内、対象物の外側表面に当接する部位の近傍が露出するように、把持スプリング2のコイル同士の軸方向の隙間を埋めている。
【0074】
これにより、把持スプリング2が縮径すると、ゴム部25が内周側に押し出されて対象物の外側表面に接触するので、対象物に対する接触面積を増やすことができる。しかも、ゴム部25の摩擦係数は、把持スプリング2のコイルの摩擦係数よりも大きい。このため、対象物を、より一層、安定して把持することができる。
【0075】
〔実施例6の構成〕
実施例6の把持装置1は、次のような把持スプリング2を備える。
すなわち、実施例6の把持スプリング2は、駆動力により拡径することで、対象物Xが有する空洞Xcの内周面Xcsに、自身の外周が当接して対象物Xを把持する(
図15参照。)。つまり、実施例6の把持装置1は、実施例1の把持装置1とは異なり、把持スプリング2により、対象物Xの内側を把持する内径チャック型である。
【0076】
ここで、把持スプリング2の軸方向の一方側、他方側それぞれの部分は、次のような第1、第2テーパ部2a、2bである。
すなわち、第1テーパ部2aの内周は、軸方向の一端に近いほど内周側にせり出すテーパ状であり、より具体的には、軸方向の一端に近いほど縮径する円錐状である。なお、第1テーパ部2aの外周は、円筒状である。
【0077】
また、第1テーパ部2aの内周は、次のような第1テーパ面27aに当接している。すなわち、第1テーパ面27aは、軸方向の一端に近いほど内周側に後退するテーパ状に設けられた面であり、より具体的には、第1テーパ部2aの内周の円錐と一致する円錐状の面である。なお、第1テーパ面27aは、後記する基準体27に設けられている。
【0078】
同様に、第2テーパ部2bの内周は、軸方向の他端に近いほど内周側にせり出すテーパ状であり、より具体的には、軸方向の他端に近いほど縮径する円錐状である。なお、第2テーパ部2bの外周は、円筒状である。
【0079】
また、第2テーパ部2bの内周は、次のような第2テーパ面27bに当接している。すなわち、第2テーパ面27bは、軸方向の他端に近いほど内周側に後退するテーパ状に設けられた面であり、より具体的には、第2テーパ部2bの内周の円錐と一致する円錐状の面である。なお、第2テーパ面27bも、後記する基準体27に設けられている。
【0080】
さらに、第1、第2テーパ部2a、2bの間には、コイル状に巻かれたゴム環が配置され、このゴム環は、次の第1、第2加圧環2ap、2bpにより外周側に加圧されてゴム部25として機能する(以下、ゴム環をゴム環25と呼ぶことがある。)。
すなわち、第1加圧環2apは、第1テーパ部2aから軸方向他方側にコイル状に連続する部分であり、自身の外周の軸方向他方寄りの部分が他方側ほど内周側に後退する円錐状に設けられ、この円錐状の部分がゴム環25を外周側かつ軸方向他方側に押圧する。
【0081】
同様に、第2加圧環2bpは、第2テーパ部2bから軸方向一方側にコイル状に連続する部分であり、自身の外周の軸方向一方寄りの部分が一方側ほど内周側に後退する円錐状に設けられ、この円錐状の部分がゴム環25を外周側かつ軸方向一方側に押圧する。
このように、ゴム環25は、第1加圧環2apにより外周側かつ軸方向他方側に押圧されて、かつ、第2加圧環2bpにより外周側かつ軸方向一方側に押圧されて、ゴム部25として機能する。
【0082】
また、実施例6の伝達部3は、次の第1、第2クランプ28A、28B、および、片側遅延部29を有する。
まず、第1、第2クランプ28A、28Bは、それぞれ、軸方向の一方側、他方側から、把持スプリング2に駆動力を印加して把持スプリング2を軸方向に挟み込むことにより、把持スプリング2を外周側に拡径させるものである。
【0083】
すなわち、第1、第2クランプ28A、28Bが、それぞれ、把持スプリング2に、軸方向の一方側、他方側から駆動力を印加することで、第1、第2テーパ部2a、2bがそれぞれ第1、第2テーパ面27a、27bに摺接しながら外周側に拡径する。これにより、第1、第2テーパ部2a、2bの外周が対象物Xの内周面Xcsに当接して対象物Xが把持される。
次に、片側遅延部29は、第1、第2クランプ28A、28Bがそれぞれ軸方向の一方側、他方側から駆動力を把持スプリング2に印加し始める時期を異ならせる。
【0084】
以下、第1、第2クランプ28A、28Bおよび片側遅延部29に関し、詳述する。
まず、第1クランプ28Aは、把持スプリング2の軸方向の一方側に配置され、後記するように第1ピストン31の軸方向他方側への駆動に応じて、駆動されて把持スプリング2の軸方向の一方側、つまり、第1テーパ部2aに駆動力を印加するものである。
【0085】
また、第1クランプ28Aは、有底円筒状の本体部28Am、および、第1テーパ部2aの軸方向一端に突き当たる第1突当り部28Aeを有する。そして、第1クランプ28Aは、本体部28Amの開口側、底側がそれぞれ軸方向一方側、他方側に位置するように、かつ、全体として把持装置1の軸方向を指向するように組み付けられている。
【0086】
まず、本体部28Amは、以下に説明するアクションボルト34の一部、および、アクションばね35等を内周に収容する。
アクションボルト34は、後記するジョイント36にネジ締結され、第1ピストン31の軸方向他方側への駆動により、軸方向他方側に駆動されてアクションばね35を圧縮するものである。
【0087】
また、アクションボルト34は、本体部28Amと同軸に組み付けられ、頭部34hが本体部28Amの開口側に位置し、本体部28Amの底部には、アクションボルト34の軸部34sの内、ネジが設けられていない部分が通る孔が設けられている。
【0088】
アクションばね35は、例えば、コイルスプリングであり、本体部28Amと同軸にセットされ、アクションボルト34の駆動に応じて第1クランプ28A全体を軸方向他方側へ付勢して駆動する。ここで、アクションばね35は、頭部34hの軸方向他端側に配置されるワッシャー37と、本体部28Amの底部との間にセットされている。また、軸部34sの外周とアクションばね35の内周との間にはカラー38が挟まっている。
【0089】
また、アクションばね35は、自身の軸方向長とカラー38の軸方向長との差分が所定の長さを形成するようにセットされている。
以下の説明では、上記の差分により形成される円環状のスペース、つまり、本体部28Amの内周において、軸部34sの内、カラー38により覆われていない部分の外周とアクションばね35の内周とにより形成されるスペースをアクションスペースSaと呼ぶことがある。
【0090】
また、本体部28Amの軸方向の一端から、次のような基準筒28Atが軸方向一方側に突き出ている。すなわち、基準筒28Atは、本体部28Amと同軸の円筒であり、把持装置1を対象物Xに対して径方向に位置決めする。より具体的には対象物Xの空洞Xcの底壁には、空洞Xcと同軸、かつ、基準筒28Atと略同一径の円筒形の窪みXcdが設けられており、窪みXcdに基準筒28Atが嵌ることで、把持装置1は、対象物Xに対して径方向に位置決めされる。なお、基準筒28Atの内周には、アクションボルト34の頭部34hが収まっている。
【0091】
次に、第1突当り部28Aeは、本体部28Amの外周から、例えば、本体部28Amの外周を覆うように、傘状に軸方向他方側に伸びており、自身の軸方向他端が第1テーパ部2aの一端に当接する。なお、第1突当り部28Aeには、後記する基準棒27rが通る孔28Ahが設けられている。
【0092】
以上の構成により、第1ピストン31およびアクションボルト34が軸方向他方側に駆動されると、アクションスペースSaに相当する軸方向長さだけアクションばね35が圧縮される。これにより、アクションばね35は、第1クランプ28Aを軸方向他方側に駆動し、第1突当り部28Aeが第1テーパ部2aの軸方向一端に当接して第1テーパ部2aを軸方向に圧縮する。同時に、第1テーパ部2aは、第1テーパ面27a上を軸方向他方側、かつ、外周側に摺動しつつ移動して拡径する。
【0093】
次に、第2クランプ28Bは、把持スプリング2の軸方向の他方側に配置され、後記するように第2ピストン40に一体化されており、第2ピストン40とともに軸方向一方側へ駆動されて把持スプリング2の軸方向他方側、つまり、第2テーパ部2bに駆動力を印加するものである。
【0094】
また、第2クランプ28Bは、第2テーパ部2bの軸方向他端に当接する第2突当り部28Be、および、第2ピストン40に一体化するためのフランジ部28Bfを有する。そして、第2クランプ28Bは、第2突当り部28Be、フランジ部28Bfがそれぞれ軸方向一方側、他方側に位置するように、また、全体として、第1クランプ28Aと同軸、かつ、把持装置1の軸方向を指向するように組み付けられている。
【0095】
第2突当り部28Beは、フランジ部28Bfから、軸方向一方側に円筒状に伸びており、自身の軸方向一端が第2テーパ部2bの他端に当接する。また、第2突当り部28Beの一端は、第2テーパ部2bの軸方向他端に確実に当接することができるように、外周側に膨らんでいる。
【0096】
なお、第2クランプ28Bは、締結ボルト42Aによって第2ピストン40とネジ締結されて一体化しており、フランジ部28Bfには、締結ボルト42Aの頭部を収容するとともに軸部を通す段付きの穴が設けられている。また、第2突当り部28Beの内、軸方向他方側の部分の内周とフランジ部28Bfの内周とは、同一の円筒面を構成しており、この内周には、後記するシリンダ部材44の先端部44Tが通っている。
【0097】
以上の構成により、第2ピストン40が軸方向一方側に駆動されると、第2クランプ28Bも軸方向一方側に駆動され、第2突当り部28Beが第2テーパ部2bの軸方向他端に当接して第2テーパ部2bを軸方向に圧縮する。同時に、第2テーパ部2bは、第2テーパ面27b上を軸方向一方側、かつ、外周側に摺動しつつ移動して拡径する。
【0098】
片側遅延部29は、次の第1、第2ピストン31、40およびシリンダ部材44等を有する。
第1ピストン31は、伝達された駆動力によりジョイント36、アクションボルト34およびアクションばね35を経由して第1クランプ28Aを駆動するものである。
【0099】
ここで、第1ピストン31は、締結ボルト42Bにより、チャッキングロッド46とネジ締結されている。そして、所定の駆動源から伝わった駆動力により、チャッキングロッド46を軸方向他方側に駆動することで、第1ピストン31を軸方向他方側に駆動し、第1ピストン31の駆動により第1クランプ28Aが駆動される。なお、チャッキングロッド46は、円柱状の棒体である。
【0100】
また、第1ピストン31は、円筒状の本体部31m、および、本体部31mの外周側に円板状に広がるフランジ部31pを有し、第1、第2クランプ28A、28Bと同軸に組み付けられている。
まず、本体部31mは、主に、ジョイント36との締結に利用される軸方向一方側の部分31maと、主に、チャッキングロッド46とのネジ締結に利用される軸方向他方側の部分31mbとを有する。
【0101】
つまり、部分31maには、ジョイント36の係合部36kが収まる空間31mSが設けられている。また、空間31mSの軸方向他端には後記する孔31mcが開口している。さらに、空間31mSの軸方向一端には、締結ボルト42Bの頭部および係合部36kを空間31mSに導入することができる特異形状の穴31mhが開口している。
【0102】
また、部分31mbには、締結ボルト42Bの頭部、および、軸部の内、ネジが設けられていない部分を収容する段付きの円筒状の孔31mcが貫通している。さらに、部分31mbの軸方向他端には、チャッキングロッド46を収容する空間31mRが開口しており、孔31mcの軸方向他端は空間31mRに開口している。そして、孔31mcを軸方向他方側に突き抜けた締結ボルト42Bの軸部がチャッキングロッド46にネジ締結している。また、孔31mcの軸方向一端は、空間31mSに開口している。
【0103】
ここで、ジョイント36は、上記の係合部36k、アクションボルト34の軸部がネジ締結する本体部36m、および、係合部36kと本体部36mとを連結する連結部36Lを有する、また、係合部36k、本体部36mおよび連結部36Lは同軸をなし、ジョイント36は、本体部36m、係合部36kがそれぞれ軸方向一方側、他方側に位置するように組み付けられている。
【0104】
また、係合部36kは、例えば、2枚の同一形状の矩形状の板がそれぞれの面積を短手方向に垂直に2等分する線分で互いに垂直に交差するような形状であり、軸方向に垂直な断面が+に視えるものである。なお、本体部36mは第1ピストン31の部分31maよりも径小の円筒であり、アクションボルト34の軸部がネジ締結するネジ孔が同軸に設けられている。また、連結部36Lは、本体部36mよりも径小であって、締結ボルト42Bの頭部と略同一の径を有する円筒である。また、連結部36Lの軸方向長さは、穴31mhの軸方向長さと略同一である。
【0105】
そして、穴31mhは、締結ボルト42Bの頭部と略同一の径を有する円穴31mhc、および、例えば、円穴31mhcの周囲の90°ごとに外周側に径方向に突き出る幅広のスリット31mhsを有する(
図16参照。)。このような穴31mhの形状により、締結ボルト42Bの頭部は、円穴31mhcの部分を通って空間31mSに導入することができ、さらに、空間31mSを通って孔31mcの軸方向一端に収まることができる。
【0106】
また、係合部36kは、円穴31mhcおよびスリット31mhsを通って空間31mSに導入することができる。さらに、ジョイント36は、係合部36kを空間31mSに導入した後、例えば、45°だけ中心軸の周囲に回転することで、第1ピストン31と係合することができる。
【0107】
なお、スリット31mhsの周方向の幅Aと、周方向に隣り合う2つのスリット31mhsの間の周方向の距離の内、円穴31mhcの位置で計ったときの距離Bとは、強度上、次の条件を満たすのが好ましい。すなわち、幅Aと距離Bとが等しい、との条件を満たすのが好ましい。
【0108】
フランジ部31pは、後記する第2ピストン40の内周に対して軸方向へ摺動自在に組み付けられている。また、フランジ部31pの外周縁には、Oリング47が収まっており、Oリング47により、フランジ部31pの外周と第2ピストン40の内周との間の液密性が確保されている。
【0109】
第2ピストン40は、後記する加圧室48の形状を利用することにより、第1ピストン31に遅れて駆動され、第2クランプ28Bを駆動するものであり、第1ピストン31と同軸に組み付けられている。ここで、第2ピストン40は、フランジ部31pの軸方向の厚さよりも大きい軸方向の厚さを有する円環体として設けられており、上記したように締結ボルト42Aにより、第2クランプ28Bとネジ締結している。
【0110】
ここで、加圧室48は、フランジ部31p、および、第2ピストン40をシリンダ部材44の円筒状の内周、つまり、シリンダ44Cに収容するとともに、シリンダ44Cの軸方向他方側をカバー49により封止することで形成されている。なお、シリンダ部材44とカバー49とは、締結ボルト42Cにより締結されている。
【0111】
また、フランジ部31p、および、第2ピストン40は、次のような状態を実現できるようにシリンダ44Cに収容されている。すなわち、フランジ部31pは、第2ピストン40の内周の内、軸方向一端寄りの範囲に摺接するように、また、第2ピストン40はシリンダ44Cの周壁に対して軸方向へ摺動自在になるように、収容されている。
【0112】
また、第2ピストン40の外周縁には、フランジ部31pと同様に、Oリング47が収まっており、Oリング47により、第2ピストン40の外周とシリンダ44Cの周壁との間の液密性が確保されている。そして、フランジ部31pおよび第2ピストン40とカバー49とにより挟まれた領域に、例えば、オイルを充填することで加圧室48が形成される。
【0113】
なお、以下の説明では、加圧室48の内、フランジ部31pとカバー49とが軸方向に向かい合って形成される内周側の領域を内周域48iと呼ぶことがある。また、第2ピストン40とカバー49とが軸方向に向かい合って形成される外周側の領域を外周域48oと呼ぶことがある。
【0114】
これにより、チャッチングロッド46を軸方向他方側に駆動すると、フランジ部31pが軸方向他方側へ移動し、第1クランプ28Aが軸方向他方側へ移動して第1テーパ部2aの軸方向一端に当接する。また、内周域48iのオイルが外周域48oへ流入するので、フランジ部31pの軸方向他方側への移動に遅れて第2ピストン40が軸方向一方側へ移動する。このため、第1クランプ28Aの移動開始に遅れて、第2クランプ28Bが軸方向一方側へ移動を開始し、さらに、第1クランプ28Aの第1テーパ部2aへの当接に遅れて、第2クランプ28Bが第2テーパ部2bの軸方向他端に当接する。
【0115】
シリンダ部材44は、上記のように円筒状のシリンダ44Cを有して加圧室48を形成するものであり、次の本体部44M、および、先端部44Tを有する。また、シリンダ部材44は、本体部44M、先端部44Tがそれぞれ軸方向他方側、一方側に位置するように、かつ、第1、第2ピストン31、40と同軸となるように組み付けられている。
【0116】
まず、本体部44Mは、円筒状のシリンダ44Cを有し、シリンダ44Cにフランジ部31pおよび第2ピストン40を収容するとともにシリンダ44Cの軸方向他方側をカバー49により封止することで、加圧室48が形成されている。また、先端部44Tは、本体部44Mと同軸であって本体部44Mよりも径小である。このため、シリンダ44Cの軸方向一端は、シリンダ44Cの周壁と垂直な底壁44Cbにより画され、締結ボルト42Aの軸部は、底壁44Cbを貫通して第2ピストン40に螺合している。
【0117】
また、締結ボルト42Aの頭部は、底壁44Cbの軸方向一方側で、第2クランプ28Bのフランジ部28Bfに設けた穴に収容されて締結力を及ぼしている。
なお、締結ボルト42Aの軸部の内、第2ピストン40とフランジ部28Bfとの間に存在する部分はカラー51により外周側を覆われており、カラー51は底壁44Cbを貫通してシリンダ44C内にも存在する。このため、カラー51と底壁44Cbとの間にも、液密性を確保すべくOリング47が装着されている。
【0118】
次に、先端部44Tは、シリンダ44Cと同軸かつシリンダ44Cよりも径小の円筒状の空間を有し、この空間に、第1ピストン31の本体部31mの部分31ma、ジョイント36、および、第1クランプ28Aの本体部28Amの一部が収容されている。
【0119】
また、先端部44Tは、内外周ともに軸方向一方側が段状に縮径しており、大径の軸方向他方側の部分44Tbは、外周側に第2クランプ28Bが装着され、第2クランプ28Bの軸方向への移動をガイドする。また、小径の軸方向一方側の部分44Taは、内周に第1クランプ28Aの本体部28Amを収容しており、第1クランプ28Aの軸方向への移動をガイドする。
【0120】
また、軸方向一方側の部分44Taの外周側には、第1、第2テーパ面27a、27bを有する円筒状の基準体27が固定されている。また、基準体27から軸方向一方側に基準棒27rが軸方向に伸びている。そして、基準棒27rは、その先端が対象物Xの空洞Xcの底面に当接することで、把持装置1を対象物Xに対して軸方向に位置決めする。
【0121】
また、軸方向他方側の部分44Tbの内周は、第1ピストン31の本体部31mの部分31maの外周よりも径大であり、部分44Tbの内周と部分31maの外周との径方向の隙間には、カラー52が装着されている。さらに、カラー52の軸方向一端には、復元バネ53の座が設けられ、復元バネ53は、カラー52と第1クランプ28Aの本体部28Amとの間にセットされている。
【0122】
なお、カラー52の内、復元バネ53の座を有する部分52a以外の円筒状の部分52bの軸方向の長さは、第1ピストン31の部分31maの軸方向の長さよりも長く、カラー52の軸方向他端は、フランジ部31pに当接している。また、部分52aと部分31maとの間には軸方向の隙間が形成されている。また、カラー52の外周とシリンダ部材44の底壁44Cbの内周との間にもOリング47が装着され、液密性が確保されている。
【0123】
なお、シリンダ部材44の軸方向他方側は、カバー49とともに、プラグ55の中空に収容され、第1ピストン31の部分31mbは、プラグ55の底壁を貫通している。また、プラグ55の雄ネジには、袋ナット56の雌ネジが螺合しており、シリンダ部材44の本体部44Mが袋ナット56の天壁を貫通して袋ナット56の軸方向一方側に突き出ている。そして、本体部44Mの軸方向他端に設けた係止部44Mkを、プラグ55の底壁と袋ナット56の天壁とで挟み込んでいる。
【0124】
〔実施例6の動作〕
実施例6の把持装置1の動作を説明する。
まず、把持装置1の一端側の部分が対象物Xの空洞Xcに挿入され、基準筒28Atが空洞Xcの窪みXcdに嵌る。これにより、把持装置1が対象物Xに対して径方向に位置決めされる。また、基準棒27rの先端が空洞Xcの底壁に突き当たる。これにより、把持装置1が対象物Xに対して軸方向に位置決めされる。
【0125】
次に、チャッキングロッド46に、軸方向他方側に向かって駆動力が加えられると、第1ピストン31、ジョイント36およびアクションボルト34が一体となって軸方向他方側に駆動される。これにより、第1クランプ28Aでは、アクションスペースSaに相当する軸方向長さだけアクションばね35が圧縮される。
【0126】
このため、アクションばね35は、第1クランプ28Aを軸方向他方側に駆動し、第1突当り部28Aeが第1テーパ部2aに当接して第1テーパ部2aを軸方向に圧縮する。同時に、第1テーパ部2aは、第1テーパ面27a上を軸方向他方側、かつ、外周側に摺動しつつ移動して拡径する。この結果、第1テーパ部2aの外周が空洞Xcの内周面Xcsに当接する。
【0127】
また、加圧室48では、フランジ部31pの軸方向他方側への移動に応じて、内周域48iのオイルが外周域48oへ流入する。これにより、フランジ部31pの軸方向他方側への移動に遅れて第2ピストン40が軸方向一方側へ駆動される。このため、第1クランプ28Aの移動開始に遅れて、第2クランプ28Bも軸方向一方側に駆動される。
【0128】
そして、第1突当り部28Aeの第1テーパ部2aへの当接に遅れて第2突当り部28Beが第2テーパ部2bに当接し、第2テーパ部2bを軸方向に圧縮する。同時に、第2テーパ部2bは、第2テーパ面27b上を軸方向一方側、かつ、外周側に摺動しつつ移動して拡径する。このため、第1テーパ部2aの内周面Xcsへの当接に遅れて、第2テーパ部2bの外周が空洞Xcの内周面Xcsに当接する。
【0129】
以上により、把持装置1による対象物Xの把持が完了し、対象物Xに対する加工が始まる。
その後、対象物Xの加工が済むと、把持装置1による対象物Xの把持を解除するための動作が始まる。
【0130】
まず、チャッキングロッド46に、軸方向一方側に向かって駆動力が加えられる。これにより、第1ピストン31、ジョイント36およびアクションボルト34が一体となって軸方向一方側に駆動される。また、第1ピストン31の軸方向一方側への移動に伴い、カラー52が軸方向一方側に駆動されるので、第1クランプ28Aも復元バネ53により軸方向一方側に付勢されて移動する。このため、第1クランプ28Aによる第1テーパ部2aに対する圧縮の解除が始まり、第1テーパ部2aは元の状態に復元する。
【0131】
さらに、加圧室48では、フランジ部31pの軸方向一方側への移動に伴い、内周域48iが膨張し、外周域48oから内周域48iにオイルが流入する。これにより、第2ピストン40および第2クランプ28Bが軸方向他方側へ移動する。このため、第1クランプ28Aの第1テーパ部2aに対する圧縮解除の開始に遅れて、第2クランプ28Bによる第2テーパ部2bに対する圧縮の解除が始まり、第2テーパ部2bは元の状態に復元する。
【0132】
以上により、把持装置1による対象物Xの把持が解除される。
なお、対象物Xに対して加工が行われている間、つまり、対象物Xの把持が完了してから対象物Xの把持を解除するまでの間は、第1テーパ部2aと第1テーパ面27aとの間、および、第2テーパ部2bと第2テーパ面27bとの間のくさび効果により把持状態を維持することができる。このため、対象物Xに対して加工が行われている間、駆動力の印加を停止することができるので、省エネすることができる。
【0133】
〔実施例6の効果〕
実施例6の把持装置1によれば、把持スプリング2は、駆動力により拡径することで、対象物Xが有する空洞Xcの内周面Xcsに、自身の外周が当接して対象物Xを把持する。つまり、実施例6の把持装置1は、実施例1の把持装置1とは異なり、把持スプリング2により、対象物Xの内側を把持する内径チャック型である。
これにより、実施例1の把持装置1と同様に、1つの把持部により把持して精度よく加工することができる対象物Xの寸法範囲を拡大する、という課題を解決することができる。
【0134】
また、実施例6の把持装置1によれば、伝達部3は、次の第1、第2クランプ28A、28Bおよび片側遅延部29を有する。
第1、第2クランプ28A、28Bは、把持スプリング2の軸方向の一方側、他方側それぞれの側に配置され、把持スプリング2の軸方向の一方側、他方側に駆動力を印加して把持スプリング2を軸方向に挟み込む。
【0135】
また、片側遅延部29は、第2クランプ28Bが把持スプリング2の軸方向の他方側に駆動力を印加し始める時期を、第1クランプ28Aが把持スプリング2の軸方向の一方側に駆動力を印加し始める時期よりも遅らせる(以下、第1、第2クランプ28A、28Bがそれぞれ把持スプリング2の軸方向の一方側、他方側に駆動力を印加し始める時期を、それぞれ一方側、他方側印加開始時期と呼ぶことがある。)。
【0136】
これにより、把持装置1の一端側の部分を対象物Xの空洞Xcに挿入して位置決めした後、空洞Xcの底に近い方から先に把持して、空洞Xcの底から遠い方を後に把持することができる。このため、把持装置1を対象物Xに対して、より高精度に位置決めした状態で、対象物Xを把持することができる。
【0137】
また、実施例6の把持装置1によれば、把持スプリング2の軸方向の一方側、他方側それぞれの部分は、ぞれぞれの側の内周が、それぞれの軸方向の端に近いほど内周側にせり出すテーパ状に設けられた第1、第2テーパ部2a、2bである。
【0138】
また、第1、第2テーパ部2a、2bそれぞれの内周は、それぞれの軸方向の端に近いほど内周側に後退するテーパ状に設けられた第1、第2テーパ面27a、27bに当接している。そして、第1、第2クランプ28A、28Bが、それぞれ第1、第2テーパ部2a、2bの軸方向の一方側、他方側に、駆動力を軸方向に印加することで、第1、第2テーパ部2a、2bがそれぞれ第1、第2テーパ面27a、27bに摺接しながら外周側に拡径する。
【0139】
このため、第1テーパ部2aと第1テーパ面27aとの間、および、第2テーパ部2bと第2テーパ面27bとの間のくさび効果により把持状態を維持することができる。このため、対象物Xに対して加工が行われている間、駆動力の印加を停止することができる。
【0140】
〔実施例7の構成〕
実施例7の把持装置1を実施例6の把持装置1との差異を中心に説明する。
実施例7の把持スプリング2は、実施例6の把持スプリング2とは異なり、内外周が円筒形であり、実施例1の把持スプリング2と同様の形状である。
また、実施例7の伝達部3は、第1、第2クランプ28A、28B、および、片側遅延部29以外に、以下のような斜面リング6A、6B、および、複数の出力体7を有する(
図17等参照。)。
【0141】
ここで、斜面リング6A、6Bは、円環状に設けられており、自身の外周に斜面が設けられている。具体的には、斜面リング6A、6Bの外周面は、軸方向の片側ほど縮径する円錐面であり、内周面は円筒面である。
【0142】
そして、斜面リング6Aは、外周の円錐面が軸方向他方側ほど内周側に後退するように、組み付けられている。また、斜面リング6Aの軸方向の一方側に、第1クランプ28Aの第1突当り部28Aeが配置され、斜面リング6Aは、第1クランプ28Aにより、軸方向の他方側に駆動される。
【0143】
同様に、斜面リング6Bは、外周の円錐面が軸方向一方側ほど内周側に後退するように、組み付けられている。また、斜面リング6Bの軸方向の他方側に、第2クランプ28Bの第2突当り部28Beが配置され、斜面リング6Bは、第2クランプ28Bにより、軸方向の一方側に駆動される。
【0144】
ここで、斜面リング6Aの外周の円錐面は、後記するように出力体7に設けた被印加面16Aに当接する印加面17Aをなす。同様に、斜面リング6Bの外周の円錐面は、後記するように出力体7に設けた被印加面16Bに当接する印加面17Bをなす。
また、斜面リング6A、6Bは、基準体27によりガイドされて軸方向に移動し、斜面リング6A、6Bそれぞれの内周の円筒面は、基準体27の外周面に摺接する。
【0145】
複数の出力体7は、それぞれ、把持スプリング2の内周に当接する当接部18を具備し(
図18等参照。)、把持スプリング2の内周側で周方向に離れて配置され、駆動力を径方向に受けることで、外周側に駆動されて把持スプリング2を拡径させる。また、それぞれの出力体7は、印加面17Aから駆動力を印加される被印加面16A、印加面17Bから駆動力を印加される被印加面16Bを有する。
【0146】
ここで、当接部18は、出力体7の内、外周側の部分であり、次のような筒面18aを有する。すなわち、筒面18aは、軸方向に垂直な断面において外周側に凸の曲線孤である。そして、筒面18aが把持スプリング2の内周に当接する。
【0147】
また、被印加面16A、16Bは、それぞれ、出力体7の内周側で軸方向の一方側、他方側の両側2か所に設けられ、一方側の被印加面16Aは、軸方向他方側ほど内周側にせり出すように傾斜しており、他方側の被印加面16Bは、軸方向一方側ほど内周側にせり出すように傾斜している。また、被印加面16A、16Bは、軸方向に垂直な断面が、軸方向のどの位置においても半円形である。そして、このような被印加面16A、16Bが、それぞれ印加面17A、17Bに線状に当接している。
【0148】
また、全ての出力体7は、それぞれ、基準体27に設けたガイド溝27gにガイドされる。
ここで、実施例7の基準体27は、次のような円筒部27c、出力体7と同数のガイド溝27g、および、基準棒27r等を有する。
まず、円筒部27cは、シリンダ部材44の部分44Taに固定される部分であり、円筒部27cの内、軸方向一方側の部分は、斜面リング6Aの軸方向への移動をガイドし、軸方向他方側の部分は、斜面リング6Bの軸方向への移動をガイドする。
【0149】
また、ガイド溝27gは、出力体7が配置される方位ごとに設けられている。すなわち、円筒部27cの外周側には、斜面リング6Aをガイドする範囲と、斜面リング6Bをガイドする範囲との間に、外周側に広がるフランジ部27fが設けられ、フランジ部27fに部分的に欠落部分を設けることでガイド溝27gが形成されている。これにより、それぞれの出力体7は、存在する方位でガイド溝27gにより径方向への移動をガイドされる。
なお、基準棒27rは、円筒部27cから軸方向一方側に突き出るように設けられている。
【0150】
〔実施例7の効果〕
実施例7の把持装置1によれば、伝達部3は、第1、第2クランプ28A、28B、および、片側遅延部29以外に、以下のような斜面リング6A、6B、および、複数の出力体7を有する。まず、それぞれの出力体7は、把持スプリング2の内周に当接する当接部18、および、駆動力が印加される被印加面16A、16Bを具備する。また、出力体7同士は、把持スプリング2の内周側で把持スプリング2の周方向に離れて配置され、駆動力を被印加面16A、16Bで受けることで、外周側に駆動されて把持スプリング2を拡径させる。
【0151】
また、斜面リング6A、6Bは、印加体として機能する。すなわち、斜面リング6Aは、被印加面16Aに接触する印加面17Aを具備し、印加面17Aからそれぞれの出力体7に駆動力を印加する。同様に、斜面リング6Bは、被印加面16Bに接触する印加面17Bを具備し、印加面17Bからそれぞれの出力体7に駆動力を印加する。
【0152】
さらに、被印加面16A、16Bおよび印加面17A、17Bは、軸方向および径方向に対して傾斜している。そして、それぞれの出力体7と斜面リング6A、6Bとは、被印加面16Aおよび印加面17Aが互いに線状に当接しつつ摺接するように、かつ、被印加面16Bおよび印加面17Bが互いに線状に当接しつつ摺接するように組み付けられている。
【0153】
そして、第1、第2突当り部28Ae、28Beがそれぞれ斜面リング6A、6Bに当接して斜面リング6A、6Bをそれぞれ軸方向他方側、一方側に駆動すると、被印加面16A、16Bは、それぞれ印加面17A、17Bに摺接しつつ外周側に移動しながら、駆動力の印加を受ける。
【0154】
これにより、出力体7が外周側に駆動され、把持スプリング2が外周側に拡径する。また、片側遅延部29により、斜面リング6Bは、斜面リング6Aの軸方向他方側への移動に遅れて、軸方向一方側へ移動する。このため、把持スプリング2の軸方向他方側の部分は、軸方向一方側の部分の拡径に遅れて拡径する。
以上により、実施例7の把持装置1は、実施例1や実施例6の把持装置1と同様の効果を奏することができる。
【0155】
〔実施例8の構成〕
実施例8の把持装置1を実施例7の把持装置1との差異を中心に、
図19~
図21に基づき説明する。
まず、実施例8の基準体27は、円筒状に設けられ、外周面は、軸方向一方側ほど錐状に縮径している。また、外周面には、軸方向一方側ほど内周側に後退する印加面17が設けられている。なお、実施例8の伝達部3には、印加体6A等が存在しない。
【0156】
また、印加面17は、平面であり、等角度間隔で出力体7が存在する方位に設けられている。さらに、錐状に縮径した先端から、複数の基準棒27rが軸方向一方側に伸びている。なお、基準体27の内周には、実施例7と同様に、シリンダ部材44の先端部44Tの部分44Taが嵌っており、基準体27と部分44Taとは、例えば、図示しないピンにより一体化されている。
【0157】
次に、実施例8の出力体7は、実施例7と同様の当接部18を具備している。なお、実施例8の出力体7によれば、当接部18には、把持スプリング2の脱落を防止するために、Oリング47が嵌る周状の溝が軸方向に離れた2か所に設けられ、2つのOリング47の間に把持スプリング2が収まっている。
また、実施例8の出力体7によれば、被印加面16は、軸方向一方側ほど内周側にせり出す平面であり、印加面17に、面接触しつつ摺接する。なお、被印加面16の軸方向の両側には、複数の出力体7を、一体的に保持するための保持リング58が装着されている。
【0158】
次に、実施例8の第1クランプ28Aによれば、第1突き当り部28Aeは、出力体7の軸方向一方側に当接する。そして、第1突き当り部28Aeが、出力体7の軸方向一方側に当接することで、主に、出力体7の軸方向一方側の部分が、外周側に駆動される。また、印加面17および被印加面16が軸方向一方側ほど内周側に傾斜しているので、出力体7が軸方向他方側に押されると、出力体7の軸方向一方側の部分が、強く外周側に駆動される。
【0159】
次に、実施例8の第2クランプ28Bによれば、第2突き当り部28Beは、出力体7の軸方向他方側に当接する。そして、第2突き当り部28Beが、出力体7の軸方向他方側に当接することで、主に、出力体7の軸方向他方側の部分が、外周側に駆動される。また、実施例8の第2クランプ28Bによれば、第2突き当り部28Beとフランジ部28Bfとは、別体であり、第2復元バネ59を介して一体的に駆動される。
【0160】
また、実施例8では、対象物Xを把持する駆動力は、電動モータ60が発生する。ここで、電動モータ60は、プラグ55の軸方向他方側で把持スプリング2と同軸に設けられて把持装置1の一部を構成する。さらに、実施例7では、電動モータ60は、例えば、把持した対象物Xを切削加工するときに対象物Xを回転させる機能を兼ねている。つまり、電動モータ60は、対象物Xを把持スプリング2により把持した状態で回転させることができる。
【0161】
このため、電動モータ60の主軸61は、軸方向一端において、プラグ55に相当する形状に設けられ、袋ナット56によってシリンダ部材44に締結され、さらに、後記するように、キー62により、チャッキングロッド46、63に連結されている(以下、チャッキングロッド46、63をそれぞれロッド46、63と呼ぶことがある。)。
なお、チャッキングロッド63については、適宜、説明する。また、電動モータ60は、例えば、コイル60Cへの通電を制御される周知の同期リラクタンスモータである。
【0162】
さらに、実施例8の片側遅延部29は、実施例7とは異なり、油圧により機能するものではなく、後記する第1~第4ねじ65~68の内、第1、第3ねじ65、67等を電動モータ60により駆動することで機能する。
また、実施例8の片側遅延部29によれば、第1ピストン31は、フランジ部31Pを有さず、例えば、本体部31mに相当する円筒状の部分からなり、実施例7と同様に、第1ピストン31にロッド46が締結されている。さらに、第2ピストン40は、実施例7とは異なり、円筒状の本体部40m、および、本体部40mの外周側に円板状に広がるフランジ部40pを有し、本体部40mは、後記するロッド63にネジ締結されている。
【0163】
次に、第1~第4ねじ65~68について説明する。
第1~第4ねじ65~68は、主軸61の軸方向他方側に存在する。
まず、第1ねじ65は、ロッド46に設けられた雄ねじであり、第3ねじ67は、ロッド63に設けられた雄ねじである。また、第2、第4ねじ66、68は、それぞれ、第1、第3ねじ65、67に噛み合う雌ねじであり、後記する駆動体70に設けられている。さらに、第1、第3ねじ65、67は、互いに同軸、かつ、逆向きにねじ山が切られている。同様に、第2、第4ねじ66、68は、互いに同軸、かつ、逆向きにねじ山が切られている。
【0164】
ここで、ロッド63は、円筒状に設けられ、ロッド46は、ロッド63の内周を通っている。また、主軸61は、円筒状に設けられ、ロッド46、63は、主軸61の内周を通っており、主軸61の軸方向一端寄りの内周で、それぞれ、第1、第2ピストン31、40に締結されている。また、ロッド46、63は、主軸61の内周から軸方向他方側に突き出ている。さらに、ロッド46の軸方向他端部は、ロッド63の軸方向他端から他方側に突き出ている。
【0165】
また、ロッド46、63は、それぞれに設けたキー溝62a、62bにキー62が嵌ることで、互いに軸方向への相対的な移動が可能、かつ、等回転数で一体としての回転が可能となっている。さらに、キー62は、主軸61の内周に固定されている。このため、電動モータ60への通電制御により、主軸61が回転駆動されると、主軸61およびロッド46、63は、等回転数で一体となって回転駆動される。
【0166】
また、駆動体70は、円筒状に設けられており、ロッド46、63の内、主軸61から突き出ている部分の外周側に配置される。なお、駆動体70は、軸方向への移動が規制されているが、回転に関しては、後記するように、電動モータ60による回転駆動が可能である回転可能状態と、電動モータ60による回転駆動が規制される回転規制状態との間で、状態が切り替えられる。
【0167】
さらに、第1ねじ65は、ロッド46の内、軸方向他端部の外周に設けられ、第3ねじ67は、ロッド63の軸方向他端の外周に設けられている。
また、駆動体70の内周において、第2ねじ66は、第4ねじ68の軸方向他方側に設けられている。
以上のような構成により、第1、第2ねじ65、66の噛み合い、および、第3、第4ねじ67、68の噛み合いは、主軸61の軸方向他方側で形成され、また、第1、第2ねじ65、66の噛み合いは、第3、第4ねじ67、68の噛み合いの軸方向他方側に形成される。
【0168】
そして、駆動体70を回転規制状態にして、電動モータ60への通電制御により、ロッド46、63を、例えば、正方向に回転駆動すると、第1、第2ねじ65、66の噛み合いにより、第1クランプ28Aが、先に、軸方向他方側に駆動され、これにより、出力体7の内、軸方向一方側の部分が、先に、外周側に駆動される。このため、把持スプリング2の軸方向一端寄りの部分が、先に、外周側に駆動されて対象物Xの内周面Xcsに当接する。
【0169】
また、第3、第4ねじ67、68の噛み合いにより、第2クランプ28Bが、遅れて、軸方向一方側に駆動され、これにより、出力体7の内、軸方向他方側の部分が、遅れて、外周側に駆動される。このため、把持スプリング2の軸方向他端寄りの部分が、遅れて、外周側に駆動されて内周面Xcsに当接する。
以上により、把持スプリング2による対象物Xの把持が完了する。
【0170】
つまり、実施例8の片側遅延部29は、駆動体70を回転規制状態にして第2、第4ねじ66、68の回転を規制するとともに、電動モータ60により第1、第3ねじ65、67を回転させることで機能する。なお、第1、第2ねじ65、66の噛み合いによる第1クランプ28Aの移動を、第3、第4ねじ67、68の噛み合いによる第2クランプ28Bの移動に先行させること、つまり、第1クランプ28Aの移動開始に対する第2クランプ28Bの移動開始の遅延は、アクションバネ35、復元バネ53および第2復元バネ59の設定や、第1ねじ65と第3ねじ67とのピッチの差を調節することで、適宜、可能となる。
【0171】
また、把持スプリング2による対象物Xの把持状態を解除するときには、駆動体70を回転規制状態にして、ロッド46、63を、例えば、負方向に回転駆動する。
すなわち、電動モータ60への通電制御により、ロッド46、63を、負方向に回転駆動すると、第3、第4ねじ67、68の噛み合いにより、第2クランプ28Bが、先に、軸方向他方側に駆動され、これにより、出力体7の内、軸方向他方側の部分が、先に、内周側に復元する。このため、把持スプリング2の軸方向他端寄りの部分が、先に、内周側に復元して内周面Xcsから離れる。
【0172】
また、第1、第2ねじ65、66の噛み合いにより、第1クランプ28Aが、遅れて、軸方向一方側に駆動され、これにより、出力体7の内、軸方向一方側の部分が、遅れて、内周側に復元する。このため、把持スプリング2の軸方向一端寄りの部分が、遅れて、内周側に復元して内周面Xcsから離れる。
以上により、把持スプリング2による対象物Xの把持状態が解除される。
【0173】
さらに、実施例8の把持装置1は、上記した回転可能状態と回転規制状態とを切り替える切替部72を備える。
ここで、回転可能状態とは、上記したように、電動モータ60による駆動体70の回転駆動が可能である状態であり、より具体的には、主軸61と駆動体70とを連結した状態である。そして、回転可能状態は、主に、対象物Xを把持スプリング2により把持した状態で回転させて切削加工等するときに使用される。
【0174】
また、回転規制状態とは、電動モータ60による駆動体70の回転駆動が規制される状態であり、より具体的には、例えば、把持装置1の外郭体をなす装置ケース73と駆動体70とを連結した状態である。そして、回転規制状態は、上記のように、主に、把持スプリング2による対象物Xの把持、および、把持解除を行うときに使用される。
以下、切替部72について詳述する。
【0175】
切替部72は、次のようなソレノイドコイル75、軸受部76、バランスばね77、および、クラッチ球体78A、78B等を有する。
まず、ソレノイドコイル75は、通電されて自身の内周に磁束を発生させるものであり、発生させた磁束により、軸受部76を軸方向他方側に駆動して装置ケース73に連結させる。なお、ソレノイドコイル75は、ボビン75bに巻かれており、ボビン75bの軸方向一端側、他端側には、それぞれ、通電開始時の衝撃を緩和するためのバランスばね79が装置ケース73との間にセットされている。
【0176】
次に、軸受部76は、ボールベアリング76a、インナーケース76b、アウターケース76cを具備し、主に、回転可能状態において、主軸61の回転を軸受する。
まず、ボールベアリング76aは、球体および内、外輪を具備する周知の態様である。また、インナーケース76bは、ベアリングナットおよびカラーによりボールベアリング76aの内輪に固定されており、駆動体70の外周側に配置されている。また、アウターケース76cは、ベアリングナットによりボールベアリング76aの外輪に固定されており、ボビン75bの内周側に配置されている。
【0177】
また、インナーケース76bの内周および駆動体70の外周には、直スプラインが設けられ、インナーケース76bと駆動体70とは噛み合っている。また、アウターケース76cの外周およびボビン75bの内周にも、直スプラインが設けられ。アウターケース76cとボビン75bとは噛み合っている。
【0178】
このため、軸受部76の全体が、駆動体70やソレノイドコイル75に対して軸方向へ相対的に移動可能となっている。また、駆動体70が回転駆動されると、ボールベアリング76aの内輪およびインナーケース76bは、主軸61および駆動体70と等回転数で回転する。
さらに、インナー、アウターケース76b、76cには、適宜、磁性金属が埋め込まれている。このため、ソレノイドコイル75への通電により磁束が発生すると、軸受部76の全体が、例えば、軸方向他方側へ駆動される。
【0179】
次に、バランスばね77は、アウターケース76cに設けたバネ座と、装置ケース73に設けたバネ座との間にセットされ、軸受部76の全体を軸方向一方側に付勢している。このため、ソレノイドコイル75への通電が停止されて磁束が弱くなると、軸受部76の全体が、軸方向一方側に駆動される。
【0180】
次に、クラッチ球体78Aは、ソレノイドコイル75が通電されて磁束が発生しているときに、インナーケース76bと装置ケース73とを連結するものである。すなわち、クラッチ球体78Aは、インナーケース76bに埋め込まれた磁石により、常時、インナーケース76bに設けた球状凹部に嵌っている。
【0181】
そして、ソレノイドコイル75への通電により、軸受部76の全体が軸方向他方側に移動すると、クラッチ球体78Aは、装置ケース73に設けた球状凹部にも嵌る。これにより、クラッチ球体78Aは、ソレノイドコイル75が通電されて磁束が発生しているときに、インナーケース76bと装置ケース73とを連結する。このため、駆動体70は、インナーケース76bおよびクラッチ球体78Aを介して装置ケース73に連結され、上記の回転規制状態になる。
【0182】
さらに、クラッチ球体78Bは、ソレノイドコイル75が非通電になって磁束が弱まったときに、インナーケース76bと主軸61とを連結するものである。すなわち、クラッチ球体78Bは、主軸61に埋め込まれた磁石により、常時、主軸61に設けた球状凹部に嵌っている。
【0183】
そして、ソレノイドコイル75への通電停止により、軸受部76の全体が軸方向一方側に移動すると、クラッチ球体78Bは、インナーケース76bに設けた球状凹部にも嵌る。これにより、クラッチ球体78Bは、ソレノイドコイル75が非通電になって磁束が弱まっているときに、インナーケース76bと主軸61とを連結する。このため、駆動体70は、インナーケース76bおよびクラッチ球体78Bを介して主軸61に連結され、上記の回転可能状態になる。
【0184】
ここで、次の回転部および状態可変部を定義する。
すなわち、回転部は、電動モータ60の出力により回転される部分であり、自身が回転することで、電動モータ60の出力を、把持スプリング2に伝達する部分であり、より具体的には、ロッド46、63や主軸61のように、駆動体70の回転が可能か否かにかかわりなく、電動モータ60の出力による回転が可能である。
【0185】
また、状態可変部は、回転部とは別に設けられて回転部と機械的にリンクしており、電動モータ60の出力による自身の回転が可能である回転可能状態と、電動モータ60の出力による自身の回転が規制される回転規制状態とが切り替わることができ、より具体的には、駆動体70、ボールベアリング76aの内輪、インナーケース76b等が相当する。
【0186】
〔実施例8の動作〕
実施例8の把持装置1の動作を説明する。
まず、把持装置1の軸方向一方側の部分、つまり、把持スプリング2や出力体7等が存在する部分を対象物Xの空洞Xcに挿入し、把持装置1を対象物Xに対して径方向および軸方向に位置決めする。
【0187】
この状態で、ソレノイドコイル75に通電して軸受部76を軸方向他方側に駆動し、駆動体70を、インナーケース76bおよびクラッチ球体78Aを介して、装置ケース73に連結する。これにより、駆動体70を含む状態可変部は、回転規制状態になり、回転規制状態において、電動モータ60を通電制御して、主軸61を含む回転部を正方向に一時的に回転させる。
これにより、第1、第2ねじ65、66の噛み合い、および、第3、第4ねじ67、68の噛み合いにより、ロッド46が先に軸方向他方側に駆動され、ロッド63が遅れて軸方向一方側に駆動される。
【0188】
このため、第1クランプ28Aが、先に、軸方向他方側に駆動され、これにより、把持スプリング2の軸方向一端寄りの部分が外周側に駆動され、対象物Xの内周面Xcsに当接する。また、第2クランプ28Bが、遅れて、軸方向一方側に駆動され、これにより、把持スプリング2の軸方向他端寄りの部分が外周側に駆動され、内周面Xcsに当接する。以上により、把持スプリング2による対象物Xの把持が完了する。
【0189】
この状態で、ソレノイドコイル75への通電を停止して軸受部76を軸方向一方側に駆動し、駆動体70を、インナーケース76bおよびクラッチ球体78Bを介して、主軸61に連結する。これにより、駆動体70を含む状態可変部は、回転可能状態になる。そして、対象物Xに対する切削加工を進めるため、切削加工の進行に応じて、電動モータ60を通電制御して回転部および状態可変部の両方を回転させる。
【0190】
切削加工の完了後、再度、ソレノイドコイル75に通電して軸受部76を軸方向他方側に駆動し、駆動体70を装置ケース73に連結して状態可変部を回転規制状態にする。そして、電動モータ60を通電制御して主軸61を負方向に一時的に回転させる。
これにより、第1、第2ねじ65、66の噛み合い、および、第3、第4ねじ67、68の噛み合いにより、ロッド63が先に軸方向他方側に駆動され、ロッド46が遅れて軸方向一方側に駆動される。
【0191】
このため、第2クランプ28Bが、先に、軸方向他方側に駆動され、これにより、把持スプリング2の軸方向他端寄りの部分が内周側に戻り、対象物Xの内周面Xcsから離れる。また、第1クランプ28Aが、遅れて、軸方向一方側に駆動され、これにより、把持スプリング2の軸方向一端寄りの部分が内周側に戻り、内周面Xcsから離れる。以上により、把持スプリング2による対象物Xの把持状態が解除される。
【0192】
〔実施例8の効果〕
実施例8の把持装置1によれば、電動モータ60で発生した駆動力により対象物Xを把持する。また、片側遅延部29は、次のような第1~第4ねじ65~68を有する。すなわち、第1ねじ65は、把持スプリング2と同軸であり、電動モータ60のトルクにより回転駆動され、第2ねじ66は、第1ねじ65と螺合する。また、第3ねじ67は、第1ねじ65と同軸、かつ、第1ねじ65とは逆向きにねじ山が切られ、電動モータ60の出力により回転駆動され、第4ねじ68は、第3ねじ67と螺合する。
【0193】
また、出力体7では、第1ねじ65の回転開始により、軸方向一方側の部分が、外周側に駆動され、第3ねじ67の回転開始により、軸方向他方側の部分が外周側に駆動される。
これにより、出力体7の軸方向他方側の部分が外周側に駆動されるタイミングを、出力体7の軸方向一方側の部分が外周側に駆動されるタイミングよりも遅延することができる。このため、実施例7、8の把持装置1と同様に、対象物Xを、空洞Xcの底に近い方から先に把持して、空洞Xcの底から遠い方を後に把持することができ、把持装置1を対象物Xに対して、より高精度に位置決めした状態で、対象物Xを把持することができる。
【0194】
また、実施例8の把持装置1は、次の電動モータ60、回転部および状態可変部を備える。
電動モータ60は、自身が発生する出力により、把持スプリング2に対象物Xを把持させる。回転部は、例えば、ロッド46、63や主軸61等であり、電動モータ60の出力により回転される部分であって、自身が回転することで、電動モータ60の出力を把持スプリング2に伝達する。
【0195】
状態可変部は、例えば、駆動体70、ボールベアリング76aの内輪、インナーケース76b等であり、回転部とは別に設けられて回転部と機械的にリンクしており、電動モータ60の出力による自身の回転が可能である回転可能状態と、電動モータ60の出力による自身の回転が規制される回転規制状態とが切り替わることができる。
【0196】
そして、状態可変部を回転規制状態にして、回転部を電動モータ60の出力により回転させることで、把持スプリング2に対象物Xを把持させる。また、把持スプリング2が対象物Xを把持した状態で状態可変部を回転可能状態にして、回転部および状態可変部を電動モータ60の出力により回転させることで、対象物Xを把持スプリング2により把持した状態で回転させる。
【0197】
これにより、対象物Xを把持する駆動力、および、対象物Xを切削加工等するために対象物Xを回転駆動する出力を、両方とも電動モータ60により供給することができる。このため、対象物Xを切削加工等するために必要な駆動源を、別途、設ける必要がなくなる。この結果、装置コストを低減することができるとともに、装置メンテナンスの負荷を軽減することができる。
【0198】
〔
参考例の構成〕
参考例の把持装置1を実施例8の把持装置1との差異を中心に、
図22および
図23等に基づき説明する。
まず、
参考例の把持装置1は、把持部としての爪体81を含む把持ユニット82に、次のような切替ユニット83を機械的に締結することで構成されている。
【0199】
すなわち、切替ユニット83は、状態可変部を有し、以下の3つの締結端の内、1つの締結端が選択されて把持ユニット82の締結端に締結されている。また、これら3つの締結端の内、第1、第2の締結端は回転端であり、第3の締結端は状態可変端である。ここで、回転端とは、状態可変部と機械的にリンクする回転部からなる締結端であり、状態可変端とは、状態可変部からなる締結端である。
【0200】
より具体的には、第1、第2の締結端は、それぞれ実施例8のロッド46、63に相当し、第3の締結端は、後記するロッド84である。
そして、参考例の切替ユニット83は、ロッド46、63以外に、例えば、実施例8と同様の電動モータ60、駆動体70、切替部72、および、装置ケース73等を含んで構成されている。なお、参考例のロッド46は、円筒状に設けられており、ロッド84も円筒状に設けられてロッド46の内周を通っている。
【0201】
ここで、参考例の切替ユニット83では、第3の締結端であるロッド84が選択されて把持ユニット82の締結端に締結されている。
ロッド84は、駆動体70とは別の駆動体85と直スプラインの嵌合によりリンクしており、駆動体85と駆動体70とは、スリット85aと爪70aとの篏合によりリンクしている。
【0202】
つまり、駆動体85は、円筒状に設けられ、ロッド84の軸方向他端の外周および駆動体85の内周には、それぞれ、直スプラインが設けられている。そして、これら直スプライン同士の篏合により、ロッド84と駆動体85とは、互いに軸方向への相対的な移動が可能、かつ、等回転数で一体としての回転が可能となっている。
【0203】
また、駆動体85の軸方向一端側には、外周側に向かって開く複数のスリット85aが、等角度間隔で設けられ、駆動体70の軸方向他端には、内周側に向かって伸びる爪70aが、スリット85aと同じ方位に設けられている。そして、スリット85aと爪70aとの篏合により、駆動体70、85は、互いに軸方向への相対的な移動が可能、かつ、等回転数で一体としての回転が可能となっている。なお、駆動体85は、ボールベアリング85bにより装置ケース73に軸受される。また、ロッド84は、軸方向一方側への移動を駆動体85に設けた係止部85cより規制される。
【0204】
以上により、ロッド84は、ソレノイドコイル75の通電状態に応じて、回転可能状態と回転規制状態とが切り替わる状態可変部であり、ロッド84からなる第3の締結端は、状態可変端をなす。
なお、第1、第2締結端であるロッド46、63は、軸方向一方側で揺動するのを阻止するため、キー62とキー溝62a、62bとの篏合構造(
図19参照。)とは別に、主軸61の内周との間に、図示しない係止構造を形成している。
【0205】
続いて、参考例の把持ユニット82について詳述する。
参考例の把持ユニット82は、いわゆるスクロールチャックであり、把持部として、実施例8の把持スプリング2に替わって、3つの爪体81を備える。また、把持ユニット82は、3つの爪体81以外に、次のスクロール板86およびボディ87を備える。以下、スクロール板86およびボディ87を、順次、説明する。なお、3つの爪体81は、周知の形状である。
【0206】
まず、スクロール板86は、円環の板状体として設けられ、軸方向一方側に配置される表面に渦巻き状の溝86aが形成され、溝86aに、爪体81の歯81aが篏合している。また、スクロール板86の内周には、ロッド84が通っている。さらに、スクロール板86の内周には、内周側に向かって伸びる複数の爪86bが、等角度間隔で設けられ、ロッド84の外周には、外周側に向かって開くスリット84aが、爪86bと同じ方位に設けられている。そして、爪86bとスリット84aとの篏合により、ロッド84とスクロール板86とは、互いに軸方向への相対的な移動が規制されながら、等回転数で一体としての回転が可能となっている。
【0207】
次に、ボディ87は、主に一方側、他方側ボディ87a、87bからなり、一方側、他方側ボディ87a、87bの間にスクロール板86を挟んだ状態で、ネジ締結されて一体化している。ここで、一方側ボディ87aには、爪体81が径方向に移動可能となるように嵌るガイド孔87cが、等角度間隔で3つ設けられ、爪体81の歯は、ガイド孔87cを通り抜けてボディ87の内部でスクロール板86の溝86aにかみ合っている。
【0208】
なお、他方側ボディ87bは、実施例8のプラグ55に相当する部分であり、主軸61の一部である。
また、主軸61およびボディ87は回転部をなし、スクロール板86は状態可変部をなす。
【0209】
〔参考例の動作〕
参考例の把持装置1の動作を説明する。
まず、3つの爪体81の内周側先端により囲われた領域に対象物Xを挿入する。この状態で、ソレノイドコイル75に通電して軸受部76を軸方向他方側に駆動し、駆動体85およびロッド84を、駆動体70、インナーケース76bおよびクラッチ球体78Aを介して、装置ケース73に連結する。これにより、状態可変部は、回転規制状態になり、回転規制状態において、電動モータ60を通電制御して、主軸61を含む回転部を正方向に回転させる。
【0210】
これにより、把持ユニット82において、スクロール板86の回転が規制されつつ、ボディ87が正方向に回転する。このため、3つの爪体81がガイド孔87cに沿って内周側に駆動され、対象物Xの外周面に3つの爪体81それぞれの内周端が当接する。
以上により、3つの爪体81による対象物Xの把持が完了する。
【0211】
この状態で、ソレノイドコイル75への通電を停止して軸受部76を軸方向一方側に駆動し、駆動体85およびロッド84を、駆動体70、インナーケース76bおよびクラッチ球体78Bを介して、主軸61に連結する。これにより、状態可変部は、回転可能状態になる。そして、対象物Xに対する切削加工を進めるため、切削加工の進行に応じて、電動モータ60を通電制御して回転部および状態可変部の両方を回転させる。
【0212】
切削加工の完了後、再度、ソレノイドコイル75に通電して軸受部76を軸方向他方側に駆動し、駆動体85およびロッド84を装置ケース73に連結して状態可変部を回転規制状態にする。そして、電動モータ60のコイルに通電制御して主軸61を負方向に回転させる。
【0213】
これにより、把持ユニット82において、スクロール板86の回転が規制されつつ、ボディ87が負方向に回転する。このため、3つの爪体81がガイド孔87cに沿って外周側に駆動され、対象物Xの外周面から爪体81それぞれの内周端が離れる。
以上により、3つの爪体81による対象物Xの把持状態が解除される。
【0214】
〔参考例の効果〕
参考例の把持装置1は、次のような切替ユニット83を備える。すなわち、切替ユニット83は、把持ユニット82と機械的に締結されて把持装置1を構成するものであり、以下の3つの締結端を有する。すなわち、第1、第2の締結端は、実施例8のロッド46、63に相当し、回転端をなす。また、第3の締結端は、ロッド84であり、状態可変端をなす。そして、参考例の切替ユニット83では、第3の締結端であるロッド84が選択されて把持ユニット82の締結端に締結されている。
【0215】
そして、参考例の切替ユニット83によれば、第1、第2の締結端を選択して、例えば、実施例8のような把持スプリング2を備える把持ユニット82に切替ユニット83を締結することで、把持装置1を構成することができる。また、第3の締結端を選択して、例えば、参考例のようなスクロールチャックの把持ユニット82に切替ユニット83を締結することで、把持装置1を構成することができる。
【0216】
このため、把持装置1において、対象物Xの加工において必要とされる加工精度に応じて、把持ユニット2の種類を選択することができる。このため、より多くの対象物Xを精度よく加工することができる。
なお、実施例8の把持装置1において、把持ユニット82を想定する場合、例えば、第1、第2ピストン31、40、および、第1、第2ピストン31、40よりも軸方向一方側に存在する部分を把持ユニット82として想定することができる(
図20参照。)。
【0217】
〔変形例〕
本願発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形例を考えることができる。
例えば、実施例1の把持装置1に片側遅延部29を装備し、例えば、加圧リング5Bによる斜面リング6B1、6B2の駆動を、加圧リング5Aによる斜面リング6A1、6A2の駆動に遅らせてもよい。
【0218】
また、実施例1の把持装置1によれば、伝達部3は、複数の出力体7と、印加体としての斜面リング6A1、6A2、6B1、6B2とを有していたが、実施例6の把持装置1のように、第1、第2クランプ28A、28Bを伝達部3に装備するとともに把持スプリング2に第1、第2テーパ部2a、2bを設け、第1、第2クランプ28A、28Bにより把持スプリング2を軸方向に挟み込んでもよい。
【0219】
なお、実施例1の把持スプリング2に第1、第2テーパ部2a、2bを具備させる場合、第1、第2テーパ部2a、2bを、次のように設ける。すなわち、第1、第2テーパ部2a、2bを、ぞれぞれの外周がそれぞれの軸方向の端に近いほど外周側にせり出すテーパ状に設ける。また、第1、第2テーパ部2a、2bそれぞれの外周を、次のような第1、第2テーパ面27a、27bに当接させる。すなわち、この変形例の第1、第2テーパ面27a、27bは、それぞれの軸方向の端に近いほど外周側に後退するテーパ状に設けられている。
【0220】
そして、第1、第2クランプ28A、28Bが、それぞれ、第1、第2テーパ部2a、2bに、駆動力を軸方向に印加することで、第1、第2テーパ部2a、2bがそれぞれ第1、第2テーパ面27a、27bに摺接しながら内周側に縮径する。これにより、対象物の外側表面に、第1、第2テーパ部2a、2bの内周を当接させて対象物を把持することができる。
【0221】
さらに、実施例7の把持装置1において、被印加面16A、16Bおよび印加面17A、17Bを、軸方向および径方向に対して傾斜する平面にしてもよい。
例えば、それぞれの出力体7において、被印加面16Aを、軸方向他方側ほど内周側にせり出すように傾斜している平面としてもよく、被印加面16Bを、軸方向一方側ほど内周側にせり出すように傾斜している平面としてもよい。
【0222】
また、斜面リング6Aの外周側の円錐面において、出力体7が配置される角度の方位に溝を設け、溝の底面を印加面17Aとしてもよい。同様に、斜面リング6Bの外周側の円錐面において、出力体7が配置される角度の方位に溝を設け、溝の底面を印加面17Bとしてもよい。
【0223】
この場合、斜面リング6Aの溝の底面は、軸方向他方側ほど内周側に後退するように傾斜している平面であり、底面の傾斜は、被印加面16Aの傾斜と同じである。また、斜面リング6Bの溝の底面は、軸方向一方側ほど内周側に後退するように傾斜している平面であり、底面の傾斜は、被印加面16Bの傾斜と同じである。
【0224】
さらに、実施例6、7の把持装置1において、把持スプリング2を、次のような外周側、内周側スプリングにより構成してもよい。すなわち、この変形例の外周側スプリングは、実施例5の外周側スプリング2Bと異なり、拡径することで、対象物Xが有する空洞Xcの内周面Xcsに自身の外周が当接する。また、この変形例の内周側スプリングは、実施例4の内周側スプリング2Aと異なり、駆動力により拡径することで、外周側スプリングの内周に自身の外周が当接する。なお、この変形例でも、外周側スプリングと内周側スプリングとは、巻き線の方向を互いに逆にする。
【0225】
また、実施例6、7の把持装置1によれば、シリンダ部材44内に油圧を導入して加圧室48を設け、油圧により片側遅延部29を機能させていたが、実施例8のように第1~第4ねじ65~68を設けて第1、第3ねじ65、67を電動モータ60により駆動することで片側遅延部29を機能させてもよい。逆に、実施例8の把持装置1において、片側遅延部29を、実施例6、7と同様の構成により油圧によって機能させてもよい。
【0226】
また、参考例の把持装置1によれば、切替ユニット83は、例えば、実施例8で想定できる把持ユニット82、または、参考例のようなスクロールチャックの把持ユニット82を選択することができる態様であったが、このような態様に限定されない。
例えば、従来型のスリ割り構造の把持ユニット82を締結できるように、切替ユニット83を設けてもよい。
【符号の説明】
【0227】
1 把持装置 2 把持スプリング 3 伝達部 X 対象物