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特許7519150柱面体作製方法及びその作製方法を用いて作製された柱面体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】柱面体作製方法及びその作製方法を用いて作製された柱面体
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/08 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
G02B5/08 C
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2024064071
(22)【出願日】2024-04-11
【審査請求日】2024-04-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521180669
【氏名又は名称】合同会社北海道環境・エネルギー研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000316
【氏名又は名称】弁理士法人ピー・エス・ディ
(72)【発明者】
【氏名】浅利 栄治
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-168552(JP,A)
【文献】特開2020-091315(JP,A)
【文献】特表2017-506363(JP,A)
【文献】特開2014-163990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/08
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
四角形の板状体から所望の湾曲形状を有する柱面体を製造する柱面体製造方法であって、
所望の湾曲形状を有する柱面について、微分可能な任意の曲線である前記柱面の導線の方向に沿った曲率半径(ただし、曲率半径が一定の場合を除く。)を計算する工程と、
前記曲率半径に比例するように前記導線の方向に沿って断面積が定められた板状体を作製する工程と、
前記板状体を前記導線の方向に沿って湾曲させる工程と
を含む柱面体製造方法。
【請求項2】
断面積が定められた板状体を作製する前記工程は、
厚みが均一で、かつ、前記導線に直交する母線の長さが前記曲率半径に比例するように定められた板状体を作製することを含む
請求項1に記載の柱面体製造方法。
【請求項3】
断面積が定められた板状体を作製する前記工程は、
前記導線に直交する母線の長さが一定で、かつ、前記導線の方向に沿った厚みが前記曲率半径に比例するように定められた板状体を作製することを含む、
請求項1に記載の柱面体製造方法。
【請求項4】
前記導線は、放物線、楕円又は双曲線のいずれかである、
請求項に記載の柱面体製造方法。
【請求項5】
前記導線は、変曲点を有する曲線である、
請求項に記載の柱面体製造方法。
【請求項6】
前記曲率半径に比例するように前記導線の方向に沿って断面積が定められた板状体を作製する前記工程は、
前記板状体の前記導線の方向に沿った一方の辺が直線であり、他方の辺が曲線である板状体を作製することを含む、
請求項2に記載の柱面体製造方法。
【請求項7】
前記曲率半径に比例するように前記導線の方向に沿って断面積が定められた板状体を作製する前記工程は、
前記板状体の前記導線の方向に沿った2辺がいずれも曲線である板状体を作製することを含む、
請求項2に記載の柱面体製造方法。
【請求項8】
前記板状体を前記導線の方向に沿って湾曲させる前記工程は、
前記板状体の前記導線の方向の中央を挟んで対向する少なくとも2箇所を、湾曲を維持した状態で固定することを含む、
請求項に記載の柱面体製造方法。
【請求項9】
前記板状体を前記導線の方向に沿って湾曲させる前記工程は、
前記板状体の前記導線の方向の中央を挟んで対向する少なくとも2箇所と、前記変曲点に対応する箇所とを固定することを含む、
請求項に記載の柱面体製造方法。
【請求項10】
所望の湾曲形状を有する柱面体であって、
所望の湾曲形状を有する柱面体の導線の方向に沿って計算された曲率半径(ただし、曲率半径が一定の場合を除く。)に比例するように前記導線の方向に沿って定められた断面積を有し、
前記導線は、微分可能な任意の曲線である、
柱面体。
【請求項11】
厚みが均一で、かつ、前記導線に直交する母線の長さが前記曲率半径に比例するように定められた、
請求項10に記載の柱面体。
【請求項12】
前記導線に直交する母線の長さが一定で、かつ、前記導線の方向に沿った厚みが前記曲率半径に比例するように定められた、
請求項10に記載の柱面体。
【請求項13】
前記導線は、放物線、楕円又は双曲線のいずれかである、
請求項10に記載の柱面体。
【請求項14】
前記導線は、変曲点を有する曲線である、
請求項10に記載の柱面体。
【請求項15】
四角形の板状体から所望の湾曲形状を有する柱面体を設計する柱面体設計方法であって、
所望の湾曲形状を有する柱面について、微分可能な任意の曲線である前記柱面の導線の方向に沿った曲率半径(ただし、曲率半径が一定の場合を除く。)を計算する工程と、
前記導線の方向に沿って、前記曲率半径に比例するように板状体の断面積を定める工程と
を含む柱面体設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱面体を作製する技術に関し、より具体的には、所望の湾曲形状を有する柱面の曲率半径を計算し、その曲率半径に比例するように断面積を定めた板状体を湾曲させることによって、柱面体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放物面反射鏡が用いられるニュートン式反射望遠鏡をはじめとして、これまで多くの改良型反射望遠鏡が開発されてきたが、主鏡として用いられる放物面反射鏡の研磨技術に要求される精度の高さとその作業工程の複雑さは、今日に至るまで変わるものではない。そのため、特に中大型の反射望遠鏡は高価なものになり、技術的な観点及びコスト的な観点から、大掛かりな組織でなければ製作は困難である。そこで、莫大な資金を要する大集光力の反射望遠鏡を、従来の望遠鏡より廉価かつ簡便に、軽量で製作することが可能であれば、一般市民レベルでも反射望遠鏡を所有したり、自作したりすることができる。
【0003】
反射望遠鏡におけるこうした問題を解決する技術として、例えば、特許文献1-特許文献3の技術が提案されている。これらの技術においては、一方向にのみ湾曲した凹形状の反射体、すなわち、柱面反射体が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-164881号公報
【文献】特許第6602942号公報
【0005】
【文献】金沢工業大学、KIT数学ナビゲーション、URL https://w3e.kanazawa-it.ac.jp/math/category/kika/heimenkika/henkan-tex.cgi?target=/math/category/kika/heimenkika/radius_of_curvature.html&pcview=2
【文献】越昭三、微分積分学要論、株式会社学術図書出版社、1979年1月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1-特許文献3に提案される技術では、一方向にのみ湾曲した柱面反射体を作製する必要がある。このような柱面反射体の作製は、放物面反射鏡の主鏡ほどの高レベルの困難さはないものの、依然として高価な工作機械が必要である。一方で、簡易な望遠鏡に用いられるような柱面反射鏡であれば、例えば3Dプリンタなどで作製することも可能であるが、表面を鏡面加工したり鏡面体を表面に張り合わせたりする必要がある。また、3DCADなどを3Dプリンタのデータを用いて作成する必要があり、作成された結果物の微調整が難しい。
【0007】
したがって、本発明は、より容易かつ安価に、柱面体を作製することができる方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、こうした方法によって作製することができる、長方形の板状体を一方向のみ湾曲させた形状の柱面体とは異なる構造の柱面体を提供することを別の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
断面積Aの四角形の板状体に、その面(断面積A)に平行な力Fを加えたときに、四角形の歪みθは、Fに比例し、断面積Aに反比例する関係がある。すなわち、1/θは断面積Aに比例する。この関係に基づいて、発明者は、断面積Aの板状体に力を加えたときに、ある微分可能な関数fから得られる曲率半径rに比例するように断面積Aを関数fの曲線に沿って予め変化させておくと、θは曲線に沿った方向でrに反比例するように変化すると考えられることから、曲率半径rの元となる関数fを導線とする柱面体の作製が可能であることを見出した。
【0009】
本発明は、一態様において、四角形の板状体から所望の湾曲形状を有する柱面体を製造する柱面体製造方法を提供する。本方法は、所望の湾曲形状を有する柱面について、その導線の方向に沿った曲率半径を計算する工程と、曲率半径に比例するように導線の方向に沿って断面積が定められた板状体を作製する工程と、板状体を導線の方向に沿って湾曲させる工程とを含む。導線は、微分可能な任意の曲線とすることができ、放物線、楕円又は双曲線のいずれかであることが好ましく、変曲点を有する曲線とすることもできる。
【0010】
一実施形態においては、断面積が定められた板状体を作製する工程は、厚みが均一で、かつ、導線に直交する母線の長さが曲率半径に比例するように定められた板状体を作製することを含む。別の実施形態においては、断面積が定められた板状体を作製する工程は、導線に直交する母線の長さが一定で、かつ、導線の方向に沿った厚みが曲率半径に比例するように定められた板状体を作製することを含む。
【0011】
一実施形態においては、曲率半径に比例するように導線の方向に沿って断面積が定められた板状体を作製する工程は、板状体の導線の方向に沿った一方の辺が直線であり、他方の辺が曲線である板状体を作製することを含む。別の実施形態においては、曲率半径に比例するように導線の方向に沿って断面積が定められた板状体を作製する工程は、板状体の導線の方向に沿った2辺がいずれも曲線である板状体を作製することを含む。
【0012】
一実施形態においては、板状体を導線の方向に沿って湾曲させる工程は、板状体の導線の方向の中央を挟んで対向する少なくとも2箇所を、湾曲を維持した状態で固定することを含む。別の実施形態においては、板状体を導線の方向に沿って湾曲させる工程は、板状体の導線の方向の中央を挟んで対向する少なくとも2箇所と、変曲点に対応する箇所とを固定することを含む。
【0013】
本発明は、別の態様において、所望の湾曲形状を有する柱面体を提供する。この柱面体は、所望の湾曲形状を有する柱面体の導線の方向に沿って計算された曲率半径に比例するように導線の方向に沿って定められた断面積を有する。柱面体は、厚みが均一で、かつ、導線に直交する母線の長さが曲率半径に比例するように定められたものとすることができ、導線に直交する母線の長さが一定で、かつ、導線の方向に沿った厚みが曲率半径に比例するように定められたものとすることもできる。導線は、微分可能な任意の曲線とすることができ、放物線、楕円又は双曲線のいずれかであることが好ましく、変曲点を有する曲線とすることもできる。
【0014】
本発明は、さらに別の態様において、四角形の板状体から所望の湾曲形状を有する柱面体を設計する柱面体設計方法を提供する。本方法は、所望の湾曲形状を有する柱面について、その導線の方向に沿った曲率半径を計算する工程と、導線の方向に沿って、曲率半径に比例するように板状体の断面積を定める工程とを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、効果な工作機械や高度な鏡面加工を用いることなく、より容易かつ安価に、柱面体を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態による柱面体作製方法を用いて作製することができる反射鏡を有する光学システムの構成例を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態による柱面体作製方法を用いて作製することができる柱面体の一例である放物柱面体の模式図であり、(a)は湾曲前の板状体の平面図を示し、(b)は湾曲後の斜視図である。これは、導線の方向に沿った一方の辺が曲線であり、他方の辺が直線である放物柱面体である。
図3】本発明の一実施形態による柱面体作製方法を示すフロー図である。
図4】焦点距離が50mmの放物柱面体の作製において計算された曲率半径のグラフを示す。
図5】焦点距離が50mmの放物柱面体の作製において計算された放物線の長さのグラフの一部を示す。
図6】本発明の一実施形態による柱面体作製方法を用いて作製することができる柱面体の別の例である放物柱面体の模式図であり、(a)は湾曲前の板状体の平面図を示し、(b)は湾曲後の斜視図である。これは、導線の方向に沿った2辺がいずれも曲線である放物柱面体である。
図7】本発明に係る柱面体作製方法に従って幅が定められた柱面体と、幅方向の端部が除去されることなく湾曲させた柱面体との湾曲状態を比較したグラフである。
図8】本発明に係る柱面体作製方法に従って製作された楕円柱面体の試作品の写真である。
図9】焦点距離500mmの放物柱面を作製するために幅方向の端部の除去位置を示した実際の長方形板状体をトレースした図である。
図10】裏面をトレースした図9の板状体から端部を除去した後に湾曲させて作製された放物柱面を用いて構築された光学システムを示す。
図11】(a)は、図10の光学システムによって撮影された画像であり、(b)は、(a)を含む実際の風景の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を用いて、本発明の一実施形態を説明する。
以下においては、望遠鏡などの光学システムに用いることができる柱面体反射鏡を例として、本発明に係る柱面体作製方法を説明する。しかし、本発明に係る柱面体作製方法は、光学システムの反射鏡の設計や作製に用いられるだけではなく、他の種々の用途に用いられる柱面体の設計や作製に利用することもできる。本発明に係る柱面体作製方法は、例えば、建築物の外壁や屋根の形状の設計・製造、自動車の車体の設計・製造、電波を受信するためのアンテナ形状の設計・製造、レーダー用アンテナの代替用途として利用可能な、凹面が対向するように配置された2つの柱面体アンテナの設計などにも用いることができる。
【0018】
(光学システムの構成例)
図1は、本発明に係る作製方法によって作製された柱面体反射鏡を用いることができる光学システムの構成例を示す(特許文献2参照)。図1は、柱面体反射鏡を光学システムの主鏡として用いる例である。
【0019】
図1に示される光学システムは、物体Kからの光を反射させる主鏡Mと、主鏡Mから反射された光の光軸上に配置され、主鏡Mによって反射された光を透過させる柱状レンズL(集束体)とを含む。主鏡Mは、一方向にのみ(すなわち、図のy軸方向にのみ)に湾曲した凹形状の反射面12を有し、この反射面12は、物体Kからの光を反射させることができる柱面体反射鏡である。この光学システムで用いられている柱状レンズLを、例えば特許文献1に開示されるように、反射面が主鏡Mの方向に向いた柱面体反射鏡の副鏡に代えた光学システムも可能である。これらの主鏡や副鏡は、本発明に係る作製方法を用いて作製することができる。
【0020】
(柱面体の定義)
ここで、本明細書において柱面体とは、一曲線上を、これと一点で交わるような直線が、一定方向を保ちながら運動するときにできる曲面(柱面)を有する物体をいう。もとの曲線をその導線、柱面を形づくる一つ一つの直線をその母線という。
【0021】
(放物柱面体の作製)
[曲率半径に比例するように幅を変える方法]
図2は、本発明の一実施形態による柱面体作製方法によって作製することができる柱面体の一例である放物柱面体の模式図であり、(a)は湾曲前の板状体の平面図を示し、(b)は湾曲後の斜視図である。図3は、本発明の一実施形態による柱面体作製方法を示すフロー図である。以下、図2の柱面体を作製する方法を説明する。
【0022】
(1)放物柱面の曲率半径計算
まず、所望の湾曲形状を有する柱面について、その導線の方向に沿った曲率半径を計算する(図3のステップS1)。ここでは、所望の湾曲形状を有する柱面体は放物柱面体であるので、導線は放物線である。放物線は、以下の式(1)によって表される。
y=f(x)=ax (1)
【0023】
微分可能な任意の曲線を表す関数y=f(x)の曲率半径rは、例えば非特許文献1や非特許文献2などで示されるように、以下の式(2)から求めることができる。
【数1】
ここで、(1)の放物線の場合、y’=2ax、y”=2aなので、放物線の曲率半径r(放物線)は、
【数2】
となる。(3)式によって、ある板状体の長さ方向の中間をx軸の原点としたときに、xの値に対応する放物線の曲率半径を計算することができる。
【0024】
(2)板状体の作製
次に、上記の方法で計算された曲率半径に比例するように、導線の方向に沿って断面積が定められた板状体を作製する(図3のステップS2)。
本発明者は、微分可能な任意の曲線を表す関数fから得られる曲率半径rを計算し、関数fの曲線に沿った長さ方向を有する板状体の断面積を、計算された曲率半径rに比例するように変化させて、その板状体を湾曲させれば、関数fの曲線(これが、柱面体の導線になる)に直交する母線を有する柱面体を作製できることを見出した。1つの実施形態において、導線に沿った板状体の断面積を曲率半径に比例するように定める方法として、厚みが均一で、かつ、導線に直交する母線の長さ(すなわち、板状体の幅)が曲率半径に比例するように定める方法が考えられる。
【0025】
ここでは、具体的な例として、長さ450mm×幅150mm×厚み1mmの長方形板状体を準備し、この長方形板状体の幅を長さ方向に沿って変えることによって、焦点距離f=50mmの放物柱面を形成する板状体を作製する。焦点距離f=50mmの放物線の場合、(1)式のaは、
1/(4f)=a (4)
の関係から、a=0.005である。このaを(3)式に代入することによって、xの位置における放物線の曲率半径が求められる。図4は、このようにして計算された曲率半径のグラフを示し、長方形板状体の長さ方向の中央をx軸の0としたときのxの値に対応する曲率半径r(放物線)をプロットしたものである。
【0026】
次に、必要に応じて、x軸上の位置に対応する長方形板状体の長さ方向に沿った位置、すなわち、長さ方向の中央からx軸上の位置に対応する位置までの板状体の長さを求める。
上記の(3)式によって求められる曲率半径rは、x軸上の値に対応する位置における放物線の曲率半径である。しかし、柱面体は湾曲しているので、板状体の長さ方向の中央(すなわち、x軸の0点)から端部方向に向かってxの値に対応する位置までの板状体に沿った長さと、0点からそのxの値までのx軸に沿った長さとは異なっており、板状体に沿った長さの方がx軸に沿った長さより長くなる。したがって、長方形板状体の長さ方向に沿って曲率半径に比例するように幅を決定するためには、長さ方向の中央からx軸上の値pと、pに対応する位置までの板状体の長さLとの関係を求めることが必要な場合がある。ただし、曲率半径の大きな柱面体(焦点距離の大きな柱面体)では、例えば反射鏡として必要となる導線方向の長さの範囲内では、x軸上の長さと柱面体に沿った長さとの間に殆ど差がない場合もあるので、pとLの関係を求めるこのステップは、必須ではない。
【0027】
(1)式の放物線において、原点からx=pの位置までの放物線の長さLは、
【数3】
である。(5)式においてt=2axとすると、(5)式は次のとおりである。
【数4】
ここで、
【数5】
の関係を用いると、Lは、以下の(8)式で表される。
【数6】
図5は、焦点距離が50mmの放物柱面体の作製において計算された、板状体の長さのグラフの一部を示す。
【0028】
以上の考え方に基づいて、曲率半径に比例するように導線方向に沿って幅を計算し、計算された幅を有する板状体を作製する。ここでは、元の長方形板状体から端部を物理的に除去することによって、曲率半径に比例するように導線方向に沿って幅が定められた板状体を作製する方法を説明する。しかし、これに限定されるものではなく、導線方向に沿って計算された幅をあらかじめ有する板状板を作製するようにしてもよい。
【0029】
長方形板状体の端部を除去することによって、導線方向に沿った幅を変える方法として、長方形板状体の幅方向の一方の端部のみを除去する方法と、幅方向の両方の端部を削除する方法がある。幅方向の一方の端部のみを除去する方法を用いた場合には、導線の方向に沿った一方の辺が直線であり、他方の辺が曲線である板状体が得られる。幅方向の両方の端部を削除する方法を用いた場合は、導線の方向に沿った2辺がいずれも曲線である板状体が得られる。図2に示される放物柱面体は、前者の方法、すなわち、長方形板状体の幅方向の一方の端部のみを除去する方法を用いて作製された柱面体である。
【0030】
表1は、放物柱面体の作製に用いた数値の一部である。表1において、pは、x軸上の0点からの長さ(mm)、Lは、x軸上のpに対応する位置までの導線(放物線)の長さ(mm)、rは、pの位置における導線(放物線)の曲率半径(mm)である。導線の長さは、板状体の長さに対応する。表中のr(p)は、x=pの位置における板状体の曲率半径、r(pe)は、板状体の長さ方向中央をx軸上の0点としたときの板状体の長さ方向端部、すなわちL=450/2=225mmの位置における板状体の曲率半径である。r(p)/r(pe)は、端部の位置における曲率半径に対する位置pにおける曲率半径の比を示しており、したがって、この比にしたがって、板状体の幅を決めればよい(図3のステップS2-1)。なお、表1においては、表を簡素にするためにすべてのp及びそれに対応する数値が記載されてはおらず、代表的な点のみ記載されている。pの粒度は、放物柱面体のサイズ、焦点距離などの状況に応じて決定すればよい。
【0031】
【表1】
【0032】
図2(a)は、表1にしたがって長方形板状体の幅方向の一方の端部のみを除去することによって作製された湾曲前の板状体の模式的な平面図であり、図2(b)に示される放物柱面体は、図2(a)の板状体を湾曲させて得られる柱面体の模式的な斜視図である。一方、長方形板状体の幅方向の両方の端部を除去することによって、放物柱面体を作製することも可能である。この場合には、表1の比にしたがって、板状体の両方の端部を均等に、又は一方の端部を他方の端部より大きく除去することによって、導線の方向に沿った2辺がいずれも曲線である板状体を得ることができる。図6は、このようにして得られる放物柱面体の模式図であり、図6(a)は、長方形板状体の幅方向の両方の端部を除去することによって作製された湾曲前の板状体の模式的な平面図であり、図6(b)は、図6(a)の板状体を湾曲させて得られる柱面体の模式的な斜視図である。
【0033】
[曲率半径に比例するように厚みを変える方法]
ここまで、導線方向に沿って曲率半径に比例するように幅が定められた板状体の作製方法を説明したが、断面積が曲率半径に比例する板状体を実現する別の手段として、板状体の導線方向に沿って厚みを変えるようにすることもできる(図3のステップS2-2)。厚みを変える方法は、限定されるものではない。例えば、板状体のいずれか一方の面又は両方の面を削ることによって、断面積が曲率半径に比例する板状体を作製することができる。反射鏡を作製する場合には、反射面とは反対側の面を削ることが好ましい。あるいは、板状体の一方の面又は他方の面に、例えばパテなどを塗布することによって、厚みを変えることができる。あるいは、導線方向に沿って計算された厚みをあらかじめ有する板状板を作製するようにしてもよい。
【0034】
さらに、板状体の導線方向に沿って厚みを変える手段として、導線に直交する方向に延びる溝を曲率半径に反比例する密度で形成することもできる。具体的には、板状体の幅方向の端部間にわたって導線に直交する方向に延びる溝が、板状体の長さ方向に沿って密度を変えて形成される。板状体の長さ方向の端部付近では隣接する溝の間隔が広く、長さ方向の中央部に向かうにつれて隣接する溝の幅が狭くなるように、複数の溝を形成することができる。この溝によって、板状体の長さ方向の単位長さ当たりの溝密度が端部から中央部に向かって次第に高くなり、溝密度の高い場所では、一定の範囲内で考えれば板状体の厚みを小さくしたことと同等であり、溝密度の低い場所では板状体の厚みを大きくしたことと同等である。
【0035】
(3)板状体の湾曲
次に、上記(2)で作製された板状板、すなわち、曲率半径に比例するように導線方向に沿って幅が変わる板状体、又は、曲率半径に比例するように導線方向に沿って厚みが変わる板状体を、導線方向に沿って湾曲させ、導線方向の中央を挟んで対向する少なくとも2箇所を湾曲した状態で固定することによって、所望の焦点距離を有する放物柱面体を作製することができる(図3のステップS3)。
【0036】
板状体を湾曲させる1つの方法として、板状体の導線に沿った方向(すなわち、長さ方向)の両端部を互いに連結させて固定する。板状体は、長さ方向の中央をx軸の0点に配置したときに、導線の両端部が所望の放物線上に位置するように固定される。表1で示される数値を有する板状体の場合、板状体の両端部(中央からそれぞれL=225mmの長さ)は、放物線上のx=166.07及び-166.07に対応する箇所で固定される。板状体の両端部が、このように放物線上に位置するように固定されれば、板状体のその他の部分は、自動的に所望の放物線の形状に一致し、この放物線を導線とする放物柱面体を得ることができる。固定する部分は、両端部より原点に近い放物線上のいずれかの2点とすることもできるこの場合、固定された2点間は、所望の放物線に一致する形状を有する放物柱面体であり、それらの固定点より外側は湾曲しない。
【0037】
板状体の両端部は、例えば、1つ又は複数のネジシャフト及びナットで両端間を連結したり、テープや紐などを両端部の間に渡したりすることによって、必要な位置、すなわち所望の放物線上で固定することができる。あるいは、例えば、板状体の大きさに対応する平板を準備し、板状体の長さ方向の中央部を平板に固定し、板状体の両端部を平板の面から延びる支持部材で支持することによって、両端部を必要な位置に固定することもできる。
【0038】
以上のとおり、本発明によれば、導線の方向に沿って計算された曲率半径に比例するように導線の方向に沿って定められた断面積を有する放物柱面体を得ることができる。厚みが均一な板状体の導線の方向に沿って板状体の幅を変化させれば、導線に直交する母線の長さ、すなわち幅が曲率半径に比例するように定められた放物柱面体を得ることができる。また、幅が一定の板状体の導線の方向に沿って板状体の厚みを変化させれば、導線に直交する母線の長さが一定で、厚みが曲率半径に比例するように定められた放物柱面体を得ることができる。
【0039】
(4)端部が除去されていない長方形柱面体との比較
本発明の方法にしたがって曲率半径と比例するように幅が定められた柱面体と、幅方向の端部が除去されていない柱面体、すなわち長方形板状体をそのまま湾曲させた柱面体とを比較する。図7は、両者の湾曲状態を比較したグラフである。図7において、線Bは、上記の具体例と同じ大きさ、すなわち、長さ450mm×幅150mm×厚み1mmの長方形板状体を湾曲させた柱面体の辺をトレースした線であり、線Aは、線Bの柱面体と同じ大きさの柱面体から表1に従って幅方向の一方の端部を除去した柱面体(すなわち図2(b)の柱面体)の削除されていない辺をトレースした線である。図7のグラフにおける●は、(1)式及び(4)式においてf=50とした放物線の計算値である。いずれの線も、両端部は、放物線上に位置する。
【0040】
本発明に係る方法で作製された柱面体の線Aは、所望の湾曲形状である放物線の計算値(●)と極めてよく一致しているのに対して、線Bは、固定部分と原点との間が放物線より外側に膨らんでいる。これは、線Aの柱面体は、長さ方向の位置によって断面積が異なる、すなわち、湾曲させたときに放物線に一致するように断面積が定められているのに対して、線Bの柱面体では長さ方向の位置で断面積に変化がなく、したがって、線Bの柱面体は、同じ長さ方向位置では線Aの柱面体より断面積が大きく、長さ方向の両端部を固定して湾曲させたときに線Aの柱面体より外側に拡がろうとする力が強いためであると考えられる。この結果からも、本発明によれば、ある微分可能な関数fから得られる曲率半径rに比例するように断面積Aを関数fの曲線に沿って予め変化させておくと、関数fを導線とする柱面体の作製が可能であることがわかる。
【0041】
(他の柱面体の作製)
上記では、微分可能な任意の曲線として放物線を例として説明したが、こうした曲線は放物線に限定されるものではなく、種々の曲線について同様に柱面体を作製することができる。例えば、楕円柱面は、上で説明した放物柱面と同様に、以下の楕円式(9)から曲率半径を求め、曲率半径に比例するように、導線の方向に沿って断面積が定められた板状体を作成し、その板状体を湾曲させることによって、作製することができる。
【数7】
【0042】
具体的には、楕円式(9)から式(2)を用いて求められた曲率半径r(楕円)は、以下の式(10)で表される。
【数8】
【0043】
この(10)式に基づき、曲率半径に比例するように導線方向に沿って幅を計算し、楕円を導線とする楕円柱面体を作製する。元の長方形板状体から一方の端部を物理的に除去することによって楕円柱面体を作製するために用いられる数値は、表2のようになる。この数値は、長軸2a、短軸2bの場合の楕円について、a=60、b=30として求めたものである。
【表2】
【0044】
この表において、pは、楕円上のx座標の値(p=0は、楕円の(0、b)に対応する)である。また、Lは、座標(0、b)又は(0、-b)から、x=pの値に対応する位置までの楕円の弧長(mm)である。楕円の弧長は、楕円柱を拡げて展開した板状体の長さ方向端部から一辺に沿った長さに対応する。rは、pの値に対応する位置における楕円の曲率半径(mm)である。表中のr(p)は、x=pの位置における楕円の曲率半径、r(pe)は、p=0の位置における楕円の曲率半径である。r(p)/r(pe)は、p=0の位置における曲率半径に対する位置pにおける曲率半径の比を示しており、したがって、この比にしたがって、板状体の幅を決めればよい。
【0045】
なお、楕円柱を拡げて板状体に展開したとき、楕円上のx=0の位置(座標(0、b)又は(0、-b))から、x=pに対応する位置までの板状体の長さ(すなわち、楕円の弧長)は、例えば、楕円の弧長を計算するための当業者に周知の(11)式で求められる。ここでθは、x=pの楕円上の点と原点を結んだ線と、楕円の短軸との間の角度(扇形の中心角)である。
【数9】
表2においても、表を簡素にするために、すべてのp及びそれに対応する数値は記載されているわけではなく、代表的な点のみ記載されている。pの粒度は、楕円柱面体のサイズ、焦点距離などの状況に応じて決定すればよい。
【0046】
このように作製された板状板、すなわち、曲率半径に比例するように導線方向に沿って幅を変化させた板状体を、導線方向に沿って湾曲させ、両端を互いに固定することによって、導線が楕円である楕円柱面体を作製することができる。図8は、こうして製作された楕円柱面体の試作品の写真である。試作された楕円柱面体は、導線が楕円式(9)とほぼ一致した。このように作製された楕円柱面体を用いた楕円柱面鏡は、その全部を利用して、又は導線方向に沿った一部を必要に応じて利用して、例えば、単結晶作成方法の一つであるフローティングゾーン法に用いられるフローティングゾーン炉の反射鏡として応用することができる。
【0047】
同様に、双極柱面は、以下の式に基づいて作製することができる。
【数10】
【0048】
一般に、本発明によれば、微分可能な任意の曲線を導線とする柱面体を作製することもできる。また、変曲点を有する曲線は、以下の式で表される。
【数11】
変曲点を持つ曲線を導線とする柱面体を湾曲させる場合は、板状体の両端部に加えて、変曲点においても固定されることが好ましい。
【実施例
【0049】
実施例として、焦点距離f=500mmの放物柱面反射鏡を作製し、この反射鏡を用いて光学システムを構築した。構築された光学システムを用いて、実際の風景を撮影した。
放物柱面反射鏡を作製するために、長さ270mm×幅150mm×厚み2mmのアクリルミラーを準備した。焦点距離f=500mmの放物線は、(1)式及び(4)式から以下の(14)式で表される。
y=(5×10-4)x (14)
この放物線の曲率半径は、(3)式から、
【数12】
となる。この式に基づいて、表1と同様に、以下のとおり各数値を求めた。表3においても、表を簡素にするためにすべてのp及びそれに対応する数値が記載されてはいない。
【0050】
【表3】
【0051】
このようにして計算された比にしたがって板状体の幅を計算し、除去すべき端部の位置の線を、準備したアクリルミラーの反射面とは反対の面(裏面)に記した。図9は、除去位置を示す線が記された実際のアクリルミラーの裏面をトレースした図である。次に、この線に沿ってアクリルミラーの端部を除去した。端部が除去されたアクリルミラーの長さ方向の両端部を、両ネジシャフト及びナットで固定した。両ネジシャフト及びナットを用いることによって、長さ方向の端部が所望の放物線上に位置するように微調整を行うことができる。このようにして作製された放物柱面反射鏡を用いて、図10に示される光学システムを構築した。図10の光学システムは、図1(a)に示される光学システムを実現したものであり、作製された放物柱面反射鏡を、被写体からの光を反射させる主鏡として用い、主鏡から反射された光の光軸上に配置され、主鏡Mによって反射された光を透過して屈折させる副鏡である柱状凸レンズ(焦点距離f=200mm)と、柱状凸レンズを透過した光を受ける受光部としての斜鏡とを備える。
【0052】
図10の光学システムを用いて撮影された写真を図11(a)に示す。この写真は、図10の光学システムの受光部に写った像をカメラで撮影することによって得られたものである。この写真には、図11(b)に示される景色の中央部に見られる建物の屋根が明瞭に写っていることがわかる。なお、図11(b)は、一般的なデジタルカメラで撮影された写真である。図11(a)の写真では、実際の景色と比較して屋根が縦に引き伸ばされたように撮影されているが、これは、この光学システムの主鏡(放物柱面反射鏡)と副鏡(柱状凸レンズ)の焦点距離が異なることによる歪みである。この歪みは、必要に応じて副鏡の後段(すなわち、光の進行方向下流側)に別のレンズを配置したり、補正用ソフトウェアを用いたりすることによって、容易に補正することができる。

【要約】
【課題】 より容易かつ安価に、柱面体を作製することができる柱面体製造方法を提供する。
【解決手段】 本方法は、所望の湾曲形状を有する柱面について、その導線の方向に沿った曲率半径を計算する工程と、曲率半径に比例するように導線の方向に沿って断面積が定められた板状体を作製する工程と、板状体を導線の方向に沿って湾曲させる工程とを含む。導線は、微分可能な任意の曲線とすることができ、放物線、楕円又は双曲線のいずれかであることが好ましく、変曲点を有する曲線とすることもできる。
【選択図】 図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11