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特許7519183可撓性の超薄型ハイブリッド吸収性‐反射性薄膜フィルタおよびその作製方法
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  • 特許-可撓性の超薄型ハイブリッド吸収性‐反射性薄膜フィルタおよびその作製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】可撓性の超薄型ハイブリッド吸収性‐反射性薄膜フィルタおよびその作製方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/28 20060101AFI20240711BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240711BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20240711BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
G02B5/28
B32B7/023
G02B5/22
G02C7/10
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019563489
(86)(22)【出願日】2018-05-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-16
(86)【国際出願番号】 US2018032872
(87)【国際公開番号】W WO2018213380
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-05-17
(31)【優先権主張番号】62/537,566
(32)【優先日】2017-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/507,417
(32)【優先日】2017-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518169772
【氏名又は名称】エヴェリックス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100123630
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】バナエイ エスマエイル
(72)【発明者】
【氏名】ボガ ジャスティン
(72)【発明者】
【氏名】ビッソン クリスティーナ マリー
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-223794(JP,A)
【文献】特開2017-062479(JP,A)
【文献】国際公開第2017/058562(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0025232(US,A1)
【文献】特表2010-524726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22-5/28
B32B 7/023
G02C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに積層された複数の膜層を有するハイブリッド光フィルタであって、前記膜層のうちの少なくとも1つは、ポリマー膜層であり、前記ハイブリッド光フィルタは、少なくとも2つの互いに異なる波長依存性光学フィルタリング特性の組み合わせを単一のハイブリッド光フィルタ内に実現し、
前記複数の膜層は、夫々0.1mmから5mmまでの範囲内の厚さを有し、
前記複数の膜層のうちの少なくとも1つの膜層は、超薄型且つ可撓性の吸収性フィルタと干渉フィルタの両方であり
前記複数の膜層は湾曲している、ハイブリッド光フィルタ。
【請求項2】
前記光学フィルタリング特性のうちの少なくとも1つは、光の第1の波長範囲の吸収性遮断であり、前記光学フィルタリング特性のうちの少なくとも1つとしての第2は、光の第2の波長範囲の干渉を利用した遮断である、請求項1記載のハイブリッド光フィルタ。
【請求項3】
前記第2の波長範囲の前記干渉を利用した遮断は、前記第1の波長範囲の前記吸収性遮断のスペクトル第1遮断フランクよりも急峻なスペクトル第2遮断フランクを形成している、請求項2記載のハイブリッド光フィルタ。
【請求項4】
前記スペクトル第1遮断フランクは、前記干渉を利用した遮断によって遮断される波長範囲にわたって延びる、請求項3記載のハイブリッド光フィルタ。
【請求項5】
前記光学フィルタリング特性のうちの少なくとも1つとしての第3は、光の第3の波長範囲の干渉を利用した遮断であり、前記第1の波長範囲、前記第2の波長範囲、および前記第3の波長範囲は、互いに異なっている、請求項2記載のハイブリッド光フィルタ。
【請求項6】
前記光学フィルタリング特性のうちの少なくとも2つは、光の第1の波長範囲の干渉を利用した遮断および光の第2の波長範囲の干渉を利用した遮断であり、前記第1の波長範囲と前記第2の波長範囲は、互いにオフセットしている、請求項1記載のハイブリッド光フィルタ。
【請求項7】
前記第1の波長範囲と前記第2の波長範囲は、オーバーラップしている、請求項6記載のハイブリッド光フィルタ。
【請求項8】
前記複数の膜層のうちの少なくとも1つの膜層は、吸収性フィルタ層であり、前記複数の膜層のうちの少なくとももう1つの膜層は、干渉フィルタ層である、請求項1記載のハイブリッド光フィルタ。
【請求項9】
前記少なくとも1つの干渉フィルタ層は、少なくとも2つの干渉フィルタ層であり、前記少なくとも1つの吸収性フィルタ層は、前記少なくとも2つの干渉フィルタ層のうちの2つの間に配置されている、請求項8記載のハイブリッド光フィルタ。
【請求項10】
前記複数の膜層のうちの少なくとも1つの最も外側の層は、明澄で透明な保護層である、請求項1記載のハイブリッド光フィルタ。
【請求項11】
前記複数の膜層は、少なくとも2つの干渉フィルタ層および少なくとも2つの吸収性フィルタ層を含み、前記干渉フィルタ層と前記吸収性フィルタ層は、交互の順序で配置されている、請求項1記載のハイブリッド光フィルタ。
【請求項12】
少なくとも2つのポリマー膜層を有するハイブリッド光フィルタを単一の超薄型フィルタ内に作製する方法であって、前記方法は、
前記少なくとも2つのポリマー膜層を該少なくとも2つのポリマー膜層相互間に屈折率整合液または接着剤層を用いて互いに積層して個々のフィルタ層相互間のインターフェースのところにおける全内反射を減少させるステップと、
前記少なくとも2つのポリマー膜層のうちの第1の1つの形状を湾曲面の形状に適合させるステップと、
次に、前記少なくとも2つのポリマー膜層のうちの第2の1つを前記第1のポリマー膜層上に積層するステップとを含み、
前記ハイブリッド光フィルタは、少なくとも2つの互いに異なる波長依存性光学フィルタリング特性を実現し、前記少なくとも2つのポリマー膜層のうちの少なくとも1つは、光フィルタ膜であり、
前記少なくとも2つのポリマー膜層は、夫々0.1mmから5mmまでの範囲内の厚さを有する、方法。
【請求項13】
前記第1のポリマー膜層への前記第2のポリマー膜層の積層に先立って、前記第2のポリマー膜層の形状を前記第1のポリマー膜層の形状に適合させるステップをさらに含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも2つのポリマー膜層は、明澄で透明な保護膜層である1つの最も外側の膜層を含む、請求項12記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、種々の光学用途向けのハイブリッド光フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
干渉光フィルタは、本来的に複雑であって1つには高い光学密度を得るのに必要な複雑な層構造体のために、製造するのに費用が高くつく。フィルタ処理されまたはフィルタリングされた光のスペクトル形状を微調整する能力は、干渉フィルタの利点のうちの1つである。これと比較して、吸収性フィルタは、比較的高い光学密度を容易に達成することができるが、フィルタリングされた光のスペクトル形状を微調整する能力を欠いている。吸収性フィルタはまた、干渉フィルタを悩ませるスペクトルの角度シフトを欠いている。吸収性および干渉技術を組み合わせて単一の光フィルタを作ることは、両方の形式のフィルタの利点を享受する。
【0003】
伝統的に、かかるハイブリッド吸収性干渉フィルタは、顔料入りプラスチックまたはガラスの基板上への透明な薄膜光学層の真空蒸着により作られる。光学薄膜層は、ハイブリッドフィルタの干渉コンポーネントを形成しかつ基板中の吸収性要素を補完して広い遮断範囲、高い遮断光学密度を生じさせまたは入射角とは独立したフィルタの透過曲線のある特定の部分を作る。
【0004】
それにもかかわらず、この伝統的な方式には2、3の欠点が存在する。顔料入り基板材料は典型的には、高い光学密度をもたらすためには厚さが数ミリメートルでなければならず、より重要なこととして、真空めっきプロセスにとって実用的でなければならない。加うるに、真空めっきプロセスは、かかる高性能ハイブリッドフィルタのコンシューマ用途を迅速に成長させるための経済的な解決策を提供するためには安価なスケーラビリティが不十分であることが判明した。また、伝統的な真空めっきハイブリッドフィルタは、平坦な幾何学的形状に限定され、これに対し、幾つかの技術分野は、可撓性または湾曲したフィルタの恩恵を受けることができる。例えば、ディスプレイおよび照明用途で用いられるLED光源は常時、幾分かの角度発散を実証している。扁平なフィルタがこれら光源上にまたはこれら光源の前に配置される場合、放出された光の種々の部分は、フィルタの種々のシフトされたスペクトルを受け、システムの円錐半角(CHA)を制限する。可撓性または湾曲フィルタは、広い角度範囲にわたって光源の波面に垂直なフィルタ表面を作る曲率によってこの作用効果を補償することができる。
【0005】
米国特許出願公開第2014/0242329(A1)号明細書は、構造体化プリフォームブロックの加熱延伸を用いて薄膜光フィルタを作製する方法を記載している。この方法は、全プラスチック可撓性超薄膜およびシートの形態とした薄膜干渉光フィルタの製造を可能にする。この方法は、著しく高いスケーラビリティをもたらすとともにさらに上述の技術的利点が得られるよう曲がることができ、そして湾曲面に合致することができる超薄型フィルタを提供することによって伝統的な真空めっき薄膜フィルタの2つの大きな欠点を解決している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2014/0242329(A1)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、全プラスチックフィルタの副層(サブレーヤ)相互間の僅かな屈折率コントラストは、広いスペクトル範囲にわたって達成可能な光学密度を制限する。多くの場合、数千個の層が4よりも大きい光学密度での可視光スペクトル全体にわたって数百ナノメートルを遮断するのに必要となる。かかる多数の層をプリフォームブロックおよびフィルタ内に設けることは、事実上困難でありかつ高価である。加うるに、数千個の副層を含む加熱延伸フィルタは、通常厚すぎて上述の利点が得られるのに十分な可撓性を提供することができない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、ハイブリッド光フィルタが互いに積層された複数の膜層を有する。これにより、フィルタは、曲げ可能でありかつ少なくとも2つの互いに異なる波長依存性光学フィルタリング特性の組み合わせを単一のハイブリッド光フィルタ内に実現するに足る可撓性を呈する。
【0009】
例えば、光学フィルタリング特性のうちの2つまたは3つ以上は、光の互いに異なる波長範囲の干渉を利用した遮断によってもたらすことができる。
【0010】
追加的にまたは代替的に、光学フィルタリング特性のうちの少なくとも1つは、光の第1の波長範囲の吸収性遮断であるのが良く、光学フィルタリング特性のうちの少なくとももう1つは、光の第2の波長範囲の干渉を利用した遮断である。
【0011】
第1の波長範囲と第2の波長範囲は、カスタマイズされた遮断波長範囲を提供するようオーバーラップするのが良い。
【0012】
遮断フランク(blocking flank)の正確な付形のため、第2の波長範囲の干渉を利用した遮断は、第1の波長範囲の吸収性遮断のスペクトル第1遮断フランクよりも急峻なスペクトル第2遮断フランクを形成する。これにより、吸収性フィルタによる広い波長範囲およびダイクロイックフィルタとも呼ばれる干渉フィルタによる正確なカットオフフランクが可能である。
【0013】
好ましくは、勾配の付いたまたは傾斜したスペクトル第1遮断フランクは、干渉を利用した遮断によって遮断された波長範囲にわたって延び、その結果、干渉フィルタは、これに代えて、遮断された波長範囲のフランクの急峻なエッジを提供することができるようになっている。
【0014】
一実施形態によれば、光フィルタのハイブリッド機能性は、吸収性フィルタ層として複数の膜層のうちの少なくとも1つの膜層および干渉フィルタ層として複数の膜層のうちの少なくとももう1つの膜層を提供することによって達成できる。各干渉フィルタ層は、多層膜であるのが良く、この多層膜では、干渉フィルタ層の多層構造体の各副層は、厚さおよびそれぞれ反射されたり透過されたりすべき波長に全体として公知の仕方で適合した屈折率を有する。
【0015】
少なくとも1つの干渉フィルタ層が少なくとも2つの干渉フィルタ層を含む場合、吸収性フィルタ層は、少なくとも2つの干渉フィルタ層のうちの2つの間に配置される。これは、吸収が吸収性層中に含まれている染料によって実施される場合に特に有益である。この干渉フィルタ層は、染料分子が出て環境に対する損傷をもたらさないよう保護する。
【0016】
変形例として、膜層のうちの少なくとも1つの膜層は、吸収性フィルタと干渉フィルタの両方であるのが良く、少なくとも多層構造体の副層のうちの幾つかの中で干渉フィルタ膜には顔料または染料がドープされる。
【0017】
1つのまたは複数の個々のフィルタ層にもかかわらず、複数の膜層のうちの少なくとも最も外側の層は、フィルタ機能を有するフィルタ膜層を遮蔽する明澄で透明な保護層であるのが良い。「明澄な」という用語は、色の変わる染料、顔料、または他のドープ剤が存在しないことを意味し、「透明な」という用語は、光の波長依存性遮断を生じさせる層材料に追加の構造体が加えられないことを意味する。透明な性質は、本発明では、少なくとも光スペクトルの標的範囲にわたり光強度の少なくとも90%の透過を可能にする性質として定義され、光スペクトルの標的範囲は、例えば、可視スペクトル、赤外線スペクトルの一部または全体、紫外スペクトル内の一範囲、または可視スペクトル内にかつ可視光スペクトル内で部分的に延びかつ可視光スペクトルの外側に部分的に延びる範囲であるのが良い。
【0018】
複数のポリマー膜層が少なくとも2つの干渉フィルタ層および少なくとも2つの吸収フィルタ層を含む実施形態では、干渉フィルタ層と吸収性フィルタ層は、交互の順序で配置されるのが良い。
【0019】
ハイブリッド光フィルタを製造するには、少なくとも2つの超薄型ポリマー膜層相互間に屈折率整合液または接着剤層を用いて少なくとも2つの超薄型ポリマー膜層を互いに積層して個々のフィルタ層相互間のインターフェースのところにおける全反射を減少させるのが良い。ハイブリッド光フィルタを所望の曲率まで付形するため、最初に、少なくとも2つのポリマー膜層のうちの第1の1つの形状を湾曲面の形状に適合させるのが良く、次に、少なくとも2つのポリマー膜層の第2の1つを第1のポリマー膜層上に積層するのが良い。
【0020】
オプションとして、第1のポリマー膜層への第2のポリマー膜層の積層に先立って、第2のポリマー膜層を第1のポリマー膜層の形状に付形しても良い。しかしながら、個々のポリマー層は、組み立て状態の積層構造体よりも極めて可撓性が高いので、全体として平べったい第2のポリマー層が積層によって湾曲面に適合されるようこのステップを省略することはできない。
【0021】
同様な検討事項は、3つ以上の層を含む複数の層に当てはまる。あらかじめ付形された次の層を全て一ステップであらかじめ付形された層と積層するのが良く、他方、平べったい層を湾曲した表面に積層することは、数個の連続した積層ステップを必要とする場合がある。
【0022】
本発明の別の細部および別の利点は、添付の図面による好ましい実施形態の以下の説明から明らかになろう。
【0023】
図面は、本明細書では、純粋に例示目的のために設けられており、本発明の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】互いに異なる光学的性質を備えた2つのポリマー層を互いに積層してハイブリッド光フィルタを形成する仕方を示す基本略図である。
図2A】ハイブリッド光フィルタの第1の実施例を示す図である。
図2B】ハイブリッド光フィルタの第2の実施例を示す図である。
図3A】ハイブリッド光フィルタの第3の実施例を示す図である。
図3B】ハイブリッド光フィルタの第4の実施例を示す図である。
図4】ハイブリッド光フィルタの第5の実施例を示す図である。
図5A】湾曲したハイブリッド光フィルタを組み立てる第1の実施例を示す図である。
図5B】湾曲したハイブリッド光フィルタを組み立てる第2の実施例を示す図である。
図6】本発明に係るハイブリッド光帯域フィルタにより遮断されたり透過されたりするスペクトル範囲の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、多数の超薄型フィルタまたは多数のフィルタリング機構(すなわち、吸収および干渉)を単一の超薄型フィルタ内に組み合わせることによって公知の光フィルタの欠点を解決するための種々の観点を有する。
【0026】
多数の個々に作製された干渉フィルタ層を組み合わる
【0027】
図1に示されたハイブリッド光フィルタ110の基本的な一実施形態では、個々に作製される少なくとも2つの超薄型光フィルタ層112,114は、個々のフィルタ層相互間のインターフェースのところでの全反射を減少させるよう液体の形態をした屈折率整合接着剤116またはこれらフィルタ層相互間の接着剤層を用いて互いに積層される。フィルタ層112,114のうちの少なくとも一方は、ポリマー膜層である。ハイブリッド光フィルタ110は、少数のフィルタ層による高い遮断性を提供するために低屈折率ポリマーおよび高屈折率低温ガラスの交互に位置する層をさらに含むのが良い。
【0028】
フィルタ層112,114の各々は、多層干渉フィルタ膜であるのが良く、この多層干渉フィルタ膜は、それ自体、ダイクロイックフィルタを形成する多くの極めて薄い副層から成る。この原理は、図1に示されており、ただし、フィルタ層のうちの1つは、吸収性フィルタ層として示されている。図1では、フィルタ層112は、干渉フィルタ膜であり、フィルタ層114は、ある特定の波長帯域幅だけがフィルタを通過することができるよう着色されたポリマー膜から成る吸収性フィルタ膜として示されている。2つの膜層112,114は、上述したように、液体または膜もしくは粘性の硬化性物質であるのが良い接着剤116で積層される。しかしながら、フィルタ層114は、変形例として、干渉フィルタ層であっても良く、これには限定されない。2つの膜層112,114を互いに接着させる変形例としての方法もまた、本発明の範囲に含まれる。個々のフィルタを互いに熱結合することは、保護ジャケットを有するフィルタ層については特に実行可能であり、したがって、内側干渉層を損傷させないでこれらの層を穏やかに温めることができ、そして互いに圧接することができる。別の利用可能なオプションは、超音波溶接および少なくとも2つのフィルタ膜層の積層である。これは、フィルタ膜材料を音波で加熱することによってプラスチック膜を融合させる方法である。
【0029】
個別的に作られた各フィルタ層112,114(および図1には示されてはいない任意の別のフィルタ層)は、純粋に干渉を利用したものであり、厚さは、0.05mmから1mmまでの範囲にある。このフィルタ組立体は、全ての個々のフィルタ層112,114を積層してこれらを組み合わせ状態の平べったいハイブリット光フィルタ110の状態にすることによって扁平な形態に構成できる。構成されて組み立てられたハイブリッド光フィルタ110は、もはや、個々のフィルタ層112,114と同じほど可撓性ではなくまたは曲がって小さな曲率半径を備えた湾曲面になりまたはかかるハイブリッド光フィルタを小さな曲率半径を備えた湾曲面に積層するのに足るほど可撓性ではない場合がある。しかしながら、かかるハイブリッド光フィルタは、大きな曲率半径を備えた円筒形表面にこのハイブリッド光フィルタを同形化するのに足るほど依然として可撓性であるのが良い。
【0030】
変形例として、図5Aに示されているように、個々の各フィルタ層512,514,516を最初に個々に曲げて所望の曲率にしまたは積層して湾曲面にし、そしてオプションとして、加熱して耐久性のある湾曲した形状を呈するようにしても良い。次に、あらかじめ付形されたフィルタ層を図1と関連して説明したように互いに積層するのが良い。変形例として、図5Bに示されているように、個々の平べったい層を互いに頂部上の湾曲面518に次々に積層しても良い。次に、この構成は、個々に作られた可撓性フィルタを組立体に積層することによって続行するのが良い。ハイブリッド光フィルタ510の完成後のスタックまたは組立体は、異なる曲率半径に適合するのに十分な可撓性を欠いている場合であっても、このスタックまたは組立体は、個々のフィルタ層512,514,516が可撓性であるので、湾曲面に依然として同形化する。加うるに、個々のフィルタ層512,514,516を1つずつ積層することにより、同じ全厚の1つの厚いフィルタを同一曲率に曲げる場合と比較して、組み立て後の湾曲したハイブリッド光フィルタ510に生じる応力が小さい。
【0031】
多数の個々の干渉フィルタ層をこの方式で組み合わせたとき、これらのスペクトル透過およびフィルタリング特性もまた組み合わさる。一実施例では、スペクトル曲線が同一である2つの干渉フィルタ層を組み合わせることは、これらの共有される遮断範囲に高い遮断(光学密度)を達成することができる。別の実施例では、各々が別個の狭いスペクトル範囲を遮断する多数のノッチフィルタ層を組み合わせてマルチノッチフィルタを形成するのが良い。変形例として、遮断範囲が隣り合っているまたはオーバーラップしている場合、組み合わせ後のフィルタ組立体は、広い遮断範囲を形成する場合がある。
【0032】
別の実施例では、波長λ1を超える光を遮断するロングパスフィルタを波長λ2を下回る光を遮断するショートパスフィルタと組み合わせると、波長範囲λ1~λ2の波長を透過させるがこの範囲から外れた光を遮断する帯域フィルタを形成することができる。
【0033】
多数の個々に作られた吸収性および干渉フィルタ層を組み合わせる
【0034】
上述したように、フィルタ組立体は、図1に示されている吸収性フィルタ層114と干渉を利用した反射性フィルタ層112の組み合わせであるのが良い。組み合わせ状態のハイブリッド光フィルタ110は、吸収性要素と反射性要素の両方を含むことができる。例えば、純粋に吸収性のフィルタ膜110またはシートを図1に示されているように純粋に反射性の干渉を利用したフィルタ膜114またはシート上に積層してこれと組み合わせるのが良く、あるいはこれと逆の関係が成り立つ。複数の吸収性層と干渉フィルタ層を組み合わせて単一の光ハイブリッド光フィルタにすることができる。これは、両方のフィルタ層112,114の利点および遮断特性を組み合わせることになり、それにより高い光学密度もしくは広い遮断スペクトル範囲または入射角に対する感度を小さくする。これは、加うるに、かかるハイブリッドフィルタ構造体を以下の図5Aおよび図5Bと関連して説明するように、湾曲フォーマットにまたは湾曲面上への積層状態に組み立てることを許容する。
【0035】
この構造体の層114を形成する個々の吸収性膜は、米国特許出願公開第2014/0242329(A1)号明細書の方法に類似した方法を用いて染料、吸収性顔料、または他のドープ剤が埋め込まれたプリフォームブロックの加熱延伸(thermal drawing)により、顔料入りの加熱押し出しにより、あるいは顔料入りメルトまたは溶液の注型により作られるのが良い。吸収性の組み合わせ型ハイブリッド光フィルタ層は、可撓性であっても良く、あるいは剛性であっても良く、厚さは、0.1mmから5mmまでの範囲にある。
【0036】
互いに異なる種類のプラスチック相互間の低い屈折率コントラストに起因して、数百から数千個の干渉フィルタ副層が1つの干渉フィルタ層の高い光学密度を達成するために必要とされる場合がある。非常に多くのフィルタ副層は、フィルタの製造および加工を複雑にかつ高価にする。
【0037】
吸収のための顔料もしくは有機染料または他のドープ剤を用いて干渉層を補完することにより、フィルタリングスペクトル形状を損なわないで、所望の光学密度を達成するのに必要な層の総数が減少する。この方式は、フィルタを製造するのに必要な時間、全製造コストを減少させ、そして潜在的にフィルタの可撓性を高める。
【0038】
吸収性フィルタ層114またはシートを干渉フィルタ112またはシートと組み合わせることにより、遮断スペクトル範囲が広がる一方で、図1に示されているように干渉フィルタ層112によって提供されるシャープな移行エッジが維持される。もう1つの例は、波長λ1よりも低い光の波長を吸収する吸収性フィルタ層114またはシートと波長λ2よりも高い光波長を反射する干渉フィルタ層112またはシートを組み合わせて波長範囲λ1~λ2の波長を透過し、この範囲から外れた波長を遮断する帯域フィルタを作ることである。
【0039】
吸収および干渉フィルタリングの原理を組み合わせる一実施例が図6に概略的に示されている。高い透過率から低い透過率まで漸次(浅い)移行部616,618を含む吸収性遮断範囲612,614を有する少なくとも2つの吸収性顔料を用いてひとまとまりで波長範囲λ1~λ2の外側にある光を吸収する1つまたは2つ以上の吸収性フィルタ膜またはシートの組み合わせが示されている。これは、シャープな(急峻な)移行エッジまたはフランク624,626を有する波長範囲λ1~λ2の帯域フィルタを形成するために1つまたは2つ以上の薄膜干渉フィルタ層620,622で補完されるのが良い。
【0040】
図6は、ある波長範囲にわたる光遮断率の略図である。かくして、100%のところに示された曲線は、全ての光を遮断し、0%のところでは、全ての光がフィルタを通過する。図6に示されたフィルタ特性の吸収性遮断範囲612,614は、両方とも、波長λ1,λ2相互間のスペクトル透過帯域Δλの両側の長波長範囲内と短波長範囲内にある。しかしながら、吸収性スペクトルでは代表的であるように、吸収スペクトルの移行エッジまたはフランク616,618は、かなり浅く、シャープなカットオフ波長を提供しない。かくして、少なくとも1つの干渉を利用したフィルタ層が追加され、この層は、スペクトル透過帯域Δλの低いカットオフλ1を定める1つの多層構造体およびスペクトル透過帯域Δλの上側のカットオフオフλ2を定める別の多層構造体を含む。干渉フィルタ要素によって遮断される波長範囲620,622の各々が1つまたは複数の吸収性フィルタ要素により遮断される波長範囲612,614よりも狭いが、干渉フィルタ層の遮断帯域幅は、吸収性フィルタ層の浅いフランク616,618を覆うに足るほど広い。これと類似して、図6に含まれるフィルタのサブセットだけを用いることによりまたは互いに異なるフィルタ特性を選択することによって改変された遮断スペクトルを達成することができる。吸収性遮断と干渉を利用した遮断の組み合わせにより、極めて薄いフィルタ膜が優れた光または遮断フランク624,626を達成することができる。
【0041】
吸収性層によって遮断される波長は、到来光の入射角とは独立しているが、浅いフランクを有する。干渉を利用した多層構造体は、シャープなカットオフエッジ、すなわち急峻なフランクを有するが、遮断される波長は、到来光の入射角に敏感である。この作用効果が望ましくない場合、欠点を最小限に抑えながら両方の原理の利点を得るためには湾曲した形状が上述したように設けられるのが良い。
【0042】
各吸収性膜またはシートは、広い範囲にわたりまたは互いに異なる範囲にわたって吸収するために種々の波長範囲で多数の吸収性顔料を含むのが良い。各干渉フィルタ層は、同様に、種々の広いまたは互いに異なるスペクトル範囲の光を反射するよう互いに異なる厚さの薄い光学副層を有するのが良い。
【0043】
1つのフィルタ膜またはシート内に吸収性要素と干渉要素を組み合わせる
【0044】
フィルタ膜またはシートの全厚または可撓性が限定要因ではない場合、多数の吸収性または干渉コンポーネントを熱的に同時に延伸された単一のフィルタ膜またはシート内に組み合わせるのが良い。この場合、大きな寸法のプリフォームブロックを以下に説明する種々の形態および構造体と組み立てる。次に、このプリフォームブロックを米国特許出願公開第2014/0242329(A1)号明細書に開示されている方法に従って熱的に延伸する。これは、種々の仕方で達成できる。
【0045】
図2Aに示されている一実施形態では、材料のマトリックス214,216は、吸収性顔料を含み、このマトリックスは、最終の光ハイブリッドフィルタ210内においては、干渉を利用したフィルタ層を形成する多層区分212を包囲している。この形態を備えたプリフォームブロックを熱的に延伸してハイブリッドフィルタ膜またはシートにする。吸収性マトリックス材料の厚さおよびドーピング濃度は、任意所望のブロッキングレベル(光学密度)が得られるよう調節することができる。多層区分内の光学薄膜層の初期厚さおよびサイズ減少比を調節すると、補完吸収性要素に対する標的スペクトル範囲の干渉反射を達成することができる。吸収区分と干渉区分の両方は、広いスペクトル範囲を遮断するよう設計されるとともに多数の顔料または光学層厚さを備えて作製できる。最終の光ハイブリットフィルタでは、層厚さは、プリフォームの層厚さに比例し、したがって、図2Aは、延伸プロセスの前と後の両方における相対的層厚さを表している。
【0046】
図2Bに示されている類似の実施形態では、多層区分212を包囲しているマトリックス材料の部分216だけが吸収性顔料を含んでいる。少なくとも1つの外側層218は、結果として得られる光ハイブリッドフィルタを外部損傷から保護する保護カバー膜を形成する。
【0047】
所望のスペクトル形状を得るのに必要な互いに異なる染料の量および濃度に応じて、マトリックスの一方の側か両方の側かのいずれかに吸収性材料をドープする。
【0048】
図3Aに示されている別の実施形態では、吸収性層314を数個の多層干渉層312相互間に織り交ぜる。これら光フィルタ層312,314は、オプションとして、2つの明澄な保護層316,318相互間にサンドイッチし、ジャケットを形成する。この形態は、吸収性層314の染料入りプラスチックを延伸プロセス中、過熱から保護するために用いられる。高い濃度のある特定の染料は、プラスチックのガラス転移温度を変化することが示された。明澄な層316,318は、吸収性フィルタ層314のプラスチックを直接的な熱から遮蔽しかくして吸収性フィルタ層314のプラスチックへの熱伝達を遅らせる。
【0049】
図3Bは、2つの明澄なジャケット層316相互間の同様な配置状態を示しているが、少ない層312,314が示されている。図3Bでは、全ての吸収性染料または顔料は、1つの吸収性層314内で組み合わされ、この吸収性層314は、両側が多層構造体によって包囲されている。これら多層構造体は、各々が種々の波長範囲を遮断するよう互いに異なる副層厚さの数個の多層スタックを含むのが良い干渉フィルタ層314を形成する。
【0050】
図4に示されている別の実施形態では、干渉反射効果を生じさせる多層光学薄膜は、互いに異なる屈折率を有し、少なくとも1つの吸収性材料で着色された光学材料(例えば、ポリマー)で作られている。このやり方の利点は、吸収性要素と反射性要素の両方をプリフォームブロック(およびしたがってフィルタ膜またはシート)の同一の部分412内に設計して埋め込むことができ、その結果、全厚が小さくまたは所与のフィルタ厚さで高い光学密度または広い遮断範囲を実現できることにある。図4では、中央部分412は、所望の干渉特性を提供する層厚さを備えた多層構造体を表し、この多層構造体では、個々の層はまた、吸収フィルタリングのための染料または顔料を含む。オプションとしてのジャケット層414,416は、染料入りまたは顔料入り多層構造体412を保護する。結果として得られたフィルタは、追加の吸収層を何ら追加しないで、吸収性を高めるよう染料または顔料がドープされた多層干渉フィルタ部分412を有する。この原理により、ハイブリッド光フィルタ膜410の特にスリムな輪郭形状が得られ、それにより可撓性の高いフィルタ410が作られる。
【0051】
上記説明は、本発明の好ましい実施形態に関するが、本発明は、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の適正な範囲および公平な意味から逸脱しないで、改造、変形および変更が可能であることは理解されよう。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6