(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】フォージャサイト型ゼオライト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/24 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
C01B39/24
(21)【出願番号】P 2020016835
(22)【出願日】2020-02-04
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱▲崎▼ 裕一
(72)【発明者】
【氏名】香川 智靖
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 俊二
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-178610(JP,A)
【文献】特開平04-059616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B
B01J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si及びAlを含み、
SiとAlとのモル比(SiO
2/Al
2O
3)が9以上であり、
27Al-NMR測定において、
硝酸アルミニウムを基準物質としたときのケミカルシフトが40ppm以上80ppm以下の範囲のピーク積分値A
2に対する、5ppm以上20ppm以下の範囲のピーク積分値A
1の比(A
1/A
2)が0.23以上であ
り、
SO
4
換算で0.1質量%以上、1質量%以下の範囲でSを含む、
フォージャサイト型ゼオライト。
【請求項2】
比表面積が、700m
2
/g以上、850m
2
/g以下の範囲にある、請求項1に記載のフォージャサイト型ゼオライト。
【請求項3】
ケイバン比が4以上、8以下の範囲にあるフォージャサイト型ゼオライトを準備する工程、
前記フォージャサイト型ゼオライトを、硫黄化合物を含む水溶液で処理して、Sの含有量が0.1質量%以上、0.7質量%未満の範囲にあるスチーム処理用フォージャサイト型ゼオライトを調製する工程、
飽和水蒸気量が50%以上の雰囲気で前記スチーム処理用フォージャサイト型ゼオライトを600℃超、700℃以下の温度でスチーム処理して、酸処理用フォージャサイト型ゼオライトを調製する工程、
前記酸処理用フォージャサイト型ゼオライトを、酸を含む水溶液で酸処理する工程、
を含む、フォージャサイト型ゼオライトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォージャサイト型ゼオライトに関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトを触媒として用いる反応の多くは、その固体酸性質を利用したものである。特に、ゼオライトの固体酸性質を利用した反応に多く用いられており、例えば、接触分解、キシレンの異性化、エチルベンゼン又はクメンの合成、或いは、n-ブテンのイソブテンへの異性化等がある(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1)。また、近年では、酸強度の異なるゼオライトが種々合成されており、前述の炭化水素に関する反応だけでなく、種々の反応への応用が期待されている。
【0003】
ゼオライトの固体酸性質は、ゼオライトの骨格又は表面に含まれる不純物によって大きく異なる。例えば、ゼオライトのブレンステッド酸点は、ゼオライト骨格の部分構造に起因することが知られている。例えば、フォージャサイト構造を有するY型ゼオライトは、酸素を介してケイ素イオンとアルミニウムイオンが結合した構造を有しており、3価のアルミニウムイオンが四面体構造の4価のケイ素イオンと同型置換することによって-1の残余電荷を有している。この残余電荷のカウンターカチオンとして、プロトンや多価陽イオンが存在する場合、このY型ゼオライトはブレンステッド酸点を発現する。このY型ゼオライトのブレンステッド酸点となる3価のアルミニウムは、27Al-NMR測定において、硝酸アルミニウムを基準物質としたときのケミカルシフトが60ppm付近にピークが現れることが知られている(特許文献3)。そして、この60ppm付近に現れるピークは、ゼオライトの4配位Alに帰属される。
【0004】
また、ゼオライトは、ブレンステッド酸点の他にルイス酸点を有する場合もある。例えば、Y型ゼオライトをスチーム中で焼成すると、ゼオライト骨格中のAlがその骨格中から脱離することが知られている。そして、この脱離したAl(以下、「骨格外Al」又は「EFAl」ともいう。)は、ルイス酸点を有し、27Al-NMR測定において、硝酸アルミニウムを基準物質としたときのケミカルシフトが0ppm付近にピークが現れることが知られている。そして、この0ppm付近に現れるピークは、ゼオライトの表面に存在する6配位の骨格外Alに帰属される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表平7-504936号公報
【文献】特表2001-515499号公報
【文献】特開2012-46376号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】小野嘉夫、八嶋建明編、「ゼオライトの科学と工学」、第1版、株式会社講談社、2000年7月10日、p.119~134
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、硝酸アルミニウムを基準物質とした27Al-NMR測定において、ケミカルシフトが0ppm付近にピークが現れる従来の骨格外Alではなく、ケミカルシフトが10ppm付近に現れる新たな骨格外Alを含むフォージャサイト型ゼオライトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のフォージャサイト型ゼオライトは、Si及びAlを含み、SiとAlとのモル比(SiO2/Al2O3)が9以上であり、27Al-NMR測定において、硝酸アルミニウムを基準物質としたときのケミカルシフトが40ppm以上80ppm以下の範囲のピーク積分値A2に対する、5ppm以上20ppm以下の範囲のピーク積分値A1の比(A1/A2)が0.23以上であるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明を用いることで、従来の骨格外Alとは異なる新たな骨格外Alに由来する固体酸性質を有するフォージャサイト型ゼオライトを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1で得られたゼオライトの
27Al-NMRスペクトルの解析図である。
【
図2】実施例及び比較例で得られたゼオライトの
27Al-NMR測定により得られたスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のフォージャサイト型ゼオライト(以下、「本発明のゼオライト」ともいう。)の実施形態について詳述する。
【0012】
[本発明のゼオライト]
本発明のゼオライトは、27Al-NMR測定において硝酸アルミニウムを基準物質としたときのケミカルシフトが0ppm付近にピークが現れる従来の6配位の骨格外Alとは異なるものである。すなわち、本発明のゼオライトは、この27Al-NMR測定において10ppm付近にピークが現れる新しい種類の骨格外Alを含む(以下、本発明においては、27Al-NMR測定に関する値は全て硝酸アルミニウムを基準物質として測定された値に基づくものとする。)。フォージャサイト型ゼオライトの分野において骨格外Alの存在は広く知られており、27Al-NMR測定によってその有無が確認されてきた。しかしながら、骨格外Alの存在量がごく微量であることから、その具体的な化学構造までは特定されていない。本発明のゼオライトに含まれるケミカルシフトが10ppm付近に現れるピークも、その具体的な化学構造は特定されていない。本発明者らは、アルミナを焼成すると6配位のAlに由来するピークが正側にシフトする現象に着目し、この10ppm付近に現れるピークは従来の0ppm付近に現れる6配位の骨格外Alと比べて、より結晶性が高い骨格外Alになっているものと推察している。そして、本発明のゼオライトは、従来の骨格外Alとは異なる結晶性が高い骨格外Alを有しているので、従来とは異なる固体酸性質を示すことが期待される。
【0013】
より具体的には、本発明のゼオライトは、Si及びAlを含み、SiとAlとのモル比(SiO2/Al2O3)が9以上であり、27Al-NMR測定において、硝酸アルミニウムを基準物質としたときのケミカルシフトが40ppm以上80ppm以下の範囲のピーク積分値A2に対する、5ppm以上20ppm以下の範囲のピーク積分値A1の比(A1/A2)が0.23以上である、フォージャサイト型ゼオライトである。
【0014】
本発明のゼオライトは、Si及びAlを含むフォージャサイト型ゼオライトであって、SiとAlとのモル比(SiO2/Al2O3)(以下、「ケイバン比」ともいう。)が9以上である。本発明のゼオライトにおけるケイバン比は、バルクとしてのモル比であって、後述する組成分析により算出することができる。なお、本発明のゼオライトにおけるゼオライトを有機合成用又は石油精製用の触媒に用いる場合、このケイバン比は、9以上、50以下の範囲にあることが好ましく、9以上、30以下の範囲にあることがより好ましい。本発明のゼオライトは、このケイバン比が高くなるほど疎水性を示すようになり、有機物や石油と高い親和性を示す。一方で、このモル比が高すぎても、ゼオライトに含まれるAlが少なくなり、ゼオライトの固体酸自体も少なくなる。したがって、このモル比は、前述の範囲にあることが好ましい。
【0015】
本発明のゼオライトは、27Al-NMR測定において、ケミカルシフトが7ppm以上15ppm以下の範囲にあるピークP1を含み、更に、55ppm以上65ppm以下の範囲に極大があるピークP2を含む。このピークP1は、従来の骨格外Alより結晶性が高い骨格外Alに帰属されると考えられ、これにより従来にはない固体酸性質を示すことが期待される。また、このピークP2は、本発明のゼオライトのフォージャサイト骨格に由来する4配位のアルミナに帰属される。特にピークP1は、0ppm付近に現れる従来の6配位の骨格外Alに帰属されるピークと近い位置に現れるので、0ppm付近に現れるピークのショルダーとして現れることがある。
【0016】
本発明のゼオライトは、硝酸アルミニウムを基準物質としたときのケミカルシフトが40ppm以上80ppm以下の範囲のピーク積分値A2に対する、5ppm以上20ppm以下の範囲のピーク積分値A1の比(A1/A2)が0.23以上である。このピーク積分値の比は、フォージャサイト骨格に由来するピークP2を基準として、従来の骨格外Alより結晶性が高い骨格外Alに帰属されると考えられるP1の含有量を表す指標であり、この値が高いほど、この結晶性が高い骨格外Alに由来する固体酸性質が強く表れると考えられる。本発明のゼオライトでは、この比が0.25以上、1以下の範囲にある場合、この骨格外Alに由来する固体酸性質が顕著に表れ、従来にない固体酸性質を示す。また、この比が0.25以上、0.50以下の範囲にある場合でも、その固体酸性質は十分に表れる。そして、この比が0を超えていれば、実質的にピークP1を含むことは明確である。
【0017】
本発明のゼオライトは、前記ピークP1及びP2の他に、ケミカルシフトが0ppm付近に極大がある従来の骨格外Alに帰属されるピークP3を含んでいてもよい。具体的には、27Al-NMR測定において、ケミカルシフトが-5ppm以上5ppm以下の範囲に極大があるピークP3を含んでいてもよい。
【0018】
本発明のゼオライトは、そのアルカリ金属含有量が低いことが好ましい。アルカリ金属は、ゼオライトに含まれる酸点を被毒することがある。したがって、本発明のゼオライトのアルカリ金属含有量は、アルカリ金属をMとしたとき、M2O換算で0.15質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。本発明のゼオライトは、アルカリ金属の中でも特にNaによって被毒されやすいので、その含有量が少ないことが好ましい。
【0019】
本発明のゼオライトは、その格子定数が、2.410nm以上、2.440nm以下の範囲にあることが好ましい。本発明のゼオライトにおいて、格子定数は、フォージャサイト骨格のSiとAlとのモル比を表す指標であって、フォージャサイト骨格内のAlが多いほど格子定数は大きくなり、このAlが少ないほど格子定数は小さくなる。したがって、本発明のゼオライトの格子定数が2.410nmより低い場合、フォージャサイト骨格にAlが少なくなるので、これに由来するブレンステッド酸点が少なくなり、固体酸性質が弱くなってしまうことがある。このようなゼオライトを炭化水素の分解反応等に用いると、その分解活性が不十分になる可能性がある。したがって、本発明のゼオライトは、その格子定数が2.420nm以上、2.440nm以下の範囲にあることがより好ましい。
【0020】
本発明のゼオライトは、その比表面積が、700m2/g以上、850m2/g以下の範囲にあることが好ましい。ゼオライトの比表面積が700m2/gより低い場合、本発明のゼオライトが有するフォージャサイト骨格に由来する細孔構造が十分に発達していないおそれがある。このようなゼオライトは、部分的に非晶質となっており、ゼオライトの結晶構造に由来する細孔を反応場として使用できなかったり、細孔が途中で閉塞していたりすることがある。このようなゼオライトを触媒反応に使用すると、反応場が少なくなって活性が低下したり、細孔が閉塞してコーキングを引き起こすことがあるので、好ましくない。
【0021】
本発明のゼオライトは、微量の硫黄(S)を含んでいることが好ましい。具体的には、本発明のゼオライトは、SO4換算で0.1質量%以上、1質量%以下の範囲でSを含んでいることが好ましい。本発明のゼオライトは、このようにごく微量のSを含む場合、その成型性が向上する。本発明のゼオライトは、0.1質量%以上、0.5質量%以下の範囲でSを含んでいることがより好ましい。この場合、成型性が向上することに加え、成型体を乾燥、焼成時の収縮が少なくなり、ひび割れや粉化が起きにくくなる。ただし、本発明のゼオライトは、Sを多く含むと、触媒反応等に用いた際に予期しない副反応を引き起こす可能性があるので、好ましくない。
【0022】
(本発明のゼオライトの用途)
本発明のゼオライトは従来のフォージャサイト型ゼオライトとは異なる固体酸性質を示すと考えられ、例えば、石油精製における流動接触分解用触媒や水素化分解用触媒の構成成分の一つとして用いることができる。特に、流動接触分解においては、様々な酸性質を示す材料が求められるので、本発明のゼオライトを用いることで、ガソリン成分の増量だけでなく、従来のフォージャサイト型ゼオライトでは生成量が少なく近年需要が高まっているプロピレン等の軽質オレフィンの生成を高めることができると考えられる。また、水素化分解においては、本発明のゼオライトを用いることで、ナフサの生成量を高めることが期待できる。石油精製において、ブレンステッド酸点は石油成分を分解する活性点として働き、その酸強度よって得られる留分が変化する。そこで、このような石油精製の分野で用いられる触媒の酸強度を細かくコントロールする必要がある。このような分野において、酸強度を制御した本発明のゼオライトは、触媒の酸性質をコントロールする構成成分の一つとして非常に有用である。
【0023】
[本発明のゼオライトの製造方法]
本発明のゼオライトは、上記のような特性を有する限り、どのような方法によって製造されてもよい。例えば、以下のような工程を含む製造方法を用いて製造されてもよい。具体的には、ケイバン比が4以上、8以下の範囲にあるフォージャサイト型ゼオライトを準備する工程、
当該フォージャサイト型ゼオライトを、硫黄化合物を含む水溶液で処理して、Sの含有量が0.1質量%以上、0.7質量%未満の範囲にあるスチーム処理用フォージャサイト型ゼオライトを調製する工程、
飽和水蒸気量が50%以上の雰囲気で前記スチーム処理用のフォージャサイト型ゼオライトを600℃超、700℃以下の温度でスチーム処理して、酸処理用フォージャサイト型ゼオライトを調製する工程、
前記酸処理用フォージャサイト型ゼオライトを、酸を含む水溶液で酸処理する工程、
を含むフォージャサイト型ゼオライトの製造方法を用いて合成することもできる。
【0024】
以下、本発明の製造方法について、上記の製造方法を例として、詳述する。
【0025】
(フォージャサイト型ゼオライトを準備する工程)
上記の製造方法は、ケイバン比が4以上、8以下であるフォージャサイト型ゼオライトを準備する工程を含む。このようなゼオライトは、市販されているものを購入してもよく、また従来公知の方法で合成してもよい。例えば、ケイバン比が前述の範囲となるようにSi原料、Al原料を加え、さらにNa原料及び水を加えた後、80℃以上120℃以下程度の温度で水熱処理することで、フォージャサイト型ゼオライトが得られる。
【0026】
(スチーム処理用のゼオライトの準備工程)
上記の製造方法は、前述の工程で得られたフォージャサイト型ゼオライトを硫黄化合物を含む水溶液で処理して、Sの含有量が0.1質量%以上、0.7質量%未満の範囲にあるスチーム処理用フォージャサイト型ゼオライトを調製する工程を含む。
この工程では、スチーム処理用のフォージャサイト型ゼオライトのSの含有量を前述の範囲に調整することで、後述する工程を経て最終的に27Al-NMR測定において7ppm以上15ppm以下の範囲に極大があるピークP1を含むフォージャサイト型ゼオライトが得られる。また、上記の製造方法においては、Sの含有量が0.1質量%以上、0.6質量%未満の範囲にあるスチーム処理用フォージャサイト型ゼオライトを調製することが好ましい。上記の製造方法において、Sの含有量がこの範囲にあるスチーム処理用のフォージャサイト型ゼオライトを用いると、最終的に得られるフォージャサイト型ゼオライトに含まれる前記ピークP1がより顕著に表れる。
【0027】
この工程では、硫黄化合物として、硫酸、及び硫酸アンモニウム等を用いることが好ましく、これらを併用してもよい。この工程では、このような硫黄化合物が水に溶解した水溶液を用いて、前述の工程で得られたフォージャサイト型ゼオライトを処理して、Sの含有量を前述の範囲に調整することができる。この処理の方法としては、例えば、(i)この水溶液にフォージャサイト型ゼオライトを浸漬して取り出す方法、或いは、(ii)この水溶液をフォージャサイト型ゼオライトに流通させる方法等を用いて、Sの含有量を前述の範囲に調整することができる。
【0028】
この工程で得られるスチーム処理用のフォージャサイト型ゼオライトは、その格子定数が2.443nm以上、2.465nm以下の範囲にあることが好ましい。格子定数は、フォージャサイト骨格のSiとAlとのモル比を表す指標であって、フォージャサイト骨格内のAlが多いほど格子定数は大きくなり、このAlが少ないほど格子定数は小さくなる。この格子定数が大きすぎると、結晶構造中から大量のAlがスチーム処理により引き抜かれ、ゼオライトの結晶構造が壊れる可能性がある。また、この格子定数が小さすぎても、スチーム処理によって骨格外Alが生成しにくくなる傾向にある。
【0029】
(スチーム処理工程)
上記の製造方法は、飽和水蒸気量が50%以上の雰囲気で前述のスチーム処理用のフォージャサイト型ゼオライトを600℃超、700℃以下の温度でスチーム処理して、酸処理用フォージャサイト型ゼオライトを調製する工程を含む。このように、微量のSが存在するフォージャサイト型ゼオライトをスチーム処理することで、27Al-NMR測定において7ppm以上15ppm以下の範囲にピークP1が生成する。この理由は定かではないが、フォージャサイト型ゼオライトをスチーム処理することで生成する従来の骨格外Alが微量のSが存在する環境下で加熱されることで、この骨格外Alの結晶化が促進されたため、結晶性が高い骨格外Alが生成したのではないかと考えられる。しかし、このときSの含有量が多すぎると、この結晶性が高い骨格外Alが生成していない傾向にある。この場合は、大量のSの存在によって骨格外Alの移動が阻害されたため、骨格外Alの結晶化が阻害されたものと考えられる。
【0030】
この工程におけるスチーム処理温度は、600℃超、650℃以下の範囲にあることが好ましい。スチーム処理温度がこの範囲にあると、最終的に得られるフォージャサイト型ゼオライトのピークP1がより強く表れる。
【0031】
この工程におけるスチーム処理時間は、概ね20分以上、12時間以下の範囲にあることがより好ましい。前述のスチーム処理温度にもよるが、処理時間が短すぎてもスチーム処理によって骨格外Alが生成しなかったり、生成した骨格外Alが結晶化しなかったりするので好ましくない。また、スチーム処理温度が一定の状態で処理時間を長くしても、生産性の観点から好ましくない。
【0032】
この工程におけるスチーム濃度は、飽和水蒸気量の50%以上であり、90%以上であることが好ましい。飽和水蒸気量が低い状態でスチーム処理をすると、ゼオライトの骨格が壊れやすくなる傾向にある。この理由は、骨格外Alが生成する際にできる欠陥によって骨格が不安定になるためと考えられる。一方、前述の飽和水蒸気量の範囲であれば、ゼオライトの骨格は壊れにくくなる傾向にある。この理由は、結晶の表面又は結晶構造内のSiが移動して結晶の欠陥に再挿入され、結晶構造が安定化されるためと考えられる。したがって、スチーム濃度が前述の下限以上となるようにして、スチーム処理する。
【0033】
(酸処理工程)
本発明の製造方法は、前述の工程で得られた酸処理用フォージャサイト型ゼオライトを、酸を含む水溶液で酸処理する工程を含む。この工程の目的は、前述の工程で生成した結晶性が低い骨格外Alの一部を除去することである。
【0034】
この工程では、酸として、従来公知の酸を用いることができる。酸としては、硫酸、硝酸、塩酸、酢酸、及びクエン酸等を用いることができる。この工程においては、最終的に得られるフォージャサイト型ゼオライトにSを残留させることを目的として、硫酸を用いることが好ましい。また、硫酸イオンが存在する状態で酸処理用のフォージャサイト型ゼオライトを酸処理すると、最終的に得られるフォージャサイト型ゼオライトのピークP1がより強く表れる。
【0035】
この工程における酸処理の温度は、25℃以上、65℃以下の範囲にあることが好ましく、25℃以上、55℃以下の範囲にあることがより好ましく、25℃以上、45℃以下の範囲にあることが特に好ましい。酸溶液の温度によって骨格外Alの除去しやすさは変わり、酸処理の温度が高すぎると結晶性が高い骨格外Alまで除去されるおそれがある。また、酸処理の温度が低すぎても、結晶性が低い骨格外Alの除去が進みにくい傾向にある。したがって、酸処理の温度は前述の範囲にあることが好ましい。
【0036】
この工程における酸溶液には、アンモニウムイオンを含む塩を添加してもよい。このように、アンモニウムイオンが存在する酸溶液を用いて酸処理を行うと、フォージャサイト型ゼオライトに含まれるアルカリ金属を除去しやすい。
【0037】
この工程における酸溶液に含まれる酸は、酸処理用のゼオライトの重量に対して、0.5倍以下の添加量であることが好ましい(例えば、硫酸を用いて酸処理用のゼオライト1gを酸処理する際には、硫酸(H2SO4)の添加量が0.5g以下であることが好ましい。)。酸の添加量が多すぎると、結晶性が高い骨格外Alの一部が除去されることがある。
【0038】
この工程における酸処理の時間は、酸処理の温度又は酸の量にもよるが、概ね1時間以上、24時間以下であることが好ましい。酸処理の時間がこの範囲内であれば、酸処理工程の目的を十分に達成することができる。
【0039】
酸処理後の酸溶液とゼオライトは、ろ過等の方法で固液分離することができる。また、この時に分離したゼオライトには酸溶液に由来する成分が残留することがある。そのため、分離したゼオライトを再度イオン交換水に懸濁させ、濾布上で温水を掛ける等の洗浄処理を行うことが好ましい。この洗浄処理は、濾液の電導度が0.1mS/cm以下となるまで繰り返すとよい。分離したゼオライトは、温度80℃以上、400℃以下の範囲で乾燥させて、ゼオライトを得ることができる。さらに、必要に応じてこのゼオライトを大気雰囲気下において、温度400℃以上、600℃以下の範囲で焼成してもよい。このような処理を行うことで、部分的に残留したアンモニウムイオンやその他成分を除去することができる。
【0040】
この工程においては、フォージャサイト型ゼオライトに含まれるSの含有量を0.1質量%以上、1質量%以下の範囲に調整する工程を含んでいてもよい。Sの含有量を調整する方法としては、硫黄化合物を含む水溶液に浸漬したり、硫黄化合物を含む水溶液をフォージャサイト型ゼオライトに流通させる等して、調節することができる。また、既にフォージャサイト型ゼオライトにSが一定量含まれる場合は、洗浄等の方法を従来公知の範囲で調整することで、これを実施することができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明のゼオライトについて、実施例を用いて詳述するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0042】
本発明の実施例における測定及び評価は、次の方法で行った。
【0043】
(組成分析)
蛍光X線測定装置(RIX-3000)を用いて、ゼオライトのSi、Al、Na含有量を測定した。この測定結果から、Si、Al含有量を、それぞれSiO2、Al2O3に換算して、SiとAlとのモル比(SiO2/Al2O3)を算出した。
炭素・硫黄分析装置(LECO社製「LECOCEL II」)を用いて試料中の硫黄濃度を測定し、S含有量をSO4換算で算出した。
【0044】
(結晶構造の確認)
乳鉢で粉砕した粉末試料をX線回折装置(リガク社製「RINT-Ultima」、線源:CuKα)にセットし、2θ=14~33°までスキャンしてX線回折測定した。得られた試料のX線回折パターンから、フォージャサイト構造(FAU)に帰属される回折面にピークが確認できたものは、フォージャサイト構造を有していると判断した。具体的には、(331)、(511)、(440)、(533)、(642)及び(555)面に帰属される回折ピークの有無を確認した。なお、これらの回折面に帰属されるピークの位置は、技術文献(M. M. J. Treacy, J. B. Higgins, COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDERPATTERNS FOR ZEOLITES, Fifth Revised Edition, Elsevier)から確認することができる。なお、ピークの位置は測定条件等によって多少変動することがあるので、上記文献に記載されたピーク位置から±0.5°の範囲にあれば、フォージャサイト構造に由来するピークを有しているものとみなせる。
【0045】
(格子定数測定)
試料粉末を約2/3重量部、内部標準としてTiO2アナターゼ型の粉末(関東化学製、酸化チタン(IV)(アナターゼ型))を約1/3重量部秤量し、乳鉢を用いて混合した。この粉末をX線回折装置(リガク社製「RINT-Ultima」、線源:CuKα)にセットし、2θ=23~33°までスキャンしてX線回折パターンを測定した。得られたパターンから、TiO2アナターゼ型、フォージャサイト型ゼオライトの(533)面、(642)面のそれぞれのピーク半値幅の中心を示す2θを用いて、以下の数式(1)~(3)から格子定数を算出した。
【0046】
【0047】
(比表面積測定)
不活性ガス雰囲気下にて500℃で1Hrの前処理を実施した試料粉末について、マウンテック社製「MacSorb-1220」を用いてN2の吸着量及び脱離量を測定した。得られたN2の脱離量から、BET1点法に基づいて比表面積を算出した。
【0048】
(Al-NMR測定)
試料粉末を予め500℃1時間焼成し、相対湿度60%の雰囲気で24時間保持することによって吸湿させた。この粉末試料を直径3.2mmのNMR固体用試料管に均一になるように充填し、14.1T NMR装置(Agilent社製「NMR-600」、1H共鳴周波数:600MHz)にセットし、外部磁場に対してマジック角(54.7°)で20kHzの高速で回転させた。このときの27Al共鳴周波数は、156.3MHzであった。27Al-NMRのケミカルシフト基準として、1mol/LのAl(NO3)3水溶液のピークを0ppmとした。測定にはシングルパルス法を用い、パルスのフリップ角を10°、パルス繰り返し時間を0.1s、測定ポイント間隔を25Hzに設定した。得られたスペクトルをスムージング係数100Hzの条件でスムージングした後、ケミカルシフト+110ppmから+120ppmの範囲と-60から-80ppmの範囲の測定点の平均値をベースラインに設定した。次に、ケミカルシフト40ppm以上80ppm以下の範囲のベースラインに対するピーク積分値A2を算出し、5ppm以上20ppm以下の範囲のベースラインに対するピーク積分値A1を算出した。ピーク積分値A2に対するピーク積分値A1の比(A1/A2)を求めた。
【0049】
[実施例1]
(フォージャサイト型ゼオライトの準備工程)
ケイバン比が5.0、格子定数が2.466nm、比表面積が720m2/g、Naの含有量がNa2O換算で13.0質量%であるNa-Y型ゼオライト(Y型ゼオライトとは、フォージャサイト型ゼオライトの1種である。また、Na-Y型ゼオライトとは、イオン交換サイトのカチオンがNa+であるY型ゼオライトである。以下、「NaY」ともいう)を用い、このNaY50.0kgを温度60℃の水500Lに加え、さらに硫酸アンモニウム14.0kgを加えて懸濁液を得た。この懸濁液を70℃で1時間攪拌し、ろ過した。ろ過により得られた固体を水で洗浄した。次いで、この固体を、温度60℃の水500Lに硫酸アンモニウム14.0kgを溶解した硫酸アンモニウム溶液で洗浄し、さらに、60℃の水500Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥して、NaYに含まれるNaの約65質量%がアンモニウムイオン(NH4
+)でイオン交換されたY型ゼオライト(NH4Y)を約45kg得た。このNH4YのNa含有量はNa2O換算で4.5質量%であった。このNH4Y40kgを、飽和水蒸気雰囲気中にて670℃で1時間焼成し、超安定Y型ゼオライト(以下、「USY(a)」という)を得た。
【0050】
(スチーム処理用ゼオライトの準備工程)
超安定Y型ゼオライトの準備工程で得られたUSY(a)を温度60℃の水400Lに加え、次いで硫酸アンモニウム49.0kgを加え懸濁液を得た。この懸濁液を90℃で1時間攪拌し、ろ過した。ろ過により得られた固体を温度60℃の水2400Lで洗浄した。次いで、この固体を130℃で20時間乾燥して、当初のNaYに含まれるNaの約93質量%がNH4
+でイオン交換された超安定Y型ゼオライト(NH4USY)を約37kg得た。これをスチーム処理用のゼオライトとした。得られた超安定Y型ゼオライト(NH4USY)の組成分析を実施したところ、ケイバン比が5.0、Na含有量がNa2O換算で1.1質量%、S含有量がSO4換算で0.5質量%であった。
【0051】
(スチーム処理工程)
このスチーム処理用のゼオライト3.0kgを、飽和水蒸気雰囲気中にて640℃で2時間スチーム処理し、酸処理用のゼオライトを約2.7kg得た。この時、酸処理用のゼオライトの格子定数は、2.440nmであった。このゼオライトのS含有量は、SO4換算で、0.4質量%であった。
【0052】
(酸処理工程)
次いで、この酸処理用のゼオライト20.0gを、室温の水200mLに懸濁し、30℃まで昇温した。この懸濁液に、25質量%の硫酸28.8gを徐々に加えて酸溶液を調製した後、これを30℃で4時間攪拌した。次いで、35質量%の硫酸アンモニウム水溶液37.0gを添加し、30℃で3時間攪拌した。撹拌終了後の酸溶液をろ過して得られた固体を、60℃のイオン交換水400mLで洗浄し、さらに130℃で20時間乾燥し、本発明のゼオライトを調製した。得られたゼオライトの組成分析を実施したところ、ケイバン比が10.1であった。
27Al-NMRを測定し、スペクトル解析したところ、ケミカルシフト40ppm以上80ppm以下の範囲のピーク積分値A
2に対する、5ppm以上20ppm以下の範囲のピーク積分値A
1の比(A
1/A
2)は、0.29であった。スペクトル解析の結果を
図1に示した。
【0053】
[実施例2]
酸処理工程において、25質量%の硫酸を33.6gとしたこと以外は実施例1と同様に酸処理を実施して本発明のゼオライトを得た。得られたゼオライトの組成分析を実施したところ、ケイバン比が12.1であった。27Al-NMRを測定し、スペクトル解析したところ、ケミカルシフト40ppm以上80ppm以下の範囲のピーク積分値A2に対する、5ppm以上20ppm以下の範囲のピーク積分値A1の比(A1/A2)は、0.29であった。
【0054】
[比較例1]
(スチーム処理用ゼオライトの準備工程)
実施例1と同様の超安定Y型ゼオライトの準備工程で得られたUSY(a)を温度60℃の水400Lに加え、次いで硫酸アンモニウム49.0kgを加え懸濁液を得た。更に25質量%の硫酸を3.1kg添加し、90℃で1時間攪拌し、ろ過した。ろ過により得られた固体を温度60℃の水400Lで洗浄した。次いで、この固体を130℃で20時間乾燥して、当初のNaYに含まれるNaの約93質量%がNH4でイオン交換された超安定Y型ゼオライト(NH4USY)を約37kg得た。これをスチーム処理用のゼオライトとした。得られた超安定Y型ゼオライト(NH4USY)の組成分析を実施したところ、ケイバン比が5.0、Na含有量がNa2O換算で1.0質量%、S含有量がSO4換算で1.1質量%であった。
【0055】
(スチーム処理工程)
このスチーム処理用のゼオライト3.0kgを、飽和水蒸気雰囲気中にて600℃で2時間スチーム処理し、酸処理用のゼオライトを約2.7kg得た。この時、酸処理用のゼオライトの格子定数は、2.440nmであった。このゼオライトのS含有量を測定したところ、SO4換算で1.1質量%であった。
【0056】
(酸処理工程)
次いで、この酸処理用のゼオライト20.0gを、室温の水200mLに懸濁し、30℃まで昇温した。この懸濁液に、25質量%の硫酸28.8gを徐々に加えて酸溶液を調製した後、これを30℃で4時間攪拌した。次いで、35質量%の硫酸アンモニウム水溶液37.0gを添加し、30℃で3時間攪拌した。撹拌終了後の酸溶液をろ過して得られた固体を、60℃のイオン交換水400mLで洗浄し、さらに130℃で20時間乾燥し、ゼオライトを調製した。得られたゼオライトの組成分析を実施したところ、ケイバン比が11.0であった。27Al-NMRを測定し、スペクトル解析したところ、ケミカルシフト40ppm以上80ppm以下の範囲のピーク積分値A2に対する、5ppm以上20ppm以下の範囲のピーク積分値A1の比(A1/A2)は、0.22であった。
【0057】
[比較例2]
酸処理工程において、25質量%の硫酸を33.6gとしたこと以外は比較例1と同様に酸処理を実施してゼオライトを得た。得られたゼオライトの組成分析を実施したところ、ケイバン比が13.5であった。27Al-NMRを測定し、スペクトル解析したところ、ケミカルシフト40ppm以上80ppm以下の範囲のピーク積分値A2に対する、5ppm以上20ppm以下の範囲のピーク積分値A1の比(A1/A2)は、0.21であった。
【0058】
実施例及び比較例にて得られたゼオライトについて、調製条件の概要と各種測定の結果を表1にまとめた。また、
27Al-NMR測定により得られたスペクトルを
図2に示した。
【0059】