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特許7519197表面微細構造を有するアルミニウム箔およびその製造方法
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  • 特許-表面微細構造を有するアルミニウム箔およびその製造方法 図1
  • 特許-表面微細構造を有するアルミニウム箔およびその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】表面微細構造を有するアルミニウム箔およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/00 20060101AFI20240711BHJP
   H01G 9/045 20060101ALI20240711BHJP
   H01G 9/055 20060101ALI20240711BHJP
   C25F 3/04 20060101ALI20240711BHJP
   C25F 3/02 20060101ALI20240711BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
H01G9/00 290D
H01G9/045
H01G9/055
C25F3/04 A
C25F3/02 B
C22C21/00 H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020055266
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021158172
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】盛田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】壷井 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】中坊 徹
(72)【発明者】
【氏名】市川 武志
(72)【発明者】
【氏名】石田 雅彦
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-238994(JP,A)
【文献】特開2010-040960(JP,A)
【文献】特開2015-149463(JP,A)
【文献】特開2005-206883(JP,A)
【文献】特開2007-042789(JP,A)
【文献】特開2006-152365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00
H01G 9/045
H01G 9/055
C25F 3/04
C25F 3/02
C22C 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エッチング液中で電流を印加し、マスキング処理されたアルミニウム原箔を電解エッチングすることにより表面にピットが形成された表面微細構造を有する中高圧電解コンデンサ用アルミニウム箔の製造方法において、
焼鈍処理にて表層に鉛が濃縮されたアルミニウム箔の表面を機械的または化学的に処理し、箔の表面から深さ方向に1μmまでの表層範囲内の最大鉛含有量が500ppm/nm未満であるアルミニウム原箔を準備する準備工程と、
前記アルミニウム原箔の表面上のピットの発生点の位置を制御するために、前記アルミニウム原箔の表面にマスキング処理を施すピット発生点制御工程と、
前記ピット発生点制御工程後に、前記アルミニウム原箔をエッチング処理することによってピットを形成するピット形成工程と
を備えることを特徴とする表面微細構造を有する中高圧電解コンデンサ用アルミニウム箔の製造方法。
【請求項2】
前記準備工程において、準備される前記アルミニウム原箔は、亜鉛を3~15ppm含有することを特徴とする請求項1に記載の表面微細構造を有するアルミニウム箔の製造方法。
【請求項3】
前記準備工程において、準備される前記アルミニウム原箔の、原箔全体としての鉛含有量が0.1ppm未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の表面微細構造を有するアルミニウム箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面微細構造を有するアルミニウム箔、特に中高圧用の電解コンデンサへの使用に適したアルミニウム箔およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な電解コンデンサは、アルミニウム箔をエッチングによって実効表面積を拡大させた表面に陽極酸化により誘電体酸化皮膜を形成した陽極箔と、アルミニウム箔をエッチングによって実効表面積を拡大させた陰極箔とをセパレータを介して巻回することによりコンデンサ素子を構成し、このコンデンサ素子に駆動用電解液を含浸した後、コンデンサ素子を金属ケース内に封止することにより構成されている。
この種の電解コンデンサにおいては、その静電容量を高め、また小形化を図ることを目的に、陽極箔の実効表面積を拡大させるエッチング技術の開発が盛んに行われている。
【0003】
従来、直流エッチングを使用してトンネルピットを形成させるための中高圧用高純度アルミニウム箔には、例えば下記の特許文献1、2に記載されるように、静電容量を向上させるために微量元素として鉛が添加されている。トンネルピットを必要とするアルミニウム原箔は結晶方位が揃っていることが必要であるため、アルミニウム箔製造工程において焼鈍処理などが必要となり、高温焼鈍にて表層に鉛を濃縮させることにより、トンネルピットの発生点を増加させる効果が得られることから、現在使用されている中高圧用高純度アルミニウム箔は必ず鉛が添加されたものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭57-66616号公報
【文献】特開昭63-288008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これによりアルミニウム箔表層の活性度が変化し、ピット発生起点が高密度化する一方で、その表層濃縮の分布を制御することは難しく、発生点の位置を制御することはできない。これらの問題点を解決するために、エッチングでの前処理や電解液組成、および電流波形条件等によりピット発生点をより分散させる技術は日々向上しているが、箔表面から垂直方向に延びた垂直ピットの他に、結晶方位に沿って表層の横に成長するトンネルピット(以下、「横走りピット」という)も多く存在することから、表面欠落の要因にもなっていた。
【0006】
一方、トンネルピットの開始点位置を制御する方法としてレジスト膜を使用した微細加工技術が知られているが、鉛を微量(例えば1ppm程度)含有するアルミニウム箔表面にレジスト膜を形成しエッチング処理を行うと、同様に表層の横走りピットの形成や表面崩れが発生して正常なトンネルピット形成が得られないという問題があった。
【0007】
本発明の課題は、上述の従来技術における問題点を解決し、アルミニウム箔の表層の横走りピットの形成を抑制でき、表面崩れの発生も防止でき、当該箔表面から垂直方向に延びたピットが多数形成された表面微細構造を有するアルミニウム箔および、その製造方法を提供することにある。また、本発明は、このような表面微細構造を有するアルミニウム箔を製造するのに適したアルミニウム原箔を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、出発材料であるアルミニウム原箔として、アルミニウム箔の表面から深さ方向に1μmまでの表層範囲内の最大鉛含有量が500ppm/nm未満であるものを準備し、このアルミニウム原箔の表面に、ピットの発生点の位置を制御するためのマスキング処理を施してからエッチング処理を行うと、アルミニウム箔の表層の横走りピットの形成を抑制することができ、表面崩れが発生せずにピットの形成ができることを見出して、本発明を完成した。
また、本発明者等は、鉛を0.1ppm以上含有する従来の高純度アルミニウム箔(焼鈍処理による表層への鉛濃縮により表面から深さ方向に1μmまでの表層範囲内の最大鉛含有量が500ppm/nm以上)を用いた場合でも、このアルミニウム箔の表面を機械的または化学的に処理し、表層を0.1μm以上、好ましくは0.1~5μm除去することによって、表層除去後の表面から深さ方向に1μmまでの表層範囲内の最大鉛含有量を500ppm/nm未満にすることができ、上記と同様の効果が得られることを見出して、本発明を完成した。
【0009】
上記課題を解決可能な本発明の製造方法は、エッチング液中で電流を印加し、マスキング処理されたアルミニウム原箔を電解エッチングすることにより表面にピットが形成された表面微細構造を有するアルミニウム箔の製造方法において、箔の表面から深さ方向に1μmまでの表層範囲内の最大鉛含有量が500ppm/nm未満であるアルミニウム原箔を準備し、当該アルミニウム原箔の表面に、ピットの発生点の位置を制御するためのマスキング処理を施し、得られたアルミニウム箔をエッチング処理することによってピットを形成することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記の特徴を有した製造方法において、前記アルミニウム原箔に形成される前記ピットの内径が0.2~5.0μmであることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明は、上記の特徴を有した製造方法において、前記アルミニウム原箔として、焼鈍処理にて表層に鉛が濃縮されたアルミニウム箔を機械的または化学的に処理することにより前記表層内の最大鉛含有量を500ppm/nm未満としたアルミニウム箔を用いることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明は、上記の特徴を有した製造方法において、前記アルミニウム原箔が、亜鉛を3~15ppm含有することを特徴とするものである。
【0013】
さらに本発明は、上記の製造方法にて使用されるアルミニウム原箔であって、当該アルミニウム原箔の表面から深さ方向に1μmまでの範囲内の最大鉛含有量が500ppm/nm未満であることを特徴とする。
【0014】
そして、本発明は、上記の製造方法にて使用されるアルミニウム原箔であって、亜鉛を3~15ppm含有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記の製造方法にて使用されるアルミニウム原箔であって、前記表面微細構造は内径が0.2~5.0μmのトンネルピットであり、表面から深さ方向に1μmまでの表層範囲内の最大鉛含有量が500ppm/nm未満であって、亜鉛を3~15ppm含有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、箔の表面から深さ方向に1μmまでの表層範囲内の最大鉛含有量を極微量(500ppm/nm未満)まで低下させたアルミニウム原箔を使用することで、表面崩れや横走りピットを防止することができ、所望のピット密度を得ることができる。また、表層範囲内の最大鉛含有量を500ppm/nm以上含有する従来の高純度アルミニウム箔であっても、このアルミニウム箔の表面を機械的または化学的に処理し、表層を深さ方向に一定厚さで除去することにより同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)の上側の写真は、表面から深さ方向に1μmまでの表層範囲内の最大鉛含有量を500ppm/nm未満としたアルミニウム原箔を用いて本発明の製造方法により製造されたアルミニウム箔(本発明品)のピット形成状態を示す電子顕微鏡写真であり、下側の写真は、当該アルミニウム箔の断面レプリカの電子顕微鏡写真(共に倍率は1000倍)である。また、(b)の上側の写真は、鉛含有量が1.0ppm(表面から深さ方向に1μmまでの表層範囲内の最大鉛含有量3600ppm/nm)であるアルミニウム原箔を用いて製造されたアルミニウム箔(従来品)のピット形成状態を示す電子顕微鏡写真であり、下側の写真は、当該アルミニウム箔の断面レプリカの電子顕微鏡写真(共に倍率は1000倍)である。
図2】(a)の上側の写真は、鉛含有量が1.0ppmであるアルミニウム原箔の表層を5μm除去したアルミニウム箔を用いてマスキング処理後にエッチング処理して製造されたアルミニウム箔(本発明品)のピット形成状態を示す電子顕微鏡写真であり、下側の写真は、当該アルミニウム箔の断面レプリカの電子顕微鏡写真(共に倍率は1000倍)である。また、(b)の上側の写真は、鉛含有量が1.0ppmであるアルミニウム原箔を表層除去せずに用い、マスキング処理後にエッチング処理して製造されたアルミニウム箔(従来品)のピット形成状態を示す電子顕微鏡写真であり、下側の写真は、当該アルミニウム箔の断面レプリカの電子顕微鏡写真(共に倍率は1000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の製造方法にて使用されるアルミニウム原箔は、当該原箔全体としての鉛含有量が0.1ppm未満であり、表面から深さ方向に1μmまでの表層範囲内の最大鉛含有量(表面から深さ方向に1μmまでの表層範囲内の鉛含有量を深さ方向にnm単位で測定した際の鉛含有量の最大値)が500ppm/nm未満のアルミニウム箔である。アルミニウム原箔中の鉛含有量を0.1ppm未満とすることで、[100]結晶方位率を高めるための焼鈍処理を行っても表面から深さ方向に1μmまでの表層範囲内の最大鉛含有量を500ppm/nm未満にすることができる。本発明において、アルミニウム原箔に含まれる表面から深さ方向に1μmまでの表層範囲内の最大鉛含有量が500ppm/nm未満に限定されるのは、表面から深さ方向に1μmまでの表層範囲内の最大鉛含有量が500ppm/nmを超えた場合(例えば、鉛含有量が1ppmであって焼鈍処理をした場合)には、表層の横走りピットの発生による表面崩れが多く発生し、ピットの形成状態が悪くなるからである。なお、表面から深さ方向に1μmまでの表層範囲内の鉛含有量は、グロー放電質量分析法を用いて深さ方向定量分析で測定した。深さ方向の測定間隔は約1nmとした。
また、上記のアルミニウム原箔は、亜鉛を3~15ppm含有していることが望ましく、亜鉛含有量が前記の範囲の場合には、マスキング処理後のエッチング処理にてピット形成を容易にすることができる。
なお、上記のアルミニウム原箔の表面粗度(R)については従来技術に使用される高純度アルミニウム箔程度で問題ないが、0.4μm以下であることが望ましく、電解エッチングを行う前の厚さは100~200μmであるものが一般的である。
また、本発明の製造方法にて使用されるアルミニウム原箔としては、[100]結晶方位率が60%以上であるものが好ましく、このような結晶方位率を有したアルミニウム原箔の場合には、エッチング処理により箔の表面に対して垂直な方向に延びたピットを形成することができる。
【0019】
本発明では、上記アルミニウム原箔に形成されるピット発生点の位置を制御するために、上記のアルミニウム原箔の表層にピット発生点を決める開口穴が開いたレジスト膜等によるマスキングがなされるが、このマスキング方法については限定されるものではない。
そして、レジスト膜等によりマスキングがなされたアルミニウム原箔は、その後、酸を含むエッチング液中で電解エッチングされ、ピット発生点の位置にピットが形成される。
本発明において、電解エッチングにおいて使用されるエッチング液としては、配合された酸の主成分が塩酸で、さらに硫酸、硝酸およびリン酸の少なくとも1種が配合されているものが一般的であるが、これに限定されるものではない。また、本発明では、アルミニウム箔に形成されるピットの内径(ピット径)は、用途に応じて適宜決定されるが、0.2~5.0μmの範囲が好ましい。
【0020】
上記の本発明の製造方法を用いて得られる表面微細構造を有するアルミニウム箔には、マスキング処理された開口に対応するきれいなピットが多数形成されるので、このマスキング処理を最適化したアルミニウム箔を用いて電解コンデンサを製造した場合には、大きな静電容量を有する電解コンデンサとなる。
また、上記の本発明の製造方法を用いて形成された表面微細構造を有するアルミニウム箔は熱放射特性にも優れており、例えば、発熱源が赤外線透過波長域を有する樹脂部材で覆われている電子機器において、発熱源と樹脂部材との間に配置することにより、発熱源から放射される赤外線の波長を樹脂部材の透過波長域に変換する放熱材料としても利用可能である。
【0021】
また、本発明の製造方法では、鉛を0.1ppm以上含有する従来の高純度(例えば99.9%)アルミニウム箔(焼鈍処理にて表層に鉛が濃縮されている箔)を準備し、このアルミニウム箔の表面を機械的または化学的に処理することにより、箔の表層を0.1μm以上、好ましくは0.1~5.0μm除去したものをアルミニウム原箔として使用することもでき、このように処理された本発明のアルミニウム原箔における、表面から深さ方向1μmまでの範囲内の鉛含有量は500ppm/nm未満である。
一般的な電解コンデンサ用アルミニウム箔の場合、箔の表層を0.1μm以上除去すれば効果が得られるが、深く除去しすぎるとアルミニウム組織状態が異なるなどマスキング処理におけるピット発生性に影響をおよぼす可能性もあることから、除去厚みは0.1~5.0μmが望ましい。
【0022】
アルミニウム原箔として、焼鈍処理にて表層に鉛が濃縮された従来のアルミニウム箔を用いる本発明の製造方法の場合にも、機械的または化学的に処理後のアルミニウム原箔の表面に、ピットの発生点の位置を制御するためのマスキング処理を施し、得られたアルミニウム箔をエッチング処理することによってピットを形成することにより、箔の表層の横走りピットの形成が抑制でき、表面崩れが発生せずに垂直ピットが多数形成された表面微細構造を有するアルミニウム箔が製造できる。
【0023】
なお、本発明におけるアルミニウム原箔の上記の機械的処理としては、ラップ研磨やバフ研磨が挙げられるが、これに限定されるものではなく、また、上記の化学的処理としては、化学研磨や電解研磨が挙げられるが、これに限定されるものではない。さらにこれらを組み合わせた複合研磨でもよい。
次に、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0024】
〔実施例1:本発明の製造方法による表面微細構造を有するアルミニウム箔の製造例1〕
アルミニウム原箔として、純度99.99%、厚み140μm、亜鉛含有量6ppm、アルミニウム原箔全体としての鉛含有量0.1ppm未満、表面から深さ方向に1μmまでの表層範囲内の最大鉛含有量500ppm/nm未満、[100]結晶方位率90%以上のアルミニウム箔を使用した。また、アルミニウム原箔は、ラップ研磨で表面を平滑化したステンレス板をアルミニウム原箔にプレスしてその表面を平滑化した後、中性洗剤および超純水を用いて表面に付着した異物や汚れを除去するために洗浄を行った。
マスキング処理に使用するレジストとして、市販の汎用ポリスチレンをアニソールに添加し、スターラーで12時間撹拌して作製したポリスチレン濃度が9.3重量%のポリスチレン溶液を使用した。
スピンコート法によりアルミニウム原箔を3000rpmで30秒間回転させ、アルミニウム原箔上で厚さ約0.5μmとなるようにレジストを塗り拡げ、ホットプレート上でレジストが塗布されたアルミニウム原箔を190℃で10分間加熱し、レジストに含まれる溶媒のアニソールを除去した。
さらに、熱ナノインプリント法により成形温度140℃、成形圧力5MPa、成形時間180秒の条件でマスキングパターンをレジストに転写した。この際、熱ナノインプリント用のモールドには、凸部の径が1.7μmであり、凸部の高さが1.5μmであり、凸部のピッチが3μmである凹凸が形成された樹脂製のナノインプリント用フィルムモールドを使用した。そして、酸素リアクティブイオンエッチング(RIE)によりナノインプリント残膜を除去した。
【0025】
そして、電解エッチングのためのエッチング液として、塩酸濃度が6モル/L、硫酸濃度が1モル/Lで、55℃の溶液を用いて、40秒間ウェットエッチングを行った。
図1の左側の(a)には、このようにして製造された電解エッチングアルミニウム箔(本発明品)の表面および、断面レプリカの電子顕微鏡写真(いずれも倍率1000倍)が示されており、この顕微鏡写真から、鉛含有量0.1ppm未満のアルミニウム原箔を用いた場合には、アルミニウム箔表面の崩れも少なく、マスキング処理された開口に対応するきれいなピットが多く発生していることがわかる。
【0026】
〔比較例〕
比較例として、従来技術で多く使用されている亜鉛含有量が2ppm(偏析法による高純度アルミニウム箔製造上除去できない量)、アルミニウム原箔全体としての鉛含有量が1.0ppm、表面から深さ方向に1μmまでの表層範囲内の最大鉛含有量が3600ppm/nm、[100]結晶方位率90%以上のアルミニウム原箔(以下「従来原箔」という)を用い、上記製造例と同様にしてマスキング処理およびエッチング処理を行い、電解エッチングアルミニウム箔を製造した。
図1の右側の(b)には、このようにして製造された電解エッチングアルミニウム箔の表面および、断面レプリカの電子顕微鏡写真(いずれも倍率1000倍)が示されており、この顕微鏡写真から、鉛含有量1.0ppmのアルミニウム原箔を用いた場合には、アルミニウム箔表層の横走りピットの発生による表面崩れが多く発生し、マスキング処理された開口に沿ったピットが発生せず、正常なトンネルピットの形成状態も悪いことがわかる。
【0027】
上記の比較実験から、アルミニウム原箔の表面から深さ方向に1μmまでの表層範囲内の鉛含有量が500ppm/nm未満である場合に、アルミニウム箔表面の崩れも少なく、マスキング処理された開口に対応するきれいなピットが多く発生し、高いピット密度が得られることがわかった。
【0028】
〔実施例2:本発明の製造方法による表面微細構造を有するアルミニウム箔の製造例2〕
従来原箔をラップ研磨し、箔の表層を5μm除去した。このように処理されたアルミニウム箔の表面から深さ方向1μmまでの範囲内の最大鉛含有量を測定したところ500ppm/nm未満であった。
その後、前記実施例1と同様にして、マスキング処理を行い、熱ナノインプリント法によりマスキングパターンをレジストに転写し、RIEによりナノインプリント残膜を除去し、電解エッチングを行った。
このようにして得られた電解エッチングアルミニウム箔(本発明品)を、表層除去を行っていない従来原箔を用いて得られた電解エッチングアルミニウム箔(従来品)と比較した。
【0029】
図2(a)の写真は、鉛含有量が1.0ppmである従来原箔の表層を5μm除去したアルミニウム箔を用いてマスキング処理後にエッチング処理して製造されたアルミニウム箔(本発明品:実施例2)のピット形成状態を示しており、この電子顕微鏡写真から、正常なピット発生が得られることがわかった。
これに対し、図2(b)の写真は、鉛含有量が1.0ppmである従来原箔を用いてマスキング処理後にエッチング処理して製造されたアルミニウム箔(従来品)のピット形成状態を示しており、この電子顕微鏡写真から、箔に表面荒れが発生してマスキングに沿った正常なトンネルピット発生ができていないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
箔表層における鉛含有量を極微量まで低下させたアルミニウム原箔を使用する本発明の製造方法を用いた場合には、電解エッチング後のアルミニウム箔表層の崩れや横走りピットの発生を防止でき、箔強度を低下させることなく、ピットを高密度化することができる。
本発明の製造方法によって製造された表面微細構造を有するアルミニウム箔は、高い静電容量を有する中高圧用の電解コンデンサへの使用に特に適したものであり、電子機器の小形化、高電圧化を図ることができる。また、このような表面微細構造を有するアルミニウム箔は発熱源が樹脂部材で覆われている電子機器の放熱材料としても有用である。
図1
図2