(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】インバータ装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240711BHJP
【FI】
H02M7/48 F
(21)【出願番号】P 2020102854
(22)【出願日】2020-06-15
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】三宅 博之
(72)【発明者】
【氏名】足立 幸作
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-152947(JP,A)
【文献】特開2014-14205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相ブリッジ接続されたスイッチング素子を備え、前記スイッチング素子をオン・オフさせることにより、入力された直流電力を交流電力に変換して負荷に出力するインバータ回路と、
前記スイッチング素子にPWM信号を出力するPWM制御部とを備え、
前記PWM制御部が、
二相変調により、三相のうち二相の前記スイッチング素子にPWM信号を出力する第1制御モードと、
三相変調により、三相全ての前記スイッチング素子にPWM信号を出力する第2制御モードと、を交互に切り替えるように構成され、
前記第1制御モードにおけるPWM周期を決定するための第1キャリア周波数f
1と、前記第2制御モードにおけるPWM周期を決定するための第2キャリア周波数f
2とが以下の式(1)の関係を満たすことを特徴とするインバータ装置。
0.4≦f
2/f
1≦0.6 (1)
【請求項2】
FFT解析における二相変調による1次高調波の形状が変わらないように、第2キャリア周波数f
2が設定されている請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項3】
所定単位時間における、前記第1制御モードによりPWM信号を出力する期間の割合が、前記第2制御モードによりPWM信号を出力する期間の割合よりも大きくなるように構成された請求項1又は2に記載のインバータ装置。
【請求項4】
所定単位時間における、前記第2制御モードによりPWM信号を出力する期間の割合が5%以上50%未満である請求項3に記載のインバータ装置。
【請求項5】
前記PWM制御部が、前記インバータ回路の変調率に応じて、所定単位時間における、前記第1制御モードによりPWM信号を出力する期間の割合と、前記第2制御モードによりPWM信号を出力する期間の割合とを変更するように構成された、請求項3又は4に記載のインバータ装置。
【請求項6】
前記PWM制御部が、前記第2制御モードを実行するタイミングをランダムに設定するように構成された請求項1~5のいずれか一項に記載のインバータ装置。
【請求項7】
前記PWM制御部が、前記インバータ回路の変調率が所定値以下である場合に、前記第1制御モードと前記第2制御モードとを切り替えるように構成された請求項1~6のいずれか一項に記載のインバータ装置。
【請求項8】
前記インバータ回路を複数備え、
各インバータ回路が、前記負荷に対して互いに独立して交流電力を供給するように構成された請求項1~7のいずれか一項に記載のインバータ装置。
【請求項9】
前記インバータ回路の数をn個として、
前記PWM制御部が各インバータ回路に出力するPWM信号の周期を決定するためのキャリア周波数の位相が互いに(360/n)°ずれている請求項8に記載のインバータ装置。
【請求項10】
前記インバータ回路を2つ備え、
前記PWM制御部が、前記第1制御モードにおいて、一方のインバータ回路を下固定の2相変調により制御し、他方のインバータ回路を上固定の2相変調により制御する請求項8に記載のインバータ装置。
【請求項11】
三相ブリッジ接続されたスイッチング素子を備え、前記スイッチング素子をオン・オフさせることにより、入力された直流電力を交流電力に変換して負荷に出力するインバータ回路と、
前記スイッチング素子にPWM信号を出力するPWM制御部とを備え、
前記PWM制御部が、
二相変調により、三相のうち二相の前記スイッチング素子にPWM信号を出力する第1制御モードと、
空間ベクトル変調により、三相全ての前記スイッチング素子にPWM信号を出力する第2制御モードと、を交互に切り替えるように構成され、
前記第1制御モードにおけるPWM周期を決定するための第1キャリア周波数f
1と、前記第2制御モードにおけるPWM周期を決定するための第2キャリア周波数f
2とが以下の式(1)の関係を満たすことを特徴とするインバータ装置。
0.4≦f
2/f
1≦0.6 (1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インバータ装置のPWM制御の方式としては、二相変調方式と、三相変調方式とがあることが知られている(例えば特許文献1)。この二相変調方式は、三相変調方式に比べて電圧利用率が高く、またスイッチング損失が小さいという利点があるもの、三相変調方式に比べて騒音性能が劣るという不利点がある。
【0003】
近年、冷却部品の小型化、低コスト化、省エネルギー化等を目的として、インバータ装置のPWM制御のスイッチング損失を低減させる技術の開発が求められている。スイッチング損失を小さくする方法として、PWM周期を決定するためのキャリア周波数を低くすることが挙げられるが、この場合には、基本波周波数が低下することにより、騒音性能が許容できない程度に悪化してしまうという問題がある。インバータ装置において許容される騒音性能としては、せいぜい二相変調方式と同程度までである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであり、騒音性能を二相変調の駆動方式と同程度に抑えながら、スイッチング損失をより低減できるインバータ装置を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明に係るインバータ装置は、三相ブリッジ接続されたスイッチング素子を備え、前記スイッチング素子をオン・オフさせることにより、入力された直流電力を交流電力に変換して負荷に出力するインバータ回路と、前記スイッチング素子にPWM信号を出力するPWM制御部とを備え、前記PWM制御部が、二相変調により、三相のうち二相の前記スイッチング素子にPWM信号を出力する第1制御モードと、三相変調により、三相全ての前記スイッチング素子にPWM信号を出力して三相変調を行う第2制御モードと、を交互に切り替えるように構成され、前記第1制御モードにおけるPWM周期を決定するための第1キャリア周波数f1と、前記第2制御モードにおけるPWM周期を決定するための第2キャリア周波数f2とが以下の式(1)の関係を満たすことを特徴とするインバータ装置。
0.4≦f2/f1≦0.6 (1)
【0007】
このような構成であれば、二相変調方式により駆動する第1制御モードと、三相変調方式により駆動する第2制御モードとを交互に切り替えるとともに、第1キャリア周波数f
1に対する第2キャリア周波数f
2の比率を0.4~0.6に設定しているので、騒音性能を二相変調のみによる駆動方式と同程度に抑えながら、スイッチング損失を二相変調のみによる駆動同式よりも低減することができる。
すなわち、二相変調方式による第1制御モードと、三相変調方式による第2制御モードとを混ぜるようにし、第2制御モードのキャリア周波数f
2を、第1制御モードのキャリア周波数f
1よりも小さくしているので、二相変調方式のみでスイッチングするのに比べて、スイッチング回数を低減することができる。
また、第2キャリア周波数f
2を第1キャリア周波数f
1の1/2程度に設定することで、三相変調方式の二次高調波成分が二相変調の一次高調波成分に結合され、騒音性への影響を小さくできる。そして、第2キャリア周波数f
2を第1キャリア周波数f
1の1/2程度に設定することにより、例えば
図4に示すように、線間電圧発生周期を二相変調のみによる駆動方式と同じにできる。そのため、二相変調方式と三相変調方式とを織り交ぜているにも関わらわず、騒音性の悪化を抑制し、二相変調のみによる駆動方式と同程度に抑えることができる。
【0008】
ここで、第1キャリア周波数f1に対する第2キャリア周波数f2の比率が0.4を下回ると、第2制御モード(三相変調)の2次高調波ピークが、第1制御モード(二相変調)の1次高調波より低い周波数で発生し、許容できない程度に騒音を悪化させてしまう。一方で、第1キャリア周波数f1に対する第2キャリア周波数f2の比率が0.6を上回ると、線間電圧が発生するタイミングの周期性を低下させ、その影響が、1次高調波周辺の周波数ピークを増大させる。その結果、許容できない程度に騒音を悪化させてしまう。そのため本発明では、第1キャリア周波数f1に対する第2キャリア周波数f2の比率は、0.4~0.6としている。
【0009】
前記インバータ装置は、FFT解析における二相変調による1次高調波の形状が変わらないように、第2キャリア周波数f2が設定されていることが好ましい。
このようにすれば、1次高調波による騒音の周波数帯とピークが変わらないため、防音材等の騒音対策部品の変更が不要となる。
なお、「FFT解析における二相変調による1次高調波の形状が変わらない」とは、電流FFT解析結果において、1次高調波の周波数帯の拡散と、ピークが同程度であることを意味する。
【0010】
前記インバータ装置は、定単位時間における、前記第1制御モードによりPWM信号を出力する期間の割合が、前記第2制御モードによりPWM信号を出力する期間の割合よりも大きくなるように構成されていることが好ましい。
【0011】
所定単位時間において、第2制御モードによりPWM信号を出力する期間の割合が5%未満であると、スイッチング素子の低減の効果が得られにくいる。一方で、第2制御モードによりPWM信号を出力する期間の割合が50%以上であると、三相変調の基本波成分が増大し、騒音性が悪化する恐れがある。
そのため、前記インバータ装置は、所定単位時間における、前記第2制御モードによりPWM信号を出力する期間の割合が5%以上50%未満であることが好ましい。
【0012】
前記PWM制御部が、前記インバータ回路の変調率に応じて、所定単位時間における、前記第1制御モードによりPWM信号を出力する期間の割合と、前記第2制御モードによりPWM信号を出力する期間の割合とを変更することが好ましい。具体的には、変調率が小さい程、第2制御モードの割合を大きくし、変調率が大きい程第2制御モードの割合を小さくすることが好ましい。
このようにすれば、変調率の全域において、騒音への影響を最適化、または均一化することができる。
また、洗濯機のように高変調率時に機械騒音が支配的な製品の場合、変調率が大きい程第2制御モードの割合を大きくしてもよい。インバータの騒音の影響は小さく、スイッチング損失をより低減することができる。
【0013】
前記インバータ装置は、前記PWM制御部が、前記第2制御モードを実行するタイミングをランダムに設定するように構成されていることが好ましい。
このようにすれば、三相変調方式における基本波と、制御モード切替えにより発生する低次高調波のピークを平坦化でき、騒音性能への影響をより小さくできる。これにより、騒音性能を二相変調のみによる駆動方式とほぼ同一にすることができる。
【0014】
三相変調方式の一次高調波成分はインバータ回路の変調率が低い程小さくなり、騒音性能の悪化の程度が少なくなる。このため、第2制御モード(三相変調)をより多く織り交ぜることが可能となり、同等の騒音性能でよりスイッチングロスを低減することができる。
そのため前記インバータ装置は、前記PWM制御部が、前記インバータ回路の変調率が所定値以下である場合に、前記第1制御モードと前記第2制御モードとを切り替えるように構成されていることが好ましい。具体的には、インバータ回路の変調率は、三相変調方式の一次高調波成分が二次高調波成分よりも小さくなる場合に、第1制御モードと第2制御モードとを切り替えることが好ましい。
なお本明細書でいう“インバータ回路の変調率”とは、インバータ回路への入力電圧に対する外部負荷への出力電圧の比率を意味する。
【0015】
本発明の効果をより顕著に奏する態様としては、前記インバータ装置が、前記インバータ回路を複数備え、各インバータ回路が、前記負荷に対して互いに独立して交流電力を供給するように構成されたものが挙げられる。
このようなものであれば、各インバータ回路においてスイッチング損失を低減することができる。
【0016】
前記インバータ装置は、前記インバータ回路の数をn個として、前記PWM制御部が各インバータ回路に出力するPWM信号の周期を決定するためのキャリア周波数の位相が互いに(360/n)°ずれていることが好ましい。
このようにすれば、三相変調方式における基本波成分のトルクリプルを低減し、騒音を高周波数側(n次側)へシフトさせることができる。これにより、基本波成分による騒音をより低減できる。このため、各インバータの位相をシフトすれば、所定単位時間における第2制御モードによりPWM信号を出力する期間の割合を更に大きくすることができ、スイッチング損失をより一層低減できる。
【0017】
前記インバータ装置は、前記インバータ回路を2つ備え、前記PWM制御部が、前記第1制御モードにおいて、一方のインバータ回路を下固定の2相変調により制御し、他方のインバータ回路を上固定の2相変調により制御することが好ましい。
このようにすれば、下固定の2相変調では、キャリアの谷を中心として線間電圧が発生し、上固定の2相変調では、キャリアの山を中心として線間電圧が発生するので、線間電圧を180°シフトさせたものと一致させることができる。
【0018】
また本発明のインバータ装置は、三相ブリッジ接続されたスイッチング素子を備え、前記スイッチング素子をオン・オフさせることにより、入力された直流電力を交流電力に変換して負荷に出力するインバータ回路と、前記スイッチング素子にPWM信号を出力するPWM制御部とを備え、前記PWM制御部が、二相変調により、三相のうち二相の前記スイッチング素子にPWM信号を出力する第1制御モードと、空間ベクトル変調により、三相全ての前記スイッチング素子にPWM信号を出力する第2制御モードと、を交互に切り替えるように構成され、前記第1制御モードにおけるPWM周期を決定するための第1キャリア周波数f1と、前記第2制御モードにおけるPWM周期を決定するための第2キャリア周波数f2とが以下の式(1)の関係を満たすことを特徴とするものであってもよい。
0.4≦f2/f1≦0.6 (1)
【0019】
このようなものであっても上記した本発明の効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0020】
このように構成した本発明によれば、騒音性能を二相変調の駆動方式と同程度に抑えながら、スイッチング損失をより低減できるインバータ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態のインバータ装置の回路構成を概略的に示す図。
【
図2】同実施形態のインバータ装置の制御パターンの一例を示す図。
【
図3】同実施形態のインバータ装置のFFT解析結果の一例を示す図。
【
図4】同実施形態のインバータ装置の線間電圧発生のタイミングの一例を示す図
【
図5】同実施形態のインバータ装置の第2制御モードでの変調方式を説明する図。
【
図6】同実施形態のインバータ装置のFFT解析結果の一例を示す図。
【
図7】同実施形態のインバータ装置のFFT解析結果の一例を示す図。
【
図8】同実施形態のインバータ装置のFFT解析結果の一例を示す図。
【
図9】同実施形態のインバータ装置のFFT解析結果の一例を示す図。
【
図10】他の実施形態のインバータ装置の回路構成を概略的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の一実施形態に係るインバータ装置100について図面を参照して説明する。
【0023】
本実施形態のインバータ装置100は、直流電源Gに接続され、入力された直流電力をパルス幅変調(PWM)方式によって三相交流電力に変換し、外部負荷に供給するものである。外部負荷は、ここでは三相コイルを有する三相交流負荷であり、具体的には三相同期モータ200である。
【0024】
具体的にこのインバータ装置100は、インバータ回路10とPWM制御部20とを備えている。インバータ装置100は、PWM制御部20から出力されたPWM信号に基づき、インバータ回路10のスイッチング素子がオン・オフすることにより、入力された直流電力を三相交流電力に変換し、端子2U、2V及び2Wから、それぞれ、電気角が互いに120°ずれたU相電流、V相電流及びW相電流を出力する。この出力されたU相、V相、W相の交流電流は、三相モータ200のU相、V相、W相の電機子巻き線(図示しない)にそれぞれ入力される。
【0025】
インバータ回路10は、モータ200のU相、V相、W相に対応する3相分のアームからなる三相ブリッジ回路として構成されたものである。具体的には
図1に示すように、上アーム側のスイッチング素子1U
+、1V
+及び1W
+と、スイッチング素子1U
+、1V
+及び1W
+のそれぞれに直列接続された下アーム側のスイッチング素子1U
-、1V
-及び1W
-とを備えている。スイッチング素子1U
+及び1U
-の接続点に端子2Uが接続されている。スイッチング素子1V
+及び1V
-の接続点に端子2Vが接続されている。スイッチング素子1W
+及び1W
-の接続点に端子2Wが接続されている。インバータ回路10は、スイッチング素子1U
+、1V
+、1W
+、1U
-、1V
-及び1W
-をオン・オフさせることにより、入力された直流電力を交流電力に変換して負荷に供給する。スイッチング素子1U
+、1V
+、1W
+、1U
-、1V
-及び1W
-として、例えば、バイポーラジトランジスタ、パワーMOSFET、IGBTなどを使用することができるが、これに限定されない。
【0026】
PWM制御部20は、CPU、メモリ及び入出力インターフェース等を備えた汎用乃至専用のコンピュータであり、メモリの所定領域に格納された所定プログラムに従ってCPUや周辺機器を協働させることによりその機能が実現されるものである。具体的にこのPWM制御部20は、インバータ回路10の各スイッチング素子1U+、1V+、1W+、1U-、1V-及び1W-にPWM信号を出力し、これらをスイッチング制御する。
【0027】
本実施形態のPWM制御部20は、
図2に示すように、二相変調により、三相のうち二相のスイッチング素子にPWM信号を出力してPWM制御する第1制御モードと、三相変調により、三相のスイッチング素子にPWM信号を出力してPWM制御する第2制御モードとを有しており、これらを交互に切り替えるように構成されていることを特徴とする。第1制御モードでは、U相、V相及びW相のうち一相を導通状態又は非導通状態で固定される(ここでは、U相を非導通状態で固定している)。
【0028】
図2に示すように、本実施形態のPWM制御部20は、第2制御モード(三相変調モード)におけるPWM周期を決定するための第2キャリア周波数f
2を、第1制御モード(二相変調モード)におけるPWM周期を決定するための第1キャリア周波数f
1よりも低くなるように設定されている。より具体的には、第1キャリア周波数f
1と、第2キャリア周波数f
2とが以下の式(1)の関係を満たすように設定されている。
0.4≦f
2/f
1≦0.6 (1)
この第2キャリア周波数f
2は第1キャリア周波数f
1の約1/2になるように設定されていることが好ましく、ここでは第1キャリア周波数f
1を8kHz、第2キャリア周波数f
2を4kHzに設定している。
【0029】
本実施形態のインバータ装置100は、このように所定のキャリア周波数により、二相変調による第1制御モードと、三相変調による第2制御モードとを織り交ぜるように実行することで、
図3に示すように、三相変調のみによる1次高調波ピークに対して小さくでき、生じる騒音を、二相変調のみによりPWM制御する場合同程度に抑えることができる。
【0030】
また本実施形態のインバータ装置100は、第1キャリア周波数f
1と、第2キャリア周波数f
2とを上記式(1)の関係を満たすように設定することで、
図4に示すように、線間電圧発生周期を二相変調のみによる駆動方式と同じにできる。そのため、二相変調方式と三相変調方式とを織り交ぜているにも関わらわず、騒音性の悪化を抑制し、二相変調のみによる駆動方式と同程度に抑えることができる。
【0031】
なお本実施形態の第2制御モードでは、
図5(a)に示す三相変調方式を使用するが、これに限らず
図5(b)に示すような、三相変調方式をもとに開発されて出力電圧を拡大した空間ベクトル変調を使用してもよい。このようにしても、三相の基準電圧が0ボルトで三相をスイッチングするため、同様に線間電圧の周期性が維持され、三相変調方式と同等の効果を有する。三相をスイッチングして、線間電圧の周期性が維持されるように三相の基準電圧が0ボルト近傍とした方式であれば、これに限らない。
【0032】
ここで、第2キャリア周波数f
2が大きくなり過ぎると、
図6に示すように、線間電圧発生タイミングの周期性が低下し、第1制御モードの1次高調波以外の周波数ピークが発生する。これにより、許容できない程度に騒音性能が悪化する。例えば、圧縮機の共振周波数域を外してキャリア周波数が設定されるが、
図6のように第1制御モードの1次高調波より低い周波数にピークが発生した場合、圧縮機の共振周波数域にピークが存在することになり、騒音は大きく悪化する。そのため、第2キャリア周波数は、第1制御モードの電流FFTの一次成分形状が変わらないような範囲に設定されることが好ましく、第1キャリア周波数f
1に対する第2キャリア周波数f
2の比率は、0.4~0.6であることが好ましい。
【0033】
また本実施形態のPWM制御部20は、第2制御モードを実行するタイミングをランダムに設定するように構成されていることが好ましい。このようにすることで、
図7に示すように、第2制御モードを規則的に実行するように設定した場合に比べて、三相変調方式における基本波と、制御モード切替えにより発生する低次高調波のピークとを平坦化でき、騒音性能への影響をより小さくできる。第2制御モードを実行するタイミングは、例えば線形合同法やM系列等のランダム関数を用いて決定してもよいが、ランダム関数はこれに限らない。
【0034】
また本実施形態のPWM制御部20は、所定単位時間において、第1制御モードによりPWM信号を出力する期間の割合が、第2制御モードによりPWM信号を出力する期間の割合よりも大きくなるように構成されている。すなわち、PWM制御部20は、主として第1制御モードによりPWM制御を行い、これに第2制御モードの実行を織り込むように構成されている。
【0035】
具体的に説明すると、所定単位時間において、第1制御モードによりPWM制御する期間の割合と第2制御モードによりPWM制御する期間の割合との合計を100%として、
図8に示すように、第2制御モードの割合が増えるほど、スイッチング回数が低減し、スイッチング損失を低減することができる。第2制御モードによりPWM制御する期間の割合が少なければ、騒音への影響が少ないがスイッチング損失の低減効果が限定的になる。第2制御モードによりPWM制御する期間の割合が多ければ、騒音への影響が大きくなるがスイッチング損失の低減効果が大きくなる。実際は、インバータやモータは、金属などに囲まれた筐体の中にあることが多く、筐体の防音性能や周波数特性を含めて、騒音を評価し、騒音増加抑制を最小化できる範囲で、第2制御モードの割合を最大となるように調整することが望ましい。
この制御方法から鑑みると、所定単位時間において、第2制御のモードによりPWM制御する期間の割合が50%未満であることが好ましい。
【0036】
また本実施形態のPWM制御部20が、インバータ回路10の変調率が所定値以下、具体的には0.5以下である場合に、第1制御モードと第2制御モードとを交互に切り替えるように構成されている。すなわち、PWM制御部20は、インバータ回路10の変調率が0.5以下である期間において、第1制御モードと第2制御モードとをランダムに設定したタイミングで切り替えるように構成されている。インバータ回路10の変調率が0.5以下の場合、
図9に示すように、第2制御モードの1次高調波成分が著しく小さいため、騒音への影響が小さく、第1制御モードに第2制御モードを織り交ぜた場合の影響も小さい。PWM制御部20は、インバータ回路10の変調率が0.5以下である場合に第1制御モードと第2制御モードとを交互に切り替えるように構成することが好ましい。
【0037】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態のインバータ装置100によれば、二相変調方式により駆動する第1制御モードと、三相変調方式により駆動する第2制御モードとを交互に切り替えるとともに、第1キャリア周波数f
1に対する第2キャリア周波数f
2の比率を0.4~0.6に設定しているので、騒音性能を二相変調のみによる駆動方式と同程度に抑えながら、スイッチング損失を二相変調のみによる駆動同式よりも低減することができる。
すなわち、二相変調方式による第1制御モードと、三相変調方式による第2制御モードとを混ぜるようにし、第2制御モードのキャリア周波数f
2を、第1制御モードのキャリア周波数f
1よりも小さくしているので、二相変調方式のみでスイッチングするのに比べて、スイッチング回数を低減することができる。
また、第2キャリア周波数f
2を第1キャリア周波数f
1の1/2程度に設定することで、三相変調方式の二次高調波成分が二相変調の一次高調波成分に結合され、騒音性への影響を小さくできる。そして、第2キャリア周波数f
2を第1キャリア周波数f
1の1/2程度に設定することにより、例えば
図4に示すように、線間電圧発生周期を二相変調のみによる駆動方式と同じにできる。そのため、二相変調方式と三相変調方式とを織り交ぜているにも関わらわず、騒音性の悪化を抑制し、二相変調のみによる駆動方式と同程度に抑えることができる。
また、PWM制御部20は、第2制御モードを実行するタイミングをランダムに設定するように構成されているので、三相変調方式における基本波と、制御モード切替えにより発生する低次高調波のピークとを平坦化でき、騒音性能への影響をより小さくできる。これにより、騒音性能を二相変調のみによる駆動方式とほぼ同一にすることができる。
【0038】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0039】
前記実施形態のインバータ装置100は、インバータ回路10を1つだけ備えるものであったが、これに限らない。他の実施形態のインバータ装置100は、
図10に示すように、インバータ回路10を複数備えており、各インバータ回路10が、共通の外部負荷に対して互いに独立して交流電力を供給するように構成されていてもよい(すなわち複数のインバータ回路10が並列多重化されていてもよい)。この場合、PWM制御部20は、各インバータ回路10に対して、互いに独立してPWM信号を出力するように構成されてもよい。そして、並列多重接続されているインバータ回路10の数をn個として、PWM制御部20は、各インバータ回路10に出力するPWM信号の周期を決定するためのキャリア周波数の位相が互いに(360/n)°ずれるようにしてよい。このようにすると、三相変調方式における基本波成分のトルクリプルを低減し、騒音を高周波数側(n次側)へシフトさせることができる。これにより、基本波成分による騒音をより低減できる。このため、各インバータの位相をシフトすれば、所定単位時間における第2制御モードによりPWM信号を出力する期間の割合を更に大きくすることができ、スイッチング損失をより一層低減できる。
【0040】
また、インバータ装置100がインバータ回路10を2つ備えている場合、PWM制御部20は、第1制御モードにおいて、一方のインバータ回路10を下固定の2相変調(すなわち、3相のアームのスイッチング素子のオン・オフ状態を順次下アーム側に電気角で120度ずつ固定する)により制御し、他方のインバータ回路10を上固定の2相変調(すなわち、3相のアームのスイッチング素子のオン・オフ状態を順次上アーム側に電気角で120度ずつ固定する)により制御するようにしてもよい。
【0041】
前記実施形態のインバータ装置100は、PWM制御部20が、第1制御モードと第2制御モードとを切り替えるタイミングをランダムに設定していたがこれに限らない。他の実施形態では、PWM制御部20は第1制御モードと第2制御モードとを所定のタイミングで切り替えるようにしてもよい。
【0042】
また前記実施形態のインバータ装置100は、PWM制御部20が、インバータ回路10の変調率が0.5以下である場合に第1制御モードと第2制御モードとを交互に切り替えるように構成されていたが、これに限らない。他の実施形態のインバータ装置100は、PWM制御部20が、インバータ回路10の変調率が0.5超である場合にも、第1制御モードと第2制御モードとを交互に切り替えるように構成されていてもよい。
【0043】
他の実施形態のインバータ装置100は、PWM制御部20が、インバータ回路10の変調率に応じて、所定単位時間における、第1制御モードによりPWM信号を出力する期間の割合と、前記第2制御モードによりPWM信号を出力する期間の割合とを変更するように構成されていてもよい。例えば、変調率が小さい程第2制御モードの割合を大きくし、変調率が大きい程第2制御モードの割合を小さくするようにしてもよい。あるいは、変調率が大きい程第2制御モードの割合を大きくするようにしてもよい。
【0044】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、様々な実施形態の変形や組合せを行っても構わない。
【符号の説明】
【0045】
100 ・・・インバータ装置
10 ・・・インバータ回路
1U、1V、1W・・・スイッチング素子
20 ・・・PWM制御部
200 ・・・モータ
G ・・・電源