(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】コーティング組成物、コーティング膜及びコーティング膜を備えた部材
(51)【国際特許分類】
C09D 183/04 20060101AFI20240711BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20240711BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D7/65
(21)【出願番号】P 2020106320
(22)【出願日】2020-06-19
【審査請求日】2023-01-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000136354
【氏名又は名称】株式会社フコク
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 陽介
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-148599(JP,A)
【文献】特表2014-520176(JP,A)
【文献】特開昭59-089356(JP,A)
【文献】特開昭56-004667(JP,A)
【文献】国際公開第2012/002571(WO,A1)
【文献】特開2006-076068(JP,A)
【文献】特開昭63-202657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00-10/00;101/00-201/00
C09K3/18
B64D15/00
B64C1/00
B60S1/66
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有し、
水酸基以外の反応性官能基を有さない、室温で硬化する、25℃における粘度1cSt以上400,000cSt以下のシリコーンオイル100重量部に対して、
(B)25℃における粘度450cSt以上1,000,000cSt以下の非反応性シリコーンオイルを0.5重量部以上200重量部以下と、
(C)アミノキシ基を有し、水酸基を含まないシリコーンを7重量部以上200重量部以下と、
を含み、かつ、シリコーンレジンを含有しないことを特徴とするコーティング組成物。
【請求項2】
前記シリコーンオイル(A)が、
分子鎖末端が水酸基を有するジメチルシリコーンジオール、ジメチルジフェニルシリコーンジオール、及びメチルフェニルシリコーンジオールからなる群から選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項1に記載のコーティング組成物
。
【請求項3】
前記非反応性シリコーンオイル(B)が、ジメチルシリコーン、アルキル変性シリコーン、フェニルシリコーン、及びフッ素変性シリコーンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のコーティング組成物より得られるコーティング膜。
【請求項5】
着氷剥離力が80kPa未満であり、かつ、着氷剥離力変化が110kPa未満であることを特徴とする請求項4に記載のコーティング膜。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載のコーティング膜を備えた、自動車車体、電気自動車電池部品周辺、信号機、鉄道車両、航空機機体、又は屋外構造物の部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着雪着氷防止用コーティング組成物、コーティング膜及びコーティング膜を備えた部材に関する。
【背景技術】
【0002】
寒冷圏において、雪・氷・霜などが自動車・信号機・鉄道・航空機・構造物外装へ付着することにより機能不全或いは二次災害の発生が問題視されている。一般的な除氷雪手法として、解氷剤が用いられる。解氷剤は、例えば、航空機の外装に付着した氷雪を除去するために大量に使用されるが、大量の解氷剤使用は、環境汚染への影響が懸念されている。
環境汚染への影響が少ない手法としては、航空機の外装等にコーティングを施す手法が挙げられる。この方法は、主にフッ素樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂などを航空機の外装に塗装することで、着氷雪防止や除氷雪が容易となる。しかしながら、これらの塗装は長期的に着氷雪除去性能を維持できず、1~2ヶ月程度で着氷雪しやすくなってしまう。
【0003】
特許文献1には、化学反応型シリコーンゴムと、撥水性化合物と有機水溶液化合物とを混合して成ることを特徴とする着氷雪防止塗料組成物が開示されている。ここで、化学反応型シリコーンゴムは、水酸基、ビニル基などを有し、金属触媒、過酸化物、有機アミンなどで架橋したものである。撥水性化合物は、シリコーンオイル、鉱物油などである。有機水溶性化合物は、界面活性剤(ノニオン・アニオン・カチオンなど)、多価アルコール類(グリセリン・エチレングリコールなど)、水溶性樹脂類(PVA樹脂・ヒドロキシエチルセルロースなど)の少なくとも一種を含む。特許文献1によれば、この組成物の(C)有機水溶性化合物及び(B)撥水性化合物が(A)化学反応型シリコーンゴム塗膜の表面に存在することで、(A)化学反応型シリコーンゴムと氷雪の間に発生するファンデルワールス力や水素結合を弱めるため、着氷雪が付着しにくくなる。更に、塗膜内部にも存在している(C)有機水溶性化合物及び(B)撥水性化合物が微量ずつ表面に染み出すため、長期的に着雪氷防止性能を維持できる、とされている。
【0004】
特許文献2には、車両塗装面に形成されたガラス系被膜の表面改質剤であって、シリコーンレジンを被膜形成要素としジメチルシリコーンオイルを被膜副要素とする水エマルション系であって、前記シリコーンレジンがMQレジンとDTレジンとの混合物からなり、両者の質量混合比が前者/後者=95/5~70/30であることを特徴とするガラス系被膜の表面改質剤が開示されている。特許文献2によれば、この組成物において、シリコーンレジンの塗膜に含まれるシリコーンオイルが塗膜表面にブリードアウトすることにより、水とともにシリコーンオイルが除去されるため、ミネラル等が付着しにくい。これにより長期的に優れた撥水性、光沢を維持するとともに付着物が発生しづらい塗膜を形成する、とされている。
【0005】
特許文献3には、(A)分子鎖末端が水酸基である特定のジオルガノポリシロキサン、(B)特定のオルガノポリシロキサンレジン、(C)ジメチルシリコーンオイル、及び任意成分として(D)アミノキシ基を2つ以上有するケイ素化合物等の縮合触媒を含むことを特徴とする、ゴム部材のシール性およびゴミ付着防止性を向上させたコーティング組成物が開示されている。特許文献3によれば、この組成物をゴム部材へ塗装した際に(C)ジメチルシリコーンオイルが存在すると、組成物の濡れ広がりを促進することで平滑な塗膜を形成する。その後、(C)ジメチルシリコーンオイルは下地のゴム部材に吸収され、(C)ジメチルシリコーンオイルが吸収された部位にごく浅い凹みが形成される。その結果、塗膜表面には微細でなだらかな凹凸が多数形成されることで、凹凸より大きなゴミは塗膜と接触する面積が少なくなるため付着しにくくなる。加えて、このなだらかな凹凸は微細であるが故に、相手材と塗膜がシールする際に、ほとんど隙間無く密着することができるので十分なシール性を備えている。更に、(B)シリコーンレジンが存在すると塗膜硬度が上がり塗膜表面の粘着性が低下することでゴミが付着しにくくなる。これにより、ゴミ付着防止及びシール性に優れる塗膜を形成する、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭62-252477号公報
【文献】特開2014-210240号公報
【文献】特開2014-148599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1にて用いられる(A)化学反応型シリコーンゴムと(B)撥水性化合物(シリコーンオイル)は親和性が高いため、オイルがゴム内部に留まりやすくなる。そのため、氷雪を付着しにくくする(B)撥水性化合物(シリコーンオイル)の塗膜表面に存在する量が少なくなるため、良好な着氷雪除去性能を得られない。また、撥水性のシリコーンと親水性の有機水溶性樹脂は相溶性が低いため、混合すると高粘度混合物を形成する可能性がある。高粘度液体は塗装した際に濡れ広がりにくく、表面凹凸を形成する。そのため、実使用環境において、表面凹凸部に着氷雪すると除去が困難となる、といった問題点がある。
【0008】
特許文献2に記載の表面改質剤において、レジン系塗膜は架橋密度が高く、シリコーンオイルを塗膜内に保持できる物理的スペースが少ない。このため、塗膜内にシリコーンオイルを保持できる量が少なく、長期的に表面付着物除去性能を維持できない。また、レジン系塗膜は硬く脆い塗膜であるため、氷粒や砂塵などの衝突によりクラックなどを生じやすい。クラック部分に付着物が入り込むと除去が困難となるため、長期的に表面付着物除去性能を維持できない、といった問題点がある。
【0009】
特許文献3に記載の表面改質剤において、(B)シリコーンレジンは凝集しやすい性質をもつため、塗膜内で凝集物を生じやすい。凝集物が存在すると塗膜表面に大きな凹凸形状として現れるため、凹部に氷雪が入り込む形で着氷しやすくなる、といった問題点がある。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑みて、優れた着氷着雪除去性能を維持するとともに、塗膜欠損を生じにくいコーティング組成物、コーティング膜およびコーティング膜を備えた部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下を包含する。
[1]
(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルと、
(B)非反応性シリコーンオイルと、
(C)アミノキシ基を有するシリコーンと、
を含むことを特徴とするコーティング組成物。
[2]
前記シリコーンオイル(A)100重量部に対して、
前記非反応性シリコーンオイル(B)を0.5~200重量部、
前記アミノキシ基を有するシリコーン(C)を7~200重量部
含むことを特徴とする[1]に記載のコーティング組成物。
[3]
前記非反応性シリコーンオイル(B)が、ジメチルシリコーン、アルキル変性シリコーン、フェニルシリコーン、及びフッ素変性シリコーンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする[1]又は[2]に記載のコーティング組成物。
[4]
[1]乃至[3]のいずれか一項に記載のコーティング組成物より得られるコーティング膜。
[5]
着氷剥離力が80kPa未満であり、かつ、着氷剥離力変化が110kPa未満であることを特徴とする[4]に記載のコーティング膜。
[6]
[4]又は[5]に記載のコーティング膜を備えた、自動車車体、電気自動車電池部品周辺、信号機、鉄道車両、航空機機体、又は屋外構造物の部材。
【発明の効果】
【0012】
本発明におけるコーティング組成物により得られたコーティング膜は膜欠損を生じにくいコーティング膜であり、優れた着氷着雪除去性能を維持する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】着氷剥離力評価の試験方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るコーティング組成物は、
(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルと、
(B)非反応性シリコーンオイルと、
(C)アミノキシ基を有するシリコーンと、
を含むことを特徴とする。以下に順に説明する。
【0015】
[(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル]
(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルとしては、具体的にはジメチルシリコーンオイルの分子鎖末端が水酸基を有するジメチルシリコーンジオール、ジメチルジフェニルシリコーンジオール、メチルフェニルシリコーンジオールや、ジメチルシリコーンオイルの一部が水酸基以外の官能基で変性されたアルキッド変性シリコーン、ポリエステル変性シリコーン、アクリル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、フェノール変性シリコーン、ウレタン変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、シリカ変性シリコーン、ビニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーンなどの変性シリコーンオイルを有するものが挙げられる。これらのうち、任意の一種又は二種以上を適宜選択して本発明に用いることができる。
なお、分子中における水酸基の位置は特に限定されない。例えば、直鎖状の分子の両末端に水酸基が付いていてもよい。
【0016】
1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルは、硬化剤(本発明においては(C)アミノキシ基を有するシリコーン)と混合した後に塗布されることが通常であるが、粘度が大きい場合は濡れ広がりが起こりにくく、塗布ムラにより、硬化後のコーティング膜にも表面凹凸が発生し、着氷しやすくなる。更に、塗布ムラによる表面凹凸の凸部は、塗布膜硬化後のコーティング膜にも生じるため、コーティング膜は、氷粒などの衝突により欠損、摩耗しやすく、着氷しやすくなる。また、粘度が小さい場合には一分子中において複数の水酸基同士の距離が短くなり、硬化後に架橋点間距離の短い、脆いコーティング膜を形成するため、膜欠損を生じやすく、欠損部に着氷しやすくなる。そのため、適切な粘度の1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルを選択する必要がある。例えば、25℃における粘度は、好ましくは1cSt以上、より好ましくは50cSt以上、さらに好ましくは100cSt以上であり、好ましくは400000cSt以下、より好ましくは200000cSt以下、さらに好ましくは100000cSt以下である。なお、1cStは1mm2/sである。
【0017】
1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルとしては、YF3800、YF3905、YF3057、YF3802(いずれもモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)、BY16-201、SF8427Fluid(いずれもダウ・東レ株式会社製)、KF-6002、KF-6003(いずれも信越化学工業株式会社製)等が市販されている。
【0018】
[(B)非反応性シリコーンオイル]
(B)非反応性シリコーンオイルとしては、具体的にはジメチルシリコーン、アルキル変性シリコーン、フェニルシリコーン、フッ素変性シリコーンオイルなどが挙げられる。これらのうち、任意の一種又は二種以上を適宜選択して本発明に用いることができる。
【0019】
(B)非反応性シリコーンオイルは上記シリコーンオイル(A)とは異なる。具体的には、反応性官能基(水酸基、ビニル基、アミノキシ基など)を分子構造中に含まない。好ましくは、(B)非反応性シリコーンオイルは、前記シリコーンオイル(A)100重量部に対して0.5~200重量部の割合で配合される。
【0020】
本発明において非反応性シリコーンオイルはコーティング膜表面にブリードアウトすることで、コーティング膜表面に着氷雪した場合でも、着氷雪が剥離しやすくなるが、非反応性シリコーンオイルの粘度が大きい場合は、コーティング膜表面にブリードアウトする量が少なく、コーティング膜表面に着氷雪した場合には、着氷雪が剥離しにくい。更に、粘度が大きい場合は、塗布装時に濡れ広がりが起こりにくく塗布ムラによる表面凹凸が発生し、コーティング膜表面に着氷しやすくなる。そのため、粘度の小さい非反応性シリコーンオイルを選択することが好ましい。具体的には、25℃における粘度は1000000cSt以下が好ましく、より好ましくは100000cSt、さらに好ましくは10000cSt以下が好ましい。
【0021】
非反応性シリコーンオイルとしては、KF-96-1,000CS、KF-96-5,000CS、KF-4701、KF-54、FL-100-450CS(いずれも信越化学工業株式会社製)、Element14 PDMS200、Element14 PDMS500(いずれもモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)、SF8416Fluid、56Additive(いずれもダウ・東レ株式会社製)等が市販されている。
【0022】
[(C)アミノキシ基を有するシリコーン]
(C)アミノキシ基を有するシリコーンとしては、下記式(1)のアミノキシ基を有するシリコーンを用いることができる。
【0023】
【0024】
上記式(1)中、R1はシロキサン構造、R2およびR3はそれぞれ独立に、同一又は異なるアルキル基を示す。アルキル基は、直鎖、分岐、又は環状の飽和、又は不飽和の炭化水素基である。好ましくは、アルキル基の炭素原子数は1乃至12であり、より好ましくは1乃至6である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基等を使用することができる。
【0025】
(C)アミノキシ基を有するシリコーンは、上記シリコーンオイル(A)、上記シリコーンオイル(B)のいずれとも異なる。具体的には、分子構造中に水酸基を含まないため、上記シリコーンオイル(A)と異なる。また、(C)アミノキシ基を有するシリコーンは反応性官能基としてアミノキシ基を分子構造中に含むため、上記シリコーンオイル(B)と異なる。好ましくは、(C)アミノキシ基を有するシリコーンは、前記シリコーンオイル(A)100重量部に対して7~200重量部の割合で配合される。
【0026】
アミノキシ基を有するシリコーン硬化剤としては、シーラント70B、シーラント74B(いずれも信越化学工業株式会社製)、ME35(B)(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)等が市販されている。
【0027】
[コーティング膜]
本発明に係るコーティング膜を形成する方法に特に制限はないが、種々な材料から成る部材上に一般的な方法により本発明に係るコーティング組成物を塗布し、その後、乾燥、硬化させることが好ましい。
【0028】
なお、部材としては、特に制限はないが、金属(ステンレス、SPCC、アルミ、ニッケルなど)、樹脂(ウレタン、エポキシ、シリコーンレジン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドなど)、セラミック(炭化ケイ素、アルミナなど)、ガラス、ゴム(天然ゴム、EPDM、シリコーンゴム、フッ素ゴムなど)などにコーティングすることができる。
【0029】
塗布方法としては、特に制限はないが、バーコート法、ロールコーター法、スクリーン法、フレキソ法、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、スライドコート法等が挙げられる。
【0030】
本発明に係るコーティング組成物は、塗布後、所定時間、常温で大気中に静置することにより硬化させることができる。必要により、加熱したり、減圧下に置いたりすることもできる。加熱する場合、加熱温度に特に限定はなく、例えば50℃以上、180℃以下である。加熱時間にも特に限定はなく、例えば30秒以上、60分以下である。また、必要により、光、好ましくは紫外線を照射することにより硬化を促進してもよい。光照射を行う場合、照射量に特に限定はなく、例えば100mJ/cm2以上、1000mJ/cm2以下である。
【0031】
本発明に係るコーティング膜の硬化後の厚みは、特に限定はなく、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上であり、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは15μm以下である。
【0032】
このようにして得られる本発明に係るコーティング膜は、着氷剥離力が80kPa未満であり、かつ、着氷剥離力変化が110kPa未満である。着氷剥離力、連続着氷剥離力、及び着氷剥離力変化の求め方は後述する。
【0033】
本発明に係るコーティング膜に対して、(B)非反応性シリコーンオイルを重ね塗りしてもよい。これにより、更に長期的に着氷雪剥離性能を維持することができる。なお、(B)非反応性シリコーンオイルは本発明に使用できるものであれば、塗布方法・希釈の有無になんら制限を受けず、任意の一種又は二種以上を適宜選択して用いてもよい。
【0034】
理論に拘束されることは望まないが、本発明による有利な効果が得られるメカニズムは以下のように考えられる。
一般的に、シリコーンコーティング膜を得る手法の一つとして、(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルに、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを硬化剤として混合してシリコーン塗布膜を形成し、この膜を硬化させることで、シリコーンコーティング膜を得る。(C)アミノキシ基を有するシリコーンは比較的水や氷と親和しやすいため、(C)アミノキシ基を有するシリコーンの使用量は少ないほど、シリコーンコーティング膜に、水や氷と親和しにくいシリコーン成分が多量に存在することになるため、着氷雪防止や撥水性の観点から好ましいとされる。
しかしながら、(B)非反応性シリコーンオイルを含有したシリコーンコーティング膜においては、水や氷と親和しやすい(C)アミノキシ基を有するシリコーンを多量配合することで、シリコーンコーティング膜内部に(B)非反応性シリコーンオイルを保持できず外部に漏れ出す(ブリードアウト)が発生しやすくなる。このように、ブリードアウトしてコーティング膜表面に存在する(B)非反応性シリコーンオイルが着氷雪ごと剥離することで、優れた着氷雪防止性能を発現することができる。本発明においては、シリコーン塗布膜の硬化剤として(C)アミノキシ基を有するシリコーンを多量配合することで、(B)非反応性シリコーンオイルのブリードアウトが発生しやすくなる。これは(B)非反応性シリコーンオイルが親油性であるのに対して、硬化した(C)アミノキシ基を有するシリコーンは撥油性であるため、相溶性が低いことに由来する。硬化した(C)アミノキシ基を有するシリコーンと分離する形で(B)非反応性シリコーンオイルがコーティング膜表面にブリードアウトするため、優れた着氷雪防止性能を発現する。
加えて、コーティング膜を硬化させる過程で(C)アミノキシ基を有するシリコーンに含まれるアミノキシ基が脱離し、アミン系液状化合物として残留する。このアミン系液状化合物はシリコーンコーティング膜と相溶性が悪いため、コーティング膜表面にブリードアウトしやすい。アミン系液状化合物が着氷雪ごと剥離することで、優れた着氷雪防止性能を発現することができる。
また、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを多量配合したシリコーンコーティング膜はガラス系コーティング膜に比べて架橋密度が低い。これにより膜内部に(B)非反応性シリコーンオイルを保持できる物理的スペースが多いため、比較的多量の(B)非反応性シリコーンオイルを保持できる。多量の(B)非反応性シリコーンオイルを保持しているため、長期的にコーティング膜表面に(B)非反応性シリコーンオイルがブリードアウトし続けることで、長期的に着氷雪防止性能を維持できる。
更に、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを多量配合したシリコーンコーティング膜はガラス系コーティング膜に比べて架橋密度が低いため、柔軟性に優れる。それゆえ、氷粒や砂塵などの衝突に対して柔軟なコーティング膜が衝撃を吸収することでクラックを生じにくく、クラックに氷雪が入り込む形で着氷雪しにくいため、着氷雪を防止できる。
【0035】
[コーティング膜を備えた部材]
本発明に係るコーティング膜は、長期間にわたり苛酷な環境に曝された後でも優れた着氷着雪除去性能を維持するとともに、塗膜欠損を生じにくいため、例えば、自動車車体、電気自動車電池部品周辺、信号機、鉄道車両、航空機機体、屋外構造物(建造物外壁・道路標識など)等の部材に施用するのに特に好適である。
【0036】
部材と密着させる目的で、プライマー層を上記部材と本発明に係るコーティング膜との間に設けても良い。また、上記部材に本発明と異なるコーティング膜(例:着色や傷つき防止などの目的)が形成されている場合、本発明に係るコーティング組成物を上塗りし、2層コーティング膜を形成しても良い。
【実施例】
【0037】
(コーティング組成物の調製)
各成分を表1に示す割合で混合し、実施例1~29および比較例1~7のコーティング組成物を得た。なお、表1に示す数値は重量部を表す。
【0038】
(コーティング膜の作製)
表1に示す実施例1~29及び比較例1~7のコーティング組成物を厚さ3mmのSUS304板に膜厚が10±3μmとなるようにスプレー塗布し、室温で24時間以上静置してコーティング膜を得た。
【0039】
[評価方法]
(着氷剥離力)
プッシュプルゲージ(株式会社イマダ製、型番PSM-20N)を用いて着氷剥離力を評価した。塗膜上に内径20mm、外径25.6mmの円筒(材質SUS304)を乗せ、円筒内にイオン交換水を3.6g充填した後、恒温槽(エスペック株式会社製)にて-15℃で1時間静置して着氷を形成した(
図1)。形成した氷を円筒ごとプッシュプルゲージで塗膜と平行な方向へ剥離した際の最大剥離力を着氷剥離力とした。
【0040】
(連続着氷剥離力)
着氷剥離力評価にて実施の方法と同様に着氷を剥離した後、同一箇所へ着氷を形成して剥離する。着氷剥離5回目の剥離力を連続着氷剥離力とした。
実環境において、例えば、建造物外装や自動車外装表面へ付着した氷雪は、風、振動または人為的な手法などにより除去されるケースが想定される。しかしながら、冬期は降雪、吹雪などが断続的に生じるため、氷雪が除去された表面に再度氷雪が付着する。つまり、本発明におけるコーティング膜においては、着氷雪剥離性能を継続的に発揮することが好ましい。本発明において、連続着氷剥離力の評価は、着氷剥離性能を維持する度合いの指標として用いることとする。
【0041】
(着氷剥離力変化)
下記計算式1より得られる値を着氷剥離力変化とした。
【数1】
【0042】
(摩耗体積)
往復摩擦力測定機(株式会社トリニティーラボ製)にラッピングフィルムシート#400(トラスコ中山株式会社製)を取り付け、摺動速度100mm/sec、垂直荷重500g、往復回数20回にて塗膜を摩耗させた際の摩耗体積を評価した。
【0043】
(粘度)
回転式粘度計(Malvern Panalytical社製)により25±1℃、60rpmで測定開始から1分後の値を採用した。
【0044】
(表面粗さRa)
レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製)により拡大倍率1056倍にて測定した値を採用した。
【0045】
(連続着氷剥離後の表面粗さRa)
連続着氷剥離試験後の剥離痕に対して、表面粗さRa評価と同一の方法で表面粗さを測定した。
【0046】
<実施例1>
(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製YF3057)に(B)非反応性シリコーンオイル[ジメチルシリコーン](信越化学工業株式会社製KF-96-1,000CS)を加えた後、トルエン(関東化学株式会社製)を固形分量20重量%となるよう添加し、ボールミルで30分撹拌した。撹拌後、(C)アミノキシ基を有するシリコーン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製ME35(B))を加えた後、ボールミルで10分撹拌してコーティング組成物を得た。この時、(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル100重量部に対して、(B)非反応性シリコーンオイルを0.5重量部、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを10重量部となるように添加量を調整した。
【0047】
<実施例2>
実施例1と同様の手順で(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル100重量部に対して、(B)非反応性シリコーンオイルを5重量部、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを10重量部となるように添加量を調整し、コーティング組成物を得た。
【0048】
<実施例3>
実施例1と同様の手順で(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル100重量部に対して、(B)非反応性シリコーンオイルを10重量部、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを10重量部となるように添加量を調整し、コーティング組成物を得た。
【0049】
<実施例4>
実施例1と同様の手順で(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル100重量部に対して、(B)非反応性シリコーンオイルを30重量部、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを10重量部となるように添加量を調整し、コーティング組成物を得た。
【0050】
<実施例5>
実施例1と同様の手順で(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル100重量部に対して、(B)非反応性シリコーンオイルを50重量部、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを10重量部となるように添加量を調整し、コーティング組成物を得た。
【0051】
<実施例6>
実施例1と同様の手順で(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル100重量部に対して、(B)非反応性シリコーンオイルを100重量部、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを10重量部となるように添加量を調整し、コーティング組成物を得た。
【0052】
<実施例7>
実施例1と同様の手順で(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル100重量部に対して、(B)非反応性シリコーンオイルを150重量部、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを10重量部となるように添加量を調整し、コーティング組成物を得た。
【0053】
<実施例8>
実施例1と同様の手順で(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル100重量部に対して、(B)非反応性シリコーンオイルを200重量部、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを10重量部となるように添加量を調整し、コーティング組成物を得た。
【0054】
<実施例9>
実施例1と同様の手順で(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル100重量部に対して、(B)非反応性シリコーンオイルを50重量部、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを7重量部となるように添加量を調整し、コーティング組成物を得た。
【0055】
<実施例10>
実施例1と同様の手順で(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル100重量部に対して、(B)非反応性シリコーンオイルを50重量部、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを15重量部となるように添加量を調整し、コーティング組成物を得た。
【0056】
<実施例11>
実施例1と同様の手順で(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル100重量部に対して、(B)非反応性シリコーンオイルを50重量部、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを25重量部となるように添加量を調整し、コーティング組成物を得た。
【0057】
<実施例12>
実施例1と同様の手順で(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル100重量部に対して、(B)非反応性シリコーンオイルを50重量部、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを50重量部となるように添加量を調整し、コーティング組成物を得た。
【0058】
<実施例13>
実施例1と同様の手順で(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル100重量部に対して、(B)非反応性シリコーンオイルを50重量部、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを100重量部となるように添加量を調整し、コーティング組成物を得た。
【0059】
<実施例14>
実施例1と同様の手順で(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル100重量部に対して、(B)非反応性シリコーンオイルを50重量部、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを150重量部となるように添加量を調整し、コーティング組成物を得た。
【0060】
<実施例15>
実施例1と同様の手順で(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル100重量部に対して、(B)非反応性シリコーンオイルを50重量部、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを200重量部となるように添加量を調整し、コーティング組成物を得た。
【0061】
<実施例16>
実施例5の(B)非反応性シリコーンオイル[ジメチルシリコーン]をアルキル変性シリコーン(信越化学工業株式会社製KF-4701)へ置換え、同様の手順でコーティング組成物を得た。
【0062】
<実施例17>
実施例5の(B)非反応性シリコーンオイル[ジメチルシリコーン]をフェニルシリコーン(信越化学工業株式会社製KF-54)へ置換え、同様の手順でコーティング組成物を得た。
【0063】
<実施例18>
実施例5の(B)非反応性シリコーンオイル[ジメチルシリコーン]をフッ素変性シリコーン(信越化学工業株式会社製FL-100-450CS)へ置換え、同様の手順でコーティング組成物を得た。
【0064】
<実施例19>
実施例5の(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルを粘度400000cstのものに置換え、同様の手順でコーティング組成物を得た。
【0065】
<実施例20>
実施例5の(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルを粘度300000cstのものに置換え、同様の手順でコーティング組成物を得た。
【0066】
<実施例21>
実施例5の(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルを粘度200000cstのものに置換え、同様の手順でコーティング組成物を得た。
【0067】
<実施例22>
実施例5の(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルを粘度100000cstのものに置換え、同様の手順でコーティング組成物を得た。
【0068】
<実施例23>
実施例5の(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルを粘度100cstのものに置換え、同様の手順でコーティング組成物を得た。
【0069】
<実施例24>
実施例5の(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルを粘度50cstのものに置換え、同様の手順でコーティング組成物を得た。
【0070】
<実施例25>
実施例5の(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルを粘度30cstのものに置換え、同様の手順でコーティング組成物を得た。
【0071】
<実施例26>
実施例5の(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルを粘度1cstのものに置換え、同様の手順でコーティング組成物を得た。
【0072】
<実施例27>
実施例5の(B)非反応性シリコーンオイル[ジメチルシリコーン]を粘度1000000cstのもの(信越化学工業株式会社製KF-96H-100万CS)に置換え、同様の手順でコーティング組成物を得た。
【0073】
<実施例28>
実施例5の(B)非反応性シリコーンオイル[ジメチルシリコーン]を粘度100000cstのもの(信越化学工業株式会社製KF-96H-10万CS)に置換え、同様の手順でコーティング組成物を得た。
【0074】
<実施例29>
実施例5の(B)非反応性シリコーンオイル[ジメチルシリコーン]を粘度10000cstのもの(信越化学工業株式会社製KF-96H-1万CS)に置換え、同様の手順でコーティング組成物を得た。
【0075】
<比較例1>
実施例1と同様の手順で(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル100重量部に対して、(B)非反応性シリコーンオイルを0.1重量部、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを10重量部となるように添加量を調整し、コーティング組成物を得た。
【0076】
<比較例2>
実施例1と同様の手順で(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル100重量部に対して、(B)非反応性シリコーンオイルを300重量部、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを10重量部となるように添加量を調整し、コーティング組成物を得た。
【0077】
<比較例3>
実施例1と同様の手順で(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル100重量部に対して、(B)非反応性シリコーンオイルを10重量部、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを5重量部となるように添加量を調整し、コーティング組成物を得た。
【0078】
<比較例4>
実施例1と同様の手順で(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル100重量部に対して、(B)非反応性シリコーンオイルを10重量部、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを300重量部となるように添加量を調整し、コーティング組成物を得た。
【0079】
<比較例5>
実施例5の(C)アミノキシ基を有するシリコーンを(E)金属触媒(チタン系重合触媒、信越化学工業株式会社製DX-175)に置換え、同様の手順でコーティング組成物を得た。
【0080】
<比較例6>
実施例5の(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルを(D)シリコーンレジン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製XC-96-B0446)に置換え、同様の手順でコーティング組成物を得た。
【0081】
<比較例7>
実施例5の(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル100重量部を(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイル50重量部および(D)シリコーンレジン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製XC-96-B0446)50重量部に置換え、同様の手順でコーティング組成物を得た。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
[評価結果]
実施例および比較例の組成ならびに物性値を表1Aから表1Dにまとめた。
実施例1~8と比較例1、2より、(B)非反応性シリコーンオイルが0.5重量部を下回る場合(比較例1)、着氷剥離に必要な(B)非反応性シリコーンオイルが不足するため、着氷剥離力、連続着氷剥離力、及び着氷剥離力変化が大きくなっていることがわかる。また、コーティング膜表面に存在する(B)非反応性シリコーンオイルが少なすぎる場合、液体潤滑による摩擦抵抗力の低減効果が少なくなり、コーティング膜表面の摩擦抵抗力が大きくなるため、摺動時にコーティング膜が削れやすくなる。これにより、摩耗体積が大きくなっていることがわかる。逆に、(B)非反応性シリコーンオイルが200重量部を上回った場合(比較例2)、過剰な(B)非反応性シリコーンオイルはコーティング膜の強度を低下させるため、摩耗体積が大きくなっていることがわかる。更に、コーティング膜強度が低いと、着氷が剥離した際にコーティング膜も同時に剥離することで膜表面に凹凸を生じる。2回目以降の着氷がアンカー効果によって剥離しにくくなるため、連続着氷剥離力が大きくなっていることがわかる。
【0087】
また、表1より、良好な着氷剥離力を得るために、より好ましくは(B)非反応性シリコーンオイルが5重量部以上、更に好ましくは10重量部以上である。
【0088】
良好な連続着氷剥離力を得るために、より好ましくは(B)非反応性シリコーンオイルが5~150重量部、更に好ましくは30~100重量部である。
【0089】
良好な着氷剥離力変化を得るために、より好ましくは(B)非反応性シリコーンオイルが5~150重量部、更に好ましくは30~100重量部である。
【0090】
良好な摩耗体積を得るために、より好ましくは(B)非反応性シリコーンオイルが150重量部以下、更に好ましくは100重量部以下である。
【0091】
実施例9~15と比較例3、4より、(C)アミノキシ基を有するシリコーンが7重量部を下回る場合(比較例3)、コーティング膜表面にブリードアウトする(B)非反応性シリコーンオイルが少ないため、連続着氷剥離力の値が大きくなっていることがわかる。また、架橋密度が小さく柔らかいコーティング膜を形成するため、摩耗体積が大きくなっていることがわかる。逆に、(C)アミノキシ基を有するシリコーンが200重量部を上回った場合(比較例4)、過剰な(C)アミノキシ基を有するシリコーンは脆いコーティング膜を形成するため、摩耗体積が大きくなっていることがわかる。更に、脆いコーティング膜は、着氷が剥離した際に塗膜も同時に剥離することでコーティング膜表面に凹凸を生じる。2回目以降の着氷がアンカー効果によって剥離しにくくなるため、連続着氷剥離力が大きくなっていることがわかる。
【0092】
また、表1より、良好な着氷剥離力を得るために、より好ましくは(C)アミノキシ基を有するシリコーンが10重量部以上、更に好ましくは25重量部以上である。
【0093】
良好な連続着氷剥離力を得るために、より好ましくは(C)アミノキシ基を有するシリコーンが10~150重量部、更に好ましくは25~100重量部である。
【0094】
良好な着氷剥離力変化を得るために、より好ましくは(C)アミノキシ基を有するシリコーンが10~150重量部、更に好ましくは25~100重量部である。
【0095】
良好な摩耗体積を得るために、より好ましくは(C)アミノキシ基を有するシリコーンが150重量部以下、更に好ましくは100重量部以下である。
【0096】
実施例5及び実施例16~18より、(B)非反応性シリコーンオイルの種類を変えた場合でも、粘度が低く、摩耗体積が小さく、着氷剥離力、連続着氷剥離力、及び着氷剥離力変化が小さいことがわかる。
【0097】
実施例19~26より、(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルの粘度を変えた場合でも、粘度が低く、摩耗体積が小さく、着氷剥離力、連続着氷剥離力、及び着氷剥離力変化が小さいことがわかる。
【0098】
粘度の高い(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルを用いた場合には、本発明におけるコーティング組成物の粘度が高くなることに由来して、塗布時にコーティング組成物が濡れ広がりにくく、表面凹凸を生じやすくなる。表面凹凸に着氷することで着氷剥離力、連続着氷剥離力、及び着氷剥離力変化が大きくなる傾向がある。また、表面凸部は摺動時に応力集中することで摩耗しやすいため摩耗体積が大きくなる傾向がある。更に言えば、摩耗体積が大きいと連続着氷剥離時に膜表面凸部が氷雪とともに剥離して剥離痕を生じるため、連続着氷剥離後の表面粗さが大きくなりやすい。
【0099】
逆に、粘度の低い(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルを用いた場合には、架橋密度の高い脆い膜を形成する傾向がある。着氷剥離時に膜ごと氷雪が剥離するため、膜が剥がれる力も相まって着氷剥離力が大きくなることがある。膜が剥がれた場所には表面凹凸が生じるため、連続着氷剥離力、着氷剥離力変化、及び連続着氷剥離後の表面粗さが大きくなり、摩耗体積も大きくなりやすい。
【0100】
また、表1より、良好な着氷剥離力を得るために、より好ましくは(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルの粘度が50~200000cSt、更に好ましくは100~100000cStである。
【0101】
良好な連続着氷剥離力を得るために、より好ましくは(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルの粘度が50~200000cSt、更に好ましくは100~100000cStである。
【0102】
良好な着氷剥離力変化を得るために、より好ましくは(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルの粘度が50~200000cSt、更に好ましくは100~100000cStである。
【0103】
良好な摩耗体積を得るために、より好ましくは(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルの粘度が30~300000cSt、更に好ましくは50~200000cStである。
【0104】
良好な粘度を得るために、より好ましくは(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルの粘度が300000cSt以下、更に好ましくは100000cSt以下である。
【0105】
良好な表面粗さRaを得るために、より好ましくは(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルの粘度が300000cSt以下、更に好ましくは100000cSt以下である。
【0106】
良好な連続着氷剥離後の表面粗さRaを得るために、より好ましくは(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルの粘度が30~300000cSt、更に好ましくは50~100000cSt以下である。
【0107】
本発明におけるコーティング組成物においては、適用する素材(例えば、外装材)に要求される特性に応じて適切な粘度の(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルを選択することにより、コーティング組成物全体の粘度を制御することができ、ひいては素材に適した特性のコーティング膜を形成することが可能となる。
【0108】
実施例27~29より、(B)非反応性シリコーンオイルの粘度を変えた場合でも、粘度が低く、摩耗体積が小さく、着氷剥離力、連続着氷剥離力、及び着氷剥離力変化が小さいことがわかる。
【0109】
粘度の高い(B)非反応性シリコーンオイルを用いた場合には、コーティング膜内からブリードアウトしにくくなり、着氷剥離力、連続着氷剥離力、及び着氷剥離力変化が大きくなりやすい。また、本発明におけるコーティング組成物の粘度が高くなることに由来して、塗布時に濡れ広がりにくくなり、塗布膜を硬化させて形成したコーティング膜表面に凹凸を生じやすくなる。特に、表面凸部は摺動時に応力集中することで摩耗しやすいため、摩耗体積が大きくなる傾向がある。更に言えば、摩耗体積が大きいと連続着氷剥離時に膜表面凸部が氷雪とともに剥離して剥離痕を生じるため、連続着氷剥離後の表面粗さが大きくなりやすい。
【0110】
また、表1より、良好な着氷剥離力、連続着氷剥離力、着氷剥離力変化、摩耗体積、表面粗さ、連続着氷剥離後の表面粗さを得るために、より好ましくは(B)非反応性シリコーンオイルの粘度が100000cSt以下、更に好ましくは10000cSt以下である。
【0111】
実施例5及び比較例5より、(C)アミノキシ基を有するシリコーンを(E)金属触媒に置き換えた場合、(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルと(E)金属触媒から形成される硬化塗膜は(B)非反応性シリコーンオイルと親和性が高いため、コーティング膜表面に(B)非反応性シリコーンオイルがブリードアウトしにくくなる。これにより、着氷剥離力、連続着氷剥離力、及び着氷剥離力変化が大きくなってしまうことがわかる。
【0112】
実施例5及び比較例6より、(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルを(D)シリコーンレジンに置き換えた場合、(D)シリコーンレジンより形成されるコーティング膜は架橋密度が高く、(B)非反応性シリコーンオイルを長期的にコーティング膜内に保持できないため、連続で着氷を剥離するとオイル不足を起こしやすい。よって、連続着氷剥離力が大きくなっていることがわかる。更に、(D)シリコーンレジンより形成されるコーティング膜は脆い膜を形成しやすいため、摩耗体積が大きくなっていることがわかる。
【0113】
実施例5及び比較例7より、(A)1分子中に少なくとも2つ以上の水酸基を有するシリコーンオイルの一部を(D)シリコーンレジンに置き換えた場合、(D)シリコーンレジンが凝集しやすい性質をもつことに由来して膜表面に凹凸形状を生じる。膜表面の凹凸に着氷するとアンカー効果によって剥離しにくくなるため、着氷剥離力、連続着氷剥離力が大きくなってしまっていることがわかる。更に、形成された膜表面凸部は摺動時に応力集中が生じることで削れやすいため、摩耗体積が大きくなってしまっていることもわかる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明によれば、優れた着氷着雪除去性能を維持するとともに、膜欠損を生じにくいコーティング膜を素材上に形成するコーティング組成物を提供することができる。