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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】ロータコアの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/12 20060101AFI20240711BHJP
   H02K 1/276 20220101ALI20240711BHJP
【FI】
H02K15/12 E
H02K1/276
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020143912
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2022039085
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000230364
【氏名又は名称】日本ユピカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【弁理士】
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】佐分利 俊之
(72)【発明者】
【氏名】林 直孝
(72)【発明者】
【氏名】谷川 雅人
(72)【発明者】
【氏名】舩岡 大樹
(72)【発明者】
【氏名】小山 智仁
(72)【発明者】
【氏名】小澤 雄一
(72)【発明者】
【氏名】上田 涼
(72)【発明者】
【氏名】櫻庭 悠朔
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特許第4581745(JP,B2)
【文献】特開2019-115170(JP,A)
【文献】特開2006-211748(JP,A)
【文献】特開2008-219992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/12
H02K 1/276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電磁鋼板が積層され、前記電磁鋼板の積層方向に延びる磁石収容部を有する積層コアと、前記磁石収容部に配置される永久磁石と、前記磁石収容部内において前記永久磁石を固定する、常温において固形であるとともに常温よりも高い第1温度で溶融が開始され、かつ、前記第1温度よりも高い第2温度で硬化が開始される熱硬化性の樹脂材と、を備えるロータコアの製造方法であって、
前記積層コアの温度が、前記樹脂材に含まれる離型剤としての揮発性有機化合物の揮発温度以上の第3温度になるように、前記積層コアを予備加熱する予熱工程と、
前記予熱工程により前記第3温度に加熱された前記積層コアの前記磁石収容部に、溶融した前記樹脂材を注入する注入工程と、
前記磁石収容部に注入された前記樹脂材を前記第3温度よりも高い第4温度で加熱することにより、前記樹脂材を熱硬化させるとともに前記永久磁石を前記磁石収容部内に固定する固定工程と、を備え、
前記注入工程は、前記第3温度に加熱された前記積層コアに前記樹脂材を接触させて加熱させることによって前記揮発性有機化合物を揮発させるとともに揮発した前記揮発性有機化合物を前記磁石収容部外に逃がしながら、前記磁石収容部に前記樹脂材を注入する工程である、ロータコアの製造方法。
【請求項2】
前記予熱工程は、前記積層コアの温度が、前記樹脂材の溶融が開始される前記第1温度よりも高く、かつ、前記第4温度よりも低い前記第3温度になるように、前記積層コアを予備加熱する工程である、請求項1に記載のロータコアの製造方法。
【請求項3】
前記予熱工程は、前記積層コアの温度が、前記樹脂材の溶融が開始される前記第1温度よりも高い温度であるとともに前記樹脂材の硬化が開始される温度である前記第2温度以上で、かつ、前記第4温度よりも低い前記第3温度になるように、前記積層コアを予備加熱する工程である、請求項2に記載のロータコアの製造方法。
【請求項4】
前記予熱工程は、前記積層コアの温度が、前記樹脂材の硬化が開始される前記第2温度と前記第4温度との中央の温度に対して前記第2温度寄りの前記第3温度になるように、前記積層コアを予備加熱する工程である、請求項3に記載のロータコアの製造方法。
【請求項5】
前記注入工程は、治具または金型を含む押圧部により、前記積層コアを前記積層コアの軸方向に押圧した状態で、前記磁石収容部に前記樹脂材を注入する工程であり、
前記予熱工程は、前記積層コアおよび前記押圧部の各々の温度が前記第3温度になるように、前記押圧部により押圧された状態の前記積層コアを、前記押圧部と共に予備加熱する工程である、請求項1~4のいずれか1項に記載のロータコアの製造方法。
【請求項6】
前記注入工程は、前記押圧部に設けられるとともに前記磁石収容部に接続される気体逃がし溝を介して、揮発した前記揮発性有機化合物を前記磁石収容部外に逃がしながら、前記磁石収容部に前記樹脂材を注入する工程である、請求項5に記載のロータコアの製造方法。
【請求項7】
前記注入工程は、前記積層コアを前記軸方向の一方側から押圧する一方側プレートと、前記積層コアを前記軸方向の他方側から支持する他方側プレートとを有する前記治具を含む前記押圧部により、前記積層コアを前記軸方向に押圧した状態で、前記一方側プレートおよび前記他方側プレートの各々に設けられた前記気体逃がし溝を介して、揮発した前記揮発性有機化合物を前記磁石収容部外に逃がしながら、前記磁石収容部に前記樹脂材を注入する工程である、請求項6に記載のロータコアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータコアの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、永久磁石が挿入される磁石収容部に樹脂材を注入するロータコアの製造方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1に記載のロータでは、ロータコアの孔部に磁石が挿入されている。また、孔部と磁石との間の離間部には固定部材が設けられている。この固定部材は、熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)と、硬化剤と、無機充填剤とを含む固定用樹脂組成物により構成されている。また、固定用樹脂組成物には、これらの物質に加えて、ステアリン酸亜鉛等の離型剤およびそれらを含む添加剤由来の揮発性有機化合物が含有されている。
【0004】
また、磁石は、ロータコアが予熱された後、ロータコアの孔部に挿入される。その後、ロータコアは、上型および下型により挟み込まれ、上型に設けられた流路を介して、孔部と磁石との間の離間部に樹脂が充填される。樹脂が充填される間、ロータコアは、上型および下型からの熱伝導により、樹脂材の硬化に適した温度に加熱されている。これにより、固定用樹脂組成物が硬化し、固定部材が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6249468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上記特許文献1に記載のロータコアの製造方法では、上記のように熱硬化性樹脂に揮発性有機化合物が含まれているため、ロータコアの孔部に注入された熱硬化性樹脂が、加熱により熱硬化されている間に、熱硬化性樹脂に含まれる揮発性有機化合物が揮発する場合がある。この場合、揮発した揮発性有機化合物が熱硬化性樹脂の外部に逃げず、熱硬化性樹脂の内部に気泡として残る場合がある。この気泡を除去することで磁石(永久磁石)の固定力を高めることができる。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、揮発性有機化合物が含まれる樹脂材が積層コアに注入されているロータコアにおいて、永久磁石の固定力を高めることが可能なロータコアの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面におけるロータコアの製造方法は、複数の電磁鋼板が積層され、電磁鋼板の積層方向に延びる磁石収容部を有する積層コアと、磁石収容部に配置される永久磁石と、磁石収容部内において永久磁石を固定する、常温において固形であるとともに常温よりも高い第1温度で溶融が開始され、かつ、第1温度よりも高い第2温度で硬化が開始される熱硬化性の樹脂材と、を備えるロータコアの製造方法であって、積層コアの温度が、樹脂材に含まれる離型剤としての揮発性有機化合物の揮発温度以上の第3温度になるように、積層コアを予備加熱する予熱工程と、予熱工程により第3温度に加熱された積層コアの磁石収容部に、溶融した樹脂材を注入する注入工程と、磁石収容部に注入された樹脂材を第3温度よりも高い第4温度で加熱することにより、樹脂材を熱硬化させるとともに永久磁石を磁石収容部内に固定する固定工程と、を備え、注入工程は、第3温度に加熱された積層コアに樹脂材を接触させて加熱させることによって揮発性有機化合物を揮発させるとともに揮発した揮発性有機化合物を磁石収容部外に逃がしながら、磁石収容部に樹脂材を注入する工程である。
【0009】
この発明の一の局面によるロータコアの製造方法では、上記のように、揮発性有機化合物の揮発温度以上の第温度に加熱された積層コアに樹脂材を接触させて加熱させることによって、揮発性有機化合物を揮発させるとともに揮発した揮発性有機化合物を磁石収容部外に逃がしながら、磁石収容部に樹脂材を注入する工程が行われる。このように構成することによって、固定工程において樹脂材を加熱する前に、注入工程において樹脂材に含まれる揮発性有機化合物を揮発させて磁石収容部の外部に逃がすことができる。その結果、注入工程の後の固定工程において揮発性有機化合物が逃がされている状態になっているので、樹脂材を加熱した際に揮発性有機化合物が揮発するのを防止することができる。これにより、揮発した揮発性有機化合物が樹脂材の外部に逃げずに樹脂材の内部に気泡として残るのを防止することができる。その結果、揮発性有機化合物が含まれる樹脂材が積層コアに注入されているロータコアにおいて、永久磁石の固定力を高めることができる。
【0010】
また、樹脂材の内部に揮発性有機化合物が気泡として残るのを防止することができるので、揮発性有機化合物の揮発に伴って樹脂材の体積が膨張することに起因して、積層コアの間(電磁鋼板同士の間)から樹脂材が漏れるのを防止することができる。また、積層コアを押圧するための治具(金型)が用いられている場合は治具(金型)と積層コアとの間から樹脂材が漏れるのを防止することができる。これにより、漏れた樹脂材を除去する手間を省くことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、揮発性有機化合物が含まれる樹脂材が積層コアに注入されているロータコアにおいて、永久磁石の固定力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態によるロータ(回転電機)の構成を示す平面図である。
図2】本実施形態による積層コアを押圧する治具、および、治具に配置された完成後のロータコアを示す断面図である。
図3】本実施形態によるロータコアを押圧する治具の下方プレートの構成を示す平面図である。
図4】本実施形態による下方プレートの気体逃がし溝を示す平面図である。
図5図4の部分拡大図である。
図6図5の2000-2000線に沿った断面図である。
図7】本実施形態によるロータコアの製造システムの構成を示す概略図である。
図8】本実施形態による誘導加熱コイルおよび樹脂注入装置を示す断面図である。
図9】本実施形態によるロータコアの製造方法を示すフロー図である。
図10】本実施形態による各工程と樹脂材の温度との関係を示した図である。
図11】本実施形態による樹脂材を加熱することにより発生する揮発ガスの成分を示した図である。
図12】本実施形態による時間経過に対する樹脂材の加熱温度および重量変化の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
[本実施形態]
図1図10を参照して、本実施形態によるロータコア4の製造方法について説明する。
【0015】
本願明細書では、「軸方向」とは、ロータ1(ロータコア4)の回転軸線C1に沿った方向を意味し、図中のZ方向を意味する。また、「積層方向」とは、ロータコア4の電磁鋼板4a(図2参照)が積層する方向を意味し、図中のZ方向を意味する。また、「径方向」とは、ロータ1(ロータコア4)の径方向(R1方向またはR2方向)を意味し、「周方向」は、ロータ1(ロータコア4)の周方向(E1方向またはE2方向)を意味する。
【0016】
(ロータコアの構造)
まず、図1を参照して、本実施形態のロータコア4の構造について説明する。
【0017】
図1に示すように、回転電機100は、ロータ1とステータ2とを備える。また、ロータ1およびステータ2は、それぞれ、円環状に形成されている。そして、ロータ1は、ステータ2の径方向内側に対向して配置されている。すなわち、本実施形態では、回転電機100は、インナーロータ型の回転電機として構成されている。また、ロータ1の径方向内側には、シャフト3が配置されている。シャフト3は、ギア等の回転力伝達部材を介して、エンジンや車軸に接続されている。たとえば、回転電機100は、モータ、ジェネレータ、または、モータ兼ジェネレータとして構成されており、車両に搭載されるように構成されている。
【0018】
また、ロータコア4は、複数の電磁鋼板4a(図2参照)が積層され、電磁鋼板4aの積層方向に延びる磁石収容部10を有する積層コア4dを備える。また、ロータコア4は、積層コア4dの磁石収容部10に挿入される永久磁石5を備える。磁石収容部10は、積層コア4dに複数(本実施形態では32個)設けられている。すなわち、回転電機100は、埋込永久磁石型モータ(IPMモータ:Interior Permanent Magnet Motor)として構成されている。また、磁石収容部10は、積層コア4d(ロータコア4)のうちの径方向外側の部分に配置されている。なお、互いに隣接する2つの磁石収容部10は、V字状に配置されている。なお、磁石収容部10の配置は、これに限られない。
【0019】
また、ステータ2は、ステータコア2aと、ステータコア2aに配置されたコイル2bとを含む。ステータコア2aは、たとえば、複数の電磁鋼板(珪素鋼板)が軸方向に積層されており、磁束を通過可能に構成されている。コイル2bは、外部の電源部に接続されており、電力(たとえば、3相交流の電力)が供給されるように構成されている。そして、コイル2bは、電力が供給されることにより、磁界を発生させるように構成されている。また、ロータ1およびシャフト3は、コイル2bに電力が供給されない場合でも、エンジン等の駆動に伴って、ステータ2に対して回転するように構成されている。なお、図1では、コイル2bの一部のみを図示しているが、コイル2bは、ステータコア2aの全周に亘って配置されている。
【0020】
永久磁石5は、積層コア4d(ロータコア4)の軸方向に直交する断面が長方形形状を有している。たとえば、永久磁石5は、磁化方向(着磁方向)が短手方向となるように構成されている。
【0021】
また、ロータコア4は、磁石収容部10に充填されている樹脂材6(図2参照)を備える。樹脂材6は、磁石収容部10に配置されている永久磁石5を固定するように設けられている。樹脂材6は、温度T1(たとえば60℃)において溶融が開始されるとともに温度T1よりも高い温度T2(たとえば120℃)において硬化が開始される材料(熱硬化性樹脂)により構成されている。詳細には、樹脂材6は、温度T1よりも低い常温において固形(フレーク状、ペレット状、または、粉状など)であり、常温から加熱されて、樹脂材6の温度が温度T1以上になると溶融する。そして、樹脂材6は、温度T1以上でかつ温度T2未満の状態では、溶融状態を維持する(硬化しない)ように構成されている。そして、樹脂材6は、温度T2以上の温度に加熱されることにより、硬化するように構成されている。なお、図1では、簡略化のため、樹脂材6の図示を省略している。なお、温度T1および温度T2は、それぞれ、特許請求の範囲の「第温度」および「第温度」の一例である。
【0022】
樹脂材6として、たとえば、特開2019-89871号公報に記載されているような合成樹脂材を用いることが可能である。すなわち、樹脂材6は、たとえば、ウレタンアクリレート、モノマーとしてのアクリル酸エステル等のラジカル重合性単量体、無機充填剤(フィラー)、シランカップリング剤、反応開始剤、反応禁止剤、離型剤(滑剤)としてのステアリン酸化合物等を含む。また、前述の樹脂材6の成分は、揮発性有機化合物を含んでいる。また、樹脂材6は熱硬化性樹脂である。樹脂材6は、加熱による硬化反応促進時に、揮発性有機化合物そのもの、または熱分解されて生成した揮発性有機化合物が揮発する。なお、用いられる樹脂材はこれに限られず、たとえばエポキシ樹脂等を用いてもよい。
【0023】
(治具の構造)
次に、図2図6を参照して、本実施形態の治具20の構造について説明する。なお、以下の説明では、治具20に積層コア4dが配置された状態についての治具20の構造について説明する。なお、治具20は、特許請求の範囲の「押圧部」の一例である。
【0024】
図2に示すように、治具20は、上方プレート21と、押圧ばね22と、押圧プレート23と、下方プレート24と、断熱部材25と、位置決めプレート26と、クランプ部材27と、を含む。なお、上方プレート21、押圧プレート23、下方プレート24、および位置決めプレート26の各々は、SUS(ステンレス)製である。なお、押圧プレート23および下方プレート24は、それぞれ、特許請求の範囲の「一方側プレート」および「他方側プレート」の一例である。
【0025】
上方プレート21は、中心部に貫通孔21aを有し、円環状に形成されている。また、上方プレート21は、複数の樹脂注入孔21bを含む。樹脂注入孔21bは、後述する樹脂注入装置103のノズル103a(図8参照)が挿入可能に設けられている。なお、樹脂注入孔21bは、複数(本実施形態では32個)の磁石収容部10の各々とオーバラップするように設けられている。
【0026】
なお、後述する予熱用加熱装置102(図7参照)の誘導加熱コイル102a(図8参照)は、上方プレート21の貫通孔21a、および、後述する押圧プレート23の貫通孔23aの各々を介して、積層コア4dの径方向内側に挿入される。また、硬化用加熱装置104(図7参照)に設けられる図示しない誘導加熱コイルも、同様に、上方プレート21の貫通孔21a、および、後述する押圧プレート23の貫通孔23aの各々を介して、積層コア4dの径方向内側に挿入される。
【0027】
押圧ばね22は、上方プレート21と、押圧プレート23との間に設けられている。また、押圧ばね22は、回転軸線C1方向から見て、周方向に沿って、等角度間隔に複数設けられている。なお、本実施形態では、押圧ばね22は、4つ設けられている。複数の押圧ばね22の各々は、治具20に積層コア4dが配置された状態で、上方(Z1方向側)から見て、積層コア4dとオーバラップする位置に設けられている。
【0028】
また、押圧プレート23は、積層コア4dの上端面4bに配置されている。押圧プレート23は、積層コア4dを、軸方向の一方側(Z1側)から押圧するように設けられている。具体的には、押圧プレート23は、押圧ばね22の付勢力により、積層コア4dの上端面4bを押圧するように設けられている。
【0029】
また、押圧プレート23は、中心部に貫通孔23aを有し、円環状に形成されている。また、押圧プレート23は、複数の樹脂注入孔23bを含む。複数の樹脂注入孔23bは、上方(Z1方向側)から見て、上方プレート21の複数の樹脂注入孔21bとオーバラップする位置に設けられている。なお、複数の樹脂注入孔23bは、後述する樹脂注入装置103のノズル103aの先端が挿入可能(図8参照)に設けられている。
【0030】
また、下方プレート24は、積層コア4dを、軸方向の他方側(Z2側)から支持するように設けられている。すなわち、積層コア4dは、下方プレート24に配置(載置)されている。下方プレート24は、積層コア4dの下端面4cと接触している。下方プレート24は、中心部に貫通孔24aを有し、円環状に形成されている。また、下方プレート24は、複数(本実施形態では3つ)の切り欠き部24bを含む。複数の切り欠き部24bは、貫通孔24aの内周縁において、略等角度間隔(図3参照)で設けられている。
【0031】
複数の切り欠き部24bの各々には、L字状の位置決め部24cが設けられている。複数の位置決め部24cにより、下方プレート24に対する積層コア4dの径方向および周方向の位置が決められる。位置決め部24cは、締結ボルト24dにより、下方プレート24に固定(締結)されている。
【0032】
また、断熱部材25は、下方プレート24と、位置決めプレート26との間に挟まれるように設けられている。断熱部材25は、中心部に貫通孔25aを有し、円環状に形成されている。また、断熱部材25は、樹脂製である。
【0033】
また、位置決めプレート26は、下方プレート24の下方側(Z2方向側)に設けられている。位置決めプレート26は、後述する各装置(101~104)における治具20の位置決めに用いられる。
【0034】
また、クランプ部材27は、U字形状を有しており、上方プレート21と下方プレート24とを挟み込むように設けられている。これにより、上方プレート21と下方プレート24とが、積層コア4dを挟むとともに押圧した状態となる。すなわち、治具20に積層コア4dが固定される。クランプ部材27は、複数(本実施形態では4つ)設けられている。複数のクランプ部材27は、回転軸線C1方向から見て、周方向に沿って、略等角度間隔(すなわち90度間隔)に設けられている。
【0035】
また、図4に示すように、下方プレート24には、磁石収容部10内の気体を磁石収容部10外に逃がす(排出する)気体逃がし溝24eが設けられている。気体逃がし溝24eは、下方プレート24に積層コア4dが配置されている状態で、磁石収容部10に接続(図6参照)されている。気体逃がし溝24eは、平面視において、複数の磁石収容部10の各々と交差(図5参照)するように複数設けられている。また、気体逃がし溝24eは、磁石収容部10の径方向内側および径方向外側の両方に延びるように設けられている。
【0036】
図6に示すように、磁石収容部10の径方向外側に設けられる気体逃がし溝24eの径方向外側の端部24fは、積層コア4dの外周縁4eよりも径方向外側に位置している。また、磁石収容部10の径方向内側に設けられる気体逃がし溝24eの径方向内側の端部24gは、積層コア4dの内周縁4fよりも径方向内側に位置している。これにより、磁石収容部10からの揮発した揮発性有機化合物は、気体逃がし溝24eを介して積層コア4dの外部に逃がされる。なお、上記の気体逃がし溝24eの構成は一例であって、気体逃がし溝24eを介して積層コア4dの外部に揮発した揮発性有機化合物を逃がすことが可能な構成であれば、上記の構成に限られない。
【0037】
また、図6に示すように、気体逃がし溝24eは、軸方向の深さDを有する。深さDは、たとえば数十μmである。気体逃がし溝24eの深さDは、気体(揮発した揮発性有機化合物および空気)を排出可能であるとともに樹脂材6が流出しない程度の深さである。
【0038】
なお、押圧プレート23には、気体逃がし溝23cが設けられている。気体逃がし溝23cの構成および軸方向から見た配置は、下方プレート24の気体逃がし溝24eと同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0039】
(ロータコアの製造システム)
次に、図7および図8を参照して、ロータコア4の製造システム200について説明する。
【0040】
図7に示すように、ロータコア4の製造システム200は、組立装置101と、予熱用加熱装置102と、樹脂注入装置103と、硬化用加熱装置104と、を備える。また、ロータコア4の製造システム200は、積層コア4dを搬送する搬送用コンベア105を備える。なお、組立装置101、予熱用加熱装置102、樹脂注入装置103、および硬化用加熱装置104は、互いに別個の装置である。
【0041】
組立装置101は、治具20に積層コア4dを配置する(組み付ける)ように構成されている。具体的には、組立装置101は、治具20に積層コア4dを配置するとともに、永久磁石5を磁石収容部10に配置(挿入)するように構成されている。
【0042】
予熱用加熱装置102は、積層コア4dを加熱することにより予熱するように構成されている。具体的には、予熱用加熱装置102の誘導加熱コイル102a(図8参照)による加熱によって、積層コア4dおよび治具20(押圧プレート23および下方プレート24)が予備加熱される。予熱の詳細については後述する。
【0043】
樹脂注入装置103は、磁石収容部10に樹脂材6を注入するように構成されている。具体的には、樹脂注入装置103は、治具20に積層コア4dが配置された状態で、かつ、磁石収容部10に永久磁石5が挿入された状態で、磁石収容部10に、温度T1以上で溶融した樹脂材6を注入するように構成されている。詳細には、樹脂注入装置103のノズル103a(図8参照)の先端が押圧プレート23の樹脂注入孔23bに挿入された状態で、ノズル103aから射出された溶融した樹脂材6が、磁石収容部10に注入される。
【0044】
硬化用加熱装置104は、積層コア4dを加熱することによって、磁石収容部10内の樹脂材6を硬化させるように構成されている。具体的には、硬化用加熱装置104は、治具20に配置された状態で、かつ、磁石収容部10に樹脂材6が注入された状態の積層コア4dを、樹脂材6が硬化する温度である温度T2以上で加熱することによって、磁石収容部10内の樹脂材6を硬化させるように構成されている。
【0045】
(ロータの製造方法)
次に、図9および図10を参照して、ロータコア4の製造方法について説明する。
【0046】
まず、図9に示すように、ステップS1において、積層コア4dを準備する工程が行われる。具体的には、複数の電磁鋼板4a(図2参照)が積層されることによって、積層コア4dが形成される。この際、プレス加工によって、電磁鋼板4aの積層方向に延びる磁石収容部10が積層コア4dに形成される。
【0047】
次に、ステップS2において、組立装置101において、治具20に積層コア4dを配置する工程が行われる。具体的には、まず、下方プレート24に積層コア4dが配置(載置)される。次に、下方プレート24に積層コア4dが配置された状態で、磁石収容部10に永久磁石5が配置される。そして、下方プレート24と上方プレート21とがクランプ部材27によりクランプ(連結)されるとともに、押圧プレート23により積層コア4dの上端面4bが押圧される。
【0048】
次に、ステップS3において、積層コア4dを予備加熱する予熱工程が行われる。具体的には、予熱工程は、積層コア4dの温度が、樹脂材6に含まれる揮発性有機化合物の揮発温度以上である温度T3になるように、積層コア4dを加熱する工程である。これにより、後述する注入工程において、温度T3に加熱された積層コア4dに樹脂材6が注入されることによって、樹脂材6は溶融状態が維持されるとともに樹脂材6に含まれる揮発性有機化合物が揮発する。たとえば、本実施形態では、揮発性有機化合物の揮発温度は約125℃で、温度T3は140℃である。なお、温度T3は、特許請求の範囲の「第温度」の一例である。
【0049】
ここで、本実施形態では、予熱工程は、積層コア4dの温度が、樹脂材6の溶融が開始される温度T1(60℃)よりも高く、かつ、後述する固定工程(S6)における加熱温度である温度T4(たとえば175℃)よりも低い温度T3になるように、積層コア4dを予備加熱する工程である。
【0050】
これにより、積層コア4dが、樹脂材6の溶融が開始される温度T1よりも高い温度T3で予備加熱されるので、固定工程において比較的速やかに積層コア4dの温度を上昇させることが可能となるとともに樹脂材6の熱硬化を速やかに行うことが可能となる。したがって、樹脂材6の注入中に樹脂材6が硬化するのを極力防止しながら、固定工程において樹脂材6を比較的速やかに硬化させることが可能となる。なお、温度T4は、特許請求の範囲の「第温度」の一例である。
【0051】
また、予熱工程における加熱温度である温度T3は、樹脂材6の硬化が開始される温度T2(120℃)よりも高い。
【0052】
これにより、積層コア4dが、樹脂材6の硬化が開始される温度T2よりも高い温度T3で予備加熱されるので、固定工程においてより速やかに積層コア4dの温度を上昇させることが可能となるとともに樹脂材6をより速やかに熱硬化させることが可能となる。なお、予熱工程における加熱温度である温度T3は、樹脂材6の熱硬化に適した温度範囲よりも低い温度である。すなわち、樹脂材6が注入される間は、樹脂材6の硬化を抑制することが可能である。
【0053】
詳細には、予熱工程は、積層コア4dの温度が、樹脂材6の硬化が開始される温度T2と後述する固定工程において積層コア4dが加熱される温度である温度T4との中央の温度((T2+T4)/2)に対して温度T2寄り(図10参照)の温度T3になるように、積層コア4dを予備加熱する工程である。たとえば、上記のように温度T4が175℃である場合、温度T2(120℃)と温度T4との中央の温度は147.5℃であるので、温度T3(140℃)は、上記中央の温度(147.5℃)と温度T2(120℃)との間の温度となる。
【0054】
これにより、予熱工程における加熱温度(T3)が温度T2と温度T4との中央の温度に対して温度T4寄りの場合に比べて、樹脂材6の注入中に樹脂材6が硬化するのをより確実に防止することが可能となる。
【0055】
また、本実施形態では、予熱工程は、積層コア4dおよび治具20の各々の温度が温度T3になるように、治具20に取り付けられた状態の積層コア4dを、治具20と共に予備加熱する工程である。具体的には、少なくとも押圧プレート23および下方プレート24が温度T3になるように予備加熱が行われる。
【0056】
これにより、積層コア4dに加えて治具20も温度T3に加熱されているので、治具20に接触した樹脂材6に含まれる揮発性有機化合物を容易に揮発させることが可能となる。
【0057】
次に、ステップS4において、樹脂材6を樹脂注入装置103において溶融させる溶融工程が行われる。具体的には、常温において固形状態の樹脂材6が樹脂注入装置103内において温度T1で加熱されることによって溶融される。なお、溶融工程は、たとえば予熱工程(S3)の前に行われてもよい。
【0058】
次に、ステップS5において、積層コア4dの磁石収容部10に樹脂材6を注入する注入工程が行われる。具体的には、注入工程は、予熱工程により温度T3に加熱された積層コア4dの磁石収容部10に、溶融した樹脂材6を注入する工程である。また、注入工程は、治具20により、積層コア4dを軸方向に押圧した状態で、磁石収容部10に樹脂材6を注入する工程である。
【0059】
ここで、本実施形態では、注入工程は、温度T3に加熱された積層コア4dに樹脂材6を接触させて加熱させることによって揮発性有機化合物を揮発させるとともに揮発した揮発性有機化合物を磁石収容部10外に逃がしながら、磁石収容部10に樹脂材6を注入する工程である。具体的には、樹脂注入装置103(図8参照)から射出された樹脂材6が、温度T3に加熱された積層コア4d、押圧プレート23、および、下方プレート24に接触することによって温度T3に加熱される。その結果、樹脂材6に含まれる揮発性有機化合物が揮発する。そして、揮発した揮発性有機化合物は、磁石収容部10内の空気と共に磁石収容部10外に排出される。
【0060】
これにより、後述する固定工程において樹脂材6を加熱する前に、注入工程において樹脂材6に含まれる揮発性有機化合物を揮発させて磁石収容部10の外部に逃がすことが可能である。その結果、注入工程の後の固定工程において揮発性有機化合物が逃がされているので、樹脂材6をした際に揮発性有機化合物が揮発するのが防止することが可能である。これにより、揮発した揮発性有機化合物が樹脂材6の外部に逃げずに樹脂材6の内部に気泡として残るのを防止することが可能である。その結果、揮発性有機化合物が含まれる樹脂材6が積層コア4dに注入されているロータコア4において、永久磁石5の固定力を高めることが可能である。
【0061】
また、樹脂材6の内部に揮発性有機化合物が気泡として残るのを防止することができるので、揮発性有機化合物の揮発に伴って樹脂材6の体積が膨張することに起因して、積層コア4dの間(電磁鋼板4a同士の間)、および、積層コア4dと治具20との間から樹脂材6が漏れるのを防止することが可能である。これにより、漏れた樹脂材6を除去する手間を省くことが可能である。
【0062】
また、積層コア4dが、固定工程における樹脂材6の加熱温度である温度T4よりも低い温度で予備加熱されるので、樹脂材6の注入中に樹脂材6が硬化するのを極力防止することが可能である。
【0063】
また、本実施形態では、注入工程は、治具20(押圧プレート23および下方プレート24)により、積層コア4dを軸方向に押圧した状態で、押圧プレート23に設けられた気体逃がし溝23c(図6参照)および下方プレート24に設けられた気体逃がし溝24e(図6参照)の各々を介して、揮発した揮発性有機化合物を磁石収容部10外に逃がしながら、磁石収容部10に樹脂材6を注入する工程である。
【0064】
これにより、気体逃がし溝(23c、24e)が押圧プレート23および下方プレート24の両方に設けられているので、揮発した揮発性有機化合物を、気体逃がし溝(23c、24e)を介してより容易に磁石収容部10外に逃がすことが可能である。
【0065】
また、揮発した揮発性有機化合物の一部は、押圧プレート23の樹脂注入孔23bから排出される。また、揮発した揮発性有機化合物の一部は、電磁鋼板4a同士の間からも積層コア4dの外部に排出される。なお、積層コア4dが治具20により押圧されていることによって電磁鋼板4a同士の間の隙間が小さくされているので、磁石収容部10に注入された樹脂材6は電磁鋼板4a同士の間からは漏れない。また、上述したように、磁石収容部10に注入された樹脂材6は、気体逃がし溝23c(24e)の深さD(図6参照)が小さいので気体逃がし溝23c(24e)からは漏れない。
【0066】
そして、ステップS6において、磁石収容部10に注入された樹脂材6を温度T2(樹脂材6の硬化が開始される温度)以上で加熱するとともに樹脂材6を硬化させることによって、永久磁石5を磁石収容部10内に固定する固定工程が行われる。具体的には、磁石収容部10に樹脂材6が注入された状態の積層コア4dを、治具20と共に、樹脂注入装置103とは別個に設けられた硬化用加熱装置104に移動させる。その後、硬化用加熱装置104において、積層コア4dと治具20とを、予熱工程における加熱温度である温度T3(および温度T2)よりも高い温度T4で加熱する。これにより、磁石収容部10内に注入された樹脂材6が熱硬化する。
【0067】
(実験結果1)
図11を参照して、樹脂材6の加熱温度と揮発した揮発性有機化合物との関係について調べた実験した結果を説明する。
【0068】
図11に示すように、実験では、170℃、180℃、190℃、200℃の各温度で樹脂材6を20分加熱した場合に検出された揮発ガスを、ガスクロマトグラフ質量分析計により計測した。計測の結果、揮発ガスの成分(揮発性有機化合物)には、樹脂成分由来の成分として、未反応モノマー、ウレタンアクリレート、多官能アクリルエステルが含まれていることが検知された。また、揮発ガスの成分には、添加物由来の成分として、反応開始剤、反応禁止剤、滑剤(離型剤)(ステアリン酸系)が含まれていることが検知された。
【0069】
実験の結果、上記温度で揮発する揮発ガスの主成分は、未反応モノマー、反応開始剤、および滑剤であることが確認された。さらに、滑剤が揮発ガスの過半数(200℃でも半数近く)を占めていることが確認された。すなわち、樹脂材6に気泡が残るのを防止するためには、滑剤を逃がす必要があることが確認された。
【0070】
(実験結果2)
図12を参照して、樹脂材6の加熱温度を変化させながら樹脂材6の重量の変化を検出する熱重量分析の実験結果について説明する。図12において、実線は、時間の経過に対する重量変化を意味し、破線は、時間の経過に対する温度変化を意味する。
【0071】
加熱温度のパターンについて説明する。まず、加熱温度を25℃から80℃まで(10℃/minで)上昇させた後、10分間80℃を維持する。その後、加熱温度を80℃から175℃(または250℃)まで上昇させた後、5分間175℃(250℃)を維持する。その後、175℃(250℃)から25℃まで(-5℃/minで)下降させる。その結果、加熱温度の最高温度が175℃および250℃の各々の場合において、加熱温度が125℃を超えたあたりで樹脂材6の重量が減少したことが確認された。なお、簡略化のため図示は省略するが、加熱温度の最高温度が175℃および250℃以外の温度(165℃、185℃、200℃、270℃)でも、加熱温度が125℃を超えたあたりで樹脂材6の重量が減少したことが確認された。すなわち、加熱温度が125℃を超えたあたりで、樹脂材6の揮発性有機化合物が揮発していることが確認された。つまり、本実施形態のように、予熱工程における加熱温度である温度T3を140℃とすることにより、揮発性有機化合物が十分に揮発することが確認された。
【0072】
[本実施形態の効果]
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0073】
本実施形態では、上記のように、注入工程は、第温度(T3)に加熱された積層コア(4d)に樹脂材(6)を接触させて加熱させることによって揮発性有機化合物を揮発させるとともに揮発した揮発性有機化合物を磁石収容部(10)外に逃がしながら、磁石収容部(10)に樹脂材(6)を注入する工程である。
【0074】
これにより、固定工程において樹脂材(6)を加熱する前に、注入工程において樹脂材(6)に含まれる揮発性有機化合物を揮発させて磁石収容部(10)の外部に逃がすことができる。その結果、注入工程の後の固定工程において揮発性有機化合物が逃がされている状態になっているので、樹脂材(6)を加熱した際に揮発性有機化合物が揮発するのを防止することができる。これにより、揮発した揮発性有機化合物が樹脂材(6)の外部に逃げずに樹脂材(6)の内部に気泡として残るのを防止することができる。その結果、揮発性有機化合物が含まれる樹脂材(6)が積層コア(4d)に注入されているロータコア(4)において、永久磁石(5)の固定力を高めることができる。
【0075】
また、樹脂材(6)の内部に揮発性有機化合物が気泡として残るのを防止することができるので、揮発性有機化合物の揮発に伴って樹脂材(6)の体積が膨張することに起因して、樹脂材(6)が積層コア(4d)の間(電磁鋼板(4a)同士の間から樹脂材(6)が漏れるのを防止することができる。また、積層コア(4d)を押圧するための治具(20)(金型)が用いられている場合は治具(20)(金型)と積層コア(4d)との間から樹脂材(6)が漏れるのを防止することができる。これにより、漏れた樹脂材(6)を除去する手間を省くことができる。
【0076】
また、積層コア(4d)が、固定工程における樹脂材(6)の加熱温度である第温度(T4)よりも低い温度で予備加熱されるので、樹脂材(6)の注入中に樹脂材(6)が硬化するのを極力防止することができる。
【0077】
また、本実施形態では、上記のように、予熱工程は、積層コア(4d)の温度が、樹脂材(6)の溶融が開始される第温度(T1)よりも高く、かつ、第温度(T4)よりも低い第温度(T3)になるように、積層コア(4d)を予備加熱する工程である。
【0078】
このように構成すれば、積層コア(4d)が、樹脂材(6)の溶融が開始される第温度(T1)よりも高い第温度(T3)で予備加熱されるので、固定工程において比較的速やかに積層コア(4d)の温度を上昇させることができるとともに樹脂材(6)の熱硬化を速やかに行うことができる。したがって、樹脂材(6)の注入中に樹脂材(6)が硬化するのを極力防止しながら、固定工程において樹脂材(6)を比較的速やかに硬化させることができる。
【0079】
また、本実施形態では、上記のように、予熱工程は、積層コア(4d)の温度が、樹脂材(6)の溶融が開始される第温度(T1)よりも高い温度であるとともに樹脂材(6)の硬化が開始される温度である第温度(T2)以上で、かつ、第温度(T4)よりも低い第温度(T3)になるように、積層コア(4d)を予備加熱する工程である。
【0080】
このように構成すれば、積層コア(4d)が、樹脂材(6)の硬化が開始される第温度(T2)よりも高い第温度(T3)で予備加熱されるので、固定工程においてより速やかに積層コア(4d)の温度を上昇させることができるとともに樹脂材(6)をより速やかに熱硬化させることができる。
【0081】
また、本実施形態では、上記のように、予熱工程は、積層コア(4d)の温度が、樹脂材(6)の硬化が開始される第温度(T2)と第温度(T4)との中央の温度に対して第温度(T2)寄りの第温度(T3)になるように、積層コア(4d)を予備加熱する工程である。
【0082】
このように構成すれば、予熱工程における加熱温度が第温度(T2)と第温度(T4)との中央の温度に対して第温度(T4)寄りの場合に比べて、樹脂材(6)の注入中に樹脂材(6)が硬化するのをより確実に防止することができる。
【0083】
また、本実施形態では、上記のように、注入工程は、治具(20)または金型を含む押圧部(20)により、積層コア(4d)を積層コア(4d)の軸方向に押圧した状態で、磁石収容部(10)に樹脂材(6)を注入する工程であり、予熱工程は、積層コア(4d)および押圧部(20)の各々の温度が第温度(T3)になるように、押圧部(20)により押圧された状態の積層コア(4d)を、押圧部(20)と共に予備加熱する工程である。
【0084】
このように構成すれば、積層コア(4d)に加えて押圧部(20)も第温度(T3)に加熱されているので、押圧部(20)に接触した樹脂材(6)に含まれる揮発性有機化合物を容易に揮発させることができる。
【0085】
また、本実施形態では、上記のように、注入工程は、押圧部(20)に設けられるとともに磁石収容部(10)に接続される気体逃がし溝(23c、24e)を介して、揮発した揮発性有機化合物を磁石収容部(10)外に逃がしながら、磁石収容部(10)に樹脂材(6)を注入する工程である。
【0086】
このように構成すれば、揮発した揮発性有機化合物を、気体逃がし溝(23c、24e)を介して容易に磁石収容部(10)外に逃がすことができる。
【0087】
また、本実施形態では、上記のように、注入工程は、積層コア(4d)を軸方向の一方側から押圧する一方側プレート(23)と、積層コア(4d)を軸方向の他方側から支持する他方側プレート(24)とを有する治具(20)を含む押圧部(20)により、積層コア(4d)を軸方向に押圧した状態で、一方側プレート(23)および他方側プレート(24)の各々に設けられた気体逃がし溝(23c、24e)を介して、揮発した揮発性有機化合物を磁石収容部(10)外に逃がしながら、磁石収容部(10)に樹脂材(6)を注入する工程である。
【0088】
このように構成すれば、気体逃がし溝(23c、24e)が一方側プレート(23)および他方側プレート(24)の両方に設けられているので、揮発した揮発性有機化合物を、気体逃がし溝(23c、24e)を介してより容易に磁石収容部(10)外に逃がすことができる。
【0089】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0090】
たとえば、上記実施形態では、予熱工程における加熱温度である温度T3(第温度)が、樹脂材6の硬化が開始される温度T2(第温度)よりも高い例を示したが、本発明はこれに限られない。温度T3が、温度T2以下であってもよい。
【0091】
また、上記実施形態では、固定工程における加熱温度である温度T4(第温度)が、樹脂材6の硬化が開始される温度T2(第温度)よりも高い例を示したが、本発明はこれに限られない。温度T4が、温度T2と等しくてもよい。
【0092】
また、上記実施形態では、予熱工程における加熱温度である温度T3(第温度)が、樹脂材6の硬化が開始される温度T2(第温度)と固定工程における加熱温度である温度T4(第温度)との中央の温度に対して温度T2寄りである例を示したが、本発明はこれに限られない。温度T3(第温度)が、温度T2と温度T4との中央の温度に対して温度T4寄りであってもよい。
【0093】
また、上記実施形態では、治具20(押圧部)により積層コア4dが押圧されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、積層コア4dは、金型により押圧されていてもよい。たとえば、金型は、樹脂注入装置103に備えられている金型であってもよい。この場合、揮発した揮発性有機化合物を逃がすための気体逃がし溝は金型に設けられる。
【0094】
また、上記実施形態では、積層コア4dは、治具20により積層コア4dが押圧された状態で、治具20と共に予備加熱される例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、積層コア4d単体で予備加熱されてもよい。
【0095】
また、上記実施形態では、押圧プレート23(一方側プレート)および下方プレート24(他方側プレート)の両方に気体逃がし溝(23c、24e)が設けられる例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、押圧プレート23(一方側プレート)および下方プレート24(他方側プレート)の一方にのみ気体逃がし溝が設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0096】
4…ロータコア、4a…電磁鋼板、4d…積層コア、5…永久磁石、6…樹脂材、10…磁石収容部、20…治具(押圧部)、23…押圧プレート(一方側プレート)、24…下方プレート(他方側プレート)、23c、24e…気体逃がし溝、T1…温度(第温度)、T2…温度(第温度)、T3…温度(第温度)、T4…温度(第温度)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12