IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社UACJの特許一覧

特許7519238アルミニウム合金押出チューブ及び熱交換器
<>
  • 特許-アルミニウム合金押出チューブ及び熱交換器 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】アルミニウム合金押出チューブ及び熱交換器
(51)【国際特許分類】
   F28F 19/02 20060101AFI20240711BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20240711BHJP
   B23K 35/363 20060101ALI20240711BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20240711BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20240711BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20240711BHJP
   B23K 1/19 20060101ALI20240711BHJP
   F28F 1/32 20060101ALI20240711BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20240711BHJP
   F28F 1/02 20060101ALI20240711BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20240711BHJP
   C22F 1/04 20060101ALN20240711BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240711BHJP
   B23K 103/10 20060101ALN20240711BHJP
   B23K 101/14 20060101ALN20240711BHJP
【FI】
F28F19/02
C22C21/00 J
B23K35/363 H
B23K35/28 310A
B23K35/22 310A
C22C21/00 D
B23K1/00 330L
B23K1/19 D
B23K1/19 F
F28F1/32 B
F28F21/08 A
F28F1/02 A
C22C21/02
C22F1/04 B
C22F1/00 605
C22F1/00 612
C22F1/00 627
C22F1/00 613
C22F1/00 626
C22F1/00 630M
C22F1/00 651A
C22F1/00 640A
C22F1/00 641A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
B23K103:10
B23K101:14
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020147697
(22)【出願日】2020-09-02
(65)【公開番号】P2022042317
(43)【公開日】2022-03-14
【審査請求日】2023-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太一
(72)【発明者】
【氏名】東森 稜
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 英敏
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-031730(JP,A)
【文献】特開2018-118318(JP,A)
【文献】特開2009-155709(JP,A)
【文献】特開2006-257549(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0083569(US,A1)
【文献】特開2017-190524(JP,A)
【文献】特開昭50-039660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 19/02
C22C 21/00
B23K 35/363
B23K 35/28
B23K 35/22
B23K 1/00
B23K 1/19
F28F 1/32
F28F 21/08
F28F 1/02
C22C 21/02
C22F 1/04
C22F 1/00
B23K 103/10
B23K 101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金製の押出チューブであり、
0.20~0.90質量%のMnを含有し、Ti含有量が0.10質量%以下であり、残部Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなるチューブ本体と、
該チューブ本体の表面に形成されている塗膜と、
を有し、
該塗膜は、Al-Si合金ろう材粉末と、Zn非含有フッ化物系フラックス粉末と、バインダと、を含有しており、
600℃±10℃で3分間保持し、室温まで冷却した後の平均結晶粒径を測定する加熱試験において、加熱試験後のチューブ本体の平均結晶粒径が150μm以上であること、
を特徴とする熱交換器用アルミニウム合金押出チューブ。
【請求項2】
前記Al-Si合金ろう材粉末の塗布量が10.0~25.0g/mであり、前記Zn非含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量が3.0~12.0g/mであり、前記バインダの塗布量が1.0~13.0g/mであることを特徴とする請求項1記載の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブ。
【請求項3】
請求項1又は2記載の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブと、Znを含有するアルミニウム合金からなるフィンと、のろう付接合物であり、
チューブ本体を形成しているアルミニウム合金の平均結晶粒径が150μm以上であること、
を特徴とする熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金製の押出チューブ及びそれを使用する熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
エバポレータ、コンデンサなどの自動車用アルミニウム合金製熱交換器には、軽量であり、高い熱伝導性を有するアルミニウム合金が多用されている。熱交換器は、冷媒が流通するチューブと、冷媒とチューブ外側の空気との間で熱交換するためのフィンとを有しており、チューブとフィンとがろう付により接合されている。そして、チューブとフィンとのろう付には、フッ化物系のフラックスが用いられることが多い。
【0003】
自動車用熱交換器に用いられるチューブは、前述の通り熱交換を行うために、ろう付によりフィンと接合されるので、フィン側又はチューブ側にろう材を設ける必要があるため、フィン側又はチューブ側にろう材をクラッドしたクラッド材が使用されることが多く、クラッド材の製造コストや材料コストが高くなるという課題がある。
【0004】
フィン側にろう材を設けたクラッド材を用いた場合、チューブ材の使用量に対してフィン材の使用量が多いため、製造コストや材料コストの低減が困難である。それに対して、チューブ側にろう材を設ける場合には、フィン材にクラッド材を用いる必要がなくなるため、コスト低減の余地がある。
【0005】
チューブ側にろう材を設ける従来技術としては、例えば、チューブの外表面に、Si(シリコン)粉末とZn含有フラックスとバインダとが含まれてなるフラックス層を形成させる技術が提案されている(特許文献1)。上記の組成を有するフラックス層は、ろう材成分、Zn及びフラックス成分の全てを一度の付着工程で同時に付着させることができる。また、フィン側にろう材を設ける必要がないため、ベアフィン材を用いてフィンを作製することができる。これらの結果、コスト低減を図ることができる。
【0006】
ここで、特許文献1のフラックス層のように、KZnF等のZnを含有する化合物をフラックスとして用いる場合、以下の反応式によりフラックス成分及びZnが生成される。
6KZnF+4Al→3KAlF+KAlF+6Zn(555℃以上)
【0007】
上記反応式から、Zn含有フラックスは、単体ではZn及びフラックス成分としては機能せず、チューブのAl(アルミニウム)との反応によりZnを析出すると共にフラックス成分であるフルオロアルミン酸カリウムを生成することにより、Zn及びフラックス成分として機能する。そのため、Zn含有フラックスを用いる場合には、フラックス層とチューブとの界面、即ちチューブの外表面近傍で上記の反応が進行する。
【0008】
また、特許文献2では、ろう材粉末としてSiを含む合金粉末を使用した技術も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開2011/090059号
【文献】特開2018-118318
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、環境負荷を低減させるために、構成部品の軽量化により自動車の燃費を向上させる要求や、部品の長寿命化により製品としての材料使用量を低減する要求が高まっている。そのため、従来よりも肉厚の薄いチューブを用いることや、そのようなチューブを用いた熱交換器において、従来よりも高い耐食性を有することが強く求められている。
【0011】
このことは、チューブの薄肉化が可能であることだけでなく、チューブ自体が犠牲防食作用を有することと同時に、腐食環境にさらされた後でもフィンがチューブ表面から脱落することなく、長い期間に亘ってチューブ表面を防食する必要があることを意味する。
【0012】
しかしながら、特許文献1の手法では、塗料中に含まれる純Si粉末がチューブ表面のアルミニウムと共晶溶融させてAl-Si合金の液相ろうを生成することから、チューブ表面の一部がろうとして消耗することになる。このため、ろう付加熱中のチューブ貫通を防ぐためにチューブ肉厚を一定以上確保する必要があり、チューブの薄肉化に貢献するとは言い難い。
【0013】
さらに、塗料中に含まれる純Si粉末は、チューブ表面のアルミニウムと共晶溶融して生成するAl-Si合金の液相ろうがフィンとチューブの接触部に流動してフィレットを形成することになる。このとき、粗大なSi粒が混入していると、粗大なSi粒の表面とチューブ表面のアルミニウムと共晶溶融した液相ろうが毛細管現象によって速やかにフィンとチューブの接触部に流動するため、小さくなったSi粒の周囲がチューブ表面から離れ、液相ろうが流出したチューブ表面に凹み部を形成し、Si粒と接する凹み部の底でさらなる共晶溶融が進行することになる。そうすると深い溶融穴を形成することになり、チューブ本体に貫通孔が発生するおそれが生じる。
【0014】
特許文献1では、それ以下の粒径を有する粒子の累積体積が全粒子の99%となる粒径(99%粒径、D99)の5倍以上となる粗大粒の含有量が1ppm未満であるSi粉末を用いて、上記課題を解決しようとしているが、粗大粒子の混入を1ppm未満にするための課題も生じていた。
【0015】
さらに前述したフラックスの反応により液相の生成直前にチューブ外表面でZnが析出する反応が進行していることから、生成した液相には高濃度のZnが含まれることとなる。このZnはチューブ外表面に拡散してZn拡散層を形成し、犠牲防食層として機能することでチューブの耐食性を向上させる一方、フィンとチューブの間に形成されたフィレット中に濃縮する。この場合、フィレットの電位が最も卑になることで、腐食環境にさらされた際にフィレットが優先的に腐食して消耗し、フィンの脱落を生じ、早期に熱交換性能が低下するとともに、フィンによりチューブが防食されなくなることでチューブに早期貫通が生じ得ることを意味する。
【0016】
また、特許文献2の手法においては、ろう材粉末のうちSiを含む合金としてAl-Si合金粉末が例に挙げられている。塗装チューブにろう材としてAl-Si合金粉末を用いた場合、純Si粉末の場合と異なりチューブ表面にエロージョンを生じ、ろう付中に減肉する懸念があるが、この技術ではその対策が記載されておらず、実用的であるとは言い難いものである。
【0017】
従って、本発明の目的は、ろう付時に粗大Si粒によってチューブに貫通孔を生じるリスクをなくすと共に、チューブ肉厚を減少させることなくフィンとチューブが接合され、ろう付性が良好であり、且つ、長期間に亘ってフィンが脱落し難く、フィンにより防食されることで優れた耐食性を有する自動車用熱交換器用のアルミニウム合金押出チューブ及び該アルミニウム合金押出チューブが用いられている熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、チューブ本体と、チューブ本体の表面に塗布された塗膜と、を有するアルミニウム合金押出チューブにおいて、チューブ本体として、600℃±10℃で3分間保持し、室温まで冷却した後の平均結晶粒径を測定する加熱試験で、平均結晶粒径が150μm以上となるような結晶組織のアルミニウム合金で形成されたものを採用し、且つ、該チューブの表面に、Al-Si合金からなるろう材粉末及びZn非含有フッ化物系フラックス粉末を塗布することにより、ろう付中にチューブ表面が溶融されないため、ろう付中にチューブ肉厚が減少されず、ろう付中にエロージョンが発生し難くなるため、ろう付性が良好であり、且つ、ろう付にZnを含有するものが用いられていないため、ろう付後のフィレットにZnが濃縮することがないことを見出し、本発明を完成させた。
【0019】
上記本発明の課題は、以下の本発明によって解決される。
すなわち、本発明(1)は、自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金製の押出チューブであり、
0.20~0.90質量%のMnを含有し、Ti含有量が0.10質量%以下であり、残部Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなるチューブ本体と、
該チューブ本体の表面に形成されている塗膜と、
を有し、
該塗膜は、Al-Si合金ろう材粉末と、Zn非含有フッ化物系フラックス粉末と、バインダと、を含有しており、
600℃±10℃で3分間保持し、室温まで冷却した後の平均結晶粒径を測定する加熱試験において、加熱試験後のチューブ本体の平均結晶粒径が150μm以上であること、
を特徴とする熱交換器用アルミニウム合金押出チューブを提供するものである。
【0021】
また、本発明()は、前記Al-Si合金ろう材粉末の塗布量が10.0~25.0g/mであり、前記Zn非含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量が3.0~12.0g/mであり、前記バインダの塗布量が1.0~13.0g/mであることを特徴とする(1)の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブを提供するものである。
【0022】
また、本発明()は、(1)又は(2)の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブと、Znを含有するアルミニウム合金からなるフィンと、のろう付接合物であり、
チューブ本体を形成しているアルミニウム合金の平均結晶粒径が150μm以上であること、
を特徴とする熱交換器を提供するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ろう付時にチューブ肉厚を減少させることなくフィンとチューブが接合され、ろう付性が良好であり、且つ、長期間に亘ってフィンが脱落し難く、フィンにより防食されることで優れた耐食性を有する自動車用熱交換器用のアルミニウム合金押出チューブ及び該アルミニウム合金押出チューブが用いられている熱交換器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例で作製するミニコアを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のアルミニウム合金押出チューブは、自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金製の押出チューブであり、
Mnを含有するアルミニウム合金からなるチューブ本体と、
該チューブ本体の表面に形成されている塗膜と、
を有し、
該塗膜は、Al-Si合金ろう材粉末と、Zn非含有フッ化物系フラックス粉末と、バインダと、を含有しており、
600℃±10℃で3分間保持し、室温まで冷却した後の平均結晶粒径を測定する加熱試験において、加熱試験後のチューブ本体の平均結晶粒径が150μm以上であること、
を特徴とする熱交換器用アルミニウム合金押出チューブである。
【0026】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブは、アルミニウム合金により形成されており、アルミニウム合金を押出成形することにより作製されたアルミニウム合金製のチューブである。そして、本発明のアルミニウム合金押出チューブは、フィン等とろう付されることにより、自動車用熱交換器において、冷媒が流通するチューブに用いられる。
【0027】
本発明のアルミニウム合金押出チューブは、Mnを含有するアルミニウム合金からなるチューブ本体と、チューブ本体の表面に形成されている塗膜と、を有する。
【0028】
本発明のアルミニウム合金押出チューブに係るチューブ本体は、Mnを含有するアルミニウム合金により形成されている。Mnは、アルミニウム母相中に固溶することにより、強度を向上させる作用を有し、また、電位を貴にする効果も有する。
【0029】
チューブ本体を形成するMnを含有するアルミニウム合金は、0.20~0.90質量%のMnを含有し、Ti含有量が0.10質量%以下であり、残部Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金であることが好ましい。
【0030】
チューブ本体を形成するMnを含有するアルミニウム合金中、Mn含有量は、好ましくは0.20~0.90質量%、より好ましくは0.30~0.80質量%である。Mnを含有するアルミニウム合金中のMn含有量が、上記範囲にあることにより、十分な強度向上効果及びチューブ深部における電位貴化効果を得ることができる。一方、アルミニウム合金中のMn含有量が、上記範囲未満だと、上記効果が得られ難く、また、上記範囲を超えると、後述する熱間加工以前の工程で母相中にAl-Mn析出物を生じ、これが粒界の移動を抑制することで、ろう付後の結晶組織が微細となり、前述のようなろう付不具合を生じ得、また、更に、押出加工における加工性が低くなり、チューブ本体の生産性が低くなるおそれがある。
【0031】
チューブ本体を形成するMnを含有するアルミニウム合金中、Ti含有量は、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.001~0.08質量%である。Mnを含有するアルミニウム合金中のTi含有量が、上記範囲にあることにより、鋳造時の組織を微細にすることができる。一方、アルミニウム合金中のTi含有量が、上記範囲を超えると、鋳造時に巨大結晶物が生成し、健全なチューブ本体の製造が困難となるおそれがあり、また、押出多穴管の場合には、晶出したTiがダイスとの間に摩擦を生じさせ、生産性や工具寿命を低下させるおそれがある。
【0032】
チューブ本体としては、上記のMnを含有するアルミニウム合金の化学成分に調整され鋳造されたアルミニウム合金鋳塊、すなわち、0.20~0.90質量%、好ましくは0.30~0.80質量%のMnを含有し、Ti含有量が0.10質量%以下、好ましくは0.001~0.08質量%であり、残部Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の鋳塊に、以下の均質化処理が施されたアルミニウム合金を用いて、熱間押出加工されたものであることが好ましい。
【0033】
均質化処理としては、以下の第一の形態の均質化処理及び第二の形態の均質化処理が挙げられる。
【0034】
第一の形態の均質化処理では、所定の化学組成を有するアルミニウム合金鋳塊を、400~650℃で2時間以上保持する。第一の形態の均質化処理における処理温度は、400~650℃、好ましくは430~620℃である。均質化処理の処理温度が、上記範囲にあることにより、鋳造時に形成される粗大な晶出物を分解あるいは粒状化させ、鋳造時に生じた偏析層などの不均一な組織を均一化させることができる。その結果、押出加工時の抵抗を低減して押出性を向上させることができ、また、押出後の製品の表面粗度を小さくすることができる。一方、均質化処理の処理温度が、上記範囲未満だと、粗大な晶出物や上記の不均一な組織が残存するおそれがあり、押出製の低下や表面粗度の増大を招くおそれがあり、また、上記範囲を超えると、鋳塊の溶融を招くおそれがある。均質化処理の処理時間は、2時間以上、好ましくは5時間以上である。均質化処理の処理時間が、上記範囲であることにより、均質化が十分となる。また、均質化処理の処理時間は、24時間を超えても、均質化の効果が飽和するため、24時間以下が好ましい。
【0035】
第二の形態の均質化処理では、所定の化学組成を有するアルミニウム合金鋳塊を、550~650℃で2時間以上保持する第一均質化処理を行い、第一均質化処理を行った後、アルミニウム合金鋳塊を、400~550℃で3時間以上保持する第二均質化処理を行う。
【0036】
第二の形態の均質化処理に係る第一均質化処理における処理温度は、550~650℃、好ましくは580~620℃である。第一均質化処理の処理温度が、上記範囲にあることにより、鋳造時に形成される粗大な晶出物を分解あるいは粒状化させ、また、積極的に再固溶させることができる。一方、第一均質化処理の処理温度が、上記範囲未満だと、再固溶が進み難くなり、また、上記範囲を超えると、鋳塊の溶融を招くおそれがある。第一均質化処理の処理時間は、2時間以上、好ましくは5時間以上である。均質化処理の処理時間が、上記範囲であることにより、上記効果が十分となる。また、均質化処理の処理時間は、24時間を超えても、均質化の効果が飽和するため、24時間以下が好ましい。
【0037】
第二の形態の均質化処理に係る第二均質化処理における処理温度は、400~550℃である。第二均質化処理の処理温度が、上記範囲にあることにより、母相中に固溶しているMnを析出させ、Mnの固溶度を低下させることができる。その結果、押出加工における変形抵抗を低下させ、押出性を向上させることができる。一方、第二均質化処理の処理温度が、上記範囲未満だと、Mnの析出量が少なくなるため、変形抵抗を低下させる効果が不十分となるおそれがあり、また、上記範囲を超えると、Mnが析出し難くなるため、変形抵抗を低下させるおそれがある。第二均質化処理の処理時間は、3時間以上、好ましくは5時間以上である。第二均質化処理の処理時間が、上記範囲未満だと、Mnの析出が十分となり、変形抵抗を低下させる効果が不十分となるおそれがある。また、均質化処理の処理時間は、長い方が反応が進むため効果があるが、長すぎても効果が飽和するため、24時間以下が好ましく、15時間以下が特に好ましい。
【0038】
第二の形態の均質化処理において、第一均質化処理と第二均質化処理とを、連続して行ってもよいし、あるいは、第一均質化処理を行った後、一旦、鋳塊を冷却してから、第二均質化処理を行ってもよい。なお、第一均質化処理と第二均質化処理とを連続して行うとは、第一均質化処理が完了した後に、鋳塊の温度を、第二均質化処理の処理温度よりも低い温度に冷却することなく、第二均質化処理の処理温度に達したときに、第二均質化処理を開始するという意味である。また、第一均質化処理を行った後、一旦、鋳塊を冷却してから、第二均質化処理を行う場合には、例えば、第一均質化処理を行った後、鋳塊を200℃以下まで冷却した後に再加熱し、第二均質化処理を行う。
【0039】
チューブ本体の形態は、特に制限されず、用途や要求される特性に応じて、適宜選択される。チューブ本体としては、例えば、押出加工により形成され、内部に複数の冷媒流路を有し、押出方向に垂直な断面の形状が扁平な形状である押出扁平多穴管が挙げられる。また、チューブ本体は、例えば、単純な筒状等の形状であってもよい。筒状のチューブは、押出加工により製造されたものであってもよい。
【0040】
本発明のアルミニウム合金押出チューブに係る塗膜は、チューブ本体の表面に形成されている。塗膜は、Al-Si合金ろう材粉末、Zn非含有フッ化物系フラックス粉末及びバインダを含有している。
【0041】
Al-Si合金ろう材粉末は、粉末状のAlとSiの合金である。Al-Si合金ろう材粉末は、ろう付時の加熱により、Al-Si合金ろう材粉末自身のみで溶融し、チューブ外表面に液相ろうを生じる。このことにより、チューブをフィンやヘッダと接合させることができる。Si単体の粉末では、共晶溶融によってろうが生成するためチューブ外表面のAlの一部が溶解するが、Al-Si合金ろう材粉末は、Alを含有しているので、ろう付時のろう材によるチューブ外表面の溶融が起こり難い。
【0042】
Al-Si合金ろう材粉末を構成するAlとSiの合金中、Siの含有量は、好ましくは5.0~20.0質量%、特に好ましくは7.0~15.0質量%である。AlとSiの合金中のSiの含有量が上記範囲にあることにより、ろう付時にチューブ外表面の溶融によるチューブ肉厚の減少が起こり難くなると共に、ろう付性が良好になる。
【0043】
Al-Si合金ろう材粉末の塗布量は、好ましくは10.0~25.0g/m、特に好ましくは12.0~20.0g/mである。Al-Si合金ろう材粉末の塗布量が上記範囲にあることにより、ろう付性が良好になる。一方、Al-Si合金ろう材粉末の塗布量が、上記範囲未満だと、液相ろうの量が不十分となり、接合不良を生じ易くなり、また、上記範囲を超えると、塗膜厚さが過度に厚くなり、ろう付後のコアの寸法変化が生じ、ろう付性が低くなり易くなる。
【0044】
Zn非含有フッ化物系フラックス粉末は、ろう付時にフラックスとして機能し、ろう付加熱中に溶融して、Al-Si合金ろう材粉末やチューブ外表面の酸化皮膜を破壊し、液相ろう生成後に、直ちにろう付が進行することを可能にする。Zn非含有フッ化物系フラックス粉末は、粉末状であり且つZnを含有しないフッ化物である。なお、本発明において、「Zn非含有」、「Znを含有しない」とは、電子線マイクロアナライザによる分析において、Zn量が検出下限未満であることを指す。
【0045】
Zn非含有フッ化物系フラックス粉末を構成するZn非含有フッ化物としては、例えば、KAlF、KAlF、KAlF等のK-Al-F系化合物が挙げられる。また、これらの他に、Zn非含有フッ化物としては、CaF、LiF等のフラックスも挙げられる。
【0046】
Zn非含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量は、好ましくは3.0~12.0g/m、特に好ましくは4.0~10.0g/mである。Zn非含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量が上記範囲にあることにより、ろう付時の酸化皮膜の破壊効果が十分となる。一方、Zn非含有フッ化物系フラックス粉末の塗布量が、上記範囲未満だと、フラックス成分が不足するため、酸化皮膜の破壊が不十分となり、ろう付性が低くなり易く、また、上記範囲を超えると、塗膜厚さが過度に厚くなり、ろう付後のコアの寸法変化が生じ、ろう付性が低くなり易くなる。
【0047】
バインダは、Al-Si合金ろう材粉末及びZn非含有フッ化物系フラックス粉末を、チューブ本体の表面に付着させるものである。バインダとしては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等が挙げられる。
【0048】
バインダの塗布量は、好ましくは1.0~13.0g/mである。バインダの塗布量が上記範囲にあることにより、Al-Si合金ろう材粉末及びZn非含有フッ化物系フラックス粉末を、チューブ本体の表面に良好に付着させることができる。一方、バインダの塗布量が、上記範囲未満だと、塗膜の剥離が生じ易くなり、また、上記範囲を超えると、バインダの熱分解が不十分となり、ろう付の際に未分解のバインダ等が残留し、ろう付性が低くなるおそれがある。
【0049】
チューブ本体の表面に塗膜を形成させる方法としては、例えば、Al-Si合金ろう材粉末、Zn非含有フッ化物系フラックス粉末及びバインダを、溶剤に混合し、得られるペーストをチューブ本体の表面に塗布した後、溶剤を乾燥して除去することにより、塗膜を形成させる方法が挙げられる。Al-Si合金ろう材粉末及びZn非含有フッ化物系フラックス粉末を、溶剤に混合する前に、予め、Al-Si合金ろう材粉末と、Zn非含有フッ化物系フラックス粉末と、を混合して、Al-Si合金ろう材粉末及びZn非含有フッ化物系フラックス粉末の混合粉末にしてから、得られる混合粉末をバインダと共に、溶剤に混合してもよい。チューブ本体の表面への上記ペーストの塗布には、例えば、ロールコート法等が用いられる。
【0050】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブは、600℃±10℃で3分間保持し、室温まで冷却した後の平均結晶粒径を測定する加熱試験において、加熱試験後のチューブ本体の平均結晶粒径が150μm以上である。つまり、本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブは、600℃±10℃で3分間保持し、室温まで冷却することにより、チューブ本体の平均結晶粒径が150μm以上となるような、結晶組織を有している。なお、熱交換器用アルミニウム合金押出チューブを、600℃±10℃で3分間保持し、室温まで冷却した後の平均結晶粒径を測定する加熱試験したときのチューブ本体の平均結晶粒径が150μm以上であることにより、ろう付加熱中に、液相ろうが結晶粒界を浸食する所謂エロージョンが発生し難く、チューブ肉厚の減少やチューブの貫通が起こり難くなり、また、ろう量の減少による接合不良が起こり難くなるので、ろう付性が良好になる。
【0051】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブに係る加熱試験後の平均結晶粒径が150μm以上となるチューブ本体は、ろう付加熱前の平均結晶粒径が、ろう付加熱中にエロージョンが発生し難くなる程度に大きいので、ろう付加熱中にエロージョンが起こり難い。そのため、600℃±10℃で3分間保持し、室温まで冷却した後の平均結晶粒径を測定する加熱試験において、加熱試験後のチューブ本体の平均結晶粒径が150μm以上である本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブは、ろう付加熱中にエロージョンが起こり難い。
【0052】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブに係る加熱試験は、先ず、本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブを、加熱して昇温し、昇温過程において、600℃±10℃の保持温度まで加熱し、次いで、600℃±10℃で3分間保持し、次いで、室温まで冷却する加熱試験を行い、次いで、加熱試験後の本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブのチューブ本体の平均結晶粒径を測定する試験である。なお、チューブ本体の平均結晶粒径の測定方法は、試験片を電解研磨した後、倍率50~100倍の偏光顕微鏡により、各断面の顕微鏡像を得て、円相当径を測定する方法が挙げられる。また、加熱試験の昇温過程における昇温速度については、500℃までの温度域が平均30±10℃/分の昇温速度であり、500℃以上の温度域が平均10±5℃/分の昇温速度である。
【0053】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブに係る加熱試験後の平均結晶粒径が150μm以上となるチューブ本体は、熱間押出に供するアルミニウム合金鋳塊中のMn含有量を所定の含有量とすること、好ましくは0.20~0.90質量%のMnを含有し、Ti含有量が0.10質量%以下であり、残部Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金を、熱間押出に供するアルミニウム合金鋳塊として用いること、より好ましくは、更に、熱間押出に供する前に、アルミニウム合金鋳塊に上記均質化処理を施すことや、熱間押出時の鋳塊温度を480℃以上とし、導入される加工ひずみを低減することにより得られる。
【0054】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブは、チューブ本体がMnを含有するアルミニウム合金からなるので、チューブ本体が純アルミニウムからなるチューブに比べ、強度が高くなる。また、本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブは、チューブ本体がMnを含有するアルミニウム合金からなるので、Mnがアルミニウム母相中に固溶しているので、チューブ本体が純アルミニウムからなるチューブに比べ、チューブ本体の電位が深部において貴になり、フィン材や後述するようにチューブ表面との電位差が大きくなりやすいため、チューブ本体の腐食貫通を防止する観点から有利となる。
【0055】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブは、塗膜が、Al-Si合金ろう材粉末及びZn非含有フッ化物系フラックス粉末を含有することにより、好ましくはAl-Si合金ろう材粉末を、10.0~25.0g/m、特に好ましくは12.0~20.0g/mの塗布量で、且つ、Zn非含有フッ化物系フラックス粉末を、3.0~12.0g/m、特に好ましくは4.0~10.0g/mの塗布量で含有することにより、それぞれの粉末がそれぞれの機能を発揮すると共に、相互に作用して相乗的な効果を発揮することにより、優れたろう付性及び耐食性を有する。
【0056】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブでは、塗膜に含有されているAl-Si合金ろう材粉末が、ろう付時の加熱により、Al-Si合金ろう材粉末自身のみで溶融し、チューブ外表面に液相ろうを生じるので、チューブをフィンやヘッダと接合させることができ、また、ろう付中にチューブ肉厚を減少させないため、チューブを薄肉化することができる。
【0057】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブでは、塗膜に含有されているAl-Si合金ろう材粉末中のSiの一部が、ろう付中に、チューブ外表面から深部へと拡散していく。チューブの深部へ拡散したSiは、チューブ母相中の固溶Mnと反応し、微細なAl-Mn-Si系析出物を形成する。そのため、チューブ外表面近傍のSiが拡散した領域が、Mnの固溶度が低下するため、チューブ深部に比べて電位が卑となり、犠牲防食効果を発揮する。このことにより、本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブは、ろう付に供されることにより、耐食性が高くなる。なお、ここで形成される電位差は、Zn拡散により形成される電位差よりも小さいものとなるが、比較的軽微な腐食環境においては十分に犠牲防食作用を発揮する。
【0058】
以上のことから、本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブは、ろう付時に外表面の溶融を生じないため、薄肉であっても強度が高くなり、また、外表面側でMnの固溶量が低下することで、犠牲防食効果を発揮し、チューブ単体であっても一定以上の耐食性を有する。
【0059】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブでは、塗膜に含有されているZn非含有フッ化物系フラックス粉末が、ろう付時に、Al-Si合金ろう付粉末表面の酸化皮膜及びチューブ外表面の酸化皮膜を先に破壊することで、Al-Si合金粉末の溶融後直ちにろう付を可能にしている。
【0060】
また、塗膜中に純Zn粉末等を含有するチューブをろう付して得られた熱交換器の場合、フィレット形成時に溶融ろう中のZnが濃縮し、フィレットの電位が最も卑になる。この場合、熱交換器が腐食環境下にさらされるとフィレット部の腐食が最も早く進行するため、フィレットが消失することで、フィンがチューブから脱落する。その結果、熱交換性能が大きく低下し、更に、フィンによるチューブの防食作用が失われるため、早期にチューブの貫通を生じ易くなる。
【0061】
それに対して、本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブでは、チューブ表面及び塗膜中にZnを含まないため、ろう付により形成されるフィレットへのZnの濃縮を生じない。そのため、本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブをろう付して得られる熱交換器では、フィレットが優先的に腐食しないため、長期間に亘ってチューブ表面からフィンが脱落せず、熱交換性能の低下を防止できるだけでなく、フィンによるチューブの防食作用が長期間得られる。このようなことから、本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブは、優れた耐食性を有する。
【0062】
本発明の熱交換器は、上記本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブと、Znを含有するアルミニウム合金からなるフィンと、のろう付接合物であり、
チューブ本体を形成しているアルミニウム合金の平均結晶粒径が150μm以上であること、
を特徴とする熱交換器である。
【0063】
本発明の熱交換器は、上記本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブと、Znを含有するアルミニウム合金からなるフィンと、が、ろう付により接合されたものである。
【0064】
本発明の熱交換器に係るZnを含有するアルミニウム合金からなるフィンは、アルミニウム合金により形成されている。フィン材を形成するアルミニウム合金は、特に制限されず、熱交換器用として十分な強度及び耐食性を有するものであればよいが、例えば、Mn含有量が0.8~1.5質量%、Zn含有量が0.5~2.5質量%、Cu含有量が0.20質量%以下であり、残部Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金が挙げられる。また、本発明の熱交換器に係るZnを含有するアルミニウム合金からなるフィンは、熱交換器用として十分な強度及び耐食性を有するものであれば、公知のフィンであってもよい。
【0065】
本発明の熱交換器は、上記本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブに、Znを含有するアルミニウム合金からなるフィンを当接させた後、ヘッダ等の他の部材を組み付け、これらを加熱して、ろう付することにより作製される。ろう付に際しての加熱温度、加熱時間、雰囲気は、特に制限されず、ろう付方法も、特に制限されない。ろう付の加熱温度は、例えば、590~610℃であり、また、ろう付の加熱時間は、例えば、15分~45分であり、また、ろう付の雰囲気は、例えば、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等である。
【0066】
本発明の熱交換器は、チューブ材として、本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブを用いて、ろう付されたものなので、ろう付時にチューブ肉厚を減少させることなくフィンと接合されたものである。そのため、本発明の熱交換器は、薄肉であっても強度が高い。また、本発明の熱交換器は、チューブ材として、本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブを用いて、ろう付されたものなので、ろう付中にフィレットへのZnの濃縮が起こり難いので、長期間に亘ってフィンが脱落し難く、フィンにより防食されることで優れた耐食性を有する。
【0067】
以下に、実施例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0068】
<チューブの作製>
表1に示す化学成分を有するビレットを、600℃で10時間加熱して、均質化処理を行い、次いで、均質化処理が完了したビレットを室温まで冷却した。次いで、ビレットを450℃まで再加熱し、熱間押出加工を行い、押出方向に垂直な断面が扁平な形状を呈し、複数の冷媒流路を備えたチューブ本体を作製した。
また、Al-Si合金ろう材粉末、Zn非含有フッ化物系フラックス粉末及びバインダを溶剤に混合し、塗膜形成用のペーストを調製した。次いで、得られたペーストを、上記チューブ本体の平坦面に、ロールコーターを用いて塗布し、表2に示す塗布量の塗膜を形成させ、塗膜が形成された熱交換器用アルミニウム合金押出チューブを得た。
【0069】
・Al-Si合金ろう材粉末:Si含有量12.0質量%
・Zn非含有フッ化物系フラックス粉末:K-Al-F系フラックス、電子線マイクロアナライザによるZn分析において、Znは検出下限未満であった。
・バインダ:アクリル樹脂
【0070】
<フィンの作製>
Mn:1.2質量%、Zn:1.5質量%のアルミニウム合金からなる厚さ0.1mmの板材に、コルゲート加工を施し、コルゲート形状を有するフィンを作製した。なお、フィンピッチは3mm、フィン高さは7mmであった。
【0071】
<ミニコア作製及び加熱試験>
図1に示すように、フィンの上下をチューブで挟む形で積層し、所定の形状に組み付けた。この状態で、窒素ガス雰囲気下で、チューブ及びフィンを加熱し、500℃までは、平均30℃/分の昇温速度で、500℃以上の温度域では、平均10℃/分の昇温速度で600℃まで昇温させ、600℃で3分間保持した後、室温まで降温させて、ろう付を行うことにより、チューブ及びフィンを接合し、熱交換器を模擬したミニコアを得た。
得られたミニコアを用いて、ろう付性の評価を行った。その結果を表3に示す。
なお、ミニコア作製のための熱履歴は、加熱試験の熱履歴に相当する。
【0072】
<加熱試験後の平均結晶粒径の評価及びろう付性の評価>
ろう付後のチューブの断面観察を行い、エッチングを施し、平均結晶粒径を測定した。測定は、試験片を電解研磨した後、倍率100倍の偏光顕微鏡により、各断面の顕微鏡像を得て、円相当径を測定して行った。
また、目視観察により、フィンの接合状態、変色等の外観不良の有無、フィンの溶融の有無、チューブ表面のエロージョンの有無を確認した。
【0073】
<耐食性の評価>
各試験体に、ASTM-G85-Annex A3に規定されたSWAAT試験を960時間実施した。試験完了後の試験材を目視で観察することにより、フィンの剥離の有無を判定した。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
<評価結果>
本発明の実施例1は、ろう付後の平均結晶粒径が400μm以上と充分大きく、ろう付不具合を生じず、エロージョンも生じず、合格であった。また、ろう付後のチューブの肉厚は、ろう付前の肉厚と比べて、大きく変化していないことから、顕著な溶融が起こっていないことが確認された。また、耐食性試験の結果、フィン剥がれが生じておらず、良好な耐食性を有していた。
一方、比較例1は、ろう付後の平均結晶粒径は充分に大きかったが、フラックス粉末が不足しており、Al-Si合金ろう材粉末及びチューブ外表面の酸化皮膜破壊が不充分であったため、フィレットが形成されず、不合格であった。
比較例2は、同様にろう付後の平均結晶粒径は充分に大きかったが、Al-Si合金ろう材粉末が不足しており、充分なフィレットを形成することできず、不合格であった。
比較例3は、ろう付後の平均結晶粒径が120μmと小さく、ろう付後にフィレット周辺でエロージョンが生じていた。フィレットは形成されていたものの、そのサイズが小さく、フィンの接合強度が不足しているため、実使用時に早期にフィンの剥離を生じる懸念があり、不合格とした。また、耐食性試験の結果は、フィン剥がれが生じておらず、良好な耐食性を有していた。
なお、耐食性試験については、フィンとチューブが接合された実施例1及び比較例3のみで実施した。
図1