(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】細胞シートの厚さ評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/17 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
G01N21/17 620
(21)【出願番号】P 2020158649
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 涼
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/002158(WO,A1)
【文献】特開2011-200635(JP,A)
【文献】特開2015-049169(JP,A)
【文献】特表2007-508558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/61
G01B 9/00 - G01B 11/30
G01N 33/00 - G01N 33/98
G02B 27/00 - G02B 30/60
C12M 1/00 - C12M 3/10
C12N 1/00 - C12N 7/08
A61B 1/00 - A61B 3/18
A61B 10/00 - A61B 10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞シートに対しその主面と交わる方向に光を入射させて前記細胞シートを光コヒーレンストモグラフィにより断層撮像する工程と、
前記断層撮像の結果に基づき前記細胞シートの厚さ分布を求める工程と
を備え、
前記断層撮像する工程では、
前記光を主走査方向に走査することで前記細胞シートの一の断面を撮像するとともに、前記光の入射位置を、前記主走査方向と交わる副走査方向に所定の送りピッチで移動させながらその都度前記断層撮像を行うことで、前記副走査方向における位置が互いに異なる複数の断面それぞれに対応する断層画像を取得し
、
ここで前記送りピッチは
、
前記細胞シートの一部について予め設定された標準ピッチで前記光の入射位置を前記副走査方向に移動させて複数の部分断層画像を撮像し、前記部分断層画像各々に対応する断面における前記細胞シートの一次元厚さ分布を求めた結果に基づいて、前記断層画像における1画素に相当するサイズよりも大き
な値に設定され、
前記厚さ分布を求める工程では、
複数の
前記断層画像の各々に基づき、対応する
前記断面
の各々における前記細胞シートの一次元厚さ分布を求め、
前記断面の各々について求めた前記一次元厚さ分布を前記副走査方向に補間して前記細胞シートの二次元厚さ分布を求める、
細胞シートの厚さ評価方法。
【請求項2】
前記標準ピッチは、前記断層画像を撮像する際の画素サイズに相当する値に設定される、請求項1に記載の細胞シートの厚さ評価方法。
【請求項3】
撮像された前記部分断層画像を前記副走査方向に一定の比率で間引き、間引き後の前記部分断層画像における前記細胞シートの一次元厚さ分布を前記副走査方向に補間
することにより得られた厚さと
、間引
きによって除外された前記部分断層画像
から求められた厚さとの誤差に基づき前記送りピッチを設定する請求項
1または2に記載の細胞シートの厚さ評価方法。
【請求項4】
前記間引きの比率を変数としたときの前記誤差を表す近似曲線を求め、その微分値が極小となるときの
、間引き
後の前記部分断層画像の前記副走査方向における間隔を前記送りピッチとする請求項3に記載の細胞シートの厚さ評価方法。
【請求項5】
前記間引きの比率を変数としたときの前記誤差を、間引き
後の前記部分断層画像の前記副走査方向における間隔が大きい側と小さい側とに対応する2本の回帰直線によって近似し、その交点に対応する前
記間隔を前記送りピッチとする請求項3に記載の細胞シートの厚さ評価方法。
【請求項6】
前記主走査方向と前記副走査方向とを入れ替えてその前後で前記部分断層画像を撮像する請求項
1ないし5のいずれかに記載の細胞シートの厚さ評価方法。
【請求項7】
前記主走査方向と前記副走査方向とを入れ替えた前記断層画像をさらに撮像し、それぞれの前記断層画像について求めた前記一次元厚さ分布を二次元補間して前記二次元厚さ分布を求める請求項1ないし6のいずれかに記載の細胞シートの厚さ評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光コヒーレンストモグラフィ撮像の原理を用いて細胞シートを撮像して、その厚さ分布を求める方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
再生医療や生化学の技術分野では、人工的に培養された皮膚モデルとして、例えばインサートウェル内で形成された積層シート状の表皮組織、すなわち細胞シートが用いられている。細胞シートがどのような生理的性質(フェノタイプ)を有しているかを表す情報を知るための方法の1つとして、細胞シートの厚さを計測することが行われる。従来は、組織切片をパラフィン包埋してその断面を観察し計測することが行われてきた。しかしながら、侵襲的な方法であるため組織をその後継続して利用することができない。また、包埋処理時の組織の変形や、断面に現れた部分のみの評価となること等に起因して、必ずしも細胞シート全体について有意な厚さ情報が得られない。
【0003】
この問題を解決する方法として、細胞シートを断層撮像し、その画像データから細胞シートの厚さを評価する方法が考えられる。例えば特許文献1に記載の撮像装置は、細胞等の試料に低コヒーレント光を入射させ、試料からの拡散反射光と参照光との干渉光を検出することで試料の断層画像を非侵襲的に撮像する、光コヒーレンストモグラフィ(Optical Coherence Tomography;OCT)撮像方式の撮像装置である。このような撮像方式では、試料の三次元構造を把握することが可能であり、細胞シートを撮像対象とすることで、その画像から厚さを精度よく評価することができると期待される。
【0004】
この撮像技術では以下のようにして三次元像が取得される。例えば試料に対し照明光ビームが入射する深さ方向をZ方向とするとき、これと直交する方向、例えばX方向に光ビームを走査して撮像を行うことにより、XZ平面に平行な1つの断面における断層画像が得られる。これを、X方向およびZ方向に対し直交するY方向に照明光ビームの入射位置をシフトさせながら繰り返し実行することで、Y方向に位置の異なる複数の断面の画像を取得することができる。例えばY方向へのシフト量を、一の断面に対応する二次元画像の画素サイズと同等とすれば、当該画素のデータは三次元画像中のボクセルデータとしての意味を持つことになる。このようにして試料の三次元画像データが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば細胞シートの厚さ分布を求めるためには、当該細胞シート内の複数の位置で多点観察を行う必要がある。このために細胞シート全体の三次元像を取得することが必要となるが、一般的な細胞シートの平面サイズは、OCT撮像装置が対応可能な撮像範囲よりも相当大きい。このため、細胞シート全体の撮像を行うには上記した一連の撮像動作を撮像位置を変えながら多数回繰り返す必要があり、撮像に要する時間が長大になってしまう。
【0007】
特に、細胞シートを材料として用いた各種の試験や、細胞シートの作製工程における品質管理のためにこの技術を利用しようとすると、多数枚の細胞シートのそれぞれに対して多点観察が必要となるため、膨大な撮像時間が必要となってくる。
【0008】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、光コヒーレンストモグラフィ撮像の原理を用いて細胞シートの厚さを評価する技術において、撮像に要する時間を短縮しつつ、細胞シートの厚さを精度よく評価することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の一の態様は、細胞シートに対しその主面と交わる方向に光を入射させて前記細胞シートを光コヒーレンストモグラフィにより断層撮像する工程と、前記断層撮像の結果に基づき前記細胞シートの厚さ分布を求める工程とを備え、前記断層撮像する工程では、前記光を主走査方向に走査することで前記細胞シートの一の断面を撮像するとともに、前記光の入射位置を、前記主走査方向と交わる副走査方向に所定の送りピッチで移動させながらその都度前記断層撮像を行うことで、前記副走査方向における位置が互いに異なる複数の断面それぞれに対応する断層画像を取得する。ここで前記送りピッチは、前記細胞シートの一部について予め設定された標準ピッチで前記光の入射位置を前記副走査方向に移動させて複数の部分断層画像を撮像し、前記部分断層画像各々に対応する断面における前記細胞シートの一次元厚さ分布を求めた結果に基づいて、前記断層画像における1画素に相当するサイズよりも大きな値に設定される。また、前記厚さ分布を求める工程では、複数の前記断層画像の各々に基づき、対応する前記断面の各々における前記細胞シートの一次元厚さ分布を求め、前記断面の各々について求めた前記一次元厚さ分布を前記副走査方向に補間して前記細胞シートの二次元厚さ分布を求める、細胞シートの厚さ評価方法である。
【0010】
このように構成された発明では、断層画像における1画素に相当するサイズよりも大きい送りピッチで光の入射位置を変化させながら複数の断層画像を取得する。光コヒーレンストモグラフィ撮像では、被撮像物の立体像を作成可能とするために、副走査方向における送りピッチは断層画像における1画素に相当するサイズ(ここでは「画素サイズ」と称する)と同程度とされる。こうすることで、断層画像におけるピクセルデータがそのまま立体像におけるボクセルデータとなるからである。
【0011】
しかしながら、細胞シートの厚さを多点観察するためにこのような撮像を行うとすると、細胞シートの全体を撮像するのに長い時間がかかってしまう。そこで本発明では、細胞シートの一部を撮像した部分断層画像において厚さ分布を求めた結果に基づき、画素サイズよりも粗い送りピッチで副走査方向への移動が行われる。こうすることにより、細胞シートの全体を撮像するのに要する時間を短縮することができる。
【0012】
一方で、送りピッチが大きくなることで取得可能な厚さ情報が副走査方向に離散的となる。そこで、取得された断層画像内での一次元の厚さ分布を求め、その情報に基づき副走査方向への補間を行うことにより、二次元の厚さ分布を求める。部分断層画像での結果を用いて送りピッチを適切に設定すれば、厚さ分布の精度低下を抑制しつつ、厚さを求めるための撮像に要する時間を大きく短縮することが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
上記のように、本発明によれば、送りピッチを通常の撮像より大きくして撮像することで所要時間を短縮するとともに、撮像された複数の断層画像から取得された一次元厚さ分布を補間して二次元厚さ分布を求めるので、細胞シートの厚さ分布を精度よく求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明を実行可能な画像処理装置の構成例を示す図である。
【
図2】細胞シートの構造例を模式的に示す図である。
【
図3】OCT撮像の結果から得られる三次元画像データの概念を示す図である。
【
図4】本実施形態における二次元厚さ分布測定の原理を説明する図である。
【
図5】主走査方向と副走査方向とを入れ替えた例を示す図である。
【
図6】細胞シートの厚さ分布の算出処理を示すフローチャートである。
【
図7】ピッチ決定処理を示すフローチャートである。
【
図8】間引きおよび補間のプロセスを例示する図である。
【
図9】間引き率と誤差との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明に係る細胞シートの厚さ評価方法を実行可能な画像処理装置の構成例を示す図である。この画像処理装置1は、例えば培養液中で培養された細胞や組織標本等を光コヒーレンストモグラフィ(Optical Coherence Tomography;OCT)の撮像原理を用いて撮像し、その断層画像を取得するための装置である。得られた断層画像を画像処理することで、試料の一の断面の構造を示す断面画像を作成することができる。また、複数の断面画像から試料の立体像を作成することができる。以下の各図における方向を統一的に示すために、
図1に示すようにXYZ直交座標軸を設定する。ここでXY平面が水平面を表す。また、Z軸が鉛直軸を表し、より詳しくは(-Z)方向が鉛直下向き方向を表している。
【0016】
この実施形態は、このような画像処理装置1を用いて、細胞シートの厚さ評価を行おうとするものである。より具体的には、容器C中に培地Mとともに担持された細胞シートSを断層撮像し、その撮像結果を用いて細胞シートSの厚さ分布を求める。まず、装置の基本構成を説明し、その後で、本実施形態の厚さ評価方法の内容について説明する。
【0017】
画像処理装置1は保持部10を備えている。保持部10は、内部に被撮像物を担持する試料容器Cを、その開口面を上向きにして略水平姿勢に保持する。ここでは、試料容器Cとして例えばインサートウェルと呼ばれる平底の透明容器が用いられ、その内部に適宜の培地Mが注入されている。試料容器Cの底面Cbに接着培養された細胞シートSが、この場合の被撮像物となる。なお、被撮像物である細胞シートSの保持態様はこれに限定されず任意であるが、細胞シートSをその主面を略水平にして保持することが望ましい。
【0018】
保持部10に保持された試料容器Cの下方に、撮像ユニット20が配置される。撮像ユニット20には、被撮像物の断層画像を非接触、非破壊(非侵襲)で撮像することが可能なOCT(光コヒーレンストモグラフィ、または光干渉断層撮像)装置が用いられる。詳しくは後述するが、OCT装置である撮像ユニット20は、被撮像物への照明光を発生する光源21と、光ファイバカプラ22と、物体光学系23と、参照光学系24と、分光器25と、光検出器26とを備えている。
【0019】
また、画像処理装置1はさらに、装置の動作を制御する制御ユニット30と、撮像ユニット20の可動部を駆動する駆動部40とを備えている。制御ユニット30は、CPU(Central Processing Unit)31、A/Dコンバータ32、信号処理部33、3D復元部34、インターフェース(IF)部35、画像メモリ36およびメモリ37を備えている。
【0020】
CPU31は、所定の制御プログラムを実行することで装置全体の動作を司り、CPU31が実行する制御プログラムや処理中に生成したデータはメモリ37に保存される。A/Dコンバータ32は、撮像ユニット20の光検出器26から受光光量に応じて出力される信号をデジタルデータに変換する。信号処理部33は、A/Dコンバータ32から出力されるデジタルデータに基づき後述する信号処理を行って、被撮像物の断層画像を作成する。3D復元部34は、撮像された複数の断層画像の画像データに基づいて、撮像された細胞集塊の立体像(3D像)を作成する機能を有する。信号処理部33により作成された断層画像の画像データおよび3D復元部34により作成された立体像の画像データは、画像メモリ36により適宜記憶保存される。
【0021】
インターフェース部35は画像処理装置1と外部との通信を担う。具体的には、インターフェース部35は、外部機器と通信を行うための通信機能と、ユーザからの操作入力を受け付け、また各種の情報をユーザに報知するためのユーザインターフェース機能とを有する。この目的のために、インターフェース部35には、装置の機能選択や動作条件設定などに関する操作入力を受け付け可能な例えばキーボード、マウス、タッチパネルなどの入力デバイス351と、信号処理部33により作成された断層画像や3D復元部34により作成された立体像など各種の処理結果を表示する例えば液晶ディスプレイからなる表示部352とが接続されている。
【0022】
撮像ユニット20では、例えば発光ダイオードまたはスーパールミネッセントダイオード(SLD)などの発光素子を有する光源21から、広帯域の波長成分を含む低コヒーレンス光ビームが出射される。細胞等の試料を撮像する目的においては、入射光を試料の内部まで到達させるために、例えば近赤外線が用いられることが好ましい。
【0023】
光源21は光ファイバカプラ22を構成する光ファイバの1つである光ファイバ221に接続されており、光源21から出射される低コヒーレンス光は、光ファイバカプラ22により2つの光ファイバ222,224への光に分岐される。光ファイバ222は物体系光路を構成する。より具体的には、光ファイバ222の端部から出射される光は物体光学系23に入射する。
【0024】
物体光学系23は、コリメータレンズ231と対物レンズ232とを備えている。光ファイバ222の端部から出射される光はコリメータレンズ231を介して対物レンズ232に入射する。対物レンズ232は、光源21からの光(観察光)を光ビームとして試料に収束させる機能と、試料から出射される反射光を集光して光ファイバカプラ22に向かわせる機能とを有する。図では単一の対物レンズ232が記載されているが、複数の光学素子が組み合わされていてもよい。被撮像物からの反射光は対物レンズ232、コリメータレンズ231を介し信号光として光ファイバ222に入射する。対物レンズ232の光軸は試料容器Cの底面に直交しており、この例では光軸方向は鉛直軸方向と一致している。
【0025】
駆動部40はCPU31により制御される。すなわち、CPU31は駆動部40に制御指令を与え、これに応じて駆動部40は撮像ユニット20に所定方向への移動を行わせる。より具体的には、駆動部40は、撮像ユニット20を水平方向(XY方向)および鉛直方向(Z方向)に移動させる。撮像ユニット20の水平方向の移動により、撮像範囲が水平方向に変化する。また、撮像ユニット20の鉛直方向の移動により、対物レンズ232の光軸方向における焦点位置が、被撮像物である細胞シートSに対し変化する。
【0026】
光源21から光ファイバカプラ22に入射した光の一部は光ファイバ224を介して参照光学系24に入射する。参照光学系24は、コリメータレンズ241および参照ミラー243を備えており、これらが光ファイバ224とともに参照系光路を構成する。具体的には、光ファイバ224の端部から出射される光がコリメータレンズ241を介して参照ミラー243に入射する。参照ミラー243により反射された光は参照光として光ファイバ224に入射する。
【0027】
試料の表面もしくは内部の反射面で反射された反射光(信号光)と、参照ミラー243で反射された参照光とは光ファイバカプラ22で混合され光ファイバ226を介して光検出器26に入射する。このとき、信号光と参照光との間で位相差に起因する干渉が生じるが、干渉光の分光スペクトルは反射面の深さにより異なる。つまり、干渉光の分光スペクトルは被撮像物の深さ方向の情報を有している。したがって、干渉光を波長ごとに分光して光量を検出し、検出された干渉信号をフーリエ変換することにより、被撮像物の深さ方向における反射光強度分布を求めることができる。このような原理に基づくOCT撮像技術は、フーリエドメイン(Fourier Domain)OCT(FD-OCT)と称される。
【0028】
この実施形態の撮像ユニット20は、光ファイバ226から光検出器26に至る干渉光の光路上に分光器25が設けられている。分光器25としては、例えばプリズムを利用したもの、回折格子を利用したもの等を用いることができる。干渉光は分光器25により波長成分ごとに分光されて光検出器26に受光される。
【0029】
光検出器26が検出した干渉光に応じて光検出器26から出力される干渉信号をフーリエ変換することで、試料のうち、照明光の入射位置における深さ方向、つまりZ方向の反射光強度分布が求められる。試料容器Cに入射する光ビームをX方向に走査することで、XZ平面と平行な平面における反射光強度分布が求められ、その結果から当該平面を断面とする試料の断層画像を作成することができる。その原理は周知であるため、詳細な説明は省略する。
【0030】
また、Y方向におけるビーム入射位置を多段階に変更しながら、その都度断層画像の撮像を行うことで、試料をXZ平面と平行な断面で断層撮像した多数の断層画像を得ることができる。Y方向の走査ピッチを小さくすれば、試料の立体構造を把握するのに十分な分解能の画像データを得ることができる。このように、画像処理装置1は、被撮像物である細胞シートSの任意の断面での断面画像を作成する機能と、互いに異なる複数の断面の画像から細胞シートSの三次元像を作成する機能とを有する。なお本明細書では、撮像により得られる断層画像が細胞シートSの一の断面を含むものである場合、その断層画像を「断面画像」と称することがある。
【0031】
図2は細胞シートの構造例を模式的に示す図である。細胞シートSは、シート状に人工培養された表皮組織であり、例えば再生医療や創薬研究のための皮膚モデルとして広く用いられているものである。細胞シートSとしては、試料容器Cの底面Cbに付着させた状態のものが市販されている。
図2(a)はその断面構造を模式的に示したものである。
図2(a)に示すように、細胞シートSは試料容器Cの底面Cbに密着した状態となっており、しばしば多層構造を取る。各層の厚さにはばらつきがあり、細胞シートS全体としても厚さTにばらつきがある。
【0032】
このような厚さのばらつきは、細胞シートSのフェノタイプや培養状態の良否を表す指標となる。このため、細胞シートSの厚さ分布を非侵襲で精度よく求めるというニーズがある。本実施形態は、OCT撮像技術を用いてこのニーズに応えるものである。すなわち、本実施形態が志向するのは、細胞シートS内の各位置でその厚さTを求め、さらに
図2(b)に示すように、X方向およびY方向、つまり細胞シートSの主面に沿った方向における二次元の厚さ分布を求めることである。厚さTについては、例えば細胞シートSの主面をXY平面と略一致させて、つまりZ方向を細胞シートSの厚さ方向として、Z方向に照明光ビームを入射させて撮像を行えば、Z方向における細胞シートSのサイズとして求めることができる。以下、OCT撮像技術を用いて細胞シートSの二次元厚さ分布を求める方法について、具体的に説明する。
【0033】
図3はOCT撮像の結果から得られる三次元画像データの概念を示す図である。画像処理装置1では、被撮像物に対しZ方向に入射させた光(観察光)LiをX方向に走査しながら撮像を行うことで、XZ平面と平行な一の断面を表す画像が取得される。
図3(a)に示すように、このときの走査方向、すなわちX方向をここでは「主走査方向」と称し符号Dmを付すこととする。1つの断層画像Itは、X方向およびZ方向に沿って二次元配列された複数の画素(ピクセル)Pにより構成される。1画素分に相当する実空間上のサイズ(以下、「画素サイズ」といい符号Spを付す)は、撮像光学系23の倍率および光検出器26の分解能に依存するが、例えばその最小値を1μmとすることができる。この場合、実効的な分解能としては3μm程度が得られる。
【0034】
光Liの入射位置を、主走査方向Dmに直交する副走査方向Ds(この例ではY方向)に所定の送りピッチPfで変化させながら、その都度断層撮像を行うことで、Y方向に互いに位置の異なる複数の断層画像Itが得られる。ここで、送りピッチPfを画素サイズSpと同等としておけば、
図3(b)に示すように、二次元画像である各断層画像Itの画素Pを、画素サイズが同等な三次元空間における画素(ボクセル)Bとみなすことができる。このようにして、複数の断層画像Itから三次元像を構成することができる。これにより、被撮像物の三次元構造を把握することが可能となる。
【0035】
細胞シートSの二次元厚さ分布は、細胞シートSの全体を断層撮像した結果からその三次元構造を解析することにより求めることが可能である。しかしながら、細胞シートSの平面サイズは代表的には数mm程度であり、これはOCT撮像で撮像可能な断層画像のサイズに比べて十分に大きい。そのため、上記のように各断層画像の画素サイズと同程度の送りピッチPfで撮像を行ったのでは、全体を撮像するのに長時間を要することとなる。
【0036】
そこでこの実施形態では、
図3(c)に示すように、各断層画像Itにおける画素サイズSpを維持したままY方向における送りピッチPfを画素サイズSpよりも大きくすることで、撮像に要する時間の短縮が図られている。例えば、送りピッチPfを画素サイズSpの整数倍とすることができる。これによりY方向の分解能が低下することになるから、二次元厚さ分布の計測誤差を抑えるための方策が必要となる。例えば以下のようにすることができる。
【0037】
図4は本実施形態における二次元厚さ分布測定の原理を説明する図である。
図3(c)に示すようにY方向に大きな送りピッチPfで断層撮像を行い、各断層画像It内でそれぞれ厚さ分布を求める。そうすると、
図4(a)に示すように、Y方向の各位置でX方向における厚さの変化を表す厚さ分布曲線C1~C4が求められる。X方向には高い分解能で各位置の厚さ情報が求められる一方、Y方向においては厚さ情報は離散的である。
【0038】
そこで、各断層画像Itから得られた厚さ情報をX方向およびY方向に補間することとする。
図4(b)において厚さ分布を示す曲線のうち、実線は取得された断層画像から直接求められた厚さ分布を、点線はその結果から補間により求められる厚さ分布を表している。この補間を如何に精度よく行えるかにより、厚さ分布の算出精度が左右される。送りピッチPfの大きさと補間の精度との間にはトレードオフの関係があるため、送りピッチPfについては適切に設定される必要がある。その設定方法の例については後に詳しく説明する。
【0039】
上記の原理説明では、XZ平面内で精度よく求められる一方でY方向には粗い一次元の厚さ分布から、X方向およびY方向への補間を行おうとしている。この場合、実際にはY方向のみの補間となることから、X方向における補間の精度はY方向よりも低くなってしまう。これを補うためには、主走査方向と副走査方向とを入れ替えて、YZ平面における厚さ情報があるとよい。
【0040】
図5は主走査方向と副走査方向とを入れ替えた例を示す図である。ここでは主走査方向DmをY方向として、YZ平面と平行な断面についての断層画像Itが取得される。これにより、Y方向における厚さ情報を高い分解能であることができる。副走査方向DsであるX方向には、比較的粗い送りピッチPfで光の入射位置が変更される。したがって、断層画像Itがない領域では、Y方向における厚さ変化を表す情報が不足することになる。
【0041】
X方向を主走査方向Dmとした撮像結果と、Y方向を主走査方向Dmとした結果とを組み合わせれば、二次元の厚さ分布をより精度よく求めることが可能である。すなわち、
図5(b)に示すように、実線で示されるメッシュ上の各位置においては厚さが精度よく求められており、それらの情報を用いて
図5(b)に点線で示すようにメッシュ内を補間することにより、単に一次元の厚さ分布から補間を行うよりも高精度に二次元の厚さ分布を求めることができる。
【0042】
このように、原理的にはX方向、Y方向のいずれか一方を主走査方向Dmとし、他方を副走査方向Dsとした撮像により両方向で厚さ分布の補間を行うことは可能であるが、より高精度な補間を行うためには、X方向とY方向との間で主走査方向Dmと副走査方向Dsとを入れ替えて撮像を行い、それらの撮像結果を用いて補間を行うことが望ましい。X方向とY方向とで送りピッチPfが同一である必要は必ずしもないが、撮像対象物が特に異方性を有するものでなければ、それらのピッチを異ならせる必然性もない。
【0043】
主走査方向と副走査方向との入れ替えについては、例えば観察光Liの走査方向とピッチ送り方向とをともに変化させるものであってもよく、また撮像ユニット20または撮像対象物を鉛直軸回りに90度回転させるものであってもよい。
【0044】
図6は本実施形態における細胞シートの厚さ分布の算出処理を示すフローチャートである。この処理は、CPU31が予め用意された制御プログラムを実行して、装置各部に所定の動作を行わせることにより実現される。なお、以下では必要のない限り特に区別しないが、撮像時にX方向、Y方向の一方のみを主走査方向Dmとする場合であっても、それらを順番に主走査方向Dmとする場合であっても、処理の流れは同じである。また、細胞シートSが複層構造を有している場合、個々の層を区別した上で下記の処理を実行して層ごとの厚さ分布を個別に求めてもよいし、それらを一体のものとみなして全体の厚さ分布を求めてもよい。
【0045】
最初に、撮像時の送りピッチPfが設定される(ステップS101~S103)。まず送りピッチPfを自動設定するか手動設定するかに関する指示入力をユーザから受け付ける(ステップS101)。ユーザが自動設定を選択した場合には(ステップS101においてYES)、後述するピッチ決定処理が実行される(ステップS102)。そうでなければ、ユーザからピッチ指定を受け付ける(ステップS103)。この場合のピッチ指定は、例えばデフォルト値を選択するものでもよく、また数値が入力される形態でもよい。デフォルト値については、例えば細胞のサイズと同等の数値として10μm程度とすることができる。
【0046】
こうして自動または手動で設定された送りピッチPfで断層撮像が行われる(ステップS104)。前記した通り、撮像における主走査方向Dmは、X方向、Y方向のうち一方であってもよく、両方であってもよい。
【0047】
撮像により得られた、個々の断面を表す断面画像のそれぞれから、細胞シートSに対応する領域が抽出される(ステップS105)。領域の抽出は、例えば画像中の各画素の輝度について適宜の閾値を予め設定しておき、輝度値が所定の範囲内にある領域を、細胞シートSの領域とみなすことにより行うことができる。また例えば、断層画像に現れる細胞シートSの各層や培地M、試料容器Cの形態的特徴を用いて予め機械学習させた適宜の分類アルゴリズムにより、これらの各構造物を識別するようにしてもよい。例えばディープラーニングによるセマンティックセグメンテーション法は、このような目的に好適なものである。その具体的な処理については公知であるので説明を省略する。
【0048】
各断面画像から厚さの計測対象である細胞シートSの領域が抽出されると、次に当該断面における細胞シートSの厚さ分布(一次元厚さ分布)が求められる(ステップS106)。各位置での厚さについては、例えば抽出された細胞シートSの領域がZ方向において連続する長さに基づき算出することができる。こうして求められた一次元の厚さ分布を表すデータを用いて、データのない位置の厚さ情報を補間することで、二次元の厚さ分布が求められる(ステップS107)。補間方法としては各種の公知技術を用いることができ、例えばスプライン補間を好適に適用することができる。
【0049】
X方向とY方向とで主走査方向Dmと副走査方向Dsとを入れ替えて撮像を行うケースでは、二次元厚さ分布を求める方法として2つが考えられる。第1の方法は、X方向、Y方向それぞれで個別に補間を行うことにより求めた厚さ分布の平均を求める方法である。第2の方法は、X方向とY方向とで求められた一次元厚さ分布を総合し二次元スプライン補間等の二次元補間により厚さ分布を求める方法である。
【0050】
ここまでで細胞シートSの二次元厚さ分布を求めるという目的は達成されている。以下はこれをユーザに提示する方法の一例である。求められた細胞シートSの二次元厚さ分布については、例えば
図2(b)に示すようなメッシュパターンによって表すことが可能である。この他、次に説明するように、厚さを輝度に置き換えた二次元マップにより厚さ分布を表すことも可能である。
【0051】
すなわち、補間により求められた各位置の厚さを、当該位置の画素に与える輝度値に換算する(ステップS109)。厚さに比例するような輝度値への換算であってもよく、また厚さを多段階の輝度値に置き換えてもよい。また、厚さを色により表してもよい。こうして厚さに対応する輝度値が与えられた画素を二次元画像平面上の対応する位置に配置することにより、厚さ分布を輝度値で表した二次元マップを作成することができる(ステップS109)。これを例えば表示部352に表示させることにより(ステップS110)、二次元の厚さ分布を可視化してユーザに提示することができる。
【0052】
次に、ステップS102として実行されるピッチ決定処理について説明する。この処理は、厚さ分布の算出精度とのトレードオフの制約の中で撮像対象物に応じて送りピッチPfを最適化するための処理である。この処理は、CPU31が予め用意された制御プログラムを実行して、装置各部に所定の動作を行わせることにより実現される。
【0053】
図7はピッチ決定処理を示すフローチャートである。最初に、細胞シートSのうち一部領域を、標準ピッチで断層撮像する(ステップS201)。このときの各断層画像を本明細書では「部分断層画像」と称する。「標準ピッチ」は、撮像対象物の三次元像を得るための通常の断層撮像における送りピッチであり、その大きさは画素サイズ(例えば1μm)に相当する。細胞シートSの全体を標準ピッチで撮像するには長い時間を要するが、ここでは撮像範囲が狭いため比較的短くて済む。例えばX方向およびY方向にそれぞれ100μm程度の領域を撮像範囲とすることができる。
【0054】
画像処理装置1において、撮像における分解能(またはボクセルサイズ)の変更設定が可能である場合には、少なくとも細胞のサイズよりも小さいボクセルサイズに対応する送りピッチが標準ピッチとされることが望ましい。例えば最も高分解能の(つまりボクセルサイズが最小の)撮像モードを使用することができる。
【0055】
この場合においても、X方向およびY方向のいずれか一方のみを主走査方向Dmとして撮像を行ってもよく、また主走査方向と副走査方向とを入れ替えてそれぞれで撮像を行ってもよい。
【0056】
そして、上記した二次元厚さ分布の算出処理と同様にして、撮像された各断面画像(部分断層画像)から細胞シートSが占める領域が抽出される(ステップS202)。また、抽出された細胞シートSの領域について、断面画像内での一次元厚さ分布が求められる(ステップS203)。
【0057】
こうして標準ピッチで取得された各断面の一次元厚さ分布のデータを、ピッチ送り方向に一定の比率で間引く。その上で、間引きにより失われた厚さデータを補間により求め、間引き前の原データと比較して誤差を算出する。これを、種々の間引き率で実行する(ステップS204)。
【0058】
図8は間引きおよび補間のプロセスを例示する図である。
図8(a)に示すように標準ピッチPsで取得された一次元厚さ分布を一定の比率で間引くことで、
図8(b)に示すように互いにより離散した一次元厚さ分布が得られる。この例ではピッチ送り方向がY方向であるので、間引きによりY方向の間隔が大きくなる。
【0059】
これに対し補間処理を行うことで、
図8(c)に示すように、間引かれたデータの復元を試みる。このときの誤差が小さければ、当該間引きが二次元厚さ分布の算出精度に大きな影響を与えないと言える。つまり、間引き後の間隔Ptを撮像時の送りピッチPfとすることで、十分な精度で二次元厚さ分布を求めることができると言える。
【0060】
図9は間引き率と誤差との関係を示すグラフである。
図9(a)~
図9(c)において、横軸は標準ピッチを1μmとして間引き率を(1/2),(1/3),…と変化させたときの間引き後の間隔Ptを表している。送りピッチ1μmで撮像された画像を例えば間引き率(1/2)、(1/3)で間引くと、間引き後の画像間の間隔Ptはそれぞれ2μm、3μmとなる。つまりここでいう間引き率(1/N)の間引きとは、N枚の画像ごとに1枚を抽出することを意味する。したがって間引きの程度が大きいほど間引き率の数値としては小さくなる。なお、本実施形態では間引きの程度を種々に変えて評価を行うことが主眼であり、間引き率の定義に拘るものではない。
【0061】
図9(a)の縦軸は、補間後の厚さと間引き前の原データにおける厚さとの平均二乗誤差(Mean Square Error;MSE)を表している。間引きの程度が大きくなるにつれてデータの欠落が多くなるため誤差は単調に増加する。ただし増加度合いは線形ではなく、中間部にその前後より誤差の増加率が緩やかな領域があることがわかる。
【0062】
この誤差の変化を適宜の多項式で近似し(ステップS205)、これを微分すると、
図9(b)に示すように、誤差の増加が緩やかな領域で微分値は極小値を取る。送りピッチPfの最適値を求める第1の方法では、このときの間引き率を厚さ分布算出時の撮像における送りピッチPfとする(ステップS206)。こうすれば、送りピッチの拡大による撮像時間の短縮を図りながら、厚さ情報の損失を最小限に抑えることができると考えられる。この例では、間引き後の間隔が約7.1μmのとき極小値となるので、送りピッチPfをこの値(あるいは7μmに丸めた値)とすればよいこととなる。
【0063】
一方、送りピッチPfの最適値を求める第2の方法として、
図9(c)に示すように、MSEの算出結果を2本の回帰直線によって近似し、その交点を求めることが考えられる(ステップS207)。これは、間引きの程度が小さければ元の情報が比較的よく維持されているため誤差も比較的小さいが、間引きの程度が大きくなり個々の細胞に起因する情報が失われるようにと急激に誤差が多くなるという特徴を想定したものである。この例では、回帰直線の交点は、間引き後の間隔にして約17μmの位置にある。
【0064】
ここで、撮像時の送りピッチPfが大きいほど撮像時間は短くなり、補間の誤差は大きくなる。逆に、撮像時の送りピッチPfが小さければ撮像時間は長くなるが、補間の誤差は小さくなる。したがって、上記2つの方法で求められた送りピッチPfの最適値のうち値の大きい方は処理速度(所要時間)を優先する場合の最適値、値の小さい方は補間の精度を優先するときの最適値であると言える。
【0065】
実際の処理においては、いずれを優先するかは処理の目的に依存する。そこで、例えば2つの方法で最適値をそれぞれ算出し、それらを最適な設定値の候補としてユーザに提示して、両値の間の範囲でユーザに設定値を選ばせるようにすることができる。このようにして決定された送りピッチPfの値が、細胞シートS全体の二次元厚さ分布を求める際の撮像に適用される値として設定される(ステップS208)。
【0066】
主走査方向と副走査方向とを入れ替えて撮像を行うケースにおいては、X方向とY方向とで同一の間引き率を適用することで、上記した間引き率と誤差との関係を導き出すことができる。そして、同様に最適値を求めることが可能である。異なる2つの方向にピッチ送りを行って撮像することにより、一方向のピッチ送りの場合よりも粗い間引きでも厚さ分布の算出精度の低下を抑えることができる場合がある。
【0067】
なお、細胞シートSを構成する細胞のサイズは代表的に例えば10μm程度であるから、これよりも大きい送りピッチPfでは、個々の細胞に起因する厚さ変化に関する情報が失われ、補間の精度が著しく低下すると考えられる。このことから、送りピッチPfの上限値を予め定めておき、算出された最適値にかかわらず、上限値を超えない範囲で送りピッチPfを設定するようにしてもよい。
【0068】
また、多層構造の細胞シートSについて層ごとに厚さ分布を求めるケースでは、各層につき上記2つの算出方法でそれぞれ最適値の候補を算出する。そして、各層につき第1の算出方法で算出された複数の候補値のうちの最小値を、第1の方法による最適値の候補とする。また、第2の算出方法で算出された複数の候補値のうちの最小値を、第2の方法による最適値の候補とする。そして、これらの最適値の候補を提示してユーザに最終的な設定値を決定させればよい。
【0069】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態ではインサートウェルのような試料容器Cの底面に付着した状態の細胞シートSの厚さ分布を評価しているが、細胞シートSの支持態様はこれに限定されず任意である。また、細胞シートSの他に、例えば容器壁面で接着培養された試料の厚さを評価する目的にも、この方法を利用することが可能である。
【0070】
また例えば、上記実施形態では、算出された細胞シートの二次元厚さ分布を二次元マップとしてユーザに提示することとしているが、求められた二次元厚さ分布の利用態様はこれに限定されない。例えば厚さ分布を適宜の統計的手法により処理してばらつきを評価するといった目的に利用可能である。
【0071】
また例えば、上記実施形態では、厚さ分布計測時の送りピッチPfをユーザ設定とするかピッチ決定処理による自動設定とするかが選択可能であるが、例えば同種の試料について過去に実行されたピッチ決定処理の結果を利用することができるようにしてもよい。また、複数の同種試料について評価を行うのに際して、個々の試料ごとにピッチ設定を行う必要は必ずしもなく、例えば最初の試料について設定された送りピッチを他の試料にも適用するようにしてもよい。
【0072】
また例えば、ピッチ決定処理における部分断層画像の撮像は、細胞シートS内の複数箇所で実行されてもよい。このようにすれば、局所的な厚さの異常が細胞シートS全体の評価結果に影響を与えるのを抑制することができる。
【0073】
また例えば、ピッチ決定処理において、補間後の厚さ分布と実測された厚さ分布との誤差を用いて送りピッチを決定する方法は上記に限定されず、例えば許容される誤差の大きさを予め定めておき、その許容誤差を超えない範囲でできるだけ大きな送りピッチを採用する、という方法が考えられる。
【0074】
また、上記実施形態は、広範囲の波長成分を含む観察光を用いて波長ごとの干渉の強さから深さ方向の反射光強度分布を求める、いわゆるフーリエドメインOCT撮像装置である。しかしながら、本発明は、これ以外にも例えばタイムドメイン(Time Domain)OCT撮像装置のように、OCT撮像原理を用いて断層撮像を行う各種の撮像装置に対して適用可能である。
【0075】
また、上記実施形態の制御ユニット30としては、パーソナルコンピュータやワークステーション等の一般的な構成の汎用処理装置を用いることも可能である。すなわち、撮像ユニット20、駆動部40およびこれらの動作させるための最小限の制御機能を有する撮像装置と、上記処理内容を記述した制御プログラムを実行することで制御ユニット30として機能するパーソナルコンピュータ等との組み合わせにより、画像処理装置1が構成されてもよい。
【0076】
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明に係る細胞シートの評価方法においては、細胞シートの一部について、送りピッチよりも小さい間隔で光の入射位置を副走査方向に移動させて複数の部分断層画像を撮像し、それに基づき対応する断面における細胞シートの一次元厚さ分布を求め、その結果に基づき送りピッチを設定する工程をさらに備えてもよい。このような構成によれば、実際の細胞シートにおける厚さの変動態様を加味して送りピッチを決定することができるので、評価結果の精度向上を図ることができる。
【0077】
より具体的には、例えば、撮像された部分断層画像を副走査方向に一定の比率で間引き、間引き後の部分断層画像における細胞シートの一次元厚さ分布を副走査方向に補間することにより得られた厚さと、間引きによって除外された部分断層画像から求められた厚さとの誤差に基づき送りピッチを設定することができる。間引きによるデータ欠落に起因して、補間された値と実測された値との誤差が大きくなると予想される。このことから、その誤差の大きさを評価しつつ送りピッチを設定するようにすれば、厚さ分布算出における誤差を所定範囲に抑えつつ、撮像に要する時間の短縮を図ることができる。
【0078】
この場合さらに、間引きの比率を変数としたときの誤差を表す近似曲線を求め、その微分値が極小となるときの、間引き後の部分断層画像の副走査方向における間隔を送りピッチとすることができる。あるいは、間引きの比率を変数としたときの誤差を、間引き後の部分断層画像の副走査方向における間隔が大きい側と小さい側とに対応する2本の回帰直線によって近似し、その交点に対応する間隔を送りピッチとすることができる。本願発明者の知見によれば、これらの方法によって、撮像時間の短縮と厚さ分布の算出精度とを両立することのできる送りピッチの値を導出することが可能である。
【0079】
また例えば、送りピッチを決定するのに際しては、主走査方向と副走査方向とを入れ替えてその前後で部分断層画像を撮像するようにしてもよい。こうすることにより、一の方向だけの評価によるよりも、より適切に送りピッチを決定することが可能になる。
【0080】
同様に、細胞シートの二次元厚さ分布を求めるのに際しては、主走査方向と副走査方向とを入れ替えた断層画像をさらに撮像し、それぞれの断層画像について求めた一次元厚さ分布を二次元補間して二次元厚さ分布を求めるようにしてもよい。こうすることで、補間の精度をより向上させて、二次元厚さ分布の算出における精度も向上させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
この発明は、人工的に培養された細胞シートの厚さ分布を評価する目的に好適に適用可能であり、例えば再生医療や創薬研究等の分野に好適である。
【符号の説明】
【0082】
1 画像処理装置
Dm 主走査方向
Ds 副走査方向
It 断層画像
S 細胞シート