(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】剛性の変化に基づいて物体を選択的に保持及び解放する移送要素
(51)【国際特許分類】
H01L 21/677 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
H01L21/68 A
(21)【出願番号】P 2020179891
(22)【出願日】2020-10-27
【審査請求日】2023-10-27
(32)【優先日】2019-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504407000
【氏名又は名称】パロ アルト リサーチ センター,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】ヨンダ・ワン
(72)【発明者】
【氏名】チョンピン・ル
(72)【発明者】
【氏名】チャン・ワン
(72)【発明者】
【氏名】ノーリン・イー.・チャン
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-332184(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0294387(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0219702(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0035049(US,A1)
【文献】特開2001-088454(JP,A)
【文献】特表2016-506438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/677
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置であって、
2つ以上の移送要素を備える移送基板であって、前記移送要素のそれぞれが、
より低い温度でより高いヤング率及びより高い温度でより低いヤング率を有する、ステアリルアクリレートを含む接着要素、並びに
入力に応じて前記接着要素の動作温度を変化させるように動作可能な加熱要素、を含む、移送基板と、
前記2つ以上の移送要素の各加熱要素への前記入力を提供して、少なくとも前記高い温度と前記低い温度との間で温度変化を引き起こすように結合されたコントローラであって、前記温度変化により、前記移送要素のより高いヤング率とより低いヤング率との間の変化に応じて、反復可能かつ可逆的に、前記2つ以上の移送要素が物体を選択的に保持し前記移送基板から前記物体を解放する、装置。
【請求項2】
前記移送基板が、ガラス及び炭化ケイ素のうちの1つ以上を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記物体が、サブミリメートルの電子デバイスを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記接着要素が、ウレタンジアクリレート、及び前記ステアリルアクリレートを含有するコポリマーから形成される、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記加熱要素が、抵抗加熱要素を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記コントローラに結合され、前記加熱要素のそれぞれを独立して能動的にするように構成された複数の能動電子部品を更に備える、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記能動電子部品がダイオードを含み、各加熱要素が、前記ダイオードのうちの1つに接続された少なくとも1つの端部を有する、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記能動電子部品が薄膜トランジスタを含み、各加熱要素が、前記薄膜トランジスタのうちの1つのドレイン又はソースに接続された少なくとも1つの端部を有する、請求項6に記載の装置。
【請求項9】
前記物体が、前記移送基板に面する平面表面を有するGaNマイクロ発光ダイオード(LED)チップを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記GaNマイクロLEDチップが、前記平面表面の上方に延在する突出部を含む、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記突出部の最高点が、前記平面表面の上方に1μm~20μmである、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記突出部が、シリコン、GaN、SiO2、SiN、金属、SU8、ポリイミド、又は他のポリマーのうちの少なくとも1つで作製されている、請求項10に記載の装置。
【請求項13】
方法であって、
第1の入力を移送基板上の複数の移送要素に適用することであって、前記複数の移送要素のそれぞれが、より低い温度でより高いヤング率及びより高い温度でより低いヤング率を有し、前記第1の入力により、前記複数の移送要素が前記より高い温度以上になり、前記移送要素はステアリルアクリレートから形成される、適用することと、
前記複数の移送要素を、前記より高い温度以上でドナー基板上のそれぞれの複数の物体に接触させることと、
前記複数の物体と接触している間に、前記複数の移送要素を前記より低い温度以下に冷却し、前記複数の移送要素が前記それぞれの複数の物体を保持するようにすることと、
前記ドナー基板及び前記移送基板のうちの一方又は両方を前記ドナー基板から持ち上げることを容易にするように移動させることと、
前記移送基板上の前記複数の物体をターゲット基板に接触させることと、
前記複数の移送要素を前記より高い温度に加熱して前記複数の物体を解放し、前記複数の物体を前記移送基板から前記ターゲット基板に移送することと、を含む、方法。
【請求項14】
前記移送要素を前記物体に接触させることは、前記移送基板上の第2の複数の移送要素を、前記ドナー基板上の第2の複数の物体に接触させることを含み、更に、前記第2の複数の移送要素は、前記第2の複数の物体が前記移送基板に接着せず、前記移送基板と共に移動しないように、前記より高い温度未満である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記より高い温度が、30℃~65℃であり、前記より低い温度が、0℃~30℃であり、前記より高い及び前記より低い温度が、前記より高いヤング率と前記より低いヤング率の間の20℃未満の相変化温度範囲に関連する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記物体が、前記移送基板に面する平面表面を有するGaNマイクロ発光ダイオード(LED)チップを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記GaNマイクロLEDチップが、前記平面表面の上方に延在する1つ以上の突出部を含み、前記突出部の最高点が、前記平面表面の上方に1μm~20μmである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記突出部が、シリコン、GaN、SiO2、SiN、金属、SU8、ポリイミド、又は他のポリマーのうちの少なくとも1つで作製される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
装置であって、
2つ以上の移送要素を備える移送基板であって、前記移送要素のそれぞれが、
より低い温度でより高いヤング率及びより高い温度でより低いヤング率を有し、前記より低い温度と前記より高い温度の間の転移が50℃未満で発生し、前記より高い及び前記より低い温度に関連する相変化温度範囲が20℃未満である、接着要素、並びに
入力に応じて前記接着要素の動作温度を変化させるように動作可能な加熱要素、を備える移送基板と、
前記2つ以上の移送要素の前記加熱要素に前記入力を選択的に提供して、少なくとも前記より高い温度と前記低い温度との間の変化に応じて、前記移送要素のサブセットに物体の対応するサブセットをドナー基板から選択的に保持し持ち上げさせるように結合されたコントローラと、
前記ドナー基板及び前記移送基板の一方又は両方を移動させて、前記物体のサブセットを前記ドナー基板から持ち上げることを容易にし、前記移送基板上の前記物体のサブセットがターゲット基板に接触するように構成された1つ以上のアクチュエータと、を備え、
前記コントローラは、前記移送要素の前記サブセットを前記より高い温度に加熱して前記物体のサブセットを解放し、前記物体のサブセットを前記移送基板から前記ターゲット基板に移送し、前記移送要素のサブセットによる前記物体のサブセットの前記選択可能な保持と解放は反復可能かつ可逆的である、
装置。
【請求項20】
前記物体のサブセットはヤング率2MPa未満を有する1つ以上の材料を含む保持層上に配置され、前記保持層が、ポリジメチルシロキサン及びシリコーンゲルのうちの少なくとも1つで作製されており、1μm~100μmの厚さである、請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記より高いヤング率が、前記より低い温度で6MPaを超え、前記より高い温度で1MPa未満である、請求項19に記載の装置。
【請求項22】
前記接着要素が、ウレタンジアクリレート、ステアリルアクリレート、ポリ(ノルボルネン)、ポリ(ウレタン)及びポリ(スチレン-ブタジエン)のうちの少なくとも1つを含有するコポリマーから形成される、請求項19に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0001】
本開示は、選択可能な急な剛性から軟質への転移を伴う選択可能な表面接着要素を対象とする。一実施形態では、装置は、2つ以上の移送要素を有する移送基板を含む。各移送要素は、より低い温度でより高いヤング率及びより高い温度でより低いヤング率を有する接着要素を含む。装置は、入力に応じて接着要素の動作温度を変化させるように動作可能な加熱要素を含む。コントローラは、2つ以上の移送要素の加熱要素への入力を提供して、少なくとも高温と低温との間での温度変化をもたらす。この温度変化により、移送要素のより高いヤング率とより低いヤング率との間の変化に応じて、移送要素が物体を選択的に保持し、移送基板から物体を解放する。
【0002】
別の実施形態では、方法は、移送基板上の複数の移送要素に第1の入力を適用することを含む。複数の移送要素のそれぞれは、より低い温度でより高いヤング率、及びより高い温度でより低いヤング率を有する。第1の入力により、移送要素のサブセットは、より高い温度以上となる。移送要素は、より高い温度以上で、ドナー基板上のそれぞれの複数の物体に接触させられる。移送要素は、複数の物体と接触している間、より低い温度以下に冷却される。移送基板は、ドナー基板から離れて移動し、物体のサブセットは、移送要素のサブセットに接着し、移送基板と共に移動する。移送基板上の物体は、ターゲット基板と、移送基板からターゲット基板に移送される物体のサブセットとに接触させられる。
【0003】
別の実施形態では、システムは、ポリジメチルシロキサン及びシリコーンゲルのうちの1つ以上を含む保持層上に配置された複数の物体を有するドナー基板を含む。移送基板は、2つ以上の移送要素を有する。各移送要素は、より低い温度でより高いヤング率及びより高い温度でより低いヤング率を有する接着要素を含む。各移送要素は、入力に応じて接着要素の動作温度を変化させるように動作可能な加熱要素を有する。コントローラは、少なくとも高温と低温との間の変化に応じて、移送要素のサブセットがドナー基板から物体を選択的に持ち上げるように、2つ以上の移送要素の加熱要素に入力を選択的に提供するように結合される。システムは、ドナー基板及び移送基板の一方又は両方を移動させて、物体をドナー基板から持ち上げることを容易にするように構成された1つ以上のアクチュエータを含む。
【0004】
様々な実施形態のこれら及び他の特徴及び態様は、以下の詳細な説明及び添付の図面を考慮して理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0005】
下記議論は、以下の図を参照し、同じ参照番号は、複数の図において類似の/同じ構成要素を識別するために使用される場合がある。図面は必ずしも縮尺どおりではない。
【0006】
【
図1】例示的な実施形態によるアセンブリプロセスを示すブロック図である。
【
図2】例示的な実施形態によるアセンブリプロセスを示すブロック図である。
【0007】
【
図3】例示的な実施形態による装置の側面図である。
【0008】
【
図4】例示的実施形態による移送基板のためのスイッチングマトリクスの概略図である。
【
図5】例示的実施形態による移送基板のためのスイッチングマトリクスの概略図である。
【0009】
【
図6】例示的な実施形態による移送基板の側面図である。
【0010】
【
図7】様々な例示的な実施形態による移送基板の側面図である。
【
図8】様々な例示的な実施形態による移送基板の側面図である。
【0011】
【0012】
【
図10】例示的な実施形態による移送可能な物体上の突出部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は、物体の操作及びアセンブリに関するものであり、いくつかの実施形態では、移送基板を介した微小物体の大規模アセンブリに関する。いくつかの電子デバイスは、小さな物体を互いの上に機械的に重ね合わせることによって製作される。微小電子工学及び微小光学構成要素は、層堆積、マスキング、及びエッチングなどのウェハ形成技術を使用して製造される場合があるが、特定のクラスの材料は、互いに成長互換性ではない。このような場合、アセンブリは、第1の基板上に1つのクラスのデバイスを形成することと、第2の基板上に第2のクラスのデバイスを形成することと、その後、例えば、フリップチップ又は転写印刷技術を介して、それらを機械的に接合することとを含んでもよい。
【0014】
本明細書に記載される態様は、個々の微小物体の高位置登録を維持しながら、ドナー基板から別の基板に多数の微小物体(例えば、粒子、チップレット、小型/マイクロLEDダイ)を平行に移送することができるシステムに関する。このシステムにより、移送基板から微小物体を選択的に移送することと、微小物体を宛先又はターゲット基板に選択的に配置することとができる。このシステムは、マイクロLEDディスプレイなどのデバイスを組み立てるために使用されてもよい。
【0015】
一般的に、マイクロLEDディスプレイは、個々の移送要素を形成する微視的LEDのアレイで作製される。OLEDディスプレイ及びマイクロLEDディスプレイの両方は、従来のLCDシステムと比較して、大幅に低減されたエネルギー要件を提供する。OLEDとは異なり、マイクロLEDは、従来のGaN LED技術に基づくものであり、これは、OLEDが生成するものよりも高い総輝度のみならず、単位出力発光に関してより高い効率を提供する。これはまた、OLEDのより短い寿命に悩まされない。
【0016】
マイクロLEDを利用する単一の4Kテレビは、次に組み立てられる必要がある約2500万の小型LEDサブピクセルを有する。チップレットの大量移送は、マイクロLED製造に使用され得る1つの技術である。高収率でマイクロLEDをターゲットバックプレーンに迅速かつ正確に移送させることは、マイクロLEDが実現可能な大量市場製品であるために、製造業者が完璧な必要がある技術のうちの1つである。以下に記載される技術は、マイクロLED製造のみならず、多数の(典型的には)小さい物体を一度に移動させる必要があり、かつ、そのようなデバイスのサブセットを移送媒体に及び/又は移送媒体から選択的に移動させることが必要であり得る他のアセンブリ手順に使用することができる。このような微小物体としては、インク、予め堆積された金属フィルム、シリコンチップ、集積回路チップ、ビーズ、マイクロLEDダイ、微小電気機械システム(MEMS)構造、及び任意の他の既製の微小構造を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0017】
任意のパターンでチップレットを選択的に移送することが可能であることは、マイクロLEDディスプレイ製造のための有効な移送プロセス、ピクセル修復、孔/空孔再充填を容易にするのに有用であり、これは、高いプロセス収率をもたらす。エラストマースタンプは、この種類の用途のための微小スケールのLEDチップを決定的に移送するために使用されてきた。しかしながら、エラストマースタンプは、固定パターンを有し、チップレットの任意のパターンを移送することができない。必然的に、チップレットの一部のサブセットは不良になり、したがって、そのようなスタンプを使用してそれらのいくつかの選択を置き換えることは困難になる。
【0018】
図1及び2では、例示的な実施形態によるデバイス、システム、及び方法を使用して達成することができるアセンブリプロセスの例を示す。
図1では、基板100上に成長又は配置した可能性があるチップレット101のアレイを含むドナーウェハ/基板100が示されている。アレイ101内の陰影付きチップレットは不良であると識別されており、チップレットがターゲット基板102に移送されると、チップレットアレイのサブセット101a、すなわち、陰影付けられていない良好なチップレットのみが移送される。これは、特定されると、ドナー基板100からサブセット101aのみを選択的にピックアップすることができる、
図2に示すような移送基板200によって達成され得る。
図2に示されるように、移送基板202はその後、(例えば、異なるドナー基板から)チップレット200の第2のセットをピックアップする。セット200内のチップレットの位置は、第1のドナー基板100上の不良チップレットの位置に対応する。移送基板202は、このセット200をターゲット基板102に移動させ、結果として、ターゲット基板102上に位置する動作チップレットの完全なセット201が得られる。
【0019】
本開示は、とりわけ、微小物体のサブセットを選択的に保持することができる1組の移送要素(例えば、移送ピクセル)を有する移送基板に関する。したがって、全ての移送要素がサブセットよりも大きい微小物体のアレイと接触している場合であっても、サブセットのみが接着及び移送され、サブセットの外側の物体は、取り残されるか、又はさもなければ影響を受けない。同様に、移送要素の全てが微小物体を現在保持していても、サブセットのみがターゲットに移送されるように、移送基板は、基板に現在取り付けられている微小物体のサブセットを選択的に解放することができ得る。このプロセスは、物体の選択的な保持又は解放に影響を及ぼす恒久的な結合が必要とされないように、反復可能かつ可逆的である。
【0020】
図3の側面図は、例示的な実施形態による装置300の詳細を示す。装置は、2つ以上の移送要素304を有する移送基板302を含む。移送要素304は、剛性を変化させるために選択的に作製することができ、これは、要素が作製される材料のヤング率として表すことができる。ヤング率は、線状弾性レジームの材料におけるひずみ(比例変形)で割った応力(単位面積当たりの力)の尺度である。一般に、より高いヤング率(応力σに対するより低いひずみ)を有する材料は、より低いヤング率(同じσに対するより高いひずみ)を有する材料よりも剛性である。また、材料の動的性能も考慮する貯蔵弾性率などの材料の剛性を表すために他の尺度を使用してもよい。部品の性能を定義する際に機能的に同等であり得るばね定数などの部品の剛性を表すためにいくつかの尺度を使用してもよい。剛性は定義されるけれども、移送要素304は、以下に記載されるようにデバイスの移送に利用することができる温度に応じて、剛性に変化がある。
【0021】
移送要素304のそれぞれは、より低い温度で6MPaを超えるより高いヤング率、及びより高い温度で1MPa未満のより低いヤング率を有する接着要素306を含む。移送要素304のそれぞれはまた、例えば入力310を介して、入力に応じて接着要素306の温度を変化させるように動作可能な熱要素308を含む。コントローラ312は、入力310を熱要素308に提供するように結合され、それによって、移送要素304のサブセットが物体314を選択的にピックアップし、保持し、(任意選択的に)物体314を移送基板302から解放する。具体的には、物体314は、より低い温度で移送要素304に固着しないが、より高い温度で固着する。接着の信頼性を高めるために、移送要素は、移送基板302から物体314を引き離すことを試みる前に冷却されてもよい。
【0022】
装置300は、移送基板302からターゲット基板316に微小物体(例えば、1μm~1mm)を移送するために使用されるシステムである微小移送システムの一部であってもよい。接着要素306は、ステアリルアクリレート系(SA)を含有するマルチポリマーで形成されてもよい。そのような場合、より高い温度とより低い温度との間の差は、接着要素306の粘着性を調節するために20℃未満(又は他の場合では50℃未満)であってもよく、これにより、例えば、より高い温度で1MPa未満からより高い温度で6MPa超えまで、表面接着とヤング率に顕著な違いがある。システムなどの中のコントローラ312は、本明細書に記載されるように、物体の移送を容易にするために、基板間の相対運動を誘導するアクチュエータに結合されてもよい。
【0023】
熱要素308は、加熱要素及び冷却要素の一方又は両方を含んでもよい。入力310は、電気信号及び/又はレーザ光を含んでもよい。入力310は、移送要素304の総数よりもコントローラ312に進むラインが少ないように(例えば、マトリックス回路を使用して)構成されてもよい。移送要素304は、接着要素306と移送基板302との間に断熱材309を更に含んでもよい。断熱材309は、基板302への熱伝達を防止するのに役立ち、それによって接着要素306における温度変化に影響を及ぼし、応答時間を減少させるために必要なエネルギーの量を減少させる。
【0024】
一般に、移送要素304は、温度に応じてコンプライアンスを調節する(例えば、急な剛性から軟質への転移を有する)ことができる中間移送表面を形成する。このような表面を使用して、制御された及び選択可能な方法で微小物体のグループをピックアップ及び解放することができる。各移送要素304は、数マイクロメートル~数百マイクロメートルの横方向寸法Wを有し得る。各移送要素304は、1マイクロメートル未満~数百マイクロメートルの総厚さTを有し得る。移送アレイのピッチは、数マイクロメートル~数ミリメートルで変動し得る。いくつかの実施形態では、熱要素308及び絶縁層309は、互いに物理的に分離されていない連続層である。したがって、移送要素「ピクセル」は、加熱/冷却要素が個別にアドレス指定され制御され得る領域である(
図6参照)。基板302材料としては、ガラス、石英、シリコン、ポリマー、及び炭化ケイ素(SiC)が挙げられ得るが、これらに限定されない。基板302は、数十マイクロメートル~数ミリメートルの厚さ範囲、及び数ミリメートル~1メートルの横方向寸法を有してもよい。
【0025】
例示した実施形態は、2つ以上の移送要素304を示しているが、場合によっては、単一の移送要素が使用されてもよいことに留意されたい。例えば、単一の移送要素304は、ロボットアームの端部に配置されるマニピュレータの一部であってもよい。そのような構成では、単一の移送要素304を使用して、ペンチ、真空、磁気などの使用を必要とせずに物体をピックアップすることができる。他の構成では、保持される物体に過度の圧力を加える必要なく、把持を支援するために、ペンチ又は他の保持付属物の端部に1つ以上の移送要素を配置してもよい。他の実施形態と同様に、熱要素は、保持及び解放動作中の(ヤング率の変化に対応する)変化接着を増大させることができる。
【0026】
ステアリルアクリレート(SA)を含む相転移ポリマーは、接着要素に使用するための双安定電気活性ポリマー(BSEP)として研究されてきた。BSEPポリマーは、そのガラス転移温度(Tg)未満の剛性ポリマーである。Tgを超えると、破断点伸び及び高い誘電場強度を示すエラストマーとなる。電気的作動は、誘電性エラストマーとして機能するゴム状BSEPを用いてTgを超えて実施することができる。変形は、Tg未満のポリマーを冷却するときにロックされる。形状変化は、ポリマーがTgを超えて再加熱されるときに、反転させることができる。
【0027】
ステアリルアクリレート(オクタデシルアクリレート、SA)系ポリマーは、ステアリル部分の結晶状態と融解状態との間の急な相転移により、形状記憶ポリマーとして調査されてきた。ステアリル部分の結晶性凝集体の急激かつ可逆的な相転移は、温度サイクル中のポリマーの剛性状態とゴム状態との間の急速なシフトをもたらす。SAの転移は、典型的には、20℃未満の狭い相変化温度範囲を有する50℃未満である。したがって、SAは、急な剛性からゴムへの転移を付与するための理想的な構成要素である。この特性を検証するために、いくつかの予備実験が行われてきた。
【0028】
接着要素306は、ステアリルアクリレート(オクタデシルアクリレート、SA)系ポリマー、ステアリルアクリレート及びウレタンジアクリレートコポリマー、又は他の種類のポリマーを含むがこれらに限定されない材料から作製されてもよい。特に、ウレタンジアクリレート及びSAを含有するコポリマーは、これらの目的のために望ましい特性を有することが見出されている。接着要素306は、好ましくは、急な剛性から軟質への転移を有するので、接着は、温度変化によって容易に調節することができる。熱要素308は、熱電加熱/冷却要素、抵抗加熱器、ダイオードヒータ、誘導加熱要素、光学加熱要素などであり得る。熱要素308は、薄膜抵抗器、ダイオード構造、及び/又はカーボンブラック、カーボンナノチューブ、工学的ナノ粒子などの高い光学エネルギー吸収効率材料を含んでもよい。断熱材309は、ポリイミド、PDMS、パリレン、ガラス、酸化ケイ素、AlxOy、及びSxNy、並びにこれらの組み合わせなどの材料から作製されてもよい。
【0029】
一実施形態では、移送基板302は、能動電子部品アレイを含有し、熱要素308は、グリッド内でそれらと相互接続されてもよい。これは、
図4及び5に概略的に示されている。
図4に示されるようなダイオード又は
図5に示すトランジスタによって、熱要素の2Dアレイ(これらの実施例では抵抗器)を制御することができる。
図4に示す実施形態では、加熱要素R1~R9は、ダイオードD1~D9のマトリックスによって制御される。これは、受動スイッチングマトリクスと称され得、これは、加熱要素をコントローラチップに接続するために必要とされる電線の数を削減する。
【0030】
この場合、加熱要素は行ごとにアドレス指定される。例えば、R1は0Vにバイアスすることができる一方で、R2及びR3は5Vにバイアスされる。C1、C2及びC3バイアス電圧は、加熱要素R1、R2又はR3がオンにされる(列が5Vにバイアスされる)か、又はオフにされる(行線が0Vにバイアスされる)かを判定する。ダイオードが電流の流れを遮断するので、他のヒータは全てオフである。選択された行のうちの全ての残りの行についてプロセスを繰り返し、0Vにバイアスし、他の行は全て5Vにバイアスされる。熱要素の熱的時間定数は、2D走査の「フレームレート」よりも長く設計されて、各アドレス指定可能な移送のために準一定温度が維持されることを確保する。
【0031】
図5の概略図は、熱要素がダイオードの代わりにトランジスタ(例えば、薄膜トランジスタ、又はTFT)によって制御される別の回路を示し、これは「アクティブマトリクススイッチング」と呼ばれる場合がある。各熱要素は、TFTのうちの1つのドレイン又はソースに接続された少なくとも1つの端部を有する。トランジスタを使用する利点は、より大きな電圧範囲及びより良好な絶縁が達成され得ることである。この場合、選択されない全ての行は、トランジスタをオフにするために、例えば-5Vにバイアスされる。ある行が選択されると、行線は、トランジスタをオンにするために、例えば20Vにバイアスされる。列線を特定の電圧にバイアスすることにより、選択された行の対応する加熱要素を所望の温度まで加熱することが可能になる。
図4の実施形態と同様に、他の行の残りについて、プロセスを繰り返す。
【0032】
図6の側面図は、別の例示的な実施形態による移送基板602を示す。
図3の実施形態と同様に、移送基板602は、温度によって変化する表面接着性を有する接着要素606をそれぞれ含む2つ以上の移送要素604を有する。移送要素604のそれぞれはまた、入力に応じて、局所接着要素606(例えば、熱要素608付近の要素の一部)の温度を変化させるように動作可能な熱要素608を含む。この実施例では、接着要素604は、2つ以上の移送要素604、この場合、例示された要素604の全てを覆う連続層の一部である。本明細書に記載される実施形態のいずれかは、
図6に示されるものと同様の複数の要素を覆う単一層で形成された接着要素を使用してもよい。
【0033】
また、この実施形態は、移送要素604と基板602との間の絶縁体609の使用を示しているが、このような絶縁体609は任意選択的であってもよいことに留意されたい。また、破線で示されるように、熱要素608及び絶縁体609の一方又は両方は、2つ以上の移送要素604を覆う単一層として実装されてもよい。このような実施形態では、個々の信号線(例えば、
図3の線310及び/又は
図7の導波路1112)は、個々の移送要素608のサイズ及び場所を画定する領域内で局所的な温度変化が誘発されるように、熱要素層608に取り付けられてもよい。
【0034】
図7の側面図は、別の例示的な実施形態による移送基板702を示す。
図3の実施形態と同様に、移送基板702は、温度によって変化する表面接着性を有する接着要素706をそれぞれ含む2つ以上の移送要素704を有する。移送要素704のそれぞれはまた、入力に応じて接着要素706の温度を変化させるように動作可能な熱要素708を含む。この実施例では、熱要素708は、基板702内の導波路712を介して送達されるレーザ光710によって活性化される。光は1つ以上のレーザ716から提供され、加熱されない移送要素から光を吸収又は再方向づける光スイッチング要素714を介して、移送要素704を選択的に活性化してもよい。複数のレーザ716は、移送要素ごとに1つまで使用されてもよく、それらは基板702内に一体化されてもよく、又は外部に取り付けられてもよいことに留意されたい。光学スイッチ714は、電気的に活性化されてもよく、
図4及び5に示されるダイオード及びトランジスタと同様のマトリックスに配列されてもよく、コントローラへの線の数を削減する。
【0035】
図8の側面図は、別の示的な実施形態による移送基板802を示す。
図3の実施形態と同様に、移送基板802は、温度によって変化する表面接着性を有する接着要素806をそれぞれ含む2つ以上の移送要素804を有する。移送要素804のそれぞれはまた、入力に応じて接着要素806の温度を変化させるように動作可能な熱要素808を含む。移送要素804のそれぞれはまた、熱要素808を移送基板802から断熱する絶縁体809を含む。
【0036】
この実施形態では、移送基板802は湾曲しており、ターゲット基板816に対して回転するローラ813に取り付けられる。ローラ813及びターゲット基板はまた、移送要素804(例えば、単一要素804)のサブセットのみが移送基板816に一度に接触するように、互いに対して直線的に(この図では水平に)移動する。移送要素804のサブセットは、物体814の一部がターゲット基板816に選択的に移送されるように、物体814を保持又は解放するために選択的に活性化される。左側の陰影付き物体814は、ターゲット基板816に移送されなかったことに留意されたい。なお、ローラ813及び基板802の別の部分は、物体814の移送がドナーからピックアップされてターゲット816に移送される回転移送プロセスであってもよいように、ドナー基板(図示せず)と接触してもよい。
【0037】
ローラ813及び基板802は、ドナー基板及びターゲット基板と同時に、又は異なる時間に接触してもよい。そのような場合、第2の移送基板(図示せず)を使用して廃棄物体814を堆積させることができ、この第2の移送基板はまた、湾曲した基板を使用してもよい。本明細書に記載される他の実施形態のいずれも、
図8に示すような湾曲した移送基板及び回転移送プロセスを使用してもよい。矢印820、821によって示されるように、移送は、ローラ813を回転させる回転アクチュエータ820と、ローラ813と基板802との間の相対的な直線運動を誘導するリニアアクチュエータ821とによって促進されてもよい。
【0038】
図9A及び9Bのブロック図は、例示的な実施形態による方法を示す。ブロック900では、移送要素904~907のアレイを有する移送基板902が示される。移送基板902は、移送要素904~907のアレイがそれぞれの物体909~912上に位置合わせされるように、ドナー基板908上に配置されて示されている。陰影によって示されるように、物体909、911は、物体909~912のサブセットを形成し、このサブセットは、ドナー基板908から移送されることが意図される。移送基板902は、ドナー基板908に向かって移動されるか、又はその逆である。この移動は、基板902、908間の相対運動を誘導する1つ以上の機械的アクチュエータ901、903を介して達成され得る。
【0039】
ブロック916で見られるように、移送要素904~907と物体909~912との間で接触が行われると、要素904、906の陰影によって示されるように、移送要素904、906のサブセットに電気的入力が適用されている。この入力が、サブセット内の各移送要素904、906を高温(例えば、30℃~65℃)以上にすることにより、サブセット内の各移送要素904、906の接着要素は、より低いヤング率(例えば、1MPa未満)を達成する。この入力は、移送要素904、906のサブセットが物体909、911の対応するサブセットに接触する前又は後に適用されてもよい。物体909、911のサブセットは、より高い温度範囲に対応するより低いヤング率である移送要素904、906のサブセットに(例えば、より低いヤング率でのファンデルワールス力の増加に起因して)吸引される。アクチュエータ902、903は、この動作中に圧力を印加するように構成されてもよい。
【0040】
移送要素904、906のサブセット内にない他の移送要素905、907は、より高いヤング率(例えば、6MPa超、場合によっては10MPa超)を有する移送要素905、907をもたらす、より低い温度(例えば、0℃~30℃)以下であり得ることに留意されたい。この第2のヤング率では、例えば、低ファンデルワールス力に起因して、他の移送要素905、907は、それぞれの物体910、912に吸引されない。ブロック900に示される前の工程では、移送要素904~907は任意の温度であってもよいことに留意されたい。
【0041】
ブロック918で見られるように、移送要素904、906のサブセットは、基板908から移送される物体909、911のサブセットと依然として良好に接触している間に、より低い温度以下に設定されている。これにより移送要素904、906と物体909、911との間の引力を増加させることができることが判明している。この吸引力は、移送要素904に面する物体909、911の表面から延在する突出部を物体909、911に加えることによって、更に増大させることができる。
【0042】
ブロック919で見られるように、移送基板902は、1つ以上のアクチュエータ901、903によってドナー基板から離れて移動され、物体909、911のサブセットは、ドナー基板908から分離される一方で、他方の物体910、912はドナー基板上に留まる。
図9Bのブロック920で見られるように、移送基板902は、
図9Aのアクチュエータ901、903と同じであっても異なっていてもよいアクチュエータ921、923によって、ターゲット基板922と位置合わせされ、ターゲット基板922に向かって移動される。ブロック924で見られるように、移送基板902上の物体909、911のサブセットは、ターゲット基板922に接触する。
【0043】
任意選択的に、ブロック924、926の一方又は両方において、第2の入力が、移送要素904、906のサブセットに適用されてもよく、サブセット内の各移送要素に、より高い温度を達成させるか、又はそれを超えさせる。物体909、911がより高い温度又はより低い温度で解放され得るように、物体909、911のサブセットとターゲット基板922との間に固有又は能動的に生成された引力が存在し得る。例えば、接着力、電気力、磁力、及び真空生成力を含むがこれらに限定されない、ターゲット基板922から反力が印加されてもよい。
【0044】
上述のように、移送された物体は、ドナー基板からの除去時に接着を増大させる特徴を含んでもよい。
図10の図面は、例示的な実施形態による物体1000~1002の特徴を示す。物体1000~1002は、それぞれの基板1004~1006上に示されている。物体1000~1002のそれぞれは、平面表面1000b~1002bの上方に延在する1つ以上のそれぞれの突出部1000a~1002aを各々有する。図示のように、突出部は、柱、角錐、台形を含んでもよく、フック、ループ、隆起などの任意の他の種類の突出構造を含んでもよい。突出部1000a~1002aの最も高い点は、平面表面1000b~1002bの上方に1μm~20μmであってもよい。突出部1000a~1002aは、シリコン、GaN、SiO2、SiN、金属、SU8、ポリイミド、又は他のポリマーなどの物体1000~1002と同じ又は異なる材料で作製することができる。
【0045】
基板1004~1006は、物体1000~1002を一時的に保持するように構成された保持層1004a~1006aを有するドナー基板であってもよい。一時的保持層1004a~1006aは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、シリコーンゲルなどのエラストマー材料を含んでもよく、2MPa未満のヤング率であってもよい。層1004a~1006aの厚さは、1μm~100μmの範囲であり得る。
【0046】
特段の指示がない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される特徴サイズ、量及び物理的特性を表す全ての数は、全ての場合において、「約」という用語によって修飾されるものとして理解されるべきである。したがって、それと異なる指示がない限り、前述の明細書及び添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本明細書に開示される教示を利用して当業者が得ようとする所望の特性に応じて変化し得る近似値である。端点による数値範囲の使用は、その範囲内の全ての数(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4及び5を含む)及びその範囲内の任意の範囲を含む。
【0047】
上記の様々な実施形態は、特定の結果を提供するために相互作用する回路、ファームウェア、及び/又はソフトウェアモジュールを使用して実装され得る。当業者は、当該技術分野において一般的に公知である知識を使用して、モジュール式レベル又は全体でのいずれかで、こうして記載された機能を容易に実装することができる。例えば、本明細書に例解されるフローチャート及び制御図は、プロセッサにより実行されるためのコンピュータ可読命令/コードを作成するために使用されてもよい。こうした命令は、非一時的コンピュータ可読媒体上に格納され、当該技術分野において公知であるように実行するためにプロセッサに転送されてもよい。上記の構造及び手順は、上述の機能を提供するために使用され得る実施形態の代表的な例に過ぎない。
【0048】
例示的な実施形態の前述の説明は、例示及び説明の目的のために提示されている。これらは、網羅的であること、又は実施形態を開示される厳格な形態に限定することを意図するものではない。上記の教示に照らして、多くの修正及び変形が可能である。開示される実施形態の任意の又は全ての特徴は、個別に、又は任意の組み合わせで適用することができ、限定することを意図するものではなく、純粋に例示的であることを意図する。本発明の範囲は、この発明を実施するための形態に限定されるものではなく、むしろ本明細書に添付の特許請求の範囲によって決定されることが意図される。