(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】ディスペンス塗布用の塗料および塗装物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20240711BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20240711BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240711BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20240711BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/20
C09D5/02
B05D3/00 D
B05D1/26 Z
(21)【出願番号】P 2021026493
(22)【出願日】2021-02-22
【審査請求日】2023-05-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】千田 晃子
(72)【発明者】
【氏名】武村 健太
(72)【発明者】
【氏名】堀金 航大
【審査官】井上 莉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-067747(JP,A)
【文献】特開2020-033448(JP,A)
【文献】特開2010-260001(JP,A)
【文献】特表2021-505750(JP,A)
【文献】特開2012-071240(JP,A)
【文献】特表2009-516638(JP,A)
【文献】特開2005-290344(JP,A)
【文献】国際公開第2020/074297(WO,A1)
【文献】特開2020-158614(JP,A)
【文献】特開2013-196918(JP,A)
【文献】特開2013-173929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
B05D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスペンス塗布用の塗料であって、
架橋性官能基と、アクリル樹脂およびポリエステル樹脂の少なくとも一方を含むベース樹脂と、により形成される塗膜形成性樹脂を含み、
せん断速度1000/sにおけるせん断粘度は、0.01Pa・秒以上0.20Pa・秒以下であり、
伸張レオメータを用いて、前記塗料を0.5m/秒以下の伸張速度Vで伸張させて測定される前記塗料の破断長さL(mm)を、前記伸張速度V(m/秒)で除して得られるL/Vは、15以上45以下である、ディスペンス塗布用の塗料。
【請求項2】
溶媒を含み、
前記溶媒に占める水の割合が20質量%以上である、請求項1に記載の塗料。
【請求項3】
溶媒を含み、
前記溶媒に占める有機溶剤の割合が40質量%以上である、請求項1に記載の塗料。
【請求項4】
表面張力は、20mN/m以上33mN/m以下である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の塗料。
【請求項5】
相対的に移動する被塗物に向かって、ディスペンサのノズルから塗料を吐出する工程を含み、
前記塗料は、架橋性官能基と、アクリル樹脂およびポリエステル樹脂の少なくとも一方を含むベース樹脂と、により形成される塗膜形成性樹脂を含み、
前記塗料のせん断速度1000/sにおけるせん断粘度は、0.01Pa・秒以上0.20Pa・秒以下であり、
伸張レオメータを用いて、前記塗料を0.5m/秒以下の伸張速度Vで伸張させて測定される前記塗料の破断長さL(mm)を、前記伸張速度V(m/秒)で除して得られるL/Vは、15以上45以下である、塗装物品の製造方法。
【請求項6】
前記吐出工程の後、前記塗膜形成性樹脂を硬化させる硬化工程を含む、請求項
5に記載の塗装物品の製造方法。
【請求項7】
前記ノズルの直径は、5μm以上300μm以下である、請求項
5または
6に記載の塗装物品の製造方法。
【請求項8】
前記被塗物と前記ノズルとの距離は、4mm以上200mm以下である、請求項
5~
7のいずれか一項に記載の塗装物品の製造方法。
【請求項9】
前記被塗物は、自動車車体用の部材である、請求項
5~
8のいずれか一項に記載の塗装物品の製造方法。
【請求項10】
前記吐出工程において、前記ノズルから液滴状の前記塗料が吐出される、請求項
5~
9のいずれか一項に記載の塗装物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスペンス塗布用の塗料および塗装物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車車体やパーツは、スプレー塗装される。スプレー塗装において、塗料は霧化されてエアーとともに流動し、被塗物に付着する。スプレー塗装の塗着効率は低く、一般的に50%から70%といわれている。
【0003】
近年の環境問題に鑑み、塗着効率を向上させる取り組みが始まっている。例えば、特許文献1および2には、液滴状の塗料を自動車部品に塗布することのできる装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-144805号公報
【文献】特開2020-22965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、塗料をスプレー塗装以外の方法で塗装する場合、平滑な塗膜を得ることが困難である。
【0006】
本発明の目的は、平滑な塗膜が得られるディスペンス塗布用の塗料を提供することである。本発明の目的は、また、上記塗料を用いる塗装物品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記態様[1]~[12]を提供する。
[1]
ディスペンス塗布用の塗料であって、
せん断速度1000/sにおけるせん断粘度は、0.01Pa・秒以上0.20Pa・秒以下であり、
伸張レオメータを用いて、前記塗料を0.5m/秒以下の伸張速度Vで伸張させて測定される前記塗料の破断長さL(mm)を、前記伸張速度V(m/秒)で除して得られるL/Vは、10以上49以下である、ディスペンス塗布用の塗料。
【0008】
[2]
前記L/Vは、15以上45以下である、上記[1]に記載の塗料。
【0009】
[3]
溶媒を含み、
前記溶媒に占める水の割合が20質量%以上である、上記[1]または[2]に記載の塗料。
【0010】
[4]
溶媒を含み、
前記溶媒に占める有機溶剤の割合が40質量%以上である、上記[1]または[2]に記載の塗料。
【0011】
[5]
塗膜形成性樹脂を含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載の塗料。
【0012】
[6]
表面張力は、20mN/m以上33mN/m以上である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の塗料。
【0013】
[7]
相対的に移動する被塗物に向かって、ディスペンサのノズルから塗料を吐出する工程を含み、
前記塗料のせん断速度1000/sにおけるせん断粘度は、0.01Pa・秒以上0.20Pa・秒以下であり、
伸張レオメータを用いて、前記塗料を0.5m/秒以下の伸張速度Vで伸張させて測定される前記塗料の破断長さL(mm)を、前記伸張速度V(m/秒)で除して得られるL/Vは、10以上49以下である、塗装物品の製造方法。
【0014】
[8]
前記塗料は、塗膜形成性樹脂を含み、
前記吐出工程の後、前記塗膜形成性樹脂を硬化させる硬化工程を含む、上記[7]に記載の塗装物品の製造方法。
【0015】
[9]
前記ノズルの直径は、5μm以上300μm以下である、上記[7]または[8]に記載の塗装物品の製造方法。
【0016】
[10]
前記被塗物と前記ノズルとの距離は、4mm以上200mm以下である、上記[7]~[9]のいずれかに記載の塗装物品の製造方法。
【0017】
[11]
前記被塗物は、自動車車体用の部材である、上記[7]~[10]のいずれかに記載の塗装物品の製造方法。
【0018】
[12]
前記吐出工程において、前記ノズルから液滴状の前記塗料が吐出される、上記[7]~[11]のいずれかに記載の塗装物品の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、平滑な塗膜が得られるディスペンス塗布用の塗料が提供される。本発明によれば、また、上記塗料を用いる塗装物品の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1A】伸張レオメータにより破断長さを測定する方法を模式的に示す説明図である。
【
図1B】伸張レオメータにより破断長さを測定する方法を模式的に示す説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る塗装物品の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】実施例1で作成された塗膜の一部の表面写真である。
【
図4】比較例1で作成された塗膜の一部の表面写真である。
【
図5】比較例2で作成された塗膜の一部の表面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ディスペンス塗布は、液体状のコーティング剤を被塗物に向かって定量で吐出する方法である。ディスペンス塗布において、コーティング剤は霧状ではなく、液体状のまま吐出される。そのため、塗着効率が高い。
【0022】
ディスペンス塗布では、塗料にせん断応力を与えてノズルから吐出させる。塗料は、一般に非ニュートン流体である。塗料のような非ニュートン流体、特にチキソトロピー性の流体は、ノズルからの吐出の前後で粘性が変化する。ディスペンス塗布の場合、塗料の粘性は、塗膜の平滑性に大きく影響する。
【0023】
例えば、吐出時の粘度が過度に低い塗料は、吐出されてから着弾するまでに複数の液滴に分断され易く、いわゆるサテライトを形成し易い。サテライトの形成は、塗料の直進性を損なうため、塗料は、狙った地点から外れて着弾し易い。これにより、部分的に膜厚が低下し、その結果、スジが形成される。サテライトはまた、非塗装部位における汚染の原因にもなり得る。さらに、吐出後の粘度が低い塗料は、吐出前の粘度も過度に低く、ノズルの先端に液だまりを形成し易い。そのため、吐出される液量、ひいては着弾する液量がばらつき易く、スジが形成され易い。一方、吐出後の粘度が過度に高い塗料は、ノズルから糸を引きながら吐出される。ノズルと被塗物とは相対的に移動しているため、狙った地点に所定量の塗料を着弾させることができず、やはりスジが形成され易い。
【0024】
塗料の吐出量および着弾量、さらには着弾地点を制御するため、吐出後の塗料の伸びに着目した。この伸びを伸張レオメータを用いて再現したところ、ディスペンス塗布に適した伸び、言い換えれば破断長さが見出された。
【0025】
すなわち、本実施形態では、せん断速度1000/sにおけるせん断粘度(以下、高せん断粘度と称する場合がある。)を特定の範囲に規定した上で、0.5m/秒以下の伸張速度Vで伸張させて測定される塗料の破断長さL(mm)を、伸張速度V(m/秒)で除して得られるL/Vを規定する。せん断速度および伸張速度Vは、ディスペンス塗布の際に塗料に与えられるせん断応力を考慮し、設定されている。
【0026】
具体的には、高せん断粘度を0.01Pa・秒以上0.20Pa・秒以下にするとともに、L/Vを10以上49以下に制御する。これにより、サテライトや液だまり、さらには塗料の糸が形成され難い、ディスペンス塗布に適した塗料が得られる。これにより、スジの形成が抑制され、平滑な塗膜が得られる。特に、吐出された液滴は、球体になり易い。
【0027】
破断長さLは、伸張レオメータにより測定される。伸張レオメータは、液状のサンプルを伸張したときのレオロジー特性を測定する装置である。伸張レオメータにおいて、塗料には、一軸方向(伸張方向)のせん断応力が与えられる。塗料は、糸状に引き伸ばされて、やがて破断する。破断したときの塗料の糸の長さ(破断長さL)を、塗料を伸張させる速度Vで除した値が、L/Vである。
【0028】
L/Vは、具体的には、以下のようにして算出される。まず、伸張レオメータにより、破断長さLを測定する。伸張レオメータは、上下に対向する2つの円形プレートを有する。2つのプレートは、互いに離間可能である。塗料を上記2つのプレートの間に挟み、これらを一定の速度(伸張速度V、0.5m/秒以下)で離間させる。このとき、塗料は糸状に引き伸ばされる。さらにプレート同士を離間させると、やがて塗料の糸は破断する。この塗料の挙動は、例えば、高速度カメラで撮影される。この画像から、糸が破断したときのプレート間の距離を測定し、破断長さLとする。伸張速度Vを0.5m/秒以下の範囲で変化させて、各伸張速度Vにおける破断長さLを測定する。測定結果を、横軸が伸張速度V(m/秒)、縦軸が破断長さL(mm)のグラフにプロットして、最小二乗法を用いた線形回帰分析により、直線を引く。この直線の傾きがL/Vである。
【0029】
図1Aおよび
図1Bは、伸張レオメータにより破断長さを測定する方法を模式的に示す説明図である。
図1Aにおいて、塗料1は、円形プレート2Aおよび2Bの間に挟みこまれており、糸状に引き伸ばされている。円形プレート2Aが一定の速度Vで上方に移動することにより、円形プレート2Aおよび2Bは離間していく。
図1Bは、
図1Aの円形プレート2Aおよび2Bをさらに離間させた状態を示しており、塗料1の糸が破断したときを表わしている。このときの円形プレート2Aおよび2Bの間の長さが、破断長さLである。便宜上、塗料1にハッチングを付している。
【0030】
[塗料]
本実施形態に係る塗料は、ディスペンス塗布用の塗料であって、高せん断粘度は、0.01Pa・秒以上0.20Pa・秒以下であり、L/Vは、10以上49以下である。
【0031】
高せん断粘度は、0.012Pa・秒以上が好ましい。高せん断粘度は、0.18Pa・秒以下が好ましく、0.15Pa・秒以下がより好ましい。
【0032】
L/Vは、15以上が好ましく、16.5以上がより好ましい。L/Vは、45以下が好ましく、42以下がより好ましい。L/Vは、具体的には、16.5以上42以下が好ましい。
【0033】
ディスペンス塗布は、液体状のコーティング剤(塗料)を、被塗物に向かって定量で吐出する方法である。ディスペンス塗布において、塗料は液柱状に吐出されてもよいし、液滴状に吐出されてもよい。液滴状に吐出する方法は、いわゆるインクジェットプリンティングである。
【0034】
塗料の表面張力もまた、塗料の破断長さに影響を与え得る。表面張力が大きいほど、破断長さは小さくなり易く、表面張力が小さいほど、破断長さは大きくなり易い。特に、水性塗料の表面張力は、20mN/m以上33mN/m以下であることが好ましい。これにより、L/Vは上記の範囲に制御され易くなる。塗料の表面張力は、22mN/m以上がより好ましく、23mN/m以上が特に好ましい。塗料の表面張力は、32mN/m以下がより好ましく、31mN/m以下が特に好ましい。
【0035】
表面張力は、ペンダント・ドロップ法により測定される。表面張力の測定には、例えば、接触角計(協和界面科学社製、DMo-701)が使用される。
【0036】
本実施形態に係る塗料は、いわゆる中塗り塗膜用であってよく、ベースコート塗膜用であってよく、クリヤー塗膜用であってよい。塗料は、1液型塗料であってよく、主剤と硬化剤とを含む2液型塗料等の多液型塗料であってよい。2液型塗料を構成する主剤と硬化剤とは、混合された後、ノズルに供給されてもよいし、それぞれ同じノズルに供給されて、吐出されながら混合されてもよい。
【0037】
塗料は、溶媒として水を含む、いわゆる水性塗料であってよい。水性塗料において、溶媒に占める水の割合は、例えば、20質量%以上である。塗料はまた、溶媒として有機溶剤を含む、いわゆる溶剤系塗料であってよい。溶剤系塗料において、溶媒に占める有機溶剤の割合は、例えば、40質量%以上である。
【0038】
塗料の固形分含有率は特に限定されない。塗料の固形分含有率は、2質量%以上70質量%以下が好ましい。塗料の固形分は、塗料から揮発成分(代表的には、溶媒)を除いた全成分である。
【0039】
ノズルの詰まりを抑制する観点から、塗料は、ノズルの直径の1/10以上の平均粒子径を有する粒子(代表的には、顔料)を含まないことが望ましい。これにより、塗料の吐出性が向上して、塗膜にスジが生じることが抑制され易くなる。ディスペンス塗布に先立って、塗料をフィルターで濾して、ノズルの直径の1/10以上の平均粒子径を有する粒子を除去することが望ましい。平均粒子径は、レーザー光散乱法により測定される体積平均粒子径である(以下、同じ)。
【0040】
本実施形態に係る塗料は、例えば、塗膜形成性樹脂と、硬化剤と、顔料と、溶媒と、を含む。以下、各成分について詳述する。
【0041】
(塗膜形成性樹脂)
塗膜形成性樹脂は、熱硬化性あるいは活性エネルギー線硬化性の樹脂である。水性塗料において、塗膜形成性樹脂は通常、溶媒中に分散している。溶剤系塗料において、塗膜形成性樹脂は通常、溶媒に溶解している。塗料は、被塗物にディスペンス塗布された後、加熱または活性エネルギー線照射により硬化される。塗膜形成性樹脂は、架橋性官能基およびベース樹脂により形成される。
【0042】
架橋性官能基としては、例えば、カルボキシ基、水酸基、エポキシ基、シラノール基、(メタ)アクリロイル基が挙げられる。
【0043】
ベース樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂は、ウレタン変性エポキシ樹脂であってよい。ポリエステル樹脂は、ウレタン変性ポリエステル樹脂であってよい。アクリル樹脂は、ウレタン変性アクリル樹脂であってよい。各ウレタン変性樹脂は、樹脂骨格中にウレタン結合を有する。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、耐チッピング性が向上する点で、アクリル樹脂およびポリエステル樹脂が好ましい。
【0044】
塗膜形成性樹脂の量は特に限定されない。硬化剤が含まれる場合、塗膜形成性樹脂の固形分含有率は、塗膜形成性樹脂の固形分質量と硬化剤の固形分質量との合計の60質量%以上90質量%以下が好ましく、70質量%以上85質量%以下がより好ましい。
【0045】
水性塗料に含まれる塗膜形成性樹脂としては、架橋性官能基を有するアクリル樹脂が好ましい。なかでも、水酸基含有アクリル樹脂エマルションが好ましい。水酸基含有アクリル樹脂エマルションは、例えば、α,β-エチレン性不飽和モノマー混合物の乳化重合により得られる。α,β-エチレン性不飽和モノマー混合物は、エステル部の炭素数が1または2の(メタ)アクリル酸エステルを65質量%以上含むことが好ましい。α,β-エチレン性不飽和モノマー混合物の酸価(固形分酸価。以下同じ)は、3mgKOH/g以上50mgKOH/g以下が好ましい。
【0046】
アクリル樹脂エマルションの平均粒子径は、0.01μm以上1.0μm以下が好ましい。アクリル樹脂エマルションの平均粒子径が上記範囲であると、塗装作業性および外観が向上し易い。同様の観点から、上記平均粒子径は、0.02μm以上がより好ましい。上記平均粒子径は、0.3μm以下がより好ましい。
【0047】
アクリル樹脂エマルションは、必要に応じて塩基で中和される。これにより、pH=5~10の領域において、安定に分散し得る。中和は、例えば、乳化重合の前または後に、ジメチルエタノールアミンやトリエチルアミンのような3級アミンを重合系に添加することにより行われる。
【0048】
溶剤系塗料に含まれる塗膜形成性樹脂としては、架橋性官能基を有するアクリル樹脂が好ましい。なかでも、クリヤー塗膜に用いられる溶剤系塗料の場合、酸無水物基含有アクリル樹脂(a)、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)、および、水酸基とエポキシ基とを有するアクリル樹脂(c)を含むことがより好ましい。これら3種の樹脂は、硬化触媒(d)とともに用いられることが好ましい。これにより、3種の樹脂が相互反応し易くなって、架橋密度が高まり易い。
【0049】
酸無水物基含有アクリル樹脂(a)は、1分子中に平均2個以上の酸無水物基を有することが好ましい。水酸基およびエポキシ基を有するアクリル樹脂(c)は、1分子中にエポキシ基を平均で2個以上有することが好ましい。硬化触媒(d)としては、例えばホスファイト化合物が挙げられる。ホスファイト化合物としては、例えば、亜リン酸トリエステルおよびジ亜リン酸エステルが挙げられる。
【0050】
ベースコート塗膜に用いられる溶剤系塗料の場合、アミド基含有アクリル樹脂が好ましい。アミド基含有アクリル樹脂とその他の塗膜形成性樹脂との固形分重量比は、30/70から90/10であってよい。
【0051】
(硬化剤)
硬化剤は特に限定されず、塗膜形成性樹脂に応じて適宜選択すればよい。硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート化合物、エポキシ基含有化合物、カルボキシ基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、ヒドラジド基含有化合物およびセミカルバジド基含有化合物が挙げられる。ポリイソシアネート化合物は、イソシアネート基がブロック剤でブロックされたブロック化ポリイソシアネート化合物を包含する。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、得られる塗膜の諸性能およびコストの点で、アミノ樹脂およびポリイソシアネート化合物が好ましい。
【0052】
アミノ樹脂は、例えば、メラミン、ベンゾグアナミンまたは尿素等のアミノ化合物と、ホルムアルデヒドとを縮合させ、さらには低級1価アルコールでエーテル化することにより得られる。アミノ樹脂は、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0053】
ポリイソシアネート化合物は、1分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有する。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、分子中にイソシアネート基に結合していない芳香環を有する脂肪族ポリイソシアネート(芳香脂肪族ポリイソシアネート)、芳香族ポリイソシアネート、これらポリイソシアネートの誘導体などを挙げることができる。ポリイソシアネート化合物として、上記のポリイソシアネートまたはその誘導体のプレポリマーを使用してもよい。ポリイソシアネート化合物として、ブロック化ポリイソシアネート化合物を使用してもよい。ポリイソシアネート化合物は、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0054】
水酸基含有樹脂の水酸基とポリイソシアネート化合物のイソシアネート基との当量比(=OH/NCO)は特に限定されない。塗膜の硬化性および耐擦傷性等の観点から、上記当量比(=OH/NCO)は、0.5以上2.0以下が好ましく、0.8以上1.5以下がより好ましい。
【0055】
硬化剤の量は特に限定されない。硬化性の点で、硬化剤の固形分含有率は、塗膜形成性樹脂の固形分質量と硬化剤の固形分質量との合計の10質量%以上40質量%以下が好ましく、15質量%以上30質量%以下がより好ましく、15質量%以上25質量%以下が特に好ましい。
【0056】
(溶媒)
溶媒は特に限定されない。溶媒は、上記の通り、水(脱イオン水)であってよく、有機溶剤であってよく、これらの組み合わせであってよい。
【0057】
有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエステル系溶剤;
プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、メチルメトキシブタノール、エトキシプロパノール、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコール-t-ブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、メトキシブタノール、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどのエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、ブタノール、プロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;スワゾール、シェルゾール、ミネラルスピリットなどの脂肪族炭化水素系溶剤;キシレン、トルエン、ソルベッソ-100(S-100)、ソルベッソ-150(S-150)などの芳香族系溶剤が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0058】
溶媒の量は特に限定されず、塗料の固形分含有率および高せん断粘度等に応じて適宜設定される。溶媒は、例えば、塗料の固形分含有率が2質量%以上70質量%以下になるように、添加される。
【0059】
(顔料)
塗料は、顔料を含んでよい。顔料は特に限定されず、目的に応じて適宜選択される。ただし、顔料の平均粒子径は、ノズルの直径の1/10未満であることが好ましい。これにより、ノズルの詰まりが抑制され易くなる。顔料の平均粒子径は、例えば、30μm以下であり、25μm以下が好ましい。顔料として、意匠性付与を目的とした光輝材を用いる場合、製造あるいは入手が容易である点で、顔料の平均粒子径は、5μm以上が好ましい。顔料の平均粒子径は、基材上に塗料を塗装し、その塗装面の電子顕微鏡の画像から、画像処理ソフトウェアを用いて測定されてもよい。例えば、上記の画像から、任意に10個の顔料を選択し、これらの面積と同じ面積を有する円(相当円)の直径を、その顔料の直径とみなす。10個の顔料の直径を算出し、これらの平均値を、顔料の平均粒子径とする。
【0060】
樹脂固形分質量に対する顔料の質量割合(PWC)は、特に限定されず、顔料の種類および目的、さらには破断長さLを考慮して、適宜設定すればよい。PWCが大きいほど、破断長さLは小さくなり易い。
【0061】
顔料としては、鱗片状顔料、着色顔料および体質顔料よりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。鱗片状顔料としては、例えば、金属片、金属酸化物片、パール顔料、金属あるいは金属酸化物で被覆されたガラスフレーク、金属酸化物で被覆されたシリカフレーク、グラファイト、ホログラム顔料およびコレステリック液晶ポリマー挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。鱗片状顔料は、着色されていてもよい。これにより、意匠性がより向上する。
【0062】
鱗片状顔料の含有量は特に限定されない。鱗片状顔料のPWCは、例えば、1質量%以上40質量%以下であってよい。鱗片状顔料のPWCは、5質量%以上が好ましく、30質量%以下が好ましい。
【0063】
着色顔料としては、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料および金属錯体顔料等の有機系着色顔料:黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラックおよび二酸化チタン等の無機系着色顔料が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0064】
体質顔料として、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレーおよびタルクが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0065】
着色顔料や体質顔料の含有量は特に限定されない。全顔料のPWCは、0.1質量%以上50質量%以下の範囲で適宜調整される。PWCの下限は、好ましくは0.5質量%であり、より好ましくは1.0質量%である。PWCの上限は、好ましくは40質量%であり、より好ましくは30質量%である。
【0066】
(粘性調整剤)
塗料は、粘性調整剤を含むことが好ましい。粘性調整剤によって、塗料の高せん断粘度およびL/Vが所望の範囲に調整され易くなる。
【0067】
粘性調整剤は特に限定されない。粘性調整剤としては、例えば、シリカ系微粉末、鉱物系粘性調整剤、ポリアマイド系粘性調整剤、ウレタン会合型粘性調整剤、アルカリ膨潤型粘性調整剤、セルロース系粘性調整剤、アミノプラスト系粘性調整剤、ポリオレフィン系粘性調整剤、ポリウレア系粘性調整剤、硫酸バリウム微粒化粉末、有機樹脂微粒子粘性調整剤、ポリアクリル酸系粘性調整剤が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、高せん断粘度およびL/Vの制御の観点から、シリカ系微粉末、鉱物系粘性調整剤、ポリアマイド系粘性調整剤、ウレタン会合型粘性調整剤、アルカリ膨潤型粘性調整剤、セルロース系粘性調整剤、アミノプラスト系粘性調整剤、ポリオレフィン系粘性調整剤、ポリウレア系粘性調整剤、よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0068】
シリカ系微粉末は、SiO2を含む粉末である。シリカ系微粉末としては、例えば、クレー、ケイ藻士、ホワイトカーボン、コロイダルシリカが挙げられる。なかでも、コロイダルシリカが好ましい。
【0069】
鉱物系粘性調整剤としては、例えば、結晶構造が2:1型構造を有する膨潤性層状ケイ酸塩が挙げられる。具体的には、天然または合成のモンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチブンサイト、バイデライト、ノントロナイト、ベントナイト、ラポナイト等のスメクタイト族粘土鉱物;Na型テトラシリシックフッ素雲母、Li型テトラシリシックフッ素雲母、Na塩型フッ素テニオライト、Li型フッ素テニオライト等の膨潤性雲母族粘土鉱物;バーミキュライト;これらの置換体や誘導体が挙げられる。なかでも、ベントナイトが好ましい。
【0070】
ポリアマイド系粘性調整剤として、例えば、脂肪酸アマイド、ポリアマイド、アクリルアマイド、長鎖ポリアミノアマイド、アミノアマイドおよびこれらの塩(例えばリン酸塩)が挙げられる。
【0071】
ウレタン会合型粘性調整剤として、例えば、ポリエーテルポリオール系ウレタンプレポリマー、ウレタン変性ポリエーテル型粘性調整剤が挙げられる。
【0072】
アルカリ膨潤型粘性調整剤としては、例えば、ポリカルボン酸系粘性調整剤、ポリスルホン酸系粘性調整剤、ポリリン酸系粘性調整剤などが挙げられる。なかでも、ポリカルボン酸系粘性調整剤が好ましい。ポリカルボン酸系粘性調整剤として、例えば高分子量ポリカルボン酸、高分子量不飽和酸ポリカルボン酸およびこれらの部分アミド化物などが挙げられる。
【0073】
セルロース系粘性調整剤としては、例えば、セルロースアセテートブチレート(CAB)、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドリキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロースおよびセルロースナノファイバーゲルが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、CABが好ましい。
【0074】
アミノプラスト系粘性調整剤は、メラミン、グアナミンなどのアミノ基を有する化合物とホルムアルデヒドとの付加縮合物である。アミノプラスト系粘性調整剤としては、例えば、疎水変性エトキシレートアミノプラスト系会合型粘性調整剤が挙げられる。
【0075】
ポリオレフィン系粘性調整剤としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、酸化ポリエチレン、酸化ポリプロピレン、酸化エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-無水マレイン酸共重合体およびプロピレン-無水マレイン酸共重合体が挙げられる。なかでも、酸化ポリエチレンあるいはそのコロイド状分散体(ポリエチレンワックス)が好ましい。
【0076】
ポリウレア系粘性調整剤は、イソシアネートとアミンとの反応生成物である。ポリウレア系粘性調整剤は、垂れ抑制剤(SCA:sag control agent)とも呼ばれる。
【0077】
粘性調整剤の含有量は、塗膜形成性樹脂の固形分質量の0.01質量%以上20質量%以下が好ましい。粘性調整剤の含有量がこの範囲であると、塗料の高せん断粘度およびL/Vを所望の範囲に容易に調整できる。粘性調整剤の含有量は、塗膜形成樹脂の固形分質量の0.05質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が特に好ましい。粘性調整剤の含有量は、塗膜形成樹脂の固形分質量の10質量%以下がより好ましく、5質量%以下が特に好ましい。
【0078】
(表面調整剤)
塗料は、表面調整剤を含んでよい。表面調整剤は、塗料の表面張力を制御するために添加される。表面調整剤によって、塗料の高せん断粘度およびL/Vを所望の範囲に調整し易くなる。
【0079】
表面調整剤は特に限定されない。表面調整剤としては、例えば、シリコーン系、アクリル系、ビニル系、フッ素系の表面調整剤が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、高せん断粘度およびL/Vの制御の観点から、シリコーン系およびアクリル系の表面調整剤の少なくとも1種が好ましい。シリコーン系の表面調整剤としては、例えば、ポリジメチルシロキサンおよびこれを変性した変性シリコーンが挙げられる。変性シリコーンとしては、例えば、ポリエーテル変性体、アクリル変性体、ポリエステル変性体が挙げられる。アクリル系の表面調整剤の例としては、アクリル系共重合物が挙げられる。
【0080】
表面調整剤の含有量は特に限定されない。表面調整剤の含有量は、塗料の固形分質量の0.01質量%以上10質量%以下が好ましい。表面調整剤の含有量がこの範囲であると、塗料の高せん断粘度およびL/Vを所望の範囲に容易に調整できる。表面調整剤の含有量は、塗料の固形分質量の0.02質量%以上がより好ましく、0.04質量%以上が特に好ましい。表面調整剤の含有量は、塗料の固形分質量の8質量%以下がより好ましく、6質量%以下が特に好ましい。
【0081】
(その他)
着色塗膜は、必要に応じて種々の添加剤を含み得る。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤、分散剤、ピンホール防止剤および界面制御材が挙げられる。
【0082】
例えば、分散剤は、顔料の分散性を高めるために添加される。分散剤は特に限定されず、溶媒および顔料の種類等に応じて適宜選択される。
【0083】
水性塗料の場合、分散剤としては、例えば、リン酸塩、ポリリン酸塩等の無機型分散剤;ポリカルボン酸系ポリエチレングリコール系、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合系等の高分子型分散剤;アルキルスルホン酸系、四級アンモニウム系、高級アルコールアルキレンオキサイド系等の低分子型分散剤が用いられる。リン酸塩としては、例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムおよびリン酸ナトリウムが挙げられる。
【0084】
溶剤系塗料の場合、分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸部分アルキルエステル系、ポリエーテル系、ポリアルキレンポリアミン系等の高分子型分散剤が用いられる。
【0085】
分散剤の含有量は特に限定されない。分散剤の含有量は、例えば、塗料の固形分質量の0.01質量%以上3質量%以下であってよく、0.1質量%以上1.0質量%以下であってよい。
【0086】
[塗装物品の製造方法]
塗装物品は、相対的に移動する被塗物に向かって、ディスペンサのノズルから塗料を吐出する工程を含む方法により製造される。塗料のせん断速度1000/sにおけるせん断粘度は、0.01Pa・秒以上0.20Pa・秒以下である。伸張レオメータを用いて、塗料を0.5m/秒以下の伸張速度Vで伸張させて測定される塗料の破断長さL(mm)を、伸張速度V(m/秒)で除して得られるL/Vは、10以上49以下である。塗料が塗膜形成性樹脂を含む場合、吐出工程の後、塗膜形成性樹脂を硬化させる硬化工程を行ってよい。
図2は、本実施形態に係る塗装物品の製造方法を示すフローチャートである。
【0087】
(1)吐出工程(S11)
まず、塗装の対象である被塗物を準備する。
(被塗物)
被塗物の形状は特に限定されない。被塗物は、平板状であってよく、立体形状を有していてもよい。本実施形態によれば、立体形状を有する被塗物に対しても、平滑な塗膜を形成することができる。被塗物の大きさも特に限定されない。本実施形態によれば、100cm四方を超えるような大きな被塗物に対しても、平滑な塗膜を形成することができる。
【0088】
被塗物の材質は特に限定されない。被塗物の材質としては、例えば、金属、樹脂、ガラスが挙げられる。金属としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛またはこれらの合金が挙げられる。
【0089】
金属製の被塗物は、表面処理されていてもよい。表面処理としては、例えば、リン酸塩処理、クロメート処理、ジルコニウム化成処理、複合酸化物処理が挙げられる。金属製の被塗物は、表面処理後、さらに電着塗料によって塗装されていてもよい。電着塗料は、カチオン型であってよく、アニオン型であってよい。
【0090】
樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂が挙げられる。
【0091】
樹脂製の被塗物は、脱脂処理されていることが好ましい。樹脂製の被塗物は、脱脂処理後、さらにプライマー塗料により塗装されていてよい。プライマー塗料は特に限定されず、その上方に塗装される塗料の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0092】
本実施形態に係る方法は、自動車車体用の部材の製造に特に好適である。自動車車体用の部材としては、例えば、ルーフ、ドア、スポイラー、バンパー、ミラーカバー、グリル、ドアノブ、フードが挙げられる。自動車車体としては、具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バスが挙げられる。
【0093】
次に、相対的に移動する被塗物に向かって、ディスペンサ(定量吐出装置)のノズルから上記の塗料を吐出する。これにより、被塗物の表面には塗料を含む塗膜が形成される。塗料は、ノズルから液体状で吐出されるため、塗着効率が高い。さらに、塗料は、被塗物に均一に付着する。よって、得られる塗膜は平滑性に優れる。
【0094】
被塗物は、例えば、載置台に載置される。載置台とともに被塗物を移動させてもよいし、ディスペンサを移動させてもよいし、載置台およびディスペンサの双方を移動させてもよい。
【0095】
ディスペンサは、液体状の定量の塗料を吐出できるノズルを備える限り、特に限定されない。ディスペンサは、ノズルから塗料を液柱状に吐出してもよいし、塗料を液滴状に吐出してもよい。塗料の吐出機構も特に限定されず、例えば、空圧式、ピエゾ式、プランジャー式、非接触式、サーマルバルブ式が挙げられる。ノズル数も特に限定されず、1以上であってよく、2以上であってよい。
【0096】
ノズルの直径は、5μm以上300μm以下が好ましい。これにより、ノズル詰まりが抑制され易くなるとともに、精度の高い塗装が行われ易くなる。ノズルの直径は、10μm以上がより好ましく、30μm以上が特に好ましい。ノズルの直径は、250μm以下がより好ましく、200μm以下が特に好ましい。
【0097】
被塗物とノズルとの距離は、例えば、4mm以上200mm以下である。本実施形態に係る塗料によれば、このように離れた被塗物に対しても、スジを抑制しながらディスペンス塗布することができる。被塗物とノズルとの距離は、5mm以上であってよく、10mm以上であってよい。被塗物とノズルとの距離は、100mm以下であってよく、50mm以下であってよい。被塗物とノズルとの距離は、被塗物の任意の複数の地点(例えば、5点)と、当該各地点を通り、被塗物の法線方向に延びる位置にあるノズルとの距離の平均値である。
【0098】
被塗物の大きさは特に限定されず、任意に設定できる。本実施形態に係る塗料によれば、被塗物の大きさに関わらず、スジを抑制しながらディスペンス塗布することができる。被塗物は、例えば、一辺が1cm以上、あるいは3cm以上の多角形(代表的には、矩形)であってよい。被塗物の一辺の長さは、50cm以上であってよく、90cm以上であってよく、100cm以上であってよい。被塗物の面積は、2,500cm2以上であってよく、8,100cm2以上であってよく、10,000cm2であってよい。
【0099】
液滴の大きさ、または、液柱の直径は特に限定されない。ただし、スジが抑制され易くなる点で、被塗物の法線方向と垂直な方向における液滴または液柱の最大長さDは、ノズル径Dnの5倍より小さい(D<Dn×5)ことが好ましい。本実施形態に係る塗料を用いると、液滴/液柱の被塗物の法線方向と垂直な方向における最大長さDは、上記の範囲に制御され易い。液滴の上記最大長さDは、後述する最大径D2と同義である。
【0100】
スジが抑制され易い点で、液滴は球体であることが望ましい。本実施形態に係る塗料を用いると、液滴は球体になり易い。球体とは、着弾する直前の液滴を側面から見たとき、被塗物の法線方向における液滴の最大径D1と、当該法線方向と垂直な方向における液滴の最大径D2との比:D1/D2が、0.8以上1.2以下であることをいう。各最大径の測定には、例えば、高速度カメラで撮影された画像が利用できる。
【0101】
塗料の塗布量は特に限定されない。塗料は、例えば、硬化後の塗膜の厚さが7μm以上50μm以下になるように、塗布される。
【0102】
吐出工程は、複数回繰り返してもよい。このとき、高せん断粘度が0.01Pa・秒以上0.20Pa・秒以下、L/Vが10以上49以下を満たす範囲で、用いる塗料の組成を変えてもよい。
【0103】
吐出工程の後、硬化の前に、予備乾燥(プレヒートとも称される)を行ってもよい。これにより、硬化工程において着色塗膜に含まれる溶媒の突沸が抑制されて、ワキの発生が抑制され易くなる。そのため、得られる塗膜の外観が向上し易くなる。
【0104】
予備乾燥の条件は特に限定されない。予備乾燥としては、例えば、20℃以上25℃以下の温度条件で15分以上30分以下放置する方法、50℃以上100℃以下の温度条件で30秒以上10分以下加熱する方法が挙げられる。
【0105】
(2)硬化工程(S12)
塗料を硬化させる。塗料は加熱により硬化し得る。加熱条件は、塗料の組成等に応じて適宜設定される。加熱温度は、例えば70℃以上150℃以下であり、80℃以上140℃以下であってよい。加熱時間は、例えば10分以上40分以下であり、20分以上30分以下であってよい。加熱装置としては、例えば、熱風炉、電気炉、赤外線誘導加熱炉等の乾燥炉が挙げられる。
【0106】
吐出工程の前または後、あるいは硬化工程の後、被塗物にディスペンス塗布以外の方法を用いる塗装を行ってもよい。塗装方法としては、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装、カーテンコート塗装が挙げられる。これらの方法と静電塗装とを組み合わせてもよい。なかでも、塗着効率の観点から、回転霧化式静電塗装が好ましい。回転霧化式静電塗装には、例えば、通称「マイクロ・マイクロベル(μμベル)」、「マイクロベル(μベル)」、「メタリックベル(メタベル)」などと呼ばれる回転霧化式の静電塗装機が用いられる。
【0107】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」はいずれも質量基準によるものである。
【0108】
[実施例1]
(I)被塗物の準備
被塗物として、硬化電着塗膜を備えるリン酸亜鉛処理鋼板(タテ50mm、ヨコ50mm)を準備した。硬化電着塗膜は、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製のカチオン電着塗料である「パワーニクス」を、乾燥膜厚が20μmとなるようにリン酸亜鉛処理鋼板に電着塗装した後、160℃で30分間加熱することにより形成した。
【0109】
(II)塗料の調製
アクリル樹脂エマルション(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製、平均粒径150nm、固形分濃度30%、酸価20mgKOH/g、水酸基価40mgKOH/g)93.4部、ジメチルエタノールアミン10%水溶液10部、水溶性アクリル樹脂(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製、固形分濃度30%、酸価56mgKOH/g、水酸基価70mgKOH/g)71.6部、サイメル250(硬化剤、三井サイテック社製、メチル/ブチル混合アルキル化型メラミン樹脂、固形分濃度70%)42.9部、および、以下のようにして調製された黒色顔料ペースト48部を混合し、固形分含有率が22.9質量%になるようにイオン交換水で調整し、水性塗料X1を得た。水性塗料X1は、例えば、ベースコート塗膜の形成に用いられる。
【0110】
(黒色顔料分散ペーストの調製)
Disperbyk 190(分散剤、ビックケミー社製)23.8部、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製水溶性アクリル樹脂(固形分濃度30.0%、酸価56mgKOH/g、水酸基価70mgKOH/g)35.2部、BYK-011(消泡剤、ビックケミー社製)0.5部、イオン交換水36.8部、RAVEN 5000(黒色顔料、COLUMBIAN社製)10.57部を予備混合した。その後、ペイントコンディショナーおよびガラスビーズ媒体を用いて、顔料の平均粒子径が0.1μm以下となるまで、室温で混合して、黒色顔料分散ペーストを得た。
【0111】
(III)ディスペンス塗布
被塗物に、マイクロディスペンスシステム(Vermes社製、MDS 3200、ノズル径100μm)により、上記の水性塗料X1を塗装した。次いで、80℃で5分間プレヒートして、硬化後の厚さが15μmの未硬化の塗膜A1を得た。被塗物とノズルとの距離は、5mmであった。
【0112】
ディスペンス塗布の際に、高速度カメラを用いて、液滴を側面から撮影したところ、液滴は球体であり(D1/D2≒1/1)、その最大長さD2はノズル径の5倍未満であった。
【0113】
(IV)塗膜の硬化
未硬化の塗膜A1を140℃で20分間加熱して、硬化した塗膜A1を備える塗装物品を得た。硬化後の塗膜A1の厚さは15μmであった。
【0114】
(V)評価
硬化塗膜A1に対して、上記の評価を行った。評価(i)~(iv)の結果を表1に示す。
【0115】
(i)高せん断粘度
応力制御型レオメータ(アントンパール社製、MCR301)を用いて、以下の条件で定常流測定を実施し、測定開始60秒後の測定データを、高せん断粘度とした。
治具:50mmコーンプレート
ギャップ:0.1mm
せん断速度:1000/秒
測定温度:23℃
【0116】
(ii)L/V
伸張レオメータ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、伸長せん断型レオメータ HAAKE CaBER1)と、高速度カメラ(フォトロン社製、FASTCAM Mini AX50)を用いて、伸張速度を0.1m/s、0.2m/s、0.3m/s、0.4m/s、0.5m/sに変えたときの破断長さを、それぞれ測定した。測定値を、横軸が伸張速度V、縦軸が破断長さLのグラフにプロットして、最小二乗法を用いた線形回帰分析により、直線を得た。この直線の傾き(=破断長さL(mm)/伸張速度V(m/s))を算出した。
【0117】
(iii)表面張力
接触角計(協和界面科学社製、DMo-701)を用いて、ペンダント・ドロップ法により塗料の表面張力を測定した。
【0118】
(iv)塗膜の均一性(スジ)
得られた塗膜の表面を目視にて観察し、以下の基準に従って評価した。
良:スジが存在しない、あるいは、塗膜の一部に、何とか見える程度のスジが確認できる
不良※1:塗膜の一部に、スジがはっきりと確認できる
不良※2:塗膜全体に、スジがはっきりと確認できる
【0119】
[実施例2]
塗料の調製(II)において、さらにアデカノールUH814N(ウレタン会合型粘性調整剤、ADEKA社製)3.3部を混合したこと以外、実施例1と同様にして水性塗料X2(固形分含有率23.1質量%)を調製した。上記粘性調整剤の含有量は、塗膜形成性樹脂の固形分質量の1%であった。水性塗料X2を用いて、実施例1と同様にして硬化塗膜A2を備える被塗物を作成し、評価(i)~(v)を行った。結果を表1に示す。また、ディスペンス塗布の際に、高速度カメラを用いて、液滴を側面から撮影したところ、液滴は球体であり(D1/D2≒1/1)、その最大長さD2はノズル径の5倍未満であった。
【0120】
[実施例3]
塗料の調製(II)において、さらにイオン交換水40.8部を混合したこと以外、実施例1と同様にして水性塗料X3(固形分含有率20.5質量%)を調製した。水性塗料X3を用いて、実施例1と同様にして硬化塗膜A3を備える被塗物を作成し、評価(i)~(v)を行った。結果を表1に示す。また、ディスペンス塗布の際に、高速度カメラを用いて、液滴を側面から撮影したところ、液滴は球体であり(D1/D2≒1/1)、その最大長さD2はノズル径の5倍未満であった。
【0121】
[比較例1]
塗料の調製(II)において、さらにイオン交換水245部を混合したこと以外、実施例1と同様にして水性塗料Y1(固形分含有率13.5質量%)を調整した。水性塗料Y1を用いて、実施例1と同様にして硬化塗膜B1を備える被塗物を作成し、評価(i)~(v)を行った。結果を表1に示す。また、ディスペンス塗布の際に、高速度カメラを用いて、液滴を側面から撮影したところ、液滴は球体(D1/D2≒1/1)であったものの、その最大長さD2はノズル径の5倍以上であった。これは、塗料の高せん断粘度が過度に低いことにより、ノズルの先端に液だまりが形成され、その結果、吐出される液量が多くなる場合があったためと考えられる。
【0122】
[実施例4]
塗料の調製(II)において、以下のようにして水性塗料X4(固形分含有率46質量%)を調製した。水性塗料X4は、例えば、中塗り塗膜の形成に用いられる。水性塗料X4を用いて、実施例1と同様にして硬化塗膜A4を備える被塗物を作成し、評価(i)~(v)を行った。結果を表1に示す。また、ディスペンス塗布の際に、高速度カメラを用いて、液滴を側面から撮影したところ、液滴は球体であり(D1/D2≒1/1)、その最大長さD2はノズル径の5倍未満であった。
【0123】
(II)塗料の調製
以下のようにして製造された水酸基含有アクリル樹脂エマルションを24.6部、水酸基含有ポリエステル樹脂を99.9部、サイメル211(硬化剤、三井サイテック社製、イミノ型メラミン樹脂)を37.5部、カルボジイミド組成物A(界面制御材)を33.3部、および白色顔料分散ペーストを139部混合して、水性塗料X4を得た。
【0124】
(水酸基含有アクリル樹脂エマルションの製造)
攪拌機、温度計、滴下ロート、還流冷却器および窒素導入管を備えた反応容器に、イオン交換水445部およびニューコール293(分散剤、日本乳化剤株式会社製)5部を仕込み、攪拌しながら75℃に昇温した。別途、メタクリル酸0.4部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル2.0部、スチレン8.6部、アクリル酸-n-ブチル9.4部、アクリル酸エチル4.2部からなるモノマー混合物、イオン交換水を240部およびニューコール293を30部混合して、ホモジナイザーにより乳化した。得られたモノマープレ乳化液を、攪拌下、上記反応容器中に3時間かけて滴下した。モノマープレ乳化液の滴下と併行して、過硫酸アンモニウム(重合開始剤)1部をイオン交換水50部に溶解した水溶液を、上記反応容器中に一定の量で滴下した。モノマープレ乳化液の滴下終了後、さらに80℃で1時間反応を継続した。冷却後、上記反応容器にジメチルアミノエタノール2部を水20部に溶解した水溶液を投入し、固形分濃度40.6%の水酸基含有アクリル樹脂エマルションを得た。30%ジメチルアミノエタノール水溶液を用いて、アクリル樹脂エマルションのpHを7.2に調整した。
【0125】
(水酸基含有ポリエステル樹脂の製造)
反応容器に、イソフタル酸25.6部、無水フタル酸22.8部、アジピン酸5.6部、トリメチロールプロパン19.3部、ネオペンチルグリコール26.7部、ε-カプロラクトン17.5部およびジブチルスズオキサイド0.1部を加え、混合撹拌しながら170℃まで昇温した。その後、3時間かけて220℃まで昇温させて、縮合反応により生成する水を、酸価8となるまで除去した。次いで、上記反応容器に無水トリメリット酸7.9部を加え、150℃で1時間反応させた。これにより、酸価が403mgKOH/gのポリエステル樹脂を得た。次いで、反応容器を100℃まで冷却した後、ブチルセロソルブ11.2部を加えて、均一になるまで撹拌した。続いて、反応容器を60℃まで冷却後、イオン交換水98.8部およびジメチルエタノールアミン5.9部を加えて、固形分濃度50%、酸価40mgKOH/g、水酸基価110mgKOH/g、数平均分子量2870の水酸基含有ポリエステル樹脂を得た。
【0126】
(カルボジイミド組成物Aの製造)
4,4-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート250部に、3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド2.5部(カルボジイミド化触媒)を加え、NCO当量が300になるまで、170℃で反応させた。得られた反応生成物は、1分子あたりカルボジイミド基を平均2.8個有していた。さらに、繰り返し数が平均9のポリエチレングリコールモノメチルエーテル106部、繰り返し数が平均19のポリプロピレングリコールモノブチルエーテル295部およびジブチル錫ジラウレート0.18部を加え、IRでNCOの吸収が確認できなくなるまで、90℃で反応を行った。これにより、カルボジイミド組成物Aを得た。
【0127】
(白色顔料分散ペーストの調製)
Disperbyk190(酸性分散剤、ビックケミー社製)4.5部、BYK-011(消泡剤、ビックケミー社製)0.5部、イオン交換水22.9部、ルチル型二酸化チタン(白色顔料)72.1部を予備混合した。その後、ペイントコンディショナーおよびガラスビーズ媒体を用いて、顔料の平均粒子径が0.3μm以下になるまで、室温で混合して、白色顔料分散ペーストを得た。
【0128】
【0129】
[実施例5]
塗料の調製(II)において、以下のようにして溶剤系塗料X5(固形分含有率50.7質量%)を調製した。溶剤系塗料X5は、例えば、クリヤー塗膜の形成に用いられる。溶剤系塗料X5を用いて、実施例1と同様にして硬化塗膜A5を備える被塗物を作成し、評価(i)~(v)を行った。結果を表2に示す。また、ディスペンス塗布の際に、高速度カメラを用いて、液滴を側面から撮影したところ、液滴は球体であり(D1/D2≒1/1)、その最大長さD2はノズル径の5倍未満であった。
【0130】
(II)塗料の調製
酸無水物基含有アクリル樹脂(a)(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製、固形分濃度56%、酸価140mgKOH/g、数平均分子量3000)57.7部、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(b)(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製、固形分濃度75%、酸価124mgKOH/g、数平均分子量2500)20.0部、水酸基とエポキシ基を有するアクリル樹脂(c)(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製、固形分濃度70%、エポキシ当量400、水酸基価50mgKOH/g)75.3部、チヌビン928(紫外線吸収剤、BASF社製)1部、チヌビン123(光安定剤、BASF社製)1部、RESIFLOW LV(アクリル系表面調整剤、ESTRON CHEMICAL INC社製)0.3部(塗料の固形分質量の0.3質量%)、および、ディスパロンOX-881(ワキ防止剤、楠本化成社製)1.0部を混合した。続いて、3-エトキシプロピオン酸エチル/ソルベッソ150からなるシンナーを用いて、No.4フォードカップで28秒/20℃となるように希釈して、溶剤系塗料X5を得た。溶剤系塗料X5は、例えば、クリヤー塗膜の形成に用いられる。
【0131】
[実施例6]
塗料の調製(II)において、以下のようにして溶剤系塗料X6(固形分含有率35.6質量%)を調製した。溶剤系塗料X6は、例えば、ベースコート塗膜の形成に用いられる。溶剤系塗料X6を用いて、実施例1と同様にして硬化塗膜A6を備える被塗物を作成し、評価(i)~(v)を行った。結果を表2に示す。また、ディスペンス塗布の際に、高速度カメラを用いて、液滴を側面から撮影したところ、液滴は球体であり(D1/D2≒1/1)、その最大長さD2はノズル径の5倍未満であった。
【0132】
(II)塗料の調製
以下のようにして製造された架橋性樹脂粒子13.3部に、トルエン4.7部を加えて混合した。続いて、ユーバン20N60(ブチル化メラミン樹脂、三井東圧社製)19.4部を添加して、均一に混合した。さらに、以下のようにして製造されたアミド基含有アクリル樹脂32.6部およびアクリル樹脂16.4部を添加して、均一に混合した。次いで、以下のようにして調製された黒顔料分散ペースト19.25部、フローレンAC-300(共栄社化学社製、アクリル-ビニルエーテル系表面調整剤)0.04部(塗料の固形分質量の約0.07質量%)加え、その後、ソルベント150(有機溶剤、昭永ケミカル株式会社製)を31.7部添加して、混合した。このようにして、溶剤系塗料X6を得た。
【0133】
(架橋樹脂粒子の製造)
温度計、撹拌羽根、窒素導入管、冷却コンデンサーおよびデカンターを備えた反応容器に、ビスヒドロキシエチルタウリン213部、ネオペンチルグリコール208部、無水フタル酸296部、アゼライン酸376部およびキシレン30部を仕込み、昇温した。反応により生成した水を、キシレンと共沸させて除去した。還流開始から約3時間かけて反応液温を210℃に昇温し、カルボン酸相当の酸価が135mgKOH/gになるまで、攪拌および脱水を継続した。反応液温を140℃まで冷却した後、反応容器に、カージュラE10(バーサチック酸グルシジルエステル、シェル社製)500部を30分かけて滴下した。その後、2時間攪拌を継続し、反応を終了した。これにより、酸価55mgKOH/g、水酸基価91mgKOH/g、数平均分子量1250の両性イオン基含有ポリエステル樹脂を得た。
【0134】
この両性イオン基含有ポリエステル樹脂10部、イオン交換水140部、ジメチルエタノールアミン1部、スチレン50部およびエチレングリコールジメタクリレート50部をステンレス製ビーカー中で激しく攪拌して、モノマー懸濁液を調製した。
別途、アゾビスシアノ吉相酸0.5部、イオン交換水40部およびジメチルエタノールアミン0.32部を混合して、開始剤水溶液を調製した。
【0135】
温度計、撹拌羽根、窒素導入管、冷却コンデンサーおよび滴下ロートを備えた反応容器に、上記両性イオン基含有ポリエステル樹脂5部、イオン交換水280部およびジメチルエタノールアミン0.5部を仕込み、80℃に昇温した。上記反応容器に、上記モノマー懸濁液251部および開始剤水溶液40.82部を、同時に60分かけて滴下した。その後、60分反応を継続し、反応を終了させた。これにより、架橋樹脂粒子を含んだエマルジョンが得られた。架橋樹脂粒子の動的光散乱法で測定した粒子径は、55nmであった。このエマルジョンに酢酸ブチルを加え、減圧下で共沸蒸留により水を除去した。続いて、媒体を酢酸ブチルに置換して、固形分濃度20%の架橋樹脂粒子溶液を得た。
【0136】
(アミド基含有アクリル樹脂の製造)
窒素導入管、撹拌機、温度調節機、冷却コンデンサーおよび滴下ロートを備える反応容器に、キシレン178部およびブタノール98部を仕込み、108℃に昇温した。別途、スチレン80.4部、メタクリル酸メチル76.2部、アクリル酸2-エチルヘキシル74.3部、アクリル酸ブチル74.3部、アクリル酸6.2部、メタクリル酸6.2部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル47.8部、N-ブトキシメチルアクリルアミド19.3部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート9.7部およびキシレン28.9部を混合して、モノマー溶液を調製した。このモノマー溶液を、反応容器に3時間かけて滴下した。滴下後、108℃で1時間反応させて、数平均分子量6000、水酸基価60mgKOH/g、酸価29.2mgKOH/g、樹脂固形分56.5%のアミド基含有アクリル樹脂を得た。
【0137】
(アクリル樹脂の製造)
上記と同様の反応容器に、キシレン280部および酢酸ブチル80部を仕込み、105℃に昇温した。別途、スチレン20部、メタクリル酸メチル120部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル41.6部、アクリル酸エチル177.6部、メタクリル酸エチル31.6部、メタクリル酸9.2部、t-ブチルパーオキシ-2-ヘキサノエート2.8部およびキシレン40部を混合して、モノマー溶液を調製した。このモノマー溶液を、撹拌下、上記の反応容器に3時間かけて滴下した。滴下後、105℃で1時間反応させて、数平均分子量21000、水酸基価45KOH/g、酸価15mgKOH/g、固形分濃度50%のアクリル樹脂を得た。
【0138】
(黒色顔料分散ペーストの調製)
Disperbyk 182(分散剤、ビックケミー社製)21.5部、上記のアミド基含有アクリル樹脂43部、キシレン15.8部、酢酸ブチル15.8部、RAVEN 5000(黒色顔料、COLUMBIAN社製)10.25部を予備混合した。その後、ペイントコンディショナーおよびガラスビーズ媒体を用いて、顔料の平均粒子径が0.1μm以下となるまで、室温で混合して、黒色顔料分散ペーストを得た。
【0139】
[実施例7]
ソルベント150の添加量を63.4部にしたこと以外、実施例6と同様にして溶剤系塗料X7(固形分含有率28.9質量%)を調製した。溶剤系塗料X7を用いて、実施例1と同様にして硬化塗膜A7を備える被塗物を作成し、評価(i)~(v)を行った。結果を表2に示す。また、ディスペンス塗布の際に、高速度カメラを用いて、液滴を側面から撮影したところ、液滴は球体であり(D1/D2≒1/1)、その最大長さD2はノズル径の5倍未満であった。
【0140】
[比較例2]
ソルベント150を添加しなかったこと以外、実施例6と同様にして溶剤系塗料Y2(固形分含有率46.2質量%)を調製した。溶剤系塗料Y2を用いて、実施例1と同様にして硬化塗膜B2を備える被塗物を作成し、評価(i)~(v)を行った。結果を表2に示す。また、ディスペンス塗布の際に、高速度カメラを用いて、液滴を側面から撮影したところ、液滴は吐出方向に長い楕円状(D1/D2≒1/1.4)であった。これは、塗料の高せん断粘度が過度に高いことにより、塗料が糸状に引き伸ばされたためと考えられる。
【0141】
[比較例3]
ソルベント150の添加量を74部にしたこと以外、実施例6と同様にして溶剤系塗料Y3(固形分含有率27.2質量%)を調製した。溶剤系塗料Y3を用いて、実施例1と同様にして硬化塗膜B3を備える被塗物を作成し、評価(i)~(v)を行った。結果を表2に示す。また、ディスペンス塗布の際に、高速度カメラを用いて、液滴を側面から撮影したところ、液滴は球体であったものの、その最大長さD2はノズル径の5倍以上であった。
【0142】
【0143】
図3は、実施例1で作成された硬化塗膜A1の一部の表面写真である。表面に目立った欠損およびスジはないことがわかる。
【0144】
図4は、比較例1で作成された硬化塗膜B1の一部の表面写真である。塗料が付着していないか、あるいは少量しか付着していない部分があるため、スジが形成されていることがわかる。
【0145】
図5は、比較例2で作成された硬化塗膜B2の一部の表面写真である。塗料が付着していないか、あるいは少量しか付着していない部分が
図4よりも多くあり、全面に多数のスジが形成されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明の塗料は、ディスペンス塗布に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0147】
1 塗料
2A、2B 円形プレート