(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/90 20060101AFI20240711BHJP
G01S 13/28 20060101ALI20240711BHJP
G01S 15/89 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
G01S13/90 191
G01S13/28 200
G01S15/89 B
(21)【出願番号】P 2021047502
(22)【出願日】2021-03-22
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤島 泰郎
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-091129(JP,A)
【文献】特表2014-510913(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0077989(US,A1)
【文献】特開2018-159575(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0128892(US,A1)
【文献】小林 佑輔 ほか,圧縮センシングを用いた車載ミリ波SARに関する基礎検討,電子情報通信学会技術研究報告,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2016年07月14日,第116巻 第143号,Pages: 47-52,ISSN: 0913-5685
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/64
13/00 - 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に変位しつつ、第1方向に直交する第2方向に広がる発信波を発信し、受信した観測データを取得し、前記観測データを第1方向と第2方向で行列化し、信号の強度を位置の値とした受信信号行列とするデータ受信部と、
前記受信信号行列の前記第1方向の分割数を、前記受信信号行列よりも大きい分割数とし、前記第2方向の分割数を同じとしたイメージング行列のうち、前記第2方向のレンジを特定し、特定したレンジの第1方向の成分で構成されるスパースベクトルを設定するレンジ処理部と、
前記受信信号行列と、前記スパースベクトルとで
復元処理を行い、前記スパースベクトルの成分を算出する復元処理部と、
レンジを移動させつつ、前記レンジ処理
部の処理と前記
復元処理
部の処理を行った結果の前記スパースベクトルを合成し、イメージング行列を生成する合成処理部と、を含む信号処理装置。
【請求項2】
前記スパースベクトルは、第2方向が1成分である請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記スパースベクトルは、第2方向が複数成分であり、
前記レンジ処理部は、前記スパースベクトルの前記第2方向の成分の数よりも小さい数移動させたレンジを設定する請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記第1方向は、センサが移動する方向である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記発信波は、チャープ波である請求項4に記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記第1方向は、センサで受信する信号の周波数分布で変位させた方向である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の信号処理装置。
【請求項7】
前記データ受信部は、観測データに対してセンサの視野角に応じた補正を行い、視野角の外側の成分の影響を低減して前記受信信号行列とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の信号処理装置。
【請求項8】
信号処理装置が、第1の方向に変位しつつ、第1方向に直交する第2方向に広がる発信波を発信し、受信した観測データを取得し、前記観測データを第1方向と第2方向で行列化し、信号の強度を位置の値とした受信信号行列とするデータ受信ステップと、
前記信号処理装置が、前記受信信号行列の前記第1方向の分割数を、前記受信信号行列よりも大きい分割数とし、前記第2方向の分割数を同じとしたイメージング行列のうち、前記第1方向のレンジを特定し、特定したレンジの第2成分で構成されるスパースベクトルを設定するレンジ処理ステップと、
前記信号処理装置が、前記受信信号行列と、前記スパースベクトルとで
復元処理を行い、前記スパースベクトルの成分を算出する復元処理ステップと、
前記信号処理装置が、レンジを移動させつつ、前記レンジ処理
ステップの処理と前記
復元処理
ステップの処理を行った結果の前記スパースベクトルを合成し、イメージング行列を生成する合成処理ステップと、を含む、信号処理方法。
【請求項9】
進第1の方向に変位しつつ、第1方向に直交する第2方向に広がる発信波を発信し、受信した観測データを取得し、前記観測データを第1方向と第2方向で行列化し、信号の強度を位置の値とした受信信号行列とするデータ受信ステップと、
前記受信信号行列の前記第1方向の分割数を、前記受信信号行列よりも大きい分割数とし、前記第2方向の分割数を同じとしたイメージング行列のうち、前記第1方向のレンジを特定し、特定したレンジの第2成分で構成されるスパースベクトルを設定するレンジ処理ステップと、
前記受信信号行列と、前記スパースベクトルとで
復元処理を行い、前記スパースベクトルの成分を算出する復元処理ステップと、
レンジを移動させつつ、前記レンジ処理
ステップの処理と前記
復元処理
ステップの処理を行った結果の前記スパースベクトルを合成し、イメージング行列を生成する合成処理ステップと、を含む処理をコンピュータに実行させる、信号処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
音波、電波を出力し、音波、電波の反射波を受信し、受信信号を解析するアクティブセンサの解析方法として、検出結果を可視化(イメージング)する場合がある。この場合、受信した情報を画像化する処理を実行する。例えば、特許文献1には、圧縮センシングを用いて合成開口レーダの3Dイメージングを行う方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧縮センシングの処理は計算負荷が高く,特に画素サイズが小さい高解像画像を得る場合に、イメージング結果が得られるまでに長時間を要する恐れがある。そのため、リアルタイムで検出結果が必要な場合、イメージング処理を待つ必要が生じてしまう。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するものであり、分解能を維持しつつ、演算量を低減できる信号処理装置、信号処理方法及び信号処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る信号処理装置は、第1方向に変位しつつ、第1方向に直交する第2方向に広がる発信波を発信し、受信した観測データを取得し、前記観測データを第1方向と第2方向で行列化し、信号の強度を位置の値とした受信信号行列とするデータ受信部と、前記受信信号行列の前記第1方向の分割数を、前記受信信号行列よりも大きい分割数とし、前記第2方向の分割数を同じとしたイメージング行列のうち、前記第2方向のレンジを特定し、特定したレンジの第1方向の成分で構成されるスパースベクトルを設定するレンジ処理部と、前記受信信号行列と、前記スパースベクトルとで復号処理を行い、前記スパースベクトルの成分を算出する復元処理部と、レンジを移動させつつ、前記レンジ処理と前記複合処理を行った結果の前記スパースベクトルを合成し、イメージング行列を生成する合成処理部と、を含む。
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る信号処理方法は、第1方向に変位しつつ、第1方向に直交する第2方向に広がる発信波を発信し、受信した観測データを取得し、前記観測データを第1方向と第2方向で行列化し、信号の強度を位置の値とした受信信号行列とするデータ受信ステップと、前記受信信号行列の前記第1方向の分割数を、前記受信信号行列よりも大きい分割数とし、前記第2方向の分割数を同じとしたイメージング行列のうち、前記第1方向のレンジを特定し、特定したレンジの第2成分で構成されるスパースベクトルを設定するレンジ処理ステップと、前記受信信号行列と、前記スパースベクトルとで復号処理を行い、前記スパースベクトルの成分を算出する復元処理ステップと、レンジを移動させつつ、前記レンジ処理と前記複合処理を行った結果の前記スパースベクトルを合成し、イメージング行列を生成する合成処理ステップと、を含む。
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る信号処理プログラムは、第1方向に変位しつつ、第1方向に直交する第2方向に広がる発信波を発信し、受信した観測データを取得し、前記観測データを第1方向と第2方向で行列化し、信号の強度を位置の値とした受信信号行列とするデータ受信ステップと、前記受信信号行列の前記第1方向の分割数を、前記受信信号行列よりも大きい分割数とし、前記第2方向の分割数を同じとしたイメージング行列のうち、前記第1方向のレンジを特定し、特定したレンジの第2成分で構成されるスパースベクトルを設定するレンジ処理ステップと、前記受信信号行列と、前記スパースベクトルとで復号処理を行い、前記スパースベクトルの成分を算出する復元処理ステップと、レンジを移動させつつ、前記レンジ処理と前記複合処理を行った結果の前記スパースベクトルを合成し、イメージング行列を生成する合成処理ステップと、を含む処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、分解能を維持しつつ、演算量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る計測器の探知処理を説明する模式図である。
【
図2】
図2は、計測器の模式的なブロック図である。
【
図3】
図3は、信号処理の一例を説明するための説明図である。
【
図4】
図4は、信号処理方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、信号処理方法の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、信号処理の一例を説明するための説明図である。
【
図7】
図7は、発信する信号と受信する信号の一例を示す説明図である。
【
図8】
図8は、信号処理の一例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0012】
図1は、第1実施形態に係る計測器の探知処理を説明する模式図である。
図1は、第1実施形態の信号処理装置を備える計測器の探知処理の一例を示している。計測器10は、アジマス方向101に移動しつつ、周囲の探知処理を行う。具体的には、計測器10は、計測器10a、計測器10bの順に移動し、各位置で周囲の探索処理を行う。計測器10aは、各位置で、探索用の送信波を出力し、送信波が反射して計測器10aに到達する受信信号104を受信する。ここで、計測器10aは、送信波102が角度θの広がり幅で射出され、射出した範囲を探索範囲とする。
図1では、計測器10が、計測器10、計測器10a、計測器10bの位置に移動しつ計測することでアジマス方向と、アジマス方向に直交するスラントレンジ方向で囲われる所定の領域120にある反響物を検出する。
図1では、探索の領域を1つの面で示しているが、送信波が到達する領域で囲われる三次元領域が探索の範囲となる。
【0013】
図2は、計測器の模式的なブロック図である。計測器10は、超音波センサ12と、信号処理装置14と、制御部16と、記憶部18と、駆動部20と、を含む。計測器10は、超音波センサ12と信号処理装置14とで、周囲の探査情報を生成する。計測器10は、探査結果を出力する出力部として、通信部や表示部を備えていてもよい。また、計測器10は、自身の位置を検出または算出し、各時点での自己位置情報を有する。計測器10は、自己位置の情報を信号処理装置14に供給する。
【0014】
超音波センサ12は、探査用の音波を出力し、出力した音波の反射を受信して、探査を行うアクティブセンサであり、送信部32と受信部34とを備える。送信部32は、超音波を出力する。第1実施形態では、送信部32は、チャープ波を出力する。受信部34は、送信部32から出力され、何かで反射し、計測器10に到達した反射波を受信する。また、受信部34は、他の機器から出力された反射波以外の音波がノイズとして受信される。
【0015】
超音波センサ12は、送信部32と受信部34は同じものでもよいし、送信部32と受信部34をアレイ状に配置して、各方向の送受信を行うようにしてもよい。なお、第1実施形態では超音波を用いた探査としたが、電波等を用いてもよい。センサとして、指向性が高い検査波を用いる場合、検査波を出力する方向移動させ、つまり掃引して、対象の領域の探査を行ってもよい。
【0016】
信号処理装置14は、超音波センサ12で受信した信号を処理して、周囲を探知する。信号処理装置14は、演算装置と、各種情報を記憶するメモリ、とを含む。演算装置は、例えば、CPU(Central Processing Unit)である。メモリは、演算内容やプログラムなどの各種情報を記憶し、例えば、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)のような主記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)などの外部記憶装置とのうち、少なくとも1つ含む。信号処理装置14は、データ受信部42と、レンジ処理部44と、復元処理部46と、合成処理部48と、を備える。
【0017】
データ受信部42は、超音波センサ12で取得した受信信号の情報を取得し、復調、統合処理等を行い、第1実施形態では合成開口長LAの範囲で、アジマス方向とスラントレンジ方向とで計測結果を整理した受信信号行列を作成する。データ受信部42は、受信信号に対して、復調処理、ビームフォーミング処理、パルス圧縮処理、レンジカーバチャ補正等を行う。
【0018】
レンジ処理部44は、受信信号行列を処理して作成するイメージング画像を構成する画素の行列のうち、処理対象の領域を選定する。イメージング画像を構成する画素の行列は、アジマス方向、スラントレンジ方向の画素数が予め設定されている観測行列である。受信信号行列の情報に基づいて観測行列の各画素の情報を処理することで、イメージング画像を作成する。ここで、処理するレンジは、スラントレンジ方向が同じ位置となる画素である。
【0019】
復元処理部46は、レンジ処理部44で選定したレンジと、観測行列に基づいて、処理を実行し、レンジの成分を算出する。復元処理部46は、例えば、ADMM(Alternating Direction Method of Multipliers)を用いる。復元処理部46は、受信信号の情報と観測行列のレンジとで、受信信号よりも1つの画素が小さい観測行列のレンジのデータを復元する。
【0020】
合成処理部48は、復元処理部46で取得したイメージング画像のレンジの各画素の情報を蓄積し、合成開口長の画像を作成する。
【0021】
制御部16、記憶部18、駆動部20は、計測器10の移動を制御する機構である。
制御部16は、演算装置、すなわちCPUである。制御部16は、記憶部18からプログラム(ソフトウェア)を読み出して実行することで、計測器10の移動制御を実行する。なお、制御部16は、1つのCPUによってこれらの処理を実行してもよいし、複数のCPUを備えて、それらの複数のCPUで、これらの処理を実行してもよい。記憶部18は、制御部16の演算内容やプログラムなどの各種情報を記憶するメモリであり、例えば、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)のような主記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)などの外部記憶装置とのうち、少なくとも1つ含む。記憶部18は、信号処理装置14で検出した処理結果、つまり探査の結果を記憶してもよい。
【0022】
駆動部20は、計測器10を移動させる動力として機能する。駆動部20の具体的構成は、計測器10の運用形態に応じる。一例として、駆動体が地上を走行するビークルである場合、駆動部20は、複数の車輪と、当該複数の車輪の一部又は全部を駆動する原動機を含む。計測器10が空中を移動するビークルである場合、プロペラ及びプロペラを駆動する駆動源が駆動部となる。計測器10が水中を移動するビークルである場合、スクリュー及びスクリューが駆動する原動機が駆動部となる。ここに例示した駆動部20の具体的構成はあくまで一例であってこれに限られるものでない。駆動部20は、駆動体10を移動可能にする動力として機能すればよい。
【0023】
次に、
図3及び
図4を用いて、計測器10の探査動作及び信号処理装置14による処理動作を説明する。
図3は、信号処理の一例を説明するための説明図である。
図4は、信号処理方法の一例を示すフローチャートである。第1実施形態の信号処理装置14は、上述したように、圧縮センシングに基づく合成開口処理として、イメージング画像をレンジに分割して、レンジ毎に観測行列からイメージング画像の対応レンジの画素の算出を繰り返し、全体のイメージング画像を作成する。
【0024】
信号処理装置14は、アクティブセンサである超音波センサ12の検出結果に対して合成開口処理を行う。第1実施形態の超音波センサ12は、一定の方向に進みながら短パルス音(チャープ波)を送波し、そのエコーη
m(r)を受信する。ここで,受信信号η
m(r)は、複素ベースバンド信号への復調、パルス圧縮、レンジカーバチャ補正などの前処理後の信号を表すものとする。なお、超音波センサ12の受信部34をアレイ配置とする場合、ビームフォーミングにより単一信号η
m(r)に合成する。第1実施形態では、超音波センサ12は、合成開口長L
Aの区間においてM回の計測を行い受信信号ベクトル
【数1】
を取得する。
【0025】
データ受信部42は、超音波センサ12から取得した信号に対して、パルス圧縮、レンジカーバチャ補正を行うことで、受信信号ベクトルη(r)は、
【数2】
となる(参考文献:大内、リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎)。
【0026】
ここで、ステアリングベクトルa
m(x
l、r)は、
【数3】
となる。ここで、ステアリングベクトルa
m(x
l、r)は、位置[x
l r]に存在する反射源のエコーs
l(r)が各計測位置に到達する際の、伝搬距離dm(x
l r)の違いに応じて生じる位相差を表す。第1実施形態では、既知の受信信号ベクトルη(r)を用いて反射源の信号強度s
l(r)およびその位置座標[x
l r]を推定する問題として、イメージングを扱う。
【0027】
信号処理装置14は、イメージングに圧縮センシングを適用するため,
図3に示すような音響画像の画素の設定を行う。すべてのレンジrにおける受信信号ベクトルη(r)を2次元配列とみなした場合のサイズはM×Nである。行列130は、受信信号行列であり、縦方向が計測器の移動方向(アジマス方向)となり、横方向がスラントレンジ方向となる。行列130の画素134のそれぞれが、各位置の検出結果ηm(r)となる。
【0028】
次に、アジマス方向について画素の細分化を行うために設定した画素数をLとする。これにより、音響画像(イメージング画像)の画素数はL×Nとなる。スラントレンジrにおける画素値のベクトルを
【数4】
とおくと、音響画像がスパースであればs(r)の要素の大半が0となる。行列132は、イメージング画像の行列である。行列132は、観測行列の情報に基づいて作成される。画素136が各位置のイメージング画像の値となる。行列132は、L×Nの行列となる。ここで、Lは、Mよりも大きい数である。また、Lは、Nよりも大きい数である。行列132は、レンジ140、140aの成分が、それぞれのスラントレンジのベクトルとなる。レンジ140は、画素138以外が0となる。画素138は、0ではない値となり、受信部で信号を受信した画素となる。
【0029】
次に、受信信号ベクトルη(r)とアジマス方向の画素(反射源の信号強度)のベクトルs(r)を対応付けるため、受信信号モデルを
【数5】
とする。ここで、観測行列と
【数6】
スパーベクトル(イメージング画像のレンジに含まれる成分)
【数7】
とは、
【数8】
とそれぞれ定義できる。
【0030】
この表現により、未知変数であり、反射源の数の真値のL(r)の影響を消すことができ、観測雑音項n(r)を除けば圧縮センシングを適用可能な連立方程式が得られる。ここで、観測行列の各列は、アジマス方向の位置のインデクスl=1,2・・・、Lに対応しており、実際に反射源が存在するアジマス位置とxlが一致するとき、スパースベクトルの要素slが0以外の値になる。
【0031】
次に、圧縮センシングの公知の復元アルゴリズムにより,既知の受信信号η(r)と観測行列A(r)を用いてレンジrにおける反射源の信号強度s(r)を推定する。
【0032】
次に、
図4を用いて、信号処理装置の処理の一例を説明する。
図4に示す処理は、復元アルゴリズムにADMM (Alternating Direction Method of Multipliers)を採用した場合の処理フローである。信号処理装置は、データ受信部42で、センサで検出した信号を復調する(ステップS12)。次に、復調した信号に対してビームフォーミング処理を行い(ステップS14)、パルス圧縮を行い(ステップS16)、レンジカーバチャ補正(ステップS18)を行う。
【0033】
次に、信号処理装置14は、データを特定する(ステップS22)。次に、信号処理装置14は、観測行列の情報を取得し、特定したデータと観測行列に基づいて、ADMM処理を実行し、観測行列とレンジのデータに基づいて、レンジのデータを復元する(ステップS24)。
【0034】
信号処理装置14は、データを最後まで処理したかを判定する(ステップS26)。信号処理装置14は、データを最後まで処理していない(ステップS26でNo)と判定した場合、レンジを更新し(ステップS28)、ステップS22に戻る。つまり、
図3のレンジ140をレンジ140aに移動させる処理と同様に処理する対象を順番に移動させ、イメージング画像の画素の算出を繰り返す。信号処理装置14は、データを最後まで処理した(ステップS26でYes)と判定した場合、イメージング処理、つまり、画像を作成し(ステップS30)、本処理を終了する。
【0035】
(効果)
信号処理装置14は、イメージング画像の行列にレンジを設定し、レンジ単位で圧縮センシングの復元を行うことにより、結果として画像全体を一度に復元する場合よりも、高速・正確に処理を実行できる。具体的には、復元アルゴリズムの処理時間は、スパースベクトルのサイズの二乗に比例する。このため、レンジ毎に処理することで、イメージング画像の全体を一度によりするよりも高速に処理することができる。さらに、スパースベクトルの次元が小さくて済むため,高い精度での復元が可能となる。また、LやNの値が大きいと、行列Aをメモリに保存すること自体ができないが、レンジ単位でA(r)を定義するため、必要なメモリも低減することができる。
【0036】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。
図5は、信号処理方法の一例を示すフローチャートである。
図6は、信号処理の一例を説明するための説明図である。第1実施形態では受信信号モデルをレンジ(時間)単位で定義し,イメージングアルゴリズムを提案した.しかし理論上は,この受信信号モデルを全レンジ(r=ΔR,2ΔR,・・・NΔR)に渡り結合することで
【数9】
と拡張でき、復元アルゴリズム(ADMM)を一回実行するだけでイメージングできる。
【0037】
ここで、
【数10】
である。このモデルを用いることで、第1実施形態のように、レンジを更新しながらADMMを実行する必要がなく、受信信号ベクトルηをADMMに入力するだけで済む。しかし、スパースベクトルsのサイズはNL×1となり、ADMMの反復回数が増加するという問題が発生する。加えて、観測行列AのサイズはNM×NLとなり,ADMMの反復計算1回あたりの処理時間が増大する他、行列A
HAのサイズが大き過ぎて演算できない恐れもある。
【0038】
また、第1実施形態の技術でイメージングを行うと各レンジで独立にスパースベクトルの推定を行うため、レンジ間の相関を考慮できないという課題がある。そのため、複数レンジに渡り存在する反射源が分断されて画像化される可能性がある。
【0039】
第2実施形態の信号処理装置14は、そこで処理時間と画像復元精度の両立を図るためには、複数レンジ(スラントレンジの複数の連続した成分)のデータを用いてイメージングを行い、処理するレンジの一部をオーバラップさせながら処理範囲をレンジ方向に移動する。以上より、η(r),A(r)に変えて、
【数11】
および
【数12】
を用いてイメージングを行う。ここで、r、Pは、r=ΔR,P=Nのとき、上式(12)は、全てのレンジのデータを使う場合と一致する。
【0040】
次に、
図5を用いて、信号処理装置の処理の一例を説明する。
図4に示す処理は、復元アルゴリズムにADMM (Alternating Direction Method of Multipliers)を採用した場合の処理フローである。信号処理装置は、データ受信部42で、センサで検出した信号を復調する(ステップS12)。次に、復調した信号に対してビームフォーミング処理を行い(ステップS14)、パルス圧縮を行い(ステップS16)行い、レンジカーバチャ補正(ステップS18)を行う。
【0041】
次に、信号処理装置14は、処理するデータを設定する(ステップS40)。次に、信号処理装置14は、観測行列と処理するデータを用いて、ADMMを実行し、観測行列と複数のレンジのデータに基づいて、複数のレンジのデータを復元する(ステップS42)。
【0042】
信号処理装置14は、データを最後まで処理したかを判定する(ステップS26)。信号処理装置14は、データを最後まで処理していない(ステップS26でNo)と判定した場合、レンジを更新し(ステップS28)、ステップS42に戻る。信号処理装置14は、データを最後まで処理した(ステップS26でYes)と判定した場合、イメージング処理、つまり、画像を作成し(ステップS30)、本処理を終了する。
【0043】
信号処理装置14は、上記処理を行うことで、
図6に示すように1回の復元処理で範囲150の復元処理を実行する。ここで、範囲150は、スラントレンジ方向に複数の隣接するレンジ分の幅151を備える。信号処理装置14は、スラントレンジ方向にレンジ1つ分移動させた範囲152の複合処理を実行する。信号処理装置14は、領域156の画素について、範囲150と範囲152の両方で復元処理される。
【0044】
第2実施形態の信号処理装置14は、複数レンジを一度にイメージングできるため,レンジ間の相関を考慮して音響画像を生成できる。これにより、より高い精度でイメージング画像を作成できる。
【0045】
また、ADMMの最大反復回数をKとする(kがKに達した時点でADMMを打ち切る)とADMMの計算量はO(KL2)あること・レンジ更新回数はN回であることから、第1実施形態の計算量はO(NKL2)となる.複数レンジのイメージングを行う場合はNが減少する一方Lの2乗で計算量が増大するため,使用するコンピュータで処理が可能なレンジの幅を設定する。
【0046】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。
図7は、発信する信号と受信する信号の一例を示す説明図である。
図8は、信号処理の一例を説明するための説明図である。信号処理装置14は、時間で領域分割した処理に限定されず、周波数領域での処理も可能である。第3実施形態は、第1実施形態、第2実施形態のように受信信号が複素数ではなく実数信号を扱う場合や広帯域信号を送受信する場合、チャープ波以外の信号を送信する場合に、有効である。具体的には,実数領域の受信信号をフーリエ変換することにより、第1実施形態、第2実施形態と同様の受信信号モデルを得ることができる。
【0047】
超音波センサ12は、一般的に
図7の波形200に示す送信信号に対して、所定時間210経過後に波形202の受信信号を受信する受信信号モデルが想定される。そのため,受信信号モデルは、連続時間tを用いて
【数13】
となる。
【0048】
ここで、s(t)と、δ(t)はそれぞれ送信信号の信号波形およびディラックのデルタ関数を表し、演算子*は畳み込み作用素を表す。また、lとα
lはそれぞれ反射源のインデクスおよび反射源の信号減衰率を表し、L´は反射源の数の真値を表す。この時点での受信信号波形η
m(t)は実数である。実数領域では各信号処理技術の適用が困難であることと、この受信信号モデルは畳み込み作用素を含むことから、フーリエ変換により周波数領域で表現するとη
m(f)は、
【数14】
となる。このように、受信信号モデルη
m(f)を複素領域で表せるとともに、畳み込み作用素を消去できることが分かる。ここで、上記式は、s
l(f)=αls(f)として1つまとめた。このモデルと第1実施形態のモデルを比較すると、レンジrと周波数fの違い以外は全く同じ形になっていることが分かる。そこで第1実施形態に倣って
【数15】
とおくと、イメージングの範囲を任意のサイズの画素で分割することにより,周波数領域における受信信号ベクトルは、
【数16】
【数17】
と書ける。ここで、Lはイメージングの範囲の縦横の長さおよび画素のサイズから定まる、画素数である。次に、上式に対してADMMを適用して周波数ビン毎f
nのスパースベクトルs(f
n)を推定してそれらを合算することにより、最終的なイメージング結果
【数18】
を得ることができる。
【0049】
上記処理は、
図8に示す信号処理装置300のように、合成開口長340の各位置で受信信号を取得するセンサ302と、それぞれのセンサ302で取得したデータをレンジ圧縮するレンジ圧縮処理部304と、レンジ圧縮した信号に対してフーリエ変換処理を行うFFT部306と、各FFT部306で取得したデータを周波数ごとに合成開口処理を行う合成開口部308と、合成開口処理を実行した結果を重ね合わせる重ね合わせ処理部310と、を含む装置で実行することができる。FFT部306は、高速フーリエ変換である、合成開口処理部308は、ADMM等の圧縮センシングを実行する。ここで、送信信号がチャープ波でない場合は,レンジ圧縮部304を設けず、センサの受信信号をFFT部に供給することができる。
【0050】
このように、信号処理装置14は、周波数領域でのイメージングが可能であり、受信信号が実数の場合や広帯域の場合でも少ない処理量で高い精度の探知を実行することができる。
【0051】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。第1実施形態の合成開口処理は、異なる位置から計測した受信信号を合成することで仮想的に巨大なセンサを構成し、イメージングの分解能を向上させている。そのためセンサの視野(ビーム幅)が広く、異なる位置で計測した際の視野が重なっている条件で、合成開口による分解能向上の効果を得ることができる。第4実施形態は、処理時間や機器構成の制約などにより、センサの視野が重ならない程広い合成開口長で処理を行わなければならない場合でも高い精度でイメージング画像を作成することができる。
【0052】
第4実施形態の信号処理装置14は、観測行列に視野角を反映することで,物理事象に合致したモデルを得ることができ、圧縮センシングによるイメージングが可能とする。例えば、第3実施形態の観測行列を
【数19】
と表現することで、視野角の広さを反映できる。
【0053】
ここでXはセンサのアジマス方向の位置である(なおレンジ方向の位置は0とする)。また、係数ψX,x,r)が視野角を表現しており、
【数20】
となる。ここでβは、センサ視野角を表す。
【0054】
この観測モデルでは,センサ位置[X、0]Tから画素の位置[x、r]Tを見たとき、その位置がセンサ視野に収まっていれば係数が1となり、そうでなければ0となる。このため、センサ視野外からはエコーを受信できないことを正しくモデル化できている。
【0055】
上記説明では、簡単のため,視野内なら1視野外なら0と係数を設定したが、これに限定されない。係数は、方位に対するセンサの感度の減衰を考慮した連続値を設定しても良い。具体的には、正面が最も感度が高いことが多いため、正面を1としたときに正面から外れるにつれて減衰していくモデルを用いることができる。
【0056】
信号処理装置14は、センサの視野角や方位に応じた感度を係数として処理関数に加えることで、センサの性能に基づいたモデルを作成することができ、探索を高い精度で実行することができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0058】
10、10a、10b 計測器
12 超音波センサ
14 信号処理装置
16 制御部
18 記憶部
20 駆動部
32 送信部
34 受信部
42 データ受信部
44 レンジ処理部
46 復元処理部
48 合成処理部