(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】金属粉末
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20240711BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240711BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20240711BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20240711BHJP
H01F 1/20 20060101ALI20240711BHJP
C22C 38/36 20060101ALI20240711BHJP
B22F 9/28 20060101ALN20240711BHJP
【FI】
B22F1/00 W
C22C38/00 303S
B22F1/14 600
H01F1/147
H01F1/20
C22C38/36
B22F9/28 A
(21)【出願番号】P 2021098458
(22)【出願日】2021-06-14
【審査請求日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2020103759
(32)【優先日】2020-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021095877
(32)【優先日】2021-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】山根 浩志
(72)【発明者】
【氏名】福留 大貴
(72)【発明者】
【氏名】松木 謙典
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-270413(JP,A)
【文献】特開2020-076135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量濃度で、Si:1~10%、Cr:1~13%、S(硫黄):200~3000ppmを含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる金属粉末であって、個数基準の平均粒子径D50が0.1~2.0μmであ
り、前記金属粉末の表面に、前記S(硫黄)の濃度が、前記金属粉末内部のS(硫黄)の濃度の2倍以上であるS(硫黄)の濃化層が存在することを特徴とする金属粉末。
【請求項2】
前記S(硫黄)の濃化層の厚み(L)が、0nm<L≦10nmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の金属粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末に係り、特にインダクタ向けとして好適な鉄合金からなる金属粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯機器の分野、特にスマートフォンやタブレットPC等に代表される小型携帯機器に関しては、更なる高機能化、多機能化が求められている。それに伴い、搭載する電源回路のチョークコイルにも搭載台数の増加や集積回路ICの高機能化に伴う大電流化への対応という要求が強くなっている。また、携帯機器のより一層の小型化・薄型化の要求に対応して、コイル自体の小型化・低背化という要求も強くなっている。
【0003】
チョークコイルには、従来から、フェライト材料が用いられてきた。しかし、フェライトの飽和磁束密度は低いため、小型化すると飽和磁気により直流重畳特性が悪化し、大電流を流せなかった。このため、最近では、小型インダクタ用コア材料として、飽和磁束密度が高い鉄ベースの金属磁性微粒子が注目されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、組成式でFe100-a-bSiaCrb(重量%で、0≦a≦8、0<b≦3)で表わされ、粉末表面の一部または全体が絶縁性酸化物で覆われ、粉末表面のCr濃度が粉末中心部より高い「軟磁性金属粉末」が開示されている。そして、絶縁性酸化物を含む軟磁性金属粉末全体の酸素量が10質量%以下であることが好ましいとしている。この軟磁性金属粉末は、原料粉とアルコキシド溶液とを混合し、乾燥したのち、700℃以上の熱処理を施して、製造されるとしている。これにより、圧粉磁心(圧粉体)の渦電流損とヒステリシス損失の双方を大幅に低減することが可能であるとしている。
【0005】
また、特許文献2には、結晶質であって、基本組成が、組成式Fe100-x-ySixCry(但し、x:0~15at%、y:0~15at%、x+y:0~25at%である)で表され、前記組成式の全体量100質量部に対して、Nb、V、Ta、Ti、およびWの4~6族遷移金属群から1種以上選択される磁性改質微量成分が0.05~4.0質量部添加されている「鉄基軟磁性粉末材」が開示されている。この磁性改質微量成分の含有により磁気異方性が低減し、内部歪が軽減するとしている。そして、ここに記載された鉄基軟質磁性粉末で製造された圧粉磁心(圧粉体)は、高透磁率化が可能であり、また磁心損失(「コアロス」ともいう。)も増大しないとしている。
【0006】
また、特許文献3には、Fe-Cr-Si系合金からなる金属粒子を酸化雰囲気下で熱処理することにより得られる粒子成形体である「磁性材料」が開示されている。そして、使用する金属粒子は、成形前の金属粒子のXPSによる709.6eV、710.7eVおよび710.9eVの各ピークの積分値の和FeOxide、と706.9eVのピークの積分値FeMetalについて、FeMetal/(FeMetal+FeOxide)が0.2以上であるFe-Cr-Si系合金粒子とするとしている。なお、Crの含有範囲は2.0~15wt%である。得られる粒子成形体は、複数の金属粒子と、金属粒子を被覆する金属粒子の酸化物からなる酸化被膜と、酸化物被膜同士の結合部とを有し、これにより、高透磁率で高絶縁抵抗の磁性材料とすることができるとしている。
【0007】
また、特許文献4には、Fe中に質量%で、Si:7~9%、Cr:2~8%を不可避的不純物とともに含む組成を有し、平均粒径D50が1~40μmとして、酸素量を0.60質量%以下に抑制したことを特徴とする「Fe基軟磁性金属粉体」が開示されている。これにより、高い透磁率が得られるとともに、磁心損失が小さく抑えられ、耐食性にも優れた磁心(圧粉体)とすることができるとしている。
【0008】
また、特許文献5には、鉄を主成分とする粉末で、炭素を100~995ppm、Siを3~15質量%含有する「軟磁性金属粉末」が開示されている。そして、粒子内に含まれる酸素が500ppm以下であることが好ましく、またNi:30~80質量%、Cr:10質量%以下含有してもよい、としている。これにより、保磁力の低い軟磁性金属粉末とすることができ、この軟磁性金属粉末を用いることで圧粉コア(圧粉体)の磁心損失を改善できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2008-195986号公報
【文献】特許第5354101号公報
【文献】特開2013-26356号公報
【文献】特開2014-78629号公報
【文献】特開2017-92481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、圧粉体(圧粉コア)の磁心損失を抑えるのに好適な平均粒子径D50が2.0μm以下の微細粒子からなる金属粉末を使用して圧粉体を製作する場合に、特許文献1~5に記載された技術では、平均粒子径が2.0μmを超える金属粉末に比べて、微細な金属粉末を樹脂中で分散させることが困難となり、金属粉末の充填密度を向上させることができず、結果として圧粉体の磁心損失を低く抑え、飽和磁化を高くすることができないという問題があった。
【0011】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、低保磁力、高飽和磁化で、樹脂との親和性が高く、耐錆性に優れ、かつ低磁心損失の圧粉体を製作可能な金属粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、純鉄粉を基準として金属粉末の組成について鋭意検討した。その結果、主成分となるFe中に適正量のSi、CrおよびS(硫黄)を含有する金属粉末とすることが肝要であることを見出した。特に、適正量のS(硫黄)の存在が、樹脂との親和性を高め、粉末の充填密度を高めて、飽和磁化が高く、磁心損失の少ない低磁心損失の圧粉体の製作を容易にすることを新規に知見した。
【0013】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
〔1〕質量濃度で、Si:1~10%、Cr:1~13%、S(硫黄):200~3000ppmを含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる金属粉末であって、個数基準の平均粒子径D50が0.1~2.0μmであることを特徴とする金属粉末。
〔2〕〔1〕において、前記金属粉末の表面にS(硫黄)の濃化層が存在し、前記濃化層の厚み(L)が、0nm<L≦10nmの範囲であることを特徴とする金属粉末。
〔3〕〔2〕において、前記濃化層のS(硫黄)の濃度が、前記金属粉末内部のS(硫黄)の濃度の2倍以上であることを特徴とする金属粉末。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低保磁力で、樹脂密着性に優れ、耐錆性にも優れた金属粉末が容易に製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、飽和磁化が高く、磁心損失が少ない低磁心損失の圧粉体の製作が容易になるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】金属粉末内部のS(硫黄)濃度の変化と濃化層の範囲を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明する。
【0017】
[金属粉末の組成]
本発明の金属粉末は、Feを主成分とする金属粉末(鉄合金粉末)である。つまり、本発明の金属粉末は、質量濃度で、Si:1~10%、Cr:1~13%、S(硫黄):200~3000ppmを含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる金属粉末であって、個数基準の平均粒子径D50が0.1~2.0μmであることに特徴がある金属粉末である。以下、組成における%およびppmは、質量濃度であることを意味する。
【0018】
次に、組成限定の理由について説明する。
[Si:1~10%]
Feを主成分とする金属粉末では、Siは、基地中に固溶して、金属粉末の保磁力の低下に寄与する元素である。所望の低い保磁力を達成するためには、Siは1%以上含有することが好ましい。一方、10%を超えて含有すると、保磁力は増加し、飽和磁化が低下する。このため、Siは1~10%の範囲に限定した。なお、より好ましくは、3~10%である。さらに好ましくは、5~10%である。
【0019】
[Cr:1~13%]
Crは、金属粉末の磁気特性を低下させるが、耐食性を向上させる元素であり、本発明の金属粉末において耐食性の効果を得るには、1%以上含有させることが好ましい。Crが1%未満と少ない場合には、粒子表面に錆が発生しやすくなる。一方、13%を超えて多量に含有すると、飽和磁化(emu/g)が低下する。このため、Crは1~13%の範囲に限定した。なお、より好ましくは1~6%である。さらに好ましくは、1~4%である。ここで、耐食性とは、後述する耐錆性のことである。
【0020】
[S(硫黄):200~3000ppm]
S(硫黄)は、金属粒子表面と樹脂との親和性向上に寄与する元素であり、圧粉体とした場合の金属粉末の充填密度を向上させ、圧粉体の飽和磁化を向上させる効果を有する。このような効果を得るためには、200ppm以上含有させることが好ましい。S(硫黄)が200ppm未満と少ない場合には、金属粒子表面と樹脂との親和性が低く、金属粒子の周囲に空隙が生じやすく、所望の充填密度を達成することが困難となる。一方、S(硫黄)の含有量が3000ppmを超えて多量に含有すると、金属粒子内で生成する非磁性物質FeSの割合が多くなり、必要とする軟磁性材としての特性(低保磁力、高透磁率)が得られなくなる。このため、本発明では、S(硫黄)は200~3000ppmの範囲に限定した。なお、より好ましくは、300~3000ppmである。さらに好ましくは、400~3000ppmである。さらに好ましくは、500~2000ppmである。
【0021】
なお、S(硫黄)が存在すると金属粒子表面と樹脂との親和性が向上するのは、金属粒子表面でS(硫黄)が粒子表面の表層の厚み(L)が10nm以内に濃化することにより、金属粒子の表面全体がS(硫黄)で十分に覆われて、金属Feと比べて樹脂との親和性が向上するものと推測される。
【0022】
ここで、S(硫黄)が濃化している金属粒子表面の表層(以下、「濃化層」ともいう。)とは、その表層のS(硫黄)の濃度(含有率)が、金属粉末内部のS(硫黄)の平均濃度(含有率)の2倍以上である層のことをいう。なお、金属粉末内部とは、粉末の表面から中心部までを含めた粉末全体のバルクのことをいう。
【0023】
この濃化層の厚み(L)が10nmを超えてS(硫黄)が濃化している場合は、S(硫黄)が金属粒子内部に存在して鉄の硫化物を形成するため飽和磁化の低下や保磁力の増加を生じる。したがって、L≦10nmで濃化していることが好ましい。また、Lの下限値は、金属粉末の表面が濃化層によって十分に覆われていれば良いので、L>0nmであれば良い。つまり、0nm<L≦10nmであることが好ましい。より好ましくは、0nm<L≦5nmである。
【0024】
上記濃化層の厚みの測定方法としては、オージェ電子分光法により、Cu板上にセットした金属粉末をArイオンでスパッタリングしながら金属粉末の深さ方向のS(硫黄)含有量の分析を行い、金属粉末の内部としてのS(硫黄)平均濃度の2倍以上のS(硫黄)の濃度を有する表層側の深さから求めることができる。
【0025】
図1は、S(硫黄)濃度を測定した具体例を基に、金属粉末内部の濃度変化を示した模式図である。
図1に示すように、S(硫黄)濃度は、粉末中心部から粉末表面に向けて徐々に濃度が高くなっており、表層部分において、その濃度が内部の平均濃度の2倍以上となる深さから表面までの範囲を濃化層としている。
【0026】
[不可避的不純物]
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
不可避的不純物元素としては、Ni、C、N、P、Mn、CuおよびAlなどの元素が挙げられる。これらの元素は、金属粉末の飽和磁化を低下させる元素であり、合計で3%以下の含有量であれば、実用上致命的とまで言える磁気特性の低下は生じないため、許容することができる。なお、圧粉体の飽和磁化の向上という観点からは、上記した元素の含有は、合計で1%以下とすることがより好ましい。
【0027】
[金属粉末の平均粒子径]
本発明の金属粉末は、上記の組成を有し、平均粒子径で、0.1~2.0μmとする。ここでいう「平均粒子径」は、金属粉末粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し撮像して倍率2万倍で測定粒子数1000~2000個のSEM画像解析により求めた個数基準のD50とする。平均粒子径が0.1μm未満では、樹脂と混錬した場合に凝集が発生しやすく、充填密度が上がらないため、圧粉体としての飽和磁化が低下する。一方、平均粒子径が2.0μmを超えると、磁心損失(高周波における損失)が増加する。このため、本発明の金属粉末の平均粒子径は、0.1~2.0μmの範囲に限定する。なお、より好ましくは0.2~1.5μmである。さらに好ましくは、0.3~1.5μmである。
【0028】
[金属粉末の磁気特性]
[保磁力]
保磁力は、磁気特性の指標の一つであり、磁化された磁性体を磁化されていない状態に戻すために必要な反対向きの外部磁場の強さを示すものであり、本発明の目的とするインダクタや変圧器の磁心などの用途では保磁力は小さいことが望ましい。
【0029】
本発明における保磁力の測定方法は、金属粉末を所定の容器に入れ、パラフィンを融解、凝固させて固定したものを振動試料型磁力計(VSM)を用いて、測定磁界:1200kA/mの条件で測定して行う。こうして求めた本発明の金属粉末の保磁力は、10Oe以下であることが好ましい。
【0030】
[飽和磁化]
飽和磁化は、磁気特性の指標の一つであり、磁性体に磁場をかけて磁化させていくと、ある一定値で磁化が飽和するときの値であって、本発明の目的とするインダクタや変圧器の磁心などの用途では飽和磁化は大きいことが望ましい。
【0031】
本発明における飽和磁化の測定方法は、前記の保磁力の測定方法と同様に、VSMを用いて求めることができる。こうして求めた本発明の金属粉末の飽和磁化は、160emu/g以上であることが好ましい。さらに、180emu/g以上であることがより好ましい。
【0032】
[金属粉末の耐錆性]
金属粉末の耐錆性測定方法としては、金属粉末を樹脂に埋め込み固定した後、断面を鏡面研磨して、耐錆性測定用試験片とし、この試験片を恒温恒湿槽中に所定時間保持した後、試験片内の粒子について、ランダムに20個を選定し、発錆の有無を観察し、発錆している粒子の割合(発錆率)を算出した。なお、恒温恒湿槽は、温度:60℃、相対湿度:95%の条件で保持した。また、恒温恒湿槽中の保持時間は2000時間とした。こうして求めた本発明の金属粉末の発錆率は、使用上の不具合が発生しないことから10%以下であることが好ましい。さらに、5%以下であることがより好ましい。
【0033】
[金属粉末の製造方法]
次に、本発明の金属粉末の製造方法について説明する。
本発明の金属粉末は、ガスアトマイズ法や水アトマイズ法などでも製造可能であるが、化学的気相法(Chemical Vapor Deposition:以下、CVDという)を用いて製造することが好ましい。
【0034】
CVDのプロセスでは、Fe、SiおよびCrの合金元素を、高温の塩素ガスと反応させて生成した各元素の塩化物ガス、あるいは、Fe、SiおよびCrの各元素の塩化物を高温に加熱して気化させた塩化物ガスを所定の比率で混合させた混合ガスに、さらにS(硫黄)を高温で気化させたガスを所定の比率で混合し、それぞれ適した温度で、水素を反応させて塩化物を還元し、Si、Cr、S(硫黄)を含有する所望組成の金属粉末を得る。本発明の金属粉末の製造方法では、塩化物ガスの濃度、反応温度および反応時間を所望の粒子径(0.1~2.0μm)となるように調整することが好ましい。
【0035】
以下に、前記CVDプロセスによる金属粉末の製造方法の一実施態様について説明する。
【0036】
原料粉として、Feの塩化物、Siの塩化物、Crの塩化物をそれぞれ準備した。そして、これら塩化物を、CVD反応装置により高温(900~1200℃、好ましくは1000℃程度)に加熱し、塩化物を気化させて、各元素の塩化物ガスを生成した。さらに、S(硫黄)を高温(900~1200℃)で気化・加熱させたガスを生成した。生成した各元素の塩化物ガスとS(硫黄)を気化させたガスを、目的とする金属粉末の組成となるように、混合比率を変化させて混合し、金属塩化物を主体とする混合ガスを得た。得られた混合ガスを水素ガスおよびキャリアガスとなる窒素ガス(ガス温度:900~1200℃、ガス流量10~500Nl/min)とともにCVD反応炉に送り、所定の反応炉温度(900~1200℃)で反応させて、塩化物を還元して、金属粉末を得た。金属粉末の組成は、前述のように金属塩化物ガス等の混合比率で制御し、粒子径は原料の塩化物ガス濃度、反応温度の高低および反応時間の長短により制御する。
【0037】
S(硫黄)は、高温で結晶粒界に偏析する元素であるため、塩化物温度、S(硫黄)温度、窒素ガス温度および反応炉温度を900~1200℃にすることにより、塩化物を還元して金属粉末を生成することで、結晶粒界である粒子の表面にS(硫黄)を濃化させることができる。
反応(還元反応)後、得られた金属粉末は、さらに脱塩素工程を施される。脱塩素工程は、溶剤を用いて、得られた金属粉末を洗浄し、塩素を1.0%以下に除去する工程である。
使用する溶剤としては、未反応の塩化物や還元反応によって生成した副生成物を溶解する溶剤を用いることが好ましい。このような溶剤としては、水などの水溶性無機溶剤、あるいは、エチルアルコールなどの脂肪族アルコール類のような有機溶剤が例示される。
【0038】
[圧粉体]
本発明の金属粉末を樹脂中で分散させることにより、充填密度の高い低磁心損失の圧粉体を製作することが容易になる。
圧粉体の製造方法としては、特段の制約はなく、公知の方法で製造が可能である。まず、前記金属粉末と、結合剤としての前述の樹脂とを混合し、前記金属粉末が樹脂中に分散した混合物を得る。また、必要に応じて、得られた混合物を造粒して造粒物としてもよい。その混合物または造粒物を圧縮成形することにより、成形体(圧粉体)が得られる。
【0039】
[圧粉体の磁心損失]
磁心損失(コアロス)は、磁性材のコアを持つインダクタや変圧器などのコイルにおいて、そのコアの物性のために発生する損失のことであって、変圧器などの効率を低下させる要因の一つである。磁心損失の測定は、金属粉末をエポキシ樹脂中に混合し分散させた混合粉をリング状金型(外径:13.0mm、内径:8.0mm)に充填し、プレス成型したのち、樹脂を硬化させて、厚さ:3.0mmのトロイダルコア(圧粉コア)とし、1次側20ターン、2次側20ターンの巻線を与えてコイルとした。そのコイルをB-Hアナライザ(岩通計測株式会社製SY-8218)を用いて、磁束密度0.025T、周波数1MHzの条件で磁心損失を測定した。本発明の圧粉体の磁心損失は、1000kW/m3以下である。さらに好ましくは、900kW/m3以下である。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
原料として、Feの塩化物、Siの塩化物、Crの塩化物およびS(硫黄)をそれぞれ準備した。これらの塩化物とS(硫黄)を、反応装置内で高温(1000℃)に加熱し、塩化物とS(硫黄)を気化させて、各元素の塩化物ガスおよびS(硫黄)ガスを生成した。生成した各元素の塩化物ガスを、表1に示す各金属粉末の組成となるように、混合比率を変化させて混合し、各種混合ガスとした。得られた混合ガスを、反応炉温度が1000℃で、水素と反応させて、塩化物ガスを還元してFe-Si-Cr合金粉末を生成させながらS(硫黄)を粉末に含有させた。ついで、得られた各種金属粉末に、純水を用いて洗浄する脱塩素工程を施し、塩素を除去した。
【0042】
作製した金属粉末の組成およびその粉末特性、並びに圧粉体の特性を表1に示す。
ここで、金属粉末に含まれる合金元素(Si、Cr)の含有量は、ICP(誘導結合プラズマ)を用いて測定した。なお、金属粉末に含まれるS(硫黄)は、燃焼法を用いて測定した。また、得られた金属粉末について、SEMを用いて前述した方法・条件により観察し撮像して、画像解析によりD50を求め、平均粒子径とした。
【0043】
また、S(硫黄)が濃化している金属粉末の表面濃化層の厚みは、オージェ電子分光法により、Cu板上にセットした金属粉末をArイオンでスパッタリングしながら深さ方向のS(硫黄)含有量の分析を行って測定した。
【0044】
得られたそれぞれの金属粉末について、磁気特性(保磁力、飽和磁化)および耐錆性を、並びに金属粉末の圧粉体の充填密度(体積率)および磁心損失を調査した。調査方法は前述した通りであるが、具体的は次の通りとした。
【0045】
磁気特性については、得られた各種金属粉末について、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて、保磁力、飽和磁化を測定した。
【0046】
耐錆性については、得られた各種金属粉末を、前述した耐錆性測定試験により、発錆の有無を観察し、発錆している粒子の割合(発錆率)を算出した。
【0047】
充填密度は、樹脂中における金属粉末の体積基準の割合(体積率:%)で表した。
磁心損失についても、前述した方法および条件にて測定した。
【0048】
得られた結果を、表1に併記する。
【0049】
【0050】
本発明例はいずれも、10Oe以下の低保磁力で、180emu/g以上の高い飽和磁化を保持し、耐錆性に優れた金属粉末であり、さらに、圧粉体とした場合に、磁心損失が1000kW/m3以下である、低磁心損失の圧粉体を作製できるという顕著な効果を奏する。
【0051】
一方、本発明の範囲を外れる比較例は、保磁力が10Oeを超えて高いか、飽和磁化が180emu/g未満と低いか、あるいは、耐錆性が低下している金属粉末であり、圧粉体とした場合に、磁心損失が1000kW/m3を超えて、高磁心損失の圧粉体となっている。