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  • 特許-ベースコンクリート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】ベースコンクリート
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/10 20060101AFI20240711BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240711BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
E21D11/10 D
C04B28/02
C04B18/08 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021110513
(22)【出願日】2021-07-02
(65)【公開番号】P2023007576
(43)【公開日】2023-01-19
【審査請求日】2023-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】臼井 達哉
(72)【発明者】
【氏名】文村 賢一
(72)【発明者】
【氏名】浅井 伸弘
(72)【発明者】
【氏名】福島 淳平
(72)【発明者】
【氏名】松田 一輝
(72)【発明者】
【氏名】楠畑 菜津子
(72)【発明者】
【氏名】打田 安宏
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-124133(JP,A)
【文献】特開2001-316150(JP,A)
【文献】特開2003-172098(JP,A)
【文献】特開2008-138385(JP,A)
【文献】特開2011-214258(JP,A)
【文献】特開2018-172254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/10
C04B 28/02
C04B 18/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設計基準強度が18N/mmの吹付けコンクリートを構成するベースコンクリートであって、
水と、結合材と、細骨材と、粗骨材と、減水剤とを含み、
前記結合材の一部および前記細骨材の一部がフライアッシュで置換されていて、
前記減水剤が、前記結合材に対して0.65質量%~0.80質量%の範囲内で、スランプフローが350mm~430mmの範囲内になるように添加されていることを特徴とする、ベースコンクリート。
【請求項2】
スランプが18cm~23cmの範囲内になるように配合されていることを特徴とする、請求項1に記載のベースコンクリート。
【請求項3】
前記結合材の20質量%および前記細骨材の5質量%がフライアッシュで置換されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のベースコンクリート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹付けコンクリート用のベースコンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
NATM等の山岳トンネル工法では、掘削により露出した地山面にコンクリートを吹き付けることで地山の崩落を防止するのが一般的である。吹付けコンクリートは、設計基準強度が18N/mmの場合、スランプが8cm~12cmのベースコンクリートを、コンクリートポンプを介して配管圧送しつつ、配管途中で圧縮空気と急結剤とを混入させて地山面に吹き付ける。
なお、吹付けコンクリート吐出量は、コンクリートが付着しにくい天端部に合わせるのが一般的である。一方、吹付けコンクリートの吐出量を大きくすれば、工期短縮化を見込むことができる。
そのため、特許文献1では、吹付けコンクリートの吐出量を、天井部、肩部、側壁部、下半部の順で大きくすることで、効率的に施工を行う吹付けコンクリートの施工方法が開示されている。
ここで、吹付けコンクリートの吐出量は、12m/hに設定することが多い。一方、吹付けコンクリートの工事で使用するコンクリートポンプの多くは、最大吐出量が25~30m/hであるため、コンクリートの吐出量を大きくすることで、工期短縮化を見込める。ところが、吐出量が大きすぎると、吐出されるコンクリートの脈動が大きくなることや、粘性が足りずに跳ね返り(リバウンド)が大きくなることが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-172098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、吐出量を増加させた場合であっても、跳ね返り率が大きくなり難い吹付けコンクリートのベースコンクリートを提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明は、設計基準強度が18N/mmの吹付けコンクリートを構成するベースコンクリートであって、水と、結合材と、細骨材と、粗骨材と、減水剤とを含み、前記結合材の一部および前記細骨材の一部がフライアッシュで置換されていて、前記減水剤が、前記結合材に対して0.65質量%~0.80質量%の範囲内で、スランプフローが350mm~430mmの範囲内になるように添加されているものである。このベースコンクリートにおいては、前記減水剤が、前記結合材に対して0.65質量%~0.80質量%の範囲内で添加されているのが望ましい。また、スランプが18cm~23cmの範囲内になるように配合されているのが望ましい。さらに、前記結合材の20質量%および前記細骨材の5質量%がフライアッシュに置換されているのが望ましい。
かかるベースコンクリートは、減水剤を使用してスランプを増加させることで、コンクリートの粘性(材料分離抵抗性)を確保したうえで流動性を確保している。そのため、このベースコンクリートを使用することで、リバウンドを大きくすることなく、吹付けコンクリートの吐出量を増加させることができる。
なお、スランプまたはスランプフローが大きすぎる(流動性が高すぎる)と、吹付け時にエアーが噛んでしまい、吐出量を上げることができなくなる。一方、本発明のベースコンクリートは、スランプまたはスランプフローを適切な範囲で増加させることで、吹付けコンクリートの圧送抵抗を低下させることを可能とし、吹付けコンクリートの吐出量を増加させることを可能としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明のベースコンクリートによれば、吐出量を増加させた場合であっても、跳ね返り率が大きくなり難い。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】(a)は本発明の実施形態に係るトンネルを示す横断図、(b)は同トンネルの支保工の一部を示す縦断図である。
図2】吹付け機を示す側面図である。
図3】確認試験結果であって、吹付けコンクリート吐出量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態では、山岳トンネルの支保工2の一部を構成する吹付けコンクリート21について説明する。図1に本実施形態のトンネル1を示す。トンネル1は、図1(a)に示すように、掘削により露出した地山を支保工2により閉塞する。本実施形態の支保工2は、図1(b)に示すように、吹付けコンクリート21、鋼製支保工22およびロックボルト23を備えている。なお、トンネル1の支保構造は限定されるものではなく、地山状況やトンネル1の断面形状等に応じて適宜決定する。例えば、必要に応じて補助工法を採用してもよい。
【0009】
支保工2は、地山の掘削により露出した地山(切羽11またはトンネル内周面12)に対して吹付けコンクリート(吹付け材料)21を吹き付けるとともに、鋼製支保工22の建込およびロックボルト23の打設を行うことにより形成する。鋼製支保工22は、前回の施工サイクルで建て込まれた鋼製支保工22から所定の間隔をあけて建て込む。本実施形態の鋼製支保工22は馬蹄形状を呈している。なお、鋼製支保工22の形状は限定されるものではなく、例えばリング状であってもよい。ロックボルト23の打設は、トンネル1の周囲の地山に対してロックボルト孔を穿孔し、このロックボルト孔にロックボルト23を挿入することにより行う。吹付けコンクリート21の吹付け厚は限定されるものではなく、地山状況等応じて適宜決定する。また、吹付けコンクリート21は、1回の施工サイクルにより所定の吹付け厚で吹付けてもよいし、鋼製支保工22の建て込みの前後に一次吹付けと二次吹付けに分けて吹き付ける等、複数の層に分けて施工してもよい。
本実施形態では、湿式吹付け方式により設計基準強度が18N/mmの吹付けコンクリート21を吹き付ける。吹付けコンクリート21の施工は、図2に示す吹付け機3により行う。
【0010】
吹付け機3は、図2に示すように、走行手段を備える本体部31と、本体部31の前部に設けられたアーム32と、本体部31に搭載されたコンクリートポンプ33およびコンプレッサー34と、アーム32の先端に設けられたノズル35と、コンクリートポンプ33からノズル35に至る輸送管路36と、コンプレッサー34から延設されてノズル35の手前において輸送管路36に接続する送気管(図示せず)とを備えている。
輸送管路36は、本体部31の側部において、曲がり難い材質からなるコンクリート管37と、アーム32の動きに応じて撓むことが可能な可撓性を有したフレキシブル管38とを備えている。本実施形態では、コンクリート管37の長さを大きくするとともにフレキシブル管38の長さをなるべく短くし、また、フレキシブル管38の内径を通常よりも大きくする。なお、吹付け機3のフレキシブル管38の長さは、吹付け機3の標準仕様では12.5mであったが、本実施形態では、9.5mに変更した。また、フレキシブル管38の内径は、標準仕様では2.5インチであったが、本実施形態では、3.0インチに変更した。
【0011】
吹付け機3に供給されたベースコンクリートは、コンクリートポンプ33により輸送管路36を介してノズル35に圧送する。ベースコンクリートは、コンプレッサー34により送気管を介して圧送された圧縮空気および急結剤とノズル35の噴出口の手前において混合された状態でノズル35から噴出する。
ここで、ベースコンクリートは、水と、結合材と、細骨材と、粗骨材と、高性能AE減水剤とを含んでいて、スランプフローが350mm~430mmの範囲内で、かつ、スランプが18cm~23cmの範囲内になるように配合されている。
また、高性能AE減水剤は、結合材に対して0.65質量%~0.80質量%の範囲内で添加されている。
本実施形態では、結合材の主材料としてポルトランドセメントを使用する。また、結合材の20質量%をフライアッシュに置換する。すなわち、結合材の80質量%がポルトランドセメントで、20質量%がフライアッシュである。
また、本実施形態では、細骨材として、5質量%をフライアッシュで置換したものを使用する。
【0012】
本実施形態のベースコンクリートによれば、減水剤を使用してスランプを増加させることで、コンクリートの粘性(材料分離抵抗性)を確保したうえで流動性を確保している。そのため、このベースコンクリートを使用すれば、吹付けコンクリート21のリバウンドを大きくすることなく、吹付けコンクリート21の吐出量を増加させることができる。吹付けコンクリート21の吐出量を増加させると、工期短縮化を図ることができる。
なお、スランプまたはスランプフローが大きすぎる(流動性が高すぎる)と、吹付け時にエアーが噛んでしまい、吐出量を上げることができなくなるため、スランプまたはスランプフローは適切な範囲で増加させるのが望ましい。そこで、本実施形態では、高性能AE減水剤を使用して、ベースコンクリートのスランプフローは350mm~430mmの範囲内、スランプは18cm~23cmの範囲内とした。このようにすることで、吹付けコンクリート21の圧送抵抗を低下させることが可能となり、吹付けコンクリート21の吐出量を増加させることができる。なお、減水剤を使用しないで、単位水量の増加によりスランプを増加させると、コンクリートの粘性が減少して、付着性が低下するため、リバウンドが増加してしまう。
また、本実施形態では、フレキシブル管38の長さを短くするとともに、フレキシブル管38の内径を大きくすることで、吹付けコンクリート21と輸送管路36との摩擦抵抗を低減し、ひいては、吹付けコンクリート21の吐出量をさらに大きくすることが可能となる。
【0013】
以下、本実施形態で使用した吹付けコンクリート21の吐出量について実施した確認試験結果について説明する。
従来の吹付けコンクリート21の施工では、生コンクリートをポンプ圧送する過程において、管内圧力損失が生じ、コンクリートポンプ圧送圧がポンプ最大圧送負荷に達するため、吐出量が12m/hで実施するのが一般的であった。また、吐出量を増加させると、ベースコンクリートの流動性が不足することにより、吹付け時の跳ね返り(リバウンドがおおきくなることも懸念される。ここで、コンクリートポンプ最大圧送負荷(Pmax)は、式1で与えられる。
Pmax=(水平管1m当たりの管内圧力損失)×(水平換算距離) ・・・式1
式1によれば、コンクリート最大圧送負荷を低減させるためには、水平管1m当たりの管内圧力損失を低減する方法、あるいは、水平換算距離を低減させる方法が考えられる。
しかしながら、圧送性のみを改善したスランプの大きな配合では、吹付けコンクリート21と地山が一体化するのに必要な付着性が損なわれる。そのため、本実験では、高性能AE減水剤を使用して、スランプまたはスランプフローの大きさが異なる配合を用いて、吹付け性状を確認した。表1に確認試験に使用したベースコンクリートの配合を示す。実施例として、本実施形態の配合とし、比較例Aは吹付けコンクリート21のベースコンクリートとして一般的な配合、比較例Bは実施例よりもスランプフローを大きくした配合とした。
【0014】
【表1】
【0015】
図3に、表1の配合により作成したベースコンクリートを使用した吹付けコンクリート21の吐出量を示す。実施例によれば、図3に示すように、吐出量を20m/h程度まで高めた場合であっても、跳ね返りが大きくならずに、生産性を高められることが確認できた。さらに、管内圧力損失を33%低減することができた。一方、比較例Aのベースコンクリートを使用した吹付けコンクリート21は、吐出量を大きくすると、コンクリートの流動性が不足し、跳ね返りが大きくなった。そのため、比較例Aでは、吐出量は12m/hが最適であった。また、スランプフローが大きい比較例Bでは、流動性が高すぎるため、跳ね返り率が大きくなり、吐出量を15m/h程度までしか大きくすることができなかった。
本実施形態のベースコンクリートを使用すれば、比較例A(従来のベースコンクリート)に比べて、吐出量を1.7倍に増加させることができ、サイクルタイムを30分弱短縮して生産性を高めることができる。
【0016】
次に、吹付け機3のフレキシブル管38の長さを3m短くするとともに、フレキシブル管38の径を2.5インチから3インチに変更した場合の水平換算距離を算出したところ、約20m低減することができた。そのため、フレキシブル管38の長さを短くするとともに、径を広げることで、吹付けコンクリート21のサイクルタイムを短縮し、生産性の向上を見込むことができる。
【0017】
以上、本発明の実施形態について説明したが本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、本発明に係る吹付け材料を使用したトンネル工事について説明したが、当該吹付け材料は、トンネル工事に限らずあらゆる吹付け工事に使用することができる。例えば、法面吹付けに使用してもよい。
トンネル1の断面形状や断面寸法等は限定されるものではなく、地山状況やトンネル1の用途等に応じて適宜決定すればよい。
【符号の説明】
【0018】
1 トンネル
2 支保工
21 吹付けコンクリート
3 吹付け機
図1
図2
図3